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特開2023-135339機能性インク、機能膜、電子部品、機能膜の形成方法、及び成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135339
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】機能性インク、機能膜、電子部品、機能膜の形成方法、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20230921BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20230921BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040498
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 弘司
(72)【発明者】
【氏名】中森 英雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 智男
(72)【発明者】
【氏名】志連 陽平
(72)【発明者】
【氏名】田村 麻人
(72)【発明者】
【氏名】平塚 弘行
(72)【発明者】
【氏名】若林 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BA07
4J039BA32
4J039BE29
4J039EA24
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】膜厚の確保と、高熱伝導性または低電気抵抗率とを両立させた機能性インクと機能膜を提供する。
【解決手段】機能性インクは、熱伝導性と導電性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料と、金属イオンまたは液体金属を含む第2材料と、を備え、前記第1材料と前記第2材料は使用時に基材上で一体化されるように構成されている。一つの構成例において、前記第1材料は溶媒に前記固体粒子が分散された液体材料であり、液体材料の粘度は30mPa・s未満、好ましくは20mPa・s以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料と、
金属イオンまたは液体金属を含む第2材料と、
を備え、
前記第1材料と前記第2材料は使用時に基材上で一体化されるように構成されている、
ことを特徴とする機能性インク。
【請求項2】
前記第1材料は前記固体粒子が分散された液体材料であり、
前記液体材料の粘度は30mPa・s未満である
請求項1に記載の機能性インク。
【請求項3】
前記液体材料の粘度は20mPa・s以下である、
請求項2に記載の機能性インク。
【請求項4】
前記第1材料は前記固体粒子が分散された液体材料であり、
前記第2材料は前記金属イオンが溶解した液体材料であり、
前記第1材料に含まれる第1の機能性材料の含有率は、前記第2材料に含まれる第2の機能材料の含有率よりも高い、
請求項1に記載の機能性インク。
【請求項5】
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子と、
前記固体粒子の隙間を充填する金属膜と、
が一体化された機能膜。
【請求項6】
前記機能膜は、サーマルインタフェース材または電磁波シールド膜である、
請求項5に記載の機能膜。
【請求項7】
発熱部品と、
冷却部品と、
前記発熱部品と前記冷却部品の間に設けられる機能膜と、
を有し、前記機能膜は、熱伝導性を有する固体粒子と、前記固体粒子の間を充填する金属膜とが一体化された熱伝導膜である、
電子部品。
【請求項8】
高周波を発生または受信する部品と、
前記部品の表面に設けられる機能膜と、
を有し、前記機能膜は、電気伝導性を有する固体粒子と、前記固体粒子の間を充填する金属膜とが一体化された電磁波シールド膜である、
電子部品。
【請求項9】
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料と、金属イオンまたは液体金属を含む第2材料とを、材料噴射法により基材上の同じ位置に適用し、
前記第1材料と前記第2材料を前記基材上で一体化する、
機能膜の形成方法。
【請求項10】
前記基材上に適用された前記第1材料と前記第2材料を加熱する、
請求項9に記載の機能膜の形成方法。
【請求項11】
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料を吐出する第1吐出部と、
金属イオンまたは液体金属を含む第2材料を吐出する第2吐出部と、
前記第1材料と前記第2材料が基材上のほぼ同じ位置に着弾するように、前記基材を前記第1吐出部と前記第2吐出部に対して相対的に移動させる移動機構と、
を有する成膜装置。
【請求項12】
前記基材を加熱する加熱機構、
をさらに含む請求項11に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記第1材料を循環させる循環機構、
をさらに有する請求項11または12に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性インク、機能膜、電子部品、機能膜の形成方法、及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板の高集積化と高速化ともなって、集積回路(Integrated Circuit:IC)チップなどの発熱部品による回路性能の低下が問題となっている。電子部品の発熱による温度上昇を抑制する放熱技術の向上が求められる。また、5G移動体通信規格などに代表される高周波対応のひとつとして、回路基板やICチップを保護する電磁波シールドの性能向上も求められている。放熱技術と電磁波シールド技術は、自動車の電子化と電動化、携帯電子機器の普及などによって、産業上の適用範囲が拡大している。
【0003】
放熱技術として、ICチップなどの発熱部品に、ヒートシンク、ヒートパイプなどの放熱部品を接着する手法が広く採用されている。放熱効果を高めるために、発熱部品と放熱部品の間に、熱伝導性インタフェース材(Thermal Interface Material:ТIM)や、樹脂に熱伝導性粒子を混合したペースト材が用いられている。発熱部品と放熱部品の界面で膜厚方向への熱伝導性を高めるには、熱伝導性材料の熱伝導率そのものを高くすることに加えて、熱伝導材の断面積、すなわち膜厚を大きくする必要がある。電磁波シールドの観点からは、導電膜の断面積(膜厚)の確保と、低い電気抵抗率が求められる。
【0004】
有機溶媒に有機半導体を溶解したインクで単結晶有機半導体薄膜を形成する方法(たとえば、特許文献1参照)や、Ag分散液に金属錯体化合物、酸化剤、安定剤、分散剤、バインダー樹脂、界面活性剤などの添加剤を加えた導電性インク(たとえば、特許文献2参照)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶液系の導電性インクでは、溶媒への金属の溶解に限界があり、粒子系のインクと比較して金属の含有量が少ない。溶液系インクは金属原子の析出により膜を形成するので、膜厚を増やすことが難しい。一方、金属粒子を分散させた粒子系インクで導電膜を形成すると、プロセスで許容される温度範囲で加熱処理を行っても、金属粒子同士を完全に一体化することができない。加熱処理後の導電膜中にポーラスな構造が残り、導電性と熱伝導性の向上が難しい。
【0006】
溶液系インクと粒子系インクを混ぜ合わせることが考えられるが、それぞれの系で要求される特性を満たしたもの同士を単に混合しても、凝集、析出などの不具合が生じると考えられる。特に、保存性が阻害されることが考えられ、これらの不具合を防ぐためには複雑な系を設計しなければならない。金属錯体を添加した公知の導電性インクは添加剤を多く含み、粘度が高く、インクジェット法やスプレイ法による膜形成には不向きである。
【0007】
従来の導電性インクを用いて、膜厚の確保と、高熱伝導・低電気抵抗といった機能性とを両立させるのは難しい。一つの側面で、本発明は、膜厚の確保と機能性を両立させた機能性インクと、機能膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態において、機能性インクは、
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料と、
金属イオンまたは液体金属を含む第2材料と、
を備え、前記第1材料と前記第2材料は使用時に基材上で一体化されるように構成されている。
【0009】
別の実施形態で、機能膜は、
熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子と、
前記固体粒子の隙間を充填する金属膜と、
が一体化された膜である。
【発明の効果】
【0010】
膜厚の確保と機能性を両立させた機能性インクと機能膜が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の機能性インクで形成される機能膜の模式図である。
図2】実施形態の機能膜を適用した電子部品の模式図である。
図3】実施形態の機能膜を適用した別の電子部品の模式図である。
図4】種々の機能膜を得るときの塗布回数とシート抵抗の関係を示す図である。
図5】種々の機能膜を得るときのコストとシート抵抗の関係を示す図である。
図6】成膜装置を用いた機能膜の形成例を示す図である。
図7】成膜装置を用いた機能膜の別の形成例を示す図である。
図8】循環型インクジェットの成膜装置の模式図である。
図9A】実施例と比較例の第1材料の種類と特性を示す図である。
図9B】実施例と比較例の第2材料の種類と特性を示す図である。
図9C】実施例と比較例で形成された機能膜の特性を示す図である。
図10】立体物への機能膜形成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明者らは、以下の知見に基づいて、実施形態の機能性インクと機能膜を着想するに至った。
(1)固体粒子を含む粒子系のインクを用いる場合、粒子間は点接触であり、プロセス上許容される温度範囲で加熱、焼結などを行ってもポーラスな膜構造になる。
(2)液体系のインクはポーラスな粒子間に入り込むことができ、原子レベルの結合で連続膜を形成しやすい。
(3)粒子系のインクと溶液系インクを単に混合するだけでは、それぞれの系で最適化された条件が崩れ、逆に不具合がでる。
(4)安定化された2種類の機能液を、機能膜を形成するときに基材上で一体化させることで、十分な膜厚をもち、かつ膜中のポアやボイドが低減された高熱伝導率、及び/または低電気抵抗率の膜を得ることができる。
【0013】
上記の知見に基づいて、機能性インクを、熱伝導性と電気伝導性(導電性)の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料と、金属イオンまたは液体金属を含む第2材料とで構成する。ここで、「粒子」とは、微細な材料の総称であり、その形状、アスペクト比を問わず、球状、繊維状、中空等であってもよい。大きさはナノメートルからミリメートルであり、目的の膜厚よりも小さい材料が選択される。
【0014】
第1材料と第2材料は、使用時までは安定した状態で別々に保存され、使用時に基材上で一体化される。第1材料と第2材料を用いた機能性インクによる機能膜の形成は、インクジェット法、スプレイ法等の材料噴射方式で行われる。そのため、第1材料が液体材料である場合、粘度は30mPa・s(ミリパスカル秒)未満、より好ましくは20mPa・s以下である。第1材料として固体粒子が分散された液体材料を用い、第2材料として金属イオンが溶解した液体材料を用いる場合、第1材料中の機能材料の含有率は、第2材料中の機能材料の含有率よりも高い。
【0015】
以下で、実施形態の機能性インクと機能膜、機能膜の形成方法、これに用いる成膜装置について具体的に説明する。同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0016】
<機能性インクと機能膜>
図1は、実施形態の機能性インク100で形成される機能膜130の模式図である。機能性インク100は、熱伝導性と導電性の少なくとも一方を有する固体粒子111を含む第1材料110と、金属イオン(金属錯体)または液体金属を含む第2材料120とを備える。固体粒子111は、熱伝導率が高く、電気抵抗率が低いことが望ましい。高熱伝導率の材料のすべてが低電気抵抗の材料とは限らないが、低電気抵抗の材料のほとんどは、電子による熱伝導が可能であり、高い熱伝導性をもつ。熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する材料を「機能性材料」と呼ぶ。
【0017】
高熱伝導の材料として、金属、カーボン、ダイヤモンドの他、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si)などの窒化物セラミックスや、アルミナ(Al)等の酸化物セラミックスが用いられる。これらのうち、電気抵抗率が低いのは、金属とカーボンである。金属とカーボンでは、熱伝導と電気伝導の双方を電子が担う。
【0018】
金属の機能性材料として、Ag、Cu、Au、Al、Ni、Pt、Pd、Co、Ti、V、Fe、In、Bi、これらの合金を用いてもよい。金属に代えて、カーボンブラックを機能性材料として用いてもよい。特に、Ag、Cu、Alは熱伝導と電気伝導に優れ、CuとAlはコスト的にも有利である。熱伝導性かつ導電性の材料において、熱伝導率と体積抵抗率を掛け合わせた値は、ヴィーデマン・フランツ則に沿って、いずれも650(V/K)の近傍に収束している。機能膜130を電磁波シールドとして用いる場合は、Cu、Alの他に、Fe、Cu-Fe合金などを用いてもよい。
【0019】
AlN、BN、Alなどの窒化物または酸化物のセラミックスは、高熱伝導率の絶縁性材料であり、その電気的な絶縁性によって電気回路の周辺で安全に使われている。中でもAlNは結晶構造がダイヤモンドに近く、金属Alの電子伝導とは違う熱伝導のメカニズムで、Alと同等以上の熱伝導率をもつ。AlNの熱伝導率は、純度などに応じて異なるが、おおよそ250W/m・Kである。AlN粒子の粒径、形状は様々あり、たとえば、粉砕された粒子として平均粒径が500nmから5000nmのものを用いてもよい。
【0020】
第1材料110として、固体粒子が分散された液体材料を用いる場合、第1材料110に含まれる機能性材料の含有率は、たとえば30wt%以上、60wt%以下である。第1材料110は、好ましくはインクジェット方式の吐出ヘッドから吐出され得る粘度を有し、30mPa・s未満、より好ましくは20mPa・s以下の粘度である。
【0021】
第2材料120は、上記の金属の錯体(すなわちイオン)または液体金属を含む。液体金属として、65℃よりも低い温度で液体となる共晶合金を用いてもよい。たとえば、融点が62℃のフィールズ合金(Bi32.5-Sn16.5-In51)、あるいは鉛を含む合金や、ガリウム系の合金のうち室温以上で溶融する材料を用いることができる。液体金属の場合、機能性材料の含有率は100%になる。金属錯体すなわち金属イオンが溶解した液体材料を用いる場合、第2材料120に含まれる機能性材料の含有率は、第1材料110中の含有率よりも低く、たとえば10wt%以上、30wt%未満である。
【0022】
第1材料110と第2材料120が基材上で一体化されて形成される機能膜130は、熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子111と、固体粒子111の隙間を充填する金属膜121とが一体化された膜である。固体粒子111の重なり合いにより、十分な膜厚をかせぐことができる。金属膜121によって固体粒子111の間が連続的につながっているので、厚さ方向に熱伝導性が良く、かつ、電気抵抗が低い。
【0023】
機能性材料として金属またはカーボンを用いる場合、機能膜130では、電子伝導による熱伝導と電気伝導が比例し(ウィーデマン・フランツの法則)、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。導電膜の体積抵抗率(Ω・cm)は、(体積抵抗×有効面積)/膜厚で定まるため、十分な膜厚が確保される実施形態の機能膜130では、より低いシート抵抗を達成できる。機能膜130は、膜の内部だけでなく、表面も金属膜121で覆われている。金属膜121の材料として酸化されにくい金属を選択すれば、機能膜130の機能が長期間維持される。
【0024】
図2は、実施形態の機能膜130Aを適用した電子部品1000Aの模式図である。電子部品1000Aは、発熱部品1010Aと、放熱部品1020と、発熱部品1010Aと放熱部品1020の間に設けられる機能膜130Aを有する。機能膜130Aは、熱伝導膜として機能する。図中の矢印は、熱の伝導方向を示している。
【0025】
一般的に、TIMを介して接合される部品は、表面に数μmの凹凸をもつ。発熱部品1010Aと放熱部品1020も例外ではない。このような表面の凹凸を吸収して部品同士を密着させるには、7~10μm程度の膜厚が必要である。機能膜130Aは、固体粒子111を含み、固体粒子111の間が金属膜121で連続しているので、発熱部品1010Aの表面凹凸を埋め込んで凹凸を吸収できる膜厚をもつ。機能膜130Aはまた、固体粒子111の間を連続的に接続する金属膜121によって、発熱部品1010Aからの熱を、放熱部品1020へと、膜厚方向に効率的に伝達することができる。
【0026】
市販のTIMの熱伝導率は7W/m・K程度のものが一般的なので、機能膜130Aの熱伝導率が10W/m・K以上であれば、TIMなどの熱伝導膜としての機能を十分に果たせる。後述するように、実施形態の機能膜130は、7~10μmの厚さをもち、20W/m・K以上、40W/m・K以上、あるいはそれ以上の熱伝導率をもつ。
【0027】
図3は、実施形態の機能膜130Bを適用した電子部品1000Bの模式図である。電子部品1000Bは、高周波発生部品1010Bと、この高周波発生部品1010Bの表面を覆う機能膜130Bを有する。高周波発生部品1010Bは、たとえば、高周波発生デバイス、高周波受信デバイスなどであり、機能膜130Bは、電磁波シールドとして機能する。図中の矢印は、電流の流れる方向を示している。
【0028】
電磁波シールドの用途では、電気抵抗の低さと電磁波シールド効果の間に相関がある。機能膜130Bの膜厚が大きいほど体積抵抗率またはシート抵抗が小さくなり、高い電磁波シールド効果が得られる。一般的に、シート抵抗が0.5Ω/□以下であれば、電磁波シールド効果が期待できるとされている。電磁波シールドとしての体積抵抗率が銅(Cu)バルク(1.7μΩ・cm)の10倍まで許容されるとしたら、機能膜130Bの厚さは400nmで足りる。実施形態の機能膜130Bは、固体粒子111を含むため十分な厚さに形成され、シート抵抗をさらに下げることができる。機能膜130Bの連続性を担保する金属膜121を酸化しにくい材料で形成する場合は、電磁波シールド効果が長期にわたって維持される。
【0029】
図4は、種々の機能膜を得るときの塗布回数とシート抵抗(Ω/□)の関係を示す。図中で「複合塗布」と記載されているのは、実施形態の第1材料110と第2材料120を基材上で一体化させて得られた機能膜130である。ここでは、インクジェット方式で第1材料110と第2材料を別々のヘッドから吐出して、基材上で一体化させている。「複合塗布」では、一度の成膜で所定の膜厚が得られており、シート抵抗が小さい。
【0030】
「粒子系×1」と表記されているのは、第1材料110のみを1回塗布して得られた膜である。第1材料は固体粒子を含むので一度の塗布で膜厚をかせぐことができるが、ポーラスな膜構造により、シート抵抗が高くなる。「溶液系×2」と表記されているのは、第2材料120のみを2回塗布して得られた膜である。第2材料120は膜厚を稼ぐことが難しく、二回塗布しても「複合塗布」膜よりも薄い膜しか得られない。そのため、シート抵抗が高くなっている。第2材料120で「複合塗布」膜と同程度の厚さを得るには、塗布と焼成を三回繰り返す必要があり、膜形成の工程と時間が増大する。実施形態の機能膜(「複合塗布」膜)は、一度の成膜で十分な膜厚が得られ、シート抵抗を低くすることができる。
【0031】
図5は、種々の機能膜を得るときのコストとシート抵抗の関係を示す。いずれの機能膜も機能性材料としてAgを用いている。横軸は、単位面積あたりのAg費用(円/cm)である。第1材料110のみを一度塗布して得られる「粒子系×1」膜は、コストは実施形態の複合塗布膜と同程度であるが、上述のとおりシート抵抗が高い。シート抵抗を下げるために第1材料110を二回塗布して膜の厚さを増やすことができるが、材料コストとプロセス負担が増大する。溶液系の第2材料120は第1材料110よりもコストは低いが、二回塗布しても十分な膜厚が得られず、三回の塗布と焼成が必要である。実施形態の「複合塗布」膜は、一度の塗布により、合理的なコストで低シート抵抗を実現できる。
【0032】
<成膜装置と機能膜の形成>
図6は、実施形態の成膜装置10Aを用いた機能膜の形成例を示す。成膜装置10Aは、第1吐出部11Aと、第2吐出部12と、基材101を移動させる移動機構Mとを有する。図6の(a)~(f)に示すように、第1吐出部11Aは、熱伝導性と電気伝導性の少なくとも一方を有する固体粒子を含む第1材料110を吐出する。第2吐出部12は、金属イオン(錯体)または液体金属を含む第2材料120を吐出する。移動機構Mは、第1材料110と第2材料120が基材101上のほぼ同じ位置に着弾するように、第1吐出部11Aと第2吐出部12に対して基材101を矢印mの方向に移動させる。
【0033】
第1材料110と第2材料120が「ほぼ同じ位置」に着弾するというのは、基材101上に着弾した液滴の中心位置が厳密に一致することではない。第2材料120が第1材料110の固体粒子111の隙間に入り込むことができる程度に第1材料110の液滴と第2材料120の液滴が近接した位置にあることを意味する。
【0034】
図6では、第1材料110と第2材料120の膜の一体化の過程を示すために、一滴に着目して、(a)から(f)に至る過程を描いている。実際の成膜時は、所定の速度で移動する基材101の上に多数の液滴が連続的に吐出され、基材101の上で第1材料110と第2材料120が一体化して、機能膜130が形成される(工程(e)、(f)参照)。成膜装置10は、移動中の基材101を加熱する加熱機構を備えていてもよい。この場合、成膜中に溶媒の蒸発が促進される。成膜装置10が加熱機構を備えていない場合は、第1材料110と第2材料120が基材101上で一体化した後に、別途加熱、または自然乾燥することで機能膜130を形成してもよい。
【0035】
第1吐出部11Aと第2吐出部12は、たとえば、ピエゾ方式のインクジェットヘッドである。吐出部11A及び12として株式会社リコー製のMH5440を用いる場合は、使用インクの標準粘度は11mPa・sであり、第1材料110と第2材料120の粘度が7~23mPa・sであれば、吐出可能である。一般に、ピエゾ方式のインクジェットで吐出に適した粘度は1~25mPa・s程度である。別のタイプの吐出ヘッドを用いて粘度30mPa・s未満の第1材料110を吐出することもできる。
【0036】
図7は、成膜装置10Bを用いた機能膜の別の形成例を示す。成膜装置10Bは、第1吐出部11Bと、第2吐出部12と、基材101を移動させる移動機構Mとを有する。図7の(a)~(f)に示すように、移動機構Mは、第1吐出部11Bと第2吐出部12に対して基材101を矢印mの方向に移動させる。第1吐出部11Bは、レーザ駆動による吐出部である。搬送ベルト116の上に固体粒子材料115が担持され、レーザ光Lにより搬送ベルト116または固体粒子材料115にエネルギーが付与される。レーザ光のエネルギーで局所的に加熱された固体粒子材料115は、一部気化して、レーザ光Lの方向に飛翔し、基材101の上に付着する(工程(a)、(b)、(c)参照)。第2吐出部12は、図6と同様にピエゾ方式のインクジェットヘッドである。
【0037】
成膜装置10Bでは、液体の使用量が減り、成膜時に蒸発させる量を減らすことができる。また、固体粒子がインク化に適さない場合、たとえば、粒径が1μmを超える場合や固体粒子の比重がインク液の数倍以上で沈殿しやすい場合などでも、第1材料110を吐出することができる。
【0038】
図8は、循環型インクジェットの成膜装置10Cの模式図である。第1吐出部11は、ピエゾ積層方式のインクジェットヘッドであり、たとえば株式会社リコー製のMH5421Fを用いる。第1材料110が、固体粒子111の分散液である場合、金属、セラミックスなどの固体粒子111の密度は、ほとんどの場合、分散液の密度よりも大きい。したがって、長期的には固体粒子111の沈降が発生する蓋然性が高い。安定した吐出を維持するために、循環型インクジェットで分散液の状態を均一に保つことが望ましい。循環型インクジェットとすることで、非循環型と比べて、吐出濃度の変動を半分以下に低減できる。また、吐出速度の変動は約1/3になる。
【0039】
図8では、循環機構17として、インクタンク13と吐出ヘッド11の間にチューブ16を接続し、循環ポンプ15を用いて第1材料110を循環させているが、この例に限定されない。たとえば、循環専用のフィードバック経路を構成し、成膜と成膜の間にインクジェットヘッドのノズルから第1材料110を間欠的に吐出させてもよい。
【0040】
<実施例と比較例>
図9Aは、実施例と比較例における第1材料110の種類と特性を示す。図9Bは、実施例と比較例における第2材料120の種類と特性を示す。図9Cは、実施例と比較例で形成された機能膜130の特性を示す。
【0041】
図9Aを参照すると、実施例1~9と比較例1,2のそれぞれで、用いられる成膜装置と、第1材料110のみで成膜するときの熱伝導率、体積抵抗率(単体で膜とならない場合は電気的性質)、固体粒子の粒径、機能材の含有率、及び粘度が示される。成膜装置は図6に示した成膜装置10A、または図7の成膜装置10Bである。第1材料110が液相か固相かによって、成膜装置10Aと10Bのどちらかを使用する。
【0042】
熱伝導率は、レーザフラッシュ法で測定する。熱伝導膜の用途では、10(W/m・K)を超える熱伝導率が求められる。体積抵抗率は、抵抗値と膜厚から算出する。4端子法で体積抵抗を測定し、接触式で段差から膜厚を測定して計算する。粒径は、粉単体の場合は、空気中に測定対象粒子群を分散させてレーザ回折式で測定する。液体内に粒子を含むものは、遠心沈降法を用いる。遠心沈降法は、遠心力で強制的に粒子を沈降させ、その変化を光学的に捉えて測定する方法である。機能材の含有率(Vol%)は、熱分析TG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:熱重量測定-示差熱分析)の残渣重量から質量%を求め、溶媒・分散媒質の密度から体積濃度に換算して求める。粘度は、定常流測定でR型粘度計を用いて測定する。
【0043】
図9Bを参照すると、実施例1~9と比較例1、2のそれぞれで、第2材料のみで成膜したときの熱伝導率、体積抵抗率(単体で膜とならない場合は電気的性質)、機能材の含有率、及び粘度が示される。図9Cでは、実施例1~9と比較例1、2のそれぞれで、第1材料110と第2材料を基材101上で一体化させた機能膜(複合膜)の熱伝導率、体積抵抗率、及び厚さが示される。図9B図9Cでの測定方法は、図9Aで成膜された膜特性の測定法と同じである。各実施例と比較例で、第1材料110と第2材料120の一体化の後に、150℃~200℃で30分の加熱を電気炉内で行う。
【0044】
<実施例1>
実施例1では、第1材料110としてAlN分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。第1材料110は、エタノール中に粒径1200nmのAlN粒子が中に分散されている。具体的には、エタノール100にポリビニルピロリドン(PVP)0.005を分散剤として加え、AlN粉末とともにミキサーで混合し、超音波攪拌して作製した。第1材料110の機能材(すなわちAlN)の含有率は7Vol%、粘度は12mPa・sである。第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は250W/m・Kと高いが、電気的に絶縁性であるため、導電膜として用いることはできない。
【0045】
第2材料120としてAg錯体インクを用いる。Ag錯体インクは、電子情報通信学会論文誌 C Vol. J95-C No. 11 pp. 394-399の「β-ケトカルボン酸銀塩インクを利用した低温配線形成技術」に基づいて、2-メチルアセト酢酸銀とアミン溶媒、及び、アセチレンアルコールを重量比率で,それぞれ25:74:1となるように混合して作製した。機能材、すなわちAgの含有量は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は47W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回っている。体積抵抗率は460μΩcmである。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としてすぐれている。
【0046】
<実施例2>
実施例2では、第1材料110としてAlN粒子を使用し、成膜装置10Bで機能膜130を形成する。AlN粒子の直径は4300nm、固体粉末として用いるので、機能材(すなわちAlN)の含有率は100Vol%である。第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は175W/m・Kと高いが、絶縁性なので導電膜として用いることはできない。第2材料120として、実施例1と同じAg錯体インクを用いる。第2材料120の機能材(すなわちAg)の含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させて得られた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は50.5W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回っている。体積抵抗率は、410μΩcmである。この機能膜も熱伝導インタフェース材としてすぐれている。
【0047】
<実施例3>
実施例3では、第1材料110としてAg分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。Ag粒子の径は50nm、機能材(すなわちAg)の含有率は17Vol%、粘度は10mPa・sである。第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は70W/m・K、体積抵抗率は8.0μΩcmであり、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。第2材料120として、実施例1、2と同じAg錯体インクを用いる。第2材料120の機能材(すなわちAg)の含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは8μm、熱伝導率は46W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回っている。体積抵抗率は7.5μΩcmである。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても、導電膜としてもすぐれている。
【0048】
<実施例4>
実施例4では、第1材料110としてCu分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。Cu粒子の径は50nm、機能材(すなわちCu)の含有率は12Vol%、粘度は8mPa・sである。第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は62W/m・K、体積抵抗率は8.5μΩcmであり、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。第2材料120として、実施例1~3と同じAg錯体インクを用いる。第2材料120の機能材(すなわちAg)の含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは9μm、熱伝導率は44W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回る。体積抵抗率は7.7μΩcmである。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても、導電膜としてもすぐれている。
【0049】
<実施例5>
実施例5では、第1材料110としてAl分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。Al粒子の径は100nm、機能材(すなわちAl)の含有率は9Vol%、粘度は17mPa・sである。第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は37W/m・K、体積抵抗率は11.5μΩcmであり、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。第2材料120として、実施例1~4と同じAg錯体インクを用いる。第2材料120の機能材(すなわちAg)の含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は84W/m・K、体積抵抗率は7.1μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは7μm、熱伝導率は33W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回る。体積抵抗率は9.0μΩcmである。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても、導電膜としてもすぐれている。
【0050】
<実施例6>
実施例6では、第1材料110として、実施例4と同じCu分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。Cu粒子の径は50nm、機能材(すなわちCu)の含有率は12Vol%、粘度は8mPa・sである。この第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は62W/m・K、体積抵抗率は8.5μΩcmであり、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。第2材料120として、Cu錯体インクを用いる。Cu錯体インクは、Journal of Materials Chemistry C,2018,6,6406, "A low temperature and air-sinterable copper-diamine complex-based metal organic decomposition ink for printed electronics"を参考に、エチルアルコールとジアミン混合物にギ酸銅四水和物を、Cu:NHのモル比が1:4となるように溶解させ、フィルタリングして得た。Cu錯体インクのCu含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は88W/m・K、体積抵抗率は6.9μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は46W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを大きく上回る。体積抵抗率は7.5μΩcmと低抵抗である。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても、導電膜としてもすぐれている。
【0051】
<実施例7>
実施例7では、第1材料110として、実施例4、6と同じCu分散インクを使用し、成膜装置10Aで機能膜130を形成する。Cu粒子の径は50nm、機能材(すなわちCu)の含有率は12Vol%、粘度は8mPa・sである。この第1材料110だけで形成された膜の熱伝導率は62W/m・K、体積抵抗率は8.5μΩcmであり、熱伝導膜としても、導電膜としても用いることができる。第2材料120として、液体金属であえるフィールズ合金を用いる。フィールズ合金は、鉛フリーの低融点合金である(Bi32.5-Sn16.5-In51;融点62℃)。フィールズ合金の粘度は21mPa・sである。インクジェットヘッド内のヒータを用いて吐出パスを85℃に加熱して、フィールズ合金を吐出する。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は29W/m・Kであり、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを上回っている。体積抵抗率は17μΩcmである。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても、導電膜としても使用可能である。
【0052】
<実施例8>
実施例8では、第1材料110として、実施例2と同じAlN粒子を使用し、成膜装置10Bで機能膜130を形成する。上述のように、AlN粉末のみで形成された膜は絶縁性である。第2材料120として、実施例7と同じフィールズ合金を用いる。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は48W/m・Kと、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを上回っている。体積抵抗率は970μΩcmと高い。この機能膜は、熱伝導インタフェース材として優れている。
【0053】
<実施例9>
実施例9では、第1材料110としてCu10-Fe90合金の粉末(機能材含有率100Vol%)を用い、成膜装置10Bで機能膜130を形成する。Cu10-Fe90合金粒子の径は4500nmである。第1材料110のみで形成された膜の熱伝導率は76W/m・K、体積抵抗率は9.4μΩcmであり、熱伝導膜としても導電膜としても使用可能である。第2材料120として、実施例6と同じCu錯体インクを用いる。Cu錯体インクのCu含有率は2Vol%、粘度は13mPa・sである。第2材料120だけで形成された膜の熱伝導率は88W/m・K、体積抵抗率は6.9μΩcmである。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μm、熱伝導率は48W/m・Kと、熱伝導材の基準と定めた10W/m・Kを上回っている。体積抵抗率は9.2Ωcmと低い。この機能膜は、熱伝導インタフェース材としても導電膜としても優れ、特に電磁波シールドに適している。
【0054】
<比較例1>
比較例1では、第1材料110として、実施例2と同じAlN粒子を使用し、成膜装置10Bで機能膜130を形成する。上述のように、AlN粉末のみで形成された膜は絶縁性である。第2材料120として、絶縁性樹脂インク(太陽インキ社製のIJSR4000)を用いる。この絶縁樹脂インクのみの膜を形成する際に、300mJ/cmでUV照射し、その後、150℃で60分加熱して硬化させた。絶縁性樹脂インクの粘度は11mPa・sであり、形成された膜の熱伝導性は0.2W/m・Kと低い。第1材料110と第2材料120を基材101上で一体化させていられた機能膜130(複合膜)の厚さは10μmと十分な厚さであるが、第2材料120に絶縁樹脂インクを用いたことで、熱伝導率は2W/m・Kと低く、電気的な性質も絶縁性である。この機能膜は、熱伝導膜としても導電膜としても使用できない。
【0055】
<比較例2>
比較例2では、第1材料110として、特許文献2に記載されたAg分散液に金属錯体を添加した導電性インクを用いる。具体的には、2-エチルヘキシルアンモニウム2-エチルヘキシルカルバメートと2-メトキシエチルアンモニウム2-メトキシエチルカルバメートに酸化銀を反応させた銀錯体化物に、平均粒径10nmの銀ナノ粒子をエチルアセテートに分散して加えたものである。この導電性インクには、金属粒子と金属錯体の両方が含まれているので、第1材料のみで機能膜を形成する。比較例の導電性インクの粘度は30mPa・sであり、成膜装置10Aの第1吐出部11A(インクジェットヘッド)から吐出できない。粘度が高く、表面張力が大きくなるためと考えられる。
【0056】
実施例1~9、及び比較例1、2の結果から、第1材料110として固体粒子が分散された液体材料を用いる場合、粘度は30mPa・s未満であることが望ましく、より好ましくは20mPa・s以下である。第2材料としては、金属イオンが溶解した液体材料または液体金属を用いるのが望ましく、その粘度は、30mPa・s未満、より好ましくは20mPa・s以下である。粘度が20mPa・s以上、30mPa・s未満のときは、インクジェットヘッド内のノズルパスを加熱する等して、吐出を促進してもよい。
【0057】
実施例1~9で、第1材料110と第2材料120を基材上で一体化させることで、10μm程度の膜厚が得られるが、各実施例において、別途厚さ1μmの機能膜を形成し、電磁波シールド試験を行った。結果として、すべての実施例で、1μm厚の機能膜で40dB以上の電磁波シールド効果が得られた。
【0058】
以上、特定の例に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上述した例に限定されない。2種類の異なる液体材料を噴射する場合、インクジェットに代えてスプレイ法を用いてもよい。基材101として中間基板を用い、中間基板の上で第1材料110と第2材料120を一体化させた後に、最終基板に転写して機能膜130を得てもよい。「第1材料110」、「第2材料120」という呼び方は順序を意味するものではなく、別々の材料を区別して示している。それぞれの材料の割合は、目的に応じて選択でき、特に機能膜130を適用する対象、部位などにより、材料の比率を適宜変更することができる。
【0059】
図10は、立体物への機能膜形成の一例を示す図である。パッケージ20のような立体物のエッジ21と、面22で、インクの機能性材料の含有率を変えてもよい。エッジ21に機能膜130を形成するときは、面22に機能膜130を形成するときよりも機能性材料の含有率を増やしてもよい。これにより、機能性の塗布膜でエッジ21をくまなく覆うことができる。目的に応じて、機能膜をTIMとして用いてもよいし、電磁波シールドとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10A、10B、10C 成膜装置
11、11A、11B 第1吐出部
12 第2吐出部
17 循環機構
101 基材
110 第1材料
111 固体粒子
120 第2材料
121 金属膜
130、130A、130B 機能膜
1000A、1000B 電子部品
1010A 発熱部品
1010B 高周波発生部品
1020 放熱部品
M 移動機構
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特開2012-049291号公報
【特許文献2】特表2008-531810号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10