(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134010
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】軽度不調改善剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230920BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230920BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230920BHJP
A61K 36/81 20060101ALN20230920BHJP
A23F 3/14 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/7048
A61P25/00
A61P39/06
A61P43/00 107
A61P25/24
A61K36/81
A23F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039323
(22)【出願日】2022-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】510060844
【氏名又は名称】学校法人電子開発学園
(71)【出願人】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】山本 万里
(72)【発明者】
【氏名】庄司 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】西平 順
(72)【発明者】
【氏名】勝山 豊代
(72)【発明者】
【氏名】長谷田 茜
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐典
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD42
4B018MD53
4B018ME14
4B027FB06
4B027FC06
4B027FE02
4B027FK02
4B027FK08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA04
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA12
4C086ZB22
4C086ZC21
4C088AB48
4C088AC12
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA12
4C088ZB22
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、軽度不調を改善するための剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、軽度不調改善剤であって、前記軽度不調改善剤が、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンを含み、前記アントシアニンが、ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む、軽度不調改善剤を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度不調改善剤であって、
前記軽度不調改善剤が、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンを含み、
前記アントシアニンが、ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む、
軽度不調改善剤。
【請求項2】
1日の投与量あたり、120mg以上のペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、30mg以上のペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及び12mg以上のペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む、請求項1に記載の軽度不調改善剤。
【請求項3】
1日の投与量あたり、250mg以上のアントシアニンを含む、請求項1又は2に記載の軽度不調改善剤。
【請求項4】
前記軽度不調が、心理的ストレス反応、イライラ感、及び抑うつ感からなる群から選択される1つ以上である、請求項1から3のいずれかに記載の軽度不調改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度不調改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康長寿社会の実現に向け、疾患の治療や予防だけではなく、疾患に至る前の段階での不調の早期発見やケアが重要視されている。
【0003】
疾患に至る前の段階の不調を改善するための組成物等については、各種提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方で、本発明者らは、食習慣が疾患に至る前の段階の不調に影響し得ることに着目した。
しかし、従来は、食品中成分と、疾患に至る前の段階の不調との関連について充分に検討されてこなかった。
そこで、本発明者らは、疾患に至る前の段階のうち、個人が主観的に感ずる軽度な心身不調を「軽度不調」として定義を整理したうえで、該軽度不調と関連する食品成分を研究した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、軽度不調を改善するための剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各種食品成分のうち、紫皮紫肉馬鈴薯由来の所定のアントシアニンの摂取が軽度不調の改善をもたらすことを見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 軽度不調改善剤であって、
前記軽度不調改善剤が、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンを含み、
前記アントシアニンが、ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む、
軽度不調改善剤。
【0009】
(2) 1日の投与量あたり、120mg以上のペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、30mg以上のペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及び12mg以上のペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む、(1)に記載の軽度不調改善剤。
【0010】
(3) 1日の投与量あたり、250mg以上のアントシアニンを含む、(1)又は(2)に記載の軽度不調改善剤。
【0011】
(4) 前記軽度不調が、心理的ストレス反応、イライラ感、及び抑うつ感からなる群から選択される1つ以上である、(1)から(3)のいずれかに記載の軽度不調改善剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軽度不調を改善するための剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の軽度不調改善剤の摂取による、軽度不調改善効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0015】
<軽度不調改善剤>
本発明の軽度不調改善剤(以下、「本発明の剤」ともいう。)は、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンを含む。
該アントシアニンは、ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上を含む。以下、「ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシド」を、「本発明における3種のアントシアニン」ともいう。
【0016】
本発明において「軽度不調」とは、疾患に至る前の段階のうち、個人が主観的に感ずる軽度な心身不調の一様態である。
本発明において「軽度不調」とは、ストレスの程度が低度~中度であるものの高度には至っていない状態や、その状態から派生する各種症状(心理的ストレス反応、イライラ感、抑うつ感、疲労感、身体愁訴、活気の低下等)のうち1つ以上を有する状態を包含する。
【0017】
軽度不調の有無や程度は、実施例において詳述した「職業性ストレス簡易調査票」(加藤正明、労働省、平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」、労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書、2000)によって特定され得る。
軽度不調を判定するための具体的方法の1つは、該調査票に規定する主観的ストレス評価である「領域B」の29項目のうち、No1~9、19~26、28を対象に回答させることが上げられる。得られた回答において、1つ以上の項目が該調査票で定める「やや高い」「高い」に該当する点数である場合、その対象が軽度不調であると判定できる。
【0018】
本発明者らは、紫皮紫肉馬鈴薯を摂取することで、軽度不調を改善できることを見出した。
さらに、本発明者は、紫皮紫肉馬鈴薯のうち、上記3種のアントシアニンが、軽度不調の改善効果に寄与することを特定した。
【0019】
本発明において「軽度不調の改善」とは、本発明の剤の摂取により、軽度不調の症状が低減したり、症状がなくなったりすることを包含する。
【0020】
以下、本発明の剤について詳述する。
【0021】
(紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニン)
本発明の剤は、ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、及びペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドからなる群から選択される1以上の、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンを含む。
【0022】
本発明の剤は、本発明における3種のアントシアニンのうち、好ましくは2以上、より好ましくは全て(3種)を含む。
本発明における3種のアントシアニンの組み合わせは、任意の組み合わせを包含する。
【0023】
本発明において「紫皮紫肉馬鈴薯」とは、アグリコンがペチュジニンやペオニジンであるアントシアニンを豊富に含む馬鈴薯を包含する。
例えば、紫皮紫肉馬鈴薯の一種である「シャドークイーン」は、そのアントシアニン組成が、以下を満たし得る(Food Sci.Technol.Res.,16(2),115-122,2010)。
ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド:72%
ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド:14%
ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシド:3%
その他のアントシアニン:11%
【0024】
紫皮紫肉馬鈴薯の品種としては、例えば、「シャドークイーン」、「ノーブルシャドー」、「キタムラサキ」、「インカパープル」等が挙げられる。
【0025】
本発明において、「紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニン」とは、紫皮紫肉馬鈴薯からのアントシアニン含有抽出物(精製アントシアニン、アントシアニン含有混合物等)だけではなく、紫皮紫肉馬鈴薯そのもの(紫皮紫肉馬鈴薯の植物体の全体又は一部)も包含する。
【0026】
紫皮紫肉馬鈴薯からアントシアニンを抽出する方法としては、溶媒抽出等が挙げられる。
溶媒抽出法に用いる抽出溶媒としては、毒性の無いものであればよく、例えば、水、親水性溶媒又はこれらの混合物が挙げられる。抽出溶媒のうち水としては、例えば、水道水、蒸留水、純水、イオン交換水等が挙げられる。抽出溶媒のうち親水性溶媒としては、例えば、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等)、低級脂肪族ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、多価アルコール(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
抽出時のpHは、好ましくは1.0~7.0、より好ましくは1.5~6.5である。
抽出回数は特に限定されず、一度抽出した後の残渣を回収して複数回行なってもよい。
抽出方法は、任意の化学分離精製方法を採用し得る。このような方法として、例えば、液-液分配、薄層クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分配カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、電気泳動や高速液体クロマトグラフィー、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0027】
本発明の剤に含まれるアントシアニンの含有量や、その種類は、高速液体クロマトグラフ法や比色法(pH differential法等)に基づき特定される。
【0028】
なお、赤皮赤肉馬鈴薯(例えば、「シャイニールビー」、「ノーザンルビー」、「インカレッド」)は、紫皮紫肉馬鈴薯同様に有色馬鈴薯として知られる。
ただし、紫皮紫肉馬鈴薯と、赤皮赤肉馬鈴薯とは、アントシアニン組成において大きく異なる。例えば、赤皮赤肉馬鈴薯のアントシアニン組成は、以下を満たし得る。
ペラルゴニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシド:70%以上
ペラルゴニジン-3-フェルロイルルチノシド-5-グルコシド:約5%
【0029】
また、非有色馬鈴薯については、その摂取による顕著な軽度不調改善効果は認められなかった。
非有色馬鈴薯は、アントシアニンを含まず、通常、数種のポリフェノール(ネオクロロゲン酸、クリプトクロロゲン酸、クロロゲン酸、トリゴネリン)を含む。
【0030】
[ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド]
「ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド」(化学式:C43H49O23)とは、「ペタニン」としても知られるアントシアニンの1種である。
【0031】
本発明の剤がペタニンを含む場合、その含有量は、得ようとする効果等に応じて調整できる。
【0032】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ペタニンの含有量の下限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは120mg以上、より好ましくは220mg以上である。
【0033】
ペタニンの含有量の上限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは700mg以下、より好ましくは650mg以下である。
【0034】
[ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド]
「ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド」(化学式:C43H49O22)とは、「ペオナニン」としても知られるアントシアニンの1種である。
【0035】
本発明の剤がペオナニンを含む場合、その含有量は、得ようとする効果等に応じて調整できる。
【0036】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ペオナニンの含有量の下限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは30mg以上、より好ましくは40mg以上である。
【0037】
ペオナニンの含有量の上限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは200mg以下、より好ましくは150mg以下である。
【0038】
[ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシド]
「ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシド」(化学式:C43H49O23)とは、アントシアニンの1種である。
【0039】
本発明の剤がペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドを含む場合、その含有量は、得ようとする効果等に応じて調整できる。
【0040】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドの含有量の下限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは12mg以上、より好ましくは15mg以上である。
【0041】
ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドの含有量の上限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは100mg以下、より好ましくは85mg以下である。
【0042】
[その他のアントシアニン]
本発明の剤には、本発明における3種のアントシアニン以外のアントシアニンが含まれていてもよく、含まれていなくともよい。
【0043】
本発明における3種のアントシアニン以外のアントシアニンとしては、ペオニジン-3-ルチノシド-5-グルコシド、ペオニジン-3-p-フェルロイルルチノシド-5-グルコシド、ペラルゴニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシド、ペラルゴニジン-3-p-フェルロイルルチノシドー5-グルコシド等が挙げられる。
【0044】
本発明の剤に含まれるアントシアニンの組成は特に限定されないが、例えば、質量比が、以下のいずれか又は全てを満たしていてもよい。
・本発明における3種のアントシアニン:本発明における3種のアントシアニン以外のアントシアニン=7:3~9:1
・ペチュニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシドが本発明における3種のアントシアニンの中で占める割合:50~75%
・ペオニジン-3-p-クマロイルルチノシド-5-グルコシドが本発明における3種のアントシアニンの中で占める割合:14~22%
・ペオニジン-3-p-カフェオイルルチノシド-5-グルコシドが本発明における3種のアントシアニンの中で占める割合:3~10%
【0045】
軽度不調の改善効果がより高まりやすいという観点から、アントシアニンの総量の下限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは250mg以上、より好ましくは300mg以上である。
なお、アントシアニンの総量は、デルフィニジン相当量で表すと、アントシアニンの総量の約1/10の値となる。
【0046】
アントシアニンの総量の上限は、本発明の剤に対し、1日の投与量あたり、好ましくは1600mg以下、より好ましくは2000mg以下である。
【0047】
例えば、通常、「シャドークイーン」のアントシアニンの総量は、619mg/100gFWであり、「ノーブルシャドー」のアントシアニンの総量は、1041mg/100gFWである。
【0048】
(本発明の剤の形態)
本発明の剤の形態は特に限定されないが、生体に投与可能な任意の形態(飲食品、錠剤、カプセル等)であり得る。
【0049】
本発明の剤の好ましい態様は、紫皮紫肉馬鈴薯の植物体(全体又は一部)を含む剤、及び、紫皮紫肉馬鈴薯の植物体(全体又は一部)のみからなる剤を包含する。
紫皮紫肉馬鈴薯の植物体は、未加工品であってもよく、加工品であってもよい。紫皮紫肉馬鈴薯の加工方法としては、加熱(油ちょう(フライ)、蒸し、ボイル、焼き、電磁波利用等)等が挙げられる。
【0050】
本発明の剤に含まれる紫皮紫肉馬鈴薯の部位としては特に限定されないが、通常、塊茎を含むことが好ましい。
【0051】
本発明の剤の好ましい態様は、紫皮紫肉馬鈴薯の加工食品(菓子(ポテトチップス等)、総菜、スープ、シチュー、ピザ、フレンチフライ等)、紫皮紫肉馬鈴薯から抽出された色素、サプリメント等を包含する。
【0052】
本発明の剤には、剤の形態に応じて、紫皮紫肉馬鈴薯由来のアントシアニンとともに、その他の成分(溶媒(水等)、賦形剤、可塑剤、溶媒、食材、調味料等)を配合してもよい。
【0053】
本発明の剤は、剤の形態に応じて、従来知られる任意の方法によって製造できる。
【0054】
(本発明の剤の投与対象等)
本発明の剤は、任意の生体(ヒト、非ヒト動物)に投与できる。
本発明の剤の投与量は、投与対象の状態(軽度不調の程度、年齢、体重等)に応じて適宜設定できる。
【実施例0055】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<試験1>
以下の方法に基づき、本発明の剤による軽度不調改善効果を評価した。
【0057】
(1)被験者
モニターとして募集した任意の男女に対し、スクリーニング検査を行い、合計16名を被験者として選出した。
スクリーニング検査では、問診、バイタルチェック、身体計測、血液検査、及び各種アンケートを行い、軽度不調を感じている健常な者を選出した。
被験者を、ランダムに2群(プラセボ群:8名、実薬群:8名)に分けた。
【0058】
(2)被験食品
被験食品として以下の2種を準備した。
・プラセボ群:馬鈴薯「はるか」
・実薬群:紫皮紫肉馬鈴薯「シャドークイーン」(本発明の剤に相当する。)
【0059】
各被験食品に含まれる、1日あたりの摂取量(75g)の主要成分を表1に示す。
なお、被験食品のいずれにも、ストレス緩和効果を有することが知られるγ-アミノ酪酸(GABA)が含まれているが、その含有量には差がほぼ認められなかった(参考:日本食品科学工学会誌、53:514-527(2006))。
【0060】
【0061】
(3)摂取スケジュール
試験期間は合計9週間に設定した。
まず、1週間のウォッシュアウト期間を設けた後、8週間にわたって各被験者に被験食品を摂取させた。被験食品は、レンジ加熱したもの(馬鈴薯可食部)を、毎日75gずつ摂取させた。
【0062】
(4)評価項目
摂取開始から4週間後、及び8週間後の各時点で、以下の評価を行った。
・「職業性ストレス簡易調査票」による軽度不調の評価
・ストレスのVAS(Visual Analog Scale)評価
・血中間葉系幹細胞数
・抗酸化マーカー(8-OHdG)
【0063】
(「職業性ストレス簡易調査票」による軽度不調の評価の詳細)
「職業性ストレス簡易調査票」は、日本国労働省の平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究班」ストレス測定研究班によるグループが作成した調査票である(加藤正明、労働省、平成11年度「作業関連疾患の予防に関する研究」、労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書、2000)。
「職業性ストレス簡易調査票」の「領域B」には、メンタルヘルス等に関連する29個の設問が含まれる。
該調査票において、これらの設問から、「心理的ストレス反応数」、「身体的ストレス反応数」、「活気」、「イライラ感」、「疲労感」、「不安感」、「抑うつ感」及び「身体愁訴」の各項目が点数化される。
【0064】
本例では、「職業性ストレス簡易調査票」から点数化される項目について、プラセボ群と実薬群との間での摂取前後変化量の比較を、Student’s t-testを用いて行った。
【0065】
(5)評価結果
各項目について、以下の結果が得られた。
【0066】
(5-1)「職業性ストレス簡易調査票」による軽度不調の評価
「職業性ストレス簡易調査票」から点数化される項目のうち、「心理的ストレス反応数(設問No1~18)」、「イライラ感(設問No4~6)」、及び「抑うつ感(設問No13~18)」についてプラセボ群と実薬群との間での有意差が認められた。
「心理的ストレス反応数」、「イライラ感」、及び「抑うつ感」に関する各結果を
図1に示す。検定結果は、
* p<0.05、
** p<0.01として示す。
【0067】
図1に示されるとおり、いずれの評価項目においても、実薬群では、プラセボ群に対して有意な改善効果が認められた。
したがって、本発明の剤によれば、軽度不調に対して顕著な改善効果が奏されることがわかった。
【0068】
(5-2)VAS評価
プラセボ群と実薬群との間での摂取前後変化量の比較を、Student’s t-testを用いて行った。VASにおける各項目(眼精疲労、目の痛み、イライラ感、ストレス)は、各群で有意差が認められなかった。
ただし、「ストレス」の項目では、プラセボ群に対し、本発明の剤による軽減傾向が認められた(p値:0.058)。
【0069】
(5-3)血中間葉系幹細胞数の変化、及び抗酸化マーカー
プラセボ群と実薬群との間での摂取前後変化量の比較を、Student’s t-testを用いて行った。各群の間に有意差は認められなかった。
【0070】
<試験2>
上記<試験1>では、紫皮紫肉馬鈴薯の摂取による軽度不調改善を確認した。そこで、本試験では、アントシアニンの種類が軽度不調改善効果に及ぼす影響を評価した。
【0071】
(1)被験者
上記<試験1>同様に被験者を選出し、ランダムに2群(アントシアニン含有緑茶群:8名、アントシアニン不含緑茶群:8名)に分けた。
【0072】
(2)被験食品
被験食品として以下の2種を準備した。
・アントシアニン含有緑茶の粉末
・アントシアニン不含緑茶の粉末
【0073】
アントシアニン含有緑茶は以下を含む(参考:Saito T,J Agric Food Chem.2011,59(9):4779-4782)。ただし、この緑茶は、本発明における3種のアントシアニンをいずれも含まない。
デルフィニジン-3-O-6-トランス-p-クマロイル-ガラクドシド:約50%
デルフィニジン-3-ガラクトシド:約16%
シアニジン-3-O-6-p-クマロイル-ガラクドシド:約16%
シアニジン-3-ガラクトシド:約6%
デルフィニジン-3-O-6-シス-p-クマロイル-ガラクドシド:約6%
シアニジン-3-O-6-シス-p-クマロイル-ガラクドシド:約2%
【0074】
アントシアニン含有緑茶、及びアントシアニン不含緑茶のいずれも、同等量のカテキンを含んでいた。
【0075】
(3)摂取スケジュール
試験期間は合計9週間に設定した。
まず、1週間のウォッシュアウト期間を設けた後、8週間にわたって各被験者に被験食品を摂取させた。被験食品は、毎日3gずつ摂取させた。
【0076】
(4)評価項目
上記<試験1>同様に、「職業性ストレス簡易調査票」による軽度不調の評価を行った。
【0077】
(5)評価結果
いずれの群においても、摂取前後や群間の比較において、軽度不調改善に関する顕著な効果は認められなかった。
【0078】
この結果から、任意のアントシアニンが軽度不調改善効果を有するわけではないことがわかった。