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特開2023-134239ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、およびボンド磁石とその製造方法
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  • 特開-ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、およびボンド磁石とその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134239
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、およびボンド磁石とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/113 20060101AFI20230920BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230920BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01F1/113
H01F41/02 G
C01G49/00 D
C01G49/00 E
C01G49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039652
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】山田 智也
(72)【発明者】
【氏名】越湖 将貴
(72)【発明者】
【氏名】正田 憲司
【テーマコード(参考)】
4G002
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AA09
4G002AA10
4G002AB02
4G002AE02
4G002AE04
5E040AB04
5E040BB03
5E040CA01
5E040HB05
5E040HB11
5E040HB15
5E040HB17
5E040NN02
5E040NN04
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN13
5E040NN14
5E040NN17
5E040NN18
5E062CC02
5E062CC05
5E062CD02
5E062CE02
5E062CE04
5E062CE07
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】ボンド磁石用に用いた際に高い残留磁束密度Brを得ることができるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、および高い残留磁束密度Brを持つボンド磁石とその製造方法を提供する。
【解決手段】組成式(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-a(式中、0<x≦0.500、0.003≦y≦0.045、0.001≦z≦0.020、10.00≦n≦12.50、-1.000≦a≦3.500)で表される組成を有するボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉であって、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の圧粉体を測定磁場10kOeで測定したときの保磁力iHcが2000Oe以上であるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-a(式中、0<x≦0.500、0.003≦y≦0.045、0.001≦z≦0.020、10.00≦n≦12.50、-1.000≦a≦3.500)で表される組成を有するボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉であって、
前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉8gとポリエステル系樹脂0.4cmを混練し、得られた混練物7gを内径15mmφの金型に充填し、196MPaの圧力で60秒間圧縮して得られた成型品を金型から抜き取り、150℃で30分間乾燥させて得られた圧粉体を測定磁場10kOeで測定したときの保磁力iHcが2000Oe以上である、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項2】
前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを4.3kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5MPaで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石Aを作製し、このボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brが3200G以上である、請求項1に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項3】
請求項2記載の方法で作製したボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの最大エネルギー積BHmaxが2.45MGOe以上である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項4】
請求項2記載の方法で作製したボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brと、
前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを9.7kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5MPaで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石Bを作製し、このボンド磁石Bを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brとの比Br/Brが、0.950以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項5】
請求項2記載の方法で作製したボンド磁石Aの断面を電子顕微鏡において倍率1000倍で観察した画像において、85μm×120μmの視野領域内で観察される500個以上の面積0.5μm以上の前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子の長軸長の平均値aと、前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について空気透過法で測定した平均粒径bとの比a/bが1.5以上、3.0未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項6】
前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の空気透過法で測定した平均粒径bが1.00μm以上1.50μm以下である、請求項5に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項7】
前記組成式においてzが0.010未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項8】
請求項2記載の方法で作製したボンド磁石Aの断面を電子顕微鏡において倍率1000倍で観察した画像において、85μm×120μmの視野領域内で観察される500個以上の面積0.5μm以上の前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子を観察した際に、長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)が1.5以上の粒子が、個数割合で60%未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項9】
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の粒度分布が、粒径0.5μm以上2.0μm以下の範囲および3.0μm以上6.0μm以下の範囲にピークを有する、2峰性以上の分布である、請求項1~8のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項10】
組成式(Sr1-x1Lax1)(Fe1-y1Coy1n119-a1(式中、0<x1≦0.500、0.005≦y1≦0.050、10.00≦n1≦12.50、-1.000≦a1≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第一の温度で焼成して六方晶フェライトの粗粉を得る工程と、
組成式(Sr1-x2Lax2)(Fe1-z2Znz2n219-a2(式中、0<x2≦0.500、0.005≦z2≦0.050、10.00≦n2≦12.50、-1.000≦a2≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第二の温度で焼成して前記粗粉よりもBET比表面積から算出した粒径が小さい六方晶フェライトの微粉を得る工程と、
前記六方晶フェライトの粗粉と前記六方晶フェライトの微粉とを混合粉砕して混合粉砕処理した混合粉を得る工程と、
前記混合粉砕処理した混合粉をアニールする工程と、
を含む、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項11】
前記六方晶フェライトの粗粉のBET比表面積から算出した粒径が1.00μm以上8.00μm以下であり、
前記六方晶フェライトの微粉のBET比表面積から算出した粒径が0.05μm以上0.50μm以下である、請求項10に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項12】
前記混合粉砕処理した混合粉を得る工程において、
前記六方晶フェライトの粗粉と前記六方晶フェライトの微粉の合計質量に対する前記六方晶フェライトの粗粉の質量割合が60質量%以上90質量%以下である、
請求項10又は11に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項13】
前記六方晶フェライトの微粉の飽和磁化が57.0emu/g以上である、請求項10~12のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉および樹脂を含む、ボンド磁石。
【請求項15】
請求項10~13のいずれか一項に記載の製造方法により得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いる、ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、およびボンド磁石とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、AV機器、OA機器、自動車電装部品などに使用される小型モータや、複写機のマグネットロールなどに使用される磁石のような高磁力の磁石として、フェライト系焼結磁石が使用されている。しかし、フェライト系焼結磁石は、欠け割れが発生したり、研磨が必要なために生産性に劣るという問題があることに加えて、複雑な形状への加工が困難であるという問題がある。そのため、近年では、AV機器、OA機器、自動車電装部品などに使用される小型モータなどの高磁力の磁石として、希土類磁石のボンド磁石が使用されている。しかし、希土類磁石はフェライト系焼結磁石の約20倍のコストがかかり、また錆びやすいという問題があるため、フェライト系焼結磁石の代わりにフェライト系ボンド磁石を使用することが望まれている。
【0003】
このようなボンド磁石用フェライト磁性粉として特許文献1には、(Sr1-xLa)・(Fe1-yCo19-z(但し、0<x≦0.5、0<y≦0.04、10.0≦n≦12.5、-1.0≦z≦3.5)の組成を有するボンド磁石用フェライト磁性粉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-141151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は、磁場配向性に優れ、Brの高いフェライト系ボンド磁石として開発されたものであったが、依然として、ボンド磁石としてより高い残留磁束密度Brを達成することができるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉が求められている。
【0006】
本発明は、ボンド磁石に用いた際に高い残留磁束密度Brを得ることができるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、および高い残留磁束密度Brを持つボンド磁石とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
本発明は、組成式(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-a(式中、0<x≦0.500、0.003≦y≦0.045、0.001≦z≦0.020、10.00≦n≦12.50、-1.000≦a≦3.500)で表される組成を有するボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉であって、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉8gとポリエステル系樹脂0.4cmを混練し、得られた混練物7gを内径15mmφの金型に充填し、196MPaの圧力で60秒間圧縮して得られた成型品を金型から抜き取り、150℃で30分間乾燥させて得られた圧粉体を測定磁場10kOeで測定したときの保磁力iHcが2000Oe以上であることを特徴とする。ここで、ポリエステル系樹脂0.4cmとは、大気圧下、25℃における測定値とする。
【0009】
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを4.3kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石Aを作製し、このボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brが3200G以上であることが好ましい。
【0010】
上記の方法で作製したボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの最大エネルギー積BHmaxが2.45MGOe以上であることが好ましい。
【0011】
上記の方法で作製したボンド磁石Aを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brと、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを9.7kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石Bを作製し、このボンド磁石Bを測定磁場10kOeで測定したときの残留磁束密度Brとの比Br/Brが、0.95以上であることが好ましい。
【0012】
上記の方法で作製したボンド磁石Aの断面を電子顕微鏡において倍率1000倍で観察した画像において、85μm×120μmの視野領域内で観察される500個以上の面積0.5μm以上のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子の長軸長の平均値aと、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について空気透過法で測定した平均粒径bとの比a/bが1.5以上、3.0未満であることが好ましい。
【0013】
空気透過法で測定したボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の平均粒径bが1.00μm以上1.50μm以下であることが好ましい。
【0014】
組成式においてzが0.010未満であることが好ましい。
【0015】
上記の方法で作製したボンド磁石Aの断面を電子顕微鏡において倍率1000倍で観察した画像において、85μm×120μmの視野領域内で観察される500個以上の面積0.5μm以上の前記ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子を観察した際に、長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)が1.5以上の粒子が、個数割合で60%未満であることが好ましい。
【0016】
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の粒度分布が、粒径0.5μm以上2.0μm以下の範囲および3.0μm以上6.0μm以下の範囲にピークを有する、2峰性以上の分布であることが好ましい。
【0017】
また、別観点での本発明は、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法であって、組成式(Sr1-x1Lax1)(Fe1-y1Coy1n119-a1(式中、0<x1≦0.500、0.005≦y1≦0.050、10.00≦n1≦12.50、-1.000≦a1≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第一の温度で焼成して六方晶フェライトの粗粉を得る工程と、組成式(Sr1-x2Lax2)(Fe1-z2Znz2n219-a2(式中、0<x2≦0.500、0.005≦z2≦0.050、10.00≦n2≦12.50、-1.000≦a2≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第二の温度で焼成して前記粗粉よりもBET比表面積から算出した粒径が小さい六方晶フェライトの微粉を得る工程と、六方晶フェライトの粗粉と六方晶フェライトの微粉とを混合粉砕して混合粉砕処理した混合粉を得る工程と、混合粉砕処理した混合粉をアニールする工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
このボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法において、六方晶フェライトの粗粉のBET比表面積から算出した粒径が1.00μm以上8.00μm以下であり、六方晶フェライトの微粉のBET比表面積から算出した粒径が0.05μm以上0.50μm以下であることが好ましい。
【0019】
混合粉砕処理した混合粉を得る工程において、六方晶フェライトの粗粉と六方晶フェライトの微粉の合計質量に対する六方晶フェライトの粗粉の質量割合が60質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0020】
このボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法において、六方晶フェライトの微粉の飽和磁化が57.0emu/g以上であることが好ましい。
【0021】
また、別観点での本発明は、本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉および樹脂を含む、ボンド磁石である。
【0022】
また、さらに別観点での本発明は、本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法により得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いる、ボンド磁石の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ボンド磁石に用いた際に高い残留磁束密度Brを得ることができるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉が提供される。また、ボンド磁石に用いた際に高い残留磁束密度Brを得ることができるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法、高い残留磁束密度Brを持つボンド磁石がその製造方法とともに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒度分布を示すグラフである。
図2】実施例1のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いたボンド磁石Aの断面の1000倍のSEM観察像である。
図3】実施例2のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いたボンド磁石Aの断面の1000倍のSEM観察像である。
図4】比較例1のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いたボンド磁石Aの断面の1000倍のSEM観察像である。
図5】比較例2のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いたボンド磁石Aの断面の1000倍のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉)
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は、組成式(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-a(式中、0<x≦0.500、0.003≦y≦0.045、0.001≦z≦0.020、10.00≦n≦12.50、-1.000≦a≦3.500)で表される組成を有するボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉であって、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉8gとポリエステル系樹脂0.4cmを混練し、得られた混練物7gを内径15mmφの金型に充填し、196MPaの圧力で60秒間圧縮して得られた成型品を金型から抜き取り、150℃で30分間乾燥させて得られた圧粉体を測定磁場10kOeで測定したときの保磁力iHcが2000Oe以上であることを特徴とする。以下で、本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の組成、磁気特性、粉体特性等の態様について説明する。
【0026】
[組成]
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は、組成式(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-a(式中、0<x≦0.500、0.003≦y≦0.045、0.001≦z≦0.020、10.00≦n≦12.50、-1.000≦a≦3.500)で表され、Sr、La、CoおよびZnを必須元素として含むマグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉である。
ここで、Sr系の六方晶フェライト磁性粉の結晶構造においてSrサイトをLaで、FeサイトをCo又はZnで置換することにより、Sr系の六方晶フェライト磁性粉よりも高い磁力の六方晶フェライト磁性粉を得ることができる。磁力向上の効果を得るため、上記組成式におけるxの値を正の実数とし、yの値を0.003以上とし、zの値を0.001以上とする。一方、La、CoおよびZnのそれぞれの添加が過剰になると結晶構造の維持が困難となるため、上記組成式におけるxの値を0.500以下とし、yの値を0.045以下とし、zの値を0.020以下とする。xの数値範囲は0.100以上0.400以下であることが好ましく、0.150以上0.350以下であることがさらに好ましい。yの数値範囲は0.005以上0.040以下であることが好ましく、0.008以上0.020以下であることがさらに好ましい。zの数値範囲は0.001以上0.015以下であることが好ましく、0.001以上0.010未満であることがさらに好ましい。マグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉を得るため、上記組成式におけるnの値は、10.00以上12.50以下とする。焼成後の未反応物の残量を抑制する点から、nの値は、10.50以上12.00以下であることが好ましい。
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉には、原料に含まれる不純物や製造設備に由来する不純物等の不可避的な成分が含まれ得る。このような成分としては、例えばMnおよびBa等の各酸化物が挙げられる。これらの含有量は、合計で0.4質量%以下に抑制することが好ましい。上記の組成式は、不可避的な成分を除いた組成式である。
【0027】
[粒度分布]
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は、高い充填性を得るため、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、粒径0.5μm以上2.0μm以下の範囲および3.0μm以上6.0μm以下の範囲に、それぞれピーク(上に凸の山型のピーク)を有する、2峰性以上の分布であることが好ましい。このような粒度分布の混合粉を用いることにより初めてボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の高い充填性を得ることができ、上記組成と併せて、ボンド磁石としたときにより高い残留磁束密度Brを得ることができる。本発明者らは、測定した粒度分布において、SrLaCo組成のフェライト粒子がより粒径が大きく、主に大きな粒径のピーク(3.0μm以上6.0μm以下の範囲)に寄与し、SrLaZn組成のフェライト粒子がより粒径が小さく、主に小さな粒径のピーク(0.5μm以上2.0μm以下の範囲のピーク)に寄与するようなボンド磁石用六方晶混合粉が好ましいと考えている。メカニズムは必ずしも明らかでないが、SrLaCo組成のフェライト粒子を粗大粒子として用いることで、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の保磁力Hcを高くすることができ、飽和磁化σsが高く保磁力Hcが低いSrLaZn組成のフェライト粒子を微小粒子として用いることで、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の磁場配向性を高くすることができたものと考えている。
粒度分布は、粒径0.5μm以上2.0μmの範囲および3.0μm以上6.0μm以下の範囲に、それぞれ1つずつピークを有する、2峰性の分布であることができる。
【0028】
[圧粉体の磁気特性]
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は、ボンド磁石としたときに高いBrを実現する。ボンド磁石としたときの磁気特性は、圧粉体磁気特性から見積もることができる。圧粉体磁気特性は、上記のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉8gとポリエステル系樹脂0.4cm(大気圧下、25℃での測定値)を混練し、得られた混練物7gを内径15mmφの金型に充填し、196MPaの圧力で60秒間圧縮して得られた成型品を金型から抜き取り、150℃で30分間乾燥させて得られた圧粉体を用いて評価することができる。測定磁場10kOeの下で測定したときの圧粉体の保磁力iHcは2000Oe以上であり、2100Oe以上であることが好ましく、2300Oe以上であることがさらに好ましい。圧粉体の保磁力iHcが高いほど、当該ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石を製造した際に、高い残留磁束密度Brが得られやすい。
【0029】
[ボンド磁石の磁気特性]
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いて、ボンド磁石用フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して混練物を作製し、得られた混練物から平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを4.3kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石Aを作製することができる。
【0030】
測定磁場10kOeの下で測定するボンド磁石Aの残留磁束密度Brは3200G以上であることが好ましく、3250G以上であることがさらに好ましい。最大エネルギー積BHmaxは2.45MGOe以上であることが好ましく、2.50MGOe以上であることがさらに好ましい。
【0031】
また、ボンド磁石Aとは射出成形時の磁場の大きさのみ異なるボンド磁石として、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤0.6質量部と、滑剤0.8質量部と、粉末状のポリアミド樹脂5.1質量部とをミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して混練物を作製し、得られた混練物から平均径2mmの混練ペレットを作製し、この混練ペレットを9.7kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形の、ボンド磁石Bを作製することができる。
【0032】
このとき、ボンド磁石Aとボンド磁石Bを測定磁場10kOeで測定したときのボンド磁石Aの残留磁束密度Brとボンド磁石Bの残留磁束密度Brとの比Br/Brが、0.950以上であることが好ましく、0.955以上であることがさらに好ましい。ボンド磁石中のフェライト磁性粉は、磁場中で十分に配向されることにより、ボンド磁石として大きな残留磁束密度Brを得ることができる。ボンド磁石の作製時、配向性の優れたボンド磁石中のフェライト磁性粉では、低い磁場においても十分に配向することができる。したがって、Br/Brの値が1に近い程、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉は配向性に優れており、当該ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石を製造した際に高い残留磁束密度Brが得られやすい。
【0033】
[ボンド磁石Aの断面観察による粒子形状評価]
本発明に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の形状の測定において、上記ボンド磁石Aの断面を電子顕微鏡で観察することができる。具体的には、上記ボンド磁石Aの着磁方向に平行な断面を電子顕微鏡において倍率1000倍で観察した画像において、85μm×120μmの視野領域内で外縁部全体が観察される、面積0.5μm以上のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子を評価することができる。このとき、対象となる粒子の輪郭の2点間距離が最大となる線分の長さを長軸長とし、対象となる粒子を、長軸長を測定した線分に対して平行な二本の直線で挟み込んだ時の直線間距離を短軸長とする。測定に用いる粒子の個数は500個以上とする。以下の指標における断面観察に基づく値に関しては、この評価方法が適用される。上記測定は、断面を観察した画像を二値化して画像解析することにより行うことができ、任意の画像解析ソフトウェアを用いることができる。
【0034】
<粒子の長軸長の平均値aと平均粒径bとの比a/b>
上記評価方法では、視野領域内で外縁部全体が観察される、面積0.5μm以上のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子が対象とされるため、上記評価方法による断面観察に基づくボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の粒子の長軸長の平均値aの算出に際して、ボンド磁石Aの断面観察においてボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉中の面積が0.5μm未満である微小粒子は含まれない。
【0035】
一方、空気透過法で測定した平均粒径bとは、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の充填層に空気を通過させて、その透過性から粉体の平均粒径を測定することにより得られた平均粒径であり、微小粒子の寄与も含まれる値である。したがって、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉中にボンド磁石Aの断面観察においてボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉中の面積が0.5μm未満である微小粒子の割合が多い程、a/bの値が大きくなる。すなわち、粒子の長軸長の平均値aと平均粒径bとの比a/bは、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉中に含まれる微小粒子が含まれる度合いを示す指標であり、a/bが1.5以上、3.0未満であることが好ましい。また、このとき空気透過法で測定した平均粒径bが1.00μm以上1.50μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
<粒子の長軸長と短軸長との比>
上記評価方法による、断面観察に基づく長軸長と短軸長との比(長軸長/短軸長)が1.5以上の粒子は、個数割合で60%未満であることが好ましい。この比(長軸長/短軸長)の値が大きい粒子では、外部からの磁場に対し粒子が配向しにくいと推定され、このような粒子の割合が少ないボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石を製造することで、高い残留磁束密度Brが得られやすい。
【0037】
(ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法)
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法は、組成式(Sr1-x1Lax1)(Fe1-y1Coy1n119-a1(式中、0<x1≦0.500、0.005≦y1≦0.050、10.00≦n1≦12.50、-1.000≦a1≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第一の温度で焼成して六方晶フェライトの粗粉を得る工程と、組成式(Sr1-x2Lax2)(Fe1-z2Znz2n219-a2(式中、0<x2≦0.500、0.005≦z2≦0.050、10.00≦n2≦12.50、-1.000≦a2≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第二の温度で焼成して六方晶フェライトの微粉を得る工程と、六方晶フェライトの粗粉と六方晶フェライトの微粉とを混合粉砕して混合粉砕処理した混合粉を得る工程と、混合粉砕処理した混合粉をアニールする工程とを備える。粗粉よりもBET比表面積から算出した粒径が小さい微粉を用いることで、得られるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の充填性を高めることができ、その結果、当該磁性粉を使用してボンド磁石を製造した際に残留磁束密度Brが高いボンド磁石を得ることができる。ここで、粗粉の比表面積は、通常、微粉の比表面積よりも小さい。以下で、各工程を詳細に説明する。
【0038】
[粗粉の製造工程]
組成式(Sr1-x1Lax1)(Fe1-y1Coy1n119-a1(式中、0<x1≦0.500、0.005≦y1≦0.050、10.00≦n1≦12.50、-1.000≦a1≦3.500)で表される六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合した後に第一の温度で焼成して六方晶フェライトの粗粉を得る工程である。なお、本明細書において、LaおよびCoで置換したフェライトを「SrLaCoフェライト」又は単に「SrLaCo」と記載することがある。
【0039】
六方晶フェライトの粗粉の原料となる粉末としては、構成元素であるSr、La、FeおよびCoの各化合物を用いることができ、例えば、Sr化合物としては炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウムが挙げられ、La化合物としては酸化ランタン、水酸化ランタン、硫酸ランタンが挙げられ、Fe化合物としては酸化鉄(ヘマタイト、マグネタイト)、塩化鉄、硫酸鉄、好ましくはヘマタイトが挙げられ、Co化合物としては酸化コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルトが挙げられる。
【0040】
六方晶フェライトの粗粉の原料となる粉末として、構成元素であるSr、La、FeおよびCoの2種以上を含む複合酸化物を用いることもできる。このような複合酸化物(以下前駆体粉末ともいう)と、前駆体粉末と混合することにより粗粉の組成となるようなSr、La、FeおよびCoの残部の化合物を粗粉の原料とすることができる。
【0041】
最終的にボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉として高い圧縮密度を容易に得られる点から、前駆体粉末は、粗粉の組成となるSr、La、Coと、粗粉の組成の一部に相当するFeを含む複合酸化物を用いることが好ましい。このような前駆体粉末は、Sr化合物、La化合物、Fe化合物、Co化合物の粉末を混合後に1000℃以上1250℃以下で焼成した後に粉砕する製造方法により得ることができる。このような前駆体粉末と、粗粉の組成となるためのFeの残部に相当するヘマタイトとを六方晶フェライトの粗粉の原料として用いることができる。
【0042】
粗粉の磁力向上の効果を得るため、上記組成式におけるx1の値を正の実数とし、y1の値を0.005以上とする。また、LaおよびCoのそれぞれの添加が過剰になると六方晶フェライト結晶構造の維持が困難となるため、x1の値を0.500以下とし、y1の値を0.050以下とする。x1の数値範囲は0.100以上0.400以下であることが好ましく、0.150以上0.350以下であることがさらに好ましい。y1の数値範囲は0.005以上0.040以下であることが好ましく、0.008以上0.020以下であることがさらに好ましい。
【0043】
また、マグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉を得るため、上記組成式におけるn1の値は、10.00以上12.50以下とする。焼成後の未反応物の残留を抑制する点から、n1の値は、10.50以上12.00以下であることが好ましい。
【0044】
粗粉には、原料に含まれる不純物や製造設備に由来する不純物等の不可避的な成分が含まれ得る。このような成分としては、例えばMnおよびBa等の各酸化物が挙げられる。これらの含有量は、合計で0.4質量%以下に抑制することが好ましい。上記の組成式は、不可避的な成分を除いた組成式である。
【0045】
粗粉の製造工程における焼成温度である第一の温度は、1220℃以上1400℃以下が好ましく、1220℃以上1300℃以下がより好ましい。
【0046】
粗粉の製造工程においては、原料の粉末の混合物を造粒して焼成してもよい。焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気が好ましく、大気雰囲気がより好ましい。また、焼成後に粉砕処理をすることが好ましい。粉砕処理の方法は、特に限定されず、ローラーミル等を用いる公知の方法が挙げられる。
【0047】
粗粉は、BET一点法で測定した比表面積から求める粒径が1.00μm以上8.00μm以下であることが好ましく、2.00μm以上5.00μmであることがより好ましい。
【0048】
[微粉の製造工程]
組成式(Sr1-x2Lax2)(Fe1-z2Znz2n219-a2(式中、0<x2≦0.500、0.005≦z2≦0.050、10.00≦n2≦12.50、-1.000≦a2≦3.500)で表される六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末を混合した後に第二の温度で焼成して粗粉よりもBET比表面積から算出した粒径が小さい六方晶フェライトの微粉を得る工程である。なお、本明細書において、LaおよびZnで置換したフェライトを「SrLaZnフェライト」又は単に「SrLaZn」と記載することがある。
【0049】
六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末としては、構成元素であるSr、La、FeおよびZnの各化合物を用いることができ、例えば、Sr化合物としては炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウムが挙げられ、La化合物としては酸化ランタン、水酸化ランタン、硫酸ランタンが挙げられ、Fe化合物としては酸化鉄(ヘマタイト、マグネタイト)、塩化鉄、硫酸鉄、好ましくはヘマタイトが挙げられ、Zn化合物としては酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛が挙げられる。
【0050】
微粉の磁力向上の効果を得るため、上記組成式におけるx2の値を正の実数とし、z2の値を0.005以上とする。また、LaおよびZnのそれぞれの添加が過剰になると六方晶フェライト結晶構造の維持が困難となるため、x2の値を0.500以下とし、z2の値を0.050以下とする。x2の数値範囲は0.100以上0.400以下であることが好ましく、0.150以上0.350以下であることがさらに好ましい。z2の数値範囲は0.005以上0.040以下であることが好ましく、0.008以上0.020以下であることがさらに好ましい。
【0051】
また、マグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉を得るため、上記組成式におけるn2の値は、10.00以上12.50以下とする。焼成後の未反応物の残留を抑制する点から、n2の値は、10.50以上12.00以下であることが好ましい。
【0052】
微粉には、原料に含まれる不純物や製造設備に由来する不可避的な成分が含まれ得る。このような成分としては、例えばMnおよびBa等の各酸化物が挙げられる。これらの含有量は、合計で0.4質量%以下に抑制することが好しい。上記組成式は、不可避的な成分を除いた組成式である。
【0053】
微粉の製造工程における焼成温度である第二の温度は、1000℃以上1350℃以下が好ましく、1100℃以上13000℃以下がより好ましい。第二の温度を1000℃以上とすることで、六方晶フェライト結晶構造をもつ微粉が得られやすくなる。
【0054】
微粉の製造工程においては、原料粉末の混合物を造粒して焼成してもよい。焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気が好ましく、大気雰囲気がより好ましい。また、焼成後に粉砕処理をすることが好ましい。粉砕処理は、ローラーミル等を用いる公知の方法により実施することができるが、湿式粉砕処理を行うことが好ましい。ローラーミル等の乾式粉砕処理と湿式粉砕処理を組み合わせてもよい。
【0055】
微粉は、BET一点法で測定した比表面積から求める粒径が0.05μm以上0.50μm以下であることが好ましく、0.10μm以上0.20μmであることがより好ましい。
【0056】
微粉の飽和磁化は、57.0emu/g以上であることが好ましく、58.0emu/g以上であることがより好ましい。飽和磁化を57.0emu/g以上とすることで、得られるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の飽和磁化が高くなり、得られるボンド磁石の残留磁束密度Brを高めやすくなる。
【0057】
[混合粉砕工程]
別々に得られた粗粉と微粉とを、粗粉と微粉との合計質量に対する粗粉の質量割合が60質量%以上90質量%以下となる比率で混合粉砕して、混合粉砕処理した混合粉を得る工程である。
混合粉砕処理には湿式粉砕装置を用いることが好ましく、アトライターを用いることがより好ましい。
【0058】
混合粉砕処理には振動ボールミルを用いることができる。振動ボールミルによる粉砕の促進の点から、媒体径5mm以上20mm以下のボールを用いることが好ましく、1段目として媒体径10mm以上20mm以下のボールを用いて粉砕処理を実施した後に2段目として媒体径5mm以上10mm以下のボールを用いて粉砕処理を実施することが好ましい。例えば、アトライターで処理した後、振動ボールミルを用いることによって、アトライターでは粉砕できなかった粗大粒子を粉砕することができる。
【0059】
このように、粗粉としてSrLaCoフェライトを用いつつ、微粉としてSrLaZnフェライトを用いることで、得られるボンド磁石は極めて優れた磁気特性を発現することが分かった。粗粉においては粒径が大きいため高い保磁力が得られにくいところ、SrLaCoフェライトを用いることで、磁化が高く、かつ保磁力が確保できる。一方、微粉は粗粉に比べ大きな保磁力を持つため、より磁化に優れるSrLaZnフェライトを微粉に用いることで、粗粉と微粉との組合せにおいて、結果的に磁気特性のバランスに優れたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉が得られたものと推定される。
【0060】
[アニール工程]
混合粉砕工程で得られた、混合粉砕処理した混合粉をアニールして、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得る工程である。アニール条件は、特に限定されず、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法として公知の条件にて実施することができる。アニールの温度は900℃以上1000℃以下が好ましく、930℃以上980℃以下がより好ましい。また、アニール時の雰囲気は酸化性雰囲気が好ましく、大気雰囲気がより好ましい。
【0061】
(ボンド磁石とその製造方法)
本発明のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造方法により得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉および樹脂を含む混練物を磁場中で成形することで、ボンド磁石を製造することができる。ボンド磁石の製造方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉、樹脂および滑剤等の添加剤を混合し、混練し混練ペレットを作製した後、この混練ペレットを磁場中で成形してボンド磁石とすることができる。
【実施例0062】
以下、実施例により、本発明によるボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉とその製造方法、およびボンド磁石とその製造方法について詳細に説明する。
【0063】
実施例における評価は以下のようにして行った。
【0064】
[組成分析]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の組成分析は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製のZSX100e)を使用して、ファンダメンタル・パラメータ法(FP法)により、各元素の成分量を算出することにより行った。この組成分析では、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を測定用セルに詰め、980MPaの圧力を20秒間加えて成型し、測定モードをEZスキャンモード、測定径を30mm、試料形態を酸化物、測定時間を標準時間とし、真空雰囲気中において、定性分析を行った後に、検出された構成元素に対して定量分析を行った。
【0065】
[XRD測定]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製のMiniflex600)を使用して、管電圧を40kV、管電流を15mA、測定範囲を15°~60°、スキャン速度を1°/分、スキャン幅を0.02°として、粉末X線回折法(XRD)による測定を行った。
【0066】
[BET比表面積測定]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉、六方晶フェライトの粗粉、六方晶フェライトの微粉および六方晶フェライトの粗粉の製造工程途中で得られた複合酸化物のBET比表面積は比表面積測定装置(カンタクローム社製のモノソーブ)によりBET一点法で測定した。
【0067】
[圧縮密度測定]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉および六方晶フェライトの微粉の圧縮密度は、磁性粉10.0gを内径2.54cmφの円筒形の金型に充填した後に径2.44cmφの円柱形のピストンにより98MPaの圧力で圧縮することで得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の密度を圧縮密度CD(g/cm)として測定した。なお、圧縮密度CD(g/cm)の算出式(1)は、円筒形の金型内部の底面から圧縮後のピストン先端部までの高さをL(cm)とし、円周率をπとすると以下のとおりである。
圧縮密度CD(g/cm) = 10.00/(2.54×π/4×L)
…算出式(1)
【0068】
[平均粒径測定]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の平均粒径b(APD)は、比表面積測定装置(株式会社島津製作所製のSS-100)を用いて空気透過法により測定した。
【0069】
[レーザー回折式粒度分布測定]
レーザー回折式粒度分布測定は、乾式レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製:HELOS&RODOS)を使用して、焦点距離20mm、分散圧5.0bar、吸引圧130mbarで体積基準の粒度分布を測定した。
【0070】
[圧粉体の磁気特性測定]
ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉8gとポリエステル系樹脂(株式会社ニチカ製P-レジン(主剤))0.4cm(大気圧下、25℃での測定値)を混練し、得られた混練物7gを内径15mmφの金型に充填し、196MPaの圧力で60秒間圧縮して得られた成型品を金型から抜き取り、150℃で30分間乾燥させて圧粉体を得た。このボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の圧粉体の磁気特性として、BHトレーサー(東英工業株式会社製のTRF-5BH)を使用して、測定磁場10kOeで圧粉体の保磁力p-iHcおよび残留磁束密度p-Brを測定した。
【0071】
<長軸長、短軸長および面積率の測定>
(1)ボンド磁石Aを着磁方向に平行な面で切断し、その表面をイオンミリングにより研磨することで粒径評価用試料を得た。研磨した面に対して垂直方向から電子顕微鏡観察を行うことにより、フェライト粒子の結晶に対してab面に対し水平な方向から見た際の長軸長および短軸長を測定することができる。
(2)粒径評価用試料を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製:JSM-T220A)にて上記試料中の粒子断面を観察し、1000倍の反射電子像を得た。
(3)得られた反射電子像を画像解析プログラム(旭化成エンジニアリング株式会社製:A像くん)を用いて結晶粒度解析モードで自動設定にて二値化を行い、明領域を粒子、暗領域をバックグラウンドとして分離した後に、面積が0.5μm以上である視野(85μm×120μm)中の全ての粒子の長軸長を測定して、その個数平均値を粒子の長軸長の平均値aとして算出し、また明領域の総面積に対する0.5μm以上の粒子の総面積の割合を面積率として算出した。ここで、粒子の輪郭の2点間距離が最大となる線分の長さを長軸長とし、長軸長を測定した線分に対して平行な二本の直線で挟み込んだ際の直線間距離を短軸長とした。
【0072】
[流動度(MFR)の測定]
得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤(東レダウコーニング株式会社製のZ-6094N)0.6質量部と、滑剤(ヘンケル社製のVPN-212P)0.8質量部と、バインダとして粉末状のポリアミド樹脂(宇部興産株式会社製のP-1011F)5.1質量部とを秤量し、ミキサーに充填して混合して得られた混練ペレットをメルトインデクサー(株式会社東洋精機製作所製のメルトインデクサーC-5059D2)に入れ、JISK7210-1:2014に準拠して、前記混練ペレットが270℃、荷重10kgで押し出された重量を測定し、この重量を10分当たりで押し出された量に換算することにより、混練ペレットを射出成形する際の流動度(MFR)を求めた。
【0073】
[ボンド磁石の磁気特性測定]
BHトレーサー(東英工業株式会社製のTRF-5BH)を使用して、測定磁場10kOeでボンド磁石Aおよびボンド磁石Bの保磁力iHc、残留磁束密度Brおよび最大エネルギー積BHmaxを測定した。
【0074】
(実施例1)
1-1.実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の製造
(1)六方晶フェライトの粗粉の製造工程
炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、水酸化ランタン粉末(La(OH)、比表面積:5.0m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)および酸化コバルト粉末(Co、比表面積:3.3m/g)を、モル比がSr:La:Fe:Co=0.70:0.30:0.85:0.15となるように秤量して混合し、この混合物にパンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の第1の造粒物を得た。得られた第1の造粒物を内燃式のロータリーキルン中において大気の流通雰囲気下、1100℃で20分間焼成し、第1の焼成物を得た。この第1の焼成物をローラーミルで粉砕して、SrLaFeCoの複合酸化物粉末を得た。得られたSrLaFeCoの複合酸化物粉末のBET比表面積を測定したところ、3.5m/gであった。
【0075】
このSrLaFeCoの複合酸化物粉末とヘマタイト(α-Fe:比表面積 5.3m/g)を、質量比がSrLaFeCoの複合酸化物粉末:ヘマタイト=1.0:4.0になるように秤量および混合して混合物を得て、この混合物に対して0.17質量%のホウ酸と2.3質量%の塩化カリウムを加えて混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の第2の造粒物を得た。得られた第2の造粒物を内燃式のロータリーキルンに投入し、大気中において1300℃(第2の焼成温度)で20分間焼成して得られた焼成物をローラーミルで粉砕して六方晶フェライトの粗粉を得た。
【0076】
得られた六方晶フェライトの粗粉のBET比表面積を測定したところ0.37m/gであり、粗粉の真比重を5.1g/cmとしてBET比表面積から粒子径(DBET)を算出したところ3.18μmであった。ここで、この粒子径DBET(m/g)は、粗粉のBET比表面積をSBETとすると以下の算出式(2)により求めることができる。本明細書においてBET比表面積から算出される粒子径はこの算出式(2)により算出した。
DBET(μm)=6/(真比重(g/cm)×SBET(m/g))
…算出式(2)
【0077】
また、得られた六方晶フェライトの粗粉の組成分析を行い、Sr、La、Fe、Coの分析値から、粗粉の組成式を(Sr1-x1Lax1)(Fe1-y1Coy1n119-a1と表記した場合のx1、y1、n1、a1を算出したところ、x1=0.298、y1=0.014、n1=11.00、a1=1.428という結果であった。以上の粗粉の評価結果を表1に示す(以下実施例および比較例についても同様)。なお、表1においては粗粉のBET比表面積をSBET1と表記し、BET比表面積から算出される粒子径をDBET1と表記している。
【0078】
(2)焼成工程および粉砕工程(六方晶フェライトの微粉の製造工程)
六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末として、炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、水酸化ランタン粉末(La(OH)、比表面積:5.0m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)および酸化亜鉛粉末(ZnO、比表面積:4.5m/g)を、モル比がSr:La:Fe:Zn=0.70:0.30:11.50:0.30となるように秤量し、秤量した粉末の合計質量に対して2.45質量%の塩化カリウム粉末を秤量した。秤量したこれらの粉末を混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の第3の造粒物を得た。
【0079】
得られた第3の造粒物を、ロータリーキルン中において大気の流通雰囲気下、1250℃(第3の焼成温度)で20分間焼成し、第3の焼成物を得た。得られた第3の焼成物をローラーミルで処理することで解砕粉を得た。得られた解砕粉を、振動ボールミル(村上精機製作所製:Uras Vibrator KEC-8-YH)を用いた乾式粉砕処理することにより微粉砕粉を得た。粉砕処理条件としては、媒体径12mmのスチール製ボールを用い、回転数1800rpm、振幅8mmの条件で300分間処理を実施した。得られた微粉砕粉に水を加えて、解砕粉の濃度が20質量%となるようにスラリー化したのち、直径5.56mmのスチール製ボールとともに攪拌翼を有する粉砕装置であるアトライターに投入して、攪拌翼の周速1.6m/sで、10分間(粉砕処理時間)攪拌して粉砕処理することにより、六方晶フェライトの微粉を含むスラリーを得た。得られた六方晶フェライトの微粉を含むスラリーからサンプリングをし、ろ過および乾燥をすることで評価用の微粉サンプルを得た。得られた微粉サンプルのBET比表面積を測定したところ8.09m/gであり、圧縮密度CDを測定したところ3.25g/cmであり、BET比表面積から算出式(2)により粒子径DBET2を測定したところ0.15μmであった。また、得られた微粉サンプルの飽和磁化σsを振動試料型磁力計(東英工業株式会社製:VSM-P7を用いて印可磁場1Tの方法で測定したところ、58.4emu/gであった。得られた微粉サンプルの組成分析を行い、Sr、La、Fe、Coの分析値から、粗粉の組成式を(Sr1-x2Lax2)(Fe1-z2Znz2n219-a2と表記した場合のx2、z2、n2、a2を算出したところ、x2=0.301、z2=0.025、n2=11.82、a2=0.267という結果であった。以上の微粉サンプルの評価結果を表2に示す(以下実施例および比較例についても同様)。
【0080】
(3)混合粉砕工程
アトライターの粉砕容器内に入っている、得られた六方晶フェライトの微粉を含むスラリーに、粗粉と微粉の質量割合(粗粉の質量:微粉の質量)が70:30となるように(1)で得られた粗粉を追加し、アトライターによりさらに20分間の混合粉砕を行った。そして、混合粉砕により得られたスラリーをろ過した後に、大気中150℃で10時間乾燥させて乾燥ケーキを得た。当該乾燥ケーキを解砕処理することで混合粉を得た。得られた混合粉を、振動ボールミル(村上精機製作所製:Uras Vibrator KEC-8-YH)で粉砕処理した。粉砕処理条件としては、媒体径12mmのスチール製ボールを用い、回転数1800rpm、振幅8mmの条件で28分間実施し、得られた粉砕粉に対してさらに、媒体径8mmのスチール製ボールを用いて回転数1800rpm、振幅8mmの条件で粉砕処理を28分間実施した。これにより、混合粉砕処理した混合粉を得た。
【0081】
(4)アニール工程
混合粉砕処理した混合粉を大気中965℃にて30分間アニールして、実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。
【0082】
(5)ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の評価
実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について、粉末X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、すべてのピークがSrFe1219と同じ位置に観測され、本実施例のボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉がM型フェライト構造を有することが確認された。この結果は、以下に説明する実施例および比較例でも同様であった。
【0083】
実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の組成分析を行い、Sr、La、Fe、CoおよびZnの分析値から、ボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の組成式を(Sr1-xLa)・(Fe1-y-zCoZn19-aと表記した場合のx、y、z、n、aを算出すると、x=0.316、y=0.009、z=0.006、n=10.89、a=1.586であった。なお、組成分析において、Sr、La、Fe、Co、Zn以外に原料由来と推測されるMn、Ba等の金属元素も検出されたが、いずれも酸化物換算で合計0.4質量%以下と微量であったため、組成式には入れていない。
【0084】
実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について、圧縮密度を測定したところ3.76g/cmであり、BET比表面積を測定したところ1.90m/gであり、空気透過法による平均粒径bを測定したところ、1.48μmであった。また、レーザー回折式粒度分布測定を行ったところ、0.5μm以上2.0μm以下の範囲で1点のピークが確認されそのピーク径は1.3μmであり、3.0μm以上6.0μm以下の範囲で1点のピークが確認されそのピーク径は5.5μmであった。実施例1の粒度分布のグラフを図1に示す。
【0085】
実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉の圧粉体の磁気特性を測定したところ、圧粉体の保磁力p-iHcは2150Oe、圧粉体の残留磁束密度p-Brは2010Gであった
以上の評価結果を表3および4に示す(以下実施例および比較例についても同様)。
【0086】
1-2.実施例1に係るボンド磁石Aの製造
得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉93.5質量部と、シランカップリング剤(東レダウコーニング株式会社製のZ-6094N)0.6質量部と、滑剤(ヘンケル社製のVPN-212P)0.8質量部と、バインダとして粉末状のポリアミド樹脂(宇部興産株式会社製のP-1011F)5.1質量部とを秤量し、ミキサーに充填して混合して得られた混合物を230℃で混練して、平均径2mmの混練ペレットを得た。メルトインデクサー(株式会社東洋精機製作所製のメルトインデクサーC-5059D2)を使用して、上記の混練ペレットが270℃、荷重10kgで押し出された重量を測定し、この重量を10分当たりで押し出された量に換算することにより、混練ペレットを射出成形する際の流動度(MFR)を求めたところ、69.2g/10分であった。この混練ペレットを射出成形機(住友重機械工業株式会社製)に装填して、4.3kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石A(フェライト濃度93.5質量%、4.3kOe配向)を得た。
【0087】
ボンド磁石AのSEMによる断面観察像を用いて実施例1に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉について長軸長の平均値aおよび面積率を測定したところ、長軸長の平均値aは2.4μm、面積率は57.0%であり、空気透過法で測定した平均粒径bに対する長軸長の平均値aの比a/bは1.62と算出された。ここで、倍率1000倍で観察した断面観察像において、85μm×120μmの視野領域内で観察される面積0.5μm以上の、長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は1695個であった。これらの粒子に占める長軸長と短軸長の比(長軸長/短軸長)が1.5以上の粒子の個数割合は36.58%であった。
以上の評価結果を表4に示す(以下実施例および比較例についても同様)。
【0088】
このボンド磁石Aの磁気特性を測定したところ、保磁力iHcは1748Oe、残留磁束密度Brは3304Gであった。以上の結果を、流動度(MFR)とともに表5に示す(以下実施例および比較例についても同様)。また、実施例1のボンド磁石AのSEMによる断面観察像を図2に示す。
【0089】
1-3.実施例1に係るボンド磁石Bの製造
実施例1に係るボンド磁石Aの製造の際に得られた混練ペレットを射出成形機(住友重機械工業株式会社製)に装填して、9.7kOeの磁場中において温度300℃、成型圧力8.5N/mmで射出成形して、直径15mm×高さ8mmの円柱形(磁場の配向方向は円柱の中心軸に沿った方向)のボンド磁石B(フェライト濃度93.5質量%、9.7kOe)を得た。
【0090】
このボンド磁石Bの磁気特性を測定したところ、保磁力iHcは1691Oe、残留磁束密度Brは3450Gであった。また、ボンド磁石Aの残留磁束密度Brとボンド磁石Bの残留磁束密度Brとの比Br/Brは0.958であった。以上の結果を表5に示す(以下実施例および比較例についても同様)。
【0091】
(実施例2)
六方晶フェライトの粗粉の製造工程において、第2の焼成温度を1230℃としたこと、および六方晶フェライトの微粉の製造工程において、第3の焼成温度を1150℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。実施例2のボンド磁石AのSEMによる断面観察像を図3に示す。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は1493個であった。
【0092】
(実施例3)
六方晶フェライトの微粉の製造工程において、六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末を、モル比がSr:La:Fe:Zn=0.85:0.15:11.65:0.15となるように秤量したこと、第3の焼成温度を1150℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は842個であった。
【0093】
(実施例4)
六方晶フェライトの粗粉の製造工程において、第2の焼成温度を1230℃としたこと、および六方晶フェライトの微粉の製造工程において、第3の焼成温度を1150℃としたこと、混合工程において粗粉:微粉の質量割合が60:40となるように(1)で得られた粗粉を追加したこと以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は622個であった。
【0094】
(比較例1)
(2)焼成工程および粉砕工程において、六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末として、炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)とヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)を用いてモル比がSr:Fe=1.00:11.00となるように秤量したこと、第3の焼成温度を970℃としたこと、および振動ボールミルでの粉砕処理時間を56分間としたこと以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。比較例1のボンド磁石AのSEMによる断面観察像を図4に示す。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は1272個であった。
【0095】
(比較例2)
(2)焼成工程および粉砕工程において、六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末として、酸化亜鉛粉末に代えて酸化コバルト粉末(Co、比表面積:3.3m/g)を用いたこと、モル比がSr:La:Fe:Co=0.70:0.30:11.20:0.30となるように秤量したこと、および第3の焼成温度を1150℃としたこと以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。比較例2のボンド磁石AのSEMによる断面観察像を図5に示す。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は1734個であった。
【0096】
(比較例3)
六方晶フェライトの粗粉の原料となる物質として、炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)を、モル比がSr:Fe=1.00:11.80となるように秤量して混合し、この混合物の質量に対して0.17質量%のホウ酸と2.3質量%の塩化カリウムを加えて混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の造粒物を得た。得られた造粒物を内燃式のロータリーキルンに投入し、大気中において1250℃で20分間焼成して得られた焼成物をローラーミルで粉砕して六方晶フェライトの粗粉を得た。
【0097】
実施例1の(3)混合工程において、(1)で得られた粗粉に代えて以上で得られた六方晶フェライトの粗粉を用いた以外は、実施例1と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は605個であった。
【0098】
(比較例4)
六方晶フェライトの粗粉の原料となる粉末として、炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、水酸化ランタン粉末(La(OH)、比表面積:5.0m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)および酸化亜鉛粉末(ZnO、比表面積:4.5m/g)を、モル比がSr:La:Fe:Zn=0.70:0.30:11.60:0.30となるように秤量して混合し、この混合物に対して0.17質量%のホウ酸と2.3質量%の塩化カリウムを加えて混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の造粒物を得た。得られた造粒物を内燃式のロータリーキルンに投入し、大気中において1300℃で20分間焼成して得られた焼成物をローラーミルで粉砕して六方晶フェライトの粗粉を得た。
【0099】
また六方晶フェライトの微粉の原料となる粉末として、炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、水酸化ランタン粉末(La(OH)、比表面積:5.0m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)および酸化コバルト粉末(Co、比表面積:3.3m/g)を、モル比がSr:La:Fe:Co=0.70:0.30:11.20:0.30となるように秤量して混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の造粒物を得た。得られた造粒物を内燃式のロータリーキルンに投入し、大気中において1150℃で20分間焼成して焼成物を得た。得られた焼成物に対して、実施例1の(2)焼成工程および粉砕工程におけるローラーミル処理以降の操作を実施することで六方晶フェライトの微粉を含むスラリーを得た。
【0100】
実施例1の(3)混合工程において、以上で得られた六方晶フェライトの微粉を含むスラリーと、以上で得られた六方晶フェライトの粗粉を用いた以外は、実施例1の(3)混合工程以降と同様の手順によりボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。得られた粗粉、評価用の微粉サンプルおよびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bを製造し、それらの磁気特性および流動度(MFR)の測定を行った。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は599個であった。
【0101】
(比較例5)
炭酸ストロンチウム粉末(SrCO、比表面積5.8m/g)、水酸化ランタン粉末(La(OH)、比表面積:5.0m/g)、ヘマタイト粉末(α-Fe、比表面積5.3m/g)、酸化コバルト粉末(Co、比表面積:3.3m/g)および酸化亜鉛粉末(ZnO、比表面積:4.5m/g)を、モル比がSr:La:Fe:Co:Zn=0.70:0.30:11.50:0.20:0.10となるように秤量して混合し、この混合物に対して0.17質量%のホウ酸と2.3質量%の塩化カリウムを加えて混合した後、パンペレタイザー中で水を加えながら造粒して、直径3mm~10mmの球状の造粒物を得た。得られた造粒物を内燃式のロータリーキルンに投入し、大気中において1300℃で20分間焼成して得られた焼成物をローラーミルで粉砕して六方晶フェライトの粗粉を得た。この粗粉を振動ボールミル(村上精機製作所製:Uras Vibrator KEC-8-YH)で粉砕処理することにより、粉砕粉を得た。粉砕処理条件としては、媒体径12mmのスチール製ボールを用い、回転数1800rpm、振幅8mmの条件で28分間実施し、得られた粉砕粉に対してさらに、媒体径8mmのスチール製ボールを用いて回転数1800rpm、振幅8mmの条件で粉砕処理を28分間実施した。得られた粉砕粉に対して大気中965℃にて30分間アニールして、比較例5に係るボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を得た。
【0102】
得られた粗粉およびボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉に対して、実施例1と同様の手順で分析および測定を行い、また得られたボンド磁石用六方晶フェライト磁性粉を用いてボンド磁石Aおよびボンド磁石Bの製造および流動度(MFR)の測定を試みた。しかし、混練により得られた混練物は流動せず、流動度(MFR)の測定および成型を行うことができなかった。そこで、磁性粉を90質量部とし、ポリアミド樹脂を8.6質量部とした以外はボンド磁石Aの製造方法と同様の手順で得られたボンド磁石を用いてフェライト粒子の電子顕微鏡観察を行った。長軸長および短軸長を測定した粒子の個数は1109個であった。
【0103】
以上の結果を表1~5に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5