(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132266
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】酸化物単結晶の育成装置と酸化物単結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/10 20060101AFI20230914BHJP
C30B 29/28 20060101ALI20230914BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/28
C30B29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037490
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】高塚 裕二
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC21
4G077BC32
4G077BC37
4G077CF10
4G077EG01
4G077EG15
4G077EG18
4G077PD01
4G077PD03
4G077PD11
4G077PE02
4G077PE04
4G077PE12
4G077PE14
(57)【要約】
【課題】原料融液の貯留保持手段として原料融液と同材質の酸化物坩堝を用いた酸化物単結晶の育成装置と育成方法を提供する。
【解決手段】酸化物結晶材料で構成され原料融液10を貯留保持可能な酸化物坩堝1と、酸化物坩堝の側壁周囲に設けられる高周波誘導コイル2と、酸化物坩堝内に組み込まれ上記コイルにより誘導加熱されると共に酸化物坩堝上方の固定手段により上端部3bが保持されかつ下端部3aが酸化物坩堝の内側底面1aから上方へ離れて配置される円筒状金属ヒータ3と、酸化物坩堝内壁面と上記ヒータ外壁面とに挟まれたリング状隙間部50に結晶原料を供給する原料供給手段51を備え、かつ、上記コイル下端部2aが上記ヒータ下端部3aより下側に配置されることを特徴とする。酸化物坩堝と上記ヒータの変形が抑制されかつ結晶原料が連続補給されるため同品質、長寸の酸化物単結晶を繰り返し安定して育成できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引上げ法により酸化物単結晶を育成する装置において、
上記結晶材料で構成されかつ原料融液を貯留保持可能な酸化物坩堝と、
上記酸化物坩堝の側壁周囲に設けられる高周波誘導コイルと、
上記酸化物坩堝内に組み込まれ、上記高周波誘導コイルにより誘導加熱されると共に、酸化物坩堝上方に設けられた固定手段により上端部が保持されかつ下端部が酸化物坩堝の内側底面から上方へ離れて配置される円筒状金属ヒータと、
上記酸化物坩堝の内壁面と上記円筒状金属ヒータの外壁面とに挟まれたリング状隙間部に結晶原料を供給する原料供給手段を備え、
かつ、上記高周波誘導コイルの下端部が上記円筒状金属ヒータの下端部より下側に位置していることを特徴とする酸化物単結晶の育成装置。
【請求項2】
上記円筒状金属ヒータが、上端部が開口し下端部が閉止された円筒形状を有し、かつ、上記リング状隙間部の原料融液を円筒状金属ヒータ内に導入する開口が円筒状金属ヒータ側壁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項3】
上記原料供給手段が、下端部に原料供給口を有する耐熱性保持容器と該保持容器に収容された結晶原料とで構成され、かつ、上記保持容器の原料供給口がリング状隙間部の原料融液面と接するように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項4】
上記保持容器が、白金、イリジウム、ロジウム、タングステンのいずれか、または、これらの合金で構成されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項5】
上記酸化物単結晶が、ニオブ酸リチウム単結晶、タンタル酸リチウム単結晶、イットリウムアルミニウムガーネット単結晶のいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項6】
上記円筒状金属ヒータが、白金、イリジウム、ロジウムのいずれか、または、これらの合金で構成されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項7】
上記酸化物坩堝の外側底面を覆うセラミック容器、または、酸化物坩堝の外側底面と側壁周囲を覆うセラミック坩堝を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置。
【請求項8】
請求項1に記載の育成装置を用いて酸化物単結晶を育成する方法において、
円筒状金属ヒータが組み込まれた酸化物坩堝内に結晶原料を投入し、高周波誘導コイルにより円筒状金属ヒータを誘導加熱して円筒状金属ヒータ内の結晶原料および上記リング状隙間部に存在する結晶原料を熔融させると共に、円筒状金属ヒータ内の原料融液面に種結晶を接触し、かつ、リング状隙間部の原料融液を円筒状金属ヒータ内に連続的に補給しながら引き上げ法により長尺の酸化物単結晶を育成することを特徴とする酸化物単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き上げ法によりタンタル酸リチウム等の酸化物単結晶を育成する育成装置と育成方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物単結晶の育成方法として、酸化物単結晶となる原料が充填された坩堝を高温に加熱して原料を熔融し、坩堝内の原料融液面に上方から種結晶を接触させた後、回転させながら上昇させることで種結晶と同一方位の酸化物単結晶を育成する引き上げ法(チョクラルスキー法とも称する)が広く利用されている。
【0003】
引き上げ法による酸化物単結晶の育成装置においては、
図11に示すように、坩堝100の側壁周囲に高周波誘導コイル101が配置されており、当該高周波誘導コイル101に高周波電流を流すことによって坩堝100に渦電流が生じ、これにより坩堝100が発熱して原料が熔融する。また、引き上げが進むにつれて酸化物単結晶の上部はシード棒(結晶引き上げ軸)102を伝わって冷却されるが、発熱体が坩堝100のみである場合、育成中における単結晶内の温度分布が大きくなるため、金属製のリング状リフレクタ103が坩堝100の開放端部に配置され、かつ、金属製のアフターヒータ104が坩堝100の上端部に配置されている。尚、
図11中、符号105は種結晶、符号106は原料融液、符号107と符号108は断熱材、符号109はCP坩堝(多孔質アルミナ坩堝)、符号110は断熱性坩堝台をそれぞれ示す。
【0004】
近年、酸化物単結晶、特にタンタル酸リチウムは表面弾性波デバイス材料として市場が拡大しており、生産量の確保のため単結晶の引き上げ長さや径が次第に大きくなっている。この大型化に伴い、結晶育成に使用する坩堝は大型化している。
【0005】
また、坩堝は、高周波電流を流すため導電性であることを要し、更に、結晶原料を熔融するため高温に耐えられる高融点かつ酸化性雰囲気で劣化しない材料を用いる必要があり、結晶育成に使用する坩堝は、イリジウム、白金、ロジウム等の貴金属やその合金で作られることが多い。
【0006】
しかし、貴金属坩堝を用いて単結晶の育成を行うと、坩堝が変形するという問題があった。これは、
図12(A)に示す円筒形の貴金属坩堝100が原料熔融時に
図12(B)に示すように膨張し、冷却すると原料融液106の固化した部分が伸びて
図12(C)に示すように変形するためで、貴金属坩堝と酸化物融液の膨張率が異なることに起因する。
【0007】
この貴金属坩堝の変形を防止するには、直胴部の長い結晶を育成して原料融液の固化回数を減らす方法が効果的である。しかし、直胴部の長い結晶を引き上げると、結晶育成に伴って坩堝内の融液面が低下するため原料融液が坩堝の底で固化してしまう問題があり、更に、坩堝が発熱するので坩堝壁からの輻射熱の影響により育成中の結晶に歪み、ねじれ等を生じさせる問題が存在する。
【0008】
そこで、特許文献1においては、貴金属製の外側坩堝と、該外側坩堝内に配置されかつ底部において融液が連絡するようにした貴金属製の内側坩堝とで二重坩堝を構成し、結晶育成に伴って消費される原料を外側坩堝と内側坩堝との隙間に供給して内側坩堝内における融液面の低下を防止する単結晶の育成方法が提案され、また、特許文献2においては、貴金属製の内側坩堝を貴金属製の外側坩堝内に嵌め込む二重坩堝が提案されている。
【0009】
しかし、外側坩堝の側壁周囲に設けられた高周波誘導コイルによる高周波加熱法を用いて上記二重坩堝を加熱しようとすると、高周波電磁場は貴金属製の外側坩堝で遮断されるため、外側坩堝は加熱されるが内側坩堝は加熱されず、該内側坩堝の融液温度が低くなる問題が存在した。特に、大口径の結晶を育成する場合、外側坩堝における底部中央の発熱が弱いため融液が固化し易く、底部の融液が固化すると融液面変動や温度変化が起こって多結晶化し易くなる問題が存在した。更に、底部において融液が連絡するようにした二重坩堝においては、底部の融液が固化した場合、外側坩堝と内側坩堝との隙間に存在する融液が結晶育成を行う内側坩堝に移動できなくなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-344595号公報
【特許文献2】特開2002-137985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
貴金属製の二重坩堝を使用し、高周波加熱法を用いた結晶育成がなされるかぎり、高周波電磁場が外側坩堝により遮断されて内側坩堝が加熱されないため、貴金属製の外側坩堝に代わる新たな外側坩堝を用いた育成装置が必要となる。
【0012】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、貴金属製の外側坩堝に代えて原料融液と同材質の酸化物坩堝を用いた酸化物単結晶の育成装置と育成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
引上げ法により酸化物単結晶を育成する装置において、
上記結晶材料で構成されかつ原料融液を貯留保持可能な酸化物坩堝と、
上記酸化物坩堝の側壁周囲に設けられる高周波誘導コイルと、
上記酸化物坩堝内に組み込まれ、上記高周波誘導コイルにより誘導加熱されると共に、酸化物坩堝上方に設けられた固定手段により上端部が保持されかつ下端部が酸化物坩堝の内側底面から上方へ離れて配置される円筒状金属ヒータと、
上記酸化物坩堝の内壁面と上記円筒状金属ヒータの外壁面とに挟まれたリング状隙間部に結晶原料を供給する原料供給手段を備え、
かつ、上記高周波誘導コイルの下端部が上記円筒状金属ヒータの下端部より下側に位置していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記円筒状金属ヒータが、上端部が開口し下端部が閉止された円筒形状を有し、かつ、上記リング状隙間部の原料融液を円筒状金属ヒータ内に導入する開口が円筒状金属ヒータ側壁に設けられていることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記原料供給手段が、下端部に原料供給口を有する耐熱性保持容器と該保持容器に収容された結晶原料とで構成され、かつ、上記保持容器の原料供給口がリング状隙間部の原料融液面と接するように配置されていることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明~第3の発明のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記保持容器が、白金、イリジウム、ロジウム、タングステンのいずれか、または、これらの合金で構成されることを特徴とし、
第5の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記酸化物単結晶が、ニオブ酸リチウム単結晶、タンタル酸リチウム単結晶、イットリウムアルミニウムガーネット単結晶のいずれかであることを特徴とし、
第6の発明は、
第1の発明~第5の発明のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記円筒状金属ヒータが、白金、イリジウム、ロジウムのいずれか、または、これらの合金で構成されることを特徴とし、
第7の発明は、
第1の発明~第6の発明のいずれかに記載の酸化物単結晶の育成装置において、
上記酸化物坩堝の外側底面を覆うセラミック容器、または、酸化物坩堝の外側底面と側壁周囲を覆うセラミック坩堝を備えることを特徴とする。
【0015】
次に、本発明に係る第8の発明は、
第1の発明に記載の育成装置を用いて酸化物単結晶を育成する方法において、
円筒状金属ヒータが組み込まれた酸化物坩堝内に結晶原料を投入し、高周波誘導コイルにより円筒状金属ヒータを誘導加熱して円筒状金属ヒータ内の結晶原料および上記リング状隙間部に存在する結晶原料を熔融させると共に、円筒状金属ヒータ内の原料融液面に種結晶を接触し、かつ、リング状隙間部の原料融液を円筒状金属ヒータ内に連続的に補給しながら引き上げ法により長尺の酸化物単結晶を育成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る酸化物単結晶の育成装置によれば、
二重坩堝の外側坩堝が酸化物坩堝で構成され、かつ、二重坩堝の内側坩堝が円筒状金属ヒータで構成されているため、上記酸化物坩堝(外側坩堝)により高周波電磁場が遮断されないことから、円筒状金属ヒータ(内側坩堝)を高周波加熱法により誘導加熱することが可能となる。
【0017】
また、原料融液の貯留保持手段として原料融液と同材質の酸化物坩堝が適用されるため坩堝の変形を抑制でき、かつ、酸化物単結晶の育成時、円筒状金属ヒータの内側に存在する原料融液と円筒状金属ヒータの外側に存在する原料融液により円筒状金属ヒータが挟まれた状態になるため円筒状金属ヒータの熱変形も抑制できることから、結晶育成を繰り返し行っても坩堝の変形に起因した育成条件の変化を防止することが可能となる。
【0018】
更に、高周波誘導コイルの下端部が円筒状金属ヒータの下端部より下側に位置して円筒状金属ヒータの下端部も誘導加熱されるため、円筒状金属ヒータの外壁面と酸化物坩堝の内壁面とに挟まれたリング状隙間部に存在する原料融液を円筒状金属ヒータ内に補給することが可能となり、かつ、上記リング状隙間部には原料供給手段により結晶原料が継続して供給されるため原料融液の連続補給が可能となる。
【0019】
従って、同品質かつ長寸の酸化物単結晶を繰り返し安定して育成できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明の変形例に係る育成装置の構成説明図。
【
図3】酸化物坩堝上方に設けられる固定手段の一例を示す説明図。
【
図4】第一実施形態に係る育成装置とこの装置を用いた育成方法の説明図。
【
図5】第一実施形態に係る育成装置の製造工程を示す説明図。
【
図6】第一実施形態に係る育成装置の製造工程を示す説明図。
【
図7】第一実施形態に係る育成装置の製造工程を示す説明図。
【
図9】第二実施形態に係る育成装置の製造工程を示す説明図。
【
図10】第二実施形態に係る育成装置の製造工程を示す説明図。
【
図11】原料融液の貯留保持手段として貴金属坩堝を利用する従来の育成装置を用いた育成方法の説明図。
【
図12】
図12(A)は貴金属坩堝の断面図、
図12(B)は投入された結晶原料の熔融時における貴金属坩堝の断面図、
図12(C)は原料融液が固化することで変形した貴金属坩堝の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
1.従来の育成装置と育成方法
(1)従来の育成装置とこの装置を用いた育成方法
従来の育成装置として、上述したように、チャンバ200(
図11参照)内に、CP坩堝(多孔質アルミナ坩堝)109と、坩堝100と、断熱性坩堝台110と、リング状リフレクタ103と、アフターヒータ104と、断熱材107、108と、シード棒(結晶引き上げ軸)102と、高周波誘導コイル101を備える装置が知られている。そして、高温の結晶育成に使用される坩堝100としては、タングステンやタンタルのような高融点金属坩堝、白金、ロジウムやイリジウム等の貴金属坩堝、アルミナやマグネシア、カーボンやPBN(Pyrolytic Boron Nitride)のような非金属性坩堝が知られている。
【0023】
ところで、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下、LNと略称する)、タンタル酸リチウム(LiTaO3:以下、LTと略称する)、イットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al5O12:以下、YAGと略称する)等の酸化物単結晶を育成する場合、酸素を含んだ育成雰囲気にするため、酸化され易いタングステン、タンタル、カーボンは使用できない。同様に、アルミナ、マグネシアは酸化物融液と反応するため使用することができず、また、PBNは高価でかつ大型坩堝の作成が難しいという問題がある。
【0024】
このため、酸化物単結晶を育成する場合、酸化されず、割れて原料融液が流出することのない、白金、ロジウム、イリジウム等の貴金属坩堝が使用されている。
【0025】
(2)従来の課題
しかし、貴金属坩堝は、
図12(A)~(C)に示すように原料熔融時に熱膨張し、原料融液の残渣が固化するときに酸化物と貴金属で熱膨張率が異なるため変形する。この変形に起因して、高周波誘導加熱の場合、発熱状態が変わるため育成条件が変化し、坩堝の変形が進むと単結晶が得られなくなる課題が存在した。
【0026】
更に、貴金属坩堝の上記変形を防止するため、貴金属製の二重坩堝を使用し、高周波加熱法を用いて直胴部の長い結晶を育成しようとすると、高周波電磁場が貴金属製の外側坩堝により遮断されて内側坩堝が加熱されない課題も存在した。
【0027】
2.本発明の育成装置と育成方法
引き上げ法(チョクラルスキー法)を用いる本発明の育成装置は、大気中または酸素を含んだ不活性ガス雰囲気中で育成されるLN、LT、YAG等の酸化物単結晶の製造に用いる装置である。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種結晶と呼ばれる、通常、棒状に加工された単結晶先端を、同一組成の原料融液に浸潤し、回転させながら徐々に引上げることによって種結晶の方位と同一の単結晶を育成する方法である。
【0028】
本発明者は、従来の課題を解決するため、貴金属製の外側坩堝に代えて原料融液と同材質の酸化物坩堝を用いた酸化物単結晶の育成装置と育成方法を見出した。
【0029】
すなわち、本発明に係る育成装置は、
図1に示すように、
酸化物結晶材料で構成されかつ原料融液10を貯留保持可能な酸化物坩堝(外側坩堝に相当する)1と、
酸化物坩堝1の側壁周囲に設けられる高周波誘導コイル2と、
酸化物坩堝1内に組み込まれ、上記高周波誘導コイル2により誘導加熱されると共に、酸化物坩堝1上方に設けられた固定手段(図示せず)により上端部3bが保持されかつ下端部3aが酸化物坩堝1の内側底面1aから上方へ離れて配置される円筒状金属ヒータ(内側坩堝に相当する)3と、
酸化物坩堝1の内壁面と円筒状金属ヒータ3の外壁面とに挟まれたリング状隙間部50に結晶原料(結晶材料10a)を供給する原料供給手段51を備え、
かつ、高周波誘導コイル2の下端部2aが円筒状金属ヒータ3の下端部3aより下側に位置していることを特徴とするものである。
【0030】
尚、
図1に示す育成装置の原料供給手段51は、下端部に原料供給口51bを有する耐熱性保持容器51aとこの保持容器51a内に収容された結晶原料(結晶材料10a)とで構成されており、保持容器51a内の結晶原料(結晶材料10a)をシリンダー(図示せず)等で押してリング状隙間部50の原料融液10面に落下供給するものである。
【0031】
次に、本発明の変形例に係る育成装置は、
図2に示すように、原料供給手段51の取り付け形態が相違する点を除き
図1に示した本発明の育成装置と略同一である。
【0032】
すなわち、変形例に係る育成装置の原料供給手段51は、
図2に示すように、下端部に原料供給口51bを有する耐熱性保持容器51aとこの保持容器51a内に収容された結晶原料(結晶材料10a)とで構成され、保持容器51aの原料供給口51bがリング状隙間部50の原料融液10面と接するように配置されて、結晶原料(結晶材料10a)を原料融液10面で融解させながら供給するものである。
【0033】
そして、原料融液10面に結晶原料(結晶材料10a)を接触させる
図2の方式は、
図1の結晶原料(結晶材料10a)が原料融液10面に落下供給される方式に較べて原料供給時における衝撃が無いため、原料融液10面が変動することなく同一の温度環境で結晶育成を行える利点を有している。
【0034】
尚、結晶原料(結晶材料10a)としては結晶材料粉体、結晶材料粒体あるいは結晶材料塊体が例示される。
【0035】
(1)第一実施形態に係る育成装置とこの装置を用いた育成方法
(1-1)第一実施形態に係る育成装置
第一実施形態に係る育成装置は、
図4に示すように、底面側が支持台11で固定されかつ上記高周波誘導コイル2を除く本発明に係る育成装置(酸化物坩堝1と円筒状金属ヒータ3を備える)が収容されると共に上方側にシード棒(結晶引き上げ軸)20用の開口12を有する断熱性外筒13と、この断熱性外筒13内の略中央部に付設されかつ円筒状金属ヒータ3の上端部3bを保持するヒータ固定用棒材14(
図3の固定手段参照)と、ヒータ固定用棒材14で保持された円筒状金属ヒータ3の上端部3bに載置されたリング状リフレクタ15と、このリング状リフレクタ15上に載置されたアフターヒータ16と、上記ヒータ固定用棒材14と断熱性外筒13とで形成される隙間部に嵌入配置された原料供給手段51と、上記シード棒(結晶引き上げ軸)20の下端側に取り付けられた棒状の種結晶21とで主要部が構成されている。
【0036】
尚、第一実施形態に係る育成装置において、上記酸化物坩堝1は二重坩堝の外側坩堝に相当し、円筒状金属ヒータ3は二重坩堝の内側坩堝に相当する。また、
図4中、符号40は酸化物坩堝1の外側底面1bと側壁周囲を覆うセラミック容器(CP坩堝)を示す。
【0037】
(1-2)第一実施形態に係る育成方法
円筒状金属ヒータ3が組み込まれた酸化物坩堝1内に結晶原料を投入し、高周波誘導コイル2により円筒状金属ヒータ3を誘導加熱して円筒状金属ヒータ3内の結晶原料および円筒状金属ヒータ3外壁面と酸化物坩堝1内壁面とに挟まれたリング状隙間部50に存在する結晶原料を熔融させる。
【0038】
次いで、円筒状金属ヒータ3内の原料融液10面に種結晶21を接触させた後、シード棒(結晶引き上げ軸)20を回転させながら上昇させて酸化物単結晶30を育成する。
【0039】
(1-3)第一実施形態に係る育成方法の効果
第一実施形態に係る育成方法によれば、二重坩堝の外側坩堝が酸化物坩堝1で構成され、かつ、二重坩堝の内側坩堝が円筒状金属ヒータで構成されているため、酸化物坩堝(外側坩堝)1により高周波電磁場が遮断されないことから、円筒状金属ヒータ(内側坩堝)3を高周波加熱法により誘導加熱することが可能となる。
【0040】
また、原料融液の貯留保持手段として原料融液と同材質の酸化物坩堝1が適用されるため坩堝の変形を抑制でき、かつ、酸化物単結晶の育成時、円筒状金属ヒータ3の内側に存在する原料融液10と円筒状金属ヒータ3の外側に存在する原料融液10により円筒状金属ヒータ3が挟まれた状態になるため円筒状金属ヒータ3の熱変形も抑制できることから、酸化物単結晶の育成を繰り返し行っても坩堝の変形に起因した育成条件の変化を防止することが可能となる。
【0041】
更に、高周波誘導コイル2の下端部2aが円筒状金属ヒータ3の下端部3aより下側に位置していることから円筒状金属ヒータ3の下端部3aも誘導加熱されるため、上記リング状隙間部50に存在する原料融液10を円筒状金属ヒータ(内側坩堝)3内に補給することが可能となり、かつ、上記リング状隙間部50には原料供給手段51により結晶原料が継続して供給されるため原料融液10の連続補給が可能となる。
【0042】
このため、第一実施形態に係る育成方法は、同品質でかつ直胴部の長い酸化物単結晶を繰り返し安定して育成できる効果を有する。
【0043】
(1-4)第一実施形態に係る育成装置の製造法
第一実施形態に係る育成装置は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0044】
まず、
図5に示すように断熱性外筒13内に組み込まれたセラミック坩堝(CP坩堝)40内に、その上方側空間部41を残して結晶材料10aを投入する。尚、結晶材料10aとしては結晶材料粉あるいは結晶材料塊が例示される。
【0045】
次いで、セラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41に円筒状金属ヒータ3を組み込み、かつ、断熱性外筒13内の略中央部に付設されたヒータ固定用棒材14(
図3の固定手段参照)により円筒状金属ヒータ3の上端部3bを固定する。
【0046】
そして、
図6に示すように円筒状金属ヒータ3が組み込まれたセラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41に結晶材料10aを投入し、円筒状金属ヒータ3の内部とセラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41に結晶材料10aを充填する。
【0047】
次いで、
図7に示すようにヒータ固定用棒材14で保持された円筒状金属ヒータ3の上端部3bにリング状リフレクタ15を載置し、かつ、リング状リフレクタ15上にアフターヒータ16を載置する。
【0048】
そして、セラミック坩堝(CP坩堝)40の側壁周囲に設けられた高周波誘導コイル2により円筒状金属ヒータ3を誘導加熱し、円筒状金属ヒータ3内の結晶材料10aおよび円筒状金属ヒータ3側壁近傍と下端部3a近傍の結晶材料10aを熔融させて原料融液10とし、かつ、円筒状金属ヒータ3側壁から離れた部位と下端部3aから離れた部位の結晶材料10a間に原料融液10を流入させて連続した酸化物層1cを形成し、該酸化物層1cを内表面に有しかつ原料融液10を貯留保持可能な酸化物坩堝1を形成した後、
図4に示した原料供給手段51を組み込んで第一実施形態に係る育成装置を製造することができる。
【0049】
尚、本発明に係る育成装置と本発明の変形例に係る育成装置においては、
図1および
図2に示すように酸化物坩堝1の外側底面1bを覆うセラミック容器4が使用され、上記セラミック坩堝(CP坩堝)40を用いた製造法により育成装置を製造することができない。このような場合、結晶材料粉あるいは結晶材料塊を用いて
図1および
図2に示すような酸化物坩堝の形状に加圧成形し、該成形体の底面側に上記セラミック容器4を組み込んだ構造体を上記断熱性外筒13内に収容した後、上記製造法を応用して上記育成装置を製造することは可能である。このとき、加圧成形される坩堝の壁厚を大きく設定しておき、円筒状金属ヒータ3を誘導加熱した際に壁全体が熔融されないようにすることを要する。
【0050】
(2)第二実施形態に係る育成装置
第二実施形態に係る育成装置は、
図8に示すように、円筒状金属ヒータ3の上端部3bが開口し下端部3aが閉止された円筒形状を有し、かつ、円筒状金属ヒータ3外壁面と酸化物坩堝1内壁面とに挟まれたリング状隙間部50の原料融液10を円筒状金属ヒータ3内に導入する開口3dが円筒状金属ヒータ3側壁に設けられている点を除き第一実施形態に係る育成装置(
図4参照)と略同一である。尚、
図8において、
図4に示したシード棒(結晶引き上げ軸)20と原料供給手段51は図示していない。
【0051】
下端部3aが閉止された
図8の円筒状金属ヒータ3においては、下端部3aも開口した
図4の円筒状金属ヒータ3に較べて自立し易いため、育成装置の製造段階において、結晶材料10a上に円筒状金属ヒータ3を載置する(
図9参照)作業を簡便化させることができる利点を有する。
【0052】
(3)酸化物坩堝を構成する結晶材料
上記酸化物層1cを内表面に有しかつ結晶材料で構成される酸化物坩堝1について、坩堝全体が一つの結晶で構成される必要はない。焼結体や多結晶体で坩堝全体が構成されることが好ましいが一部粉末の状態であってもよい。尚、酸化物坩堝の一部が粉末状態である場合、粉末を保持する上述のセラミック容器を設けることが望ましい。尚、酸化物坩堝1の酸化物層1cから離れている結晶材料の未熔融部分は、
図11に示した従来の育成装置における断熱材108や断熱性坩堝台110と同様に機能する。
【0053】
また、酸化物坩堝1の外側底面1bを覆う上記セラミック容器、または、酸化物坩堝1の外側底面1bと側壁周囲を覆うセラミック坩堝を構成する材料としては、アルミナやジルコニア、マグネシア、カルシア等の焼結体耐火物が好ましい。
【0054】
(4)金属ヒータ
上記金属ヒータの形状は高周波誘導加熱が可能であれば任意であるが、チョクラルスキー法で良質な結晶を育成する場合、原料融液がシード(種結晶)に対し回転対称性を持つことが望ましい。このため、金属ヒータも回転対称の形状を持つことが好ましく円筒状であることを要する。
【0055】
また、金属ヒータは、酸素を含む雰囲気で酸化されず、割れない高周波加熱が可能な材料で構成することが好ましく、具体的には、白金、イリジウム、ロジウムの単体またはこれらの合金で構成することが望ましい。
【0056】
また、金属ヒータの上端部を固定する固定手段としては、
図4に示す断熱性外筒13内の略中央部に付設されたヒータ固定用棒材14(
図3の固定手段参照)が例示され、金属ヒータ3の上端部3bを棒材14に通すことで固定され、ヒータ固定用棒材14の本数は2本から6本程度が好ましい。
【0057】
また、金属ヒータ上端部に載置されるリング状リフレクタ、および、リング状リフレクタ上に載置されたアフターヒータの材料は、金属ヒータと同様の材料を用いることが好ましい。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例について比較例(従来例)を挙げて具体的に説明する。
【0059】
[実施例1]
1.実施例1に係る育成装置の製造
図9に示す断熱性外筒13内に組み込んだ内径270mm、内部高さ340mmのセラミック坩堝(CP坩堝)40内に、上方側空間部41を残して、タンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aを投入した。
【0060】
次いで、セラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41に、内径170mm、高さ170mm、厚さ2mmで、上端部3bが開口し下端部3aが閉止されたイリジウム製円筒状金属ヒータ3を組み込み、かつ、断熱性外筒13内の略中央部に付設したヒータ固定用棒材14により円筒状金属ヒータ3の上端部3bを固定した。尚、円筒状金属ヒータ3は、その上端部3bから下方100mmの位置に直径20mmの開口3dが設けられ、円筒状金属ヒータ3外壁面と酸化物坩堝1内壁面とに挟まれたリング状隙間部50の原料融液10が円筒状金属ヒータ3内に導入される構造になっている。
【0061】
そして、
図10に示すように円筒状金属ヒータ3が組み込まれたセラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41にタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aを投入し、円筒状金属ヒータ3の内部とセラミック坩堝(CP坩堝)40の上方側空間部41にタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aを充填した。
【0062】
次いで、
図8に示すようにヒータ固定用棒材14で保持された円筒状金属ヒータ3の上端部3bにリング状リフレクタ15を載置し、かつ、リング状リフレクタ15上にアフターヒータ16を載置した。
【0063】
そして、セラミック坩堝(CP坩堝)40の側壁周囲に設けられた高周波誘導コイル2により円筒状金属ヒータ3を誘導加熱し、円筒状金属ヒータ3内のタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aおよび円筒状金属ヒータ3側壁近傍と下端部3a近傍のタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aを熔融させて原料融液10とし、かつ、円筒状金属ヒータ3側壁から離れた部位と下端部3aから離れた部位のタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10a間に原料融液10を流入させて連続した酸化物層1cを形成し、該酸化物層1cを内表面に有しかつ原料融液10を貯留保持可能な酸化物坩堝1を形成した後、原料供給手段(
図2に示すように原料供給口51bを有するイリジウム製保持容器51aとこの保持容器51a内に収容された結晶原料とで構成され、保持容器51aの原料供給口51bが原料融液面と接するように配置)を組み込んで実施例1に係る育成装置を製造した。
【0064】
尚、タンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10aを熔融させて酸化物層1cを形成する際、上記円筒状金属ヒータ3外側の融液量を増やすため、高周波誘導コイル2の投入パワーを以下の育成時より10%多く設定している。これによりタンタル酸リチウム粉末(結晶材料)10a間に原料融液が流入して連続した酸化物層1cが形成される。
【0065】
2.タンタル酸リチウム単結晶の育成
次いで、上記断熱性外筒13の開口12(
図8参照)から、先端に種結晶(図示せず)が取り付けられた図示外のシード棒(結晶引き上げ軸)を下して引き上げ法(チョクラルスキー法)により結晶育成を行い、径4インチで直胴部の長が約200mmのタンタル酸リチウム単結晶を育成することができた。
【0066】
次に、上記タンタル酸リチウム単結晶を育成した後、円筒状金属ヒータ3が組み込まれた酸化物坩堝1内にタンタル酸リチウム粉末(結晶原料)を投入し、高周波誘導コイル2により円筒状金属ヒータ3を誘導加熱し、円筒状金属ヒータ3内のタンタル酸リチウム粉末(結晶原料)および円筒状金属ヒータ3の側壁面と酸化物坩堝1の内壁面間に存在するタンタル酸リチウム粉末(結晶原料)を熔融させた。
【0067】
次いで、種結晶が取り付けられたシード棒(結晶引き上げ軸)を開口12から下して引き上げ法(チョクラルスキー法)により結晶育成を行い、上記同様、径4インチで直胴部の長が約200mmのタンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0068】
[比較例(従来例)]
図11に示す従来例の育成装置を用い、かつ、イリジウム製で径170mm、高さ170mmの坩堝100を用いて引き上げ法(チョクラルスキー法)により径4インチのタンタル酸リチウム単結晶を育成した。
【0069】
しかし、直胴部の長が約180mmになった時点で坩堝100内の融液面が低下してしまい、育成したタンタル酸リチウム単結晶の下端が坩堝100底で固まった結晶部分に接触する底付きが起こって多結晶となってしまった。
本発明によれば、同品質でかつ直胴部の長い酸化物単結晶を繰り返し安定して育成できるため、表面弾性波デバイス材料として用いられるタンタル酸リチウム単結晶等酸化物単結晶の育成装置として利用される産業上の利用可能性を有している。