(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132354
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、包あんベーカリー製品用ミックス、及び包あんベーカリー製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20230914BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20230914BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230914BHJP
A21D 13/40 20170101ALI20230914BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20230914BHJP
A21D 13/31 20170101ALI20230914BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230914BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D2/36
A21D13/00
A21D13/40
A21D13/60
A21D13/31
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037617
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 真之
【テーマコード(参考)】
4B032
4B036
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB24
4B032DB40
4B032DE06
4B032DG02
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4B036LP01
4B036LP14
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】包あんベーカリー製品のドウ生地を製造するための組成物であって、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有する包あんベーカリー製品を製造することができる組成物、及び包あんベーカリー製品の製造方法を提供する。
【解決手段】ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物であって、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有することを特徴とする小麦粉組成物、包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物を含むミックスであって、前記小麦粉組成物が、本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物であることを特徴とするミックス、及び本発明の小麦粉組成物、又は本発明のミックスを用いてドウ生地を調製する工程、前記ドウ生地を用いて包あん生地を調製する工程、前記包あん生地を加熱する工程を含む包あんベーカリー製品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物であって、
オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有することを特徴とする包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記オーストラリア産小麦から得られた小麦粉の含有率が、50質量%以上である請求項1に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項3】
前記オーストラリア産小麦から得られた小麦粉(水分14.5質量%換算で)のたん白質含量が、7.5~12.5質量%である請求項1又は2に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項4】
前記オーストラリア産小麦が、オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)である請求項1~3のいずれか1項に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項5】
前記包あんベーカリー製品が、包あんパン類である請求項1~4のいずれ1項に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項6】
前記包あんベーカリー製品が、油ちょう加熱包あんベーカリー製品である請求項1~5のいずれか1項に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物。
【請求項7】
ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物を含むミックスであって、
前記小麦粉組成物が、請求項1~6のいずれか1項に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物であることを特徴とする包あんベーカリー製品用ミックス。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、又は請求項7に記載の包あんベーカリー製品用ミックスを用いてドウ生地を調製する工程、
前記ドウ生地を用いて包あん生地を調製する工程、
前記包あん生地を加熱する工程を含む包あんベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品用小麦粉組成物に関し、具体的には、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有する包あんベーカリー製品を製造することができる包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、それを含む包あんベーカリー製品用ミックス、及びそれらを用いる包あんベーカリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カレーパン、あんドーナツ、あんパン、ジャムパン、中華まん等のドウ生地を用いる包あんベーカリー製品は、ドウ生地でフィリングを包んで成形し、油ちょう、焼成、蒸し調理等によって加熱して製造される。通常、包あんベーカリー製品では、ドウ生地部分は加熱時に大きく膨化する一方、フィリングの膨化の程度は小さいため、ベーカリー製品内部に空洞が生じ易い。このようなベーカリー製品は、製造後一定時間が経過すると、表面が凹み、しわが生じてしまったり、復元性が低い(つぶれやすい)食感になったりする場合が多い。この現象は、特に加熱方法が油ちょうの場合に生じ易い。
【0003】
従来、包あんベーカリー製品の品質を改善するための開発は行われている。例えば、特許文献1では、極めてやわらかい性状を有する内容物を量産工程に載せて二重包又は三重包等多重に包あん成形し、あんぱん等の形態に製品化する包あん成形複合体食品の製造方法を提供することを目的とし、加熱工程を要して製品化され、少なくとも一種類の内容物を包あん成形した複合体食品の製造方法において、第1食材にゲル化剤を添加し、この第1食材を前記ゲル化反応に寄与する食品添加物を含有する第2食材で包あん成形した複合体を加熱工程に供し製品化することを特徴とする包あん成形複合体食品の製造方法が開示されている。また、特許文献2では、簡便にフィリングを包あんした膨化食品を製造でき、且つ、包あんしたフィリングがはみ出したりして外観を損なうことなく、食感が硬かったり、ねちゃついたりといった食感の問題を解決できる膨化食品の製造方法を提供することを目的とし、油脂、カゼイン類を必須成分とし、油相が連続相であることを特徴とする膨化食品包あん用油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-236464号公報
【特許文献2】特開平2008-141976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術は、包あんベーカリー製品のフィリングの組成等の改良に関するものであり、包あんベーカリー製品のドウ生地に関する技術開発はほとんど行われていなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、包あんベーカリー製品のドウ生地を製造するための組成物であって、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有する包あんベーカリー製品を製造することができる組成物、及び包あんベーカリー製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、包あんベーカリー製品のドウ生地に用いる小麦粉の種類について、鋭意検討した結果、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を用いることで上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物であって、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有することを特徴とする包あんベーカリー製品用小麦粉組成物によって達成される。なお、本発明において、「包あんベーカリー製品」は、ドウ生地で餡、ペースト、具材等のフィリングを包んで成形し、油ちょう、焼成、蒸し調理等によって加熱して製造されるカレーパン、あんドーナツ、あんパン、ジャムパン、中華まん等のベーカリー製品のことを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品が、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有するように製造することができる包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、包あんベーカリー製品用ミックス、及び包あんベーカリー製品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の保形性評価における評価1点、3点、及び5点のカレーパンの断面写真の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[包あんベーカリー製品用小麦粉組成物]
本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物は、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物であって、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有することを特徴とする。包あんベーカリー製品のドウ生地を調製する小麦粉に、上記特徴の小麦粉組成物を用いることで、得られる包あんベーカリー製品が、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有するように製造することができる。後述する実施例で示す通り、ドウ生地を調製する小麦粉組成物に、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有しない場合、たん白質含量が同程度の小麦粉を用いても上記の効果は得られない。オーストラリア産小麦から得られた小麦粉は、一般に、準強力粉、中力粉として、中華麺、餃子の皮、うどん、即席めん、ビスケット、和菓子等に利用されてきた。オーストラリア産小麦から得られた小麦粉のパン類への利用としては、特開2005-328789号公報に、原料として軟質小麦を用いた場合でも二次加工適性、特に製パン適性および製麺適性に優れ、かつ特にパン類や、中華麺類および即席麺類に加工した場合に、高品質のパン類や、中華麺類および即席麺類が得られる小麦粉等を提供することを目的として、原料を軟質小麦とし、粒径が45~150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45~100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉が開示され、原料の軟質小麦として、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホイート(ASW)が挙げられている程度である。本発明においては、上記特許文献のような特殊な粒度分布のものではなく一般的な製粉工程で得られた小麦粉を用いる。
【0012】
本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物において、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉の含有率は、本発明の効果が得られれば、特に制限はない。前記オーストラリア産小麦から得られた小麦粉の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。これにより本発明の効果がさらに得られる。
【0013】
本発明において、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉(水分14.5質量%換算で)のたん白質含量は、7.5~12.5質量%であることが好ましく、7.5~12.0質量%であることがより好ましく、8.0~11.0質量%であることがさらに好ましく、8.0~10.0質量%であることが特に好ましい。前記オーストラリア産小麦としては、オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)、オーストラリアン・ハード(AH)、オーストラリアン・プライム・ハード(APH)、オーストラリアン・プレミアム・ホワイト(APW)、等が挙げられる。本発明においては、前記オーストラリア産小麦は、オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)であることが好ましい。これらの原料小麦から得られる小麦粉は、原料小麦の表皮や胚芽部分を除いて製粉する通常の小麦粉でもよく、原料小麦の粒全体を製粉する全粒粉でもよい。
【0014】
本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物において、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉以外の小麦粉は、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品に使用できるものであれば、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り特に制限はない。例えば、アメリカ産のダーク・ノーザン・スプリング(DNS)、ハード・レッド・ウインター(HRW)、カナダ産のNo.1カナダ・ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)、日本産のゆめちから、春よ恋等の硬質小麦の原料小麦から得られる小麦粉、アメリカ産のウエスタン・ホワイト(WW)、ソフト・レッド・ウインター(SRW)、日本産のさとのそら、きたほなみ、あやひかり等の軟質及び中間質小麦の原料小麦から得られる小麦粉、並びにデュラム小麦等の原料小麦から得られる小麦粉が挙げられる。これらの小麦粉は、原料小麦の表皮や胚芽部分を除いて製粉する通常の小麦粉でもよく、原料小麦の粒全体を製粉する全粒粉でもよい。また、これらの小麦粉を加熱処理した加熱処理小麦粉を組み合わせてもよい。
【0015】
本発明において、原料小麦から小麦粉を製造する方法としては、常法に従って実施すればよく、例えば、精選した小麦粒を、加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行ってもよい。また、ピーリング工程や一般的な粉砕機(石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等)を用いた粉砕工程、分級工程、加熱処理工程を必要に応じて組合せてもよい。
【0016】
本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物を用いて製造される包あんベーカリー製品としては、小麦粉を主成分として調製されたドウ生地で、あん、ペースト、具材等のフィリングを包んで成形し、油ちょう、焼成、蒸し調理等によって加熱して製造される製品であれば、特に制限はない。例えば、カレーパン、あんドーナツ、あんパン、ジャムパン、クリームパン、中華まん、ケーキあんドーナツ等が挙げられる。本発明においては、本発明の効果がより得られる点で、前記包あんベーカリー製品が、カレーパン、あんドーナツ、あんパン、ジャムパン、中華まん等のパン酵母を含むドウ生地を用いる包あんパン類であることが好ましい。また、油ちょうによって加熱して製造される、カレーパン、あんドーナツ、ケーキあんドーナツ等の油ちょう加熱包あんベーカリー製品が好ましい。
【0017】
[包あんベーカリー製品用ミックス]
本発明の包あんベーカリー製品用ミックスは、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物を含むミックスであって、前記小麦粉組成物が、本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物であることを特徴を有する。本発明の包あんベーカリー製品用ミックスを用いることで、上述の通り、得られる包あんベーカリー製品が、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有するように製造することができる。本発明の包あんベーカリー製品用ミックスは、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、包あんベーカリー製品に一般的に用いられる小麦粉以外の穀粉や澱粉、その他の成分を適宜含むことができる。穀粉としては、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、米粉等の他、小麦ふすま、大豆皮等の穀物皮粉砕物等が挙げられる。澱粉としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工の澱粉、これらの澱粉に加工処理、例えば、焙焼;α化;酵素処理;酸処理;酸化処理;アルカリ処理;架橋処理;アセチル化等のエステル化処理;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化処理等の物理的又は化学的加工処理を単独又は複数組合せて施した加工澱粉等の澱粉が挙げられる。その他の成分としては、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;パン酵母、ベーキングパウダー、増粘多糖類、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、酵素製剤、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等が挙げられる。なお、本発明の包あんベーカリー製品用ミックスの好ましい態様は、本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物の場合と同様である。
【0018】
[包あんベーカリー製品の製造方法]
本発明の包あんベーカリー製品の製造方法は、本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、又は本発明の包あんベーカリー製品用ミックスを用いてドウ生地を調製する工程、前記ドウ生地を用いて包あん生地を調製する工程、前記包あん生地を加熱する工程を含む。本発明の製造方法は、常法に従って実施することができる。例えば、ドウ生地の材料として、前記包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、又は前記包あんベーカリー製品用ミックス、必要に応じて、上述の小麦粉以外の穀粉や澱粉、その他の成分、及び水、液卵、牛乳、パン酵母、油脂等の材料を用い、これらの材料を常法に従って混捏してドウ生地を調製する。次いで、得られたドウ生地を、必要に応じて発酵させ、別途調製した餡、ペースト、具材等のフィリングを包あんし、包あん生地を調製する。包あん生地を調製する工程は、手包みでもよく、包あん機等を用いた機械包あんでもよい。得られた包あん生地を、必要に応じて発酵させたり、パン粉等のトッピングを付着させたりした後、常法に従って加熱(油ちょう、焼成、蒸し調理)することで包あんベーカリー製品を製造することができる。加熱条件等は、製造する包あんベーカリー製品に応じて適宜設定することができる。また、一般に、包あんベーカリー製品を冷凍保存した後、再加熱した場合、さらに表面が凹み、しわが生じ易くなり、復元性が低い(つぶれやすい)食感になり易い傾向があるが、本発明の製造方法により得られた包あんベーカリー製品は、冷凍保存した後、再加熱しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有する。したがって、本発明の包あんベーカリー製品の製造方法は、得られた製品を冷凍する工程を含むことが好ましい。なお、ドウ生地がパン酵母を含むドウ生地(パン生地)の場合、例えば、製パン法として、中種法、ストレート法、ノータイム法、湯種法、発酵種を用いた製パン法等の公知の方法を用いることができる。パン生地を冷凍し、適宜解凍して用いる冷凍パン生地の態様をとることもできる。なお、本発明の包あんベーカリー製品用ミックスの好ましい態様は、本発明の包あんベーカリー製品用小麦粉組成物の場合と同様である。
【実施例0019】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.使用小麦粉について
試験に使用した小麦粉の原料小麦、物性を表1に示した。なお、たん白質含量は、ケルダール法によって窒素含量を定量し、窒素-たん白質換算係数(5.70)を乗じて算出し、小麦粉の水分が14.5質量%とした際の数値に換算し、灰分は、AACC Method08-02に従って、直接灰化法で測定した。なお、小麦粉の水分は、乾燥重量法で測定した。また、粒度分布プロフィール(累積20%に到達する粒径範囲、及び中位径)は、レーザー回折式粒度測定装置を用いて測定した。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS(日本レーザー製)を用い、フラウンホーファー回折によって体積基準分布(頻度分布)から累積20%に到達する粒径範囲を求め、累積50%粒径を中位径とした。
【0020】
【0021】
2.カレーパンの試験
2-1カレーパンの製造
包あんベーカリー製品としてカレーパンを選定し、表1に示した小麦粉を含む表2及び表3に示した材料の配合で、以下の方法で、各実施例、比較例のカレーパンを製造した。
(1)ショートニング以外の材料をボウルに入れ、ミキサーの低速で3~4分間、中速で4~5分間、高速で0~2.5分間ミキシングした。ミキシング条件は生地の状態を見ながら調整した。
(2)(1)にショートニングを添加し、さらにミキサーの低速で2分間、中速で2.5~4分間、高速で0~1.5分間ミキシングしてドウ生地を調製した。ミキシング条件は生地の状態を見ながら調整した。
(3)(2)で調製した生地を室温(20~27℃)、相対湿度75%の条件下で20分間のフロアタイムをとった後、40gに分割して丸め、ベンチタイムを分割開始から20分間とった後、カレーフィリング30gを包あんし、包あん生地を調製した。
(4)(3)の包あん生地を36℃、相対湿度60%の条件下でホイロを50分間とった後、室温に10分間静置後、170℃で2分間油ちょうした後反転し、さらに2分間油ちょうし、カレーパンを得た。なお、蒸し調理のカレーパンの場合は、95℃で14分間蒸し加熱して得た。
2-2.カレーパンの評価
(1)カレーパンの保形性
得られたカレーパンについて、以下の条件(i)~(iii)の条件で外観観察、及び必要に応じて断面観察を行い、以下の評価基準に従って保形性を評価した。なお、
図1に、評価1点、3点、及び5点のカレーパンの断面写真の例を示す。訓練を受けた専門パネル5名の平均値を評価結果とした。
<条件>
(i)油ちょう後、常温1日放置(D+1)
(ii)製品を冷凍した後、解凍しリフライ(再油ちょう)(180℃で2分間油ちょう後、反転2分間油ちょう)後、常温放置
(iii)製品を冷凍した後、解凍しオーブントースターで再加熱(予熱後3分間加熱)、常温放置
<評価基準>
5:加熱後に粗熱が冷めてから皺や凹みが生じない、又はパンをカットする時に潰れて沈み込まず、丸い形状をそのまま維持している
4:加熱後に粗熱が冷めてから皺や凹みがほとんど生じない、又はパンをカットする時に潰れて沈み込むことがほとんどなく、丸い形状がほぼ維持されている
3:加熱後に粗熱が冷めてから皺や凹みがあまり生じない、又はパンをカットする時に潰れて沈み込むことがあまりなく、丸い形状が概ね維持されている。
2:加熱後に粗熱が冷めてから皺や凹みがやや生じている、又はパンをカットする時にやや潰れて沈み込み、丸い形状がやや潰れている
1:加熱後に粗熱が冷めてから皺や凹みが生じ、又はパンをカットする時に潰れて沈み込み、丸い形状が潰れている
(2)カレーパンの復元性(ふんわり感)
得られたカレーパンを上記(1)の(i)~(iii)の条件で喫食し、以下の評価基準に従って復元性(ふんわり感)を評価した。訓練を受けた専門のパネル5名の平均値を評価結果とした。
5:復元性が非常に良く、咀嚼時にパン生地が口内で非常に潰れ難く、団子状の食感に非常になり難い
4:復元性が良く、咀嚼時にパン生地が口内で潰れ難く、団子状の食感になり難い
3:復元性がややあり、咀嚼時にパン生地が口内でやや潰れ難く、団子状の食感にややなり難い
2:復元性がやや不十分であり、咀嚼時にパン生地が口内で潰れ易く、団子状の食感になり易い
1:復元性が不十分であり、咀嚼時にパン生地が口内で非常に潰れ易く、団子状の食感に非常になり易い
(3)吸油感
得られたカレーパン(蒸し調理カレーパンを除く)を上記(1)の(ii)の条件で喫食し、以下の基準で吸油感を評価した。訓練を受けた専門のパネル5名の平均値を評価結果とした。
5:咀嚼中に生地から溢れ出る油の量が非常に少なく感じ、フライ油のべたつきを非常に感じ難い
4:咀嚼中に生地から溢れ出る油の量が少なく感じ、フライ油のべたつきを感じ難い
3:咀嚼中に生地から溢れ出る油の量がやや少なく感じ、フライ油のべたつきをやや感じ難い
2:咀嚼中に生地から溢れ出る油の量が多く感じ、フライ油によるべたつきを感じ易い
1:咀嚼中に生地から溢れ出る油の量が非常に多く感じ、フライ油によるべたつきを非常に感じ易い
評価結果を表2及び表3に示す。
【0022】
【0023】
【0024】
表2及び表3に示した通り、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉D~Gを含有する小麦粉組成物を用いてカレーパンのドウ生地を調製して製造した実施例1~9のカレーパンは、一般的な強力粉である小麦粉Aを用いた比較例2、小麦粉Aと薄力粉である小麦粉Bを混合し、たん白質含量を調整して用いた比較例1(蒸し加熱の場合は比較例4)、日本産小麦から得られた小麦粉Cを用いた比較例3と比較して、どの条件であっても保形性の評価、及び復元性の評価が高く、油ちょう加熱の場合は、さらに吸油感の評価も高かった。また、実施例1~4を比較すると実施例1及び実施例2の評価が高いことから、オーストラリア産小麦はASWが好ましいことが示唆された。オーストラリア産小麦から得られた小麦粉の含有率としては、実施例1、及び実施例5~8を比較すると、小麦粉組成物中に10質量%でも効果が認められ、50質量%以上が好ましいことが示唆された。さらに、油ちょう加熱によって製造されたカレーパンの比較例1及び実施例1の評価の差と、蒸し加熱によって製造されたカレーパンの比較例4及び実施例9の評価の差を比較すると、蒸し加熱の場合より、油ちょう加熱の場合に差が大きいことから油ちょう加熱の場合に高い効果が得られることが示唆された。
【0025】
3.ケーキあんドーナツの試験
3-1ケーキあんドーナツの製造
包あんベーカリー製品としてケーキあんドーナツを選定し、表1に示した小麦粉を含む表4に示した材料の配合で、以下の方法で、各実施例、比較例のケーキあんドーナツを製造した。なお、サラダ油は昭和産業(株)製を用いた。
(1)材料をボウルに入れ、ミキサーの低速で1分間、ボウル壁面の生地を掻き落として、さらに低速で1分間ミキシングしてドウ生地を調製した。
(2)(1)で調製した生地を、35gに分割して丸め、あん30gを包あんし、包あん生地を調製した。
(3)(2)の包あん生地を、180℃で2分間油ちょうした後反転し、さらに2分間油ちょうし、ケーキあんドーナツを得た。
3-2.ケーキあんドーナツの評価
(1)ケーキあんドーナツの保形性
得られたケーキあんドーナツについて、上記2-2(1)と同様に保形性を評価した。
(2)ケーキあんドーナツの口溶け
得られたケーキあんドーナツを上記2-2(1)の(i)~(iii)の条件で喫食し、以下の評価基準に従って口溶けを評価した。訓練を受けた専門のパネル5名の平均値を評価結果とした。
5:口溶けが非常に良好
4:口溶けが良好
3:口溶けがやや良好
2:口溶けがやや悪い
1:口溶けが悪い
(3)吸油感
得られたケーキあんドーナツについて、上記2-2(3)と同様に吸油性を評価した。
評価結果を表4に示す。
【0026】
【0027】
表4に示した通り、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉D~Gを含有する小麦粉組成物を用いてケーキあんドーナツのドウ生地を調製して製造した実施例10~13のケーキあんドーナツは、一般的な強力粉である小麦粉Aを用いた比較例6、小麦粉Aと薄力粉である小麦粉Bを混合し、たん白質含量を調整して用いた比較例5、日本産小麦から得られた小麦粉Cを用いた比較例7と比較して、どの条件であっても保形性の評価が高かった。また、口溶けの評価、吸油感の評価も同等以上であった。また、実施例10~13を比較すると実施例10及び実施例11の評価が高いことから、オーストラリア産小麦はASWが好ましいことが示唆された。
【0028】
4.中華まんの試験
4-1中華まんの製造
包あんベーカリー製品として中華まんを選定し、表1に示した小麦粉を含む表5に示した材料の配合で、以下の方法で、各実施例の中華まんを製造した。
(1)ラード以外の材料をボウルに入れ、ミキサーの低速で3分間、中速で4.5分間ミキシングした。
(2)(1)にラードを添加し、さらにミキサーの低速で2分間、中速で3~3.5分間ミキシングしてドウ生地を調製した。ミキシング条件は生地の状態を見ながら調整した。
(3)(2)で調製した生地を室温(20~27℃)、相対湿度75%の条件下で20分間のフロアタイムをとった後、60gに分割して丸め、ベンチタイムを分割開始から20分間とった後、肉まんフィリング30gを包あんし、包あん生地を調製した。
(4)(3)の包あん生地を424℃、相対湿度40%の条件下でホイロを50分間とった後、室温に10分間静置後、95℃で14分間蒸し加熱して中華まんを得た。
4-2.中華まんの評価
(1)中華まんの保形性
得られた中華まんについて、上記2-2(1)と同様に保形性を評価した。ただし、評価条件は、以下の条件に従った。
<条件>
(iv)蒸し加熱直後
(v)蒸し加熱後、什器保管(温度90℃、湿度100%)1時間
(vi)蒸し加熱後、什器保管(温度90℃、湿度100%)6時間
(2)中華まんの口溶け
得られた中華まんを上記4-2(1)の(iv)~(vi)の条件で喫食し、上記3-3(2)と同様に口溶けを評価した。
評価結果を表8に示す。
【0029】
【0030】
表5に示した通り、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉D及小麦粉Eを含有する小麦粉組成物を用いて中華まんのドウ生地を調製して製造した実施例14及び実施例15の中華まんは、どの条件であっても保形性の評価、及び口溶けの評価が3.5以上の高い評価であった。
【0031】
以上の結果から、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品を製造するための小麦粉組成物として、オーストラリア産小麦から得られた小麦粉を含有する小麦粉組成物を用いることで、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、すなわち保形性が高く、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有する包あんベーカリー製品を製造することができることが示唆された。
【0032】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
本発明により、ドウ生地を用いる包あんベーカリー製品が、製造後一定時間経過しても、表面に凹みやしわが少なく、復元性が高い(ふんわりとした)食感を有するように製造することができる包あんベーカリー製品用小麦粉組成物、包あんベーカリー製品用ミックス、及び包あんベーカリー製品の製造方法を提供することができる。