(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135265
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】電磁波吸収材料、電磁波吸収体、並びに前記電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230921BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20230921BHJP
H01F 1/28 20060101ALI20230921BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20230921BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
H01F1/24
H01F1/28
B22F1/17 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040391
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC28
4K018BD05
4K018CA08
4K018CA36
4K018HA08
4K018KA42
4K018KA43
5E041AA17
5E041BB03
5E041BC01
5E041BD12
5E041CA13
5E041NN05
5E041NN06
5E041NN15
5E321AA23
5E321BB35
5E321BB51
5E321BB53
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】電気絶縁性を維持しつつ高い電磁波吸収性能を有する電磁波吸収材料、電磁波吸収体、並びに電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器を提供すること。
【解決手段】電気絶縁性マトリックスと、前記電気絶縁性マトリックス中に分散する被覆金属粉と、を含み、前記被覆金属粉が、金属粉と、前記金属粉の表面を被覆する厚さ1nm以上50nm以下の絶縁コートと、を有し、前記金属粉の平均アスペクト比が5.0以下であり、前記電磁波吸収材料中の前記被覆金属粉の含有割合が55体積%以上である、電磁波吸収材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性マトリックスと、前記電気絶縁性マトリックス中に分散する被覆金属粉と、を含み、
前記被覆金属粉が、金属粉と、前記金属粉の表面を被覆する厚さ1nm以上50nm以下の絶縁コートと、を有し、
前記被覆金属粉の平均アスペクト比が5.0以下であり、
前記電磁波吸収材料中の前記被覆金属粉の含有割合が55体積%以上である、電磁波吸収材料。
【請求項2】
前記金属粉が強磁性金属粉である、請求項1に記載の電磁波吸収材料。
【請求項3】
前記強磁性金属粉が、ニッケル(Ni)粉及びニッケル(Ni)合金粉のいずれか一方又は両方である、請求項2に記載の電磁波吸収材料。
【請求項4】
前記金属粉が非磁性金属粉である、請求項1に記載の電磁波吸収材料。
【請求項5】
前記非磁性金属粉が、銅(Cu)粉、銅(Cu)合金粉、銀(Ag)粉、及び銀(Ag)合金粉からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項4に記載の電磁波吸収材料。
【請求項6】
前記被覆金属粉の平均粒径が2.0μm以上10.0μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電磁波吸収材料。
【請求項7】
前記被覆金属粉の平均アスペクト比が2.0以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電磁波吸収材料。
【請求項8】
前記絶縁コートがシリカを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電磁波吸収材料。
【請求項9】
前記電気絶縁性マトリックスは、基油、ワックス及びロジンからなる群の少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の電磁波吸収材料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電磁波吸収材料の成形体を備えた、電磁波吸収体。
【請求項11】
前記電磁波吸収体は、電磁波入射方向における厚さが0.5mm以上である、請求項10に記載の電磁波吸収体。
【請求項12】
前記電磁波吸収体は、0.1GHz以上18GHz以下の周波数帯域において、1mm厚での伝送減衰率が10dB以上となる領域を有する、請求項10又は11に記載の電磁波吸収体。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収材料、電磁波吸収体、並びに前記電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子情報通信技術の急速な発展に伴い、電磁波(電波)の利用が急速に増えるとともに、使用される電磁波の高周波化及び広帯域化が進んでいる。具体的には、携帯電話(1.5GHz、2.0GHz)や無線LAN(2.45GHz)に代表される準マイクロ波帯域におけるシステムに加えて、高速無線LAN(65GHz)や衝突防止用レーダ(76.5GHz)などのミリ波帯域における電波を利用した新しいシステムの導入が進められている。
【0003】
電磁波の利用拡大及び高周波化が進むにつれて、電磁ノイズによる電子機器の誤作動といった電磁干渉や身体への悪影響といった電磁障害の問題がクローズアップされ、EMC対策への要望が高まっている。EMC対策の一手段として、電磁波吸収体(電波吸収体)を用いて不要な電磁波を吸収し、その侵入を防ぐ手法が知られている。
【0004】
電磁波吸収体の基本的構成の一例を、断面模式図を用いて
図1に示す。電磁波吸収体(1)は、吸収体本体(2)と、この吸収体本体(2)を裏打ちする金属膜(3)と、で構成されている。吸収体本体(2)は電磁波吸収材料で構成されている。吸収体本体(2)に入射する入射波(4)は、その一部が吸収体表面で反射(5)され、残りが吸収体内部に侵入する。侵入した電磁波は金属膜(3)で反射され、その一部が反射波(6)として吸収体外部へ放射される。
【0005】
電磁波減衰メカニズムは、吸収体表面からの反射波(5)と吸収体裏面からの反射波(6)の干渉による減衰(干渉減衰)、及び吸収体本体(2)の内部での吸収による減衰(吸収減衰)の2つに分類される。干渉減衰では、吸収体本体(2)の厚さ(d)と電磁波の波長(λ)とが特定の関係にあるときに吸収体表面からの反射波(5)と吸収体裏面からの反射波(6)が打ち消しあう現象を利用する。干渉現象では吸収体本体(2)の厚さを厳密に制御する必要があり、また電磁波の入射角度に応じて吸収特性が低下するという問題がある。さらに吸収帯域が狭いという問題もある。これに対して、吸収減衰では、入射した電磁波のエネルギー(電磁波エネルギー)を吸収体本体(2)が吸収し、これを熱エネルギーに変換して放射する現象を利用する。吸収現象では、吸収体本体(2)の厚さをある程度自由に制御でき、かつ吸収帯域を広くできるメリットがある。
【0006】
吸収減衰を効果的に利用するためには、優れた吸収特性を示す吸収体(吸収材料)を用いることが重要である。具体的には、吸収体の伝送減衰率が吸収帯域において10dB以上であることが実用上は望まれる。
【0007】
ところで、電磁波吸収には、吸収体を構成する材料の磁性損失、誘電損失、または抵抗損失が利用され、これらの損失を利用する吸収体をそれぞれ磁性電磁波吸収体、誘電性電磁波吸収体、及び抵抗性電磁波吸収体とよぶ。このうち磁性電磁波吸収体が、優れた吸収特性を示すことから広く利用されている。
【0008】
磁性電磁波吸収体は、強磁性体の磁気共鳴に基づき発現する損失を利用している。すなわち強磁性体は、主として磁性元素(Fe、Ni、Co等)の原子に束縛される電子(3d電子)のスピン角運動量に基づく磁気モーメントを有している。そして交換相互作用などの作用を通じて磁気モーメントの向きが揃う結果、自発磁化が生じている。磁性体に電磁波を照射すると、低周波領域では磁壁移動により、高周波領域では磁化回転により、磁化の向きが変動(磁化振動)する。周波数が高くなると、特定の周波数で磁化変動が電磁波と干渉し合う結果、磁化が共鳴する現象、すなわち磁気共鳴が生じる。磁気共鳴が生じる周波数では、透磁率の虚部(μ’’)がピークをもち、損失が最大となる。磁気共鳴に基づく損失を磁気損失とよぶ。
【0009】
磁性電磁波吸収体の材料として、軟磁性金属やフェライト(鉄系酸化物)が従来から知られている。このうち、軟磁性金属は、飽和磁化及び透磁率がフェライトに比べて高いという利点があり、吸収体材料として多用されている。例えば、特許文献1には、絶縁性の基材中に粉末厚みが3μm以下の厚みの軟磁性扁平粉末を分散させて成ることを特徴とする高周波電磁波吸収体が開示されている(特許文献1の請求項1)。また特許文献1には、粉末厚みを薄くするにつれ、μ’’(複素透磁率の損失項)のピーク周波数frが高周波数側にシフトし、限界線(S;スネークライン)を超えるμ’’特性が得られること、従来吸収できなかった2GHz以上の高周波数の電磁波を良好に吸収できることが記載されている(特許文献1の[0012]及び[0014])。
【0010】
また、特許文献2には、質量%で、Si:9~12%、Al:1~5%、Cr:1~5%、残部Feおよび不純物からなることを特徴とする電磁波吸収体用扁平粉末、及び該扁平粉末を柔軟な絶縁材中に分散させて混練してなることを特徴とする電磁波吸収体が開示されている(特許文献2の請求項1~3)。
【0011】
一方で誘電損失を利用する誘電性電磁波吸収体も知られている。例えば特許文献3には、炭化ホウ素、導電性カーボン粉末、及び炭化ケイ素などの導電性材料と絶縁性材料とを含有する誘電損失材料を電磁波吸収体に適用することが開示されている(特許文献3の請求項1~10)。また特許文献3には、当該電磁波吸収体が、軽量で、高周波域で吸収周波数帯の広い優れた電磁波吸収特性を示すことが記載されている(特許文献3の[0007])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-087117号公報
【特許文献2】特開2008-050644号公報
【特許文献3】特開2007-019287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように軟磁性金属の磁性損失を利用した電磁波吸収体(磁性電磁波吸収体)などが従来から提案されるものの、電磁波吸収特性の改善を図る上で改良の余地がある。すなわち磁性に関してスネーク(Snoek)の限界と呼ばれる理論が知られており、この理論によれば、磁性体の透磁率の上限と共鳴周波数の間に関係があるとされている。例えば、磁気異方性の小さい材料では、透磁率の上限と共鳴周波数の積が一定になる。そのため高い透磁率を維持した状態で共鳴周波数を高くすることができない。
【0014】
特許文献1や2では、扁平軟磁性粉末を用い、形状異方性により生じる磁気異方性を利用して吸収特性改善を目論んでいる。しかしながら、それでもスネークの限界を打ち破って高周波での吸収特性を大幅に改善することは困難である。また扁平粉末は充填性が悪いため、磁性粉末を高い充填率で含む吸収体を作製することが困難である。そのため吸収特性の向上及び高周波化を図る上で限界があった。また特許文献3は誘電性電磁波吸収体を目的とするものの、炭化ホウ素などの導電性セラミック材料を準備する必要がある。これらのセラミック材料は、これを製造するために高温・高圧合成などの特殊な手法が必要であり、コスト増につながりやすいという問題があった。
【0015】
本発明者は、このような従来の問題点に鑑みて検討を行った。その結果、強磁性金属粉又は非磁性金属粉といった金属粉と電気絶縁性マトリックスとを含む材料において、金属粉の形状や含有割合を制御することで、誘電損失が極大値をもち、この誘電損失を利用することで、高周波帯域で実用に供し得る電磁波吸収材料及び電磁波吸収体を得ることができるとの知見を得た(特願2021-053512号、特願2021-107623号)。
【0016】
しかしながら、更に調査を進めたところ、このような金属粉と電気絶縁性マトリックスとを含む材料において、金属粉の含有割合を高くすると、金属粉同士が接触する恐れのあることが分かった。特に近年は電子部品の小型化が進展し、電磁波吸収体のサイズがより小さく且つ薄くなってきている。このような薄型の電磁波吸収体では、金属粉同士の接触確率が高くなり、電気絶縁性が低くなる恐れがある。電磁波吸収体によっては電子素子や電子部品の配線回路に接して用いられるケースがあり、電磁波吸収体の電気絶縁性が低いと、配線回路が短絡(ショート)する恐れがある。また金属粉同士の接触がたとえ一部であったとしても、これにより誘電特性などの諸特性が低下して電磁波吸収特性に悪影響を及ぼすとともに、電磁波吸収特性の経時劣化をもたらす恐れがある。
【0017】
このような問題点に鑑みて本発明者が検討を進めた結果、電磁波吸収材料に含まれる金属粉の形状や含有割合を制御し、さらに金属粉の表面に所定厚さの絶縁コートを設けることで、金属粉の局所的接触による電気絶縁性の低下及び電磁波吸収特性の劣化を防ぐことができ、それにより電気絶縁性を維持しつつ高い電磁波吸収性能を得ることが可能になるとの知見を得た。
【0018】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、電気絶縁性を維持しつつ高い電磁波吸収性能を有する電磁波吸収材料、電磁波吸収体、並びに電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、下記(1)~(13)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0020】
(1)電気絶縁性マトリックスと、前記電気絶縁性マトリックス中に分散する被覆金属粉と、を含み、
前記被覆金属粉が、金属粉と、前記金属粉の表面を被覆する厚さ1nm以上50nm以下の絶縁コートと、を有し、
前記被覆金属粉の平均アスペクト比が5.0以下であり、
前記電磁波吸収材料中の前記被覆金属粉の含有割合が55体積%以上である、電磁波吸収材料。
【0021】
(2)前記金属粉が強磁性金属粉である、上記(1)の電磁波吸収材料。
【0022】
(3)前記磁性金属粉が、ニッケル(Ni)粉及びニッケル(Ni)合金粉のいずれか一方又は両方である、上記(2)の電磁波吸収材料。
【0023】
(4)前記金属粉が非磁性金属粉である、上記(1)の電磁波吸収材料。
【0024】
(5)前記非磁性金属粉が、銅(Cu)粉、銅(Cu)合金粉、銀(Ag)粉、及び銀(Ag)合金粉からなる群から選ばれる少なくとも一つである、上記(4)の電磁波吸収材料。
【0025】
(6)前記被覆金属粉の平均粒径が2.0μm以上10.0μm以下である、上記(1)~(5)のいずれかの電磁波吸収材料。
【0026】
(7)前記被覆金属粉の平均アスペクト比が2.0以下である、上記(1)~(6)のいずれかの電磁波吸収材料。
【0027】
(8)前記絶縁コートがシリカを含む、上記(1)~(7)のいずれかの電磁波吸収材料。
【0028】
(9)前記電気絶縁性マトリックスは、基油、ワックス及びロジンからなる群の少なくとも1つを含む、上記(1)~(8)のいずれかの電磁波吸収材料。
【0029】
(10)上記(1)~(9)のいずれかの電磁波吸収材料の成形体を備えた、電磁波吸収体。
【0030】
(11)前記電磁波吸収体は、電磁波入射方向における厚さが0.5mm以上である、上記(10)の電磁波吸収体。
【0031】
(12)前記電磁波吸収体は、0.1GHz以上18GHz以下の周波数帯域において、1mm厚での伝送減衰率が10dB以上となる領域を有する、上記(10)又は(11)の電磁波吸収体。
【0032】
(13)上記(10)~(12)のいずれかの電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、電気絶縁性を維持しつつ高い電磁波吸収性能を有する電磁波吸収材料、電磁波吸収体、並びに電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0036】
<<1.電磁波吸収材料>>
本実施形態の電磁波吸収材料(以下、「材料」と称する場合がある)は、電気絶縁性マトリックスと、この電気絶縁性マトリックス中に分散する被覆金属粉と、を含む。ここで電磁波吸収材料は、これを成形して電磁波吸収体を作製するための前駆体となるものである。すなわち電磁波吸収材料を成形することで、シートなどの形状を有する電磁波吸収体を作製することができる。なお本明細書において、粉とは、独立する複数の粒子の集合体を意味する。複数の粒子が粉を構成すると言うこともできる。
【0037】
<被覆金属粉>
被覆金属粉は、金属粉と、この金属粉の表面を被覆する厚さ1nm以上50nm以下の絶縁コートと、を有する。また被覆金属粉は、電気絶縁性マトリックス中に分散して含まれる。すなわち被覆金属粉を構成する各粒子は、マトリックスを構成する成分(マトリックス成分)を介して互いに離間している。しかしながら全ての粒子が離間している必要はなく、一部の粒子同士が接触してもよい。
【0038】
本実施形態の電磁波吸収材料において、被覆金属粉の含有割合は55体積%以上に限定される。金属粉を高充填率で吸収材料に含ませることで、誘電損失に基づく電磁波吸収特性を材料に付与することが可能になる。具体的には特定の周波数(誘電損失ピーク周波数)で誘電率の虚部(ε’’)が極大となり、その周波数での吸収特性が最大になる。
【0039】
本実施形態の電磁波吸収材料が誘電損失に基づく電磁波吸収特性を発現する、その詳細な理由は不明である。特定の理論に基づき限定的に解釈されるべきではないが、次のように推測している。すなわち被覆金属粉を構成する各粒子はマトリックス成分を介して互いに離間している。言い換えれば、粒子間にはマトリックス成分が介在する。マトリックス成分は電気絶縁性を有しているため、粒子間に介在するマトリックス成分中に静電容量が生じる。また被覆金属粉の充填率が高いほど、隣接粒子間の平均間隔、すなわち粒子間に介在するマトリックス成分の厚さが小さくなる。そのため静電容量が大きくなり、その結果、材料全体として示す実効的な誘電率が大きくなる。マトリックスが誘電緩和現象を示す、あるいはマトリックスの容量成分(C成分)が金属粉の抵抗成分(R成分)及び/又は誘導成分(L成分)と作用して共振現象を起こすことで、特定の周波数で誘電損失が増大するのではないかと考えている。これに対して金属粉の含有割合が55体積%未満であると、容量成分が小さくなり、その結果、電磁波吸収特性が不十分になるのではないかと推測している。
【0040】
電磁波吸収特性を高める上で、被覆金属粉の含有割合は高いほど好ましい。被覆金属粉の割合が高いほど、誘電損失に基づく電磁波吸収性能が向上する。この点、金属粉の割合が高いと金属粒子同士が接触する確率が高くなる。しかしながら金属粉の表面に絶縁コートが設けられているため、たとえ粒子同士が接触したとしても、絶縁特性及び電磁波吸収特性が低下する恐れはない。含有割合は60体積%以上、65体積%以上、または70体積%以上であってもよい。一方で被覆金属粉の割合が過度に高いと、マトリックス成分の割合が少なくなるため、電磁波吸収材料の流動性及び成形性が低下する恐れがある。したがって含有割合は95体積%以下、90体積%以下、85体積%以下、または80体積%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態の電磁波吸収材料において、被覆金属粉の平均アスペクト比は5.0以下に限定される。ここで平均アスペクト比は、金属粉を構成する複数粒子のアスペクト比の平均値である。またアスペクト比は各粒子の短軸径に対する長軸径の比(長軸径/短軸径)であり、走査電子顕微鏡(SEM)観察により求めることができる。粒子の球形度が高いと、電磁波吸収特性をより優れたものにすることが可能になる。平均アスペクト比の小さい粉末は、これを構成する各粒子の球形度が高いため好ましい。アスペクト比の小さな金属粉を用いると、金属粉粒子間に働くフリクションが小さく、材料製造時に金属粉の充填が密に行われる。したがって金属粉充填率の高い電磁波吸収材料を得ることができる。これに対して、従来の磁性電磁波吸収材料では、磁気異方性の大きい扁平粉が用いられている。このような扁平粉はアスペクト比が大きく、充填率を高めることが困難である。本実施形態の電磁波吸収材料は、誘電損失に基づく電磁波吸収特性を利用しているため、充填性のよいアスペクト比の小さい金属粉の使用が可能である。平均アスペクト比は4.0以下、3.0以下、2.5以下、2.0以下であってもよい。
【0042】
被覆金属粉は、その表面に絶縁コートを備える。すなわち金属粉を構成する粒子は絶縁コートで被覆されている。絶縁コートを設けることで、被覆金属粉同士が接触したとしても、電磁波吸収体の絶縁性が確保され、その結果、電磁波吸収性能の低下を防ぐことが可能になる。すなわち絶縁コートが設けられていない金属粉を用いた場合に金属粉同士が接触すると、その箇所での絶縁性が無くなり容量成分が消失する。そのため電磁波吸収体全体での実効誘電率が低くなり、誘電損失に基づく電磁波吸収性能が低下する。また電磁波吸収体製造直後に絶縁性を確保していたとしても、使用時の経時変化に伴い、絶縁性及び電磁波吸収性能の低下が生じる恐れもある。その上、電子素子や電子部品の配線回路に接するように電磁波吸収体を設けるケースでは、絶縁性の低下により配線回路が短絡(ショート)する恐れがある。絶縁コートを設けることで、このような問題の発生を防ぐことができる。
【0043】
絶縁コートの厚みは1nm以上50nm以下である。厚みが過度に小さいと、絶縁コートに基づく絶縁性向上の効果を十分に確保することが困難になる。一方で厚みが過度に大きいと、金属粒子間の間隙が長くなるため容量成分が小さくなる。そのため実効誘電率が低くなり、誘電損失に基づく電磁波吸収性能向上の効果を十分に発揮させることが困難になる。また厚みが過度に大きいと、絶縁コートが剥離して絶縁性を確保することが困難になる恐れがある。絶縁コートの厚みは5nm以上35nm以下が好ましく、10nm以上20nm以下がより好ましい。
【0044】
絶縁コートは、金属粒子表面の全体を被覆してもよく、あるいは一部を被覆してもよい。一部のみでも被覆されていれば、少なくとも被覆していない場合に比べて絶縁性向上を図ることが可能である。しかしながら絶縁性向上の効果を高める上で、絶縁コートの被覆率は高いほど好ましい。被覆率は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。ここで被覆率とは、金属粉を構成する粒子の全表面積のうち、絶縁コートで被覆されている部分の面積の割合である。
【0045】
絶縁コートは、絶縁性が確保できれば、材質は限定されない。例えば、リン酸、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、チタニア(酸化チタン)、酸化鉄及びフェライト等の酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及び窒化ホウ素等の窒化物、炭化ケイ素等の炭化物が挙げられる。好適には絶縁コートはシリカを含む。シリカ被膜は絶縁性に優れる。またシリカ被膜を設けた被覆金属粉は、その製造が容易である。
【0046】
本実施形態の第1の態様では、被覆金属粉を構成する金属粉は強磁性金属粉である。ここで強磁性金属とは、強磁性を示す金属、すなわち室温で自発磁化を有する金属である。また強磁性金属は導電性を示す。より具体的には、強磁性金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)、正方晶ルテニウム(Ru)、及びこれらの金属を含む合金である。
【0047】
強磁性金属から構成される限り、強磁性金属粉の材質は限定されない。金属粉は、単一金属で構成されてもよく、あるいは合金で構成されてもよい。ここで合金とは固溶体のみならず金属間化合物を含む概念である。また強磁性金属粉は1種類の金属粉のみから構成されてもよく、あるいは複数種の金属粉を混合した状態で含んでもよい。また強磁性金属と非磁性金属との混合物であってもよい。例えば、強磁性金属粉の表面を非磁性金属層で被覆した態様であってもよく、あるいは非磁性金属粉の表面を強磁性金属層で被覆した態様であってもよい。さらに非共振時の導体損を低減する観点から、強磁性金属粉の電気抵抗は小さいほど好ましい。好ましくは、強磁性金属粉の体積抵抗率は10-5Ωm以下である。
【0048】
強磁性金属粉(軟磁性金属粉)の材質として、鉄(Fe)粉、鉄(Fe)合金粉、コバルト(Co)粉、コバルト(Co)合金粉、ニッケル(Ni)粉、ニッケル(Ni)合金粉、Fe-Ni合金(パーマロイ)、Fe-Ni-Mo合金(スーパーパーマロイ)、Fe-Co合金、Fe-Co-Ni合金、Fe-Cr合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Cr-Si合金、Fe-Si合金、Fe-Si-Al合金(センダスト)、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Cr-Ni合金、Fe基アモルファス合金、またはCo基アモルファス合金が挙げられる。好ましくは、強磁性金属粉は、鉄(Fe)粉、鉄(Fe)合金粉、ニッケル(Ni)粉、及びニッケル(Ni)合金粉からなる群から選択される少なくとも一種であり、特に好ましくは、ニッケル(Ni)粉及びニッケル(Ni)合金粉のいずれか一方又は両方である。これらの金属粉は入手が容易であるとともに、安価であり、さらに透磁率が高い。そのため、後述するように、磁気的性質を効果的に利用することができる。
【0049】
好ましくは、強磁性金属粉は軟磁性金属粉である。このように強磁性金属粉(軟磁性金属粉)を用いることには、様々な利点がある。例えば、電磁波吸収体表面での反射波を抑えることができ、電磁波吸収を効率的に行うことが可能になる。すなわち
図1に示すように、吸収体本体(2)に入射した入射波(4)は、その一部が吸収体表面で反射され、残りは吸収体内部に侵入する。吸収体表面の反射波(5)は吸収体内部での吸収に寄与しない。したがって反射波(5)を抑えることが吸収特性改善を図る上で有効である。
【0050】
この点、電磁波吸収体の特性インピーダンスを外部環境の特性インピーダンスと整合させることで、反射波を抑えることができる。電磁波吸収体の特性インピーダンスZと外部環境の特性インピーダンスZ0は、下記(1)及び(2)式に示すように、電磁波吸収体及び外部環境(空気)の誘電率及び透磁率の関数で表される。なお下記(1)及び(2)式において、μ及びεはそれぞれ電磁波吸収体の透磁率と誘電率であり、またμ0及びε0はそれぞれ外部環境(空気)の透磁率(1.256×10-6H/m)と誘電率(8.854×10-12F/m)である。
【0051】
【0052】
強磁性金属粉(軟磁性金属粉)は、一般に磁化が高く且つ保磁力が小さい。そのため透磁率(μ)が高い。強磁性金属粉を用いることで、マトリックス成分が有する高い誘電率(ε)が相殺され、その結果、電磁波吸収体の特性インピーダンスZが外部環境の特性インピーダンスZ0と整合しやすくなる。すなわち、吸収体表面での反射が抑えられる。
【0053】
また、強磁性金属粉(軟磁性金属粉)を用いることで、誘電損失のみならず、強磁性金属粉が本質的に有する磁気損失を電磁波吸収に利用することができる。すなわち強磁性金属粉は強磁性的性質を有しているため、特定の周波数で透磁率虚部(μ’’)の極大値をもつ。この周波数を磁気共鳴周波数又は磁気損失ピーク周波数と呼ぶ。磁気損失ピーク周波数で磁気損失が最大になり、その結果、磁気損失に基づく電磁波吸収特性が発現する。磁気損失ピーク周波数を誘電損失ピーク周波数に揃えることで、同一周波数域で誘電損失及び磁気損失の両方を利用することができる。そのため、電磁波吸収特性をさらに向上させることが可能である。あるいは磁気損失ピーク周波数を誘電損失ピーク周波数とずらすことで、吸収域を広帯域化することが可能になる。特に本実施形態の電磁波吸収材料は、強磁性性金属粉の充填率が高い。そのため強磁性金属粉に基づく磁気損失の効果を有効的に活用することができる。
【0054】
本実施形態の第2の態様では、被覆金属粉を構成する金属粉は非磁性金属粉である。ここで非磁性金属とは、強磁性金属以外の金属、すなわち室温で自発磁化をもたない金属である。より具体的には、非磁性金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)及び正方晶ルテニウム(Ru)といった強磁性金属以外の金属である。非磁性金属粉は、不純物量を超えた強磁性金属を含まない。
【0055】
非磁性金属から構成される限り、非磁性金属粉の材質は限定されない。非磁性金属として、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)などが例示される。金属粉は、単一金属で構成されてもよく、あるいは合金で構成されてもよい。ここで合金とは固溶体のみならず金属間化合物を含む概念である。また非磁性金属粉は1種類の金属粉のみから構成されてもよく、あるいは複数種の金属粉を混合して含んでもよい。非磁性金属粉は、化合物を形成していない複数の金属からなる混合粉であってもよい。また非共振時の導体損を低減する観点から、非磁性金属粉の電気抵抗は小さいほど好ましい。好ましくは、非磁性金属粉の体積抵抗率は10-5Ωm以下である。
【0056】
好ましくは、非磁性金属粉は、銅(Cu)粉、銅(Cu)合金粉、銀(Ag)粉、及び銀(Ag)合金粉からなる群から選択される少なくとも一種である。これらの粉末は、入手が容易であるとともに、電気抵抗が小さい。そのため吸収帯域以外の周波数領域での導体損を小さくすることができる。さらに金(Au)に比べて安価であるとともに、アルミニウム(Al)や亜鉛(Zn)に比べて酸化の影響が小さい。したがって、電磁波吸収特性に優れた吸収体を低コストで製造することが可能になる。
【0057】
本実施形態において、非磁性金属粉を用いることで、絶縁コートに基づく効果がより顕著になる。すなわち非磁性金属粉を含む電磁波吸収体において、電磁波吸収特性をもたらす損失のうち誘電損失の割合が大きい。一方で金属粉に絶縁コートを設けることで、誘電特性の低下を防ぐことができる。そのため非磁性金属粉に絶縁コートを設けることで、電磁波吸収性能のより一層の向上を図ることが可能になる。
【0058】
第1の態様及び第2の態様のいずれであっても、好ましくは被覆金属粉の平均粒径は2.0μm以上10.0μm以下である。粒径を大きくすることで、電磁波吸収特性を高めることができる。その詳細な理由は不明であるが、表皮効果に起因するのではないかと推測している。平均粒径は5.0μm以上がより好ましい。一方で平均粒径が過度に大きいと、シート、グリスまたは塗料といった組成物に電磁波吸収材料を適用する際に均質な組成物にならない恐れがある。平均粒径は8.0μm以下がより好ましい。なお平均粒径は、走査電子型顕微鏡(SEM)などの顕微鏡を用いて被覆金属粉を構成する複数の粒子を観察し、各粒子の粒径の平均値を個数基準で算出して求めることができる。
【0059】
被覆金属粉の粒度分布は限定されない。例えば、多峰性の粒度分布を示してもよく、あるいは単峰性の粒度分布を示してもよい。しかしながら、充填率が同じであれば、単峰性の粒度分布を示す金属粉を用いた方が、多峰性粒度分布を示す金属粉を用いた場合に比べて高い電磁波吸収特性を得ることができる。その詳細な理由は不明であるが、粒子同士の接触による渦電流の発生による損失と関係があるのではないかと推測している。また多峰性粒度分布では粒子同士の接触確率が高く、マトリックス中の容量成分が消失しやすいのではないかとも推測している。単峰性の粒度分布を示す金属粉は、粒度分布の揃った一種類の金属粉を用いることで得ることができる。
【0060】
<電気絶縁性マトリックス>
電気絶縁性マトリクス(以下、「マトリックス」と称する場合がある)は、電磁波吸収材料の母材(基材)となるものである。電気絶縁性を有する限り、マトリックスの材質は限定されない。固体、液体、ゲル及びこれらの混合物のいずれから構成されていてもよい。例えば、有機化合物、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックなどの絶縁性材料が挙げられる。なお本明細書において、電気絶縁性を有する材料とは、その体積抵抗(比抵抗)が105Ωcm以上の材料を指す。
【0061】
電気絶縁性マトリックスの含有割合は、好ましくは5体積%以上45体積%以下である。金属粉の含有割合が55体積%以上であるため、マトリックスの含有割合は45体積%以下に限定される。マトリックスの含有割合は、40体積%以下、35体積%以下、30体積%以下、25体積%以下、または20体積%以下であってもよい。
【0062】
電気絶縁性マトリックスは、好ましくは基油、ワックス及びロジンの少なくとも一つを含む。基油、ワックス及びロジンのいずれか一つを含んでもよく、あるいは複数を組み合わせて含んでもよい。基油、ワックス及びロジンの全てを含んでもよい。
【0063】
電気絶縁性マトリックスは基油を含んでもよい。基油は、金属粒子に対する濡れ性が高いとともに、電気絶縁性に優れるという特徴がある。そのため、基油を用いて薄い電気絶縁性被膜を粒子表面に設けることができる。また基油は、適度な粘性を有するが故に、粒子表面に形成された被膜が破壊されにくいという特徴がある。したがって、基油を用いることで、金属粉の充填率を高めても、粒子同士の直接接触を防ぐことが可能となる。
【0064】
基油の種類は限定されない。鉱物油、合成油、植物油、及び動物油のいずれであってもよい。鉱油はパラフィン系及びナフテン系のいずれであってもよい。また合成油として、炭化水素系、エステル系、エーテル系、シリコーン系、フッ素系などを用いることができる。好ましくはエステル系、特に好ましくはポリエーテルエステルである。
【0065】
基油は他の成分と共に電気絶縁性マトリックスを構成することができる。吸収材料に含まれる基油の含有割合は、8.0体積%以上40.0体積%以下が好ましく、10.0体積%以上35.0体積%以下がより好ましい。含有割合を上述の範囲内にすることで、金属粉を構成する粒子同士の直接接触をより効果的に防ぐことが可能になる。
【0066】
電気絶縁性マトリックスはワックスを含んでもよい。ワックスは、潤滑性付与の効果があるとともにバインダーとして機能する。すなわちワックスを用いることで、金属粉の滑りがよくなり、充填性が向上する。また吸収材料成形後にワックスは常温で固化するため、金属粉の結着力が高まり、それにより保形性を高める効果がある。金属粉の分散性向上を図る観点から、ワックスは、その酸価の高いものが好ましい。ワックスの酸価は20mg/g以上が好ましく、40mg/g以上がより好ましい。またワックスの種類は、限定されるものではないが、合成ワックス、植物ワックス、及び/又は石油ワックスが好ましい。
【0067】
ワックスは他の成分と共に電気絶縁性マトリックスを構成することができる。吸収材料に含まれるワックスの含有割合は2.0体積%以上15.0体積%以下が好ましく、4.0体積%以上10.0体積%以下がより好ましい。含有割合を上述の範囲内にすることで、適度な潤滑性及び保形性を吸収材料に付与することができる。
【0068】
電気絶縁性マトリックスはロジンを含んでもよい。ロジンは、粘性付与の効果があるとともに、バインダーとして機能する。すなわちロジンを用いることで、吸収材料の粘性が適度になるともに、保形性を高める効果がある。金属粉の分散性向上を図る観点から、ロジンは、その酸価の高いものが好ましい。ロジンの酸価は100mg/g以上が好ましく、120mg/g以上がより好ましい。またロジンの種類は、限定されるものではないが、トールロジン、ガムロジン、及び/又はウッドロジンが好ましい。
【0069】
ロジンは他の成分と共に電気絶縁性マトリックスを構成することができる。吸収材料に含まれるロジンの含有割合は5.0体積%以上20.0体積%以下が好ましく、8.0体積%以上15.0体積%以下がより好ましい。含有割合を上述の範囲内にすることで、適度な粘性及び保形性を吸収材料に付与することができる。
【0070】
電気絶縁性マトリックスは、必要に応じて分散剤を含んでもよい。分散剤は、金属粉と基油との親和性を高める作用がある。そのため、分散剤を加えることで、金属粉の分散性を向上させることができる。具体的には、金属粉の充填率が高い場合であっても、金属粉中の狭い間隙に基油が浸透し、粒子間の直接接触を抑制する効果がある。
【0071】
分散剤は、粉末の酸基と塩基の表面状態に合わせて適宜、選択すればよい。金属粉は表面が塩基性であることが多く、それに適用する分散剤は、その酸価の高いものが好ましい。酸価の高い分散剤を用いると、金属粉の分散性向上の効果がより一層顕著になる。分散剤の酸価は5.0mg/g以上が好ましく、20.0mg/g以上がより好ましい。また分散剤の種類は、限定されるものではないが、ポリエーテルカルボン酸、ポリエーテルリン酸エステル、及び/又は高級脂肪酸ポリエステルが好ましい。吸収材料に含まれる分散剤の含有割合は0.1体積%以上3.0体積%以下が好ましく、0.5体積%以上2.0体積%以下がより好ましい。含有割合を上述の範囲内とすることで、分散性向上の効果を十分に発揮させることが可能になる。
【0072】
電気絶縁性マトリックスは、基油、ワックス、ロジン、及び分散剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分として、防錆剤、金属不活性剤、レオロジー制御剤及び/又は酸化防止剤などが挙げられる。他の成分は、用途に応じてこれを適宜、選択すればよい。
【0073】
本実施形態の電磁波吸収材料は高周波帯域で誘電損失の極大値をもつ。例えば超短波(30MHz~300MHz)、極超短波(300MHz~1GHz)、準マイクロ波(1GHz~3GHz)、及び/又はマイクロ波(3GHz以上)の周波数帯域で誘電損失が極大になる。より具体的には電磁波吸収材料は0.1GHz以上18GHzの周波数帯域において、誘電正接(tanδE)のピークをもつことができる。またこのピークにおける誘電正接(tanδE)の値(極大値)を0.05以上、0.10以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上、または0.30以上に高めることが可能である。
【0074】
<<2.電磁波吸収材料の製造>>
本実施形態の電磁波吸収材料は、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。例えば、マトリックスを構成する成分またはその前駆体と被覆金属粉とを混練して製造することができる。混錬は、プラネタリーミル、自公転ミキサー、及び/又は三本ロールなどの公知の装置を用いて行えばよい。
【0075】
被覆金属粉は、金属粉に被覆処理を施して作製する。被覆処理では、金属粉の表面に絶縁コートを形成する。絶縁コートを形成できれば、被覆処理の手法は限定されない。被覆処理は乾式で行ってもよく、あるいは湿式で行ってもよい。湿式被覆処理として、絶縁コート構成成分の微粒子が分散している分散液中に金属粉を浸漬し、固液分離及び乾燥する手法が挙げられる。あるいは絶縁コート構成成分が溶解している溶液中に金属粉を浸漬し、固液分離及び乾燥する手法が挙げられる。溶解成分として、絶縁コート構成成分の塩や有機金属化合物を用いることができる。また乾燥後の被覆金属粉に熱処理を施してもよい。乾式被覆処理として、スパッタリング法、蒸着法、熱プラズマ法または化学的気相成長法で絶縁コート成分を金属粉の表面に堆積させる手法が挙げられる。あるいは金属粉と絶縁コート構成成分の混合粉にメカノフュージョンなどの機械的処理を施して、金属粉表面に絶縁コートを設けてもよい。さらに金属粉を酸化雰囲気中で加熱して、表面酸化膜を形成する手法であってもよい。
【0076】
混練前に被覆金属粉に表面処理を施してもよい。これによりマトリックス成分との親和性をより一層高めることが可能になる。表面処理は、被覆金属粉の表面に、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、及びアルミネートカップリング剤等のカップリング剤を接触させることで行うことができる。
【0077】
<<3.電磁波吸収体>>
本実施形態の電磁波吸収体は、上述した電磁波吸収材料の成形体を備える。すなわち電磁波吸収体を成形して作製される。成形手法は限定されない。例えば、電磁波吸収材料を圧延ロールやドクターブレード法などの手法でシート成形してもよい。あるいは電磁波吸収材料を基体上に塗布して塗膜を成膜する手法であってもよい。成形体が得られる限り、その手法は限定されない。
【0078】
電磁波吸収体は、その厚さが大きいほど、優れた吸収特性を示す。電磁波入射方向における厚さは0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましく、1.5mm以上がさらに好ましい。なお電磁波入射方向における厚さとは、電磁波吸収体(電磁波吸収材料成形体)の表面と裏面との間の厚さであり、また表面及び裏面とは、電磁波が入射する方向に向かう面とそれに対向する面のことである。
【0079】
電磁波吸収体は、電磁波吸収材料の成形体以外の部材を備えてもよい。例えば表面にインピーダンス整合層や表面保護層を設けてもよい。また裏面に反射部材を設けてもよい。インピーダンス整合層として、磁性粉や誘電体粉末を樹脂中に分散させた層が例示される。表面保護層として、樹脂やガラスからなる層が例示される。反射部材として、膜状、箔状、または網状の金属部材が挙げられる。
【0080】
電磁波吸収体は、その用途が限定されず、公知の用途に適用すればよい。例えば、電磁波吸収体を備えた電子素子、電子部品又は電子機器に適用できる。また建物の外壁や内壁などの建築部材に適用してもよい。使用態様も限定されるものではなく、公知の態様にすればよい。例えば、シート状又は塗膜状の電磁波吸収体を、電子機器筐体の外面又は内面に貼り付ける態様としてもよい。あるいは電子部品のパッケージ外面に設ける態様としてもよい。さらに電子素子や電子部品の内部に電磁波吸収体を設ける態様としてもよい。
【0081】
本実施形態の電磁波吸収体は、高周波帯域で誘電損失に基づく電磁波吸収特性を示す。例えば超短波(30MHz~300MHz)、極超短波(300MHz~1GHz)、準マイクロ波(1GHz~3GHz)、及び/又はマイクロ波(3GHz以上)の周波数帯域で、実用に供し得る電磁波吸収特性を示す。より具体的には、電磁波吸収体は0.1GHz以上18GHz以下の周波数帯域において、1mm厚での伝送減衰率の値が10dB以上、15dB以上、20dB以上、25dB以上、30dB以上、または40dBとなる領域を有することができる。
【0082】
このような本実施形態によれば、誘電損失を利用した、高周波帯域で実用に供し得る電磁波吸収材料及び電磁波吸収体を得ることができる。このような電磁波吸収材料や電磁波吸収体は、従来から知られていない。例えば、特許文献1や特許文献2は、電磁波吸収体に含まれる軟磁性粉末を扁平化することで、スネークの限界を超える吸収特性を得ることを提案している。しかしながら、これらの文献に開示される電磁波吸収体は、強磁性たる軟磁性粉により発現する磁気損失のみを利用したものであり、誘電損失を利用する本実施形態の電磁波吸収体とは電磁波吸収のメカニズムが異なる。また軟磁性扁平粉末は粒子間のフリクションが大きく、高充填化が困難である。
【0083】
特許文献3には誘電損失材料を電磁波吸収体に適用することが提案されるものの、誘電損失材料として用いられるのは炭化ホウ素などの導電性材料であり、これらは金属粉ではない。実際、特許文献3には、金属粉たるアルミニウム粉末を45体積%の割合で含む比較例サンプル(比較例2)が開示されるものの、この比較例2は吸収特性を示さないとされている(特許文献3の表2)。
【0084】
また本実施形態の電磁波吸収材料及び電磁波吸収体によれば、金属粉の表面に絶縁コートが設けられているため、金属粉の局所的接触による電気絶縁性の低下及び電磁波吸収特性の劣化を防ぐことができる。そのため電気絶縁性を維持しつつ高い電磁波吸収性能を得ることが可能になる。
【実施例0085】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定される訳ではない。
【0086】
[実験例A]
実験例Aでは、ニッケル(Ni)粉又はニッケル銅(NiCu)粉を強磁性(軟磁性)金属粉として含む電磁波吸収体を作製し、その評価を行った。
【0087】
(1)電磁波吸収体の作製
[実施例A1~A4、比較例A1及び比較例A2]
<被覆金属粉の準備工程>
金属粉として下記表A1に示すニッケル(Ni)粉又はニッケル銅(NiCu)粉を準備した。NiCu粉は、銅(Cu)で被覆したニッケル(Ni)粉であり、銅(Cu)の含有量はニッケル(Ni)に対して10質量%であった。
【0088】
次いで、準備した金属粉をエチルシリケートの加水分解液(コルコート株式会社、HAS-1)に浸漬させた後に固液分離し、分離した固形物を乾燥した。これによりシリカ(酸化ケイ素;SiO2)被膜を絶縁コートとして表面に備えた被覆金属粉を得た。そして得られた被覆金属粉をフィラーとして用いた。なお実施例A1~A4及び比較例A1では、浸漬時間を変えることでシリカ被膜の厚みを調整した。具体的には、実施例A1~A3では浸漬時間を5分間、実施例A4では10分間、比較例A1では30分間とした。また比較例A2ではシリカ被膜を設けず、金属粉を単体でフィラーとして用いた。
【0089】
<混練工程>
得られたフィラー(被覆金属粉等)、並びに基油、分散剤、ワックス、及びロジンを秤量し、自公転ミキサー(株式会社シンキー、あわとり練太郎、型式ART-930Twin)を用いて混錬して混錬物を得た。用いた基油、分散剤、ワックス、及びロジンの詳細を表A2に示す。この際、秤量は下記表A3に示す配合組成が得られるように行った。また混練は1350rpmの回転速度で4分間行った。このようにして電磁波吸収材料を作製した。
【0090】
<成形工程>
得られた混錬物(電磁波吸収材料)をフィルム間に挟み、加熱圧延ロール(株式会社井元製作所、型式IMC-1A04)を用いて膜厚が所定値になるように圧延してシートを得た。加熱圧延は100℃で行った。得られたシートは、その厚みが1mmであった。得られたシートを電磁波吸収体として評価に用いた。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
(2)評価
実施例A1~A4、比較例A1及びA2のフィラー(被覆金属粉等)及び電磁波吸収体について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0095】
<粒径及びアスペクト比>
フィラーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ、S-4800;SEM)で観察し、得られたSEM像を画像解析ソフトウェア(株式会社マウンテック、Mac-View)を用いて解析した。これによりフィラー中の粒子の粒径及びアスペクト比(長軸径/短軸径)を求めた。複数の粒子について粒径及びアスペクト比を求め、それぞれの個数基準での平均値を平均粒径及び平均アスペクト比として算出した。
【0096】
<絶縁コート厚み>
フィラーを透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JEM-ARM200F)を用いて観察し、顕微鏡付属のエネルギー分散型X線装置(EDS)を用いて成分面分析を行った。そして、TEM像及びEDS面分析像より、絶縁コートの厚みを求めた。
【0097】
<伝送減衰率>
電磁波吸収体の伝送減衰率を、マイクロストリップラインを用いて測定した。具体的には、シート状の電磁波吸収体を10cm×5cmのサイズに切断して測定試料を作製した。次いで、マイクロストリップライン(キーコム株式会社、型式TF-6C)上に測定試料を置き、さらにその上に荷重(500g)を加えた。荷重を加えた状態でマイクロストリップラインにネットワークアナライザからの高周波信号を入射し、反射特性を測定した。そしてSパラメータ(S11、S21)を用いて、下記(3)式にしたがって伝送減衰率RTPを求めた。
【0098】
【0099】
<絶縁性>
電磁波吸収体の抵抗率を測定して絶縁性を評価した。具体的には、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社、ハイレスタ、MCP-HT800)を用いて電磁波吸収体の抵抗率を測定した。そして、抵抗率が計測され導通が確認されたサンプルを「×」、抵抗率を計測できず絶縁性が確認できたサンプルを「〇」と格付けした。
【0100】
(3)評価結果
フィラー(被覆金属粉等)の特性(平均粒径、平均アスペクト比、絶縁コート厚み)を表A1に示す。また電磁波吸収体の特性(伝送減衰率、絶縁性)を表A4に示す。
【0101】
表A1に示すように、いずれのサンプル(実施例A1~A4、比較例A1及びA2)でもフィラーの粒径及びアスペクト比が本実施形態で規定される範囲を満足していた。また実施例A1~A4ではシリカ被膜(絶縁コート)の厚みが本実施形態で規定される範囲を満足していた。一方で比較例A1はシリカ被膜の厚みが過度に厚かった。また比較例A2はシリカ被膜を有していなかった。
【0102】
表A4の評価結果から、本実施形態の電磁波吸収材料を用いた実施例A1~A4は、いずれも6GHzでの伝送減衰率が最も高く、良好な電磁波吸収性、及び、絶縁性を有していることが分かる。また、実施例A1~A3の結果から、フィラー充填率を上げることにより、電磁波吸収性が向上することが分かる。さらに、実施例A4の結果から、NiCu粉を用いてもNi粉と同等の電磁波吸収性を得られることが分かる。
【0103】
これに対し、絶縁コートの厚みを厚くし過ぎた比較例A1は、絶縁性は有しているものの十分な電磁波吸収性が得られなかった。また、絶縁コートを施さないNi粉を用いた比較例A2は、その電磁波吸収性が実施例A1~A4と同等であることが分かる。しかしながら導電性が確認され、回路のショートを引き起こす恐れがあることが分かる。
【0104】
【0105】
[実験例B]
実験例Bでは、銅(Cu)粉又は銀銅(AgCu)粉を非磁性金属粉として含む電磁波吸収体を作製し、その評価を行った。
【0106】
(1)電磁波吸収体の作製
[実施例B1~B4、比較例B1及び比較例B2]
金属粉として下記表B1に示す銅(Cu)粉又は銀銅(AgCu)粉を準備した。AgCu粉は、銅(Cu)で被覆した銀(Ag)粉であり、銅(Cu)の含有量は銀(Ag)に対して10質量%であった。
【0107】
準備した金属粉の表面に、実験例Aと同様の手法でシリカ(酸化ケイ素;SiO2)被膜を設けて被覆金属粉を作製し、これをフィラーとして用いた。なお比較例B2ではシリカ被膜を設けず、金属粉を単体でフィラーとして用いた。
【0108】
得られたフィラー(被覆金属粉等)を用いて、実験例Aと同様の手法で電磁波吸収材料及び電磁波吸収体を作製した。なお秤量は下記表B2に示す配合組成が得られるように行った。
【0109】
【0110】
【0111】
(2)評価
実施例B1~B4、比較例B1及びB2のフィラー(被覆金属粉等)及び電磁波吸収体について、各種特性の評価を実験例Aと同様に行った。
【0112】
(3)評価結果
フィラー(被覆金属粉等)の特性(平均粒径、平均アスペクト比、絶縁コート厚み)を表B1に示す。また電磁波吸収体の特性(伝送減衰率、絶縁性)を表B3に示す。
【0113】
表B1に示すように、いずれのサンプル(実施例B1~B4、比較例B1及びB2)でもフィラーの粒径及びアスペクト比が本実施形態で規定される範囲を満足していた。また実施例B1~B4ではシリカ被膜(絶縁コート)の厚みが本実施形態で規定される範囲を満足していた。一方で比較例B1はシリカ被膜の厚みが過度に厚かった。また比較例B2はシリカ被膜を有していなかった。
【0114】
表B3の評価結果から、本実施形態の電磁波吸収材料を用いた実施例B1~B4は、いずれも6GHzでの伝送減衰率が最も高く、良好な電磁波吸収性、及び、絶縁性を有していることが分かる。また、実施例B1~B3の結果から、フィラー充填率を上げることにより、電磁波吸収性が向上することが分かる。さらに、実施例B4の結果から、AgCu粉を用いてもCu粉と同等の電磁波吸収性が得られることが分かる。
【0115】
これに対し、絶縁コートの厚みを厚くし過ぎたCu粉を用いた比較例B1は、絶縁性は有しているものの十分な電磁波吸収性が得られないことが分かる。また、絶縁コートを施さないCu粉を用いた比較例B2は、その電磁波吸収性が比較例B1よりは高いものの実施例B1~B4には及ばないことが分かる。また導電性が確認され、回路のショートを引き起こす恐れがあることが分かる。
【0116】
【0117】
[実験例C]
実験例Cでは、銀(Ag)粉又は銀銅(AgCu)粉を非磁性金属粉として含む電磁波吸収体を作製し、その評価を行った。
【0118】
(1)電磁波吸収体の作製
[実施例C1~C4、比較例C1及び比較例C2]
金属粉として下記表C1に示す銀(Ag)粉又は銀銅(AgCu)粉を準備した。AgCu粉は、銅(Cu)で被覆した銀(Ag)粉であり、銅(Cu)の含有量は銀(Ag)に対して10質量%であった。
【0119】
準備した金属粉の表面に、実験例Aと同様の手法でシリカ(酸化ケイ素;SiO2)被膜を設けて被覆金属粉を作製し、これをフィラーとして用いた。なお比較例C2ではシリカ被膜を設けず、金属粉を単体でフィラーとして用いた。
【0120】
得られたフィラー(被覆金属粉等)を用いて、実験例Aと同様の手法で電磁波吸収材料及び電磁波吸収体を作製した。なお秤量は下記表C2に示す配合組成が得られるように行った。
【0121】
【0122】
【0123】
(2)評価
実施例C1~C4、比較例C1及びC2のフィラー(被覆金属粉等)及び電磁波吸収体について、各種特性の評価を実験例Aと同様に行った。
【0124】
(3)評価結果
フィラー(被覆金属粉等)の特性(平均粒径、平均アスペクト比、絶縁コート厚み)を表C1に示す。また電磁波吸収体の特性(伝送減衰率、絶縁性)を表C3に示す。
【0125】
表C1に示すように、いずれのサンプル(実施例C1~C4、比較例C1及びC2)でもフィラーの粒径及びアスペクト比が本実施形態で規定される範囲を満足していた。また実施例C1~C4ではシリカ被膜(絶縁コート)の厚みが本実施形態で規定される範囲を満足していた。一方で比較例C1はシリカ被膜の厚みが過度に厚かった。また比較例C2はシリカ被膜を有していなかった。
【0126】
表C3の評価結果から、本実施形態の電磁波吸収材料を用いた実施例C1~C4は、いずれも6GHzでの伝送減衰率が最も高く、良好な電磁波吸収性、及び、絶縁性を有していることが分かる。また、実施例C1~C3の結果から、フィラー充填率を上げることにより、電磁波吸収性が向上することが分かる。さらに、実施例C4の結果から、AgCu粉を用いた場合でもAg粉と同等の電磁波吸収性が得られることが分かる。
【0127】
これに対し、絶縁コートの厚みを厚くし過ぎたAg粉を用いた比較例C1は、絶縁性は有しているものの十分な電磁波吸収性が得られないことが分かる。また、絶縁コートを施さないAg粉を用いた比較例C2は、その電磁波吸収性が比較例C1よりは高いものの実施例C1~C4には及ばないことが分かる。また導電性が確認され、回路のショートを引き起こす恐れがあることが分かる。
【0128】