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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135295
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】IgA産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20230921BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230921BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230921BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230921BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20230921BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20230921BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20230921BHJP
【FI】
A61K38/02
A61P37/04
A23L33/18
A23L2/00 F
A23L2/02 C
A23L2/52 101
A23L2/00 J
A23K20/147
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040433
(22)【出願日】2022-03-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畠 英史
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B117
4C084
【Fターム(参考)】
2B150DC23
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD09
4B018MD25
4B018MD29
4B018MD34
4B018MD71
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF02
4B018MF06
4B018MF12
4B018MF14
4B117LC04
4B117LG03
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK15
4B117LK18
4B117LK24
4B117LP06
4B117LP20
4C084AA02
4C084BA05
4C084BA34
4C084CA38
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB091
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、免疫細胞からのIgA産生を促進し、感染予防効果を有する新規な素材を提供することである。
【解決手段】スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むIgA産生促進用組成物であって、前記ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、前記糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースからなるものであり、前記ガラクト-N-ビオースが前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、シアル酸はガラクト-N-ビオースに結合し、前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1であることを特徴とするIgA産生促進用組成物を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むIgA産生促進用組成物であって、
前記ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースからなるものであり、
前記ガラクト-N-ビオースが前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、シアル酸はガラクト-N-ビオースに結合し、
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1であることを特徴とするIgA産生促進用組成物。
【請求項2】
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である請求項1に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項3】
前記シアリル糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である請求項1又は請求項2に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項4】
スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むIgA産生促進用組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上であることを特徴とするIgA産生促進用組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
【請求項5】
前記糖鎖の構造が、
前記(1)及び 前記(2)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上である、請求項4に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項6】
シアリル糖ペプチドが乳由来であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飲食品。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用医薬品。
【請求項9】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgA産生促進用組成物に関する。特に、シアリル糖ペプチドを有効成分とするIgA産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
κ-カゼイングリコマクロペプチド(以下、単にGMPということがある)は、牛乳のκ-カゼインにレンネット又はペプシンを作用させた時に生成する糖ペプチドであって、チーズホエー中に含まれている。また、GMPは、κ-カゼインのC末端側64個のアミノ酸からなるペプチド鎖にNeu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAc、Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAc、Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAc、Galβ1-3GalNAc、GalNac、Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAc、Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcが結合している(非特許文献1、2)。
【0003】
GMPは、複数の機能性に寄与する可能性が期待されている(非特許文献3)。GMPによる様々な有益な効果については、特にGMPのシアル酸を含んだ糖鎖構造が重要なのではないか、と推察されている。一方で、非特許文献4では、GMPがLPS(lipopolysaccharide、リポ多糖)によるImmunoglobulin A(以下、単にIgAということがある)産生促進作用を増強することが示されているが、その作用にGMPの糖鎖構造が関与しているかどうかは明らかにされていない。
【0004】
IgAは自然免疫に働く主要な抗体のひとつである。特に分泌型IgA(SIgA)は粘膜免疫の主役であり、消化管や呼吸器における免疫機構の最前線として機能している。腸管においてSIgAは粘膜筋板のプラズマ細胞から分泌され、上皮を貫通し、上皮の表面に分泌されて、抗原や病原性細菌を捕捉することでそれらが上皮に接着するのを防止する。これらのことから、IgAは生体の感染防御に働くことが期待されており、これまでにいくつかのIgA産生を上昇させるための解決手段が開示されている。
【0005】
特許文献1は、IgA産生活性を促進させてIgA産生量を増加させ、優れた感染防御およびアレルギ-反応を阻止するIgA産生促進剤及びIgA産生促進飲食品を提供することを目的とし、その解決手段として乳由来の乳脂肪球皮膜又は乳κ-カゼイン由来のグリコマクロペプチドを有効成分としたことを特徴とするIgA産生促進剤を開示している。しかし、特許文献1には、GMP自体のIgA産生促進作用が記載されているにすぎず、その作用と構造の関係については示唆されていない。
【0006】
特許文献2は、免疫賦活用組成物、ならびに免疫賦活に有用な飲食品および医薬組成物を提供することを課題とし、その解決手段としてビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)に属するビフィズス菌および/または該ビフィズス菌の処理物を含有してなることを特徴とする免疫賦活用組成物、ならびにそれを含む免疫賦活に有用な飲食品および医薬組成物を開示している。しかし、同様に、ビフィズス菌やその処理物自体の効果について示されているにすぎない。
【0007】
特許文献3は、腸内大腸菌、インフルエンザウイルス、エップシュタインバーウイルスに起因する感染症の防御効果を有し、しかもこれらの細菌やウイルスの変異等により同効果が失われることがなく、かつ安全性の点で何ら問題もない感染防御剤を提供することを課題とし、その解決手段としてシアル酸結合タンパク質、例えばκ-カゼイン、もしくはGMPを腸内大腸菌、インフルエンザウイルスあるいはエップシュタインバーウイルスに対する感染防御剤の有効成分とすることを開示している。しかし、本文献ではシアル酸結合タンパク質による感染防御効果が示されているが、その効果は病原体やウイルスとシアル酸との相互作用によるものであるとされており、IgA産生促進作用については開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-339161
【特許文献2】特許第5001830号
【特許文献3】特許第2631470号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Saito,T.Itoh.1992.Variations and distributions of O-Glycosidically linked sugar chains in bovine k-casein. J Dairy Sci.75:1768-1774.
【非特許文献2】H.Fukudome,T.Yamaguchi,J.Higuchi,A.Ogawa,Y.Taguchi,J.Li,T.Kabuki,K.Ito,F.Sakai.2021.Large-scale preparation and glykan characterization of sialylglycopeptide from bovuline milk glycomacro peptide and its bifidogenic properties.J Dairy Sci.104:1433-1444.
【非特許文献3】L.Cordova-Davalos,M.Jimenez,E.Salinas. 2019.Glycomacropeptide Bioactivity and Health:A Review Highlighting Action Mechanisms and Signaling Pathways.Nutrients.11:598.
【非特許文献4】S.Yun,Y.Sugita-Konishi,S.Kumagai,K.Yamauchi.1995.Glycomacropeptide from Cheese Whey Protein Concentrate Enhances IgA Production by Lipopolysaccharide-Stimulated Murine Spleen Cells.Anim Sci Technol(Jpn).67:458-462.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、免疫細胞からのIgA産生を促進し、感染予防効果を有する新規な素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、GMPから得られるシアリル糖ペプチドの構造に着目し、よりIgA産生促進作用に優れたシアリル糖ペプチドを得るために鋭意検討したところ、特定の分子量、特定の糖鎖構造、特定の構成糖比のシアリル糖ペプチドに強力なIgA産生促進作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明には以下の構成が含まれる。
〔1〕スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むIgA産生促進用組成物であって、
前記ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースからなるものであり、
前記ガラクト-N-ビオースが前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、シアル酸はガラクト-N-ビオースに結合し、
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1であることを特徴とするIgA産生促進用組成物。
〔2〕前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である〔1〕に記載のIgA産生促進用組成物。
〔3〕前記シアリル糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である〔1〕又は〔2〕に記載のIgA産生促進用組成物。
〔4〕スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むIgA産生促進用組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上であることを特徴とするIgA産生促進用組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
〔5〕前記糖鎖の構造が、
前記(1)及び 前記(2)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上である、〔4〕に記載のIgA産生促進用組成物。
〔6〕シアリル糖ペプチドが乳由来であることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飲食品。
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用医薬品。
〔9〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飼料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、GMPよりも優れたシアリル糖ペプチドを有効成分とするIgA産生促進用組成物を提供することができる。
また、当該シアリル糖ペプチドを有効成分とするIgA産生促進用飲食品、IgA産生促進用医薬品、IgA産生促進用飼料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のシアリル糖ペプチド組成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析結果を示すチャートである。
図2】PBMCに本発明のシアリル糖ペプチド組成物もしくはGMPを添加して培養した場合の培養上清中のIgA濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシアリル糖ペプチドを有効成分として含むIgA産生促進用組成物、及びシアリル糖ペプチドを有効成分として含むIgA産生促進作用を有する飲食品、医薬品、飼料について以下に詳細に説明する。
【0015】
(シアリル糖ペプチド)
本発明のIgA産生促進用組成物の有効成分であるシアリル糖ペプチドは、以下の(a)~(e)の性質を有する。
(a)スレオニン(Threonine)及び/又はセリン(Serine)残基を有するペプチドに糖鎖が結合していること。
(b)分子量が500以上3,000以下であること。
(c)糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースからなるものであること。
(d)前記糖鎖のガラクト-N-ビオースが前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、シアル酸はガラクト-N-ビオースに結合していること。
(e)シアル酸とガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1の範囲にあること。
ここで、シアル酸とガラクト-N-ビオースの合算量は、組成物中(固形重量中)20重量%以上であるものが好ましい。
また、シアリル糖ペプチドの分子量の下限はさらに好ましくは1,000以上である。なお、GMPの分子量は7,000であることから、500以上3,000以下の本発明のシアリル糖ペプチドとは大きく異なり、その物性も大きく異なることが予想される。
また、本発明のシアリル糖ペプチドは、ペプチド鎖が1アミノ酸残基以上13アミノ酸残基以下であることが好ましい。
さらにまた、本発明のシアリル糖ペプチドはアセチル化したシアル酸を含むものも用いることができる。
【0016】
本発明のシアリル糖ペプチドのより具体的な一態様としては、スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合したペプチドであって、糖鎖が以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上であるペプチドが挙げられる。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
上記の糖鎖を1つ以上含むペプチドであるから、2つ以上含むペプチドも含まれ、同じ種類の糖鎖を2つ以上含むものや、2種以上を含むものが挙げられる。例えば、(1)を2つ含むペプチドや、(1)を含み、(2)~(5)からなる群から1つ以上をさらに含むペプチドであってもよい。
【0017】
本発明のシアリル糖ペプチドは、典型的には、GMP等を酵素等で加水分解することにより得ることができる。
GMPはκ-カゼインの糖鎖を含むC末端ペプチドであり、牛乳においてはκ-カゼインの106-169残基に相当し、分子量は約7,000である。本発明の糖ペプチド組成物の原料となるGMPは、牛乳のほか、ヤギ、ヒツジなどの獣乳由来のホエー中から得られるものであればどのようなものでも用いることができる。
また、本発明のシアリル糖ペプチドは、微生物、植物、動物の臓器の抽出物を酵素などで加水分解することにより調製することもできる。さらに、化学的に合成されたもの、もしくは遺伝子組換え体で調製したものでもよい。
【0018】
(シアリル糖ペプチドの製造方法)
本発明のシアリル糖ペプチドの製造方法についてその一態様を示し説明する。本発明のシアリル糖ペプチドは、例えばGMPを加水分解することにより得られるため、まず、GMPの製造方法の一態様について説明する。
GMPを含む組成物は、特許第2673828号、または特開平6-25297号公報に記載の方法により調製することができる。すなわち、GMPを含有する乳質原料物質、例えばチーズホエー、ホエータンパク質濃縮物、除タンパク質チーズホエー等を、まずpH4未満に調製した後、分画分子量10,000~50,000の膜を用い、限外ろ過処理をして透過液を得、好ましくは再度、該透過膜をpH4以上に調製した後、分画分子量50,000以下の膜を用いて脱塩し濃縮することによりGMPを調製する方法が挙げられる。また、乳質ホエーをpH6.0以上に調製し40~79℃で加熱処理したものを膜処理に付して乳清タンパク質を除去し、GMPを濃縮液側に回収し、得られた濃縮液をpH5.5以下にした後、再び膜処理に供してGMPを透過液側に回収することによりGMP含有量の高い組成物を調製する方法を挙げることができる。
【0019】
得られた組成物中のGMP量は、例えば、特許第3372499号公報の実施例に示されるようなウレアーSDS電気泳動法により分析することができる。
次に、このようにして得られるGMPをエンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼで処理する工程と、前記工程で得られた処理物を分画分子量500以上3,000以下の限外ろ過に供する処理工程を経ることにより本発明のシアリル糖ペプチドを製造することができる。また、上記のような乳質原料物質からGMPを分離することなく、GMPを含有する乳質原料物質を直接酵素処理しても、同様のシアリル糖ペプチドを調製することができる。
【0020】
本発明のシアリル糖ペプチド製造に用いるプロテアーゼの種類は、ペプチド結合を加水分解し、上記分子量と糖鎖を有する本発明のシアリル糖ペプチドを得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、1種類、又は複数のエンド型プロテアーゼ、エキソ型プロテアーゼを用いることができる。好ましくは、食品や医薬品の製造に使用可能な酵素がよく、アクチナーゼE(科研ファルマ)、アクチナーゼAS(科研ファルマ)、ヌクレイシン(HBI)、オリエンターゼAY(HBI)、スミチームFP(新日本化学工業)、スミチームSPP-G(新日本化学工業)、プロテアーゼA(天野エンザイム)、ペプチダーゼR(天野エンザイム)、アルカラーゼ(ノボザイム)、フレーバーザイム(ノボザイム)などを単独、あるいは組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明のシアリル糖ペプチドは、上記のとおり、典型的にはGMPを加水分解して得られることから、精製度合によって、精製された単一のシアリル糖ペプチドであってもよいし、複数のシアリル糖ペプチドの混合物であってもよいし、本発明のシアリル糖ペプチド以外の成分を含むものであってもよい。本願明細書中、本発明のシアリル糖ペプチドを含むものをシアリル糖ペプチド組成物ということがあるが、特にことわらない限り上記いずれの場合も含まれる意味で用いる。
【0022】
(シアリル糖ペプチドのIgA産生促進作用の評価)
本発明のシアリル糖ペプチドによるIgA産生促進作用は、シアリル糖ペプチドを投与した場合と非投与の場合における唾液、腸管、腸の内容物、または糞便中のIgA量を比較し、非投与よりもシアリル糖ペプチド投与の方が増加した場合に本発明のIgA産生促進作用があると評価することができる。さらに好ましくは、GMPを投与の場合における唾液、腸管、腸の内容物、または糞便中のIgA量を比較し、GMP投与よりもシアリル糖ペプチド投与の方が増加した場合に本発明のIgA産生促進作用が顕著であると評価することができる。
また、ex vivoにおけるIgA測定試験において、培地中にシアリル糖ペプチドを添加した場合と非添加の場合における培地中のIgA濃度を比較し、非添加よりもシアリル糖ペプチド添加の方がIgA濃度が高い場合に、本発明のIgA産生促進作用があると評価することができる。さらに好ましくはGMPを添加した場合におけるIgA濃度を比較し、GMP添加よりもシアリル糖ペプチド添加の方がIgA濃度が高い場合に、本発明のIgA産生促進作用が顕著であると評価することができる。
【0023】
(シアリル糖ペプチドを含む飲食品、医薬品、飼料)
本発明の上記製造方法により得られたシアリル糖ペプチドは、そのまま飲食品の素材、原材料として用いることができ、シアリル糖ペプチドを添加すること以外は、各食品の定法により製造すればよい。
したがって、本発明の有効量の糖ペプチド組成物はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
このようにして製造された有効量のシアリル糖ペプチドを含む飲食品は、IgA産生促進作用を有する飲食品として提供される。
【0024】
本発明の上記製造方法により得られたシアリル糖ペプチドは、そのまま医薬品の原材料として用いることができ、糖ペプチド組成物を添加すること以外は、錠剤、カプセル、粉末、シロップ等の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明のシアリル糖ペプチドを有効成分として含む医薬品の製剤化に際しては、製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して製剤化するほか、糖ペプチド組成物をそのまま乾燥して粉末剤、散剤として用いることもできる。また、IgA産生促進作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能である。
このようにして製造された有効量のシアリル糖ペプチドを含む医薬品は、IgA産生促進作用を有する医薬品として提供される。
【0025】
本発明の上記製造方法により得られたシアリル糖ペプチドは、そのまま飼料の原材料として用いることができ、シアリル糖ペプチドを添加すること以外は、飼料の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明の有効量のシアリル糖ペプチドは前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
このようにして製造された有効量のシアリル糖ペプチドを含む飼料は、IgA産生促進作用を有する飼料として提供される。
【0026】
(シアリル糖ペプチドの摂取量)
本発明のシアリル糖ペプチドを飲食品、医薬品、飼料などの素材又はそれら素材の加工品に配合させてIgA産生促進作用を有する組成物を製造する場合、配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。
本発明のシアリル糖ペプチドの一日の投与量は、投与対象の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、成人ヒトの場合、糖ペプチド組成物を1日当り0.1g以上を摂取すればよく、1g以上が好ましく、10g以上がさらに好ましい。なお、本発明のシアリル糖ペプチドは、GMPよりもIgA産生促進作用が高いことから(試験例2,図2)、GMPよりも少ない摂取量でGMPよりも高いIgA産生促進作用が期待できる。
【0027】
本発明のシアリル糖ペプチドを有効成分とするIgAの産生促進作用は、当該作用を介して、健康の維持・増進及び種々の感染防御作の向上が期待できることから、健常人も含めたすべてのヒト、動物が対象とされる。また、このうちでも特に生体内におけるIgA産生促進を必要とするヒト又は動物に好ましく用いられ、例えば、上記のIgA産生促進作用評価方法によりIgAの産生量が基準値よりも低い対象が摂取することで本発明の作用効果を確認することができる。
なお、前述の特許文献3にはシアル酸結合タンパク質による感染防御効果が開示されているが、当該効果はシアル酸の病原菌への付着作用によるものであり、IgA産生促進作用とは基本的に異なる。IgAは細菌だけでなく細菌が産生する毒素等にも結合することが可能であり、感染時には病原体や病原毒素に結合してこれらが体内に侵入することを防いでいる。このように、本発明のシアリル糖ペプチドのIgA産生促進作用は本発明によって初めて見出された作用であり、IgA産生促進作用を介して、様々な用途に利用できる。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕本発明のシアリル糖ペプチド組成物の調製方法
1.GMPの製造方法
ホエータンパク質濃縮物(サンラクトN-2、太陽化学製)1kgを50℃の水50Lに溶解し、濃塩酸によりpH3.5に調製した。これを、分画分子量20,000の限外ろ過膜(GR61PP、DDS製)を用い、50℃、圧力0.4MPa、平均透過液流速52.4L/M・hにて限外ろ過を行なった。透過液量が40Lに達した時点で濃縮液に50℃の水40Lを加え、連続して限外ろ過を行なった。以上の様にして連続運転を行ない、透過液を160L得た。
得られた透過液に25%苛性ソーダを加え、pH7.0とし、再度同じ条件、同じ限外ろ過膜で濃縮液が5Lになるまで限外ろ過を行ない、脱塩濃縮した。続いて50℃の水を加え、濃縮液量を常に10Lに保ちながら、これまでと同じ条件、同じ限外ろ過膜でダイアフィルトレーションを行ない、さらに脱塩した。このダイアフィルトレーションにより透過液量が80Lに達した時点で濃縮液に水を加えるのをやめ、濃縮液量が2Lになるまで限外ろ過にて濃縮し、この濃縮液を乾燥し、GMP54gを得た。
【0029】
2.シアリル糖ペプチド組成物の製造方法
上記1.で得られたGMPを用い、25kgの5%GMP溶液を調製した。これを8N水酸化カリウム水溶液(富士フイルム和光純薬)でpH7に調整後、エンド型プロテアーゼ(アルカラーゼ、ノボザイム)およびエキソ型プロテアーゼ(フレーバーザイム、ノボザイム)を添加して50℃で4時間反応させた。これを、分画分子量1,000の限外ろ過膜(Membralox EP19-40、ポール)を用いて1.25倍濃縮した。続けて、20kgの濃縮液に対して5倍の透析ろ過を行ない、濃縮液画分を得た。この濃縮液を乾燥し、シアリル糖ペプチド組成物Aを125g得た。
【0030】
3.1種類の酵素でのシアリル糖ペプチド組成物の製造方法
上記1.で得られたGMPを用い、25kgの5%GMP溶液を調製した。これを8N水酸化カリウム水溶液(富士フイルム和光純薬)でpH7に調整後、エンド型プロテアーゼ(アクチナーゼAS、科研ファルマ)を0.15%(w/w)添加して50℃で4時間反応させた。これを、分画分子量1,000の限外ろ過膜(Membralox EP19-40、ポール)を用いて1.25倍濃縮した。続けて、20kgの濃縮液に対して5倍の透析ろ過を行ない、濃縮液画分を得た。この濃縮液を乾燥し、シアリル糖ペプチド組成物Bを271.7g得た。
【0031】
〔実施例2〕シアリル糖ペプチド組成物Aのシアリダーゼ処理
実施例1で調製したシアリル糖ペプチド組成物Aを2mM塩化カルシウムを含む100mM酢酸緩衝液(pH5.0)で20mg/mLに調製し、それにシアリダーゼ(Clostridium perfringens由来:Sigma,N2876-25UN)を10U/mLとなるように加え、37℃で20時間反応させた。酵素添加なしのブランクは、酵素を添加せずに同条件で反応させた。反応後は5分間ボイルすることで反応を停止させた。得られた反応液は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に供した。SEC分析には、2本のTSKgel G3000PW(東ソー)を装着したL-2000(HITACHI)システムを用い、UV214nmの吸収を検出した。移動相として0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液を用い、流速0.3ml/minで120分間室温でアイソクラチック(isocratic)に溶出した。
SEC分析の結果を図1に示す。70分付近に大きなピークが認められたが、このピークは酵素反応に用いた酢酸緩衝液である。
シアリル糖ペプチド組成物の主要なピークは50分から60分の間に認められたが、これらはシアリダーゼ処理することで全体的に低分子側にシフトした。このことから、調製したシアリル糖ペプチド組成物Aの主体は、シアル酸を含有する化合物であることが明らかとなった
【0032】
〔実施例3〕シアリル糖ペプチド組成物AのLC/MSを用いた構造解析
LC/MS分析には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ParadigmMS2(Michrom Bioresources)に接続したイオントラップ型質量分析計LTQ Velos(Thermofisher scientific)を用い、(LC-ESI-IT MS)、分離カラムとしてInertSustain C18(φ0.2mm×150mm,ジーエルサイエンス)を装着した。移動相には、0.1%のギ酸を含んだ2%アセトニトリル溶液(A液)、および0.1%ギ酸を含んだ90%アセトニトリル溶液(B液)を用いた。糖ペプチド組成物Aを50%アセトニトリル-0.1%ギ酸溶液で100μg/mLに調製し、25μLをHPLCに導入した。移動相は2μL/minで通液し、試料導入後0分から90分の間にB液の割合を0%から45%まで直線的に増加させた。質量分析計は、MS測定(m/z400-2000,ポジティブモード)とMS/MS測定を行なった。
【0033】
MS/MS測定は、MSのうち強度の高い順に5つのイオンを自動的にプレカーサーイオンとして選択し、コリジョンエネルギー35Vで破壊して生じたプロダクトイオンのm/zの差が292であるものをNeu5Ac、334をN,O-ジアセチルノイラミン酸(O-Ac-Neu5Ac)、376をN,O,O-トリアセチルノイラミン酸(O,O-diAc-Neu5Ac)、203をGalNAc、162をGalと帰属し、プロダクトイオンのパターンから糖鎖構造を決定した。糖鎖が完全に解離したと思われるイオンのm/zをペプチドにプロトンが付加したイオンに由来すると推定し、そのm/zに相当するペプチド配列をGMPの配列中から探索することで、糖ペプチドの構造を推定した。
【0034】
実施例1で調製したシアリル糖ペプチド組成物Aについて、LC/MS分析で得られたMSスペクトルおよびMS/MSスペクトルから、糖ペプチド組成物に含まれる糖ペプチドの糖鎖構造を推定した。
表1に、LC/MS分析で検出したシアリル糖ペプチドの糖鎖構造を示す。その結果、検出したいずれの糖ペプチドもシアル酸を含む糖鎖が結合したペプチドであった。検出した多くの糖ペプチドが、シアル酸を2分子結合したNeu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNacの糖鎖構造(Glycan type 3,4,5,6,7)を有していたが、シアル酸が1分子であるNeu5Acα2-3Galβ1-3GalNAc(Glycan type 1)やGalβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAc(Glycan type 2)も検出された。さらに、シアル酸のO-アセチル体であるN,O-ジアセチルノイラミン酸(O-Ac-Neu5Ac, Glycan type 4)、およびN,O,O-トリアセチルノイラミン酸(O-diAc-Neu5Ac, Glycan type 5)も検出された。また、一つのペプチド鎖に2本の糖鎖が結合した糖ペプチド(Glycan type 6,7)も検出された。
【0035】
MS/MSスペクトル解析から検出したペプチド鎖は、いずれもウシのグリコマクロペプチドのペプチド鎖に含まれるペプチド鎖であった。検出したすべての糖ペプチドのペプチド鎖にはセリンまたはスレオニン残基が1分子以上存在し、ペプチド鎖長は最も短いもので1残基、最も長いもので13残基であった。また、検出したペプチド鎖の分子量は、745から2928の範囲であった。
【0036】
【表1】
【0037】
〔実施例4〕シアリル糖ペプチド組成物の構成糖と存在比
シアリル糖ペプチド組成物は糖鎖とペプチド鎖から成るが、その作用にはシアリル糖ペプチド組成物中の糖鎖の構成糖とその含量が重要と考えられる。
実施例3で示したように、シアリル糖ペプチド組成物の糖鎖は、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸:Neu5Ac)、およびガラクト-N-ビオース(GNB:Galβ1-3GalNAc)から成ることが明らかとなった。よって、次に糖ペプチド組成物中のシアル酸とガラクト-N-ビオースのそれぞれの量を測定し、これらの存在比を調べた。
【0038】
実施例1で調製したGMPおよびシアリル糖ペプチド組成物中のシアル酸量は、以下に記載した方法で測定した。すなわち、シアル酸量を測定するために、ねじ口試験管に100μLのサンプル溶液、800μLの水、および100μLの1N硫酸溶液を添加し、ブロックヒーターを用いて80℃で45分間、加熱した。冷却後、等量の100mMの水酸化ナトリウムで中和した後、0.45μmのフィルターで不溶物を除去した。得られた反応液中の糖含量はCarbopak PA1カラムを装着したDIONEX ICX-5000DPシステムを用いて測定した。
【0039】
実施例1で調製したGMPおよびシアリル糖ペプチド組成物A、Bからガラクト-N-ビオースを遊離させるために、まず実施例2に記載した方法でGMPおよびシアリル糖ペプチド組成物をシアリダーゼ処理した。シアリダーゼ処理後のGMPおよびシアリル糖ペプチド組成物は、引き続きO-グルカナーゼ(エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ)処理することで、糖ペプチド組成物からガラクト-N-ビオースを遊離させた。遊離したガラクト-N-ビオースは、Carbopak PA1カラムを装着したDIONEX ICX-5000DPシステムを用いて測定した。結果を表2に示す。
【0040】
シアリル糖ペプチド組成物中のシアル酸(N-アセチルノイラミン酸:Neu5Ac)とガラクト-N-ビオース(GNB:Galβ1-3GalNAc)の含量は、GMPよりもシアリル糖ペプチド組成物の方が高い値となった。また、シアル酸:GNBは、GMPでは1.5:1であり、本発明のシアリル糖ペプチド組成物では、1.8:1、1.7:1であった。
また、シアル酸とガラクト-N-ビオースの量を合算したトータルの糖含量は、糖ペプチド組成物AはGMPよりも4.7倍、糖ペプチド組成物BはGMPよりも2.8倍高い含量となり、GMPの糖鎖が濃縮されたことが明らかとなった。
【0041】
【表2】
【0042】
〔試験例1〕シアリル糖ペプチド組成物のIgA産生促進効果の検討
1.試験方法
(1)細胞の調製
凍結保存されたHuman PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell:末梢血単核細胞)(Lot.4660MA20:ASTRATE Biologics)を37℃の水浴で溶解し、RPMI1640(11875-093:Gibco)にFBS(final conc.10%)(Lot.42Q3780K:Gibco)、MEM Vitamin Solution(final conc.1×)(11120052:Gibco)、MEM Non-Essential Amino Acids Solution(final conc.1×)(11140050:Gibco)、Penicillin-Streptomycin(final conc.100U-100μg/mL)(15140-122:Life technologies)、Sodium Pyruvate(final conc.1mM)(11360070:Gibco)、StemSure(登録商標) 2-Mercaptoethanol Solution(final conc.0.05mM)(198-15781:富士フイルム和光純薬)を添加した培地で洗浄した後に5.0×10cells/100μL/wellとなるよう96wellプレートに播種した。
【0043】
(2)試験水準の調製
播種した細胞にシアリル糖ペプチド組成物AもしくはGMPを0.8、4、もしくは20μg/mL含む培地を100μL/well添加(final conc.0.4、2、もしくは10μg/mL)して5%COインキュベーターにて37℃で7日間培養した。培養後の96wellプレートから培地を回収し、遠心分離(1,500×g、4℃、5分間)によって細胞を除去してIgA濃度測定用サンプルとした。
試料を添加しない水準をControl(Negative Control)、Recombinant Human IL-6(AF-200-06:Peprotech)を10ng/mLの濃度で添加した水準をPositive Controlとした。
試験はn=6で実施した。シアリル糖ペプチド組成物AもしくはGMPの培地中の最終濃度は、0.4、2、10μg/mLである。
【0044】
(3)IgA濃度の測定方法
IgA濃度の測定はELISA法にて実施した。AffiniPure Goat Anti-Human Serum IgA,α Chain Specific(Jackson Immuno Research Laboratories)を0.05M Carbonate-Bicarbonate Buffer(pH9.6)(C3041:Sigma)で希釈して20μg/mLとし、96well ELISA用プレート(Corning(登録商標) 96well EIA/RIA plate)(3590:Corning)に50μL/wellとなるよう分注して4℃で一晩静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer(50mMTris-HCl(pH8.0)、0.14M NaCl、0.05%Tween20)300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、blocking buffer(50mM Tris-HCl(pH8.0),0.14M NaCl,1%BSA)300μL/wellを加え、室温で1時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、Diluent(50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.14M NaCl、1%BSA、0.05%Tween20)で10倍希釈したサンプル50μL/wellを加え、室温で2時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、Diluentで0.16μg/mLに調製したPeroxidase-AffiniPure Goat Anti-Human Serum IgA,αChain Specific(Jackson Immuno Research Laboratories)50μL/wellを加え、室温で2時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、eBioscience(TM) TMB Solution(00-4201-56:Invitrogen)100μL/wellを加え、室温で十分な発色が認められるまで静置した後に1N HCl 100μL/wellを加え、VARIOSKAN FLASH(Thermo Scientific)を用いて450nmにおける吸光度(OD450)を測定した。
測定結果は、OD450の値からOD620の値を引いて補正した。測定は1サンプルにつき2連で実施し、その平均を測定値として採用した。また、IgA from human serumを標品として検量線を作成し、各サンプルの測定値からIgA濃度を算出した。
【0045】
2.試験結果
評価の結果、シアリル糖ペプチド組成物Aを10μg/mLの濃度で添加した水準で、Control水準およびGMP添加水準と比較して有意なIgA濃度の増加が認められた(図2)。また、シアリル糖ペプチド(10μg/mL)添加水準では24.5ng/mLのIgA濃度が認められ、Control水準(12.8ng/mL)の約1.9倍、GMP(10μg/mL)添加水準(7.6ng/mL)の約3.2倍であった。この結果より、本発明のシアリル糖ペプチド組成物はIgA産生促進作用を示し、その作用はGMPよりも強いものであると考えられた。
図中、a、b、cの記号はそれぞれ異なる記号間で有意な差(P<0.05)があることを示す。
【0046】
〔実施例5〕サプリメントの製造
実施例1で得られたシアリル糖ペプチド組成物粉末30gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明のIgA産生促進用サプリメントを製造した。
【0047】
〔実施例6〕飲料の製造
表3に示した配合により原料を混合し、容器に重点した後、加熱殺菌して、本発明のIgA産生促進用飲料を製造した。
【0048】
【表3】
【0049】
〔実施例7〕医薬品(カプセル剤)の製造
表4に示した配合により原料を混合し、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgずつ充填して、本発明のIgA産生促進用医薬品を含むカプセル剤を製造した。
【0050】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、シアリル糖ペプチドを有効成分とする新規なIgA産生促進用組成物、及びシアリル糖ペプチドを有効成分とするIgA産生促進用飲食品、医薬品、飼料を提供することが可能となった。
図1
図2