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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132270
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】陽電子消滅特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/22 20180101AFI20230914BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01N23/22
G01T1/20 L
G01T1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037494
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】591017869
【氏名又は名称】東洋精鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 正人
(72)【発明者】
【氏名】上杉 直也
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA08
2G001BA01
2G001BA28
2G001CA02
2G001CA08
2G001DA02
2G001DA03
2G001DA06
2G001FA03
2G001GA03
2G188AA27
2G188BB04
2G188BB07
2G188CC10
2G188CC15
2G188CC21
2G188CC22
2G188DD10
2G188DD11
2G188DD30
2G188DD44
2G188DD49
2G188EE14
2G188EE25
2G188EE29
2G188FF05
(57)【要約】
【課題】陽電子の消滅特性を測定する装置において、測定の精度を確保しつつ小型軽量化するための技術を提供する。
【解決手段】 陽電子消滅特性測定装置は、被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、陽電子線源で生成された陽電子のうち被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出器と、陽電子線源に対して設定された第1の位置に配置され、陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する第1の放射線を検出する第1放射線検出器と、陽電子線源に対して設定された第2の位置に配置され、陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する第2の放射線を検出する第2放射線検出器と、を備えている。陽電子検出器は、アルミニウムが蒸着された薄膜及び/又はアルミニウムが蒸着されたシンチレータにより遮光されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定装置であって、
前記被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、
前記陽電子線源で生成された陽電子のうち前記被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出器と、
前記陽電子線源に対して設定された第1の位置に配置され、前記陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する第1の放射線を検出する第1放射線検出器と、
前記陽電子線源に対して設定された第2の位置に配置され、前記陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する第2の放射線を検出する第2放射線検出器と、
を備えており、
前記陽電子検出器は、アルミニウムが蒸着された薄膜及び/又はアルミニウムが蒸着されたシンチレータにより遮光されている、
陽電子消滅特性測定装置。
【請求項2】
前記アルミニウムは、一重又は多重に設けられており、
前記アルミニウムの厚みの合計が、500nm以下である、請求項1に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項3】
前記第2の位置は、前記陽電子線源に対して前記第1の位置とは反対側に設定されており、
前記第1放射線検出器の第1の中心軸と、前記第2放射線検出器の第2の中心軸とが交差しており、
前記陽電子線源は、前記第1の中心軸と前記第2の中心軸との交差位置よりも前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器に対して近接して配置されている、請求項1又は2に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項4】
被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する陽電子消滅特性測定装置であって、
前記被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、
前記陽電子線源で生成された陽電子のうち前記被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出器と、
前記陽電子線源に対して設定された第1の位置に配置され、前記陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する第1の放射線を検出する第1放射線検出器と、
前記陽電子線源に対して前記第1の位置とは反対側に設定された第2の位置に配置され、前記陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する第2の放射線を検出する第2放射線検出器と、
を備えており、
前記第1放射線検出器の第1の中心軸と、前記第2放射線検出器の第2の中心軸とが交差しており、
前記陽電子線源は、前記第1の中心軸と前記第2の中心軸との交差位置よりも前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器に対して近接して配置されている、
陽電子消滅特性測定装置。
【請求項5】
前記第1放射線検出器は、前記第1の放射線の入射によりシンチレーション光を放出する第1シンチレータと、前記第1シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する第1光センサと、を備えており、
前記第2放射線検出器は、前記第2の放射線の入射によりシンチレーション光を放出する第2シンチレータと、前記第2シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する第2光センサと、を備えており、
前記第1シンチレータが前記第1の位置に位置しており、前記第2シンチレータが前記第2の位置に位置している、請求項3又は4に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項6】
前記陽電子検出器は、前記陽電子線源に対して前記被測定体とは反対側に配置されており、
前記第1の位置及び前記第2の位置は、前記陽電子検出器を介して対向している、請求項3~5のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項7】
前記陽電子検出器は、薄板形状を有している、請求項1~6のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項8】
前記第1放射線検出器と前記第2放射線検出器との間を遮蔽する遮蔽部材が設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項9】
前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器の検出結果と、前記陽電子検出器の検出結果に基づいて、前記被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する消滅特性算出装置をさらに備えている、請求項1~8のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【請求項10】
前記陽電子消滅特性測定装置は、可搬型である、請求項1~9のいずれか一項に記載の陽電子消滅特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
22Naや68Geなどの陽電子線源(陽電子放出核種)から放出される陽電子が物質に照射されると、照射された陽電子は物質内を飛行した後に物質内の電子と結合して対消滅する。物質内に欠陥(空孔や転位)が存在すると、その欠陥に陽電子は捕捉される。このため、物質内に欠陥が存在しない場合と比較して陽電子が消滅するまでの時間が長くなる。また、物質内に欠陥が存在する場合、陽電子が消滅する際に放出する放射線(γ線)のエネルギースペクトルの分布が、物質内に欠陥が存在しない場合の放射線のエネルギースペクトルの分布と比較して相違する。このため、物質内に照射された陽電子が消滅するまでの時間や、物質内に照射された陽電子が消滅する際の放射線のエネルギースペクトル分布がわかれば、欠陥に関連した物質の材料特性を推定することができる。近年では、陽電子の消滅特性を測定することで、ショットピーニング加工の評価や、原子炉に用いられている部材、また、橋梁等のインフラストラクチャに用いられている部材の疲労状態の観測について研究が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、陽電子の消滅特性を測定する装置が開示されている。特許文献1の装置では、測定対象となる被測定体(被測定物質)から切り出された2枚の試験片により陽電子線源を挟み込み、陽電子が消滅する際の放射線(γ線)を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-198552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋梁等のインフラストラクチャに用いられている部材の疲労状態の観測のために、オンサイトで陽電子寿命を測定する技術が要求されている。そのためには、測定の精度を確保しつつ、装置を小型軽量化する必要がある。
【0006】
陽電子消滅特性測定装置では、放射線検出器のサイズが大きいほど、陽電子が生成及び消滅する際に放出される放射線を多く検出することができるので、放射線の検出効率(計数率)が向上する。一方で、放射線検出器のサイズが小さいほど、放射線検出器の内部容積が小さくなるため、放射線検出器に入射した放射線毎の検出時間のばらつきが抑制され、時間分解能が向上する。
【0007】
また、従来では、陽電子検出器を暗箱内に設置することにより外部からの光を遮光していたが、暗箱は大きなスペースを要するため、オンサイトでの測定装置に対して暗箱を採用することが難しい。
【0008】
本明細書は、陽電子の消滅特性を測定する装置において、測定の精度を確保しつつ小型軽量化するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示する第1の陽電子消滅特性測定装置は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する。前記第1の陽電子消滅特性測定装置は、前記被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、前記陽電子線源で生成された陽電子のうち前記被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出器と、前記陽電子線源に対して設定された第1の位置に配置され、前記陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する第1の放射線を検出する第1放射線検出器と、前記陽電子線源に対して設定された第2の位置に配置され、前記陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する第2の放射線を検出する第2放射線検出器と、を備えている。前記陽電子検出器は、アルミニウムが蒸着された薄膜及び/又はアルミニウムが蒸着されたシンチレータにより遮光されている。
【0010】
上記第1の陽電子消滅特性測定装置では、陽電子検出器がアルミニウムにより遮光されている。すなわち、陽電子検出器自体が遮光性を備えている。陽電子検出器を、アルミニウムが蒸着された薄膜等により覆うことで、高い機械的強度を有する薄膜等に対して好適な遮光性を付与することができる。このため、陽電子検出器を遮光するために暗箱等を設ける必要がなく、装置を小型軽量化することができる。
【0011】
本明細書に開示する第2の陽電子消滅特性測定装置は、被測定体に入射されて被測定体内で消滅する陽電子の消滅特性を測定する。前記第2の陽電子消滅特性測定装置は、前記被測定体の表面に近接又は密着する位置に配置される陽電子線源と、前記陽電子線源で生成された陽電子のうち前記被測定体に入射されなかった陽電子を検出する陽電子検出器と、前記陽電子線源に対して設定された第1の位置に配置され、前記陽電子線源で陽電子が生成したときに発生する第1の放射線を検出する第1放射線検出器と、前記陽電子線源に対して前記第1の位置とは反対側に設定された第2の位置に配置され、前記陽電子線源で生成された陽電子が消滅するときに発生する第2の放射線を検出する第2放射線検出器と、を備えている。前記第1放射線検出器の第1の中心軸と、前記第2放射線検出器の第2の中心軸とが交差しており、前記陽電子線源は、前記第1の中心軸と前記第2の中心軸との交差位置よりも前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器に対して近接して配置されている。
【0012】
上記第2の陽電子消滅特性測定装置では、第1放射線検出器が第1の位置に配置されており、第2放射線検出器が、陽電子線源に対して第1の位置とは反対側の第2の位置に配置されている。すなわち、第1放射線検出器と第2放射線検出器が、陽電子線源を介して対向する位置に配置されている。また、第1放射線検出器の第1の中心軸と、第2放射線検出器の第2の中心軸とが交差している。そして、陽電子線源が、第1の中心軸と第2の中心軸との交差位置よりも第1放射線検出器及び第2放射線検出器に対して近接して配置されている。このように、この陽電子消滅特性測定装置では、各放射線検出器が、陽電子線源を挟んで陽電子線源に対して比較的近くに配置されているので、陽電子が生成及び消滅したときに発生する放射線が各放射線検出器に入射し易い。したがって、従来よりも各放射線検出器のサイズを小さくしても放射線の検出効率が低減することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1に係る陽電子消滅特性測定装置を示す斜視図。
図2】実施例1に係る陽電子検出器及び陽電子線源の分解断面図。
図3】実施例1に係る陽電子消滅特性測定装置の内部の構成を測定面側から見た図。
図4】実施例1に係る陽電子消滅特性測定装置の内部の構成を上側から見た図。
図5】演算装置の構成を示すブロック図。
図6】陽電子検出器の検出結果に基づいてノイズを除去する処理を説明するための図。
図7】陽電子検出器の検出結果に基づいてノイズを除去する処理を説明するための図。
図8】陽電子線源とγ線検出器の様々な幾何学的配置を示す図。
図9】各幾何学的配置におけるγ線の計数率を示す図。
図10】γ線検出器と陽電子線源との間の距離と計数率との関係を示すグラフ。
図11】陽電子線源とγ線検出器の様々な幾何学的配置を示す図。
図12】各幾何学的配置における時間分解能の値を示す図。
図13】様々な遮光部材において算出した平均陽電子寿命を示すグラフ。
図14】様々な遮光部材において算出したγ線の相対強度を示すグラフ。
図15】アルミニウムを蒸着したカプトンフィルムの遮光性を観察した図。
図16】実施例2に係る陽電子消滅特性測定装置の内部の構成を上側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0015】
本技術の一実施形態では、前記アルミニウムは、一重又は多重に設けられてもよく、前記アルミニウムの厚みの合計が、500nm以下であってもよい。
【0016】
このような構成では、アルミニウム(すなわち、遮光材)の厚みが比較的薄いので、測定の際にアルミニウム内部で陽電子が消滅してしまうこと(すなわち、ノイズ成分が生じること)を低減することができる。また、例えば、薄膜の両面へのアルミニウムの蒸着等、アルミニウムを多重に設けることにより遮光性が向上し、アルミニウムの厚みの合計を小さくすることができる。
【0017】
本技術の一実施形態では、前記第2の位置は、前記陽電子線源に対して前記第1の位置とは反対側に設定されていてもよい。前記第1放射線検出器の第1の中心軸と、前記第2放射線検出器の第2の中心軸とが交差していてもよい。前記陽電子線源は、前記第1の中心軸と第2の中心軸との交差位置よりも前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器に対して近接して配置されていてもよい。
【0018】
このような構成では、各放射線検出器が、陽電子線源を挟んで陽電子線源に対して比較的近くに配置されているので、陽電子が生成及び消滅したときに発生する放射線が各放射線検出器に入射し易い。したがって、従来よりも各放射線検出器のサイズを小さくしても放射線の検出効率が低減することを抑制できる。
【0019】
本技術の一実施形態では、前記第1放射線検出器は、前記第1の放射線の入射によりシンチレーション光を放出する第1シンチレータと、前記第1シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する第1光センサと、を備えていてもよい。前記第2放射線検出器は、前記第2の放射線の入射によりシンチレーション光を放出する第2シンチレータと、前記第2シンチレータから放出されたシンチレーション光を検知する第2光センサと、を備えていてもよい。前記第1シンチレータが前記第1の位置に位置しており、前記第2シンチレータが前記第2の位置に位置していてもよい。
【0020】
このような構成によると、放射線の入射によりシンチレーション光を放出する各シンチレータが、陽電子線源に近接して配置されるため、より効率良く放射線を検出することができる。そして、各シンチレータが放出したシンチレーション光を各光センサが検出することにより、陽電子の生成時刻及び消滅時刻を算出することができる。
【0021】
本技術の一実施形態では、前記陽電子検出器は、前記陽電子線源に対して前記被測定体とは反対側に配置されていてもよい。前記第1の位置及び前記第2の位置は、前記陽電子検出器を介して対向していてもよい。
【0022】
このような構成によると、陽電子検出器が、第1及び第2放射線検出器の間に配置されるため、装置のサイズをより小型化することができる。
【0023】
本技術の一実施形態では、前記陽電子検出器は、薄板形状を有していてもよい。
【0024】
このような構成では、陽電子検出器の厚みが比較的薄い。このため、陽電子検出器を各放射線検出器からオフセットさせて配置しても、陽電子線源と各放射線検出器との距離がほとんど増大しない。したがって、各放射線検出器をより近接して配置することができる。
【0025】
本技術の一実施形態では、前記第1放射線検出器と前記第2放射線検出器との間を遮蔽する遮蔽部材が設けられていてもよい。
【0026】
このような構成によると、一方の放射線検出器の内部で散乱された放射線が、他方の放射線検出器に入射してしまうことが抑制される。
【0027】
本技術の一実施形態では、前記第1放射線検出器及び前記第2放射線検出器の検出結果と、前記陽電子検出器の検出結果に基づいて、前記被測定体内における陽電子の消滅特性を算出する消滅特性算出装置をさらに備えていてもよい。
【0028】
このような構成では、陽電子の消滅特性を算出することができる。
【0029】
本技術の一実施形態では、前記陽電子消滅特性測定装置は、可搬型であってもよい。
【0030】
本技術では、測定の精度を確保しつつ小型軽量化することができるので、可搬型の陽電子消滅特性測定装置に有用である。
【0031】
(実施例1)
以下、実施例1に係る陽電子消滅特性測定装置10について説明する。陽電子消滅特性測定装置10(以下、単に装置10ともいう。)は、陽電子が生成されるときに発生するγ線(1.27MeV)と、陽電子が消滅するときに発生するγ線(511keV)を検出し、その時間差から被測定体内の陽電子寿命を測定し、その測定結果から被測定体の内部状態を評価する装置である。特に、本実施例の装置10は、測定対象となる被測定体(被測定物質)を切り出すことなく、被測定体に測定面11aを押し当てることによりオンサイトでの陽電子寿命を測定する可搬型の装置である。図1~5に示されるように、装置10は、本体11と、陽電子検出器12と、第1γ線検出器14と、第2γ線検出器16と、陽電子線源44と、演算装置50を有している。
【0032】
図示していないが、本体11は、陽電子検出器12、第1γ線検出器14、第2γ線検出器16、及び陽電子線源44を収容している。本体11の測定面11aには、測定窓11bが形成されている。装置10による被測定体内の陽電子寿命の測定は、装置10の測定窓11bを被測定体に近接させた状態で実行される。
【0033】
陽電子検出器12は、図2に示されるように、光電子増倍管41と、陽電子検出用のシンチレータ42を備えている。光電子増倍管41の受光面41aは、シンチレータ42に接続されている。陽電子検出器12は、円筒形状を有している。陽電子検出器12は、カプトン(登録商標)フィルム60によって被覆されている。より詳細には、カプトンフィルム60は、シンチレータ42の外面を覆っている。カプトンフィルム60の内面には、アルミニウム膜62が設けられている。アルミニウム膜62は、カプトンフィルム60に対してアルミニウムを蒸着することにより設けられる。カプトンフィルム60及びアルミニウム膜62は、シンチレータ42に外部の光が侵入することを防止するために設けられている。カプトンフィルム60の厚みは特に限定されないが、例えば、5μmとすることができる。また、アルミニウム膜62の厚みは特に限定されないが、例えば、500nm以下とすることができる。
【0034】
本実施例のシンチレータ42は、プラスチックシンチレータである。シンチレータ42は、上記に限定されず、他の公知の材料を用いたものであってもよい。シンチレータ42は、陽電子が入射することによりシンチレーション光を放出する。放出されたシンチレーション光は、光電子増倍管41の受光面41aに入光する。なお、シンチレータ42は、アルミニウム膜62により覆われているので、シンチレーション光が受光面41aとは異なる方向に放出された場合であっても、アルミニウム膜62により反射されて受光面41aに導かれる。光電子増倍管41は、シンチレーション光を電気信号に変換する。光電子増倍管41からの電気信号は演算装置50に入力される。
【0035】
図2に示すように、陽電子線源44は、2つのカプトンフィルム46の間に配置される。すなわち、陽電子線源44は、カプトンフィルム46に挟まれている。カプトンフィルム46に挟まれた陽電子線源44は、シンチレータ42に対向する位置に配置される。また、陽電子検出器12は、図1に示す本体11の測定窓11bに陽電子線源44が臨む位置に配置されるように位置決めされている。すなわち、陽電子検出器12は、陽電子線源44に対して、被測定体とは反対側に配置される。カプトンフィルム60及びアルミニウム膜62は、測定窓11bを介してシンチレータ42に外部の光が侵入することを遮断する。陽電子線源44から放出される陽電子は、陽電子線源44の上下に配置されるカプトンフィルム46のいずれかに入射する。上側に配置されるカプトンフィルム46に陽電子が入射すると、その陽電子はカプトンフィルム46及び測定窓11bを通過して被測定体に入射される。一方、下側のカプトンフィルム46を通過してシンチレータ42に陽電子が入射すると、シンチレータ42からシンチレーション光が放出されると共に、シンチレータ42の内部又はシンチレータ42の外部(すなわち、被測定体以外)で陽電子が消滅する。シンチレータ42からのシンチレーション光は、光電子増倍管41に入射する。これにより、光電子増倍管41から演算装置50に電気信号が出力されることとなる。なお、陽電子線源44は、カプトンフィルム60とシンチレータ42に挟まれるように配置してもよい。すなわち、陽電子線源44をシンチレータ42の上面に直接配置してもよい。
【0036】
ここで、陽電子線源44には、22Naなどの陽電子線源(陽電子放出核種)を用いることができる。また、陽電子線源44は、1つの陽電子が発生してから消滅するまでの間に、他の陽電子が発生しないような弱い陽電子線源とされる。これによって、複数の陽電子が同時に存在し、陽電子の発生時刻と消滅時刻が特定できないといった事態の発生を防止することができる。
【0037】
第1γ線検出器14は、陽電子が生成されるときに発生するγ線(例えば22Naの場合、1.27MeV)を検出する。図3及び図4に示すように、第1γ線検出器14は、γ線の入射によりシンチレーション光を放出するシンチレータ14aと、そのシンチレーション光を電気信号に変換する光電子増倍管14bとを有する。シンチレータ14aは、略四角錐台形状を有している。光電子増倍管14bは、その受光面(不図示)が、シンチレータ14aに接続されている。第1γ線検出器14は、演算装置50に接続されている。第1γ線検出器14は、陽電子が生成されるときに発生するγ線を検出すると、演算装置50にパルス状の電気信号を出力する。第1γ線検出器14は、「第1放射線検出器」の一例である。
【0038】
第2γ線検出器16は、陽電子が消滅するときに発生するγ線(511keV)を検出する。第2γ線検出器16は、γ線の入射によりシンチレーション光を放出するシンチレータ16aと、そのシンチレーション光を電気信号に変換する光電子増倍管16bとを有する。シンチレータ16aは、シンチレータ14aと同様の形状(すなわち、略四角錐台形状)を有している。光電子増倍管16bは、その受光面(不図示)が、シンチレータ16aに接続されている。第2γ線検出器16は、演算装置50に接続されている。第2γ線検出器16は、陽電子が消滅するときに発生するγ線を検出すると、演算装置50にパルス状の電気信号を出力する。第2γ線検出器16は、「第2放射線検出器」の一例である。
【0039】
図3及び図4に示すように、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16は、陽電子線源44及び陽電子検出器12を挟むように配置されている。より詳細には、陽電子線源44及び陽電子検出器12は、シンチレータ14aとシンチレータ16aとの間に配置されている。図4に示すように、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16は、その側面が、本体11の測定面11aに対して略平行に配置される。図3に示すように、第1γ線検出器14及び第2γ線検出器16は、測定面11a側から見ると、第1γ線検出器14の中心軸X1と第2γ線検出器16の中心軸X2とが、交差するように配置されている。陽電子検出器12は、その中心軸X3が、本体11の測定面11aに対して略直交するように配置されている。図3に示すように、陽電子線源44は、中心軸X1と中心軸X2との交差位置P1よりも、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16に対して近接する位置に配置されている。
【0040】
陽電子検出器12には、遮蔽部材52が設けられている。遮蔽部材52は、板状の鉛によって構成されている。遮蔽部材52は、シンチレータ14aとシンチレータ16aとの間を遮蔽する位置に設けられている。これにより、一方のシンチレータ(例えば、シンチレータ14a)の内部で散乱されたγ線が、他方のシンチレータ(例えば、シンチレータ16a)に入射してしまうことが抑制される。
【0041】
演算装置50は、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータやプロセッサと、デジタルストレージオシロスコープ(DSO)やNIMモジュール等の専用回路によって構成することができる。図5に示すように、演算装置50は、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16に接続される第1信号処理部20と、陽電子検出器12に接続される第2信号処理部30を備えている。第2信号処理部30は、陽電子検出器12(詳細には光電子増倍管41)から出力される電気信号を処理し、陽電子検出器12に陽電子が入射した時刻を特定する。第2信号処理部30で特定された時刻は、第1信号処理部20に入力される。第1信号処理部20及び第2信号処理部30は、「消滅特性算出装置」の一例である。
【0042】
第1信号処理部20は、陽電子発生時刻特定部21と、陽電子消滅時刻特定部22と、時刻差算出部23と、ノイズ情報除外部24と、陽電子寿命算出部25を備えている。陽電子発生時刻特定部21は、第1γ線検出器14からの信号に基づいて、陽電子線源44で陽電子が発生した時刻を特定する。陽電子消滅時刻特定部22は、第2γ線検出器16からの信号に基づいて、陽電子が消滅した時刻を特定する。時刻差算出部23は、陽電子発生時刻特定部21で特定された時刻と、陽電子消滅時刻特定部22で特定された時刻の時刻差から、陽電子が生存していた時間を算出する。陽電子発生時刻特定部21と陽電子消滅時刻特定部22と時刻差算出部23とは、従来公知の陽電子消滅特性測定装置の対応部分と同様に構成することができる。
【0043】
ノイズ情報除外部24は、第2信号処理部30で特定された時刻(すなわち、シンチレータ42に陽電子が入射した時刻)から、時刻差算出部23で算出された時刻差のうち、被測定体に入射されなかった陽電子に係るものを除外する。すなわち、図6に示すように、陽電子線源44から放出される陽電子が被測定体(サンプル)に入射すると、その陽電子は被測定体内で消滅し、γ線(511keV)が発生する。一方、陽電子線源44から放出される陽電子がシンチレータ42に入射すると、シンチレーション光を発生すると共に、被測定体以外で消滅して、γ線(511keV)が発生する。したがって、陽電子が発生したときのγ線(1.27MeV)が検出され、次に、シンチレーション光が検出され、その後、陽電子が消滅したときのγ線(511keV)が検出された場合は、陽電子線源44から放出される陽電子がシンチレータ42に入射したと特定することができる。一方、陽電子が発生したときのγ線(1.27MeV)が検出され、次に、シンチレーション光が検出されずに、陽電子が消滅したときのγ線(511keV)が検出された場合は、陽電子線源44から放出される陽電子が被測定体(サンプル)に入射したと特定することができる。例えば、図7(a)に示すように、陽電子発生時刻t1と陽電子消滅時刻t2の間に、陽電子検出器12で陽電子が検出されていないとき(すなわち、シンチレーション光が検出されていないとき)は、陽電子発生時刻t1と陽電子消滅時刻t2は有効なデータとする。そして、その時刻差(t2-t1)は、被測定体における陽電子の寿命を算出するために用いられる。一方、図7(b)に示すように、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5の間の時刻t4に、陽電子検出器12で陽電子が検出されているとき(すなわち、シンチレーション光が検出されているとき)は、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして、被測定体における陽電子の寿命を算出するためのデータから除外する。なお、陽電子発生(時刻t3)と陽電子検出(時刻t4)と陽電子消滅(時刻t5)は、極めて短い期間の間に発生する。このため、陽電子発生時刻t3と陽電子検出時刻t4との時間差が所定の第1時間差内となるときは、陽電子発生時刻t3とその後に検出される陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして除外してもよい。あるいは、陽電子検出時刻t4と陽電子消滅時刻t5との時間差が所定の第2時間差内となるときは、陽電子発生時刻t3と陽電子消滅時刻t5は無効なデータとして除外してもよい。
【0044】
陽電子寿命算出部25は、ノイズ情報除外部24でノイズが除外され、被測定体に入射された陽電子の生存時間から、被測定体における陽電子の寿命を算出する。陽電子寿命算出部25は、従来の陽電子消滅特性測定装置の対応部分と同様に構成することができる。
【0045】
次に、上述した陽電子消滅特性測定装置10を用いて、被測定体の陽電子寿命を測定する手順について説明する。装置10には、陽電子線源44が予めセットされている。まず、被測定体(例えば、橋梁等)に対して装置10を案内するための案内レール80をセットする。次に、案内レール80に対して本体11の底面に取り付けられたスライダ(不図示)を嵌合させ、案内レール80上をスライドさせながら装置10の測定面11aを被測定体に近接させる。案内レール80上をスライドする本体11は、案内レール80の端部に設けられているストッパ82により、被測定体に近接した位置に位置決めされる。位置決めした位置において、例えば、螺子84を用いて本体11を案内レール80に固定する。これにより、測定窓11bを介して陽電子線源44を被測定体に対向する位置に位置決めすることができる。本体11を固定した後、演算装置50を作動させて、陽電子寿命の測定を開始する。
【0046】
陽電子線源44で陽電子が生成されると、そのときに発生するγ線(1.27MeV)が、第1γ線検出器14で検出される。第1信号処理部20は、第1γ線検出器14からの信号に基づいて、陽電子が生成した時刻を特定する。陽電子線源44で生成された陽電子は、被測定体又はシンチレータ42に入射する。被測定体に入射した陽電子は、適当な時間を経た後に電子と結合して消滅し、γ線(511keV)を発生させる。このγ線(511keV)は、第2γ線検出器16によって検出される。第1信号処理部20は、第2γ線検出器16からの信号に基づいて陽電子が消滅した時刻を特定し、その時間差から陽電子の生存時間を算出する。
【0047】
一方、シンチレータ42に入射した陽電子は、シンチレーション光を発生させ、その後、被測定体以外で消滅し、γ線(511keV)を発生させる。シンチレーション光は、シンチレータ42内を進み光電子増倍管41の受光面41aまで案内され、光電子増倍管41によって電気信号へ変換される。第2信号処理部30は、光電子増倍管41からの電気信号に基づいて、陽電子がシンチレータ42に入射した時刻を特定する。また、被測定体以外で陽電子が消滅したときに発生するγ線(511keV)は、第2γ線検出器16によって検出される。このため、被測定体に入射されなかった場合も、第1信号処理部20で時刻が算出されることとなる。ただし、第2信号処理部30で算出された時刻と、陽電子の発生時刻の関係から、被測定体に入射されなかった陽電子に関するデータは除外される。このため、第1信号処理部20は、被測定体から入射された陽電子から得られたデータのみに基づいて、陽電子の寿命を算出する。
【0048】
上述した説明から明らかなように、本実施例の陽電子消滅特性測定装置10では、被測定体に入射されなかった陽電子を陽電子検出器40で検出し、被測定体に入射されなかった陽電子が発生させる放射線をノイズとして除去する。このため、陽電子線源44を被測定体で挟み込むような状態としなくても、被測定体の陽電子消滅特性を精度良く算出することができる。また、陽電子線源44と被測定体の間には陽電子検出用のシンチレータ42が配置されないため、被測定体に照射される陽電子が減少することを防止することができる。
【0049】
次に、陽電子線源44と各γ線検出器14、16との幾何学的配置の相違による、γ線の検出効率(計数率)、及び、γ線を検出する際の時間分解能について評価するために行ったシミュレーション及び実験について説明する。陽電子消滅特性測定装置の特性を評価する上で、計数率と時間分解能は重要なパラメータとなる。このシミュレーション及び実験では、陽電子線源44と各γ線検出器14、16との相対位置を変更して、各幾何学的配置における計数率及び時間分解能を算出した。
【0050】
まず、図8に示すように、3つの異なる幾何学的配置(配置A、B、C)について、モンテカルロシミュレーションにより、γ線の計数率を算出した。配置Aは、陽電子寿命測定研究において一般的に採用される配置である。配置Bは、卓上型陽電子寿命測定装置で一般的に採用されている配置である。配置Cは、本実施例の装置10における配置である。配置Aでは、各γ線検出器14、16の中心軸が陽電子線源44を指向している。配置Bでは、各γ線検出器14、16の中心軸が、陽電子検出器12の中心軸(陽電子線源44を通る軸)方向を指向している。なお、各配置において、陽電子線源44、陽電子検出器12、各γ線検出器14、16は、同一のものを採用している。このシミュレーションでは、陽電子線源44の位置に、22Na陽電子線源を挟み込んだ2枚のFe試料を配置して行った。陽電子線源は、7.5μm厚のカプトンフィルム2枚で封入されている。
【0051】
このシミュレーションでは、陽電子線源44の位置において、1.27MeVのγ線(陽電子が生成されるときに発生するγ線)と、511keVのγ線(陽電子が消滅するときに発生するγ線)を交互に1000万回繰り返し発生させ、一方のシンチレータ14aで1.27MeVのγ線が吸収され、他方のシンチレータ16aで511keVのγ線が吸収される事象の発生頻度から、一対のγ線検出器14、16の検出効率(計数率)を算出した。結果を図9に示す。なお、図9に示す計数率は、配置Aに対する相対値で示されている。
【0052】
図9から明らかなように、配置A及びBの計数率には、それほど大きな差がないことがわかった。これに対して、配置Cでは、配置Aと比較して1.89倍の効率でγ線を検出することができることがわかった。すなわち、本実施例の装置10では、従来の幾何学的配置と比較して、γ線の計数率が極めて高く、効率良く放射線を検出することができる。
【0053】
また、配置Cにおいて、各γ線検出器14、16と陽電子線源44との間の距離の変化による計数率の相違についてもシミュレーションを行った。なお、各γ線検出器14、16と陽電子線源との距離は、シンチレータ14a、16aの重心位置と陽電子線源44との間の距離として算出している。シミュレーションの結果、図10に示すように、シンチレータ14a、16aの重心位置と陽電子線源44との距離が短いほど、計数率が向上することがわかった。
【0054】
次に、図11に示すように、3つの異なる幾何学的配置(配置D、E、F)について、実験により時間分解能を算出した。配置D、E、Fでは、互いに平行に配置された2つのγ線検出器14、16に対する陽電子線源44の相対位置が異なっている。陽電子線源44とγ線検出器14、16(シンチレータ14a、16a)とは、配置Dにおいて最も離間しており、配置Fにおいて最も近接している。この実験は、陽電子線源44の位置に、試料としてのアニーリングしたステンレス鋼と、カプトンフィルムに封入された22Na陽電子線源とを配置して行った。得られた陽電子寿命スペクトルを、1成分(陽電子線源成分は除く)解析し、時間分解能を分解能曲線の半値幅(FWHM)として算出した。結果を図12に示す。
【0055】
図12に示すように、配置Dの時間分解能が最も高く、陽電子線源44を各γ線検出器14、16の間に挟み込む方向に移動させるにつれ、時間分解能が低下した結果となった。これは、各シンチレータ14a、16aが各γ線検出器14、16の軸方向に長く延びているためであると考えられる。すなわち、陽電子線源44の位置が配置Dから配置Fに移行するにつれて、シンチレーション光が各シンチレータ14a、16aの内部で大きく散乱することにより、光電子増倍管14b、16bの受光面にシンチレーション光が到達するまでに長い時間を要するためであると考えられる。
【0056】
ここで、3つの配置D、E、Fの間それぞれの時間分解能の差は、いずれも25ps未満となっている。例えば、時間分解能が200psから250psに低下すると、陽電子寿命が150psである被測定体を測定する場合、時間分解能に対する陽電子寿命の推定誤差は、約1.14倍となる。一方、γ線の検出の積算数nに対する推定誤差は、nの平方根の逆数倍となる。すなわち、図8の配置Aから配置Cに変更した場合、計数率の向上(1.89倍)により陽電子寿命の推定誤差は低減し、約0.73倍となる。すなわち、図8の配置Cを採用することにより、従来の配置A、Bと比較して、陽電子線源44を各γ線検出器14、16の間に挟み込むように配置することに起因する時間分解能の低下の影響を抑制することができる。
【0057】
次に、陽電子検出器12に対して設けられた遮光部材の相違による陽電子検出器12の遮光性について評価するために行った実験について説明する。図13に示すように、この実験では、カプトンフィルムのみ、チタン箔及びカプトンフィルム、300nmアルミニウム蒸着カプトンフィルム、及び500nmアルミニウム蒸着カプトンフィルムの4種類の遮光部材により陽電子検出器12を遮光した場合について、アニーリングしたステンレス鋼の平均陽電子寿命を算出することにより、各遮光部材を用いた場合の測定の信頼性を評価した。チタン箔は、従来から一般的に用いられている遮光部材である。なお、図13及び後述する図14のグラフ中に(a)で示す「卓上型」は、卓上型の陽電子消滅特性測定装置(以下、卓上型装置という。)を用いて算出した平均陽電子寿命を示している。卓上型装置では、被測定体から切り出した試験片を暗箱内に載置して陽電子寿命が測定される。すなわち、卓上型装置では、陽電子検出器が暗箱内に配置されるため、外部の光が陽電子検出器に侵入することが完全に遮断されている。したがって、算出した平均陽電子寿命が卓上型装置に近い値であるほど、測定の信頼性が高いと評価することができる。
【0058】
まず、図13の(b)に示すように、陽電子検出器12をカプトンフィルムのみにより遮光した場合、(a)に示す卓上型装置と略等しい値が得られた。すなわち、カプトンフィルムのみにより陽電子検出器12を遮光した場合、卓上型と同等の信頼性で測定可能であることがわかった。一方、(c)に示すように、遮光部材としてカプトンフィルムに加えてチタン箔を用いた場合、平均陽電子寿命が卓上型と比較して大きく相違する結果となった。すなわち、従来から用いられているチタン箔を遮光部材として用いると、測定の信頼性が低下することがわかった。これに対して、(d)及び(e)に示すように、アルミニウムを蒸着したカプトンフィルムを用いた場合、アルミニウムの膜厚によらず、(a)に示す卓上型装置と略等しい値が得られる結果となった。以上の通り、本実施例のように、アルミニウム膜62が蒸着されたカプトンフィルム60により陽電子検出器12を覆うことで、チタン箔を用いた場合よりも測定の信頼性が高い状態で遮光することができるとともに、卓上型装置と同等の測定の信頼性を確保することができることがわかった。
【0059】
次に、陽電子検出器12に対して設けられた遮光部材の相違による、被測定体への陽電子の入射割合について評価するために行った実験について説明する。陽電子線源44から放出された陽電子の一部は、遮光部材の内部で消滅する。遮光部材の内部で陽電子が消滅するときに発生するγ線はノイズ成分となるため、測定の際には、被測定体へ多くの陽電子が入射することが望ましい。この実験では、図13と同様の4種類の遮光部材により陽電子検出器12を遮光した場合について、試料(石英ガラス)を測定し、検出されたγ線のうち、試料由来の成分の相対強度を算出することにより、試料への陽電子の入射割合を評価した。
【0060】
まず、図14の(b)に示すように、陽電子検出器12をカプトンフィルムのみにより遮光した場合、試料由来の成分のγ線の相対強度が、(a)に示す卓上型装置と比較して約1%低下した。すなわち、カプトンフィルムの内部でわずかに陽電子が消滅していることがわかる。次いで、図14の(c)に示すように、遮光部材としてカプトンフィルムに加えてチタン箔を用いた場合、試料由来の成分のγ線の相対強度が卓上型と比較して大きく低下した結果となった。すなわち、従来から用いられているチタン箔を遮光部材として用いると、遮光部材(すなわち、チタン箔)の内部での陽電子の消滅割合が大きくなる結果となった。これに対して、(d)及び(e)に示すように、アルミニウムを蒸着したカプトンフィルムを用いた場合、アルミニウムの膜厚によらず、(a)に示す卓上型装置と比較してそれほど相対強度が低下しない(約2%低下)結果となった。ただし、上述したように、カプトンフィルムの内部でも陽電子が消滅するので、相対強度の低下に対する実際のアルミニウムの寄与は小さい。以上の通り、本実施例のように、アルミニウム膜62が蒸着されたカプトンフィルム60により陽電子検出器12を覆うことで、チタン箔を用いた場合よりも被測定体に対して効率良く陽電子を入射させることができるとともに、卓上型装置と比較しても十分な陽電子の入射割合を確保することができることがわかった。
【0061】
以上に説明した通り、本実施例の装置10では、図8の配置Cに示すように、各γ線検出器14、16が、陽電子線源44を挟むとともに陽電子線源44に対して比較的近くに配置されているので、陽電子が生成及び消滅したときに発生するγ線が各γ線検出器14、16に入射し易い。したがって、装置10はγ線の計数率が高い。このため、例えば、時間分解能の向上のために、装置10のサイズ(より詳細には、各γ線検出器14、16のサイズ)を小さくしても、各γ線検出器14、16による計数率を確保することができる。さらに、本実施例では、図11の配置Fに示すように、陽電子線源44を各γ線検出器14、16により挟み込むように配置しても、当該配置に起因する時間分解能の低下を高い計数率で補うことにより、測定誤差を低減することができる。すなわち、本実施例の装置10では、高い計数率と高い時間分解能とを両立することができる。
【0062】
また、本実施例では、陽電子検出器12が、アルミニウム蒸着されたカプトンフィルム60により覆われている。アルミニウム膜62は、比較的厚みが薄いので、アルミニウム膜62の内部で消滅する陽電子の数が低減され、測定の際のノイズを抑制することができる。また、非常に薄い膜であるアルミニウム膜62が、蒸着によって高い強度を有するカプトンフィルム60に成膜されているので、陽電子検出器12を作製する際にアルミニウム膜62及びカプトンフィルム60が破れ難く、容易に陽電子検出器12を作製することができる。
【0063】
なお、上述した実施例では、カプトンフィルム60の一方の面のみにアルミニウム膜62が設けられていた。しかしながら、例えば、カプトンフィルム60の両面にアルミニウムを蒸着することにより、カプトンフィルム60の両面にアルミニウム膜62を設けてもよい。図15は、カプトンフィルムに対してアルミニウムを異なる態様で蒸着した状態での遮光性を観察した図である。図15(a)は、カプトンフィルムの片面にアルミニウムを300nmの厚みで蒸着した場合を示し、図15(b)は、カプトンフィルムの片面にアルミニウムを500nmの厚みで蒸着した場合を示し、図15(c)は、カプトンフィルムの両面にそれぞれアルミニウムを100nmの厚みで蒸着した場合を示している。図15(a)及び(b)に示すように、蒸着するアルミニウムの厚みを厚くすることにより、遮光性が向上することがわかる。また、図15(c)に示す態様では、図15(a)及び(b)よりもアルミニウムの厚みの合計(200nm)が薄いが、遮光性は高い。これは、多重にアルミニウムを設けることにより、各アルミニウム膜に生じ得るピンホールの重なりが抑制されたためである。このように、多重にアルミニウムを設けることにより、遮光性をより向上させることができる。なお、カプトンフィルムに対するアルミニウムの蒸着に加えて、シンチレータ42の外側面にアルミニウムを蒸着してもよい。
【0064】
(実施例2)
実施例2の陽電子消滅特性測定装置では、陽電子検出器112の構成が実施例1と異なっている。実施例1では、陽電子検出器12が光電子増倍管41とシンチレータ42によって構成されていた。実施例2では、図16に示すように、陽電子検出器112が、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)141とシンチレータ142を有している。MPPC141は、光子を計測する光半導体素子であり、薄板形状を有している。また、実施例2では、シンチレータ142が、MPPC141に対応する形状を有している。実施例2では、陽電子検出器112が、各γ線検出器14、16よりも前方(すなわち、測定面11a側)に配置されている。
【0065】
実施例2では、陽電子検出器112が薄板形状を有しているので、陽電子検出器112と各γ線検出器14、16とを、y軸方向にオフセットさせて配置しても、各γ線検出器14、16と、陽電子線源44との距離は、ほとんど大きくならない。このため、図16図2とを比較すると明らかなように、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16とをより近接して配置することができる。このため、γ線の計数率をより向上させることができる。また、第1γ線検出器14と第2γ線検出器16の間に部材が配置されないので、図16に示すように、シンチレータ14aとシンチレータ16aとの間に遮蔽部材152を配置することにより、両者の間の空間を好適に遮断することができる。
【0066】
なお、上述した各実施例は、可搬型の陽電子消滅特性測定装置を例にして説明したが、卓上型の陽電子消滅特性測定装置に対して本明細書に開示の技術を適用してもよい。
【0067】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
10:陽電子消滅特性測定装置
12:陽電子検出器
14:第1γ線検出器
16:第2γ線検出器
44:陽電子線源
50:演算装置
図1
図2
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図8
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