IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 新潟大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ 大林道路株式会社の特許一覧

特開2023-132377機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム
<>
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図1
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図2
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図3
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図4
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図5
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図6
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図7
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図8
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図9
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図10
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図11
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図12
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図13
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図14
  • 特開-機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132377
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/24 20060101AFI20230914BHJP
   F17D 5/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01M3/24 A
F17D5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037642
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 司
(72)【発明者】
【氏名】島本 由麻
(72)【発明者】
【氏名】北野原 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】本間 順
【テーマコード(参考)】
2G067
3J071
【Fターム(参考)】
2G067AA13
2G067BB23
2G067CC02
2G067DD13
2G067EE08
2G067EE09
2G067EE13
3J071AA12
3J071EE05
3J071EE19
3J071EE21
3J071EE22
3J071EE31
3J071FF12
(57)【要約】
【課題】単一センサによってAE波を計測するとともに、機械学習によって送配水パイプラインを含む加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、漏洩現象の同定方法及び同定システムを提供する。
【解決手段】単一の漏洩センサによって計測したAE波によって加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な漏洩現象の同定方法であって、前記加圧パイプラインに設置した前記単一の漏洩センサによってAE波を計測する計測ステップと、計測したAE波を機械学習する学習ステップと、前記学習ステップにおいてAEパラメータを抽出する抽出ステップと、抽出された前記AEパラメータに基づいて前記加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定する漏洩現象同定ステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の漏洩センサによって計測したAE波によって加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な機械学習による漏洩現象の同定方法であって、
前記加圧パイプラインに設置した前記単一の漏洩センサによってAE波を計測する計測ステップと、
計測したAE波を機械学習する学習ステップと、
前記学習ステップにおいてAEパラメータを抽出する抽出ステップと、
抽出された前記AEパラメータに基づいて前記加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定する漏洩現象同定ステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とする機械学習による漏洩現象の同定方法。
【請求項2】
前記AEパラメータは、AMP、RISE、DURATION、COUNT、A-FRQ、C-FRQ、RMS、P-FRQのうちの少なくともいずれかである
請求項1に記載の機械学習による漏洩現象の同定方法。
【請求項3】
前記漏洩現象同定ステップでは、前記流体の漏洩現象として、漏洩現象の有無、漏洩位置、漏洩規模(漏洩孔の径)のうちの少なくともいずれかを同定可能である
請求項1又は2に記載の機械学習による漏洩現象の同定方法。
【請求項4】
前記学習ステップでは、アルゴリズムを決定木又はランダムフォレストとする
請求項1乃至3のいずれかに記載の機械学習による漏洩現象の同定方法。
【請求項5】
前記加圧パイプラインは送配水パイプラインであり、前記流体は水である
請求項1乃至4のいずれかに記載の機械学習による漏洩現象の同定方法。
【請求項6】
加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な機械学習による漏洩現象の同定システムであって、
前記加圧パイプラインに設置される単一の漏洩センサと、
前記単一の漏洩センサによって計測した計測データを解析する計測データ解析部と、
前記単一の漏洩センサによる計測条件を設定する計測条件設定部と、
前記加圧パイプラインにおける漏洩現象を同定するためのAEパラメータを抽出するパラメータ抽出部と、
教師あり学習によって所定のアルゴリズムを構築する機械学習部と、
前記加圧パイプラインにおける漏洩現象の同定情報を出力する漏洩情報出力部と、
計測対象となる前記加圧パイプラインの施設情報を入力する計測施設情報入力部と、を少なくとも有する
ことを特徴とする機械学習による漏洩現象の同定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一センサによってAE波を計測するとともに、機械学習によって加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、漏洩現象の同定方法及び同定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上水道や産業用水に代表される内水圧を利用した送配水パイプラインでは、老朽化に伴う漏水事故が多く発生しており、漏水現象を同定する手法の開発が進められている。具体的には、漏水の有無及び漏水位置の同定手法として、複数地点にセンサを設置し、計測された漏水波形の相違から、漏水箇所を推定する手法が多く提案されており、例えば特許文献1には、低周波成分に対する高周波成分の比率を算出することで、漏水箇所を推定する方法が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、単一センサを1地点に設置して、漏水経路や漏水位置を推定する漏水位置推定システムの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-039858号公報
【特許文献2】特開2021-183936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、2地点に設置されたセンサで同程度の精度で漏水波を検出する必要があることに加えて、作業負担が単一センサの場合と比較して大きいといった課題がある。また、特許文献2に開示されているシステムにあっても、漏水規模の同定手法については確認されておらず、さらに、漏水の有無や漏水位置の同定における有用な波形パラメータも十分に明らかになっていない。
【0006】
すなわち、従来技術においては、漏水の有無や漏水位置、漏水の規模を単一のセンサで正確に同定できる手法が依然として確立されていない。
【0007】
そこで本願発明は、単一センサによってAE波を計測するとともに、機械学習によって送配水パイプラインを含む加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、漏洩現象の同定方法及び同定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、単一の漏洩センサによって計測したAE波によって加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な機械学習による漏洩現象の同定方法であって、前記加圧パイプラインに設置した前記単一の漏洩センサによってAE波を計測する計測ステップと、計測したAE波を機械学習する学習ステップと、前記学習ステップにおいてAEパラメータを抽出する抽出ステップと、抽出された前記AEパラメータに基づいて前記加圧パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定する漏洩現象同定ステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【0009】
本発明の構成によれば、これまで明確になっていなかった、漏洩の有無や漏洩位置、漏洩の規模を同定する際に有効なAEパラメータを特定することにより、単一の漏洩センサで各漏洩現象を高精度に同定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態における、漏水現象の同定フローである。
図2】本発明の実施形態において、モデル配水パイプラインにおける漏水センサの配置態様を示した模式平面図である。
図3】検出した連続するAE波の波形の一例であって、(a)はモデル配水パイプラインに漏水孔がある場合の波形であり、(b)はモデル配水パイプラインに漏水が無い場合の波形である。
図4】本発明の実施形態における、説明変数であるAEパラメータを説明するためのAE波の波形等である。
図5】本発明の実施形態における、漏水有無の判別結果について、モデルの精度となるF値を示した表である。
図6】漏水有無の判別精度が高かった決定木とランダムフォレストにおける重要度の高いAEパラメータ上位3つを示した表である。
図7】本発明の実施形態における、漏水位置の同定結果について、モデルの精度となるF値を示した表である。
図8】漏水位置の同定精度が高かった決定木とランダムフォレストにおける重要度の高いAEパラメータ上位3つを示した表である。
図9】漏水位置の同定精度が高かった決定木とランダムフォレストにおける重要度の最も高いAEパラメータを示した表である。
図10】本発明の実施形態における、漏水規模の同定結果について、モデルの精度となるF値を示した表である。
図11】漏水規模の同定精度が高かった決定木とランダムフォレストにおける重要度の高いAEパラメータ上位3つを示した表である。
図12】漏水規模の同定精度が高かった決定木とランダムフォレストにおける重要度の最も高いAEパラメータを示した表である。
図13】(a)は実構造物における検証によって得られた決定木における説明変数の重要度を示すグラフであり、(b)はランダムフォレストにおける説明変数の重要度を示すグラフである。
図14】実構造物である送水パイプラインにおける漏水箇所の漏水状況写真である。
図15】本発明の実施形態における、漏水現象の同定システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システムについて、送配水パイプラインにおける漏水現象の同定方法を例に、その実施形態を説明する。
【0012】
そして本実施形態の送配水パイプラインにおける漏水現象の同定方法及び同定システムは、送配水パイプラインにおけるAcoustic Emission波(以下、単に「AE波」と称する。)を機械学習することで、送配水パイプライン上における漏水の有無や漏水位置、漏水の規模を、単一の漏水センサ1で同定可能とするものである。
【0013】
すなわち、これまで明確になっていなかった、漏水の有無や漏水位置、漏水の規模を同定する際に有効なAEパラメータを特定することにより、単一の漏水センサ1で各漏洩現象を高精度に同定することを可能にするものである。
【0014】
(漏水現象の同定フロー)
図1には、本実施形態における漏水現象の同定フローが図示されている。まず簡単にフローを説明すると、ステップS100では、公知の弾性波計測器と共振型センサから成る漏水センサ1を使用して、送配水パイプラインにおけるAE波の計測を行う。
【0015】
続くステップS101では、AE波の検出の有無が判断され、AE波の検出が無ければステップS102において計測条件の再設定が行われる。計測条件の再設定では、周波数帯の調整のほか、プリアンプの調整、図4に示される振幅の検出閾値の調整などが行われる。ステップS101でAE波の検出があると判断されると、ステップ103においてクラスラベルの付与が行われる。
【0016】
続いてステップS104では本実施形態の機械学習モデルによって、漏水の有無が判別される。漏水有りの判断がされると、当該判断に有効なAEパラメータがステップS105で抽出される。
【0017】
次に、ステップS106では本実施形態の機械学習モデルによって、漏水位置の同定ができたか否かが判断される。漏水位置の同定ができたと判断されると、当該判断に有効なAEパラメータがステップS107で抽出される。漏水位置の同定ができないと判断された場合は、前述したように、ステップS102において計測条件の再設定が行われる。
【0018】
続いてステップS108では本実施形態の機械学習モデルによって、漏水規模の同定ができたか否かが判断される。漏水規模の同定ができたと判断されると、当該判断に有効なAEパラメータがステップS109で抽出される。漏水規模の同定ができないと判断された場合は、前述したように、ステップS102において計測条件の再設定が行われる。
【0019】
(モデル配水パイプラインにおける調査・検証)
本実施形態では、各種漏水現象の同定及び有効なAEパラメータを検証するため、図2に示されるようなモデル配水パイプラインPを設置して検証を行った。当該モデル配水パイプラインPの上流側には地上高2.9mの架台を設け、当該架台上に不図示の水槽を設置している。また、下流側には不図示の末端バルブが設けられ、放流の有無を切替え可能に構成している。すなわち、当該モデル配水パイプラインPは、高圧の送水パイプラインから枝分かれする、比較的に低圧の配水パイプラインを想定したものとなる。また、各漏水センサ1の漏水孔Hとの配置関係は図2に示されるとおりである。モデル配水パイプラインPにおけるAE波の計測に際しては、漏水孔Hが有るモデル配水パイプラインP及び漏水孔Hの無い無損傷のモデル配水パイプラインPを対象にしてAE波の計測を実施している。なお参考までに、本実施形態のモデル配水パイプラインPは、内径100.8mmのVP管を使用したものである。
【0020】
計測ケースとしては下の表1に示すとおりであり、モデル配水パイプラインPの末端バルブ(不図示)を閉塞し、漏水孔Hからの排水のみであるケースが「Case A」、末端バルブの開度を11.3°とし、漏水孔Hと末端バルブの両方から排水を行ったケースを「Case B」、 漏水孔Hの無い無損傷のモデルパイプラインPにおいて、末端バルブの開度を11.3°とし、末端バルブのみから排水を行ったケースを「Case C」としている。
【0021】
【表1】
【0022】
また、漏水孔Hに対して各漏水センサ1を図2に示されるように配置し、「ch1」、「ch4」、「ch5」、「ch8」には150kHzの共振型センサ(R15α)を、「ch2」、「ch6」には60kHzの共振型センサ(R6α)を、「ch3」、「ch7」には30kHzの共振型センサ(R3α)を取り付けている。
【0023】
なお、上記各漏水センサ1は、高真空シール用オイルコンパウンドを用いてモデル配水パイプラインPの管体下部に接着し、さらにバンドを巻いて管体に固定している。
【0024】
また、計測条件として、プリアンプの増幅値は40dbとし、後述する検出閾値を30dbとしている。AE波の計測間隔は1MHzとしている。なお、水圧による影響を確認するために、モデル配水パイプラインPの上流部と下流部に、それぞれ圧力センサを配置し、AE波の計測と併せて同期信号としてそれぞれの水圧の計測を行っている。以上、AE波の計測条件については表2に示すとおりである。
【0025】
【表2】
【0026】
そして、モデル配水パイプラインPにおける漏水センサ1が検出したAE波を機械学習することで、各漏水現象の同定及び有効なAEパラメータの抽出が可能となっている。参考として、図3には、検出した連続するAE波の波形の一例が示されており、(a)にはモデル配水パイプラインPに漏水孔Hがある場合の波形が、(b)にはモデル配水パイプラインPに漏水が無い場合の波形がそれぞれ示されている。
【0027】
(機械学習における解析手法)
次に、機械学習による漏水の有無の同定及び有効なAEパラメータの抽出に関し、その解析方法を説明する。図4には、説明変数であるAEパラメータを説明するためのAE波の波形等が図示されている。
【0028】
図示されるように、本実施形態ではAEパラメータとして、最大振幅値である「AMP」、立ち上がり時間である「RISE」、継続時間である「DURATION」、所定の検出閾値との交点のカウント値となる「COUNT」に加え、平均周波数である「A-FRQ」、重心周波数である「C-FRQ」、実効値電圧である「RMS」、ピーク周波数である「P-FRQ」、以上8つのAEパラメータを計測したAE波から抽出している。
【0029】
続いて、「漏水の有無の判別」、「漏水位置の同定」、「漏水規模(漏水孔直径)の同定」について、設定したそれぞれのクラスラベルを表3~5に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
AE波の計測によって取得した計測データは、訓練用データと評価用データに分割してアルゴリズムを構築するとともに、アルゴリズムの評価精度を検証した。データサイズは「漏水の有無の判別」においては、訓練用データを70、評価用データを50とした。「漏水位置の同定」と「漏水規模(漏水孔直径)の同定」においては、訓練用データを40と200の2ケース、評価用データを200とし、データサイズが評価精度に及ぼす影響を検討している。
【0034】
アルゴリズムの構築に際して、教師あり学習のひとつである「決定木」、「ランダムフォレスト」、「サポートベクタマシン(以下、「線形SVM」と称す。)」を用いてアルゴリズムを構築している。
【0035】
以上のようにして機械学習モデルを構築し、当該機械学習モデルによる各種漏水現象の同定精度と、有効なAEパラメータの特定について以下に説明する。
【0036】
(1)漏水有無の判別
放流(末端バルブのバルブ開度11.3°)を行った状態の漏水の無いモデル配水パイプラインPと、漏水孔Hを有するモデル配水パイプラインPにて計測した計測データをもとに、機械学習による漏水有無の判別結果について、モデルの精度となるF値を図5に示している。図示されるように、アルゴリズムごとの精度を比較すると、決定木及びランダムフォレストが線形SVMと比較して高い精度が得られることが判る。
【0037】
漏水孔Hの直径ごとの精度を比較すると、漏水孔Hの直径が大きいほど判別精度が高く(図示破線A部)、漏水孔Hの直径が3mm以上のとき、F値が0.9以上を示して正確に漏水の有無が判別できることが判る。また、漏水センサ1の共振周波数によらず、漏水孔Hに近い「ch5」、「ch6」、「ch7」による判別精度が他の漏水センサ1と比較して高い傾向にある(図示実線B部)。
【0038】
また、図6には判別精度の高かった決定木とランダムフォレストの判別における重要度の高いAEパラメータ上位3つを示している。図示されるように、両アルゴリズムに共通して重要度の高いパラメータは、実効値電圧である「RMS」、ピーク周波数である「P-FRQ」、重心周波数である「C-FRQ」であることが明らかとなっている。
【0039】
決定木における重要度1位のAEパラメータの大部分が、実効値電圧である「RMS」であることから、1つのAEパラメータでも一定の判別精度が得られることが判る。
【0040】
また、漏水孔Hの直径によって重要なAEパラメータは異なり、漏水孔Hの直径が1mmの場合は、ピーク周波数である「P-FRQ」、漏水孔Hの直径が5mmの場合は、実効値電圧である「RMS」の重要度が高くなることが判る。
【0041】
以上により、決定木又はランダムフォレストを用いることで、漏水の有無を高精度で判別できることが明らかになった。加えて、判別に有効なAEパラメータは主として実効値電圧である「RMS」とピーク周波数である「P-FRQ」であることが明らかになった。
【0042】
(2)漏水位置の同定
放流(末端バルブのバルブ開度11.3°)有りの「Case B」と、放流なしの「Case A」の2条件において、漏水位置を同定することができるかをそれぞれ検討した。機械学習による漏水位置の同定結果についてモデルの精度となるF値を、上記の条件ごとに図7に示している。アルゴリズムごとの同定精度を比較すると、漏水有無の判別時と同様に、決定木及びランダムフォレストが線形SVMより高い精度が得られることが判る。
【0043】
また、データサイズで同定精度を比較すると、データサイズ200の方が高い同定精度が得られる傾向にあるものの、30kHz共振型センサ(R3α)を用いることで、データサイズによらず、F値0.9以上の高い同定精度が得られることが明らかとなっている(図示実線A部)。さらに、「放流なし」のケースで同定精度が高い傾向が確認され、加えて、漏水孔Hの直径が1mmのとき、60kHz及び150kHzの共振型センサで同定精度が低下することが示された。
【0044】
図8には、高い同定精度を示した決定木とランダムフォレストにおける重要度の高いAEパラメータ上位3つを示している。図示されるように、両アルゴリズムに共通して重要度の高いパラメータは、実効値電圧である「RMS」、ピーク周波数である「P-FRQ」、重心周波数である「C-FRQ」、所定の閾値との交点のカウント値となる「COUNT」である。
【0045】
なお、放流の有無によって重要なAEパラメータは異なり、図9に示されるように、「放流なし」のケースでは 実効値電圧である「RMS」、「放流あり」のケースではピーク周波数である「P-FRQ」が重要度の高いAEパラメータとなることが判る。
【0046】
以上により、30kHz共振型センサ(R3α)を用いることで、高精度に漏水位置を同定できることが明らかになった。加えて、「RMS」、「P-FRQ」、「C-FRQ」、「COUNT」が有効なAEパラメータであることが示された。
【0047】
(3)漏水規模の同定
放流(末端バルブのバルブ開度11.3°)有りの「Case B」と、放流なしの「Case A」の2条件において、漏水孔Hの直径を同定することができるかをそれぞれ検討した。アルゴリズムごとの同定精度を比較すると、図10に示されるように、これまでの前述(1)及び(2)の検討ケースと同様に、決定木及びランダムフォレストが線形SVMと比較して高い同定精度が得られた。
【0048】
また、データサイズで同定精度を比較すると、データサイズ200の方が高い同定精度が得られた。放流の有無で同定精度を比較すると、「放流なし」の方が高精度であることが示された。特に、データサイズが200で「放流なし」の場合、決定木とランダムフォレストの同定精度はどの共振型センサにおいてもF値0.94以上の非常に高い同定精度を示した。図10の実線A部に示されるように、「ch5」、「ch6」、「ch7」の同定精度が他の共振型センサよりも高いことから、「放流あり」の場合でも共振センサが漏水孔Hに近ければ漏水孔Hの規模は同定できる。
【0049】
図11には、高い同定精度を示した決定木とランダムフォレストにおける重要度の高いAEパラメータ上位3つを示している。両アルゴリズムに共通して重要度の高いパラメータは、実効値電圧である「RMS」、ピーク周波数である「P-FRQ」、所定の閾値との交点のカウント値となる「COUNT」である。
【0050】
また、図12に示されるように、AEパラメータである「RMS」は、放流の有無に関わらず重要な指標であることが示される一方、「放流あり」の場合は「COUNT」、「放流なし」の場合は「P-FRQ」の重要度も高くなることが示された。
【0051】
以上により、漏水規模を高精度で同定できることが明らかとなり、その際に有効なAEパラメータは「RMS」、「P-FRQ」、「COUNT」であることが判った。
【0052】
(実構造物における検証)
前述した機械学習モデルによって、実際に埋設され共用されている鋳鉄製の送水パイプライン(φ250mm)に対して、漏水現象の同定精度を検証した。検証の対象となる送水パイプラインでは、漏水センサ1の計測点から3.0mの位置に直径3mmの漏水孔Hが確認された。また、送水パイプラインの内水圧は、計測期間中0.8MPa(最大値:水頭78m)という非常に高圧の状態から0.01MPa(水頭1m)までの止水条件で計測した。なお、図14には実構造物である送水パイプラインの漏水孔Hから、勢いよく漏水している状況写真が示されているが、このようなジェット流に伴うAE波を計測することとなる。
【0053】
送水パイプラインの管内水は、漏水孔Hからのみ排水させ、満水状態から漏水孔Hまでの排水に33時間を要した。AE波の計測は、漏水孔H近傍の揚水機場及び漏水孔H近傍で実施し、15分間隔で計測を行った。1回の計測は30秒/回、計測条件としては、検出閾値を20db、プリアンプによる増幅値を60dbとした。送水パイプラインの内水圧については、AE波の計測を揚水機場で行ったことから、近接ポンプ設備に設置されている水圧計を用いてAE波の計測と同時に評価した。なお、本検証では漏水センサ1として広帯域型センサを用いている。
【0054】
次に検証における解析方法を説明する。説明変数となるAEパラメータとして、最大振幅値である「AMP」、立ち上がり時間である「RISE」、継続時間である「DURATION」、所定の検出閾値との交点のカウント値となる「COUNT」に加え、平均周波数である「A-FRQ」、重心周波数である「C-FRQ」、実効値電圧である「RMS」、ピーク周波数である「P-FRQ」、以上8つのAEパラメータを抽出した。
【0055】
さらに、水頭によるAE波の相違を検討するため、クラスラベルを下の表6に示すように設定し、取得したAE波の計測データを訓練用データと評価用データに分割してアルゴリズムを構築するとともに、アルゴリズムの評価精度を検証した。なお、データサイズは訓練用データを75、評価用データを58とし、前述したモデルパイプラインPと同様に線形SVM、決定木、ランダムフォレストをそれぞれ用いてアルゴリズムを構築して評価精度を比較した。
【0056】
【表6】
【0057】
表7には、実構造物の送水パイプラインにおける検証結果が示されている。アルゴリズムごとの評価精度については、決定木とランダムフォレストにおいて、すべての指標で0.98以上の高い評価精度が得られている。このことから、本実施形態の機械学習による送配水パイプラインの漏水現象の同定方法によれば、前述のモデル配水パイプラインPのような低圧の配水パイプラインに限らず、高圧の送水パイプラインにおいても有効であることが判る。また、ノイズの影響を大きく受ける実構造物においても、漏水現象を高い精度で同定できることが判る。
【0058】
【表7】
【0059】
また、図13(a)には本検証によって得られた決定木における説明変数の重要度が、図13(b)にはランダムフォレストにおける説明変数の重要度が示されている。図示されるように、どちらのアルゴリズムにおいてもAEパラメータとして「COUNT」 が最も重要度が高いことが判る。これにより、「COUNT」を指標とすることで、水頭差ごとの漏水現象を高い精度で同定できると言える。
【0060】
(システム構成)
以上、本実施形態の機械学習による漏水現象の同定方法について説明したが、当然ながら、これら一連の処理をシステム化することができる。例えば、図15には本実施形態の漏水現象の同定システム100の概略ブロック図が示されている。漏水現象の同定システム100は、送配水パイプラインに設置する単一の漏水センサ1とプリアンプ2を有し、当該漏水センサ1によって計測された計測データは通信手段(有線又は無線)を介して解析手段となるPC又はアプリケーションサーバへと入力される。
【0061】
PC又はアプリケーションサーバ内には、漏水センサ1によって計測した計測データを解析する計測データ解析部101と、前述した表2のような計測条件を設定する計測条件設定部102と、漏水現象を同定するためのAEパラメータを抽出するパラメータ抽出部103と、教師あり学習によって所定のアルゴリズムを構築する機械学習部104と、漏水の有無や漏水の位置、漏水の規模等の同定情報を出力する漏水情報出力部106と、計測対象となる送配水パイプラインの管径や水圧などの施設情報を入力する計測施設情報入力部105と、を少なくとも備えている。
【0062】
上記のようなデバイス構成又はプログラム構成により、前述した漏水現象の同定方法を実行することで、漏水現象を高い精度で同定することが可能となる。
【0063】
また、漏水現象の同定システム100によって調査した共用中の実構造物において、実際に確認した漏水孔Hの位置(漏水センサ1からの距離)や漏水孔Hの径、水圧などの情報を、都度、教師有りデータとして機械学習部104へ入力することで、次第に漏水現象の同定精度を向上させることが可能となる。
【0064】
(その他の実施態様)
以上、本発明の機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システムについて、送配水パイプラインにおける漏水現象の同定方法を例に、その実施形態を説明したが、本発明は必ずしも上記したような構成に限定されるものではなく、以下のような種々の変更が可能となっている。
【0065】
例えば、本発明の機械学習による漏洩現象の同定方法及び同定システムは、必ずしも送配水パイプラインに限定されるものではなく、燃料配管やガス管、蒸気配管など、種々の流体を移送する加圧パイプラインに適用することが可能であり、流体の特性を考慮するとともに、加圧パイプラインに単一の漏洩センサを設置することにより、高精度に流体の漏洩現象(漏洩現象の有無、漏洩位置、漏洩規模(漏洩孔の径)など)を同定することが可能である。
【0066】
以上、本発明の実施形態について図面にもとづいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 漏水センサ(漏洩センサ)
2 プリアンプ
100 漏水現象の同定システム
101 計測データ解析部
102 計測条件設定部
103 パラメータ抽出部
104 機械学習部
105 計測施設情報入力部
106 漏水情報出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15