(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133186
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ポリオレフィンのマイクロ波分解法
(51)【国際特許分類】
C07C 4/22 20060101AFI20230914BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230914BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20230914BHJP
C07C 9/06 20060101ALI20230914BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20230914BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20230914BHJP
H05B 6/64 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C07C4/22
C01B32/05
C07C9/04
C07C9/06
C07C11/04
C08J11/12
H05B6/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032051
(22)【出願日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2022036425
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】保泉 桂吾
(72)【発明者】
【氏名】福本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】堀越 智
【テーマコード(参考)】
3K090
4F401
4G146
4H006
【Fターム(参考)】
3K090AB07
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401CA70
4F401CB03
4F401EA01
4F401FA01Z
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA06
4G146AB07
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AD21
4H006AA02
4H006AC26
4H006BA95
4H006BC10
(57)【要約】
【課題】特定の炭素材料共存下でマイクロ波を照射することによりポリオレフィンの熱分解におけるオレフィンモノマーの収率が高く、かつオレフィン/パラフィン比の選択性に優れるポリオレフィンのマイクロ波分解法を提供する。
【解決手段】10nm未満の平均細孔径を有する炭素とポリオレフィンとの混合物にマイクロ波を照射させてポリオレフィンの温度を600℃~3000℃に上昇させることによりポリオレフィンを分解する、ポリオレフィンのマイクロ波分解法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10nm未満の平均細孔径を有する炭素とポリオレフィンとの混合物にマイクロ波を照射させてポリオレフィンの温度を600℃~3000℃に上昇させることによりポリオレフィンを分解する、ポリオレフィンのマイクロ波分解法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のポリオレフィンのマイクロ波分解法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンのマイクロ波分解法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの中でも、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンは、生産量および廃棄量が多い。ポリオレフィンのリサイクル法としては、例えば、ポリオレフィンの熱分解法が知られている。ポリオレフィンの熱分解法では、ポリオレフィンを油化した後、モノマーを含むガス成分に分解する。従来のポリオレフィンの熱分解法には、ポリオレフィンの熱分解反応が多段階である、環境負荷が大きい、コストが大きい等の課題がある。そのため、ポリオレフィンを直接、分解してモノマーを得る方法が求められている。
【0003】
ポリオレフィンを直接、分解してモノマーを得る方法としては、例えば、プラスチックを粉砕された状態とし、プラスチックとマイクロ波発熱体と相互に十分に接触させた状態として、マイクロ波照射を行い、プラスチックの原料物質および原料物質の複合体からなる生成物を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1-3、非特許文献1参照)。
特許文献1では、ポリスチレンの熱分解に、マイクロ波発熱体として炭化ホウ素を用いて、375℃で分解を行い、スチレンモノマーおよびオレフィンモノマーを得ている。特許文献2、3では、ポリエチレンまたはポリプロピレンの熱分解に、マイクロ波発熱体として無機多孔質骨格上に担持された特定の炭素材料を用いて、分解を行い、エチレンまたはプロピレンモノマーなどのオレフィン、メタンやエタンなどのパラフィンを含むガス分を得ている。非特許文献1では、ポリエチレンの熱分解に、マイクロ波発熱体として活性炭を用いて、520℃で分解を行い、油分およびガス分を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-220179号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第111100663号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第111100327号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xiaodong Jing,Junqian Dong,Hanlin Huang,Yanxi Deng,Hao Wen,Zhihong Xu,Selim Ceylan,“Interaction between feedstocks,absorbers and catalysts in the microwave pyrolysis process of waste plastics”,Journal of Cleaner Production,Elsevier,NL,291(2021),125857.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法は、分解温度が低く、モノマーが容易に回収されるポリスチレンに対しては有効があったが、ポリエチレンあるいはポリプロピレンの熱分解に不十分であった。特許文献2や非特許文献1の方法では、ポリエチレンの熱分解におけるエチレンモノマーの収率が低く、かつオレフィン/パラフィン比の選択性が悪いという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、特定の炭素材料共存下でマイクロ波を照射することによりポリオレフィンの熱分解におけるオレフィンモノマーの収率が高く、かつオレフィン/パラフィン比の選択性に優れるポリオレフィンのマイクロ波分解法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]10nm未満の平均細孔径を有する炭素とポリオレフィンとの混合物にマイクロ波を照射させてポリオレフィンの温度を600℃~3000℃に上昇させることによりポリオレフィンを分解する、ポリオレフィンのマイクロ波分解法。
[2]前記ポリオレフィンが、ポリエチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一方を含む、[1]に記載のポリオレフィンのマイクロ波分解法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の炭素材料共存下でマイクロ波を照射することによりポリオレフィンの熱分解におけるオレフィンモノマーの収率が高く、かつオレフィン/パラフィン比の選択性に優れるポリオレフィンのマイクロ波分解法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法で用いられるポリオレフィン分解装置は示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法で用いられるポリオレフィン分解装置を構成する反応容器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0012】
[ポリオレフィンのマイクロ波分解法]
本発明の一実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法は、10nm未満の平均細孔径を有する炭素とポリオレフィンとの混合物にマイクロ波を照射させてポリオレフィンの温度を600℃~3000℃に上昇させることによりポリオレフィンを分解する。
【0013】
「ポリオレフィン」
本実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法における、処理対象物質であるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリαオレフィン、ポリスチレン等が挙げられる。ポリオレフィンは、ポリエチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、ポリエチレンまたはポリプロピレンのみを含んでいてもよく、ポリエチレンおよびポリプロピレンを含んでいてもよい。ポリオレフィンは2種類以上のモノマーを用いて重合された共重合体であってもよい。
ポリオレフィンは、利用後に回収されたプラスチック廃棄物や、製造工程や成形工程から回収されたものが用いられる。
【0014】
ポリオレフィンは、マイクロ波を照射して分解する前に前処理を行うことが好ましい。
ポリオレフィンが汚れている場合、ポリオレフィンを洗浄して、汚れを除去する。
ポリオレフィンは、様々な形状をなしている。このままの状態でポリオレフィンと炭素とを混合して、これらの混合物にマイクロ波を照射してポリオレフィンを熱分解しようとしても、均一に熱分解することができないことがある。そのため、ポリオレフィンを、炭素と混合する前に予め粉砕して、炭素との接触面積を大きくすると分解速度を向上させることができる。
【0015】
ポリオレフィンの成型物等は、かさばるため、粉砕に先立って、圧縮することにより容量を小さくすることが好ましい。
粉砕後のポリオレフィンの形状は、例えば、削りくず状、片状、粒状、粉末状、チップ状、シート状のいずれであってもよく、これらの組合せでもよい。
ポリオレフィンを粉砕する手段としては、例えば、固定刃を備えた回転軸が回転している円筒状内部にホッパーから供給し、回転刃の作用で切断する装置が用いられる。
【0016】
「炭素」
炭素としては、マイクロ波を照射すると発熱する微粒子が用いられる。炭素の具体例としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、炭素繊維、カーボンドット、カーボンナノワイヤ、すす、有機物由来の炭化物、炭化珪素、炭化硼素、炭化タングステン、炭化チタン等が挙げられる。カーボンブラックは、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、ファーネス、チャネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0017】
炭素の一次粒子径は、ポリオレフィンと炭素とを混合した場合に、ポリオレフィンに対して炭素を均一に分散させることができれば特に限定されないが、例えば、10μm未満の一次粒子径を有することが好ましく、5μm未満がより好ましい。さらに好ましくは1μm未満である。炭素の一次粒子径が上記上限値未満であると、ポリオレフィンとの接触面積が大きくなり、分解速度を向上させることができる。また、下限は特に限定されないが、1nm以上の一次粒子径を有することが好ましく、3nm以上がより好ましい。さらに好ましくは5nm以上である。なお、本実施形態では、炭素成型体も用いられる。
炭素の一次粒子径が上記下限値以上であると、炭素粉体の取り扱い操作性が向上するとともに、ポリオレフィンと充分に混合できる。
【0018】
炭素の一次粒子径は、走査型または透過型電子顕微鏡を用いて得られる写真から、一次粒子をランダムに100個抽出してデジタイザにより測定した長径及び短径を平均したものを当該粒子の一次粒子径とし、その全体の平均から算出することができる。
【0019】
炭素は、平均細孔径が10nm未満の細孔を有し、平均細孔径が9.5nm以下の細孔を有することが好ましく、平均細孔径が9nmnm以下の細孔を有することがより好ましい。また、平均細孔径の下限は特に限定されないが、細孔を有さない炭素が好ましく、平均細孔径が0.5nm以上の細孔を有することが望ましい。より好ましくは1.0nm以上である。炭素の細孔の平均細孔径が10nm未満であると、ポリオレフィン、またはその分解物が細孔内部に入り込みにくくなり、過剰な分解によるメタンの副生、または炭化による収率および選択性の低下を抑制できる。そのため、本実施形態のポリオレフィンのマイクロ波分解法は、ポリオレフィンの熱分解におけるオレフィンモノマーの収率が高く、かつオレフィン/パラフィン比の選択性に優れる。
【0020】
炭素の細孔の平均細孔径は、ガス吸着分析装置を用いて分析する。まず-196℃において、窒素ガスの相対圧力を関数とした窒素ガスの吸着量より窒素吸着等温線を得た後、得られた吸着等温線よりBETプロットを描画し、平均細孔径を算出する。本手法での検出下限値以下の領域に平均細孔径を有する炭素は、細孔を有さないとし、その炭素は非多孔質とする。
【0021】
炭素のBET比表面積は、例えば、0.1m2/g~3000m2/gが好ましく、0.3m2/g~2800m2/gがより好ましい。さらに好ましくは0.5m2/g~2600m2/gである。炭素のBET比表面積が上記下限値以上であると、ポリオレフィンを炭素表面上で効率的に分解しやすい。炭素のBET比表面積が上記上限値以下であると、反応場に使われない炭素表面での余剰の加熱を抑え、マイクロ波加熱でのエネルギー効率を高めることができる。
【0022】
BET比表面積の測定方法としては、例えば、全自動比表面積および細孔分布測定装置を用い、BET多点法による窒素吸着等温線から測定する方法が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法は、ポリオレフィンと炭素を混合し、前記ポリオレフィンに対して前記炭素を分散させて、前記ポリオレフィンと前記炭素との混合物を得る工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、前記混合物にマイクロ波を照射して、前記ポリオレフィンを600℃~3000℃に加熱することにより、前記ポリオレフィンを熱分解する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、を有するポリオレフィンの分解方法である。
【0024】
「第1の工程」
第1の工程では、ポリオレフィンと炭素を混合し、ポリオレフィンに対して炭素を分散させて、ポリオレフィンと炭素との混合物を得る。
【0025】
ポリオレフィンに対する炭素の添加量は、ポリオレフィン100質量部に対して、1質量部~500質量部が好ましく、10質量部~100質量部がより好ましい。炭素の添加量が上記下限値以上であると、マイクロ波の照射によって加熱された炭素の熱により、ポリオレフィンを600℃~3000℃に加熱される。炭素の添加量が上記上限値以下であると、分解ガスからの過剰な分解によるメタン副生を抑えられることで、モノマーガス収率が良くなる。
【0026】
ポリオレフィンと炭素を混合する方法は、特に限定されないが、例えば、混合容器自体が回転運動をする容器回転形混合機を用いた方法、混合容器は固定されており、スクリュー等の攪拌器または気流の吹込みによって混合する容器固定形混合機を用いた方法、容器回転形混合機と容器固定形混合機の両者の組合せによる複合形の混合機を用いた方法等が挙げられる。
【0027】
「第2の工程」
第2の工程では、ポリオレフィンと炭素の混合物にマイクロ波を照射して、炭素を発熱させて、その熱によりポリオレフィンの温度を600℃~3000℃に上昇させる。これにより、ポリオレフィンを熱分解する。
【0028】
ポリオレフィンと炭素の混合物に照射するマイクロ波の周波数は、902~928MHz、2.2~2.7GHz、または5.55~6.05GHzが好ましい。マイクロ波の周波数が前記の範囲内であると、炭素の温度を所定の温度に効率的に上昇させることができる。
【0029】
分解時のポリオレフィンの温度は、600℃~3000℃であり、650℃~2500℃が好ましい。より好ましくは700℃~2000℃である。分解時のポリオレフィンの温度が上記下限値以上であることで、ポリオレフィンの分解に不十分となるためモノマー収率が低下する傾向にある。また、分解時のポリオレフィンの温度が上記上限値以下であることで、ポリオレフィンの過剰な分解によるメタンの副生を抑制し、モノマー収率あるいは選択性を向上できる傾向にある。加えて、炭素の変性、シンタリングも抑制できる傾向にある。
【0030】
上記分解時の温度は、ポリオレフィンと炭素の混合物にマイクロ波を照射した際に加熱された混合物より放射される赤外線を、石英透過型放射温度計(実行波長1.95~2.6μm)にて検出し、測定する。
【0031】
ポリオレフィンの温度を上記温度に上昇させる時間は、特に限定されないが、例えば、0.1秒~30分であることが好ましく、より好ましくは0.5秒~15分。より好ましくは1秒~10分である。上記下限値以上であると、ポリオレフィンの分解に充分な反応時間となる。上記上限値以下であると、炭素の過加熱による変性や粉化を抑えることができる。
【0032】
「ポリオレフィン分解装置」
次に、ポリオレフィン分解装置を用いたポリオレフィンのマイクロ波分解法を説明するが、装置などはこれに限定されるものではない。
図1は、本実施形態に係るポリオレフィンのマイクロ波分解法で用いられるポリオレフィン分解装置は示す模式図である。
図2は、
図1に示すポリオレフィン分解装置を構成する反応容器を示す模式図である。
図1に示すように、ポリオレフィン分解装置1は、導波管10と、マイクロ波発信器20と、アイソレータ30と、パワーモニタ40と、スリースタブチューナー50と、反射板60と、反応容器70と、を備える。
【0033】
導波管10は、第1管状部材11と、第2管状部材12と、第3管状部材13と、第4管状部材14と、第5管状部材15と、第6管状部材16と、を有する。これらの部材は、この順に連設している。また、これらの管状部材は、円筒形状である。導波管10は、マイクロ波発信器20から発振したマイクロ波を導波(輸送)するためのものである。
【0034】
マイクロ波発信器20は、マイクロ波を発振して、ポリオレフィンと炭素の混合物にマイクロ波を照射する。マイクロ波発信器20は、導波管10の一端部をなす第1管状部材11に配置されている。マイクロ波発信器20から発振したマイクロ波(進行波)は、第1管状部材11の一端部(第2管状部材12とは反対側の端部)から、導波管10内に導入されている。
【0035】
アイソレータ30は、反応容器70等で反射してマイクロ波発信器20側へ戻るマイクロ波(反射波)を吸収する。アイソレータ30は、第2管状部材12に配置されている。
【0036】
パワーモニタ40は、マイクロ波発信器20から発振したマイクロ波(進行波)と、反応容器70等で反射してマイクロ波発信器20側へ戻るマイクロ波(反射波)とを検出する。パワーモニタ40は、第3管状部材13に配置されている。
【0037】
スリースタブチューナー50は、3本の調整棒51を導波管10に出し入れするタイプのマイクロ波整合器であり、マイクロ波発信器20から発振したマイクロ波(進行波)の位相を合わせる。スリースタブチューナー50は、第4管状部材14に配置されている。
【0038】
反射板60は、反応容器70側に戻すマイクロ波(反射波)を調整する。反射板60は、導波管10を構成する第6管状部材16の他端(第5管状部材15とは反対側の端)に配置されている。
【0039】
反応容器70は、円筒形状である。
図2に示すように、反応容器70は、長手方向の中央部にポリオレフィンと炭素の混合物81を収容する。また、反応容器70には、混合物81における反応容器70の長手方向の両端に接するようにガラスウール83が収容され、ガラスウール83における反応容器70の長手方向の両端に接するように海砂82が収容され、さらに、海砂82における反応容器70の長手方向の両端に接するようにガラスウール83が収容されている。言い換えれば、反応容器70内において、混合物81が、ガラスウール83と海砂82とガラスウール83とによって、挟持されている。
【0040】
また、反応容器70は、第5管状部材15に配置されている。詳細には、反応容器70は、第5管状部材15の外面から第5管状部材15の内部に貫通する貫通孔に挿入されて、第5管状部材15を長手方向と垂直方向に配置されている。また、第5管状部材15には、第5管状部材15内に挿入された反応容器70を観察するための窓17が設けられている。この窓17の部分に、混合物81が対面するように、第5管状部材15に対して反応容器70が配置される。また、反応容器70の一端(紙面下側)71には、反応容器70内に窒素ガスを導入する導入管91が接続されている。さらに、反応容器70の他端(紙面上側)72には、反応容器70内から分解ガスを排出する排出管92が接続されている。排出管92における反応容器70とは反対側の端には、ガスバックが接続される。
【0041】
ポリオレフィン分解装置1を用いて、ポリオレフィンを熱分解するには、まず、反応容器70内に、混合物81を収容するとともに、混合物81をガラスウール83と海砂82とガラスウール83とによって、反応容器70内の中央部に固定する。
【0042】
次いで、混合物81を収容した反応容器70を第5管状部材15に配置する。この際、導波管10(第5管状部材15)の内部において、電場が最大となる位置に反応容器70を固定する。
次いで、導入管91から反応容器70内への窒素ガスの流通を開始し、その状態で数分間静置し、反応容器70内を窒素雰囲気下とする。
次いで、排出管92における反応容器70とは反対側の端にガスバックを接続する。
次いで、窒素流通下でマイクロ波発信器20を起動し、所定の出力で反応容器70内の混合物81にマイクロ波を照射しながら、反射板60およびスリースタブチューナー50を調節して、進行波と反射波の差が最大となるよう調整する。
混合物81にマイクロ波を照射すると、炭素が発熱して、その熱によりポリオレフィンが熱分解する。
ポリオレフィンが熱分解することによって発生した分解ガスは、排出管92を通って、反応容器70の外部へ排出され、ガスバックに回収される。回収された分解ガスには、オレフィンモノマーとメタンを含むパラフィンおよび水素が含まれる。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、高密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製)71.0mgと活性炭(平均細孔径2.9nm、大阪ガスケミカル社製)7.2mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1620℃であった。
得られた分解ガスの収率は84.2%であった。
また、ガス成分について、下記の条件でガスクロマトグラフィー測定を行い、エチレン、エタンおよびメタン量を定量したところ、エチレン選択率は55.8%、エタン選択率は3.8%、メタン選択率は28.4%であった。その結果よりエチレン/エタン比を算出したところ、14.6であった。
【0045】
<GC測定>
ガスクロマトグラフ:GC-2014(型式名)、島津製作所社製
カラム:ShincarbonST 50/80(1.0m・3mm、信和化工社製)
カラムオーブン温度:40℃
移動相:He30mL/min
分析時間:30min
検出:TCD検出器
試料:1mL注入
【0046】
[実施例2]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、高密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製)79.5mgとカーボンECP(平均細孔径5.4nm、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)8.1mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1630℃であった。
得られた分解ガスの収率は79.7%であった。
また、ガス成分について、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、エチレン、エタンおよびメタン量を定量したところ、エチレン選択率は55.1%、エタン選択率は2.9%、メタン選択率は28.4%であった。その結果よりエチレン/エタン比を算出したところ、18.9であった。
【0047】
[実施例3]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、高密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製)79.5mgと非多孔質のグラファイト(巴工業社製)8.0mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1510℃であった。
得られた分解ガスの収率は87.1%であった。
また、ガス成分について、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、エチレン、エタンおよびメタン量を定量したところ、エチレン選択率は59.3%、エタン選択率は2.1%、メタン選択率は26.7%であった。その結果よりエチレン/エタン比を算出したところ、28.7であった。
【0048】
[実施例4]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、高密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製)69.5mgと非多孔質のグラフェン(Sigma-Aldrich社製)7.0mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1760℃であった。
得られた分解ガスの収率は72.0%であった。
また、ガス成分について、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、エチレン、エタンおよびメタン量を定量したところ、エチレン選択率は54.8%、エタン選択率は3.2%、メタン選択率は27.7%であった。その結果よりエチレン/エタン比を算出したところ、17.1であった。
【0049】
[実施例5]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、ポリプロピレン(Sigma-Aldrich社製)79.2mgと活性炭(平均細孔径2.9nm、大阪ガスケミカル社製)7.8mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1360℃であった。
得られた分解ガスの収率は82.7%であった。
また、ガス成分について、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、プロピレン、プロパンおよびメタン量を定量したところ、プロピレン選択率は34.1%、プロパン選択率は1.1%、メタン選択率は29.1%であった。その結果よりプロピレン/プロパン比を算出したところ、31.0であった。
【0050】
[比較例]
ポリオレフィン分解装置としては、
図1に示すようなシングルモードのポリオレフィン分解装置(導波管の断面:54.61mm×109.22mm)を用いた。
マイクロ波発振器として、マグネトロン式のマイクロ波発振器(型式名:HPP121A-INV、日立協和エンジニアリング社製)を用いた。マイクロ波の周波数を2.45GHzとした。
反応容器としては、石英管(管長18cm、内径4mm)を用いた。
反応容器内に、高密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製)68.8mgとメソポーラスカーボン(平均細孔径30nm、東洋炭素社製)7.0mgの混合物を投入し、その混合物の上下に、ガラスウールおよび海砂を詰めて、反応容器内に前記混合物を収容した。
導波管の反応容器設置部の内部において、電場が最大となる位置に反応容器を固定した。
反応容器の下部から、反応容器内に窒素を流速20mL/minで流通し、その状態で1分静置し、反応容器内を窒素雰囲気下とした。
反応容器の上部にガスバックを接続した。
上記窒素流通下でマイクロ波発振器を起動し、80W出力でマイクロ波を照射しながら、反射板およびスリースタブチューナーを調節して進行波と反射波の差が最大となるよう調整した。
調整終了時刻を反応開始時刻とし、3分間反応させて、ポリオレフィンの分解ガスをガスバック内に回収した。反応に際して、反応容器内部の温度を石英透過型放射温度計(型式名:FLHX-TNE0220、ジャパンセンサー社製)で測定したところ、1040℃であった。
得られた分解ガスの収率は69.0%であった。
また、ガス成分について、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、エチレン、エタンおよびメタン量を定量したところ、エチレン選択率は43.4%、エタン選択率は4.5%、メタン選択率は32.8%であった。その結果よりエチレン/エタン比を算出したところ、9.6であった。
【0051】
実施例1~実施例4および比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示す結果から、実施例1~実施例4は、分解ガスの収率が高く、エチレン/エタン比の選択性に優れることが分かった。
本発明のポリオレフィンのマイクロ波分解法は、分解ガスの収率が高く、エチレン/エタン比の選択性に優れることから、ポリオレフィンのリサイクル法として非常に有用である。