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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132594
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】穀粉の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/10 20060101AFI20230914BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01N33/10
G01N31/00 M
G01N31/00 U
G01N31/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038007
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】原田 義孝
(72)【発明者】
【氏名】吉川 岳史
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC01
2G042BD07
2G042FA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、穀粉に含まれる化学物質を簡便かつ迅速に検出することができる検査方法を提供することを課題とする。
【解決手段】基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程と、前記穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程とを含み、前記試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成り、前記溶媒の表面張力が50mN/m以下である方法により上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉に含まれる化学物質の検出方法であって、
基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程と、
前記穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程とを含み、
前記試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成り、前記溶媒の表面張力が50mN/m以下である、
前記検出方法。
【請求項2】
穀粉に含まれる化学物質が酸化性物質であり、前記検出試薬が還元系検出試薬である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
酸化性物質が過酸化ベンゾイル、臭素酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムからなる群から選択される1以上である、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
還元系検出試薬がジエチル-p-フェニレンジアミン、ヨウ化カリウム、o-トリジン、シリンガルダジンからなる群から選択される何れか1である、請求項2又は請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
穀粉が小麦粉である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
穀粉の平らな面に試薬溶液を作用させる手段が滴下又は噴霧である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉に含まれる化学物質の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀類を製粉して得られる穀粉には、様々な化学物質が含まれていることがあり、そのような化学物質として穀粉を白く発色させるために使用される漂白剤、収穫前に散布された農薬、収穫後に散布された防カビあるいは防虫剤などが挙げられる。穀粉は各種の食品あるいは飼料等に加工されるため、これらの化学物質の含有量ないしは使用量の上限が厳格に定められている。例えば、過酸化ベンゾイルは小麦粉改良剤として用いられる添加物であり、厚生労働省は食品衛生法に基づく告示「食品、添加物等の規格基準(昭和34年12月28日厚生省告示第370号)」において「希釈過酸化ベンゾイル」として製剤の成分規格(過酸化ベンゾイルをリン酸カルシウムや炭酸カルシウム等で希釈し、過酸化ベンゾイル含量19.0~35.0質量%に調製したもの)を定めたうえで、「希釈過酸化ベンゾイル」の使用量を小麦粉1kgにつき0.30g(300ppm)以下として使用基準を定めている。これらの化学物質の穀粉中の含有量を測定するには、少なからず抽出や標識等の前処理を行う必要があり、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなど各種の分析装置を用いるため、煩雑な作業や結果を得るまでに時間を要することとなる。
一方で、製造の現場等においては、機器分析により厳密に測定する前段階として、穀粉中の化学物質の有無を予備的に検査したいという要望がある。例えば、上記の過酸化ベンゾイルであれば、輸入小麦粉に使用されていることが多々あり、厚生労働省の食品衛生法に基づく通知「食品中の食品添加物分析法」における過酸化ベンゾイル分析法によれば液体クロマトグラフィーにより分析する必要があるが、製造現場においては迅速かつ簡易的に検出できる方法が求められていた。
【0003】
一般に、穀粉の色調を機器分析でなく目視で検査する方法としてペッカー試験が知られている。この方法はスライドガラス等のガラス板に穀粉を載置し、もう一枚のガラス板で穀粉を挟み込み、ガラス板に挟まれた穀粉に水が浸透する程度に水中に浸漬し、水中から取り出して目視で検査する。このようなペッカー試験を、穀粉に添加混合した異種粉粒体の偏在を見るために利用したような例もあるが(特許文献1)、穀粉に含まれている化学物質の検査に応用される例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-128102号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lunkenheimer, K.; Wantke, K. D. Colloid Polym. Sci., 1981,259,p.354-366.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、穀粉に含まれる化学物質を簡便かつ迅速に検出することができる検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程と、前記穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程とを含み、前記試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成り、前記溶媒の表面張力が50mN/m以下である方法により、特殊な測定装置を用いることなく、また煩雑な化学物質の抽出操作等を行うことなく、簡便かつ迅速に穀粉に含まれる化学物質を視覚的に検出することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕穀粉に含まれる化学物質の検出方法であって、基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程と、前記穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程とを含み、前記試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成り、前記溶媒の表面張力が50mN/m以下である前記検出方法。
〔2〕穀粉に含まれる化学物質が酸化性物質であり、前記検出試薬が還元系検出試薬である、〔1〕記載の検出方法。
〔3〕酸化性物質が過酸化ベンゾイル、臭素酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムからなる群から選択される1以上である、〔2〕記載の検出方法。
〔4〕還元系検出試薬がジエチル-p-フェニレンジアミン、ヨウ化カリウム、o-トリジン、シリンガルダジンからなる群から選択される何れか1である、〔2〕又は〔3〕記載の検出方法。
〔5〕穀粉が小麦粉である、〔1〕~〔4〕記載の検出方法。
〔6〕穀粉に試薬溶液を作用させる手段が滴下又は噴霧である、〔1〕~〔5〕記載の検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、穀粉に含まれる化学物質を簡便かつ迅速に検出することができる検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】小麦粉における希釈過酸化ベンゾイルの検出結果である。(A)は希釈過酸化ベンゾイルを含まない小麦粉、(B)は希釈過酸化ベンゾイルを250ppm含む小麦粉である。
図2】小麦粉における希釈過酸化ベンゾイルの検出結果である。(A)250ppm、(B)200ppm、(C)150ppm、(D)100ppmの希釈過酸化ベンゾイルを含む。
図3】小麦粉における希釈過酸化ベンゾイルの検出結果である。(A)50ppm、(B)40ppm、(C)30ppm、(D)20ppm、(E)10ppm、(F)0ppmの希釈過酸化ベンゾイルを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、穀粉に含まれる化学物質の検出方法であって、基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程と、前記穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程とを含み、前記試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成り、前記溶媒の表面張力が50mN/m以下である、前記検出方法に関する。
【0012】
本発明において穀粉とは、穀粒を粉砕し、主にその胚乳部を回収することで得られる粉体のことである。穀粒の例としては、小麦、米、ライ麦、大豆、とうもろこしなどが挙げられる。タンパク質含有量が高い穀粉の方が以下に説明する平らな面を有する穀粉層を形成し易いという観点から、好ましくは小麦、ライ麦、大豆、とうもろこしであり、より好ましくは小麦、大豆、とうもろこしである。
【0013】
本発明の方法は、基板上に穀粉を載置し、穀粉に平板を押し当てて、平らな面を有する穀粉層を形成する工程を含む。ここで基板は材質や形状など特に限定されず、適当量の穀粉をその上に載置できるものであれば特に限定されない。例えば基板としてはプラスチックやガラス製の板、バットや皿等を使用することができる。基板上に載置する小麦粉の量は特に限定されず、また形成される穀粉層の形状や厚みは一定でなくても良いが、少なくとも平板を押し当てたことにより形成される平らな面を有する。穀粉層は平らな面を有することにより、検出試薬による発色又は発光の目視が容易になる。平板としては、金属ヘラやゴムベラ等の平坦な板状の部分を有する道具を使用しても良いし、スライドガラスなどのガラス板などを使用しても良い。
作業性の観点から、例えば10~30gの穀粉を100~300cm2の面積を有するガラス板に載置し、へらを押し当てて平らな面を有する穀粉層(厚さ約5~10mm)を形成することができる。
【0014】
本発明の方法は、穀粉層の平らな面に試薬溶液を作用させる工程を含む。本発明において、穀粉層の平らな面に前記試薬溶液を作用させる手段は特に限定されないが、試薬溶液の滴下、噴霧などが挙げられる。作用させる試薬溶液の量は適宜調整可能であるが、好ましくは、少なくとも100μl~300μlの試薬溶液を穀粉層の平らな面に作用させることで、発色又は発光の目視が容易となる。
【0015】
本発明において穀粉に含まれる化学物質としては、穀粉の品質改良剤、例えば白く発色させるために使用される漂白剤や、穀粉の原料となる穀物の収穫前に散布された農薬、収穫後に散布された防カビあるいは防虫剤などが挙げられ、特定の検出試薬と反応して発色又は発光により検出できるものをいう。発色により検出される化学物質としては好ましくは酸化性物質であり、より好ましくは、過酸化ベンゾイル、臭素酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムである。発光により検出される化学物質としては、ATPが挙げられる。
【0016】
本発明において、試薬溶液は、前記化学物質と反応して発色又は発光する検出試薬と溶媒から成る。検出試薬は、検出対象である化学物質と反応して発色、又は発光する試薬であれば特に限定されない。例えば、ジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)は、酸化剤との反応によってキノンジイミンを生成する。キノンジイミンは、未反応のDPDと反応することで、赤桃色のジエチル-セミキノン中間体を生じる。すなわち、DPDを加えたときに生じる赤桃色の呈色により、反応系に酸化剤が含まれていることを検出することができる。
化学物質と反応して発色する試薬は、好ましくは酸化性物質と反応する還元系検出試薬であり、そのような還元系検出試薬として、ジエチル-p-フェニレンジアミン、ヨウ化カリウム、o-トリジン、シリンガルダジンを挙げることができる。
化学物質と反応して発光する試薬は、好ましくはルシフェラーゼである。
【0017】
本発明において、試薬溶液の溶媒の表面張力は50mN/m以下である。溶媒の表面張力が所定の範囲であることにより、試薬溶液が穀粉層の平らな面の表面に浸透することができる。好ましくは40mN/m以下であり、より好ましくは30mN/m以下であり、更に好ましくは25mN/m以下である。試薬溶液の溶媒の表面張力が小さくなるほど、試薬溶液が穀粉層の平らな面の表面に浸透し易くなる。表面張力を測定する方法には特に制約はなく、例として輪環法(リング法、デュ・ニュイリング法ともいう)、懸滴法、最大泡圧法などが挙げられる。例えば、20℃における表面張力を非特許文献1に記載のデュ・ニュイリング法(du Nouy ring method)に従って測定する。
試薬溶液の溶媒は、単一又は複数の種類の混合物でもよく、使用する試薬の種類に応じて上記所定の範囲の表面張力を示すものを適宜選択して使用することができる。
例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の低級アルコール又はその水溶液、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤の水溶液、オリーブ油等の常温で液体の油脂、ジエチルエーテル等を挙げることができる。
【実施例0018】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
<試験例1 過酸化ベンゾイルの検出>
検出試薬としてジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)を用いて、小麦粉中の過酸化ベンゾイルの検出を検討した。小麦粉100質量部を樹脂製袋に投入し、希釈過酸化ベンゾイルを250ppm(0.25g/kg)になるように加え、1分間手で振り混ぜて混合した。対照は過酸化ベンゾイルを含まない小麦粉とした。「希釈過酸化ベンゾイル」を含む小麦粉、対照の小麦粉それぞれ20gを縦10cm横20cmのガラス板上に載置し、金属製のヘラで押し付けて平らな面を有する穀粉層を作った。そこに0.05% DPD/エタノール溶液(w/v)を200μL滴下し、3分間静置した。
その結果、DPDと過酸化ベンゾイルとの反応により生じる赤桃色の斑点が観察され、小麦粉中の「希釈過酸化ベンゾイル」を検出することができることが示された(図1)。
また、「希釈過酸化ベンゾイル」を含む小麦粉における「希釈過酸化ベンゾイル」濃度を段階的に希釈し、上記同様に検出試験を行い、「希釈過酸化ベンゾイル」の検出限界を確認した。その結果、「希釈過酸化ベンゾイル」100ppmまでは多数の十分に発色した赤桃色の斑点が観察され、さらに、10ppmであっても発色が薄いものの十分な数の赤桃色の斑点が観察された(図2図3)。
【0020】
<試験例2 溶媒の検討1>
試薬溶液に使用する溶媒の種類を検討した。試薬溶液であるDPD溶液の溶媒をエタノール以外のものに変更した以外は試験例1の方法と同様に小麦粉中の「希釈過酸化ベンゾイル」の検出を検討した。
溶媒としてエタノール以外の低級アルコールである、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールを使用した場合、何れも試験例1におけるエタノールを使用した場合と同様にDPD溶液は穀粉層に浸透し、小麦粉中の「希釈過酸化ベンゾイル」を検出することができた。
溶媒として比較的炭素数の多いアルコール(1-ブタノール)を使用した場合では、穀粉層への浸透は十分であったが、1-ブタノールへのDPDの溶解度が低く、0.05%(w/v)のDPDが完全には溶解しなかったため、エタノールを用いた試験例1よりも赤桃色の斑点の発色が弱かった。
また、溶媒としてジエチルエーテルを使用した場合、DPDはジエチルエーテルには不溶であったため赤桃色の斑点を検出できなかったが、試薬溶液の穀粉層への浸透はエタノールを使用した場合よりも良好であった。
このことから、脂溶性の高い検出試薬を使用する場合であれば、親水性の低い溶媒や非極性の溶媒を用いることができることが示唆された。
【0021】
<試験例3 溶媒の検討2>
エタノールと蒸留水とを用いて表1記載の溶媒を調製し、20℃における表面張力を非特許文献1に記載のデュ・ニュイリング法(du Nouy ring method)に従って測定した。DPDをこれらの溶媒に溶解して0.05%(w/v)DPD溶液を調製した以外は、試験例1に従って「希釈過酸化ベンゾイル」を含む小麦粉の検出試験を行った。試薬溶液の穀粉層への浸透と希釈過酸化ベンゾイルの検出について下記評価基準に従って評価した。
その結果、溶媒1及び2では、穀粉層への浸透が良好であり、「希釈過酸化ベンゾイル」に由来する赤桃色の斑点を検出することができた。溶媒3及び4では、穀粉層への浸透がやや遅くなったが、赤桃色の斑点の検出は溶媒1及び2よりもやや劣る程度であった。溶媒5では、穀粉層への浸透が更に遅くなったが、「希釈過酸化ベンゾイル」に由来する赤桃色の斑点をやや検出することができ、溶媒5が穀粉層へ浸透するための時間を延長することにより良好な赤桃色の斑点を検出できると思われた。溶媒6のDPD水溶液は穀粉層上に浸透することなく略半球状の滴として保持され、「希釈過酸化ベンゾイル」とDPDとの反応が進行せず、赤桃色の斑点を検出できなかった。
このことから、試薬溶液の穀粉層への浸透には表面張力が関わっていることが判った。
【0022】
表1.エタノール水溶液の表面張力と試薬溶液の穀粉層への浸透、及び希釈過酸化ベンゾイルの検出
【0023】
評価基準

【0024】
<試験例4 溶媒の検討3>
試薬溶液であるDPD溶液の溶媒をエタノールからラウリル硫酸ナトリウム水溶液又はオリーブ油に変更した以外は試験例1に従って「希釈過酸化ベンゾイル」を含む小麦粉の検出試験を行った。溶媒の20℃における表面張力を非特許文献1に記載のデュ・ニュイリング法(du Nouy ring method)に従って測定し、試薬溶液の穀粉層への浸透と希釈過酸化ベンゾイルの検出について試験例3における評価基準に従って評価した。
その結果、何れも試験例3における溶媒4と同等の穀粉層への浸透が観察され、表面張力を満たしていれば穀粉中の化学物質を検出可能であることが示唆された。なお、ラウリル硫酸ナトリウム水溶液にはDPDが溶解し、オリーブ油にはDPDが溶解しないことから、前者では赤桃色の斑点が観察されたが、後者では観察されなかった。脂溶性の高い検出試薬を使用する場合には、親水性の低い溶媒や非極性の溶媒に検出試薬を溶解して用いることができることが示唆された。
【0025】
表2.試薬溶液の穀粉層への浸透
図1
図2
図3