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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135380
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】クリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230921BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20230921BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230921BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20230921BHJP
   A21D 13/32 20170101ALI20230921BHJP
   A21D 13/38 20170101ALI20230921BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D9/00 502
A23L9/20
A23C13/14
A21D13/32
A21D13/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040550
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 陽加
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】兼子 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC06
4B001AC17
4B001AC40
4B001BC01
4B001BC07
4B001BC08
4B001EC01
4B001EC99
4B025LB20
4B025LG14
4B025LG15
4B025LG16
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG53
4B025LK01
4B025LP01
4B025LP12
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG05
4B026DH01
4B026DH05
4B026DK01
4B026DK05
4B026DL03
4B026DL08
4B026DL10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DP10
4B026DX05
4B032DB40
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK18
4B032DK26
4B032DK47
4B032DK54
4B032DL03
4B032DL06
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
4B032DP66
4B032DP73
(57)【要約】
【課題】以下の(1)及び(2)を達成することのできるクリームを提供する。
(1)常温域から冷凍温度域まで、好ましい食感を有する。
(2)常温域から冷凍温度域まで、好ましい風味を有する。
【解決手段】以下の条件(a)~(c)を満たし、連続相が油相であるクリーム。
(a)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基(S)の含量と不飽和脂肪酸残基(U)の含量の質量比(S/U)が0.70~1.30である。
(b)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、不飽和脂肪酸残基(U)に占める多価不飽和脂肪酸残基(PUFA)の質量比(PUFA/U)が0.33~0.65である。
(c)スクロース、マルトース及びフルクトースを含有し、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量が4.2~11質量部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a)~(c)を満たし、連続相が油相であるクリーム。
(a)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基(S)の含量と不飽和脂肪酸残基(U)の含量の質量比(S/U)が0.70~1.30である。
(b)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、不飽和脂肪酸残基(U)に占める多価不飽和脂肪酸残基(PUFA)の質量比(PUFA/U)が0.33~0.65である。
(c)スクロース、マルトース及びフルクトースを含有し、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量が4.2~11質量部である。
【請求項2】
次の条件(d)を満たす、請求項1記載のクリーム。
(d)クリームの糖組成に占めるデキストリンの量が5質量%以下である。
【請求項3】
次の条件(e)及び(f)のいずれか1つ以上を満たす、請求項1又は2記載のクリーム。
(e)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含有量が5~14質量%である。
(f)油相を構成する油脂のトリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量が2質量%以下である。
【請求項4】
喫食温度帯が常温域から冷凍温度域のベーカリー食品用である、請求項1~3のいずれか1項記載のクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリームに関する。詳細には、本発明は、常温域から冷凍温度域の全温度域にかけて喫食可能なクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
パン等のベーカリー製品は一般的に常温域で喫食されることが多いが、チルド温度域や冷凍温度域となるまで冷やして喫食する需要が増加しており、常温域~冷凍温度域の幅広い温度帯で喫食できるようなベーカリー製品が求められている。このため、ベーカリー製品の喫食温度帯に対する要求に合わせて、ベーカリー製品の製造に用いられるフィリングも幅広い温度帯で喫食できるものが本来望ましい。
【0003】
一方で、一般に、飲食品はチルド温度域や冷凍温度域等の低温域では風味が感じられにくい。このため低温域で喫食した場合に風味を十分に感じるためには、例えばフィリングであれば糖類を多く含有させる必要があることが知られており、低温域で喫食するためのフィリングを、常温で喫食するようなベーカリー製品にそのまま転用すると、過度に風味が発現し、好ましくない。また、冷凍温度域で喫食される場合を想定する場合には、冷凍温度域におけるフィリングが適切な軟らかさとなるように、フィリングの油脂組成が調整されるため、常温域ではフィリングが過度に軟らかくなり、好ましい食感が得られにくかった。
【0004】
このため、想定されるベーカリー製品の喫食温度に合わせたフィリングの使い分けがなされてきた。従来検討されてきた低温域で喫食又は保管するためのフィリングとしては、白キクラゲ多糖を一定量含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物(特許文献1)や、油脂含量が一定範囲であり、特定の二種の油脂を含有し、且つ油相部にHLBが0~5の主要構成脂肪酸がベヘン酸である乳化剤を一定量含有するチルド流通ホイップドクリーム用起泡性水中油型乳化油脂組成物(特許文献2)等がある。
【0005】
また、冷凍温度域で喫食されるベーカリー製品としては、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFC(固体脂含量)が、25℃における基準SFCの80%以下である油相を含有する冷凍喫食ベーカリー製品用油脂組成物(特許文献3)などが従来検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-014336号公報
【特許文献2】特開2012-019766号公報
【特許文献3】特開2018-174851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、従前知られたフィリングを幅広い温度で用いることは、風味の面や食感の面から困難であった。また、想定されるベーカリー製品のそれぞれの喫食温度に合わせてフィリングを用意し使い分けることは煩雑であり、ベーカリー製品の喫食温度帯として想定される常温域から冷凍温度域までのいずれの温度帯によらず使用することのできるフィリングクリームが求められている。
【0008】
したがって、本発明の課題は、以下の(1)及び(2)を達成することのできるクリームを提供することにある。
(1)常温域から冷凍温度域まで、好ましい食感を有する。
(2)常温域から冷凍温度域まで、好ましい風味を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、連続相が油相であるクリームであって、該油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成が一定条件を満たすと共に、特定の糖組成を有する、クリームが、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
[1] 以下の条件(a)~(c)を満たし、連続相が油相であるクリーム。
(a)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基(S)の含量と不飽和脂肪酸残基(U)の含量の質量比(S/U)が0.70~1.30である。
(b)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、不飽和脂肪酸残基(U)に占める多価不飽和脂肪酸残基(PUFA)の質量比(PUFA/U)が0.33~0.65である。
(c)スクロース、マルトース及びフルクトースを含有し、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量が4.2~11質量部である。
[2] 次の条件(d)を満たす、[1]記載のクリーム。
(d)クリームの糖組成に占めるデキストリンの量が5質量%以下である。
[3] 次の条件(e)及び(f)のいずれか1つ以上を満たす、[1]又は[2]記載のクリーム。
(e)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含有量が5~14質量%である。
(f)油相を構成する油脂のトリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量が2質量%以下である。
[4] 喫食温度帯が常温域から冷凍温度域のベーカリー食品用である、[1]~[3]のいずれか記載のクリーム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の(1)及び(2)を達成することのできるクリームを提供することができる。
(1)常温域から冷凍温度域まで、好ましい食感を有する。
(2)常温域から冷凍温度域まで、好ましい風味を有する。
【0012】
本発明のクリームは、上記(2)について、常温域から冷凍温度域まで、特に好ましい甘味を呈することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<用語の説明>
本発明において「常温域」とは15℃以上25℃以下の温度域、「チルド温度域」とは0℃以上15℃未満の温度域、「冷凍温度域」とは-50℃以上0℃未満の温度域を指し、クリーム又は該クリームを用いて製造されたベーカリー食品の品温がこれらの温度域であることを指す。また、「喫食温度帯が常温域から冷凍温度域である」とは、常温域から冷凍温度域の全温度域を好ましい喫食温度とすることができることを指す。
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0015】
[クリーム]
本発明のクリームは、連続相が油相であり、以下の条件(a)~(c)を満たすことを特徴とする。
(a)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基(S)の含量と不飽和脂肪酸残基(U)の含量の質量比(S/U)が0.70~1.30である。
(b)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、不飽和脂肪酸残基(U)に占める多価不飽和脂肪酸残基(PUFA)の質量比(PUFA/U)が0.33~0.65である。
(c)スクロース、マルトース及びフルクトースを含有し、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量が4.2~11質量部である。
【0016】
以下、本発明のクリームが満たす条件(a)~(c)について説明する。
【0017】
<条件(a)について>
本発明のクリームは、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、飽和脂肪酸残基(S)の含量と不飽和脂肪酸残基(U)の含量の質量比(S/U)が0.70~1.30である。
【0018】
該質量比(S/U)は、油相中の飽和脂肪酸残基の含量を、油相中の不飽和脂肪酸残基の含量で除することにより得られる。
【0019】
脂肪酸残基組成におけるS/Uの値が上記範囲内であることで、本発明のクリームは、チルド温度域又は冷凍温度域においても硬くならず、また常温域においても過度に軟らかくならないため、好ましい食感を有するものとなる。
【0020】
また、S/Uの値が上記範囲内であることで、良好な口溶けを有するクリームが得られ、クリームの風味発現性が良好なものとなる。さらに、S/Uの値が上記範囲内にあると、適度な可塑性を有し、例えば後述する複合ベーカリー食品等の製造の際に、好ましい製造作業性を有するクリームが得られる。
【0021】
本発明の効果をより享受し得る観点から、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるS/Uは、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下、さらに好ましくは1.15以下、1.14以下、1.12以下又は1.10以下であり、その下限は好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.85以上である。したがって一実施形態において、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるS/Uは、好ましくは0.75~1.25、より好ましくは0.80~1.20、さらに好ましくは0.85~1.15である。
【0022】
本発明のクリームにおいて、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成は、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。本発明において示す脂肪酸残基組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した値に基づく。
【0023】
<条件(b)について>
本発明のクリームは、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成中の、不飽和脂肪酸残基(U)に占める多価不飽和脂肪酸残基(PUFA)の質量比(PUFA/U)が0.33~0.65である。
【0024】
脂肪酸残基組成におけるPUFA/Uの値が上記範囲内であることで、本発明のクリームは、チルド温度域又は冷凍温度域においても硬くならず、また常温域においても過度に軟らかくならないため、好ましい食感を有するものとなる。
【0025】
また、PUFA/Uの値が上記範囲内であることで、良好な口溶けを有するクリームが得られ、クリームの風味発現性が良好なものとなる。さらに、PUFA/Uの値が上記範囲内であると、適度な可塑性を有し、例えば本発明のクリームを用いたベーカリー食品等の製造の際に、好ましい製造作業性を有するクリームが得られる。
【0026】
本発明の効果をより享受し得る観点から、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるPUFA/Uは、好ましくは0.36以上、より好ましくは0.42以上、さらに好ましくは0.45以上であり、その上限は好ましくは0.62以下又は0.60以下、より好ましくは0.58以下、さらに好ましくは0.56以下、0.55以下又は0.54以下である。したがって一実施形態において、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるPUFA/Uは、好ましくは0.36~0.62、より好ましくは0.42~0.58、さらに好ましくは0.45~0.56である。
【0027】
<条件(c)について>
本発明のクリームは、スクロース、マルトース及びフルクトースを含有し、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量が4.2~11質量部である。
【0028】
従来の製菓製パンの分野で広く用いられる、甘味料を含有するクリームについては、想定される喫食温度域において適当な甘味が感じられるように、風味発現性や風味強度が、配合量や糖組成によってコントロールされてきた。一方で、事前に想定された喫食温度域以外で用いた場合には、十分に甘味が感じられなかったり、逆に甘味が強く感じられたりして、良好な風味のクリームが得られなかった。
【0029】
本発明においては、含有される油脂に関する上記条件(a)及び(b)に加えて、好ましくは上記条件(a)及び(b)と後述する条件(e)及び(f)に加えて、含有される甘味料の組成に関する条件(c)を満たすことで、常温域から冷凍温度域の範囲で、適度な甘味が感じられるクリームを実現するに至ったものである。
【0030】
常温域から冷凍温度域にかけて、いっそう好ましく適度な甘味が感じられるクリームを得る観点から、本発明のクリームにおけるスクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは9.5質量部以下又は9質量部以下、さらに好ましくは8.5質量部又は8質量部以下、さらにより好ましくは7.5質量部であり、その下限は上記のとおり4.2質量部以上であり、好ましくは4.5質量部以上である。したがって一実施形態において、スクロース及びマルトースの含量の和1質量部に対するフルクトースの量は、好ましくは4.2~9.5質量部、より好ましくは4.2~8.5質量部、さらに好ましくは4.2~7.5質量部である。
【0031】
本発明のクリームにスクロース、マルトース、フルクトースを含有させる手法としては、特に限定されず、上記の質量比を満たす限り、これらの精製品を含有させてもよく、以下に述べる各種甘味料を含有させてもよい。
【0032】
本発明のクリームに用いることのできる甘味料としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖、還元パラチノース、ソルビトール、還元乳糖、L-アラビノース、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノース、パラチノースオリゴ糖等の糖類や糖アルコール等が挙げられる。これらの甘味料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記の質量比を簡易に満たし、且つ複雑な糖組成とすることにより幅広い温度域で良好な風味を得る観点から、上記甘味料の中でも、酵素糖化水飴、ショ糖結合水飴、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖のうち、2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0034】
本発明のクリームに用いられる甘味料の量は、上記条件(c)を満たす限り特に制限されないが、クリーム中の甘味料の含量は、固形分(水分以外の成分の総和)として、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、その上限は好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、クリーム中の甘味料の含量は、好ましくは15~45質量%、より好ましくは20~40質量%、さらに好ましくは25~35質量%である。
【0035】
以下、本発明のクリームがさらに満たすことが好適な条件について説明する。
【0036】
<条件(d)について>
本発明のクリームは、上記の条件(a)~(c)の全てを満たすことに加えて、以下の条件(d)を満たすことが好適である。
(d)クリームの糖組成に占めるデキストリンの量が5質量%以下である。
【0037】
条件(d)は、クリームに含有される甘味料・糖組成に関する。
【0038】
その糖組成に占めるデキストリンの量が上記範囲内であることで、本発明のクリームは、チルド温度域や冷凍温度域において、より良好な風味発現性を呈することができる。
【0039】
チルド温度域や冷凍温度域において、いっそう良好な風味発現性を有するクリームを得る観点から、クリームの糖組成に占めるデキストリンの量は、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0040】
<条件(e)、(f)について>
本発明のクリームは、上記の条件(a)~(c)の全てを満たすことに加えて、以下の条件(e)および(f)のいずれか1つ以上を満たすことがより好適であり、それら両方を満たすことがさらに好適である。
(e)油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含有量が5~14質量%である。
(f)油相を構成する油脂のトリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量が2質量%以下である。
【0041】
-条件(e)-
条件(e)は、クリームに含有される油脂に関する。
【0042】
本発明のクリームは、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量が5~14質量%であることが好適である。脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量が上記範囲内であることで、本発明のクリームは、チルド温度域又は冷凍温度域においても硬くならず、また常温域においても過度に軟らかくならないため、より好ましい食感を有するものとなる。
【0043】
いっそう好ましい食感を有するクリームを得る観点から、クリーム中の油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下であり、その下限は上記のとおり5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。したがって一実施形態において、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は、より好ましくは5~13質量%、さらに好ましくは5~12質量%である。
【0044】
なお、常温域から冷凍温度域において、適度な硬さのクリームを得る観点から、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるパルミチン酸残基(P)とステアリン酸残基(S)の含有量の和(P+S)は、20~35質量%であることが好ましく、21~33質量%であることがより好ましく、22~32質量%であることがさらに好ましい。同様の観点から、油相を構成する油脂の脂肪酸残基組成におけるパルミチン酸残基(P)とステアリン酸残基(S)の質量比(P/S)は、2.8~6.0であることが好ましく、3.3~5.7であることがより好ましく、4.0~5.4であることがさらに好ましい。
【0045】
-条件(f)-
条件(f)は、クリームに含有される油脂に関する。
【0046】
本発明のクリームは、油相を構成する油脂のトリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量が2質量%以下であることが好適である。トリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量が上記範囲内であることで、常温域から冷凍温度域までの幅広い温度帯でなめらかな食感のクリームが得られやすくなる。
【0047】
幅広い温度帯でいっそうなめらかな食感を有するクリームを得る観点から、油相を構成する油脂のトリグリセリド組成におけるトリラウロイルグリセロールの含量は、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、さらにより好ましくは0.8質量%以下である。
【0048】
本発明のクリームの油相を構成する油脂のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定することができる。本発明において示すトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した値に基づく。
【0049】
<連続相について>
本発明のクリームは、連続相が油相であることを特徴とする。
【0050】
連続相が水相であると、冷凍温度域で氷結晶が発生し、食感が損なわれやすく、常温域から冷凍温度域までの幅広い温度域で喫食できるクリームを提供するという、本発明の課題が解決できない。
【0051】
連続相が油相である限り、本発明のクリームの形態は問われず、油中水型乳化物であってもよく、連続相が油相であって水相を含まないものであってもよいが、幅広い温度域で好ましい食感を有するクリームを製造する観点から、油中水型乳化物であることが好ましい。なお、甘味料として液糖を使用する場合には、液糖をそのまま水相として使用してもよい。
【0052】
本発明において、油中水型乳化物であるクリームとしては、例えばバタークリームやファットスプレッドが挙げられ、連続相が油相であって水相を含まないクリームとしては、例えば油性ソースやシュガークリームが挙げられる。
【0053】
また本発明において「油中水型」とは、連続した油相中に、水相が分散している形態を指す。
【0054】
本発明のクリームが乳化物である場合、具体的な乳化形態としては、W/O型のみならず、O/W/O型やO/O型をも含む。
【0055】
-油脂-
本発明のクリームの油相を構成する油脂として用いることができる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油、バター、バターオイル等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1つ又は2つ以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明においては、上記の油脂を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明においては、これらの油脂の中から、上記の条件(a)及び(b)を満たすように、好ましくは上記の条件(a)及び(b)に加えて条件(e)及び(f)のいずれか1つ以上(より好ましくは両方)を満たすように、1種又は2種以上が使用される。
【0057】
とりわけ、上記の諸条件を好ましく満たし、本発明の効果を好ましく享受し得る観点から、本発明のクリームの油相を構成する油脂として、以下の油脂(I)及び油脂(II)を含有することが好ましく、本発明のクリームの油相を構成する油脂が実質的に油脂(I)及び油脂(II)のみからなることが好ましい。ここで、油脂についていう「実質的に油脂(I)及び油脂(II)のみからなる」とは、油脂に占める油脂(I)及び油脂(II)の割合が98質量%以上であることを意味し、該割合は好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上である。
油脂(I):0℃におけるSFCが20%以下の油脂
油脂(II):脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量が15~45質量%であるランダムエステル交換油脂
【0058】
-油脂(I)-
油相を構成する油脂として、0℃におけるSFCが20%以下の油脂を含有させることで、好ましい食感と風味発現性を有するクリームが得られやすくなる。
【0059】
本発明の効果をいっそう好ましく得る観点から、用いられる油脂(I)の0℃におけるSFCは18%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、12%以下であることがさらにより好ましい。
【0060】
なお、「SFC」とは固体脂含量を意味し、所定温度における油脂中の固体脂の含量を示すものであって、常法により測定することが可能である。
【0061】
本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。
【0062】
本発明のクリームにおいて、油相中の油脂(I)の含量は、好ましくは35質量%以上又は40質量%以上、より好ましくは42質量%以上、44質量%以上又は45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、その上限は好ましくは65質量%以下又は64質量%以下、より好ましくは62質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。したがって一実施形態において、油相中の油脂(I)の含量は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは42~62質量%、さらに好ましくは50~60質量%である。
【0063】
油脂(I)としては、上記の0℃におけるSFCの条件を満たす限り特に限定されず、例えば、以下の(I-1)や(I-2)を挙げることができる。
(I-1)液状油:大豆油、菜種油、ヒマワリ油、とうもろこし油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油等
(I-2)分別軟部油:0℃におけるSFCが20%超の油脂(例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、マンゴ脂、カカオ脂、シア脂及びサル脂等)を分別することで得られた軟部油であって0℃におけるSFCが20%以下である油脂
【0064】
油脂(I)としては、上記の(I-1)や(I-2)から選択される1種の油脂を単独で使用してもよく、上記の(I-1)や(I-2)から選択される2種以上の混合油脂を使用してもよい。
【0065】
本発明のクリームに含有される糖類の甘味を、喫食される温度域を問わず十分に発現させる観点と、良好な保形性を有するクリームを得る観点から、好ましくは(I-1)及び(I-2)の各群から少なくとも1種類ずつ、すなわち(I-1)の群から選択される1種以上と(I-2)の群から選択される1種以上とを組み合わせて含有させることが好ましく、より好ましくは(I-1)の大豆油、菜種油、ヒマワリ油、とうもろこし油、綿実油、米油のうちから1種以上と、(I-2)のパームスーパーオレインとを組み合わせて含有させることが好適である。
【0066】
これは、油脂(I)として(I-1)と(I-2)を組み合わせて含有させることで、油脂(I)として(I-1)のみ、あるいは、(I-2)のみを含有させる場合よりも、得られるクリームの保形性と口溶けとが幅広い温度域で両立しやすくなるためである。分別軟部油と液状油との合計量を100質量部としたとき、液状油の比率を例えば40~80質量%とすることで、常温域におけるクリームの保形性や食感を維持しながら、チルド温度域から冷凍温度域にかけての保形性と口溶けを両立することができ、特に好ましい。
【0067】
-油脂(II)-
油相を構成する油脂として、脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量が15~45質量%であるランダムエステル交換油脂を含有させることで、好ましい食感と風味発現性を有するクリームが得られやすくなる。
【0068】
本発明の効果をいっそう好ましく得る観点から、用いられる油脂(II)の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は、15~42質量%であることがより好ましく、18~39質量%であることがさらに好ましく、21~36質量%であることがさらにより好ましい。
【0069】
本発明のクリームにおいて、油相中の油脂(II)の含量は、好ましくは35質量%以上又は36質量%以上、より好ましくは38質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、その上限は好ましくは65質量%以下又は60質量%以下、より好ましくは58質量%以下又は55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。したがって一実施形態において、油相中の油脂(II)の含量は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは38~58質量%、さらに好ましくは40~50質量%である。
【0070】
また、特に上記の条件(a)、(e)、(f)を好ましく満たす観点から、油脂(II)の脂肪酸残基組成におけるパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和(St+P)に対するラウリン酸残基(La)の含量の質量比(La/(St+P))は0.45~1.20であることが好ましく、0.45~1.10であることがより好ましい。
【0071】
油脂(II)としては、上記条件を満たすランダムエステル交換油脂である限り特に限定されないが、例えばパーム核油と、ヨウ素価1以下のパーム油の極度硬化油又はパームステアリンとを、前者対後者で40~80:20~60の質量比で混合した油脂配合物を常法に則りランダムエステル交換した油脂の1種又は2種以上を好ましく用いることができる。
【0072】
-クリーム中の油相の含量-
上記の条件を満たす限り、クリーム中の油相の含量は特に限定されないが、得られるクリームの保形性や風味発現性を両立させる観点から、本発明のクリーム中の油相の含量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは42質量%以上、さらに好ましくは44質量%以上又は45質量%以上であり、その上限は好ましくは80質量%以下又は76質量%以下、より好ましくは72質量%以下又は68質量%以下、さらに好ましくは64質量%以下又は60質量%以下である。したがって一実施形態において、クリーム中の油相の含量は、好ましくは40~80質量%、より好ましくは42~72質量%、さらに好ましくは44~64質量%である。
【0073】
なお、本発明のクリーム中の油脂分の含量は、常温域から冷凍温度域において求める食感や風味によっても異なるが、例えば40~80質量%であることが好ましく、42~72質量%であることがより好ましく、44~64質量%であることがさらに好ましい。同様の観点から、本発明のクリームが乳化物である場合には、クリーム中の水分の含量は5~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。ここでいう油脂分及び水分の含量には、後述する「その他の成分」に含まれる油脂分及び水分も含めるものとする。
【0074】
<その他の成分>
本発明のクリームは、本発明の効果を奏する限りにおいて、その他の成分を含有してもよい。
【0075】
その他の成分としては、例えば、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、卵及び各種卵加工品、苦汁、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0076】
クリーム中のその他の成分の含量は、特に制限されず、例えば、0~25質量%の範囲としてよい。
【0077】
<クリームの製造方法>
本発明のクリームの製造方法は、上記の条件を満たすクリームが得られる限り、特に限定されない。以下、W/O型の乳化形態をとる、本発明のクリームの好適な製造方法について述べる。
【0078】
先ず、上記条件を満たすことができるように、好ましくは油脂(I)、油脂(II)、及びその他油脂を加熱溶解し、混合・撹拌を行い、油相を調製する。油溶性のその他の成分については、必要に応じて油相に含有させてよい。また、甘味料に必要に応じ水や水溶性のその他の成分を添加した水相を調製した後、該水相を油相に添加し、混合することにより予備乳化する。
【0079】
該混合時において、水相と油相とを混合した混合液の液温は、好ましくは60℃以下、より好ましくは58℃以下、さらに好ましくは57℃以下、さらにより好ましくは56℃以下とすることが好適である。なお、混合液の液温の下限は、含有させた油脂の融点等によっても異なるが、45℃以上とすることが好ましい。
【0080】
次に、殺菌処理に付すのが好ましい。なお、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。殺菌温度は、目的を達成し得る限り任意の温度に設定してよいが、風味良好な油中水型クリームを得る観点から、好ましくは80~95℃、より好ましくは82~95℃、さらに好ましくは84~95℃、さらにより好ましくは85~95℃である。
【0081】
その後、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、-1℃/分以上又は-2℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。冷却による到達温度は特に限定されないが、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~35℃、さらに好ましくは20~30℃まで冷却される。
【0082】
なお、本発明のクリームの製造の過程においては、リファイニングの工程や含気させる工程(例えばクリーミングや、窒素や空気等のガスの吹込み)を任意に導入してよい。
【0083】
クリームを含気させる場合には、比重が好ましくは0.4~0.95、より好ましくは0.5~0.9、さらに好ましくは0.55~0.9、さらにより好ましくは0.6~0.9となるように任意の方法で含気させることが好適である。
【0084】
<クリームの用途>
本発明のクリームの用途としては、例えば、練り込み用、フィリング用(サンド、トッピング、スプレッド、コーティング等を含む)等が挙げられるが、中でも、ベーカリー食品のフィリングクリームに好適に使用でき、常温域は勿論、チルド温度域や冷凍温度域においても食感や風味が良好であるという本発明のクリームの特性を活かす観点から、喫食温度帯が常温域から冷凍温度域のベーカリー食品用として好ましく用いられる。
【0085】
本発明のクリームを適用することができるベーカリー食品としては、特に限定されず、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ等のパン類、パイやペストリー、パウンドケーキ、スポンジケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー、ビスケット等のクッキー、ワッフル、スコーン等の菓子類を挙げることができる。
【0086】
また、上記用途における本発明のクリームの使用量は、各用途やベーカリー食品の種類により異なり、特に制限されるものではないが、例えばベーカリー食品100質量部に対して、本発明のクリームを5~200質量部使用してよい。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0088】
<クリームの油相組成の測定>
-トリグリセリド組成の測定-
実施例及び比較例で製造したクリームの油相のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した。
【0089】
各種測定条件は以下のとおりである。
(検出器):示差屈折検出器
(カラム):ドコシルカラム(DCS)
(移動相):アセトン:アセトニトリル=65:35(体積比)
(流速):1ml/min
(カラム温度):40℃
(背圧):3.8MPa
【0090】
-脂肪酸残基組成の測定-
実施例及び比較例で製造したクリームの油相の脂肪酸残基組成は、AOCS法「Ce-1h05」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した。
【0091】
各種測定条件は以下のとおりである。
(注入方式)スプリット方式
(検出器)FID検出器
(キャリアガス)ヘリウム 1ml/min
(カラム)SUPELCO社製「SP-2560」(0.25mm、0.20μm、100m)
(カラム温度)180℃
(分析時間)60分
(注入口温度)250℃
(検出器温度)250℃
(スプリット比)100:1
【0092】
-クリームのSFCの測定-
実施例及び比較例で製造したクリームのSFCは、AOCS official methodのcd16b-93に記載されるパルスNMR(ダイレクト法)にて測定した。0℃におけるSFCは、0℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料について測定した。
【0093】
<使用した油脂について>
実施例及び比較例で用いた油脂は以下のとおりである。
パームスーパーオレイン:油脂(I)、詳細には油脂(I-2)に該当する。
大豆油:油脂(I)、詳細には油脂(I-1)に該当する。
ランダムエステル交換油脂(1)~(3):いずれも油脂(II)に該当する。なお、ランダムエステル交換油脂(1)~(3)は以下の製造方法により製造した。
【0094】
<製造例1>(ランダムエステル交換油脂(1)の製造)
パーム核油50質量部と、パーム油に対し、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施した極度硬化油(以下、単に「パーム極度硬化油」ともいう。)50質量部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、四口フラスコに入れ、液温110℃で真空下30分加熱した。この後、対油0.2質量%の割合でランダムエステル交換触媒のナトリウムメトキシドを加えて、液温を85℃に調整して更に真空下で1時間加熱してランダムエステル交換反応を行った後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した。次に、白土を加え漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)を行い、白土を濾別した後、脱臭(250℃、60分、吹込み水蒸気量対油5質量%)を行って、ランダムエステル交換油脂(1)を得た。
【0095】
得られたランダムエステル交換油脂(1)の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は24.2質量%であり、La/(St+P)は0.455であった。
【0096】
<製造例2>(ランダムエステル交換油脂(2)の製造)
パーム核油75質量部と、パーム極度硬化油25質量部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(2)を得た。
【0097】
得られたランダムエステル交換油脂(2)の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は34.1質量%であり、La/(St+P)は1.042であった。
【0098】
<製造例3>(ランダムエステル交換油脂(3)の製造)
パーム核油45部と、パームステアリン55部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(3)を得た。
【0099】
得られたランダムエステル交換油脂(3)の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含量は21.9質量%であり、La/(St+P)は0.529であった。
【0100】
<混合油脂の製造>
表1記載の配合に基づいて、混合油脂A~Dを調製した。また、各混合油脂の詳細についても表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<使用した甘味料について>
実施例及び比較例で用いた甘味料は以下のとおりである。なお、いずれも液糖であり、その糖組成は表2に示すとおりであり、固形分は水分以外の成分の総和である。
・ニューフラクトR25-40(砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、昭和産業(株)製)、固形分75質量%)
・ハイマルトップ75(酵素糖化水飴、昭和産業(株)製)、固形分75質量%)
・フジフラクトL-95(高果糖液糖、日本食品化工(株)製、固形分75.5質量%)
【0103】
【表2】
【0104】
<液糖組成物の製造>
表4記載の配合に基づいて、液糖組成物AF-1~4、液糖組成物BF-1~4、液糖組成物CF-1~4を製造した。各液糖組成物の詳細についても表4に示す。
なお、表3記載の配合に基づき、一旦液糖組成物A~Cを調製した後、この液糖組成物A~Cを用いて液糖組成物AF-1~4、液糖組成物BF-1~4、液糖組成物CF-1~4の製造を行った。
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
<<検討1>>
糖組成の異なる液糖組成物を用いてクリームを製造し、クリームを喫食する温度域による甘味の強度や質について評価を行った。
【0108】
<クリームの製造>
上記のとおり調製された混合油脂A、液糖組成物AF-1~4、液糖組成物BF-1~4、液糖組成物CF-1~4を用いて、表5記載の配合に基づいて、実施例1-1~1-6、比較例1―1~1-6のクリームを製造した。なお、各クリームは以下のとおり製造した。
【0109】
-クリームの製造方法-
混合油脂Aにレシチンや乳化剤を混合し、油相を調製した。次に、液糖組成物AF-1~4、液糖組成物BF-1~4、液糖組成物CF-1~4のいずれか一つと水と脱脂粉乳を混合し、水相を調製した。
【0110】
調製した油相と水相とを、45~55℃の温度で混合し、W/O型の予備乳化物を得た。W/O型乳化物を87℃にて60秒間殺菌し、次いでコンビネーターにて、-20℃/分の条件で、5℃まで急冷しながら可塑化して、実施例1-1~1-6、及び比較例1―1~1-6のW/O型のクリームを調製した。
【0111】
<クリームの評価>
実施例及び比較例として製造したクリームについて、10人の専門パネラーにより下記評価基準に従って、甘味の強度および甘味の質について官能評価を実施した。そして10人の専門パネラーの合計点を求め、合計点が45~50点の場合に+++、39~44点の場合に++、34~38点の場合に+、30~33点の場合に±、14~29点の場合に-、0~13点の場合に--とした。なお、評価に先立ち、パネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
この評価結果については表5に示す。
【0112】
[甘味の強度(冷凍温度域)]
製造されたクリームをカップに絞り、-40℃の冷凍庫で1時間冷凍した後、-20℃の冷凍庫で24時間静置したものを、冷凍庫から取り出して5分後に喫食し、下記評価基準に則り、評価した。
5点:甘味をとても強く感じる。
3点:甘味をやや強く感じる。
1点:やや甘味を感じにくい、若しくは、ややくどく後残りのする甘味である。
0点:甘味を感じにくい。若しくは、くどく後残りのする甘味である。
【0113】
[甘味の強度(常温域)]
製造されたクリームをカップに絞り、20℃の恒温槽で24時間静置し、調温したものを喫食し、下記評価基準に則り、評価した。
5点:甘味をとても強く感じる。
3点:甘味をやや強く感じる。
1点:やや甘味を感じにくい、若しくは、ややくどく後残りのする甘味である。
0点:甘味を感じにくい、若しくは、くどく後残りのする甘味である。
【0114】
[甘味の質(冷凍温度域)]
製造されたクリームをカップに絞り、-40℃の冷凍庫で1時間冷凍した後、-20℃の冷凍庫で24時間静置したものを、冷凍庫から取り出して5分後に喫食し、下記評価基準に則り、評価した。なお、えぐ味とは、不快感を伴う苦味・収斂味である。
5点:甘味の味質が、非常に良好である。
3点:甘味の味質が、良好である。
1点:僅かに異味・えぐ味のある甘味である。
0点:異味・えぐ味のある甘味である。
【0115】
[甘味の質(常温域)]
製造されたクリームをカップに絞り、20℃の恒温槽で24時間静置し、調温したものを喫食し、下記評価基準に則り、評価した。
5点:甘味の味質が、非常に良好である。
3点:甘味の味質が、良好である。
1点:僅かに異味・えぐ味のある甘味である。
0点:異味・えぐ味のある甘味である。
【0116】
本試験では、甘味の強度、甘味の質の全項目について、「+」以上の評点が付されたものを合格品とした。
【0117】
【表5】
【0118】
<<検討2>>
異なる混合油脂を用いてクリームを製造し、クリームを喫食する温度域による、クリームの物性および食感について評価を行った。
【0119】
上記のとおり調製された混合油脂A~D、液糖組成物AF-1を用い、表6記載の配合に基づいて、実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1のクリームを製造した。なお、各クリームの製造方法は検討1と同様である。
【0120】
実施例及び比較例として製造したクリームについて、10人の専門パネラーにより下記評価基準に従って、クリームの物性および食感について官能評価を実施した。そして10人の専門パネラーの合計点を求め、合計点が45~50点の場合に+++、39~44点の場合に++、34~38点の場合に+、30~33点の場合に±、14~29点の場合に-、0~13点の場合に--とした。なお、評価に先立ち、パネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
この評価結果については表6に示す。
【0121】
[クリームの物性および食感(冷凍温度域)]
製造されたクリームをカップに絞り、-40℃の冷凍庫で1時間冷凍した後、-20℃の冷凍庫で24時間静置したものを、冷凍庫から取り出して5分後に匙を用いて喫食し、下記評価基準に則り、評価した。
<評価基準>
5点:匙どおりが非常によく、非常に良好な口溶けであった。
3点:匙どおりがよく、良好な口溶けであった。
1点:やや硬く匙が通りにくく、やや不良な口溶けであった。
0点:硬く匙が通らず、不良な口溶けであった。
【0122】
[クリームの物性および食感(常温域)]
製造されたクリームを三角袋に入れて、20℃の恒温槽で24時間静置し、調温したものをカップにしぼり、目視および喫食を行い、下記評価基準に則り、評価した。
<評価基準>
5点:絞り目がきれいに出ており、非常に良好な口溶けであった。
3点:わずかに絞り目が緩んでいるが許容範囲であり、良好な口溶けであった。
1点:絞り目が緩んでおり、良好な口溶けが十分得られなかった。
0点:絞り目が崩れており、良好な口溶けが得られなかった。
【0123】
【表6】
【0124】
<<検討3>>
含有する甘味料の量が異なるクリームを製造し、クリームを喫食する温度域による甘味の強度や質、クリームの物性および食感について評価を行った。
【0125】
上記のとおり調製された混合油脂Aおよび液糖組成物AF-1を用い、表7記載の配合に基づいて、実施例3-1~3-4のクリームを製造した。なお、各クリームの製造方法は検討1と同様である。
【0126】
実施例及び比較例として製造したクリームについて、10人の専門パネラーにより、検討1および検討2と同様の評価方法・基準に従って、甘味の強度、クリームの物性および食感について官能評価を実施した。
この評価結果については表7に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
<<検討4>>
検討1~3で製造したクリームのうち、いくつかのクリームを抜粋して用い、以下のとおり複合ベーカリー食品を製造した。
【0129】
<ベーカリー食品の製造>
薄力粉20質量部、強力粉80質量部、イースト5質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖20質量部、食塩1.2質量部、全卵12質量部、水45質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにて低速で4分、中速で4分混合後、練込油脂(マーガリン)10質量部を投入し、低速で4分、中速で5分混合し、ベーカリー生地を得た。
【0130】
得られたベーカリー生地を60gに分割した後、丸め成形をし、38℃、相対湿度80%、50分ホイロをとった後、固定窯にて180℃で13分焼成し、ベーカリー食品を得た。
【0131】
得られたベーカリー食品の粗熱を取った後、上部中央部に切れ込みを入れ、ベーカリー食品100質量部に対してクリーム30質量部となるように、検討1~3で製造された実施例1-1、実施例2-1、実施例3-1のクリームをフィリングし、複合ベーカリー食品を製造した。
【0132】
得られた複合ベーカリー食品を、それぞれ20℃の恒温槽および-20℃の冷凍庫で一晩保管したものを10人の専門パネラーにより、喫食し、評価した。
【0133】
<評価結果>
いずれのクリームをフィリングした複合ベーカリー食品においても、常温域および冷凍温度域の双方で、十分な強度の甘味が感じられた。また、いずれもベーカリー食品の食感との親和性の高い食感を有するクリームであった。