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特開2023-134166鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134166
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230920BHJP
   G01N 1/44 20060101ALI20230920BHJP
   G01N 33/2028 20190101ALI20230920BHJP
【FI】
G01N1/28 Z
G01N1/44
G01N33/2028
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039534
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 純也
【テーマコード(参考)】
2G052
2G055
【Fターム(参考)】
2G052AA11
2G052AB01
2G052AB27
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD46
2G052EA08
2G052EB06
2G052FD11
2G052GA15
2G055AA05
2G055BA01
2G055CA20
2G055EA04
2G055EA05
2G055FA02
(57)【要約】
【課題】キューペル上への鉛ボタンの載置を、安全に、且つ、確実に実施することが可能な鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法を提供する。
【解決手段】複数のキューペルを灰吹炉で予熱する工程と、予熱した複数のキューペルの一部または全部を灰吹炉から一括で取り出す工程と、灰吹炉から取り出した複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを設ける工程と、鉛ボタンを設けた複数の一部または全部のキューペルを、灰吹炉内へ一括で挿入する工程と、鉛ボタンを融解する工程と、灰吹炉内へ空気を導入し、キューペル上の融解した鉛ボタンを灰吹してビードを作製する工程と、を含む、鉛ボタンの処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキューペルを灰吹炉で予熱する工程と、
前記予熱した複数のキューペルの一部または全部を前記灰吹炉から一括で取り出す工程と、
前記灰吹炉から取り出した複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを設ける工程と、
前記鉛ボタンを設けた複数の一部または全部のキューペルを、前記灰吹炉内へ一括で挿入する工程と、
前記鉛ボタンを融解する工程と、
前記灰吹炉内へ空気を導入し、前記キューペル上の融解した鉛ボタンを灰吹してビードを作製する工程と、
を含む、鉛ボタンの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛ボタンの処理方法によって得られた前記ビードを秤量する工程と、
前記秤量したビードを酸溶解した後、ICP発光分光分析法で分析する工程と、
を含む試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Au、Agなどの貴金属の微量分析方法としては乾式試金法が知られている。乾式試金法は試料を酸化鉛(II)及び融剤と混合し、融解試料を調整した後、ルツボ融解を行い、貴金属を鉛塊中に捕集し、他の試料成分と分離する。次に、この鉛塊を成型して鉛ボタンを作製し、当該鉛ボタンを灰吹することによって鉛をキューペル(灰皿)に染み込ませ、貴金属だけを取り出してから定量する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本工業規格M8111「鉱石中の金及び銀の定量方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日本工業規格M8111の手順では、鉛ボタンの灰吹処理は、まず灰吹炉内に設けられている複数のキューペルを予熱する。次に、灰吹炉内に設けられている複数のキューペル上に、金属製のトングなどで掴んだ鉛ボタンを手早く投下し、鉛ボタンを溶解させる。
【0005】
しかしながら、灰吹炉内の予熱されたキューペルに鉛ボタンを載置する作業は、作業者の火傷の恐れがある。また、灰吹炉内には複数のキューペルが隙間なく並んでいるため、適切でないキューペルに鉛ボタンを載置することで分析ミスが生じる恐れもある。さらに、灰吹炉内で鉛を落としてしまった場合は炉床が鉛で汚染されるリスクがある。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は、キューペル上への鉛ボタンの載置を、安全に、且つ、確実に実施することが可能な鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために研究を重ねたところ、灰吹炉で予熱した複数のキューペルを一旦灰吹炉外へ取り出し、当該キューペル上に鉛ボタンを設けた後、灰吹炉内へ鉛ボタンを設けたキューペルを入れ、一括で融解・灰吹することで、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は以下の(1)または(2)によって規定される。
(1)複数のキューペルを灰吹炉で予熱する工程と、
前記予熱した複数のキューペルの一部または全部を前記灰吹炉から一括で取り出す工程と、
前記灰吹炉から取り出した複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを設ける工程と、
前記鉛ボタンを設けた複数の一部または全部のキューペルを、前記灰吹炉内へ一括で挿入する工程と、
前記鉛ボタンを融解する工程と、
前記灰吹炉内へ空気を導入し、前記キューペル上の融解した鉛ボタンを灰吹してビードを作製する工程と、
を含む、鉛ボタンの処理方法。
(2)(1)に記載の鉛ボタンの処理方法によって得られた前記ビードを秤量する工程と、
前記秤量したビードを酸溶解した後、ICP発光分光分析法で分析する工程と、
を含む試料の分析方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、キューペル上への鉛ボタンの載置を、安全に、且つ、確実に実施することが可能な鉛ボタンの処理方法及び試料の分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る鉛ボタンの製造方法、鉛ボタンの処理方法及び試料の評価方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る灰吹炉内に整列配置されたキューペルの模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るキューペル16上に置いた立方体形状の鉛ボタン15の外観観察写真である。
図4】本発明の実施形態に係る鉛ボタン投下治具10を上方から観察したときの外観模式図である。
図5図4に示した実施形態に係る鉛ボタン投下治具10を下方から観察したときの外観模式図である。
図6】底板をスライドさせている状態の、図4に示した実施形態に係る鉛ボタン投下治具10を下方から観察したときの外観模式図である。
図7】底板をスライドさせている状態の、図4に示した実施形態に係る鉛ボタン投下治具10の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[鉛ボタンの製造方法]
図1に、本発明の実施形態に係る鉛ボタンの製造方法、鉛ボタンの処理方法及び試料の評価方法のフローチャートを示す。図1のフローチャートは、本発明の実施形態の一例を示すものであり、試験の目的、試料の種類、試料に含まれる金属の量や状態などに応じて、JIS M8111に準拠して適宜変更してもよい。すなわち、使用材料、実施手順等は図1のフローチャートに記載したものに限定されず、また、図1のフローチャートの各工程は全て必須のものでもなく、適宜不要な工程は除外することができ、また更に必要な工程を組み入れてもよい。
【0012】
本発明の実施形態に係る鉛ボタンの製造方法について、以下、詳細に説明する。まず、ルツボを準備し、ルツボ内に分析対象の試料を入れ、更に酸化鉛(II)及び融剤を入れる。次に、ルツボ内の試料、酸化鉛(II)及び融剤を撹拌させて混合する。
【0013】
本発明の実施形態で用いる試料としては、特に限定されないが、例えば、有価金属を含む鉱石やリサイクル原料、銅などの非鉄金属製錬において、自溶炉から電解槽における処理工程で生じる有価金属を含む試料などである。当該試料はAgを含んでおり、その他としては、Au、Pt、Pd、Rh、Ru及びIrの貴金属を含んでいることがある。
【0014】
本発明の実施形態で用いる融剤は、ホウ砂、ケイ砂、炭酸ソーダ及び小麦粉を含んでいる。融剤については、概略の試料組成から貴金属の含有量を推定し、秤量した試料の還元力、酸化力等を求め、秤量した試料から所定量の鉛ボタンを形成するのに適した量を調合する。融剤としては、例えば、上述の材料の他に、酸化マンガン等の酸化鉱、硫化鉱、硝酸カリウム等を用いることができる。また、本発明の実施形態では還元剤として小麦粉を用いるが、必要に応じて、デンプン、鉄材等を還元剤として用いることができる。
【0015】
このようにして、酸化鉛(II)及び融剤を含む調製した試料を設けたルツボを準備した後、ルツボ内の試料を食塩によって被覆する。次に、当該ルツボを融解炉に入れて、試料を融解する。融解の条件は、ルツボ内の試料の組成または量、ルツボの数、所望する処理効率などによって適宜設定することができ、例えば、880~1100℃で100分間の融解を行うことができる。
【0016】
融解後、融解炉内のルツボを融解炉から取り出した後、ルツボ内の試料を個々の鋳型へ鋳込み、鋳込み後の試料を所望の形状に成型して鉛ボタンを作製する。
【0017】
次に、鋳込みにより生成した鉛塊を鋳型から取り出し、所定の形状、例えば立方体、直方体、円錐状等に成型することで、鉛ボタンを製造する。なお、融解工程で生じたスラグは、成型工程で除去され、廃棄される。
【0018】
[鉛ボタンの処理方法]
次に、本発明の実施形態に係る鉛ボタンの処理方法について説明する。本発明の実施形態に係る鉛ボタンの処理方法は、(1)キューペル予熱工程、(2)予熱後キューペル取り出し工程、(3)鉛ボタン載置工程、(4)キューペル挿入工程、(5)鉛ボタン融解工程、(6)灰吹工程、(7)灰吹後キューペル取り出し工程を有する。
【0019】
(1)キューペル予熱工程
まず、灰吹炉内を加熱する。加熱温度は、キューペルを予熱する温度であり、特に限定されないが、キューペルの表面に付着する不純物や水分を予め十分に除去するのみならず、鉛ボタン融解工程から灰吹工程までを速やかに行う、という観点から、790℃~950℃であることが好ましい。
次に、灰吹炉内の所定位置に、空のキューペルを複数配置して十分に予熱する。灰吹炉内の所定位置は、一般に灰吹炉の底面に設定するが、その他灰吹炉の構造によって適宜設定することができる。
複数のキューペルは、灰吹炉内において、例えば、縦×横に所定数ずつ整列して配置されていることが好ましい。このように整列配置されていると、キューペルの灰吹炉内への一括載置、及び、灰吹炉外への一括取り出しが実施しやすく、また、灰吹炉内のスペースを有効活用することができる。図2には、灰吹炉内において、キューペルを縦10列×横5列に整列して配置した様子を示す。
【0020】
(2)予熱後キューペル取り出し工程
次に、予熱した複数のキューペルを灰吹炉から取り出す。このとき、作業効率の向上及び予熱されたキューペルの温度の低下を抑制する観点から、複数のキューペルの一部または全部を一括で取り出す。複数のキューペルの一部とは、2つ以上の複数のキューペルであれば特に限定されない。ここでも、図2で示したキューペルを縦10列×横5列に整列させた配置が例示される。このとき、専用の治具、例えば、全てのキューペルを同時に載せることができるトレイのような治具が好ましい。また、縦1列分または横1列分の複数のキューペルを所定の間隔及び順番を維持したまま一括で挟んで固定するトング等を用いても良い。
【0021】
後述する鉛ボタン投下治具を灰吹炉内に挿入して、予熱したキューペル上に、鉛ボタンを投下することも考えられるが、仮にそのようにした場合、炉温により僅か数秒で鉛ボタンが融解し、治具に付着してしまう。このため、キューペルを灰吹炉から取り出して鉛ボタンを灰吹炉外でキューペルに入れることが好ましい。
【0022】
(3)鉛ボタン載置工程
次に、灰吹炉から取り出した複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを載置する。図3に、キューペル16に設けられた立方体形状の鉛ボタン15の外観観察写真を示す。複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを載置することで、予め準備した鉛ボタンを、適切なキューペルに間違いなく設けることができ、予熱されたキューペルの温度の低下を抑制することができる。
複数のキューペルの一部または全部に、一括で鉛ボタンを設ける方法としては、特に限定されないが、例えば、まず、鉛ボタンを所定の配置に整列させておく。次に、灰吹炉から取り出した複数のキューペルを、当該鉛ボタンの配置に対応するように配置する。次に、専用の治具で鉛ボタンの一部または全部を一括でキューペル上に置く。ここで用いる専用の治具は、複数の鉛ボタンを一括で挟んで固定するトング等でもよい。すなわち、例えば、1列分または1行分の鉛ボタンをサンプル番号順などの予め決められた順番で所定の間隔で並べ、それを所定の間隔及び順番を維持したまま一括で把持できるような治具を用いて、一括で挟んで固定し、複数のキューペルに一括で投下(載置)する。
また、複数のキューペルの一部または全部に、一括で鉛ボタンを設けるための専用の治具について、鉛ボタン投下治具10を用いてもよい。以下、鉛ボタン投下治具10の構成、及び、鉛ボタン投下治具10を用いた複数のキューペルの一部または全部に、一括で鉛ボタンを投下する方法について詳述する。
【0023】
(鉛ボタン投下治具)
図4に、本発明の実施形態に係る鉛ボタン投下治具10を上方から観察したときの外観模式図を示す。図5に、この実施形態に係る鉛ボタン投下治具10を下方から観察したときの外観模式図を示す。本発明の実施形態に係る鉛ボタン投下治具10は、キューペル中に鉛ボタンを投下するために用いる治具である。
【0024】
鉛ボタン投下治具10は、鉛ボタンを収容するための複数の小室11を有している。複数の小室11は、それぞれ、周壁12及び底板13で区画されている。小室11の底面が矩形状を有し、周壁12が底面の4つの辺からそれぞれ起立するように設けられている。これにより、小室11の内部は、四角柱状の空間を有している。全ての小室11の底面が共通する1枚の板から形成されている。なお、小室11は、このような形状に限られず、例えば、底面が三角形状、五角形状、六角形状などのその他の多角形状、円形状又は楕円形状に形成されており、小室11が四角柱以外の多角柱状又は円柱状などに形成されていてもよい。
【0025】
鉛ボタン投下治具10が有する小室11の数や配置は特に限定されないが、治具のサイズをコンパクトにするという観点から、図4及び5に示すように、小室11が縦横に整列配置されていることが好ましい。図4及び5に示すように本実施形態では、小室11が縦×横=10個×5個に整列配置された例を示している。
【0026】
鉛ボタン投下治具10の大きさは特に限定されず、鉛ボタンのサイズ、または、鉛ボタン投下治具10を灰吹炉へ投下(載置)する場合は当該灰吹炉のサイズによって適宜設計することができる。例えば、図4及び5で示したような形態の鉛ボタン投下治具10の場合、15~40cm2の面積を有する矩形状の底板13と、高さ2~6cmの周壁12とで区画された小室11を、縦×横=10個×5個に整列配置することができる。
【0027】
鉛ボタン投下治具10の構成材料は、一般的な鉄鋼やステンレス等の良好な強度を有する材料であるのが好ましい。また、高温のキューペルに対して耐熱性をも備える、チタンやSS400などの材料であるのがより好ましい。鉛ボタン投下治具10は取り扱いのし易さから、軽量であることが望ましい。軽量で、強度及び耐熱性を有する材料としては、チタンなどが挙げられる。底板13のみを着脱式(後述のスライド式など)にして、さらに底板13のみを耐熱性を有する他の材料で形成してもよい。
【0028】
小室11の底板13は、移動することで小室11の底を開放可能に構成されている。底板13は、図6に示すようにスライド式に移動することで、小室11の底を開放させることができる。そこで、複数の小室11にそれぞれ鉛ボタンを収容した鉛ボタン投下治具10を、複数の小室11の配置通りに整列配置させた空のキューペル上に配置させた状態で底板13をスライドして移動させると、図7に示すように小室11に収容され、底板13で支えられていた複数の鉛ボタンは、小室11の底が開放することで、キューペル内へ一度に落下する。このため、所望のキューペル上に短時間で正確に鉛ボタンを投下(載置)することができる。また、このようにスライド式に移動させる場合、底板13を一枚で形成することができるため、小室11の底の開放に関する制御効率が良好となる。なお、底板13は、本実施形態のようにスライド式に移動することで小室11の底を開放させてもよいが、一括して扉式に移動することで小室11の底を一度に開放させてもよい。
【0029】
底板13は、小室11において、周壁12の高さ方向の途中に設けられている。換言すれば、底板13は、各小室11を形成する各周壁12の同一高さの位置にそれぞれ設けられたスリット(不図示)に差し込まれている。これにより、底板13が、小室11を、鉛ボタンの収容部17と鉛ボタンの落下ガイド部14とに分ける。このような構成によれば、小室11の鉛ボタンの収容部17に載せた鉛ボタンに対し、底板13を移動して小室11の底を開放し、キューペル上に鉛ボタンを落下させるとき、鉛ボタンの落下ガイド部14が、鉛ボタンを正確にキューペル上に落下させるように導くことができる。なお、底板13の設けられる位置は周壁12の高さ方向における途中に限られず、例えば、周壁12の上端又は下端に設けられてもよい。また、本実施形態では、周壁12の鉛ボタンの落下ガイド部14は、鉛ボタンの収容部17と同一の断面積になっているが、このような形状に限られず、例えば、周壁12の鉛ボタンの落下ガイド部14は、開口端へ向かうにつれて断面積が小さくなるテーパー状に形成されていてもよい。このような構成によれば、鉛ボタンを、キューペルの上により正確に落下させることができる。
【0030】
周壁12の高さ方向における底板13の位置は、鉛ボタンを収容可能であり、且つ、小室11から落下する鉛ボタンがほぼ真下へ落下するように導くことが可能な長さだけ、鉛ボタンの落下ガイド部14の長さが設けられていれば、特に限定されず、小室11及び鉛ボタンのサイズに応じて適宜調整することができる。
【0031】
鉛ボタン投下治具10は、幅方向の両端部から、下方に延びるように脚部18を設けることで、鉛ボタン投下治具10の下方にキューペルの収容部19が形成されている。このような構成によれば、鉛ボタン投下治具10の下方にキューペルの収容部19が設けられているため、予め所定の間隔で整列させた複数のキューペルの上に鉛ボタン投下治具10を水平方向にスライドさせるだけで、容易に、鉛ボタン投下治具10をキューペル上に配置させることができる。
【0032】
鉛ボタン投下治具10の持ち手は、特に形状や設置位置は限定されないが、例えば、脚部18の両側面に設けてもよい。また、鉛ボタン投下治具10に持ち手を設けず、代わりに運搬用台車等に引っ掛ける爪又は溝等を設けてもよい。
【0033】
鉛ボタン投下治具10を用いることで、上述のように複数の鉛ボタンを一括して複数のキューペルへ正確に配置することができるため、予め準備した鉛ボタンを、適切なキューペルに間違いなく置くことができ、予熱されたキューペルの温度の低下を抑制することができる。また、1列分又は1行分の鉛ボタンをトングなどでキューペルへ一括投下する方法に対し、より多くの鉛ボタンを一括してキューペルの上に載置することができるため、作業効率が向上する。
【0034】
(4)キューペル挿入工程
次に、鉛ボタンを設けた複数の一部または全部のキューペルを、灰吹炉内へ一括で挿入する。複数のキューペルの一部または全部を一括で灰吹炉内へ挿入することで、作業効率が向上し、予熱されたキューペルの温度の低下を抑制することができる。このとき、上述したような、灰吹炉内からキューペルを一括で取り出す際に用いた専用の治具(トング等)やトレイを用いることができる。
【0035】
本発明の実施形態に係る鉛ボタンの処理方法において、予熱された複数のキューペルを灰吹炉から取り出してから、鉛ボタンを設けて、灰吹炉へ挿入するまでの時間は、特に限定されないが、予熱されたキューペルの温度の低下を抑制する観点から、5分以内であることが好ましい。
【0036】
(5)鉛ボタン融解工程
次に、キューペルに載置した鉛ボタンを灰吹炉内で加熱し、鉛を融解する。灰吹炉内の加熱温度は、鉛ボタンの構成材料にもよるが、鉛ボタンを良好に融解する観点から、790℃~950℃であるのが好ましい。
【0037】
(6)灰吹工程
次に、灰吹炉内へ空気を導入する。灰吹炉内に導入された空気によって、複数のキューペル上で融解した鉛ボタンの鉛が酸化されて酸化鉛となる。大部分の酸化鉛は表面張力が小さいために毛細血管現象によってキューペルに吸収される。また、一部は揮発する。そして、鉛ボタンに含まれる貴金属は、酸化鉛より表面張力が大きいため、キューペル上に残り、合金粒のビードが生成する。灰吹炉内へ導入する空気は、室温であってもよいし、ヒーターなどにより加熱されたものであってもよい。
このようにして、キューペル上の融解した鉛ボタンを灰吹してビードを作製する。
【0038】
(7)灰吹後キューペル取り出し工程
次に、灰吹後の複数のキューペルを灰吹炉から取り出す。このとき、作業効率の向上の観点から、複数のキューペルの一部または全部を一括で取り出すことが好ましい。複数のキューペルの一部とは、2つ以上の複数のキューペルであれば特に限定されない。
このようにして、キューペルを取り出し、ビードを回収する。回収したビードは適宜所定の分析に用いることができる。
【0039】
本発明の実施形態に係る鉛ボタンの処理方法によれば、予熱した複数のキューペルの一部または全部を灰吹炉から一括で取り出し、当該複数のキューペル内の一部または全部に一括で鉛ボタンを設け、更に鉛ボタンを設けた複数の一部または全部のキューペルを灰吹炉内へ一括で挿入するため、作業効率が良好となり、また、作業者が灰吹炉前で作業する必要がなくなるため、熱中症や火傷のリスクが無くなる。また、鉛ボタンをキューペルに載置する治具を耐熱性材料とする必要がなくなる。さらに、キューペル上に正確に鉛ボタンを設けやすくなるため、適切なキューペルに鉛ボタンを載置することができ、分析ミスの発生を抑制することができる。
【0040】
[試料の分析方法]
次に、本発明の実施形態に係る試料の分析方法について説明する。
まず、試料を本発明の実施形態に係る鉛ボタンの製造方法および鉛ボタンの処理方法によって処理することにより得られたビードを、キューペルから取り出して秤量する。次に、硝酸及び塩酸を加えて加熱分解することで酸溶解し、続いて液量規正を実施する。次に、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)によって、試料内の貴金属等の分析を行う。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
(試験例1:キューペル表面温度の測定)
灰吹炉にキューペルを入れ、約870℃の温度に予熱した。
次に、キューペルを灰吹炉から取り出し、非接触式温度計にて表面温度を測定した。
表1に、キューペルを灰吹炉から取り出してからの経過時間と、そのときのキューペル表面温度の測定結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(試験例2:灰吹炉外投下試験)
灰吹炉にキューペルを入れ、約870℃の温度に予熱した。
次に、キューペルを灰吹炉から取り出し、大気雰囲気に暴露させた後、鉛ボタンをキューペルに載せて、再度灰吹炉内へ入れた。続いて、灰吹炉の鉛ボタンの灰吹処理を行った。
表2に、キューペルを灰吹炉から取り出してから、再度灰吹炉内へ入れるまでの所要時間と、鉛ボタンの灰吹状況とを示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、所要時間が155秒~274秒の間において、いずれも灰吹が良好に進行した。なお、灰吹が良好に進行するとは、酸化鉛がキューペルに吸収され、銀などを含むビードがキューペル上に残ることを言う。
【0047】
また、十分に乾燥させた常温のキューペルに鉛ボタンを置き、灰吹炉に挿入しても、灰吹が良好に進行したが、鉛ボタンの融解に時間を要するため、キューペルは予め予熱しておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
10 鉛ボタン投下治具
11 小室
12 周壁
13 底板
14 鉛ボタンの落下ガイド部
15 鉛ボタン
16 キューペル
17 鉛ボタンの収容部
18 脚部
19 キューペルの収容部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7