(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131912
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】発毛剤及び抗うつ剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/05 20060101AFI20230914BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230914BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230914BHJP
A61K 31/015 20060101ALI20230914BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20230914BHJP
A61K 8/9722 20170101ALI20230914BHJP
C07C 11/21 20060101ALI20230914BHJP
C07C 13/19 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K36/05
A61P17/14
A61P25/24
A61K31/015
A61Q7/00
A61K8/9722
C07C11/21
C07C13/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036924
(22)【出願日】2022-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究プログラム)共創プラットフォーム育成型「低CO2と低環境負荷を実現する微細藻バイオリファイナリーの創出に関する国立研究開発法人産業技術総合研究所による研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】富永 健一
(72)【発明者】
【氏名】有村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ゴック・リン
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一憲
(72)【発明者】
【氏名】平野 篤
(72)【発明者】
【氏名】額賀 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】野崎 広之
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】オリバ アプリル キー
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC011
4C083AC012
4C083CC37
4C083EE22
4C083FF01
4C088AA15
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA12
4C088ZA92
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA04
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206ZA12
4C206ZA92
4H006AA03
4H006AB20
(57)【要約】
【課題】発毛剤及び抗うつ剤を提供する。
【解決手段】微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、発毛剤又は抗うつ剤;前記抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含む、発毛剤又は抗うつ剤。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、発毛剤。
【請求項2】
前記抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含む、請求項1に記載の発毛剤。
【化1】
【請求項3】
下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を有効成分とする、発毛剤。
【化2】
【請求項4】
請求項3に記載の発毛剤及び薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物。
【請求項5】
【請求項6】
微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、抗うつ剤。
【請求項7】
前記抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含む、請求項6に記載の抗うつ剤。
【化4】
【請求項8】
下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を有効成分とする、抗うつ剤。
【化5】
【請求項9】
請求項8に記載の抗うつ剤及び薬学的に許容可能な担体を含む、うつ病治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛剤及び抗うつ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内に油分を蓄積する微細藻類がいくつか知られている。例えば、特許文献1には、炭素数30~34程度の炭化水素を蓄積するボトリオコックス属に属する微細藻類が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細藻類はバイオマスエネルギーの原料として一般に注目されている。これに対し、発明者らは、発明者らが単離したBotryococcus terribilis(ボトリオコックス テリビリス又はボツリオコッカス テレビリス、以下ボトリオコックス テリビリス)TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)が種々の代謝物を産生することに着目し、これらの代謝物の生理活性を検討した。本発明は、ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)に由来する発毛剤及び抗うつ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を含む。
[1]微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、発毛剤。
[2]前記抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含む、[1]に記載の発毛剤。
【化1】
[3]下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を有効成分とする、発毛剤。
【化2】
[4][3]に記載の発毛剤及び薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物。
[5]下記式(1)で表される化合物。
【化3】
[6]微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、抗うつ剤。
[7]前記抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含む、[6]に記載の抗うつ剤。
【化4】
[8]下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を有効成分とする、抗うつ剤。
【化5】
[9][8]に記載の抗うつ剤及び薬学的に許容可能な担体を含む、うつ病治療用組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、発毛剤及び抗うつ剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実験例1における、成分1(メチル化メイジコッセン)の
1H-NMRの結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実験例1における、成分1(メチル化メイジコッセン)の
13C-NMRの結果を示す図である。
【
図3】
図3は、実験例1における、成分1(メチル化メイジコッセン)のLC-MS分析の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実験例1における、成分2(C32ボトリオコッセン)の
1H-NMRの結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実験例1における、成分2(C32ボトリオコッセン)の
13C-NMRの結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実験例1における、成分2(C32ボトリオコッセン)のLC-MS分析の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実験例2における、メチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実験例2における、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実験例2における、CTNNB1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実験例2における、ALPL遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実験例2における、FGF1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実験例3における、メチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実験例3における、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実験例3における、CTNNB1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実験例3における、ALPL遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実験例3における、FGF1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実験例4における、メチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実験例4における、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実験例4における、メチル化メイジコッセンによる神経保護作用を評価した結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実験例4における、C32ボトリオコッセンによる神経保護作用を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[発毛剤]
一実施形態において、本発明は、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、発毛剤を提供する。TEPMO-26株については後述する。実施例において後述するように、発明者らは、TEPMO-26株の抽出物が、発毛促進効果を有することを明らかにした。本実施形態の発毛剤は、脱毛症の治療剤、育毛剤等といいかえることができる。
【0009】
本実施形態の発毛剤において、抽出物が、下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0010】
【0011】
実施例において後述するように、発明者らは、TEPMO-26株の抽出物が、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物を含むことを明らかにした。本明細書において、上記式(1)で表される化合物を「メチル化メイジコッセン」という場合がある。また、上記式(2)で表される化合物を「C32ボトリオコッセン」という場合がある。また、発明者らは、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンが、発毛促進効果を有することを明らかにした。
【0012】
したがって、一態様において、本発明は、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を有効成分とする、発毛剤を提供する。
【0013】
本実施形態の発毛剤は、薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物として製剤化されていることが好ましい。発毛用組成物は、育毛用組成物といいかえることができる。一態様において、発毛用組成物は、TEPMO-26株の抽出物及び薬学的に許容可能な担体を含む。一態様において、発毛用組成物は、メチル化メイジコッセン及び薬学的に許容可能な担体を含む。一態様において、発毛用組成物は、C32ボトリオコッセン及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0014】
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、注射剤用溶剤等が挙げられる。また、発毛用組成物は添加剤を更に含んでいてもよい。
【0015】
添加剤としては、特に制限されず、例えば、防腐剤、pH調整剤、安定剤紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0016】
薬学的に許容される担体及び添加剤としては、例えば、第十六改正日本薬局方等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
【0017】
発毛用組成物の剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。
【0018】
皮膚外用剤としては、例えば、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0019】
発毛用組成物は、脱毛症の治療薬であってもよいし、化粧料であってもよいし、サプリメント等の食品であってもよい。
【0020】
発毛用組成物中の発毛剤(TEPMO-26株の抽出物、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセン)の含有量は、発毛剤の固形分(乾燥重量)換算で、例えば、0.01~50質量%、0.01~30質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、0.01~1質量%の範囲が挙げられる。
【0021】
発毛剤又は発毛用組成物の投与方法は特に制限されず、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0022】
発毛剤又は発毛用組成物の投与量は、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり0.01~5,000mg/kg体重の有効成分(TEPMO-26株の抽出物、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセン)を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり0.01~1,000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。
【0023】
[新規化合物]
一実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。実施例において後述するように、発明者らは、TEPMO-26株の抽出物に、下記式(1)で表される化合物(メチル化メイジコッセン)が含まれることを明らかにした。メチル化メイジコッセンは新規化合物であった。実施例において後述するように、メチル化メイジコッセンは、発毛促進効果、神経保護作用を有する。
【0024】
【0025】
[抗うつ剤]
一実施形態において、本発明は、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を有効成分とする、抗うつ剤を提供する。実施例において後述するように、発明者らは、TEPMO-26株の抽出物が、神経保護作用を有することを明らかにした。神経保護作用は、抗うつ作用、抗ストレス作用等といいかえることができる。すなわち、本実施形態の抗うつ剤は、うつ病の治療剤、神経保護剤、抗ストレス剤等といいかえることができる。
【0026】
現代は、ストレス社会とも言われており、日常的にストレスフルな生活を強いられる結果、うつ病等の精神疾患の患者数が増加し、それが大きな社会問題となっている。これらの精神疾患は、働き盛りの生産年齢層に多く見られることから、医療費の増大はもとより、経済的損失や自殺による社会的損失等、社会に与える影響は計り知れない。
【0027】
現在、ブプロピオン、ミルナシプラン、イミプラミン等の様々な抗うつ剤が開発されており、うつ病等の精神疾患者に対して処方されている。しかし、その多くが人工的に合成された低分子化合物であり、吐き気、食欲不振、眠気、低血圧等の副作用が問題となっている。また、過剰摂取した場合には重度の毒性を引き起こす場合が少なくないという問題を有している。そのため、副作用の少ない、安全な天然物由来の抗うつ様効果に注目が集まっている。本実施形態の抗うつ剤は、このような需要にも合致するものである。
【0028】
本実施形態の抗うつ剤において、抽出物が下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0029】
【0030】
実施例において後述するように、発明者らは、TEPMO-26株の抽出物が、上記式(1)で表される化合物(メチル化メイジコッセン)及び上記式(2)で表される化合物(C32ボトリオコッセン)を含むことを明らかにした。また、発明者らは、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンが、神経保護作用を有することを明らかにした。
【0031】
したがって、一態様において、本発明は、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を有効成分とする、抗うつ剤を提供する。
【0032】
本実施形態の抗うつ剤は、薬学的に許容可能な担体を含む、うつ病治療用組成物として製剤化されていることが好ましい。一態様において、うつ病治療用組成物は、TEPMO-26株の抽出物及び薬学的に許容可能な担体を含む。一態様において、うつ病治療用組成物は、メチル化メイジコッセン及び薬学的に許容可能な担体を含む。一態様において、うつ病治療用組成物は、C32ボトリオコッセン及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0033】
薬学的に許容される担体としては、発毛用組成物について上述したものと同様のものが挙げられる。また、うつ病治療用組成物は添加剤を更に含んでいてもよく、添加剤についても上述したものと同様である。薬学的に許容される担体及び添加剤としては、例えば、第十六改正日本薬局方等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
【0034】
うつ病治療用組成物の剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。
【0035】
皮膚外用剤としては、例えば、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0036】
うつ病治療用組成物は、うつ病の治療薬であってもよいし、化粧料であってもよいし、サプリメント等の食品であってもよい。
【0037】
うつ病治療用組成物中の抗うつ剤(TEPMO-26株の抽出物、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセン)の含有量は、抗うつ剤の固形分(乾燥重量)換算で、例えば、0.01~50質量%、0.01~30質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、0.01~1質量%の範囲が挙げられる。
【0038】
抗うつ剤又はうつ病治療用組成物の投与方法は特に制限されず、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0039】
抗うつ剤又はうつ病治療用組成物の投与量は、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり0.01~5,000mg/kg体重の有効成分(TEPMO-26株の抽出物、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセン)を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり0.01~1,000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。
【0040】
[ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株]
TEPMO-26株は、ボトリオコックス属に属する黄緑色藻である。二酸化炭素を例えば5~20%で含む通気ガスを供給しながら撹拌し、例えば25~35℃でTEPMO-26株を培養すると、最短2.1日で藻体濃度が倍加する。適当な藻体濃度に達した時点で、通気ガスを純空気に切り換えると、培養液のpHがアルカリ性へ変化し、翌日には藻体が黄色味を帯びはじめ、数日以内にオレンジ色が深まる。また、培養液の攪拌を停止すると藻体が培養液の液面に浮上する。藻体が緑色である場合に攪拌を停止すると藻体は培養液の底へ沈降することから、オレンジ色に変色した藻体内には培養液よりも密度が低い物質(高濃度の油分)が蓄積されていることが分かる。
【0041】
本明細書において、「TEPMO-26株」とは、緑色を呈する藻体とオレンジ色を呈する藻体を区別せず、両方を含む用語である。以下、これらを特に区別する場合には、TEPMO-26株の緑色を呈する藻体を「グリーンセル」といい、TEPMO-26株のオレンジ色を呈する藻体を「オレンジセル」という。
【0042】
18S rDNAのITS-2領域の塩基配列解析の結果、TEPMO-26株はボトリオコックス属テリビリス種(Botryococcus terribilis)に分類される株であることが分かった。TEPMO-26株を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した(受託日:2018年3月9日、受託番号 FERM P-22360)。
【0043】
TEPMO-26株を培養する方法は特に制限されず、例えば、従来のボトリオコックス属に属する微細藻類を培養可能な公知方法が適用できる。また、例えば培養容器を継代ごとに大きくすることにより、大量培養を行うことができる。培養時には藻体が沈殿しない程度に攪拌しながら、光照射下で通気培養することが好ましい。
【0044】
培養液の種類は特に限定されず、微細藻類を培養可能な公知の培養液が適用可能であり、例えば、C培地、BG-11培地、BG-11改変培地等が挙げられる。培養液のpHは、pH6~9が好ましく、pH6~7がより好ましい。
【0045】
培養温度は、例えば、20~35℃の範囲で、培養する微細藻類の倍加時間が短くなる温度を選定することが好ましい。
【0046】
培養液に通気するガスには二酸化炭素が含まれていることが好ましい。通気ガス中の二酸化炭素濃度としては、例えば0.5~20体積%が好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。上記範囲であると良好に増殖しやすい。
【0047】
光照射条件としては、培養液中の藻体濃度や培養槽の深さによって適宜調節すればよく、例えば、10~10000μmol/m2/sの自然光又は人工光を適用することができる。
【0048】
培養液中の初期の藻体濃度は特に限定されないが、例えば、0.01~0.5dry-g/L(乾燥重量g/L)が好ましく、0.03~0.3dry-g/Lがより好ましい。上記好適な範囲であると盛んに増殖し、倍加時間が比較的短くなりやすい。
【0049】
以上で説明した培養方法により、グリーンセルが得られる。グリーンセルをオレンジセルに変化させる方法として、(i)通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる、(ii)通気ガスを停止する、(iii)pHを上昇させる等の培養条件を切り替える方法が挙げられる。
【0050】
培養条件を切り替える時期としては、増殖期の後半が好ましく、例えば、藻体濃度が0.8dry-g/L以上になった後で培養条件を切り替えることが好ましい。藻体濃度が比較的高くなった後で培養条件を切り替えることにより、オレンジセルに変化する効率を高めることができる。
【0051】
上記(iii)の方法としては、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.0~6.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH7.0~10.0が好ましく、pH7.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。また、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.5超~7.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH8.0~10.0が好ましく、pH8.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。
【0052】
培養液のpHをアルカリ性に近づける方法としては、例えば、培養液中に通気する通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる上記(i)の方法、培養液への通気を中止する上記(ii)の方法、培養液中にアルカリ性物質を添加する上記(iii)の方法等が挙げられる。
【0053】
前記アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ性側で使用される公知のpH緩衝剤等が挙げられる。
【0054】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液の温度は、例えば、20~50℃の範囲で、微細藻類の色が徐々に褐変する温度を選定することが好ましい。
【0055】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液への通気ガスには、二酸化炭素が含まれていないことが好ましく、含まれているとしても二酸化炭素濃度は0.1体積%以下であることが好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。
【0056】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液に対する光照射は行ってもよいし、行わなくてもよい。前記培養液に光照射を行う場合の光照射条件としては、例えば、10~10,000μmol/m2/sが挙げられる。
【0057】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養日数としては、例えば、0.5~40日程度が挙げられ、3~10日程度が好ましい。
【0058】
培養液からグリーンセルまたはオレンジセルを回収する方法は特に限定されず、従来の微細藻類の場合と同様の方法が適用可能であり、例えば、培養液をフィルターに通して藻体を濾過して回収する方法、培養液を遠心分離して藻体を浮上または沈殿させて回収する方法が挙げられる。また、培養液の攪拌を停止し、沈殿したグリーンセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。さらに、培養液の攪拌を停止し、液面に浮上させたオレンジセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。
【0059】
回収した藻体が、培養液のpH調整に影響されて酸性又はアルカリ性を示す場合がある。回収した藻体のpHは、必要に応じて調整すればよく、例えばpH6~8に調整してもよい。また、藻体を回収した後の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。また、藻体を回収する直前の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。pHを調整する方法は特に制限されず、例えば無機酸又は無機アルカリ塩を添加する公知方法が挙げられる。
【0060】
TEPMO-26株の抽出物は、湿潤状態又は乾燥状態の藻体を溶剤に接触させることにより藻体から抽出された、藻体に由来する成分である。抽出するTEPMO-26株は、グリーンセルであってもよいし、オレンジセルであってもよい。TEPMO-26株は、水を含む藻体でもよいし、乾燥した藻体でもよい。藻体の生死の状態はいずれであってもよい。藻体を乾燥させる方法は特に限定されず、例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、風乾等の常法が適用可能である。TEPMO-26株の藻体は、上述したように、増殖しやすい良好な培養条件であると緑色を呈するが、その後に増殖し難い条件に切り替えるとオレンジ色に変化する。藻体の色の変化は、藻体に含まれる色素の種類や組成が変化したことを示す。抽出するための溶剤は限定されるものではないが、ペンタン、ヘキサン(n-ヘキサン)、へブタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、油脂などのエステル化合物、界面活性剤水溶液、超臨界二酸化炭素等を挙げることができる。人体への安全性の観点から、ヘキサン、エタノール、超臨界二酸化炭素が好ましい。
【0061】
TEPMO-26株の抽出において、抽出時間は特に制限されず、例えば0.1~2400時間が挙げられ、24~480時間が好ましい。抽出時に、ホモジナイザーや超音波処理機を用いて前記藻体を砕いてもよいし、前記藻体を砕かずに自然に抽出してもよい。抽出後には、遠心分離や濾過によって、前記藻体の残渣を除去することにより、目的の抽出物を含む抽出液が得られる。
【0062】
抽出液に含まれる溶剤は、除去してもよいし、他の溶媒に置換してもよい。藻体に由来する成分は、任意の溶媒に溶解又は分散された液体として、又は、乾燥した固体(例えば粉末)として使用することができる。
【0063】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、脱毛症の治療方法を提供する。
【0064】
一実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、脱毛症の治療方法を提供する。
【0065】
一実施形態において、本発明は、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、うつ病の治療方法を提供する。
【0066】
一実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、うつ病の治療方法を提供する。
【0067】
一実施形態において、本発明は、脱毛症の治療における使用のための、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を提供する。
【0068】
一実施形態において、本発明は、脱毛症の治療における使用のための、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を提供する。
【0069】
一実施形態において、本発明は、うつ病の治療における使用のための、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物を提供する。
【0070】
一実施形態において、本発明は、うつ病の治療における使用のための、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を提供する。
【0071】
一実施形態において、本発明は、発毛剤を製造するための、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物の使用を提供する。
【0072】
一実施形態において、本発明は、発毛剤を製造するための、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物の使用を提供する。
【0073】
一実施形態において、本発明は、抗うつ剤を製造するための、微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株(受託番号 FERM P-22360)の抽出物の使用を提供する。
【0074】
一実施形態において、本発明は、抗うつ剤を製造するための、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物の使用を提供する。
【実施例0075】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実験例1]
(微細藻類ボトリオコックス テリビリス TEPMO-26株のヘキサン抽出物に含まれる化合物の同定)
TEPMO-26株の凍結乾燥サンプルを3.0g量りとり、ソックスレー抽出器を用いて、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール、クロロホルムの順に抽出した。抽出後、溶媒を留去し、粉末を回収した。このうち、ヘキサン分画成分について、ヘキサンを溶媒として薄層クロマトグラフィーにて展開すると、2つの成分(成分1、成分2)が確認された。そこで、フラッシュクロマトグラフィーによりそれぞれの成分を分離した。
【0077】
続いて、それぞれの成分について、1H-NMR及び13C-NMRにより構造を、LC-MS(ESI-positive)により分子量を測定した。
【0078】
図1は、成分1の
1H-NMRの結果を示す図である。
図2は、成分1の
13C-NMRの結果を示す図である。
図3は、成分1のLC-MS分析の結果を示すグラフである。LC-MS分析の結果、成分1の分子式がC
33H
56(m/z=453,M-H
+)であることが明らかとなり、NMR解析の結果と合致した。
【0079】
以上の結果、成分1は、下記式(1)で表される化合物(以下、「メチル化メイジコッセン」という場合がある。)であることが明らかとなった。下記式(1)で表される化合物は新規化合物であった。
【0080】
【0081】
図4は、成分2の
1H-NMRの結果を示す図である。
図5は、成分2の
13C-NMRの結果を示す図である。
図6は、成分2のLC-MS分析の結果を示すグラフである。LC-MS分析の結果、成分2の分子式がC
32H
54(m/z=439,M-H
+)であることが明らかとなり、NMR解析の結果と合致した。
【0082】
以上の結果、成分2は、下記式(2)で表される化合物(以下、「C32ボトリオコッセン」という場合がある。)であることが明らかとなった。
【0083】
【0084】
TEPMO-26株中のメチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンの含有量を分析するため、TEPMO-26株を100mg量りとり、ヘキサン1mL中で2週間静置し、ヘキサン抽出物をHPLCで分析した。その結果、メチル化メイジコッセンの含有量は300mg/gであり、C32ボトリオコッセンの含有量は25mg/gであることが明らかとなった。
【0085】
[実験例2]
(メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる発毛促進効果の検討1)
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)を使用して、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる発毛促進効果を検討した。
【0086】
まず、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンのHFDPCに対する毒性を評価した。HFDPCを96ウェルプレートに3×105個/ウェルで播種し、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃でインキュベートした。培地として、成長因子(ウシ胎児血清、インスリン、トランスフェリン、トリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、シプロテロン溶液)を添加した毛乳頭細胞成長培地を使用した。
【0087】
24時間後、培地を、0、2.5、5、10、20、40、80μMのメチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンを含有する培地に交換し、48時間インキュベートした。
【0088】
続いて、3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を使用して、細胞増殖を測定した。具体的には、MTT試薬(5mg/mL)を細胞に添加し、8時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、一晩インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを使用して、570nmの吸光度を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の吸光度に対する吸光度の割合(%)として定量化した。また、トリパンブルー排除法により、細胞の生存率も測定した。
【0089】
図7は、メチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。また、
図8は、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
図7、
図8中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。その結果、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンは、いずれも、ヒト毛乳頭細胞において、80μMの濃度まで、細胞毒性を示さないことが明らかとなった。
【0090】
続いて、HFDPCを、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンで処理した後、定量的リアルタイムPCRにより発毛マーカーの発現を確認した。
【0091】
発毛マーカーとしては、CTNNB1遺伝子(β-カテニン)、ALPL遺伝子(アルカリ性ホスファターゼ)、FGF1遺伝子(Fiblobrast growth factor 1)を検討した。β-カテニンは、毛周期の成長期(anagen)を誘導し、ケラチノサイトの増殖を促進することが知られている。ALPLは、毛乳頭細胞における代表的な発毛マーカーである。FGF1は、毛包の形態形成のマーカーである。
【0092】
HFDPCを6ウェルプレートに5×104個/ウェルで播種し、37℃で24時間インキュベートした。続いて、培地を除去して、2.5μM、10μMのメチル化メイジコッセンを含む培地、又は、2.5μM、10μMのC32ボトリオコッセンを含む培地に交換した。また、比較のために、既存の脱毛治療薬であるミノキシジル(0.1μM)を含む培地で処理した細胞も用意した。
【0093】
続いて、48時間後に、細胞を冷PBSで洗浄し、ISOGENキット(ニッポンジーン)を使用して全RNAを抽出した。続いて、NanoDrop 2000分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して全RNAを定量し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。
【0094】
まず、SuperScript III逆転写キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、95℃10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間のサイクリングプロトコールにより、抽出された全RNAからcDNAを合成した。
【0095】
続いて、7500 Fast Real-Time PCRシステム(Software 1.3.1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、及び、CTNNB1、ALPL、FGF1に特異的なTaqManプローブを使用して、リアルタイムPCRを実行した。内因性対照としてGAPDHを使用し、2-ΔΔCt法を適用して、GAPDHと比較して相対的mRNA量を計算した。
【0096】
図9は、CTNNB1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図10はALPL遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図11はFGF1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図9~
図11中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。また、「*」はp<0.05で有意差があることを示し、「**」はp<0.01で有意差があることを示し、「***」はp<0.001で有意差があることを示す。
【0097】
その結果、2.5μM、10μMのメチル化メイジコッセン、及び、2.5μM、10μMのC32ボトリオコッセンで処理することにより、HFDPCにおけるCTNNB1遺伝子、ALPL遺伝子、FGF1遺伝子の発現量が有意に上昇したことが明らかとなった。また、CTNNB1遺伝子、ALPL遺伝子、FGF1遺伝子の発現量の上昇効果は、ポジティブコントロールとして使用した発毛医薬品ミノキシジル0.1μM処理による効果を上回るものであった。
【0098】
この結果は、メチル化メイジコッセン、及び、C32ボトリオコッセンが、発毛促進効果を有することを示す。
【0099】
[実験例3]
(メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる発毛促進効果の検討2)
実験例2よりも低濃度のメチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる発毛促進効果を検討した。
【0100】
まず、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンのHFDPCに対する毒性を評価した。HFDPCを96ウェルプレートに3×105個/ウェルで播種し、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃でインキュベートした。培地として、成長因子(ウシ胎児血清、インスリン、トランスフェリン、トリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、シプロテロン溶液)を添加した毛乳頭細胞成長培地を使用した。
【0101】
24時間後、培地を、0、0.1、0.5、1、2.5、5、10、20、40、80μMのメチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンを含有する培地に交換し、48時間インキュベートした。
【0102】
続いて、MTT試薬(5mg/mL)を細胞に添加し、8時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、一晩インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを使用して、570nmの吸光度を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の吸光度に対する吸光度の割合(%)として定量化した。また、トリパンブルー排除法により、細胞の生存率も測定した。
【0103】
図12はメチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。また、
図13は、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
図12、
図13中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。その結果、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンは、いずれも、ヒト毛乳頭細胞において、80μMの濃度まで、細胞毒性を示さないことが確認された。
【0104】
また、HFDPCは、発毛サイクルと成長期の誘導と持続時間を調節し、細胞の高い増殖率は、毛の成長サイクルの加速と相関している。2.5μMのメチル化メイジコッセン、2.5μM及び80μMのC32ボトリオコッセン処理の結果、HFDPCの有意に高い細胞増殖が認められた。この結果は、これらの化合物が発毛促進効果を有することを更に支持するものである。
【0105】
続いて、HFDPCを、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンで処理した後、定量的リアルタイムPCRにより発毛マーカーの発現を確認した。
【0106】
発毛マーカーとしては、CTNNB1遺伝子(β-カテニン)、ALPL遺伝子(アルカリ性ホスファターゼ)、FGF1遺伝子(Fiblobrast growth factor 1)を検討した。
【0107】
HFDPCを6ウェルプレートに5×104個/ウェルで播種し、37℃で24時間インキュベートした。続いて、培地を除去して、0.1、0.5、1、2.5、10μMのメチル化メイジコッセンを含む培地、又は、0.1、0.5、1、2.5、10μMのC32ボトリオコッセンを含む培地に交換した。また、比較のために、既存の脱毛治療薬であるミノキシジル(0.1μM)を含む培地で処理した細胞も用意した。
【0108】
続いて、48時間後に、細胞を冷PBSで洗浄し、ISOGENキット(ニッポンジーン)を使用して全RNAを抽出した。続いて、NanoDrop 2000分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して全RNAを定量し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。
【0109】
まず、SuperScript III逆転写キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、95℃10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間のサイクリングプロトコールにより、抽出された全RNAからcDNAを合成した。
【0110】
続いて、7500 Fast Real-Time PCRシステム(Software 1.3.1、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、及び、CTNNB1、ALPL、FGF1に特異的なTaqManプローブを使用して、リアルタイムPCRを実行した。内因性対照としてGAPDHを使用し、2-ΔΔCt法を適用して、GAPDHと比較して相対的mRNA量を計算した。
【0111】
図14はCTNNB1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図15はALPL遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図16はFGF1遺伝子の定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図14~
図16中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。また、「*」はp<0.05で有意差があることを示し、「**」はp<0.01で有意差があることを示し、「***」はp<0.001で有意差があることを示す。
【0112】
その結果、0.1、0.5、1、2.5、10μMのメチル化メイジコッセン、及び、0.1、0.5、1、2.5、10μMのC32ボトリオコッセンで処理することにより、HFDPCにおけるCTNNB1遺伝子、ALPL遺伝子、FGF1遺伝子の発現量が有意に上昇したことが明らかとなった。
【0113】
この結果は、メチル化メイジコッセン、及び、C32ボトリオコッセンが、発毛促進効果を有することを更に支持するものである。
【0114】
[実験例4]
(メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる神経保護作用の検討)
インビトロにおけるうつ病モデルの評価系を用いて、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンによる神経保護作用(抗うつ作用、抗ストレス作用)を検討した。より具体的には、ヒト神経芽腫細胞株であるSH-SY5Y細胞を、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンの存在下で、神経毒素であるデキサメタゾン(DEX)処理し、DEXに誘導される神経細胞死が抑制されるか否かを検討した。
【0115】
SH-SY5Y細胞は、DMEMとHam’s F-12 nutrient mixtureを1:1 (v:v)で混合したものに、15%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%非必須アミノ酸を添加した培地を用いて、37℃、5%CO2存在下で培養した。
【0116】
まず、メチル化メイジコッセン及びC32ボトリオコッセンのSH-SY5Y細胞に対する毒性を評価した。SH-SY5Y細胞を96ウェルプレートに2.0×104個/ウェルで播種し、24時間培養した。
【0117】
24時間後、培地を、0、0.1、0.5、1、2.5、5、7.5、10μg/mLのメチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンを含有するOpti-MEM培地に交換し、48時間インキュベートした。
【0118】
続いて、MTT試薬(5mg/mL)を細胞に添加し、24時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、24時間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを使用して、570nmの吸光度を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の吸光度に対する吸光度の割合(%)として定量化した。また、トリパンブルー排除法により、細胞の生存率も測定した。
【0119】
図17は、メチル化メイジコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。また、
図18は、C32ボトリオコッセンの細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
図17、
図18中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。また、「**」はp<0.01で有意差があることを示す。その結果、メチル化メイジコッセンでは、10μg/mLの処理濃度において有意な細胞増殖の減少が認められた。また、C32ボトリオコッセンでは、5、7.5、10μg/mLの処理濃度において有意な細胞増殖の減少が認められた。
【0120】
続いて、メチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセンの存在下で、DEXに誘導される神経細胞死が抑制されるか否かを検討した。SH-SY5Y細胞を96ウェルプレートに2.0×104個/ウェルで播種し、24時間培養した。
【0121】
24時間後、培地を、0、0.5、1、2.5、5、7.5、10μg/mLのメチル化メイジコッセン又はC32ボトリオコッセン、及び、500μMのDEXを含有するOpti-MEM培地に交換し、48時間インキュベートした。
【0122】
続いて、MTT試薬(5mg/mL)を細胞に添加し、24時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、24時間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを使用して、570nmの吸光度を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の吸光度に対する吸光度の割合(%)として定量化した。また、トリパンブルー排除法により、細胞の生存率も測定した。
【0123】
図19は、メチル化メイジコッセンによる神経保護作用を評価した結果を示すグラフである。また、
図20は、C32ボトリオコッセンによる神経保護作用を評価した結果を示すグラフである。
図19、
図20中、グラフの値は平均値±標準偏差を示す(n=3)。また、「**」は対照(メチル化メイジコッセン、C32ボトリオコッセン、DEXをいずれも添加していない細胞)と比較してp<0.01で有意差があることを示し、「##」は、DEXのみを添加した細胞と比較してp<0.01で有意差があることを示す。
【0124】
その結果、メチル化メイジコッセンでは、1、2.5、5、7.5μg/mLの処理濃度において、DEX処理細胞と比較して有意な細胞増殖の増加が認められ、7.5μg/mLの処理濃度で最も効果が高かった。この結果は、メチル化メイジコッセンに神経保護作用があることを示す。
【0125】
また、C32ボトリオコッセンでは、1、2.5、5μg/mLの処理濃度において、DEX処理細胞と比較して有意な細胞増殖の増加が認められ、1μg/mLの処理濃度で最も効果が高かった。この結果は、C32ボトリオコッセンに神経保護作用があることを示す。