(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131888
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】シールド電線の端末構造、端子付き電線、コネクタ構造
(51)【国際特許分類】
H02G 15/02 20060101AFI20230914BHJP
H01R 24/38 20110101ALI20230914BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H02G15/02 050
H01R24/38
H02G1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036895
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】井上 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正則
(72)【発明者】
【氏名】三吉 隆宜
(72)【発明者】
【氏名】榊 直哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠人
(72)【発明者】
【氏名】大崎 祥司
【テーマコード(参考)】
5E223
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5E223AA21
5E223AB45
5E223AC23
5E223BA06
5E223CC07
5E223GA26
5E223GA57
5G355BA04
5G355BA08
5G355CA06
5G375AA12
5G375CA03
5G375DA36
5G375DB16
(57)【要約】
【課題】 製造作業性が良好であり、シールド層との電気的な接続信頼性も高いシールド電線の端末構造等を提供する。
【解決手段】 まず、シールド電線1の先端から所定長さの外被3を剥離して、内部の編組線5を露出させる。次に、露出した編組線5が、シールド電線1の端部側とは逆方向に折り返す。次に、編組線5の外周にインナーフェルール9を配置する。インナーフェルール9は金属製の筒状部材であり、一方の端部側が拡径されて、他の部位に対して相対的な外径が大きな拡径部11が形成される。次に、編組線5をシールド電線1の端部側に再度折り返す。次に、折り返された編組線5の外周にアウターフェルール13を配置する。この際、アウターフェルール13とインナーフェルール9の拡径部11とが確実に直接接触する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線が絶縁被覆されたコア部と、前記コア部の外周に配置される編組線と、前記編組線の外周を被覆する外被とを有するシールド電線の端末構造であって、
所定長さの前記外被が剥離されて露出する前記編組線が、シールド電線の端部側とは逆方向に折り返され、前記編組線の外周にインナーフェルールが配置され、
前記編組線が前記インナーフェルールの外周を覆うように、シールド電線の端部側に再度折り返されて、前記編組線の外周にアウターフェルールが配置され、前記インナーフェルールと前記アウターフェルールが、前記編組線を挟み込んだ状態で圧着されており、
前記インナーフェルールの一端側は拡径されており、前記アウターフェルールの端部側と直接接触していることを特徴とするシールド電線の端末構造。
【請求項2】
前記インナーフェルールの先端には、前記アウターフェルールの端部を挿入可能な差し込み部を有し、前記アウターフェルールの端部が前記差し込み部に挿入されていることを特徴とする請求項1記載のシールド電線の端末構造。
【請求項3】
前記差し込み部は、空隙をあけて前記インナーフェルールの端部が後方側に折り返されるように形成され、
前記アウターフェルールの先端部が、前記差し込み部の内面形状に対応した外形を有し、前記アウターフェルールの先端部が、前記差し込み部の内面と面接触することを特徴とする請求項2記載のシールド電線の端末構造。
【請求項4】
前記差し込み部の内面に凹部又は凸部が形成され、
前記アウターフェルールの先端部の外面に、前記凹部又は凸部と嵌合可能な凸部又は凹部が形成されることを特徴とする請求項3記載のシールド電線の端末構造。
【請求項5】
前記差し込み部において、前記アウターフェルールと前記インナーフェルールが圧着されることを特徴とする請求項3記載のシールド電線の端末構造。
【請求項6】
端末構造の外周面に、前記インナーフェルールの一部が露出することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のシールド電線の端末構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のシールド電線の端末構造を有する端子付き電線であって、
前記コア部の先端から所定長さの前記絶縁被覆が剥離され、内部の前記導線が端子と接続されていることを特徴とする端子付き電線。
【請求項8】
請求項7記載の端子付き電線がコネクタに収容されたコネクタ構造であって、
前記コネクタの端子挿入部の内面には金属部材が配置され、
前記編組線と前記金属部材とが導通することを特徴とするコネクタ構造。
【請求項9】
前記金属部材が前記インナーフェルールと直接接触することを特徴とする請求項8記載のコネクタ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられるシールド電線の端末構造、端子付き電線及びそのコネクタ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のワイヤハーネスに用いられる電線には、電線から発生するノイズが外部に与える影響や、外部からのノイズが電線に与える影響を抑制するため、シールド電線が用いられることがある。
【0003】
このようなシールド電線としては、例えば、絶縁被覆がなされた被覆電線の外周に編組線によるシールド層が形成され、シールド層の外周に外被が形成されたシールド電線が提案されている。このようなシールド電線の端部に端子等を接続してコネクタを構成する際には、シールド層を接地するための端末構造を形成する必要がある。
【0004】
図8は、従来の端末構造を形成する工程を示す図である。まず、
図8(a)、
図8(b)に示すように、シールド電線100の最外周の外被103を、端部から所定長さ切断除去し、内部の編組線105を露出させる。
【0005】
次に、
図8(c)に示すように、編組線105を所定長さに切断し、内部のコア部107を露出させる。すなわち、外被103の先端から編組線105が所定長さ露出し、編組線105の先端からコア部107が所定長さ露出する。なお、コア部107は導体が絶縁被覆された電線である。
【0006】
次に、
図8(d)に示すように、外被103の端部近傍において、所定長さのインナーフェルール109を配置する。インナーフェルール109は金属製の環状部材である。その後、
図8(e)に示すように、外被103から露出していた編組線105を外被103側(インナーフェルール109側)に折り返す。これにより、インナーフェルール109が編組線105によって覆われる。
【0007】
最後に、
図8(f)に示すように、編組線105の外周にアウターフェルール113を配置する。アウターフェルール113はインナーフェルール109と同様に金属製の環状部材であり、インナーフェルール109の外径よりも内径が大きい。この状態でアウターフェルール113を外周から圧縮することで、インナーフェルール109とアウターフェルール113とで編組線105が挟まれた状態で圧着することができる。
【0008】
この後、コア部107には端子が接続され、端子はコネクタ本体に収容される。この際、アウターフェルール113をコネクタ本体の内部の金属部材と接触させ、金属部材を接地線と接続することで、シールド電線100のシールド層を接地させることができる。
【0009】
しかし、この方法では編組線105を露出した後に、編組線105を所定長さに切断する必要がある。このため作業工数が多くなる。また、編組線105を切断する際に、内部のコア部107を傷つける恐れがある。また、編組線105の切断片が他の部材等に入り込むコンタミのおそれがある。これに対し、編組線105を切断せずに折り返すと、編組線105の折り返し長さが長くなるため端末構造が大型化する。また、外被103の切除長さを短くしたのでは、その後の端子接続作業が困難となる。
【0010】
これに対し、外被の一部に切れ目を入れて、外被を一度先端側にずらした後、外被を完全に除去せずに後方に戻すことで編組線を扇形状に広げ、広がった編組線をインナーフェルールに被せ、アウターフェルールをその上から装着する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、アウターフェルール113はコネクタ内の金属部材と接触して接地される。しかし、従来の方法では、編組線105とアウターフェルール113との接触によって編組線105とアウターフェルール113との導通がとられるが、インナーフェルール109は、編組線105と金属部材との導通には関与せず、単にアウターフェルール113の圧着の受け部材としてのみ機能する。このため、編組線105と金属部材との電気的な接続信頼性が十分ではなく、接地抵抗が大きくなるおそれがある。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、製造作業性が良好であり、シールド層との電気的な接続信頼性も高いシールド電線の端末構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達するために第1の発明は、導線が絶縁被覆されたコア部と、前記コア部の外周に配置される編組線と、前記編組線の外周を被覆する外被とを有するシールド電線の端末構造であって、所定長さの前記外被が剥離されて露出する前記編組線が、シールド電線の端部側とは逆方向に折り返され、前記編組線の外周にインナーフェルールが配置され、前記編組線が前記インナーフェルールの外周を覆うように、シールド電線の端部側に再度折り返されて、前記編組線の外周にアウターフェルールが配置され、前記インナーフェルールと前記アウターフェルールが、前記編組線を挟み込んだ状態で圧着されており、前記インナーフェルールの一端側は拡径されており、前記アウターフェルールの端部側と直接接触していることを特徴とするシールド電線の端末構造である。
【0015】
前記インナーフェルールの先端には、前記アウターフェルールの端部を挿入可能な差し込み部を有し、前記アウターフェルールの端部が前記差し込み部に挿入されていてもよい。
【0016】
前記差し込み部は、空隙をあけて前記インナーフェルールの端部が後方側に折り返されるように形成され、前記アウターフェルールの先端部が、前記差し込み部の内面形状に対応した外形を有し、前記アウターフェルールの先端部が、前記差し込み部の内面と面接触してもよい。
【0017】
前記差し込み部の内面に凹部又は凸部が形成され、前記アウターフェルールの先端部の外面に、前記凹部又は凸部と嵌合可能な凸部又は凹部が形成されてもよい。
【0018】
前記差し込み部において、前記アウターフェルールと前記インナーフェルールが圧着されてもよい。
【0019】
端末構造の外周面に前記インナーフェルールの一部が露出してもよい。
【0020】
第1の発明によれば、編組線を後方に折り返した部位の外周にインナーフェルールが配置され、その外面に再度編組線を前方に折り返すため、端末構造部分を大型化することなく、編組線の切断作業を削減することができる。
【0021】
また、インナーフェルールとアウターフェルールとで編組線を挟み込んだ際にインナーフェルールとアウターフェルールも直接接触させることができる。このため、従来のように、編組線の接地に際して、編組線とアウターフェルールとの導通のみではなく、編組線とインナーフェルールとの導通も利用することができる。このため、より高い電気的な接続信頼性を得ることができる。
【0022】
また、インナーフェルールの先端にアウターフェルールの端部を挿入可能な差し込み部を形成し、アウターフェルールの端部を差し込み部に挿入することで、より確実にインナーフェルールとアウターフェルールとを接触させて導通させることができる。
【0023】
また、差し込み部が、空隙をあけてインナーフェルールの後方側に折り返されるように形成され、アウターフェルールの先端部を差し込み部の内面形状に対応した外形とすることで、より確実にインナーフェルールとアウターフェルールとを面接触させて導通させることができる。
【0024】
また、差し込み部の内面に凹部又は凸部を形成し、アウターフェルールの先端部の外面に、凹部又は凸部と嵌合可能な凸部又は凹部を形成することで、アウターフェルールを差し込み部に差し込んだ際に両者を嵌合させることができる。
【0025】
また、圧着部の外周面にインナーフェルールの一部を露出させることで、コネクタ本体に収容した際に、インナーフェルールを金属部材と直接接触させることができる。
【0026】
第2の発明は、第1の発明にかかるシールド電線の端末構造を有する端子付き電線であって、前記コア部の先端から所定長さの前記絶縁被覆が剥離され、内部の前記導線が端子と接続されていることを特徴とする端子付き電線である。
【0027】
第2の発明によれば、シールド層との電気的な接続信頼性も高い端子付き電線を得ることができる。
【0028】
第3の発明は、第2の発明にかかる端子付き電線がコネクタに収容されたコネクタ構造であって、前記コネクタの端子挿入部の内面には金属部材が配置され、前記編組線と前記金属部材とが導通することを特徴とするコネクタ構造である。
【0029】
前記金属部材と前記インナーフェルール又は前記アウターフェルールとがばね力によって接触してもよい。
【0030】
第3の発明によれば、シールド層との電気的な接続信頼性も高いコネクタ構造を得ることができる。
【0031】
特に、インナーフェルール又はアウターフェルールが金属部材とばね力によって接触することで、より高い電気的な接続信頼性を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、製造作業性が良好であり、シールド層との電気的な接続信頼性も高いシールド電線の端末構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】シールド電線1を用いた端末構造の作業工程を示す図。
【
図2】(a)は電線端末構造20の断面図、(b)は電線端末構造20を用いたコネクタ構造21を示す断面図。
【
図3】(a)は、インナーフェルール9aを用いた電線端末構造の形成工程を示す図、(b)は、電線端末構造20aの断面図、
【
図4】(a)、(b)は、インナーフェルール9a、アウターフェルール13aを用いた電線端末構造の形成工程を示す図。
【
図5】(a)は電線端末構造20bの断面図、(b)は電線端末構造20bを用いたコネクタ構造21aを示す断面図。
【
図6】(a)、(b)は、インナーフェルール9b、アウターフェルール13bを用いた電線端末構造の形成工程を示す図。
【
図7】(a)はコネクタ構造21bを示す断面図、(b)はコネクタ構造21cを示す断面図。
【
図8】シールド電線100を用いた従来の端末構造の作業工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、シールド電線1の端末構造を形成する工程を示す図である。
図1(a)に示すように、シールド電線1は、中心側から順に、コア部7、編組線5、外被3が配置される。
【0035】
コア部7は、導線が絶縁被覆されて構成される。コア部7の外周には、シールド層として編組線5が配置される。また、編組線5の外周には、編組線5を被覆する外被3が配置される。
【0036】
図1(b)に示すように、まず、シールド電線1の先端から所定長さの外被3を剥離除去して、内部の編組線5を露出させる。次に、
図1(c)に示すように、露出した編組線5を、シールド電線1の端部側とは逆方向に折り返す。すなわち、編組線5を外被3の外周に配置する。この際、編組線5を切断する必要ななく、露出した編組線5の略全長を外被3の外周側に折り返す。
【0037】
次に、
図1(d)に示すように、編組線5の外周にインナーフェルール9を配置する。インナーフェルール9は金属製の筒状部材であり、一方の端部側が拡径されて、他の部位に対して相対的な外径が大きな拡径部11が形成される。この際、インナーフェルール9は、拡径部11がシールド電線1の先端側に向くようにして、編組線5の端部(編組線5が折り返されている側の端部)に配置される。なお、インナーフェルール9の軸方向長さは、折り返された編組線5の長さの1/2以下である。
【0038】
次に、
図1(e)に示すように、編組線5をシールド電線1の端部側に再度折り返す。折り返された編組線5によって、インナーフェルール9の外周が覆われる。この際、編組線5の先端が、拡径部11の側面に当たるまで折り返すことで、編組線5の折り返し位置を把握することができる。また、拡径部11が編組線5によって覆われずに、拡径部11を編組線5から露出させることができる。
【0039】
次に、折り返された編組線5の外周にアウターフェルール13を配置する。すなわち、インナーフェルール9とアウターフェルール13によって編組線5が挟み込まれる。なお、シールド電線1には、予めアウターフェルール13を挿通しておき、端末構造部から退避させておく。編組線5の再度の折り返しの後で、アウターフェルール13を退避位置からシールド電線1の先端側に移動させることで、アウターフェルール13をインナーフェルール9(編組線5)の外周部に配置させることができる。
【0040】
この際、インナーフェルール9の拡径部11の外径がアウターフェルール13の内径よりも大きければ、アウターフェルール13の端面をインナーフェルール9の拡径部11の側面に突き当たるように配置することができる。このため、アウターフェルール13の位置決めが容易であるとともに、アウターフェルール13とインナーフェルール9とを確実に直接接触させることができる。
【0041】
このように、インナーフェルール9とアウターフェルール13で、編組線5を挟み込んだ状態で、アウターフェルール13の外周から圧縮して圧着することで、電線端末構造が形成される。
【0042】
図2(a)は、得られた電線端末構造20を示す断面図である。電線端末構造20は、シールド電線1の先端から所定の長さの外被3が除去され、露出した編組線5が一度後方(外被3側)に折り返されて、インナーフェルール9の外周側に、再度先端側(露出したコア部7側)に折り返される。また、インナーフェルール9の外周位置に、編組線5を挟んでアウターフェルール13が配置されて圧着される。このように、電線端末構造20を製造する際に編組線5の切断が不要である。
【0043】
また、得られた電線端末構造20を用いることで端子付き電線を得ることができる。まず、コア部7の先端から所定長さの絶縁被覆が剥離され、内部の導線を露出させ、圧着端子に圧着することで、端子とコア部7を接続することができる。
【0044】
図2(b)は、電線端末構造20を有する端子付き電線がコネクタ17に収容されたコネクタ構造21を示す断面図である。コネクタ17の端子挿入部の内面には金属部材19が配置される。金属部材19は、例えば筒状であり、圧着後のアウターフェルール13の外形に略対応した形状を有する。
【0045】
端子15はコネクタ17の先端側に配置され、接続対象の他の端子を挿入することで、端子同士を電気的に接続することができる。一方、コネクタ17の内部において、アウターフェルール13は金属部材19と接触して導通する。すなわち、シールド電線1の編組線5と金属部材19とが導通する。金属部材19は、図示を省略した接地線で接続されるため、シールド電線1のシールド層(編組線5)を接地させることができる。
【0046】
なお、圧着後のインナーフェルール9の拡径部11の拡径高さ(拡径部11の外径と拡径部11以外の部位の外径差/2)はアウターフェルール13の厚みと同等とすることができる。このようにすることで、インナーフェルール9の拡径部11とアウターフェルール13の外面の両方を金属部材19へ直接接触させることもできる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、編組線5を二回折り返すことで、編組線5を切断することなく、コンパクトな電線端末構造20を形成することができる。また、インナーフェルール9とアウターフェルール13とを直接接触させることで、電気的な接続の信頼性を高めることができる。例えば、編組線5からアウターフェルール13を介して金属部材19へ導通させるルートに加え、編組線5からインナーフェルール9及びアウターフェルール13を介して金属部材19へ導通させることができる。なお、インナーフェルール9及びアウターフェルール13は、金属製の筒状部材である例を説明したが、それぞれの表面にめっきがなされていてもよい。
【0048】
また、インナーフェルール9に拡径部11を形成することで、編組線5の折り返し位置やアウターフェルール13の位置決めが容易となる。特に、インナーフェルール9は編組線5によって覆われているため、インナーフェルール9の位置が分かりにくい。しかし、インナーフェルール9の一部が外部に露出するため、インナーフェルール9とアウターフェルール13の位置がずれて圧着されることを抑制することができる。
【0049】
次に、第2の実施形態について説明する。
図3(a)は、インナーフェルール9aを用いた電線端末構造の形成工程を示す図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能を奏する構成については、
図1~
図2と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0050】
第2の実施形態は、第1の実施形態と略同様であるが、インナーフェルール9aの拡径部11の形状が異なる。インナーフェルール9aの先端の拡径部11は、後方に折り返されるように形成されて、アウターフェルール13の端部を挿入可能な差し込み部23が形成される。すなわち、差し込み部23は、空隙をあけてインナーフェルール9aの端部が後方側に折り返されるように形成される。
【0051】
編組線5をインナーフェルール9aの外周側に再度折り返した後、
図3(a)に示すように、アウターフェルール13の端部を差し込み部23に挿入する。この状態で、
図3(b)に示すように、外周から圧縮してアウターフェルール13とインナーフェルール9aとを圧着する。以上により、電線端末構造20aを形成することができる。
【0052】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、インナーフェルール9aの端部にアウターフェルール13の端部が挿入可能な差し込み部23が形成されるため、アウターフェルール13の位置決めが容易である。また、差し込み部23にアウターフェルール13を挿入することで、インナーフェルール9aとアウターフェルール13とをより確実に接触させることができる。
【0053】
また、差し込み部23を形成することで、差し込み部23において、アウターフェルール13とインナーフェルール9aが圧着された際に、圧着部の外周面にインナーフェルール9aの一部が露出する。このため、前述したように、コネクタ17に収容した際に、アウターフェルール13とインナーフェルール9の両者を金属部材19に接触させることができる。
【0054】
なお、差し込み部23は、アウターフェルール13の端部を挿入可能であれば、インナーフェルール9aの端部を折り返すように形成するのではなく、拡径部11の側面にアウターフェルール13挿入用の溝を形成してもよい。
【0055】
次に、第3の実施形態について説明する。
図4(a)は、インナーフェルール9a及びアウターフェルール13aを用いた電線端末構造の形成工程を示す図である。第3の実施形態は、第2の実施形態と略同様であるが、アウターフェルール13aの端部形状が異なる。
【0056】
前述したように、インナーフェルール9aは、端部の拡径部11が後方に折り返されて差し込み部23が形成される。一方、アウターフェルール13の先端部には、インナーフェルール9aの差し込み部23の内面形状に対応した外形が形成される。すなわち、アウターフェルール13aの端部も後方に折り返された形状を有する。より詳細には、インナーフェルール9aとアウターフェルール13aの端部は、いずれも、先端から徐々に外径が大きくなるような(すなわち、内部空間が徐々に大きくなるような)テーパ形状を有する。
【0057】
図4(b)に示すように、アウターフェルール13aを後方からスライド移動させてインナーフェルール9a(編組線5)の外周に配置させると、アウターフェルール13aの先端部が差し込み部23に完全に挿入される。この際、差し込み部23(インナーフェルール9a)の内面と、アウターフェルール13aの外面とが面接触する。このため、インナーフェルール9aとアウターフェルール13aとを確実に接触させて導通させることができる。
【0058】
図5(a)に示すように、インナーフェルール9aとアウターフェルール13aとを圧着することで、電線端末構造20bを得ることができる。この際、図示したように、圧着部の外周面において、最大外径部がインナーフェルール9aのみであってもよい。
【0059】
図5(b)は、電線端末構造20bを用いたコネクタ構造21aを示す断面図である。この場合には、金属部材19とはインナーフェルール9aのみが接触する。
【0060】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、アウターフェルール13aの端部形状を、インナーフェルール9aの端部形状に対応させることで、インナーフェルール9aとアウターフェルール13aとをより確実に接触させることができる。
【0061】
なお、インナーフェルール9aは、内外面で編組線5と接触するため、インナーフェルール9aを金属部材19と直接接触させることで、より高い接続信頼性を期待することができる。このように、第1から第3の実施形態によれば、金属部材19との接触は、アウターフェルールのみであってもよく、インナーフェルールのみであってもよく、インナーフェルール及びアウターフェルールの両方であってもよい。
【0062】
なお、前述した各実施形態では、最後にアウターフェルールの外周を圧縮して圧着したが、必ずしも圧着しなくてもよい。
図6は、例えば、インナーフェルール9bとアウターフェルール13bとを用いた場合の電線端末構造の形成工程を示す図である。
【0063】
図6(a)に示すように、インナーフェルール9bはインナーフェルール9aと略同様の形状であるが、インナーフェルール9b(差し込み部23)の内面には、内面側に突出する凸部25が形成される。一方、アウターフェルール13bの先端部の外面には、凸部25と対応する位置に凹部27が形成される。
【0064】
図6(b)に示すように、インナーフェルール9bの差し込み部23にアウターフェルール13bの端部を完全に挿入すると、凸部25と凹部27とを嵌合させることが可能である。このように凸部25と凹部27とが嵌合することで、インナーフェルール9bとアウターフェルール13bとが固定される。
【0065】
なお、本実施形態では、インナーフェルール9b(差し込み部23)の内面に凸部25が形成され、アウターフェルール13aの先端部の外面に凹部27が形成される例を説明するが、凸部25と凹部27とを逆にしてもよい。すなわち、インナーフェルール9b(差し込み部23)の内面に凹部又は凸部が形成され、アウターフェルール13bの先端部の外面に、インナーフェルール9bの凹部又は凸部と嵌合可能な凸部又は凹部が形成されればよい。
【0066】
図7(a)に示すように、圧着せずにこの状態のままコネクタ17に収容することで、インナーフェルール9bの外周面と金属部材19と接触させることができる。この際、インナーフェルール9bとアウターフェルール13bとの間には空間が形成されているため、インナーフェルール9bとアウターフェルール13bは、中心方向に変形が可能である。このため、外周側のインナーフェルール9bの外径を、金属部材19の内径よりもわずかに大きくしておくことで、インナーフェルール9bは、ばね力によって金属部材19に対して押し付けられて接触する。このため、インナーフェルール9bと金属部材19とを確実に接触させることができる。このように、端末構造の外周面に、インナーフェルールの少なくとも一部を露出させることで、インナーフェルールを金属部材19と直接接触させることができる。
【0067】
なお、インナーフェルール9bとアウターフェルール13bのばね力を残しつつ圧着してもよい。例えば、アウターフェルール13bの端部の空間部分にスペーサを配置して圧着し、圧着後にスペーサを撤去してもよい。
【0068】
また、ばね力を用いてインナーフェルール(又はアウターフェルール)と金属部材19とを接触させる方法としては、
図7(b)に示すように、金属部材19にばね部29を設けてもよい。ばね部29は、内方に突出した弾性変形可能な部位である。ばね部29の内径を端末構造の最大外径よりもわずかに小さくしておくことで、端末構造をコネクタ17に収容した際に、ばね部29を弾性変形させてインナーフェルール又はアウターフェルールへ押し付けるようにすることができる。
【0069】
このように、電線端末構造に縮径可能なばね部を形成するか、金属部材19に拡径可能なばね部29を形成することで、インナーフェルール又はアウターフェルールと金属部材19とをばね力によって接触させることができる。このため、より確実に金属部材19と編組線5との電気的接続の信頼性を高めることができる。
【0070】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0071】
1………シールド電線
3………外被
5………編組線
7………コア部
9、9a、9b………インナーフェルール
11………拡径部
13、13a、13b………アウターフェルール
15………端子
17………コネクタ
19………金属部材
20、20a、20b………電線端末構造
21、21a、21b、21c………コネクタ構造
23………差し込み部
25………凸部
27………凹部
29………ばね部
100………シールド電線
103………外被
105………編組線
107………コア部
109………インナーフェルール
113………アウターフェルール