(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132254
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】研磨装置、研磨パッド及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/00 20120101AFI20230914BHJP
B24B 23/02 20060101ALI20230914BHJP
B24B 37/22 20120101ALI20230914BHJP
B24B 57/02 20060101ALI20230914BHJP
B24B 37/26 20120101ALI20230914BHJP
【FI】
B24B37/00 K
B24B23/02
B24B37/22
B24B57/02
B24B37/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037475
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友一
【テーマコード(参考)】
3C047
3C158
【Fターム(参考)】
3C047FF08
3C047GG03
3C158AA07
3C158AC04
3C158CA03
3C158CB03
3C158EA11
3C158EA28
3C158EB05
3C158EB22
(57)【要約】
【課題】研磨対象物の被研磨面と研磨パッドとの界面へスラリーを容易に供給することが可能な研磨装置、研磨パッド及び研磨方法を提供する。
【解決手段】研磨装置は、研磨面と、研磨面に対する交差方向である厚さ方向において研磨面の反対側の面である支持面とを有し、研磨面及び支持面を貫通する貫通孔が設けられた研磨パッドと、研磨パッドに取り付けられ、砥粒を含むスラリーを研磨面へ供給するノズルを有する供給治具と、を備える。ノズルは、貫通孔内に配置される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面と、前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面とを有し、前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔が設けられた研磨パッドと、
前記研磨パッドに取り付けられ、砥粒を含むスラリーを前記研磨面へ供給するノズルを有する供給治具と、を備え、
前記ノズルは、前記貫通孔内に配置される、研磨装置。
【請求項2】
前記研磨パッドを研磨対象物に押圧しない状態で、
前記支持面から前記ノズルの先端までの長さは、前記支持面から前記研磨面までの長さの30%以上70%以下である、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記ノズルの外径は、前記貫通孔の内径よりも小さい、請求項1または2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記研磨パッドは、
前記研磨面を有する硬質層と、
前記硬質層よりも柔らかく、前記硬質層の前記研磨面とは反対側の面に積層される軟質層と、を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記支持面に前記供給治具を固定する固定部材をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記貫通孔の直径は、前記研磨面の直径に対して0.9倍以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項7】
前記研磨パッドを被研磨対象に対して予め設定された座標に従って移動させることにより、前記被研磨対象の研磨を行う、請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項8】
砥粒を含むスラリーを供給するノズルを含む供給治具が取り付けられる研磨パッドであって、
研磨面と、
前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面と、
前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔と、を備え、
前記供給治具が取り付けられた状態で、前記貫通孔内に前記ノズルが位置する、研磨パッド。
【請求項9】
研磨パッドと、砥粒を含むスラリーを供給する供給治具と、を備えた研磨装置によって研磨対象物を研磨する研磨方法であって、
前記研磨パッドは、研磨面と、前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面と、前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔と、を含み、
前記供給治具は、前記研磨パッドに取り付けられた状態で前記貫通孔内に位置するノズルを含み、
前記ノズルより前記研磨面と前記研磨対象物との間へスラリーを供給しつつ前記研磨対象物の研磨を行う、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置、研磨パッド及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の車体や、車両用灯具(ヘッドランプ、ブレーキランプ等)のレンズやカバーは、複雑な3次元形状を有しており、意匠性の向上などの目的でその表面を滑らかに研磨する場合がある。この場合、砥粒を含む研磨スラリーを用いて、研磨対象物である車体の被研磨面を研磨する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨対象物の被研磨面が、曲面や、水平面に対して傾きを有する傾斜面である場合、研磨パッドの研磨面と研磨対象物の被研磨面との間(以下、「研磨界面」ともいう)にスラリーを供給することが難しい場合がある。研磨界面へのスラリーの供給が足りないと、研磨レートの低下や、被研磨面の表面粗さを十分に低減できないなど、研磨性能が低下する可能性がある。
【0005】
そこで、この発明は、従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、研磨対象物の被研磨面と研磨パッドとの界面へスラリーを容易に供給することが可能な研磨装置、研磨パッド及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る研磨装置は、研磨面と、前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面とを有し、前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔が設けられた研磨パッドと、前記研磨パッドに取り付けられ、砥粒を含むスラリーを前記研磨面へ供給するノズルを有する供給治具と、を備え、前記ノズルは、前記貫通孔内に配置される。
【0007】
本発明の一態様に係る研磨パッドは、砥粒を含むスラリーを供給するノズルを含む供給治具が取り付けられる研磨パッドであって、研磨面と、前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面と、前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔と、を備え、前記供給治具が取り付けられた状態で、前記貫通孔内に前記ノズルが位置する。
【0008】
本発明の一態様に係る研磨方法は、研磨パッドと、砥粒を含むスラリーを供給する供給治具と、を備えた研磨装置によって研磨対象物を研磨する研磨方法であって、前記研磨パッドは、研磨面と、前記研磨面に対する交差方向である厚さ方向において前記研磨面の反対側の面である支持面と、前記研磨面及び前記支持面を貫通する貫通孔と、を含み、前記供給治具は、前記研磨パッドに取り付けられた状態で前記貫通孔内に位置するノズルを含み、前記ノズルより前記研磨面と前記研磨対象物との間へスラリーを供給しつつ前記研磨対象物の研磨を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、研磨対象物の被研磨面と研磨パッドとの界面へスラリーを容易に供給することが可能な研磨装置、研磨パッド及び研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る研磨装置の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る研磨装置の構成例を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る研磨装置の構成例を示す底面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る研磨装置の構成例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る研磨パッドの構成例を示す平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る研磨パッドの構成例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る研磨パッドの変形例を示す底面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具の構成例を示す平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具の構成例を示す底面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具の構成例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る研磨装置の動作例を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る研磨装置の具体例1を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る研磨装置の具体例2を示す図である。
【
図15】
図15は、研磨対象物の被研磨面を水平面に対して傾けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0012】
<研磨装置>
図1は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の構成例を示す平面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の構成例を示す側面図である。
図3は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の構成例を示す底面図である。
図4は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の構成例を示す断面図である。
図4は、
図1をA-A´線で切断した断面を示している。
図1から
図4に示すように、本発明の実施形態に係る研磨装置100は、研磨パッド10と、研磨パッド10にスラリーを供給するスラリー供給治具20(本発明の「供給治具」の一例)と、研磨パッド10にスラリー供給治具20を取り付ける固定部材としての面ファスナー30と、スラリー供給治具20を介して研磨パッド10をポリッシャー50(後述の
図12参照)に取り付ける研磨パッド取り付け部40と、を備える。
【0013】
(研磨パッド)
図5は、本発明の実施形態に係る研磨パッド10の構成例を示す平面図である。
図6は、本発明の実施形態に係る研磨パッド10の構成例を示す断面図である。
図2から
図6に示すように、研磨パッド10は、研磨面10bと、研磨面10bに対する交差方向である厚さ方向において研磨面10bの反対側の面である支持面10aとを有し、研磨面10b及び支持面10aを貫通する貫通孔H1が設けられている。貫通孔H1の内径(直径)d1は、支持面10aから研磨面10bに至る間において、一定またはほぼ一定である。貫通孔H1の内径(直径)d1は、研磨面11bの直径に対して0.9倍以下である。
また、研磨パッド10は、硬質層11と、硬質層11よりも柔らかく、硬質層11の研磨面10bとは反対側の面に積層される軟質層12とを含む。研磨パッド10の形状は、硬質層11の側及び軟質層12の側からみて、それぞれ円形である。
【0014】
(1)硬質層
硬質層11は、疎密構造を有し、研磨面10b側において疎部の面積率が52%以上96%以下であるシート素材で構成されてもよく、疎部の面積率が54%以上96%以下であるシート素材で構成されていれば好ましく、60%以上96%以下であるシート素材で構成されていればより好ましい。このような範囲であれば、研磨パッド10の研磨面10bと研磨対象物の被研磨面との界面(すなわち、研磨界面)へのスラリーの保持力が向上し、十分な研磨速度を得ることが可能である。
なお、研磨パッド10は単独層で構成されていてもよい。研磨パッド10が単独層の場合でも、疎密構造を有していてよい。
【0015】
なお、硬質層11において、疎部の面積率が52%未満では、研磨界面におけるスラリーの保持力が低下し、研磨性能が低下する傾向がある。疎部の面積率の調整方法は、特に限定されるものではない。例えば、硬質層11が不織布シートの場合、繊維の太さ、繊維の含有量、樹脂で含浸させる場合の樹脂の量、表面のパターニング等によって疎部の面積率を調整してもよい。硬質層11が細長い材料を交差するように並べた構造であるメッシュ構造の場合、構造材の直径、構造の間隔、積層条件等により疎部の面積率を調整してもよい。硬質層11が発泡剤等を用いて内部に空隙を発生させる発泡構造体の場合、発泡剤の種類、量等によって疎部の面積率を調整してもよい。硬質層11が湿式製膜方法により形成されるスウェードの場合、製膜条件、バフィング条件によって疎部の面積率を調整してもよい。
【0016】
上記「疎部」とは、研磨パッド10の最表面から深さ0.1mmの範囲内に研磨パッド10を構成する繊維等が存在していない部分である。換言すると、研磨面10bを有する層は、その最表面から厚さ0.1mmの範囲内における空隙部の面積の割合が52%以上96%以下であってもよい。ここで、上記「面積」とは、研磨面10bを有する層を厚さ方向に見た場合の面積をいう。
【0017】
硬質層11の硬度は、JIS K 6253に準ずる方法で測定されたA硬度で70以上であればよく、80以上であることがより好ましい。このような範囲であれば、研磨パッド10による研磨対象物(例えば、樹脂塗装面)の曲面の研磨が、樹脂塗装面の微細な凹凸形状にまで追従するならい研磨になりにくくなり、樹脂塗装面の表面のうねりを取り除くことが可能になる。本明細書において、曲面とは、平坦な面だけで構成されていない面をいう。なお、硬質層11のA硬度が70未満では、硬質層11のうねり解消性が低下し良好な表面仕上げとならない傾向がある。また、JIS K 6253に準ずる方法で測定されるA硬度の最大値は、100である。
なお、A硬度は、硬質層11が不織布シートの場合、繊維の材質、繊維の太さ、繊維の含有量、含浸される樹脂の量、含浸される樹脂の硬さ等によって調整することができる。
【0018】
硬質層11の材質は特に限定されず、研磨面10bの疎部の面積率が52%以上96%以下であり、且つA硬度70以上を有する材質であってもよい。硬質層11としては、例えば、ポリウレタンタイプ、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の材質の違いの他、その硬度や厚みなどの物性の違い、さらに砥粒を含むもの、砥粒を含まないものなど種々あるが、これらを制限なく使用することができる。特に、硬質層11の材質は、例えば、不織布であってもよく、樹脂繊維を含むシート状物が好ましい。換言すると、研磨面の密の部分は繊維と樹脂を含む材質で構成されていてもよい。
【0019】
また、硬質層11の材質は、合成樹脂を含んだ材質であってもよい。硬質層11に含まれる合成樹脂は、例えば、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、又はポリエチレン樹脂の少なくとも1種を含有する素材で構成されていてもよい。上記の材質であれば、研磨対象物の被研磨面に対し、深いキズ(スクラッチ)が発生することを抑制できる。硬質層11の樹脂繊維の具体例としては、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂が好ましく、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましい。また、硬質層11の合成樹脂の硬化は、硬化剤により行ってもよいし、熱により行ってもよい。
【0020】
硬質層11の厚さは、特に限定されるものではないが0.05cm以上であることが好ましい。また、0.5cm以下であることが好ましい。硬質層11の厚さはこのような範囲であれば、研磨面10bが研磨対象物(例えば、樹脂塗装面)の曲面に押し当てられた場合に硬質層11が樹脂塗装面の曲面に沿って撓みやすくなり、研磨対象物の曲面に対する研磨面10bの追従性が向上する傾向がある。このため、研磨対象物の表面形状のうねり成分を取り除くことができ、且つ研磨面10bの径方向全域が曲面に接触し易くなり研磨性能が向上する傾向がある。
【0021】
図7は、本発明の実施形態に係る研磨パッド10の変形例を示す底面図である。
図7に示すように、研磨パッド10は、硬質層11が有する研磨面10bに凹凸(例えば、溝部111)を有してもよい。溝部111により、スラリーが研磨面10bの全域に行き渡りやすくなり、また研磨面10bが研磨対象物に追従しやすくなる。
【0022】
(2)軟質層
軟質層12は、硬質層11の研磨面10bとは反対側の面に硬質層11を支持するように設けられた層である。硬質層11において軟質層12と向かい合う面の反対側の面が、研磨面10bである。また、軟質層12において硬質層11と向かい合う面の反対側の面が、支持面10aである。軟質層12は、弾性体であってもよく、樹脂製の弾性体であることが好ましい。
【0023】
軟質層12の硬度は、JIS K 6253に準ずる方法で測定されたA硬度で60未満であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。つまり、軟質層12のA硬度は、硬質層11のA硬度よりも低い。このような範囲であれば、研磨面10bが研磨対象物(例えば、樹脂塗装面)の曲面に押し当てられた場合に、軟質層12が歪みやすくなる。この結果、硬質層11が樹脂塗装面の曲面に沿って撓みやすくなり、研磨対象物の曲面に対する研磨面10bの追従性が向上する傾向がある。その結果、研磨面10bの径方向全域が曲面に接触し易くなり研磨性能が向上しやすくなる。
【0024】
軟質層12の厚さは、特に限定されるものではないが0.50cm以上であることが好ましい。また、軟質層12の厚さは、5.0cm以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨面10bが研磨対象物(例えば、樹脂塗装面)の曲面に押し当てられた場合に、軟質層12の歪み量と硬質層11の撓み量を確保することができる。
軟質層12の材質は、特に限定されないが、上記の硬度を有する材質を用いることができる。軟質層12の材質は、例えば、ポリウレタン発泡体又はポリエチレン発泡体等の樹脂発泡体であってもよい。
【0025】
(3)サイズ等
研磨パッド10の研磨面10bの直径は、例えば10mm以上100mm以下であり、好ましくは、20mm以上75mm以下であり、より好ましくは、30mm以上50mm以下である。本発明者の知見によれば、研磨面10bの直径が100mmを超えると、研磨面10bに対してスラリーが行き渡りにくくなる(ただし、本発明の実施形態において、研磨面10bの直径は100mm以下に限定されるものではない。)。
【0026】
また、
図3及び
図5に示すように、 貫通孔H1は、円形である研磨パッド10の中心部に設けられている。貫通孔H1の内径dは、研磨パッド10の研磨面10bの直径に対して、0.5倍未満であることが好ましく、0.4倍以下であることがより好ましく、0.25倍以下であることがさらに好ましい。貫通孔H1の内径d1は、例えば1mm以上25mm以下である。一例を挙げると、研磨面10bの直径が30mmもしくは50mmの場合に、貫通孔H1の内径d1は8mmである。
【0027】
(スラリー供給治具)
図8は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具20の構成例を示す平面図である。
図9は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具20の構成例を示す底面図である。
図10は、本発明の実施形態に係るスラリー供給治具20の構成例を示す断面図である。
図10は、
図8をC-C´線で切断した断面を示している。
図8から
図10に示すように、スラリー供給治具20は、研磨パッド10の支持面10a(
図4参照)に取り付けられる治具本体21と、研磨パッド10の貫通孔H1(
図4参照)内に配置されるノズル22と、を有する。
【0028】
治具本体21において、研磨パッド10(
図5から
図7参照)に取り付けられる被取り付け面の形状は、
図9に示すように、例えば円形であり、その外径は研磨パッド10の径と同じ大きさである。これにより、例えば
図2、
図4に示したように、研磨装置100の外周側面において、研磨パッド10と治具本体21との間に段差が生じないように設計されている。
図10に示すように、治具本体21は、スラリー供給治具20の外部(例えば、
図2に示した研磨パッド取り付け部40)からスラリーが供給される供給口211と、治具本体21の内部に設けられ、供給口211とノズル22とを連通する流動路212と、を有する。流動路212内において、スラリーは供給口211からノズル22へ流動する。
【0029】
供給口211の内径d12は、ノズル22内の貫通孔H2の内径d11よりも大きい。また、流動路212の内径d13は、供給口211からノズル22に向けて徐々に小さくなっている。すなわち、流動路212は、供給口211からノズル22に向けて徐々に窄まる形状を有する。これにより、スラリーは、供給口211からノズル22に向けて、流動することが容易となっている。
【0030】
また、
図4に示したように、ノズル22の先端221は、研磨パッド10に設けられた貫通孔H1の内部に位置する。研磨パッド10を研磨対象物に押圧しない状態で、研磨パッド10の支持面10aからノズル22の先端221までの長さL1は、支持面10aから研磨面10bまでの長さL2の70%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下である。これにより、研磨対象物を研磨するために予め設定された押圧力で研磨パッド10を研磨対象物に押圧している状態においても、ノズル22の先端221が研磨対象物の被研磨面に接触することを抑制することができる。ノズル22の先端221が被研磨面を傷つけることを抑制することができる。
【0031】
また、ノズル22の先端221から研磨面10bまでの距離が離れ過ぎていると、ノズルの先端221から出たスラリーが研磨パッド10に染み込み、染み込んだスラリーがパッド径方向に飛散して研磨に使用されず利用効率が低下する。この観点から、研磨パッド10を研磨対象物に押圧しない状態で、研磨パッド10の支持面10aからノズル22の先端221までの長さL1は、支持面10aから研磨面10bまでの長さL2の30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。これにより、ノズル22の先端221から研磨対象物の被研磨面へスラリーを供給しやすくなり、スラリー利用効率を向上でき、ひいては研磨速度の向上に寄与する。このように、長さL1は、長さL2に対して、30%以上70%以下の範囲とすることができ、40%以上60%以下とすることが好ましい。一例として、長さL1は、長さL2に対して50%である。
長さL2に対する長さL1を上記の範囲とすることで、研磨の際に研磨パッド10の移動を、後述の制御部によって予め設定された座標に従って制御する場合でも、ノズル22を被研磨面に接触させず、且つスラリーを安定的に供給することが可能になる。
【0032】
また、ノズル22の外径d2(
図10参照)は、研磨パッド10に設けられた貫通孔H1の内径d1(
図6参照)よりも小さいことが好ましい。これにより、
図4に示すように、ノズル22と貫通孔H1の内壁との間に隙間Sを確保することができる。ノズル22の外形d2は、貫通孔H1の内径d1に対して、0.9倍以下であることが好ましく、0.8倍以下であることがさらに好ましい。研磨パッド10を研磨対象物に押圧した際に、研磨パッド10が径方向に変形した場合でも、ノズル22と貫通孔H1の壁面とが径方向に接触することを抑制できる。すなわち、研磨パッド10がノズル22に接触することによりダメージを受けることを抑制できる。
【0033】
他方、ノズル22の外形d2が小さ過ぎてスラリー供給量が不足することを抑制する観点から、ノズル22の外形d2は、貫通孔H1の内径d1に対して、0.5倍以上であることが好ましく、0.6倍以上であることがさらに好ましい。これにより、十分なスラリー供給量が維持され、研磨面全域にスラリー供給することができる。ノズル22の外径d2は、例えば1mm以上25mm以下であり、好ましくは4mm以上15mm以下である。一例を挙げると、貫通孔H1の内径d1が8mmの場合に、ノズル22の外形d2は7mmである。
スラリー供給治具20の材質は、研磨パッド10に加工圧を十分に伝えるために研磨パッド10の材質より硬い材質で、かつ、スラリーに対する耐腐食性を有する材質で構成されている。この種の材質として、例えば、樹脂、ステンレス鋼、セラミック、繊維強化樹脂、複合材等が挙げられる。
【0034】
(面ファスナー)
面ファスナー30は、研磨パッド10の支持面10aとスラリー供給治具20の治具本体21との間に配置されており、スラリー供給治具20を研磨パッド10の支持面に固定する固定部材である。面ファスナー30を用いることにより、研磨パッド10に対するスラリー供給治具20の固定を着脱可能とすることができ、研磨パッド10が消耗した場合でも、消耗した研磨パッド10からスラリー供給治具20を取り外して新しい研磨パッド10に取り付けることが容易となる。スラリー供給治具20は、繰り返し使用できる。
【0035】
面ファスナー20において、互いに貼り付く一対のうち一方が研磨パッド10側に、他方がスラリー供給治具20側に、それぞれ両面テープなどで固定されている。また、面ファスナー中心部には、ノズル22を通すための孔が設けられている。この孔の直径は、例えばノズルの外径d2以上の大きさであり、例えば、研磨パッド10に設けられた貫通孔H1の内径d1(
図6参照)と同じ大きさである。
なお、スラリー供給治具20を研磨パッド10の支持面10aに固定する固定部材は面ファスナー30に限定されず、例えば、両面接着テープ、接着剤等であってもよい。
【0036】
(研磨パッド取り付け部)
研磨パッド取り付け部40は、スラリー供給治具20の治具本体21を挟んで研磨パッド10と向かい合う側に配置されている。スラリー供給治具20は、例えばネジ(図示せず)を用いて、研磨パッド取り付け部40に固定されている。
研磨パッド取り付け部40の材質は研磨パッドに加工圧を十分に伝えるために研磨パッドの材質より硬い材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、樹脂、金属、セラミック、繊維強化樹脂、複合材等を使用することができる。繊維強化樹脂としては、例えば、炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維強化樹脂が挙げられる。繊維強化樹脂に使用される樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。また、複合材としては、例えば、意図的に無機粒子を含有した金属等の2種類以上の材質を組み合わせた複合材などが挙げられる。
【0037】
また、研磨パッド取り付け部40には、貫通孔H3が設けられている。貫通孔H3の底部にスラリー供給治具20の供給口211が位置し、貫通孔H3と供給口211とが連通している。スラリーは、研磨パッド取り付け部40の貫通孔H3を通して、スラリー供給治具20の供給口211に供給される。
なお、上記では、研磨パッド取り付け部40に対するスラリー供給治具20の取り付けをネジで行うことを説明したが、本実施形態において、この取り付けの方法はネジによる固定に限定されない。例えば、研磨パッド取り付け部40の貫通孔H3の内壁にタップが切ってあり、そこに治具本体21のねじ山が螺合していてもよい。タップとネジ山が螺合することにより、スラリー供給治具20が研磨パッド取り付け部40に固定されていてもよい。
【0038】
(スラリー)
スラリーは、砥粒と、分散媒と、pH調整剤、界面活性剤、及び水溶性高分子から選ばれる少なくとも一種の添加剤と、を含むことが好ましい。分散媒は例えば水であり、スラリーの粘性は低い。このため、スラリーは液だれしやすく、研磨対象物が3次元構造だと研磨したい部分にスラリーは留まりにくい。しかしながら、本発明の実施形態に係る研磨装置100では、研磨パッド10の中心からスラリーを供給するので、3次元構造の研磨対象物においても研磨したい部分に効率よくスラリーを供給することができる。
【0039】
(動作例)
図11は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の動作例を示す図である。
図11に示すように、研磨装置100が動作する際に、スラリー供給治具20は、面ファスナー30を介して研磨パッド10に予め取り付けられており、スラリー供給治具20のノズル22は研磨パッド10の貫通孔H1内に位置する。この状態で、研磨パッド10、スラリー供給治具20、面ファスナー30及び研磨パッド取り付け部40は、研磨パッド10の中心(例えば、
図5に示した円の中心)を通る軸ax回りに、一体となって回転する。この回転は、研磨パッド取り付け部40に接続するポリッシャーや研磨ロボット(後述する)が行う。
【0040】
研磨パッド取り付け部40の貫通孔H3にスラリーが供給される。貫通孔H3に供給されたスラリーは、スラリー供給治具20の治具本体21とノズル22とを通って、貫通孔H1内から研磨面10bに向かって供給される。この状態で、研磨パッド10の研磨面10bを研磨対象物の被研磨面に押し当てると、研磨面10bと被研磨面との間(すなわち、研磨界面)にスラリーが供給される。スラリーを供給した状態で、回転する研磨パッド10を被研磨面に押し当てることによって被研磨面が研磨される。
ノズル22の先端221は面ファスナー30を貫通して軟質層12内に位置する。これにより、研磨パッド10が回転しているときに、遠心力によって、スラリーが面ファスナー30に沿って径方向(径方向外側)に流出することを防ぐことができる。
【0041】
ノズル22の先端221から吐出したスラリーは、主に以下の経路で研磨界面に供給される。経路Rt1は、貫通孔H1を通って研磨パッド10の研磨面10bに到達し、研磨界面に供給される経路である。経路Rt1を通して、研磨界面にスラリーを効率良く供給することができる。なお、研磨界面へのスラリーの供給量は、例えば外部から研磨装置100へのスラリー供給圧力やノズル22の内径d11に関係する。スラリー供給圧力が大きい方がスラリーの供給量は増える。ノズル22の内径d11が大きい方がスラリー供給量は増える。また、供給量が同じである場合、ノズル22の内径d11が小さいとスラリー供給圧力が高くなり、ノズル22から吐出するスラリーの流速は早くなる。本発明の実施形態では、スラリー供給圧力やノズル22の内径d11を調整することで、スラリーの単位時間あたりの供給量を所望の値に合わせ込むことができる。
【0042】
本発明の実施形態において、研磨対象物の被研磨面は平面でもよいし、後述の
図14に示すように、曲面でもよい。また、後述の
図15に示すように、研磨対象物の被研磨面は水平面に対して傾きを有してもよい。研磨装置100は、水平面に対して傾いている被研磨面(すなわち、傾斜面)を研磨してもよい。ここで、水平面とは、鉛直方向(すなわち、重力方向)と直交する面を意味する。このような場合でも、ノズル22の先端221から吐出されたスラリーは、上記経路Rt1を通るため、研磨界面にスラリーを効率良く供給することができる。
【0043】
(研磨装置の具体例)
上記の研磨装置100は、研磨ロボット又は手動用のポリッシャー等取り付けられて研磨対象の研磨に適用される。研磨装置の具体例として、手動用のポリッシャーに適用される場合と、研磨ロボットに適用される場合とをそれぞれ示す。
【0044】
(具体例1)
図12は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の具体例1を示す図である。
図12に示すように、研磨装置100は、研磨パッド取り付け部40を回転可能に支持する手動用のポリッシャー50を備える。ポリッシャー50には、作業者が手で掴むためのハンド部60、70が設けられている。なお、
図12では、面ファスナー30(
図2参照)の図示を省略している。
【0045】
(具体例2)
図13は、本発明の実施形態に係る研磨装置100の具体例2を示す図である。
図13に示すように、研磨装置100は、研磨パッド取り付け部40を回転可能に支持する研磨ロボット311を備える。
図13では、研磨ロボット311の一例として6軸多関節ロボットの構成を示す。なお、本発明の実施形態で使用される研磨ロボットは6軸多関節ロボットに限定されるものではない。
【0046】
研磨ロボット311は、ベース部312、下腕部314、上腕部316、及び手首部318を有する。ベース部312は、例えば円盤形状を有する。ベース部312と下腕部314との間には、S軸モータ313SとL軸モータ313Lとが設けられている。S軸モータ313Sは、ベース部312に対して垂直方向に回転軸(S軸313Sa)を有し、ベース部312より上方を旋回させる。L軸モータ313Lは、S軸モータ313Sの回転軸と直交する方向に回転軸(L軸313La)を有し、ベース部312に対して下腕部314を前後に傾斜させる。
【0047】
また、下腕部314と上腕部316との間には、U軸モータ315UとR軸モータ315Rとが設けられている。U軸モータ315Uは、L軸モータ313Lの回転軸と平行な方向に回転軸(U軸315Ua)を有し、下腕部314に対して上腕部316を旋回させる。R軸モータ315Rは、U軸モータ315Uの回転軸に対して垂直方向に回転軸(R軸315Ra)を有し、上腕部316を下腕部314に対して回転させる。
【0048】
また、上腕部316と手首部318との間には、B軸モータ317Bが設けられている。B軸モータ317Bは、R軸モータ315Rの回転軸と直交する方向に回転軸(B軸317Ba)を有し、上腕部316に対して手首部318を旋回させる。さらに、手首部318には、T軸モータ317Tが設けられている。T軸モータ317Tは、B軸モータ317Bの回転軸と直交する方向に回転軸(T軸317Ta)を有し、手首部318よりも先を回転させる。
【0049】
研磨ロボット311は、これら6つの回転軸モータを有するので、先端の手首部318は、如何なる3次元曲面の表面をもトレースすることができる。なお、ここで3次元曲面とは、平坦な面だけで構成されていない面をいう。
手首部318には、T軸モータ317Tを介して圧力制御部320が設けられ、圧力制御部320にはポリッシャー330が設置されている。
【0050】
圧力制御部320は箱形であり、圧力を認識する機構と、圧力を調整するための加圧力を指示する機構とを備えている。ここで、圧力制御部320の圧力を作用させる方向を圧力制御部中心軸320cとする。ポリッシャー330を研磨ロボット311に取り付けると、圧力制御部中心軸320cは、手首部318のT軸317Taに対して垂直に配置されるようになっている。
圧力制御部320に備わる圧力認識機構は、例えば力覚センサやロードセルを用いても良い。また、例えば協働ロボットのようにロボット本体と一体型であっても良い。
圧力制御部320に備わる加圧力指示機構は、例えばエアーでの加圧やサーボモータでの加圧であっても良い。また、例えば協働ロボットのようにロボット本体と一体型であっても良い。なお、加圧力の制御指令値は、力の値(ニュートン;N)で指令される場合もある。
【0051】
圧力制御部320によって制御する加工圧は1000N/m2以上6000N/m2以下になるように構成されていればよく、2500N/m2以上6000N/m2以下で構成されているとより好ましい。このような範囲の加工圧で研磨すれば、後述する研磨対象物のゆず肌除去性を効率よく研磨することが可能となる。なお、1000N/m2未満の場合は研磨対象物のゆず肌除去の効率性が低下し、6000N/m2を超えると配置するポリッシャー330の破損に影響する傾向がある。
圧力制御部320によって制御する指令に対する加工圧のばらつきは±20%以内となるようにすることが好ましく、±10%以内であるとより好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨能率における面内のばらつきが抑制され、手研磨に対して均一に研磨を実施することが可能となる。
【0052】
ポリッシャー330は、一般的に手研磨で使用する電動シングルアクションポリッシャーである。ポリッシャー330の回転軸は、圧力制御部中心軸320cと一致するように、又は並行となるように配置されている。
本発明の実施形態に係るポリッシャー330は、例えば圧力制御部320に対して双極に設置しても良い。
本発明の実施形態に係るポリッシャー330は、シングル回転の電動ポリッシャーが好ましく、例えば電動駆動、エアー駆動、ギア駆動で構成されていてもよく、又、例えばシングル回転、ダブルアクション回転で構成されていてもよい。
【0053】
ロボット制御部360は、研磨ロボット311の各軸モータの駆動部に接続されている。また、圧力制御部320、ポリッシャー330、パッドドレッサーなどのパッド洗浄装置365、図示しない研磨材供給装置、パッド交換装置といった機器にも接続されている。そして、圧力制御部320で感知する圧力が一定となるように、ロボット制御部360は圧力制御部320、ポリッシャー330の駆動を制御する。また、ロボット制御部360の図示しないメモリには、被研磨物の研磨予定面の空間データが蓄積される。空間データには、研磨予定面内にある点の座標が含まれる。そして、研磨材供給装置からは、研磨パッドと研磨対象物との間に研磨用組成物が供給され、研磨対象物が研磨される。
【0054】
ロボット制御部360に接続される上記の研磨材供給装置、パッド交換装置、パッド洗浄装置365といった機器は、研磨作業の前後もしくは途中で動作することで、研磨に関する工程を自動で実施することもできる。例えば、パッド洗浄装置365を一定の間隔毎(時間毎や加工バッチ数毎など)に動作させ、パッドの目詰まりを防止させることができる。パッド洗浄装置365は、例えば、ブラシを有し、研磨パッドの研磨面にブラシをかけることによって、研磨面に形成された溝や研磨面を構成する不織布等に詰まった、研磨により生じた部材等を除去する。
【0055】
図13に例示されるロボット研磨では、研磨ロボット311が、研磨パッド10を被研磨対象に対して予め設定された座標に従って移動させることにより、被研磨対象の研磨を行う。作業者が磨き状態を確認できる手研磨に比べて、ロボット研磨は磨き残しが発生しやすい。しかし、本発明の実施形態によれば、研磨パッド10の中心から被研磨面の全域にスラリーを行き渡らせることができるので、手研磨のみならず、ロボット研磨においても、磨き残しの発生を抑制できる。また、磨き残し抑制のために過剰にスラリーを供給する必要がないので、スラリーの供給量を抑制することができる。これにより、研磨にかかるコストの増大を抑制することが可能である。
【実施例0056】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
<研磨条件>
(実施例1)
図14は、研磨対象物200の構成例を示す模式図である。
図14に示すように、研磨対象物200の被研磨面200aは、凹状に湾曲した曲面である。研磨対象物200の平面視による大きさは、縦50mm、横50mmである。
図15は、研磨対象物200の被研磨面200aを水平面に対して傾けた状態を示す図である。
図15に示すように、実施例1では、水平面に対して被研磨面200aを角度θだけ傾けた状態で研磨を行った。角度θは30°とし、研磨パッド10の研磨面10bを研磨対象物200の被研磨面200aに接触させ、そこから3mm押し込み、研磨パッドを1500rpm(回転/分)の回転速度で回転させた。
【0057】
なお、研磨パッド10には、研磨面10bの形状と大きさが正円形で直径50mmであり、研磨面10bの中心部に開口する貫通孔H1(
図3参照)の形状と大きさが正円形で直径が8mmであるものを使用した。研磨パッド10において、研磨パッド10を研磨対象物に押圧しない状態で、支持面10aから研磨面10bまでの長さL2(すなわち研磨パッド10の厚さ)は20mmであった。この研磨パッド10の支持面10aに、面ファスナー30(
図2参照)を介してスラリー供給治具20(
図2参照)を固定し、スラリー供給治具20を通して研磨面10bにスラリーを供給した。研磨パッド10の支持面10aからノズル22の先端221までの長さL1は、10mmとした。また、スラリー供給治具20のノズル22の外径d2は、7mmとした。スラリー供給量は、25ml/minとした。スラリーとして、平均粒子径が1.3μmのアルミナを含むスラリー(POLIPLA700:株式会社フジミインコーポレーテッド社製)を用いた。
【0058】
(実施例2)
スラリー中のアルミナの平均粒子径を0.8μmとした以外は、実施例1と同様の条件で、研磨対象物200の被研磨面200aを研磨した。
【0059】
(実施例3)
研磨パッド10の支持面10aからノズル22の先端221までの長さL1を5mmとした以外は、実施例1と同様の条件で、研磨対象物200の被研磨面200aを研磨した。
【0060】
(比較例1)
スラリー供給用治具を用いず、研磨パッドの外部から研磨対象物の被研磨面にスラリーを滴下供給した。これ以外は、実施例1と同様の条件で、研磨対象物200の被研磨面200aを研磨した。
【0061】
<評価結果>
(研磨レート、表面粗さ)
本発明の実施例1、2、3と、比較例1とについて、被研磨面200aの研磨レートと表面粗さ(Ra)とを測定した結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1の実施例1、3と比較例1とを比較して分かるように、同一種類のスラリーを用いた場合、実施例1、3は、比較例1と比べて、研磨レートが高く、被研磨面200aの研磨後の表面粗さが小さかった。比較例1においては研磨パッド10の径方向外部へのスラリーの流出が多く、被研磨面200aと研磨パッド10との界面へ供給されるスラリー量が少なくなった。そのため、比較例1においてはスラリーの利用効率が低く、結果として研磨レートが低下した。実施例3では、比較例1と比べて径方向へのスラリーの飛散が少なく、実施例1では、さらにスラリーの飛散が少なかった。したがって、実施例1、3では比較例1よりもスラリーの利用効率が向上し、研磨レートが向上し、研磨後の表面粗さが低下した。
【0064】
また、実施例1、2を比較して分かるように、スラリーの種類を選択することによって、研磨レートを調整できることが確認された。実施例1と同様に実施例2も、被研磨面200aの研磨後の表面粗さが小さかった。表面粗さが小さいほど、被研磨面を鏡面化することができる。
【0065】
以上から、実施例1、2、3は、被研磨面200aと研磨パッド10との界面へスラリーを容易に供給することができ、被研磨面200aの表面粗さを小さくすることができ、研磨性能が高いことが確認された。