(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135383
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/30 20060101AFI20230921BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230921BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20230921BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20230921BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230921BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
H01B7/30
H01F27/28 123
H01F5/06 H
H01F5/06 Q
H01F5/00 J
H01B7/00 303
H01B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040555
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】折戸 博
(72)【発明者】
【氏名】斉田 幸弘
【テーマコード(参考)】
5E043
5G309
5G315
【Fターム(参考)】
5E043AB05
5G309CA12
5G309CA13
5G309MA02
5G309MA06
5G309MA11
5G309MA18
5G315AA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】撚り線の伝送損失を抑えながら、製造コストの低減も実現する撚り線、この撚り線を用いた絶縁電線、この絶縁電線を用いたコイル及びこのコイルを有するトランスを提供する。
【解決手段】トランス及びコイル用絶縁電線1Aにおいて、撚り線2Aは、導体11と、導体周囲を覆うエナメル層12と、を有する素線10が複数本撚り合わされ、導体の断面が円形であり、該円形の直径に対するエナメル層の厚みの比の値が0.08~0.5である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体周囲を覆うエナメル層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線であって、
前記導体の断面が円形であり、該円形の直径に対する前記エナメル層の厚みの比の値が0.08~0.5である、撚り線。
【請求項2】
前記撚り線の周囲を覆う絶縁層を有する、絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁層が、3層以上で構成される、請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の絶縁電線を用いたコイル。
【請求項5】
請求項4に記載のコイルを有するトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚り線、絶縁電線、コイル及びトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器においては、通常、インバータとトランス(変圧器)とを備えたスイッチング電源が用いられる。例えば、日本における商用電源は、50Hz又は60Hzの低周波電源である。このような低周波電源の周波数を変更せずに変圧する場合、所要の出力を得るために大型電源が必要になる。そこで、トランスでの変圧前に、スイッチング素子を用いて、商用電源の周波数を数十kHz以上に高周波化して、1秒当たりの電力送信量を増やすことで、実用的なサイズにまで小型化したスイッチング電源が汎用される。
スイッチング電源に搭載されるトランスは、高周波数の交流電圧を変圧する場合には、表皮効果による抵抗の上昇が生じ、コイルによる伝送損失(導体損失)が大きくなる。この伝送損失を抑えるために、高周波で使用されるトランスは、一般的には、周波数によって決まる表皮深さよりも小さな導体半径の電線が芯に巻回されたコイルを備えている。
このようなトランスにおいて、出力を高めるためには、芯に巻回される電線の導体断面積を増やす必要がある。導体半径の小さな電線を用いる場合には、巻回する電線数を増やすことにより、電線の導体断面積を増やすことができる。例えば、複数の素線をスパイラル状に撚り合わせた撚り線(リッツ線)を電線として使用し、導体断面積を増やすことが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスは、通常、入力側(1次側)コイル及び出力側(2次側)コイルを備えており、各コイルに印加される電流の電圧及び電流値が設定される。トランスでは、通常、相対的に、1次側コイル及び2次側コイルのいずれか一方が低圧大電流側コイルとなり、他方が高圧小電流側コイルとなる。
高周波用トランスの低圧大電流側コイルには、従来、上記表皮効果の影響を考慮して設計された細径の導体(素線導体)と、この導体周囲を被覆する薄膜のエナメル層(素線絶縁層)とからなる素線を撚り合わせた撚り線を調製し、この撚り線を一体として、その外周にさらに薄膜の絶縁層(撚り線絶縁層)を形成した絶縁電線が用いられてきた。素線絶縁層や撚り線絶縁層を薄膜に形成しても、低圧の電流を流す低圧大電流側コイルとしては十分な絶縁性を担保することができる。また、これらの絶縁層を薄膜とすることにより、撚り線を構成する素線数を増やすことができ、結果、トータルの導体断面積を増加させることができる利点もある。
【0005】
上記の通り、トランスのコイルを構成する絶縁電線には、従来から、特に低圧大電流側コイルとして、薄膜の素線絶縁層を有する素線を撚り合わせた撚り線を、さらに、薄膜の撚り線絶縁層で被覆した絶縁電線が用いて、トータルの導体断面積を増加させる試みがなされてきた。他方、撚り線を構成する素線の数を増やすと撚り線の製造コストが上昇する問題がある。撚り線の製造コストの上昇は、撚り線を用いた絶縁電線、この絶縁電線を用いたコイル、ないしはこのコイルを有するトランス等の製造コストの上昇にも繋がる。
そこで本発明は、撚り線の伝送損失を抑えながら、製造コストの低減も実現することができる撚り線、この撚り線を用いた絶縁電線、この絶縁電線を用いたコイル、及びこのコイルを有するトランスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者の上記課題は、下記の手段により解決される。
[1]
導体と、該導体周囲を覆うエナメル層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線であって、前記導体の断面が円形であり、該円形の直径に対する前記エナメル層の厚みの比の値(エナメル層の厚み/導体断面の直径)が0.08~0.5である、撚り線。
[2]
前記撚り線の周囲を覆う絶縁層を有する、絶縁電線。
[3]
前記絶縁層が3層以上で構成される、[2]に記載の絶縁電線。
[4]
[2]又は[3]に記載の絶縁電線を用いたコイル。
[5]
[4]に記載のコイルを有するトランス。
【0007】
本発明及び本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の撚り線は、伝送損失を抑えながら、製造コストの低減も実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の絶縁電線の好ましい一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の絶縁電線の好ましい一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の撚り線の好ましい一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の素線の好ましい一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の撚り線は、導体(素線導体)と、当該導体を覆うエナメル層(素線絶縁層)とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線である。本発明の撚り線を構成する各素線が下記(A)の構成を満たすことにより、伝送損失を抑えながら、製造コストの低減も実現することができる。
(A)上記導体の断面が円形であり、該円形の直径に対する前記エナメル層の厚みの比の値(エナメル層の厚み/導体断面の直径)が0.08~0.5である。
上記(A)において、エナメル層の厚みと導体断面の直径の単位は同じである(例えばいずれもμm)。
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明の絶縁電線、並びに、本発明の絶縁電線を構成する撚り線、この撚り線を構成する素線(素線導体及び素線絶縁層)及び撚り線の周囲を覆う絶縁層(撚り線絶縁層)の好ましい実施形態について説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの実施形態に限定されない。なお、図面において、絶縁電線を構成する撚り線絶縁層の輪郭形状を輪環状に図示したが、本発明の絶縁電線において、撚り線絶縁層は、撚り線との間隙を充填していてもよい。また、輪郭形状は真円に限定されない。例えば、輪郭形状の円形度は0.7000~1.0000とすることができ、0.8000~1.0000とすることが好ましく、0.9000~1.0000とすることも好ましく、0.9500~1.0000とすることも好ましく、0.9800~1.0000とすることも好ましい。円形度は下記式(1)により算出される。
【0012】
円形度=4π×(面積)÷(周囲長)2 (1)
【0013】
また、図面において、素線導体ないし素線の断面が円形である形態を、当該断面が真円の形状として示しているが、素線導体ないし素線の断面が円形である形態は、当該断面が真円の形状に限られない。例えば、線導体ないし素線の断面の円形度を0.7000~1.0000とすることができ、0.8000~1.0000とすることが好ましく、0.9000~1.0000とすることも好ましく、0.9500~1.0000とすることも好ましく、0.9800~1.0000とすることも好ましい。
すなわち、本発明において断面の円形度が0.7000~1.0000のものは、すべて断面が「円形」の概念に含まれるものとする。
【0014】
[絶縁電線]
本発明の好ましい絶縁電線1Aは、
図1に示されるように、素線10を7本撚り合わせてなる撚り線2Aと、撚り線2Aの外周を被覆する撚り線絶縁層3Aと、を有する。
【0015】
本発明の好ましい絶縁電線1Bは、
図2に示されるように、絶縁層3Bが3層構造であること以外は、絶縁電線1Aと同様である。絶縁電線1Bにおいて、3層構造を形成する各層は、いずれも、同一の厚みに設定されているが、本発明においては、各層の厚みの関係は特に限定されない。
【0016】
<撚り線>
本発明の撚り線は、上記(A)を満たす複数の素線を撚り合わせてなるものであれば、特に限定されない。
撚り合わせる素線数としては、例えば2本以上とすることができる。素線の整列性を考えると、1本の中心素線(心線)の周囲に複数の素線(側線)を撚り合わせた構造が好ましい。撚り合わせる素線数は7本以上が好ましく、交流抵抗と実用的な加工性を考えると100本以下が好ましい。撚り合わせる素線数は、より好ましくは7~61本であり、さらに好ましくは7~37本であり、特に好ましくは7~19本である。
素線を撚り合わせる際の、素線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、目的、用途等に応じて、適宜に設定できる。典型的には、撚り線を構成する各素線が互いに接するように最密充填状に配されることが好ましい。ここで、「最密充填状」とは、
図1~3に示すように、すべての素線を、隣り合う素線の素線導体間の距離が、素線絶縁層の厚さの2倍となるように配することを意味する。換言すれば、隣り合う素線の素線導体間の距離が、素線絶縁層の厚さによって確定されることを意味する。
【0017】
本発明の撚り線の導体断面積率は、絶縁層の厚みが厚くなることでコイルないしトランスが大型化することを抑制する観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。上記の導体断面積率とは、撚り線の断面形状(平面視)において、撚り線に外接する外接円(例えば外接円C、
図3参照)の面積(S1)に対する、各導体の断面積の合計値(S2)の百分率((S2/S1)×100)である。
【0018】
(素線)
本発明の素線は、導体(素線導体)と、この導体周囲を覆うエナメル層(素線絶縁層)とを有し、上記(A)を満足するものであれば、それ以外の構成は特に限定されない。
【0019】
素線導体としては、従来、コイル用等の巻線で用いられているものを広く使用することができる。例えば、銅線、アルミニウム線等の金属導体が挙げられる。
上記素線導体の断面円形の直径(線径、素線導体径)は、上記(A)を満足すれば特に限定されない。例えば、当該直径を0.05~0.50mmとすることができ、0.08~0.45mmとすることがより好ましく、0.10~0.40mmとすることがさらに好ましく、0.10~0.35mmとすることがさらに好ましい。本発明において、素線導体の断面円形が真円でない場合、上記直径は円相当径(同じ面積の真円の直径)を意味する。
【0020】
素線導体の周囲を覆うエナメル層は、樹脂ワニスを素線導体の周囲に塗布、焼付けして形成される素線絶縁層である。このエナメル層は熱可塑性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層であることが好ましい。エナメル層の形成に用いる樹脂は特に限定されない。例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリエステルイミド(PEsI)などのイミド結合を有する熱硬化性樹脂、ポリウレタン(PU)、熱硬化性ポリエステル(PEst)、H種ポリエステル(HPE)、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
上記エナメル層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0022】
上記エナメル層の厚みは、上記(A)を満足すれば特に限定されず、素線導体径との関係で適宜に調整される。上記エナメル層の厚みは、素線断面において、エナメル層について無作為に20箇所の厚さ(素線導体の表面とエナメル層の素線導体とは反対側の表面との最短距離)を測定し、20個の測定値の相加平均とする。なお、撚り線絶縁層の厚さも同様にして決定することができる。
【0023】
上記エナメル層は、公知の方法により、形成できる。例えば、導体等の外周に、熱硬化性樹脂等の樹脂成分のワニスを塗布して焼付けする方法が好ましい。このワニスは樹脂成分と、溶媒と、必要により、樹脂成分の硬化剤又は各種の添加剤とを含有する。溶媒は、有機溶媒が好ましく、樹脂成分を溶解又は分散できるものが適宜に選択される。
ワニスの塗布方法は、通常の方法を選択することができ、例えば、導体の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有するワニス塗布用ダイスを用いる方法等が挙げられる。ワニスの焼付けは、通常、焼付炉で行われる。このときの条件は、樹脂成分又は溶媒の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、炉内温度400~650℃にて通過時間を10~90秒の条件が挙げられる。
【0024】
<撚り線絶縁層>
撚り線絶縁層は、複数本の素線を撚り合わせた撚り線を被覆する層であればよく、樹脂成分として後述する熱可塑性樹脂を含有する層が好ましい。撚り線絶縁層の厚さは特に限定されず、例えば、50~300μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。
撚り線絶縁層は、撚り線を被覆することができれば、撚り線の被覆態様等は特に限定されない。この絶縁層は、例えば、押出成形(押出被覆)することにより形成された層(押出被覆層)とすることができる。
【0025】
撚り線絶縁層は、単層でもよく、2層以上の積層構造とすることもできる。撚り線絶縁層は、好ましくは3層以上、より好ましくは3~5層の積層構造とすることができる。3層以上の積層構造とすると、コイルやトランス等を構成する巻線として用いたときに、絶縁電線の十分な沿面距離を確保できるので、通常、絶縁性を確保するために用いられる絶縁テープを省略することができる。これにより、コイルないしトランスの小型化にも効果的である。
撚り線絶縁層が積層構造を有する場合、各層の厚さは特に限定されない。例えば、各層の厚さは、10~100μmが好ましく、15~50μmがより好ましい。各層の厚さは同じでもよく、それぞれが異なっていてもよい。
【0026】
絶縁層は、樹脂成分として、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂としては、絶縁電線の絶縁層として通常用いられる熱可塑性樹脂であれば特に限定されることなく用いることができる。熱可塑性樹脂は結晶性であってもよく、非晶性であってもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA、ナイロン)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE、変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、又は超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチック;
ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、変性PEEKを含む)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、熱可塑性ポリアミドイミド(TPAI)、又は液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック;
ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートをベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、又はポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の上記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイ;が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
【0027】
撚り線絶縁層が積層構造を有する場合、各層に含まれる樹脂成分は、互いに、同じでも異なるものでもよい。
【0028】
撚り線絶縁層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0029】
撚り線絶縁層は、撚り線の外周に、熱可塑性樹脂をベースとして含有する樹脂組成物を押出成形することにより、形成することが好ましい。樹脂組成物は、上述の樹脂成分と、必要により各種の添加剤とを含有する。押出方法は、樹脂成分の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、撚り線の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有する押出ダイスを用いて、樹脂成分の溶融温度以上の温度で押出す方法が挙げられる。
撚り線絶縁層は、押出成形に限定されず、上述の熱可塑性樹脂と溶媒等と必要により各種の添加剤とを含有するワニスを用いて、上記エナメル層と同様にして塗布、焼付けにより形成することもできる。
【0030】
素線導体の径およびエナメル層の厚みは、上述した通りである。本発明では、素線導体径(h1)に対するエナメル層の厚み(h2)の比の値(h2/h1)が0.08~0.5であり(
図4参照)、0.10~0.45が好ましく、0.12~0.40がより好ましく、0.14~0.40がさらに好ましく、0.18~0.40がさらに好ましく、0.20~0.40が特に好ましい。
本発明では、上記比の値の下限値を、撚り線を構成する従来の素線に比べて高い値に制御する。上述した通り、トータルの導体断面積を増加させるために、従来、薄膜の素線絶縁層を有する素線を撚り合わせた撚り線が用いられてきた。しかし、本発明者らが検討を重ねたところ、撚り線を構成する素線において、上記比の値を0.08以上へと高めた場合に、予想以上に抵抗が抑制できることを見出した。この抵抗の抑制を加味すると、素線絶縁層の厚みを上記比の値を満足するように厚膜とした方が、コイルないしトランスの巻き線として用いた場合に、従来と同等の性能を担保でき、かつ、素線数を低減できる分、製造コストを低減できることがわかってきた。そこで、本発明では、上述のように、上記比の値を0.08~0.5に制御するものである。
なお、上記比の値の上限を0.5としているのは、上記比の値が0.5を越えるとエナメル層の厚みが相対的にかなり厚くなり、必要な導体断面積を確保しようとしたとき、撚り線の仕上がり径を大きくせざるを得なくなるからである。つまり、本発明では上記比の値の上限を、現実的な厚膜である0.5としている。
【0031】
[コイル及びトランス]
<コイル>
本発明のコイルは、上述の、本発明の絶縁電線を用いたものである。具体的には、例えば、強磁性若しくはフェリ磁性の素材からなる鉄芯、又は、空気を芯として、その周りに本発明の絶縁電線を巻回したものである。
本発明において、鉄芯等の芯について、サイズは、用途等に応じて適宜に選択される。また、絶縁電線の巻き方、巻数(2巻以上)、ピッチ等についても、目的、用途等に応じて適宜に選択される。
本発明のコイルは、トランスを構成する1次側(入力側)コイルや2次側(出力側)コイルとして用いることができる。より詳細には、トランスを構成する低圧大電流側コイルとして用いることができ、また、高圧小電流側コイルとして用いることもできる。本発明において、低圧大電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、低圧大電流値の電流が流れるコイルを意味し、高圧小電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、高圧小電流値の電流が流れるコイルを意味する。コイルそれ自体は公知であり、例えば、特開2018-190980号公報等の記載を参照することができる。
【0032】
<トランス>
本発明のトランスは、本発明のコイルを有していれば、その構造又はサイズ等は特に限定されない。例えば、入力側のコイル(一次コイル)と出力側のコイル(二次コイル)を含む複数のコイルを備えている。トランスは、一次コイルと二次コイルの巻き数比に応じて、交流の電圧を変換することができる。
本発明のトランスは、2つ以上、好ましくは2つのコイルを備え、そのうちの少なくとも一方が低圧大電流側コイルとして本発明のコイルを備えている。さらに好ましくは、低圧大電流側コイルが本発明のコイルであり、高圧小電流側コイルも本発明のコイルである。
本発明のトランスは、互いに別の芯の周りに絶縁電線を巻回した一次コイル及び二次コイルを有するものでもよく、同一の芯の周りに直接又は絶縁テープ等を介して一次コイルの絶縁電線及び二次コイルの絶縁電線をそれぞれ巻回したものでもよい。トランスそれ自体は公知であり、例えば、特開2018-190980号公報等の記載を参照することができる。
【0033】
本発明のコイル及びトランスは、それぞれ、電源用、特にスイッチング電源用として好ましく用いられる。電源とは、ある特定の電圧・電流を供給する装置をいう。
本発明のコイル及びトランスは、スイッチング電源用として好ましく用いられ、特に、交流の商用電源を変圧して整流し、電気・電子機器に適した電圧の直流に変換する、交流(AC)/直流(DC)コンバータ用として、好ましく用いられる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
[コイルの作製]
<実施例1-1>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.3mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ0.025mmのエナメル層を形成し、素線を得た。この素線における素線導体断面の直径(h1)に対するエナメル層の厚み(h2)の比の値(h2/h1)は0.08である。
次に、上記で得られた1本の素線を中心として、その周囲に同じ6本の素線を最密充填状に配置した状態で、これらの素線を撚り合わせて素線数(撚り数)が7である撚り線を得た。作製した撚り線の仕上がり径(外接円の直径)、各導体の断面積の合計値、導体断面積率は、それぞれ、1.05mm、0.495mm2、57%であった。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例1-1のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0036】
<実施例1-2>
エナメル層の厚みを0.07mmとしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-2のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0037】
<従来例1-3>
エナメル層の厚みを0.01mmとしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、従来例1-3のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0038】
<実施例2-1>
素線導体の断面の直径を0.18mm、エナメル層の厚みを0.025mmとし、素線の撚り数を19として最密充填状に撚り合わせたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例2-1のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0039】
<実施例2-2>
エナメル層の厚みを0.075mmとしたこと以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-2のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0040】
<従来例2-3>
エナメル層の厚みを0.005mmとしたこと以外は、実施例2-1と同様にして、従来例2-3のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0041】
<実施例3-1>
素線導体の断面の直径を0.13mm、エナメル層の厚みを0.02mmとし、素線の撚り数を37として最密充填状に撚り合わせたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例3-1のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0042】
<実施例3-2>
エナメル層の厚みを0.05mmとしたこと以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-2のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0043】
<従来例3-3>
エナメル層の厚みを0.004mmとしたこと以外は、実施例3-1と同様にして、従来例3-3のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0044】
<実施例4-1>
素線導体の断面の直径を0.1mm、エナメル層の厚みを0.019mmとし、素線の撚り数を61として最密充填状に撚り合わせたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例4-1のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0045】
<実施例4-2>
エナメル層の厚みを0.03mmとしたこと以外は、実施例4-1と同様にして、実施例4-2のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0046】
<従来例4-3>
エナメル層の厚みを0.004mmとしたこと以外は、実施例4-1と同様にして、従来例4-3のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0047】
<実施例5-1>
実施例1-1と同様にして作製した撚り線の外周にPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を、厚みが100μmとなるように押出成形し、撚り線の周囲にさらに絶縁層を有する絶縁電線を得た。次に、得られた絶縁電線を、ボビンに巻きつけて、実施例5-1のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0048】
<実施例5-2>
エナメル層の厚みを0.07mmとしたこと以外は、実施例5-1と同様にして、実施例5-2のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0049】
<従来例5-3>
エナメル層の厚みを0.01mmとしたこと以外は、実施例5-1と同様にして、従来例5-3のコイルを作製した。当該コイルにおける素線と撚り線の構成を下記表1に示す。
【0050】
[コイルの性能評価]
上記実施例及び従来例に係るコイルの交流抵抗を、下記R/Rdcを指標にして評価した。
LCRメータ(商品名:E4980A、Agilent社製)を用いて、周波数1MHzの交流電流を通電したときの抵抗値(R)を測定した。当該抵抗値を直流抵抗(Rdc)で除算することによりR/Rdcを算出し、この値を交流抵抗の指標とした。
下記表1には、各コイルにおけるR/Rdcを示すとともに、下記式(2)で算出される、従来例に対する抵抗低減率も示した。
【0051】
(1-[実施例のR/Rdc]/[従来例のR/Rdc])×100 (2)
【0052】
【0053】
表1に示されるように、素線導体径が同じであるもので比較したとき、各実施例のコイルは、h2/h1が本発明で規定するよりも小さい従来例に比べて、抵抗を効果的に低減できることがわかった。したがって、h2/h1を本発明の規定内とすることにより、撚り線を構成する素線の数を低減しながら、従来の性能を維持できること、すなわち、従来の性能を維持しながら、撚り線の製造コストの削減が可能になることがわかる。