IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社マンダムの特許一覧 ▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

<>
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図1
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図2
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図3
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図4
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図5
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図6
  • 特開-3次元細胞培養装置およびその利用 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132274
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】3次元細胞培養装置およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230914BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230914BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/00 A
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037499
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】河野 まおり
(72)【発明者】
【氏名】高石 雅之
(72)【発明者】
【氏名】木下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 康宏
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029DB19
4B029DF10
4B029DG01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB08
4B029GB10
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】3次元細胞を用いて、気相曝露での被験物質の評価を行うに際し、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止する。
【解決手段】本培養装置(10)は、インサートカップ(1)とウェルプレート(3)との間に設けられ、ウェルプレート(3)にインサートカップ(1)が挿入された際に生じる隙間部(3b)を埋める空隙防止プレート(2)を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元細胞を保持するインサートカップと、
前記インサートカップが挿入され、培養液を保持するウェルを有するウェルプレートと、
前記インサートカップと前記ウェルプレートとの間に設けられ、前記ウェルプレートに前記インサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋める空隙防止プレートと、を備える、3次元細胞培養装置。
【請求項2】
前記インサートカップ内の3次元細胞に対して、被験物質を噴霧する噴霧装置を備える、請求項1に記載の3次元細胞培養装置。
【請求項3】
前記インサートカップと前記被験物質を含む気相とを被覆する被覆部材を備える、請求項2に記載の3次元細胞培養装置。
【請求項4】
前記空隙部は、少なくとも、前記インサートカップの外周面と前記ウェルの内周面との間の隙間部を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の3次元細胞培養装置。
【請求項5】
前記空隙部は、少なくとも、前記インサートカップの内部と前記ウェル内部とを連通し、前記インサートカップの側壁に形成された連通部を含む、請求項1~4の何れか1項に記載の3次元細胞培養装置。
【請求項6】
被験物質による3次元細胞の影響を評価する3次元細胞の被験物質に対する評価方法であって、
請求項1~5の何れか1項に記載の3次元細胞培養装置を用いて、前記インサートカップ内の3次元細胞に対して、被験物質を噴霧する噴霧工程を含む、3次元細胞の被験物質に対する評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元細胞培養装置およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
培養細胞を2次元的な伸展により増殖させることで得られる培養物は、細胞としての増殖過程や機能性等の研究対象として用いることができる。しかし、そのような培養物は、生体内の組織とはかけ離れており、組織を対象とした研究に用いることは困難である。そこで、培養細胞を3次元的に培養することにより得られる3次元モデルを用いて、生体組織における現象を再現し、生体組織に与える影響を評価する技術が、創薬、再生医療等、様々な分野で求められている。
【0003】
これまでに、3次元モデルの培養に関する技術は、複数報告されているが、ウェルプレートとインサートカップとを用いて培養細胞を3次元的に培養する技術が汎用されている。当該技術では、培地が充填されたウェルプレートのウェル内に、底面に多孔膜を備えたインサートカップを設置する。そして、インサートカップの多孔膜に培養細胞を播種し、3次元的に培養する。例えば特許文献1には、3次元培養皮膚を入れたプレート(ウェルプレート+インサートカップ)に対して、蓋にあけた穴にガラスリングをはめることにより、三次元培養皮膚の表面のみを外気に直接触れさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-202754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような、ウェルプレートとインサートカップとを備えた3次元細胞培養装置では、3次元細胞の表面に対して被験物質を含む気相を曝露したとき、以下の問題がある。
【0006】
すなわち、市販のウェルプレートおよび市販のインサートカップを使用した場合、ウェルプレートにインサートカップが挿入された際に、ウェル内の空間と外気(気相)とを連通する空隙部が生じる。このため、このように空隙部が生じた3次元細胞培養装置を用いて気相曝露を行った場合、空隙部を介して、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解してしまう。その結果、インサートカップ内の3次元細胞は、最外層の培養細胞から被験物質と接触するのに加え、培地側の培養細胞から被験物質と接触してしまう。それゆえ、3次元細胞を気相曝露して、気相に含まれる被験物質に対する3次元細胞の評価を正確に行うことができないという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、3次元細胞を用いて、気相曝露での被験物質の評価を行うに際し、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止し得る3次元細胞培養装置およびその利用を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ウェルプレートにインサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋める空隙防止プレートを、インサートカップとウェルプレートとの間に設けることにより、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明の一態様は以下である。
【0009】
〔1〕3次元細胞を保持するインサートカップと、前記インサートカップが挿入され、培養液を保持するウェルを有するウェルプレートと、前記インサートカップと前記ウェルプレートとの間に設けられ、前記ウェルプレートに前記インサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋める空隙防止プレートと、を備える、3次元細胞培養装置。
【0010】
〔2〕前記インサートカップ内の3次元細胞に対して、被験物質を噴霧する噴霧装置を備える、〔1〕の3次元細胞培養装置。
【0011】
〔3〕前記インサートカップと前記被験物質を含む気相とを被覆する被覆部材を備える、〔2〕の3次元細胞培養装置。
【0012】
〔4〕前記空隙部は、少なくとも、前記インサートカップの外周面と前記ウェルの内周面との間の隙間部を含む、〔1〕~〔3〕の何れかの3次元細胞培養装置。
【0013】
〔5〕前記空隙部は、少なくとも、前記インサートカップの内部と前記ウェル内部とを連通し、前記インサートカップの側壁に形成された連通部を含む、〔1〕~〔4〕の何れかの3次元細胞培養装置。
【0014】
〔6〕被験物質による3次元細胞の影響を評価する3次元細胞の被験物質に対する評価方法であって、
〔1〕~〔5〕の何れかの3次元細胞培養装置を用いて、前記インサートカップ内の3次元細胞に対して、被験物質を噴霧する噴霧工程を含む、3次元細胞の被験物質に対する評価方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、気相曝露での被験物質の評価を行うに際し、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置の一構成例を示し、101は上側から見た上面図であり、102は101におけるI-I線断面図であり、103は101におけるII-II線断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置の他の構成例を示し、201は上側から見た上面図であり、202は201におけるIII-III線断面図であり、203は201におけるIV-IV線断面図であり、204は、インサートカップのカップ本体の構成を示す側面図である。
図3】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置のさらに他の構成例を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置のさらに他の構成例を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置に備えられた空隙防止プレートの一具体例の構成を示す斜視図である。
図6】本発明の実施形態に係る3次元細胞培養装置に備えられた空隙防止プレートの他の具体例の構成を示す斜視図である。
図7】実施例1にて使用した3次元細胞培養装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0018】
〔1.本発明の実施形態の概要〕
本発明者らは、気相曝露での被験物質の評価を行うに際し、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止し得る3次元細胞培養装置について鋭意検討を行った。その結果、ウェルプレートにインサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋める空隙防止プレートを、インサートカップとウェルプレートとの間に設けることにより、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止できることを見出した。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記空隙防止プレートをウェルプレートに設置し、さらに当該空隙防止プレートの上にインサートカップを設置することにより、ウェル内の培地が外気に通じることがなく、培地と外気とを隔離することができる。このため、皮膚、角膜、鼻粘膜、肺、気道等の3次元細胞モデルに対して被験物質を含む気相を曝露した際に、培地に溶解した被験物質を考慮することなく、気相曝露に対する影響を正確に評価できるので、化粧品分野、医療分野等の種々の分野において、有用である。
【0020】
また、本発明の実施形態によれば、3次元細胞の気相曝露試験のために、専用のウェルプレートおよびインサートカップを使用することなく、市販品を用意すればよい。それゆえ、容易に3次元細胞の気相曝露試験を実施できる。
【0021】
〔2.3次元細胞培養装置〕
本発明の一実施形態に係る3次元細胞培養装置(以下、「本培養装置」と称する。)は、3次元細胞を保持するインサートカップと、前記インサートカップが挿入され、培養液を保持するウェルを有するウェルプレートと、前記インサートカップと前記ウェルプレートとの間に設けられ、前記ウェルプレートに前記インサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋める空隙防止プレートと、を備える、装置である。
【0022】
上記の構成によれば、空隙防止プレートによって、前記ウェルプレートに前記インサートカップが挿入された際に生じる空隙部が埋められるので、ウェルプレートのウェル内の培地が外気と通じることがなく、培地と外気とを隔離することができる。その結果、上記の構成によれば、被験物質を含む気相がウェル内の培地に溶解するのを防止できる。また、3次元細胞の最外表層に対して被験物質を含む気相を曝露した際に、培地に溶解した被験物質を考慮することなく、気相曝露に対する影響を正確に評価できる。
【0023】
また、これまで、気相曝露するために、専用の装置を用いるしかなかった。そして、装置の種類によっては、装置に3次元細胞を直接設置する。このため、3次元細胞への毒性を考慮すると、比較的短時間の気相曝露しかできず、3次元細胞に対して数時間気相曝露することは困難であった。また、3次元細胞サンプルの影響を評価するために培養液中に放出された細胞外放出因子を測定しようとしても、上記専用の装置では3次元細胞の通常培養ができないため、培地を用いた評価は困難であった。
【0024】
本培養装置を用いれば、3次元細胞を長時間気相曝露できるとともに、3次元細胞の通常培養を行いつつ、3次元細胞に対して気相曝露することができる。
【0025】
本明細書において「3次元細胞」とは、培養細胞の層が少なくとも2層以上積層され、3次元構造を有する細胞塊あるいは組織を意図する。さらには、細胞以外に、細胞外マトリックスが含まれていてもよい。細胞外マトリックスが含まれる場合、細胞が細胞外マトリックスを介して、少なくとも2層以上積層された構造物を意図する。細胞外マトリックスとは、生体内またはin vitroで培養された細胞において、細胞の外の空間を充填し、骨格的役割、足場を提供する役割、および/または生体因子を保持する役割等の機能を果たす生体内物質を意味する。細胞外マトリックスとしては、特に限定されないが、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、テネイシン、エラスチン等が挙げられる。
【0026】
本発明の一実施形態において、3次元細胞が形成する細胞塊・組織は、生体内において、少なくともその一部が外気に曝される組織を構成するものであることが好ましく、例えば、皮膚組織、気管上皮組織、食道組織、各種粘膜組織(例えば、口腔粘膜組織、鼻粘膜組織、眼球組織等)、肺胞上皮組織等が挙げられる。
【0027】
3次元細胞を構成する細胞の種類としては、少なくともその一部が外気に曝される組織を構成する細胞であればよく、特に限定されないが、上述した組織を構成する細胞を好ましく例示できる。例えば、表皮細胞(例えば、角化細胞、基底細胞)、筋上皮細胞、管腔細胞、口粘膜細胞、血管細胞、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞)、皮脂細胞(例えば、皮脂腺基底細胞、分化皮脂腺細胞、成熟皮脂腺細胞)、上皮細胞、線維芽細胞、肺胞上皮細胞等が挙げられる。3次元細胞を構成する細胞は、生体内から取得したものであってもよいし、市販されたものでもよい。また、幹細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞)、前駆細胞(例えば、神経前駆細胞)等から分化誘導して作製したものであってもよい。3次元細胞を構成する細胞の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0028】
以下、本培養装置の一実施形態およびについて、図1図4に基づいて説明する。なお、本培養装置が図1図4で示される3次元細胞培養装置に限定されないことは言うまでもない。
【0029】
(本培養装置の構成例)
図1は、本培養装置の一構成例を示し、図1の101は上側から見た上面図であり、図1の102は図1の101におけるI-I線断面図であり、図1の103は図1の101におけるII-II線断面図である。
【0030】
図1の101~103に示されるように、本培養装置10は、インサートカップ1と、空隙防止プレート2と、ウェル3aを複数有するウェルプレート3と、を備えている。ウェルプレート3のウェル3aそれぞれには、培地が充填される。本培養装置10は、ウェルプレート3のウェル3aそれぞれに対して、1つのインサートカップ1が挿入される構成である。
【0031】
インサートカップ1は、3次元細胞を保持するカップである。より具体的には、インサートカップ1は、つば部1aと、カップ本体1bと、多孔質膜1cと、を有する。つば部1aは、平板状であり、カップ本体1bの上端部分の2箇所からウェルプレート3へ向かって延びている。つば部1aにおけるカップ本体1bと反対側の端部の下面は、ウェルプレート3の上面に接触する。つば部1aは、ウェルプレート3のウェル3aに対して、カップ本体1bを支持する役割がある。多孔質膜1cは、細胞が透過できない一方、培地などが透過可能な孔を有する膜である。カップ本体1bの底部に設けられている。本培養装置10では、多孔質膜1c上にて、3次元細胞を構成する細胞が播種され培養される。本培養装置10では、多孔質膜1cの裏側、すなわち多孔質膜1cの培養表面と反対側からウェル3a内の培地が供給され得る。なお、インサートカップ1として、市販品を使用することができる。
【0032】
ウェルプレート3は、インサートカップ1のカップ本体1bを挿入可能なウェル3aを有していればよい。ウェルプレート3は、従来公知の構造のものを使用することができ、市販品であってもよい。ウェルプレート3のウェル3aには、少なくともインサートカップ1の多孔質膜1cに接触する程度の量の培地が充填される。
【0033】
空隙防止プレート2は、インサートカップ1とウェルプレート3との間に設けられたプレートである。それゆえ、インサートカップ1、空隙防止プレート2、およびウェルプレート3が組み合わさった構成において、インサートカップ1またはウェルプレート3を取り外すことなしに、当該構成から空隙防止プレート2を取り外すことができない。図1の102に示されるように、空隙防止プレート2の上面には、インサートカップ1のつば部1aが載置されている。また、空隙防止プレート2は、ウェルプレート3の上面に載置されている。図1の101~103には示されていないが、空隙防止プレート2には、インサートカップ1のつば部1aの下面の構造と嵌合する嵌合部が設けられていてもよい。
【0034】
ここで、ウェルプレート3のウェル3aにインサートカップ1が挿入されたとき、空隙部が生じる。本培養装置10では、インサートカップ1のカップ本体1bの外周面とウェル3aの内周面との間に、上記空隙部としての隙間部3bが生じている。空隙防止プレート2は、隙間部3bを埋める、すなわち隙間部3bを上側から閉塞する閉塞領域2aを有する。図1の101に示すように、閉塞領域2aは、ウェル3aの側壁の上端を覆い、インサートカップ1まで延在する。そして、閉塞領域2aのインサートカップ1側の縁部は、カップ本体1bの外周形状に適合した形状となっている。換言すると、空隙防止プレート2は、隙間部3bを閉塞する平板状の本体を有し、当該本体には、その側壁がカップ本体1bの外周形状に適合した開口部が形成された構成であるといえる。
【0035】
本培養装置10によれば、空隙防止プレート2は、ウェルプレート3のウェル3aにインサートカップ1が挿入された際に生じる隙間部3bを埋める構成となっているので、外気とウェル3a内の空間とを隔離することができる。それゆえ、3次元細胞に対して被験物質を含む気相を曝露した際に、被験物質を含む気相がウェル3a内の培地に溶解するのを防止できる。空隙防止プレート2は、ウェル3a内の空間を、インサートカップ1のカップ本体1b内の空間を含む外気と連通しないように隔離する隔離プレートであるともいえる。
【0036】
被験物質を含む気相の曝露による3次元細胞の評価において、空隙防止プレート2の材料は、被験物質と反応しない、または被験物質を吸収しない材料であればよく、被験物質の種類に応じて適宜設定される。例えば、空隙防止プレート2の材料としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アモルファスポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0037】
図2は、本培養装置の他の構成例を示し、図2の201は上側から見た上面図であり、図2の202は図2の201におけるIII-III線断面図であり、図2の203は図2の201におけるIV-IV線断面図であり、図2の204は、インサートカップ1Aのカップ本体1bの構成を示す側面図である。
【0038】
図2の201~203に示される本培養装置10Aは、インサートカップ1Aおよび空隙防止プレート2Aの構成が図1の101~103に示された構成と異なる。
【0039】
インサートカップ1Aは、つば部1aと、カップ本体1bと、多孔質膜1cと、凹部1d(連通部)を有する。図2の204に示すように、凹部1dは、カップ本体1bの側壁に形成されており、カップ本体1bの側壁の上端から下方に凹んでいる。
【0040】
ここで、本培養装置10Aにおいても、ウェルプレート3のウェル3aにインサートカップ1Aが挿入されたとき、空隙部が生じる。本培養装置10Aでは、本培養装置10と同様に、インサートカップ1のカップ本体1bの外周面とウェル3aの内周面との間に、上記空隙部としての隙間部3bが生じている。それに加えて、凹部1dが、インサートカップ1のカップ本体1bの内部とウェル3aの内部とを連通する連通部となる。空隙防止プレート2Aは、隙間部3bを埋める閉塞領域2aと、凹部1dを埋める凸部2bと、を有する。凸部2bは、空隙防止プレート2Aの下面から突出して形成されており、凸部2bの下側の縁部は、凹部1dの上側の形状に適合した形状となっている。このため、空隙防止プレート2Aにインサートカップ1Aが載置されたとき、カップ本体1bの側壁に形成された凹部1dは、凸部2bに隙間なく合わさる。
【0041】
凹部1dは、インサートカップ1の操作性を向上させるために設けられている。図2の204に示すように、カップ本体1bの側壁に凹部1dが形成されることにより、凸部1eが形成されることになる。凸部1eは、インサートカップ1Aをピンセットでつまむためのつまみ部として機能する。なお、凹部1dは、図2の204に示す構成に限定されず、ウェルプレート3のウェル3aにインサートカップ1が挿入された際に、カップ本体1bの内部とウェル3aの内部とを連通するように、カップ本体1bの側壁に形成されていればよい。
【0042】
本培養装置10Aによれば、空隙防止プレート2Aは、ウェルプレート3のウェル3aにインサートカップ1が挿入された際に生じる隙間部3bおよび連通部としての凹部1dを埋める構成となっている。このため、空隙防止プレート2Aにより、外気とウェル3a内の空間とを隔離することができる。それゆえ、3次元細胞に対して被験物質を含む気相を曝露した際に、被験物質を含む気相がウェル3a内の培地に溶解するのを防止できる。
【0043】
図3は、本培養装置のさらに他の構成例を示す断面図である。図3に示すように、本培養装置10Bは、噴霧装置4と、被覆部材5と、を備えている点が図1の101~103に示す構成と異なる。噴霧装置4は、インサートカップ1内の3次元細胞に対して、被験物質Mを噴霧する装置である。また、被覆部材5は、インサートカップ1と被験物質Mを含む気相とを被覆する部材である。
【0044】
図3に示すように、噴霧装置4は、被覆部材5に取り付けられている。噴霧装置4は、被覆部材5内の空間に被験物質Mを噴霧する。噴霧装置4は、被験物質Mを噴霧できる装置であれば、従来公知のものを採用することができる。噴霧装置4としては、例えば、ネブライザー、エアゾール、ディスペンサーなどが挙げられる。また、噴霧装置4は、超音波を用いた噴霧器であってもよい。この場合、噴霧粒子の径は、特に限定されず、1~45マイクロメートルが好ましく、1~8マイクロメートルがより好ましい。
【0045】
被験物質Mは、対象とする3次元細胞の種類に応じて適宜設定可能である。被験物質Mの具体例としては、PM2.5等の微粒子、エアゾール製品等の噴射物(液体)、ガス等の気体が挙げられる。
【0046】
被覆部材5は、少なくともインサートカップ1を被覆する箱体である。噴霧装置4により噴霧された被験物質Mは、被覆部材5内に留まり、被覆部材5の外部へ排出されない。
【0047】
3次元細胞に対して被験物質Mを気相曝露する場合、一定の密度または濃度で被験物質Mを曝露させるために、気相曝露するための一定の空間を創る必要がある。そして、当該空間における被験物質Mの濃度を考慮する必要がある。「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)およびGHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)においても、気体や粉体の曝露において、体積を考慮するのが一般的である。特に3次元細胞の評価においては、複数のサンプルを同時に処理するため、噴霧装置4と3次元細胞の表面との距離、または噴霧装置4から噴霧される粒子の大きさによっては、複数のサンプルのうち特定のサンプルに被験物質Mが集中してしまう。このため、被験物質Mによっては、3次元細胞の複数のサンプルに対して確実に被験物質Mを気相曝露することは困難であった。
【0048】
本培養装置10Bによれば、被覆部材5により、3次元細胞に曝露される被験物質Mの濃度が一定に保たれる。本培養装置10Bでは、被覆部材5内の空間が、3次元細胞に対して被験物質Mを含む気相を曝露するための空間(以下、気相曝露空間と称する場合がある)となる。
【0049】
なお、被覆部材5は、少なくともインサートカップ1を覆う箱体であれば、特に限定されない。また、被覆部材5の構成は、気相曝露されるインサートカップ1の数、位置等に応じて適宜設定可能である。例えば、被覆部材5は、インサートカップ1毎に覆う箱体であってもよいし、ウェルプレート3およびウェルプレート3に配置されたインサートカップ1の全体を覆う箱体であってもよい。また、被覆部材5は、ウェルプレート3に配置されたインサートカップ1のうち、一部の2つ以上のインサートカップ1を覆う箱体であってもよい。
【0050】
また、被覆部材5は、適宜設けられる部材であり、本培養装置10Bに被覆部材5が設けられていない構成も本培養装置に含まれる。3次元細胞に対して被験物質Mの濃度が極めて高い気相を曝露することにより、確実に被験物質Mを3次元細胞の表面に接触できるのであれば、被覆部材5を省略してもよい。
【0051】
図4は、本培養装置のさらに他の構成例を示す断面図である。図4に示すように、本培養装置10Cは、台座6を備えている点が図3に示す構成と異なる。台座6は、インサートカップ1、空隙防止プレート2、およびウェルプレート3で構成される装置本体を載置するための台である。台座6上には、被覆部材5も載置される。本培養装置10Cでは、被覆部材5と台座6とにより形成された空間が、気相曝露空間となる。
【0052】
台座6には、CO発生剤が収納されていてもよい。これにより、気相曝露空間にCOが供給される。CO発生剤により、気相曝露空間内のCO濃度は、例えば、1.0~10.0%、好ましくは3.0~8.0%、より好ましくは4.0~5.0%に調整される。これにより、例えば、長時間(例えば一晩)3次元細胞を培養しつつ気相曝露することができる。
【0053】
(空隙防止プレートの具体例)
上述したように、本培養装置において、空隙防止プレートは、ウェルプレートにインサートカップが挿入された際に生じる空隙部を埋めるような構造となっている。それゆえ、空隙防止プレートの形状は、インサートカップおよびウェルプレートの形状に適合する。
【0054】
ここで、ウェルプレートの複数の市販品では、(1)外周部の形状、(2)各ウェルの周囲の構造および形状等が市販品毎で異なる。また、インサートカップの複数の市販品についても、外周形状が市販品毎で異なる。このため、種々のウェルプレートおよびインサートカップの市販品の形状に適合するように、最大公約数的に、空隙防止プレートの厚さまたは形状が設定されていることが好ましい。すなわち、空隙防止プレートの厚さまたは形状は、種々のウェルプレートおよびインサートカップの市販品に共通する形状に適合するように設定されていることが好ましい。
【0055】
図5は、空隙防止プレートの一具体例の構成を示す斜視図である。図5に示す空隙防止プレート2Bは、図1に示す空隙防止プレート2の具体例である。空隙防止プレート2Bは、4個×3個のウェルに対応している。閉塞領域2aは、これらウェルそれぞれに対して設けられている。また、空隙防止プレート2Bには、切り欠き部2cが形成されている。切り欠き部2cは、インサートカップのつば部の下面の構造と嵌合する嵌合部として機能する。
【0056】
図6は、空隙防止プレートの他の具体例の構成を示す斜視図である。図6に示す空隙防止プレート2Cは、図2に示す空隙防止プレート2Aの具体例である。空隙防止プレート2Bと同様に、空隙防止プレート2Cは、4個×3個のウェルに対応している。閉塞領域2aおよび凸部2bは、これらウェルそれぞれに対して設けられている。また、空隙防止プレート2Bと同様に、空隙防止プレート2Cは、切り欠き部2cを有している。
【0057】
〔3.3次元細胞の被験物質に対する評価方法〕
本発明の一実施形態に係る次元細胞の被験物質に対する評価方法(以下、本評価方法と称する場合がある)は、被験物質による3次元細胞の影響を評価する方法である。本評価方法は、上述した3次元細胞培養装置を用いて、上記インサートカップ内の3次元細胞に対して、被験物質を噴霧する噴霧工程を含む。
【0058】
上記の構成によれば、培地に被験物質が溶け込まないため、三次元細胞の最外層の細胞に対する被験物質の影響を正確に評価できる。
【0059】
本評価方法で用いられる本培養装置としては、特に限定されないが、例えば、図1図4で示される本培養装置10、10A、10Bおよび10Cが挙げられる。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0061】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
図7は、実施例1にて使用した3次元細胞培養装置10Dの概略構成を示す図である。図7に示すように、3次元細胞培養装置10Dでは、台座6に、インサートカップ1、空隙防止プレート2、および24ウェルプレートで構成される装置本体が載置されている。そして、被覆部材5は、上記装置本体および台座6の両方を上から覆うように構成されている。台座6の下には、CO発生装置(アネロパック(登録商標))が配置されている。また、被覆部材5には、噴霧装置4としてネブライザーヘッドが取り付けられている。
【0063】
まず、インサートカップ1内で3次元皮膚モデル(LabCyte EPI―MODEL:株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)を培養した。そして、空隙防止プレート2と共に、3次元皮膚モデルが培養されたインサートカップ1を24ウェルプレートに配置し、3次元細胞培養装置10Dにセットした。そして、この3次元細胞培養装置10Dを用いて、細胞障害性試験を実施した。
【0064】
まず、ネブライザーヘッド(噴霧装置4)に40%エタノール溶液を10ml入れ、3次元皮膚モデルに対して、一定の噴霧量で1時間かけて全量曝露した。その後、後培養として、37℃インキュベーターにて上記3次元皮膚モデルを24時間培養した。24時間培養後の3次元皮膚モデルの細胞生存率に基づく細胞障害性を細胞毒性アッセイキット(Cell Counting Kit―8:同仁化学研究所製)を用いて測定した。
【0065】
(比較例1)
空隙防止プレート2無しで、3次元皮膚モデルが培養されたインサートカップ1を24ウェルプレートに配置した以外、実施例1と同様に細胞障害性試験を実施した。
【0066】
(結果)
実施例1では、3次元皮膚モデルの細胞生存率は、気相曝露していない未処理の3次元皮膚モデルの細胞生存率と比較して、103%であった。一方、比較例1では、3次元皮膚モデルの細胞生存率は、未処理の3次元皮膚モデルの細胞生存率と比較して、79%であった。比較例1の結果から、エタノール溶液が培養液に混入することにより、細胞毒性が認められた。
【0067】
実施例1の3次元皮膚モデルの細胞生存率から、40%エタノール溶液の噴霧曝露は、3次元皮膚モデルの角質層からのみの曝露において、3次元皮膚モデルに対して細胞毒性を示さないことがわかった。一方、比較例1では、エタノール溶液が培養液に混入し、3次元皮膚モデルの基底層側から曝露することによって、3次元皮膚モデルに対して細胞障害性が起こった。その結果、比較例1では、本来測定すべき細胞毒性を適切に評価できていないと考えられる。一方、実施例1では、空隙防止プレート2を配置することによって、3次元皮膚モデルに対する噴霧曝露において、細胞毒性を適切に評価できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、化粧品分野、医療分野等に、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1、1A インサートカップ
1d 凹部(空隙部、連通部)
2、2A、2B、2C 空隙防止プレート
2b 凸部
3 ウェルプレート
3a ウェル
3b 隙間部(空隙部)
4 噴霧装置
5 被覆部材
10、10A、10B、10C 本培養装置(3次元細胞培養装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7