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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013180
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20230119BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/12
A61K31/20
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117168
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD10
4B018MD48
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB19
4C206DA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB21
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】直接ヒアルロン酸を経口摂取することで減少分を補う方法とは別に、ヒアルロン酸の産生を促す物質を摂取することで間接的にヒアルロン酸の減少分を補う方法を提供することを目的とする。
【解決手段】イソリキリチゲニンを有効成分として含むことを特徴とする、ヒアルロン酸産生促進剤。また、アラキジン酸をさらに有効成分として含むことを特徴とする、ヒアルロン酸産生促進剤。これにより、ヒアルロン酸の低下に起因する皮膚老化を予防するだけでなく、ヒアルロン酸が関連する他の臓器においてもヒアルロン酸減少に伴う症状を改善することが期待できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソリキリチゲニンを有効成分として含む、ヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
アラキジン酸をさらに有効成分として含む、請求項1記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の老化防止に関する研究が広く行われている。皮膚老化の原因は、加齢が重要な因子であるが、それに加えて乾燥、酸化、紫外線等による影響も皮膚老化に関わる直接的な因子として挙げられる。皮膚老化の具体的な現象としては、ヒアルロン酸をはじめとするムコ多糖類の減少、コラーゲンの架橋反応、紫外線による細胞の損傷などが知られている。
【0003】
ここで、ヒアルロン酸は皮膚、関節、靭帯、肺、腎臓、脳などの臓器・組織に広く存在している。特に皮膚においては、保湿性の高さから潤いを保つ重要な因子である(非特許文献1)。また、皮膚には体全体の50%を占める量のヒアルロン酸が存在していることも知られている(非特許文献2)。
【0004】
減少したヒアルロン酸の補充方法として、ヒアルロン酸を直接口から摂取する経口摂取や、皮膚を通して摂取する経皮吸収が提案されている。経口摂取されたヒアルロン酸は、腸内細菌によっていったん低分子化された後、腸管から吸収され皮膚で再合成されるとの報告がある(非特許文献3参照)。一方、経皮吸収の場合、ヒアルロン酸の分子量が大きいため、皮膚からは吸収されないことは知られている。しかし、ヒアルロン酸の保水性によって皮膚の乾燥を防ぐ効果は確認されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Papakonstantinou E.,:Hyaluronic acid : A Keymoleculein skin aging, Dermatoendocrinol, 4 (3), 253-8, 2012
【非特許文献2】T. C. Laurent and J. R. Fraser, “Hyaluronan,”FASEB J, Vol. 6, pp.2397-2402, 1992
【非特許文献3】木村守, 経口摂取ヒアルロン酸の吸収, Functional Food Research 14:30-35,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的なヒアルロン酸の分子量は80~120万と言われている。しかしながら、非特許文献3に用いられているヒアルロン酸の分子量は30万であり、一般的なヒアルロン酸の分子量よりも小さい。そのため、分子量が大きくなった場合にも同様の分解・再合成が起こるのかは不明である。また、非特許文献3の結果はラットでの結果であり、ヒトでも同様の挙動を示すかは不明である。さらに、分解されたヒアルロン酸のうち、どの程度が再合成に用いられているか不明である。このように、ヒアルロン酸を直接経口摂取したとしても、減少したヒアルロン酸を補充できるかどうかは依然不明なままである。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、直接ヒアルロン酸を経口摂取することで減少分を補う方法とは別に、ヒアルロン酸の産生を促す物質を摂取することで間接的にヒアルロン酸の減少分を補う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、ヒアルロン酸の産生を促進する物質がないか検討を行った。そして、イソリキリチゲニンを摂取することで、ヒアルロン酸の産生が促進されることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、イソリキリチゲニンを有効成分として含む、ヒアルロン酸産生促進剤であることを特徴とする。また、アラキジン酸をさらに有効成分として含むことが好ましい。
【0010】
当該構成によれば、ヒアルロン酸の産生が促進されるため、ヒアルロン酸の減少を補うことができる。
【発明の効果】
【0011】
当該発明によれば、間接的な方法により減少したヒアルロン酸を補うことができる。これにより、現時点では効果が完全に解明されていない直接摂取とは別の方法により、減少したヒアルロン酸を補うことができる。そして、ヒアルロン酸の低下に起因する皮膚老化を予防するだけでなく、ヒアルロン酸が関連する他の臓器においてもヒアルロン酸減少に伴う症状を改善することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいうヒアルロン産生促進剤は、ヒアルロン酸産生を促進する作用を有するものであればよく、少なくともイソリキリチゲニンを有効成分とすることを特徴とする。さらに必要に応じてアラキジン酸を有効成分として含んでもよい。
【0013】
ここで、本発明で用いられる『イソリキリチゲニン』とは、天然に存在する有機化合物の1種であり、生薬の1種である甘草の成分の1つとして含有されていることが知られている。本発明で用いられるイソリキリチゲニンは、天然物から抽出・精製したものを用いてもよいし、工業的に化学合成されたものを用いることができる。
【0014】
ところで、イソリキリチゲニンを摂取した場合における吸収率について記載された文献は存在せず、イソリキリチゲニンの有効濃度については明らかとなっていない。しかし、同じフラボノイドとして知られているセサミンの吸収率は明らかとなっていることから、セサミンに基づいて、ある程度推測が可能である。セサミンを25mg経口摂取した場合、血漿中のセサミン濃度は最大2ng/mLとなる事が知られている。このことから、イソリキリチゲニンについてもセサミンと同じ吸収率であると仮定すると、本発明においては、一日当たりのイソリキリチゲニンの摂取量が0.001~3.5gであることが好ましく、0.01~3.0gであることがより好ましく、0.03~1.8gであることがさらにより好ましい。
【0015】
イソリキリチゲニンは固体のまま用いてもよいし、溶媒に溶解させて液体として用いてもよい。溶媒としては水酸化ナトリウム水溶液、エタノール、DMSOなどが挙げられ、このうち水酸化ナトリウム水溶液またはエタノールが好ましい。本発明においては、操作性の観点から水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて用いることが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる『アラキジン酸』とは、ピーナッツ油に含まれる飽和脂肪酸として知られている。また、アラキジン酸は、アラキドン酸を水素化することでも生成できることが知られている。本発明で用いられるアラキジン酸は、天然物から抽出・精製したものを用いてもよいし、工業的に化学合成されたものを用いることができる。
【0017】
イソリキリチゲニンと同じく、アラキジン酸についても有効濃度については明らかとなっていない。しかし、イソリキリチゲニンと同様に脂肪酸であるEPAとDHAを基に仮定すると、アラキジン酸の吸収率はおおよそ推測が可能である。アラキジン酸の吸収率をEPAとDHAの平均値であると仮定すると、本発明においては、一日当たりのアラキジン酸の摂取量が、0.001~10.0mgであることが好ましく、0.005~5.0mgであることがより好ましく、0.01~3.3mgであることがさらにより好ましい。
【0018】
アラキジン酸は固体のまま用いてもよいし、溶媒に溶解させて液体として用いてもよい。溶媒としてはメタノール、エタノール又はプロパノールなどのアルコール類、エーテル類、クロロホルムなどが挙げられ、このうちアルコール類が好ましい。本発明においては、操作性の観点からエタノールに溶解させて用いることが好ましい。
【0019】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤の形態は、固体とすることも液体とすることもでき、本発明のヒアルロン酸産生促進剤が使用される形態によって任意に選択される。
【0020】
さらに、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は飲食品に含有せしめて使用することができる。例えば、発酵乳及び乳酸菌飲料、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0021】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、栄養補助食品、機能性表示食品等に含有させることも有用である。
【実施例0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。本実施例においては、培養細胞を用いてヒアルロン酸産生能の評価を行った。
【0023】
(試薬の調製)
初めに試薬の調製を行った。まず、イソリキリチゲニン(東京化成工業社製)を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて10mMとなるように溶解した。続いて、アラキジン酸(SIGMA社製)を濃度95%以上のエタノールを用いて10mMとなるように溶解した。
【0024】
(培養細胞の調製)
次に、培養細胞の調製を行った。本実施例では正常ヒト皮膚線維芽細胞:NHDF(Normal Human Dermal Fibroblasts)を用いて行った。まず、10%の非働化FBS (Biowest社製)とPenicillin-Streptomycin (Invitrogen社製)を加えたDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium Gibco社製)を用いて、NHDFを37℃、5% CO2の条件下で培養した。そして、24well plateに、1.0×105 cells/wellとなるようにNHDF細胞を播種した。その後、上記の培養条件下で72時間培養した。
【0025】
(ヒアルロン酸産生能評価試験)
細胞培養後、培養上清をFBS非含有のDMEMに置換した。次に、PBS(PBS(-)pH 7.4 Gibco社製)で段階希釈したイソリキリチゲニンとアラキジン酸を終濃度0.001μM,0.01μM, 0.05μM, 0.1μM,1μMとなるように、各化合物単独または同一濃度で混合した溶液を添加した。ここで、上記濃度としたのは、培養細胞の場合には経口摂取と異なり吸収率は関係しない。そのため、上述の好ましい範囲に基づいて添加濃度を定めた。
【0026】
試薬添加後、37℃、5% CO2の条件下で24時間培養した。培養後培地を回収し、Hyaluronan, DuoSet Kit(R&D Systems社)を用いて培養上清中のヒアルロン酸濃度を測定した。なお、本実施例においては試薬無添加をネガティブコントロール(NC)とした。ヒアルロン酸産生能はNCを100%とし評価を行った。
【0027】
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1からも明らかなように、イソリキリチゲニンを添加した場合、どの濃度においてもヒアルロン酸の産生促進が認められた。特に0.01~0.05μMにおいて産生促進能が高いという結果となった。次に、アラキジン酸を添加した場合においては、0.01μM以下および1μMにおいて産生促進能が高いという結果となった。すなわち、イソリキリチゲニンまたはアラキジン酸を単独で添加した場合であっても、ヒアルロン酸の産生が促進されることが示唆された。
【0030】
次に、イソリキリチゲニン及びアラキジン酸を併用した場合の効果について確認した。表1を見ると、0.1μM以下の濃度において、いずれの濃度においても単独で添加した場合よりもヒアルロン酸の産生が促進されていることがわかる。特に0.01~0.1μMにおいては、単独で添加した場合よりもヒアルロン酸産生促進能が高くなっていることがわかる。
【0031】
以上説明したように、本発明にかかるヒアルロン酸産生促進剤は、直接ヒアルロン酸を経口摂取する方法とは別に、間接的にヒアルロン酸の減少分を補えることが示唆された。これにより、ヒアルロン酸の低下に起因する皮膚老化を予防するだけでなく、ヒアルロン酸が関連する他の臓器においてもヒアルロン酸減少に伴う症状を改善することが期待できる。