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特開2023-133924余剰粉体除去用洗浄液、立体造形物の製造方法、及び造形液と洗浄液のセット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133924
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】余剰粉体除去用洗浄液、立体造形物の製造方法、及び造形液と洗浄液のセット
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/68 20210101AFI20230920BHJP
   B22F 10/10 20210101ALI20230920BHJP
   B22F 10/62 20210101ALI20230920BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230920BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20230920BHJP
   B29C 64/35 20170101ALI20230920BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20230920BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20230920BHJP
【FI】
B22F10/68
B22F10/10
B22F10/62
B33Y10/00
B29C64/165
B29C64/35
B33Y40/20
B29C64/379
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039185
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐樹
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AM13
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL55
4K018AB10
4K018AC01
4K018FA14
(57)【要約】
【課題】固化物の形状を維持しつつ、余剰粉体を除去できる余剰粉体除去用洗浄液の提供。
【解決手段】造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去するために用いる余剰粉体除去用洗浄液であって、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する余剰粉体除去用洗浄液である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去するために用いる余剰粉体除去用洗浄液であって、
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有することを特徴とする余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項2】
前記造形用粉体が、樹脂に被覆されていない金属粒子を含む粉体である請求項1に記載の余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項3】
前記炭化水素溶媒のオクタノール/水分配係数(logPow値)が、5.0以上である請求項1から2のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項4】
前記炭化水素溶媒が、分子中に二重結合を含まない請求項1から3のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項5】
前記炭化水素溶媒が、炭素数7以上15以下の炭化水素である請求項1から4のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項6】
前記炭化水素溶媒が、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、及びp-メンタンの少なくともいずれかを含有する請求項1から5のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液。
【請求項7】
造形用粉体を含む粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する造形液付与工程と、
前記造形物を固化して固化物を得る固化工程と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液で除去する余剰粉体除去工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂が溶媒Aに溶解可能であり、
前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である請求項7に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項9】
前記造形用粉体が、樹脂に被覆されていない金属粒子を含む粉体である請求項7から8のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項10】
前記造形液が、下記構造式(1)で表される構造単位、及び下記構造式(2)で表される構造単位の少なくともいずれかを有する樹脂を含有する請求項7から9のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項11】
前記余剰粉体除去工程が、超音波処理により前記固化物に付着している前記造形用粉体を除去することを含む請求項7から10のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項12】
樹脂を含有する造形液と、
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する余剰粉体除去用洗浄液と、
を含むことを特徴とする造形液と洗浄液のセット。
【請求項13】
前記樹脂が、溶媒Aに溶解可能であり、
前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である請求項12に記載の造形液と洗浄液のセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰粉体除去用洗浄液、立体造形物の製造方法、及び造形液と洗浄液のセットに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、金属などからなる複雑で微細な造形物を生産するニーズが高まってきている。このニーズに対応するための技術として、特に高生産性の観点から、バインダージェッティング方式で造形した焼結前駆体を粉体冶金法によって焼結し緻密化する方式がある。
【0003】
バインダージェッティング方式による未焼結体等の造形物の製造方法としては、例えば、金属やガラス、セラミックス等の基材に樹脂を被覆した粉体に架橋剤を吐出し、被覆した樹脂を溶解した後、架橋剤で樹脂を架橋することで固化物が積層した強度の高い造形物を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、固化物の形状を維持しつつ、余剰粉体を除去できる余剰粉体除去用洗浄液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明の余剰粉体除去用洗浄液は、造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去するために用いる余剰粉体除去用洗浄液であって、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、固化物の形状を維持しつつ、余剰粉体を除去できる余剰粉体除去用洗浄液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1Aは、立体造形物の製造装置の動作の一例を示す概略図である。
図1B図1Bは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図1C図1Cは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図1D図1Dは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図1E図1Eは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
図2A図2Aは、実施例1において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図2B図2Bは、実施例1において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図3A図3Aは、実施例2において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図3B図3Bは、実施例2において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図4A図4Aは、実施例3において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図4B図4Bは、実施例3において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図5A図5Aは、実施例4において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図5B図5Bは、実施例4において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図6A図6Aは、比較例1において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図6B図6Bは、比較例1において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図7A図7Aは、比較例2において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図7B図7Bは、比較例2において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図8A図8Aは、比較例3において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図8B図8Bは、比較例3において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図9A図9Aは、実施例5において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図9B図9Bは、実施例5において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図10A図10Aは、実施例6において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図10B図10Bは、実施例6において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図11A図11Aは、比較例4において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図11B図11Bは、比較例4において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図12A図12Aは、比較例5において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図12B図12Bは、比較例5において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図13A図13Aは、実施例7において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図13B図13Bは、実施例7において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図14A図14Aは、実施例8において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図14B図14Bは、実施例8において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
図15A図15Aは、比較例6において、洗浄液浸漬直後の未焼結体の状態の写真である。
図15B図15Bは、比較例6において、超音波槽の中で超音波処理しつつ30分間洗浄液に浸漬させた後の未焼結体の状態の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(余剰粉体除去用洗浄液)
本発明の余剰粉体除去用洗浄液は、造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去するために用いる余剰粉体除去用洗浄液であって、
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有し、さらに必要に応じてその他の成分を含有する。
【0009】
本開示においては、「粉体」を「粉末材料」又は「粉末」と称することもある。
本開示においては、「造形液」を「硬化液」又は「反応液」と称することもある。
本開示において「造形物」は、粉体に造形液を付与して形成された一層又は複数の層の集合体(積層体)を意味する。
本開示においては、「固化物」は、「造形物」を固化して得られたものであり、「硬化物」と称することもある。なお、積層した立体的な造形物を固化させた固化物を「未焼結体」、「グリーン体」又は「成形体」と称することもある。
「固化物(未焼結体など)」を熱処理して脱脂したものを「脱脂体」と称することもある。「未焼結体」と「脱脂体」を単に「焼結前駆体」と称することもある。
「脱脂体」を焼結させたものを「焼結体」又は「立体造形物」と称することもある。
なお、本発明において「余剰粉体」とは、未焼結体の表面などに付着している粉体を意味する。なお、粉体とは造形用粉体を含む粉体を意味する。
なお、「造形物」、「固化物」、「脱脂体」、及び「焼結体」は、各々一層のみの平面的な構造体、又は複数の層からなる立体的な構造体(積層体)の両方を含む。
【0010】
従来技術では、固化物(未焼結体)中の樹脂において、架橋する部分と、非架橋する部分をつくり、洗浄液への溶解の可否を制御していたが、架橋する部分の反応不足などが生じて得られる造形物が軟化してしまう場合があるなどの問題があった。
また、従来技術では、バインダー樹脂として有機溶剤に溶解しやすい樹脂(例えば、ポリ酢酸ビニル系の樹脂、ポリビニルブチラール系の樹脂など)が用いられており、余剰粉体除去の際に有機溶媒に浸漬させて洗浄すると、樹脂が溶解し、未焼結体の形状を保持できないという問題があった。
【0011】
本発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、「オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒」が、バインダー樹脂(造形液)付与後の固化物(未焼結体、グリーン体)の余剰粉体を除去する余剰粉体除去用洗浄液に用いることができることを見出した。換言すると、本発明者らは、「オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒」は、バインダー樹脂(造形液)付与及び固化後の固化物中のバインダー樹脂を溶解することなく余剰粉体のみを除去できること見出した。
また、本発明者らは、「オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒」は、立体造形に用いる金属粉体に問題なく用いることができることを見出した。
例えば、造形液に含有する樹脂として、部分けん化したポリ酢酸ビニルを用いる場合について説明する。部分けん化したポリ酢酸ビニルは、ポリマー中の疎水性の酢酸ビニル基(Vinyl Acetate)の含有量が多く、グレードによってはポリマー中に90mol%以上含まれている。酢酸ビニル基を高濃度含有する樹脂は、ベンゼンやパラフィンオイルのような炭化水素溶媒にも溶解してしまう。固化物中に含まれるバインダー樹脂は、多くて2質量%前後と少ない為、樹脂が僅かに溶解や膨潤するだけで固化物は崩壊してしまう。このため、洗浄液の極性が非常に重要となってくる。
本発明者らは、溶媒の極性を非極性側にできるだけ下げることにより、疎水性の樹脂が溶解しないことを知見した。
このことから、本発明者らは、極性(親水性、疎水性)の指標として「オクタノール/水の分配係数logPow値」が4.5以上であれば、洗浄液として有機溶剤を用いた場合においても、ポリ酢酸ビニルのような疎水系の樹脂をバインダー樹脂に使用しても、樹脂が溶解せずに未焼結体の形状を保持することができることを見出した。
【0012】
<炭化水素溶媒>
前記炭化水素溶媒は、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上であり、5.0以上が好ましく、5.0以上8.0以下がより好ましい。
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒としては、例えば、デカン(logPow値:5.0)、ドデカン(logPow値:6.1)、テトラデカン(logPow値:7.2)、p-メンタン(logPow値:5.5)、ウンデカン(logPow値:5.6)、トリデカン(logPow値:6.6)、ペンタデカン(logPow値:7.7)などが挙げられる。
なお、オクタノール/水分配係数(logPow値)は、オクタノールと水の2相系において、ある化合物がオクタノール相に溶解している濃度と、水に溶解している濃度の比を表す。前記炭化水素溶媒の固有のオクタノール/水分配係数(logPow値)は、化学データベース(PubChem、https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照して抽出することができる。また、化学データベース以外にも、オクタノール/水分配係数(logPow値)は、使用する前記炭化水素溶媒の安全データシート(Safety. Data Sheet、SDS)に記載の値を参照してもよい。
【0013】
また、前記炭化水素溶媒は、分子中に二重結合を含まない炭化水素溶媒であることが好ましい。前記炭化水素溶媒が、分子中に二重結合を含まない炭化水素溶媒であると、オクタノール/水分配係数(logPow値)が低くなりすぎて、固化物(未焼結体)の余剰粉体を除去する際に、バインダー樹脂を溶解して、固化物(未焼結体)が崩壊することを抑制する効果を向上させることができる。
【0014】
また、前記炭化水素溶媒は、炭素数7以上15以下の炭化水素であることが好ましく、炭素数10以上14以下がより好ましい。前記炭化水素溶媒が、炭素数7以上の炭化水素であると、オクタノール/水分配係数(logPow値)が大きくなり、炭化水素溶媒の疎水性が高くなり、固化物(未焼結体)の余剰粉体を除去する際に、金属粒子を結合しているバインダー樹脂の溶解や膨潤を防止し、固化物(未焼結体)が崩壊することを抑制する効果を向上させることができる。また、炭素数が15以下の炭化水素であると、炭素数増加によって沸点が上昇して、洗浄液を乾燥させる時間が長時間になることを抑制する効果を向上させることができる。
【0015】
前記炭化水素溶媒の含有量としては、本発明の効果を奏することができる程度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記炭化水素溶媒の含有量としては、前記炭化水素溶媒以外の成分を実質的に含有しないことが好ましい。前記炭化水素溶媒以外の成分を実質的に含有しないとは、本発明の効果を奏することができる程度であれば前記炭化水素溶媒以外の成分を含有するものを除くものではない。
前記炭化水素溶媒の含有量としては、余剰粉体除去用洗浄液全量に対して、100質量%以下が好ましい。
【0016】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
本発明の余剰粉体除去用洗浄液は、前記造形物を加熱して得られた固化物の余剰粉体を除去するために用いるものである。
以下、本発明の余剰粉体除去用洗浄液が適用される固化物を製造するために用いられる造形用粉体について説明する。
【0018】
[造形用粉体]
前記造形用粉体としては、従来バインダージェッティング方式で用いられている粉体であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属粒子を含む粉体などが挙げられる。
【0019】
<金属粒子>
前記金属粒子は、立体造形物の製造に用いられ、構成材料として金属を含有する粒子である。
なお、前記金属粒子の構成材料は、金属を含有する限り特に限定されず、金属以外の材料を含んでいてもよいが、主材料が金属であることが好ましい。
「主材料が金属である」とは、金属粒子に含まれる金属の質量が、金属粒子の質量に対して50.0質量%以上であることを表し、60.0質量%以上が好ましく、70.0質量%以上がより好ましく、80.0質量%以上が更に好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。
【0020】
金属粒子における構成材料である金属としては、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ネオジウム(Nd)、及びこれら金属の合金などが挙げられる。これらの中でも、ステンレス(SUS)鋼、鉄(Fe)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、及びこれら金属の合金などが好適に用いられる。
前記アルミニウム合金としては、例えば、AlSi10Mg、AlSi12、AlSiMg0.6、AlSiMg、AlSiCu、Scalmalloy、ADC12、AlSiなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記金属粒子は、従来公知の方法を用いて製造することができる。
前記金属粒子を製造する方法としては、例えば、固体に圧縮、衝撃、摩擦等を加えて細分化する粉砕法、溶湯を噴霧して急冷粉体を得るアトマイズ法、液体に溶解した成分を沈殿させる析出法、気化させて晶出させる気相反応法などが挙げられる。これらの中でも、球状の形状が得られ、粒径のバラツキが少ない点からアトマイズ法が好ましい。
前記アトマイズ法としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などが挙げられ、いずれも好適に用いられる。
【0022】
前記金属粒子は、市販品を用いてもよい。
前記市販品としては、例えば、純Al(東洋アルミニウム株式会社製、A1070-30BB)、純Ti(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)、SUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、商品名:PSS316L)、AlSi10Mg(東洋アルミニウム株式会社製、Si10MgBB)、SiO(株式会社トクヤマ製、商品名:エクセリカSE-15K)、AlO(大明化学工業株式会社製、商品名:タイミクロンTM-5D)、ZrO(東ソー株式会社製、商品名:TZ-B53)などが挙げられる。
【0023】
前記金属粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2μm以上100μm以下が好ましく、8μm以上50μm以下がより好ましい。前記金属粒子の体積平均粒径が2μm以上であると、金属粒子の凝集が抑制され、造形物の製造効率の低下、及び金属粒子の取扱性の低下を抑制することができる。また、前記金属粒子の平均粒子径が100μm以下であると、金属粒子同士の接点の減少や空隙の増加を抑制することができ、造形物の強度が低下することを抑制することができる。
前記金属粒子の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、粒度分布はよりシャープである方が好ましい。
前記金属粒子の体積平均粒径及び粒度分布は、公知の粒径測定装置を用いて測定することができ、例えば、粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIシリーズ(マイクロトラックベル製)などが挙げられる。
【0024】
なお、金属の基材及び当該基材を被覆する被覆樹脂を有する金属粒子を用い、金属粒子に液体を付与することで被覆樹脂におけるバインダー機能を発揮させて造形物を製造する方法が従来から知られているが、本開示においては、造形液にバインダー機能を有する樹脂が含有されている。
従って、前記金属粒子は、樹脂により表面が被覆されていなくてもよい。
前記樹脂により表面が被覆されてない金属粒子を用いることで、例えば、液体を付与されていない粉体の領域(言い換えると、非造形領域)であるにも関わらず、固化工程を経ることで被覆樹脂が金属粒子同士を結着させ、意図しない固化物が形成されてしまうことを抑制することができる。
また、前記樹脂に限らず、前記金属粒子としては、表面処理剤などの有機化合物により表面が被覆されていなくてもよい。
前記表面処理剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0025】
ここで、「樹脂により表面が被覆されていない」とは、例えば、金属粒子の表面積に対する樹脂乃至有機化合物の表面積の割合(表面被覆率)が15%未満であることを表し、0%であってもよい。
前記表面被覆率は、例えば、金属粒子の写真を取得し、二次元の写真に写る範囲において、金属粒子の表面の全面積に対する、樹脂乃至有機化合物で被覆された部分の面積の割合(%)を測定することで求める。なお、樹脂乃至有機化合物で被覆された部分の判断においては、例えば、SEM-EDS等のエネルギー分散型X線分光法による元素マッピングの手法等を用いることができる。
【0026】
<<金属粒子を含む粉体>>
上記の金属粒子は、複数の金属粒子を含む集合体である粉体として用いられ、当該粉体層に対して造形液が付与されることで造形物が製造される。
前記粉体は、金属粒子に加え、必要に応じて用いられるその他の成分を含有することができる。
その他成分としては、例えば、フィラー、レベリング剤、焼結助剤、及び高分子樹脂粒子などが挙げられる。
前記フィラーは、金属粒子の表面に付着させたり、金属粒子間の空隙に充填させたりするのに有効な材料である。前記フィラーを含有することで、例えば、粉体の流動性を向上させることができ、また、金属粒子同士の接点が増え、空隙を低減できることから、固化物(未焼結体)の強度や寸法精度を高めることができる。
前記レベリング剤は、粉体層の表面における濡れ性を制御するのに有効な材料である。前記レベリング剤を用いることで、例えば、粉体層への造形液の浸透性が高まり、固化物(未焼結体)の強度を高めることができる。
前記焼結助剤は、固化物(未焼結体)を焼結させる際、焼結効率を高める上で有効な材料である。焼結助剤を用いることで、例えば、造形物の強度を向上でき、焼結温度を低温化でき、焼結時間を短縮できる。
前記高分子樹脂粒子は、金属粒子の表面に付着させるのに有効な材料であり、有機物外添剤とも称する。
前記高分子樹脂粒子の平均粒径は、特に制限されないが、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.1μm以上1μmがより好ましい。
【0027】
前記粉体の安息角は、60°以下が好ましく、50°以下がより好まし40°以下が更に好ましい。前記粉体の安息角が60°以下であると、粉体を支持体上の所望の場所に効率よく安定して配置させることができる。
なお、安息角は、例えば、粉体特性測定装置(パウダテスタPT-N型、ホソカワミクロン株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0028】
(立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置)
本発明の立体造形物の製造方法は、
造形用粉体を含む粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する造形液付与工程と、
前記造形物を固化して固化物を得る固化工程と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液で除去する余剰粉体除去工程と、
を含み、さらに必要に応じて、積層工程、焼結工程、その他の工程を含む。
本発明の立体造形物の製造方法にかかる立体造形物の製造装置は、
造形用粉体を含む粉体層を形成する粉体層形成手段と、
前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する造形液付与手段と、
前記造形物を固化して固化物を得る固化手段と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を除去する、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液、及び前記洗浄液を収容している洗浄液収容容器と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を、前記洗浄液で除去する余剰粉体除去手段と、
を有し、さらに必要に応じてその他の手段を有する。
【0029】
本発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、前記造形液に含有されている前記樹脂、前記洗浄液のオクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上であると、バインダー樹脂(造形液)付与後の未焼結体(グリーン体)の余剰粉体を、液体を用いて除去することができることを見出した。換言すると、本発明者らは、前記洗浄液が含有する炭化水素溶媒の前記オクタノール/水分配係数(logPow値)がlogPow値が4.5以上であると、バインダー樹脂(造形液)付与後の未焼結体中のバインダー樹脂を溶解することなく余剰粉体のみを除去できること見出した。
また、本発明者らは、洗浄液に含有する炭化水素溶媒の前記オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上であれば、立体造形の造形に用いる金属粉体に問題なく用いることができることを見出した。
【0030】
<粉体層形成工程及び粉体層形成手段>
前記粉体層形成工程は、造形用粉体を含む粉体層を形成する工程である。
前記粉体層形成手段は、造形用粉体を含む粉体層を形成する手段である。
前記造形用粉体は、本発明の余剰粉体除去用洗浄液において説明した造形用粉体と同様である。
前記粉体層は、支持体上(造形ステージ上)に形成される。
前記粉体を支持体上に配置させて粉体の薄層を形成する方法(粉体層形成手段)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特許第3607300号公報に記載の選択的レーザー焼結方法に用いられる公知のカウンター回転機構(カウンターローラー)などを用いる方法、粉体をブラシ、ローラ、ブレード等の部材を用いて拡げる方法、粉体の表面を押圧部材により押圧して拡げる方法、及び公知の積層造形装置を用いる方法などが挙げられる。
【0031】
前記カウンター回転機構(カウンターローラー)、ブラシ、ブレード、押圧部材などの粉体層形成手段を用いて、粉体層を形成する場合、例えば、以下のような方法で実行できる。
即ち、外枠(「型」、「中空シリンダー」、「筒状構造体」などと称されることもある)の内壁に摺動しながら昇降可能に配置された支持体上にカウンター回転機構(カウンターローラー)、ブラシ、ローラ、ブレード、又は押圧部材を用いて粉体を載置する。このとき、支持体として外枠内を昇降可能なものを用いる場合、支持体を外枠の上端開口部よりも少し下方の位置に配し(言い換えると、粉体層の一層分の厚みだけ下方に位置させておき)、支持体上に粉体を載置する。以上により、支持体上に粉体の薄層を載置させることができる。
【0032】
前記粉体層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一層当たりの平均厚みで、30μm以上500μm以下が好ましく、60μm以上300μm以下がより好ましい。前記平均厚みが、30μm以上であると、前記粉体に造形液を付与することで形成される造形物の強度が向上し、焼結工程等のその後の工程において生じ得る型崩れ等を抑制することができる。また、前記平均厚みが、500μm以下であると、粉体に造形液を付与することで形成される造形物に由来する造形物の寸法精度が向上する。
なお、平均厚みは、特に制限はなく、公知の方法に従って測定することができる。
【0033】
なお、粉体層形成手段で供給される粉体は、粉体収容部に収容されていてもよい。粉体収容部は粉体が収容されている容器等の部材であり、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0034】
<造形液付与工程及び造形液付与手段>
前記造形液付与工程は、前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する工程である。
前記造形液付与手段は、前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する手段である。
【0035】
<<造形液>>
前記造形液は、造形物の製造に用いられ、金属粒子を含む粉体層に対して付与される液体組成物である。
前記造形液は、樹脂を含有し、さらに必要に応じて有機溶剤、添加剤、その他の成分を含有する。
【0036】
<<<樹脂>>>
前記樹脂としては、立体造形物の製造において、粉体に付与して個々の粒子を接着させる役割を担うバインダー樹脂として機能することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記樹脂としては、前記樹脂が溶媒Aに溶解可能であり、前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下であることが好ましい。なお、前記溶媒Aは前記炭化水素溶媒とは異なる溶媒である。
オクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下の前記溶媒Aとしては、例えば、グリセリン(logPow値:-1.8)、γ-ブチロラクトン(logPow値:-0.6)、水(logPow値:-0.5)、1-ブタノール(logPow値:0.9)、1-ヘキサノール(logPow値:2.0)、ジペンテン(D-リモネン)(logPow値:3.4などが挙げられる。
なお、オクタノール/水分配係数(logPow値)は、オクタノールと水の2相系において、ある化合物がオクタノール相に溶解している濃度と、水に溶解している濃度の比を表す。前記オクタノール/水分配係数(logPow値)は、化学データベース(PubChem、https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照して抽出することができる。また、化学データベース以外にも、オクタノール/水分配係数(logPow値)は、使用する前記溶媒の安全データシート(Safety. Data Sheet、SDS)に記載の値を参照してもよい。
前記樹脂が前記溶媒Aに溶解可能な樹脂であると、前記洗浄液を用いた場合に、バインダー樹脂(造形液に含有する樹脂)付与後の未焼結体中のバインダー樹脂を溶解することなく余剰粉体のみを除去できる効果を向上させることができる。
ここで、「樹脂が溶媒Aに溶解可能である」こと、「溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である」ことと、との関係の一例について、下記表1を参照して説明する。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、オクタノール/水分配係数(logPow値)が「-0.6」である「γ-ブチロラクトン」は、疎水性樹脂である「JMR-10LL(ポリ酢酸ビニル)」、「エスレックBL-10(ポリビニルブチラール)」、及び水溶性樹脂である「PVP(ポリビニルピロリドン)」の全てを溶解可能である。
一方、例えば、オクタノール/水分配係数(logPow値)が「-0.5」である「水」は、水溶性樹脂である「PVP(ポリビニルピロリドン)」は溶解可能であるが、疎水性樹脂である「JMR-10LL(ポリ酢酸ビニル)」及び「エスレックBL-10(ポリビニルブチラール)」は溶解できない。また、オクタノール/水分配係数(logPow値)が「3.4」である「ジペンテン(D-リモネン)」は、「PVP(ポリビニルピロリドン)」は溶解できない。
このように、本発明において、「樹脂が溶媒Aに溶解可能である」とは、「オクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下」に属する全ての溶媒に対して溶解性を有している必要はなく、この範囲の溶媒により溶解可能なものが存在することを意味する。
【0039】
なお、前記溶媒に溶解可能であるとは、25℃、100gの溶媒に対して1g以上溶解できることを意味する。
【0040】
前記樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、アリルアルコール、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、ウレタン、及びメタ(アク)リレートから選択される少なくとも1種のモノマーを構造単位として有する重合体などが挙げられる。
また、前記樹脂としては、例えば、その他有機溶剤に溶解若しくは分散可能な樹脂、又は、水を含む多価アルコール等の水系溶媒に溶解若しくは分散可能な樹脂などが挙げられる。
【0041】
前記樹脂としては、例えば、下記構造式(1)で表される構造単位、及び下記構造式(2)で表される構造単位の少なくともいずれかを有する樹脂を含有する。なお、本開示において「構造単位」とは、1つ以上の重合性化合物に由来する樹脂中の部分構造を表す。
【化1】
【化2】
【0042】
-構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂-
前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液が金属粒子を含む粉体層に対して付与されることで粉体層中に配置され、樹脂の軟化点に応じた適切な固化工程(加熱処理)を経ることで、造形液が付与された領域における金属粒子同士を結着させるバインダーとして機能し、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物を形成させる。
これらの焼結前の固化物は、柔軟性を付与する構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂により形成されるため、曲げ強度が向上する。
【0043】
また、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、熱分解性に優れるため、脱脂工程で適切に除去され、これに続く焼結工程を経て作製された焼結体における密度が向上する。
従って、本開示のように、造形物を形成する材料として、焼結を前提とした、又は焼結されることが好ましい材料である金属粒子を用いた場合、得られる効果が顕著になる。具体的には、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、30℃から550℃まで昇温した場合に95質量%以上熱分解されることが好ましく、97質量%以上熱分解されることがより好ましい。
なお、本開示において「樹脂が熱分解する」とは、主鎖のランダム分解又は分子鎖末端での解重合等が起き、気化、酸化分解、燃焼などによって樹脂が除去されることを表す。また、熱分解性はTG-DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)を用いることで測定する。具体的には、大気または窒素雰囲気中で30℃から550℃までを10℃/分で昇温させ、更に550℃に到達後2時間温度保持したときにおいて、昇温前後の重量減少率を求める。
【0044】
更に、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、構造式(1)で表される構造単位が疎水性を有することにより、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上する。そのため、造形液が有機溶剤を含む場合、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性が向上し、これに伴って造形液の粘度を低下させることができる。例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。なお、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液の有機溶剤に可溶であり、水に不溶であることが好ましい。
【0045】
前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂のTgとしては、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましい。また、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂のTgとしては、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0046】
前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の軟化点としては、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましい。また、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の軟化点としては、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。
【0047】
前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の数平均分子量(Mn)としては、5,000以上50,000以下が好ましく、10,000以上30,000以下がより好ましい。前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の数平均分子量(Mn)が上記範囲であると、造形物又は固化物の強度及び造形精度の向上と、造形液の粘度低下及び造形液中の樹脂濃度の向上と、を両立することができる。
【0048】
前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、構造式(1)以外で表される構造単位を有する樹脂及び構造式(1)以外で表される構造単位を有さない樹脂のいずれであってもよい。前記構造式(1)以外で表される構造単位としては、例えば、下記構造式(3)で表される構造単位及び下記構造式(4)で表される構造単位などが好ましい。
【化3】
【化4】
【0049】
前記構造式(1)で表される構造単位に加えて構造式(3)で表される構造単位を有する樹脂は、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度を向上させる。
また、前記構造式(3)で表される構造単位も、前記構造式(1)で表される構造単位と同様に疎水性を有することにより、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上する。
これらの観点から、樹脂において、前記構造式(1)で表される構造単位及び構造式(3)で表される構造単位の合計量としては、前記構造式(1)で表される構造単位、前記構造式(3)で表される構造単位、及び前記構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して60mol%以上が好ましく、65mol%以上がより好ましく、70mol%以上が更に好ましく、75mol%以上がより更に好ましく、80mol%以上が特に好ましい。なお、樹脂が前記構造式(3)又は前記構造式(4)で表される構造単位を有さない場合も同様であり、有さない構造単位の量を0として上記割合を算出すればよい。
【0050】
前記構造式(1)で表される構造単位に加えて構造式(4)で表される構造単位を有する樹脂は、前記構造式(4)で表される構造単位における水酸基により、造形液が付与される粉体層における金属粒子との親和性を向上させる。これにより、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上し、焼結前の固化物における密度及び焼結後の固化物における密度もより向上する。これらの観点から、樹脂において、構造式(4)で表される構造単位の量は、構造式(1)で表される構造単位、構造式(3)で表される構造単位、及び構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して5mol%以上であることが好ましく、15mol%以上であることがより好ましく、25mol%以上であることが更に好ましい。
しかし、構造式(4)で表される構造単位は親水性を有するため、構造式(4)で表される構造単位の割合が増加すると、造形液が有機溶剤を含む場合において、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性の向上が抑制され、これに伴って造形液の粘度低下が抑制される。この観点から、樹脂において、構造式(4)で表される構造単位の量は、構造式(1)で表される構造単位、構造式(3)で表される構造単位、及び構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して40mol%以下であることが好ましく、35mol%以下であることがより好ましく、30mol%以下であることが更に好ましく、25mol%以下であることがより更に好ましく、20mol%以下であることが特に好ましい。なお、樹脂が構造式(3)で表される構造単位を有さない場合も同様であり、有さない構造単位の量を0として上記割合を算出すればよい。
【0051】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の具体例としては、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂などを挙げることができ、これらの中でも造形液の粘度を低下させることができる点からポリ酢酸ビニル樹脂及び所定の部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂が好ましい。
ここで、所定の部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂とは、構造式(1)で表される構造単位の量が、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して75mol%以上である部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂を表し、80mol%以上である部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂を表すことが好ましい。
なお、これら樹脂は単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。また、市販品及び合成品のいずれも使用することができる。
【0052】
本開示において、ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(1)で表される構造単位を有し、構造式(3)で表される構造単位及び構造式(4)で表される構造単位を実質的に有さない樹脂である。
部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(1)で表される構造単位と構造式(4)で表される構造単位とを有し、構造式(3)で表される構造単位を実質的に有さない樹脂である。
ポリビニルブチラール樹脂は、構造式(1)で表される構造単位と構造式(3)で表される構造単位とを有する樹脂、又は構造式(1)で表される構造単位と構造式(3)で表される構造単位と構造式(4)で表される構造単位とを有する樹脂である。
なお、部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂とは、ポリ酢酸ビニル樹脂を部分的にけん化することで得られる樹脂である。
また、本開示における部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(4)で表される構造単位の量が、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して40mol%以下であり、35mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましく、25mol%以下であることが更に好ましく、20mol%以下であることがより更に好ましい。言い換えると、本開示における部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂は、けん化度が40以下であり、35以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましく、20以下であることがより更に好ましい。
【0053】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の含有量は、造形液の質量に対して5.0質量%以上であることが好ましく、7.0質量%以上であることがより好ましく、10.0質量%以上であることが更に好ましく、11.0質量%以上であることが特に好ましい。また、30.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以下であることがより好ましく、20.0質量%以下であることが更に好ましい。含有量が5.0質量%以上であることで、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上する。また、含有量が30.0質量%以下であることで、造形液の粘度がより低下し、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(3)で表される構造単位の合計量が、構造式(1)で表される構造単位、構造式(3)で表される構造単位、及び構造式(4)で表される構造単位の合計量に対して95mol%以上である樹脂は、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上し、造形液の粘度が低下するため、高質量(造形液の質量に対して例えば、15.0質量%以上又は20.0質量%以上)含有させることもできる。これにより造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度が更に向上する。
【0054】
なお、樹脂中の各構造式で表される構造単位の量(mol%)は、例えば、JIS-K6276-1994に記載のポリビニルアルコール試験方法などによって求めることができる。
【0055】
-構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂-
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液が金属粒子を含む粉体層に対して付与されることで粉体層中に配置され、樹脂の軟化点に応じた適切な固化工程を経ることで、造形液が付与された領域における金属粒子同士を結着させるバインダーとして機能し、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物を形成させる。
これらの焼結前の造形物は、金属との親和性が高い5員環ラクタム構造を有する構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂により形成されるため、金属粒子間が強固に結着され、曲げ強度が向上する。
【0056】
また、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、昇温プロファイルを適切に制御すれば、熱分解性に優れるため、脱脂工程で適切に除去され、これに続く焼結工程を経て作製された焼結体における密度が向上する。
従って、本開示のように、造形物を形成する材料として、焼結を前提とした又は焼結されることが好ましい材料である金属粒子を用いた場合、得られる効果が顕著になる。具体的には、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、30℃から550℃まで昇温した場合に95質量%以上熱分解されることが好ましく、97質量%以上熱分解されることがより好ましい。
但し、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、温度条件(例えば、160℃以上の加熱条件)によっては架橋構造を形成し、高い熱分解性の効果が抑制される場合がある。そのため、本開示のように、造形物を形成する材料として、焼結を前提とした又は焼結されることが好ましい材料である金属粒子を用いる場合、取り扱い性が容易な観点に基づいて、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂より構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を用いることが好ましいことがある。
【0057】
更に、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、5員環ラクタム構造を有することで、特定の有機溶剤(主に極性溶媒)に対する溶解性が向上し、これに伴って造形液の粘度を低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。また、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、有機溶剤として後述する成分1(環状エステル(ラクトン)類など)及び成分2(グリコールジエーテル類)などと併用した場合、より造形液の粘度を低下させることができる。このように、造形液の粘度を低下させることができるため、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液中に高質量(造形液の質量に対して例えば、15.0質量%以上)含有させることもできる。これにより造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度が更に向上する。
【0058】
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の軟化点は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましい。また、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましい。
【0059】
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の数平均分子量(Mn)は、3,000以上50,000以下であることが好ましく、5,000以上40,000以下であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲であることで、強度及び造形精度の向上と、造形液の粘度低下及び造形液中の樹脂濃度の向上と、を両立することができる。
【0060】
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルピロリドン樹脂などを挙げることができる。また、市販品及び合成品のいずれも使用することができる。
【0061】
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の含有量は、造形液の質量に対して7.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、11.0質量%以上であることが更に好ましく、13.0質量%以上であることが特に好ましい。また、25.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以下であることが更に好ましい。含有量が7.0質量%以上であることで、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上する。また、含有量が25.0質量%以下であることで、造形液の粘度がより低下し、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
【0062】
<<有機溶剤>>
前記造形液は、有機溶剤を含有する。
前記有機溶剤は、造形液を常温において液体の状態とするために用いられる液体成分である。
また、前記造形液は、有機溶剤を含有することにより、非水系の造形液であることが好ましい。
本開示において「非水系の造形液」とは、造形液の液体成分として有機溶剤を含み、かつ液体成分において最大の質量を有する成分が有機溶剤であるものを表す。「非水系の造形液」は、造形液中の液体成分の含有量に対する有機溶剤の含有量が90.0質量%以上であることが好ましく、95.0質量%以上であることがより好ましい。
非水系の造形液であると、特に、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂において溶解性が向上し、造形液の粘度が低下するためである。
また、非水系の造形液は、例えば、実質的に水を含有しない造形液と言い換えることができる場合がある。これにより、金属粒子を構成する材料が高活性金属、言い換えると禁水材料(例えば、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムなど)であっても造形液を適用することができる。一例として、アルミニウムは、水と接触することで水酸化アルミニウムの皮膜を形成するため、造形液中における水の含有量が多いと焼結体の焼結密度が低下する課題があるが、水を含有しない造形液を用いることで本課題は抑制される。別の例として、アルミニウムは、水と接触することで水素を発生させるため取り扱いが困難な課題があるが、水を含有しない造形液を用いることで本課題も抑制される。
【0063】
前記有機溶剤としては、例えば、n-オクタン、m-キシレン、ソルベントナフサ、ジイソブチルケトン、3-ヘプタノン、2-オクタノン、アセチルアセトン、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-オクチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、カプリル酸エチル、オクタン酸エチル、アセト酢酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、マレイン酸ビス2-エチルヘキシル、トリアセチン、トリブチリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、シクロヘキサノン、及びブチルセロソルブなどが挙げられる。これらは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0064】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を用いる場合、併用する有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、アルコキシ基、エーテル結合、及びエステル結合からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する有機溶剤を用いることが好ましく、エーテル結合を有する有機溶剤を用いることがより好ましく、アルキレングリコールジアルキルエーテル類であることが特に好ましい。これら有機溶剤を用いた場合、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、本開示において「アルキレングリコールジアルキルエーテル類」とは、R-(O-R-ORで表され、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数1又は2であることが好ましい。Rは炭素数2以上5以下のアルキレン基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数2又は3であることがより好ましい。mは1以上5以下の整数を示し、2又は3であることがより好ましい。
アルキレングリコールジアルキルエーテル類の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、及びジエチレングリコールブチルメチルエーテルなどを挙げることができ、これらの中でもジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましく、トリエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。
【0065】
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂を用いる場合、併用する有機溶剤としては極性溶媒であることが好ましい。具体的には、環状エステル(ラクトン)類、環状ケトン類、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテル類からなる群である成分1より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、成分1より選択される少なくとも1種に加えてアルキレングリコールジアルキルエーテル類からなる群である成分2より選択される少なくとも1種を更に用いることがより好ましい。これら有機溶剤を用いた場合、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。なお、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性がより向上する観点から、成分1は、環状エステル(ラクトン)類、及び環状ケトン類からなる群であることが好ましい。
構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂を用い、有機溶剤として、成分1より選択される少なくとも1種及び成分2より選択される少なくとも1種の両方を用いる場合、成分1の合計量及び成分2の合計量の質量比(成分1/成分2)は、60/40~100/0であることが好ましい。60/40~100/0であることで、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができるためである。
環状エステル(ラクトン)類、環状ケトン類、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテル類からなる群である成分1に含まれる具体例としては、例えば、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、及びシクロヘキサノンなどが挙げられる。
アルキレングリコールジアルキルエーテル類からなる群である成分2に含まれる具体例としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、及びジエチレングリコールブチルメチルエーテルなどを挙げることができ、これらの中でもジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
なお、本開示において「アルキレングリコールモノアルキルエーテル類」とは、R-(O-R-OHで表され、Rは炭素数1以上5以下のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rは炭素数2以上5以下のアルキレン基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは1以上5以下の整数を示す。
なお、造形液の粘度をより低下させたい場合、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を用いたときより、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂を用いたときの方が、併用する有機溶剤の種類の影響を受けるため、上記のような有機溶剤(成分1及び成分2)を選択的に使用することが求められる。そのため、造形液を作製する際の材料選択の幅を広げることができる観点に基づけば、構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂より構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
前記有機溶剤の含有量は、造形液の質量に対して、60.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、70.0質量%以上95.0質量%以下がより好ましい。60.0質量%以上95.0質量%以下であると、樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。また、造形液付与手段において造形液が乾燥することが抑制され、吐出安定性に優れた造形液を提供できる。
【0067】
前記有機溶剤の量及び樹脂の量の質量比(有機溶剤/樹脂)は、75/25以上95/5以下であることが好ましい。75/25以上であると、樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。95/5以下であると、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上する。
【0068】
前記有機溶剤の量及び樹脂の量の合計量は、造形液の質量に対して90.0質量%以上であることが好ましく、95.0質量%以上であることがより好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましい。
また、有機溶剤及び樹脂以外の成分を実質的に含有しなくてもよい。
なお、造形液が実質的に有機溶剤及び樹脂以外の成分を含有しないとは、造形液の製造時における材料として積極的に有機溶剤及び樹脂以外の成分を用いていないこと又は造形液における有機溶剤及び樹脂以外の成分の含有量が公知かつ技術常識の手法を用いた場合において検出限界以下であることを表す。
前記有機溶剤の量及び樹脂の量の合計量が、造形液の質量に対して90.0質量%以上であることで、造形液に含まれる樹脂の含有量が多くなり、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上する。また、有機溶剤及び樹脂以外の成分(例えば、金属微粒子などの造形液中において非溶解性の材料)の含有量が少なくなる又は実質的に含有しなくなることで、造形液の粘度が低下し、造形液の吐出安定性が向上し、造形液の保存安定性も向上する。
【0069】
有機溶剤の粘度は、低粘度であることが好ましく、具体的には、25℃で、5.0mPa・s以上50.0mPa・s以下が好ましく、8.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましい。有機溶剤の粘度が、上記範囲であると、有機溶剤を含有する造形液の粘度も低粘度化しやすく、これによりインクジェットヘッドなどの造形液付与手段からの吐出が安定化し、正確な造形液の吐出により、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物における曲げ強度がより向上し、更に、寸法精度も向上する。
なお、粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
【0070】
前記有機溶剤の沸点は、高沸点であることが好ましく、具体的には150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。造形液をインクジェット方式などで吐出する場合に有機溶剤の沸点が高沸点であると、ノズル又はノズル近傍において造形液が乾燥することが抑制され、析出した樹脂によってノズル詰まりが生じることを抑制できるためである。高沸点の有機溶剤としては特に限定されないが、上記のγ-ブチロラクトン(沸点:204℃)、炭酸プロピレン(沸点:242℃)、シクロヘキサノン(沸点:155.6℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:162℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:216℃)などが挙げられる。
【0071】
<<添加剤>>
前記造形液は、目的に応じて、界面活性剤、乾燥防止剤、粘度調整剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、着色剤、保存剤、安定化剤などを適宜含有してもよい。これら従来公知の材料を用いることができる。
【0072】
<<その他成分>>
-水-
造形液において、水は実質的に含有されない。
本開示において「水を実質的に含有しない」とは、水の含有量が造形液の質量に対して10.0質量%以下であることを表し、5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、造形液が水を含有しないことが特に好ましい。
造形液が水を実質的に含有しないことで、上記樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができる。
また、樹脂の周囲に多くの水を包含したヒドロゲルの形成が抑制され、これに伴う造形液の粘度の増大が抑制される。このため、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、本開示において「造形液が水を含有しない」とは、造形液の製造時における材料として積極的に水を用いていないこと又は造形液における水の含有量が公知かつ技術常識の手法を用いた場合において検出限界以下であることを表す。
また、造形液が水を実質的に含有しないことで、金属粒子を構成する材料が高活性金属、言い換えると禁水材料(例えば、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムなど)であっても造形液を適用することができる。一例として、アルミニウムは、水と接触することで水酸化アルミニウムの皮膜を形成するため、造形液中における水の含有量が多いと焼結体の焼結密度が低下する課題があるが、造形液が水を含有しないことで本課題は抑制される。別の例として、アルミニウムは、水と接触することで水素を発生させるため取り扱いが困難な課題があるが、造形液が水を含有しないことで本課題も抑制される。
【0073】
前記造形液付与手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。これらの中でも、ディスペンサ方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなる。また、スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による造形液の飛散が発生する。このため、インクジェット方式であることが好ましい。インクジェット方式は、スプレー方式に比べ、液滴の定量性が良く、ディスペンサ方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な造形物を精度良くかつ効率的に形成し得る点で好ましい。
【0074】
インクジェット法を用いる場合、造形液を吐出することで付与する造形液付与手段は、造形液を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドである。インクジェットヘッドとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドを好適に使用することができる。なお、インクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドとしては、例えば、株式会社リコー製の産業用インクジェットRICOH MH/GH SERIESなどが挙げられる。また、インクジェットプリンターとしては、例えば、株式会社リコー製のSG7100などが挙げられる。
【0075】
なお、造形液付与手段に供給される造形液は、造形液収容部に収容されていてもよい。造形液収容部は造形液が収容されている容器等の部材であり、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0076】
<積層工程>
本発明の立体造形物の製造方法は、粉体層形成工程及び造形液付与工程を順次繰り返すことで積層体を形成する積層工程を有していてもよい。
前記「積層体」とは、造形液が付与された領域を有する粉体層が複数積層された構造体である。
このとき、構造体は、内部に一定の立体的形状が保たれている立体物を含まないものであってもよいし、内部に一定の立体的形状が保たれている立体物が含まれているものであってもよい。
【0077】
前記積層工程は、粉体を薄層に載置させる工程(粉体層形成工程)と、薄層上に造形液を付与する工程(造形液付与工程)と、を含み、これにより粉体層のうち造形液が付与された領域を形成させる。
更に、積層工程は、造形液が付与された領域を有する粉体層である薄層上に、上記と同様にして、粉体を薄層に載置(積層)させる工程(粉体層形成工程)と、薄層上に造形液を付与する工程(造形液付与工程)と、を含み、これにより新たに積層させた粉体層において造形液が付与された領域を形成させる。
なお、このとき、最上部の積層した粉体の薄層において生じる造形液が付与された領域は、その下に存在する粉体の薄層における造形液が付与された領域と連続する。その結果、粉体層の二層分の厚みを有する造形液が付与された領域が得られる。
【0078】
<固化工程及び固化手段>
前記固化工程は、前記造形物を固化して固化物を得る工程である。
前記固化手段は、前記造形物を固化して固化物を得る手段である。
【0079】
「固化」とは、一定の形状が保たれるようになることを表す。
「固化物」とは、一定の立体形状が保たれている立体物を有する構造体である。
また、固化物は、立体物を構成しない粉体である余剰粉体を除去する余剰粉体除去工程を経ていないものを表す。
前記造形物を固化する方法としては特に制限はなく、例えば、加熱することなどが挙げられる。
【0080】
前記固化工程における加熱温度は、樹脂の軟化点Tg(℃)より高いことが好ましく、Tg(℃)以上Tg+150(℃)以下がより好ましい。
これにより、上記樹脂は、造形液が付与された領域における金属粒子同士を結着させるバインダーとして機能し、造形物及び造形物に由来する未焼結体等の焼結前の固化物を形成できる。
なお、固化手段としては特に制限はなく、例えば、乾燥機、恒温恒湿槽などが挙げられる。
【0081】
<余剰粉体除去工程及び余剰粉体除去手段>
前記余剰粉体除去工程は、前記固化物に付着している前記造形用粉体を、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液で除去する工程である。
前記余剰粉体除去手段は、前記固化物に付着している前記造形用粉体を、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液で除去する手段である。
【0082】
前記余剰粉体除去工程は、固化物に付着している粉体である余剰粉体を除去して未焼結体を得る工程である。
前記「未焼結体」とは、一定の立体形状が保たれている立体物であって、固化物を構成しない粉体である余剰粉体を除去する余剰粉体除去工程を経たものを表し、好ましくは余剰粉体が実質的に付着していない立体物を表す。「未焼結体」を「グリーン体」と称することがある。
【0083】
前記余剰粉体除去工程において、「前記固化物に付着している前記造形用粉体を、前記洗浄液で除去する」方法としては、洗浄液を用いて前記固化物に付着している余剰な前記造形用粉体を除去することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記固化物を前記洗浄液に浸漬させ、超音波処理により前記固化物に付着している前記造形用粉体を除去する方法などが好適に挙げられる。
また、前記余剰粉体除去工程においては、「前記固化物に付着している前記造形用粉体を、前記洗浄液で除去する」以外にも、例えば、エアーブローにより固化物の表面から余剰粉体を除去する工程を組み合わせることが好ましい。
【0084】
前記固化工程後の固化物は、造形液が付与されていない粉体である余剰粉体に埋没した状態である。この埋没した状態から固化物を取り出すと、前記固化物の表面や内部には前記余剰粉体が付着しており、簡便にこれらを除去することは困難である。
また、前記固化物の表面形状が複雑な場合や、前記固化物の内部構造が流路のようなものである場合は一層困難である。
一般的なバインダージェッティング方式で造形された焼結前の固化物は強度が高くないため、送風手段によるエアーブローの圧力を高くすると、前記固化物が崩壊する恐れがある。
一方で、本開示の造形液を用いて形成された固化物は、上記樹脂により形成されるため、曲げ強度が向上し、エアーブローの圧力に耐えうる強度を有する。このとき、前記固化物の強度は3点曲げ応力で3MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることがより好ましい。
【0085】
本発明の立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置において、前記洗浄液のオクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上であり、5.0以上が好ましく、5.0以上8.0以下がより好ましい。また、「オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒」であると、バインダー樹脂(造形液)付与後の未焼結体中のバインダー樹脂を溶解することなく余剰粉体のみを除去することができる。
本発明の立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置において、前記洗浄液は本発明の余剰粉体除去用洗浄液であることが好ましい。
【0086】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥工程、脱脂工程、焼結工程、後処理工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥手段、脱脂手段、焼結手段、後処理手段などが挙げられる。
【0087】
<<乾燥工程及び乾燥手段>>
本発明の立体造形物の製造方法は、未焼結体を乾燥させて未焼結体中に残存する洗浄液等の液体成分を除去する乾燥工程を有することが好ましい。
前記乾燥工程は、未焼結体中に含まれる洗浄液等の液体成分のみならず、有機物を除去してもよい。
前記乾燥手段としては、例えば、公知の乾燥機、恒温恒湿槽などを用いることができる。
【0088】
<<脱脂工程及び脱脂手段>>
本発明の立体造形物の製造方法は、未焼結体を加熱して、付与された造形液に由来する樹脂等を除去することで脱脂体を得る脱脂工程を有することが好ましい。
前記「脱脂体」とは、未焼結体から上記樹脂等の有機成分を脱脂することにより得られる立体物である。
前記脱脂工程は、脱脂手段を用い、上記樹脂等の有機成分の熱分解温度以上であって且つ金属粒子を構成する材料(金属)の融点又は固相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約570℃)より低い温度で未焼結体を一定時間(例えば、1~10時間)加熱することで有機成分を分解して除去する。
前記脱脂手段としては、例えば、公知の焼結炉や電気炉などが挙げられる。
【0089】
<<焼結工程及び焼結手段>>
本発明の立体造形物の製造方法は、固化物(未焼結体)又は脱脂体を加熱して焼結体を得る焼結工程を有することが好ましい。「焼結体」とは、金属粒子を構成する金属材料が一体化して形成される立体物であって、固化物(未焼結体)又は脱脂体を焼結することにより造形されるものである。
前記焼結工程は、焼結手段を用い、金属粒子を構成する金属材料の固相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約570℃)以上であって且つ液相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約600℃)以下の温度で脱脂体を一定時間(例えば、1~10時間)加熱することで金属粒子を構成する金属材料を一体化させる。
前記焼結手段としては、例えば、公知の焼結炉などが挙げられるが、上記の脱脂手段と同一の手段であってもよい。また、脱脂工程と焼結工程は、連続して実行されてもよい。
【0090】
<<後処理工程及び後処理手段>>
本発明の立体造形物の製造方法は、焼結体に対して後処理を行う後処理工程を有することが好ましい。
前記後処理工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面保護処理工程、塗装工程などが挙げられる。
前記後処理手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面保護処理手段、塗装手段などが挙げられる。
【0091】
[造形の流れ]
本開示の立体造形物の製造方法における造形の流れについて図1A図1Eを参照して説明する。図1A図1Eは、立体造形物の製造装置の動作の一例を示す概略図である。
【0092】
まず、造形槽の造形ステージ上に、1層目の粉体層30が形成されている状態から説明する。1層目の粉体層30上に次の粉体層を形成するときには、図1Aに示すように、供給槽の供給ステージ23を上昇させ、造形槽の造形ステージ24を下降させる。このとき、造形槽22における粉体層の上面と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔(積層ピッチ)がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。間隔Δt1は、特に制限されるものではないが、数十~100μm程度であることが好ましい。
【0093】
本開示では、平坦化ローラ12は供給槽21及び造形槽22の上端面に対してギャップが生じるように配置している。したがって、造形槽22に粉体20を移送供給して平坦化するとき、粉体層の上面は供給槽21及び造形槽22の上端面よりも高い位置になる。これにより、平坦化ローラ12が供給槽21及び造形槽22の上端面に接触することを確実に防止できて、平坦化ローラ12の損傷が低減する。平坦化ローラ12の表面が損傷すると、造形槽22に供給した粉体層31(図1D参照)の表面にスジが発生して平坦性が低下しやすくなる。
【0094】
次いで、図1Bに示すように、供給槽21の上端面よりも高い位置に配置した粉体20を、平坦化ローラ12を矢印方向に回転しながら造形槽22側に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。さらに、図1Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、造形ステージ24の造形槽22上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する(平坦化)。このとき、粉体層31の形成に使用されなかった余剰の粉体20は余剰粉体受け槽29に落下する。粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、図1Dに示すように、供給槽21側に移動されて初期位置(原点位置)に戻される(復帰される)。
【0095】
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上端面との距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された固化層30の上に均一厚さh(積層ピッチΔt1に相当)の粉体層31を形成できる。なお、以下、粉体層31の厚みhと積層ピッチΔt1とを区別せずに説明することがあるが、特に断りのない限り、同じ厚みであり、同じ意味である。また、粉体層31の厚みhを実際に測定して求めてもよく、この場合、複数箇所の平均値とすることが好ましい。
【0096】
その後、図1Eに示すように、液体吐出ユニットのヘッド52から造形液の液滴10を吐出して、次の粉体層31に所望の形状の造形液被付与層30を積層形成する。次いで、上述した粉体層形成工程及び造形液付与工程を繰り返して新たな造形液被付与層30を形成して積層する。このとき、新たな造形液被付与層30とその下層の造形液被付与層30は一体化する。以後、更に粉体層形成工程及び造形液付与工程を繰り返し行い、積層物(造形物)を製造する。
【0097】
(造形液と洗浄液のセット)
本発明の造形液と洗浄液のセットは、樹脂を含有する造形液と、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する余剰粉体除去用洗浄液と、を含み、さらに必要に応じてその他の成分を含む。
本発明の造形液と洗浄液のセットにおける、「造形液」及び「余剰粉体除去用洗浄液」は本発明の「余剰粉体除去用洗浄液」及び「立体造形物の製造方法」において説明したものと同様である。
本発明の造形液と洗浄液のセットにおける「余剰粉体除去用洗浄液」は、造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去することに専ら好適に用いることができる。
【実施例0098】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0099】
<造形液1~3の調製>
表2に示す材料を個々に調合し、70℃で加温しながら4時間マグネチックスターラーで撹拌混合した。4時間後に加温を停止し、室温になるまで撹拌を維持して造形液1~3を調製した。
【0100】
【表2】

表2に記載の数字は質量%を表す。
【0101】
なお、表2に記載の材料の詳細を以下に示す。
<有機溶剤>
・トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル、東邦化学工業株式会社製:商品名:ハイソルブМTМ、logPow値:-0.48)
・γ-ブチロラクトン(東京化成工業株式会社製、logPow値:-0.6)
<構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂>
-JMR-10LL(酢酸ビニル系樹脂、部分けん化ポリ酢酸ビニル、けん化度:10mol%、日本酢ビ・ポバール株式会社製)-
・構造式
【化5】
・樹脂中の疎水部の割合:89mol%~91mol%
・樹脂中の親水部の割合:9mol%~11mol%
・Tg:30℃~40℃
・軟化点:約105℃
・数平均分子量(Mn):20000以下
・成分濃度:99質量%以上
・25℃のトリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)100gに10g以上溶解可能
-エスレックBL-10(酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール、積水化学工業株式会社製)-
・構造式
【化6】
・樹脂中の疎水部の割合:72mol%(構造式(1)で表される構造単位が3mol%、構造式(3)で表される構造単位が69mol%)
・樹脂中の親水部の割合:28mol%
・Tg:67℃
・軟化点:100℃~120℃
・数平均分子量(Mn):約15000
・成分濃度:99質量%以上
・25℃のγ-ブチロラクトン100gに10g以上溶解可能
<構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂>
-PVP K15(ポリビニルピロリドン、富士フィルム和光純薬株式会社製)-
・構造式
【化7】
・軟化点:100℃~130℃
・数平均分子量(Mn):約10000以下
・成分濃度:90質量%以上
・25℃のγ-ブチロラクトン100gに10g以上溶解可能
【0102】
次に、調整した造形液1~3及び金属粒子を含む粉体(AlSi10Mg粉体(東洋アルミニウム株式会社製、Si10Mg-30BB、体積平均粒径:35μm、金属粒子表面は樹脂で被覆されていない))を用い、各固化物(未焼結体、グリーン体)を以下のようにして製造した。
1)まず、図1A図1Eに示したような公知の造形物の製造装置を用いて、供給側粉体貯留槽から造形側粉体貯留槽に粉体を移送させ、ステージ上に平均厚みが100μmの粉体による薄層を形成した。
2)次に、形成した粉体による薄層の表面に、造形液を、公知のインクジェット吐出ヘッドのノズルから吐出して付与し、硬化液に含まれるバインダー樹脂の作用により、芯材の周囲にバインダー樹脂を配置した。なお、造形液の吐出領域は長さ40mm×巾10mmの長方形形状とした。
3)次に、1)及び2)の操作を、総平均厚みが3mmになるまで繰返し、固化した粉体による薄層を順次積層していき、乾燥機を用いて、各樹脂の軟化点に応じて適宜、最適な加熱条件で乾燥工程を行い、固化物(未焼結体)を得た。
4)乾燥後の固化物(未焼結体)に対し、エアーブローにより余分な粉体を除去した後、造形液1で作製した固化物(未焼結体)を得た。
なお、各造形液1~3につき、固化物(未焼結体)を2つずつ作製した。以下、固化物(未焼結体)を単に未焼結体と称して記載する。
【0103】
次に、作製した未焼結体について、「洗浄液浸漬前後における未焼結体の曲げ強度」及び「洗浄液浸漬後における未焼結体の状態」について評価した。
【0104】
<洗浄液浸漬前後における未焼結体の曲げ強度>
-洗浄液浸漬前-
洗浄液浸漬前における未焼結体の曲げ強度は、上記の4)で作製した未焼結体の曲げ強度を測定し、下記評価基準に基づいて評価した。曲げ強度の測定には、株式会社島津製作所製の万能試験機(オートグラフ、型式AG-I)を使用し、1kN用ロードセル、及び3点曲げ治具を用いた。また、支点間距離は24mmとし、荷重点を1mm/分間の速度で変位させた際の応力を歪量に対してプロットし、破断点の応力を最大応力とした。
[評価基準]
A:曲げ強度が5MPa以上
B:曲げ強度が3MPa以上5MPa未満
C:曲げ強度が2.7MPa以上3MPa未満
D:曲げ強度が2.7MPa未満
-洗浄液浸漬後-
洗浄液浸漬後における未焼結体の曲げ強度は、上記の4)で作製した未焼結体をバットに入れた表3~表6に示す各洗浄液に浸漬して超音波槽の中で30分間液浸させた後に、洗浄液浸漬前と同様にして未焼結体の曲げ強度を測定した。評価方法、評価基準も洗浄液浸漬前と同様である。
【0105】
<洗浄液浸漬後における未焼結体の状態>
「洗浄液浸漬後における未焼結体の曲げ強度」の評価における、洗浄液浸漬後の未焼結体の状態を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて、「洗浄液浸漬後における未焼結体の状態」を評価した。評価結果が「○」であれば使用上問題のないものである。なお、洗浄液浸漬直後、及び浸漬して超音波槽の中で30分間液浸させた後の未焼結体の状態の写真を、図2A図15Bに示す。
なお、図2A及び図2Bは実施例1の結果を、図3A及び図3Bは実施例2の結果を、図4A及び図4Bは実施例3の結果を、図5A及び図5Bは実施例4の結果を、図6A及び図6Bは比較例1の結果を、図7A及び図7Bは比較例2の結果を、図8A及び図8Bは比較例3の結果を、図9A及び図9Bは実施例5の結果を、図10A及び図10Bは実施例6の結果を、図11A及び図11Bは比較例4の結果を、図12A及び図12Bは比較例5の結果を、図13A及び図13Bは実施例7の結果を、図14A及び図14Bは実施例8の結果を、図15A及び図15Bは比較例6の結果を、それぞれ示す。
[評価基準]
○:未焼結体の形状が浸漬前から変化なし
△:未焼結体の端部が崩壊し、粉体に戻りつつある
×:未焼結体の形状が崩壊し、粉体に戻っている
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
実施例1~8の結果から、オクタノール/水分配係数logPowの値が4.5以上であれば、洗浄液への浸漬前後で未焼結体の変化が無く、形状を保持しつつ余剰粉体を除去する洗浄液として用いることができた。また、実施例1~8から、未焼結体の洗浄液への浸漬前後での物理強度(曲げ強度)の低下もなかった。
また、比較例1~5の結果から、炭素、水素のみで構成される炭化水素溶媒であっても、二重結合や分子鎖が短い場合には、logPow値が低くなり、未焼結体が洗浄液への浸漬によって崩壊してしまったり、一部の形状が崩壊してしまった。
また、比較例6の結果から、logPow値が極端に低い場合には、未焼結体が完全に粉に戻ってしまった。
【0111】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 造形用粉体を用いて造形される固化物の余剰粉体を除去するために用いる余剰粉体除去用洗浄液であって、
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有することを特徴とする余剰粉体除去用洗浄液である。
<2> 前記造形用粉体が、樹脂に被覆されていない金属粒子を含む粉体である前記<1>に記載の余剰粉体除去用洗浄液である。
<3> 前記炭化水素溶媒のオクタノール/水分配係数(logPow値)が、5.0以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液である。
<4> 前記炭化水素溶媒が、分子中に二重結合を含まない前記<1>から<3>のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液である。
<5> 前記炭化水素溶媒が、炭素数7以上15以下の直鎖構造の炭化水素である前記<1>から<4>のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液である。
<6> 前記炭化水素溶媒が、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、及びp-メンタンの少なくともいずれかを含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液である。
<7> 造形用粉体を含む粉体層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する造形液付与工程と、
前記造形物を固化して固化物を得る固化工程と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液で除去する余剰粉体除去工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<8> 前記樹脂が、溶媒Aに溶解可能であり、
前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である前記<7>に記載の立体造形物の製造方法である。
<9> 前記造形用粉体が、樹脂に被覆されていない金属粒子を含む粉体である前記<7>から<8>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<10> 前記造形液が、下記構造式(1)で表される構造単位、及び下記構造式(2)で表される構造単位の少なくともいずれかを有する樹脂を含有する前記<7>から<9>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
【化8】
【化9】
<11> 前記余剰粉体除去工程が、超音波処理により前記固化物に付着している前記造形用粉体を除去することを含む前記<7>から<10>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<12> 樹脂を含有する造形液と、
オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する余剰粉体除去用洗浄液と、
を含むことを特徴とする造形液と洗浄液のセットである。
<13> 前記樹脂が、溶媒Aに溶解可能であり、
前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である前記<12>に記載の造形液と洗浄液のセットである。
<14> 造形用粉体を含む粉体層を形成する粉体層形成手段と、
前記粉体層に対して、樹脂を含有する造形液を付与して造形物を形成する造形液付与手段と、
前記造形物を固化して固化物を得る固化手段と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を除去する、オクタノール/水分配係数(logPow値)が4.5以上である炭化水素溶媒を含有する洗浄液、及び前記洗浄液を収容している洗浄液収容容器と、
前記固化物に付着している前記造形用粉体を、前記洗浄液で除去する余剰粉体除去手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<15> 前記樹脂が、溶媒Aに溶解可能であり、
前記溶媒Aのオクタノール/水分配係数(logPow値)が-1.8以上3.4以下である前記<14>に記載の立体造形物の製造装置である。
【0112】
前記<1>から<6>のいずれかに記載の余剰粉体除去用洗浄液、前記<7>から<11>に記載の立体造形物の製造方法、前記<12>から<13>のいずれかに記載の造形液と洗浄液のセット、及び前記<14>から<15>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0113】
【特許文献1】特開2021-146669公報
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B