(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132813
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ポリイミド系フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/02 20060101AFI20230914BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230914BHJP
B29C 55/20 20060101ALI20230914BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20230914BHJP
B29C 55/04 20060101ALI20230914BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B29C55/02
C08J5/18 CFG
B29C55/20
B29C55/12
B29C55/04
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038354
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100224591
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 征志
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】大松 一喜
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AC10
4F071AC19
4F071AF30
4F071AF34
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4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071BA02
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4F071BB07
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4F071BC01
4F210AA40
4F210AC03
4F210AG01
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4F210QL01
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4F210QL12
4J043PA04
4J043QB31
4J043RA35
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4J043SA47
4J043SA54
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4J043TA22
4J043TA47
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4J043UA131
4J043UA132
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4J043UB061
4J043VA021
4J043VA022
4J043XA16
4J043YA08
4J043ZA12
4J043ZA31
4J043ZB11
(57)【要約】
【課題】加熱下で張力をかけても破断しないポリイミド系フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部において融点が200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置し、前記区域において前記ポリイミド系原料フィルムと前記保護フィルムとが把持部材により把持された状態で、前記ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかける工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部において融点が200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置し、前記区域において前記ポリイミド系原料フィルムと前記保護フィルムとが把持部材により把持された状態で、前記ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかける工程を含む、ポリイミド系フィルムの製造方法。
【請求項2】
加熱温度は、200℃以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保護フィルムは、前記ポリイミド系原料フィルムの両面に配置されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記保護フィルムの融点は250℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記保護フィルムは、ポリイミド系保護フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系保護フィルム及びポリエステル系保護フィルムからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂フィルムである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程において、延伸により張力をかける、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記張力を与える方向におけるポリイミド系原料フィルムの一辺の長さに対する、前記方向におけるポリイミド系フィルムの一辺の長さは、0.7~1.3倍である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記延伸は、一軸延伸機又は二軸延伸機を用いて行う、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記把持部材はクリップ、ピンシート及びフィルムチャックからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル表示装置の材料等に使用されるポリイミド系フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置は、携帯電話やスマートウォッチといった種々の用途に広く活用されている。このような画像表示装置の前面板として、ガラスが用いられてきたが、ガラスは非常に剛直であり、割れやすいため、例えばフレキシブルディスプレイ等の前面板材料としての利用は難しい。ガラスに代わるポリイミド系フィルムとして、例えば透明性及び機械的強度等を備えるポリイミド系フィルムが検討されている(例えば特許文献1)。このようなポリイミド系フィルムは硬く伸びにくいことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者は、フィルム特性の改善等を検証するために、加熱下においてポリイミド系フィルムに張力を付与したところ、ある程度張力がかかると破断等の不具合が生じ得ることがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、加熱下で張力をかけても破断しないポリイミド系フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミド系フィルムの製造方法において、ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部において融点が200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置し、前記区域においてポリイミド系原料フィルムと保護フィルムとが把持部材により把持された状態で、ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかけると、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な形態を提供するものである。
【0007】
[1]ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部において融点が200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置し、前記区域において前記ポリイミド系原料フィルムと前記保護フィルムとが把持部材により把持された状態で、前記ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかける工程を含む、ポリイミド系フィルムの製造方法。
[2]加熱温度は、200℃以上である、[1]に記載の方法。
[3]前記保護フィルムは、前記ポリイミド系原料フィルムの両面に配置されている、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記保護フィルムの融点は250℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記保護フィルムは、ポリイミド系保護フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系保護フィルム及びポリエステル系保護フィルムからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂フィルムである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記工程において、延伸により張力をかける、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記張力を与える方向におけるポリイミド系原料フィルムの一辺の長さに対する、前記方向におけるポリイミド系フィルムの一辺の長さは、0.7~1.3倍である、[1]~[6]に記載の方法。
[8]前記延伸は、一軸延伸機又は二軸延伸機を用いて行う、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]前記把持部材はクリップ、ピンシート及びフィルムチャックからなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱下で張力をかけても破断しないポリイミド系フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態におけるポリイミド系フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
【
図2】
図1のポリイミド系フィルムと保護フィルムとの積層状態を示す概略断面図である。
【
図3】
図1のポリイミド系フィルムと保護フィルムとを把持部材により把持した状態を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるポリイミド系フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕
本発明のポリイミド系樹脂の製造方法は、ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部において融点が200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置し、前記区域において前記ポリイミド系原料フィルムと前記保護フィルムとが把持部材により把持された状態で、前記ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかける工程(以下、工程(X)と称することがある)を含む。本明細書において、ポリイミド系原料フィルムを単に「原料フィルム」と称することがある。また、原料フィルムと、工程(X)により得られるポリイミド系フィルムとを総称して単に「フィルム」と称することもある。
【0012】
本発明者は、延伸が困難とされるポリイミド系原料フィルムに対する張力と、フィルムの破断との関係について検討したところ、原料フィルムに加熱下で張力をかける工程において、ポリイミド系原料フィルムを把持部材で把持する際に、原料フィルムの片面又は両面上の端部において、融点200℃以上の保護フィルムを相対する2つ以上の区域に配置して一緒に把持すると、意外なことに、フィルムの破断が生じないことを見出した。理由は定かではないが、保護フィルムが補強材のようになり、微細なクラックやグレーズが原料フィルムの端部に発生しても、それをフィルム内部まで伝播させ得ないからだと推定される。そのため、本発明の製造方法では、例えば搬送しながら張力をかける場合においても安定してフィルムを搬送することができる。
【0013】
<保護フィルム>
工程(X)で使用される保護フィルムの融点は200℃以上である。保護フィルムの融点は、好ましくは220℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは270℃以上、さらにより好ましくは290℃以上、特に好ましくは300℃以上、特により好ましくは320℃以上、極めて好ましくは340℃以上である。保護フィルムの融点が上記の下限以上であると、フィルムの破断及び把持部材への保護フィルムの融着(又は癒着)等の不具合が生じにくい。また、保護フィルムの融点は好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下である。保護フィルムの融点が上記の上限以下であると、保護フィルムが加熱により柔軟になりやすいため、ポリイミド系フィルムを把持しやすくフィルムの破断が生じにくい。なお、本明細書に記載の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0014】
保護フィルムは、工程(X)において把持部材に融着(又は癒着)しないものが好ましい。保護フィルムは、好ましくは樹脂フィルムであり、該樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系保護フィルム;ジアセチルセルロース等のセルロース系保護フィルム;ポリカーボネート系保護フィルム;ポリイミドフィルム、ポリアミドイミド等のポリイミド系保護フィルム;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂系保護フィルム;などが挙げられる。これらの保護フィルムは単独又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、フィルムの破断、及び把持部材への融着(又は癒着)等の不具合が生じにくい観点から、保護フィルムは、ポリイミド系保護フィルム、PTFE系保護フィルム及びポリエステル系保護フィルムからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂フィルムであることが好ましく、ポリイミド系保護フィルム及び/又はPTFE系保護フィルム、特に、PTFE系保護フィルムであることがより好ましい。
【0015】
保護フィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、さらにより好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上、特により好ましくは20μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下、さらに好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは70μm以下、特に好ましくは60μm以下である。保護フィルムの厚さが上記の下限以上であると、フィルムの破断を抑制しやすく、かつ取り扱い性を高めやすい。保護フィルムの厚さが上記の上限以下であると、把持部材で把持しやすい観点から有利となる。保護フィルムの厚さは膜厚計等により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0016】
保護フィルムは、慣用の方法で製造しても、市販品を使用してもよい。
【0017】
<ポリイミド系原料フィルム>
(ポリイミド系樹脂)
工程(X)に使用するポリイミド系原料フィルムは、ポリイミド系樹脂を含む。ポリイミド系樹脂は、ポリイミド系樹脂及びポリアミドイミド樹脂を含む。ポリイミド系樹脂とは、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体を示し、ポリアミドイミド樹脂とは、イミド基を含む繰り返し構造単位及びアミド基を含む繰り返し構造単位を含有する重合体を示す。
【0018】
本発明の好適な実施形態では、ポリイミド樹脂は、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、式(1)で表される構成単位を含み、ポリアミドイミド樹脂は、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位とを含むことが好ましい。
【0019】
【0020】
式(1)で表される構成単位は、好ましくはテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位であり、式(2)で表される構成単位は、好ましくはジカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位である。
【0021】
式(1)中のYは、互いに独立に、4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表す。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明におけるポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基;それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0022】
【化2】
[式(20)~式(29)中、*は結合手を表し、
W
1は、単結合、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-Ar-、-SO
2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH
2-Ar-、-Ar-C(CH
3)
2-Ar-又は-Ar-SO
2-Ar-を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。]
【0023】
式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の中でも、フィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を高めやすい観点から、式(26)、式(28)又は式(29)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、W1は、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、互いに独立に、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-又は-C(CF3)2-であることが好ましく、単結合、-O-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-又は-C(CF3)2-であることがより好ましく、単結合、-O-、-C(CH3)2-又は-C(CF3)2-であることがさらに好ましく、-O-又は-C(CF3)2-であることがさらにより好ましい。
【0024】
上記形態において、式(1)中の複数のYの少なくとも一部は、式(5)で表される構成単位であることが好ましい。式(1)中の複数のYの少なくとも一部が式(5)で表される基であると、得られるフィルムは高い透明性を発現しやすい。また、メチレン基部分の屈曲性骨格に由来して、ポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ポリイミド系樹脂を含むワニスの粘度を低く抑制することができ、またフィルムの加工を容易にすることができる。
【0025】
【化3】
[式(5)中、R
18~R
25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
18~R
25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
*は結合手を表す。]
【0026】
式(5)において、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として後述するものが挙げられる。ここで、R18~R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。R18~R25は、互いに独立に、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、特に好ましくは水素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0027】
本発明の好適な実施形態においては、式(5)で表される構成単位は、式(5’)で表される基であり、すなわち、複数のYの少なくとも一部は、式(5’)で表される構成単位である。この場合、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。
【0028】
【0029】
本発明の好適な実施形態において、上記ポリイミド系樹脂中のYの、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(5)、特に式(5’)で表される。ポリイミド系樹脂おける上記範囲内のYが式(5)、特に式(5’)で表されると、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすく、さらにフッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性が向上し、ポリイミド系樹脂を含むワニスの粘度を低く抑制することができる。また、フィルムの製造が容易となる。なお、好ましくは、ポリイミド系樹脂中のYの100モル%以下が式(5)、特に式(5’)で表される。ポリイミド系樹脂中のYは式(5)、特に式(5’)であってもよい。ポリイミド系樹脂中のYの式(5)で表される構成単位の含有率は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0030】
式(2)中のZは、互いに独立に、2価の有機基を表す。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記2価の有機基は、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Zの有機基としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基並びに炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。フィルムの光学特性を向上、例えばYI値を低減しやすい観点から、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基で表される基が好ましい。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、Zとして1種類の有機基を含んでいてもよいし、2種類以上の有機基を含んでいてもよい。
【0031】
Zの有機基としては、式(20’)、式(21’)、式(22’)、式(23’)、式(24’)、式(25’)、式(26’)、式(27’)、式(28’)及び式(29’):
【0032】
【化5】
[式(20’)~式(29’)中、W
1及び*は、式(20)~式(29)において定義する通りである]
で表される2価の有機基がより好ましい。なお、式(20)~式(29)及び式(20’)~式(29’)における環上の水素原子は、炭素数1~8の炭化水素基、フッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、フッ素置換された炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0033】
ポリイミド系樹脂が、式(2)中のZが上記の式(20’)~式(29’)のいずれかで表される構成単位を有する場合、ポリイミド系樹脂は、該構成単位に加えて、次の式(d1):
【化6】
[式(d1)中、R
24は、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
25は、R
24又は-C(=O)-*を表し、*は結合手を表す]
で表されるカルボン酸由来の構成単位をさらに有することが、ワニスの粘度を低くしやすく、ワニスの成膜性を高めやすく、得られるフィルムの均一性を高めやすい観点から好ましい。
【0034】
R24において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、後述する式(3)中のR1~R8に関して例示のものが挙げられる。構成単位(d1)としては、具体的には、R24及びR25がいずれも水素原子である構成単位(ジカルボン酸化合物に由来する構成単位)、R24がいずれも水素原子であり、R25が-C(=O)-*を表す構成単位(トリカルボン酸化合物に由来する構成単位)等が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。特に、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、Zの少なくとも一部が、式(3a):
【化7】
[式(3a)中、R
g及びR
hは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
g及びR
hに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
A、m及び*は式(3)中のA、m及び*と同じであり、
t及びuは互いに独立に0~4の整数を表す]
で表されることが好ましく、式(3):
【化8】
[式(3)中、R
1~R
8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
1~R
8に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-SO
2-、-S-、-CO-又は-N(R
9)-を表し、R
9は水素原子又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数を表し、
*は結合手を表す]
で表されることがより好ましい。
【0036】
式(3)及び式(3a)において、Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-、-S-、-CO-又は-N(R9)-を表し、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、好ましくは-O-又は-S-を表し、より好ましくは-O-を表す。
【0037】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。Rg及びRhは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、Rg及びRh、並びに、R1~R8は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子又はメチル基を表す。ここで、R1~R8、Rg及びRhに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0038】
R9は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。ポリイミド系樹脂は、複数種のAを含み得、複数種のAは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
【0039】
式(3a)中のt及びuは、互いに独立に、0~4の整数を表し、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらにより好ましくは0を表す。
【0040】
式(3)及び式(3a)において、mは、0~4の範囲の整数であり、mがこの範囲内であると、ワニスの安定性、及び、フィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性が良好になりやすい。また、式(3)及び式(3a)において、mは、好ましくは0~3の範囲の整数、より好ましくは0~2の範囲の整数、さらに好ましくは0又は1、さらにより好ましくは0である。mがこの範囲内であると、フィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性を向上させやすい。
【0041】
Zは、式(3)又は式(3a)で表される構成単位を1種又は2種類以上含んでいてもよく、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点、特にYI値の低減やフィルムの経時的な黄変抑制の観点から、例えばmの値が異なる2種類以上の構成単位、好ましくはmの値の異なる2種類又は3種類の構成単位を含んでいてもよい。その場合、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、樹脂がZにおいて、mが0である式(3)又は式(3a)で表される構成単位を含有することが好ましく、該構成単位に加えてmが1である式(3)又は式(3a)で表される構成単位をさらに含有することがより好ましい。また、mが0である式(3)で表されるZを有する式(2)で表される構成単位に加えて、上記の式(d1)で表される構成単位をさらに有することも好ましい。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、mが0であり、かつR
5~R
8が水素原子又はメチル基である構成単位を有する。より好ましい本発明の一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、mが0であり、かつR
5~R
8が水素原子又はメチル基である構成単位と、式(3’):
【化9】
で表される構成単位を有する。この場合、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。
【0043】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、とりわけ好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。
【0044】
また、ポリイミド系樹脂がmが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位を有する場合、ポリイミド系樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは8モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、とりわけ好ましくは12モル%以下である。mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合が上記の下限以上であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお、式(1)、式(2)、式(3)又は式(3a)で表される構成単位の含有量は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0045】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂中のZの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは45モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、特に好ましくは70モル%以上が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位である。Zの上記の下限以上が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。また、ポリイミド系樹脂中のZの100モル%以下が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位であればよい。なお、樹脂中の、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂中のZの、好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは12モル%以上が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表される。ポリイミド系樹脂のZの上記の下限以上が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。また、Zの、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以下が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されることが好ましい。Zの上記の上限以下が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されると、mが1~4である式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお樹脂中のmが1~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0047】
式(1)及び式(2)において、Xは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。Xとしては、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それらの式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0048】
【化10】
[式(10)~式(18)中、*は結合手を表し、
V
1、V
2及びV
3は、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-SO
2-、-CO-又は-N(Q)-を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。]
【0049】
炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、R9について上記に述べた基が挙げられる。
1つの例は、V1及びV3が単結合、-O-又は-S-であり、かつ、V2が-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-である。V1とV2との各環に対する結合位置、及び、V2とV3との各環に対する結合位置は、互いに独立に、好ましくは各環に対してメタ位又はパラ位であり、より好ましくはパラ位である。
【0050】
式(10)~式(18)で表される基の中でも、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)及び式(17)で表される基が好ましく、式(14)、式(15)及び式(16)で表される基がより好ましい。また、V1、V2及びV3は、互いに独立に、好ましくは単結合、-O-又は-S-、より好ましくは単結合又は-O-である。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態において、式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部は、式(4):
【化11】
[式(4)中、R
10~R
17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
10~R
17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される構成単位である。式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部が式(4)で表される基であると、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。
【0052】
式(4)において、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として例示のものが挙げられる。R10~R17は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R10~R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R10~R17は、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、互いに独立に、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基を表し、さらにより好ましくはR10、R12、R13、R14、R15及びR16が水素原子、R11及びR17が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基を表し、特に好ましくはR11及びR17がメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。
【0053】
本発明の好ましい一実施形態において、式(4)で表される構成単位は式(4’):
【化12】
で表される構成単位であり、すなわち、式(1)及び式(2)で表される複数の構成単位中の複数のXの少なくとも一部は、式(4’)で表される構成単位である。この場合、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、フィルムの加工性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリイミド系樹脂中のXの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。ポリイミド系樹脂における上記範囲内のXが式(4)、とりわけ式(4’)で表されると、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を向上させやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、ワニスから得られるフィルムの加工性を向上しやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。なお、好ましくは、ポリイミド系樹脂中のXの100モル%以下が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。ポリイミド系樹脂中のXは式(4)、とりわけ式(4’)であってもよい。上記樹脂中のXの式(4)で表される構成単位の割合は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0055】
ポリイミド系樹脂は、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むことができ、式(1)及び式(2)で表される構成単位に、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むものであってもよい。
【0056】
【0057】
式(30)において、Y1は、互いに独立に、4価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Y1としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基、それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基、並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のY1を含み得、複数種のY1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
式(31)において、Y2は3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Y2としては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、及び3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のY2を含み得、複数種のY2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
式(30)及び式(31)において、X1及びX2は、互いに独立に、2価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。X1及びX2としては、上記の式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それら式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0060】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1)及び/又は式(2)で表される構成単位、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される構成単位からなる。また、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、ポリイミド系樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び式(31)で表される全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。なお、ポリイミド系樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される全構成単位に基づいて、通常100%以下である。なお、上記割合は、例えば、1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0061】
本発明の一実施形態において、本発明のポリイミド系原料フィルム(又はポリイミド系フィルム)中におけるポリイミド系樹脂の含有量は、該フィルム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらにより好ましくは70質量部以上、特に好ましくは80質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、99.5質量部以下、より好ましくは95質量部以下である。ポリイミド系樹脂の含有量が上記範囲内であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。
【0062】
ポリイミド系樹脂において、式(2)で表される構成単位の含有量は、式(1)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは1.0モル以上、さらにより好ましくは1.5モル以上であり、好ましくは6.0モル以下、より好ましくは5.0モル以下、さらに好ましくは4.5モル以下である。式(2)で表される構成単位の含有量が上記の下限以上であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。また、式(2)で表される構成単位の含有量が上記の上限以下であると、式(2)中のアミド結合間の水素結合による増粘を抑制し、フィルムの加工性を向上させやすい。
【0063】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、例えば上記の含フッ素置換基等によって導入することができる、フッ素原子等のハロゲン原子を含んでよい。ポリイミド系樹脂がハロゲン原子を含む場合、ポリイミド系樹脂を含むフィルムの弾性率を向上させやすく、またYI値を低減させやすい。フィルムの弾性率が高いと、該フィルムを例えばフレキシブル表示装置において使用する際に、該フィルムにおける傷及びシワ等の発生を抑制させやすくなる。また、フィルムのYI値が低いと、該フィルムの透明性及び視認性を向上させやすくなる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。ポリイミド系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0064】
ポリイミド系樹脂におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系樹脂の質量を基準として、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、ポリイミド系樹脂を含むフィルムの弾性率をより向上させ、吸水率を下げ、YI値をより低減し、透明性及び視認性をより向上させやすい。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、樹脂の合成がしやすくなる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態において、ポリイミド系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは96%以上、さらにより好ましくは98%以上である。該ポリイミド系樹脂を含むフィルムの光学的均質性を高めやすい観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、ポリイミド系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。
また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができ、例えば、NMR法においては、実施例に記載の方法により測定できる。より具体的には、ポリイミド樹脂のイミド化率を1H-NMR測定する場合は、得られた1H-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来するベンゼンプロトンAの積分値をIntA、観測されたポリイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来するアミドプロトンの積分値をIntBとし、これらの積分値から式:イミド化率(%)=100×(1-IntB/IntA)に基づいてポリイミド樹脂のイミド化率を求めることができる。ポリアミドイミド樹脂のイミド化率を1H-NMR測定する場合は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0066】
本発明のフィルムに含まれるポリイミド系樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、Mwと記すことがある)は、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上、さらにより好ましくは200,000以上、特に好ましくは250,000以上、特により好ましくは280,000以上である。ポリイミド系樹脂のポリスチレン換算のMwは、ワニスの製造しやすさや、フィルムの成膜性の観点から、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、さらにより好ましくは450,000以下である。上記Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記載することがある)により測定される。測定条件としては、実施例に記載する条件を使用してよい。
【0067】
本発明におけるポリイミド系原料フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらにより好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上、特により好ましくは40μm以上であり、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、特に好ましくは70μm以下、特により好ましくは60μm以下である。原料フィルムの厚さが上記の下限以上であると、張力によるフィルムの破断を抑制しやすく、得られるフィルムの機械的特性を向上しやすい。また、ポリイミド系原料フィルムの厚さが上記の上限以下であると、得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。原料フィルムの厚さは、膜厚計等により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0068】
(ポリイミド系樹脂の製造方法)
ポリイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物及びジアミン化合物を主な原料として製造でき、ポリアミドイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びジアミン化合物を主な原料として製造できる。ここで、ジカルボン酸化合物は少なくとも式(3”)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化14】
[式(3”)中、R
1~R
8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
1~R
8に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、単結合、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-SO
2-、-S-、-CO-又は-N(R
9)-を表し、
R
9は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数であり、
R
31及びR
32は、互いに独立に、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基又は塩素原子を表す。]
【0069】
本発明の好ましい一実施形態において、ジカルボン酸化合物は、mが0である、式(3”)で表される化合物である。ジカルボン酸化合物として、mが0である式(3”)で表される化合物に加えて、Aが酸素原子である式(3”)で表される化合物を使用することがより好ましい。また、別の好ましい一実施形態においては、ジカルボン酸化合物は、R31及びR32が塩素原子である、式(3”)で表される化合物である。また、ジアミン化合物に代えて、ジイソシアネート化合物を用いてもよい。
【0070】
ポリイミド系樹脂の製造に使用されるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0071】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン及び4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0072】
芳香族ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0073】
芳香族ジアミンは、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、TFMB、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、TFMB、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0074】
上記ジアミン化合物の中でも、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。TFMB、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、TFMBを用いることがよりさらに好ましい。
【0075】
ポリイミド系樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0076】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、6FDA、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、6FDA、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0078】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0079】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、6FDA、並びにこれらの混合物が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び6FDA、並びにこれらの混合物がより好ましく、6FDAがさらに好ましい。
【0080】
ポリイミド系樹脂の製造に用いられるジカルボン酸化合物としては、好ましくはテレフタル酸、2-メトキシテレフタル酸、4,4’-オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物が用いられる。テレフタル酸、2-メトキシテレフタル酸、4,4’-オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物に加えて、他のジカルボン酸化合物が用いられてもよい。他のジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。具体例としては、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)、テレフタロイルクロリド、2-メトキシテレフタル酸クロリドが好ましく、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)と、テレフタロイルクロリド又は2-メトキシテレフタル酸クロリドとを組合せて用いることがさらに好ましい。
【0081】
なお、上記ポリイミド系樹脂は、フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記テトラカルボン酸化合物に加えて、テトラカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0082】
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0083】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリド化合物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0084】
ポリイミド系樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物の使用量は、所望とする樹脂の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
【0085】
ポリイミド系樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物の反応温度は、特に限定されないが、例えば5~350℃、好ましくは10~200℃、より好ましくは20~100℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分~10時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において反応を行ってよい。好ましい形態では、反応は、常圧及び/又は不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。また、反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
【0086】
ポリイミド系樹脂の製造におけるイミド化工程では、イミド化触媒の存在下で、イミド化することができる。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、及びN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2-メチルピリジン(2-ピコリン)、3-メチルピリジン(3-ピコリン)、4-メチルピリジン(4-ピコリン)、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
【0087】
ポリイミド系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により分離精製して単離してもよく、好ましい形態では、ポリイミド系樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0088】
(フィラー)
本発明におけるポリイミド系原料フィルムは、少なくとも1種のフィラーを含んでよい。フィラーとしては、例えば有機粒子、無機粒子などが挙げられ、好ましくは無機粒子が挙げられる。無機粒子としては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、クレイ、タルク、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITOと記載することがある)、酸化アンチモン、酸化セリウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の金属酸化物粒子、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物粒子、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、などが挙げられ、これらの中でも、フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、好ましくはシリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子が挙げられる。これらのフィラーは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0089】
フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、さらにより好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは70nm以下、特に好ましくは60nm以下、特により好ましくは50nm以下、特にさらに好ましくは40nm以下である。フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲内であると、フィラー、好ましくはシリカ粒子の凝集を抑制し、得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。フィラーの平均一次粒子径は、BET法により測定できる。なお、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の画像解析により、平均一次粒子径を測定してもよい。
【0090】
本発明におけるポリイミド系原料フィルムがフィラー、好ましくはシリカ粒子を含有する場合、フィラー、好ましくはシリカ粒子の含有量は、ポリイミド系原料フィルムの総量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは15質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。フィラーの含有量が上記の下限以上であると、フィルムの機械的特性を向上しやすい。また、フィラーの含有量が上記の上限以下であると、ワニスの保管安定性が向上され、得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。
【0091】
(紫外線吸収剤)
本発明におけるポリイミド系原料フィルムは、紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。本発明におけるポリイミド系原料フィルムが紫外線吸収剤を含有することにより、樹脂の劣化が抑制されるため、フィルムの視認性を高めることができる。
なお、本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0092】
本発明におけるポリイミド系原料フィルムが紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有量は、ポリイミド系原料フィルムの総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらにより好ましくは4質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。好適な含有率は用いる紫外線吸収剤により異なるが、400nmの光線透過率が20~60%程度になるように紫外線吸収剤の含有率を調節すると、フィルムの耐光性が高められるとともに、透明性の高いフィルムを得ることができる。
【0093】
(ブルーイング剤)
本発明におけるポリイミド系原料フィルムはブルーイング剤を含んでいてもよい。ブルーイング剤は、可視光領域のうち、例えば、橙色から黄色などの波長領域の光を吸収し、色相を調整する、染料や顔料などの添加剤であって、例えば、群青、紺青、コバルトブルーなどの無機系の染料や顔料、例えば、フタロシアニン系ブルーイング剤、縮合多環系ブルーイング剤などの有機系の染料や顔料などが挙げられる。ブルーイング剤は、特に限定されないが、耐熱性、耐光性、溶解性の観点からは、縮合多環系ブルーイング剤が好ましく、アントラキノン系ブルーイング剤がより好ましい。縮合多環系ブルーイング剤としては、例えばアントラキノン系ブルーイング剤、インジゴ系ブルーイング剤、フタロシアニン系ブルーイング剤が挙げられる。
【0094】
本発明におけるポリイミド系原料フィルムがブルーイング剤を含有する場合、ブルーイング剤の含有量は、ポリイミド系原料フィルムの質量に対して、好ましくは5ppm以上、より好ましくは8ppm以上であり、好ましくは100ppm以下、より好ましくは80ppm以下、さらに好ましくは60ppm以下である。ブルーイング剤の含有量が上記の下限以上である場合、フィルムの光学特性を向上しやすく、特にYIを低減させやすい。また、ブルーイング剤の含有量が上記の上限以下である場合、光学特性を向上しやすく、特に表示装置に適用した場合に、YI値が低減しすぎることなく、視認性を高めやすい。
【0095】
(添加剤)
本発明におけるポリイミド系原料フィルムは、フィラー、紫外線吸収剤及びブルーイング剤以外の他の添加剤をさらに含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、難燃剤、pH調整剤、シリカ分散剤、滑剤、増粘剤、レベリング剤、界面活性剤、帯電防止剤、潤滑剤、防汚剤等が挙げられる。他の添加剤を含有する場合、その含有量は、ポリイミド系原料フィルムの質量に対して、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~15質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%であってよい。
【0096】
<ポリイミド系原料フィルムの製造方法>
本発明におけるポリイミド系原料フィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の工程:
(a)ポリイミド系樹脂及び溶媒を少なくとも含む樹脂組成物を調製するワニス調製工程、
(b)ワニスを基材に塗布して塗膜を形成する塗布工程、及び
(c)前記塗膜を乾燥させてポリイミド系原料フィルムを形成する原料フィルム形成工程
を少なくとも含む製造方法であってよい。
【0097】
ワニス調製工程において、ポリイミド系樹脂を溶媒に溶解させ、必要に応じて、前記フィラー、前記紫外線吸収剤、前記ブルーイング剤等の添加剤を添加して撹拌混合することによりワニスを調製する。なお、フィラーとしてシリカ粒子を用いる場合、シリカ粒子を含むシリカゾルの分散液を、前記ポリイミド系樹脂が溶解可能な溶媒、例えば下記のワニスの調製に用いられる溶媒で置換したシリカゾルを樹脂に添加してもよい。
【0098】
ワニスの調製に用いる溶媒は、前記ポリイミド系樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えば、DMAc、DMF等のアミド系溶媒;GBL、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せが挙げられる。これらの中でも、アミド系溶媒又はラクトン系溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。また、ワニスには水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、非環状エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが含まれてもよい。ワニスの固形分濃度は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0099】
塗布工程において、公知の塗布方法により、基材上にワニスを塗布して塗膜を形成する。公知の塗布方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング法、グラビアコーティング法等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、流涎成形法等が挙げられる。
【0100】
原料フィルム形成工程において、塗膜を乾燥し、基材から剥離することによって、ポリイミド系原料フィルムを形成することができる。基材から剥離する前に、ポリイミド系原料フィルムの基材とは反対側の面にプロテクトフィルムを積層した後、基材を剥離してもよい。塗膜の乾燥は、通常50~350℃の温度にて行うことができる。本発明の好ましい実施形態においては、前記塗膜の乾燥は、比較的時間をかけて行うことが好ましい。乾燥温度は、好ましくは50~150℃、より好ましくは60~130℃、さらに好ましくは70~120℃である。乾燥時間は、好ましくは5~60分、より好ましくは10~40分である。塗膜の乾燥は1段階又は多段階の条件で実施されてもよい。多段階の条件は、好ましくは、それぞれの段階において、同一又は異なる温度条件及び/又は乾燥時間で実施することができ、例えば2~10段階、好ましくは3~8段階で乾燥を行ってもよい。ポリイミド系フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい観点から、多段階の条件で実施することが好ましい。多段階の場合、その温度プロファイルは降温過程、又は、昇温及び降温過程を含むことが好ましい。降温過程を含む3段階の温度プロファイルを例に挙げると、乾燥温度は、90~130℃(第1の温度)、85~105℃(第2の温度)、及び75~95℃(第3の温度)である。ここで乾燥時間は各段階において、例えば5~30分であってよい。乾燥塗膜の溶媒残存量が、乾燥塗膜の質量に対して、好ましくは5~20質量%、より好ましくは6~15質量%となるように、塗膜の乾燥は実施されることが好ましい。溶媒残存量が上記範囲であると、乾燥塗膜の基材からの剥離性が良好となり、フィルムの光学特性を向上しやすい。また、加熱下で張力をかけてもフィルムの破断を抑制しやすく、保護フィルムと一緒に把持してもフィルムの平滑性を維持しやすい。塗膜の乾燥は、必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において行ってよい。
【0101】
基材の例としては、金属系であれば、SUS板、樹脂系であればPETフィルム、PENフィルム、本発明におけるポリイミド系フィルム以外の他のポリイミドフィルム及びポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、シクロオレフィン系ポリマーフィルム、アクリル系フィルム等が挙げられる。中でも、平滑性、耐熱性に優れる観点から、PETフィルム、シクロオレフィン系ポリマーフィルム等が好ましく、さらに本発明におけるフィルムとの密着性及びコストの観点から、PETフィルムがより好ましい。
【0102】
<工程(X)>
工程(X)は、前記ポリイミド系原料フィルムと、該ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面上の端部における相対する2つ以上の区域に配置された融点が200℃以上の前記保護フィルムとを把持部材により把持した状態で、前記ポリイミド系原料フィルムに加熱下で張力をかける工程である。
【0103】
本発明のポリイミド系フィルムの製造方法は、工程(X)を含むため、フィルムの破断を防止できる。さらに、保護フィルムの把持部材への融着(又は癒着)を抑制しやすい。そのため、例えば工程(X)を搬送しながら行う場合であっても、安定して搬送可能である。
【0104】
本発明の好適な実施形態では、前記原料フィルム形成工程における前記塗膜の乾燥工程は予備乾燥工程であり、ポリイミド系原料フィルムは、予備乾燥工程後の原料フィルムであることが好ましい。すなわち、ポリイミド系原料フィルムは、ある程度残存溶媒を含んでいることがフィルムの破断等を抑制する観点から好ましく、その溶媒残存量は好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上であり、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。また、本発明の好適な実施形態では、工程(X)は本乾燥工程であることが好ましい。なお、本明細書において、ポリイミド系原料フィルム(原料フィルム)は工程(X)に供する前又は工程(X)に供されている間のフィルムを意味し、工程(X)を複数回行う場合、全ての張力をかける工程が終了する時点より前のフィルムを意味する。
【0105】
保護フィルムは、ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面、すなわち、片面又は両面上の端部における相対する2つ以上の区域に配置される。フィルムの破断等を抑制しやすい観点から、保護フィルムは、ポリイミド系原料フィルムの両面に配置されていることが好ましい。上述のように、保護フィルムは、ポリイミド系原料フィルムの少なくとも一方の面に配置された状態で、把持部材により把持されている。
【0106】
本発明の一実施形態において、フィルムの破断を抑制しやすく、かつ効率的に製造しやすい観点から、ポリイミド系原料フィルムの片面において保護フィルムが配置されている面積は、ポリイミド系原料フィルムの片面の総面積に対して、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%、さらにより好ましくは10%以上であり、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下であってよい。
【0107】
本発明の一実施形態において、原料フィルム及び保護フィルムを把持する把持部材としては、慣用の把持部材、例えばクリップ、ピンシート、フィルムチャック等が挙げられる。フィルムの破断を抑制しやすく、また簡便かつ効率的に製造しやすい観点から、把持部材は、クリップ、ピンシート及びフィルムチャックからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、クリップがより好ましい。把持部材は1つ又は複数用いることができ、複数用いることが好ましい。
【0108】
工程(X)は、原料フィルムを搬送しながら行っても、静止状態で行ってもよいが、簡便かつ効率的にポリイミド系フィルムを製造しやすい観点から、搬送しながら行うことが好ましい。工程(X)を搬送しながら行う場合、一軸延伸機(例えばテンター式乾燥機)等を用いることができる。また、工程(X)を静止状態で行う場合、例えば二軸延伸機等を用いることができる。
【0109】
工程(X)を搬送しながら行う場合、ポリイミド系原料フィルムは、長尺状のポリイミド系原料フィルムであることが好ましく、保護フィルムは、長尺状の保護フィルムであることが好ましい。本発明の一実施形態では、原料フィルムの幅方向の長さは、一般に100mm以上、好ましくは300mm以上であり、より好ましくは500mm以上、さらに好ましくは1000mm以上、特に好ましくは1500mm以上であり、2000mm以上であってもよく、上限は特に限定されないが、通常5000mm以下であってよい。原料フィルムの長手方向の長さは、好ましくは100mm以上、より好ましくは100m以上、さらに好ましくは500m以上、さらにより好ましくは1000m以上であり、上限は特に限定されない。保護フィルムの幅方向の長さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは60mm以下であり、40mm以下又は30mm以下であってよい。保護フィルムの長手方向の長さは、好ましくは100mm以上、より好ましくは100m以上、さらに好ましくは500m以上、さらにより好ましくは1000m以上であり、上限は特に限定されないが、通常5000mm以下であってよい。なお、保護フィルムの前記幅方向の長さ及び前記長手方向の長さは、それぞれ相対する2つ以上の区域に配置される1つの保護フィルムの長さを示す。
【0110】
工程(X)において、保護フィルムは、原料フィルムの端部における相対する2つ以上の区域に少なくとも配置されている。ここで、原料フィルムの「端部」とは、好ましくは、原料フィルムの一方向の端(最端部)から、原料フィルムの該一方向の1/5の長さに相当する部分までの範囲を意味し、「相対する2つ以上の区域」とは、端部の範囲内において区切られた2つの相対(又は対向)する領域を意味し、前記「一方向」とは、フィルムの幅方向又は長手方向を示し、フィルムが正方形状である場合は幅方向を示す。フィルムの破断を抑制しやすい観点から、工程(X)を搬送しながら行う場合には、原料フィルムの端部における相対する2つの区域に保護フィルムが配置されていることが好ましく、原料フィルムの幅方向の(又は長手方向に沿った)2つの端部における相対する2つの区域に保護フィルムが配置されていることがより好ましい(例えば
図1の形態)。工程(X)を搬送せずに静置して行う場合には、ポリイミド系原料フィルムの4つの端部の相対する各区域に保護フィルムが配置されていることが好ましい(例えば
図4の形態)。
【0111】
本発明の好適な実施形態における製造方法によれば、延伸が困難とされるポリイミド系フィルムであっても破断等することなく延伸できるため、延伸されたポリイミド系フィルムを得ることもできる。また、張力をかける際の加熱温度を比較的高くして張力の倍率を大きくする、好ましくは延伸倍率を大きくすると、一般的にフィルムの破断等が生じやすくなるが、本発明の製造方法では、原料フィルムと一緒に所定の保護フィルムを把持するため、比較的、加熱温度が高くかつ張力が大きくてもフィルムの破断等を有効に抑制できる。
【0112】
工程(X)における加熱温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上、さらにより好ましくは240℃以上、特に好ましくは250℃以上、特により好ましくは260℃以上、特にさらに好ましくは270℃以上であり、好ましくは400℃以下、より好ましくは380℃以下、さらに好ましくは360℃以下、さらにより好ましくは340℃以下、特に好ましくは320℃以下、特により好ましくは300℃以下である。工程(X)における加熱温度が上記の下限以上であると、フィルムの破断を抑制しやすく、フィルム中の残存溶媒を除去しやすい。また、得られるフィルムの光学特性及び機械的特性を高めやすい。工程(X)における加熱温度が上記の上限以下であると、保護フィルムの把持部材への融着(又は癒着)を抑制しやすい。
【0113】
本発明の一実施形態において、前記張力を与える方向におけるポリイミド系原料フィルムの一辺の長さに対する、前記方向におけるポリイミド系フィルムの一辺の長さ(張力の倍率ということがある)は、好ましくは0.7倍以上、より好ましくは0.8倍以上、さらに好ましくは0.9倍以上、さらにより好ましくは1.00倍以上、特に好ましくは1.00倍超、特により好ましくは1.01倍以上、極めて好ましくは1.03倍以上、極めてより好ましくは1.05倍以上であり、好ましくは1.30倍以下、より好ましくは1.25倍以下、さらに好ましくは1.20倍以下、さらにより好ましくは1.15倍以下である。張力の倍率が上記の下限以上であると、得られるポリイミド系フィルムの機械的特性及び光学特性を向上しやすい。張力の倍率が上記の上限以下であると、フィルムの破断及び保護フィルムの把持部材への融着(又は癒着)を抑制しやすい。また、前記一辺の長さは、把持部材により把持する部分(把持部分)を除いた長さである。張力の倍率は、張力を与える方向、すなわち、通常幅方向又は長手方向における倍率を示すが、工程(X)を搬送しながら行う場合、張力の倍率は幅方向における倍率であることが好ましい。なお、原料フィルムを把持しながら加熱するとフィルムの収縮が起こるため、張力の倍率は1.00倍以下にも調整できる。また、長手方向における張力が高い場合、幅方向にフィルムが収縮する結果、幅方向における張力の倍率が1.00以下となることがある。幅方向における張力が高い場合、長手方向にフィルムが収縮する結果、長手方向における張力の倍率が1.00以下となることがある。
【0114】
本明細書では、張力の倍率が1.00倍を超える場合、その張力を与えることを「延伸」と称し、その張力の倍率を「延伸倍率」ということがある。
本発明の製造方法では、驚くべきことに、通常延伸し難いポリイミド系フィルムをある程度延伸に供しても破断しないため、工程(X)において延伸により張力をかけることが好ましい。延伸は、フィルムの破断を抑制しやすく、フィルムの機械的強度及び光学特性を向上しやすい観点から、一軸延伸機又は二軸延伸機を用いて行うことが好ましい。
【0115】
図1は、本発明の一実施形態におけるポリイミド系フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
図2は、
図1のポリイミド系フィルムと保護フィルムとの積層状態を示す概略断面図である。
図3は、
図1のポリイミド系フィルムと保護フィルムとを把持部材により把持した状態を示す概略断面図である。以下に、
図1~
図3について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0116】
図1の実施形態では、テンター式乾燥機内において長尺状の原料フィルム1をA方向に搬送し、次いで、搬送されている原料フィルム1両面の幅方向の(又は長手方向に沿った)2つの端部における相対する2つの区域にそれぞれ保護フィルム2が配置されるよう、乾燥機入口から長尺状の保護フィルム2を投入する。同時に、所定の長さのエンドレスチェーン4の適切な位置に固定され、かつ方向Bに向かって原料フィルムと同じ速さで移動する複数の把持部材3により、原料フィルム1とその両面に配置された保護フィルム2とを把持し、搬送しながら張力をかけた後、乾燥機出口付近で把持を解除し、巻取等により保護フィルムを回収する。
【0117】
テンター式乾燥機において、複数の把持部材3は、搬送される原料フィルム1の幅方向の両側に存在する2つのエンドレスチェーン4に固定され、搬送速度と同じ速さで移動する。互いにフィルム幅方向に対向するように設けられた複数の把持部材3により原料フィルム1の両端を固定する。加熱下で張力をかける工程後、フィルム両端の固定は適時解除されればよく、乾燥機内で行ってもよいし、乾燥機から搬送された後に行ってもよい。
【0118】
図1の実施形態では、
図2(把持部材3を含まないフィルム幅方向に沿った断面)に示すように原料フィルム1の両面であって各表面における幅方向の2つの端部における相対する2つの区域に保護フィルムが配置されている。また、
図3(把持部材3を含むフィルム幅方向に沿った断面の一部)に示すように、把持部材3は、その先端に位置する2つの把持部3aにより、原料フィルム1と保護フィルム2とを把持している。
【0119】
原料フィルムの一方端部に位置する任意の把持部から、原料フィルムの該一方端(先端)までの最短距離L(把持部材の把持幅Lということがある)は、好ましくは1~50mm、より好ましくは10~40mmである。把持部材の把持幅Lが上記の範囲内であると、フィルムの破断を抑制しやすい。なお、把持幅Lの測定において、把持部の基準点は、原料フィルムの前記一方端とは反対側の把持部の端点とする。
【0120】
複数の把持部材が原料フィルムと保護フィルムとを把持する総面積、すなわち、保護フィルムに接する把持部の総面積(把持面積ということがある)は、保護フィルムの総面積に対して、好ましくは5~95%、より好ましくは10~80%である。把持面積が上記の範囲内であると、フィルムの破断を抑制しやすい。
【0121】
乾燥機内の温度は、例えば上記の加熱温度の範囲に調整することが好ましい。乾燥機内で加熱する時間は、通常60秒~2時間、好ましくは5分~1時間、より好ましくは5~40分である。処理時間は、前記の乾燥機の温度、移動速度、熱風の風速及び風量などの条件を考慮して、適宜調整すればよい。
【0122】
テンター式乾燥機は、その内部が1つの空間であってもよいし、複数の空間に分けられていてもよいが、本発明の一実施形態では、乾燥機内部が、複数の空間に分けられていることが好ましい。前記空間は、温度条件や風速条件等制御可能な空間であってよく、仕切り板等の物理的な境界を持たなくてもよい。乾燥機の内部が複数の空間に分けられている場合、フィルムの搬送方向と、垂直又は平行に複数の空間に分けられていてもよい。空間の数は、通常2~20個、好ましくは3~18個、より好ましくは4~15個、さらに好ましくは5~10個である。乾燥機の内部構造によらず、乾燥機全体が加熱ゾーンとなってもよいし、内部の一部が加熱ゾーンとなっていてもよい。乾燥機に加え、他の機器としてオーブンを併用してもよい。各空間の温度設定は、同じであっても異なってもよい。
【0123】
テンター式乾燥機内の加熱は、熱風処理方式及び/又は輻射線処理方式で行ってよいが、少なくとも熱風処理方式で行うことが好ましい。各空間(又は部屋)の熱風の風速は、好ましくは5~20m/秒、より好ましくは8~15m/秒、さらに好ましくは11~14m/秒である。
【0124】
フィルムの搬送速度は、好ましくは0.1~10m/秒、より好ましくは0.5~5m/秒である。
【0125】
張力の倍率(又は延伸倍率)は、乾燥機内での搬送過程において、幅方向の把持部間距離Nを適宜調整し、フィルムにかかる張力を変えることにより調整できる。例えば、延伸する場合、乾燥機入口における把持部間距離N1に対する乾燥機内での把持部間距離N2の比率(比率Zと称する)を1.00倍を超える所定の値に設定すればよい、逆に張力の倍率を1.00倍以下にする場合、比率Zを1.00倍以下の所定の値に設定すればよい。比率Zは、上記の張力の倍率と同様の範囲から選択できる。
【0126】
工程(X)を経たポリイミド系フィルムが乾燥機を出ると急冷されて収縮し、割れが生じることがある。そのため、乾燥機入口における把持部間距離N1に対する乾燥機内での把持部間距離N2(比率Z)よりも、乾燥機入口における把持部間距離N1に対する乾燥機出口における把持部間距離N3(比率Qと称する)を小さく設定することが好ましい。
【0127】
乾燥機からポリイミド系フィルムが出た後、すぐにフィルム端部をスリットすることが好ましい。スリットを行うことにより、フィルム端部における、把持部と把持されていなかった部分との間で生じやすい割れをフィルムから除去することにより、その後フィルムが搬送されてその温度が低下することによるフィルムの割れの広がりをあらかじめ防止できる。
【0128】
工程(X)により得られたポリイミド系フィルムは、ロール状に巻き取ってもよい。ロールに巻き取る場合は、他の樹脂フィルム等を積層して巻き取ってもよい。他の樹脂フィルムの厚さは、通常、10~100μm、好ましくは10~80μmである。
【0129】
図4は、本発明の一実施形態におけるポリイミド系フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
図4の形態は、静止状態で工程(X)を行う方法を示し、原料フィルムに対して静止状態で加熱下で張力をかける。具体的には、枚葉状の原料フィルム1’の両面であって各表面における4つの端部の相対する各区域に保護フィルム2’が配置されている。複数の把持部材3’は、
図3のような把持部3’により、枚葉状の原料フィルム1’と保護フィルム2’とを把持している。
【0130】
工程(X)は、上記テンター式乾燥機等で張力をかけるステップを行った後、さらに一軸延伸を行ってもよく、フィルムの機械的強度、好ましくは後述の耐凹み性を向上しやすい観点から、一軸延伸又は二軸延伸を行ってもよい。該延伸は、例えば一軸延伸機又は二軸延伸機を用いて行うことができる。二軸延伸を行う場合、逐次延伸であってもよいし、同時二軸延伸であっても良い。延伸温度は、上記の加熱温度の範囲から選択でき、延伸倍率も上記に記載の延伸倍率の範囲から選択できる。
【0131】
<ポリイミド系フィルム>
本発明の製造方法により得られるポリイミド系フィルムは、フィルムの破断が生じず、保護フィルムの把持部材への融着(又は癒着)を抑制できるため、外観が良好であり、光学特性及び機械的特性に優れている。なお、ポリイミド系フィルムは、ポリイミド系原料フィルムに所定の張力を付与して得られるものであるため、含まれる成分及びその割合はポリイミド系原料フィルムと同様である。
【0132】
上記の通り、ポリイミド系フィルムは、硬く伸びにくいことから、通常延伸されない。しかし、本発明者はそのようなポリイミド系フィルムを延伸しようと試みたため、張力と破断等との関係について鋭意検討し、張力が付与された(好ましくは延伸された)ポリイミド系フィルムの新たな製造方法を見出した。さらに、得られるポリイミド系フィルムは、特に耐凹み性が向上されることも見出した。
【0133】
耐凹み性は、耐凹み性鉛筆硬度により評価できる。耐凹み性鉛筆硬度の測定は、所定の硬度を有する鉛筆によりフィルム上に凹みを形成した後、23℃、50%RH環境下で24時間経過後に凹みが有るか否かを判断することにより行われ、凹みが無くならず残るときの硬度をそのフィルムの耐凹み鉛筆硬度とすることができる。具体的には、例えばポリイミド基材を有する165μmの樹脂フィルムの上に、25℃において貯蔵弾性率0.1MPa、25μm厚みのOCAを用いて、ポリイミド系フィルムを積層し試験サンプルを作製する。次いで、ポリイミド系フィルム面が表になるように厚み0.7mmのガラス上に載せて23℃50%RH環境下、鉛筆を45°の角度で取り付け、一定の荷重(300g)をかけながら鉛筆速度300mm/minで、耐鉛筆硬度試験器を用いて測定できる。判定は、15mm試験を行い、23℃50%RH環境下で24時間後に目視で凹みが有るか、無いかで行うことができる。本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムの耐凹み性鉛筆硬度は、好ましくは5B以上、より好ましくは4B以上である。耐凹み性鉛筆硬度が、上記の下限以上であると、ポリイミド系フィルムを表示装置の前面板として使用した場合に表示装置表面の傷付きや凹みを抑制しやすい。また、ポリイミド系フィルムの耐凹み性鉛筆硬度は、通常9H以下である。
【0134】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムの溶媒含有量(又は残存量)は、フィルムの質量を基準として、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、さらにより好ましくは1.3質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。ポリイミド系フィルムの溶媒含有量が上記の範囲内であると、フィルムの機械的特性、光学特性及びフィルム外観が良好となる傾向がある。
【0135】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらにより好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上、特により好ましくは40μm以上であり、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、特に好ましくは70μm以下、特により好ましくは60μm以下である。ポリイミド系フィルムの厚さが上記の下限以上であると、機械的特性を向上しやすく、上記の上限以下であると、光学特性を向上しやすい。ポリイミド系フィルムの厚さは、膜厚計等により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
なお、本明細書において、光学特性とは、例えば全光線透過率、YI値、ヘーズ等の光学的に評価し得る特性を意味し、光学特性が向上する又は高まるとは、例えば、全光線透過率が高くなること、YI値が低くなることや、ヘーズが低くなること等を示す。また、機械的特性とは、耐凹み性、耐屈曲性、弾性率等の機械的な特性を意味し、機械的特性が向上する又は高まるとは、例えば、耐凹み性、耐屈曲性や、弾性率等が高くなることを示す。
【0136】
本発明の製造方法により得られるポリイミド系フィルムは、光学特性に優れるため、好ましくは光学フィルムである。本発明の製造方法では、原料フィルムが光学フィルムであっても、全光線透過率やYI等の光学特性を低下させることなく、ポリイミド系フィルムを製造できる。光学フィルムとは、好ましくは、少なくとも全光線透過率が高いフィルムを意味し、該全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であり、通常100%以下である。ポリイミド系フィルムの全光線透過率が上記の下限以上であると透明性が良好となり、例えば表示装置の前面板に使用した場合に、高い視認性に寄与することができる。なお、全光線透過率は、ポリイミド系フィルムの上記厚さの範囲における全光線透過率であってよい。また、全光線透過率は、JIS K 7105:1981に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0137】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムのヘーズは、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下であり、通常0.01%以上である。ポリイミド系フィルムのヘーズが上記の上限以下であると透明性が良好となり、例えば表示装置の前面板に使用した場合に、高い視認性に寄与することができる。なお、ヘーズは、例えば、JIS K 7136:2000に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定できる。
【0138】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムのYI値(黄色度)は、好ましくは8以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下、さらにより好ましくは3以下、特に好ましくは2以下、特により好ましくは1.7以下であり、通常-5以上であり、好ましくは-2以上である。ポリイミド系フィルムのYI値が上記の上限以下であると透明性が良好となり、例えば表示装置の前面板に使用した場合に、高い視認性に寄与することができる。なお、YI値は、例えば、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計を用いて300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求め、YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Yの式に基づいて算出でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0139】
本発明の製造方法で得られるポリイミド系フィルムの用途は特に限定されず、種々の用途に使用してよい。ポリイミド系フィルムは、上記に述べたように単層であっても、積層体であってもよく、ポリイミド系フィルムをそのまま使用してもよいし、さらに他のフィルムを積層して他の層との積層体として使用してもよい。なお、ポリイミド系フィルムが積層体である場合、ポリイミド系フィルムの片面又は両面に積層された全ての層を含めてポリイミド系フィルムと称する。
【0140】
ポリイミド系フィルムが積層体である場合、ポリイミド系フィルムの少なくとも一方の面に1以上の機能層を有することが好ましい。機能層としては、例えば紫外線吸収層、ハードコート層、プライマー層、ガスバリア層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0141】
〔フレキシブル表示装置〕
本発明の製造方法で得られるポリイミド系フィルムは、フレキシブル表示装置に使用してもよい。本発明におけるポリイミド系フィルムは、好ましくはフレキシブル表示装置において前面板として用いられ、該前面板はウインドウフィルムと称されることがある。該フレキシブル表示装置は、フレキシブル表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル表示装置用積層体としては、さらに偏光板、タッチセンサを含有していてもよく、それらの積層順は任意であるが、視認側からウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサ又はウインドウフィルム、タッチセンサ、偏光板の順に積層されていることが好ましい。タッチセンサよりも視認側に偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性が良くなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、前記ウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0142】
〔偏光板〕
前記フレキシブル表示装置は、上記の通り、偏光板、中でも円偏光板をさらに備えることが好ましい。円偏光板は、直線偏光板にλ/4位相差板を積層することにより右円偏光成分又は左円偏光成分のみを透過させる機能を有する機能層である。例えば外光を右円偏光に変換して有機ELパネルで反射されて左円偏光となった外光を遮断し、有機ELの発光成分のみを透過させることで反射光の影響を抑制して画像を見やすくするために用いられる。円偏光機能を達成するためには、直線偏光板の吸収軸とλ/4位相差板の遅相軸は理論上45°である必要があるが、実用的には45±10°である。直線偏光板とλ/4位相差板は必ずしも隣接して積層される必要はなく、吸収軸と遅相軸の関係が前述の範囲を満足していればよい。全波長において完全な円偏光を達成することが好ましいが実用上は必ずしもその必要はないので本発明における円偏光板は楕円偏光板をも包含する。直線偏光板の視認側にさらにλ/4位相差フィルムを積層して、出射光を円偏光とすることで偏光サングラスをかけた状態での視認性を向上させることも好ましい。
【0143】
〔タッチセンサ〕
フレキシブル表示装置は、上記の通り、タッチセンサをさらに備えることが好ましい。タッチセンサは入力手段として用いられる。タッチセンサとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等様々な様式が挙げられ、好ましくは静電容量方式が挙げられる。
静電容量方式タッチセンサは活性領域及び前記活性領域の外郭部に位置する非活性領域に区分される。活性領域は表示パネルで画面が表示される表示部である領域に対応する領域であって、使用者のタッチが感知される領域であり、非活性領域は表示装置で画面が表示されない非表示部である領域に対応する領域である。タッチセンサはフレキシブルな特性を有する基板と、前記基板の活性領域に形成された感知パターンと、前記基板の非活性領域に形成され、前記感知パターンとパッド部を介して外部の駆動回路と接続するための各センシングラインを含むことができる。フレキシブルな特性を有する基板としては、前記ウインドウフィルムの透明基板と同様の材料が使用できる。
【0144】
〔接着層〕
前記フレキシブル表示装置用積層体を形成する、ウインドウフィルム、円偏光板、タッチセンサなどの各層並びに各層を構成する直線偏光板、λ/4位相差板等のフィルム部材は接着剤によって接合することができる。該接着剤としては、水系接着剤、有機溶剤系、無溶剤系接着剤、固体接着剤、溶剤揮散型接着剤、水系溶剤揮散型接着剤、湿気硬化型接着剤、加熱硬化型接着剤、嫌気硬化型、活性エネルギー線硬化型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤、感圧型粘着剤、再湿型接着剤等、通常使用されている接着剤等が使用でき、好ましくは水系溶剤揮散型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、粘着剤を使用できる。接着剤層の厚さは、求められる接着力等に応じて適宜調節することができ、好ましくは0.01~500μm、より好ましくは0.1~300μmである。前記フレキシブル表示装置用積層体には、複数の接着層が存在するが、それぞれの厚さや種類は同一であっても異なっていてもよい。
【実施例0145】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、それぞれ質量%及び質量部を意味する。まず始めに物性値の測定方法を説明する。
【0146】
<重量平均分子量の測定>
以下のようにして、実施例及び比較例で使用したポリイミド系樹脂の重量平均分子量を測定した。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
(1)前処理方法
ポリイミド系樹脂に下記溶離液をポリイミド系樹脂濃度が2mg/mLとなるように加え、80℃にて30分間撹拌しながら加熱し、冷却後、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:東ソー(株)製TSKgel α-2500((7)7.8mm径×300mm)×1本、α-M((13)7.8mm径×300mm)×2本
溶離液:ジメチルホルムアミドDMF(10mmol/Lの臭化リチウム含有)
流量:1.0mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:100μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0147】
<イミド化率の測定>
実施例及び比較例で使用したポリイミド系樹脂のイミド化率は、1H-NMR測定により以下のようにして求めた。
(1)前処理方法
ポリイミド系フィルムを重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解させて、ポリイミド系樹脂濃度2質量%の溶液としたものを測定試料とした。
(2)測定条件
測定装置:JEOL製 400MHz NMR装置 JNM-ECZ400S/L1
標準物質:DMSO-d6(2.5ppm)
試料温度:室温
積算回数:256回
緩和時間:5秒
(3)イミド化率解析方法
(ポリイミド系樹脂のイミド化率)
上記測定により得られた1H-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリイミド系樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けないベンゼンプロトンCの積分値をIntCとした。また、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリイミド系樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けるベンゼンプロトンDの積分値をIntDとした。得られたIntC及びIntDから以下の式によりβ値を求めた。
β=IntD/IntC
次に、複数のポリイミド系樹脂について上記式のβ値を求め、これらの結果から以下の相関式を得た。
イミド化率(%)=k×β+100
上記相関式中、kは定数である。
βを相関式に代入してポリイミド系樹脂のイミド化率(%)を得た。
【0148】
<厚さ>
実施例及び比較例で使用した保護フィルムの厚さ及び得られたポリイミド系フィルムの厚さはABSデジマチックインジケーター((株)ミツトヨ製、「ID-C112BS」)を用いて測定した。
【0149】
<保護フィルムの融点>
実施例及び比較例で使用した保護フィルムの融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121に準拠して測定した。
【0150】
<ワニスの粘度>
実施例及び比較例におけるワニスの粘度は、JIS K 8803:2011に準拠して、ブルックフィールド社製E型粘度計DV-II+Proを用いて測定した。測定温度は25℃とした。
【0151】
<ポリイミド系フィルムの残存溶媒量>
実施例及び比較例における原料フィルム及びポリイミド系フィルムの溶媒含有量(残存溶媒量)の測定は、熱重量-示差熱(TG-DTA)測定を以下の手順で行うことにより実施し、120℃から250℃にかけての質量減少率S(質量%)を下記式に従い算出した。算出された質量減少率Sを、ポリイミド系フィルム中の残留溶媒量S(質量%)とした。
TG-DTAの測定装置:日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA6300
測定条件:約20mgの試料を、室温から120℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、120℃で5分間保持した後、400℃まで10℃/分の昇温速度で昇温(加熱)しながら、試料の質量変化を測定。
S(質量%)=100-(W1/W0)×100
〔式中、W0は120℃で5分間保持した後の試料の質量であり、W1は250℃における試料の質量である〕。
なお、ポリイミド系フィルムの支持体とは反対面にプロテクトフィルムを積層している場合は、プロテクトフィルム及び支持体を剥離して、残留溶媒量を測定した。
【0152】
<全光線透過率の測定>
JIS K 7105:1981に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータHGM-2DPにより、実施例におけるポリイミド系フィルムの全光線透過率を測定した。
【0153】
<YI値の測定>
実施例におけるポリイミド系フィルムのYI値(Yellow Index)を、JIS K 7373:2006に準拠して、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計「V-670」を用いて測定した。サンプルがない状態でバックグラウンド測定を行った後、フィルムをサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求め、下記式に基づいてYI値を算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0154】
<製造例1:ポリイミド系樹脂の調製>
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、DMAc 313.57gを加え、水分量が700ppmになるようにイオン交換水を必要量投入した。次いで、TFMB 18.53g(57.86mmol)を加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。次に、フラスコに6FDA 7.64g(17.19mmol)を添加し、10℃に冷却し、16時間撹拌した。その後、OBBC 1.69g(5.73mmol)、次いでTPC 6.28g(30.93mmol)をフラスコに加え、10℃で30分間撹拌した。次いで、水分量700ppmに調整したDMAc 313.57gを加え、10分間撹拌した後、さらにTPC 0.70g(3.45mmоl)をフラスコに加え、10℃で30分間撹拌した後、さらにTFMB 0.0367g(0.115mmоl)を加え、2時間撹拌した。次いで、フラスコにジイソプロピルエチルアミン 5.18g(40.11)、4-メチルピリジン 3.74g(40.11mmol)及び無水酢酸 12.29g(120.30mmol)を加え、10℃で30分間撹拌した。その後、オイルバスを用いて、10℃から50℃まで30分間、50℃から60℃まで10分間、60℃から65℃まで10分間かけてそれぞれ昇温した後、65℃から70℃まで10分間、70℃から75℃まで10分間かけてそれぞれ、段階的に昇温し、さらに70℃で3時間保温しながら撹拌し、反応液を得た。得られた反応液を室温まで冷却し、大過剰のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物をろ過して固形物として取り出し、メタノール中に6時間浸漬した。その後、再度固形物を濾別した後、大過剰量のメタノールで洗浄した。次に、固形物の減圧乾燥を80℃、24時間にて行い、ポリイミド系樹脂(1)を得た。得られたポリイミド系樹脂(1)の重量平均分子量Mwは295,000であり、イミド化率は98.1%であった。
【0155】
<製造例2:ワニスの調製>
ポリイミド系樹脂(1)をGBLに添加し、室温にて24時間撹拌することで完全に溶解させて、25℃における粘度40,000cps、固形分8.5%のワニス(1)を得た。
【0156】
<実施例1>
(ポリイミド系フィルムの製造)
厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材(東洋紡(株)製:コスモシャイン(登録商標) A4100、以下PET基材と略す)を巻き出して、線速0.30m/分で搬送しながら、該PET基材上に、タンクに入れたワニス(1)をノズルから、幅500mmで流涎成形により塗布した。その後、同じ線速で搬送しながら、乾燥機で、120℃で20分、95℃で10分、85℃で10分加熱し、塗布されたワニスを乾燥して原料フィルム(乾燥塗膜)を得た。続いて、プロテクトフィルム((株)サンエー化研製;NSA-33T)をロールから巻き出して、該原料フィルムのPET基材と接する面とは反対側の面に貼合した後、該原料フィルムからPET基材を剥離してPET基材ロールとして巻き取り、残る積層フィルム(I)を、長さ100mの積層体ロール(I)として得た。原料フィルムの幅方向の長さは40cmであり、長手方向の長さは100mであった。また、原料フィルムの残存溶媒量は15質量%であった。
次に、得られた積層体ロール(I)から、搬送速度2.0m/秒で積層フィルム(I)を巻き出し、該積層フィルム(I)からプロテクトフィルムを剥離してプロテクトフィルムロールとして巻き取り、残る原料フィルムを、以下のようなテンター式乾燥機中において、
図1及び2に示すように、原料フィルム1と保護フィルム2とからなる積層体に以下の条件で張力をかけながら乾燥した。なお、
図1に示すように、テンター式乾燥機は、クリップを用いてフィルムの両端部を把持する機構を備えている。また、内部はフィルムの入口側から順に第1室~第6室に区分されている(図示せず)。その際、
図3に示すようにクリップ3(把持部材3)と原料フィルム1の間(原料フィルムの両面)に保護フィルム2として、ポリイミドフィルムである東レ・デュポン製カプトン(融点≧350℃、50μm)が入るように乾燥機入口から投入し、乾燥機出口で保護フィルム2を巻取回収し、その後、ポリイミド系フィルムを得た。該保護フィルム2は、
図1に示すように、原料フィルムの両面の幅方向の(又は長手方向に沿った)2つの端部における相対する2つの区域にそれぞれ配置されている。得られたポリイミド系フィルムは厚さが50μm、残存溶媒量が0.5質量%、全光線透過率が90.0%、及びYI値(黄色度)が1.5であった。また、保護フィルムの幅方向の長さは50mmであり、長手方向の長さは100mであった。
【0157】
<テンター式乾燥機>
・クリップの把持幅(原料フィルムの一方端部に位置する把持部から、原料フィルムの該一方端(先端)までの最短距離):25mm
・乾燥機入口におけるフィルム両端の把持部間距離N1に対する乾燥機内でのフィルム両端の把持部間距離N2の比率Z:1.1
・乾燥機入口におけるフィルム両端の把持部間距離N1に対する乾燥機出口でのフィルム両端の把持部間距離N3の比率Q:0.98
・乾燥機内温度:280℃
・乾燥機内の各室の風速:第1室13.5m/秒、第2室13m/秒、第3~6室11m/秒
【0158】
<実施例2>
保護フィルムとして用いたポリイミドフィルムの厚さを25μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルムを得た。得られたポリイミド系フィルム2は、厚さが50μm、残存溶媒量が0.5質量%であった。
【0159】
<実施例3>
保護フィルムをポリイミドフィルムからポリテトラフルオロエチレン(日東電工製ニトフロン、融点≧327℃、厚さ50μm)に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルムを得た。得られたポリイミド系フィルム3は厚さが50μm、残存溶媒量が0.5質量%であった。
【0160】
<実施例4>
保護フィルムをポリイミドフィルムからPET(東洋紡製ポリエステルフィルム「E5000」、融点260℃、厚さ50μm)に変えたこと、及び乾燥機の温度を260℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルム4を得た。得られたポリイミド系フィルムは、厚さが50μm、残存溶媒量が1.0質量%であった。
【0161】
<比較例1>
保護フィルムを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルムの製造を実施した。
【0162】
<比較例2>
保護フィルムとして、ポリエチレンフィルム(東レフィルム加工製「トレテック7332」、融点≦150℃、厚さ30μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルムの製造を実施した。
【0163】
<比較例3>
保護フィルムとして、ポリプロピレン(東レ製「トレファン」、融点≦170℃、厚さ30μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルムの製造を実施した。
【0164】
実施例1~4及び比較例1~3において、ポリイミド系フィルムの製造を実施した結果を表1に示す。
【表1】
【0165】
表1に示されるように、実施例1~4の製造方法では、ポリイミド系フィルムが破断せずに、安定して得られることが確認された。一方、比較例1の製造方法では、ポリイミド系フィルムの破断が生じ、比較例2及び3の製造方法では、クリップへの樹脂癒着及びフィルムの破断が生じ、搬送不良となることが確認された。