(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132426
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】半導体検出器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01T1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037744
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】朴澤 一幸
(72)【発明者】
【氏名】高濱 高
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB03
2G188CC31
2G188CC34
2G188DD34
2G188DD41
2G188FF12
(57)【要約】
【課題】 暗電流の増加を抑えつつ動作電圧(Vth)を高めることができる半導体検出器及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 n型の半導体基板2と、半導体基板の第1面に形成され放射線X1の入射により発生する電荷を収集する検出電極3と、検出電極を囲んで形成され検出電極に向かって電位が変化するように電圧が印加されることで電荷を検出電極に向けて移動させる複数のドリフト電極4と、半導体基板の第2面に設けられた放射線の入射窓5と、入射窓内の第2面の表面にBが添加されて形成されたP型半導体領域6と、第2面に形成されP型半導体領域と半導体基板内のN型半導体領域との間に逆バイアスを印加する空乏化電極BCとを備え、P型半導体領域に、さらにFが添加されており、Fの最も濃度が高くなる領域が、Bの最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型の半導体基板と、
前記半導体基板の第1面に形成され放射線の入射により発生する電荷を収集する検出電極と、
前記検出電極を囲んで形成され前記検出電極に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように電圧が印加されることで前記電荷を前記検出電極に向けて移動させる複数のドリフト電極と、
前記半導体基板の第2面に設けられた放射線の入射窓と、
前記入射窓内の前記第2面の表面側にホウ素が添加されて形成されたP型半導体領域と、
前記第2面に形成され前記P型半導体領域と前記半導体基板内のN型半導体領域との間に逆バイアスを印加する空乏化電極とを備え、
前記P型半導体領域に、さらにフッ素が添加されており、
前記フッ素の最も濃度が高くなる領域が、前記ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも前記第2面の表面側にあることを特徴とする半導体検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体検出器において、
前記第2面の表面から前記フッ素の濃度が深さ方向に向けて減少する第1濃度減少部と、
前記第1濃度減少部よりも深い領域で前記フッ素の濃度が深さ方向に向けて前記第1濃度減少部よりも減少する第2濃度減少部とを有し、
前記第2濃度減少部が、前記第1濃度減少部よりも緩やかに前記フッ素の濃度が減少し、前記ホウ素よりも深く前記フッ素が分布していることを特徴とする半導体検出器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体検出器の製造方法であって、
n型の半導体基板の表面側にホウ素を添加してP型半導体領域を形成するP型半導体領域形成工程を備え、
P型半導体領域形成工程が、前記半導体基板の表面側にさらにフッ素を添加するフッ素添加工程を有し、
前記フッ素添加工程が、前記フッ素を注入するフッ素注入工程と、
前記フッ素注入工程後に熱処理を行う熱処理工程とを有していることを特徴とする半導体検出器の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の半導体検出器の製造方法において、
前記熱処理工程が、800度以下の熱処理であることを特徴とする半導体検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出可能な半導体検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線を検出するXRF(蛍光X線分析装置)製品,SEM-EDS(エネルギー分散型X線分析)製品,放射光向けX線検出器に適用されるX線又は電子線などの半導体検出器として、シリコンドリフト検出器(Silicon Drift Detector:以下、SDDと称す)が用いられている。
このSDDは、n型高抵抗基板の第1面(ウインド面側)にB(ホウ素)を注入することでP型半導体領域を設け、pn接合を形成している。
【0003】
従来、SDDの動作電圧(しきい電圧:以下、Vthと称す)の調整を行うために、Bを添加した領域にカウンタとしてP(リン)やAs(ヒ素)を追加注入し、その注入条件(注入量や注入深さ)を変化させることで、Vthを調整していた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の技術には、以下の課題が残されている。
SDDのEDS特性は、暗電流の大きさに大きく影響を受けるため、暗電流を増加させずにVthを高めることが要望されている。
しかしながら、従来の半導体検出器では、PやAsを追加注入することでVthを調整しているが、同時に暗電流も増大してしまう不都合があった。これは、
図3に示すように、Pカウンタの追加注入による結晶欠陥の増加とpn接合の急峻化が原因と考えられる。
すなわち、
図3の「(1)カウンタ無し」のBプロファイルに対し、「(2)カウンタ有りA」では、Pカウンタが追加注入されたために、実効キャリアが急激に減少してpn接合深さを浅く変えることができるが、急峻なpn接合となってしまっていると共に、結晶欠陥が生じてしまい、暗電流の増大を招いてしまう。
特に、Vthを高めるために、Pカウンタ量を増加させた場合、「
図3の(3)カウンタ有りB」に示すように、さらに結晶欠陥が多く生じてしまい、暗電流のさらなる増大を招いてしまう。
また、SDDのVthを、基板抵抗やSDD素子デザイン等を変更することでも調整可能であるが、この場合、変更が容易でなく、仮に変更した場合でも、他の特性(暗電流、EDS特性等)までも変わってしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、暗電流の増加を抑えつつ動作電圧(Vth)を高めることができる半導体検出器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る半導体検出器は、n型の半導体基板と、前記半導体基板の第1面に形成され放射線の入射により発生する電荷を収集する検出電極と、前記検出電極を囲んで形成され前記検出電極に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように電圧が印加されることで前記電荷を前記検出電極に向けて移動させる複数のドリフト電極と、前記半導体基板の第2面に設けられた放射線の入射窓と、前記入射窓内の前記第2面の表面側にホウ素が添加されて形成されたP型半導体領域と、前記第2面に形成され前記P型半導体領域と前記半導体基板内のN型半導体領域との間に逆バイアスを印加する空乏化電極とを備え、前記P型半導体領域に、さらにフッ素が添加されており、前記フッ素の最も濃度が高くなる領域が、前記ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも前記第2面の表面側にあることを特徴とする。
【0008】
この半導体検出器では、P型半導体領域に、さらにフッ素が添加されており、フッ素の最も濃度が高くなる領域が、ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にあるので、暗電流への影響を抑制しつつVth(しきい電圧)の調整が可能になる。すなわち、P型半導体領域中のB(ホウ素)のキャリアの効果を、さらにカウンタとして添加されたF(フッ素)が相殺することで、pn接合の位置を変えると共に空乏層の拡がりを抑制し、Vthを大きくすることができる。このように、Fが半導体基板中で負電荷(負に帯電)となり、n型キャリアのように振る舞うため、Vthが上昇する。また、Fの注入量や深さ等を制御することで、Vthを調整することができる。
特に、フッ素の最も濃度が高くなる領域が、ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にあるので、表面側に高濃度に添加されたFにより、Bだけ添加されている場合よりもpn接合の深さを浅く変化させることができ、Vthを調整することができる。また、Fが表面側に多く添加され、深い領域では少ないために、添加による結晶欠陥が少なく、暗電流の増大も抑えられる。
【0009】
第2の発明に係る半導体検出器は、第1の発明において、前記第2面の表面から前記フッ素の濃度が深さ方向に向けて減少する第1濃度減少部と、前記第1濃度減少部よりも深い領域で前記フッ素の濃度が深さ方向に向けて前記第1濃度減少部よりも減少する第2濃度減少部とを有し、前記第2濃度減少部が、前記第1濃度減少部よりも緩やかに前記フッ素の濃度が減少し、前記ホウ素よりも深く前記フッ素が分布していることを特徴とする。
すなわち、この半導体検出器では、第2濃度減少部が、第1濃度減少部よりも緩やかにフッ素の濃度が減少し、ホウ素よりも深くフッ素が分布しているので、実効キャリアの分布が急峻にならず、pn接合も急峻化されずに暗電流の増加を抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係る半導体検出器の製造方法は、第1又は第2の発明の半導体検出器の製造方法であって、n型の半導体基板の表面側にホウ素を添加してP型半導体領域を形成するP型半導体領域形成工程を備え、P型半導体領域形成工程が、前記半導体基板の表面側にさらにフッ素を添加するフッ素添加工程を有し、前記フッ素添加工程が、前記フッ素を注入するフッ素注入工程と、前記フッ素注入工程後に熱処理を行う熱処理工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、この半導体検出器の製造方法では、フッ素注入工程後に熱処理を行う熱処理工程を有しているので、添加されたFが熱処理により表面側に拡散、移動して表面側にFの高濃度な分布を形成し、深いBの濃度分布と、浅いFの濃度分布とによって、pn接合の深さを浅く変化させることができる。
【0011】
第4の発明に係る半導体検出器の製造方法は、第3の発明において、前記熱処理工程が、800度以下の熱処理であることを特徴とする。
すなわち、この半導体検出器の製造方法では、熱処理工程が、800度以下の熱処理であるので、800度以下の低温熱処理によりFの拡散及び活性化を必要十分に行うことができる。なお、熱処理温度は800度を超えると、Fが拡散し過ぎてFの効果が得難いなってしまう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る半導体検出器及びその製造方法によれば、P型半導体領域に、さらにフッ素が添加されており、フッ素の最も濃度が高くなる領域が、ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にあるので、Fの注入量や注入深さ等に応じて、暗電流への影響を抑制しつつVth(しきい電圧)の調整が可能になる。
したがって、本発明の半導体検出器及びその製造方法では、暗電流の増加を抑制しつつVth調整が可能になり、EDS特性を向上させたSDDを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る半導体検出器及びその製造方法の実施形態において、半導体検出器を示す断面図である。
【
図2】本実施形態において、SIMS分析及びSRA分析(拡がり抵抗測定:Spreading resistance Analysis)から推測されるF注入熱処理前(a)とF注入熱処理後(b)とのB濃度分布,F濃度分布及びpn接合深さを示すグラフである。
【
図3】本発明に係る半導体検出器及びその製造方法の従来技術において、SIMS分析SIMS分析及びSRA分析から推測される「(1)カウンタ無し」と「(2)カウンタ有りA」と「(3)カウンタ有りB」とのB濃度分布,実効キャリア分布,カウンタ濃度分布及びpn接合深さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る半導体検出器及びその製造方法の一実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態の半導体検出器1は、シリコンドリフト検出器(SDD)であって、
図1に示すように、n型の半導体基板2と、半導体基板2の第1面に形成され放射線X1の入射により発生する電荷を収集する検出電極3と、検出電極3を囲んで形成され検出電極3に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように電圧が印加されることで電荷を検出電極3に向けて移動させる複数のドリフト電極4と、半導体基板2の第2面に設けられた放射線X1の入射窓5と、入射窓5内の第2面の表面側にB(ホウ素)が添加されて形成されたP型半導体領域6と、第2面に形成されP型半導体領域6と半導体基板2内のN型半導体領域2aとの間に逆バイアスを印加する空乏化電極BCとを備えている。
【0016】
上記P型半導体領域6には、さらにF(フッ素)が添加されており、
図2に示すように、Fの最も濃度が高くなる領域が、Bの最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にある。すなわち、Fの濃度プロファイルのピークが、Bの濃度プロファイルのピークよりも第2面の表面側に位置している。なお、本実施形態では、Fの濃度プロファイルのピークが、第2面の表面又は表面近傍に位置している。
上記Fの添加は、Fを含む化合物のドーパントでも構わず、例えばBF
2でも良い。
【0017】
また、第2面の表面からFの濃度が深さ方向に向けて減少する第1濃度減少部7aと、第1濃度減少部7aよりも深い領域でFの濃度が深さ方向に向けて第1濃度減少部7aよりも減少する第2濃度減少部7bとを有している。
上記第2濃度減少部7bは、第1濃度減少部7aよりも緩やかにFの濃度が減少し、Bよりも深くFが分布している。
なお、第2濃度減少部7bは、P型半導体領域6から半導体基板2のN型半導体領域2aまで達している。
【0018】
上記半導体基板2は、n型不純物が添加されたSi基板であり、5kΩ以上の高抵抗基板である。
上記検出電極3は、n+型半導体で構成される信号出力電極であってアノード電極として機能する。
この検出電極3には、増幅器(アンプ)17が電気的に接続されている。
上記増幅器17には、例えば電界効果トランジスタやCMOSアンプが形成されており、そのゲート電極と検出電極3とが接続されている。
【0019】
P型半導体領域6には、BとFとが両方注入されて添加されたP+Siであり、半導体基板2のN型半導体領域2aとの間にpn接合が形成される。
このP型半導体領域6はカソードとして機能し、検出電極3がアノードとして機能する。
なお、P型半導体領域6の表面上には、酸化膜(SiO2)6aが形成されている。
【0020】
上記空乏化電極BCは、P型半導体領域6に接続されたバックコンタクトであり、この空乏化電極BCに印加する電圧を調整することで、pn接合に逆バイアスが印加され、pn接合から空乏層が広がって、半導体基板2が空乏化する。
なお、空乏化電極BCよりも外周には、半導体基板2の縁とP型半導体領域6との間の絶縁破壊を防止するために浮遊電位とされた複数のリング状の防護電極8が形成されている。
【0021】
上記複数のドリフト電極4は、検出電極3を中心とした同心円のリング電極であり、互いに間隔を空けて形成されている。
複数のドリフト電極4は、内周に形成された内電極R1と、外周に形成された外電極RXとを備えている。なお、内電極R1と外電極RXとは、互いに異なる電圧が印加されることで、空乏層を有する半導体基板2にドリフト電場が形成される。
すなわち、最も内側のドリフト電極4の電位が最も高く、最も外側のドリフト電極4の電位が最も低くなるように、電圧が印加される。
なお、最外周の電極4aは、接地用の電極である。
【0022】
上記第1面は、リング状の複数のドリフト電極4が形成された面、いわゆるリング面である。
また、上記第2面は、入射窓5が設けられた面、いわゆるウインド面である。
上記入射窓5の外周には、ガードリングとして酸化膜(SiO2)の第2面側絶縁膜9が形成されている。
上記防護電極8及び空乏化電極BCは、それぞれ第2面側絶縁膜9を貫通した金属電極9aにより半導体基板2やP型半導体領域6と接続されている。
【0023】
上記第1面には、酸化膜(SiO2)の第1面側絶縁膜10が形成されている。
上記検出電極3及び複数のドリフト電極4は、それぞれ第1面側絶縁膜10を貫通した金属電極10aにより半導体基板2のN型半導体領域2aと接続されている。
【0024】
本実施形態の半導体検出器1は、次のように動作する。
まず、入射窓5からX線,光子,電子線又は他の荷電粒子線等の放射線X1が半導体基板2内に入射すると、半導体基板2内で吸収された放射線X1のエネルギーに応じた電荷(正孔H及び電子e)が半導体基板2内で生成される。
これらの電荷は、半導体基板2内の電界によって移動し、電子eは中央の検出電極3へ流入し収集される。このように検出電極3で収集された電子eは、電気信号として増幅器17を介して出力される。
【0025】
次に、本実施形態の半導体検出器1の製造方法について説明する。
本実施形態の半導体検出器1の製造方法は、n型の半導体基板2の表面にB(ホウ素)を添加してP型半導体領域6を形成するP型半導体領域形成工程を備えている。
このP型半導体領域形成工程は、半導体基板2の表面にさらにF(フッ素)を添加するフッ素添加工程を有している。
【0026】
上記フッ素添加工程は、Fを注入するフッ素注入工程と、フッ素注入工程後に熱処理を行う熱処理工程とを有している。
上記フッ素注入工程の注入条件は、P型半導体領域6の濃度,pn接合深さ,酸化膜6aの厚さ等に応じて適宜設定される。
上記熱処理工程は、800度以下の炉体熱処理が好ましい。
なお、RTA(Rapid Thermal Annealing)を想定した場合、800度を超えてもよく、例えば850度1分でも構わない。
【0027】
なお、熱処理の温度が低い場合は時間を長くし、高い場合は時間を短くすることで、Fの拡散を調整する。この熱処理の条件によっても、Vthの調整が可能である。
具体的には、例えば800度数分,750度60分,650度4時間,600度8時間,500度12~16時間等の炉体熱処理を行う。
なお、上記熱処理の後、H終端目的で水素アニールを400~450度で行うことが好ましい。そのため、上記熱処理は、500度以上が好ましい。すなわち、熱処理条件としては、500~800度,1分~12時間の間で設定することが好ましい。
【0028】
このように本実施形態の半導体検出器1では、P型半導体領域6に、さらにフッ素が添加されており、フッ素の最も濃度が高くなる領域が、ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にあるので、暗電流への影響を抑制しつつVth(しきい電圧)の調整が可能になる。すなわち、P型半導体領域6中のB(ホウ素)のキャリアの効果を、さらにカウンタとして添加されたF(フッ素)が相殺することで、pn接合の位置を変えると共に空乏層の拡がりを抑制し、Vthを大きくすることができる。このように、Fが半導体基板2中で負電荷(負に帯電)となり、n型キャリアのように振る舞うため、Vthが上昇する。また、Fの注入量や深さ等を制御することで、Vthを調整することができる。
【0029】
特に、フッ素の最も濃度が高くなる領域が、ホウ素の最も濃度が高くなる領域よりも第2面の表面側にあるので、表面側に高濃度に添加されたFにより、Bだけ添加されている場合よりもpn接合の深さを浅く変化させることができ、Vthを調整することができる。また、Fが表面側に多く添加され、深い領域では少ないために、添加による結晶欠陥が少なく、暗電流の増大も抑えられる。
【0030】
また、第2濃度減少部7bが、第1濃度減少部7aよりも緩やかにフッ素の濃度が減少し、ホウ素よりも深くフッ素が分布しているので、実効キャリアの分布が急峻にならず、pn接合も急峻化されずに暗電流の増加を抑制することができる。
【0031】
本実施形態の半導体検出器1の製造方法では、フッ素注入工程後に熱処理を行う熱処理工程を有しているので、添加されたFが熱処理により第2面の表面側に拡散、移動して第2面の表面側にFの高濃度な分布を形成し、深いBの濃度分布と、浅いFの濃度分布とによって、pn接合の深さを浅く変化させることができる。
さらに、熱処理工程が、800度以下の熱処理であるので、800度以下の低温熱処理によりFの拡散及び活性化を必要十分に行うことができる。
【実施例0032】
本発明の半導体検出器について、上記本実施形態に基づいてFの注入条件を変えて複数の実施例を作製した。これら本発明の実施例(表1中のA~D)について、その暗電流とVth(しきい電圧)とを測定した結果を、表1に示す。
Fの注入条件の範囲としては、Fの注入量を1×1012/cm2~1×1015/cm2とし、Fの注入エネルギーを2KeV~30KeVとした。
また、熱処理条件の範囲としては、いずれも750度、60分とした。
【0033】
なお、本発明の比較例1として、F注入を行わず、熱処理も行っていないものも作製した(表1中のRef)。
また、F注入を行うがF注入エネルギーを大きく設定してFを深く注入し、Fの最も濃度が高くなる領域が、Bの最も濃度が高くなる領域よりも第1面側に深く位置するようにしたものを比較例2として作製した(表1中のE)。
これら比較例1,2についても、本発明の実施例と同様の測定を行った。
【0034】
【0035】
これらの結果から分かるように、F注入を行っていない比較例1(表1中のRef)に比べ、本発明の実施例A~Dでは、いずれも暗電流がほとんど変わらないが、しきい電圧(Vth)が比較例1よりも増大している。
なお、比較例2((表1中のE)では、Fの注入エネルギーが大きく、Fが深く添加されたため、しきい電圧が大幅に増大したものの、暗電流も増えてしまっている。
【0036】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
1…半導体検出器、2…半導体基板、3…検出電極、4…ドリフト電極、5…入射窓、6…P型半導体領域、7a…第1濃度減少部、7b…第2濃度減少部、BC…空乏化電極、X1…放射線