(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133272
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】クロム焼結体及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びクロム膜付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037961
(22)【出願日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2022037003
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521443519
【氏名又は名称】東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】正能 大起
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】花輪 浩一
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA07
4K029CA05
4K029DC03
4K029DC09
(57)【要約】
【課題】スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能であり、低い酸素含有量を有するクロム焼結体及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びクロム膜付き基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】粒子を含み、粒子の平均KAM値が2°以下であり、粒子の平均粒径が150μmより大きく400μm以下である、クロム焼結体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含み、前記粒子の平均KAM値が2°以下であり、
前記粒子の平均粒径が150μmより大きく400μm以下である、クロム焼結体。
【請求項2】
酸素含有量が100質量ppm以下であり、相対密度が99.6%より高い、請求項1に記載のクロム焼結体。
【請求項3】
ビッカース硬度が100HV以上である、請求項1又は2に記載のクロム焼結体。
【請求項4】
金属不純物の含有量の総計が100質量ppm以下である、請求項1又は2に記載のクロム焼結体。
【請求項5】
前記粒子の平均アスペクト比が1以上1.8以下である請求項1又は2に記載のクロム焼結体。
【請求項6】
請求項1に記載のクロム焼結体を製造する方法であって、
電解クロムフレークを1200℃以上1400℃以下で加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程の後に前記電解クロムフレークを容器内に充填し、得られる充填物に対して熱間等方圧加圧処理により焼成を行う焼成工程とを備える、クロム焼結体の製造方法。
【請求項7】
加熱処理の雰囲気が不活性ガス雰囲気である請求項6に記載のクロム焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記電解クロムフレークの酸素含有量が130質量ppm以下である請求項6又は7に記載のクロム焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のクロム焼結体を備える、スパッタリングターゲット。
【請求項10】
請求項9に記載のスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法により基板上にクロム膜を形成してクロム膜付き基板を製造する、クロム膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロム焼結体及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びクロム膜付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」ともいう)は、クロム膜の形成に広く用いられている。クロム膜は、半導体用フォトマスクの基材であるマスクブランクスなどにおいて形成されることがある。ターゲット中の酸素含有量が多いと、スパッタリング法によってクロム膜を形成する際に、パーティクルと呼ばれる金属酸化物からなる不純物粒子が発生してクロム膜中に混入することがある。このパーティクルは、マスクブランクスを用いて形成される微細な配線において短絡を引き起こす要因ともなり得るものである。このため、ターゲットにおいては、酸素含有量を低くすることが求められている。
例えば下記特許文献1には、酸素含有量を30ppm以下に低減した極低酸素・超高純度クロムターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のターゲットは、以下に示す課題を有していた。
すなわち、特許文献1に記載のターゲットは、低い酸素含有量を有するものの、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させる点で改善の余地を有していた。
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能であり、低い酸素含有量を有するクロム焼結体及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びクロム膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以下の開示により上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は特許請求の範囲の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
(1)粒子を含み、前記粒子の平均KAM値が2°以下であり、前記粒子の平均粒径が150μmより大きく400μm以下である、クロム焼結体。
(2)酸素含有量が100質量ppm以下であり、相対密度が99.6%より大きい、(1)に記載のクロム焼結体。
(3)ビッカース硬度が100HV以上である、(1)又は(2)に記載のクロム焼結体。
(4)金属不純物の含有量の総計が100質量ppm以下である、(1)乃至(3)のいずれかに記載のクロム焼結体。
(5) 前記粒子の平均アスペクト比が1以上1.8以下である(1)乃至(4)のいずれかに記載のクロム焼結体。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載のクロム焼結体を製造する方法であって、
電解クロムフレークを1200℃以上1400℃以下で加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程の後に前記電解クロムフレークを容器内に充填し、得られる充填物に対して熱間等方圧加圧処理により焼成を行う焼成工程とを備える、クロム焼結体の製造方法。
(7)加熱処理の雰囲気が不活性ガス雰囲気である(6)に記載のクロム焼結体の製造方法。
(8)前記電解クロムフレークの酸素含有量が130質量ppm以下である(6)又は(7)に記載のクロム焼結体の製造方法。
(9)(1)乃至(5)のいずれかに記載のクロム焼結体を備える、スパッタリングターゲット。
(10)(9)に記載のスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法により基板上にクロム膜を形成してクロム膜付き基板を製造する、クロム膜付き基板の製造方法。
【0006】
(1)によれば、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能であり、低い酸素含有量を有することも可能となる。
【0007】
(2)によれば、クロム焼結体の相対密度が99.6%より高いことで、このクロム焼結体を用いて得られるターゲットを用いてスパッタリング法によりクロム膜を形成する際に、異常放電又はパーティクルの発生を抑制し、クロム膜の膜品質を向上させることができる。また、クロム焼結体の酸素含有量が100質量ppm以下であることで、成膜時にクロム膜への酸素の混入を低減し、酸素の混入を原因とするパーティクルの発生を抑制することが可能なターゲットを製造することが可能となる。更には、より結晶性の高いクロム膜を形成することが可能なターゲットを製造することも可能となる。
【0008】
(3)によれば、スパッタリング中にターゲット表面がプラズマの衝突により高温になって表面に応力が発生し、ターゲットに割れが発生することを抑制することができ、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0009】
(4)によれば、クロム焼結体を用いて得られるターゲットにおいて金属不純物に起因する粒子の粒界の脆弱化をより抑制し、ターゲットの強度をより向上させることが可能となり、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
【0010】
(6)によれば、上述したクロム焼結体を効果的に製造することができる。
【0011】
(9)によれば、本開示のスパッタリングターゲットは、上述したクロム焼結体を備えるため、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際に、低い酸素含有量を有するクロム膜を形成することができ、クロム膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0012】
(10)によれば、上記スパッタリングターゲットを用いるため、スパッタリング法により基板上にクロム膜を形成する際に、低い酸素含有量を有するクロム膜を形成することができ、クロム膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能であり、低い酸素含有量を有するクロム焼結体及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びクロム膜付き基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】観察領域Aを説明するための焼結体の上面模式図である。
【
図2】測定部分Bを説明するための焼結体の断面模式図である。
【
図3】
図1とは異なる端面形状を有する焼結体の上面模式図である。
【
図4】
図1及び
図3とは異なる端面形状を有する焼結体の上面模式図である。
【
図5】クロム膜付き基板のクロム膜の表面における測定点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示について、一実施形態を示して詳細に説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<クロム焼結体>
本開示のクロム焼結体とは、クロムをマトリックス(主相)とする焼結体、更には主としてクロムの粒子(結晶粒子)から構成される焼結体であり、クロムの結晶粒子のみからなる粒子により構成される焼結体であってもよい。
本開示のクロム焼結体は、粒子を含み、粒子の平均KAM値が2°以下であり、粒子の平均粒径が150μmより大きく400μm以下である。
本開示のクロム焼結体によれば、低い酸素含有量を有し、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
以下、クロム焼結体について詳細に説明する。
【0017】
(平均粒径)
クロム焼結体を構成する粒子の平均粒径は150μmより大きく400μm以下である。粒子の平均粒径を150μmより大きく400μm以下とすることで、低い酸素含有量を有するターゲットを製造することが可能となる。また、スパッタリング時に、異常放電を抑制することができ、安定的に放電を起こすことが可能となる。粒子の平均粒径は、より好ましくは200μm以上400μm以下であり、更に好ましくは230μm以上350μm以下であり、特に好ましくは250μm以上300μm以下である。平均結晶粒径(平均粒径)は、JIS G 0551:2013の付属書Cの切断法に準拠した方法で求めることができ、クロム焼結体又はターゲットの組織を観察しながら、クロム焼結体又はターゲットを構成する結晶粒子を横切る線分の1結晶粒あたりの平均線分長から求められる値である。あるいは、平均粒径は、クロム焼結体又はターゲットの組織の断面を研磨した上で電解エッチングを行い、観察される100点以上(好ましくは120±20点)の粒子について直径法にて測定した粒径に基づいて粒径の粒度分布を作成した場合に、その粒度分布における中央値(D50)であってもよい。クロム焼結体又はターゲットの組織の観察方法としては、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて観察する方法等が挙げられる。
【0018】
(平均アスペクト比)
クロム焼結体を構成する粒子の平均アスペクト比は、特に制限されるものではないが、好ましくは1以上1.8以下であり、より好ましくは1.0以上1.6以下であり、さらに好ましくは1.05以上1.2以下である。アスペクト比とは、クロム焼結体を構成する粒子を楕円近似した際の長径/短径であり、粒子形状の等方性を示すパラメータである。粒子の平均アスペクト比が1以上であることで、成膜時のターゲット表面の凹凸を低減し、パーティクルが低減される。一方、粒子の平均アスペクト比が1.8以下であることで、焼結体の組織の面内方向の強度が上昇し、成膜時のターゲットの割れを抑制できる。また、平均アスペクト比が1以上1.8以下であることで、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際に、成膜速度がより安定する。平均アスペクト比は、SEM-EBSD(走査電子顕微鏡-電子線後方散乱回折装置、例えば、SEM:日本電子製、EBSD:オックスフォード社製)を利用し、以下の測定条件及び使用プログラムで焼結体の組織の観察を行い、輪郭が途切れることなく観察される全ての粒子についてそれぞれを楕円近似した際の長径/短径の数値を算出し、これらの数値を相加平均した値である。観察する粒子は100個以上、好ましくは150±20個である。
(測定条件)
ビーム条件:加速電圧20kV、照射電流100μA
ワークディスタンス:10mm
ステップ幅:5μm
(使用プログラム)
測定プログラム:AZtec
解析プログラム:AZtec Crystal
【0019】
(平均KAM値)
クロム焼結体における平均KAM値は2°以下である。KAM(KernelAverage Misorientation)は、粒子内の残留歪みを示すパラメータであり、値が大きい程、粒子(結晶粒子)内の残留歪みが大きいことを示す。平均KAM値が2°以下であることで、クロム焼結体の内部の歪みが低減され、スパッタリング時の応力開放によるクロム膜の膜厚の不均一化が抑制される。その結果、クロム膜の膜厚の均一性が向上する。平均KAM値は、クロム膜の膜厚の均一性を向上させる観点から、好ましくは1.8°以下、より好ましくは1.2°以下である。平均KAM値は、1.0°以下、0.8°以下、0.6°以下、0.5°以下、0.4°以下、又は、0.3°以下であってもよい。
平均KAM値は0°超、0.10°以上、又は、0.20°以上であることが挙げられる。特に好ましい平均KAM値として、0°超2°以下、0.10°以上1.0°以下、0.1°以上0.5°以下、0.1°以上0.3°以下、又は、0.20°以上0.3°以下が例示できる。
【0020】
なお、平均KAM値とは、焼結体の断面における観察領域Aにおける測定部分Bについて、SEM-EBSD(SEM:日本電子製、EBSD:オックスフォード社製)を利用し、上記の測定条件及び使用プログラムで焼結体の組織の観察を行った後、測定部分Bにおいて輪郭が途切れることなく観察される全ての粒子におけるKAM値を測定し、それらのKAM値を相加平均した値をいう。観察する粒子は100個以上、好ましくは150±20個である。
ここで、観察領域A及び測定部分Bについて
図1及び
図2を用いて説明する。
【0021】
図1及び
図2に、焼結体の模式図を示す。
図1は、観察領域Aを説明するための焼結体の上面模式図であり、
図2は、測定部分Bを説明するための焼結体の断面模式図である。焼結体の形状は特に限定されないが、
図1及び
図2においては、焼結体は円板状であるとして説明する。
図2に示すように、焼結体の端面である表面11及び裏面12は、いずれも円板の平面に相当する。
【0022】
図1に示すように、焼結体1の円形の表面11における環状領域が観察領域Aである。具体的には、円の中心Oから外周までの距離(円形の表面11の半径)をRとするとき、観察領域Aは、Oを中心とし半径が0.5Rの円の円周C1と、Oを中心とし半径が0.75Rの円の円周C2とに挟まれた斜線領域である。
なお、
図3に示すように、焼結体の表面11が四角形である場合は、対角線の交点Pから四角形の外周(表面11の外周縁)上の点Qまでの距離をPQとするとき、観察領域Aは、Pを表面11の対角線の交点としPから外周までの距離が0.5PQである四角形の周縁D1と、Pを対角線の交点としPから外周までの距離が0.75PQである四角形の周縁D2とに挟まれた斜線領域である。
図4に示すように、焼結体の表面11がその他の平面形状(例えば三角形)である場合は、焼結体の表面11において当該平面形状の重心となる点Gを重心とし、かつ、当該平面形状と相似であり、その相似比が0.5である領域の周縁E1と、焼結体の表面11において当該平面形状の重心となる点Gを重心とし、かつ、当該平面形状と相似であり、その相似比が0.75である領域の周縁E2とに挟まれた斜線領域を観察領域Aとすればよい。この場合、表面11の周縁上の点Hと重心Gとを結ぶ線分の距離をGHとした場合、この線分に沿った重心Gから周縁E1までの距離は0.5GHとなり、この線分に沿った重心Gから周縁E2までの距離は0.75GHとなる。
一方、測定部分Bは、焼結体1の断面13における観察領域Aのうち、幅2mm×全厚みt(mm)の領域をいう(
図2参照)。
【0023】
(相対密度)
クロム焼結体の相対密度は99.6%より高いことが好ましい。クロム焼結体の相対密度が99.6%より高いことで、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際に、異常放電やパーティクルの発生を抑制し、クロム膜の膜品質がより向上する。クロム焼結体の相対密度はより好ましくは99.7%以上であり、特に好ましくは99.9%以上である。相対密度は高いことが好ましいが100%以下であればよく、本開示のクロム焼結体の相対密度は99.6%より高く100%以下、又は、99.8%以上100%以下であることが好ましい。クロム焼結体の相対密度は、次の方法で測定できる。すなわち、JIS R 1634に準じてクロム焼結体の実測密度を測定し、これをクロムの真密度で除し、相対密度を算出する。本実施形態において、クロムの真密度は7.19g/cm3とすればよい。
【0024】
(酸素含有量)
クロム焼結体の酸素含有量は100質量ppm以下であることが好ましく、30質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることが更に好ましい。クロム焼結体の酸素含有量が100質量ppm以下であることで、成膜時にクロム膜への酸素の混入が低減される。これにより、酸素の混入を原因とするパーティクルの発生が抑制可能なターゲットの製造が可能となる。更に、酸素含有量が少ないことで、より結晶性の高いスパッタリング膜を得ることが可能なターゲットの製造が可能となる。
酸素含有量は少ないことが好ましいが、0.1質量ppm以上、2質量ppm以上、又は、5質量ppm以上であってよい。
好ましい酸素含有量として0.1質量ppm以上100質量ppm以下、0.1質量ppm以上30質量ppm以下、又は2質量ppm以上20質量ppm以下が例示できる。
酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(例えば、ON736、LECO製)にて測定される値である。
【0025】
(ビッカース硬度)
クロム焼結体のビッカース硬度は100HV以上であることが好ましい。この場合、スパッタリング中のプラズマの衝突による表面応力の発生に起因するターゲットの割れが抑制でき、また、パーティクル発生が抑制できる。
クロム焼結体のビッカース硬度は、より好ましくは110HV以上、特に好ましくは120HV以上である。
クロム焼結体のビッカース硬度は、好ましくは180HV以下、より好ましくは150HV以下、更に好ましくは130HV以下である。好ましいビッカース硬度として、100HV以上180HV以下、110HV以上150HV以下、又は、110HV以上130HV以下が例示できる。
ビッカース硬度は、JIS-Z-2244-1:2009に準じた方法によって測定することができる。ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が例示できる。
測定試料 :5±0.5mm(試料厚み)
測定荷重 :10kgf
【0026】
(金属不純物の含有量)
クロム焼結体中の金属不純物の含有量の総計は、150質量ppm以下であってよく、100質量ppm以下であってよい。
クロム焼結体中の金属不純物の含有量の総計は100質量ppm以下であることが好ましい。この場合、金属不純物に起因する粒子の粒界の脆弱化がより抑制され、ターゲットの強度をより向上させることが可能となる結果、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際のパーティクル発生の抑制が可能となる。
【0027】
クロム焼結体は実用的な強度を有するターゲットが得られる限りにおいて金属不純物を含有していてもよく、クロム焼結体中の金属不純物の含有量の総計は、例えば、0質量ppm以上、20質量ppm以上、50質量ppm以上、又は、80質量ppm以上が挙げられる。本開示のクロム焼結体の金属不純物の含有量の総量として、0質量ppm以上150質量ppm以下、50質量ppm以上150質量ppm以下、又は、80質量ppm以上100質量ppm以下が例示できる。
上記金属不純物は、クロム(Cr)以外の金属が挙げられ、Fe、Al、Si及びCuからなるものであってよい。なお、本開示における金属不純物の含有量の総量は、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Th及びUの合計含有量である。
【0028】
金属不純物は少ないことが好ましいが、個々の金属不純物の含有量の範囲として、下記の範囲が例示できる。
Feの含有量は0.5質量ppm以上40質量ppm以下、又は、0.5質量ppm以上25質量ppm以下であればよい。
Pbの含有量は0.05質量ppm以上1質量ppm以下、又は、0.05質量ppm以上0.3質量ppm以下であればよい。
Caの含有量は5質量ppm以下、又は、3質量ppm以下であればよく、好ましくは0質量ppm以上1.2質量ppm以下、より好ましくは0質量ppm以上1質量ppm以下である。
Mgの含有量は5質量ppm以下、又は、3質量ppm以下であればよく、好ましくは0質量ppm以上5質量ppm以下、より好ましくは0質量ppm超0.1質量ppm以下である。
Naの含有量は10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は、3質量ppm以下であればよく、好ましくは0質量ppm以上8質量ppm以下、又は、0質量ppm超5質量ppm以下である。
Kの含有量は5質量ppm以下、又は、3質量ppm以下であればよく、好ましくは0質量ppm以上5質量ppm以下、又は、0質量ppm超1質量ppm以下である。
【0029】
個々の非金属不純物の含有量の好ましい範囲は下記の通りである。非金属不純物としては、例えば、硫黄、炭素、酸素、水素、塩素が挙げられる。なお、硫黄や炭素等と比べ、酸素の影響は大きいため、便宜上、本明細書において酸素は非金属不純物に含まないものとする。
硫黄の含有量は0.1質量ppm以上30質量ppm以下、又は、0.1質量ppm以上20質量ppm以下であることが挙げられる。
炭素の含有量は0.1質量ppm以上30質量ppm以下、又は、0.1質量ppm以上20質量ppm以下であることが挙げられる。
【0030】
<クロム焼結体の製造方法>
本開示のクロム焼結体の製造方法は、電解クロムフレークを1200℃以上1400℃以下で加熱処理する加熱処理工程と、加熱処理工程の後に電解クロムフレークを容器内に充填し、得られる充填物に対してHIP処理(熱間等方圧加圧処理)により焼成を行う焼成工程とを備える。
【0031】
上記製造方法によれば、上述したクロム焼結体を効果的に製造することができる。
【0032】
以下、上記加熱処理工程及び焼成工程について詳細に説明する。
【0033】
(加熱処理工程)
加熱処理工程により、電解クロムフレークが焼成工程での使用に適した状態となる。加熱処理工程で用いる電解クロムフレークとは、電解精製したフレーク状の金属クロムである。
電解クロムフレークは、未粉砕の電解クロムフレークでも粉砕した電解クロムフレークでもよいが、未粉砕の電解クロムフレークであることが好ましい。この場合、粉砕エネルギーによる電解クロムフレークの酸化、粉砕媒体から電解クロムフレークへの不純物の混入及び粉砕により電解クロムフレークに生じる歪みが防止される。このため、酸素含有量及び不純物含有量が低減され、また、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際に応力開放によるクロム膜の膜厚の不均一化が抑制されるターゲットを製造しうるクロム焼結体を製造することもできる。
【0034】
電解クロムフレークの平均粒径は、特に制限されないが、250μm以上であることが好ましく、5000μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは10000μm以上である。電解クロムフレークの平均粒径は、100000μm以下であることが好ましく、50000μm以下であることがより好ましい。好ましい平均粒径として250μm以上10cm以下、1mm以上15mm以下、又は、5mm以上15mm以下が例示できる。
電解クロムフレークの平均粒径は、JISZ8815に基づき多段篩にて原料のふるい分けを実施した場合におけるその中央値の粒子径から求められる。
【0035】
電解クロムフレークの酸素含有量は、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは30質量ppm以下、更に好ましくは20質量ppm以下、更により好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは7質量ppm以下である。電解クロムフレークの酸素含有量を低減することで、ターゲットの酸素含有量を低減することが可能となる。酸素含有量は少ないことが好ましいが、0質量ppmより多くてよく、1質量ppm以上であってよい。好ましい電解クロムフレークの酸素含有量として0質量ppmより多く100質量ppm以下、0質量ppmより多く30質量ppm以下、又は、1質量ppm以上20質量ppm以下が例示できる。
酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(例えば、ON736、LECO製)にて測定される値である。
【0036】
電解クロムフレークにおける金属不純物の含有量は、好ましくは130質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下である。電解クロムフレークにおける金属不純物含有量を低減することで、ターゲットの不純物含有量を低減することが可能となる。金属不純物含有量は少ないことが好ましいが、0質量ppmより多く、1質量ppm以上、10質量ppm以上、又は、50質量ppm以上であってよい。好ましい金属不純物の含有量は0質量ppmより多く130質量ppm以下、又は、50質量ppm以上130質量ppm以下が例示できる。
【0037】
電解金属クロムフレークはクロムの純度が高いことが好ましく、電解金属クロムフレークの純度は99.95%(3N5)以上であることが好ましく、99.99%(4N)以上であることがより好ましい。特に、電解クロムフレークの平均粒径が250μm以上である場合、得られるクロム焼結体の比表面積を低減させ低酸素化することが可能となる。その後HIP処理により焼成を行うことで、出発原料としての高純度、低酸素金属クロムの品位を損なうことなく、酸素含有量を低減した低酸素・高純度クロムターゲットを製造することができる。
【0038】
電解クロムフレークの加熱温度T1は、1200℃以上1400℃以下である。加熱温度T1をこの温度範囲とすることで、電解析出時に発生したフレーク内の残留応力が緩和され、得られるクロム焼結体において歪みが低減できる。更に加熱処理を行うことで、電解クロムフレークのHIP処理用の缶への充填が容易となり、HIP処理時における缶への充填密度が高まる。
加熱温度T1は、1200℃以上1300℃以下であることが好ましい。
【0039】
加熱時間は特に制限されるものではないが、ひずみを低減させるという観点から、1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。加熱時間は、加熱処理に供する出発原料の量などにより適宜調整すればよいが、クロム焼結体の生産性を考慮すると、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは7時間以下であることが挙げられ、1時間以上15時間以下、又は、3時間以上10時間以下が例示できる。
【0040】
加熱処理は、不活性ガス雰囲気又は真空中で実施することが好ましい。この場合、電解フレークの酸化を抑制し、酸素含有量の増加が抑制できる。
【0041】
不活性ガスとは窒素、又はアルゴンなどの希ガスである。不活性ガスとしては、アルゴンが好ましい。加熱処理の雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気、より好ましくはアルゴン雰囲気である。
【0042】
(焼成工程)
焼成工程は、加熱処理工程後の電解クロムフレークを容器内に充填し、得られる充填物に対してHIP処理により焼成温度T2で焼成を行う工程である。
【0043】
上記容器は、例えば軟鉄製の缶が挙げられる。
焼成工程において、容器への出発原料の充填密度は50%以上であることが好ましく、50%以上80%以下であればよい。充填密度は、下記式に基づいて算出した充填物の実測密度と、クロムの真密度(7.19g/cm3)を元に相対密度として算出される値である。
実測密度=缶に充填した充填物の重量(g)/缶の容積(cm3)
充填密度=実測密度/クロムの真密度
【0044】
上記焼成温度T2は、電解クロムフレークが焼結する温度であれば特に制限されないが、電解クロムフレークの加熱温度T1に対し、T1-100(℃)以上T1+100(℃)以下であること(T2(℃)=T1±100(℃)を満たすこと)が好ましい。この場合、焼成工程における異常な粒成長を抑制しつつ歪みの発生を抑制しながら電解クロムフレークを焼結させることできる。
【0045】
電解クロムフレークの焼結が進行する範囲であれば焼成工程における圧力は特に制限されないが、効果的に気泡を低減し密度を向上させるという観点から、焼成工程における圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上である。焼成工程における圧力は、装置保護という観点から、好ましくは400MPa以下、より好ましくは300MPa以下である。好ましい焼成工程における圧力として50MPa以上400MPa以下、又は、100MPa以上200MPa以下が例示できる。
【0046】
焼成工程における保持時間(焼成温度での保持時間)は特に制限されるものではないが、安定的に焼結が進行するという観点から、1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。焼成工程における保持時間は、粒子径を制御する観点から、10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。好ましい保持時間として1時間以上10時間以下、又は、3時間以上5時間以下が例示できる。
(その他の工程)
焼成工程により焼成された充填物(熱処理体)に対しては、必要に応じて機械加工を行ってもよい。機械加工を行わなければ、焼成された充填物がクロム焼結体となり、機械加工が行われれば、焼成された充填物に加え、焼成された充填物を機械加工してなるものがクロム焼結体となる。
【0047】
焼成工程で得られる熱処理体(クロム焼結体)の表面には酸化物が生成することがあり、また表面粗さが大きくなりやすい。そのため、機械加工として表面研磨加工を行うことが好ましい。加工方法は特に限定されないが、平面研削機による研削などが挙げられる。熱処理体表面の酸化スケールを取り除くために表面から0.5mm以上の部分を切削することが好ましい。
【0048】
機械加工により加工変質層が生成される場合、加工変質層の厚さは100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。加工変質層の厚さが100μm以下であることで、加工変質層が剥離しパーティクルが発生することがより抑制される。加工変質層は0μm以上100μm以下、又は、0μm以上5μm以下であることが挙げられる。
加工変質層とは、クロム焼結体の表面側の層であって、機械加工により細かいクラックが形成されている層をいう。
【0049】
クロム焼結体に傷が存在する場合、その傷の最大のサイズは1mm以下であることが好ましい。
ここで、傷とは、クロム焼結体の表面に形成される凹凸部をいい、例えば線状の凹みや物体との衝突痕を含む。また傷のサイズとは、傷を平面視した場合に、同一の傷上にある2点間の距離が最大となるときの当該2点間の距離の値をいう。
【0050】
<スパッタリングターゲット>
本開示のターゲットは、上述したクロム焼結体を備える。本開示のターゲットは、上述したクロム焼結体に貼り付けられるバッキングプレートをさらに備えてもよい。
本開示のスパッタリングターゲットは、上述したクロム焼結体を備えるため、低い酸素含有量を有し、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0051】
ターゲットは、クロム焼結体とバッキングプレートとの間にさらに接合材を備えてもよい。接合材の材質としては様々な材料を利用することができるが、スパッタリング時の熱拡散及び熱膨張の抑制の点でインジウムが好ましい。
クロム焼結体とバッキングプレートとの接合方法としては、拡散接合、ソルダーボンディング及び摩擦攪拌接合の群から選ばれる1つ以上が挙げられるが、スパッタリングに供する強度でクロム焼結体とバッキングプレートが接合されれば接合方法は特に限定されない。
【0052】
クロム焼結体とバッキングプレートとの界面における接合率(ボンディング率)は特に制限されるものではないが、接合率は95%以上が好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることが特に好ましい。接合率とは、以下の式で算出される割合をいう。
接合率(%)=100×S1/S
(上記式中、Sは、ターゲットにおいてクロム焼結体とバッキングプレートをバッキングプレートの厚み方向に見た場合にクロム焼結体とバッキングプレートとが重なる面の面積を表し、S1は、クロム焼結体とバッキングプレートとで接着している部分の面積を表す。)
接合率を95%以上とすることで、熱伝導が促進され、クロム焼結体のスパッタ時に発生する熱による変性およびパーティクルの発生を抑制することが可能となる。接合率は高いことが好ましいが、95%以上100%以下、99%以上100%以下、又は、99.5%以上100%以下であればよい。
【0053】
ターゲットの反りは小さいほど好ましく、具体的には0.5mm以下であることが好ましく、0mm以上0.5mm以下、0.05mm以上0.3mm以下、0.10mm以上0.15mm以下が例示できる。
反りとは、クロム焼結体のスパッタリング面を下にして平面に置いた際に、スパッタリング面と平面との接触点から、スパッタリング面の表面における、当該平面よりもっとも遠い位置にある点までの距離をいう。
【0054】
<クロム膜付き基板の製造方法>
本開示のクロム膜付き基板の製造方法は、上述したターゲットを用い、スパッタリング法により基板上にクロム膜を形成することでクロム膜付き基板を製造するものである。
本開示のクロム膜付き基板の製造方法によれば、上記スパッタリングターゲットを用いるため、スパッタリング法により基板上にクロム膜を形成する際に、低い酸素含有量を有するクロム膜を形成することができ、クロム膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0055】
上記基板は、特に制限されるものではないが、例えばガラス基板及び石英基板の少なくともいずれかが挙げられ、ガラス基板が好ましい。
【0056】
クロム膜を形成しているときの上記基板の温度は、特に制限されるものではないが、例えば室温(25℃)でよい。
【0057】
成膜時の雰囲気は、放電によりスパッタリングを生じさせるガス種であれば特に制限されるものではないが、例えばアルゴンでよい。
【0058】
成膜時のガス圧は、特に制限されるものではないが、例えば0.2Pa以上2Pa以下でよい。
【0059】
成膜時の電力密度は、特に制限されるものではないが、例えば2.5W/cm2以上50W/cm2以下、又は、5W/cm2以上10W/cm2以下でよい。
【0060】
成膜時の異常放電の回数は、少ないことが好ましいが、好ましくは3回/h以下、より好ましくは1回/h以下であり、0回/h以上3回/h以下、又は0回/h以上1回/h以下が例示できる。
【0061】
クロム膜の膜厚の標準偏差σは小さいほどよいが、具体的には10以下であることが好ましく、0以上10以下、又は、1以上8以下が例示できる。また、下記式で定義されるNUも小さいほどよいが、具体的には、10%以下、さらには8%以下であることが好ましく、0%以上10%以下、又は、1%以上8%以下が例示できる。
NU(%)=(膜厚の標準偏差σ(nm)/膜厚の平均値(nm))×100
膜厚の測定は、クロム膜付き基板のクロム膜10の表面10aにて、膜厚測定器(DEKTAK)を用いて行われる。膜厚の測定は、
図5に示すように、クロム膜10の表面10a上のある1点Lと、その点Lを中心とする3つの同心円J1、J2、J3上にそれぞれ配置される5点、10点、及び15点の合計31個の測定点にて行われる。ここで、3つの同心円J1、J2、J3のうち最も外側の同心円J3は、クロム膜10の表面10aの総面積の60%以上を占める範囲を囲むように配置されていればよい。膜厚の平均値は、上記のようにして測定された膜厚の相加平均値をいう。また、膜厚の標準偏差σは、測定した膜厚から膜厚分布を求め、この膜厚分布から算出される標準偏差をいう。
【実施例0062】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例で使用したパラメータの測定方法は以下のとおりである。
<原料の平均粒径>
原料の平均粒径は、JISZ8815に基づき多段篩にて原料のふるい分けを実施した場合におけるその中央値の粒子径とした。
<酸素含有量>
原料及びクロム焼結体中の酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(装置名:ON736、LECO製)にて測定を行った。
<不純物含有量>
原料及びクロム焼結体中の金属不純物の含有量はグロー放電質量分析法(GDMS:Glow Discharge Mass Spectrometry)により、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Th及びUを測定し、また、非金属不純物(硫黄、炭素)の含有量はガス成分分析法(IGA:Instrumental Gas Analysis)により測定した。
<充填密度>
充填密度は、下記式に基づいて算出した充填物の実測密度と、クロムの真密度(7.19g/cm
3)を元に相対密度として算出した。
実測密度=缶に充填した充填物の重量(g)/缶の容積(cm
3)
充填密度=実測密度/クロムの真密度
<平均KAM値>
図1に示すように、焼結体1の円形の表面11における環状領域を観察領域Aとし、焼結体の断面の観察領域Aにおける測定部分B(
図2の斜線部分参照)について、SEM-EBSD(走査電子顕微鏡-電子線後方散乱回折装置、SEM:日本電子製、EBSD:オックスフォード社製)を利用して、以下の測定条件及び使用プログラムで焼結体の組織の観察を行った後、測定部分Bにおいて輪郭が途切れることなく観察される全ての粒子(120±20個)におけるKAM値をそれぞれ測定し、それらのKAM値の相加平均値を平均KAM値とした。
(測定条件)
ビーム条件:加速電圧20kV、照射電流100μA
ワークディスタンス:10mm
ステップ幅:5μm
(使用プログラム)
測定プログラム:AZtec
解析プログラム:AZtec Crystal
<平均粒径>
焼結体を切断、研磨した上で電解エッチングを行い、SEMを用いて観察される100点以上(120±10点)の粒子(結晶粒子)について直径法にて測定した粒径に基づいて粒径の粒度分布を作成し、その粒度分布における中央値(D50)を、焼結体を構成する粒子の平均粒径とした。
<平均アスペクト比>
焼結体を切断、研磨した上で電解エッチングを行い、SEMを用いて観察される100点以上(120±10点)の粒子(結晶粒子)に対し、それぞれを楕円近似した際のアスペクト比(=長径/短径)を算出し、これらのアスペクト比の相加平均値を平均アスペクト比として求めた。
<焼結体の相対密度>
クロム焼結体の相対密度は、次の方法で測定した。すなわち、JIS R 1634に準じてクロム焼結体の実測密度を測定し、これをクロムの真密度で除して相対密度を算出した。クロムの真密度は、7.19g/cm
3とした。
<ビッカース硬度>
ビッカース硬度は、JIS-Z-2244-1に準じて測定した。ビッカース硬度の測定条件は、以下の条件とした。
測定試料 :5±0.5mm(試料厚み)
測定荷重 :10kgf
<膜厚の平均値及び標準偏差>
クロム膜付き基板のクロム膜の表面にて、膜厚測定器(DEKTAK)を用いて膜厚を測定し、その平均値を膜厚の平均値として求めた。膜厚の測定は、
図5に示すように、クロム膜10の表面10a上のある1点Lと、その点Lを中心とする3つの同心円J1、J2、J3上にそれぞれ配置される5点、10点、及び15点の合計31個の測定点にて行った。このとき、3つの同心円J1、J2、J3のうち最も外側の同心円J3は、クロム膜10の表面10aの総面積の72%を占めていた。
また、測定した膜厚から膜厚分布を求め、この膜厚分布から標準偏差を算出した。
<異常放電>
異常放電は、アークカウンターを用いて検知した。そして、成膜中に異常放電が検知された回数を成膜時間で除して一時間あたりの異常放電回数を求めた。
【0064】
(実施例1)
純度99.995%(4N5)であり、表1に示す平均粒径等を有する市販の電解金属クロムフレーク30kgを出発原料として使用した。この電解金属クロムフレークに対し、アルゴンガス雰囲気中、1200℃で10時間の加熱処理を行った。
次に、熱処理した出発原料を軟鉄製の缶(400mm×400mm×200mm)に、表2に示す充填密度になるように充填し、充填物を真空封止後、表2に示す焼成条件でHIP処理を行い、焼成した。焼成後、機械加工により直径216mm×6.35mmのクロム焼結体(インゴット)を得た。
次に、得られたクロム焼結体を、インジウムを接合材としてバッキングプレートに接着させてターゲットを作製した。
得られたターゲットを用い、表4に示すスパッタリング条件でスパッタリングを行い、ガラス基板上にクロム膜(クロムスパッタリング膜)を成膜し、クロム膜付き基板を製造した。成膜時において、基板温度は室温(RT)とした。
【0065】
(実施例2)
電解金属クロムフレークとして、表1に示す平均粒径等を有する電解金属クロムフレークを用いたこと以外は実施例1と同様な方法で加熱処理をした。加熱処理後の電解金属クロムフレークを、表2に示す充填密度になるように充填し、表2に示す焼成条件でHIP処理を行ったこと以外は実施例1と同様にしてクロム焼結体、ターゲット及びクロム膜付き基板を作製した。
【0066】
(実施例3)
電解金属クロムフレークとして、表1に示す平均粒径等を有する電解金属クロムフレークを用い、表1に示す加熱温度で加熱処理を行った。加熱処理後の電解金属クロムフレークを、表2に示す充填密度になるように充填し、表2に示す焼成条件でHIP処理を行ったこと以外は実施例1と同様にしてクロム焼結体及びターゲットを作製した。
【0067】
(比較例1)
純度99.99%(4N)であり、表1に示す物性を有する市販のクロム粉末(平均粒径150μm)125kgを出発原料として用意した。
上記クロム粉末を、熱処理を行うことなく、軟鉄製の缶(400mm×400mm×200mm)に、表2に示す充填密度になるように充填し、充填物を真空封止後、表2に示す焼成条件でHIP処理を行い、焼成した。得られたHIP処理体を、機械加工を行い、直径216mm×6.35mmのクロム焼結体(インゴット)を得た。
得られたクロム焼結体の評価結果を表2に示す。
【0068】
(比較例2)
表1に示す物性を有する電解金属クロムフレークを用い、熱処理を行うことなく、表2に示す充填密度になるように軟鉄製の缶に充填し、表2に示す焼成条件でHIP処理を行ったこと以外は実施例1と同様にしてクロム焼結体を作製した。
【0069】
(比較例3)
原料として、表1に示す平均粒径等を有する金属クロムフレークを用いた。
次に、この原料を、予め熱処理をすることなく、溶解炉に投入し、1950℃以上の温度まで加熱して溶解させた後、冷却して溶解品を得た。
次に、溶解品を機械加工して、直径216mm×6.35mmのインゴットを得た。
表1に加熱処理条件及び出発原料の物性、表2に焼成条件及びクロム焼結体の評価結果、表3にターゲットの評価結果、並びに、表4に成膜条件及び成膜特性の評価結果を示した。なお、比較例1乃至3では金属クロムに対して熱処理が行われていないため、表1において、「加熱温度」については「-」と表示した。また、表2において、比較例2の「-」は測定を行っていないことを示す。なお、表1及び表2において、「ppm」は「質量ppm」を表す。また、比較例3では原料としての金属クロムに対して焼成の代わりに溶解が行われたため、表2の「焼成条件」については「溶解品」と記載した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0070】
表4に示す結果より、実施例1及び2のクロム焼結体は、スパッタリング法によりクロム膜を形成する際にクロム膜の膜厚均一性を向上させることができるスパッタリングターゲットを製造することが可能であり、低い酸素含有量を有することが確認された。