(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134405
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】微細流路デバイス用希釈材
(51)【国際特許分類】
G01N 1/38 20060101AFI20230920BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230920BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20230920BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20230920BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20230920BHJP
G01N 15/12 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
G01N1/38
C12N1/20 A
C12N7/00
C12N5/07
C07K16/00
G01N15/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039430
(22)【出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022038983
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】大竹 陽介
(72)【発明者】
【氏名】的場 一隆
(72)【発明者】
【氏名】廣飯 美耶
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐揮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
【テーマコード(参考)】
2G052
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AB16
2G052AB20
2G052AD29
2G052AD49
2G052FD01
2G052GA21
4B065AA01X
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065BD50
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】 検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過できるようにすることができる希釈液などの提供。
【解決手段】 被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、希釈液。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、希釈液。
【請求項2】
被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、希釈液。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【請求項3】
微細流路における下記式(F1)若しくは(F2)で与えられる毛細管力が負である、請求項1又は2に記載の希釈液。
【数1】
(式(F1)及び(F2)中のγは前記希釈液の表面張力を表し、θは前記希釈液の接触角を表す。また、式(F1)中のdは矩形流路の短辺、ωは矩形流路の長辺を表し、式(F2)中のrは円形流路の半径を表す。)
【請求項4】
前記微細流路の内部表面が樹脂、セラミックス、半金属若しくは金属で構成される、請求項3に記載の希釈液。
【請求項5】
更に、水溶液を含有する、請求項1又は2に記載の希釈液。
【請求項6】
前記水溶液が、生理食塩水及びリン酸緩衝生理食塩水から選ばれる、請求項5に記載の希釈液。
【請求項7】
前記被検生体物質が、細菌、ウイルス、核酸、細胞外小胞及びタンパク質の少なくともいずれかである、請求項1又は2に記載の希釈液。
【請求項8】
前記被検生体物質の前記検出が、前記検出用デバイス内に形成された前記貫通孔を前記被検生体物質が通過することにより行われる、請求項1又は2に記載の希釈液。
【請求項9】
被検生体物質の検出に用いられる検体と、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤とを含有する試験液であって、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、試験液。
【請求項10】
被検生体物質の検出に用いられる検体と、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤とを含有する試験液であって、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、試験液。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【請求項11】
微細流路における下記式(F1)若しくは(F2)で与えられる毛細管力が負である、請求項9又は10に記載の試験液。
【数2】
(式(F1)及び(F2)中のγは前記試験液の表面張力を表し、θは前記試験液の接触角を表す。また、式(F1)中のdは矩形流路の短辺、ωは矩形流路の長辺を表し、式(F2)中のrは円形流路の半径を表す。)
【請求項12】
前記被検生体物質の前記検出が、前記検出用デバイス内に形成された前記貫通孔を前記被検生体物質が通過することにより行われる、請求項9又は10に記載の試験液。
【請求項13】
被検生体物質の検出に用いられる検体と、請求項1又は2に記載の希釈液とが混合されることを含む、試験液の調製方法。
【請求項14】
被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、コーティング用組成物。
【請求項15】
被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、コーティング用組成物。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【請求項16】
非イオン性界面活性剤を含有する、流路内を通過する生体物質の透過性を向上させるための希釈液。
【請求項17】
前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、請求項16に記載の希釈液。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【請求項18】
生体物質の流路内の付着を抑制するコーティング用組成物であって、非イオン性界面活性剤を含有する、コーティング用組成物。
【請求項19】
前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、請求項18に記載のコーティング用組成物。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するために好適に用いられる希釈液、及び被検生体物質の検出感度を向上させるために好適に用いられるコーティング用組成物、に関する。更に本発明は、試験液、及び試験液の調製方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、細菌などの被検生体物質を同定する方法としては、遺伝子を同定するPCR法やDNAチップを用いる方法、抗原抗体反応を用いるELISA法等がよく知られている。また試料中の粒子の大きさを判定することでウイルスや細菌を検出する試みもなされている。
【0003】
近年、新たな同定方法として、電解液中の測定対象粒子が貫通孔を通過する際のイオン電流の時間変化を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014-521962号公報
【特許文献2】国際公開第2013/137209号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2020/230219号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの方法では、測定対象粒子である被検生体物質が検出用デバイス内に形成された貫通孔を通過できないために、測定ができない又は測定の感度が低下するという問題がある。貫通孔の通過をできなくする要因としては、被検生体物質が貫通孔を塞ぐこと、被検生体物質を含有する試験液が貫通孔に濡れ広がらないこと、試験液が有する気泡が貫通孔を塞ぐことなどが挙げられる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過できるようにすることができる希釈液、及び試験液、並びに被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物を提供することを目的とする。更に本発明は、前記希釈液を用いた試験液の調製方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決する為、鋭意検討を行った結果、上記の課題を解決出来ることを見出し、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、希釈液。
[2] 被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、希釈液。
A
1-B-A
2 ・・・式(1)
(式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA
1及びA
2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
[3] 微細流路における下記式(F1)若しくは(F2)で与えられる毛細管力が負である、[1]又は[2]に記載の希釈液。
【数1】
(式(F1)及び(F2)中のγは前記希釈液の表面張力を表し、θは前記希釈液の接触角を表す。また、式(F1)中のdは矩形流路の短辺、ωは矩形流路の長辺を表し、式(F2)中のrは円形流路の半径を表す。)
[4] 前記微細流路の内部表面が樹脂、セラミックス、半金属若しくは金属で構成される、[3]に記載の希釈液。
[5] 更に、水溶液を含有する、[1]から[4]のいずれかに記載の希釈液。
[6] 前記水溶液が、生理食塩水及びリン酸緩衝生理食塩水から選ばれる、[5]に記載の希釈液。
[7] 前記被検生体物質が、細菌、ウイルス、核酸、細胞外小胞及びタンパク質の少なくともいずれかである、[1]から[6]のいずれかに記載の希釈液。
[8] 前記被検生体物質の前記検出が、前記検出用デバイス内に形成された前記貫通孔を前記被検生体物質が通過することにより行われる、[1]から[7]のいずれかに記載の希釈液。
[9] 被検生体物質の検出に用いられる検体と、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤とを含有する試験液であって、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、試験液。
[10] 被検生体物質の検出に用いられる検体と、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤とを含有する試験液であって、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、試験液。
A
1-B-A
2 ・・・式(1)
(式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA
1及びA
2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
[11] 微細流路における下記式(F1)若しくは(F2)で与えられる毛細管力が負である、[9]又は[10]に記載の試験液。
【数2】
(式(F1)及び(F2)中のγは前記試験液の表面張力を表し、θは前記試験液の接触角を表す。また、式(F1)中のdは矩形流路の短辺、ωは矩形流路の長辺を表し、式(F2)中のrは円形流路の半径を表す。)
[12] 前記被検生体物質の前記検出が、前記検出用デバイス内に形成された前記貫通孔を前記被検生体物質が通過することにより行われる、[9]から[11]のいずれかに記載の試験液。
[13] 被検生体物質の検出に用いられる検体と、[1]から[7]のいずれかに記載の希釈液とが混合されることを含む、試験液の調製方法。
[14] 被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリアルキレングリコール系界面活性剤の少なくともいずれかである、コーティング用組成物。
[15] 被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物であって、検出用デバイス内の貫通孔への前記被検生体物質の透過性を向上させる非イオン性界面活性剤を含有し、前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、コーティング用組成物。
A
1-B-A
2 ・・・式(1)
(式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA
1及びA
2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
[16] 非イオン性界面活性剤を含有する、流路内を通過する生体物質の透過性を向上させるための希釈液。
[17] 前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、[16]に記載の希釈液。
A
1-B-A
2 ・・・式(1)
(式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA
1及びA
2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
[18] 生体物質の流路内の付着を抑制するコーティング用組成物であって、非イオン性界面活性剤を含有する、コーティング用組成物。
[19] 前記非イオン性界面活性剤が、下記式(1)で表される、[18]に記載のコーティング用組成物。
A
1-B-A
2 ・・・式(1)
(式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA
1及びA
2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過できるようにすることができる希釈液、及び試験液、並びに被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物を提供することができる。また本発明によれば、前記希釈液を用いた試験液の調製方法などを提供することができる。また、流路内を通過する生体物質の透過性を向上させるための希釈液や、生体物質の流路内の付着を抑制するコーティング用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】検出用デバイスの一例の断面模式図である。
【
図1B】
図1Aの検出用デバイスを有する検出装置の一例の断面模式図である。
【
図2】検出用デバイスの他の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の各用語は、各々の実施態様で好ましいものとして解釈されるものとする。
(希釈液)
本発明の希釈液は、非イオン性界面活性剤を含有する。
【0011】
本発明の希釈液の一実施形態は、被検生体物質の検出に用いられる検体を希釈するための希釈液である。非イオン性界面活性剤は、検出用デバイス内の貫通孔への被検生体物質の透過性を向上させる。「透過性」とは、被検生体物質の貫通孔の通り易さを指す。
被検生体物質の検出は、例えば、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過することにより行われる。検出用デバイスの実施形態については後述する。
【0012】
希釈液が非イオン性界面活性剤を含有することにより、検体を希釈液により希釈して得られる試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔に提供されやすくなる。例えば、試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔及びその周囲に濡れ広がりやすくなる。
また、試験液が非イオン性界面活性剤を含有することにより、試験液が気泡を有しにくくなる。
これらの一つ又は複数が関係する結果、被検生体物質が貫通孔を通過しやすくなる。また、本発明の希釈液は生体物質そのものを希釈するものであってよい。
【0013】
また、本発明の希釈液の一実施形態は、流路内を通過する生体物質の透過性を向上させるための希釈液であってよい。前記流路としては、例えば国際公開第2017/065279号パンフレットに記載の流路であってよい。近年、MEMS(Microelectromechanical Systems)技術などの微細加工技術を利用して、基板(チップ)上にμmオーダーの所定の形状の流路や穴を作製した種々のデバイスが開発され、バイオテクノロジーや化学工学において微量の実験や、単離・精製・分析等に用いられている。
例えば、血小板は人体の脊髄と類似の構造を有するバイオリアクターを用いて産生できる。そのようなバイオリアクターとして、制御された形状及び配置で複数の微小孔が形成され、その一方側の表面に巨核球が配置される多孔薄膜と、前記多孔薄膜の前記一方側に設けられ、前記巨核球が培養される培養室と、前記多孔薄膜の他方側に設けられ、前記培養室内で前記巨核球が培養される間、培養液が流れる微小流路と、を備えることを特徴とする血小板産生流路装置が報告されている。このようなリアクターは、微小孔を介してシェアストレスを巨核球に付与することによって血小板を産出できる。
しかしながら、生物試料を用いるデバイスでは、デバイスの表面に生物試料由来の細胞や蛋白質による接着が生じ、目詰まりや分析の精度や感度の低下を招くという問題があった。その問題を解消するため、スルフィニル基を側鎖に有する繰り返し単位を有する重合体を有効成分とする細胞接着防止剤でコーティングされたマイクロ流路デバイスが報告されている。本発明の希釈液は、上記の流路内を通過する生体物質の透過性を向上させる効果を奏する。
【0014】
<非イオン性界面活性剤>
非イオン性界面活性剤としては、検体を希釈液により希釈して得られる試験液の表面自由エネルギーを低下させるものであれば、特に限定されない。
非イオン性界面活性剤は、生体物質を変質させにくい。例えば、非イオン性界面活性剤は、ウイルスのエンベロープを破壊しにくい。
【0015】
さらに、非イオン性界面活性剤としては、親水性基を含むブロック若しくは親水性基を有する1価の基を含むブロックをAブロックとし、Aブロックと比較し相対的に疎水性を呈する2価の有機基を有するブロックをBブロックとすると、A-B-Aの形式で表される非イオン性界面活性剤、すなわち、疎水性を呈する有機基(Bブロック)が、親水性を呈するAブロックで挟まれている形式の化合物が好ましい。2つのAブロックは、同じ構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0016】
<Aブロック>
前記Aブロックのための1価の基としては、好ましくはアルキレングリコールを単位構造とする繰り返し単位を有する1価の有機基が好ましい。上記アルキレングリコールが含む水素原子の少なくとも1つが親水性基で置換されていてよく、好ましくは、Bブロックとの結合部分と最も離れたAブロックの末端部に、親水性基を有する。
上記置換基の親水性基及び上記末端部の親水性基の具体例としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数原子数1~6のアルコキシ基が挙げられる。炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
Aブロックとしては、例えば、下記式(A)で表される構造を有する1価の基が挙げられる。
【化1】
(式(A)中、R
11は、それぞれ独立して、親水性基で置換されていてもよい炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。Xは、ヒドロキシ基、アミノ基又は炭素数原子数1~6のアルコキシ基を表す。nは、0以上の整数を表す。*は結合手を表す。)
nは、例えば、0~30の整数を表す。
炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
【0017】
<Bブロック>
前記Bブロックのための有機基としては、前記Aブロックと比較して相対的に疎水性を有する2価の有機基であれば、制限は無いが、好ましくはアルキレングリコールを単位構造とする繰り返し単位を有する2価の有機基であり、且つ上記親水性基で置換されていない有機基が好ましい。
Bブロックとしては、例えば、下記式(B)で表される構造を有する2価の有機基が挙げられる。
【化2】
(式(B)中、R
12は、それぞれ独立して、炭素原子数3~10のアルキレン基を表す。nは、2以上の整数を表す。*は結合手を表す。)
nは、例えば、2~30の整数を表す。
【0018】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記式(1)で表される非イオン性界面活性剤が挙げられる。
A1-B-A2 ・・・式(1)
(式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、親水性を示す1価の基を表し、BはA1及びA2と比較し相対的に疎水性を示す2価の有機基を表す。)
【0019】
式(1)中のA1及びA2としては、例えば、前記式(A)で表される1価の基、水酸基などが挙げられる。
【0020】
式(1)中のBとしては、例えば、前記式(B)で表される2価の有機基、アルケニレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた2価の有機基、アルキニレングリコールから2つのヒドロキシ基を除いた2価の有機基が挙げられる。
アルケニレングリコールとは、アルキレングリコールの炭素-炭素1重結合の一つが炭素-炭素2重結合に置き換わった化合物である。
アルキニレングリコールとは、アルキレングリコールの炭素-炭素1重結合の一つが炭素-炭素3重結合に置き換わった化合物であり、アセチレングリコールともいう。
アセチレングリコールとしては、例えば、下記式(C)で表されるグリコールが挙げられる。
【化3】
(式(C)中、R
21、R
22、R
23、及びR
24は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~30のアルキル基を表す。)
なお、式(C)で表されるグリコールは、2つのヒドロキシ基がA
1及びA
2に相当する式(1)で表される非イオン性界面活性剤でもある。
【0021】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、アルキル多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アルカノールアミド、アシルメチルグルカミド、ポリオキシエチレンアセチレングリコール、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンコレスタノール、ポリオキシエチレンノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物、アルキルグルコシド等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオキシエチレンアセチレングリコール(アセチレングリコール系界面活性剤)、ポリオキシアルキレンブロックポリマー(ポリアルキレングリコール系界面活性剤)が好ましい。
【0022】
アセチレングリコール系界面活性剤は、例えば、下記式(2)で表される。
【化4】
(式(2)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~10のアルキル基を表す。R
1とR
2は、直接若しくはヘテロ原子を介して、一緒になって、3員環から8員環の環状構造を形成していてもよい。また、この環状構造は、官能基を有していてもよい。R
3とR
4は、直接若しくはヘテロ原子を介して、一緒になって、3員環から8員環の環状構造を形成していてもよい。また、この環状構造は、官能基を有していてもよい。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
m及びnは、それぞれ、0以上の整数である)。
ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などが挙げられる。
官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基などが挙げられる。
m及びnは、例えば、それぞれ0~25の整数であり、m+nは0~40である。
炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
【0023】
アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品であってもよい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業社製のSurfynol(登録商標)又はOlfine(登録商標)、川研ファインケミカル社製のAcetylenol(登録商標)などが挙げられる。
【0024】
ポリアルキレングリコール系界面活性剤は、例えば、エチレングリコールとプロピレングリコールとをブロック状に含有する。そのようなポリアルキレングリコール系界面活性剤は、例えば、下記式(2-1)~式(2-4)で表される。
【化5】
(式(2-1)~式(2-4)中、R
1は、水素原子、高級アルコール残基、アルキルフェノール残基、アリールフェノール残基、脂肪酸残基、高級脂肪族アミン残基又は脂肪酸アミド残基を表す。x1、x2、x3及びx4は、それぞれ独立して4以上の整数を表す。y1、y2、y3及びy4は、それぞれ独立して、16以上の整数を表す。)
x1、x2、x3及びx4は、例えば、それぞれ独立して、4~900の整数を表す。
y1、y2、y3及びy4は、例えば、それぞれ独立して、16~130の整数を表す。
【0025】
高級アルコール残基は、炭素原子数が4~18個の直鎖若しくは分岐鎖アルコール残基であり、例えば、ブチルアルコール残基、ヘキシルアルコール残基、エチルヘキシルアルコール残基、ラウリルアルコール残基、オレイルアルコール残基などが挙げられる。これらの中でも、エチルヘキシルアルコール残基、ラウリルアルコール残基が好ましい。
アルキルフェノール残基は、同一又は異なった1~3個の炭素原子数が3~9個の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基が結合したフェノール残基であり、例えば、トリブチルフェノール残基、エチルヘキシルフェノール残基、ノニルフェノール残基などが挙げられる。これらの中でも、ノニルフェノール残基が好ましい。
アリールフェノール残基は、1~3個のスチリル基が結合し、更に同一又は異なった1又は2個の炭素原子数が1~4個である直鎖若しくは分岐鎖アルキル基が結合してよいフェノール残基であり、例えば、モノスチリルフェノール残基、ジスチリルフェノール残基、トリスチリルフェノール残基、ジスチリルクレゾール残基などが挙げられる。これらの中でも、トリスチリルフェノール残基が好ましい。
脂肪酸残基は、炭素原子数が2~18個の飽和若しくは不飽和脂肪酸残基であり、例えば、酢酸残基、酪酸残基、ラウリン酸残基、オレイン酸残基などが挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸残基が好ましい。
高級脂肪族アミン残基は、炭素原子数が4~18個の飽和若しくは不飽和脂肪族アミン残基であり、例えば、ヘキシルアミン残基、エチルヘキシルアミン残基、ラウリルアミン残基、オレイルアミン残基などが挙げられる。これらの中でも、ラウリンアミン残基、オレイルアミン残基が好ましい。
脂肪酸アミド残基は、炭素原子数が4~18個の飽和若しくは不飽和脂肪酸アミド残基であり、例えば、酪酸アミド残基、ラウリン酸アミド残基、オレイン酸アミド残基などが挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸アミド残基が好ましい。
【0026】
式(2-1)及び式(2-2)において、R1が水素原子であるものは、プルロニックタイプと呼ばれる非イオン性界面活性剤であり、また、式(2-3)及び式(2-4)で表されるポリアルキレングリコール系界面活性剤は、テトロニックタイプと呼ばれる非イオン性界面活性剤である。
【0027】
式(2-1)及び式(2-2)において、R1は水素原子が好ましい。
【0028】
ポリアルキレングリコール系界面活性剤におけるプロピレングリコール部分(PO付加部分)の数平均分子量は2,000~4,000が好ましく、2,500~3,500がより好ましく、2,700~3,200が特に好ましい。
ポリアルキレングリコール系界面活性剤における、プロピレングリコール部分(PO付加部分)の数平均分子量に対するエチレングリコール部分(EO付加部分)の数平均分子量の割合は、0.05倍~10倍が好ましく、0.1倍~4倍がより好ましく、0.2倍~1倍が特に好ましい。
【0029】
ポリアルキレングリコール系界面活性剤は、市販品であってもよい。ポリアルキレングリコール系界面活性剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製のアデカプルロニック、BASF社製のPluronic(登録商標)、日油社製ユニルーブ(登録商標)などが挙げられる。
【0030】
これらの非イオン性界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
希釈液における非イオン性界面活性剤の含有量としては、特に限定されないが、0.001質量%~5質量%が好ましく、0.01質量%~3質量%がより好ましく、0.03質量%~1質量%が特に好ましい。
【0032】
<水溶液>
希釈液は、その他の成分として、水溶液を含有することが好ましい。
水溶液としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸・リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、クエン酸・リン酸緩衝生理食塩水などが挙げられる。
これらの中でも、入手性と、体液に近いpHや塩組成の点で、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水が好ましい。
【0033】
希釈液は、例えば、水溶液と非イオン性界面活性剤とを所定の比率で混合することにより調製することができる。
【0034】
<希釈液及び試験液の毛細管力>
希釈液及び試験液の毛細管力としては、特に制限されないが、本発明の効果を好適に得る観点から、微細流路における下記式(F1)若しくは(F2)で与えられる毛細管力が負であることが好ましい。当該毛細管力が負であることにより、希釈液及び試験液が微細流路を流れやすくなる。
なお、式(F1)は、矩形流路における毛細管力を算出するための式である。式(F2)は、円形流路における毛細管力を算出するための式である。
これら式は、Journal of Japan Society for Precision Engineering Vol82, No.5, 2016.に紹介されている。
【数3】
(式(F1)及び(F2)中のγは希釈液又は試験液の表面張力を表し、θは希釈液又は試験液の接触角を表す。また、式(F1)中のdは矩形流路の短辺、ωは矩形流路の長辺を表し、式(F2)中のrは円形流路の半径を表す。)
【0035】
表面張力は、例えば、以下の方法により測定できる。
【0036】
[表面張力測定]
シャーレに対し希釈液又は試験液を添加する。表面張力計(協和界面科学株式会社、DY-700)を用い、Willhelmy法にて1分後の表面張力を測定する。
【0037】
接触角は、例えば、下記条件1又は2の方法により測定できる。
【0038】
[接触角測定/条件1]
PET基板(ルミラーフィルムT-60、東レ株式会社)に対し、ピペットを用いて4μlの希釈液又は試験液を付着させる。付着後5秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-701)を用いて測定する。
【0039】
[接触角測定/条件2]
SiN基板に対し、ピペットを用いて4μlの希釈液又は試験液を付着させる。付着後1秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-701)を用いて測定する。
【0040】
式(F1)においては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)製の矩形の微細流路の大きさを、長辺ω=0.001m、短辺d=0.00054mとして各希釈液又は試験液の毛細管力を算出する。
式(F2)においては、例えば、SiN製の円形の微細流路(例えば、貫通孔)の半径を、半径r=0.00000015mとして各希釈液又は試験液の毛細管力を算出する。
【0041】
式(F1)で求められる毛細管力としては、例えば、-4.5×106mN/m2以上0mN/m2未満がより好ましい。
式(F2)で求められる毛細管力としては、例えば、-2.0×109mN/m2以上0mN/m2未満がより好ましい。
【0042】
微細流路は、例えば、内部表面が、樹脂、セラミックス、半金属、金属又はガラスで構成される。
【0043】
樹脂としては、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよい。
天然樹脂若しくはその誘導体としては、例えば、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロースなどが挙げられる。
合成樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)又は各種イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0044】
セラミックスとしては、例えば、SiN、SiO2、Al6O13Si2、ZiO2、SiC、Al2O3などが挙げられる。
【0045】
半金属としては、例えば、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルルなどが挙げられる。
【0046】
金属としては、例えば、典型金属:(アルカリ金属:Li、Na、K、Rb、Cs;アルカリ土類金属:Ca、Sr、Ba、Ra)、マグネシウム族元素:Be、Mg、Zn、Cd、Hg;アルミニウム族元素:Al、Ga、In;希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu;スズ族元素:Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Th;鉄族元素:Fe、Co、Ni;土酸元素:V、Nb、Ta、クロム族元素:Cr、Mo、W、U;マンガン族元素:Mn、Re;貴金属:Cu、Ag、Au;白金族元素:Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptなどが挙げられる。
【0047】
微細流路の内部表面の材質は1種類であっても2種類以上の組み合わせであってもよい。これらの材質の中において、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、SiN、ポリスチレン(PS)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)若しくはポリジメチルシロキサン(PDMS)単独、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせであることが好ましく、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)若しくはポリジメチルシロキサン(PDMS)単独、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせが最も好ましい。
【0048】
<生体物質及び被検生体物質>
生体物質及び被検生体物質としては、例えば、細菌、ウイルス、核酸、細胞外小胞、タンパク質、細胞などが挙げられる。
【0049】
本発明でいう細菌としては、細胞核を持たない原核生物であれば排除されない。具体的には、大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター等が挙げられる。
本発明でいうウイルスは、エンベロープを有するウイルス(ワクチンやウイルスベクターも含む)、エンベロープを有さないウイルス何れであってもよいで。エンベロープとは宿主の細胞に由来した脂質やタンパク質、さらにはウイルス由来の糖タンパク質からなる膜状の構造である。
【0050】
本発明でいうエンベロープを有するウイルスとしては、フラビウイルス科、トガウイルス科、レトロウイルス科、コロナウイルス科、フィロウイルス科、ラブドウイルス科、ブニヤウイルス科、オルソミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、アレナウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科から選択され、具体例としては黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、セントルイス脳炎、マレー渓谷脳炎、ウエストナイル、中央ヨーロッパ脳炎、ロシア春夏脳炎、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、シンドビスウイルス、チクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西武ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、コロナウイルス、SARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)、MERSコロナウイルス、SARS-CoV-2、マールブルグウイルス、エボラウイルス、狂犬病ウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、ハンターンウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、トゴトウイルス、ドーリウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ラッサウイルス、リンパ性脈絡髄膜炎ウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、D型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス1(単純ヘルペスウイルス1型)、ヒトヘルペスウイルス2(単純ヘルペスウイルス2型)、ヒトヘルペスウイルス3(水痘・帯状疱疹ウイルス)、ヒトヘルペスウイルス5(サイトメガロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス6、ヒトヘルペスウイルス7、ヒトヘルペスウイルス4(EBウイルス)、ヒトヘルペスウイルス8及び痘瘡ウイルスが挙げられる。これらのワクチン用途、ベクター用途も本願権利に含まれる。
【0051】
本発明でいうエンベロープを有するウイルスは、ヒトに感染性、病原性を持つものに限定されない。ヒト以外の動物、あるいは植物に感染性、病原性を持つエンベロープを有するウイルスも本願でいうエンベロープを有するウイルスから排除されない。
【0052】
本発明でいうエンベロープを有さないウイルスとしては、レオウイルス科、カリシウイルス科、ピコルナウイルス科、アストロウイルス科、へペウイルス科、パルボウイルス科、ポリオーマウイルス科、パピローマウイルス科、アデノウイルス科から選択され、具体例としてはレオウイルス、ロタウイルス、コロラドダニ熱ウイルス、ノーウォークウイルス、サッポロウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エンテロウイルス、ライノウイルス、A型肝炎ウイルス、アストロウイルス、E型肝炎ウイルス、B19ウイルス、JCウイルス、ヒロパビローマウイルス、ネコカリシウイルス及びヒトアデノウイルスが挙げられる。これらのワクチン用途、ベクター用途も本願権利に含まれる。
【0053】
本発明でいうエンベロープを有さないウイルスは、ヒトに感染性、病原性を持つものに限定されない。ヒト以外の動物、あるいは植物に感染性、病原性を持つエンベロープを有さないウイルスも本願でいうエンベロープを有さないウイルスから排除されない。
【0054】
本発明でいう核酸としては、DNA、RNAが挙げられる。
【0055】
本発明でいう細胞外小胞としては、例えば、エクソソーム、微小小胞体、アポトーシス小体、エクトソーム、マイクロパーティクル、分泌マイクロベシクルなどが挙げられる。
【0056】
本発明でいうタンパク質としては、例えば、フィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β-リポ蛋白質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ-グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームcが挙げられる。
【0057】
本発明でいう糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸が挙げられる。
【0058】
本発明でいう細胞としては、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられる。
【0059】
これらの中でも、細菌、ウイルス、核酸、細胞外小胞、タンパク質は、微小な貫通孔を用いて検出する必要があり、その際に、貫通孔を通過しにくいことから、本発明の効果がより得られる生体物質及び被検生体物質である。
【0060】
これらの物質各々について、1種又は2種以上の組み合わせも排除されない。
【0061】
被検生体物質の検出は、例えば、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過することにより行われる。
本明細書における貫通孔の直径としては、例えば、50nm~10μmであってもよいし、50μm~1μmであってもよいし、50nm~500nmであってもよいし、100nm~500nmであってもよい。貫通孔の孔(貫通孔が貫通する方向に対して直交する方向の貫通孔の面)が真円ではない場合、ここでの直径は内接円の直径を意味する。
【0062】
また、上記被検生体物質は、例えば金ナノ粒子やポリスチレンビーズに結合した態様であってよい。また上記の被検生体物質は、生体物質そのものであってよい。
【0063】
<検体>
検体としては、例えば、唾液、唾液以外の消化液(胃液、胆汁、膵液、腸液)、汗、鼻水、羊水、乳汁、リンパ液、組織液、体腔液、血液、尿、皮膚、粘膜、便、精液、涙、膣分泌液、鼻咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、土壌、環境水、環境スワブ、大気捕集物などが挙げられる。
環境水とは、環境中から採取した水を意味し、例えば、下水、上水、地下水、生活排水、産業排水、公共用水域(河川、湖沼、港湾、沿岸海域、公共溝渠、かんがい用水路、その他公共の用に供される水域や水路)の水が挙げられる。
環境スワブとは、環境中の微生物のふき取り検査の際に、ふき取りに使用する器具である。環境スワブとしては、例えば、滅菌綿棒などが挙げられる。
大気捕集物とは、大気中の微粒子を測定する際に、微粒子を捕集する器具である。大気捕集物としては、例えば、大気捕集バッグ、捕集用フィルターなどが挙げられる。
【0064】
(試験液)
本発明の試験液は、被検生体物質の検出に用いられる検体と、非イオン性界面活性剤とを含有する。
試験液は、例えば、電解液である。
【0065】
試験液が非イオン性界面活性剤を含有することにより、試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔に提供されやすくなる。例えば、試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔及びその周囲に濡れ広がりやすくなる。
また、試験液が非イオン性界面活性剤を含有することにより、試験液が気泡を有しにくくなる。
これらの一つ又は複数が関係する結果、被検生体物質が貫通孔を通過しやすくなる。
【0066】
被検生体物質の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した被検生体物質の具体例及び好適例が挙げられる。
検体としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した検体が挙げられる。
非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例が挙げられる。
【0067】
試験液における非イオン性界面活性剤の含有量としては、特に限定されないが、0.001質量%~1.0質量%が好ましく、0.01質量%~0.2質量%がより好ましく、0.015質量%~0.1質量%が特に好ましい。
【0068】
被検生体物質の検出は、例えば、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過することにより行われる。検出用デバイスの詳細については後述する。
【0069】
試験液の調製方法としては、特に限定されないが、以下の本発明の試験液の調製方法が好ましい。
【0070】
(試験液の調製方法)
本発明の試験液の調製方法は、被検生体物質の検出に用いられる検体と、本発明の希釈液とが混合されることを含む。
混合方法としては、特に限定されず、例えば、検体を希釈する公知の方法を用いることができる。
【0071】
検体と希釈液との混合比率としては、特に限定されないが、検体に対して希釈液が体積比で1倍~10,000倍であることが好ましく、10倍~5,000倍であることがより好ましい。
【0072】
被検生体物質の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した被検生体物質の具体例及び好適例が挙げられる。
検体としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した検体が挙げられる。
【0073】
(コーティング用組成物)
本発明のコーティング用組成物は、非イオン性界面活性剤を含有する。
本発明のコーティング用組成物の一実施形態は、被検生体物質の検出感度を向上させるためのコーティング用組成物である。
被検生体物質の検出は、例えば、検出用デバイス内に形成された貫通孔を被検生体物質が通過することにより行われる。
【0074】
コーティング用組成物が非イオン性界面活性剤を含有することにより、コーティング用組成物によりコーティングされた面を通過する試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔に提供されやすくなる。例えば、試験液が、検出用デバイス内に形成された貫通孔及びその周囲に濡れ広がりやすくなる。
また、コーティング用組成物が非イオン性界面活性剤を含有することにより、コーティング用組成物によりコーティングされた面に触れた試験液が気泡を有しにくくなる。
これらの一つ又は複数が関係する結果、被検生体物質が貫通孔を通過しやすくなる。
【0075】
また、本発明のコーティング用組成物の一実施形態は、生体物質の流路内の付着を抑制するコーティング用組成物である。
【0076】
コーティング用組成物に含有される非イオン性界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液が含有する非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例が挙げられる。
【0077】
コーティング用組成物における非イオン性界面活性剤の含有量としては、特に限定されないが、0.01質量%~5質量%が好ましく、0.03質量%~3質量%がより好ましく、0.05質量%~1質量%が特に好ましい。
【0078】
コーティング用組成物が含有する非イオン性界面活性剤以外の成分としては、特に限定されないが、水が好ましい。
コーティング用組成物における水の含有量としては、特に制限されないが、90質量%質量%~99.99質量%が好ましく、95質量%~99.97質量%がより好ましく、99質量%~99.95質量%が特に好ましい。
【0079】
コーティング用組成物における、水と非イオン性界面活性剤との合計の含有量としては、特に限定されないが、95質量%~100質量%が好ましく、99質量%~100質量%がより好ましく、99.5質量%~100質量%が特に好ましい。
【0080】
コーティング用組成物は、水に加え、さらに有機溶媒(例えばアルコール及び水溶性有機溶媒(ただしアルコールを除く。))を含有していてもよい。
【0081】
アルコールとしては、炭素原子数2~6のアルコールが挙げられる。
アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0082】
水溶性有機溶媒とは、水及びアルコールと任意の割合で混ぜることが可能であり、混ぜた後に分離が起こらない有機溶媒を指す。
水溶性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0083】
水と有機溶媒の含有割合(重量比)は、例えば、(水):(有機溶媒)=20:80~80:20であり、30:70~70:30であり、40:60~60:40であり、50:50である。
【0084】
(被検生体物質の検出方法の一例)
本発明の被検生体物質の検出方法の一例は、通過工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含んでいてもよい。
【0085】
<通過工程>
通過工程は、被検生体物質を、検出用デバイス内に形成された貫通孔を通過させる工程である。検出用デバイスの詳細については後述する。
通過工程は、貫通孔に本発明の試験液が提供されることを含む。
【0086】
被検生体物質の検出方法では、例えば、貫通孔に又は貫通孔の周囲の隔壁に通電し、被検生体物質が貫通孔を通過する際の電気信号を検出することで、被検生体物質の検出を行う。
【0087】
(検出用デバイス)
検出用デバイスとしては、被検生体物質を検出するための貫通孔を有するデバイスであれば、特に制限されない。
検出用デバイスは、例えば、貫通孔が形成された基板と、基板により区画された第1チャンバー及び第2チャンバーとを有する。
第1チャンバー及び第2チャンバーは、貫通孔により連通されている。
本発明の被検生体物質の検出方法の一例における通過工程の一例は、例えば、第1チャンバーに試験液が提供され、第1チャンバーから第2チャンバーへ貫通孔を通過して試験液が移動することにより行われる。
また、本発明の被検生体物質の検出方法の一例における通過工程の他の一例は、例えば、第1チャンバー及び第2チャンバーに試験液が提供され、第1チャンバーから第2チャンバーへ貫通孔を通過して被検生体物質が移動することにより行われる。
【0088】
第1チャンバー及び第2チャンバーを形成する壁の材質としては、特に制限されず、樹脂、ガラス、SiN、Al2O3などが挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0089】
検出用デバイスとしては、例えば、国際公開第2013/137209号パンフレットに記載の一粒子解析装置が挙げられる。
当該一粒子解析装置は、以下の解析装置である。
測定容器と、前記測定容器を絶縁性の隔壁により区画された第1のチャンバーおよび第2のチャンバーと、前記隔壁に開口された前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーとを連通する貫通孔と、前記第1のチャンバー内に配置された第1の電極と、前記第2のチャンバー内に配置された第2の電極とを具備し、前記第1の電極と第2の電極との間に前記隔壁の前記貫通孔を通して通電し、前記第1のチャンバー内の粒子状の測定対象物が前記貫通孔から前記第2のチャンバー内に通過するときの検出信号を測定することにより前記測定対象物の形状を測定する一粒子解析装置であって、
(a)前記測定対象粒子の径をaとして、前記貫通孔の径をdとし、前記貫通孔近傍の前記隔壁の厚さをtとすると次の式;
t<a<d≦100a
が満たされる、または
(b)前記測定対象粒子の長径をLとし、短径をsとし、前記貫通孔の径をdとし、前記貫通孔近傍の前記隔壁の厚さをtとすると次の式;
s<L、
s<d≦100s、および
t<L
が満たされる一粒子解析装置。
【0090】
また、検出用デバイスとしては、例えば、国際公開第2017/183716号パンフレットに記載の生体物質検出用デバイスが挙げられる。
当該生体物質検出用デバイスは、以下の生体物質検出用デバイスである。
基板、
該基板に形成された被検生体物質が通過する貫通孔、
該貫通孔に形成され、通過する被検生体物質と相互作用する分子、
該基板の一方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第1チャンバーを形成する第1チャンバー部材、
該基板の他方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第2チャンバーを形成する第2チャンバー部材、
を具備し、被検生体物質が貫通孔を通過する時のイオン電流の波形により被検生体物質を識別する、生体物質検出用デバイス。
【0091】
また、検出用デバイスとしては、例えば、国際公開第2020/230219号パンフレットに記載の粒子識別センサーが挙げられる。
当該粒子識別センサーは、以下の粒子識別センサーである。
第1層内に形成され、被識別粒子を含む電解液が流通可能な第1流路と、
第2層内に形成され、前記電解液が流通可能な第2流路と、
前記第1流路と前記第2流路との間を接続する貫通孔と、
前記第1流路内に配置された第1電極と、
前記第2流路内に配置された第2電極と
を有し、前記被識別粒子が前記貫通孔を通過するときに生じるイオン電流の時間変化を測定することによって前記被識別粒子を識別する粒子識別センサー。
【0092】
検出用デバイスの一例を図を用いて説明する。
図1Aは、検出用デバイス2の一例を示す図である。
図1Aに示す検出用デバイス2は、基板3の一方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで試験液を充填する第1チャンバー5を形成できる第1チャンバー部材51、基板3の他方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで試験液を充填する第2チャンバー6を形成できる第2チャンバー部材61、を少なくとも含んでいる。
第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61は、電気的および化学的に不活性な材料で形成することが好ましく、例えば、ガラス、サファイア、セラミック、樹脂、ゴム、エラストマー、SiO
2、SiN、Al
2O
3などが挙げられる。
第1チャンバー5及び第2チャンバー6は、貫通孔4を挟むように形成され、第1チャンバー5に投入したサンプルが、貫通孔4を通り第2チャンバー6に移動できるように形成されていれば特に制限はない。例えば、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61を別々に作成し、基板3に液密となるように接着すればよい。又は、1つの面が解放状態の略直方体の箱部材を形成し、箱の中央に基板3を挿入・固定し、その後、解放状態の面を液密に封止してもよい。その場合、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61は別々の部材を意味するのではなく、基板3を境に分けた箱部材の一部を意味する。なお、図示はしていないが、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61には、試験液を充填・排出、電極及び/又はリードを挿入するための孔を必要に応じて形成してもよい。
図1Bは、被検生体物質検出装置1の一例を示す概略図である。被検生体物質検出装置1は、
図1Aに示す検出用デバイス2に加え、第1チャンバー5内の試験液と接する箇所に形成された第1電極52、第2チャンバー6内の試験液と接する個所に形成された第2電極62、被検生体物質41が貫通孔4を通過する時のイオン電流を測定するための電流計7を少なくとも含んでいる。
また、被検生体物質検出装置1は、必要に応じて、電流計7で測定したイオン電流を解析する解析部8、測定したイオン電流値及び/または解析部8が解析した結果を表示するための表示部9、予め解析部8や表示部9を機能させるためのプログラムを格納したプログラムメモリ10、プログラムメモリ10に格納されているこのプログラムを読み出し実行するための制御部11を含んでいてもよい。プログラムは、予めプログラムメモリ10に記憶しておいても良いし、記録媒体に記録され、インストール手段を用いてプログラムメモリ10に格納されるようにしてもよい。
第1電極52及び第2電極62は、アルミニウム、銅、白金、金、銀、チタン等の公知の導電性金属で形成することができる。第1電極52及び第2電極62は、貫通孔4を挟むように形成し、直流電流を印加することで試験液中のイオンを輸送する。したがって、第1電極52は、第1チャンバー5内の試験液に接する場所に形成されていればよく、基板3の面上、第1チャンバー部材51の内面、又は第1チャンバー5内の空間にリード53を介して配置すればよい。第2電極62も第1電極52と同様に、第2チャンバー6内の試験液に接する場所に形成されていればよく、基板3の面上、第2チャンバー部材61の内面、又は第2チャンバー6内の空間にリード63を介して配置すればよい。なお、
図1Aに示す例では、第1電極52は第1チャンバー部材51の内面に、第2電極62は第2チャンバー部材61の内面にそれぞれ形成されているが、第1電極52及び第2電極62は、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61に形成した孔から挿入してもよい。
第1電極52は、リード53を介して電源54、アース55に接続している。第2電極62は、リード63を介して電流計7、アース64に接続している。なお、
図1Bに示す例では、電源54は第1電極52側に、電流計7は第2電極62側に接続しているが、電源54と電流計7は、同じ電極側に設けてもよい。
電源54は、第1電極52及び第2電極62に直流電流を通電できるものであれば特に制限はない。電流計7は、第1電極52及び第2電極62に通電した際に、発生するイオン電流を経時的に測定できるものであれば特に制限はない。なお、
図1Bには図示していないが、必要に応じてノイズ除去回路や電圧安定化回路等を設けてもよい。
被検生体物質検出装置1の貫通孔4に被検生体物質が通過すると、貫通孔4を流れているイオン電流が被検生体物質により遮断され、イオン電流が減少する。このイオン電流の減少量が貫通孔4内の被検生体物質の体積に比例する。
解析部8は、電流計7で測定したイオン電流の値(波形)を解析する。
表示部9は、測定したイオン電流の値(波形)、解析部8で解析した結果を表示できればよく、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど、公知の表示装置を用いればよい。
【0093】
図2に検出デバイスの他の一例の断面模式図を示す。
図2に示されるように、検出デバイス100は、第1層110内に形成された第1流路(第1チャンバー)111と、第2層120内に形成され第2流路(第2チャンバー)121と、第1流路111と第2流路121との間を接続する貫通孔130と、第1流路111内に配置された第1電極112と、第2流路121内に配置された第2電極122とを有する。
第1流路111及び第2流路121は、被検生体物質101を含む試験液を第1流路111及び第2流路121内に導入するための導入口113,123をそれぞれ有しており、被検生体物質101を含む試験液が流通可能な状態となっている。
第1流路111と第2流路121との間は、シリコン基板140及びその上に形成された薄膜141、並びに隔壁143によって区画されており、貫通孔130は、シリコン基板140及び薄膜141から形成されたチップ142の中央部に形成されている。
第1流路111と第2流路121とは、貫通孔130が形成される領域で重なっていれば、平行であっても平行でなくてもよい。
上記のような構造を有する検出デバイス100では、被検生体物質101を含む試験液を、導入口113,123から導入して第1流路111、第2流路121及び貫通孔130内に充填した後、被検生体物質101が貫通孔130を通過するときに生じるイオン電流の時間変化を測定することによって被検生体物質101を識別する。
被検生体物質101の識別を行う場合、まず、検出デバイス100の第1電極112を、増幅器150、電流計151及び電源152と電気的に接続し、粒子識別センサーの第2電極122を、電源152と電気的に接続する。電源152は、第1電極112と第2電極122との間に電位差を与える。電流計151は、第1電極112と第2電極122との間を流れるイオン電流を測定する。増幅器150は、イオン電流の信号を増幅する。
次に、電源152を用いて第1電極112と第2電極122との間に電位を印加する(例えば、第1電極112に高電位、第2電極122に低電位を印加する)。帯電した第1流路111内の被検生体物質101は、電位差によって第1流路111から貫通孔130を経由して第2流路121に移動する。被検生体物質101が貫通孔130を通過するとき、貫通孔130内の試験液中のイオンが少なくなるため、第1電極112と第2電極122との間のイオン電流が減少する。このイオン電流の過渡的な時間変化を増幅器150で増幅させた後、電流計151によって測定することにより、被検生体物質101の識別を行うことができる。
上記のような被検生体物質101の識別は、増幅器150、電流計151及び電源152を備える被検生体物質検出装置を用いて行うことができる。この被検生体物質検出装置は、検出デバイス100を収容可能な収容部と、検出デバイス100の第1電極112と第2電極122との間に電位を印加する電源152と、第1電極112と第2電極122との間に流れるイオン電流を増幅させる増幅器150と、増幅されたイオン電流を測定する電流計151とを備える。検出デバイス100は、被検生体物質101を含む試験液を第1流路111、第2流路121及び貫通孔130内に充填した状態で収容してもよいし、被検生体物質101を含む試験液を充填する前の状態で収容し、測定時に被検生体物質101を含む試験液を充填してもよい。
上記のような構造を有する被検生体物質検出装置を用いることにより、被検生体物質101の識別を容易に行うことが可能となる。
【0094】
(検出用デバイスの製造方法)
本発明の検出用デバイスの製造方法は、被検生体物質の検出用デバイスに、本発明のコーティング用組成物をコーティングすることを含む。
コーティング方法としては、特に制限されず、液滴滴下法、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナ法(回転塗布法)、スプレー法などが挙げられる。
【0095】
検出用デバイスにおけるコーティングされる部分は、検出用デバイスにおいて、試験液が触れる部分を含むことが好ましい。
【0096】
コーティング用組成物がコーティングされる前の検出用デバイスとしては、例えば、前述の検出用デバイスが挙げられる。
例えば、検出用デバイスは、貫通孔が形成された基板と、基板により区画された第1チャンバー及び第2チャンバーとを有する。そして、第1チャンバー及び第2チャンバーが、貫通孔により連通されている。
コーティングは、例えば、第1チャンバーの表面、貫通孔、及び第2チャンバーの表面の少なくともいずれかに施される。
被検生体物質を検出する際に、試験液が第1チャンバーに提供され、第1チャンバーに提供された試験液が貫通孔を通過して第2チャンバーに移動する場合、コーティング用組成物によるコーティングは少なくとも第1チャンバーの表面及び貫通孔に施されていることが好ましい。
被検生体物質を検出する際に、試験液が第1チャンバー及び第2チャンバーに提供され、被検生体物質が貫通孔を移動する場合、コーティング用組成物によるコーティングは第1チャンバーの表面、貫通孔、及び第2チャンバーの表面に施されていることが好ましい。
【0097】
(被検生体物質の検出方法の他の一例)
また、本発明の被検生体物質の検出方法の他の一例は、被検生体物質を、検出用デバイス内に形成された貫通孔を通過させる通過工程を含む。
当該通過工程は、本発明の検出用デバイスの製造方法により製造された検出用デバイス内の貫通孔に試験液が提供されることを含む。
当該通過工程の一例は、例えば、第1チャンバーに試験液が提供され、第1チャンバーから第2チャンバーへ貫通孔を通過して試験液が移動することにより行われる。
当該通過工程の他の一例は、例えば、第1チャンバー及び第2チャンバーに試験液が提供され、第1チャンバーから第2チャンバーへ貫通孔を通過して被検生体物質が移動することにより行われる。
ここでの試験液は、本発明の試験液であってもよいし、本発明の試験液と異なり非イオン性界面活性剤を含有していなくてもよい。即ちここでの試験液は、被検生体物質の検出に用いられる検体を少なくとも含有する一方で、非イオン性界面活性剤を含有していてもよいし、非イオン性界面活性剤を含有していなくてもよい。
ここでの試験液の一例は、例えば、検体と水溶液とを混合することで得られる。検体の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で挙げた検体の具体例及び好適例が挙げられる。水溶液の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で挙げた水溶液の具体例及び好適例が挙げられる。
【0098】
(検出用デバイス)
また、本発明の検出用デバイスの一例は、コーティング膜を備える。
コーティング膜は、被検生体物質の検出感度を向上させるための膜である。
コーティング膜は、非イオン性界面活性剤を含有する。
非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例としては、例えば、本発明の希釈液の説明で例示した非イオン性界面活性剤の具体例及び好適例が挙げられる。
コーティング膜は、例えば、本発明のコーティング用組成物をコーティングすることにより得られる。
コーティング膜を備える本発明の検出用デバイスは、例えば、本発明の検出用デバイスの製造方法により得ることができる。
【0099】
検出用デバイスの一例は、貫通孔が形成された基板と、基板により区画された第1チャンバー及び第2チャンバーとを有し、第1チャンバー及び第2チャンバーが、貫通孔により連通されている。
コーティング膜は、例えば、試験液と接する箇所に形成されている。
コーティング膜は、例えば、貫通孔に形成されている。
コーティング膜は、例えば、第1チャンバーの表面に形成されている。
コーティング膜は、例えば、第2チャンバーの表面に形成されている。
【実施例0100】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
本実施例において以下に挙げる略号の詳細は、以下のとおりである。
<リン酸緩衝生理食塩水>
・D-PBS(-):富士フイルム和光純薬株式会社製、045-29795、リン酸緩衝生理食塩水
・PBS:SIGMA-ALDRICH製、Phosphate bufferred saline、79383-1Lを純水で10倍に希釈し調製した。
【0102】
<非イオン性界面活性剤>
・OLFINE EXP.4200:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤、上記式(2)に該当(R1及びR4はイソブチル基、R2及びR3はメチル基、R5及びR6は主にメチル基、他に水素原子も含まれると推定される)
・アデカプルロニックL-72:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックP-101:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックP-103:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックL-31:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックL-61:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックL-44:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
・アデカプルロニックL-64:ADEKA株式会社製、ポリアルキレングリコール系界面活性剤、上記式(2-1)に該当(R1は水素原子)
【0103】
<ウイルス>
GenomONETM-CF:石原産業株式会社製、CF-004
【0104】
(実施例1-1-1:希釈液1-1の調製)
OLFINE EXP.4200をD-PBS(-)で0.2w/v%となるように調製し、希釈液1-1を得た。
【0105】
(実施例1-1-2:希釈液1-2の調製)
OLFINE EXP.4200をPBSで0.072w/w%となるように調製し、希釈液1-2を得た。
【0106】
(実施例1-2-1:希釈液2-1の調製)
OLFINE EXP.4200をPBSで0.1w/w%となるように調製し、希釈液2-1を得た。
【0107】
(実施例1-2-2:希釈液2-2の調製)
OLFINE EXP.4200を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液2-2を得た。
【0108】
(実施例1-3-1:希釈液3-1の調製)
アデカプルロニックL-72をPBSで0.1w/w%となるように調製し、希釈液3-1を得た。
【0109】
(実施例1-3-2:希釈液3-2の調製)
アデカプルロニックL-72を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液3-2を得た。
【0110】
(実施例1-4-2:希釈液4-2の調製)
アデカプルロニックL-31を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液4-2を得た。
【0111】
(実施例1-5-2:希釈液5-2の調製)
アデカプルロニックL-61を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液5-2を得た。
【0112】
(実施例1-6-2:希釈液6-2の調製)
アデカプルロニックL-44を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液6-2を得た。
【0113】
(実施例1-7-2:希釈液7-2の調製)
アデカプルロニックL-64を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液7-2を得た。
【0114】
(実施例1-8-2:希釈液8-2の調製)
アデカプルロニックP-103を純水で0.1w/w%となるように調製し、希釈液8-2を得た。
【0115】
(調製例1:模擬試験液1の調製)
センダイウイルスとしてGenomONETM-CFを使用した。GenomONETM-CFのFreeze-dried HVJ-EにHVJ-E Suspending Bufferを260μL加えて懸濁した。続いてD-PBS(-)で500倍(体積比)希釈し、模擬検体を得た。
得られた模擬検体と、実施例1-1-1で得られた希釈液1-1とを1:1(体積比)で混合し、模擬試験液1を得た。
【0116】
(調製例2:模擬試験液2の調製)
センダイウイルスとしてGenomONETM-CFを使用した。GenomONETM-CFのFreeze-dried HVJ-EにHVJ-E Suspending Bufferを260μL加えて懸濁した。続いてD-PBS(-)で1000倍(体積比)希釈し、模擬試験液2を得た。
【0117】
(調製例3:模擬試験液3の調製)
大腸菌としてE. coli DH5α Competent Cells(タカラバイオ株式会社、9057)を使用した。大腸菌はLB培地で100rpm、37℃、15時間の条件で振盪培養したあと、7000rpm、4℃、10分の条件で遠心して大腸菌ペレットを回収した。大腸菌ペレットは8%グリセロール(富士フイルム和光純薬(株)、075-00616)を添加したD-PBS(-)で濁度590nmの値が0.1になるように希釈懸濁し、模擬検体を得た。
得られた模擬検体と、実施例1-1-2で得られた希釈液1-2とを1:1(体積比)で混合し、模擬試験液3を得た。
【0118】
(実施例A:モジュールのコート例1)
アデカプルロニックP-101を、固形分0.1wt%になるように、純水及びエタノールが1:1(重量比)の混合液に溶解させ、コート液1を得た。
得られたコート液1を、ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(CSTEC株式会社、AIP003-01A)の流路部に満たすことで、コート液1によるモジュールのコーティングを行った。
【0119】
(実施例B:モジュールのコート例2)
アデカプルロニックP-103を、固形分0.1wt%になるように、純水及びエタノールが1:1(重量比)の混合液に溶解させ、コート液2を得た。
得られたコート液2を、ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(CSTEC株式会社、AIP003-01A)の流路部に満たすことで、コート液2によるモジュールのコーティングを行った。
【0120】
(実施例C:モジュールのコート例3)
アデカプルロニックP-101を、固形分0.02wt%になるように、純水及びエタノールが1:1(重量比)の混合液に溶解させ、コート液3を得た。
得られたコート液3を、ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(CSTEC株式会社、AIP003-01B)の流路部に満たすことで、コート液3によるモジュールのコーティングを行った。
【0121】
(実施例D:モジュールのコート例4)
アデカプルロニックP-103を、固形分0.05wt%になるように、純水及びエタノールが1:1(重量比)の混合液に溶解させ、コート液4を得た。
得られたコート液4を、ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(CSTEC株式会社、AIP003-01B)の流路部に満たすことで、コート液4によるモジュールのコーティングを行った。
【0122】
(実施例2-1)
ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(株式会社朝日ラバー、M-AS-300-A002-002-Pm)の流路に、調製例1で得た模擬試験液1をピペットマンで、流路が満たされるまで滴下した。滴下した模擬試験液1が自動的に流路に入り、かつ計測装置中で導通するかを確認した。そのところ、導通が確認された。
装置は微粒子計測装置nanoSCOUTERTM(株式会社アドバンテスト、WEL1100)を使用した。測定条件としてHardware Setting Range: Range1(user2)、MOVING Average: 1/1、Voltage: -0.1Vに設定した。
導通を確認後、引き続き検体のパルス検出数を測定した。上記と同じ測定条件で5分間測定し、測定データはアイポアpcソフトウェアで解析を行い、極小パルス用でパルス抽出を行い、5分間で検出されたパルスの数をカウントした。
表1に、パルスの測定回数及び1回毎のパルス数を示した。
【0123】
(実施例2-2及び実施例2-3)
実施例2-1において、アイポアセンサモジュールの種類及びパルスの測定回数を、表1に記載のアイポアセンサモジュール(いずれもポア径は300nm)及びパルスの測定回数に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、パルス測定を行った。
結果を表1に示した。
【0124】
(実施例2-4)
アイポアセンサモジュールとして、実施例Cで作製した、コート液3によってコーティングされたモジュールを用いた。パルス数の測定回数を3回とした。それ以外は、実施例2-1と同様にして、パルス測定を行った。
結果を表1に示した。
【0125】
(実施例2-5)
アイポアセンサモジュールとして、実施例Dで作製した、コート液4によってコーティングされたモジュールを用いた。パルス数の測定回数を3回とした。それ以外は、実施例2-1と同様にして、パルス測定を行った。
結果を表1に示した。
【0126】
(実施例2-6)
アイポアセンサモジュールとして、実施例Aで作製した、コート液1によってコーティングされたモジュールを用いた。パルス数の測定回数を1回とした。模擬試験液として、模擬試験液2を用いた。それ以外は、実施例2-1と同様にして、パルス測定を行った。
結果を表1に示した。
【0127】
(実施例2-7)
アイポアセンサモジュールとして、実施例Bで作製した、コート液2によってコーティングされたモジュールを用いた。パルス数の測定回数を1回とした。模擬試験液として、模擬試験液2を用いた。それ以外は、実施例2-1と同様にして、パルス測定を行った。
結果を表1に示した。
【0128】
(実施例2-8)
ポア径3μmのマイクロポアデバイス(株式会社アドバンテスト)に調製例3で得た模擬試験液3をピペットマン等で流路が満たされるまで滴下した。
マイクロポアデバイスを微粒子計測装置microSCOUTERTM(株式会社アドバンテスト、WEL1200)にセットした。microSCOUTERTMの測定条件としてHardware Setting Range: Range1(±10 μA)、MOVING Average: 1/1、Voltage: -0.1 Vに設定し、5分間測定を行い、5分間で検出された大腸菌の数をカウントした。
表1に、パルスの測定回数及び1回毎のパルス数を示した。
【0129】
(比較例1)
ポア径300nmのアイポアセンサモジュール(株式会社朝日ラバー、M-AS-300-A002-002-Pm)の流路に、調製例2で得た模擬試験液2をピペットマンで、流路が満たされるまで滴下した。滴下した模擬試験液2が自動的に流路に入り、かつ計測装置中で導通するかを確認した。しかし、導通は確認されなかった。そのため、パルス測定が行えなかった。
【0130】
【表1】
比較例1に示すように、非イオン性界面活性剤を含有するコート液又は希釈液を用いない場合、試験液がモジュール中の微細流路に入らないためパルス測定を行うことができなかった。
それに対して、非イオン性界面活性剤を含有するコート液及び/又は希釈液を用いた実施例2-1~2-8では、パルスが測定された。
【0131】
(消泡性試験/条件)
希釈液で希釈した試験液が気泡を有する場合に、その気泡が貫通孔を塞ぐと、被検生体物質が貫通孔を通過できなくなる。他方、気泡を有しにくい希釈液であると、被検生体物質が貫通孔を通過しやすくなる。そこで、希釈液の消泡性を評価した。
各希釈液20mLを30cc(直径2.5cm×高さ6.5cm)の容器に入れた。ボルテックスミキサー(フィッシャーサイエンティフィック)を用い2000rpmで1分間上記の容器を振とうした。その後、泡が無くなるまでの時間を目視確認し、泡がなくなるまでの時間が1分未満のものを「○」、1分以上のものを「×」とした。
【0132】
(たんぱく質吸着試験)
被検生体物質が貫通孔に達するまでの間に検出デバイスの表面に吸着されると、被検生体物質の検出の精度が低下する。そこで、検出デバイスで使用される主な材質について、被検生体物質(本例ではタンパク質)の吸着試験を行った。
【0133】
<たんぱく質吸着試験/条件1>
ヤギ抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート(Southern Biotechnology Associates社製)をPBSで1mg/gの濃度になるように希釈し、IgG-HRP液を調製した。このIgG-HRP液と上記の希釈液を1:1(体積比)になるよう混合した。また、陰性対照としてIgG-HRP液とPBSを1:1(体積比)になるよう混合した。これら混合液を、プレートの底面が疎水性のPET(ルミラーフィルムT-60、東レ株式会社)で構成される96ウェルプレートに対し、100μlずつ5ウェルに添加した。室温で30分静置した後、ウェル内の混合液を排液した。続いて、各ウェルに200μlのPBSを加え、排液する操作を3回繰り返した。続いて、TMB溶液(sera care社製、SureBlue)を各ウェルに100μlずつ加え、その1分後にSTOP solution(sera care社製)を100μlずつ加えた。マイクロプレートリーダー(TECAN社製、infinite M200PRO)を用い、450nmおよび650nmにおける吸光度を測定した。450nmにおける吸光度から650nmにおける吸光度を引いた値を算出し、各混合液を添加した5ウェルの平均吸光度を得た。陰性対照のウェルにおける平均吸光度をたんぱく質吸着率100%とし、各混合液を加えたウェルのたんぱく質吸着率を算出した。
【0134】
<たんぱく質吸着試験/条件2>
ヤギ抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート(Southern Biotechnology Associates社製)をPBSで1mg/gの濃度になるように希釈し、IgG-HRP液を調製した。このIgG-HRP液と上記の希釈液を1:1(体積比)になるよう混合した。また、陰性対照としてIgG-HRP液とPBSを1:1(体積比)になるよう混合した。これら混合液を、プレートの底面が親水処理ポリエステルフィルム(品番:9984、アズワン株式会社)で構成される96ウェルプレートに対し、100μlずつ5ウェルに添加した。室温で30分静置した後、ウェル内の混合液を排液した。続いて、各ウェルに200μlのPBSを加え、排液する操作を3回繰り返した。続いて、TMB溶液(sera care社製、SureBlue)を各ウェルに100μlずつ加え、その1分後にSTOP solution(sera care社製)を100μlずつ加えた。マイクロプレートリーダー(TECAN社製、infinite M200PRO)を用い、450nmおよび650nmにおける吸光度を測定した。450nmにおける吸光度から650nmにおける吸光度を引いた値を算出し、各混合液を添加した5ウェルの平均吸光度を得た。陰性対照のウェルにおける平均吸光度をたんぱく質吸着率100%とし、各混合液を加えたウェルのたんぱく質吸着率を算出した。
【0135】
<たんぱく質吸着試験/条件3>
ヤギ抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート(Southern Biotechnology Associates社製)をPBSで1mg/gの濃度になるように希釈し、IgG-HRP液を調製した。このIgG-HRP液と上記の希釈液を1:1(体積比)になるよう混合した。また、陰性対照としてIgG-HRP液とPBSを1:1(体積比)になるよう混合した。これら混合液を、プレートの底面が接着剤転写テープ(9969、アズワン株式会社)で構成される96ウェルプレートに対し、100μlずつ5ウェルに添加した。室温で30分静置した後、ウェル内の混合液を排液した。続いて、各ウェルに200μlのPBSを加え、排液する操作を3回繰り返した。続いて、TMB溶液(sera care社製、SureBlue)を各ウェルに100μlずつ加え、その1分後にSTOP solution(sera care社製)を100μlずつ加えた。マイクロプレートリーダー(TECAN社製、infinite M200PRO)を用い、450nmおよび650nmにおける吸光度を測定した。450nmにおける吸光度から650nmにおける吸光度を引いた値を算出し、各混合液を添加した5ウェルの平均吸光度を得た。陰性対照のウェルにおける平均吸光度をたんぱく質吸着率100%とし、各混合液を加えたウェルのたんぱく質吸着率を算出した。
【0136】
(接触角測定/条件1)
PET基板(ルミラーフィルムT-60、東レ株式会社)に対し、ピペットを用いて4μlの上記希釈液を付着させた。付着後5秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-701)を用いて測定した。
【0137】
(接触角測定/条件2)
SiN基板に対し、ピペットを用いて4μlの上記希釈液を付着させた。付着後1秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-701)を用いて測定した。
【0138】
(表面張力測定)
シャーレに対し上記希釈液を添加した。表面張力計(協和界面科学株式会社、DY-700)を用い、Willhelmy法にて1分後の表面張力を測定した。
【0139】
(毛細管力算出)
微細な流路、及び貫通孔を液体が通過する場合、毛細管力が小さい程、液体が通過する速度は遅い。速度が遅いと、液体は気泡を発生しにくくなる。その結果、気泡が貫通孔を塞ぐことを防ぐことができ、被検生体物質は貫通孔を通過しやすくなる。
【0140】
<毛細管力算出/条件1>
得られた表面張力γ、接触角θにより矩形の微細流路における毛細管力が文献(Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol82, No.5, 2016)の通り以下式(F1)から算出できる。ここでは、PET(ポリエチレンテレフタレート)製の矩形の微細流路の大きさを長辺ω=0.001m、短辺d=0.00054mとして各希釈液の毛細管力を算出した。
【数4】
【0141】
<毛細管力算出/条件2>
得られた表面張力γ、接触角θにより円形の微細流路における毛細管力が文献(Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol82, No.5, 2016)の通り以下式(F2)から算出できる。ここでは、SiN製の円形の微細流路(例えば、貫通孔)の半径を、半径r=0.00000015mとして各希釈液の毛細管力を算出した。
【数5】
【0142】
(実施例3-2-1)
希釈液2-1について、上記の消泡性試験、たんぱく質吸着試験を実施した。結果を表2に示した。
【0143】
(実施例3-2-2)
希釈液2-2について、上記の接触角測定、表面張力測定を実施した。結果を表3に示した。
また、得られた接触角、及び表面張力を用いて、上記条件1、及び条件2の各条件の毛細管力を算出した。結果を表3に示した。
【0144】
(実施例3-3-1)
希釈液3-1について、上記の消泡性試験、たんぱく質吸着試験を実施した。結果を表2に示した。
【0145】
(実施例3-3-2)
希釈液3-2について、上記の接触角測定、表面張力測定を実施した。結果を表3に示した。
また、得られた接触角、及び表面張力を用いて、上記条件1、及び条件2の各条件の毛細管力を算出した。結果を表3に示す。
【0146】
(比較例2-1-1)
PBSについて、上記消泡性試験を実施した結果を表2に示した。上記たんぱく質吸着試験1~3の陰性対照を、比較例2-1-1として表2に示した。
【0147】
【0148】
表2から、実施例の希釈液を用いると、たんぱく質吸着試験でたんぱく質の吸着量が少ないことが分かった。即ち、当該希釈液は被検生体物質の吸着抑制性能を有しており、被検生体物質の検出デバイスにおける検出感度を向上させると考えられる。また、当該希釈液は十分な消泡性を有しており、希釈液中の気泡による流路の閉塞を生じにくいことが分かった。
【0149】
【表3】
なお、「E+」は10のべき乗を表す。例えば、「E+05」は、10
5を表し、-1.55E+05は、-1.55×10
5を表す。表4も同様である。
【0150】
表3から、実施例の希釈液を用いると、接触角及び表面張力が低いことが分かった。即ち、濡れ性が高く、流路を閉塞させにくいと考えられる。
【0151】
(表面張力測定)
シャーレに対し上記希釈液を添加した。表面張力計(協和界面科学株式会社、DY-700)を用い、Willhelmy法にて1分後の表面張力を測定した。
【0152】
(接触角測定/条件3)
シリコンゴムシートに対し、ピペットを用いて4μlの上記希釈液を付着させた。付着後1秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-701)を用いて測定した。
【0153】
<毛細管力算出/条件3>
得られた表面張力γ、接触角θにより円形の微細流路における毛細管力が文献(Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol82, No.5, 2016)の通り以下式(F2)から算出できる。ここでは、シリコンゴム製の円形の微細流路(例えばシリコンチューブ)の半径を、半径r=0.00025mとして各希釈液の毛細管力を算出した。
【数6】
【0154】
(毛細管力確認試験)
上記で算出した毛細管力は、負の場合、毛細管を液が流れることを示し、正の場合、毛細管を液が流れないことを示す。条件3で算出された毛細管力の計算結果に対し、実際の毛細管でも同様の結果となるか検証を行った。
【0155】
<希釈液の通過試験>
内径0.5mm(半径0.00025m)のシリコンチューブを垂直にした状態で、上記で調製した希釈液に対し下端から1cm浸漬させた。その後、シリコンチューブを希釈液から引き上げ、毛細管力により上昇した希釈液の液面の高さを確認した。液面の高さが1cmより大きい場合は「○」、1cm以下且つ0.1cmより大きい場合は「△」、0.1cm以下の場合は「×」として評価した。
【0156】
(実施例4-2-2)
希釈液2-2について、上記の条件3での接触角測定、希釈液の通過試験を実施した。結果を表4に示した。
また、上記の表面張力測定を実施した。結果を表4に示した。
また、得られた接触角、及び表面張力を用いて、上記条件3の毛細管力を算出した。結果を表4に示した。
【0157】
(実施例4-3-2~4-8-2、及び比較例4-1-2)
下記表4に示す希釈液について、上記の条件3での接触角測定、希釈液の通過試験を実施した。結果を表4に示した。
また、上記の表面張力測定を実施した。結果を表4に示した。
また、得られた接触角、及び表面張力を用いて、上記条件3の毛細管力を算出した。結果を表4に示した。
【0158】
【0159】
希釈液の通過試験において、毛細管力が作用する希釈液においては、毛細管力の分、その液面がチューブ外より高くなる。表4に示した通り、実施例の希釈液については、毛細管力の計算結果が負だった希釈液は、いずれも液面が大きく上昇しており、正だった希釈液でも、水よりは液面が上昇していた。以上より、毛細管力の算出結果が正しかったことを検証できたと考える。