(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134240
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】静電アクチュータ、静電アクチュエータの駆動方法、演出システム、およびシート搬送システム
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039653
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】592128191
【氏名又は名称】株式会社川口電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃生
(72)【発明者】
【氏名】児島 本基
(72)【発明者】
【氏名】三浦 智
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝志
(57)【要約】
【課題】静電アクチュエータにおいて、視覚効果を阻害することなく、かつ検出のためのスペース及び回路を最小限にして、移動シートの位置を検出する。
【解決手段】移動シート6を、静電気力によって固定部1に対して移動させる静電アクチュエータ100であって、固定部1は、所定ピッチで複数の電極Eが配置される電極基板10と、複数の電極Eに電圧を印加する電圧印加部30と、移動シート6の移動を検出する検出部40と、を備え、複数の電極Eは、電圧印加部30から電圧が印加される給電線20A~20Dと接続され、移動シート6を移動させる複数の駆動用電極11と、複数の駆動用電極11の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置され、給電線20A~20Dから切り離されて接地端子42と接続される検出用電極12と、を有し、検出部40は、移動シート6が検出用電極12の上に位置したことを検出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動シートを、静電気力によって固定部に対して移動させる静電アクチュエータであって、
前記固定部は、
所定ピッチで複数の電極が配置され、前記移動シートと接触する電極基板と、
前記複数の電極に電圧を印加することで前記移動シートを移動させる電圧印加部と、
前記移動シートの移動を検出する検出部と、を備え、
前記複数の電極は、
前記電圧印加部から前記電圧が印加される給電線と接続され、前記移動シートを移動させる複数の駆動用電極と、
前記複数の駆動用電極の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置され、前記給電線から切り離されて接地端子と接続される検出用電極と、を有し、
前記検出部は、前記移動シートが前記検出用電極の上に位置したことを検出する
静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記電圧印加部は、前記複数の駆動用電極へ印加する印加電圧を1回スイッチングすることで、前記駆動用電極の電圧パターンを、前記所定ピッチ1つ分、移動させ、
前記移動シートは、スイッチング後、数ms~数秒のスイッチング間隔の時間内で電荷パターンが誘導され、
前記移動シートの表面抵抗率は、所定ピッチのピッチ幅に応じて、前記電荷パターンの誘導時間が数m秒~数秒となるような表面抵抗率に設定される
請求項1に記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
前記電圧印加部から供給される印加電圧を制御することで、前記移動シートの動作を制御する制御部を備え、
前記検出用電極は、前記移動シートの動作が変化する位置に設けられ、
前記検出部は、前記検出用電極と前記接地端子との間にある抵抗の両端間の電圧変化を検出する電圧計を有し、
前記検出部は、前記印加電圧のスイッチング後瞬時に発生する、前記電極基板内の他の電極の電圧変化に起因する前記抵抗の電圧変化の後に発生する、前記検出用電極の上の前記移動シートの電荷に起因する前記抵抗の電圧変化によって、前記移動シートが前記検出用電極上に位置して動いていることを検出し、
前記制御部は、前記移動シートが検出無から検出有になったタイミング、あるいは前記移動シートが検出有から検出無になったタイミング後に、前記移動シートの動作を変化させる
請求項1又は2に記載の静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記検出部は、
抵抗値を切り替え可能であり、
前記他の電極の電圧変化に起因して発生する前記抵抗の電圧変化発生時は、前記検出用電極へ接続される抵抗値を小さくし、
前記移動シートの移動に起因する前記抵抗の電圧変化を検出する前に、接続を切り替えて、前記検出用電極及び前記電圧計に接続される抵抗値を大きくする
請求項3に記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
移動シートを静電気力によって固定部に対して移動させる静電アクチュエータの駆動方法であって、
前記固定部は、所定ピッチで複数の電極が配置される電極基板と、前記複数の電極に電圧を印加する電圧印加部と、前記移動シートの移動を検出する検出部と、を備えており、前記複数の電極は、前記電圧印加部から前記電圧が印加される給電線と接続され、前記移動シートを移動させる複数の駆動用電極と、前記複数の駆動用電極の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置され、前記給電線から切り離されて接地端子と接続される検出用電極と、を有しており、
駆動方法は、
前記電圧印加部が、前記複数の駆動用電極へ供給する印加電圧のスイッチングを繰り返すことで、前記駆動用電極の電圧パターンを移動させるステップと、
前記検出部が、前記検出用電極の真上の前記移動シートの電荷に起因する前記検出用電極の電圧変化を取得することで、前記検出用電極上の前記移動シートの有無を検出するステップと、
前記検出部で検出される前記移動シートが前記検出用電極上に無い状態から有る状態になったタイミング、あるいは有る状態から無い状態になったタイミング後に、前記移動シートの動作を変化させるステップと、を有する
静電アクチュエータの駆動方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の前記静電アクチュエータと、
前記移動シートの動きと対応づけた音又は/及び映像を出力する出力部と、を備える、演出システムであって、
前記制御部は、前記検出用電極による移動シートの検出のタイミングの直後に、出力する音声や映像を切り替えて、演出時における移動シートの移動に、音や映像の演出を合わせるように制御する
演出システム。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の前記静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータによって搬送された前記移動シートへ処理を行う処理装置と、を備えるシート搬送システムであって、
前記制御部は、前記静電アクチュエータの前記検出用電極による前記移動シートの検出のタイミングに基づいて、前記処理装置によって前記移動シートへ処理を行うように制御する
シート搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動シートを移動させる静電アクチュエータ、静電アクチュエータの駆動方法、該静電アクチュエータを有する演出システム、および該静電アクチュエータを有するシート搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状の固定部材内に形成された多相の平行電極群に電圧パターンを与えることで、固定部材の面上で移動体を静電気力により移動させる静電アクチュエータの技術がある。近年、このような静電アクチュエータが、「動くポスター」として広告用途などに用いられている。具体的には、固定部材と移動体の表面に絵柄を印刷することで、シート状のアクチュエータそのものをポスターとして掲示する。そして、固定部材の電極に駆動用の電圧パターンを印加することで固体部材の面上で移動シートを移動させることで、ポスターの一部が動き、人目を惹くことができる(例えば、特許文献1)。
【0003】
こうした用途では、移動シートの動きを正確に把握し制御することが求められるが、湿度や温度などの環境条件の変動によって、移動シートの抵抗値が変化し、これにより電圧パターン切替後の移動シートの移動速度が変動してしまうことがあった。また、移動シートは、環境条件によっては固定部材に吸着されてしまい動作しない場合もある。
【0004】
一方、特許文献2には、
図1に示すように静電アクチュエータ90の、固定部材91側の電極群において、移動体95を移動させるための駆動電極92に加えて、移動体95の位置を検出する検出電極94と、駆動電極92と検出電極94との間に位置するシールド電極93を設け、移動体95の電荷分布によって、検出電極94に誘導される電気信号を検出することで、移動体95の位置を把握することが提案されている。本構成では、移動体95は想定される抵抗率が高いため、駆動に必要な電荷を移動体95に与えるために、イオン発生装置96によって電荷を充電する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4877149号公報
【特許文献2】特開平6-22562公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この技術では、固定部材91の移動体移動面(
図1の上面)と対向するように設けられるイオン発生装置96が、視覚効果の妨げになるため、特許文献2の静電アクチュエータ90は、広告等の演出装置には適用できなかった。
【0007】
また、特許文献2では、検出電極94と駆動電極92との間に、シールド電極93が設けられているため、その分、駆動に寄与しない電極が増えて、固定部材91側に多くの回路やスペースが必要となり、構成が複雑であった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、検出のためのスペースや回路を最小限にして、移動シートを検出することができる、静電アクチュエータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
移動シートを、静電気力によって固定部に対して移動させる静電アクチュエータであって、
前記固定部は、
所定ピッチで複数の電極が配置され、前記移動シートと接触する電極基板と、
前記複数の電極に電圧を印加することで前記移動シートを移動させる電圧印加部と、
前記移動シートの移動を検出する検出部と、を備え、
前記複数の電極は、
前記電圧印加部から前記電圧が印加される給電線と接続され、前記移動シートを移動させる複数の駆動用電極と、
前記複数の駆動用電極の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置され、前記給電線から切り離されて接地端子と接続される検出用電極と、を有し、
前記検出部は、前記移動シートが前記検出用電極の上に位置したことを検出する
静電アクチュエータ、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
一態様によれば、静電アクチュエータにおいて、検出のためのスペースや回路を最小限にして、移動シートの位置を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の一実施形態に係る静電アクチュエータの上面斜視図。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る静電アクチュエータの断面図。
【
図4】本発明の駆動用電極に印加される4相電圧の電圧パターンの一例を示す図。
【
図5】本発明の静電アクチュエータにおける、検出用電極がない部分の駆動用電極上の電圧と、移動シートの電荷と、移動を説明する図。
【
図6】本発明の静電アクチュエータにおける、検出用電極を含む部分の駆動用電極上の電荷と、移動シートの電荷と移動を示す説明図。
【
図7】
図6の移動で検出用電極に生じる電圧波形を示すグラフ。
【
図8】駆動用電極の電圧パターンと、移動シートの電荷と、検出される電圧波形の一例を示すグラフ(その1)。
【
図9】駆動用電極の電圧パターンと、移動シートの電荷と、検出される電圧波形波形の一例を示すグラフ(その2)。
【
図10】駆動用電極の電圧パターンと、移動シートの電荷と、検出される電圧波形の一例を示すグラフ(その3)。
【
図11】本発明の静電アクチュエータにおける移動調整の全体フローチャート。
【
図12】本発明の静電アクチュエータ上の演出の一例を示す図。
【
図13】本発明の静電アクチュエータ上の演出の他の例を示す図。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る静電アクチュエータの断面説明図。
【
図15】本発明の第2実施形態で検出される電圧波形を示すグラフ。
【
図16】本発明の第3実施形態に係る静電アクチュエータの断面説明図。
【
図17】本発明の第4実施形態に係る静電アクチュエータの断面説明図。
【
図18】本発明の第5実施形態に係る静電アクチュエータの断面説明図。
【
図19】駆動用電極に印加される4相電圧の電圧パターンの他の例の検出用電極周辺の電位推移の説明図。
【
図20】
図19の例で印加される4相電圧の電圧パターンを示す図。
【
図21】本発明の静電アクチュエータを含む演出装置の一例を示す外観図。
【
図22】本発明の静電アクチュエータを含む映像つき演出システムの一例を示す概念図。
【
図23】本発明の静電アクチュエータを搭載したシート搬送システムの一例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0013】
<静電アクチュエータ(第1実施形態)>
まず、
図2、
図3を用いて、本発明の静電アクチュエータの全体構成について説明する。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態に係る静電アクチュエータの上面斜視図である。
図3は、本発明の第1実施形態に係る静電アクチュエータ100の断面図である。
【0015】
本発明の静電アクチュエータ100は、移動シート6を、静電気力によって固定部1に対して移動させる。移動シート6は、一方の表面に導電性を有する絶縁性シートである。
【0016】
図2、
図3を参照して、固定部1は、電極基板10と、電圧印加部30と、検出部40と、制御部50と、を有している。なお、固定部1内に、温度や湿度を検出する環境センサ等(不図示)が設けられていてもよい。さらに、固定部1に対して、外部の制御装置が接続されていてもよい。
【0017】
電極基板10は、移動シート6と接触する表面であって、所定ピッチで複数の電極Eが配置されている。
【0018】
図2、
図3に示す、電極基板10の上面を含む固定部1の上面は、演出面1Uとなる。特に、電極基板10の上面および/又は固定部1の枠状に露出する面は、視覚効果を想起する絵柄が形成されていると好適である。
【0019】
電極基板10は、内部に複数の電極Eが平行に等間隔に配置されたシート状部材である。なお、
図2、
図3では、直線状の電極を示しているが、個々の電極形状は波形等の形状であっても良い。
【0020】
電極基板10は、例えば、フレキシブルプリント回路基板や硬質プリント回路基板などの、板状またはシート状の部材である。なお、電極基板10は、板状又はシート状であることは必須ではなく、表面近傍に電極が形成されていれば、部材そのものはどのような形状であってもよい。
【0021】
電極基板10において、複数の電極Eにおける、電極ピッチ(所定ピッチ)pに相当する配置間隔は、例えば、100μmから1mm程度の範囲内で設定されると好適である。各電極の電極表面は絶縁被膜で覆われている。
【0022】
これらの電極は、n相(nは3以上の自然数)の給電線が、同一相がn本おきに電気的に接続されている。n相は、3相、4相、6相が一般的である。
図4の例では、4相の繰り返し構造を形成するように、4本おきに電気的に接続されている。
【0023】
ここで、電極基板10において、同一の電圧印加部30から電圧が供給される複数の駆動用電極11を、電極群EGとする。
図3の例では、電極基板10内に1つの電極群EGが配置された例を示している。
【0024】
そして、複数の電極Eは、複数の駆動用電極11と、検出用電極12とを有している。複数の駆動用電極11は、電圧印加部30から電圧が供給される給電線20A、20B、20C、20Dと接続され、給電線20A~20Dから印加された電圧によって移動シート6を移動させる。
【0025】
検出用電極12は、複数の電極の並びの中の1本の電極である。
図3に示すように、多数ある駆動用電極の中の1本を残りの電極群EGから電気的に切り離し、検出用電極として用いている。即ち、検出用電極12は、複数の駆動用電極11の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置され、給電線20A~20Dから切り離されて、接地端子(GND)42と接続している。
【0026】
図3に示す構成では、電極群EGは、n×k(kは1以上の自然数)個の電極を有し、n×k個の電極のうちの1つを検出用電極としている。その際、電極群EGにおいて、検出用電極12は、両隣が、駆動用電極11と隣接するように配置されている。
【0027】
なお、電極群EGを構成する電極の数は、必ずしもnの倍数でなくてもよい。例えば4相電極で電極群EGの電極本数が10本でも問題なく、その場合は、左右どちらかの端の部分で繰り返し構造が途中で切れる構造となる。
【0028】
上記、
図3の電極基板では、元々、n本周期(4相電極であれば4本周期、あるいは3相電極であれば3本周期)で並んでいた駆動用電極の1つ又は複数を検出用としているため、検出用電極を駆動用電極に置き換えれば、複数の電極全体としては元々のn本周期の構造が成り立っている。しかし、電極群と、検出用電極の両方を含む、電極基板10上の複数の電極は、必ずしもnの倍数でなくてもよい。
【0029】
また、
図3では、電極基板10において、1つの電極群EGが設けられる例を示しているが、静電アクチュエータ100の電極基板10において、複数の電極は、複数の電圧印加部から電圧が供給される複数の電極群を有していてもよい。
【0030】
なお、本願の図面において、静電アクチュエータの斜視図及び断面図は、模式化して示しているため、移動シートに対して電極が、大きく示されている。しかし、実物の大きさは、例えば、複数の電極として、1つの電極群EGあたり、1mmピッチ程度、数10本から数100本配置されるのに対して、移動シート6は1辺が100mm~数100mmであるため、移動シート6の、複数の電極それぞれに対するサイズは、はるかに大きい。
【0031】
ここで、
図2、
図3では、移動シート6は、長方形である例を示しているが、移動シート6の上面視(演出面側)の形状は、正方形、菱形、円形、楕円形、長方形、矩形、多角形、角丸多角形、略半円形状など異なる形状であってもよい。
【0032】
また、
図2、
図3では電極基板10において、複数の電極Eが平行に配列される配置を例示しているが、電極は一定の角度をもって放射状に配置されていても良い。平行な配置では直線動作が実現され、放射状配置では回転動作が実現できる。以下では、平行配置について説明するが、説明は放射状配置にも当てはまる。
【0033】
電圧印加部30は、電極電源であって、複数の給電線20A、20B、20C、20Dに電圧を供給して複数の電極Eのうちの駆動用電極11に電圧を印加することで移動シート6を移動させる。
【0034】
また、本実施形態では、検出部40は、検出用電極12と接地端子42との間に位置する1つの抵抗43と、電圧計41とを有している。電圧計41は、抵抗43の両端間の電圧変化を検出する。本実施形態において、検出部40における抵抗43として、高抵抗、もしくは高インピーダンスの抵抗が適用される。
【0035】
検出部40において、電極基板10に配置された複数の電極の一部である検出用電極12が抵抗43を介して接地端子42(GND電位)に接続され、その抵抗43に発生する電圧変化を検出することで、検出用電極12上における移動シート6の動作の有無を検出する。これにより、移動シート6が検出用電極12に覆いかぶさる位置まで移動してくると、それ以降、移動シート6が検出用電極12を通り越すまでの間、検出用電極12に電圧変化が生じ、条件次第で、移動シート6の動作を検出できる。
【0036】
移動シート6は、表面に微弱な導電性を有する導電層61と、絶縁層62とを有する、絶縁性シートである。なお、
図3では、移動シート6における導電層61は、抵抗層ともいい、電極基板10と接触する下側に設けられる例を示したが、導電層61は、電極基板10と接触しない側(
図3の上側)に位置してもよい。
【0037】
移動シート6を移動させる前に、移動シート6を、電極基板10の上に所定時間以上、静置し、電極基板10の電極Eの相の数(本例では4相)に等しい多相電圧を印加することで、移動シート6の導電層61に、電極基板10の電極構造と等しい周期をもつ電荷パターンが誘導される。なお、移動シート6へ電荷パターンを誘導するために静置する所定時間は、移動シート6の導電層61の抵抗率等により異なり、短いものでは1秒未満、長いものでは数十秒以上となる。充電に要する時間が、移動用の電圧スイッチング間隔と同等程度である場合には、静置時間を設けることなく駆動することができる.
【0038】
制御部50は、検出部40の検出結果に基づいて、移動シート6が検出用電極12上に無い状態から有る状態になったタイミング、あるいは有る状態から無い状態になったタイミング後に、移動シート6の動作を変化させるように、電圧印加部30から供給される印加電圧を制御する。
【0039】
ここで、
図1に示した従来例では、移動体95は、想定される抵抗率が高いため、駆動に必要な電荷を移動体に与えるために、イオン発生装置96によって電荷を充電する必要があったが、本発明の静電アクチュエータでは、イオン発生装置を用いずに駆動用電極によって移動体上に電荷を誘導できるよう、移動シート6の抵抗率がやや低めに調整されている。
【0040】
一方、移動シートの抵抗率を低めに調整してあることで、
図1のように、シールド電極を設けると、シールド電極上で電荷が散逸してしまい、シールド電極を超えて検出用電極にたどり着くまで十分な電荷を保持できず、安定な検出が行えない。
【0041】
そこで、本発明では、
図3に示すように、シールド電極を設けずに、検出用電極12を、複数の駆動用電極の少なくとも1つの駆動用電極と隣接して配置することで、隣接する駆動用電極11によって誘導された電荷を保持したまま、移動シート6が検出用電極12に到達するため、安定した移動シートの位置検出が実施できる。
【0042】
(移動シートの移動)
次に、
図4、
図5を用いて、移動シート6の移動のしくみについて説明する。
図4は、駆動用電極11に印加される4相電圧の電圧パターンの一例を示す図である。
図5は、本発明の静電アクチュエータにおける、検出用電極がない部分の駆動用電極11上の電圧と、移動シート6の電荷と、移動を説明する図である。
【0043】
電極基板10の駆動用電極11に印加される多相電圧は、例えば
図4に示すように、時間とともに電圧が所定間隔毎にスイッチングされ(切り替えられ)、周期的に変化する。電圧振幅は数百Vから1kV程度である。移動シート6の移動中、電圧パターンにおける
図4の破線で示す電圧スイッチングは、1秒に数回程度の頻度で行われる。
【0044】
詳しくは、
図4の各破線のタイミングにおいて印加電圧が切り替わる(印加電圧がスイッチングされる)際、電極基板10の駆動用電極11の電極電位は、ほぼ瞬時に切り替わり、電極基板10上の電圧パターンは空間的にみると電極1ピッチ分だけ横へと移動する(
図5(a)⇒(b))。
【0045】
しかし、移動シート6の導電層61に誘導された電荷パターンは、導電層61が持つ電気抵抗のため瞬時には変化しない。よって、電圧スイッチング直後には、移動シート6はまだ移動せず、電極基板10の電圧パターンと移動シート6の電荷パターンとの間に、電圧スイッチング前と比較して、相対的な位置ずれが発生する。その結果、移動シート6の電荷パターンと、電極基板10の駆動用電極11上の電荷との間に働く静電気力により、移動シート6が電圧パターンの移動方向へと電極1ピッチ分、駆動される(
図5(b)⇒(c))。
【0046】
このときの移動シート6の移動距離は、移動シート6の導電層61の抵抗率等によって異なる。抵抗率が低い場合には、電荷パターンが導電層61内で移動、変化しやすい。そのため、電極基板10における駆動用電極11に印加される電圧をスイッチングした際に、移動シート6表面の電荷パターンが移動シート6上を移動する。電荷パターンが移動シート6上を動いてしまう結果として、移動シート6自体の移動距離は、電極基板10の電圧パターンの移動距離である1ピッチに満たないものとなる。
【0047】
一方、移動シート6の導電層61の抵抗率が高い場合には、電荷パターンの移動シート6上での移動や変化が抑制されるため、移動シート6は、ほぼ電極1ピッチ分移動する。
【0048】
そして、移動シート6の移動後、次の印加電圧スイッチングまでの間、電極基板10の駆動用電極11には一定の電圧が印加され続けるため、前ステップにおける移動シート6の移動量にかかわらず、移動シート6上の電荷パターンは電極基板10の電圧パターンに対応した形へと再び整えられる。そして、次の印加電圧スイッチングで同様の駆動が行われる。こうした印加電圧スイッチングを繰り返すことで、移動シート6が長ストロークにわたって移動することが可能になる。
【0049】
ここで、移動シート6の導電層61の抵抗率は、例えば、湿度や温度などの環境条件の変動に起因して変動する。例えば、抵抗率が下がった場合、上記原因により移動シート6のスイッチング1回あたりの移動距離が減少する。また、摩擦等の外乱が生じた場合にも、スイッチング1回あたりの移動距離が変動しうる。
【0050】
そこで、移動距離を安定に保つためには抵抗率が高いことが望ましいが、抵抗率が高すぎる場合、電極基板10によって、移動シート6に電荷パターンを誘導することが困難となる。そこで、移動シート6は若干の移動の変動を見込んで、電極ピッチ間隔等のアクチュエータ構造に依存した、抵抗率が高すぎない適切な値に設定されると好適である。抵抗率の一例として、例えば、電極ピッチpが、100μmから1mm程度の場合、表面抵抗率にして、109Ω~1013Ω程度、より好ましくは、1011Ω程度であると好適である。
【0051】
移動シートの表面抵抗値は、電極ピッチに応じて最適範囲が変化する。本発明の移動シートの表面抵抗率は、所定ピッチのピッチ幅に応じて、前記電荷パターンの誘導時間が数ms~数秒となるような表面抵抗率に設定されると好適である。このような表面抵抗率に設定することで、移動シートは、スイッチング後、数ms~数秒のスイッチング間隔の時間内で電荷パターンが誘導されることができる。
【0052】
(検出のしくみ)
次に、
図6、
図7を用いて本発明における検出のしくみを説明する。
図6は、本発明の静電アクチュエータにおける、検出用電極を含む部分の駆動用電極上の電荷と、移動シートの電荷と、移動の説明図である。
図7は、
図6の移動で検出用電極に生じる電圧変化を示すグラフである。
【0053】
本発明の移動シート6の導電層において想定された抵抗率では、電極基板10の駆動用電極11への印加電圧がスイッチングされた際、移動シート6上の電荷パターンは直ちには変化しない、即ち1ピッチ分の駆動期間では変化しない。
【0054】
よって、印加電圧のスイッチングにより移動シート6が駆動すると、その上の電荷パターンは、ほぼ固定されたまま移動シート6と一緒に移動する。(
図6(a)⇒
図6(c))。なお、
図6(b)は、印加電圧スイッチング後、移動シート6移動前の
図6(a)から
図6(c)の状態となる短い遷移期間の電圧と電荷の状態を示している。
【0055】
図6(a)と
図6(c)を参照して、電圧印加スイッチングの後に、移動シート6が移動することにより、検出用電極12直上の電荷が変化する。
図6の例では、-Qから+Qへと変化する。
【0056】
詳しくは、
図6(c)に示すように、移動シート6における検出用電極12の真上にある位置には、一つ前の駆動ステップにおいて充電された電荷がまだ残っている。そのため、1つの前のステップと比較して電荷が変化した場合、静電誘導により、検出用電極12へと誘導電流が流れる。この電流により抵抗の両端間に電圧変化が生じる。
【0057】
ここで、
図7において、(a)は、検出用電極12上で移動シート6を検出しない場合の電圧変化を示し、(b)は検出用電極12上で移動シート6を検出する場合の電圧変化を示す。
【0058】
図7(a)、
図7(b)を参照して、検出用電極12には、移動シート6の移動に伴う誘導電流のほかに、検出用電極12の隣接電極をはじめとする電極基板10内の他の電極の印加電圧変化に伴う誘導電流も発生する。すなわち、検出部40の電圧計41で実際に検出される電圧変化は、他電極の電圧変化に起因する変化(第1の変化)と、移動シート6の電荷移動に起因する変化(第2の変化)となる。
【0059】
図7(a)、
図7(b)を参照して、第1の変化は、移動シート6の有無にかかわらず発生するのに対し、
図7(b)に示す第2の変化は移動シート6が検出用電極12の上で移動したときにのみ発生する。
【0060】
本発明の制御では、
図7(b)に示すような、「第2の変化」の発生の有無によって、移動シート6の位置を検出し、他電極の電圧変化に起因する「第1の変化」は、積極的には検出しない。詳しくは、移動シート6が無いときの波形を観察波形として比較することを通じて第2の変化の発生を検知し、移動シート6が検出用電極12上に存在していることを検出する。
【0061】
ここで、移動シート6上の位置有無の判断対象となる電圧の第2の変化は、移動シートの瞬時速度が速いときに顕著に表れる。よって、移動シート6がおおよそ1ピッチ移動する間において瞬時速度が最大となる近辺において、第2の変化が顕著に表れる。これは、電圧のスイッチングから数msから数十ms遅れて発生するため、第2の変化と、スイッチングと同時に発生する第1の変化との間には、時間差がある。
【0062】
また、第1の変化後の第2の変化の発生タイミングは、移動シートの(瞬時)速度におおよそ比例する。電圧がスイッチングされると、移動シート6は移動を開始するが、最初は速度が遅く、徐々に加速し、その後減速する、理想的にはS字のような変位曲線にタイミングが変化する。移動シート6の速度が最大になるあたりで、「第2の変化」がより顕著に観察される。
【0063】
このように、第2の変化を検出することで、本発明では、「移動シート6が検出用電極12上で動いている」こと、が検出できる。詳しくは、「検出用電極12上に移動シート6が存在していない」状態から、「移動シート6が検出用電極12上で動いている」状態に検出信号が変化することで、移動シート6が検出用電極12の直上まで到達したことがわかる。その後、再び検出状態が変化すれば、移動シート6が検出用電極12上を完全に通りすぎたことがわかる。
【0064】
このように検出することで、本発明では、
図1に示すようなイオン発生装置やシールド電極を設けずに、検出用電極上での移動シート6の存在と移動を検出できる。これにより、本発明の静電アクチュエータでは、電極構成が簡素となり、駆動に用いる電極数をより多く確保できるとともに、視覚効果を阻害するなく、かつ検出のためのスペースを最小限にして、移動シートの動作を検出することができる。
【0065】
ただし、移動シート6が検出用電極12上に存在しない場合や、移動シート6が存在していても、外力・外乱によって移動しない場合には、誘導電流は流れず電圧変化(第2の変化)は生じない。
【0066】
さらに、検出用電極12上の電荷が移動の前後で変わらない場合も誘導電流は、あまり流れない。すなわち、検出動作は常に実行できるわけではなく、繰り返しの駆動パターンの中で検出ができる回は限られている。そこで、検出動作が実行できる状況について、
図8~
図10を用いて、場合わけして説明する。
【0067】
図8~
図10は、駆動用電極の電圧パターンと、移動シート6の電荷と、検出波形の一例を示すグラフである。
【0068】
ここで、検出された電圧波形における第1の変化は、検出用電極12に隣接する駆動用電極11の電圧変化と、2つ隣の駆動用電極11の電圧変化について、検出用電極12との静電容量結合の程度に応じて勾配を付けて合計した、印加電圧スイッチング前後の合計電圧の変化に起因して発生する。そして、第1の変化は、その後、電極の静電容量や検出用回路の抵抗などで定まる時定数に従い減衰する。
【0069】
また、第2の変化は、移動シート6における検出用電極12上の電荷がスイッチング前後で変わる場合、詳しくは、移動シート6の電荷パターンにおいて検出用電極直上における電荷と、移動シート移動方向後方の電荷とが異なっている場合に、発生する。
【0070】
上述のように、第1の変化は移動シート6の有無にかかわらず発生するのに対し、第2の変化は移動シート6が移動した場合にのみ発生する。よって、移動シートが無い場合の第1の変化のみが起こる場合の電圧波形と、観測した波形を比較し、その差異から第2の変化の発生を判定することで、移動シート6の存在ならびに移動が検出可能となる。
【0071】
例えば、
図8の場合では、検出用電極12の両隣2個ずつまでの合計4個の電極への印加電圧に着目すると、その合計電圧は、スイッチングの前後で増大する。そのため、周辺電極からの誘導により生ずる第1の変化は電圧が正の方向へと発生し、その後、緩やかに減衰する。一方、検出用電極12上の電荷は、移動の前後で負から正へと極性が変化する。よって、第2の変化が電圧の正方向へと発生する。
【0072】
図9に示されるのは、
図8に続くスイッチングの様子である。
図9の場合では、検出用電極12の両隣り2個ずつ合計4個の電極の電圧を見ると、その分布はスイッチングの前後で対称であり、合計値も変化しない。よって、第1の電圧変化は生じにくい。ただし、静電容量の不平衡や周辺部分等からの誘導により、
図8の場合よりは小さな第1の変化が発生する。一方、検出用電極12上の電荷はスイッチング前後で極性が変化しない。スイッチング前に検出用電極12上にあった電荷は、スイッチング後の電荷と比較すれば、やや減衰・拡散して電荷量が小さくなると考えられるが、スイッチング前後での変化は小さいため、第2の変化も小さなものとなる。
【0073】
図10は、
図9に続くスイッチングの様子を示す。
図10の場合は、検出用電極12近傍の電極への印加電圧合計が、スイッチングの前後で減少しているため、第1の変化は負の電圧方向へと発生する。また、検出用電極12上の電荷は、スイッチング前後で極性が正から負へと変化するため、第2の変化も負方向へと発生する。
【0074】
なお、ほぼ同等であるため図示はしないが、
図10に続くスイッチングにおいては、
図9と極性が反転した検出電圧が発生する。その後、電極への印加電圧と移動シートの電荷パターンは、
図8の状態へと戻り、以降は、移動シート6の位置が進んだ状態で、同様の変化が繰り返される。
【0075】
ここで、上記の
図9のように、移動シート6における検出用電極12上の電荷が移動の前後で変わらない場合も誘導電流がほとんど流れず、電圧変化を検出できないため、
図9に示すスイッチングタイミングは、検出には使用できない。一方、
図8、
図10の場合は第2の変化の波形が出現しているため、検出に使用できる。
【0076】
具体的には、実際の移動シート6には、電極数十本分の電荷を有しているため、移動シート6が検出用電極12の上を通り過ぎるのには数十回(例えば20回とする)のスイッチングが必要となる。この20回のスイッチングは、
図8~
図10の3パターンと図示してない1パターンの4つのパターンの繰り返しで構成される。よって、20回のうち、
図8に相当するのが5回、
図9相当が5回、
図10相当が5回、図示無しに相当が5回ある。
図8と
図10の場合に検知ができるとすれば、あわせて10回分検知ができることになる。
【0077】
したがって、第2の変化が出現するタイミングが、移動シートの移動を検出可能な電圧印加スイッチングタイミングとなり、電圧パターン内で第2の変化が出現するポイントを事前に把握しておくと好適である。
【0078】
このように、検出部40による、誘導電流に伴う電圧変化を、複数のスイッチングタイミングにわたって、連続的に観測することで、移動シートが検出用電極12上に存在し、かつ、移動していることを検出することができる。
【0079】
なお、検出部40で検出される電圧変化の方向は、
図8、
図10に示したように、電圧スイッチングの箇所等の状況及びシート上の電荷パターン状況によって異なる。そのため、印加電圧波形1周期の中の特定のスイッチングタイミング、例えば、
図4において、波形1周期の中に4回のスイッチングがあるが、その中の一つにおいて実施するよう構成すれば、毎回、同じ極性の電圧変化(第1の変化)を得ることができる。
【0080】
次に、
図11、
図12、
図13を用いて本発明の静電アクチュエータにおける移動のタイミング調整を説明する。
図11は、本発明の静電アクチュエータにおける移動・調整のフローチャートである。
【0081】
図11のステップS1で、移動動作の変化が発生する点に検出用電極を事前に配置しておく、又は検出用電極がある位置に移動動作の変化点を設定する。なお、S1はフロー内ではなく、事前に設定されていてもよい。ここで、「検出用電極が移動動作の変化の発生点に配置される」とは、検出用電極が厳密に変化点のぴったり合致する位置に配置されることに限られず、移動シートの端部形状に起因して、検出信号(第2の変化)の出力が遅延することを見込んで、少しずらした位置に配置する意味も含む。
【0082】
ステップS2で、電圧のスイッチングの繰り返しを開始して、移動シート6の移動を開始する。
【0083】
ステップS3で、移動シート6が動作変化を検出するための検出用電極12上に到達したこと/又は検出用電極上からいなくなったことを検出するまで(No)、移動シート6の移動動作を継続する。
【0084】
ステップS3で、移動シート6が動作変化を検出するための検出用電極12上に到達したこと/又は検出用電極上からいなくなったことを検出したら(Yes)、ステップS4で、変化した移動動作を開始する。
【0085】
そして、ステップS5で、次の移動動作において、動作の変化点がある場合は、ステップS3に戻って、動作変化検出用の検出用電極12上の移動シート6の有無を検出する。
【0086】
ステップS5で、以降の移動動作で動作の変化点がない場合は、ステップS6で、移動シートが終点用の検出用電極上に到達したこと/又は検出用電極12上からいなくなったことを検出するまで(No)、移動シート6の移動動作を続ける。
【0087】
ステップS6で、移動シート6が終点用の検出用電極上に到達したこと/又は検出用電極12上からいなくなったことを検出したら(Yes)、ステップS7で、移動シート6の移動を停止して、動作を終了する。
【0088】
本発明では、このように移動シート6を検出することで、移動シート6が検出用電極12上に無い状態から有る状態になったタイミング、あるいは有る状態から無い状態になったタイミング後に、移動シートの動作を変化させることができる。これにより、移動シート6が検出用電極12を含む所定の位置に到達する移動を待ってから、移動シートに所定の軌跡をたどらせて、肝となる位置がずれることなく、演出を実行することができる。
【0089】
なお、
図11のフローでは、動作の変化点を検出して、変化する動作を位置合わせして実行するために、検出部40が検出用電極12上の移動シート6を検出しているが、本発明の検出部40は、他の用途のために検出を実行してもよい。例えば、検出部40は、移動シート6が動いていないこと判定する故障診断や、移動シート6が検出用電極間の所定距離を移動するのにどれだけの時間がかかっているかを計測することでのアクチュエータの状態把握、等の用途に使用してもよい。
【0090】
(演出例1)
図12は、本発明の静電アクチュエータ上の演出の一例を示す図である。
図12の例は、バスケットボールの広告のようなイメージで、選手がボールをドリブルしているような演出の例を示す。ここでは、ボールは単純に地面と手の間を上下に行き来し、手の動きは考慮せず、手は固定されているものとする。そして、移動シート6はボールの形に切り抜かれているとする。あるいは移動シート6は透明かつ正方形状であり、円形のボールの絵が描かれていてもよい。
【0091】
ポスターには、例えば1mm間隔で駆動用電極11が形成されている。そして、手と地面の間は30mm(電極30本分)あり、移動シート6であるボールを、上下に一定速度で往復させる。
【0092】
そして、前提として、折り返しを行いたい場所に、検出用電極12U、12Lを設置する。ボールの往復動作であれば、
図12の太線で示すように、「手」と「地面」との衝突位置である折り返し位置に、検出用電極12U、12Lを設ける。
【0093】
詳しくは、検出用電極で検出される検出信号の大きさは、検出用電極にかぶさる移動シートの大きさ(電極に対するシートの長さ)に依存する。この例のように移動シートが円形の場合、ボールが検出用電極にちょうど触れる位置では、端部が丸く、かぶさる量が少なすぎて、ほとんど検出信号が出てこず、移動シートが検出用電極に一定長さ以上覆いかぶさるまで駆動しないと、信号が確認できない。そのため、移動シートを円形にする場合は、検出用電極は、折り返し位置に対して、多少の余裕を見てずらして、配置されると好適である。本明細書において、折り返し位置等の「動作変化位置に検出用電極を設ける」とは、上記の余裕をみてずらして配置されることも含む。
そのうえで、次のように駆動を実行する。
【0094】
(1.)ボール(移動シート6)の初期位置は、手と地面の間ならどこでも良いので、適当に配置する。
(2.)下側にある検出用電極12Lの電圧を観測しながら、下方向に向かう電圧パターンで、移動シート6が検知されるまで電圧スイッチングを繰り返しながら、ボール(移動シート6)を下へ移動させる。
(3.)下側の検出用電極12Lで移動シート6が検知されたら(S3)、今度は上側の検出用電極12Uの電圧を観測しながら、上に向かう電圧パターンを繰り返し発生させて、移動シート6を上へ移動させる(S4)。移動シート6が検知されるまで電圧スイッチングを繰り返す。
(4.)(2.)、(3.)を繰り返すことで、手を規定する上側の検出用電極12Uと、地面を規定する下側の検出用電極Lとの間をボールが行き来して、ドリブルしているように演出される。
【0095】
この例では、ボールの衝突位置に検出用電極12U、12Lを配置し、検出用電極で検知がされる(検知がOFFからONに切り替わる)とその直後に、移動シート6の駆動方向を反転する。これにより、ボールは、床又は手に衝突したら跳ねかえる、という動作を確実に実現することが可能になる。
【0096】
(演出例2)
図13は、本発明の静電アクチュエータ上の演出の他の例を示す図である。本例も、
図12と同様に、選手がボールをドリブルしているような演出の例を示す。本演出では、
図12の演出と比較して、検出用電極12U1、12L1が、折り返し時点からボール分の距離、離れた位置に設けられており、検出用電極12U1、12L1が、ボールが有る状態から無い状態を検出する点が異なる。
【0097】
本実施形態では、ボールを構成する移動シート6が検出用電極12U1、12L1上から存在しなくなったら、地面に到達した、又は手と接触した、と判定する。
そのうえで、次のような駆動を実施する。
【0098】
(1.)ボール(移動シート6)の初期位置は、手と地面の間ならどこでも良いので、適当に配置する。
(2.)下側にある検出用電極12L1の電圧を観測しながら、下方向に向かう電圧パターンで、移動シート6が検知されるまで電圧スイッチングを繰り返しながら、ボール(移動シート6)を下へ移動させる。
(3.)下側にある検出用電極12L1が移動シート6を検知した後も、引き続き、下方向に向かう電圧パターンでスイッチングを繰り返してボールを移動させる。
(4.)検出用電極12L1で移動シート6が検知されなくなったら、ボールが地面に到達したと判断して、今度は上側の検出用電極12U1の電圧を観測しながら、上に向かう電圧パターンを繰り返し発生させて、移動シート6を上へ移動させる。
(5.)上側にある検出用電極12U1が移動シート6を検知した後も、引き続き、上方向に向かう電圧パターンでスイッチングを繰り返してボールを移動させる。
(6.)検出用電極12U1で移動シート6が検知されなくなったら、ボールが手に到達したと判断して、今度は下側の検出用電極12L1の電圧を観測しながら、下に向かう電圧パターンを繰り返し発生させて、移動シート6を上へ移動させる。そして、移動シート6が検知されるまで電圧スイッチングを繰り返す。
【0099】
本演出例では、ボールが検出用電極12U1、12L1から無くなったら、即ち、移動シート6が、閾値となる検出用電極12U1、12L1の外側に出たら、折り返しを実施する。
【0100】
ここで、
図12と、
図13の例では、検出用電極12U、12Lと、12U1、12L1が異なる位置にある例を示しているが、同じ電極においても、検出用電極上に無い状態から有る状態と、有る状態から無い状態の2つの状態変化を検出可能である。
【0101】
例えば、
図12に示すように、無い状態から有る状態と、
図13のように有る状態から無い状態の検出を組み合わせることで、手に対して2つの位置、床に対して2つの位置の検出タイミングを規定出来、上下の2つの電極で、3つのバウンド幅(折り返し幅)を実現することができる。
【0102】
ここで、移動シート6が、ボールなど、傾けても縦横長さが変化しないものについては、移動中にシートが回転した場合、検出用電極上に無い状態から有る状態を検出しても、有る状態から無い状態を検出しても、検出タイミングはほとんど変化しない。しかし、移動シートが、縦横長さが異なる場合は、動いていく途中で、シートが回転してしまうと斜めの状態になり、斜めの状態では、回転前よりも検出用電極上に位置する時間が長くなるため、検出タイミングが変化するおそれがある。その場合に、検出用電極を使って制御すると、シートの回転により検出タイミングに誤差が生じる可能性がある。
【0103】
そのため、移動シート6が、閾値の外側の領域に達したこと、をより積極的に検出したい場合は、検出用電極において、無い状態から、有る状態を変化したタイミングを、検出すると好適である。
【0104】
一方、移動シート6が、閾値の内側領域から出たこと、をより積極的に検出したい場合は、検出用電極において、有る状態がしばらく続いた後、無い状態に変化したタイミングを検出すると好適である。
【0105】
あるいは、所定の領域に対して、検出用電極が複数本ある構成(例えば、後述する第3実施形態)を用いる場合、移動シートが、所定の領域内に存在する期間、をより積極的に検出できる。
【0106】
上記の
図12、
図13に示したように、「適切な位置に検出用電極を設置」し、「検出用電極での検知の有無が切り替わるタイミング」の直後に、「移動動作を変更」することによって、演出面上において、移動シートによる所望の動作を、位置ずれなく、演出することができる。
【0107】
<第2実施形態>
図14は、本発明の第2実施形態に係る静電アクチュエータ100αの断面説明図である。
図15は、本発明の第2実施形態で検出される電圧波形を示すグラフである。
【0108】
上述の
図7で示したように、電極基板10上の他電極のスイッチング前後の電圧変化に起因する第1の変化は、移動シートの移動に起因する第2の変化よりも大きい。そこで、電圧変化が小さいが、実際の移動シートの検出である第2の変化を確実かつ容易に検出するためには、第1の変化の影響を低減することが重要である。
【0109】
そこで、本実施形態では、検出部40αは、抵抗値が異なる複数の抵抗43、44を有している。そして、他電極に起因する第1の変化の検出時は、抵抗値が小さい抵抗44を、検出用電極12及び電圧計41に接続させる。そして、移動シート6の移動に起因する第2の変化の検出前に、接続を切り替えて、抵抗値が大きい抵抗43を、検出用電極12及び電圧計41に接続させる。
【0110】
詳しくは、上記の2つの電圧変化のうち、他電極に起因する第1の変化は、
図7、
図8、
図10で示したように、印加電圧のスイッチングと同時に発生し、検出用電極12と他電極との間の静電容量Cと、検出用電極12と接地端子42とをつなぐ抵抗43の抵抗値により定まる時定数に従い減衰する。
【0111】
一方、検出用電極12における移動シートに起因する第2の変化は「移動シート6が検出用電極12へと近づくよう移動した際に発生し、移動シートの瞬時速度がピークを迎える近辺で顕著となる。移動シート6の加速には、一定の時間を要するため、この変化はスイッチングからやや遅れて(例えば、10ms程度遅れて)発生する。
【0112】
ここで、移動時間に相当する第2の変化の第1の変化からの遅れの程度は、移動シートの質量や、移動シートに加わる重力や摩擦力などの外力によって異なり、質量が重いほど、また、運動に抵抗する外力が大きいほど、その遅れは大きい。
【0113】
十分に遅れが大きい、即ち、移動シート6の移動速度が遅い場合には、移動シートに起因する電圧変化が生じる前に、他電極に起因する電圧変化である第1の変化は十分に減衰するため、移動シート6に起因する電圧変化である第2の変化を容易に検出することができる。
【0114】
しかし、移動シート6が軽量な場合など、移動シートの加速のタイミングが早く、動作遅れが小さい場合には、二つの電圧変化がほぼ同時に発生する可能性があり、移動シート6に起因する電圧変化を明確に検出することが難しくなる。
【0115】
また、後述する
図16のように複数の電極を検出に用いる構成では、静電容量Cが大きくなるため、他電極に起因する電圧変化の減衰時定数が長くなる。この場合、移動シートの動作遅れが遅い場合であっても、第1の変化と第2の変化の電圧変化が重なってしまう可能性がある。
【0116】
そこで、本実施形態においては追加的な手段として、
図14に示す検出部40αにおいて、検出用電極12と接地端子42とをつなぐ、抵抗の抵抗値を切り替え可能な構成にする。
【0117】
詳しくは、第1の変化の減衰の時定数はCとRの積で与えられるため、第1の変化検出時に、抵抗値Rを十分に小さくすることで時定数を短くし、他電極に起因する電圧変化を速やかに減衰させることができる。
【0118】
一方、移動シート6に起因する電圧変化は、誘導電流と抵抗Rの積で与えられるため、接続する抵抗の抵抗値Rが小さいと発生する電圧変化も小さくなり検出が難しくなる。
【0119】
そこで、本実施形態の検出部40αでは、移動シート6に起因する電圧変化が生じる前、即ち、移動シート6が加速する前に、抵抗値Rを大きな値へと切り替えるように、接続する抵抗を抵抗44から抵抗43へ切り替える。
【0120】
このように、まず抵抗44の小さな抵抗値Rによって他電極に起因する電圧変化である第1の変化の電圧を速やかに減衰させた後、抵抗値Rの大きな抵抗43に切り替えることで、
図15に示すように、第1の変化の影響を受けずに、移動シートに起因する電圧変化を有効に取り出すことができる。この際、接続する抵抗の切り替えのタイミングは事前に調整を行っておけば、実際の利用時には一定のタイミングに固定しておいて良い。
【0121】
また、
図15に示すように、抵抗値の切り替え後に検出される電圧に判定しきい値を設けておくことで、移動シートの移動誘導に起因する第2の変化がそのしきい値を超えたか否かで、容易に移動シートの存在・移動の判定が行える。
【0122】
なお、
図14では、検出部における抵抗値を切り替えるために、抵抗値の異なる2つの抵抗の接続を切り替える構成を示しているが、抵抗値の切り替え方として、抵抗値が可変な1つの可変抵抗を設け、抵抗値を切り替えてもよい。あるいは、抵抗値の大きい1つの抵抗を設けて第2の変化を検出し、第1の変化を検出する際は検出用電極12を、抵抗を介さずにGND電位に短絡させて、抵抗値を0Ωとしてもよい。
【0123】
本実施形態では、検出用電極が駆動用電極と並んだシンプルな電極構成で、検出部40αで抵抗値を切り替えるだけで、検出用電極の接地インピーダンスが状況に応じて最適化され、シールド電極を用いないことで生じる隣接電極を中心とする他電極による誘導を低減して、移動シート6の動作を、より確実に検出することが可能となる。
【0124】
<第3実施形態の電極構成>
図16は、本発明の第3実施形態に係る静電アクチュエータ100βの断面図である。上記では、1つの電極群に対して1つの検出用電極が設けられていたが、1つの電極群に対して複数の検出用電極が設けられてもよい。
【0125】
本実施形態では、配置される複数の電極において、n×k(kは1以上の自然数)個の電極を有し、n×k個の電極のうちの同一相に属する複数個の電極を検出用電極とする。そして、複数の検出用電極のそれぞれは、両隣が、駆動用電極と隣接するように配置されている。
【0126】
本実施形態では、
図16のように元々同一相に属する複数本の電極が、他の電極群から電気的に切り離して検出用電極12、13として用いられている。この場合、検出用電極12、13が分布するエリア内に移動シートが存在し動作していれば、それを検出することができる。検出用電極が複数本あっても検出方法は電極1本の場合と同じである。
【0127】
なお、本実施形態では、電極基板10βにおいて、2個の検出用電極12、13の上で同じ事象が発生し、共通の抵抗43に電流が流れることにより、2倍の電圧になって検出が行われる。
【0128】
また、移動シート6が2個の検出用電極のどちらかに被さっていれば検出は可能である。また、移動シート6が、1個の検出用電極だけに被さっている場合は、検出電圧が、半分になる。
【0129】
ただし、本実施形態のように、配列した電極内で、検出用電極の数が増加すると、検出用電極と周辺の駆動用電極との静電容量Cが大きくなるため、他電極に起因する電圧変化の減衰時定数が長くなる。そのため、必要に応じて、本実施形態の電極構成に対して、
図14に示す抵抗値を切り替え可能な検出部40αを適用したり、後述する
図19、
図20の印加電圧パターンの制御を実行したりすると好適である。
【0130】
ここで、本発明における、検出用電極は、電極群において、両隣に駆動用電極が配置されているような構成に限られず、電極群の端部に位置して片方の隣のみに駆動用電極が配置されるように設置しても良い。
【0131】
<第4実施形態の電極構成>
図17は、本発明の第4実施形態に係る静電アクチュエータ100γの断面図である。
本実施形態において、電極群は、n×k(kは1以上の自然数)個の駆動用電極を有している。
【0132】
そして、検出用電極14は、n×k個の電極を有する電極群EGγと別に、電極群EGγの端部の位置する駆動用電極と隣接するように、配置されている。
【0133】
本実施形態では、検出用電極14を、電極群EGγの外側に設置することで移動シートが可動範囲の端部まで来たことを検出できる。
【0134】
<第5実施形態の電極構成>
図18は、本発明の第5実施形態に係る静電アクチュエータ100δの断面図である。
【0135】
本実施形態では、検出用電極15は、n×k個の電極を有する、2つの電極群EG1、EG2に挟まれて、かつ2つの電極群EG1、EG2の端部に位置する駆動用電極とそれぞれ隣接するように配置されている。
【0136】
図18では、検出用電極15は、左右の駆動用電極の電極群EG1、EG2とは独立に構成されており、検出用電極15を駆動用電極に置き換えてみても、この部分で4本周期が乱れている。このような構成でも本発明は成り立つ。
【0137】
ただし、検出用電極15は異なる電極群EG1、EG2に挟まれているため、第1の変化の電圧値を小さくするために印加電圧パターンを調整する制御(
図19、
図20参照)は、あまり有効ではないため、必要に応じて、
図14に示す抵抗値を切り替え可能な検出部40αを適用すると好適である。
【0138】
<電圧パターンの変形例>
上記
図4に示した駆動用電極への印加電圧パターンは、0と+Vの2値であったが、電圧パターンは、3値以上であってもよい。
【0139】
詳しくは、電極基板10内の他電極に起因する電圧変化である第1の変化は、電極基板10の中の各駆動用電極への印加電圧と、それら各駆動用電極と検出用電極との間の静電容量によって定まる。
【0140】
各電極の印加電圧は、正方向に変化するものと、負方向に変化するものがあるため、それぞれの電圧変化量を適切に調整した電圧パターンとすることで、検出用電極に誘導される電圧変化を相殺し低減することができる。
【0141】
例えば、最も単純な場合として、上述の
図8~
図10と同様に、両隣の二つの隣接電極のみが影響を与える場合を考える。検出用電極と両隣の隣接電極との間の静電容量をC1,C2とし、二つの隣接電極の印加電圧パターンの変化量をΔV1,ΔV2とする。
このときC1×ΔV1+C2×ΔV2=0となるように、二つの電圧変化を調整すれば、理論上は検出用電極に電圧変化が生じない。
【0142】
ただし、実際には隣接していない電極も、配線等を介して検出用電極との間に静電容量を持っており、検出用電極の電圧変化が影響を与えるので、全ての電極群に対して電圧変化の大きさを調整することが望ましい。
【0143】
各相の電圧変化量をそれぞれの静電容量に応じて適切に調整することで、検出用電極の電圧に与える影響を低減でき、第1の変化を最小限にして、移動シートの移動に起因する電圧変化(第2の変化)を、より確実に取り出すことが可能となる。
【0144】
具体例として、
図19に、駆動用電極に印加される4相電圧の電圧パターンの他の例の検出用電極周辺の電位推移の説明図を示す。
図19では、4相電極を、[+V1、0、-V2、0]という電圧パターンで駆動する場合を示している。
図20は、本変形例における具体的な電圧パターンの例を示す図である。
【0145】
図19中、(a)→(b)→(c)の順で各電極上の電圧が変化していくとき、それぞれの電極の電圧変化量は添え字で示した通りになる。
【0146】
ここで、検出用電極12に誘導される電圧の初期値は、「周辺電極の電圧変化量」×「静電容量」と仮定し、両隣の電極と検出用電極との間の静電容量を簡単に1、二つ隣の電極との静電容量をk(0<k<1)とする。なお、実際には左右の二つ隣の電極は、4相電極の場合は同一駆動相であるため、電気的に接続されているが、ここでは説明を簡潔にするため、この2つの電極は電気的に独立しているとする。
【0147】
図19において(a)→(b)と推移するとき、検出用電極の電圧変化は、一番左の電極から順に出すと、{-kV1+(-V2)+V1+(-kV1)=(1-2k)V1-V2}で示される。
【0148】
一般的な印加電圧パターンでは、+V1と-V2とは、|V1|=|V2|と絶対値が同じなる波形であるため、その場合は、周辺電極における電極変化量(第1の変化)は、
(1-2k)V1-V2=-2kV1≠0となる。
【0149】
しかし、V1とV2の絶対値を異なる値として、[V2=(1-2k)V1]に設定すれば、この場合の検出用電極の電位変化が計算上、0になる。
【0150】
この場合、
図19の(a)→(b)のスイッチングタイミングにおいて、周辺電極に起因する、検出用電極への誘導電圧は計算上0になる。
【0151】
このような制御により、各電極と検出用電極との間の静電容量結合の大きさにあわせて各電極への印加電圧のスイッチング時の変動幅を低減して、他電極による誘導に起因する第1の変化を最小限にして、変動量が小さい移動シートの移動に起因する電圧変化(第2の変化)を、より確実に取り出すことが可能となる。
【0152】
<演出システム例1>
上記では、静電アクチュエータ単体での移動シートの検出及び制御について説明したが、本発明の静電アクチュエータは、音とともに演出される演出システムに適用されてもよい。
【0153】
図21は、本発明の静電アクチュエータを含む演出装置の一例を示す外観図である。
図21に示す演出装置200は、音付き仕掛け絵本である。
【0154】
音付き仕掛け絵本である演出装置200は、見開き台紙201上に設けられた、本発明の静電アクチュエータ100と、スピーカー7とを備えている。
【0155】
本構成の演出装置200では、スピーカー7は、シートの動きと対応づけた音を出力する音出力部である。
【0156】
本構成では、静電アクチュエータ100の制御部は、検出された移動シート位置に基づいて、電圧印加部での、駆動用電極への印加する電圧のスイッチング周期又は電圧値を調整することで、演出時における移動シート6の移動を音の進行に合わせるようにする。
【0157】
さらに、本演出装置200では、制御部は、静電アクチュエータの移動シートの状況に合わせて、スピーカー7側の演出時の音出力タイミングを調整するとともに、音の進行速度を調整してもよい。
【0158】
本演出装置では、静電アクチュエータにおいて
図3、
図14、
図16、
図17、
図18に示すような電極構成であることで、検出のためのスペースを最小限にして、移動シート6の位置を検出することができる。
【0159】
<映像付き演出システム>
図22は、本発明の静電アクチュエータを含む映像つき演出システムの一例を示す概念図である。本発明の静電アクチュエータは、映像と連動してもよい。
【0160】
演出システム300は、本発明の静電アクチュエータ100と、スピーカー7A、7Bと、投影装置8とを備えている。また、演出システム300において静電アクチュエータ100、スピーカー7、投影装置8を上位から制御する制御装置350をさらに備えていてもよい。演出システム300において、いずれの機器間も、無線通信にて接続されている。
【0161】
投影装置8は、映像を静電アクチュエータ100の電極基板を含む演出面1Uへ投影する。
【0162】
静電アクチュエータ100の制御部、あるいは制御装置350は、検出された移動シートの位置に基づいて、電圧印加部での、駆動用電極への印加する電圧のスイッチング周期又は電圧値やその変化方向を調整することで、演出時における移動シート6の移動を、映像及び音の進行に合わせるようにする。
【0163】
さらに、本演出システム300では、制御装置350は、静電アクチュエータの移動シートの状況に合わせて、スピーカー7側の演出時の音出力タイミング及び映像出力タイミングを調整するとともに、音及び映像の進行速度を調整してもよい。
【0164】
本演出システムでも、静電アクチュエータにおいて
図3、
図14、
図16、
図17に示すような電極構成であることで、検出のためのスペースを最小限にして、移動シート6の位置を検出することができる。
【0165】
<シート搬送システム>
本発明の静電アクチュエータは、ポスター等や絵本などの広告、演出用途だけでなく、半導体基板産業用のフィルム、基板、シート搬送技術、あるいは、プリンタやスキャナ等の特殊な紙の紙送り装置としても利用が可能である。
【0166】
図23は、静電アクチュエータを搭載したシート搬送システムの一例を示す概念図である。本構成では、シート搬送システム400は、搬送装置401A、401Bと処理装置402とを有している。
【0167】
本発明の静電アクチュエータ100の固定部1は、誘電体である移動シート6を搬送する搬送装置401A、401Bとして機能する。
【0168】
処理装置402は、静電アクチュエータによって搬送された移動シート6へ処理を行う。例えば、移動シート6が半導体用の基板、シート、フィルムである場合は、処理装置402は、表面の検査装置や、基板処理装置であって、処理として、検査や基板処理を行う。あるいは、移動シート6がプリンタやスキャナで使用される導電性のある記録媒体である場合、処理装置402は、例えば撮影装置や、画像形成部、読み取り部であって、処理として撮影や、画像形成、スキャニング等を実施する。
【0169】
処理装置402は、内部に制御部を有している。制御部403は、検出用電極12による移動シート6の検出のタイミングに基づいて、処理装置402によって移動シート6に処理を行うように制御する。なお、制御部403は、処理装置402の外部であって上位に接続された上位制御装置であってもよい。
【0170】
静電アクチュエータの固定部1γ、1βによって実現される搬送装置は、処理の前に位置し、処理装置の処理位置に移動シート6を送るシート前送り搬送装置401Aであってもよいし、あるいは、処理装置と対向し処理中の移動シート6を送る処理中搬送装置401Bであってもよい。
【0171】
このようなシート搬送システムでも、静電アクチュエータにおいて
図3、
図14、
図16、
図17に示すような電極構成であることで、検出のためのスペースを最小限にして、移動シート6の位置を検出することができ、処理装置はその検出タイミングを利用して処理動作を実行することができる。
【0172】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0173】
1、1α、1β、1γ、1δ 固定部
6 移動シート
7 スピーカー(音出力部)
8 投影装置
10、10β、10γ、10δ 電極基板
11 駆動用電極
12、13、14、15 検出用電極
20A、20B、20C、20D 給電線
30 電圧印加部
40、40α 検出部
50 制御部
100、100α、100β、100γ、100δ 静電アクチュエータ
200 演出装置
300 演出システム
E 複数の電極
EG、EGβ、EGγ、EG1、EG2 電極群