(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133007
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230914BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/14 501
B41J2/16 301
B41J2/16 201
B41J2/16 517
B41J2/16 507
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038660
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】青山 伝
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF06
2C057AG07
2C057AG38
2C057AN01
2C057AP13
2C057AP14
2C057AP32
2C057AP52
2C057AP57
2C057AP59
2C057AP60
2C057AQ02
2C057BA05
2C057BA14
2C057DB03
(57)【要約】
【課題】液体の充填性を高めることができる液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッド1は、液体を吐出するノズル2と、ノズル2に連通する加圧液室4を有する基板たる流路基板100と、電気機械変換素子たる圧電素子5とを備えている。また、液体吐出ヘッド1は、ノズル2および加圧液室4の内周面に液体に対して親液性を有する表面層たる保護膜11が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルと、
前記ノズルに連通する加圧液室を有する基板と、
電気機械変換素子とを備え、
前記電気機械変換素子を駆動して前記加圧液室内のインクを加圧し前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、
前記ノズルおよび前記加圧液室の内周面に前記液体に対して親液性を有する表面層を設けたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記表面層は、親水性有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記表面層は、前記ノズルおよび前記加圧液室の内周面の液体の浸食を防ぐ保護層であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記表面層が、少なくともタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記表面層が、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記表面層は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物とシリコン酸化物とが混合された材料により形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
ノズル面に前記液体に対する撥液性を有する撥液膜が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記電気機械変換素子が、前記ノズルを囲うように設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれか一項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記加圧液室を有する基板のノズル側と反対側の面にも前記表面層が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、及び、主走査移動機構の少なくとも一つと、液体吐出ヘッドとを備えた液体吐出ユニットにおいて、
前記液体吐出ヘッドとして、請求項1乃至9いずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを用いることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項11】
液体を吐出する装置において、
請求項1乃至9いずれか一項に記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項10に記載の液体吐出ユニットを有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項12】
基板に振動膜を積層する工程と、
前記振動膜に電気機械変換素子を形成する工程と、
ノズルを形成する工程と、
貯留された液体が加圧される加圧液室を前記基板に形成する工程と、
前記加圧液室および前記ノズルの内周面に、前記液体に対して親液性を有する表面層を形成する工程とを有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
化学気相成長法により前記表面層を形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記加圧液室は、ドライエッチングにより形成されることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
請求項12乃至14いずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
ノズル面に前記液体に対する撥液性を有する撥液膜を形成する工程を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記表面層に付着した撥液膜を除去する工程を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【0002】
従来、ノズルに連通する加圧液室内の液体を、電気機械変換素子を駆動してノズルから吐出する液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1には、上記液体吐出ヘッドとして、六フッ化硫黄(SF6)ガスにより基板をエッチングして加圧液室を形成するものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液体の充填性に課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する加圧液室を有する基板と、電気機械変換素子とを備え、前記電気機械変換素子を駆動して前記加圧液室内のインクを加圧して前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズルおよび前記加圧液室の内周面に前記液体に対して親液性を有する表面層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液体の充填性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図4】流路基板に駆動回路、配線部および振動膜を形成する工程について説明する図。
【
図5】振動膜の上に第一電極層、圧電層、および第二電極層を成膜する工程について説明する図。
【
図6】第一絶縁膜を成膜する工程について説明する図。
【
図7】複数のコンタクトを形成する工程について説明する図。
【
図8】引出し配線を形成する工程について説明する図。
【
図9】第二絶縁膜を成膜する工程について説明する図。
【
図10】ノズル形成部を成膜する工程について説明する図。
【
図11】ノズルとパッド開口を形成する工程について説明する図。
【
図12】加圧液室を形成する工程について説明する図。
【
図13】(a)は、本実施形態の加圧液室の形成について説明する図であり、(b)は、従来の加圧液室の形成について説明する図。
【
図14】保護膜を形成する工程について説明する図。
【
図15】撥液膜を形成する工程について説明する図。
【
図16】本実施形態における印刷装置の概略説明図。
【
図17】同印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図20】本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズルを有するアクチュエータ部により加圧液室の圧力を変動させることにより加圧液室内の液体をノズルから吐出するノズル振動方式の液体吐出ヘッドである。ノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(加圧液室のノズルに連通する連通口を有する面に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、アクチュエータの省電力化を図ることができる。
【0010】
ノズル密度を高くすると電圧印加のための配線をレイアウトするスペースが限られ、基板表面での配線構築が困難となる。基板内に配線や駆動回路を構築することで、ノズル密度が高い構成でも、配線をレイアウトすることができる。一般的に圧電素子の材料としてはジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が、その圧電特性の高さから広く利用されているが、PZTの成膜・結晶化温度は600℃以上を要する。圧電素子の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路とその配線が高温に耐えられないため、圧電材料として、PZTよりも成膜温度が低い圧電材料が求められる。その場合、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択することを余儀なくされる。しかし、上述したようにノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があるため、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択しても良好に液滴を飛ばすことができる。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーは小さい圧電材料でも良好に液滴を飛ばすことができる。これにより、基板内に配線や駆動回路を構築することができ、高密度化が可能となる。
さらに、ノズル振動方式は、加圧液室の容積を小さくできることから、ヘッドの小型化も可能となる。
【0011】
図1は、本実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図であり、
図2は、液体吐出ヘッドを模式的に示す斜視図である。
液体吐出ヘッド1は、アクチュエータ部110、振動膜103、流路基板100と、フレーム部材120とを有している。
【0012】
アクチュエータ部110は、薄膜状であり、液体を吐出する複数のノズル2と、ノズル2の周囲に配置された環状の電気機械変換素子としての圧電素子5とを有している。流路基板100は、複数のノズル2に各々連通する複数の加圧液室(個別液室ともいう)4を有している。フレーム部材120は、複数の加圧液室4に通じる共通液室3を有している。
【0013】
液体吐出ヘッド1の両端には、外部の電源等の電気部品と接続するための電気接続パッド6が設けられている。
【0014】
図3は、
図1のX部分の拡大断面図である。
流路基板100は、SOI(Silicon on Insulator)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、第一電極51にバイアスを印加するための配線部と、第二電極53にバイアスを印加するための配線部と有している。また、配線部102は、振動膜103に開けられた第三コンタクト7cを介して電気接続パッド6に電気的に接続されている。
【0015】
アクチュエータ部110は、複数のノズル2が形成され、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有しており、このノズル形成部111のノズル面には、撥液膜112が形成されている。液体の吐出を続けた場合、吐出と同時に発生したミストがノズル面に付着する。このミストが多量のノズル面に付着すると、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうおそれがある。ノズル面に撥液膜112を形成することで、ノズル面への液体の付着を抑制することができ、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けるのを抑制することができる。
【0016】
アクチュエータ部110の圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう)と、圧電膜52と、第二電極53(上部電極ともいう)とを有している。圧電素子5は第一絶縁膜8aに覆われている。
【0017】
第一絶縁膜8aは、第一電極51に電気的に接続するための孔状の第四コンタクト7dと、第二電極53に電気的に接続するための孔状の第五コンタクト7eとが形成されている。この第一絶縁膜8aには、圧電素子の第一電極と流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引出し配線9aと、圧電素子の第二電極53と流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第二引出し配線9bとが形成されている。
【0018】
第一引出し配線9aは、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電極的に接続され、第一コンタクト7aを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引出し配線9bは、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電極的に接続され、第二コンタクト7bを介して配線部102に電極的に接続されている。
【0019】
第一引出し配線9aおよび第二引出し配線9bは、第二絶縁膜8bに覆われている。また、本実施形態では、第二絶縁膜8bは、圧電素子5も覆っており、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が圧電素子5へ侵入するのを防止して圧電素子5を保護する機能を有している。
【0020】
なお、第一電極51、第二電極53にそれぞれ、引き出し配線部を設けて、振動膜に開けられたコンタクトを介して配線部102に直接、電極的に接続してもよい。
また、第二絶縁膜8b上にノズル形成部111との密着性を確保するための密着改善膜を形成してもよい。
【0021】
液体吐出ヘッド内に満たされた液体は、ノズル2に入り込み、ノズル内でメニスカスを形成している。圧電素子5の各電極に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が図中上下方向に振動する。振動膜103が振動することで加圧液室室内の液体に圧力変化が発生し、ノズル2から液体が吐出される。
【0022】
また、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル2の内周面、加圧液室4の内周面および共通液室3の底面に液体吐出ヘッド1が吐出する液体に対して親液性有し、液体の浸食を防ぐ表面層としての保護膜11が形成されている。
【0023】
本実施形態では、液体吐出ヘッド1が吐出する液体は、アルカリ性であり、後述するように、加圧液室4を形成する流路基板100および振動膜103はシリコン単結晶およびシリコン酸化物からなる。これらの材料は、アルカリ性の液体に対して脆弱性を持ち、アルカリ性溶液に溶出し浸食される。これを防ぐために、液体の浸食を防ぐ耐液性の保護膜11を形成することで、流路基板100および振動膜103を液体から保護することができる。
【0024】
また、後述するように加圧液室4およびノズル2はドライエッチングにて形成される。ドライエッチングのガスにフッ素が含まれることで、エッチング後の加圧液室4の内壁面およびノズル2の内周面にフッ素を含む表皮膜が形成され、加圧液室4の内壁面およびノズル内周面が撥液性を持ってしまう。加圧液室4の内周面が撥液性を有すると、液体の充填時に液体が、加圧液室4の内周面に濡れ広がっていかないため、加圧液室4が液体で良好に満たされず、加圧液室4の角部などに気泡が生じてしまう場合がある。
【0025】
一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドでは、ポンプにより加圧液室4を加圧しながら充填したり、吸引キャップでノズル2を覆いノズル2から液体を吸引しながら充填したりして、加圧液室4の空気をノズル2から積極的に排出する。これにより、良好な充填性を確保している。しかし、ノズル振動方式では、振動膜103が薄膜であり、加圧や吸引を行いながら充填を行うと振動膜103にクラックが発生するおそれがある。
【0026】
これに対し、本実施形態では、加圧液室4の内周面やノズル2の内周面に親液性を有する保護膜11を形成するので、加圧液室4およびノズル2の内周面に対する液体の表面張力を低下させることができる。保護膜11は、保護膜11が成膜される加圧液室4やノズル2の成膜面(保護膜11の下層面)よりも液体に対する親液性があればよい。液体の溶剤が水性の場合は、親水性の高い保護膜とし、液体の溶剤が油性の場合は、親油性の高い保護膜とすることで親液性の高い保護膜11を形成することができる。
【0027】
このように、加圧液室4に充填される液体に対して親液性を有する保護膜11をノズル2および加圧液室4の内周面に形成することで、液体の充填時に液体が、加圧液室4およびノズル2の内周面に濡れ広がやすくなる。その結果、液体の充填性を向上でき、液体の充填の際に加圧や吸引を行わずとも、良好に加圧液室4およびノズル2に液体を充填することができる。よって、液体の充填時に振動膜103にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0028】
本実施形態の液体の溶剤は水性であるため、加圧液室4およびノズル2の内周面に対し、少なくともフッ素を含まない保護膜11を形成することで、ドライエッチングにより形成されたフッ素を含む表皮膜に比べ親液性を向上することができる。上記に加え、さらに、この膜は様々な液体と直接接するため、耐液性をもつ材料、例えば不導体を形成する金属の酸化物であることが望ましい。さらに親液性を向上する方法として、前記不動体を形成する金属酸化物に二酸化ケイ素(SiO2)を分子レベルで混ぜたものを用いることもできる。保護膜11のSiO2はその表面のOが置換され親水性を有するOH基を持つ。これにより、保護膜11にさらに親水性を付与することができる。上記金属酸化物の金属としては、酸化数への対応性が高いタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)などが挙げられる。特にSiO2と似た価数を持つZrやHf、あるいはその前後の価数を持つTaなどが特に望ましい。
【0029】
また、例えば、保護膜11を、耐液性の膜と、親液性の膜の2層構造としてもよい。この場合は、ノズル2および加圧液室4の内周面に耐液性の膜を形成した後に、耐液性の膜上に親液性の膜を形成する。
【0030】
なお、本実施形態では、共通液室の底面を構成する流路基板100の振動膜103成膜面とは反対側の面にも親液性の保護膜11を形成しているが、この面の保護膜11は、耐液性のみを有するものであってもよい。しかし、共通液室の底面に保護膜を形成する工程を、ノズル内周面や加圧液室の壁面に親液性の保護膜を形成する工程とは別に設ける必要があり製造工数が増えるおそれがある。また、共通液室3の底面に保護膜11を形成することで、共通液室3の底面に液体が濡れ広がりやすくなるため、液体の充填性も向上する。そのため、共通液室3の底面を構成する流路基板100の振動膜103成膜面とは反対側の面にも親液性の保護膜11を形成するのが好ましい。
【0031】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。
図4~
図15は、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程を説明するためのノズル2の並び方向に対して直交する断面を示す断面図である。
【0032】
まず、
図4に示すように、SOI(Silicon on Insulator)基板としての流路基板100のシリコン膜にトランジスタや抵抗などを含んだ駆動回路101および配線部102を形成する。上記駆動回路101を流路基板100に内蔵しない場合は、流路基板100として、SI基板を用いてもよい。
【0033】
次に、流路基板100の駆動回路101および配線部102が形成された面に振動膜103を成膜する。振動膜103の材質としては、SiO2やSiN、金属酸化物や樹脂など少なくとも絶縁性を持つ材質であれば良い。しかし、変位を大きくするためにはヤング率が低い材料が望ましく、かつ流路基板100との線膨張係数の差を考えるとその差が比較的小さいSiO2(二酸化ケイ素)が、振動膜103の材質として最も望ましい。
【0034】
次に、
図5に示すように、振動膜103の上に第一電極層151、圧電層152、および第二電極層153を成膜する。第一電極層151と第二電極層153は電気抵抗が小さく反応性の低い金属が望ましく、Ir、Moなどの金属が望ましい。
【0035】
圧電層152を構成する圧電材料としては、本実施形態のように、密度向上のために流路基板100に駆動回路101と配線部102を内蔵する場合は、それらを破壊しないために、その成膜温度が450℃以下である圧電材料が望ましい。成膜温度が450℃以下である圧電材料としては、AlNが挙げられる。
【0036】
また、圧電材料としてAlNを用いることで、次の利点も得ることができる。すなわち、圧電膜52の結晶配向を揃えることで圧電特性を向上することができるが、その配向制御のために振動膜103と第一電極51の間に配向制御層を設ける必要がある。圧電膜52の圧電材料がAlNのときは、配向制御層としてもAlNを用いることで、Moからなる第一電極51の格子定数をAlNに近づけることができる。その結果、圧電膜52の結晶配向が揃い、圧電特性の向上が可能となる。
【0037】
第一電極層151と第二電極層153の成膜は、スパッタリング法を用いることが一般的である。圧電層152の成膜についてはスパッタリング法やゾルゲル法などが挙げられるが、後者は成膜温度が高温となるため、駆動回路101と配線部102を有する流路基板100への成膜には適していない。そのため、圧電層152もスパッタリング法を用いて成膜するのが望ましい。
【0038】
第一電極層151、圧電層152および第二電極層153を成膜したら、
図6に示すように、それらを適した形状に成形して第一電極51と圧電膜52と第二電極53とからなる圧電素子5を得る。第一電極層151、圧電層152および第二電極層153をホトリソとエッチングにより加工することで容易に所望の形状の第一電極51,圧電膜52および第二電極53を得ることができる。エッチングにはウェットエッチングとドライエッチングがあるが、後者は電極51,53と圧電膜52の腐蝕を抑えることができため、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングの後はその加工による残渣が残りやすいことから、残渣除去のため成形後に洗浄工程を入れてもよい。
【0039】
第一電極51、圧電膜52、第二電極53の成形後、
図6に示すように第一絶縁膜8aを成膜およびエッチングにより形成する。第一絶縁膜8aは、振動膜103と同様に絶縁性を持ち、ヤング率が小さく、線膨張係数が構成材料に近いものが望ましいことから、振動膜103と同一のSiO
2を用いるのが好ましい。
【0040】
第一絶縁膜8aを形成したら、
図7に示すように、ホトリソとエッチングにより振動膜103と第一絶縁膜8aに孔形状の第一~第五コンタクト7a~7eを形成する。また、振動膜103には、第一~第三コンタクト7a~7cを形成するとともに、ノズル2を形成するためのノズル形成穴103aも成形する。第一~第三コンタクト7a~7cと同時にノズル形成穴103aの加工を行っておくことで、その後の加工を容易に行うことができ好ましい。
【0041】
次に、
図8に示すように、第一引出し配線9a、第二引出し配線9bおよび、電気接続パッド6を形成する。各引出し配線9a,9bと電気接続パッド6の材料はAlやAlCu合金が一般的である。この工程により、第一引出し配線9aが、第四コンタクト4dを介して第一電極51に電気的に接続し、第一コンタクト7aを介して配線部102に電気的に接続する。また、第二引出し配線9bが、第五コンタクト4eを介して第二電極53に電気的に接続し、第二コンタクト7bを介して配線部102に電気的に接続する。さらに、電気接続パッド6が、第三コンタクト7cを介して電気的に接続する。
【0042】
次に、
図9に示すように、各引出し配線9a,9bと圧電素子5を覆うように、第二絶縁膜8bを形成する。この第二絶縁膜8bも第一絶縁膜8aと同様にSiO
2を用いても良いが、湿度に対する信頼性向上のために、半導体の保護膜として広く用いられているSiNを用いることが望ましい。第二絶縁膜8bとして、絶縁性と防湿性の2つの機能を有することで、第二絶縁膜8bの上に防湿性の保護膜を形成する場合に比べて、アクチュエータ部110を薄くすることができる。これにより、振動膜103が変形しやすくなり、振動効率を高めることができる。
以上の工程で、圧電素子5を駆動することが可能となる。
【0043】
次に、
図10に示すように、ノズル形成のためのノズル形成部111を成膜する。ノズル形成部111は、スピンコートで成膜する。ノズル形成部111の材料としては、スピンコートで塗れる樹脂を用いることが望ましく、耐薬品性の観点から、SU8やBCBなどが望ましい。次に、
図11に示すように、ノズル2とパッド開口10をエッチングにより形成する。ノズル2とパッド開口10のエッチングはドライエッチングである。
【0044】
次に、
図12に示すように、Siエッチングにて流路基板100を加工して、丸穴状の複数の加圧液室4を形成する。加圧液室4は、吐出効率やクロストークの低減等のために、断面のアスペクト比を高く(液室の直径に対して、液室の深さを深く)する必要がある。そのため、本実施形態では、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)により加圧液室4を形成している。このDRIEでは、エッチングガスとして、CF4やC4F8などのCF系ガス、SF6などのSF系ガスを用いる。
【0045】
図13(a)は、本実施形態における加圧液室の形成について説明する図であり、
図13(b)は、従来の加圧液室の形成について説明する図である。
図13(a)に示すように、本実施形態では、電気接続パッド6をグランドに導通させて、加圧液室4の形成を行う。
DRIEは、イオンエッチングであり、
図13(b)に示す従来例では、エッチングを進めるほど(=深堀りするほど)、エッチング表面がチャージアップしエッチング領域近傍の電場が乱れる。その結果、
図13(b)の矢印に示すように、エッチング領域近傍の電場の乱れによりイオンが曲げられてしまい、加圧液室4の側壁の振動膜側端部が余計に削れる所謂ノッチングや、加圧液室4の壁面が弓状に湾曲するボーイングなどが発生するおそれがある。そのため、
図13(b)に示す従来例では、加圧液室4を精度よく成形できず、所望の吐出特性を得られないおそれがある。
【0046】
そのため、
図13(a)に示すように、電気接続パッド6をグランドに導通させて、加圧液室4の形成を行うことが好ましい。これにより、流路基板100のエッチング表面のチャージアップが抑制され、エッチング領域近傍の電場の乱れを抑制することができる。その結果、放出されたイオンの曲がりを抑制でき、ノッチングやボーイングの発生を抑制でき、精度よく加圧液室4を成形することができ、所望の吐出特性を得ることができる。
【0047】
加圧液室4を形成したら、
図14に示すように、加圧液室4とノズルの内周面および、共通液室3の底面となる基板の裏面(振動膜形成側と反対側)に保護膜11を形成する。ノズル形成部111の表面(ノズル面)にマスキングテープなどの保護部材を貼り付けたのちに保護膜11を形成する。場合によってはノズル形成部111の表面にも保護膜11が着いても問題ない。なお、パッド開口10には、保護膜11が付着しないよう留意する必要がある。そのため、パッド開口10のみマスキングテープで塞ぐようにしてもよい。また、保護膜形成後にパッド開口10に付着した保護膜11をエッチングで除去するようにしてもよい。あるいは、パッド開口10を、保護膜形成後に再度ホトリソ・エッチングにて形成するようにしてもよい。
【0048】
保護膜11の成膜方法としては、物理気相成長法と化学気相成長があるが、段差を持つ構造体に対する成膜性の良さから、化学気相成長を用いることが望ましい。保護膜11の成膜方法として、化学気相成長を用いることで、加圧液室4とノズル2の内周面および、共通液室3の底面となる基板の裏面に良好に保護膜11を成膜することができる。
【0049】
さらに、金属酸化物とSiO2を原子レベルで混ぜながら保護膜11を成膜する方法としてCVDやALDを挙げることができるが、後者のALDは、1原子層ごとに材料を堆積できるため緻密に混ざり合った膜が形成でき望ましい。
【0050】
次に、
図15に示すように、ノズル形成部111のノズル面に撥液膜112を形成する。撥液膜112の材料としてはパーフルオロデシルトリクロロシランやパーフルオロオクチルトリクロロシランを用いることができ、蒸着にて成膜することができる。前者はストックホルム条約により規制されるため、後者を用いることが望ましい。
【0051】
この撥液膜112とノズル形成部111との密着性を上げる目的で、密着層をノズル形成部111のノズル面に形成した後、撥液膜112を形成してもよい。撥液膜112としてパーフルオロオクチルトリクロロシランを用いる場合は、密着層として、SiO2の単膜や、加圧液室4の内壁面やノズル内周面に成膜される親水性の保護膜11を用いることができる。密着層の官能基がSiと撥液膜112とがシロキサン結合を形成することで、撥液膜112の密着性を高めることができる。
【0052】
撥液膜112を蒸着により付与する、あるいは液滴塗布により付与するなどいずれの方法においても、保護膜11上に撥水材料が付着すると、親液性を失ってしまう。そのため、保護膜11に付着した撥水剤を除去する工程を設けるのが好ましい。付着した撥水剤は基本的に有機物であるので、酸素プラズマにより容易に除去が可能である。その際、プラズマの裏回りによりノズル面の撥液膜112を失わないよう、ノズル面をマスキングテープなどで保護する。
【0053】
その後は、流路基板100の裏面に共通液室3が形成されたフレーム部材120を接合するなどして、液体吐出ヘッド1が形成される。
【0054】
ノズル振動方式の液体吐出ヘッドは、ノズルを有するアクチュエータ部110と、流路基板100との位置精度が大きく吐出特性に影響するため、製造時に高い寸法精度が必要となる。そのため、ノズルを有するアクチュエータ部110を、加圧液室4を有する流路基板100に接合することで、液体吐出ヘッドを形成する場合では、高精度接合の工程が必要となる。これに対し、本実施形態では、流路基板100にアクチュエータ部110を構成する材料を順次成膜して、所定の加工を施すことで、流路基板100に直接、アクチュエータ部110を形成している。これにより、高精度接合工程が不要となり、容易に液体吐出ヘッドを形成することができる。
【0055】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、
図16及び
図17を参照して説明する。
図16は、本実施形態における液体を吐出する装置としてのインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図17は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0056】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503とを備えている。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509なども備えている。
【0057】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0058】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0059】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0060】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、
図18及び
図19を参照して説明する。
図18は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図19は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0061】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0062】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0063】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0064】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0065】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0066】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、
図20を参照して説明する。
図20は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0067】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0068】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0069】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、
図21を参照して説明する。
図21は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0070】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0071】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0072】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0073】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0074】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0075】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0076】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0077】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0078】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0079】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0080】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0081】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0082】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0083】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0084】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0085】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0086】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0087】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0088】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0089】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0090】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がる。また、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などもある。
【0091】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0092】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する加圧液室を有する基板と、電気機械変換素子とを備え、前記電気機械変換素子を駆動して前記加圧液室内のインクを加圧して前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズルおよび前記加圧液室の内周面に前記液体に対して親液性を有する表面層を設けた。
特許文献1に記載の液体吐出ヘッドは、六フッ化硫黄(SF6)ガスにより基板をエッチングして加圧液室を形成しているため、加圧液室の内周面やノズル内周面にフッ素含む表皮膜が形成され、加圧液室やノズル内周面が疎水性となる。その結果、液体の充填時に加圧液室の内周面に対して液体が濡れ広がり難く、加圧液室の角部に気泡が残るなど、充填性に課題があった。
これに対し、態様1では、ノズルおよび加圧液室の内周面に親液性の表面層を設けることで、ノズルおよび加圧液室の内周面が液体に対して親液性を有し、ノズルおよび加圧液室の内周面に液体が付着しやすくなる。これにより、加圧液室およびノズルの内周面全体に液体を濡れ広げることができ、良好に加圧液室やノズル内に液体を充填させることができ、液体の充填性を高めることができる。
【0093】
(態様2)
態様1において、保護膜11などの表面層は、親水性を有する。
これによれば、実施形態で説明したように、液体の溶剤が水性の場合において、加圧液室やノズルの内周面全体に液体を濡れ広げることができ、良好に加圧液室やノズル内に液体を充填させることができ、液体の充填性を高めることができる。
【0094】
(態様3)
態様1または2において、保護膜11などの表面層は、ノズル2および加圧液室4の内周面の液体の浸食を防ぐ保護層である。
これによれば、液体により加圧液室やノズル内周面が浸食されるのを抑制することができる。
【0095】
(態様4)
態様3において、保護膜11などの表面層が、少なくともタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属を含む。
これによれば、実施形態で説明したように、液体により加圧液室やノズル内周面が浸食されるのを抑制することができる。
【0096】
(態様5)
態様4において、保護膜11などの表面層が、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物である。
これによれば、実施形態で説明したように、液体により加圧液室やノズル内周面が浸食されるのを抑制することができる。
【0097】
(態様6)
態様4において、保護膜11などの表面層は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物とシリコン酸化物とが混合された材料により形成されている。
これによれば、実施形態で説明したように、保護膜11に親水性と、耐液性とを備えることができる。
【0098】
(態様7)
態様1乃至6いずれかにおいて、ノズル面に液体に対する撥液性を有する撥液膜が形成されている。
これによれば、実施形態で説明したように、ノズル面に液体が付着するのを抑制でき、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうのを抑制することができる。
【0099】
(態様8)
態様1乃至7いずれかにおいて、圧電素子などの電気機械変換素子が、ノズル2を囲うように設けられている。
これによれば、実施形態で説明したように、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ小さい力で液滴が飛ばせることができ、圧電素子などの電気機械変換素子の省電力化を図ることができる。また、液室面積が小さくでき、ヘッドの小型化も可能となる。また、ユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ、電気機械変換素子の選択を増やすことができ、ノズルの高密度化を容易に実現することが可能となる。
【0100】
(態様9)
態様1乃至8いずれかにおいて、加圧液室4を有する流路基板100などの基板のノズル側と反対側の面にも表面層が形成されている。
これによれば、実施形態で説明したように、流路基板100などの基板のノズル側と反対側の面にマスキングテープを貼って、保護膜11などの表面層が形成されないようにする工程が不要となり、液体吐出ヘッドを容易に製造することができる。
【0101】
(態様10)
ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、及び、主走査移動機構の少なくとも一つと、液体吐出ヘッドとを備えた液体吐出ユニットにおいて、液体吐出ヘッドとして、態様1乃至9いずれかの液体吐出ヘッドを用いる。
これによれば、液体の充填性を高めることができる。
【0102】
(態様11)
液体を吐出する装置において、態様1乃至8いずれかの液体吐出ヘッド、又は、態様10の液体吐出ユニットを有する。
これによれば、液体の充填性を高めることができる。
【0103】
(態様12)
流路基板100などの基板に振動膜103を積層する工程と、振動膜103に圧電素子5などの電気機械変換素子を形成する工程と、ノズル2を形成する工程と、貯留された液体が加圧される加圧液室4を基板に形成する工程と、加圧液室4とノズル2の内周面に、液体に対する親液性を有する保護膜11などの表面層を形成する工程とを有する。
これによれば、液体の充填性が良好な液体吐出ヘッドを製造することができる。
【0104】
(態様13)
態様12において、化学気相成長法により加圧液室4およびノズル2の内周面に保護膜11などの表面層を形成する。
これによれば、実施形態で説明したように、加圧液室4およびノズル2の内周面に良好に保護膜11などの表面層を形成することができる。
【0105】
(態様14)
態様12または13において、加圧液室4は、ドライエッチングにより形成される。
これによれば、実施形態で説明したように、ドライエッチングによって、加圧液室4の内壁面やノズルの内周面が撥液性を有してしまっても、液体を良好に充填することができる。
【0106】
(態様15)
態様12乃至14いずれかにおいて、ノズル面に液体に対する撥液性を有する撥液膜を形成する工程を有する。
これによれば、ノズル面に液体が付着するのを抑制でき、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうのを抑制することができる。
【0107】
(態様16)
態様15において、表面層に付着した撥液膜を除去する工程を有する。
これによれば、加圧液室4およびノズルの保護膜11などの表面層に付着した撥液膜により液体の充填性に影響が出るのを防止できる。
【符号の説明】
【0108】
1 :液体吐出ヘッド
2 :ノズル
3 :共通液室
4 :加圧液室
5 :圧電素子
6 :電気接続パッド
7a :第一コンタクト
7b :第二コンタクト
7c :第三コンタクト
7d :第四コンタクト
7e :第五コンタクト
8a :第一絶縁膜
8b :第二絶縁膜
9a :第一引出し配線
9b :第二引出し配線
10 :パッド開口
11 :保護膜
51 :第一電極
52 :圧電膜
53 :第二電極
100 :流路基板
101 :駆動回路
102 :配線部
103 :振動膜
103a :ノズル形成穴
110 :アクチュエータ部
111 :ノズル形成部
112 :撥液膜
120 :フレーム部材
151 :第一電極層
152 :圧電層
153 :第二電極層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0109】