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特開2023-135021イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物
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  • 特開-イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135021
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20230921BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20230921BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040019
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】512224729
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】林 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】岨 稔康
(72)【発明者】
【氏名】宮城島 進也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇之
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】辻村 浩隆
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005GA02
2B005GA06
2B150AA07
2B150AA08
2B150AB02
2B150AB03
2B150AB10
2B150CE26
2B150DD47
(57)【要約】
【課題】本発明は、水棲生物の養殖用飼組成物の提供を目的とする
【解決手段】イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する、水棲生物の養殖用組成物又は当該養殖用組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物を飼育する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する、水棲生物の養殖用組成物。
【請求項2】
水棲生物の養殖用の飼料である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イデユコゴメ綱に属する藻類の含有量が0.01~5%(w/w)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
イデユコゴメ綱に属する藻類が、ガルデリア属に属する藻類である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
水棲生物のストレス耐性を増強するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ストレスが、高温ストレス又は干出ストレスである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
水棲生物が、魚類又は甲殻類である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
魚類又は甲殻類が、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ティラピア、ナマズ、シーバス、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ又はガザミである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
魚類又は甲殻類が、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ又はニベである、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物を養殖する方法。
【請求項11】
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法。
【請求項12】
ストレスが、高温ストレス又は干出ストレスである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
水棲生物が、魚類又は甲殻類である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
魚類又は甲殻類が、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ティラピア、ナマズ、シーバス、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ又はガザミである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
魚類又は甲殻類が、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ又はニベである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
組成物中のイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量が、0.01~5%(w/w)である、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する、水棲生物の養殖用組成物又は前記組成物を給餌することを含む水棲生物を養殖する方法もしくはストレス耐性を増強させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に生育する生物は水温の温度変化に敏感であり、高温化に対する耐性が小さいことが知られている。異常気象や地球温暖化といった近年の環境変化に伴い、気温及び水温の変化、特に水温の温度上昇は従来よりも大きなものとなりつつある。そのため、水棲生物の養殖においては、水温変化が大きな問題となりつつある。
【0003】
特許文献1には、イノシンが添加された養魚用飼料を魚類又は甲殻類に給餌して、魚類又は甲殻類の酸化ストレスを緩和する方法が開示されている。しかしながら、水温の高温化により負荷される高温ストレスや魚類又は甲殻類を空気に曝露することにより負荷される干出ストレスの緩和については記載されていない。
【0004】
ところで、イデユコゴメ綱に属する藻類は、酸性温泉に生育する単細胞性の藻類である。イデユコゴメ綱に属する藻類を含む水棲生物用の飼料や養殖用組成物は知られていない。また、イデユコゴメ綱に属する藻類が水棲生物のストレス耐性に影響することも知られていい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-110921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水棲生物の養殖用組成物及び当該組成物を用いる水棲生物のストレス耐性増強方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を行い、ガルデリア藻等のイデユコゴメ綱に属する藻類を含有する水棲生物の養殖用組成物を見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する、水棲生物の養殖用組成物。
[2]
水棲生物の養殖用の飼料である、[1]に記載の組成物。
[3]
イデユコゴメ綱に属する藻類の含有量が0.01~5%(w/w)である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
イデユコゴメ綱に属する藻類が、ガルデリア属に属する藻類である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]
水棲生物のストレス耐性を増強するための、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6]
ストレスが、高温ストレス又は干出ストレスである、[5]に記載の組成物。
[7]
水棲生物が、魚類又は甲殻類である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の組成物
[8]
魚類又は甲殻類が、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ティラピア、ナマズ、シーバス、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ又はガザミである、[7]に記載の組成物。
[9]
魚類又は甲殻類が、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ又はニベである、[7]に記載の組成物。
[10]
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物を養殖する方法。
[11]
イデユコゴメ綱に属する藻類を含有する組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法。
[12]
ストレスが、高温ストレス又は干出ストレスである、[11]記載の方法。
[13]
水棲生物が、魚類又は甲殻類である、[10]~[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]
魚類又は甲殻類が、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ティラピア、ナマズ、シーバス、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ又はガザミである、[13]に記載の方法。
[15]
魚類又は甲殻類が、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ又はニベである、[13]に記載の方法。
[16]
組成物中のイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量が、0.01~5%(w/w)である、請求項[10]~[15]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、水棲生物の養殖用組成物又は当該組成物を給餌することを含む水棲生物を養殖する方法が提供される。本発明の一態様において、本発明の組成物は水棲生物の飼料組成物又は飼料として用いることができる。
【0009】
別の態様において、本発明の組成物は、高温ストレスや干出ストレスなどのストレスに対する耐性を増強するために用いることができる。また、本発明により、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法が提供される。
【0010】
水棲生物の養殖においては、地球温暖化による河川及び海水の水温上昇や、陸上で水棲生物を養殖する際の水温上昇は、水棲生物へのストレス負荷やコスト面で無視できない問題である。本発明の組成物又は方法は、これらの高温ストレスに対する水棲生物の耐性を増強することから、河川又は海洋における養殖だけでなく、陸上での養殖の際の水温上昇によるストレス低減が期待される。したがって、本発明の組成物は、温度上昇が懸念される海面養殖に適した飼料となり得る。また別の態様において、本発明の組成物は、陸上養殖においてコスト増の一因となっている冷却コストを低減できるため、陸上養殖用飼料としても有用であり得る。
【0011】
また、養殖時の生け簀間の移動、水槽の移し替え、体重測定や出荷時に水棲生物は空気暴露(干出)され、ストレスが負荷されることがある。本発明は干出ストレス耐性を増強することから、養殖時の干出ストレスを低減することが期待される。また、それにより、水棲生物のハンドリング性の向上や成長促進が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】高温ストレス試験の結果を示す図である。○は対照区、△は対照砂敷区、□は陽性対照区、●は実施例低用量区及び▲は実施例高用量区の斃死率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に限定されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
【0014】
1.本発明の組成物
本発明の組成物は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類を含む組成物であり、水棲生物の養殖に用いることができる。
【0015】
本発明の組成物は、水棲生物の飼料として用いることができる。イデユココメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類を含む、水棲生物用の飼料又は飼料組成物は、本発明に含まれる。
【0016】
本発明の組成物は、実施例において、高温ストレスや干出ストレスなどのストレスに対する水棲生物の耐性を増強することが示された。したがって、本発明の組成物は、水棲生物のストレス耐性を増強するために用いることができる。
【0017】
本発明の組成物には、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類が含まれる。イデユコゴメ綱は、分類学上、紅色植物門(Rhodophyta)、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に分類される。イデユコゴメ綱は、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属及びガルデリア(Galdieria)属の3属が分類されている。本発明の組成物は、これらのいずれの属に属する藻類を用いてもよい。例えば、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)等のシアニディオシゾン属に属する藻類、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)等のシアニジウム属に属する藻類、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)等のガルデリア属に属する藻類、又はこれらの変異体又はこれらの組合せを用いることができる。
【0018】
本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類は、ガルデリア属に属する藻類が好ましい。ガルデリア属は紅藻類イデユコゴメ綱に分類される単細胞の紅藻である。ガルデリア属に属する種としては、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)、ガルデリア・ダエダラ(Galdieria daedala)及びガルデリア・パルティタ(Galdieria partita)等が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。一実施形態において、単細胞の紅藻は、多細胞の紅藻に比べて、比較的小型の装置での調製も可能であるという効果を奏し得る。
【0019】
本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類は、一倍体の細胞形態であっても、二倍体の細胞形態であってもよい。
【0020】
本発明において、用いるイデユコゴメ綱に属する藻類の株は限定されない。例えば、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)の株としては、G 127(二倍体。強固な細胞壁を有する、CCCryoから入手可能)、G 108(1n)(二倍体から特開2020-072698に記載の方法に従って一倍体を誘導し、その単独培養株を作製してから利用。強固な細胞壁を有さない。)又はその変異株が挙げられる。G 127及びG 108のそれぞれの二倍体は、公的機関(例えば、G127(CCCryo 127-00)はCCCryo(Culture Collection of Cryophilic Algae)、G108(SAG 108.79)はSAG(The Culture Collection of Algae at Goettingen University))から容易に入手することができる。
【0021】
変異株は、当業者であれば、株に変異処理を行うことによって容易に得ることができる。変異処理としては、例えば、変異原作用を有する薬剤による処理又は高エネルギー線照射処理が挙げられる。変異原作用を有する薬剤として、例えば、エチルメタンスルホネート、N-メチル-N′-ニトロ-N-ニトロソグアニジン及び5-ブロモウラシル等の塩基類似体が挙げられる。また、高エネルギー線としては、UV、ガンマ線、X線及び重イオンビームが挙げられる。変異処理には、遺伝子組換え法を利用して特定の遺伝子を変異させる方法も含まれる。変異株には、形質転換体も含まれる。
【0022】
イデユコゴメ綱に属する藻類は、高温、高硫黄、低pHの環境、たとえば硫酸塩泉から、既報に従って採集し(De Luca P. et al., 1978, Webbia, 33, 37-44)、アレン培地又は改変アレン(MA)培地において維持培養することができる(Allen, M. B., 1959, Arch. Mikrobiol., 32, 270-277; Kuroiwa, T. et al., 1993, Protoplasma, 175, 173-177; Ohnuma M. et al., 2008, Plant Cell Physiol., 117-120; Kuroiwa T. et al., 2012, Cytologia, 77(3), 289-299)。
【0023】
本発明の組成物又は飼料におけるイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量は、対象の水棲生物の種類や生育ステージ(例えば、稚魚期、成魚期)等の諸条件に応じて適宜決定することができる。本発明の組成物又は飼料におけるイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量は、例えば0.01~10%(w/w)、0.01~5%(w/w)、0.01~1%(w/w)、0.1~5%(w/w)、0.3~5%(w/w)、0.3~3%(w/w)、0.5~5%(w/w)、0.5~3%(w/w)、0.5~1%(w/w)、1~5%(w/w)又は1%(w/w)であってよい。
【0024】
本発明の組成物におけるイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量は、好ましくは0.01~5%(w/w)又は0.01~1%(w/w)である。
【0025】
本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類として、イデユコゴメ綱に属する藻類の培養物、その処理物又はこれらの組合せを用いてもよい。イデユコゴメ綱に属する藻類としては、市販品を用いてもよく、イデユコゴメ綱に属する藻類を用いて適宜製造して取得したものを用いてもよい。イデユコゴメ綱に属する藻類の製造方法は特に限定されず、公知の方法を利用できる。
【0026】
本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類を適宜培養し、得られた培養物をイデユコゴメ綱に属する藻類として用いることができる。培養方法は、イデユコゴメ綱に属する藻類が生育する条件であればいずれの方法でもよく、当業者であれば、公知の方法から適宜選択、変更することができる。イデユコゴメ綱に属する藻類は、例えば本明細書の実施例に記載される条件等の通常の条件、例えばグルコース等の少なくとも一つの追加の成分を補充したMA2培地で培養することができる。
【0027】
当業者は、公知技術に基づき、培養物をさらに濃縮、乾燥(凍結乾燥、加熱乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等)、加熱、紫外線及び/又は放射線等による光照射、ミル又はガラスビーズなどによる粉砕、水や有機溶媒による抽出又は精製などの処理を行い、得られた沈殿濃縮物、乾燥物、抽出物もしくは精製物又はそれらの組み合わせ等の処理物をイデユコゴメ綱に属する藻類として本発明に使用することができる。一つの態様において、本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類の乾燥物又は乾燥物の粉砕物をイデユコゴメ綱に属する藻類として用いることができる。本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類の形態は、水棲生物用の組成物に含有できる形態である限り特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペレット、フレーク、シート、ペースト、溶液、懸濁液であり得る。
【0028】
本発明において、イデユコゴメ綱に属する藻類の乾燥菌体は、市販品を使用することもできる。そのような市販品としては、例えば、Protealg(登録商標)(Toxicology Research and Application, Volume 3: 1-13, 2019)を挙げることができる。
【0029】
市販品のイデユコゴメ綱、あるいは、得られた培養物、もしくは沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出物もしくは精製物又はそれらの組み合わせ等の処理物又はこれらの組合せは、水棲生物の養殖に従来用いられる基本飼料組成物にそのまま配合させてもよいし、これらを賦形剤等に吸着させた後に基本飼料組成物に配合させてもよい。賦形剤は、フィードオイル、ふすま、小麦粉、脱脂糠、シリカ、コーンコブミール、タルク等の水棲生物の飼料に一般的に用いられるものが挙げられる。
【0030】
イデユコゴメ綱に属する藻類、例えばガルデリア属に属する藻類を、例えば0.01~5%含有する組成物は、水棲生物の養殖に用いることができる。当該組成物は、水棲生物の飼料として用いることができ、当該組成物を水棲生物に給餌することにより、水棲生物を飼育することができる。
【0031】
イデユコゴメ綱に属する藻類を配合する基本飼料組成物は、通常、水棲生物の養殖に用いられる飼料であれば、特に限定されない。例えば、アンブローズ、アンブローズEP、アンブローズEPフロート、アンブロシア、フォース、シナジー、育成用、ハリオスEX鰻水研、桜(フィード・ワン株式会社)、おとひめ、ひらめ、鮪心、シーダイヤ、ジャイアントツナ、(日清丸紅飼料株式会社)、ファームチョイス(ファームチョイス株式会社)、マリン、ツナ・フード、うまかぶり(林兼産業株式会社)、育ち盛り、まだい華華、あわび、α-1、M-1(日本農産工業株式会社)、錦江、鰤皇、ハマチ丸、カロリッチ、ゴールドプローン、ひめ桜、桜皇、鯛光、珊瑚、黒潮、アジ太郎、銀鱗、冠鰤マッシュ(株式会社ヒガリマル)、海産ソフト、ハマチSoft DRY、ゴールドパワー、ハマチハイバーモイスト75、ハマチパーフェクトII、マダイNewゴールドII、マダイペレットL、マダイSoft Dry、マダイダッシュモイスト、カンパチスライダー、カンパチソフトC、アジ稚魚、アジニュー育成(坂本飼料株式会社)、オプティマ、ニューサステイン、ニュートラ、エクストリーム真鯛、サステイン、ネクスト真鯛、ビギン、マキシム真鯛、MaGro(SKRETTING)、INICIO、DFICO ENVIRO、INTRO、ORBIT(BioMar)などを挙げることができる。
【0032】
本発明の組成物に含まれる成分は、イデユコゴメ綱に属する藻類を含み、水棲生物が摂取できる限り特に限定されず、対象の水棲生物の種類や生育ステージ等の諸条件に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の組成物は、イデユコゴメ綱に属する藻類に加えて、通常の水棲生物の養殖用の基本飼料が含有する成分と同様の成分を含有していてよい。通常の水棲生物用の基本飼料の成分として、例えば、魚粉、魚油、ビタミン、ビタミン混合物、ミネラル混合物、金属、塩基性物質、リン酸カルシウム、小麦粉、小麦グルテン、αデンプン、粘結剤、骨粉、酵母、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、抗生物質等が挙げられる。また、本発明の組成物には、ビタミンCを含有させてもよい。
【0033】
本発明の組成物は、イデユコゴメ綱に属する藻類を基本飼料組成物に組み合わせることにより製造される。本発明の組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、本発明の組成物は、イデユコゴメ綱に属する藻類を基本飼料組成物に添加すること以外は、基本飼料組成物の成分と同様の成分を用い、同様の方法によって製造することができる。
【0034】
また、本発明の組成物の形態は、対象の水棲生物が摂取可能な態様である限り、特に制限されず、例えば、水棲生物の通常の飼料に採用される形態であり得る。本発明の組成物は、粉末状、顆粒状、ペレット状、キューブ状、ペースト状、液状等のいかなる形態であってもよい。本発明の組成物は、例えば、ドライペレットやモイストペレット等のペレットとして成形されてよい。当業者は、形態に応じて、増粘剤などの賦形剤をさらに加えることもできる。
【0035】
本発明において、水棲生物は、水中又は水辺に生息する生物であれば特に限定されず、例えば魚類又は甲殻類である。本発明において、魚類又は甲殻類は、例えば、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ティラピア、ナマズ、シーバス、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、バナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ及びガザミからなる群から選択される1以上が挙げられる。
【0036】
本発明の別の態様において、魚類又は甲殻類は、例えば、ヒラメ、カレイ、ゲンコ、オヒョウなどのカレイ目に属する魚類が挙げられる。
【0037】
本発明の組成物は高温ストレス耐性を増強するために用いることができる。低温温度領域に生息する魚類又は甲殻類ほど、海水の温度上昇の影響を受けやすいことから、本発明の対象となる水棲生物は選好温度の低い水棲生物であり得る。したがって、本発明の別の態様において、本発明の組成物は選好温度の低い魚類又は甲殻類に好ましく用いられ得る。水棲生物の選好温度は知られている。例えば、海洋研研究報告第4号、11-66、2002(Rep. Mar. Ecol. Res. Inst., No.4, 11-66, 2002)の表9にはいくつかの魚の選好温度が記載されており、実施例で用いられたヒラメの選好温度は25℃である。したがって、本発明において、ヒラメの選好温度と同程度又はそれ以下の選好温度、例えば30℃以下又は25℃以下の選好温度を有する魚類又は甲殻類(例えば、サケ)において高温ストレス耐性を増強することが期待される。30℃以下の選好温度を有する魚類として、例えば、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ、ニベ、マダイ、シロギス、クロメジナ、メダイ、イサキ、ブリ、ボラ、トラフグ、イシダイ、カワハギ、ハマフエフキ、アオギス、クロダイ、ホシギス、スズキ又はオニオコゼが挙げられる。別の態様において、本発明は25℃以下の選好温度を有する魚類に用いることができ、25℃以下の選好温度を有する魚類は、マダラ、サケ、ニシン、アユ、カタクチイワシ、マイワシ、クロソイ、カサゴ、メバル、シマアジ、マアジ、チダイ、アイナメ、マコガレイ、ヒラメ又はニベが挙げられる。
【0038】
また、本発明において対象となる水棲生物は、UDT(高温での死亡温度)やCTMax(臨界最高温度)を参考にして選択することもできる。臨界最高温度は、死なないまでも、水棲生物の平衡状態が保てなくなる等の異常が見られる高温側の温度である。例えば、海洋研研究報告第4号、11-66、2002の表4にはいくつかの魚のUDT及びCTMaxが記載されており、中でもヒラメ(体長6.8cm)の馴致温度20℃での値は、それぞれ35.2±0.20℃及び33.9±0.23℃(平均値±S.D.)である。したがって、ヒラメと同程度又はそれ以下のUDT又はCTMax、例えば馴致温度20℃でUDT:35.2±0.20℃、CTMax:33.9±0.23℃より低いUDT又はCTMaxである魚類又は甲殻類は、本発明において高温ストレス耐性を増強することが期待される。馴致温度20℃でUDT:35.2±0.20℃、CTMax:33.9±0.23℃より低いUDT又はCTMaxである魚類又は甲殻類は、例えば、ニシン、マイワシ、カタクチイワシ、アユ、サケ、マダラ、マアジ、シマアジ、ブリ、イサキ、マダイ、チダイ、ニベ、アイナメ、クロソイ、カサゴ、メバル、マコガレイ、クロダイ、シロギス、カワハギが挙げられる。
【0039】
本発明の組成物は、水棲生物の養殖に用いることができる。また、本発明の別の態様において、本発明の組成物は、水棲生物の養殖用の飼料である。本発明の組成物を水棲生物に給餌することにより、水棲生物を生育することができる。「本発明の組成物(又は飼料又は飼料組成物)を給餌する」とは、予め調製された本発明の組成物を水棲生物に接触させる場合に限られず、上述した本発明の組成物に含まれる成分を組み合わせて水棲生物に接触させる場合を含む。例えば、配合前の成分をそれぞれ準備し、給餌前又は給餌時に混合して、あるいはそれぞれ別個に、給餌してもよい。
【0040】
本発明の組成物は、1日1回又は複数回に分けて給餌されてよい。また、本発明の組成物は、数日に1回給餌されてもよい。各給餌時の本発明の組成物の給餌量は、一定であってもよく、変動してもよい。本発明の組成物の給餌量は特に限定されない。当業者は、水棲生物、例えば魚類又は甲殻類の種類や魚体、飼育又は養殖方法に基づき本発明の組成物の給餌量を適宜調整することができる。各給餌時の本発明の組成物の組成は、一定であってもよく、変動してもよい。各給餌時の本発明の組成物に含まれるイデユコゴメ綱に属する藻類の含有量は一定であっても良く、変動してもよい。
【0041】
本発明の組成物の給餌方法は、水棲生物の種類や成長度合、水温などに依拠して適宜選択することができる。例えば、手まき給餌でもよいし、給餌船給餌や自動給餌などの機械給餌でもよい。また、当業者は、水棲生物のエネルギー要求量などに基づき給餌量や給餌タイミングを調整できる。
【0042】
本発明の組成物を給餌する期間は、対象の水棲生物の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本発明の組成物は、養殖の全期間において継続して給餌されてもよく、一部の期間にのみ給餌されてもよい。また、本発明の組成物は、任意の期間で給餌の継続と中断を繰り返してもよい。本発明の組成物を給餌する期間は、限定されないが、例えば1~12月間又は1~4月間であってよく、約1月であってもよい。「一部の期間」とは、例えば、養殖の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、又は90%以上の期間であってよい。
【0043】
水棲生物の養殖は、本発明の組成物を給餌すること以外は、水棲生物を飼育する通常の方法により行うことができる。養殖は、例えば、海上や河川上の生簀や陸上の水槽で行うことができる。また、養殖には、稚魚生産のみを行う増養殖及び親魚までの生産を行う養殖が含まれる。
【0044】
本発明の組成物を用いて養殖された水棲生物は、海上の生簀や陸上の水槽などの養殖環境から回収され得る。回収は、従来公知の方法で実施することができる。
【0045】
2.ストレス耐性の増強
本発明の一態様において、本発明の組成物を用いて水棲生物を養殖することにより、イデユコゴメ綱に属する藻類を含有しない飼料を用いた場合と比較して、水棲生物のストレス耐性を増強することができる。したがって、本発明の組成物は、水棲生物のストレス耐性を増強するために用いることができる。イデユコゴメ綱に属する藻類を含むストレス耐性増強剤又は本発明の組成物を含むストレス耐性増強剤も、本発明に含まれる。また、本発明は、本発明の組成物を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法又は水棲生物のストレス耐性を増強させるために用いる本発明の組成物を含む。さらに、本発明は、イデユコゴメ綱に属する藻類を水棲生物に給餌することを含む、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法または水棲生物のストレス耐性を増強させるために用いるイデユコゴメ綱に属する藻類を含む。水棲生物、給餌の方法等は本明細書の記載を参照することができる。
【0046】
イデユコゴメ綱に属する藻類を含む組成物がストレス耐性の増強作用を有することは、実施例において記載するとおり、本発明の組成物を給餌した水棲生物の養殖時の水温を段階的に上昇させた後、33℃などの高温下においた際の水棲生物の状態を観察することにより評価することができる。例えば、対照よりも、所定時間における累積死亡匹数が少ない又は所定の累積死亡匹数となるまでの経過時間が短い場合に、ストレス耐性、特に高温ストレス耐性の増強作用を有すると評価される。高温ストレス試験における温度は、選好温度よりも高い温度であり、例えば選好温度よりも5~15度高い温度が上げられる。
【0047】
「高温ストレス」は、高温により水棲生物に負荷されるストレスである。高温とは、海上の生簀や陸上の水槽などの養殖環境における水温が平時よりも高いことを意味する。例えば、水温が同じ時期の過去の平均水温に比較して1度以上高いと高温ストレスが水棲生物に負荷され得る。
【0048】
また、イデユコゴメ綱に属する藻類を含む組成物がストレス耐性の増強作用を有することは、実施例において記載するとおり、本発明の組成物を給餌した水棲生物を空気暴露させた後、例えば暴露1時間後の血中コルチゾール濃度の値により評価することができる。血中コルチゾール濃度は、ストレスのマーカーとして知られており、血中コルチゾール濃度が高いほど魚のストレス状態が高いことを示す。例えば、空気暴露後の血中コルチゾール濃度が、対照以下の場合は、ストレス耐性、特に干出ストレス耐性の増強作用を有すると評価される。干出ストレス試験における空気暴露の時間は、例えば10秒~10分であるが、特に限定されない。
【0049】
「干出ストレス」は、水棲生物を水から出し、水棲生物を空気に暴露することにより負荷されるストレスである。例えば、養殖時の生け簀間の移動、水槽の移し替え、体重測定や出荷時に水棲生物は空気暴露(干出)されることがあり、かかる空気暴露により、水棲生物にはストレスが負荷される。「干出ストレス」は、種苗(稚魚)の健康を調べる指標として使われており、干出ストレス耐性が高いほど健康と評価される。
【0050】
本発明において、ストレスは、好ましくは高温ストレス又は干出ストレスである。
【0051】
ストレス耐性の増強作用の評価に用いられる対照としては、イデユコゴメ綱に属する藻類を含まない基本飼料であり、水棲生物の養殖に通常の用いられる基本飼料が挙げられる。対照には、ストレス耐性を増強させることが知られている、ビタミンCなどの物質を含む飼料や、ストレス耐性増強を意図した物質を含む飼料は使用されない。
【0052】
本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「1~40」という記載では、下限値である「1」、上限値である「40」のいずれも含むものとする。すなわち、「1~40」は、「1以上40以下」と同じ意味である。
【0053】
本明細書において、「%」及び「ppm」の値は、重量比を意味する。本明細書において、「1mg/kg」は「1ppm」と同じ意味である。本明細書において、含有量は、特に断りがない限り、質量又は重量比で表される。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
1.材料及び試験方法
・ガルデリア株
以下の試験では、Fraunhofer Institute for Cell Therapy and Immunology, Branch Bioanalytics and Bioprocesses IZI-BBに寄託された、株番号CCCryo 127-00 Galdieria sulphuraria (Galdieri) Merola 1982を用いた。
【0056】
・ガルデリア粉末の調製
CCCryo 127-00(一倍体)をフラスコで前培養した。前培養液を、MA2培地(Ohnuma et al. Plant Cell Physiol. (2008) 49:117-120)にSchmidt et al. Biotechnol Bioeng. (2005) 90:77-84と同じようにグルコースを加えた培地を5L含む7L容量のジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ、Bioneer)内に入れ、5 L/min通気、40℃、100rpmの条件で7~10日間培養した。
培養後、培養液を遠心分離し、上清を除去後、凍結乾燥し、粉末化した。その後、以下の試験に供した。
【0057】
[各試験区]
各試験区の餌料は次のとおりであった。
対照区 :標準飼料
対照砂敷区 :標準飼料
陽性対照区 :標準飼料+ビタミンC(5%)
実施例低用量区:標準飼料+ガルデリア藻粉末1%添加
実施例高用量区:標準飼料+ガルデリア藻粉末5%添加
【0058】
標準飼料は、ヒラメの成長に合わせ、「おとひめEP1ヒラメ」(粒径1.5mm)、「ひらめEP F-1」(粒径2mm)、「ひらめEP F-2」(粒径2.5mm)(いずれも日清丸紅飼料(株))の3種を用いた。ビタミンCは、ビタミンC「イワキ」(岩城製薬株式会社)を用いた。対照砂敷区については、給餌試験の期間、水層の底面に砂を敷き、給餌試験後の高温ストレス試験又は干出ストレス試験中は砂敷きをしていない。その他の区については、水層の底面には何も設置しなかった。
【0059】
ガルデリア藻粉末及びビタミンCは、フィードオイルに懸濁し、標準飼料に展着させた。また、対照区及び対照砂敷区においても、実施例区及び陽性対照区と同量のフィードオイルを標準飼料に添加した。
【0060】
[給餌試験]
ヒラメ各120尾を2tの円形水槽に収容し、自然水温の濾過海水をかけ流す条件下で28日間飼育を行った。海水の温度は、10~20℃であった。
【0061】
給餌量は1日当たり体重の3%とし、3回(朝、昼、夕)に分けて給餌した。また、週一回体重測定を行い、体重に応じて給餌量を調整した。
【0062】
[高温ストレス試験]
給餌試験後のヒラメを、各試験区30尾ずつ用いて実験を開始した。途中、砂敷区のヒラメ2尾が水槽を飛び出したため、砂敷区28尾でストレス試験を実施した。濾過装置を設置した水槽へ給餌試験後のヒラメを収容し、止水、通気の条件下で飼育した。馴致期間を3日間とし、ヒーターを用いて馴致期間1日目に24℃、2日目に26℃、3日目に28℃に水温を上昇させた。4日目に水温を33℃に設定し、1時間毎に、水温設定後8時間後まで状態を観察した。斃死個体はその都度水層から取り上げた。
【0063】
[干出ストレス試験]
コルチゾールはストレスマーカーであり、血中コルチゾール濃度の値が高いほど魚のストレス状態が高いことを示す。各試験区のヒラメを給餌試験後に空気暴露(干出)させ、その前後の血中コルチゾール濃度を測定した。
【0064】
・測定方法
各試験区のヒラメについて、給餌試験後のヒラメを空気暴露(干出)させた。空気曝露は、ヒラメを空気中に10分間、放置することにより実施した。各試験区3尾から、空中暴露(干出ストレス)前、干出ストレス1時間後及び24時間後に採血を行い、血中コルチゾール濃度の測定を行った。コルチゾール濃度は測定キット(DetectX Cortisol ELISA Kit(Arbor Assays社))を用いて測定した。
【0065】
2.結果[高温ストレス試験]
高温ストレス試験の結果を図1に示す。図1は各試験区の斃死率を示す。○は対照区、△は対照砂敷区、□は陽性対照区、●は実施例低用量区及び▲は実施例高用量区の斃死率を示す。
【0066】
高温ストレス試験において、実施例高用量区(ガルデリア5%)、実施例低用量区(ガルデリア1%)、陽性対照区(ビタミンC)、対照砂敷区、対照区の順に死亡までの時間が長いことが示された。
また、経過時間2時間以降、いずれの区においても対照区よりも死亡数が減少することが確認された。特に、実施例区(ガルデリア属に属する藻類を含む飼料)は、陽性対照区(ビタミンCを含む飼料)と同等又はそれ以上に、高温ストレス耐性の増強作用を有していた。
このことから、ガルデリア属に属する藻類を基本飼料に配合させた飼料は、水棲生物における高温ストレス耐性の増強作用を有することが示された。
【0067】
3.結果[干出ストレス試験]
干出ストレス試験の結果を表1に示す。表1は各試験区の平均値を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
ヒラメは水槽の底面がつるつるしているとストレスが負荷される一方で、底面に砂を敷くことによってストレスが緩和することが知られていることから、対照砂敷区を陽性対照として用いた。対照砂敷区は、平常時、干出ストレス後1時間及び24時間を通して、4区の中で最も血中コルチゾール濃度が低かった。
【0070】
平常時(干出ストレス前)において、ガルデリアを添加した実施例(低用量区及び高用量区)は、対照区より血中コルチゾール値が低かった。この結果から、ガルデリアを添加することにより、給餌期間中の水槽由来のストレスが緩和されたことが示唆される。
【0071】
干出ストレス1時間後の血中コルチゾールの値は、空気暴露(干出)によるストレスの程度を示す。ガルデリアを含有する実施例(低用量区及び高用量区)は、対照区と比べ、干出ストレスの負荷1時間後の血中コルチゾールの値が低かった。
この結果から、ガルデリアを飼料に含有する飼料は、干出ストレス耐の増強作用を有することが示された。
【0072】
干出ストレス24時間後の血中コルチゾール値から、干出ストレス後24時間には、ストレスレベルは干出ストレス前の平常時の状態に戻ることが示された。
【0073】
これらの結果から、ガルデリアを含有する飼料は、高温によるストレス耐性だけでなく、干出によるストレス耐性を増強し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により、水棲生物の養殖用組成物又は当該組成物を給餌することを含む水棲生物を養殖する方法が提供される。本発明の一態様において、本発明の組成物は水棲生物の飼料組成物又は飼料として用いることができる。
【0075】
別の態様において、本発明の組成物は、高温によるストレスや干出ストレスなどのストレス耐性を増強するために用いることができる。また、本発明により、水棲生物のストレス耐性を増強させる方法が提供される。
【0076】
地球温暖化による河川及び海水の水温上昇だけでなく、陸上で水棲生物を養殖する際の水温上昇は、水棲生物の養殖においては無視できない問題である。本発明の組成物又は方法は、これらの高温ストレスに対する水棲生物の耐性を増強することから、河川又は海洋における養殖だけでなく、陸上での養殖の際の水温上昇によるストレス低減が期待される。したがって、本発明の組成物は、温度上昇が懸念される海面養殖に適した飼料となり得る。また別の態様において、本発明の組成物は、陸上養殖においてコスト増の一因となっている冷却コストを低減できるため、陸上養殖用飼料としても有用であり得る。
【0077】
また、養殖時の生け簀間の移動、水槽の移し替え、体重測定や出荷時に水棲生物は空気暴露(干出)され、ストレスが負荷させることがある。本発明は干出ストレス耐性を増強することから、養殖時の干出ストレスを低減することが期待される。また、それにより、ハンドリング性の向上や成長促進が期待される。
図1