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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133892
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】精子の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20230920BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20230920BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N33/48 M
G01N1/30
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039134
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 由紀
(72)【発明者】
【氏名】兼子 智
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼松 潔
(72)【発明者】
【氏名】横田 理
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B063
【Fターム(参考)】
2G045BB25
2G045CB14
2G045DA36
2G045FB04
2G045FB11
2G045GC12
2G052AA33
2G052FA09
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA07
4B063QA11
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QR41
4B063QR66
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来法と比較して、より高感度、かつ安価に精子頭部を染色するための新たな方法を提供する。
【解決手段】下記式で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化する。

(R、Rは、ベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、R、Rは、水素原子または低級アルキル基を表す)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化する方法。
【化1】
(式(I)中、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは水素原子または低級アルキル基を表す)
【請求項2】
前記R、R、RおよびRが水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
精子を検出する方法であって、請求項1または2に記載の方法により、当該精子頭部を可視化することを含む、前記方法。
【請求項4】
精子頭部の形態異常を評価する方法であって、請求項1または2に記載の方法により、当該精子頭部を可視化することを含む、前記方法。
【請求項5】
前記形態異常が異常空胞であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
試料中のプロタミンの検出方法であって、下記式(I)で表される化合物をプロタミンに結合させ、当該プロタミンを可視化することを含む、前記方法。
【化2】
(式(I)中、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは水素原子または低級アルキル基を表す)
【請求項7】
前記R、R、RおよびRが水素である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
精子頭部またはプロタミンの可視化用試薬であって、少なくとも下記式(I)で表される化合物を含む、前記試薬。
【化3】
(式(I)中、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは水素原子または低級アルキル基を表す)
【請求項9】
前記R、R、RおよびRが水素である、請求項8に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の精子の有無、形態異常などを検出するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
男性不妊患者は全成人男性の約1%に上ると推定される。男性不妊症を扱う日本泌尿器科学会が2003年に策定した「精液検査標準化ガイドライン」における正常精子のクライテリアは、「頭部が楕円形で泳いでいる精子」とされており、精液の基本検査(精液量、精子数、濃度、運動性、頭部・尾部形態確認)は、治療方針を決定する上で最も重要な指標である。そこで通常検査では患者の精液標本(精液塗抹、精製精子塗抹等)を顕微鏡観察し、これらの要素を確認するが、特に頭部形態観察については、通常の外来診療における診断の精度は高いとは言えない。主な理由として、精子を検出できる適切な染色方法の欠如などが挙げられる。
外来検査における精液標本(精液塗抹、精製精子塗抹等)の顕微鏡観察には通常、ギムザやディフクイックと呼ばれる簡易的な細胞染色が施される。正常精子が豊富に存在する検体では、精子はこれら染色によって容易に検出される。一方、不妊患者検体では正常形態精子が殆ど含まれないことがあり、さらに精液濃縮操作によって精子以外の細胞が大量に混入するために、その検出は極めて困難である。
【0003】
精子には「プロタミン」と呼ばれる精子特異的核蛋白質が存在する。プロタミンは精巣内で精子形成過程の終盤に精子核に組み込まれるため、プロタミンを検出することで精子の有無とその成熟度をおおまかに判定することができる。精子以外の細胞が大量に混入した検体から精子を検出するためには、抗プロタミン抗体を用いた免疫染色が理論上有効であると考えられる。しかし免疫染色には、高価な抗体と、最低3時間におよぶ作業工程が必要となり、一般外来検査や施術中の迅速診断で行うことは現実的ではない。さらに蛍光検出の場合は高額な蛍光顕微鏡が必要となり、多くの検査室では設置が困難である。
【0004】
抗体による免疫染色以外の方法として、アントラキノン環を有する染色色素であるリアクティブブルー2(Reactive Blue 2)で精子頭部を染色して可視化する方法が開示されている(非特許文献1)。精子頭部の染色色素としてRB2を用いる方法は、抗プロタミン抗体を用いない点および作業工程が非常に単純である点において、免疫染色よりも利用性が高いと考えられる。
【0005】
以上のように、検体から精子を検出するための染色法として、免疫染色以外にもリアクティブブルー2染色による方法が報告されている。しかしながら、リアクティブブルー2染色と比較してより高感度に精子頭部を染色することが可能で、かつ、汎用性を高めるためにより安価な非免疫染色方法に対するニーズは高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kanekoら, J. Med. Diagn. Meth. 2013, 2:6 Doi; 10.4172-2168-9784. 1000145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、従来法と比較して、より高感度、かつ安価に精子頭部を染色するための新たな方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、従来、繊維や皮製品の染料として用いられている反応色素の一種であるリアクティブブラック5(Reactive Black 5)が、アルカリ性溶液中で精子特異的蛋白質のプロタミンと高い親和性を有し、細胞染色によって精液試料中に含まれるプロタミン含有精子細胞の頭部を高感度かつ特異的に検出し得ることを初めて見出した。精子細胞染色工程における染色時間はわずか10分程度と簡便である。
さらに、リアクティブブラック5染色によって、従来検査室では識別が困難であった精子頭部の形態、特に核内空胞の有無や形状を詳細に観察することが可能であることを見出した。また、リアクティブブラック5は、ヒト以外のほ乳動物、例えば、マウス、ブタなどの精子プロタミンにも同様の反応性を有することを確認した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(9)である。
(1)下記式(I)で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化する方法。
【化1】
(式(I)中、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは水素原子または低級アルキル基を表す)
(2)前記R、R、RおよびRが水素である、上記(1)に記載の方法。
(3)精子を検出する方法であって、上記(1)または(2)に記載の方法により、当該精子頭部を可視化することを含む方法。
(4)精子頭部の形態異常を評価する方法であって、上記(1)または(2)に記載の方法により、当該精子頭部を可視化することを含む方法。
(5)前記形態異常が異常空胞であることを特徴とする、上記(4)に記載の方法。
(6)試料中のプロタミンの検出方法であって、上記式(I)で表される化合物をプロタミンに結合させ、当該プロタミンを可視化することを含む方法。
(7)前記R、R、RおよびRが水素である、上記(6)に記載の方法。
(8)精子頭部またはプロタミンの可視化用試薬であって、少なくとも上記式(I)で表される化合物を含む試薬。
(9)前記R、R、RおよびRが水素である、上記(8)に記載の試薬。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高感度かつ安価に精子頭部を染色し、可視化する方法が提供される。本発明にかかる精子頭部の染色および可視化方法は、従来法と比較すると、簡便かつ高感度に精子頭部の検出が可能である。従って、本発明の方法を用いることで、不妊治療方針、例えば、身体的侵襲性の高い顕微鏡下精巣内精子採取術(Microdissection testicular sperm extraction;MD-TESE)を適用するか、あるいは回避するかなどの治療方法の選択を的確に判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】無精子症と診断されヒト精子検体をリアクティブブラック5で染色した結果を示す。染色後の精子標本を光学顕微鏡で観察した。左側の図は倍率1,000倍、右側の複数の図は、染色された細胞の代表例を倍率1,000倍に拡大した図である。
図2】重度乏精子症と診断されヒト精子検体をリアクティブブラック5で染色した結果を示す。染色後の精子標本を光学顕微鏡で観察した。倍率1,000倍である。
図3】濃度の異なるリアクティブブラック5で精子を染色し、その染色像のコントラストを比較した結果を示す。
図4】リアクティブブラック5およびリアクティブブルー2による精子の染色像を比較した結果を示す。左図:0.001% リアクティブブラック5による染色像、右図:0.02%リアクティブブルー2による染色像。
図5】リアクティブブラック5によるヒト精子頭部の染色像を二値化した結果を示す。リアクティブブルー2(上段)およびリアクティブブラック5(下段)染色した精子塗抹染色像を、ImageJを用いてグレースケール画像に変換後、二値化処理を行い、細胞自動認識によって画像上で「細胞」と認識されるエリアの個数を計数した。
図6】リアクティブブラック5染色によるヒト精子頭部空胞の検出の検討。リアクティブブラック5で白く色が抜ける頭部空胞(左パネル、処理なし)は 1 mM DTT処理で消失したことから(右パネル、1 mM DTT処理)、空胞周囲の構造物は還元剤処理によってその構造が壊れるもの、すなわちプロタミンであり、空胞部分はプロタミン凝縮が損なわれた領域であると推察された。
図7】頭部空胞精子の透過電顕像(左上パネル、TEM)。空胞部には、電子密度の低いクロマチン様の構造物が充填されている。頭部空胞精子の免疫染色像(右上、左下および下パネル)。空胞部分(矢印)は周囲と比較してDNA(右上)とプロタミン2(PRM2)(右下)が疎であり、一方ヒストンH3が凝縮している(左下)。
図8】リアクティブブラック5染色によりヒト精子頭部の形態を観察した結果を示す。形態異常および核内空胞率が軽度から重度と判断された精子標本(原精液および精製精子)をリアクティブブラック5で染色した。
図9】ヒトプロタミンのリアクティブブラック5で検出した結果を示す。ヒト精子からプロタミンを抽出し、アクリルアミド電気泳動を行った後、リアクティブブラック5で染色を行った(右図)。対照としてCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色を行った(左図)。
図10】リアクティブブラック5によるマウス精巣切片の染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
第1の実施形態は、下記式(I)で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化する方法である(以下「本実施形態にかかる可視化方法」とも記載する)。
【化2】
式(I)で表される化合物は、反応色素であり、一般に染料として使用されることが多い。本明細書中では、例えば、「式(I)の化合物」、「式(I)の色素化合物」などとも記載する。
上記式(I)中、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rはベンゼン環上の同一または異なる1~4個の置換基で、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは、水素原子または低級アルキル基を表し、Rは水素原子または低級アルキル基を表す。ここで、「低級アルキル基」とは、炭素数1~10、好ましくは1~5の直鎖状、分岐状、環状またはそれらの組み合わせの構造を持つ置換基のいずれであってもよい。
本実施形態において、式(I)の化合物のうち、特に好ましい化合物は、R、R、RおよびRのいずれも水素である、リアクティブブラック5(Reactive black 5)(C26H21N5Na4O19S6;4-アミノ-5-ヒドロキシ-3,6-ビス[[4-[[2-(ソジオスルホオキシ)エチル]スルホニル]フェニル]アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム(4-Amino-5-hydroxy-3,6-bis[[4-[[2-(sodiosulfooxy)ethyl]sulfonyl]phenyl]azo]-2,7-naphthalenedisulfonic acid disodium salt)、CAS番号:17095-24-8)である。
【0013】
式(I)の代表化合物であるリアクティブブラック5は、アルカリ性条件下で、精子頭部に存在するプロタミン(protamine)と特異的に結合する。リアクティブブラック5が精子頭部のプロタミンと結合すると、精子頭部を濃紺(青)色に染色する。従って、精子を含む試料にリアクティブブラック5を添加すると、精子頭部は濃紺(青)に染まり、可視化される。可視化された精子頭部は、顕微鏡などで観察することで、明瞭に確認することができる。
また、精子頭部の染色性の状態をカメラ等で撮影し、染色された精子頭部の画像を取得し、当該画像を電子情報化処理し、その染色強度を数値化することもできる。例えば、染色された精子頭部の色を、バイオイメージング解析システム等を用いて、赤、緑、青のRGBカラーに分け、色の染色性を、各々、色相に応じて二値化することができる。
【0014】
第2の実施形態は、精子を検出する方法であって、式(I)で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化することを含む方法である(以下「本実施形態にかかる検出方法」とも記載する)。すなわち、第1の実施形態にかかる可視化方法で精子頭部を可視化して、精子を検出する方法である。
本実施形態にかかる検出方法の対象となる試料は、動物(ヒトおよび非ヒト動物)から得られる精液および精液標本(例えば、精液塗抹、精製精子塗抹、精巣組織切片など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態にかかる検出方法では、精液標本などの試料を式(I)の色素化合物を接触させる工程が含まれるが、この工程は、特に限定はしないが、例えば、式(I)の色素化合物を含む溶液(例えば、アルカリ性(例えば、pH 9~pH 11程度、好ましくはpH10程度)の溶液など)を精液標本などに添加し、室温等で、数分から1時間程インキュベート(例えば、静置)することで実施することができる。なお、ここで挙げた条件(アルカリ性条件、温度、静置時間など)はあくまでも例示であって、適切な条件は、当業者であれば、適宜予備的な実験を行うことで、選択することができる。精液標本と式(I)の色素化合物を接触させ、インキュベートした後、余剰の式(I)の色素化合物を洗浄など行って除去した後、染色された精子頭部の有無について、顕微鏡等により観察を行う。
式(I)の色素化合物で試料を処理した後、試料中に精子が存在すれば、その頭部が染色されて可視化され、検出することができる。
【0015】
本実施形態にかかる検出方法において、試料に接触させる式(I)の色素化合物の濃度は、当業者であれば、予備的な実験などを行うことで、適宜選択可能であるが、あえて例示すれば、式(I)の色素化合物がリアクティブブラック5水溶液の場合、0.0001%(w/v)~0.001%(w/v)である。
【0016】
本実施形態にかかる検出方法は、従来の免疫染色法などと比較すると、短時間に、簡便かつ高感度に精子頭部の検出が可能であることから、本実施形態にかかる検出方法を使用することで、不妊患者検体中の精子の有無を迅速かつ正確に判定することができ、さらには精子の成熟度も大まかに判断することができる。その結果、例えば、身体的侵襲性の高い顕微鏡下精巣内精子採取術(Microdissection testicular sperm extraction;MD-TESE)を適用するか、あるいは回避するかなどの治療方法の選択を的確に判断することが可能となる。
【0017】
第3の実施形態は、精子頭部の形態異常を評価する方法であって、上記式(I)で表される化合物で精子頭部を染色することにより、当該精子頭部を可視化することを含む方法である(以下「本実施形態にかかる評価方法」とも記載する)。すなわち、第1の実施形態により精子頭部を可視化して精子頭部の形態異常を評価する方法である。
精子頭部(精子核)には、正常な精子頭部でも生理学的レベルの小さな空胞が存在する。この空胞が多発または肥大化し核容積の1/3以上を占めるものが異常空胞(異常精子)と呼ばれる。空胞内部は透過電子顕微鏡で電子密度が疎な領域として観察されることから、局所的なクロマチン凝縮不全と考えられている。式(I)の化合物の1つであるリアクティブブラック5は、プロタミンに結合するため、プロタミンが存在しない空胞は白い穴として観察される。従って、異常空胞は、リアクティブブラック5染色によって、通常顕微鏡でも識別が可能である。
【0018】
異常空胞は明らかな形態異常と考えられるが、この形態異常が妊娠に機能的な悪影響を及ぼすか否かについては、現在のところ、コンセンサスが得られていないのが現状である。しかしながら、精子核内空胞が初期胚発生の低下、着床率低下、流産率上昇、早産率上昇、さらには先天性疾患児の出生率上昇など、精子核内空胞が受精から次世代に至るまでのあらゆる過程で悪影響を及ぼすことを示唆する報告もある(Cassutoら, Fertil Steril. 2009 Nov;92(5):1616-25. doi: 10.1016/j.fertnstert.2008.08.088.;Boitrelleら, Hum Reprod. 2011 Jul;26(7):1650-8. doi: 10.1093/humrep/der129.)。従って、本実施形態にかかる評価方法により、精子頭部の異常形態の有無を評価することで、初期胚発生の低下などの受精後の悪影響の生じる可能性等を予測することが可能となり得る。
また、精子にしばしば見られる生理学的変化のひとつである頭部陥没と核内空砲は、低解像度顕微鏡観察における識別は困難である。これに対し、本実施形態にかかる評価方法により、生理学的変化の精子頭部の陥没と異常空胞との区別を行うことが可能である。
【0019】
第4の実施形態は、試料中のプロタミンの検出方法であって、上記式(I)で表される化合物をプロタミンに結合させ、当該プロタミンを可視化することを含む方法である。
プロタミンは、精子特異的核タンパク質で、精子核の凝縮、および卵子への侵入後の脱凝縮に関与していると考えられている。プロタミンには1~4(P1、P2、P3、P4)があり、これらのうち、精子に含まれるプロタミンの主成分はP1、P2である。近年男性不妊症例で、精子のP1/P2比の異常が多数報告されている(例えば、Aokiら, Fertil Steril. 2006 Nov;86(5):1408-15. doi: 10.1016/j.fertnstert.2006.04.024. Epub 2006 Sep 29.;Amorら, International Journal of Women’s Health and Reproduction Sciences Vol. 6, No. 4, October 2018, 400-409)。これらの報告の殆どは、P1とP2をそれぞれの特異抗体で別々に検出するウェスタンブロット法による結果である。従来のウェスタンブロットによるP1およびP2の検出法は、煩雑な手順を踏む必要があり、また、結果を取得するために時間とコストがかかる。
【0020】
リアクティブブラック5は、プロタミンに特異的に結合するため、プロタミンの検出に有用である。例えば、プロタミンを含む試料(例えば、精子頭部から抽出した試料など)をゲル電気泳動した後、ゲルを直接リアクティブブラック5溶液に浸漬するだけでリアクティブブラック5をプロタミンに結合させることができる。その結果、P1とP2を暗青色のバンドとしてゲル上で検出される。デンシトメトリーなどで検出されたバンドの染色濃度を定量することで、P1とP2の存在比を定量化することができる。
従来の抗体プロタミン抗体を用いた検出方法に比べて、時間、手間、コストなどを大幅に低減させることができる。さらに、P1とP2は同一レーン上で2本のバンドに分離されるため、ウェスタンブロットのようにP1とP2を別々に検出する必要がなく、試料のアプライミスや転写ムラなど結果に多大な影響を与える手技的なアーチファクトを回避し、より正確にP1/P2比を測定することが可能である。
【0021】
第5の実施形態は、精子頭部またはプロタミンの可視化用試薬であって、少なくとも上記式(I)で表される化合物を含む試薬である。
本実施形態にかかる試薬は、式(I)の化合物、例えば、リアクティブブラック5などの他、試薬調製用の添加物などを含んでもよい。本実施形態にかかる試薬は、特に限定はしないが、例えば、液体、粉体、固形(タブレット、錠剤など)などの形体であってもよく、必要に応じて、pH調製剤や保存剤などの成分を含んでいてもよい。
固形形体の試薬を製造するには、例えば、有効成分である式(I)の化合物と賦形剤成分とを混合して散剤とするか、結合剤、崩壊剤などを加えて湿式または乾式造粒して顆粒剤としてもよい。また、錠剤を製造するには、これらの散剤および顆粒剤をそのまま、あるいは、滑沢剤を加えて打錠してもよい。
【0022】
本発明の実施形態における「精子」および「プロタミン」は、ヒトおよび非ヒト動物に由来する全てが含まれる。ここで、非ヒト動物とは、例えば、サケ、ニシンなどの魚類、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことであるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0024】
1.実験方法
1-1.精子頭部のリアクティブブラック5による染色
精子塗抹標本(精液、洗浄精子、分画精子など)は、市川総合病院産婦人科を受診し、
検体の使用に同意した男性患者から入手した。また、リアクティブブラック5は、シグマアルドリッチから購入した(Cat# 306452、Dye content≧50 %)、milli Qに溶解させ、0.1 %(w/v)の保存液を作製した。使用時に、0.1 M 炭酸-重炭酸緩衝液(pH 10)で保存液を100倍希釈して用いた。
スライドグラス上の標本周辺をパップペンで囲み、その領域(標本領域)に、適量の0.001 %(w/v)リアクティブブラック5をマウントし、室温にて、10分間静置した。その後、標本上の余剰色素を水で洗浄し、カバーグラスで封入をした後、顕微鏡観察を行った。
【0025】
1-2.染色像の二値化
顕微鏡下で撮影したTIFF画像をImageJで開き、8 bitのグレースケール画像に変換する。この画像についてThresholdの上限値・下限値を変更し、個々の精子がホワイトアウトまたはブラックアウトせず、背景と区別して判別される値を設定し二値化した。
【0026】
1-3.マウス精巣切片のリアクティブブラック5による染色
マウス精巣をホルマリン固定し、アルコール系列による脱水を行い、パラフィン包埋した。ミクロトームを用い、薄切切片を作成し、脱パラフィン処理後、適量の0.01 %(w/v)リアクティブブラック5をマウントし、室温にて、60分間静置した。その後、標本上の余剰色素を水で洗浄し、カバーグラスで封入をした後、顕微鏡観察を行った。
【0027】
1-4.精子プロタミンの抽出
精子懸濁液と抽出液を1:2で混和した後、500 mM DTTを1/100容添加、混和すると、直ちにゲル化するので、5分間ほど放置した。
ここで使用した調製液等は以下のように作製した。
抽出液
0.5M Na2CO3- NaHCO3 pH 10.0
10 M urea
0.225 M Na2SO4
上記組成の抽出液は、0.5M Na2CO3- NaHCO3 pH 10.0(水400 mlにNa2CO3を10.6g、NaHCO3を 8.4 g溶解させた) 40 mL、urea 60 g、Na2SO4 3.2 gを水で100 mLにメスアップして調製した。
500 mM DTT
500 mM DTT
20mM 酢酸緩衝液 pH 4.7
上記DTTストックの作製には、1.0 M 酢酸緩衝液(酢酸 60g(1.049g/ml、57ml)/L、酢酸ナトリウム 82g/Lを等量混合して作製した)を使用した。
【0028】
ゲル化した抽出液3容に、DNA/プロタミンコンプレックスの解離を促すために、6.0% 塩化ベンザルコニウム 40%ethanol-溶液 1容(最終濃度1.5%)を添加し、ボルテックスミキサーで撹拌した。撹拌により、DNAが糸状に析出し、凝縮する。凝集したDNAは、遠心分離で沈殿に回収して除去するか、ピンセットでつまんで除去した。その後、プロタミンを沈殿させるために、得られた抽出液に等量のエタノールを加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、遠心後、プロタミンを白色沈殿として回収した。遠心後の上清は、デカンテーションで除去し、底に貯まった少量の50%エタノールはピペットで除去した。
【0029】
1-5.精子プロタミンの電気泳動
抽出したプロタミンのSH基が再会合しないように、電気泳動は酸性条件で行った。プロタミンのpIは11-12である。プロタミンは、ほぼ単一のアミノ酸、アルギニンで構成されており、塩基性タンパク質であることから、pHによる荷電の変化はなく、その移動度はpHの影響を受けない。電気泳動用のポリアクリルアミドゲルとして、濃縮ゲルは省略し、18% アクリルアミド(24:1)分離ゲルのみを作製した。
プロタミンの沈殿に、サンプルバッファーを添加した。サンプルバッファーの組成は次の通りである。
サンプルバッファー
7.0 M Urea
0.1 M Na2CO3- NaHCO3、pH 10.0
用時 500mM DTT を 1/100容添加
プロタミンの沈殿にサンプルバッファーを添加後、ボルテックスミキサーで撹拌し、プロタミンを溶解させた。不溶物が生じた場合には、遠心で除去した。
【0030】
以下に分離用アクリルアミドゲルおよび電気泳動に使用した緩衝液等の組成を示す。
ゲル作製用混合液
アクリルアミド 77.76 g、N, N’-メチレンビス(アクリルアミド) 3.24 gを300 mLの水に溶解した。
分離ゲルバッファー
氷酢酸 114 mLに、NaOH固体 を添加して、pH 3.8-4.0に調整した後、水で1000 mLにメスアップして、2.0 M 酢酸緩衝液を作製した。
18 % アクリルアミドゲル(45 mL)
ゲル作製用混合液(25 mL)、分離ゲルバッファー(2.0 M 酢酸緩衝液(pH3.8))(11.2mL、最終濃度0.5 M)、10% APS(Ammonium Peroxodisulfate)(580μL)、TEMED(N,N,N’,N’-Tetramethylethylene-Diamine)(90μL)に水を加えて45 mLにメスアップし、混合後、36℃で30分間以上静置した。
泳動緩衝液
(1)下部泳動緩衝液
0.3 M酢酸緩衝液 pH4.8を使用した。
(2)上部泳動緩衝液
Glycine(30g)、氷酢酸(0.3 ml)を水でメスアップして2 Lとした。
【0031】
本実施例では、1.5 mmの厚さのゲルを使用した。なお、電気泳動槽はice bathで冷却するとよい。
電気泳動条件
第一段階(濃縮)定電流 60mA
第二段階(分離)定電流 60mA
上記条件でおよそ3.0時間程度泳動を行った。
なお、電気泳動の諸条件は、当業者において、予備的な実験を行うことで設定可能である。プロタミンP1およびP2の良好な分離のために、例えば、以下のように泳動を行ってもよい。60 mA(CC)で30-40分間程度泳動して充分に濃縮された泳動用フロントマーカー(CV:crystal violet)がゲル内に5 mm程度入ったのを確認したのち(第一段階(濃縮))、一旦泳動を止める。上部泳動緩衝液の10分の1量を除去し、除去した量と等量の1.0 M 酢酸ナトリウムを20 ml添加して、上部泳動緩衝液を0.10 M 酢酸ナトリウム溶液となる。その後、60 mA(CC)で泳動を行う(第二段階(分離))。
【0032】
1-6.リアクティブブラック5によるプロタミンの染色
染色液の調製
0.2% リアクティブブラック5、0.1 M Na2CO3- NaHCO3 pH 10.0を、染色液のストックとして調製した。
使用時には、このストック液にNaOHを滴下して、pHを10.7に調製した。pH調製後の染色液に、プロタミンを泳動したアクリルアミドゲルを浸漬し、30-40分間程度室温で静置後、水に浸漬して、一晩静置し、脱色を行った。リアクティブブラック5は、親水性が高いため、脱色は水に浸漬するだけで十分であるが、より短時間で脱色を行う場合には、例えば、10%イソプロパノール/水に浸してもよい。
比較のために行ったCBB染色は、0.2 % CBB(50% メタノール/水)中で行った。具体的には、アクリルアミドゲルをメッシュシートで挟み、上記CBB染色用の液に浸漬し、30-40分間静置した。その後、メッシュシートに挟んだアクリルアミドゲルを水に浸漬し、弱塩基性陰イオン交換樹脂を適量添加し、穏やかにスターラーで撹拌して、一晩脱色した。
【0033】
2.結果
2-1.精液検体を用いたリアクティブブラック5の染色性の確認
従来、位相差顕微鏡下に尾部を有する細胞(精子)を認めない時、無精子症と診断し、その後、精液を遠心分離して、濃縮した沈渣を観察していた。さらには、パパニコロー、ギムザ等の組織染色を行う方法が試みられてきた。しかし、位相差顕微鏡下では、透明な粒子が重なり、精子の観察は困難であった。また、パパニコロー、ギムザ等の染色を行うと、すべての細胞(粒子)が着色され、この場合も観察は困難であった。さらに、従来法における最も看過できない問題は、精子形成過程で、arrest、すなわち、明らかな尾部形成が行われる前に形成が停止した精子細胞については観察できないことであった。
本発明により、プロタミンの特異的な染色が可能となり、濃縮した検体をリアクティブブラック5で染色すると、非染色の粒子が観察され(図1左および図2)、プロタミンを有する細胞のみが青染され(図1右および図2)、プロタミンを有する細胞を明瞭に観察することが可能となった。
以上の結果は、従来無精子症と判断されていた症例の中に、身体的侵襲性の高いMD-TESEを回避できる症例が存在することを示唆している。
【0034】
一方、検討した症例の中には、リアクティブブラック5で染色される精子(様細胞)は存在するものの、その形態が一見して精子と分からないほど著しく損なわれていることがあった(図1右)。すなわち、プロタミンを含有するが、通常検鏡では精子と認識されない精子様細胞や”residual body”と称されるプロタミン含有変成精子細胞などがリアクティブブラック5染色によって検出された。
上述の態異常精子を顕微授精に用いることは適当ではないものの、プロタミン含有が見られることは、すなわち、造精障害が少なくともプロタミン組み込み以降に起こっていることを示している。つまり、これら症例においては、精巣内では比較的未熟ではあるが精子細胞が存在する可能性が高いことが示唆され、MD-TESEの有望な適用例となり得る。逆に、精液塗抹標本でリアクティブブラック5陽性精子が皆無である症例は、MD-TESEを施行しても精子が得られない可能性が高まる。
さらに、図1および図2に示す結果は、MD-TESE施行下の精子検出においても、リアクティブブラック5染色が有効であることを示唆している。すなわち、MD-TESE施行下において、リアクティブブラック5染色による精子の可視化方法は、顕微授精に使用し得る精子(様細胞)の有無を迅速に判断する一助になり得る。
【0035】
異なる濃度のリアクティブブラック5で精子を染色したところ、濃い濃度で染色した方が染色像のコントラストがより明確になるが、空胞部分(白く抜ける部分)の色抜けが悪くなることが分かった(図3)。従って、観察目的により使用するリアクティブブラック5の濃度を適宜選択することが望ましい。
【0036】
次に、リアクティブブルー2(0.05%)およびリアクティブブラック5(0.001%)による精子の染色像の比較を行った(図4)。その結果、リアクティブブラック5で染色した方が、低濃度における染色像のコントラストが明確であることが確認できた。
次に、リアクティブブルー2(0.05%)およびリアクティブブラック5による精子の染色像を二値化して、その染色特性等を比較した(図5)。色素染色で確認できる精子がブラックアウトもしくはホワイトアウトすることなく、ほぼ全て残存するように上限値と下限値を調整し、二値化した。これを細胞自動認識機能によって計数し、目視による精子数との差異を比較した。その結果、リアクティブブルー2は、染色された体細胞がより多く計数に含まれ、目視の精子数とは9.17倍の解離があった。一方リアクティブブラック5は、体細胞に殆ど染色性を示さないことから、目視の精子数との差は2.64倍に留まった。リアクティブブラック5染色における実数との乖離は、一精子内での染色濃淡を、自動計測時に複数の精子として計数したためであり、これは「一細胞」と数える定義(最小~最大面積)を設定することで、より実数に近づけることが可能と考える。
【0037】
2-2.リアクティブブラック5を用いた精子頭部形態異常の可視化
精子頭部には、正常な精子でも生理学的レベルの小さな空胞が存在するが、これらが多発または肥大化し精子核容積の1/3以上を占めるものが異常空胞(異常精子)と呼ばれる。空胞内部は透過電子顕微鏡で電子密度が疎な領域として観察されることから、局所的なクロマチン凝縮不全と考えられている。プロタミンが結合せずクロマチン凝集不全が生じた空胞領域は、リアクティブブラック5では染色されずに白く抜けて観察される。図6において、1 mM DTT処理を行い、プロタミン-プロタミン間の架橋を緩めた精子頭部は、空胞が消失すると共に、リアクティブブラック5による染色性が低下する(図6の「1 mM DTT処理」)。DTT処理をせずにリアクティブブラック5で精子頭部を染色すると、白く抜けた領域が観察された(図6の処理無し)。この白く抜けた領域は、プロタミンが存在せずクロマチン凝集不全を生じて空胞化したと考えられる。実際この仮説は、頭部空胞精子の透過電顕像において空胞内に凝縮プロタミンではなく電子密度の低いクロマチン様の構造物が充填されていること(図7のTEM)、さらに頭部空胞精子の免疫染色像において空胞部分(矢印)は周囲と比較してDNA(図7の右上)とプロタミン2(PRM2)(図7の右下)が疎であり、一方ヒストンH3が凝縮している(図7の左下)ことからも裏付けられる。
以上のことから、異常空胞を含む精子頭部に存在する空胞は、リアクティブブラック5染色を行うと白く抜けて、通常顕微鏡でも検出することが可能である(図6)。また、図8により、精子頭部の形の異常についても、リアクティブブラック5染色により明瞭に検出できることが示された。
【0038】
2-3.リアクティブブラック5染色によるプロタミンP1およびプロタミンP2の存在比の検討
リアクティブブラック5は、プロタミンと特異的に結合する。従って、抗プロタミン抗体を用いた従来の研究および診断等に幅広く代用可能である。
ヒト精子からプロタミンを抽出し、酸性条件下でネイティブアクリルアミドゲル電気泳動を行った。泳動後のゲルをリアクティブブラック5で染色すると、プロタミンP1とプロタミンP2が暗青色のバンドとしてゲル上で検出された(図9)。
【0039】
2-4.リアクティブブラック5染色のヒト以外の精液検査等への利用性
プロタミンは魚類から高等哺乳類まで、殆どの動物の精子が持つ蛋白質であるため、抗プロタミン抗体の代用としてのリアクティブブラック5は、これらの動物の精子研究や産業に幅広く応用可能である。現在のところ、リアクティブブラック5が実際に、サケおよびニシン(魚類)、マウス、ブタのプロタミンにも結合することを確認している。その一例として、マウスの精巣内精子をリアクティブブラック5染色で可視化した結果を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、抗プロタミン抗体を用いた免疫反応検出による代替法として、男性不妊への医療的応用のみならず、家畜産業への応用や基礎研究を含めたプロタミンの検出に幅広く応用可能である。従って、本発明は、畜産分野および医療分野など幅広い分野における利用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10