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特開2023-132552粉体又は塊状物である混合物の製造方法
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  • 特開-粉体又は塊状物である混合物の製造方法 図1
  • 特開-粉体又は塊状物である混合物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132552
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】粉体又は塊状物である混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20230914BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230914BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20230914BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20230914BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 D
H05B33/22 B
C23C14/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037933
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐一郎
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC45
3K107DD58
3K107DD78
3K107FF16
3K107GG04
3K107GG26
3K107GG28
3K107GG32
4K029AA07
4K029AA08
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA62
4K029DB06
4K029DB14
4K029DB17
(57)【要約】
【課題】二以上の有機化合物が分子レベルで均質に混合された固相の混合物を製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移工程と、第1相転移工程によって形成された気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移工程と、第2相転移工程によって形成された前記混合物を回収する回収工程と、を含む、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む、粉体又は塊状物である混合物の製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移工程と、
第1相転移工程によって形成された気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移工程と、
第2相転移工程によって形成された前記混合物を回収する回収工程と、を含む
前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む、粉体又は塊状物である混合物の製造方法。
【請求項2】
前記第1相転移工程を、前記二以上の互いに異なる有機化合物をそれぞれ加熱し、昇華又は蒸発させることにより行う、請求項1に記載の混合物の製造方法。
【請求項3】
前記第1相転移工程を真空下で行う、請求項1又は2に記載の混合物の製造方法。
【請求項4】
前記第1相転移工程を、前記二以上の互いに異なる有機化合物をそれぞれ別個の加熱源で加熱して行う、請求項1~3のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項5】
前記第1相転移工程において前記二以上の互いに異なる有機化合物を気化させる空間と、前記第2相転移工程において気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させる空間とが同一である、請求項1~4のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項6】
前記第1相転移工程において前記二以上の互いに異なる有機化合物のそれぞれを気化させる複数の空間と、前記第2相転移工程において気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させる空間のうち、少なくとも一部が異なる、請求項1~4のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項7】
前記第2相転移工程において、前記混合物を基材上に堆積させると共に、前記回収工程において、前記混合物を前記基材から回収する、請求項1~6のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項8】
前記第2相転移工程において、前記気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を外力によって撹拌しない、請求項1~7のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項9】
前記二以上の互いに異なる有機化合物が有機半導体材料である、請求項1~8のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項10】
前記二以上の互いに異なる有機化合物が有機エレクトロルミネッセンス素子用材料である、請求項1~9のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項11】
前記粉体又は塊状物である混合物が蒸着用の混合物である、請求項1~10のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項12】
前記粉体又は塊状物である混合物が、有機化合物のみからなる、請求項1~11のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項13】
前記粉体又は塊状物である混合物が、実質的に有機化合物のみからなる、請求項1~11のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項14】
前記粉体又は塊状物である混合物が、二つの互いに異なる有機化合物のみからなる、請求項1~11のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項15】
前記粉体又は塊状物である混合物が、実質的に二つの互いに異なる有機化合物のみからなる、請求項1~11のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項16】
前記粉体又は塊状物である混合物が、三以上の互いに異なる有機化合物を含む、請求項1~11のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の製造方法で得られた、粉体又は塊状物である混合物。
【請求項18】
二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移部と、
気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移部と、
固相状態の前記混合物を回収する回収部材と、を含む
前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む、粉体又は塊状物である混合物の製造装置。
【請求項19】
前記第2相転移部が、前記第1相転移部の上方に位置し、前記気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を混合するための空間と、前記空間の上方に位置し、前記固相状態の混合物を析出させるための基材と、から構成される、請求項18に記載の製造装置。
【請求項20】
前記第1相転移部において前記二以上の互いに異なる有機化合物のそれぞれを気化させる複数の空間と、前記第2相転移部において気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させる空間のうち、少なくとも一部が異なる、請求項18に記載の混合物の製造装置。
【請求項21】
前記第1相転移部において前記二以上の互いに異なる有機化合物のそれぞれを気化させる複数の空間、及び、前記第2相転移部において気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させる空間の全てが分離されており、これらが配管及びバルブで接続されている、請求項18に記載の混合物の製造装置。
【請求項22】
前記製造装置の少なくとも一部を減圧するための減圧装置を有する、請求項18~21のいずれかに記載の製造装置。
【請求項23】
前記回収部材が、基材に析出した前記固相状態の混合物を剥離可能に構成されている、請求項18~22のいずれかに記載の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉体又は塊状物である混合物の製造方法、当該製造方法で得られた混合物、及び粉体又は塊状物である混合物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体分野において、素子を構成する有機層の成膜方法として、一般的に真空蒸着法が用いられており、複数の成分からなる混合層の形成には、各成分を別個の蒸着源からそれぞれ気化させて同時に蒸着を行う共蒸着法や、複数の成分を予め混合したいわゆるプレミクス材料を、単一の蒸着源から気化させて成膜する蒸着技術(プレミクス技術)等が用いられる。
例えば、特許文献1には、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)の有機層の形成方法として、予め固体状態の各成分を混合したプレミクス材料を用いて、真空蒸着により成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/015266号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のプレミクス技術においては、蒸着膜において意図する成分混合比を実現するのが困難な場合があった。本発明者がその原因について考察したところ、原料混合物における混合の度合いや均質性の低さがその一因であることを見出した。
本発明の目的は、二以上の有機化合物が分子レベルで均質に混合された固相の混合物を製造可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の考察に基づいて本発明者がさらに検討した結果、気相状態を利用する特定の製造方法によって、各成分が分子レベルで均質に混ざり合った固相の混合物を製造可能であることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の製造方法等が提供される。
1.二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移工程と、
第1相転移工程によって形成された気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移工程と、
第2相転移工程によって形成された前記混合物を回収する回収工程と、を含む
前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む、粉体又は塊状物である混合物の製造方法。
2.二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移部と、
気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移部と、
固相状態の前記混合物を回収する回収部材と、を含む
前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む、粉体又は塊状物である混合物の製造装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、二以上の有機化合物が分子レベルで均質に混合された固相の混合物を製造可能な製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造装置の概略を示す説明図である。
図2図1で示す製造装置1の使用方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[粉体又は塊状物である混合物の製造方法]
本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造方法は、二以上の互いに異なる有機化合物(以下、単に「化合物」とも言う)を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移工程と、第1相転移工程によって形成された気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移工程と、第2相転移工程によって形成された前記混合物を回収する回収工程と、を含む。
【0009】
上記の製造方法は、第1相転移工程で気化状態となった二以上の化合物を、気化状態で同一系内に併存させ、その上で固相に相転移させることで、固相状態の混合物を形成するものである。気相状態で併存させると、各分子が高い運動エネルギーで熱運動して系内に拡散することから、当該二以上の化合物は分子レベルで十分に混ざり合う状態となる。この状態で固化せしめることにより、当該二以上の化合物が分子レベルで極めて均質に混合された固相の混合物を得ることが可能となる。
【0010】
二以上の化合物を溶融して、融解又はガラス状態で混合する場合、化合物の組み合わせによっては、極性や比重の影響により混ざりにくく、ムラが生じやすい場合がある。また、当該混合物を固化して固相の混合物を得る際に凝集が生じやすいといった不都合がある。さらに、混合物の少なくとも一方が昇華性化合物である場合には、この溶融混合による方法は採用できないため、材料による制約が大きい。
【0011】
二以上の化合物を溶媒に溶解して混合する場合も、上記の溶融混合と同様に、混ざりにくく、ムラが生じやすいという短所がある。また、溶媒に起因する不純物が混入しやすいというデメリットもある。
【0012】
一方、本発明の一態様に係る製造方法によれば、化合物の組み合わせに関わらず各成分が分子レベルで混ざりやすく、凝集も生じにくい。また、材料の気化特性による制限も受けにくく、例えば、昇華性化合物と溶融性化合物の組み合わせであっても問題なく固相の混合物を製造できる。さらに、不純物の混入リスクもほとんどない。
【0013】
また、二以上の化合物を、粉末状態等の固相で混合する場合、各成分を分子レベルで混合することは通常は困難であるが、本発明の一態様に係る製造方法によれば、各成分を分子単位で混合に供し、分子の熱運動エネルギーを利用して混合を促すことから、混合度合いが極めて高い混合物を得ることができる。
【0014】
上記の製造方法について、それに用いることができる製造装置と共に、より詳しく説明する。以下、説明の便宜上、第1の有機化合物(以下、「第1成分」ともいう)と第2の有機化合物(以下、「第2成分」ともいう)の2成分を含む混合物の製造方法について説明する(ただし、本発明は当該2成分系に限定されるものではない)。
【0015】
<第1相転移工程>
本工程では、二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる。
【0016】
(有機化合物)
各有機化合物の化合物構造に特に制限はなく、これらが互いに異なる有機化合物である限り、どのような有機化合物でも使用可能である。
なお、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素原子のみで構成された物質は、化合物ではないため有機化合物には含まれない。
【0017】
有機化合物が互いに異なる、とは、化学構造式(骨格)が互いに異なる場合と、化学構造式(骨格)は同一であるが異なる同位体を含む場合と、を含む。同位体とは、原子番号が等しく、中性子数が異なる原子を意味する。例えば、ベンゼン(C)と重水素化ベンゼン(C)とは互いに異なる化合物である。
また、化学構造式(骨格)は同一であるが異なる同位体を含む場合において、同位体の数又は配置が互いに異なる場合も化合物が異なるものとする。例えば、重水素化ベンゼンであってもCとCとは同位体の数が相違するため、互いに異なる化合物である。また、例えば、Cで表される化合物同士であっても、ベンゼン環の1位及び2位に重水素を有する化合物と、ベンゼン環の1位及び3位に重水素を有する化合物とは、同位体の配置が相違するため、互いに異なる化合物である。
【0018】
一実施形態において、用いる有機化合物は有機半導体材料であり、例えば、有機EL素子用材料、有機トランジスタ用材料、又は有機太陽電池用材料である。
【0019】
(気相への相転移工程)
気相への相転移方法には特に制限はないが、通常、固体又は液体の各成分を加熱し、気化(昇華又は蒸発)させることにより行う。加熱方法としては、例えば、るつぼ等の加熱源に成分を投入して加熱する方法等が挙げられるが、これに限定されず、目的や規模に応じて、適宜周知の加熱方法を採用すればよい。この際、必要に応じて系内を減圧し、真空環境としてもよい。
また、必ずしも加熱を行う必要はなく、成分によっては減圧操作のみで気相への相転移を行ってもよい。
【0020】
加熱される第1成分と第2成分としては、両方が固体であってもよいし、両方が液体であってもよいし、一方が固体で他方が液体であってもよい。液体を用いる場合、溶媒を用いずに液相の成分をそのまま用いてもよいし、液相又は固相の成分を溶媒に溶解した溶液を用いてもよい。前者であれば、目的混合物中に、溶媒に起因する混合物が混入するリスクを低減できる。
【0021】
第1成分と第2成分は、同一(単一)の加熱源で加熱してもよいし、別個の加熱源で加熱してもよい。前者であれば、第1相転移工程の装置とプロセスを簡略化できる。一方、後者であれば、各加熱源における加熱タイミングや温度を調整することで、各成分の気化量又は気化速度を厳密に制御できるため、所望の混合比をより実現しやすい点で有用である。
【0022】
第1成分を気化させる空間(以下、「第1成分気化室」とも言う)と、第2成分を気化させる空間(以下、「第2成分気化室」とも言う)と、第2相転移工程においてこれら気化成分を併存、混合させ、固化させる空間(以下、「気相混合室」)とは、同一でもよいし、一部又は全てが異なってもよい。
例えば、一の空間内(装置内)で各成分の気化、気相混合及び固化の全ての工程を行ってもよいし、第1成分気化室、第2成分気化室、及び気相混合室を、例えば開閉式のシャッターやバルブ等により分離した上で、各工程を行ってもよい。後者の場合、シャッターやバルブの開閉操作により、気相混合室への気体流入量を成分ごとに調整可能となることから、プロセス制御性が向上し、また、所望の混合比をより実現しやすくなる。
【0023】
各成分の量(仕込み量)には特に制限はなく、目的に応じて適宜調整すればよい。また、上述したように、気相混合に供される気体量は、加熱源の温度(気化速度)や、シャッターやバルブの開閉操作等により適宜調整可能であるため、最終混合物において所望される混合比率と、仕込み量における成分割合とは、必ずしも同一とする必要はない。
【0024】
<第2相転移工程>
本工程では、第1相転移工程によって気相状態となった各成分を同一系内に併存させることで、これらを分子レベルで混合せしめる。また、この状態で固相に相転移させることで、固相状態の混合物を形成する。
【0025】
(各成分の混合)
上述したように、気相状態の各成分を同一空間(気相混合室)内に同時的に導入することで、分子の熱運動エネルギーにより各成分の混合が自発的に生じることから、外力により撹拌等を行う必要はない。この点、積極的な混合操作を必須とする固相混合法や液相混合法に対して有用である。一方、外力による混合操作を禁止するものではなく、例えば、撹拌翼等により気相混合室内の撹拌操作を行ってもよい。
なお、上記「同時的に導入する」の「同時的」とは、各気化成分を気相混合室に導入する始期及び終期を完全に同期させることを意味するものではなく、これらの導入タイミングが異なったとしても、気相混合室内で気体の混合が生じている限り、「同時的」に含まれるものとする。
【0026】
(固相への相転移工程)
気相状態の混合物(混合気体)を固相に相転移させる方法は特に制限されない。
一実施形態において、気相混合室内に基材(捕集装置)を設置し、当該基材の表面上に固相の混合物を析出させる方法が挙げられる。基材としては、例えば、平板状の基板が挙げられるが、これに限定されず、曲面状の基材であってもよい。
また、冷却装置により当該基材を冷却することで、固相の混合物の析出を促すこともできる。
【0027】
基材の設置方法としては、加熱源の上方に、析出面が加熱源と対向するように(下向きに)設ける方法が挙げられる。一方、第1成分気化室、第2成分気化室、及び気相混合室を分離し、これらを配管とバルブで接続するような場合には、配管の向き等に応じて、析出面が横向き又は上向きになるように基材を設置することも可能である。
【0028】
また、必ずしも基材を設ける必要はなく、例えば、第1成分気化室と第2成分気化室を気相混合室から分離した場合には、気相混合室の内壁(特に底面)に固相の混合物を析出させることもできる。この場合、冷却装置により気相混合室内を冷却することで、固相の混合物の析出を促すこともできる。
【0029】
さらに、特定形状を有する成形型を予め気相混合室内に設置しておき、当該成形型内部に固相の混合物が堆積するようにすることで、別途の成形工程を経ることなく、当該形状の固相混合物を得ることも可能である。得られた固相混合物について所望の形状がある場合等において、別途の成形工程を割愛できる点で有用である。
【0030】
<回収工程>
本工程では、第2相転移工程において得られた固相の混合物を、気相混合室から回収する。回収方法には特に制限はなく、例えば、基材を用いた場合には、基材表面に析出した混合物をヘラや薬さじ等を用いて物理的にこそぎ落とし、粉体又は塊状物として回収する方法が挙げられる。基材を用いず、気相混合室の内壁に析出させた場合も同様であり、内壁に堆積した混合物を物理的に採取する。上記の成形型を用いた場合には、当該成形型を気相混合室から取り出し、成形型から成形された混合物を回収する。
また、溶媒を用いて固相の混合物を回収してもよい。例えば、基材を用いた場合には、基材表面に析出した混合物を溶媒に溶解させて回収し、その後、溶媒を除去して目的混合物を回収する。気相混合により分子レベルで十分に混合された状態は、混合物を溶媒に溶解させた後にも維持される。用いる溶媒としては、第1成分及び第2成分の溶解性を考慮して適宜選択すればよい。
【0031】
本明細書において、「塊状物」とは、定形又は不定形の塊を意味し、基板等の支持体に支持された物(例えば膜状又は層状の混合物)を含まない。なお、「塊状物」は「剥片」と換言することもできる。
【0032】
[粉体又は塊状物である混合物]
上記の製造方法により得られた粉体又は塊状物である混合物は、二以上の化合物が分子レベルで均質に混合されたものである。
当該混合物の用途は格別限定されず、各種用途に汎用性高く用いられる。一実施形態において、粉体又は塊状物は、有機半導体材料であり、例えば、有機EL素子用材料、有機トランジスタ用材料、又は有機太陽電池用材料である。
【0033】
一実施形態において、当該混合物は蒸着用材料である。例えば、当該混合物を一の蒸着源から気相に相転移させ、基材上で固相に相転移させることで、蒸着膜を成膜することができる。当該蒸着膜は、有機EL素子等の有機半導体素子を構成する各層として使用できる。
蒸着源に投入される上記混合物において二以上の有機化合物が分子レベルで高度に均質化されていることに起因して、得られる蒸着膜においては、二以上の有機化合物がさらに高度に均質化されるものとなる。また、上記混合物の混合度合いが高いことに起因して、蒸着膜において意図する成分混合比を実現しやすくなり、さらに、蒸着プロセスを長時間継続するような場合であっても、プロセス始期から終期にかけての混合比率のブレを最小限に抑えることも可能となる。
【0034】
一実施形態において、上記の粉体又は塊状物である混合物は、第1成分及び第2成分のみからなるか、又は、実質的に第1成分及び第2成分のみからなる。後者の場合、不可避不純物を含んでもよい。
一実施形態において、上記の混合物は、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、99.99質量%以上又は100質量%が、第1成分及び第2成分である。
一実施形態において、上記の混合物は、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上、99.5モル%以上、99.9モル%以上、99.99モル%以上又は100モル%が、第1成分及び第2成分である。
【0035】
一実施形態において、上記の混合物は、有機化合物のみからなるか、又は、実質的に有機化合物のみからなる。後者の場合、不可避不純物を含んでもよい。
一実施形態において、上記の混合物は、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、99.99質量%以上又は100質量%が、有機化合物である。
一実施形態において、上記の混合物は、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上、99.5モル%以上、99.9モル%以上、99.99モル%以上又は100モル%が、有機化合物である。
【0036】
<他の成分等>
上記では第1成分と第2成分の2成分を含む混合物の製造方法について説明したが、上述した通り、本発明は当該2成分系に限定されるものではなく、さらに他の成分を含めてもよい。
【0037】
第1成分と第2成分に加えて第3の有機化合物(以下、「第3成分」ともいう)を用いる場合、第3成分の有機化合物としては、第1成分と第2成分で説明した化合物を使用可能である。
【0038】
第1相転移工程において、第1成分~第3成分は同一(単一)の加熱源で加熱してもよいし、別個の加熱源で加熱してもよい。また、第1成分気化室、第2成分気化室、第3成分を気化させる空間(以下、「第3成分気化室」とも言う)、及び気相混合室は、同一でもよいし、一部又は全てが異なってもよい。
【0039】
第1相転移工程の他の事項、第2相転移工程及び回収工程に関しては、上記で説明した事項がそのまま適用できる。
また、第4以降の有機化合物を用いる場合も、第3成分で説明した事項が適用できる。
【0040】
[粉体又は塊状物である混合物の製造装置]
本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造装置は、二以上の互いに異なる有機化合物を固相又は液相から気相に相転移させる第1相転移部と、気相状態の前記二以上の互いに異なる有機化合物を同一系内で固相に相転移させて、前記二以上の互いに異なる有機化合物を含む固相状態の混合物を形成する第2相転移部と、固相状態の前記混合物を回収する回収部材と、を含む。
【0041】
当該製造装置は、上述した本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造方法を実施する際に好適に用いることができる。
【0042】
以下、図面を参照しながら、第1成分と第2成分の2成分を含む粉体又は塊状物である混合物の製造装置の実施形態を説明する(ただし、本発明は当該2成分系に限定されるものではない)。
なお、以下に説明する製造装置は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合がある。
【0043】
<製造装置1>
当該製造装置の一例として、図1に示す製造装置1は、第1成分を気化させる加熱源11及び第2成分を気化させる加熱源12を有する第1相転移部10と、気相状態の第1成分及び第2成分を混合するための空間21、及び当該気相状態の混合物を固相状態の混合物として析出させるための基板22を有する第2相転移部と、析出した固相状態の混合物を回収する回収部材30(図示しない)と、を備えている。
【0044】
なお、本実施形態は、加熱源11、加熱源12、空間21、及び基板22を閉じた同一系(同一空間)内に配置した態様に係るものであり、すなわち、第1成分気化室、第2成分気化室及び気相混合室を同一空間(連通された空間)としたものである。
【0045】
本実施形態において、第1相転移部10は、第1成分と第2成分を別個に加熱すべく、2つの加熱源(加熱源11と加熱源12)を備えるものとしている。このようにすることで、各成分の気化量や気化速度を厳密に制御可能となることから、所望の混合比を実現しやすい。
【0046】
加熱源11と加熱源12としては、例えば、るつぼ等の耐熱容器が挙げられるが、これに制限されず、加熱対象である各成分に合わせて適切な加熱源を用いればよい。また、加熱源11と加熱源12として必ずしも同一の加熱源を用いる必要はなく、各成分の性状に合わせて形状や材質の異なる加熱源を用いてもよい。
また、加熱源11と加熱源12の加熱手段にも特に制限はなく、公知の加熱方法を採用できる。
【0047】
加熱源11と加熱源12の配置方法は特に制限はないが、気化成分は加熱源の上方に向かって拡散することから、各加熱源の開口部の高さは同程度とすることが好ましい。このようにすることで、所望の混合比率の再現性を向上し得る。ただし、そのような態様に限定するものではなく、各成分の拡散度合い等に応じて、あえて開口部の高さに差を設けてもよい。例えば、より拡散しやすい成分の加熱源をより高く配置し、拡散性が小さい(直進性が高い)成分の加熱源をより低く配置するような態様が考えられる。
【0048】
第2相転移部は、第1相転移部の上方に位置し、第1成分と第2成分とを混合するための空間21と、空間21の上方に位置し、固相の混合物を析出させるための基板22と、から構成されるものとしてある。
【0049】
基板22としては、例えば、ガラス基板、セラミック基板、樹脂基板等、支持基板として用いられる各種部材を使用できる。
基板22と加熱源との距離(空間21の大きさとも換言できる)は特に制限されず、第1成分と第2成分の混合が十分に進行する程度の距離を設ければよい。
当該距離としては、各成分を単独で気化させた場合に、基板22における対向面の全表面に当該成分が析出する距離を、最小限の距離として設定することができる。すなわち、第1成分のみを加熱源11から気化させた場合に基板22の対向面の全表面に第1成分が析出する最小距離(加熱源11の開口部と基板22との距離)と、第2成分のみを加熱源12から気化させた場合に基板22の対向面の全表面に第2成分が析出する最小距離(加熱源12の開口部と基板22との距離)のうち大きい方を、基板22と加熱源との距離の最小限として設定することができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、外部からの混合手段を設けていない。上述したように、同一空間内に気相状態の第1成分と第2成分を同時的に導入すれば、熱運動により各成分が同空間内に十分に拡散することから、あえて外部からの混合手段を設けなくても、分子レベルで十分に混合されることが期待される。
【0051】
回収部材30は、基板22の表面上に堆積した固相の混合物を、基板22から物理的に剥離し、回収するためのものである。当該部材としては特に制限はなく、例えば、ヘラや薬さじ等、周知の部材を使用できる。
【0052】
本実施形態においては、回収部材30を、加熱源11、加熱源12、空間21及び基板22を含む系の外に配置することを想定しているが、これに限定されるものではなく、例えば、ヘラ等を電気的に動作して自動的に回収操作を行う装置を系内に備え付けることも可能である。
【0053】
なお、図示していないが、加熱源11、加熱源12、空間21及び基板22を含む系内を減圧環境とすべく、製造装置1に減圧装置を取り付けてもよい。
【0054】
<他の態様>
製造装置1は、加熱源11、加熱源12、空間21、及び基板22を閉じた同一系(同一空間)内に配置し、空間21及び基板22を加熱源11及び12の上方に設置した態様であるが、本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造装置は当該態様に限定されるものではない。
すなわち、加熱源11(第1成分気化室)、加熱源12(第2成分気化室)、及び、空間21と基板2とを含む空間(気相混合室)のそれぞれを分離した態様としてもよく、この場合、これらを例えば配管とバルブで接続してもよい。このような配置方法を採用する場合、配管の向きによって、気相混合室内に気化成分が噴出する向きを調整することが可能となるため、基板22の設置位置は、必ずしも空間21の上方に限定されず、気化成分の噴出方向に応じて、例えば析出面が横向きとなるように鉛直方向に配置してもよいし、析出面が上向きとなるように水平方向に配置してもよい。
【0055】
<製造装置1を用いた粉体又は塊状物である混合物の製造方法>
次に、図2を参照して、上述した製造装置1を用いた場合の固相混合物の製造方法について説明する。換言すれば、以下に説明する方法は、製造装置1の一の使用例である。
【0056】
まず、図2(a)に示すように、加熱源11に固体の第1成分A1を投入し、加熱源12に固体の第2成分A2を投入する。これらの量比は特に制限されず、所望の混合比率に応じて適宜調整すればよい。また、一方又は両方の成分が液相であってもよい。
各成分を投入した加熱源11及び加熱源12と、基板22とを、所定の間隔を置いて、同一装置(同一系)内に配置する。
【0057】
必要に応じて当該系内を減圧環境とした後、加熱源11及び加熱源12の加熱を開始する。各加熱源の加熱の開始タイミングや加熱速度は必ずしも同一とする必要はなく、各成分の気化特性や所望の混合比率に応じて適宜調整すればよい。
【0058】
加熱の進行と共に第1成分A1と第2成分A2が気化し、上部の空間21においてこれらの混合気体Bが形成される。混合気体Bは、さらに上部の基板22の表面上において逆昇華し、固相の混合物Cが析出する。この間、外部からの操作は特に必要ないが、各加熱源を制御して気化量を調整してもよい。
【0059】
基板22上に固相の混合物Cがある程度堆積した後、基板22を取り出して、図2(b)に示すように、回収部材30により固相の混合物Cを基板22から掻き落とし、粉体又は塊状物として回収する。
以上の操作は、予め複数の基板22を用意しておき、基板22を取り替えながら行ってもよい。
【0060】
得られた粉体又は塊状物である混合物は、必要に応じて粉砕化又は成形した後、所望の用途に供することができる。用途としては、本発明の一態様に係る粉体又は塊状物である混合物の製造方法で説明した通りである。
【0061】
上述の実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。また、上記実施形態に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載したものに限定されない。なお、前述した実施形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。

図1
図2