(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132623
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】接着フィルムおよび接着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20230914BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20230914BHJP
C09J 123/36 20060101ALI20230914BHJP
C09J 125/08 20060101ALI20230914BHJP
C09J 123/30 20060101ALI20230914BHJP
C09J 123/12 20060101ALI20230914BHJP
C09J 123/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J7/25
C09J123/36
C09J125/08
C09J123/30
C09J123/12
C09J123/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038048
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】武井 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 悠以子
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA07
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC03
4J004CE01
4J004EA06
4J004FA08
4J040DA031
4J040DA091
4J040DA162
4J040DA201
4J040DB022
4J040GA22
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA10
4J040MB03
4J040NA19
4J040PA30
4J040PA33
(57)【要約】
【課題】常温でも高温下でも、被着体に対する接着性と、接着フィルムの寸法保持性とを両立することが可能な接着フィルムおよび接着フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】耐熱層11の少なくとも片面に接着層12を有する接着フィルム10であり、耐熱層11が、モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂を必須成分とし、耐熱層11の荷重たわみ温度が100℃以上であり、接着層12が、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂を必須成分とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱層の少なくとも片面に接着層を有する接着フィルムであり、
前記耐熱層が、モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂を必須成分とし、
前記耐熱層の荷重たわみ温度が100℃以上であり、
前記接着層が、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂を必須成分とする、接着フィルム。
【請求項2】
前記接着層が、スチレン構造または環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の接着フィルム。
【請求項3】
前記接着層が、不飽和カルボン酸成分で変性された変性ポリオレフィン樹脂を含有する、請求項1または2に記載の接着フィルム。
【請求項4】
前記耐熱層100重量部中に、前記モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を1~30重量部の範囲内で含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン樹脂が、変性ポリエチレン樹脂または変性ポリプロピレン樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項6】
前記接着層100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂を1~30重量部の範囲内で含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項7】
前記接着層の上に、前記接着フィルムの被着体に接着される第2の接着層を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、
前記接着層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出ラミネートにより前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を積層する工程と、
を有する、接着フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱層および前記接着層の材料を各々押出機にて溶融混練し、同時に押出成形することで、前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を積層した状態で前記耐熱層および前記接着層をフィルム化する工程を有する、接着フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、
前記接着層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記接着層をフィルム化する工程と、
前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を熱ロールでプレスして積層する工程と、
を有する、接着フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、
前記接着層の材料を溶媒に溶解し、前記耐熱層上に塗布し、前記溶媒を乾燥して前記接着層を積層する工程と、
を有する、接着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着フィルムおよび接着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の高い材料として、例えば、ポリイミドが知られている。例えば、特許文献1には、基材と両面の接着層が特定のポリイミドから形成された電子部品用接着テープが記載されている。また、特許文献1の段落0110~0111には、実施例の接着テープを1秒間の加熱で金属放熱板に接着し、次いで、1秒間の加熱でリードフレームと接着し、さらに、銀ペーストを2時間硬化させて半導体チップを接着して、半導体パッケージを組み立てることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高温に加熱して接着を行う接着フィルムにおいては、被着体に対する接着性と、接着フィルムの寸法保持性が求められている。特許文献1に記載の発明においては、熱可塑性の接着剤として使用され(段落0029)、耐熱性と接着性が高い(段落0118)と説明されている。しかし、特許文献1に記載の発明では、基材および接着層に特殊なポリイミドを使用する必要があるため、接着フィルムが高価になる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、常温でも高温下でも、被着体に対する接着性と、接着フィルムの寸法保持性とを両立することが可能な接着フィルムおよび接着フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、耐熱層の少なくとも片面に接着層を有する接着フィルムであり、前記耐熱層が、モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂を必須成分とし、前記耐熱層の荷重たわみ温度が100℃以上であり、前記接着層が、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂を必須成分とする、接着フィルムを提供する。
【0007】
前記接着層が、スチレン構造または環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも1種を含有してもよい。
前記接着層が、不飽和カルボン酸成分で変性された変性ポリオレフィン樹脂を含有してもよい。
【0008】
前記耐熱層100重量部中に、前記モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を1~30重量部の範囲内で含有してもよい。
前記変性ポリオレフィン樹脂が、変性ポリエチレン樹脂または変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。
前記接着層100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂を1~30重量部の範囲内で含有してもよい。
前記接着層の上に、前記接着フィルムの被着体に接着される第2の接着層を有してもよい。
【0009】
また、本発明は、前記接着フィルムの製造方法であって、前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、前記接着層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出ラミネートにより前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を積層する工程と、を有する、接着フィルムの製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記接着フィルムの製造方法であって、前記耐熱層および前記接着層の材料を各々押出機にて溶融混練し、同時に押出成形することで、前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を積層した状態で前記耐熱層および前記接着層をフィルム化する工程を有する、接着フィルムの製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記接着フィルムの製造方法であって、前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、前記接着層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記接着層をフィルム化する工程と、前記耐熱層の少なくとも片面に前記接着層を熱ロールでプレスして積層する工程と、を有する、接着フィルムの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記接着フィルムの製造方法であって、前記耐熱層の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により前記耐熱層をフィルム化する工程と、前記接着層の材料を溶媒に溶解し、前記耐熱層上に塗布し、前記溶媒を乾燥して前記接着層を積層する工程と、を有する、接着フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、常温でも高温下でも、被着体に対する接着性と、接着フィルムの寸法保持性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】接着フィルムの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】接着フィルムの第2実施形態を示す断面図である。
【
図3】接着フィルムの第3実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0016】
図1~3に示すように、実施形態の接着フィルム10,20,30は、耐熱層11の少なくとも片面に接着層12を有する。
図1に示す接着フィルム10のように、耐熱層11の片面に接着層12を有してもよい。
図2に示す接着フィルム20のように、耐熱層11の両面に接着層12を有してもよい。これらの接着層12は、接着フィルム10,20の被着体(図示せず)に接着されるために使用されてもよい。
【0017】
図3に示す接着フィルム30のように、接着層12の上に、被着体に接着される第2の接着層13を有してもよい。第2の接着層13は、耐熱層11の少なくとも片面において、接着層12の上に積層することができる。特に図示しないが、耐熱層11の両面に、それぞれ接着層12および第2の接着層13が積層されていてもよい。
【0018】
耐熱層11は、モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂を必須成分とする。以下の説明では、「モノマー単位に芳香族環を有する熱可塑性樹脂」を総称して、「芳香族環含有熱可塑性樹脂」という場合がある。
【0019】
芳香族環含有熱可塑性樹脂としては、ポリイミド(PI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリエステル樹脂、ビスフェノール型のエポキシ樹脂(フェノキシ樹脂)、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂などが挙げられる。芳香族環含有熱可塑性樹脂が、2種以上の樹脂が相溶したポリマーアロイ等であってもよい。ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0020】
芳香族環含有熱可塑性樹脂における芳香族環としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、アズレン環などが挙げられる。これらの芳香族環の間が単結合等で直結されてもよい。例えば、ベンゼン環の間が単結合で直結されると、ビフェニル環、テルフェニル環等が得られる。芳香族環含有熱可塑性樹脂が、モノマーの重合により繰り返される主鎖に芳香族環を有してもよく、主鎖から分岐する側鎖に芳香族環を有してもよい。
【0021】
芳香族環含有熱可塑性樹脂は、モノマー単位に含まれる芳香族環の間が、イミド結合〔(-CO)2N-〕、スルフィド結合(-S-)、エーテル結合(-O-)、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、スルホン結合(-SO2-)、カルボニル基(-CO-)等から選択される1種以上であることが好ましい。さらに、高湿度環境における耐熱性を向上するには、芳香族環含有熱可塑性樹脂が、より加水分解性または熱分解性が高い結合を含まないことが好ましく、例えば、エステル結合を含まないことが好ましい。さらに、芳香族環含有熱可塑性樹脂として、エステル結合を含まないことに加えて、イミド結合および/またはアミド結合を含まない熱可塑性樹脂を選択してもよい。
【0022】
芳香族環含有熱可塑性樹脂における芳香族環の間に脂肪族鎖が含まれてもよい。脂肪族鎖の具体例としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)、トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)等のアルキレン基、これらにアルキル基、水酸基等の置換を1箇所以上有する置換アルキレン基、無置換または置換されたアルキレン基の一端または両端にエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)等の官能基を有する二価基などが挙げられる。脂肪族鎖は芳香族環より耐熱性が低い傾向があるため、芳香族環の間に配置される脂肪族鎖の炭素原子数が少ない方が好ましい。例えば、脂肪族鎖の炭素原子数が3以下、2以下または1以下であってもよい。芳香族環の間に脂肪族鎖を有しない芳香族環含有熱可塑性樹脂を採用してもよい。
【0023】
芳香族環含有熱可塑性樹脂は、モノマー単位に芳香族環を1~5個有する樹脂であることが好ましい。これにより、樹脂の分子構造が過度に複雑にならず、入手が比較的容易になる。モノマー単位に芳香族環を1個有する樹脂として、PI樹脂、PPS樹脂、PPE樹脂、PAI樹脂、PET樹脂、PS樹脂、PEN樹脂、LCP等が挙げられる。モノマー単位に芳香族環を2個有する樹脂として、PI樹脂、PAI樹脂、PES樹脂、LCP等が挙げられる。モノマー単位に芳香族環を3個有する樹脂として、PI樹脂、PEEK樹脂、LCP等が挙げられる。モノマー単位に芳香族環を5個有する樹脂として、PEI樹脂等が挙げられる。
【0024】
芳香族環含有熱可塑性樹脂のモノマー単位は、モノマーの重合により繰り返される単位であってもよい。例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等にみられるように、ポリカルボン酸と他の官能基を含む化合物との重縮合で得られるポリマーの場合は、ポリカルボン酸の単位と他の官能基を含む化合物の単位がそれぞれモノマー単位であってもよく、あるいは、ポリカルボン酸の単位と他の官能基を含む化合物の単位とを合わせた単位がモノマー単位であってもよい。ここで、他の官能基を含む化合物は、ポリイミド樹脂に対してポリアミン化合物であり、ポリエステル樹脂に対してポリオール化合物である。このため、例えばポリイミド樹脂において、ポリカルボン酸の単位が芳香族環を1個有し、ポリアミン化合物の単位が芳香族環を2個有する場合は、モノマー単位が芳香族環を3個有する樹脂としてもよい。
【0025】
耐熱層11は、荷重たわみ温度(HDT)が100℃以上であることが好ましい。これにより、接着フィルム10,20,30の耐熱性を向上することができる。耐熱層11のHDTは、例えば、JIS K7191、ISO 75、ASTM D648等の規格に準拠した方法により測定することができる。HDTの測定における荷重の大きさは、例えばISO 75及びJIS K7191のA法では1.80MPa、ASTM D648のA法では1.82MPaである。
【0026】
荷重たわみ温度(HDT)の値は、単一の樹脂層、2種類以上の樹脂を含有する混合樹脂層、あるいは樹脂以外の成分を含有する樹脂層のいずれであっても、試験片を作製し、測定することが可能である。このため、耐熱層11に含まれる樹脂成分のHDTも測定が可能である。HDTが100℃以上の芳香族環含有熱可塑性樹脂は、耐熱層11に耐熱性を付与するために好適な成分であるため、耐熱層11の必須成分とすることが好ましい。耐熱層11に含まれる2種以上の樹脂が相溶したポリマーアロイのHDTが100℃以上であってもよい。
【0027】
耐熱層11は、樹脂成分として、HDTが100℃以上の芳香族環含有熱可塑性樹脂のみを含有してもよい。耐熱層11が、芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の樹脂成分を含有してもよい。耐熱層11は、芳香族環含有熱可塑性樹脂を1種または2種以上の合計で、50重量%以上、さらには、70~100重量%の割合で含有してもよい。耐熱層11は、芳香族環含有熱可塑性樹脂を含む耐熱層のみから形成されてもよく、芳香族環含有熱可塑性樹脂を含む耐熱層と、他の耐熱層を併用してもよい。
【0028】
耐熱層11は、その全量100重量部中に、芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を1~30重量部の範囲内で含有してもよい。芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂は、モノマー単位に芳香族環を有しない熱可塑性樹脂であってもよい。芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂のHDTは、100℃以上であってもよく、100℃未満であってもよい。
【0029】
芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、エチレン、スチレン、環状炭化水素等の少なくともいずれかの構造を有するモノマーを重合した樹脂が挙げられる。芳香族環含有熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂は、エチレン構造を有するモノマー、スチレン構造を有するモノマー、環状炭化水素構造を有するモノマーから選択される少なくとも1種のモノマーを共重合した樹脂であってもよく、これらのモノマーの単独重合体であってもよい。
【0030】
エチレン構造を有するモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらのエチレン構造を有するモノマーを重合した樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。
【0031】
スチレン構造を有するモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーが挙げられる。これらのスチレン構造を有するモノマーを重合した樹脂としては、ポリスチレン、スチレン系エラストマー等が挙げられる。スチレン系エラストマーとしては、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、水添スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
環状炭化水素構造を有するモノマーとしては、上述したスチレン構造を有するモノマーでもよく、インデン等の芳香族オレフィンモノマーでもよく、環状オレフィンモノマーであってもよい。環状炭化水素構造を有するモノマーを重合した樹脂としては、例えば、C5~C9系石油樹脂、C9系石油樹脂等であってもよい。環状オレフィンモノマーは、少なくとも1個のノルボルネン構造を有するモノマーであることが好ましい。環状オレフィンモノマーが、炭化水素系モノマーでもよく、エステル基等の官能基を有してもよい。環状オレフィンモノマーを重合した樹脂としては、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等の環状オレフィン樹脂が挙げられる。
【0033】
接着層12は、変性ポリオレフィン樹脂を必須成分とする。接着層12は、耐熱層11に隣接する樹脂層であってもよい。変性ポリオレフィン樹脂は、接着性が高いことから、接着層12に接着性を付与するための必須成分となる。
【0034】
接着層12は、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一方を必須成分とする。
【0035】
本実施形態においてイミン変性ポリオレフィン樹脂は、接着性ポリオレフィンにイミノ基を複数有するポリイミン化合物を、ラジカル発生剤の存在下でグラフト処理することによって得ることが好ましい。本実施形態においては、ポリプロピレンイミンをグラフト処理した、イミン変性ポリプロピレンであることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態のイミン変性ポリオレフィン樹脂において、温度190℃または230℃、荷重2.16kgの条件下でASTM D1238に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)が2g/10分以上25g/10分以下であることが好ましく、2.5g/10分以上20g/10分以下がより好ましく、2.8g/10分以上18g/10分以下がさらに好ましい。
【0037】
イミン変性ポリオレフィン樹脂のグラフト処理に使用される接着性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンとオレフィン系モノマーとの共重合体等が挙げられる。共重合する場合の前記オレフィン系モノマーとしては、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0038】
なかでも接着性ポリオレフィンとしては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンとブテンとの共重合体等のプロピレンを原料として重合されるポリプロピレン系樹脂が好ましく;特にプロピレン-1-ブテン共重合体、すなわち側鎖にメチル基及びエチル基を有するポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0039】
イミン変性ポリオレフィン樹脂のグラフト処理に使用されるポリイミン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0040】
【0041】
[式(1)中のR1、R2、R3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、非反応性の原子または有機基を表し、R1とR2は互いに結合して環を形成していても良い。nは1以上の整数であり、n1は20~2000の整数を表す。]
【0042】
式(1)中のR1、R2、R3としては、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、芳香族基、複素環基またはアルコキシ基であることが好ましい。
【0043】
R1、R2、R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の具体例が挙げられ、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、炭素数1~5のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~3のアルキル基が特に好ましい。
【0044】
R1、R2、R3のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基等の具体例が挙げられ、炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、炭素数2~8のアルケニル基がより好ましく、炭素数2~5のアルケニル基がさらに好ましく、炭素数2~4のアルケニル基が特に好ましい。
【0045】
R1、R2、R3のアルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、1-ヘプチニル基等の具体例が挙げられ、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましく、炭素数2~6のアルキニル基がさらに好ましく、炭素数2~4のアルキニル基が特に好ましい。
【0046】
R1、R2、R3のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の具体例が挙げられ、炭素数3~10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3~6のシクロアルキル基がより好ましく、炭素数5~6のシクロアルキル基が特に好ましい。
【0047】
R1、R2、R3の芳香族基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基が具体例として挙げられ、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~10のアラルキル基が好ましい。
【0048】
R1、R2、R3の複素環基としては、例えば、フラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、テトラヒドロフラン環などの5員環、ピラン環などの6員環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、キサントン環、キサンテン環、クロマン環、イソクロマン環、クロメン環などの縮合環に代表されるヘテロ原子として酸素原子を含む複素環、あるいは、例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチオフェン環などに代表されるヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環、さらに、例えば、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピロリジン環などの5員環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、モルホリン環などの6員環、インドール環、インドリジン環、イソインドール環、インダゾール環、インドリン環、イソインドリン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、シンノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、プリン環、カルバゾール環、アクリジン環、ナフトキノリン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、ナフチリジン環、ベンゾキノリン環、フェノキサジン環、フタロシアニン環、アントラシアニン環などの縮合環に代表されるヘテロ原子として窒素原子を含む複素環などが挙げられる。
【0049】
R1、R2、R3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等の具体例が挙げられ、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましい。
【0050】
式(1)中のnは1~10であることが好ましい。
ポリイミン化合物の好適な具体例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンが挙げられる。
【0051】
ポリイミン化合物の分子量は、1,000以上であることが好ましいが、活性化処理後のオレフィンとの反応性等の観点から、より高分子量であることが好ましい。具体的には、ポリイミン化合物の分子量が、1,000~200,000であることが好ましく、3,000~200,000であることがより好ましく、15,000~200,000であることが特に好ましい。
【0052】
イミン変性ポリオレフィン樹脂のグラフト処理に用いるラジカル発生剤としては、有機過酸化物、有機パーエステル、アゾ化合物が好ましい。有機過酸化物または有機パーエステルの具体例として、ベンゾイルパーオキシド、ジクロルベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシドベンゾエート)ヘキシン-3、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルパーオキシド、tert-ブチルペルアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルフェニルアセテート、tert-ブチルペルイソブチレート、tert-ブチルペル-sec-オクトエート、tert-ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、tert-ブチルペルジエチルアセテートが挙げられる。また、アゾ化合物の具体例として、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートが挙げられる。これらのうちではジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキシドが好ましい。
【0053】
中でも、ラジカル発生剤としては、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、半減期の分解温度が100℃以上のものが好適である。また、有機過酸化物として具体的には、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3、ラウロイルパーオキサイド、及び、t-ブチルパーオキシベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
ラジカル発生剤の使用割合は、イミン変性ポリオレフィン樹脂のグラフト処理に使用されるポリオレフィン100質量部に対して通常0.001~1質量部である。
【0055】
上記イミン変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィンと、ポリイミン化合物と、ラジカル発生剤とを均一混合し、グラフト処理することにより製造することができる。具体的には、押出機やバンバリーミキサー、ニーダーなどを用いる溶融混練法、適当な溶媒に溶解させる溶液法、適当な溶媒中に懸濁させるスラリー法、または、いわゆる気相グラフト法等が挙げられる。上記グラフト処理の温度としては、ポリオレフィンの劣化、ポリイミン化合物の分解、使用するラジカル発生剤の分解温度などを考慮して適宜選択される。例えば、上記溶融混練法の場合、通常、60~350℃の温度で行われる。上記グラフト処理の温度として、190~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。
【0056】
カルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂は、カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィンと、カルボジイミド基含有化合物とを、未変性ポリオレフィンの存在下で反応させて得られるものであることが好ましい。カルボジイミド基含有化合物を反応させる方法としては、230℃以上の温度で溶融混練する方法が挙げられる。
【0057】
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、テトラシクロドデセン、ノルボルネンの単独重合体または共重合体に、カルボジイミド基と反応する基を導入したポリマーが挙げられる。
【0058】
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば酸ハライド、アミド、イミド、エステルなど)が挙げられる。これらの中では、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリル酸アミノプロピルが好ましい。
【0059】
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物をポリオレフィンに導入する方法としては、周知の方法を採用することが可能であるが、例えば、ポリオレフィン主鎖にカルボジイミド基と反応する基を有する化合物をグラフト共重合する方法や、オレフィンとカルボジイミド基と反応する基を有する化合物をラジカル共重合する方法等を例示することができる。
【0060】
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン1、ポリ-4-メチルペンテン-1およびこれらのα-オレフィン共重合体などの結晶性ポリオレフィンの無水マレイン酸グラフト共重合体が好ましく、ポリエチレンの無水マレイン酸グラフト共重合体がより好ましい。特に、密度0.915g/cm3以上のポリエチレンの無水マレイン酸グラフト共重合体が好ましい。
【0061】
カルボジイミド基含有化合物は、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドが好ましい。
-N=C=N-R4 - ・・・(2)
(式(2)中、R4は炭素数2から40の2価の有機基を表す)
【0062】
式(2)のR4としては、アルキレン基等の脂肪族炭化水素基、シクロアルキレン基等の脂環族炭化水素基、フェニレン基等の芳香族炭化水素基、これらの炭化水素基をエーテル結合(-O-)、カルボニル基(-CO-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、スルホン結合(-SO2-)等の官能基と組み合させた基が挙げられる。R4が、一般式OCN-R4-NCOで表されるジイソシアネート化合物からイソシアネート基(-NCO)を除いた残基であってもよい。
【0063】
ポリカルボジイミドは、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなど有機ジイソシアネートを縮合触媒の存在下、無溶媒または不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応を行なうことにより製造することができる。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネート等を使用することができる。
【0064】
カルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂の製造に用いられる未変性ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリブテン-1、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、ポリ-3-メチル-1-ブテン、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体などの環状ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0065】
さらに接着層12は、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂以外の、他の変性ポリオレフィン樹脂を含有してもよい。他の変性ポリオレフィン樹脂としては、酸変性ポリオレフィン樹脂、ヒドロキシ変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。なかでも、不飽和カルボン酸成分で変性された酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。接着層12の酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性ポリオレフィン樹脂100重量部中、不飽和カルボン酸成分を0.01~2重量部の割合で含有することが好ましい。
【0066】
不飽和カルボン酸成分は、遊離のカルボン酸基を有するカルボキシ基含有モノマーであってもよく、潜在的なカルボン酸基を有する酸無水物基含有モノマー等であってもよい。カルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、エンド-ビシクロ[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸(エンディック酸)等のα,β-不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。酸無水物基含有モノマーとしては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸等の不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂が、1種の不飽和カルボン酸成分が共重合された樹脂であってもよく、2種以上の不飽和カルボン酸成分が共重合された樹脂であってもよい。
【0067】
他の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法としては、未変性ポリオレフィン樹脂を官能基含有モノマーとを溶融混練によりグラフト変性する方法、オレフィンモノマーと官能基含有モノマーとを共重合させる方法等が挙げられる。官能基含有モノマーは、オレフィン以外の極性官能基を有するモノマーであり、不飽和カルボン酸成分、ヒドロキシ置換オレフィン、塩素化オレフィン等が挙げられる。他の変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部として、ラジカル重合開始剤を用いた不飽和カルボン酸成分のグラフト変性による酸変性ポリオレフィン樹脂を採用することもできる。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、脂肪族アゾ化合物等が挙げられる。
【0068】
他の変性ポリオレフィン樹脂に用いられるオレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、α-オレフィン等の1種または2種以上が挙げられる。他の変性ポリオレフィン樹脂は、変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、変性ポリ-1-ブテン樹脂、変性ポリイソブチレン樹脂等であってもよい。他の変性ポリオレフィン樹脂のグラフト変性に用いる未変性ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィンとのブロック共重合体等が挙げられる。
【0069】
接着層12に使用される変性ポリエチレン(PE)樹脂は、変性ポリエチレン樹脂100重量部中に、エチレンを50重量部以上共重合した樹脂であることが好ましい。変性ポリエチレン樹脂には、不飽和カルボン酸成分等の官能基含有モノマーが共重合される。さらに変性ポリエチレン樹脂には、エチレン以外のオレフィンモノマーとして、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が共重合されてもよい。
【0070】
接着層12が、接着層12の全量100重量部中に、変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種を50~100重量部含有してもよい。
また、接着層12は、接着層12の全量100重量部中に、イミン変性ポリオレフィン樹脂またはカルボジイミド基を有する変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一方を、あるいは両者の合計で、50~100重量部含有してもよい。
また、接着層12は、接着層12の全量100重量部中に、酸変性ポリオレフィン樹脂を、3~50重量部含有してもよい。
【0071】
接着層12に使用される変性ポリプロピレン(PP)樹脂は、変性ポリプロピレン樹脂100重量部中に、プロピレンを50重量部以上共重合した樹脂であることが好ましい。変性ポリプロピレン樹脂には、不飽和カルボン酸成分等の官能基含有モノマーが共重合される。さらに変性ポリプロピレン樹脂には、プロピレン以外のオレフィンモノマーとして、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が共重合されてもよい。
【0072】
接着層12には、変性ポリオレフィン樹脂に加えて、任意成分として、スチレン構造または環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも1種を用いてもよい。これにより、耐熱層11と、接着層12との接着性を向上することができる。接着層12が、接着層12の全量100重量部中に、スチレン構造または環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも1種を3~50重量部含有してもよい。
【0073】
スチレン構造を有する樹脂としては、スチレン構造を有するモノマーと、他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン構造を有するモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーが挙げられる。スチレン系モノマー以外の他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、α-オレフィン、ブタジエン、イソプレン等の脂肪族オレフィンが挙げられる。スチレン構造を有する樹脂が、水素添加により、重合後に残留する不飽和結合を低減または飽和化した樹脂でもよい。スチレン構造を有する樹脂がスチレン系エラストマーであってもよい。スチレン構造を有する樹脂におけるスチレン系モノマーの割合は、例えば、10~50重量%であってもよい。
【0074】
接着層12に用いられるスチレン系エラストマーとしては、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、水添スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等の1種または2種以上が挙げられる。スチレン系エラストマーでは、スチレンを含むブロックがハードブロックを構成し、脂肪族オレフィンを含むブロックがソフトブロックを構成する。
【0075】
環状炭化水素構造を有する樹脂は、環状炭化水素構造を有するモノマーと、他のモノマーとの共重合体が挙げられる。環状炭化水素構造を有するモノマーとしては、スチレン構造を有するモノマー、ノルボルネン構造を有するモノマーであってもよく、その他、脂環式炭化水素構造または芳香族炭化水素構造を有するモノマーであってもよい。スチレン構造およびノルボルネン構造以外の環状炭化水素構造を有するモノマーとしては、インデン、アリルベンゼン、シクロオレフィン等が挙げられる。環状炭化水素構造を有しない、他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、α-オレフィン、ブタジエン、イソプレン等の脂肪族オレフィンが挙げられる。
【0076】
環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも一部が、スチレン構造を有する樹脂であってもよい。環状炭化水素構造を有する樹脂が、スチレン構造を有しない樹脂であってもよい。環状炭化水素構造を有する樹脂の少なくとも一部が、環状オレフィン樹脂であってもよい。環状炭化水素構造を有する樹脂が、環状オレフィン樹脂を含有しなくてもよい。環状炭化水素構造を有する樹脂は、例えば、C5~C9系石油樹脂、C9系石油樹脂等であってもよい。
【0077】
接着層12は、熱可塑性エラストマー樹脂を含有してもよい。熱可塑性エラストマー樹脂は、上述したスチレン構造を有する樹脂を兼ねる、スチレン系エラストマーであってもよい。熱可塑性エラストマー樹脂は、上述したスチレン構造を有する樹脂および環状炭化水素構造を有する樹脂とは異なる樹脂でもよい。例えば、熱可塑性エラストマー樹脂が、オレフィン系エラストマーであってもよい。オレフィン系エラストマーに使用可能なオレフィン系共重合体としては、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体等の脂肪族オレフィン共重合体が挙げられる。接着層12が、その全量100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂を1~30重量部の範囲内で含有してもよい。
【0078】
接着層12の上に第2の接着層13が積層される場合、第2の接着層13は、接着層12の上に積層可能であれば、所望の接着性樹脂を用いることができる。接着性樹脂としては、特に限定されないが、酸変性ポリオレフィン、エポキシ系接着剤、オレフィン系ヒートシール剤等が挙げられる。第2の接着層13は、2種以上の接着性樹脂を含有してもよく、接着性樹脂以外の樹脂成分を含有してもよい。
【0079】
接着フィルム10,20,30を構成する各層、すなわち、耐熱層11、接着層12、第2の接着層13には、所望の目的で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤等の各種添加剤等を含有してもよい。耐熱層11、接着層12、第2の接着層13のいずれかの層が、これらの添加剤のいずれか1種以上または全部を含有しない組成であってもよい。
【0080】
接着フィルム10,20,30の製造方法は特に限定されないが、押出成形、インフレーション成形、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等により、各層を形成し、または各層を積層する方法が挙げられる。例えば、耐熱層11と接着層12とを有する接着フィルム10,20を製造する際、耐熱層11を先に成形してもよく、接着層12を先に成形してもよく、耐熱層11および接着層12を同時に成形してもよい。
【0081】
製造方法の第1例として、耐熱層11の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により耐熱層11をフィルム化する工程と、接着層12の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出ラミネートにより耐熱層11の少なくとも片面に接着層12を積層する工程と、を有する製造方法が挙げられる。第1例の製造方法によれば、耐熱層11が接着層12より耐熱性が高いため、先に接着層12を成形した上に耐熱層11を押出ラミネートする場合に比べて、製造が容易である。また、第1例は、後述の第2例に比べて、各層の膜厚等の調整が容易である。また、第1例は、後述の第3例に比べて、接着層12が溶融状態で耐熱層11に積層されるため、層間の密着性が向上する。
【0082】
製造方法の第2例として、耐熱層11および接着層12の材料を各々押出機にて溶融混練し、同時に押出成形することで、耐熱層11の少なくとも片面に接着層12を積層した状態で耐熱層11および接着層12をフィルム化する工程を有する製造方法が挙げられる。第2例の製造方法によれば、上述の第1例および後述の第3例に比べて、押出成形が1工程で済み、作業が短縮される。また、耐熱層11および接着層12が溶融状態で積層されるため、層間の密着性が向上する。
【0083】
製造方法の第3例として、耐熱層11の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により耐熱層11をフィルム化する工程と、接着層12の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により接着層12をフィルム化する工程と、耐熱層11の少なくとも片面に接着層12を熱ロールでプレスして積層する工程と、を有する製造方法が挙げられる。第3例の製造方法によれば、耐熱層11および接着層12を別々に成形し、必要に応じて所望の組み合わせで積層することができるので、設計変更や製造管理が容易になる。耐熱層11のフィルム化および接着層12のフィルム化の順序は特に限定されず、同時並行して実施することも可能である。
【0084】
製造方法の第4例として、耐熱層11の材料を溶融押出機にて溶融混練し、押出成形により耐熱層11をフィルム化する工程と、接着層12の材料を溶媒に溶解し、耐熱層11上に塗布し、溶媒を乾燥して接着層12を積層する工程と、を有する製造方法が挙げられる。第4例の製造方法によれば、接着層12の厚みの調整が容易であり、溶融押出では困難な程度の薄膜であっても、薄膜の接着層12を形成することも可能である。
【0085】
耐熱層11の両面に接着層12を有する場合、各面の接着層12は、同一の方法で耐熱層11に積層してもよく、異なる方法で耐熱層11に積層してもよい。両面の接着層12が、互いに組成または厚みの異なる樹脂層でもよく、組成または厚みが同一の樹脂層でもよい。耐熱層11および接着層12の厚みは特に限定されないが、例えば、耐熱層11または接着層12の各層につき、1~300μm程度が挙げられる。接着フィルム10,20,30の厚みは特に限定されないが、例えば、10~500μm程度が挙げられる。
【0086】
第2の接着層13を有する接着フィルム30を製造する際、第2の接着層13より先に接着層12を成形してもよく、接着層12より先に第2の接着層13を成形してもよく、接着層12および第2の接着層13を同時に成形してもよい。第2の接着層13を形成する方法は特に限定されず、接着層12の成形方法と同様でもよいし、接着層12とは異なる方法でもよい。上述した製造方法の第1例から第3例において、接着層12と同様にして、第2の接着層13を形成してもよい。
【0087】
接着フィルム10,20,30の被着体は、特に限定されないが、樹脂、ゴム、金属、ガラス、セラミックス等、各種の材料が挙げられる。接着層12が変性ポリオレフィン樹脂を必須成分としているため、被着体が金属等であっても好適に接着することができる。金属としては、特に限定されないが、鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、クロム、ニッケル等が挙げられる。被着体の表面が凹凸加工、化成処理等の表面加工処理を施した処理面であってもよい。
【0088】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例0089】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0090】
(使用した樹脂)
耐熱層および接着層には、下記の樹脂を使用した。表1で樹脂の組成を示す際、下記の成分の記号の下に、配合比の数値を重量部として[ ]に入れて添えた。
【0091】
「A-1」は、PPE樹脂であって、HDT120℃(荷重1.8MPa)である。
「A-2」は、PPS樹脂であって、HDT105℃(荷重1.8MPa)である。
「A-3」は、PPS/PPE樹脂であって、HDT151℃(荷重1.8MPa)である。
「A-4」は、PPE/PS樹脂であって、HDT158℃(荷重1.8MPa)である。
「A-5」は、PS樹脂であって、HDT70℃(荷重1.8MPa)である。
「A-6」は、PP樹脂であって、HDT60℃(荷重1.8MPa)である。
【0092】
「B-1」は、イミン変性PPであって、融点140℃、MFR2.5g/10分(230℃,2.16kg)である。
「B-2」は、酸変性PPであって、融点140℃、MFR9g/10分(230℃,2.16kg)である。
「B-3」は、酸変性PEであって、融点125℃、MFR1.5g/10分(190℃,2.16kg)である。
【0093】
(実施例1~5および比較例1、3~7の接着フィルムの製造方法)
表1に示す組成で、耐熱層の樹脂および接着層の樹脂をそれぞれ溶融混練した後、押出成形により耐熱層および接着層のフィルムを得た。実施例2の接着層では、ペレット同士をミキサーでドライブレンドしてから溶融混練および押出成形を実施した。得られた耐熱層のフィルムと接着層のフィルムとを重ね合わせ、200℃の熱ロールで加熱圧着した後、105℃で1日間保管してアニーリング(安定化)させることにより、所定の厚さの接着フィルムを得た。表1では、この熱ラミネートによる工法を「P-1」と表記した。
【0094】
(実施例6の接着フィルムの製造方法)
表1に示す組成で、耐熱層の樹脂を溶融混練した後、押出成形により耐熱層のフィルムを得た。次に、接着層の樹脂を溶融混練した後、耐熱層のフィルム上に押出ラミネートにより積層し、105℃で1日間保管してアニーリング(安定化)させることにより、所定の厚さの接着フィルムを得た。表1では、この押出ラミネートによる工法を「P-2」と表記した。
【0095】
(実施例7および比較例2の接着フィルムの製造方法)
表1に示す組成で、耐熱層の樹脂を320℃で2分間、接着層の樹脂を270℃で2分間、各々溶融混練した後、2層同時押出成形(多層キャスト)し、105℃で1日間保管してアニーリング(安定化)させることにより、所定の厚さの接着フィルムを得た。表1では、この2層同時押出成形(多層キャスト)による工法を「P-3」と表記した。
【0096】
(接着強度の測定方法)
耐熱層の厚みが100μm、接着層の厚みが150μm、合計の厚みが250μmとした接着フィルムをサンプルとして用いた。厚みが200μmのアルミニウム箔を被着体として用いた。これらを50mm×50mmのサイズにカットし、サンプルに被着体を重ね、被着体側から温度170℃、圧力0.1MPa、時間10secの条件で加熱圧着した。さらにサンプルを15mm幅にカットした後、引張試験機(株式会社島津製作所、商品名:オートグラフ(登録商標)AG-X20kN)を用いて、被着体に加熱圧着したサンプルの接着強度を、速度300mm/min、幅15mm、測定温度23℃または110℃の条件で180°剥離の方法により測定した。表1において、接着強度が1N/15mm未満の場合は「<1」と表記した。
【0097】
(圧縮クリープ試験によるクリープ量の測定方法)
耐熱層の厚みが80μm、接着層の厚みが20μm、合計の厚みが100μmとした接着フィルムをサンプルとして用いた。サンプルを30mm×30mmのサイズにカットし、100枚重ねた。クリープ試験機(株式会社エー・アンド・デイ、商品名:CP6-L-250)を用いて、圧力2MPa、温度100℃、時間10分間の条件で、元の厚みを100%としたとき、サンプルの厚みが何%減少したかを測定した。表1において、厚みの減少が10%未満の場合は「<10」、厚みの減少が10%を超える場合は「>10」と表記した。
【0098】
(結果)
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0099】
【0100】
実施例1~7の接着フィルムは、高温下でも、接着強度が大きく、クリープ量が小さいため、被着体に対する接着性と、接着フィルムの寸法保持性とを両立できることが分かった。
【0101】
比較例1~5の接着フィルムは、常温でも高温下でも、接着強度が弱くなった。このため、圧縮によるクリープ量は測定していない。
比較例6~7の接着フィルムは、耐熱層の耐熱性が不十分であったため、圧縮によるクリープ量が大きくなった。