(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133112
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20230914BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193727
(22)【出願日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2022037260
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】右田 英俊
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF08
2C057AG44
2C057AM03
2C057AM16
2C057AM18
2C057AN01
2C057AR08
2C057BA05
2C057BA14
2C057DB03
(57)【要約】
【課題】液体吐出後のノズル形成層に発生する残留振動を駆動波形により抑制させること。
【解決手段】圧電体層を有するノズル形成層と、ノズル形成層を貫通するノズルと、ノズルと連通する液室と、駆動波形W1を印加して、圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備える。固有振動周期をTcとすると、駆動波形W1は、液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形W11と、駆動電圧の立上げ要素U11に対して、(m-0.5)×Tc(mは正の整数)T12のタイミングで、電圧立上げ要素U12を印加する第二波形W12と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層を有するノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通するノズルと、
前記ノズルと連通する液室と、
駆動波形を印加して、前記圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備え、
固有振動周期をTcとすると、
前記駆動波形は、前記液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形と、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、(m-0.5)×Tc(mは正の整数)のタイミングで、電圧立上げ要素を印加する第二波形とを有する
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第二波形は、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングで、電圧立下げ要素を印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
圧電体層を有するノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通するノズルと、
前記ノズルと連通する液室と、
駆動波形を印加して、前記圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備え、
固有振動周期をTcとすると、
前記駆動波形は、前記液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形と、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングで、電圧立下げ要素を印加する第二波形とを有する
液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第二波形は、前記第一波形の電圧の絶対値の50%以下の電圧とする
ことを特徴とする請求項1または3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記駆動波形は、前記第二波形を繰り返し印加する
ことを特徴とする請求項1または3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1または3に記載の液体吐出ヘッドを備える液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドにおいて、ノズルを高密度化させるためにノズル形成層をアクチュエータとして駆動させ液体を吐出させる技術が考えられ既に知られている。
しかしながら、液体吐出後のノズル形成層に残留振動が発生し、次の液体を吐出する速度が変動して正常な画像が得られない不具合が発生する問題があった。
例えば、特許文献1には、個別液室内の振動を抑制する目的で、専用のダンパ室を設けることなくダンパを配置する構成が開示されているが、上述の問題を解決できていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、液体吐出後のノズル形成層に発生する残留振動を駆動波形により抑制させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、
圧電体層を有するノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通するノズルと、
前記ノズルと連通する液室と、
駆動波形を印加して、前記圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備え、
固有振動周期をTcとすると、
前記駆動波形は、前記液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形と、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、(m-0.5)×Tc(mは正の整数)のタイミングで、電圧立上げ要素を印加する第二波形とを有するものとする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、液体吐出後のノズル形成層に発生する残留振動を駆動波形により抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面概略図である。
【
図3】実施形態1に係る駆動波形の一例を説明する図である。
【
図4】実施形態1の駆動波形の効果について説明する図であり、(a)は比較例の駆動波形の一例、(b)は本実施形態の駆動波形の一例、(c)は比較例と本実施形態との波形を印加したときのメニスカス変位を示している。
【
図5】実施形態1に係る駆動波形の他の例を説明する図である。
【
図6】実施形態2に係る駆動波形の一例を説明する図である。
【
図7】実施形態2の駆動波形の効果について説明する図であり、(a)は比較例の駆動波形の一例、(b)は本実施形態の駆動波形の一例、(c)は比較例と本実施形態との波形を印加したときのメニスカス変位を示している。
【
図8】複数の第二波形を繰り返して印加する駆動波形の一例を説明する図である。
【
図9】本発明に係る液体を吐出する装置の一例の要部平面説明図である。
【
図11】本発明に係る液体吐出ユニットの一例の要部平面説明図である。
【
図12】本発明に係る液体吐出ユニットの他の例の正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。また、各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0008】
(液体吐出ヘッド)
図1は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面概略図である。
図2は同液体吐出ヘッドの平面概略図であり、ノズル面側(液体が吐出される側とも称する)から見た図である。
図1の矢印a方向から見た図が
図2に該当し、
図1は
図2のA-A断面図である。
図1に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッドは、ノズル形成層1と、液室形成基板2と、駆動回路92とを備えている。
【0009】
ノズル形成層1は、振動層3、圧電体層である圧電アクチュエータ12、電極パッド90、第1の保護層81、第2の保護層82を有している。電極パッド90は回路接続部の一例である。
【0010】
ノズル形成層1は、ノズル4を有しており、ノズル4から液体(例えばインク)が吐出される。ノズル形成層1の一部と液室形成基板2とによって形成された液室6内の液体が、圧電アクチュエータ12の駆動によってノズル4から吐出される。
【0011】
振動層3は、圧電アクチュエータ12の駆動により振動する。振動層3の材料としては、特に制限されるものではないが、例えばAl2O3、SiN、SiO2、HTO(High Temperature Oxide)あるいはこれらの材料から数種類を積層した構成等を用いることができる。
【0012】
液室形成基板2は、ノズル4と連通する液室6を有している。液室形成基板2と振動層3との間には回路保護層17が形成されている。回路保護層17は、駆動回路92や層間配線層95を保護する機能を有する。
【0013】
回路保護層17の材料としては、特に制限されるものではなく、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系樹脂等が挙げられる。また、回路保護層17が形成される箇所としては、特に制限されるものではなく、例えば駆動回路92や層間配線層95を覆うように形成される。ノズル形成層1が回路保護層17を有しているとしてもよいし、液室形成基板2が回路保護層17を有しているとしてもよい。
【0014】
圧電アクチュエータ12は、下部電極21、圧電体22、上部電極23を有している。下部電極21を共通電極とし、上部電極23を個別電極としてもよいし、下部電極21を個別電極とし、上部電極23を共通電極としてもよい。
【0015】
圧電体22としては、特に制限されるものではなく、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等を用いることができる。
また、下部電極21及び上部電極23としては、特に制限されるものではなく、公知の電極材料を用いることができる。例えば、Pt等が挙げられる。
【0016】
圧電アクチュエータ12もしくは圧電体22は、ノズル4の近傍であって振動層3における液体が吐出される側(ノズル面側)に形成されている。振動層3上に圧電アクチュエータ12が形成されていると表記してもよい。圧電アクチュエータ12がこのような箇所に形成されることにより、液室6に吸引、導入された液体に圧力を加えてノズル4から吐出させる振動板が不要となる。
【0017】
圧電アクチュエータ12は、接続電極94b、94cを介して駆動回路92と接続される。ここでは、例えば下部電極21が接続電極94bを介して駆動回路92と接続され、上部電極23が接続電極94cを介して駆動回路92と接続される。
【0018】
図1に示すように、駆動回路92と接続されておらず、液体の吐出に寄与しない圧電アクチュエータ12aが設けられていてもよい。このような圧電アクチュエータ12aは、例えばノズル4を形成する際のノズル形成位置の目安とすることができる。
【0019】
駆動回路92は、電極パッド90と接続され、電極パッド90、接続電極94aを介して電源部から通電される。駆動回路92は、振動層3をはさんで電極パッド90とは反対側に形成されている。制限されるものではないが、駆動回路92は液室形成基板2に形成されていることが好ましい。この場合、駆動回路92を形成する際に作製しやすいという利点がある。
【0020】
駆動回路92としては、特に制限されるものではないが、例えばcmos回路とすることができる。また、特に制限されるものではないが、駆動回路92は、電極パッド90側の部分と、圧電アクチュエータ12側の部分とを分けて設けられており、これらの部分は層間配線層95によって接続されている。層間配線層95は、例えば公知の電極材料を用いることができる。
【0021】
電極パッド90(回路接続部)は、振動層3における液体が吐出される側(ノズル面側)に形成されており、接続電極94aを介して駆動回路92と接続される。ここでは、2つの接続電極94aが図示されているが、これに制限されるものではない。圧電アクチュエータ12における下部電極21と上部電極23に対応する2つの接続電極94b、94cを考慮して2つの接続電極94aを図示するものである。
【0022】
図示するように、本実施形態では、液体が吐出される側(ノズル面側)に保護層81、82が形成されている。第1の保護層81は、電極パッド90の周囲に形成されるとともに電極パッド90の開口部85を形成する。第2の保護層82は、圧電アクチュエータ12上に形成される。第1の保護層81及び第2の保護層82が形成されることにより、例えば圧電アクチュエータ12、振動層3のうちの少なくとも一つ以上を保護することができ、部材の劣化防止を図ることができる。
【0023】
本実施形態の液体吐出ヘッドは、第1の保護層81及び第2の保護層82の表面に形成された耐水膜88を有する。耐水膜88を有することにより、水の浸透をより遮断することができ、保護層を通して侵入する水分の影響によって圧電アクチュエータ12の性能が劣化する不具合をより抑制することができる。
なお、
図2では耐水膜88の図示を省略している。
【0024】
本実施形態では、第1の保護層81と第2の保護層82とが連続していない。図示するように、第1の保護層81と第2の保護層82は、分離溝部86によって互いに離間しており、不連続となっている。このようにすることで、ノズル形成層1に圧電アクチュエータ12と電極パッド90(回路接続部)が形成された液体吐出ヘッドにおいて、電極パッド90の開口部85から吸湿することによって圧電アクチュエータ12の圧電性能が低下することを抑制できる。
【0025】
なお、本実施形態の液体吐出ヘッドは、上述した構成に限られるものではない。本実施形態の液体吐出ヘッドは、圧電体層を有するノズル形成層1と、ノズル形成層を貫通するノズル4と、ノズル4と連通する液室6と、駆動波形を印加して、圧電体層を駆動させる駆動回路92と、を少なくとも備えるものであればよく、
図1、2を参照して説明した他の構成要素を有していないものであってもよい。
【0026】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドが用いる駆動波形について説明する。
本実施形態は、個別液室を持たない構造の液体吐出ヘッドにおいて、吐出した際にノズル形成層に発生する残留振動の抑制に際して、駆動波形によりノズル形成層に発生する残留振動を抑制する。
【0027】
駆動回路が圧電体層に印加する駆動波形は、第一波形と第二波形とを有する。
第一波形は、圧電体層に、ノズルから液体を吐出させる駆動電圧としての第一電圧を印加する波形部分である。
第二波形は、ノズル形成層に発生する残留振動を抑制する第二電圧を印加する波形部分である。
第一電圧は、第二電圧より大きい振幅とするとよい。
【0028】
本実施形態の駆動波形は、第一電圧の立上げ要素に対して所定のタイミングで、第二電圧を印加するように構成される。より詳細には、駆動波形は、第二電圧の立下げ要素または立上げ要素を、第一電圧の立上げ要素に対して所定のタイミングで印加するように配置したものとする。
所定のタイミングは、第一電圧の立上げ要素を印加するタイミングと、固有振動周期とを用いて算出される。ここで、所定のタイミングは液体吐出ヘッドに駆動波形を印加する度に毎回算出してもよいし、液体吐出ヘッド製造時などに予め算出したうえで算出されたタイミングを液体吐出ヘッド内のメモリ等に記憶しておいてもよい。また、算出された所定のタイミングを有するような駆動波形をメモリ等に記憶しておいてもよい。
固有振動周期は、液室およびノズルに液体が充填された状態での圧電体層の1次固有振動周期とする。以下の説明では適宜、固有振動周期を「Tc」と記載する。
【0029】
このようにすることで、新たにメカ機構を追加することなく、駆動波形によりノズル形成層に発生する残留振動を抑制することを可能にする。
以下に駆動波形の詳細について各実施形態で説明する。
【0030】
実施形態1.
図3は実施形態1に係る駆動波形の一例を説明する図である。
図3は、駆動波形を模式的に示したものであり、縦軸に電圧(ボルト)、横軸に時間(マイクロ秒)を示す。
駆動波形W1は、第一波形W11の立上げ要素U11に対して、(m-0.5)×TcのタイミングT12に、第二波形W12の立上げ要素U12を有する。
また、第二波形W12の振幅の電圧の大きさは、第一波形W11より小さくするとよい。第二波形W12の振幅方向は、第一波形W11と逆向きとするとよい。第一波形W11の次に(隣に)位置する第二波形W12は、第一波形W11の立上げ要素U11の後に、立上げ要素U12を設けるとよい。
駆動素子としての圧電体22にPZT素子を用いる場合には、PZT素子では、同電圧内(例えば、正)での電圧振幅の波形により駆動できる。また、圧電体22を窒化アルミニウム(アルミナイトライド)で構成することも可能であり、その場合には、正負への振幅波形(逆極性にふる振幅波形)により駆動制御できる。
【0031】
図3に示すように、第一波形W11が有する複数の波形要素のうち、第一電圧の立上げの電圧変化をもたらす第一電圧の立上げ要素U11と、第二波形W12が有する複数の波形要素のうち、第一電圧の立上げ要素U11と同じ電圧変化をもたらす第二電圧の立上げ要素U12とは、(m-0.5)×Tcの間隔で離れている。
【0032】
図3では、第一電圧の立上げ要素U11が開始するタイミングT11と、第二電圧の立上げ要素U12が開始するタイミングT12との間を、間隔((m-0.5)×Tc)として示したが、駆動波形W1は、第一電圧の立上げ要素U11の開始から終了までの間(図中の傾斜部分)の任意のタイミングに対して、(m-0.5)×Tcの間隔で、第二電圧の立上げ要素U12を開始させる波形構成としてもよい。
【0033】
本実施形態の駆動波形の効果について説明する。
図4は、実施形態1の駆動波形の効果について説明する図であり、(a)は比較例の駆動波形の一例、(b)は本実施形態の駆動波形の一例、(c)は比較例と本実施形態との波形を印加したときのメニスカス変位を示している。
図4では、比較例の値を実線、本実施形態の値を破線で示している。
メニスカス変位の代表例として、ノズル形成層の振動を抑制することで残留振動を抑えている。
図1のような液体吐出ヘッドの構成の場合、吐出後のノズル形成層に残留振動が発生する。
【0034】
図3に示す駆動波形W1を用いると、駆動回路92は、第一電圧の立上げ要素U11に対して、(m-0.5)×TcのタイミングT12で、第二電圧の立上げ要素U12を印加することになる。これにより、液体吐出ヘッドは、吐出によって発生した振動を打ち消すことができ、ノズル形成層に発生する残留振動を抑制することができる。詳細には、ノズル形成層は、液体が吐出する先端である、ノズル部分自体が駆動する構成である。そのため、液体吐出ヘッドは、駆動波形W1により、このノズル形成層自体を駆動制御することで、吐出制御(精度)が向上できる。
このように、駆動波形W1は、ノズル形成層に発生する残留振動を抑制させることができる波形構成である。
【0035】
また、
図5に示すように、駆動波形W2は、第一波形W11の立上げ要素U11に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングT13に、第二波形W22の立下げ要素D22を有するとよい。第一電圧の立上げ要素U11と、第一電圧の立上げ要素U11と異なる電圧変化をもたらす第二電圧の立下げ要素D22とは、n×Tcの間隔で離れている。間隔n×Tcは、間隔(m-0.5)×Tcより大きくなる(n×Tc>(m-0.5)×Tc)。
【0036】
実施形態2.
図6は実施形態2に係る駆動波形の一例を説明する図である。
図6は、
図3と同様に駆動波形を模式的に示したものである。
駆動波形W3は、第一波形W31の立上げ要素U31に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングT32に、第二波形W32の立下げ要素D32を有する。
また、第二波形W32の振幅の電圧の大きさ、振幅方向等は、実施形態1と同様とするとよい。加えて、実施形態1と同様に、駆動素子としての圧電体22として、PZT素子を用いる場合には、同電圧内での電圧振幅の波形により駆動可能であり、窒化アルミニウムを用いる場合には、正負への振幅波形により駆動制御できる。
【0037】
図6に示すように、第一電圧の立上げ要素U31と、第一電圧の立上げ要素U31と異なる電圧変化をもたらす第二電圧の立下げ要素D32とは、n×Tcの間隔で離れている。
図6では、第一電圧の立上げ要素U31が開始するタイミングT31と、第二電圧の立上げ要素U32が開始するタイミングT32との間を、間隔(n×Tc)として示したが、駆動波形W3は、第一電圧の立上げ要素U31の開始から終了までの間(図中の傾斜部分)の任意のタイミングに対して、n×Tcの間隔で、第二電圧の立下げ要素D32を開始させる波形構成としてもよい。
【0038】
本実施形態の駆動波形の効果について説明する。
図7は、実施形態2の駆動波形の効果について説明する図であり、(a)は比較例の駆動波形の一例、(b)は本実施形態の駆動波形の一例、(c)は比較例と本実施形態との波形を印加したときのメニスカス変位を示している。
図4では、比較例の値を実線、本実施形態の値を破線で示している。
図1のような液体吐出ヘッドの構成の場合、吐出後のノズル形成層に残留振動が発生する。
【0039】
図6に示す駆動波形W3を用いると、駆動回路92は、第一電圧の立上げ要素U31に対して、n×TcのタイミングT32で、第二電圧の立下げ要素D32を印加することになる。これにより、液体吐出ヘッドは、吐出によって発生した振動を打ち消すことができ、ノズル形成層に発生する残留振動を抑制することができる。
このように、駆動波形W3は、ノズル形成層に発生する残留振動を抑制させることができる波形構成である。
【0040】
その他の実施形態.
上記各実施形態の第二波形は、例えば、第一波形の電圧の絶対値の50%以下の電圧とするとよい。
また、上記各実施形態において、駆動波形は、第二波形を繰り返し印加するように、第一波形の後に、複数の第二波形を有する波形構成としてもよい。複数の第二波形は、例えば、同じ電圧の波形とするとよい。
図8に、実施形態1の駆動波形W1(
図3)について、複数の第二波形W12を繰り返し印加する駆動波形W4の一例を示す。駆動波形W2(
図5)または駆動波形W3(
図6)についても、同様に第二波形W22または第二波形W32を複数繰り返して印加するようにしてもよい。
上記各実施形態において、ノズルに振動源を備える構成より、振動抑制機能が効果的となる。
【0041】
(液体を吐出する装置及び液体吐出ユニット)
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は同装置の要部平面説明図、
図10は同装置の要部側面説明図である。
【0042】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0043】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0044】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0045】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0046】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0047】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0048】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0049】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0050】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0051】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0052】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0053】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0054】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0055】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの一例について
図11を参照して説明する。
図11は同ユニットの要部平面説明図である。
【0056】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404で構成されている。
【0057】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0058】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について
図12を参照して説明する。
図12は同ユニットの正面説明図である。
【0059】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0060】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0061】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0062】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0063】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0064】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0065】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0066】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0067】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0068】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0069】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0070】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0071】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0072】
例えば、液体吐出ユニットとして、
図10で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0073】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0074】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、
図11で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0075】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0076】
また、液体吐出ユニットとして、
図12で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0077】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0078】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0079】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0080】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1>
圧電体層を有するノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通するノズルと、
前記ノズルと連通する液室と、
駆動波形を印加して、前記圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備え、
固有振動周期をTcとすると、
前記駆動波形は、前記液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形と、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、(m-0.5)×Tc(mは正の整数)のタイミングで、電圧立上げ要素を印加する第二波形とを有する
液体吐出ヘッドである。
<2>
前記第二波形は、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングで、電圧立下げ要素を印加する
前記<1>に記載の液体吐出ヘッドである。
<3>
圧電体層を有するノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通するノズルと、
前記ノズルと連通する液室と、
駆動波形を印加して、前記圧電体層を駆動させる駆動回路と、を備え、
固有振動周期をTcとすると、
前記駆動波形は、前記液室の液体を前記ノズルから吐出させる駆動電圧を印加する第一波形と、前記駆動電圧の立上げ要素に対して、n×Tc(nは正の整数)のタイミングで、電圧立下げ要素を印加する第二波形とを有する
液体吐出ヘッドである。
<4>
前記第二波形は、前記第一波形の電圧の絶対値の50%以下の電圧とする
前記<1>から<3>のいずれか一つに記載の液体吐出ヘッドである。
<5>
前記駆動波形は、前記第二波形を繰り返し印加する
前記<1>から<4>のいずれか一つに記載の液体吐出ヘッドである。
<6>
前記<1>から<5>のいずれか一つに記載の液体吐出ヘッドを備える液体を吐出する装置である。
【符号の説明】
【0081】
1 ノズル形成層
4 ノズル
6 液室
92 駆動回路
404 液体吐出ヘッド
D22、D32 第二電圧の立下げ要素
U11、U31 第一電圧の立上げ要素
U12、U32 第二電圧の立上げ要素
W1、W2、W3、W4 駆動波形
W11、W31 第一波形
W12、W22、W32 第二波形
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】