(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132817
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】アノード矯正装置、及びその装置に用いられる厚さ調整部材
(51)【国際特許分類】
C25C 1/00 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
C25C1/00 303A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038360
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青木 皓一郎
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA14
4K058BB03
4K058FB06
(57)【要約】
【課題】設備を大型化複雑化することなく、アノードの耳部の矯正を、作業員が一人でも安全に、そして簡易かつ迅速に行うことを可能にする技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置であって、アノードAの耳部C裏面と接触する基準ブロック12と、基準ブロック12に対して接近離間可能に設けられる加圧ブロック13と、で構成され、基準ブロック12は、加圧ブロック13に対向する接触面を有し、その接触面とは反対側に位置する装置フレーム1Fとボルト14で固定されるブロック本体21と、ブロック本体21と装置フレーム1Fとの間に着脱可能に挿入される厚さ調整部材22と、を備え、厚さ調整部材22は、その下端部から高さ方向に切込み22Nが形成されており、その切込み22Nに、ブロック本体21を固定するボルト14を通過させることによって挿入固定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置であって、
アノードの耳部裏面と接触する基準ブロックと、
前記基準ブロックに対して接近離間可能に設けられる加圧ブロックと、で構成され、
前記基準ブロックは、
前記加圧ブロックに対向する接触面を有し、該接触面とは反対側に位置する装置フレームとボルトで固定されるブロック本体と、
前記ブロック本体と前記装置フレームとの間に着脱可能に挿入される厚さ調整部材と、を備え、
前記厚さ調整部材は、その下端部から高さ方向に切込みが形成されており、該切込みに、前記ブロック本体を固定する前記ボルトを通過させることによって挿入固定される、
アノード矯正装置。
【請求項2】
前記ブロック本体は、前記装置フレームと、2つ以上のボルトで固定され、
前記厚さ調整部材には、前記ボルトの数に対応する数の切込みが形成されている、
請求項1に記載のアノード矯正装置。
【請求項3】
電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置用の厚さ調整部材であって、
前記装置は、
アノードの耳部裏面と接触する基準ブロックと、該基準ブロックに対して接近離間可能に設けられる加圧ブロックと、で構成され、
前記装置における基準ブロックは、
加圧ブロックに対向する接触面を有し、該接触面とは反対側に位置する装置フレームとボルトで固定されるブロック本体を有しており、
当該厚さ調整部材は、所定の厚さを有し、その下端部から高さ方向に切込みが形成されており、該切込みに、前記ブロック本体と前記装置フレームとの間の前記ボルトを通過させることによって挿入固定される、
厚さ調整部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪みが生じたアノードを矯正するアノード矯正装置、及びその装置に用いられる厚さ調整部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の金属を製造する方法として、電解製錬がある。電解製錬では、電解液を満たした電解槽中にアノード(純度の低い目的金属からなる電極又は電解液に溶出しない電極)とカソードとを交互に浸漬して通電することにより、カソードの種板表面上に高純度の金属を電着させて製品を製造している。このような電解製錬の通電工程(電解工程)では、大量の電力を消費することから、電解製錬の生産効率を向上するために、消費電力を低減することが求められている。
【0003】
電解製錬における消費電力を低減するために、アノードとカソードとは、両者間の間隔が電着に適した距離となるように配設される。ところが、アノードとカソードと間の距離が適切な距離から変化すれば、消費電力はその距離の変化の影響を受けて変化する。
【0004】
例えば、アノードとカソードとの距離が大きくなりすぎると、電解液の電気抵抗が大きくなり、電着に大きな電力が必要になる。一方で、アノードとカソードとの距離が小さくなりすぎると、消費電力は小さくできるものの、カソードの種板に電着が進むにつれて電着した金属の一部がアノードと接触してしまうことがある。このような接触が生じれば、電流がアノードからカソードに直接流れてしまうため、電力が空費されることになる。したがって、消費電力を低減して電力の空費等が生じることを防ぐうえでは、電解槽中において、アノードとカソードとの距離を適切に維持することが必要となる。
【0005】
アノードとカソードとはともに、電解槽の上部に設けられている電極であるブスバー及び絶縁板に保持され、電解槽中に吊り下げられる。そのため、電解槽中におけるアノードとカソードとの距離には、両電極の垂直性が影響を与える。つまり、両電極の垂直方向の歪が影響を与えることから、両電極の歪を小さくすることは重要である。
【0006】
ところで、アノードは、
図5に示すような形状となるように鋳造によって製造される。つまり、アノードAは、本体部Bと、その本体部Bの上部両側方に設けられる一対の耳部C,Cが一体となって鋳造される。アノードAの一対の耳部C,Cは、アノードAを電解槽に浸漬した状態において、アノードAを吊り下げる際の支持部になるとともに、ブスバーとの接点としても機能する。そのため、ブスバーとの接触性を良好に保ちつつ、安定した状態でアノードAを吊り下げておくために、一対の耳部C,Cの下部は平坦となるように切削が行われる。
【0007】
しかしながら、アノードAを鋳造する際に使用する鋳型においては、アノードの剥ぎ取りを容易にするために、鋳型の内底面に若干の勾配や段差が付けられている。そのため、アノードAの一対の耳部C,Cの位置は、アノードAの厚さ方向において、裏面側(鋳型の底と接していた面側)から表面側(鋳型内における湯面側)に若干偏った位置に形成される。
【0008】
具体的には、
図6に示すように、アノードAの一対の耳部C,Cは、アノードAの本体部Bの重心Gを通る中心線X、X’よりも表面側にずれる(
図6(A))。そのため、一対の耳部C,Cの下部を平坦に切削しても、アノードAを電解槽に装入した際には、アノードAは点Pを支点として揺動し、耳部がブスバーと接触する点P,Pと重心Gとを含む面が鉛直方向に向くように姿勢を変化させる(
図6(B))。言い換えれば、アノードAは、その表面が鉛直方向に対して傾斜した状態となるように姿勢を変化させる。このようになると、アノードAを電解槽に浸漬したとき、アノードAの本体部Bの下端部は、上端部に比べて、表面側(
図6では左面側)はカソードまでの距離が短くなり、裏面側(
図6では右面側)は長くなってしまう。つまり、電解槽の上部ではカソードまでの距離が適切になるように設置して電解槽に浸漬させたとしても、本体部Bの下部(すなわち、電解槽内における本体部B)ではアノードAとカソードとの距離がずれてしまう。すると、上述したようなアノードAとカソードとの接触が生じて、電解製錬の生産効率が低下する可能性がある。
【0009】
そこで、アノードAの一対の耳部C,Cのずれ、すなわち、アノードAの本体部Bの重心Gを通る中心線X、X’に対するずれを矯正するために、アノードAをプレス加工することが行われている(例えば、特許文献1、2等)。
【0010】
具体的には、プレス加工によって一対の耳部C,Cを裏面側に向かって押し曲げて、耳部がブスバーと接触する点PがアノードAの本体部Bの重心Gを通る中心線X、X’に重なるように矯正する。このように矯正すれば、アノードAを電解槽に装入したとき、一対の耳部C,Cがブスバーと接触する点P,Pと重心Gとを含む面を鉛直方向に近い向きにできる。これにより、アノードAを電解槽に浸漬した際に、アノードAが傾斜することを効果的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-122254号公報
【特許文献2】特開2012-41612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さて、上述したようにアノードAの一対の耳部C,Cをプレス加工して耳部C,Cの位置を適切に調整するとき、一対の耳部C,Cの厚さが変化すれば、その耳部C,Cをプレスする量を変化させなければならない。そのため、アノードAの厚み(すなわち、一対の耳部C,Cの厚み)に合わせて、プレス加工する際における耳部C,Cの変形量を調整する必要がある。
【0013】
従来、一対の耳部C,Cの変形量は、裏面側に位置する受金型の厚みを変更して調整していた。ところが、受金型の厚みを変更するには、毎度、受金型を取り外し/取り付けする必要がある。受金型の変更には、およそ25分~30分程度の作業時間が必要となり、受金型を変更している間は設備を停止させなければならない。設備の稼働日では、25分~30分程度であっても設備を停止すれば他の工程への影響が大きくなることから、受金型の変更は設備を稼働しない日を選んで行われる。しかしながら、一対の耳部C,Cを含めたアノードAの厚みは、アノードAを製造する日によって5mm以下程度のばらつきがあるため、設備を稼働しない日にだけ受金型の変更をしたのでは、その耳部C,Cの変形量を適切に調整することは難しい。
【0014】
例えば、特許文献1には、電解製錬に用いられるアノードAを矯正する装置が開示されている。具体的に、アノード矯正装置は、アノードAの耳部C裏面と接触する基準ブロックと、基準ブロックに対して接近離間可能に設けられる加圧ブロックと、を備えている。そして、基準ブロックは、加圧ブロックと対向する接触面を有するブロック本体と、ブロック本体に着脱可能に設けられた厚さ調整部材と、を備え、厚さ調整部材は、ブロック本体の接触面に配置される接触部材と、接触部材をブロック本体に固定する固定部と、ブロック本体に着脱可能に設けられた厚さ調整部材を備えている。このようなアノード矯正装置によれば、設備を大型化複雑化することなく、アノードの耳部の矯正が簡単かつ迅速に実施することができ、優れている。
【0015】
ところが、特許文献1に開示のアノード矯正装置において、厚さ調整部材は、接触部材と、挿入部材と、連結部材とを備えた複雑な形状からなるものであり、ブロック本体に着脱可能に設けられるものであるが、以下のように固定方法としては煩雑さがある。すなわち、特許文献1においては、厚さ調整部材について、「ボルト等によってブロック本体11に固定されるようにしてもよい。例えば、ブロック本体11の上面や側面にボルト等を固定できる穴を穿っておき、固定部として、ブロック本体11の上面や側面に配置される固定プレートを設ける。そして、固定プレートにボルト等を挿通できる貫通孔を設けておく」ことが開示され(段落[0047])、さらに「接触部材12aの貫通孔にボルト等を挿通して、ボルト等をブロック本体11の穴に挿入すれば、厚さ調整部材12をブロック本体11に固定することができる」ことが開示されている(段落[0048])。そうすると、このような厚さ調整部材を固定しているとき、それを取り外すためには、少なくとも接触部材の貫通孔からボルトを抜き取らなければならず、ボルトを緩める作業と、取り外し後の厚さ調整部材を保持する作業を同時に行わなければならず、安全面を考慮すると、作業員が一人で行うことは困難であるという問題がある。
【0016】
また、特許文献2には、アノードの垂直性の矯正の自動化を図り、垂直性の矯正に要する時間を短縮することを可能のするアノードの垂直性矯正方法についての技術が開示されている。具体的には、アノードの垂直性に関するデータを測定する垂直性測定装置と、アノードの耳部が載置された耳受け部をプレスすることにより電解槽に懸垂支持される耳部の裏面の角度を矯正する耳垂直プレス機とを備える垂直性測定装置を用い、垂直性測定装置による測定データに基づいて耳受け部の角度を、垂直性が矯正される角度になるように調整する技術が開示されている。
【0017】
しかしながら、垂直性測定装置や、制御部及び駆動機構といった装置が必要となり、装置規模が大きくなってコスト高となるという問題がある。
【0018】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、設備を大型化複雑化することなく、アノードの耳部の矯正を、作業員が一人でも安全に、そして簡易かつ迅速に行うことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、基準ブロックと加圧ブロックとで挟んで加圧矯正するアノード矯正装置において、その基準ブロックの厚さを調整する厚さ調整部材として、所定の切込みが形成されたものを用いることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
(1)本発明の第1の発明は、電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置であって、アノードの耳部裏面と接触する基準ブロックと、前記基準ブロックに対して接近離間可能に設けられる加圧ブロックと、で構成され、前記基準ブロックは、前記加圧ブロックに対向する接触面を有し、該接触面とは反対側に位置する装置フレームとボルトで固定されるブロック本体と、前記ブロック本体と前記装置フレームとの間に着脱可能に挿入される厚さ調整部材と、を備え、前記厚さ調整部材は、その下端部から高さ方向に切込みが形成されており、該切込みに、前記ブロック本体を固定する前記ボルトを通過させることによって挿入固定される、アノード矯正装置である。
【0021】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記ブロック本体は、前記装置フレームと、2つ以上のボルトで固定され、前記厚さ調整部材には、前記ボルトの数に対応する数の切込みが形成されている、アノード矯正装置である。
【0022】
(3)本発明の第3の発明は、電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置用の厚さ調整部材であって、前記装置は、アノードの耳部裏面と接触する基準ブロックと、該基準ブロックに対して接近離間可能に設けられる加圧ブロックと、で構成され、前記装置における基準ブロックは、加圧ブロックに対向する接触面を有し、該接触面とは反対側に位置する装置フレームとボルトで固定されるブロック本体を有しており、当該厚さ調整部材は、所定の厚さを有し、その下端部から高さ方向に切込みが形成されており、該切込みに、前記ブロック本体と前記装置フレームとの間の前記ボルトを通過させることによって挿入固定される、厚さ調整部材である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、設備を大型化複雑化することなく、アノードの耳部の矯正を、作業員が一人でも安全に、そして簡易かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】アノード矯正方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図6】アノードの本体部の重心Gと、耳部がブスバー等と接触する位置Pとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0026】
≪1.アノード矯正装置について≫
本実施の形態に係るアノード矯正装置は、電解製錬に用いられるアノードを矯正する装置であり、例えばアノードの耳部をプレス加工することによって鋳造時に生じた歪を矯正するための装置である。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るアノード矯正装置の要部の側面図である。また、
図2は、アノード矯正装置の要部の断面図である。
図1、
図2は、矯正対象のアノードAを設置してアノード矯正装置を使用している状態を示している。なお、
図1、
図2において、矯正対象のアノードについては符号「A」で示している。アノードAは、本体部Bと、一対の耳部C,Cと、を備えている。アノードAは、一対の耳部C,Cで電解槽に吊り下げられ、その状態で電解槽中の電解液に浸漬されて電解精製が行われる。
【0028】
具体的に、アノード矯正装置1は、アノードAを保持するアノード保持部11と、アノードAの耳部C,Cの裏面と接触する基準ブロック12と、基準ブロック12に対して接近離間可能に設けられる加圧ブロック13と、で構成されている。また、基準ブロック12は、加圧ブロック13に対向する接触面を有してその接触面とは反対側に位置する装置フレーム1Fとボルト14で固定されるブロック本体21と、ブロック本体21と装置フレーム1Fとの間に着脱可能に挿入される厚さ調整部材22と、を備えている。
【0029】
アノード矯正装置1においては、アノードAがアノード保持部11により保持された状態で、アノードAを挟むように基準ブロック12と加圧ブロック13とが配置される。具体的には、アノードAの裏面側(
図1では右側の面側、
図2では上側の面側)に基準ブロック12が配置され、アノードAの表面側(
図1では左側の面側、
図2では下側の面側)に加圧ブロック13が配置される。そして、加圧ブロック移動機構15によって、加圧ブロック13を、基準ブロック12に接近離間させる。
【0030】
このように、加圧ブロック13を基準ブロック12に向けて移動させることで、加圧ブロック13によってアノードAの一対の耳部C,Cが基準ブロック12に向けて押圧される。すると、加圧ブロック13と基準ブロック12とに挟まれて、一対の耳部C,Cが矯正される。
【0031】
[アノード保持部]
アノード保持部11は、アノードAを吊り下げて保持するものである。アノード保持部11は、その上面に、矯正するアノードAの一対の耳部C,Cが載せられ、アノードAを吊り下げて保持する。アノード保持部11の構造は、アノードAを保持できれば特に限定されず、例えば上面が水平になるように設置された棒状の部材によって構成できる。また、U字状の部材で受けたり、万力のような機構で受け止めたりする構成であってもよい。
【0032】
アノード矯正装置1では、アノードAがアノード保持部11により保持された状態において、そのアノードAを挟むように、後述する基準ブロック12と加圧ブロック13とが配置される。
【0033】
[基準ブロック]
基準ブロック12は、上述したように、加圧ブロック13に対向する接触面を有してその接触面とは反対側に位置する装置フレーム1Fとボルト14で固定されるブロック本体21と、ブロック本体21と装置フレーム1Fとの間に着脱可能に挿入される厚さ調整部材22と、を備えている。そして、基準ブロック12は、厚さ調整部材22を自在に着脱することによって、基準ブロック12の厚さ、つまり、加圧ブロック13によって一対の耳部C,Cを押圧したときの変形量を調整できるようになっている。
【0034】
(ブロック本体)
ブロック本体21は、基準ブロック12を構成し、加圧ブロック13に対向する接触面を有している。なお、ブロック本体21における「接触面」とは、加圧ブロック13に対向する面であって、当該ブロック本体21と加圧ブロック13とで挟まれるアノードAと接触する面である。
【0035】
ブロック本体21は、
図1、
図2に示すように、略直方体のブロックである。ブロック本体21は、その前面(つまり、加圧ブロック13と対向する面(接触面))が加圧ブロック13の面(加圧面)と略平行になるように、その背面(接触面とは反対側の面)が装置フレーム1Fによって固定されている。
【0036】
ここで、ブロック本体21は、上述した接触面とは反対側に位置する装置フレーム1Fと、ボルト14によって固定されている。具体的には、装置フレーム1Fとブロック本体21との間を橋渡すように、装置フレーム1Fとブロック本体21のそれぞれの面に対して垂直にボルト14が設けられ、これにより、装置フレーム1Fに対してブロック本体21が固定されている。
【0037】
ボルト14の数は、特に限定されないが、2つ以上であることが好ましい。また、ボルト14の位置は、2つ以上のボルト14を水平方向に所定の間隔を空けて並べて設けることが好ましい。
【0038】
(厚さ調整部材)
厚さ調整部材22は、ブロック本体21と装置フレーム1Fとの間に着脱可能に挿入されて取り付けられるものであり、ブロック本体21と当該厚さ調整部材22とで構成される基準ブロック12の厚さを調整するためのものである。
【0039】
図3は、厚さ調整部材22の構成の一例を示すものであり、厚さ調整部材22の正面図を中心に、平面図、右側面図、及び底面図を併せて示している。
図3に示すように、厚さ調整部材22は、所定の厚みを有する板状形状からなるものである。アノード矯正装置1においては、厚みの異なる複数の厚さ調整部材22がセットで準備されており、矯正するアノードAの変形度合い(歪みの程度)に応じて、種々の厚みの厚さ調整部材22を選択して使用することができるようになっている。
【0040】
厚さ調整部材22は、上述したように、ブロック本体21と装置フレーム1Fとの間に着脱可能に挿入されて取り付けられる。厚さ調整部材22は、アノードAの変形量に応じて適切な厚さ調整部材22を選択して使用することで、基準ブロック12の厚さを自在に変更することができる。これにより、厚さ調整部材22を適切な厚みのものに変更するだけで、基準ブロック12と加圧ブロック13とで挟まれて押圧矯正されるアノードAの耳部Cの変形量を調整することができる。これにより、耳部Cの変形量の調整を容易かつ迅速に行うことが可能となる。
【0041】
ここで、
図3に示すように、厚さ調整部材22は、下端部から高さ方向に切込み22Nが形成されている。厚さ調整部材22は、その切込み22Nに、装置フレーム1Fにブロック本体21を固定するボルト14を通過させることによって挿入固定される。
【0042】
このような形状を有する厚さ調整部材22によれば、装置フレーム1Fとブロック本体21との間において、ボルト14の設置位置に切込み22Nが合うように、その上方から厚さ調整部材22を挿入していくという簡易な作業で、取り付けることができる。しかも、厚さ調整部材22は、その切込み22Nによってボルト14が挟持されるように装着されるため、プレス加工時においても左右に動いたりすることが殆どなく、安定的に保持することができる。
【0043】
また、厚さ調整部材22を取り外す際にも、装置フレーム1Fとブロック本体21との間に装着したその厚さ調整部材22を、上方に抜き出すという極めて簡易な作業で取り外すことができる。したがって、矯正対象のアノードAの変形量に応じて、適切な厚さ調整部材22を選定する際にも、短時間の作業で行うことができ、適切な厚さ調整部材22の選定の精度を向上させることも可能になる。そして延いては、アノードAの矯正の精度を高めることができる。
【0044】
従来(例えば特許文献1の技術)では、厚さ調整部材はボルト締めによってブロック本体に固定されていた。しかしながら、アノードAを矯正するに際しては、その変形量を調整するために適切な厚さ調整部材を選定し交換する必要があり、その都度、厚さ調整部材のボルト締め操作を行うことを要し、作業員一人では極めて煩雑な作業であった。これに対して、本実施の形態に係るアノード矯正装置1における厚さ調整部材22によれば、上述したように、ボルト締め等の操作が必要なく、安定的に固定装着することができるとともに、交換作業においても容易に取り外すことができるため、作業者一人で安全に、かつ極めて簡便かつ迅速に作業を行うことができる。
【0045】
厚さ調整部材22において、切込み22Nの形状は特に限定されず、ボルト14が通過することができる大きさ、形状とすればよい。なお、切込み22Nの幅方向の大きさが、ボルト14の直径(外接円の直径)よりも大き過ぎると、厚さ調整部材22を取り付けたときの安定性が損なわれる可能性があることから、幅方向の大きさはボルトの直径よりもやや大きい程度の大きさとすることが好ましい。
図3において、切込み22Nの部分に示す破線部は、ボルト14の断面形状を示している。
【0046】
また、切込み22Nの数は、装置フレーム1Fとブロック本体21との間のボルト14の数に対応する数とすることが好ましく、2つ以上とすることが好ましい。2つ以上の切込み22Nを形成して、それぞれの切込み22Nによってボルト14を挟持するように取り付けることで、安定性を高めることができる。なお、
図3では、2つのボルト14に対応して、2つの切込み22Nが形成されている例を示している。
【0047】
≪2.アノード矯正方法について≫
次に、上述したアノード矯正装置1を用いたアノードの矯正方法について説明する。上述したように、アノード矯正方法は、鋳造時に歪みが生じたアノードAを加圧して矯正する方法である。
【0048】
具体的に、アノード矯正方法は、
図4に示すように、予備矯正の工程S1と、本矯正の工程S2と、からなる。また、予備矯正の工程S1は、矯正対象のアノードAを選択するアノード選択工程S11と、選択したアノードAに対して予備矯正を行う予備矯正工程S12と、予備矯正の結果に基づいて厚み調整部材22を選定する厚み調整部材選定工程S13と、を含む。
【0049】
[予備矯正の工程]
予備矯正の工程S1は、本矯正(S2)に先立ち、矯正対象のアノードAの歪みの程度を測定して、アノード矯正装置1を用いた矯正作業で使用する、適切な厚み調整部材22を選定し、決定する工程である。
【0050】
上述したように、厚み調整部材22は、アノードAの変形量に応じて適切な厚さ調整部材22を選択して使用することで、基準ブロック12の厚さを自在に変更することができ、これにより、基準ブロック12と加圧ブロック13とで挟まれて押圧矯正されるアノードAの耳部Cの変形量を調整することができる。このように、アノードAを矯正するにあたり、適切な厚さ調整部材22を選定することは重要な作業であり、矯正の精度を向上させることにもつながる。
【0051】
(アノード選択工程)
予備矯正の工程S1では、まず、矯正対象とするアノードAを選択する。具体的には、アノード鋳造の同一ロット(同一の熔体による鋳込み)で得られたアノードAのうち、目視確認で膨れや反り等の異常がないものを複数枚選択する。
【0052】
(予備矯正工程)
次に、選択した複数枚のアノードAに対してアノード矯正装置1を用いて予備矯正を行う。このとき、選択したアノードAの枚数だけ、厚さ調整部材22の厚みを変化させて、それぞれの厚さ調整部材22により予備矯正の作業を実行する。
【0053】
(厚さ調整部材選定工程)
そして、予備矯正の作業により矯正されたアノードAの矯正結果に基づいて、適切な厚みの厚さ調整部材22を選定する。具体的には、予備矯正を行った(矯正済みの)アノードAをそれぞれ、電解槽に懸垂させ、所定の測定治具により垂直性を評価する。すなわち、予備矯正での矯正効果を評価する。なお、アノードAの垂直性の評価の方法は、特に限定されない。
【0054】
これにより、予備矯正を行った複数のアノードAのうちの最も垂直性が優れたアノードAを把握し、そのアノードAの矯正に用いた厚さ調整部材22を、同一ロットのアノードAに対する本矯正に用いる厚さ調整部材22として選定する。
【0055】
ここで、予備矯正の工程S1では、選択した複数のアノードAに対する予備矯正において、それぞれ異なる厚みの厚さ調整部材22を用いて矯正作業を行っている。このとき、アノード矯正装置1によれば、厚さ調整部材22が、下端部から高さ方向に切込みが形成されているものであり、その切込みに、ブロック本体21と装置フレーム1Fとを固定するボルト14を通過させることによって挿入固定されるものであるため、脱着の操作が極めて簡易であり、迅速に行うことができる。
【0056】
これにより、複数枚のアノードAに対して、それぞれ異なる厚みの厚さ調整部材22を用いて矯正作業を行っても、長時間を要することなく、効率的に予備矯正を行うことができる。また、このように簡易な操作で予備矯正を行うことができるため、適切な厚さ調整部材22の選定の精度を高めることができる。
【0057】
[本矯正の工程]
本矯正の工程S2では、予備矯正の工程S1にて選定された所定の厚みを有する厚さ調整部材22を用いて、予備矯正にて対象としたアノードAと同一ロットのアノードAに対して本矯正を行う。
【0058】
この本矯正では、予備矯正の工程S1にて、適切な厚さ調整部材22が選定されていることから、歪みが生じたアノードAの耳部Cに対して適切な変形量で加圧矯正することができ、精度の高い矯正を実施することができる。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
実施例1では、
図1~
図3に示した厚さ調整部材22を備えるアノード矯正装置1を用いて、アノードAの矯正作業を行った。
【0061】
その結果、アノード矯正作業における変形量の調整のために厚さ調整部材22を5枚交換するのに、作業者1名で安全に、かつ短時間(5~10分/1交換)のうちに作業することができた。
【0062】
[比較例1]
比較例1では、実施例1とは異なり、厚さ調整部材をボルト締めにより固定するアノード矯正装置を用いて、アノードAの矯正作業を行った。
【0063】
その結果、アノード矯正作業における変形量の調整のために厚さ調整部材1枚を交換するのに、作業時間が20分を超えたため、作業を中止した。
【0064】
[実施例2]
実施例2では、
図1~
図3に示した厚さ調整部材22を備えるアノード矯正装置1を用いて、アノードAの矯正作業を行うに際し、厚さ調整部材22の選定を行う予備矯正の工程(S1)と、本矯正の工程(S2)と、からなる一連のアノード矯正方法を実施した。
【0065】
具体的に、予備矯正の工程S1では、まず、同一ロットのアノードAを5枚選択した。次に、選択した5枚のアノードAのそれぞれに、異なる厚みの厚さ調整部材22(下記表1に示す5種類。なお、厚み0.0mmとは厚さ調整部材を用いなかったことを意味する。)を用意し、予備矯正を行った。なお、予備矯正は、アノード矯正装置1を用いた。そして、予備矯正した後の5枚のアノードAのそれぞれについて、垂直性の測定を行うことにより、予備矯正での矯正効果を評価した。
【0066】
下記表1に、予備矯正した5枚のアノードAの垂直性の測定結果を示す。なお、垂直性の評価は、予備矯正後のアノードAの本体部9箇所での歪み(絶対値)を測定して行い、表1には歪み絶対値の平均値を示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、厚みが1.0mmの厚さ調整部材22を用いた矯正操作において、矯正後のアノードAの歪みが最も少なかったことから、当該ロットのアノードAに対するアノード矯正装置1を用いた矯正においては、厚み1.0mmの厚さ調整部材22を使用することに決定した。
【0069】
次いで、本矯正の工程S2として、厚み1.0mmの厚さ調整部材22を使用し、同一ロットのアノードA(50枚)に対する本矯正を実施した。
【0070】
その結果、本矯正後のアノードAすべてにおいて、歪み絶対値が1.5mm以内に収まるようになり、効果的に矯正を行うことができたとともに、矯正の精度を向上させることができた。また加えて、再度の矯正が不要となったため、矯正作業全体の時間を短縮することができた。