(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134942
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】積層構造体、レンズ、積層構造体の製造方法、及び曲面積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/161 20060101AFI20230921BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230921BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20230921BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20230921BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20230921BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20230921BHJP
【FI】
G02F1/161
B32B7/025
B32B27/38
B32B7/022
G02C7/10
G02F1/15 502
G02F1/15 503
G02F1/15 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039883
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】八代 徹
(72)【発明者】
【氏名】若林 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 孔司
(72)【発明者】
【氏名】油谷 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 智男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
【テーマコード(参考)】
2H006
2K101
4F100
【Fターム(参考)】
2H006BE01
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(57)【要約】
【課題】電子材料含有部の劣化が少なく、信頼性の高い積層構造体の提供。
【解決手段】支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている積層構造体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、
前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されていることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記着色部が、2以上の層を有する請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記保護部が、エポキシ樹脂を含有する請求項1から2のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項4】
前記保護部が、光硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂を含有する請求項1から3のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項5】
前記保護部が、弾性率が3,000MPa以下である低弾性材料を含有する請求項1から4のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項6】
前記保護部が、前記活性物質を含有しない色材を含有する請求項1から5のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項7】
前記保護部が脂環式エポキシ樹脂を含有する請求項3から6のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項8】
前記電子材料含有部が、エレクトロクロミック材料を含有する請求項1から7のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項9】
前記支持体が、樹脂を含有し、
構造体の形状が曲面形状を有する請求項1から8のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項10】
前記支持体における前記導電層を有する面とは反対の面上に、樹脂からなる樹脂層をさらに有する請求項1から9のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の積層構造体を有することを特徴とするレンズ。
【請求項12】
電子調光レンズである請求項11に記載のレンズ。
【請求項13】
支持体上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記導電層上に電子材料含有部を形成する電子材料含有部形成工程と、
前記導電層上、かつ、前記電子材料含有部が配されていない領域に、活性物質を含有する着色部を形成する着色部形成工程と、
前記支持体上、かつ、前記電子材料含有部及び前記着色部が配されていない領域に、前記電子材料含有部及び前記着色部が、保護部を介して平面内に配されるように前記保護部を形成する保護部形成工程と、
を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項14】
前記保護部がインクジェット方式で形成されることを含む請求項13に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項15】
支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている積層構造体を、
加熱した曲面金型に圧着させることにより曲面形状を形成する曲面形状形成工程を含むことを特徴とする曲面積層構造体の製造方法。
【請求項16】
曲面形状を形成した前記積層構造体の支持体における前記導電層を有する面を金型に接するようにして前記金型に配し、露出する前記支持体上に、樹脂を射出して前記支持体と前記樹脂とが一体成型した樹脂層を形成する樹脂層形成工程を、さらに含む、請求項15に記載の曲面積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、レンズ、積層構造体の製造方法、及び曲面積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品の表面をデコレーションする技術として、加飾フィルムを用いたインサート成型技術が知られている。この技術においては、あらかじめ形成した加飾フィルムを射出成型金型にセットし、当該加飾フィルム裏面に樹脂を射出して溶着させることで、加飾フィルムを表面に有するプラスチック製品を一体成型する。
インサート成型技術においては、加飾フィルムを製品の表面に貼り付ける方式に比べ、継ぎ目のない表面や一体化による部材の削減及び省スペースにより、製品のデザイン性、生産性を高くすることができるため、車の内装部品、スマートフォンカバーなどの製造に応用されている。
【0003】
近年では、加飾フィルムに相当するインサートシートとして、導電層を有するものを用いてインサート成型を行うことにより、ウェアラブル用途のタッチパネルやディスプレイなどの電子デバイスを製造する試みもなされている。
このような電子デバイスとしては、加飾部となる着色層と導電(回路)層とを積層してインサート加工することや、2つの導電層間に電子材料含有部(蛍光体層)と着色層を形成したシートをインサート加工することなどが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
一般にディスプレイなどの電子デバイスでは外部からの表示視認するために、導電層として、透光性(透明性)の高いものを用いる。
また、ウェアラブル用途においては、電子デバイスが、軽量で割れにくく、デザイン性や装着性に優れる曲面形状などの立体形状を有する曲面積層構造体であることが好ましい。
曲面積層構造体としては、例えば、高温環境における導電層の損傷を抑制するために、導電層と、下地層と、支持体と、所定の軟化温度を含有する樹脂層と、をこの順に有する曲面積層構造体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料含有部の劣化が少なく、信頼性の高い積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段としての本発明の積層構造体は、支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子材料含有部の劣化が少なく、信頼性の高い積層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、第2の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図3】
図3は、第3の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図4】
図4は、第4の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図5】
図5は、第5の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図6】
図6は、第6の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図7A】
図7Aは、第7の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図7B】
図7Bは、第7の実施形態に係る積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図8A】
図8Aは、第8の実施形態に係る曲面積層構造体の一例を示す概略上面図である。
【
図8B】
図8Bは、第8の実施形態に係る曲面積層構造体の一例を示す概略上面図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置の一例を示す概略側面図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置を用いた立体曲面形成方法の一例を工程順に示す図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置を用いた立体曲面形成方法の一例を工程順に示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置を用いた立体曲面形成方法の他の一例を工程順に示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の積層構造体の一例である球面成型体を作製するインサート射出成型装置の一実施形態を示す説明図である。
【
図13A】
図13Aは、インサート射出成型装置を用いたインサートシートの一体化成型方法の一例を工程順に示す図である。
【
図13B】
図13Bは、インサート射出成型装置を用いたインサートシートの一体化成型方法の一例を工程順に示す図である。
【
図13C】
図13Cは、インサート射出成型装置を用いたインサートシートの一体化成型方法の一例を工程順に示す図である。
【
図14】
図14は、インサート射出成型装置を用いた本発明の曲面形状の積層構造体の一例を示す概略側面図である。
【
図16】
図16は、TMA(Thermo Mechanical Analysis)装置を用いた熱膨張率の測定の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(積層構造体)
本発明の積層構造体は、支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、下地層、さらに必要に応じてその他の部材を有する。
本発明の積層構造体は、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている。
なお、本明細書において、「活性物質」とは、反応活性を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、反応性モノマー、溶媒、ラジカル開始剤、カチオン開始剤などが挙げられる。
「反応性モノマー」とは、重合反応可能な重合性官能を有するモノマーを意味する。
「ラジカル開始剤」とは、光又は熱などの物理的な作用や、他の化合物との化学的な作用によって分解してラジカルを発生する化合物を意味する。
「カチオン開始剤」とは、光又は熱などの物理的な作用により、酸を発生する化合物を意味する。
【0010】
従来技術の加飾部及び電子デバイス部をシートインサート成型により一体化した積層構造体では、加飾部による電子デバイス部のダメージが考慮されておらず、加飾部の着色層と電子デバイス部の電子材料含有部が隣接して形成されていた。
加飾部の着色層は、プラスチックシート表面に形成されるため、着色有機材料、着色顔料材料、溶媒、樹脂バインダーなどを含有する着色層形成インクを、乾燥、光硬化、又は熱硬化し接着形成される。なかでも生産性に優れる光硬化方式が採用されることが多く、着色層形成インクには反応性モノマー、溶媒、光ラジカル開始剤、光カチオン開始剤などの活性物質が含まれている。
一方、一般にディスプレイなどの電子デバイスは、支持体の面内に少なくとも導電層と電子材料含有部が積層され、電圧印加などにより電子材料含有部が反応することで発光、着色、配向などを利用した画像表示などの機能を有する。
電子材料含有部は電気的反応性を有するため一般的な有機材料よりも隣接している層に含まれる活性物質の影響を受けやすい場合がある。そのため、シートなど支持体表面に電子材料含有部又は導電層と、電子材料含有部の積層部と、着色層とを隣接して形成すると着色層の成分により電子材料含有部がダメージを受けて劣化するという問題がある。この劣化は、光照射や、高温又は高温になるほど反応が促進されて顕著になる。特に、シートインサート成型では、高温溶融した樹脂(樹脂温度300程度)がシート背面に射出接着されるため、射出成型時に加熱された着色層の溶融物、分解物、又はガスにより電気的反応性を有する電子材料含有部が劣化するという問題があった。
【0011】
例えば、特許文献1に記載の技術では、樹脂成型品の曲面部にEL発光部をきれいに沿わせるとともに、EL発光輝度の減衰やEL発光フィルムの損傷や剥がれのないEL発光インサート成型品とEL発光インサートフィルムを提供することを目的とすることが開示されている。特許文献1には、0℃~250℃の温度範囲内の領域において三次元絞り加工が可能な光透過性のフィルムの片面に、エラストマー樹脂を含むEL発光層が少なくとも積層されたEL発光インサートフィルムが開示されており、EL発光層が形成されていない側の面に絵柄層が形成されていること、EL発光層と着色層とを印刷によって形成した層を、EL発光部を有する絵柄層とすることが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、EL発光部と着色層が隣接して配されており、着色層によるEL発光部(電子デバイス部)のダメージが考慮されていないという問題があった。
【0012】
本発明の積層構造体は、支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配する。
本発明においては、前記電子材料含有部と、活性物質を含有する前記着色部とを、保護部を介して平面内に配することによって、前記活性物質が前記電子材料含有部と接触し、前記活性物質による前記電子材料含有部が劣化することを抑制することができる。これにより、熱、光、水分などにさらされた場合においても、高い信頼性有する積層構造体とすることができることを見出した。
なお、「電子材料含有部と、着色部とが、保護部を介して平面内に配する」とは、本発明の積層構造体を平面視したときの面と直交する断面において、これらの部材が同一の層内に存在していることを意味する。
【0013】
要するに、電子デバイスと加飾の一体化シートや前記シートを用いた成型品の製造時、又は使用環境において、光照射、高熱、高湿度に暴露にされた場合においても、保護部の形成により、活性物質を含有した着色層を形成しても、電子材料含有部又は導電層と電子材料の積層体のダメージを発生しにくくすることができる。
また、支持体表面に積層部としての、前記電子材料含有部及び前記着色部、を同一平面内に形成することにより、別々の表面に形成する場合に比べて、形成位置精度に優れ生産性が高い。また視野性に優れるためデザイン性の高い一体化シート(積層構造体)を提供することができる。
【0014】
また、1枚のシートをインサート成型するだけで電子デバイスと着色(加飾部)を有する積層構造体を作製することができるため、作製プロセスが簡略化され、生産性を向上させることができる。
これにより、例えば、電子調光レンズを有する眼鏡、ディスプレイ部と加飾部に継ぎ目や段差がなく、デザイン性に優れたディスプレイ又は加飾一体化シート、さらにシートを加工成型することで、軽量で割れにくく、デザイン性や装着性に優れる曲面形状を有するウェアラブルデバイス、立体形状ディスプレイなど提供することができる。
【0015】
<支持体>
前記支持体は、樹脂を含有し、更に必要に応じてその他の材料を含有する。
【0016】
前記樹脂の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0017】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル(ポリメチルメタクリレート)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体、スチレンブタジエンアクリロ二トリル共重合体、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリアミド(ナイロン)、ポリウレタン、フッ素系(テフロン(登録商標))などが挙げられる。
【0018】
前記支持体の前記樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PBS)、ポリオキシメチレン、ポリオレフィン及びウレタンから選択される少なくとも1種を含む材料、並びに、これらの共重合体材料のいずれかで形成されることが成型性の点で好ましい。さらに、これらの材料は、後述する射出成型材料として好適であることから、樹脂層を形成する樹脂との溶着性に優れる。さらに、これらの中でも、ポリカーボネート又はポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
なお、樹脂同士の関係を表す際に、同じ分類に分けられる樹脂同士を「同種」の樹脂と称することがある。
前記分類としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、PBS、ポリアセタール、ポリオレフィン、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0019】
前記支持体の樹脂の軟化温度としては、例えば、80℃以上300℃以下が好ましく、100℃以上200℃以下がより好ましい。
なお、本発明において、「軟化温度」は以下の条件により測定される温度を意味する。
本発明における軟化温度の測定条件は、昇温速度が5~20℃/minにおける昇温時の特性変化(重さ、熱量、伸縮量、動的粘弾性、温度)を測定し変曲点を用いることがより好ましい。DSC測定では、JIS K7121に準拠する。
以降、軟化温度の測定条件は上述したものと同様である。
【0020】
前記支持体における可視光の透過率としては、70%以上が好ましい。
前記可視光の透過率は、分光光度計により測定することができる。一般的には、前記可視光の透過率としては視感透過率が用いられ、眼鏡用レンズなどではJIS T 7313などに準拠して測定することができる。
【0021】
また、複数の支持体(基板)を設け、曲面樹脂構造体を片側から視認する用途で用いる場合には、例えば、一基板における可視光の透過率を70%以上とし、他の基板を不透明なものとしてもよい。
【0022】
なお、前記支持体の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.03mm以上5.0mm以下とすることが、曲面の形成が容易となるため好ましい。
【0023】
前記支持体は成型加工や厚板化として、支持体表面に樹脂層を接着又は溶着により一体化されてもよい。
前記樹脂層は、前記支持体における前記導電層を有する面とは反対の面上に、樹脂からなる層である。
前記支持体表面と樹脂層の界面は、射出成型、超音波溶着、レーザー溶着、熱溶着、振動溶着、キャスト成型などの各種方法で溶着又は接着することができるが、これらの中でも、製品を一体成型する射出成型、及びキャスト成型が生産性の点で好ましい。具体的には、面内に少なくとも導電層及び電子材料含有部が積層された積層部と、着色部と、前記積層部と前記着色部の間に形成された保護部を有する支持体をインサートシートとして成型金型に設置して、樹脂を射出又はキャスト(注型)インサート成型することにより、樹脂層を形成して、曲面樹脂構造体を製造することが好ましい。
キャスト成型では、成型金型内にインサートシートを設置した後、硬化樹脂を金型に注入し、加熱硬化又は光硬化することで一体成型することができる。
【0024】
前記樹脂層の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平面部品、曲面形状部品、光学レンズなどとすることができる。これらの中でも、光学レンズが好ましい。すなわち、前記樹脂層としては、光学レンズが好ましい。
前記樹脂層を光学レンズとすることにより、例えば、本発明の曲面樹脂構造体を眼鏡型のウェアラブルデバイスのレンズとして用いることが可能となる。この場合、積層構造体が電子材料含有部としてのエレクトロクロミック層を有することにより、本発明の積層構造体を電子調光眼鏡(調光サングラス)のレンズとして用いることができるため、特に好ましい。
前記樹脂層の樹脂としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、支持体の樹脂材料と同種の樹脂が好ましい。
なお、「同種」の樹脂については、基板において説明したとおりである。
これにより、基板と樹脂層の溶着強度を向上できるとともに、基板と樹脂層の屈折率を揃えることができ、積層構造体の透明性(視認性)を向上させることができる。
【0025】
さらに、前記樹脂層の材質としては、基板材料と同様に、成型性、透明性、及びコストの点で、ポリカーボネート、ポリカーボネート共重合体がより好ましい。
前記ポリカーボネート共重合体材料としては、ポリカーボネートの屈折率向上、複屈折低減、難燃性付与などの目的で、種々の異種モノマー成分を含有する共重合体材料が開発されており、これら、市販のポリカーボネート、ポリカーボネート共重合体、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂を用いることができる。
市販のポリカーボネートとしては、例えば、ユーピロン CLS3400S(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、ユーピロン H-4000(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、AD5503(帝人株式会社製)、L-1225LM(帝人株式会社製)、TR-0601A(住化ポリカーボネートSD)などが挙げられる。
市販のポリカーボネート共重合体としては、例えば、SH1126Z(帝人株式会社製)、ユーピロン KH3310UR(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、SP5570(帝人株式会社製)、SP5580(帝人株式会社製)、SP1516(帝人株式会社製)などが挙げられる。市販のUV硬化型樹脂としては、例えば、SK6500、SK3200(デクセリアルズ社製)などが挙げられる。市販の熱硬化型樹脂としては、例えば、MR8、MR7、MR10など(三井化学株式会社製)などが挙げられる。
【0026】
前記樹脂層の性質としては、製造時の支持体に接触する時の流動性が高いことが好ましい。例えば、射出成型用樹脂では、ISO 1133に準拠するメルトボリュームフローレイトが大きい方が好ましい。より具体的には、樹脂層材料の、ISO 1133に準拠するメルトボリュームフローレイトが14cm3/10min以上が好ましい。ここで、射出成型においては、射出する樹脂の流動性が高いほど、せん断応力によるインサートシート(特に導電層)のダメージを低減することができる。このため、樹脂層材料のメルトボリュームフローレイトを14cm3/10min以上とすることにより、導電層におけるクラックの発生などの損傷をより抑制することができる。
前記樹脂のISO 1133に準拠するメルトボリュームフローレイトを測定する装置としては、例えば、メルトインデックサ F-F01(株式会社東洋精機製作所製)、メルトインデクサー D4003(日本ダイニスコ株式会社製)などが挙げられる。ポリカーボネートにおけるメルトボリュームフローレイトは、一般に、測定温度300℃、測定荷重1.20kgfの条件で測定する。
なお、溶着又は接着する際に、支持体と樹脂層との溶着強度が得られにくい場合などにおいては、基板と樹脂層の間に接着層を設けてもよい。
【0027】
<導電層>
前記導電層としては、導電性を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記導電層は、例えば、電圧が印加されることにより、電子デバイスを駆動できるものであってもよいし、ジュール熱を利用して発熱可能であり、ヒーターとして機能するものでもよい。
前記導電層は、複数に分割されていてもよい。前記導電層を複数に分割する際の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2分割としてもよいし、公知のディスプレイのように複数のTFT(薄膜トランジスタ)をマトリクス状に配置した形態でもよい。
【0028】
前記導電層としては、導電性材料を含み、透明導電材料を含むことが好ましい。
前記導電性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不透明な材料、透明な材料などの導電性材料が挙げられる。これらの中でも、視認性が求められる表示用途又は調光用途などの場合は、透明な材料が好ましい。
前記不透明な材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、W、Mo等の金属材料などが挙げられる。
前記透明な材料としては、例えば、無機酸化物、カーボン(CNT、グラフェン)、メタルナノワイヤー、メタルグリッド、導電性高分子などが挙げられる。これらの中でも、無機酸化物が、緻密膜として導電性を有しており、導電性、透明性(透過率及びヘイズ)及び信頼性が優れることから好ましい。
【0029】
前記無機酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、In、Sn、Zn、Al等の酸化物材料などが挙げられる。また、前記無機酸化物を含む導電層における添加材料としては、例えば、W、Ti、Zr、Zn、Sb、Ga、Ge、Fなどが挙げられる。
【0030】
前記無機酸化物を含む導電層としては、酸化インジウムを含むことが好ましい。酸化インジウムは結晶性を制御することで加熱加工時にクラックなどのダメージが生じにくい透明導電層が得られる。
【0031】
また、酸化インジウムに、スズ(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)及びフッ素(F)等の他の酸化物が、単一で又は混合して導電層に含まれていてもよい。このような他の酸化物が含まれていることにより、酸化インジウムのキャリア密度及び移動度を向上することができる。また、結晶化温度を変更することなどができる。この場合、前記導電層としては、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)を含むことが好ましい。
【0032】
他の酸化物の導電層中の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80質量%以下であることが好ましい。また、他の酸化物としては、特に導電性の点から酸化スズ及び酸化ジルコニウムが好ましく、これらの導電層中の含有量としては、例えば、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
前記透明導電材料としては、例えば、伸縮性に優れたカーボン(カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン)、メタルナノワイヤー、メタルグリッド、導電性高分子などからなる層と、無機酸化物からなる層との複合層であってもよい。
【0034】
前記導電層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、50nm以上500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。前記導電層の平均厚みが、50nm以上500nm以下であると、曲面形成加工時におけるクラックなどのダメージの発生を抑制することができる。前記導電層の平均厚みは、電子デバイスに求められる電流量に合わせて調整されることが好ましい。
【0035】
前記導電層のシート抵抗としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300Ω/□以下が好ましい。
【0036】
前記導電層における可視光の透過率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましい。前記透過率は、導電層の平均厚みや酸化インジウム等の無機酸化物の酸素比率を変更することにより適宜調整することができる。
【0037】
前記無機酸化物を含む導電層は、例えば、真空成膜方法で形成することができ、酸化インジウム層の結晶性、すなわち結晶ピーク形状(高さH/幅W)値は、真空成膜時の基板温度、成膜速度、ガス圧等で調整することができる。また、成膜後の加熱処理もH/W値の調整に有効である。真空成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法等が挙げられる。これらの中では、高速成膜が可能なスパッタ法が好ましい。スパッタ法の場合はスパッタパワーを調整することで結晶ピークのH/W値を制御しやすい。
具体的には、無機酸化物を含む導電層としては、(222)面の結晶ピークが6以下のH/W値を有する酸化インジウムを含有するものであることが好ましい。
XRD(X-ray diffraction;X線回折)において、酸化インジウムの(222)面の結晶ピークは2θ≒32(deg.)付近に検出される。(222)面の結晶ピークが6以下のH/W値を有している場合、結晶性が高すぎず、導電層の結晶粒界を起点とするクラックの発生を抑制することができる。
なお、前記H/W値の測定条件としては、例えば、線源:Cu管球、50kV、1000μm、入射角:3°、スリット幅:1mm、コリメータ径:1mmなどが好ましい。
【0038】
前記導電層における可視光の透過率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、導電層の平均厚みや酸化インジウム等の無機酸化物の酸素比率を変更することにより適宜調整することができる。導電層における可視光の透過率としては、70%以上であることが好ましい。
前記可視光の透過率は、支持体における前記可視光の透過率の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0039】
前記導電層は、例えば、真空成膜方法で形成することができ、酸化インジウム層の結晶性、すなわち結晶ピークのH/W値は、真空成膜時の基板温度、成膜速度、ガス圧等で調整することができる。
また、成膜後の加熱処理もH/W値の調整に有効である。真空成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法等が挙げられる。
これらの中では、高速成膜が可能なスパッタ法が好ましい。スパッタ法の場合はスパッタパワーを調整することで結晶ピークのH/W値を制御しやすい。
【0040】
また、前記導電層の形成方法としては、導電性粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、導電性高分子などのインクを作製し、塗工方法で成膜することもできる。前記導電層の塗工方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法が挙げられる。
【0041】
<電子材料含有部>
本発明の積層構造体としては、導電層に接して設けられた電子材料含有部と、電子材料含有部に接して設けられた他の導電層と、を更に有することが好ましい。
すなわち、上述した積層構造体と、当該積層構造体における導電層に接して設けられた電子材料含有部と、電子材料含有部に接して設けられた他の導電層とを有する形態も、本発明においては好ましい。こうすることにより、電子材料含有部の機能に応じて、より様々な用途に本発明の積層構造体を応用することが可能となる。
なお、他の導電層としては、上述した本発明の積層構造体における導電層と同様のものを用いることができる。
【0042】
前記電子材料含有部の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記電子材料含有部としては、前記導電層上に配されていることが好ましく、2つの導電層に挟まれていることがより好ましい。
前記導電層に印加された電圧又は電流により積層構造体中の電子材料含有部が反応する。
【0043】
前記電子材料含有部としては、電気(電圧及び電流)が印加されることにより、例えば、発色、発光、偏光、変形、発熱などの機能を発現するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記電子材料含有部としては、電子材料を含み、無機材料を含むことが好ましい。
【0044】
前記電子材料としては、例えば、エレクトロクロミック材料、エレクトロルミネッセンス材料、ケミカルルミネッセンス材料、エレクトロフォレティック材料、エレクトロウエッティング材料、液晶材料、圧電材料、蓄電材料、電解質、電熱変換材料、太陽電池材料などが挙げられる。これらの中でも、エレクトロクロミック材料が好ましい。
即ち、前記電子材料含有部が、後述するエレクトロクロミック材料を含むことが好ましい。前記エレクトロクロミック材料の可逆着色機能を利用することにより、加飾と組み合わせることでデザイン性が向上する。
【0045】
前記エレクトロクロミックを有する本発明の積層構造体としては、例えば、レンズの透過率を電子制御する調光レンズ眼鏡(調光サングラス)や、デザイン性に優れたディスプレイ又は加飾一体化ディスプレイシート、軽量で割れにくくデザイン性や装着性に優れる曲面形状を有するウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)を挙げることができる。
【0046】
前記無機材料は、電子材料含有部の強度、厚さ均一性、及び熱膨張の抑制を付与するために含有される。
前記無機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機ナノ粒子などが挙げられる。前記電子材料含有部自体が無機ナノ粒子から構成されていてもよい。
【0047】
前記電子材料含有部の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、材料のコスト、及び加工性の点から、100μm以下が好ましい。
前記電子材料含有部は、加工成型に対する耐性を有する柔軟性に優れる有機材料で形成される層が好ましい。
前記電子材料含有部の塗工方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法が挙げられる。
【0048】
また、前記電子材料含有部としては、上述したような1層構造だけでなく、電子材料を含有する層と電解質を含有する層などのような機能別の層を多数有する多層構造としてもよい。
ここでは、一例として、電子材料としてエレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層、電解質を含有する電解質層を有する場合について説明する。
【0049】
<<エレクトロクロミック層>>
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック材料を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
前記エレクトロクロミック材料としては、エレクトロクロミズムを示す材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物などが挙げられる。
【0050】
前記無機エレクトロクロミック化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。無機エレクトロクロミック化合物はナノ粒子などの粒子層や緻密層として膜形成して用いられる。
【0051】
前記有機エレクトロクロミック化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリマー系及び色素系のエレクトロクロミック化合物などが挙げられる。
前記ポリマー系及び色素系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、低分子系有機エレクトロクロミック化合物、導電性高分子化合物などが挙げられる。
前記低分子系有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、ベンジジン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系の有機エレクトロクロミック化合物などが挙げられる。
前記導電性高分子化合物としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン又はこれらの誘導体などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。反応基を有するモノマーを重合させて使用してもよい。
【0052】
前記エレクトロクロミック層としては、導電性又は半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造を有することが好ましい。
具体的には、電極表面に粒径5nm以上50nm以下程度の微粒子を結着し、微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基等の極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造が好ましい。
この構造は、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック装置と比較して応答性を向上できる。
さらに、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック化合物の高い発色濃度を得ることができる。
【0053】
また、エレクトロクロミック層としては、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性又は半導体性微粒子に担持することもできる。さらに、導電性粒子は、電極層としての導電性を兼ねることができる。
前記エレクトロクロミック層は、2つのエレクトロクロミック層を有し、一のエレクトロクロミック層が、酸化状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第一のエレクトロクロミック層であり、他のエレクトロクロミック層が、還元状態において発色可能なエレクトロクロミック材料を含む第二のエレクトロクロミック層が好ましい。この形態についての詳細は後述する。
【0054】
前記エレクトロクロミック層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。エレクトロクロミック層の平均厚みが、0.2μm以上であると、発色濃度を向上することができ、5.0μm以下であると、製造コストを抑制できるとともに、消色状態における透明性を高くできるため視認性を向上させることができる。
【0055】
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック材料を溶媒に溶解して塗布製膜した後、加熱固体化、又は光や熱により重合させて形成されることが好ましい。塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0056】
<<電解質層>>
前記電解質層は、前記エレクトロクロミック材料のような電気化学反応する電子材料含有部に用いられ、イオン性液体及びポリマーの少なくともいずれかを含む固体電解質材料が好ましい。
前記電解質層が、イオン性液体及びポリマーの少なくともいずれかを含む固体電解質層であると、曲げ加工時や加熱加工時の加工性に優れる。
このような電気化学素子としては、エレクトロクロミック素子のほかに、1次電池、2次電池、キャパシター、太陽電池などがある。
【0057】
前記イオン性液体としては、固体電解質を溶媒に溶解した溶液、又はイオン液体等の液体電解質が用いられる。
前記電解質の材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。 具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2などが挙げられる。 これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらのカチオン成分とアニオン成分を組み合わせて処方したイオン液体を用いることができる。
前記固体電解質を溶解させる溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類などが挙げられる。 これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記イオン液体としては、特に制限はなく、一般的に研究及び報告されている物質を適宜用いることができる。
有機のイオン液体には、室温を含む幅広い温度領域で液体状態を示すものがあり、カチオン成分とアニオン成分からなる。
前記カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体等の芳香族系の塩;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム等の脂肪族4級アンモニウム系化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
前記アニオン成分としては、大気中の安定性の面でフッ素を含んだ化合物が好ましく、例えば、BF4
-、CF3SO3
-、PF4
-、(CF3SO2)2N-、B(CN4)-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CN)4B-、BF4
-、CF3BF3
-、PF6
-、ClO4
-、(C2F5SO2)2N-、(C4F9SO2)2N-、(CF3SO3)-、(C2F5SO3)-、(C4F9SO3)-、(C2F5)3PF3
-、(CF3SO2)3C-などが挙げられる。などが挙げられる。
前記固体電解質は、光又は熱硬化型樹脂であるポリマー中に電解質を保持した膜として形成される。
前記電解質を保持した膜は、硬化型樹脂、電解液、更に添加物として無機微粒子などを混合した溶液をエレクトロクロミック層などに接して形成した後、光又は熱により硬化させることが好ましいが、あらかじめ多孔質の無機微粒子層を形成した後、無機微粒子層に浸透するように、硬化型樹脂及び電解質を混合した溶液として塗布した後、光又は熱で硬化した膜として形成することもできる。
さらに、エレクトロクロミック部が導電性又は半導体性ナノ粒子にエレクトロクロミック化合物が担持された層である場合は、エレクトロクロミック部に浸透するように、硬化型樹脂及び電解質を混合した溶液を塗布した後、光又は熱で硬化した膜として形成することもできる。
前記ポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などの一般的な材料が挙げられる。 これらの中でも、電解質との相溶性の高い材料が好ましい。
このような材料としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエチレングリコールの誘導体が挙げられる。
また、前記硬化型樹脂として光硬化可能な樹脂を用いることが好ましい。熱重合や溶剤を蒸発させて薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間で固体電解質層を製造できるためである。
無機微粒子としては、多孔質層を形成して電解質と硬化樹脂を保持することができる材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エレクトロクロミック反応の安定性、視認性の点から、絶縁性、透明性、及び耐久性が高い材料が好ましい。
前記無機微粒子としては、例えば、シリコン、アルミニウム、チタン、亜鉛、錫等の酸化物又は硫化物、あるいはそれらの混合物が挙げられるが、特に絶縁性金属酸化物からなる微粒子が好ましい。
前記無機微粒子の大きさ(平均粒径)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以上10μm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0059】
また、本発明の積層構造体における電子材料含有部は、2つのエレクトロクロミック部を有することが好ましい。この場合においては、エレクトロクロミック材料は、エレクトロクロミック部及び固体電解質層を有することが好ましく、2つのエレクトロクロミック部の間に固体電解質層を有することが好ましい。
【0060】
ここで、エレクトロクロミック部とは、エレクトロクロミック材料を含む部分を意味し、固体電解質層とは、固体の電解質で形成された部分を意味する。
【0061】
前記固体電解質層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。固体電解質層の平均厚みが、上記の好ましい範囲内であることにより、電流の短絡を防止しつつ、製造コストを抑制することができる。
【0062】
<着色部>
前記着色部は、本発明の積層構造体を加飾する機能(加飾機能)を有するもの、又は積層構造体の背面を隠蔽するために支持体表面に形成されるものである。
前記加飾機能とは、着色部のデザイン印刷などを意味する。一般的には、加飾機能を有する着色部は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどのカラーインクによる多色印刷で形成される。印刷パターンとしては、例えば、各種デザインに合わせた模様(木目、シボ、布目など)、幾何学図形、文字、記号、写真などが挙げられる。
【0063】
前記着色部を形成する組成物の材料としては、例えば、有機材料又は顔料材料と、溶媒や樹脂バインダーなどの成分と、の混合物などが挙げられる。前記混合物には、その他の成分として分散材、安定材、可塑剤、硬化材、反応開始剤、無機粒子などを含んでいてもよい。
前記着色部は、印刷後に熱処理又は光処理で固化硬化させることが好ましい。
特に、光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂を含有した組成物を用いることが好ましく、これにより、着色部の強度、及び印刷面への密着性が向上し、その後の熱加工などによる着色部のボケ、にじみ、剥離を抑制できる。
特に、光ラジカル硬化樹脂を用いると光反応性が高く、生産性を向上させることができる。
【0064】
前記着色部の形成方法としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷法などが挙げられる。
これらの塗工方法により、パターンに合わせたオンデマンドな塗工が可能となる。高精細なパターン形成が可能である点において、特にインクジェット印刷が好ましい。
【0065】
前記着色部の線幅やパターン精度を向上するためには、前記着色部に光硬化型樹脂を含有させ着色部を光硬化させながらパターン形成する方法を用いることができる。
即ち、パターン形成した液滴を経時で液滴が広がる前に光硬化することで、パターン形成精度を向上でき、前記保護部と同様にUVLEDアレイをインクジェットヘッドに搭載したインクジェット印刷システムを用いることができる。
【0066】
前記着色部を形成する着色部形成組成物に含まれる着色材料としては、例えば、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機材料、カーボンブラック、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、その他二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。前記着色材料は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
前記着色部形成組成物に含まれる硬化樹脂材料の具体例としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エステル系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アミド系樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フッ素系樹脂、及びこれらの複数種の混合物などが挙げられる。
これらインク材料を構成するその他の固形成分については前記保護部と同じ材料を用いることができる。
【0068】
前記着色部形成組成物含まれる溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のセロソルブ系有機溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤などが挙げられる。 溶剤は1種単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
さらに、前記着色部には無機粒子を混合することが好ましい。また、下引き層において、後述するように無機粒子を混合することにより、前記保護部の熱膨張を低減し、曲面熱加工時のダメージを抑制することができる。
前記無機粒子は前記着色顔料で兼用してもよいし、透明無機粒子でもよい。
前記透明無機粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコン酸化物、ジルコニア酸化物、アルミ酸化物、スズ酸化物、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記無機粒子の含有量としては、樹脂バインダーの全量に対して、10質量%以上が好ましく、10質量%以上200質量%以下がより好ましい。
【0070】
前記着色部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記加飾機能を有する形状などが挙げられる。
【0071】
前記着色部の構造としては、2以上の層を有する構造が好ましい。
【0072】
前記着色部の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0073】
前記着色部の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上100μm以下が好ましく、2層以上の異なる層を積層してもよい。特に、2μm以上50μmが好ましい。2μm以下では着色濃度が得にくく、50μm以上では膜強度、膜密着強度が不足しやすいためである。
【0074】
<保護部>
前記保護部は、前記電子材料含有部の物理的及び化学的ダメージを抑制する障壁として形成される部材である。
【0075】
前記保護部の構造、形状、大きさとしては、前記電子材料含有部を前記着色部から独立させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。即ち、 前記保護部の構造、形状、大きさとしては、前記電子材料含有部が前記有色部と接触しないように配することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記保護部としては、例えば、積層構造体の積層部(導電層及び電子材料含有部)の周囲、さらに積層構造体の表面や側面部を物理的及び化学的に保護するように形成されることが好ましい。前記保護部は導電層面、支持体面、下地層面などに接して形成されることが好ましい。
【0076】
前記保護部の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光又は熱硬化型樹脂、溶媒、無機粒子などが挙げられる。
これらのなかでも、加熱、光照射、電圧印加に対する反応性が少ない材料が好ましく、ラジカル反応性材料や、溶媒の含有量が少ない熱硬化型樹脂を主材とした材料が特に好ましい。
【0077】
前記ラジカル反応性材料としては、ラジカル重合性官能基を有する光又は熱ラジカル開始剤などが挙げられる。
前記ラジカル重合性官能基としては、例えば、ビニル基、スチリル基、2-メチル-1,3-ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基などが挙げられる。
前記ラジカル反応性材料としては、モノマー、オリゴマーなどが挙げられる。
【0078】
前記光硬化型樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、エステル系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アミド系樹脂、アクリル樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
前記熱硬化型樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのなかでも耐熱性良好なエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂が好ましく、硬化収縮が小さい点でエポキシ系樹脂が特に好ましい。
なお、前記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシモノマーを重合して得られる脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシモノマーの硬化物、エポキシモノマーとアミン化合物の硬化物、エポキシモノマーとフェノール樹脂の硬化物などが挙げられる。前記脂環式エポキシモノマーについては後述する。
特に、エレクトロクロミックなどの電気化学素子では、前記保護部にラジカル反応性材料が含まれていると、紫外線照射によって生じたラジカルが、エレクトロクロミック材料と容易に反応する。熱硬化型樹脂を主材とした保護部はこのような反応を起こしにくい。
前記保護部における、前記熱硬化型樹脂の含有量としては、保護部における硬化型樹脂全量に対して50質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましい。
なお、前記保護部が、光硬化型樹脂と、熱硬化型樹脂とを含有することが好ましい。活性物質のなかでは光ラジカル反応性材料(光ラジカル開始剤、ラジカル重合モノマー)が残留すると、電子材料含有部のダメージが大きくなりやすい傾向がある。そのため、前記保護部が、光硬化型樹脂と、熱硬化型樹脂とを含有することにより、前記保護部において光ラジカル硬化樹脂の含有量を抑制することができ、電子材料含有部へダメージを与えるリスクを低減させることができる。
【0079】
さらには、これらの硬化型樹脂には熱応力を緩和するために、軟化温度(Tg)が低く、室温30℃以下程度の低弾性材料を含有することが好ましい。
前記低弾性材料としては、例えば、低弾性ゴム材料などが挙げられる。
前記低弾性ゴム材料としては、柔軟性を有する直鎖状のポリマーを有する材料が好ましく、例えば、スチレンブタジエン系樹脂、アクリルニトリルブタジエン樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
前記低弾性材料の含有量は、保護部全量に対して、5体積%以上50体積%以下が好ましい。
前記低弾性材料の弾性率は、3,000MPa以下が好ましく、500MPa以下がより好ましい。前記低弾性材料の弾性率が小さいほど、高い応力緩和効果が得られる。
前記弾性率は、微小硬度計(例えば、HM2000フィッシャー・インストルメンツ社)で測定することができる。具体的には、ガラスなどに成膜した樹脂を硬化させたサンプルを準備し、ビッカース圧子により、押し込み弾性率を測定する。
【0080】
前記保護部に含有される活性物質の含有量は、前記保護部形成インクのインク材料処方及び硬化条件で調整することができる。
前記保護部における、酸、アルカリ、及びラジカル発生材料の含有量は、重合開始剤種、含有量、硬化条件により、適宜調整することができる。
前記保護部における、前記溶媒の含有量はインク希釈溶剤種、添加量、硬化条件により、適宜調整することができる。
前記保護部における、前記ラジカル重合性官能基を有するラジカル反応性材料としてのモノマー及びオリゴマーの含有量は、硬化樹脂材料種、官能基種、添加量、硬化条件により、適宜調整することができる。
【0081】
なお、これらの樹脂における未反応モノマーや溶媒の含有量は、2質量%未満が好ましい。さらに0.5質量%以下が特に特に好ましい。前記未反応モノマーの含有量は、FT-IRにより硬化反応由来のピーク減少量を測定すること定量化することができる。
【0082】
前記保護部に含まれる光重合開始剤(光ラジカル開始剤、光カチオン開始剤)の含有量は、2質量%未満であることが好ましい。光重合開始剤の含有量は、分取GPCなどによる成分分離を行った後、HPLCなどによって定量することができる。ラジカル開始剤についてはESRによる定量も可能である。
【0083】
前記保護部の材料は電圧印加時に反応しないように絶縁性材料であることが好ましい。
特に、無機粒子を含有させる場合は、絶縁性の酸化物材料、硫化物材料を用いることが好ましい。これらの材料としては、シリコーン酸化物、ジルコニア酸化物、アルミ酸化物、亜鉛硫化物などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0084】
また、後述する下地層において説明するように、無機粒子を混合することにより、前記保護部の熱膨張を低減し、曲面熱加工時のダメージを抑制することができる。
前記無機粒子の含有量としては、樹脂成分の全量に対して10質量%以上が好ましく、10質量%以上200質量%以下がより好ましい。
前記無機粒子は前記保護部の膜厚制御、熱膨張率低減、水分透過率低減などのために添加される。
【0085】
また、前記保護部に前記活性物質を含有しない色材を含有してもよい。
前記活性物質を含有しない色材を前記保護部に含有することにより前記保護部を着色することができる。
前記活性物質を含有しない色材としては、例えば、着色顔料などが挙げられる。
前記着色顔料としては、前記活性物質を含有していなければ特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、着色部を形成する着色部形成組成物に含まれる着色材料と同じ材料を用いることができる。
前記着色顔料の含有量としては、前記保護部の材料全体に対して10質量%以上200質量%以下が好ましい。前記着色顔料の含有量が、10質量%以上であると、十分な着色濃度を得ることができ、200質量%以下であると前記保護部の緻密性と、物理的及び化学的ダメージを抑制する障壁層としての機能を担保したまま着色させることができる。
【0086】
前記積層構造体における前記保護部の平面方向の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、10μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましくい。前記接着性構造物における前記保護部の平面方向の大きさが10μm以上であると、電子材料含有部を物理的及び化学的の少なくともいずれかのダメージから保護する点で好ましい。
【0087】
前記保護部の弾性率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10000MPa以下が好ましく、5000MPa以下がより好ましい。また、前記接着部の弾性率は、200MPa以上であることが、接着部膜強度の点から好ましい。前記接着部の弾性率が、200MPa以下であると、変形による剥離及び破壊の少なくともいうれかがしやすいためである。
さらに、前記保護部を2種の樹脂で構成し、一方の樹脂(接着部)弾性率に対して小さく設定することが、熱加工時などの応力を緩和する点において好ましい。この場合低弾性部の弾性率は接着部の弾性率の70%以下であることが好ましく、前記接着部の弾性率の50%以下であることがより好ましい。前記低弾性部の弾性率が前記接着部の弾性率の70%以下であると、応力緩和特性が良好である。
前記低弾性部の弾性率としては、接着部の樹脂弾性率より小さい限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3,000MPa以下が好ましく、2000MPa以下がより好ましい。前記低弾性部の弾性率が、50%以下であると、応力緩和特性が良好である。
【0088】
前記保護部の塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法(インクジェット方式)等の各種印刷法などが挙げられる。なかでも印刷版を用いず、非接触で塗膜形成が可能なスプレーコート法、ディスペンスコート法、インクジェット印刷法が好ましい。これらの塗工方法により、パターンに合わせたオンデマンドな塗工が可能となる。高精細なパターン形成が可能である点において、特にインクジェット印刷が好ましい。
【0089】
前記保護部形成用インクは、例えば、重合反応基を有する硬化型化合物と、重合開始剤、及び無機粒子を混合した光硬化性又は熱硬化性の樹脂インク材料を、積層部の周囲及び積層構造体の表面や側面の少なくともいずれかを覆うように塗布する。その後、硬化させることにより前記保護部を形成できる。
また、あらかじめ前記保護部をフィルム化して支持体表面に貼る方法を用いることもできる。
【0090】
前記保護部の層幅やパターン精度を向上するためには、前記保護部に光硬化型樹脂を含有させ、付与した前記保護部形成用インクを光硬化させながらパターン形成する方法を用いることができる。
即ち、パターン形成した支持体上の前記保護部形成用インクを、前記インクが経時で広がる前に光硬化することで、パターン形成精度を向上できる。
なお、光硬化では半硬化状態とする方法、及び光硬化させた液滴を積層し、前記接触対象物との接触面となる前記接着性構造物の最表面の液滴のみ光硬化しない方法の少なくともいずれかを採用することで、貼合せ時の接着面(前記最表面の液滴)の接着性を維持することができる。
特にUVLEDアレイをインクジェットヘッドに搭載したインクジェット印刷システムにより、吐出した着弾液滴をUVLEDで即時硬化させることにより高精度なパターン形成が可能となる。
インクジェット印刷に適用するインクは、微小径ノズルで吐出するため、一般的に5mPa・s以上200mPa・s以下程度の低粘度インクが適している。
インクジェット印刷、ディスペンスコート、スプレーコートでは版を用いずにパターン形成が可能であり、接着層を形成面に直接塗工できるので、あらかじめ作製した接着層フィルムをカットして貼り付ける方法に比べ、接着層の薄膜化形成が可能となるとともに生産性を高くすることができる。
インクジェット印刷は微細パターン形成・膜厚均一性に優れるため、特に好ましい塗工方法である。
【0091】
なお、前記弾性率は以下の方法で測定した押込み弾性率(EIT)を採用することができる。
<測定装置及び測定条件>
・微小硬度計(例えば、HM2000フィッシャー・インストルメンツ社)
・圧子:ビッカース圧子
・最大押し込み深さ:膜厚の10%以下
【0092】
前記保護部の平均厚みは、積層部の平均厚み以上であることが、積層部を保護する点で好ましい。
一方、積層構造体の表面や側面に形成する場合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記保護部の平均厚みとしては、0.5μm以上100μm以下が好ましい。
線幅を制御してインクジェット印刷などでパターン形成塗工した前記保護部は、色彩などがデザイン的に許容されれば、後述の着色層として兼用して用いることができる。着色した前記保護部を用いることで、電子材料含有部隣接部におけるデザイン性が向上するとともに、耐久性を改善することができる。
【0093】
<下地層>
前記下地層は、前記支持体と前記導電層の間に形成され、前記支持体を物理的、化学的に保護するため、さらに加熱加工時に前記導電層の形成面の熱膨張を抑えるために形成される層である。
【0094】
前記下地層としては、無機粒子を含有した樹脂層を用いることが好ましい。
前記無機粒子を含有することにより、樹脂単体からなる一般的な樹脂下地層よりも熱膨張率を抑制することができる。
【0095】
前記無機粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般的に用いられている無機フィラーを用いることができる。より具体的には、前記無機粒子としては、例えば、シリコン酸化物、ジルコニア酸化物、アルミ酸化物、スズ酸化物、各種マイカ、Ag、Cu、Au、Niなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
前記無機粒子の一次粒子径の個数平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1nm以上50μm以下が好ましく、1nm以上100nm以下がより好ましい。前記無機粒子の一次粒子径の個数平均粒径が1nm以上100nm以下であると下地層の透明性を担保することができる。
前記無機粒子の含有量としては、特に制限はなく、前記下地層の特性(透明性、膜厚、熱膨張率など)に合せて適宜選択することができ、例えば、下地層の樹脂の全量に対して10質量%以上が好ましく、10質量%以上200質量%以下がより好ましい。前記下地層における前記無機粒子の含有量が、下地層の樹脂の全量に対して10質量%以上であると、熱膨張を抑える効果を向上させることができ、10質量%以上200質量%以下であると、平滑な下地層を得ることができるため好ましい。
【0097】
前記下地層の樹脂の材質としては、前記支持体よりも熱膨張の小さい材料を用いることが好ましい。前記下地層の樹脂の材質が前記支持体よりも熱膨張の小さい材料であると、加熱加工時に前記導電層の形成面における熱変形が抑えられるため、無機酸化物などのヤング率が大きな材料で形成された導電層を形成した場合にもクラックが生じて損傷することを抑制することができる。
【0098】
前記下地層の樹脂の軟化温度は、100℃以上であることが好ましく、前記支持体を構成する樹脂の軟化温度よりも高いことがさらに好ましい。前記下地層が含有する樹脂として軟化温度の高い材料を用いることにより、前記導電層の形成面(導電層と接する面)における加熱時の熱膨張を抑えることができるため、前記導電層にクラックが生じて損傷することをより抑制することができる。
ここで、前記樹脂の軟化温度は、例えば、熱機械分析(Thermo Mechanical Analysis:TMA、Dynamic Mechanical Analysis:DMA、Differential scanning calorimetry:DSC)などを用いて測定することができる。
【0099】
前記下地層が含有する樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紫外線(Ultra Violet:UV)硬化樹脂材料、熱硬化型樹脂材料などが挙げられる。
前記樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。これらの材料は、成型性、透明性、及びコストの点で好ましい。
【0100】
前記下地層が含有する樹脂としては、反応基に対して複数の単位構造を有するオリゴマーの硬化物が好ましい。前記下地層が含有する樹脂が、反応基に対して単一の単位構造であるモノマーであると、その硬化物は加熱加工時に下地層にクラックが生じる場合がある。下地層が含有する樹脂としては、反応基に対して複数の単位構造を有するオリゴマーであると、その硬化物はモノマーの硬化物よりも柔軟性が高く、クラックを生じにくくなるため好ましい。
【0101】
下地層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1μm以上50μm以下が好ましい。
下地層における可視光の透過率としては、70%以上が好ましい。
下地層における軟化温度及び熱膨張率は、下地層に用いる第一の樹脂の種類及び無機材料の種類並びにそれらの含有量、架橋密度、反応開始剤量などを変更することにより調整することができる。
本発明における熱膨張率は、TMA装置において、以下の条件で測定する。
・引張荷重:20mN
・温度範囲:室温(20℃)~160℃
・昇温速度:5℃/min
・測定サンプル形状:幅5mm×長さ20mm×奥行0.3mm
ここで、上記条件におけるTMA装置を用いた熱膨張率の測定について、支持体として用いることができるポリカーボネートの測定例を
図16に示す。
下地層は薄膜であるため、下地層単独での測定が困難な場合は、下地層を形成した支持体、
図14においては下地層としてエポキシアクリレート硬化物とSiO
2(平均粒子径10nm-15nm)を含有する層を測定し、第二の樹脂層(支持体)単独との比較で熱膨張抑制効果を確認することができる。
【0102】
下地層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも反応基を有する有機モノマー材料及び開始剤を混合した材料と無機材料を混合したものを支持体上に塗工し、UV照射、熱処理、脱水処理等の硬化処理を行うことにより形成することができる。
塗工方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷等の各種印刷法を用いることができる。
【0103】
なお、前記下地層は、前記導電層と前記支持体との間にのみ形成されることに限られるものではなく、例えば、前記支持体と前記樹脂層との間に、更に他の前記下地層を設けることも好ましい。
すなわち、本発明の積層構造体は、前記支持体と前記樹脂層との間に、更に他の下地層を有することが好ましい。こうすることにより、加熱加工時における導電層のダメージをより抑制することができる。
また、前記支持体と前記樹脂層との間に前記下地層を設ける場合に、前記樹脂層との密着性を向上させるという観点からは、前記下地層と前記樹脂層との間に粘着層を形成することが好ましい。
なお、前記導電層と前記支持体の間の前記下地層と、前記支持体と前記樹脂層との間の前記下地層と、は同一である必要はなく、用途に合わせてそれぞれの材料、組成、及び厚みなどを調整することが好ましい。
【0104】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記その他の部材として、例えば、2枚の支持体基板を貼り合せる接着層、電源と接続するための導電部、光学透過率を調整する反射防止層、偏光層など挙げられる。
前記導電部は引き出し部又は配線部品などから構成される。
前記配線部品としては、電線ケーブル、端子、コネクタなどが挙げられる。前記配線部品としては、フレキシブル配線シートが好ましい。前記フレキシブル配線シートをインサートしておくことで、電力供給などのコントロールが容易にすることができる。
【0105】
[積層構造体の用途]
本発明の積層構造体の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の積層構造体を完成品として用いてもよいし、他の電子機器等の部品として用いてもよい。
本発明の積層構造体は、例えば、エレクトロクロミック現象を利用した調光装置(エレクトロクロミック調光装置)に好適に用いることができる。調光装置としては、例えば、調光眼鏡、防眩ミラー、調光ガラスなどが挙げられる。このため、本発明の積層構造体としては、透光性を有するものが好ましい。
また、本発明の積層構造体の用途としては、調光装置(エレクトロクロミック調光装置)以外にも、エレクトロルミネッセンス材料(EL材料)、液晶ディスプレイ材料(LCD材料)を用いた電子機器などが挙げられる。
【0106】
(積層構造体の製造方法)
本発明の積層構造体の製造方法は、
支持体上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記導電層上に電子材料含有部を形成する電子材料含有部形成工程と、
前記導電層上、かつ、前記電子材料含有部が配されていない領域に、活性物質を含有する着色部を形成する着色部形成工程と、
前記支持体上、かつ、前記電子材料含有部及び前記着色部が配されていない領域に、前記電子材料含有部及び前記着色部が、保護部を介して平面内に配されるように前記保護部を形成する保護部形成工程と、
を含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0107】
即ち、本発明の積層構造体の製造方法としては、少なくとも樹脂支持体の表面に導電層、電子材料含有部をこの順に積層成膜し、さらに電子材料含有部に隣接して保護部、着色部をこの順に平面上に形成する。
【0108】
本発明の積層構造体の製造方法は、例えば、後述する積層構造体の製造装置(インサート射出成型装置)により、好適に行うことができる。本発明の積層構造体の製造方法についての詳細については、後述する。
【0109】
なお、本発明の積層構造体の製造方法は、本発明の積層構造体において説明した方法により各層及び各部を製造することができる。
【0110】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるものではない。
なお、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0111】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態に係る積層構造体について説明する。
第1の実施形態に係る積層構造体は、エレクトロフォレテック(電気泳動)表示素子に関する実施形態である。
図1は、第1の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
第1の実施形態に係る積層構造体10は、支持体基板11a及び11bと、前記支持体11a及び11b上に、それぞれ導電層12a、電子材料含有部15、導電層12bが積層された積層部と、前記積層部の周囲に積層部端部の外側を覆う保護部14と、保護部14に隣接し視認側である上部支持体11b側面に形成された着色部18を有する。
また支持体11a、11bの空間を接着層19が埋めるように形成されている。本実施形態においては保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
また、本実施形態においては、電子材料含有部15は、白黒粒子を反転表示させる電気泳動インク層である。
導電層12aの一部及び導電層12bの一部が、引き出し部16として、シール部材14から露出している。引き出し部には導電ペースト及びメタル電極の少なくともいずれかが形成され、引き出し部に電圧を印加して駆動させる。
図1に示す積層構造体10は、例えば、支持体11a上に、導電層12a及び着色部18を形成したシート1と、支持体11b上に、導電層12bを形成したシート2を用意し、電子材料含有部15(電気泳動インク層)と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
なお、電気泳動インク層は正帯電した酸化チタンなどの酸化物粒子と負帯電したカーボンなどの有機粒子を溶媒に分散した層を主成分とし、白黒帯電粒子が電圧印加によりインク層内部で反転することにより白又は黒が表示される。
積層構造体10は導電層と電子材料含有部からなる白黒表示部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的・化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0112】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る積層構造体について説明する。第2の実施形態に係る積層構造体はエレクトロフォレテック(電気泳動)表示素子に関する実施形態である。
図2は、第2の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
第2の実施形態に係る積層構造体20は、非視認側である下部支持体11b側面に形成された着色部18を有する点で第1の実施形態に係る積層構造体10と異なる。本実施形態においては保護部14には透明材料を用いる。また、保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
図2に示す積層構造体20は、例えば、支持体11a上に、導電層12aを形成したシート1と、支持体11b上に、導電層12b及び着色部18を形成したシート2を用意し、電子材料含有部15(電気泳動インク層)と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
積層構造体20は導電層と電子材料含有部からなる白黒表示部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的・化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0113】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る積層構造体について説明する。第3の実施形態に係る積層構造体はエレクトロクロミック表示素子に関する実施形態である。
図3は、第3の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
第3の実施形態に係る積層構造体30は、電子材料含有部15が、電子材料含有部15aとして還元エレクトロクロミック(EC)部、電子材料含有部15bとして固体電解質層、電子材料含有部15cとして酸化エレクトロクロミック(EC)部を有する点で第1の実施形態に係る積層構造体10と異なる。本実施形態においては保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
図3に示す積層構造体30は、例えば、支持体11a上に、導電層12aと電子材料含有部15aとして還元エレクトロクロミック(EC)部、及び着色部18を形成したシート1と、支持体11b上に、導電層12bと電子材料含有部15cとして酸化エレクトロクロミック(EC)部を形成したシート2を用意し、電子材料含有部15bとして固体電解質層と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
積層構造体30は導電層と電子材料含有部からなるエレクトロクロミック表示部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的・化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
なお、電子材料含有部15a及び15cの発色や色彩変化が、支持体11a又は11bの一方のみから視認される用途では、視認される側の支持体は透明であるが、他方の支持体は透明でなくてもよい。
また、エレクトロクロミック層15a及び15cのどちらか一方は、印加電圧・電流により色彩変化しない劣化防止層で代用してもよい。
【0114】
劣化防止層の材料としては、導電層の不可逆的な酸化還元反応による腐食を防止可能な材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
劣化防止層の材料としては、例えば、酸化アンチモン錫、酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、又はそれらを複数含む導電性又は半導体性金属酸化物を用いることができる。また、印加する電圧極性に対して、エレクトロクロミック層と逆反応するエレクトロクロミック層を劣化防止層として用いることもできる。
これらの中でも、透明性が要求されるレンズのような光学素子としてエレクトロクロミック装置を作製する場合は、劣化防止層として、透明性の高い材料を用いることが好ましい。
透明性の高い材料としては、n型半導体性酸化物微粒子(n型半導体性金属酸化物)を用いることが好ましい。n型半導体性金属酸化物としては、100nm以下の一次粒子径粒子からなる、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、又はそれらを複数含む化合物粒子、あるいは混合物を用いることができる。
一方、劣化防止層として、透明性の高いp型半導体性層の材料としては、ニトロキシルラジカル(NOラジカル)を有する有機材料などが挙げられ、より具体的には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)の誘導体、又は誘導体のポリマー材料などが挙げられる。
【0115】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態に係る積層構造体について説明する。第4の実施形態に係る積層構造体はエレクトロクロミック表示素子に関する実施形態である。
図4は、第4の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
第4の実施形態に係る積層構造体40は、着色部18が着色部18aと着色部18bの積層により形成された点で第3の実施形態に係る樹脂構造体30と異なる。着色部18aと着色部18bは同じ色彩でもよいし、異なる色彩でもよい。着色部の厚さは電子材料含有部の厚さと同じに設定されるが、着色部を重ねることにより、視認反対側の着色部を隠蔽層などに利用できる。これにより、良好な色彩及びコントラストが得られる。
本実施形態においては保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
図4に示す積層構造体40は、例えば、支持体11a上に、導電層12aと電子材料含有部15aとして還元エレクトロクロミック(EC)部、及び着色部18aと着色部18bを形成したシート1と、支持体11b上に、導電層12bと電子材料含有部15cとして酸化エレクトロクロミック(EC)部を形成したシート2を用意し、電子材料含有部15bとして固体電解質層と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
積層構造体40は導電層と電子材料含有部からなるエレクトロクロミック表示部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的・化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0116】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態に係る積層構造体について説明する。第5の実施形態に係る積層構造体はエレクトロフォレテック(電気泳動)表示素子に関する実施形態である。
図5は、第5の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
第5の実施形態に係る積層構造体50は、保護部14bが保護部と着色部を兼ね、さらにもう一つの着色部18aが形成されている点で第1の実施形態に係る樹脂構造体10と異なる。着色保護部14bと着色部18aは同じ色彩でもよいし、異なる色彩でもよい。保護部14bが保護部と着色部を兼ねることより、保護部及び着色部の塗工の生産性が向上するとともに、保護部をインクジェット印刷する場合には、デザイン性に優れた保護部形成が可能になる
図5に示す積層構造体50は、例えば、支持体11a上に、導電層12a及び着色部18aを形成したシート1と、支持体11b上に、導電層12bを形成したシート2を用意し、電子材料含有部15(電気泳動インク層)と着色した保護部14bとを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
積層構造体50は導電層と電子材料含有部からなる白黒表示部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的・化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0117】
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態に係る積層構造体について説明する。第6の実施形態に係る積層構造体はエレクトロフォレテック(電気泳動)表示素子に関する実施形態である。
第6の実施形態に係る積層構造体60は、第1の実施形態において、支持体11a側から樹脂層17によりインサート成型されている点、引き出し部16a及び16bに接続する配線部品20a及び20bが形成されている点で第1の実施形態に係る積層構造体10と異なる。
図6に示す積層構造体60は、例えば、第1の実施形態10に配線部品を接続したシートを金型セットし、支持体11a面に樹脂層17を射出成型することで平板状の積層構造体として形成される。
積層構造体60は導電層と電子材料含有部からなるエレクトロクロミック調光部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的及び化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0118】
(曲面積層構造体の製造方法)
本発明の曲面積層構造体の製造方法は、支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている積層構造体を、
加熱した曲面金型に圧着させることにより曲面形状を形成する曲面形状形成工程を含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
即ち、本発明の曲面積層構造体の製造方法は、本発明の積層構造体を加熱した曲面金型に圧着させることにより曲面形状を形成することにより製造することができる。
【0119】
本発明の曲面積層体の製造方法としては、曲面形状を形成した前記積層構造体の支持体における前記導電層を有する面を金型に接するようにして前記金型に配し、露出する前記支持体上に、樹脂を射出して前記支持体と前記樹脂とが一体成型した樹脂層を形成する樹脂層形成工程を、さらに含むことが好ましい。
また、少なくとも支持体の表面に導電層、電子材料含有部をこの順に積層成膜し、さらに電子材料含有部に隣接して保護部、着色部をこの順に平面上に成膜して作製した積層構造体又は曲面成型した積層構造体をインサートシートとして曲面金型に設置し、裏面にインサート成型により樹脂層を一体成型して作製することが好ましい。
【0120】
本発明の曲面積層構造体の製造方法は、例えば、後述する製造装置(熱成型装置、インサート射出成型装置)により、好適に行うことができる。
インサート射出成型では、溶融した樹脂を、支持体(インサートシート)の表面と略平行な方向から射出して樹脂層を一体形成することが好ましい。こうすることにより、成型体の裏表の面精度が向上するとともに、吐出する樹脂の流動性及び充填速度を向上することができ、射出する樹脂のせん断応力による導電層、電子材料含有部、及び支持体のダメージを抑制することができる。
金型の樹脂注入部(ゲート)形状は、曲面樹脂構造体厚さ方向に狭くインサートシート側面に対向しない形状が好ましい。ゲート形状は厚さ及び幅方向に広くしていくほど射出樹脂の流動性、充填速度が向上するが、厚さ方向に広くなると、インサートシートがせん断応力により破損しやすいためである。
前記金型の樹脂注入部形状の厚さとしては、曲面樹脂構造体の平均厚さ以下であり、前記金型の樹脂注入部形状の幅が、前記樹脂注入部形状の厚さよりも大きいことが好ましい。これにより、本発明の曲面積層構造体を得ることができる。
さらに、本発明の曲面樹脂構造体の製造方法においては、射出樹脂における、ISO 1133に準拠するメルトボリュームフローレイトが14cm3/10min以上が好ましい。射出成型においては、射出する樹脂の流動性が高いほど、せん断応力によるインサートシート(支持体)の特に導電層のダメージを低減することができる。このため、樹脂におけるメルトボリュームフローレイトを14cm3/10min以上とすることにより、導電層におけるクラックの発生などの損傷をより抑制することができる。
特に、成型される曲面樹脂構造体の厚さが薄い場合は、インサートシートが射出樹脂によるせん断応力の影響を受けやすい。このため、例えば、樹脂層の平均厚みが2mm以下の場合は、メルトボリュームフローレイトを24cm3/10min以上とすることが好ましい。
インサート射出成型においては、金型の温度が、前記樹脂の軟化温度よりも10℃以上低い温度が好ましく、30℃以上150℃以下がより好ましい。
また、前記金型の温度としては、支持体の軟化温度以下の温度であることが好ましい。こうすることにより、支持体の軟化を抑制して、導電層の損傷を抑制できる。
インサート射出成型においては、圧力(保圧)が、100MPa以上150MPa以下であることが好ましい。これにより、曲面樹脂構造体の積層部全体を均一に加圧することができ、本発明の曲面樹脂構造体を得ることができる。
ポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート共重樹脂を射出成型する場合の金型温度は40℃以上120℃以下であることが好ましく、圧力(保圧)は100MPa以上150MPa以下であることが好ましい。この範囲で加熱及び加圧することにより、光学レンズのように高い曲面精度が求められる場合においても、積層部の歪みが低減されるので、導電層や電子材料含有部が損傷しにくい。
【0121】
次に、本発明の曲面積層構造体の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0122】
<第7の実施形態>
次に、第7の実施形態に係る曲面積層構造体について説明する。第7の実施形態に係る曲面積層構造体はエレクトロクロミック調光素子に関する実施形態である。
図7Aは、第7の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
また、
図7Bは、第7の実施形態に係る一例を示す概略上面図である。
第7の実施形態に係る曲面積層構造体70は、第3の実施形態において、下引き層13a及び13bを形成し、曲面形状加工されている点で第3の実施形態に係る樹脂構造体30と異なる。本実施形態においては保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
図7に示す積層構造体70は、例えば、支持体11a上に、下地層13a、導電層12aと電子材料含有部15aとして還元エレクトロクロミック(EC)部をこの順に積層形成し、さらに導電層12a面に着色部18を形成したシート1と、支持体11b上に、下地層13b、導電層12bと電子材料含有部15cとして酸化エレクトロクロミック(EC)部をこの順に積層形成したシート2を用意し、電子材料含有部15bとして固体電解質層と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
曲面形成する加工方法としては、平板シートの積層構造体を、加熱した曲面金型に圧着させて塑性変形させることにより曲面積層構造体が作製される。
積層構造体70は導電層と電子材料含有部からなるエレクトロクロミック調光部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的及び化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0123】
<第8の実施形態>
次に、第8の実施形態に係る曲面積層構造体について説明する。第8の実施形態に係る曲面積層構造体はエレクトロクロミック調光素子に関する実施形態である。
図8Aは、第8の実施形態に係る一例を示す概略側面図である。
また、
図8Bは、第8の実施形態に係る一例を示す概略上面図である。
第8の実施形態に係る曲面積層構造体80は、第4の実施形態において、下引き層13a及び13bを形成し、曲面形状加工されている点、支持体11aに樹脂層17が形成されている点で第4の実施形態に係る樹脂構造体30と異なる。本実施形態においては保護部14が接着層19を兼ねてもよい。
図8に示す積層構造体80は、例えば、支持体11a上に、下地層13a、導電層12aと電子材料含有部15aとして還元エレクトロクロミック(EC)部をこの順に積層形成し、さらに導電層12a面に着色層18を形成したシート1と、支持体11b上に、下地層13b、導電層12bと電子材料含有部15cとして酸化エレクトロクロミック(EC)部をこの順に積層形成したシート2を用意し、電子材料含有部15bとして固体電解質層と保護部14とを挟んで貼り合せることで平板状シートの積層構造体として形成される。
溶着又は接着加工としてインサート成型する方法としては、平板シート積層構造体又は事前に曲面成型した曲面積層構造体(インサートシート)を成型金型にセットした後、ゲート部20から積層構造体の背面(支持体11a側)に、樹脂層17を形成する樹脂材料を射出成型又は注型成型した後、硬化することで一体成型した曲面積層構造体が作製される。
積層構造体80は導電層と電子材料含有部からなるエレクトロクロミック調光部と着色加飾部を備えるとともに、電子材料含有部の物理的及び化学的ダメージを抑制する障壁層として保護部を形成しているため、熱や光、水分に対する高い信頼性を有する。
【0124】
[曲面樹脂構造体の製造方法における実施形態]
溶着加工としてインサート成型する場合、加工精度の向上、シートダメージの抑制、加工歩留まりを向上するなどの目的で、インサートシートのプレフォーミング(予備成型)が実施される。また、高い曲面精度が要求されない場合は加熱曲面加工のみが実施される。ここで、本発明に好適なプレフォーミング及び加熱曲面加工の曲面形成方法について説明する。
図9は、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置の一例を示す概略側面図である。
図10A及び
図10Bは、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置を用いた立体曲面形成方法の一例を工程順に示す図である。
図9に示すように、曲面形成装置100は、凹金型111及びこの凹金型111の温度を調整する温調部116を含む。凹金型111には、3次元(3D)曲面状の、例えば球面状の凹面112の底と裏面とを結ぶ孔115が形成されており、孔115に吸排気ポンプ117が繋げられる。曲面形成装置100は、凹金型111の凹面112の周囲の平面113上に凹面112を塞ぐように配置される弾性シート131を含む。弾性シート131には、その表裏を貫通する孔132が形成されている。
曲面形成装置100を用いてインサートシートとして積層シートを3D曲面状に加工する場合、まず、
図10Aに示すように、インサートシート151を準備する。また、温調部116によりインサートシートの支持体の軟化温度(Tg)付近に凹金型111を加熱温調する。そして、孔132を塞ぐようにしてインサートシート151を弾性シート131上に載置する。例えば、温調の温度は、前記軟化温度(Tg)より20℃高い温度から軟化温度(Tg)より20℃低い温度の範囲内であり、前記軟化温度より低いことが好ましい。
次いで、吸排気ポンプ117を稼働させて、凹面112と弾性シート131との間の空間の排気を行う。この結果、弾性シート131が伸展しながら凹面112に密着する。また、インサートシート151が弾性シート131に密着し、弾性シート131の変形に伴って凹金型111に近づくため、凹金型111からインサートシート151に熱が伝達され、インサートシート151に含まれる支持体が軟化する。そして、
図10Bに示すように、凹金型111にインサートシート151が密着し、インサートシート151が凹面112に倣うように塑性変形する。
その後、吸排気ポンプ117の稼働を停止し、孔115を大気開放することで、弾性シート131が元の形状に戻ると共に、インサートシート151を凹金型111から離型できるようになる。支持体が塑性変形しているため、インサートシート151は凹金型111から離型しても凹面112に倣った形状を恒久的に維持する。
このようにしてインサートシート151を3D曲面状に加工することができる。
この加工方法では、加工中に弾性シート131が等方的に伸縮するため、インサートシート151が凹金型111に均一に加圧されて密着する。また、インサートシート151に含まれる支持体は、あらかじめ加熱軟化されることなく、温調した凹金型111に密着して、徐々に熱を受けて軟化する。
したがって、本加工方法によれば、曲面に沿った方向の歪み及びクラックを抑制しながら、インサートシート151に含まれる導電層を変形させることができ、導電層上の電子材料含有部が含まれる場合には電子材料含有部の歪み及びクラックも抑制することができる。導電層が分割されている場合や複数のTFTがマトリクス状に配置されている場合等、導電層内で機械的特性が不均一になっている場合でも、電子材料含有部の歪みのばらつきを抑制し、均一な性能を得ることができる。
図11は、本発明の一実施形態に係る曲面形成装置を用いた立体曲面形成方法の他の一例を工程順に示す図である。
曲面形成装置100が、
図11に示すように、凹金型111に嵌まる凸金型121及びこの凸金型121の温度を調整する温調部126を含んでもよい。この曲面形成装置100を用いる場合、インサートシート151が凹金型111に密着した後に、温調部126で加熱温調した凸金型121でインサートシート151をプレスすることにより、面精度をより向上することが可能である。
本加工方法において、凹金型の凹面の範囲は、平面視で加工対象のインサートシートよりも広いことが好ましい。この場合、拘束することなくインサートシートの全体を凹面に密着することが可能となり、歪みをより一層抑制しながら3D曲面状に加工することができる。
凹金型及び凸金型の温度としては、例えば、支持体の軟化温度(Tg)から前記軟化温度(Tg)より20℃低い温度の範囲に調節され、凹金型に密着させる前の平板状のインサートシートの温度は室温又は軟化温度よりも20℃以上低い温度に調節されることが好ましい。
【0125】
ここで、曲面形成装置100が有する部材について更に詳細に説明する。
【0126】
[弾性シート131]
弾性シート131は減圧又は加圧されることにより伸縮し、インサートシートを金型に密着させる機能を有する。また、弾性シート131は金型の熱をインサートシートに伝達する機能も有する。
弾性シートの材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の弾性ゴム材料を用いることができる。弾性ゴム材料としては、例えば、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(イソブチエン・イソプレンゴム(IIR))、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(シリコーンゴム(Si,Q))、フッ素ゴム(FKM)などが挙げられる。
弾性シートの材料としては、特に、シリコーンゴム及びフッ素ゴムが好ましい。
また、弾性シートの材料としては、例えば、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、アミド系、ポリ塩化ビニル(PVC)系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーなどを用いることもできる。弾性シートの材料は、インサートシートに曲面を形成する際の温度や圧力等の条件に応じて選択することが好ましい。例えば条件に応じて、耐熱性、弾性等を考慮して材料を選択することが好ましい。
弾性シートの平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mm以上2.0mm以下であることが、曲面の形成がより容易となる点で好ましい。
なお、弾性シートに粘着性がある場合は、孔を形成せずにインサートシートを保持することもできる。
インサートシートの変形の均一性の観点から、弾性シートはインサートシート及び金型に固着しにくく、弾性シートのインサートシート又は金型と接する面が滑りやすくなっていることが好ましい。また、曲面形成後には、弾性シートを金型から剥離し、インサートシートを弾性シートから外すため、弾性シートの表面には摩擦を低減する表面加工等が施されていることが好ましい。
弾性シート131の孔132はインサートシート151を弾性シート131に吸着保持するために設けられており、孔132の数は1でも複数でもよい。孔132の位置はインサートシート151の形状に合わせて任意に設定することができる。
【0127】
[金型111、121]
凹金型及び凸金型は、インサートシートに形成する3D曲面形状、例えば、球面形状に合わせた曲面及び加工に好適な熱容量を有するものであれば、一般的な金型を用いることができる。
金型の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等のメタル材料、NAK80、STAVAXなどの金型専用鋼材、ガラス、セラミックス等を用いることができる。
温調部は、金型の内部又は金型の外面に付された温度調節ヒーターを有する。金型の表面に一般的な耐熱処理若しくは離型処理又はこれらの両方が施されていてもよい。
凹金型111の孔115の個数及び位置はインサートシート151の形状に合わせて任意に設定することができる。
続いて、本発明の曲面樹脂構造体の製造方法の一例としてのインサート射出成型の方法について説明する。
本発明では開閉可能な金型の片面に、インサートシート151を設置し、金型を閉じた後に支持体の背面に溶融した樹脂を射出充填後、冷却固化して溶着樹脂部(樹脂層)を形成する。
本発明では電動式、油圧式、ハイブリッド式油圧式などの射出成型機を用いることができる。
図12は、本発明の一例である曲面樹脂構造体を作製するインサート射出成型装置の一実施形態を示す説明図である。
図13A~13Cは、インサート射出成型装置を用いたインサートシートの一体化成型方法を工程順に示す図である。
図12に示すようにインサート射出成型装置200は、射出ユニット230と型締めユニット240を有する。インサート射出成型装置200は、射出ユニット230により加熱溶解した樹脂材料を噴射ノズルなどで型締めユニット240の金型に注入し、金型の開閉を行うことで樹脂成型体(曲面樹脂構造体)を作製する。
型締めユニット240は、可動金型221と固定金型211を有し、それぞれの金型は温調部226及び温調部216により温度制御される。
一方の金型には必要によりインサートシート151を設置するために、シート吸着孔212、及び位置決め用段差の少なくともいずれかが設けられている。シート吸着孔212は、吸排気ポンプ217に接続され、インサートシート151を固定する場合は吸着し、インサートシート151を取り外す場合はエアーなどのガスを噴射させる。シート吸着孔212、位置決め用段差はインサートシートの位置精度を高めるため形成されており、高い位置決め精度が要求されない場合は不要である。
インサート射出成型装置200を用いてインサートシート151を、樹脂層を形成する樹脂(溶着樹脂)と一体成型加工する場合、まず、
図13Aに示すように、インサートシート151を準備する。また、温調部216、226により金型を溶着樹脂の軟化温度(Tg)以下に加温調節することで加熱条件を制御する。
そして、吸着孔212を塞ぐようにしてインサートシート151を金型211にセットし、吸排気ポンプ217で排気することによりインサートシート151を固定する。なお、吸着によるインサートシート151の固定は溶着樹脂の射出までに実施していればよい。
インサートシート151は、前述のようにプレフォーミングしておくことが好ましいが、インサートシートの固定が十分であれば、プレフォーミングなしでも構わない。なお、インサートシート151は固定金型にセットしたが、金型構造を変更して可動金型221にセットしても構わない。
【0128】
次に、
図13Bに示すように、可動金型221を移動させて金型を閉め、射出ユニット230から樹脂注入部213に溶融した溶着樹脂を射出し、樹脂を充填する。
樹脂の射出圧(保圧値)は、特に射出樹脂が軟化温度(110℃~150℃)のポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート共重合体の場合は100MPa~150MPaの範囲であることが好ましい。前記射出圧(保圧)が100MPa以上であると、良好な曲面精度を得ることができ、前記射出圧(保圧)が、150MPa以下であると、インサートシートの積層部(導電層又は電子材料含有部)における、射出圧によるダメージを抑制することができる。
【0129】
樹脂が冷却固化した後、
図13Cに示すように、可動金型221を移動させて金型を開き、
図14に示すような一体化した積層体(曲面樹脂構造体)を取り出す。
このようにしてインサートシート151と樹脂層(溶着樹脂)を一体成型した曲面樹脂構造体を作製することができる。
【0130】
可動金型221及び固定金型211は、平面、曲面、球面などの積層体形状に合わせ、加工に好適な熱容量を有するものであれば、一般的な金型を用いることができる。
具体的には、金型の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等のメタル材料、NAK80、STAVAXなどの金型専用鋼材、ガラス、セラミックス等を用いることができる。温調部は金型の内部又は金型の外面に付された温度調節ヒーターを有する。金型の表面に一般的な耐熱処理若しくは離型処理又はこれらの両方が施されていてもよい。
【0131】
さらに、可動金型221及び固定金型211には、成型体を金型から取り出すための押出ピンなどのイジェクト機構が施されていてもよい。
【0132】
また、本実施形態においては、可動金型221及び固定金型211の温度が、樹脂支持体11の軟化温度よりも低い温度となっている。こうすることにより、支持体の軟化を抑制して、導電層の損傷を抑制できる。なお、可動金型221及び固定金型211の温度としては、例えば、30℃以上150℃以下の範囲で設定することができる。
特に、射出樹脂が軟化温度(110℃~150℃)ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート共重合体の場合は、金型温度を40℃~120℃に設定することが好ましい。
前記金型の温度が、30℃以上であると、良好な曲面精度を得ることができ、前記金型の温度が、150℃以下であると、インサートシートの積層部(導電層又は電子材料含有部)における、熱によるダメージを抑制することができる。
【0133】
さらに、本実施形態においては、
図13Aから
図13Cに示すように、露出するインサートシートの裏面にインサートシートの表面と略平行な方向から射出して樹脂層を一体形成している。こうすることにより、成型体の裏表の面精度が向上するとともに、吐出する樹脂の流動性及び充填速度を向上することができ、射出する樹脂のせん断応力による導電層、電子材料含有部、及び支持体のダメージを抑制することができる。
【0134】
また、金型の溶融樹脂注入部(ゲート)形状は、曲面樹脂構造体厚さ方向に狭くインサートシート側面に対向しない形状であることが好ましい。ゲート形状は厚さ及び幅方向に広くしていくほど射出樹脂の流動性、充填速度が向上するが、厚さ方向に広くなると、インサートシートがせん断応力により破損しやすいためである。
本実施形態においては、射出する樹脂における、ISO 1133に準拠するメルトボリュームフローレイトが14cm3/10min以上であることが好ましい。射出成型においては、射出する樹脂の流動性が高いほど、せん断応力によるインサートシート151のダメージを低減することができる。
【0135】
(レンズ)
本発明のレンズは、本発明の積層構造体を有する。
本発明の積層構造体は、上述したように、眼鏡やカメラなどに用いられるレンズとして好適に用いることができる。特に、電子材料含有部としてエレクトロクロミック層を有し、樹脂層が光学レンズとなっている積層構造体を電子調光レンズ、調光眼鏡のレンズや調光カメラレンズとして用いることが好ましい。
【実施例0136】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0137】
(実施例1)
実施例1では、第3の実施形態で説明した積層構造体(電子デバイス)30の一例を作製した。実施例1で作製した積層構造体は、エレクトロクロミック表示素子及び構成部品として有用である。
実施例1では、支持体11a及び11bとして、ポリカーボネートシート(PC2151、帝人株式会社製、平均厚み:0.3mm、
図15Aの外形形状(小判形状長軸:75mm、小判形状短軸:55mm))を準備した。
下地層13a及び13bの材料としては、無機粒子として無機粒子プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液(PGM-AC4120Y、日産化学株式会社製、メタクリル表面処理、平均粒子径10nm-15nm、SiO
2)と、樹脂として酸変性エポキシアクリレートオリゴマー樹脂(ZCR6002H、日本化薬株式会社製)を用いた。無機粒子の含有量が、樹脂の全量に対して、40質量%となるように調整し、光重合開始剤としてOmnirad TPO H(IGM Resins B.V.社製)を樹脂の全量に対して4質量%添加し、1-メトキシ-2-プロパノールで希釈した塗工液をバーコーターで塗工し、80℃で120sec乾燥した後UV照射により硬化させて平均厚さ2μmの下地層を形成した。
次いで、下地層13a上及び13b上に、In
2O
3:90質量%、SnO
2:10質量%のITOターゲットを用いて、スパッタ法により無機酸化物の導電層を形成した。製膜時のスパッタパワーは6.5kWに設定し、酸素/アルゴン流量比(O
2流量比)は3.6%に設定し、製膜時間で導電層の平均厚さを110nmに調整した。スパッタ装置にはOerlikon社製のソラリスを用いた。
一方の支持体11bにおいて、導電層は、
図15Aに示す領域12bに、他方の支持体11aについては
図15Bに示す領域12aに、マスクを用いて形成した。導電層の平均厚みは、KLA-Tenchore社製のαステップD-500で測定した。
次に、
図15Aに示す領域に導電層12bを形成した支持体において、
図15Aの18に示す着色部領域18に、帝国インキ製造株式会社製のUVFLEXスクリーンインキ(174赤)をスクリーン印刷により幅3mmで形成したのち、UV硬化させることで、平均膜厚が10μmである着色部18を形成した。UV硬化条件は800mJ/cm
2とした。
なお、UIT-150 UVD-365光量計(ウシオ電機株式会社製)にて紫外線照射量を測定した。
また、支持体11bの
図15Cに示す積層部領域19に、電子材料含有部(酸化EC層)15bとして、(a)下記構造式Aで示されるトリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物、(b)ポリエチレングリコールジアクリレート、(c)光重合開始剤、及び(d)テトラヒドロフランを、a:b:c:d=10:5:0.15:85(質量比)となるように混合した溶液をインクジェット装置で塗布し、窒素雰囲気下でUV硬化させることで、平均膜厚が1.5μmである酸化反応性のエレクトロクロミック部(層)を形成した。
【0138】
【0139】
ポリエチレングリコールジアクリレートとしては、日本化薬株式会社製のKAYARAD PEG400DAを用いた。光重合開始剤としては、IRGACURE 184(IGM Resins B.V.社製)を用いた。
【0140】
また、
図15Bに示す領域12aに導電層を形成した支持体において、支持体11aの
図15Cに示す積層部領域19に、還元EC層15aを形成した。還元反応性のエレクトロクロミック層の形成では、酸化チタンのメタノール分散液にポリビニルブチラールを1質量%添加した溶液を塗布し、100℃で5分間アニールすることにより、厚さ3μmのナノ粒子酸化チタン層を形成した。
【0141】
次に、下記構造式Bで表される化合物を2,2,3,3-テトラフロロプロパノールに2質量%溶解した溶液を、ナノ粒子酸化チタン層の表面に塗布吸着処理した後、100℃で5分間アニールした。
【0142】
【0143】
次いで、(a)1-エチル-3-メチルイミダゾリウムの(FSO2)2N-塩、(b)ポリエチレングリコールジアクリレート、及び(c)光重合開始剤を、a:b:c=2:1:0.01(質量比)となるように混合した電解質溶液を調製した。そして、この電解質溶液を、酸化反応性エレクトロクロミック部(層)15cと還元反応性エレクトロクロミック層15aとの間に充填した後、60℃のアニール処理を1分間行い、積層部を紫外線照射により硬化させて貼り合せた。このとき、固体電解質層15bの平均厚みが30μmとなるように電解質溶液の充填量を調整した。
ポリエチレングリコールジアクリレートとしては、日本化薬株式会社製のKAYARAD PEG400DAを用いた。光重合開始剤としては、IRGACURE 184(IGM Resins B.V.社製)を用いた。
【0144】
また、貼り合せ時には
図15Cの14に示す電子材料層周囲の保護部領域より外形までの外側全体に、保護部形成用インクを厚さ30μmとなるように充填しておき、積層部の電解質硬化後さらに120℃で3時間の熱硬化処理を行い、接着層を兼ねる保護部を形成し、積層部(エレクトロクロミック部)の周囲に赤色着色層を有する実施例1のエレクトロクロミック素子30を作製した。
なお、保護部形成用インクとしては、セロキサイド8010P/オキセタンOXT221/オキセタンOXT212/サンエイドSI-100L/AOMA/A-DPH/ Irgacure TPO(36/39/5/0.8/19/2/0.1)からなるインクを準備し、UVLEDアレイを用いたインクジェット印刷システム(装置名:Stage JET トライテック社製)を用いて30μmに塗工した。
低弾性バインダーとして混合したオキセタンOXT221/オキセタンOXT212/AOMAそれぞれ単独の硬化物のTgは51℃/-60℃/84℃であった。
インク粘度(25℃)は18.5mPa・secであり、インクジェット印刷に適した粘度であった。
なお、インク粘度は粘度計(TVE-22LT東機産業)で測定した。
【0145】
また、以下の方法で測定した押込み弾性率(EIT)(以下、単に「弾性率」と称する)は1440MPaであった。
<<押込み弾性率(EIT)の評価>>
以下のようにして試験片を作製し、押込み弾性率(EIT)の評価を行った。
-試験片の作製-
実施例1で使用した保護部形成用インクを厚さ10mmガラス表面にインクジェット印刷した後、120℃で3時間熱硬化処理することで30μm厚さの硬化膜を作製した。なお、加熱硬化前にUVLED(365nm)光仮硬化した後に熱硬化した。
インクジェット装置としては、シングルノズル超微細インクジェット装置(クラスターテクノロジー株式会社製)を使用し、ノズル穴径25μmを用いた。
作製した硬化膜の弾性率を測定した。
なお、弾性率は微小硬度計(HM2000フィッシャー・インストルメンツ社)で測定し、測定条件は以下のように設定した。
<測定条件>
・圧子:ビッカース圧子
・最大荷重:10mN
・最大押し込み深さ:2μm
・負荷(除荷)時間:40sec
【0146】
次に、エレクトロクロミック表示素子30の性能評価として、以下の「発消色評価」を行った。
【0147】
<発消色評価>
この評価では、保護部(シール層)から露出した電子材料層の一方の引き出し部がプラス極、他方の引き出し部がマイナス極となるように2.0Vの電圧を印加して7mC/cm2の電荷を注入した。この結果、酸化反応性のエレクトロクロミック層が青緑色に、還元反応性のエレクトロクロミック層が青色に発色することが確認された。また、-0.6Vを印加することで透明に消色し、正常に発消色動作することも確認された。なお、光透過率は、光透過率を紫外可視近赤外分光光度計(装置名:UH4150、日立ハイテクサイエンス株式会社製)で測定した。
さらに、促進試験として、40万Lux、28℃の光暴露環境下で2.0Vの電圧で発色した後に1.3Vの電圧を連続印加することで、50時間の連続発色動作試験を行い、-0.6Vを印加して消色動作させたところ、正常に発消色動作することも確認された。
なお、光暴露試験機は疑似太陽光試験機(装置名:Q-SUN Xe-1、Q―LAB社製)を使用した。実施例1における条件及び評価結果を表1に示す。
[評価基準]
○:積層部全面が発消色する
×:積層部全面が発消色しない(積層部外周端部が発色しない)
【0148】
(実施例2)
実施例2では、第4の実施形態で説明した積層構造体(電子デバイス)40の一例を作製した。実施例2で作製した積層構造体は、エレクトロクロミック表示素子及び構成部品として有用である。
実施例2は、実施例1において、以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、積層部(エレクトロクロミック部)の周囲に赤色、白色、黒色の着色層を有する実施例2のエレクトロクロミック素子40を作製した。
・着色部を形成するインク:帝国インキ製造株式会社製のUV FLEXスクリーンインキ(174赤、672白、911墨)
・保護部:保護部形成用インク:
セロキサイド8010P/TETRAD-X(グリシジルアミン系4官能エポキシモノマー)/オキセタンOXT221/サンエイドSI-100L/OXE10/A-DPH/ Irgacure TPO(36/7/37/0.8/19/2/0.1)、低弾性バインダーとして混合したオキセタンOXT221、インク粘度(25℃)は32mPa・secであり、インクジェット印刷に適した粘度であった。なお、インク粘度は粘度計(TVE-22LT東機産業)で測定した。
【0149】
また、弾性率は2920MPaであった。実施例2では着色層は内周部から1mm幅で10μm層を3回重ね印刷し、赤:(赤/白/白)1mm、白:(白/白/白)1mm、黒:(黒/黒/黒)1mmの計3mm構成とした。また、赤:(赤/白/白)では、視認面となる支持体11b面側から赤/白/白の順に積層した。
次に、実施例2のエレクトロクロミック表示素子40の発消色評価、光暴露連続発色動作試験を実施例1と同様に実施した。その結果、実施例2のエレクトロクロミック表示素子40が正常に発消色動作することを確認した。実施例2における条件及び評価結果を表1に示す。
【0150】
(実施例3)
実施例3では、第7の実施形態で説明した曲面積層構造体(電子デバイス)70の一例を作製した。実施例3で作製した曲面積層構造体は、エレクトロクロミック調光素子及び構成部品として有用である。
実施例3は、実施例1において、積層構造体30を曲面加工したこと以外は実施例1と同様にして、曲面積層構造体70を作製した。
曲面加工は、曲率半径が131mmで直径が200mmの球面凹金型を準備し、弾性シートとして、平均厚さが0.3mmのシリコーンゴムシート構成の曲面形成装置100を用いた。球面凹金型は、球面凹金型材料は、金型用鋼材NAK80である。
凹金型を145℃で温調した後、弾性シートの上に平面積層構造体30を載せ、ポンプ吸引により、凹金型に弾性シートと積層構造体30を90秒密着させて塑性変形させた。
次に、実施例3のエレクトロクロミック表示素子60の発消色評価、光暴露連続発色動作試験を実施例1と同様に実施した。その結果、実施例3のエレクトロクロミック表示素子60が正常に発消色動作することを確認した。実施例3における条件及び評価結果を表1に示す。
【0151】
(実施例4)
実施例4では、第8の実施形態で説明した曲面積層構造体(電子デバイス)80の一例を作製した。実施例4で作製した曲面積層構造体は、エレクトロクロミック調光素子及び構成部品として有用である。
実施例4は、実施例2において、積層構造40を曲面加工したこと以外は実施例2と同様にして、曲面積層構造体70を作製した。
曲面加工は、曲率半径が131mmで直径が200mmの球面凹金型を準備し、弾性シートとして、平均厚さが0.3mmのシリコーンゴムシート構成の曲面形成装置100を用いた。球面凹金型材料は、金型用鋼材NAK80である。
凹金型を145℃で温調した後、弾性シートの上に平面積層構造体40を載せ、ポンプ吸引により、凹金型に弾性シートと積層構造体40を90秒密着させて塑性変形させた。
次に、インサート射出成型装置200を用いて、曲面積層構造体シートを固定金型にセットし、型締め後にポリカーボネート樹脂を射出することにより、樹脂層を一体成型し、
図8に示すような形状の面内にエレクトロクロミック積層部を有する曲面樹脂構造体(電子デバイス)80を作製した。
なお、射出成型機としては、SE-D(型締圧:1765kN)C510SHP 32φ(住友重機械工業株式会社製)を使用した。固定金型、可動金型としては、金型鋼材STAVAXを鏡面加工して作製し、直径75.5mm、曲率半径129mm、平均厚み10mmの形状にした。
ゲート形状は成型品凹面凸に接して35mm(幅方向)×3mm(厚さ方向)とした。
射出樹脂(樹脂層を形成する樹脂)としては、ポリカーボネート1(L1225、帝人株式会社製、軟化温度:146℃)を用い、射出前に100℃で5時間アニールして使用した。
樹脂における、メルトボリュームフローレイトは24.0cm
3/10min(測定温度:300℃、測定荷重:1.20kgf)であった。
射出成型条件は以下に設定した。また、冷却時間は200secとした。
・金型温度:90℃/90℃(固定金型/可動金型)
・樹脂温度:280℃
・保圧:100MPa
・保圧時間:30sec
・射出時間:1.8sec
次に、実施例4のエレクトロクロミック表示素子80の発消色評価、光暴露連続発色動作試験を実施例1と同様に実施した。その結果、実施例4のエレクトロクロミック表示素子80が正常に発消色動作することを確認した。実施例4における条件及び評価結果を表1に示す。
【0152】
(比較例1)
比較例1では、実施例2において、保護部を
図15Cの18に示す着色部領域より外形までの外側全体に接着層として形成したこと以外は、実施例2と同様にして、積層部と着色部の間に保護部が形成されていない比較例1の積層構造体を作製した。
比較例1の積層構造体について、実施例1と同様に発消色評価を行った。
その結果、比較例1のエレクトロクロミック表示素子は光暴露前では正常に発消色動作したが、光暴露後は積層部の外周端部が発色しなくなった。比較例1における条件及び評価結果を表1に示す。
【0153】
【0154】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、
前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されていることを特徴とする積層構造体である。
<2> 前記着色部が、2以上の層を有する前記<1>に記載の積層構造体である。
<3> 前記保護部が、エポキシ樹脂を含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の積層構造体である。
<4> 前記保護部が、光硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂を含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の積層構造体である。
<5> 前記保護部が、弾性率が3,000MPa以下である低弾性材料を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の積層構造体である。
<6> 前記保護部が、前記活性物質を含有しない色材を含有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の積層構造体である。
<7> 前記保護部が脂環式エポキシ樹脂を含有する前記<3>から<6>のいずれかに記載の積層構造体である。
<8> 前記電子材料含有部が、エレクトロクロミック材料を含有する前記<1>から<7>のいずれかに記載の積層構造体である。
<9> 前記支持体が、樹脂を含有し、
構造体の形状が曲面形状を有する前記<1>から<8>のいずれかに記載の積層構造体である。
<10> 前記支持体における前記導電層を有する面とは反対の面上に、樹脂からなる樹脂層をさらに有する前記<1>から<9>のいずれかに記載の積層構造体である。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載の積層構造体を有することを特徴とするレンズである。
<12> 電子調光レンズである前記<11>に記載のレンズである。
<13> 支持体上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記導電層上に電子材料含有部を形成する電子材料含有部形成工程と、
前記導電層上、かつ、前記電子材料含有部が配されていない領域に、活性物質を含有する着色部を形成する着色部形成工程と、
前記支持体上、かつ、前記電子材料含有部及び前記着色部が配されていない領域に、前記電子材料含有部及び前記着色部が、保護部を介して平面内に配されるように前記保護部を形成する保護部形成工程と、
を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法である。
<14> 前記保護部がインクジェット方式で形成されることを含む前記<13>に記載の積層構造体の製造方法である。
<15> 支持体上に導電層と、電子材料含有部と、活性物質を含有する着色部と、前記電子材料含有部を保護する保護部とを有し、前記電子材料含有部と、前記着色部とが、前記保護部を介して平面内に配されている積層構造体を、
加熱した曲面金型に圧着させることにより曲面形状を形成する曲面形状形成工程を含むことを特徴とする曲面積層構造体の製造方法である。
<16> 曲面形状を形成した前記積層構造体の支持体における前記導電層を有する面を金型に接するようにして前記金型に配し、露出する前記支持体上に、樹脂を射出して前記支持体と前記樹脂とが一体成型した樹脂層を形成する樹脂層形成工程を、さらに含む、前記<15>に記載の曲面積層構造体の製造方法である。
【0155】
前記<1>から<10>のいずれかに記載の積層構造体、前記<11>から<12>のいずれかに記載のレンズ、前記<13>から<14>に記載の積層構造体の製造方法、及び前記<15>から<16>のいずれかに記載の曲面積層構造体の製造方法によれば、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。