(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133170
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】規則構造を有するビオローゲン誘導体及びそれを用いたレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
C07D 213/22 20060101AFI20230914BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20230914BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20230914BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230914BHJP
【FI】
C07D213/22 CSP
H01M8/02
H01M8/18
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028252
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022037923
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/分散型電力ネットワーク有効活用に資する革新的要素技術開発/金属フリー型レドックスフロー電池の国際共同研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】舩木 敬
(72)【発明者】
【氏名】大平 昭博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 縁
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
【テーマコード(参考)】
4C055
5E078
5H126
【Fターム(参考)】
4C055AA08
4C055AA10
4C055AA11
4C055AA12
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA11
4C055DB06
4C055DB08
4C055DB09
4C055EA03
4C055FA01
4C055FA11
4C055FA13
4C055FA31
4C055FA32
5E078AA01
5E078AB03
5E078BA30
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG17
5H126RR01
(57)【要約】
【課題】レドックスフロー電池の活物質に用いる溶解度の高い化合物を提供し、さらにはこの化合物を用いたクロスオーバーによる容量低下が大幅に低減されたレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】一般式(I):
(式中、Arは、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基であり、aは0又は1の整数であり、bは0~5の整数であり、cは1~6の整数であり、dは1~5の整数であり、eは1~6の整数であり、nは分子の電気的中性を保つために必要な整数であり、Xはカウンターアニオンであり、Yは親水性の置換基である。)で表されるビオローゲン誘導体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、Arは、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基であり、aは0又は1の整数であり、bは0~5の整数であり、cは1~6の整数であり、dは1~5の整数であり、eは1~6の整数であり、nは分子の電気的中性を保つために必要な整数であり、Xは、ハロゲンアニオン、BF
4
-、PF
6
-、ClO
4
-、SO
4
2-、NO
3
-、N(CF
3SO
2)
2
-、CF
3SO
3
-、及びCF
3CO
2
-からなる群より選択されるカウンターアニオンであり、Yは、ヒドロキシ基、アルキルアンモニウム基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、ホウ酸基、及びこれらの塩に相当する基からなる群より選択される親水性の置換基である。)で表されるビオローゲン誘導体。
【請求項2】
前記アリール基又はヘテロアリール基の置換基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基及びヘテロ環基からなる群から選択される基である、請求項1に記載のビオローゲン誘導体。
【請求項3】
前記Arが、未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基である、請求項1に記載のビオローゲン誘導体。
【請求項4】
前記Arが、フェニル基、ビピリジニウム基、ピラジニウム基又はトリアジニウム基である、請求項1に記載のビオローゲン誘導体。
【請求項5】
下記式(II)~(IX)で表される化合物である、請求項1に記載のビオローゲン誘導体。
【化2】
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のビオローゲン誘導体を備える電気化学デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の電気化学デバイスが、レドックスフロー電池である電気化学デバイス。
【請求項8】
請求項6に記載の電気化学デバイスが、レドックスキャパシタである電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池の性能を向上するための機能性材料、及びそれを用いた電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光や風力など再生可能エネルギーの主力電源化のためには、それらを利用する発電システムの大量導入だけでなく高性能な蓄電池(二次電池)も導入し、絶えず変動する出力を調整する必要がある。しかしながらコスト・安全性・資源的側面を満たす高性能な蓄電池の開発は十分とは言えず、大規模な導入にはいたっていない。レドックスフロー電池は長寿命であり安全性や設計自由度も高いことから再生可能エネルギーの平準化手段の一つとして有力視されている。しかしながら、エネルギー密度の向上や更なる低コスト化の課題がある。
【0003】
レドックスフロー電池は、1970年代にNASAが開発に成功した電池である。開発当初は、鉄/クロム系が主流であったが、正・負電解液が隔膜を通して混合するクロスオーバーにより電池の容量が低下してしまう欠点があり開発がうまく進まなかった。1985年にバナジウム系が報告されると現在はこの系が主流となり、一部で実用化が進んでいる。しかしながら、バナジウム系は今後の大規模な導入を考えた場合、資源的な制約による低コスト化に課題が残ると言われており、大規模な導入に向けた新たな電解液の開発が世界中で盛んに行われている。近年では無機系の金属イオンの代わりに有機化合物を用いる報告が数多くなされている。有機化合物の場合、正・負極の両極で生じる酸化還元電位を広げてエネルギー密度を向上するために、正極と負極で異なる構造の化合物が一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、その場合、容量低下を引き起こすクロスオーバーを抑制する必要がある。その方法の一つとして、高分子化した化合物やベーテ格子あるいはケイリー樹の一部を形成する構造を含む化合物を用いる報告例があるが(非特許文献1、2、及び特許文献1)、十分な溶解度の確保が困難であることや、酸化還元に伴う分子の凝集による析出が避けられないといった理由から、結果的にバナジウム系のエネルギー密度を超えるのは難しいのが現状である。このような背景から、凝集を回避できる程の高い溶解度とクロスオーバー抑制の二つの機能を併せ持つ新たな材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Janoschka,N.Martin,U.Martin,C.Friebe,S.Morgenstern,H.Hiller,M.D.Hager and U.S.Schubert,Nature 2015,527,78-81.
【非特許文献2】T.Hagemann,J.Winsberg,M.Grube,I.Nischang,T.Janoschka,N.Martin,M.D.Hager,U.S.Schubert,J.Power Sources 2018,378,546-554.
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術における上記した状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、レドックスフロー電池の活物質に用いる溶解度の高い化合物を提供し、さらにはこの化合物を用いたクロスオーバーによる容量低下が大幅に低減されたレドックスフロー電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ビオローゲン誘導体を規則的に配列し、かつ分子末端に親水性の置換基を導入した化合物をレドックスフロー電池の活物質に用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の一実施形態は、一般式(I):
【化1】
【0009】
(式中、Arは、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基であり、aは0又は1の整数であり、bは0~5の整数であり、cは1~6の整数であり、dは1~5の整数であり、eは1~6の整数であり、nは分子の電気的中性を保つために必要な整数であり、Xはハロゲンアニオン、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、SO4
2-、NO3
-、N(CF3SO2)2
-、CF3SO3
-、及びCF3CO2
-からなる群より選択されるカウンターアニオンであり、Yはヒドロキシ基、アルキルアンモニウム基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、ホウ酸基、及びこれらの塩に相当する基からなる群より選択される親水性の置換基である。)で表されるビオローゲン誘導体である。
【0010】
好ましい実施形態において、一般式(I)における置換アリール基、又は置換ヘテロアリール基の置換基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基及びヘテロ環基からなる群から選択される基である、ビオローゲン誘導体である。他の実施形態では、Arが、未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基又はビピリジニウム基であってもよい。好ましい実施形態では、Arは、フェニル基、ビピリジニウム基、ピラジニウム基又はトリアジニウム基等が挙げられる。
【0011】
さらに好ましい実施形態では、一般式(I)で表されるビオローゲン誘導体が、下記式(II)~(IX)の何れかで表される化合物である。
【化2】
【0012】
本発明の他の側面において、上記何れかのビオローゲン誘導体を備える電気化学デバイスが提供される。この電気化学デバイスは、レドックスフロー電池又はレドックスキャパシタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レドックスフロー電池の活物質に用いる新規な化合物が提供される。さらに、この化合物を用いたクロスオーバーによる容量低下が大幅に低減されたレドックスフロー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のレドックスフロー電池の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の小型試験セルの断面図である。
【
図3】
図3は、クロスオーバー試験に用いた装置の模式図である。
【
図4】
図4は、クロスオーバー試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
本発明の一実施形態に係るビオローゲン誘導体は、
一般式(I):
【化3】
【0017】
(式中、Arは、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基であり、aは0又は1の整数であり、bは0~5の整数であり、cは1~6の整数であり、dは1~5の整数であり、eは1~6の整数であり、nは分子の電気的中性を保つために必要な整数であり、Xは、カウンターアニオン(ハロゲンアニオン(F-、Cl-、Br-、I-)、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、SO4
2-、NO3
-、N(CF3SO2)2
-、CF3SO3
-、CF3CO2
-)であり、Yは、親水性の置換基(ヒドロキシ基、アルキルアンモニウム基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、若しくはホウ酸基、又はこれらの塩に相当する基)である。)で表されるビオローゲン誘導体であって、種々の化合物となることが出来る。本実施形態のビオローゲン誘導体は、負極電解液において、少なくとも一種を導入することができ、複数種を導入することも可能である。
【0018】
1つの実施形態において、上記一般式(I)におけるArは、未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基、又はビピリジニウム基である。ここで、用語「アリール」とは、炭素数6~14のアリール(C6-14アリール)を意味する。アリール基は、特に限定されないが、例えばフェニル、ナフチル、又はオルト融合した二環式の基で8~10個の環原子を有し少なくとも一つの環が芳香環であるもの(例えばインデニル等)等が挙げられる。eが1~6の整数であることから、アリール基は、1~6価の基であり得、好ましくは1~3価、より好ましくは3価の基である。
【0019】
また、用語「ヘテロアリール」とは、環原子として炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される1~3種のヘテロ原子を1から4個含有する5~7員の芳香族複素環(単環式)基を意味し、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、チオフェン、フラン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾールなどに由来する1~6価の基でありうるが、好ましくは1~3価、より好ましくは2価の基である。具体的には、フリル、チエニル、ピロリル、チアゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリジニウム、ピリミジニル、ピリミジニウム、ピラジニル、ピラジニウム、ピリダジニル、ピリダジニウム、トリアジニル、トリアジニウム、アゼピニル、ジアゼピニル等が挙げられる。また、「ヘテロアリール」には、環原子として炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される1~3種のヘテロ原子を1から4個含有する5~7員の芳香族複素環がベンゼン環又は上記芳香族複素環(単環式)基に縮合してなる芳香族複素環(2環式又はそれ以上)から誘導される基も含まれ、例えば、インドリル、イソインドリル、ベンゾ[b]フリル、ベンゾ[b]チエニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、キノリル、イソキノリル等である。
【0020】
ビピリジニウム基は、特に限定されないが、4,4’-ビピリジニウム、3,3’-ビピリジニウムなどが挙げられる。
【0021】
他の実施形態では、Arは置換基を有してもよく、置換基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。置換基としてより好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基などが挙げられる。
【0022】
用語「アルキル」とは、通常、炭素数1~15で直鎖状又は分岐鎖状のアルキル(C1-15アルキル)を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルまたはペンチルなどのC1-6アルキルが挙げられ、より好ましくはメチルまたはエチルが挙げられ、最も好ましくはメチルである。また、「アルケニル」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数2~10のアルケニル(C2-10アルケニル)が挙げられる。具体的には、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、メタクリル、ブテニル、クロチル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等である。さらに、「アルキニル」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数2~10のアルキニル(C2-10アルキニル)が挙げられる。具体的には、エチニル、プロパルギル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル等である。さらにまた、「アルコキシ」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~6のアルコキシ(C1-6アルコキシ)が挙げられる。具体的には、メトキシ、エトキシである。また本明細書中、「ハロ-C1-6アルコキシ」としては、一つ以上のハロゲン原子で置換された上記C1-6アルコキシが挙げられる。置換基の炭素数としては、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3である。Arにおける置換基の置換位置は、特に限定されない。
【0023】
Xは、カウンターアニオンであり、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(CF3SO2)2
-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドイオン(N(C2F5SO2)2
-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(C2F5SO2)(CF3SO2)-)、メタンスルホン酸イオン(CH3SO3
-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、パーフルオロエタンスルホン酸イオン(C2F5SO3
-)、ぎ酸イオン(HCO2
-)、酢酸イオン(CH3CO2
-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3CO2
-)、パーフルオロプロピオン酸イオン(C2F5CO2
-)等が挙げられる。
【0024】
Yは、親水性の置換基であり、例えばヒドロキシ基、アルキルアンモニウム基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、若しくはホウ酸基、又はこれらの塩に相当する基等が挙げられる。
【0025】
本発明のビオローゲン誘導体の具体例として、例えば、下記式で表されるものを挙げることが出来る。
【化4】
【0026】
本発明のビオローゲン誘導体の製造方法は、Arがフェニル基の場合は、例えば、4,4’-ビピリジルと、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンを予め反応させて後述する実施例1で合成する化合物1のような骨格を合成し、さらにこれを1,3-プロパンスルトンと反応させた後、テトラブチルアンモニウムクロリドで処理することにより得ることが出来る。また、Arがビピリジルの場合は、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンと、4,4’-ビピリジルとを予め反応させて後述する実施例4で合成する化合物8のような骨格を合成し、さらにこれを4,4’-ビピリジル及び1,3-プロパンスルトンと反応させた後、テトラブチルアンモニウムクロリドで処理することにより得ることが出来る。その他のビオローゲン誘導体についても、上記製造方法及び通常の有機化学合成手法に基づいて得ることができる。
【0027】
[電気化学デバイス]
本発明のビオローゲン誘導体は、電気化学デバイスに導入する化合物として用いることが出来る。以下、図面を参照して、本発明の電気化学デバイスの一実施形態であるレドックスフロー電池の概要を説明する。
図1は、本発明の1つの実施形態にかかるレドックスフロー電池の構成図である。
図1に示すRed1及びRed2は還元型の活物質を示し、Ox1及びOx2は酸化型の活物質を意味する。イオン種は例示である。また、
図1において、実線矢印は充電、破線矢印は放電を意味する。
【0028】
[レドックスフロー電池]
レドックスフロー電池11は、典型的には、交流/直流変換器を介して、発電所(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と、電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電所を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池11と、この電池11に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える以下の電池システムが構築される。
【0029】
レドックスフロー電池11は、正極3を内蔵する正極セル4と、負極1を内蔵する負極セル2と、両セル2、4を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜5とを具える。正極セル4には、正極電解液用のタンク8が配管を介して接続される。負極セル2には、負極電解液用のタンク7が配管を介して接続される。配管には、電解液を循環させるためのポンプ9、10を備える。レドックスフロー電池11は、配管、ポンプを利用して、正極セル4(正極3)、負極セル2(負極)にそれぞれタンク8の正極電解液、タンク7の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる有機分子の酸化還元反応に伴って充放電を行う。
【0030】
図2は、他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の小型試験セル21の断面図を示す。セル21は、その略中央部において、カーボンフェルト又はカーボンペーパー製の負極30とカーボンフェルト又はカーボンペーパー製の正極31とを、陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜(以後、「隔膜」若しくは単に「膜」と称する)32を挟んで対向配置させた構造を有する。負極30は、その外側に樹脂とグラファイトを複合させて成るグラファイト複合集電板33を、そのさらに外側に負極端子37をそれぞれ配置する。同様に、正極31は、その外側に樹脂とグラファイトを複合させて成るグラファイト複合集電板34を、そのさらに外側に正極端子38をそれぞれ配置する。負極30、グラファイト複合集電板33及び負極端子37は、互いに電気的に導通可能に接触している。同様に、正極31、グラファイト複合集電板34及び正極端子38も、互いに電気的に導通可能に接触している。このため、負極端子37と正極端子38との間の電位差を測定することは、負極30と正極31との間の電位差を測定することと同一視できる。
【0031】
グラファイト複合集電板33と隔膜32との間、及びグラファイト複合集電板34と隔膜32との間には、ガスケット35及びガスケット36が配置されている。負極30はガスケット35の内方に配置されている。同様に、正極31はガスケット36の内方に配置されている。ガスケット35,36は、負極30及び正極31にしみ込んだ各電解液がセル21から外部へと漏れるのを有効に防止する機能を有する。負極端子37のさらに外側には、バックプレート39が配置されている。同様に、正極端子38のさらに外側には、バックプレート40が配置されている。バックプレート39とバックプレート40とは、例えばボルトとナット(不図示)とを用いて、両者の間隔を狭くする方向に型締めされている。
【0032】
グラファイト複合集電板33、負極端子37及びバックプレート39は、それらを連通する2つの貫通孔を備える。1つの貫通孔にはチューブ41が挿入されている。もう1つの貫通孔には、チューブ42が挿入されている。チューブ41及びチューブ42は、グラファイト複合集電板33、負極端子37及びバックプレート39を連通する貫通孔と隙間のない状態にて、それぞれ負極30の外側表面に達している。また、グラファイト複合集電板34、正極端子38及びバックプレート40は、それらを連通する2つの貫通孔を備える。1つの貫通孔にはチューブ43が挿入されている。もう1つの貫通孔には、チューブ44が挿入されている。チューブ43及びチューブ44は、グラファイト複合集電板34、正極端子38及びバックプレート40を連通する貫通孔と隙間のない状態にて、それぞれ正極31の外側表面に達している。負極端子37と正極端子38との間に電源装置(抵抗回路を有する。不図示)を接続することにより充放電を行うことができる。
【0033】
本発明に係るレドックスフロー電池は、活物質として特定の有機分子、活物質(A)を含む。正極電解液及び負極電解液に含まれる有機分子は、その種類を限定するものではないが、好ましくは、酸化還元応答を示すユニットを一分子内に内包し、そのユニットが一分子内に複数含まれており、かつ、少なくとも終端が有限世代の酸化還元応答を示すユニットである、ベーテ格子あるいはケイリー樹の一部を形成する構造を含んだ、対称性が高い構造を有することを特徴とする。対称性が高くなることで、分子量が大きくとも溶媒に溶かした場合、外側に位置する酸化還元応答を示すユニットは凝集しにくくなり、高濃度溶液状態の安定化効果を発揮する。これによって、分子サイズが大きくなり容量低下を引き起こすクロスオーバーを抑制できる。使用する電解液中の活物質の濃度は0.1~3Mの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~1.5Mの範囲である。また、本発明では、前記有機分子を正極又は負極活物質とし、他の有機分子又は有機金属錯体を正極又は負極活物質とすることもできる。
【0034】
また、電解液には、電解質として支持塩を含ませることが好ましい。支持塩が含まれることで、電解液の電気伝導性が向上し、電池のエネルギー効率、エネルギー密度を向上させることができる。支持塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸、及び塩酸等が挙げられる。
【0035】
正極セル及び負極セルを仕切る隔膜は、カチオン交換膜又はアニオン交換膜を使用することができ、この場合、充放電に伴って、例えば、水素イオンや塩素イオンが隔膜を介して移動し、正極での充電反応によって生じた有機分子内の正の電荷を補償することができる。さらに、隔膜を介して移動する化学種が支持電解質のみであれば、単なる多孔質膜を使用することができる。多孔質膜としては、例えば、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、フッ素含有ポリマー膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
また、上記有機分子と同様に、電解液には錯体が含まれてもよい。錯体もまた電解液中で電極活物質として機能するものである。電解液に含まれ得る錯体としては、例えば、金属原子と配位して金属原子を取り込み、酸化還元に対して安定な錯体が挙げられる。このような錯体としては、例えば、ポルフィリンやフェナントロリン、フェロセン、ヘキサシアノ化合物(例えばフェロシアン化カリウム)、キレート化合物(例えば鉄-エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)等の有機錯体の他、酸化グラフェン等の無機錯体等が挙げられる。なお、電解液には、前記の有機分子と前記の錯体との双方が含まれてもよく、いずれか一方のみが含まれてもよい。
【0037】
電解液には、前記の有機分子や錯体を水溶液に可溶化するための界面活性剤が含まれてもよい。これにより、水系の電解液中に難溶性の有機分子や錯体が一様に分散するものと考えられる。界面活性剤の具体例は特に制限されず、カチオン系の界面活性剤、アニオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤等、どのようなものであってもよい。従って、価格や、活物質として用いる有機分子や錯体の可溶化度合いを考慮して選択すればよい。
【0038】
カチオン系の界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩(例えばテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド)、さらには4級アンモニウム塩を含む高分子等が挙げられる。また、アニオン系の界面活性剤としては、スルホン酸(例えばドデシル硫酸ナトリウム)やカルボン酸、リン酸を有する高分子等が挙げられる。さらに、ノニオン系の界面活性剤としては、ジグライムなどのエーテル含有化合物やエーテル(例えばポリエチレングリコールオクタデシルエーテル) を含む高分子等が挙げられる。これらは1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで用いられてもよい。
【0039】
また、本実施形態の電解液には、前記の有機分子や錯体、界面活性剤以外にも、任意の成分が含まれていてもよい。例えば、電解液には、溶解析出反応によって充放電される、即ち、例えば電子を受け取ることで還元されて金属を生じる、任意の金属イオンが含まれていてもよい。例えば、正極及び負極のうちの一方の極の活物質を前記の有機分子や錯体とした場合には、他方の極の活物質としての金属イオンを含ませることができる。このような金属イオンとしては、他方の極の溶解析出電位との電位差が大きく、溶解及び析出速度が速いものが好ましい。これにより、高い充放電電圧が得られる。具体的には、亜鉛イオン、鉄イオン及び鉛イオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる一種以上の金属イオンが好ましい。そして、活物質として金属イオンが電解液に含まれる場合には、電極は、当該金属イオンと同種の金属により構成されることが好ましい。
【0040】
[レドックスキャパシタ]
上述したレドックスフロー電池は、活物質を含む電解液をポンプでセルに送り、充電・放電時にはタンク内の電解液の酸化・還元により電気を貯め又は放出するシステムである。これに対し、電気二重層キャパシタは、蓄電デバイスの一つであって、蓄電容量という点では通常の二次電池より劣るが、パワー密度(瞬時に放電する能力)は、電気二重層キャパシタの方が二次電池よりも優れていると考えられている。通常の電気二重層キャパシタは大型化ができないこと、エネルギー密度が低いことなどの欠点があるが、数万サイクルも充放電が可能であるという利点を有する。上述した本発明のレドックスフロー電池は、電解液をフローせずに静止した状態でも、サイクル特性がよく、低コストで安全性が高いことから、電気二重層キャパシタと同様に機能することができるため、これをレドックスキャパシタ(レドックススーパーキャパシタ)として使用することが可能である。本発明の有機分子を電極に修飾あるいは固定化し、表面積の大きなレドックスキャパシタを構成してもよい。このような電極は、通常、有機分子を含む酸化還元活物質と導電性カーボン粒子を混合し、必要に応じて結着剤(バインダー)を加えて集電体の表面に塗布することで作製することができる。
【0041】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0042】
(実施例1)
4,4’-ビピリジル(26.3g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(4.10g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に加熱溶解した。この混合物を室温まで冷やした後、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1.00g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(800mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(50mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(9.60g)を加えた。この混合物を水中(800mL)に投入し、得られた固体をろ過すると2.82gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物1」という。化合物1の1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0043】
【0044】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.84(6H,dd,4.5,1.8),8.75(6H,d,7.1),8.32(6H,d,7.1),7.77(6H,dd,4.5,1.8),7.53(3H,s),5.74(6H,s)。
【0045】
化合物1(30.0g)と1,3-プロパンスルトン(16.2g)をアセトニトリル(500mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を室温まで冷やした後、水(200mL)を加え不溶物を溶かした。溶媒を濃縮後の残渣にアセトン(700mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた固体をアセトニトリルと水の混合溶媒(300mL、2/1、v/v)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(123g)を水(150mL)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン(1L)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(100mL)に溶かし、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと32.3gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(II)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物2」という。化合物2の1H-NMRを以下に示す。
【0046】
【0047】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.19(12H,d,6.8),8.61-8.20(12H,m),6.93(3H,s),5.49(6H,s).4.92(6H,t,7.3),3.05(6H,t,7.3),2.59-2.52(6H,m)。
【0048】
(実施例2)
4,4’-ビピリジル(16.0g)を2-ブロモエチルホスホン酸ジエチル(151g)に溶解し、攪拌した。この混合物にトルエン(100mL)とアセトン(100mL)を加え、攪拌した。得られた固体をろ過すると32.2gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物3」という。化合物3の1H-NMRを以下に示す。
【0049】
【0050】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.06(2H,d,6.9),8.81(2H,dd,4.7,1.8),8.50(2H,d,6.9),7.95(2H,dd,4.7,1.8),5.04-4.96(2H,m),4.17-4.10(4H,m),2.86-2.77(2H,m),1.25(6H,t,7.1)。
【0051】
化合物3(27.0g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(21.9g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に加熱溶解した。この混合物を室温まで冷やした後、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(2.00g)を加え、マイクロ波をあてながら110℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(800mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(100mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(32.9g)を加えた。溶媒を濃縮後の残渣に水(300mL)を加え、得られた固体をろ過すると9.46gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物4」という。化合物4の1H-NMRを以下に示す。
【0052】
【0053】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.97(12H,d,6.7),8.42-8.38(12H,m),7.69(3H,s),5.84(6H,s),4.89-4.81(6H,m),4.08-4.01(12H,m),2.58-2.50(6H,m),1.24(18H,t,7.1)。
【0054】
化合物4(15.6g)をアセトニトリル(200mL)に溶解し、ブロモトリメチルシラン(18.4g)を加え、室温で攪拌した。この混合物にイソプロピルアルコール(200mL)を加え、攪拌した。得られた固体をろ過すると11.8gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物5」という。化合物5の1H-NMRを以下に示す。
【0055】
【0056】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.18(12H,d,6.4),8.59-8.53(12H,m),7.84(3H,s),6.03(6H,s),4.97-4.90(6H,m),2.48-2.40(6H,m)。
【0057】
化合物5(18.2g)を水(100mL)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(85.1g)を水(400mL)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン(800mL)を加え攪拌し、ろ過した。得られた固体を水(80mL)に溶かした後、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(100mL)に溶かし、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除いた残渣をカラムクロマトグラフィー(SEPHADEX LH20,水)で精製すると11.1gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(III)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物6」という。化合物6の1H-NMRを以下に示す。
【0058】
【0059】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.19-9.17(12H,m),8.61-8.54(12H,m),7.81(3H,s),6.03(6H,s),4.98-4.91(6H,m),2.48-2.40(6H,m)。
【0060】
(実施例3)
化合物1(30.0g)と2-ブロモエタノール(33.0g)をアセトニトリル(500mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を室温まで冷やした後トルエン(500mL)を加え、ろ過した。得られた固体を水(100mL)に分散し、テトラブチルアンモニウムクロリド(245g)を水(200mL)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン(800mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(15mL)に溶かし、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと16.5gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(IV)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物7」という。化合物7の1H-NMRを以下に示す。
【0061】
【0062】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.21(6H,d,7.0),9.14(6H,d,7.0),8.63-8.58(12H,m),7.83(3H,s),6.05(6H,s),4.87(6H,t,5.0),4.15(6H,t,5.0)。
【0063】
(実施例4)
1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(22.8g)と4,4’-ビピリジル(0.500g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に溶解し、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(500mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(30mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(10.4g)を加えた。この混合物を水中(500mL)に投入し、得られた固体をろ過すると3.11gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物8」という。化合物8の1H-NMRを以下に示す。
【0064】
【0065】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.96(4H,d,6.9),8.38(4H,d,6.9),7.54(2H,s),7.47(4H,d,1.6),5.79(4H,s),4.57(8H,s)。
【0066】
4,4’-ビピリジル(20.0g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(3.10g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に加熱溶解した。この混合物を室温まで冷やした後、化合物8(1.60g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(800mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(50mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(7.30g)を加えた。この混合物を水中(800mL)に投入し、得られた固体をろ過すると2.95gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物9」という。化合物9の1H-NMRを以下に示す。
【0067】
【0068】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.88(4H,d,7.0),8.83(8H,dd,4.5,1.7),8.76(8H,d,7.0),8.35(4H,d,7.0),8.31(8H,d,7.0),7.76(8H,dd,4.5,1.7),7.59(4H,s),7.55(2H,s),5.80(4H,s),5.75(8H,s)。
【0069】
化合物9(10.5g)と1,3-プロパンスルトン(4.09g)をアセトニトリル(200mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を室温まで冷やした後、水(50mL)を加え不溶物を溶かした。溶媒を濃縮後の残渣にアセトン(300mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた固体をアセトニトリルと水の混合溶媒(150mL、2/1、v/v)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(46.6g)を水(150mL)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン(700mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(50mL)に溶かし、アセトン中(700mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと10.0gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(V)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物10」という。化合物10の1H-NMRを以下に示す。
【0070】
【0071】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.21-9.15(20H,m),8.62-8.54(20H,m),7.86(2H,s),7.83(4H,s),6.06(8H,s),6.03(4H,s),4.93(8H,t,7.2),3.04(8H,t,7.2),2.57(8H,m)。
【0072】
(実施例5)
化合物3(1.81g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(1.48g)をN,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解した。この混合物に化合物8(0.282g)を加え、マイクロ波をあてながら110℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(200mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(30mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(2.20g)を加えた。溶媒を濃縮後の残渣に水(20mL)に加え、得られた固体をろ過すると0.720gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物11」という。化合物11の1H-NMRを以下に示す。
【0073】
【0074】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.98-8.91(20H,m),8.42-8.38(20H,m),7.64(6H,s),5.82(12H,s),4.89-4.81(8H,m),4.08-4.00(16H,m), 2.58-2.50(8H,m),1.24(24H,t,7.0)。
【0075】
化合物11(0.800g)をアセトニトリル(15mL)に溶解し、ブロモトリメチルシラン(0.784g)を加え、室温で攪拌した。この混合物にイソプロピルアルコール(15mL)を加え、攪拌した。得られた固体をろ過すると0.627gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物12」という。化合物12の1H-NMRを以下に示す。
【0076】
【0077】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.15(20H,d,6.5),8.55-8.49(20H,m),7.82(6H,s),6.00(12H,s),4.95-4.88(8H,m),2.44-2.36(8H,m)。
【0078】
化合物12(0.500g)を水(3mL)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(2.40g)を水(10mL)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン(50mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(3mL)に溶かした後、アセトン中(50mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと0.372gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(VI)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物13」という。化合物13の1H-NMRを以下に示す。
【0079】
【0080】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.16(20H,d,6.0),8.59-8.52(20H,m),7.79(6H,s),6.01(12H,s),4.96-4.77(8H,m),2.44-2.36(8H,m)。
【0081】
(実施例6)
化合物9(1.00g)と2-ブロモエタノール(1.32g)をアセトニトリル(10mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を濃縮し、残渣にアセトン(30mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた固体をアセトニトリルと水の混合溶媒(15mL、2/1、v/v)に溶かし、、テトラブチルアンモニウムクロリド(7.37g)をアセトニトリルと水の混合溶媒(7.5mL、2/1、v/v)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン中(100mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと0.660gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(VII)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物14」という。化合物14の1H-NMRを以下に示す。
【0082】
【0083】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.20(12H,d,7.0),9.13(8H,d,6.7),8.62-8.57(20H,m),7.83(4H,s),7.81(2H,s),6.04(12H,s),4.86(8H,t,5.0),4.14(8H,t,5.0)。
【0084】
(実施例7)
1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(21.0g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(3.00g)をN,N-ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、化合物1(2.00g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(400mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(40mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(6.58g)を加えた。この混合物を水中(400mL)に投入し、得られた固体をろ過すると4.36gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物15」という。化合物15の1H-NMRを以下に示す。
【0085】
【0086】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.95(6H,d,6.7),8.90(6H,d,6.7),8.39-8.36(12H,m),7.64(3H,s),7.60(3H,s),7.47(6H,s),5.8(6H,s),5.79 (6H,s),4.57(12H,s)。
【0087】
4,4’-ビピリジル(26.3g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(4.10g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に加熱溶解した。この混合物を室温まで冷やした後、化合物15(3.20g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(800mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(50mL、1/1、v/v)に分散させた。上述の操作を繰り返し、反応と処理を2回行った。2回の反応で得られた分散液を混合し、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(19.2g)を加えた。この混合物を水中(800mL)に投入し、得られた固体をろ過すると10.1gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物16」という。化合物16の1H-NMRを以下に示す。
【0088】
【0089】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.92-8.89(12H,m),8.81(12H,dd,4.7,1.7),8.76(12H,d,6.6),8.38(12H,d,6.6),8.31(12H,d,6.6),7.75(12H,dd,4.4,1.7),7.63(3H,s),7.59(6H,s),7.56(3H,s),5.81(12H,s),5.75(12H,s)。
【0090】
化合物16(19.3g)と1,3-プロパンスルトン(5.87g)をアセトニトリル(200mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を室温まで冷やした後、水(50mL)を加え不溶物を溶かした。溶媒を濃縮後の残渣にアセトン(300mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた固体をアセトニトリルと水の混合溶媒(150mL、2/1、v/v)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(89.1g)をアセトニトリルと水の混合溶媒(120mL、3/1、v/v)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(50mL)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(17.8g)を加えた後、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(80mL)に溶かし、アセトニトリルとアセトンの混合溶媒(800mL、1/1、v/v)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと16.4gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(VIII)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物17」という。化合物17の1H-NMRを以下に示す。
【0091】
【0092】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.24-9.20(36H,m),8.64-8.60(36H,m),7.92(3H,s),7.87(6H,s),7.79(3H,s),6.09-6.03(24H,m),4.94(12H,t,7.3),3.05(12H,t,7.3),2.61-2.54(12H,m)。
【0093】
(実施例8)
1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(16.7g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(2.28g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に溶解し、化合物9(2.2g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(600mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(70mL、1/1、v/v)に分散させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(5.33g)を加えた。この混合物を水中(800mL)に投入し、得られた固体をろ過すると3.91gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物18」という。化合物18の1H-NMRを以下に示す。
【0094】
【0095】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.96-8.89(20H,m),8.40-8.37(20H,m),7.63-7.60(10H,m),7.47(8H,s),5.81(12H,s),5.79(8H,s),4.57(16H,s)。
【0096】
4,4’-ビピリジル(14.0g)とヘキサフルオロリン酸アンモニウム(3.65g)をN,N-ジメチルホルムアミド(40mL)に加熱溶解した。この混合物を室温まで冷やした後、化合物18(2.00g)を加え、マイクロ波をあてながら90℃で加熱攪拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン中(500mL)に投入し、ろ過した。得られた固体を、アセトニトリルとメタノールの混合溶媒(50mL、1/1、v/v)に分散し、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(3.65g)を加えた。この混合物を水中(400mL)に投入し、得られた固体をろ過すると2.94gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物19」という。化合物19の1H-NMRを以下に示す。
【0097】
【0098】
1H-NMR(400MHz,CD3CN):δ8.94-8.89(20H,m),8.80(16H,dd,4.5,1.7),8.76(16H,d,6.7),8.42-8.37(20H,m),8.31(16H,d,6.7),7.75(16H,dd,4.5,1.7),7.65-7.56(18H,m),5.81(20H,s),5.75(16H,s)。
【0099】
化合物19(20.0g)と1,3-プロパンスルトン(5.49g)をアセトニトリル(200mL)に溶解し加熱還流した。この混合物を室温まで冷やした後、水(50mL)を加え不溶物を溶かした。溶媒を濃縮後の残渣にアセトン(300mL)を加え攪拌し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体をアセトニトリルと水の混合溶媒(150mL、2/1、v/v)に溶かし、テトラブチルアンモニウムクロリド(93.6g)をアセトニトリルと水の混合溶媒(120mL、3/1、v/v)に溶かしたものを加えた。この混合物の溶媒を濃縮し、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除いた。得られた粘性液体を水(50mL)に溶かし、アセトン中(800mL)に投入し、上澄みの溶液を取り除くと14.8gの生成物を得た。1H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式(IX)で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物20」という。化合物20の1H-NMRを以下に示す。
【0100】
【0101】
1H-NMR(400MHz,D2O):δ9.23-9.20(52H,m)、8.64-8.60(52H,m)、7.96-7.80(18H,m),6.09-6.06(36H,m),4.94(16H,t,7.1),3.05(16H,t,7.1),2.59-2.55(16H,m)。
【0102】
(実施例9)
図3に示した装置を用いてクロスオーバー試験を行い、化合物の易動性を評価した。厚さ50μmのナフィオン膜51を挟むような形でΦ(直径)1cmサイズのカーボンフェルト52をそれぞれ両側に配置し、容器Aには対象となる化合物の入った溶液を、容器Bには支持電解質のみが入った溶液を準備し、それぞれ10mL/分でセルに流し込み、AからBに移動した化合物の濃度を一定時間ごとにサンプリングし、紫外可視分光光度計によって定量した。試験は、化合物2及び化合物7、並びに化合物7に類似した比較化合物(1,1’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4,4’-ビピリジニウムジクロリド)を対象とした。濃度は構成単位であるビオローゲンユニットの濃度が0.1Mとなるように調製し、支持電解質として1M塩化カリウムを用いた。その結果を
図4に示す。
図4の縦軸はAからBに移動した化合物の濃度を示しており、この値が大きいほど、よりクロスオーバーしていることを表している。比較化合物が最もクロスオーバーしやすく、化合物2及び化合物7では劇的にクロスオーバーが抑えられていることが分かる。クロスオーバー量からナフィオン膜に対するそれぞれの化合物の透過係数を算出した結果を以下の表1に示す。
【0103】
【0104】
表1に示したように、比較化合物に比べて化合物2及び化合物7の透過係数は100倍以上小さいことが分かった。なおバナジウムレドックスフロー電池に用いられる酸化硫酸バナジウム(VOSO4)のナフィオン膜に対する透過係数は7.95×10-9cm2/sであり、これと比較しても化合物2及び化合物7は実用上極めて有望であると考えられる。
【0105】
以上の結果から、本発明の化合物は、レドックスフロー電池の活物質として用いることにより、性能低下の原因となるクロスオーバーを大幅に低減できることがわかった。なお、化合物2及び化合物7と比べて分子サイズが大きい化合物10、化合物13、化合物14、化合物17、及び化合物20についても、一般的に用いられている隔膜の空孔サイズより分子サイズの方が大きくなるためクロスオーバーの低減を大幅に達成できると考えられる。
【0106】
(実施例10)
作用極にグラッシーカーボン電極、対極に白金線、参照極に銀-塩化銀電極を用いて、化合物の濃度を構成単位で10mMとなるように調製し、1M KCl水溶液を支持電解質として、掃引速度0.1V/秒にてサイクリックボルタンメトリーにより酸化還元電位を調べた。その結果を以下の表2に示す。表2に示すように、合成した化合物は可逆な酸化還元応答を示すことが分かった。また酸化還元電位が-0.4V~-0.5V付近にあり、これはバナジウムレドックスフロー電池に用いられる負極電解液の酸化還元電位とほぼ同じ程度であることから、バナジウムレドックスフロー電池に替わる材料として適用可能であることを示している。
【0107】
本発明により、レドックスフロー電池の性能低下の原因となるクロスオーバーを低減することができる化合物を得ることができる。本発明の化合物は、電気化学デバイスなどとして用いることができる。また、本発明の電気化学デバイスは、レドックスフロー電池やレドックスキャパシタなどとして有用である。