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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013539
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】揚げ物用米粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20230119BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230119BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117790
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】邑上 幸佳
(72)【発明者】
【氏名】糸井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】王 旭
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
【Fターム(参考)】
4B025LB04
4B025LB05
4B025LB06
4B025LB07
4B025LG02
4B025LG04
4B025LP07
4B035LC03
4B035LE17
4B035LE18
4B035LG42
4B035LG48
4B035LP07
4B035LP27
4B035LP43
(57)【要約】
【課題】油ちょう後の揚げ物を冷蔵保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持することができる揚げ物用米粉を提供する。
【解決手段】本発明の揚げ物用米粉は、体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下である、揚げ物用米粉。
【請求項2】
M/D50が1.4以下である、請求項1記載の揚げ物用米粉。
【請求項3】
D50が100μmを超え、180μm未満である、請求項1又は2に記載の揚げ物用米粉。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用ブレッダーミックス。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用バッターミックス。
【請求項6】
請求項5記載の揚げ物用バッターミックスを含む、揚げ物用バッター。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用打ち粉ミックス。
【請求項8】
体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕して米粉を得る工程を含む、揚げ物用米粉の製造方法。
【請求項9】
整粒前のM/D50をYとし、整粒後のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1となるように前記米粉を整粒する工程を更に含む、請求項8記載の揚げ物用米粉の製造方法。
【請求項10】
請求項4記載の揚げ物用ブレッダーミックス、請求項6記載の揚げ物用バッター、及び請求項7記載の揚げ物用打ち粉ミックスからなる群から選択される1種以上を揚げ種に付着させる工程を含む、揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用米粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、揚げ種に衣材として打ち粉、バッター、ブレッダー等を付着させて高温の油浴で油ちょうすることにより得られる。揚げ物は、一般的にサクサクした歯切れのよい食感を有するものが好まれる。このような食感は、油ちょう後しばらくの間は比較的良好に維持されるが、時間の経過とともに劣化するという問題がある。この食感の劣化は、揚げ物を冷蔵保存や冷凍保存した後に自然解凍したり電子レンジ等を用いて再加熱したりした時に特に顕著に発現する。これは具材の水分が衣に移行して、衣がふやけて柔らかくなることが主たる原因である。
【0003】
このような問題を解決するために、種々検討がなされている。
特許文献1には、平均粒径が30~70μmであり、かつ損傷澱粉の割合が2~6質量%であるもち米粉を含有するフライ食品用ブレッダーミックスの使用により、サクサクとして食感が維持され、冷解凍による劣化を抑制できることが記載されている。
特許文献2には、平均粒径が25~70μmであり、かつ損傷でん粉含有量が6質量%以下であるうるち米粉を含有する天ぷら用バッターミックスの使用により、油ちょう後の食感がよく、かつ歯切れのよいサクサクとした食感を長時間持続できることが記載されている。
特許文献3には、損傷でん粉含有量が20~50質量%であり、アミログラフ糊化最高粘度が500BU超である揚げ衣用米粉の使用により、油ちょう直後の衣がサクサクとした食感で口溶けが良好であり、かつ時間が経過してもこの食感や口溶けが良好になることが記載されている。
特許文献4には、粒度が20~80メッシュの難溶性粒状物質と、特定の増粘多糖類と、高蛋白質粉粒体とを含有する揚げ物用衣組成物の使用により、油ちょう直後の食感がクリスピーでサクサク感があり、この食感の経時的変化が少なく、冷蔵・冷凍保存後に電子レンジで加熱したり、油ちょうしたりしても衣食感の劣化を少なくすることが記載されている。
特許文献5には、平均粒径が40μm未満であり、かつ損傷澱粉含有量が15質量%以上である微細米粉の使用により、フライ食品用のバッター液等の粘度やフライ食品等の食感を制御することができることが記載されている。
特許文献6には、馬鈴薯澱粉にα化馬鈴薯澱粉を加えて顆粒化した顆粒化馬鈴薯澱粉、デキストリンおよび、クラッカー粉および/又は米粉を含有するまぶしタイプの唐揚げ粉が開示されており、米粉としては50メッシュパス(300μmパス)程度の粉末が好ましく、具材の柔らかさを保ちながら、粉噴き感を伴う衣感及びサクミのある衣の食感が良好な唐揚げが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-141425号公報
【特許文献2】特開2015-84682号公報
【特許文献3】特開2016-202027号公報
【特許文献4】特開2002-51718号公報
【特許文献5】特開2020-156469号公報
【特許文献6】特開2006-345747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油ちょう後の揚げ物の冷蔵保存後の食感の維持についてはまだ十分なものではなく、更なる改良が求められている。
【0006】
本発明の目的は、油ちょう後の揚げ物を冷蔵保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持することができる揚げ物用米粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、揚げ物用米粉が特定のメジアン径を有し、かつメジアン径に対するモード径の比を特定の範囲に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下である、揚げ物用米粉。
[2]M/D50が1.4以下である、[1]の揚げ物用米粉。
[3]D50が100μmを超え、180μm未満である、[1]又は[2]記載の揚げ物用米粉。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用ブレッダーミックス。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用バッターミックス。
[6][5]記載の揚げ物用バッターミックスを含む、揚げ物用バッター。
[7][1]~[3]のいずれかに記載の揚げ物用米粉を含む、揚げ物用打ち粉ミックス。
[8]体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕して米粉を得る工程を含む、揚げ物用米粉の製造方法。
[9]整粒前のM/D50をYとし、整粒後のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1となるように前記米粉を整粒する工程を更に含む、[8]記載の揚げ物用米粉の製造方法。
[10][4]記載の揚げ物用ブレッダーミックス、[6]記載の揚げ物用バッター、及び[7]記載の揚げ物用打ち粉ミックスからなる群から選択される1種以上を揚げ種に付着させる工程を含む、揚げ物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油ちょう後の揚げ物を冷蔵保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持することができる揚げ物用米粉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本発明において揚げ物用米粉とは、揚げ物の製造の際に使用される米粉を意味する。例えば、本発明の揚げ物用米粉は、揚げ種の表面に付着させるためのバッター、ブレッダー及び/又は打ち粉として使用することができる。バッター及びブレッダーは揚げ種の最表面に付着させる、衣を形成するための素材であり、バッターは加水をして液状の衣材として使用され、ブレッダーは粉体の衣材として使用される。打ち粉は、揚げ種とバッター等との間に設けられる材料である。
【0011】
米粉とは、イネ科イネ属の植物の種実(穎果)である米穀粒を脱穀及び精米した後に粉砕して得られるものをいう。イネ属の植物にはジャポニカ種、インディカ種、及びジャバニカ種等の亜種並びにこれらのワキシー種、更には品種が知られているが、本発明の揚げ物用米粉に使用される米穀粒は、いずれの米穀粒を使用することができる。好ましくは、アミロース含量が17~23質量%である、「あきたこまち」や「コシヒカリ」等のうるち米、アミロース含量が23質量%以上である、「越のかおり」や「モミロマン」等の高アミロースうるち米、アミロース含量が5~15質量%である、「ゆめぴりか」や「ミルキークイーン」等の低アミロースうるち米、「きぬのはだ」や「こがねもち」等のもち米等が挙げられ、より好ましくはうるち米である。
【0012】
一般的に、精白した米穀粒を各種粉砕方式により粉砕して得られた米粉の粒子径頻度分布曲線は1つの極大値を有する正規分布様の曲線となるが、粉砕方式や粉砕条件によっては2つ以上の極大値やショルダーが生じることもある。粒子径累積分布曲線はシグモイド型の成長曲線となる。メジアン径(D50)とは、粒子径累積分布曲線において、累積%が50%となる粒子径を意味する。モード径(M)とは、出現頻度が最大の粒子径を意味する。すなわち、粒子の集団が正規分布している場合にはモード径とメジアン径は一致し、粒子の集団が極大値を1つのみ有する場合、その極大値はモード径である。なお本発明において、上記累積%は体積基準である。体積基準での粒子径の測定は、公知のレーザー回折・散乱法により測定することができ、例えばマイクロトラック法等が挙げられる。なお本発明において、「DXX」(Xは正の整数)とは、粒子径累積分布曲線における累積XX%の粒子径を意味する。
【0013】
本発明の揚げ物用米粉は、体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下である。D50及びM/D50が上記範囲であることにより、油ちょう後の揚げ物を冷蔵保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持することができる。
上記D50は、好ましくは80μm以上、より好ましくは90μm以上、更に好ましくは100μm以上、更により好ましくは100μmを超え、特に好ましくは110μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下、更により好ましくは180μm以下、特に好ましくは180μm未満である。
上記M/D50は、好ましくは1.45以下、より好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.3以下、更により好ましくは1.2以下である。これにより更に、油ちょう後の揚げ物を冷凍保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持しやすくなる。上記M/D50の下限値は特に限定されないが、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.05以上、更に好ましくは1.1以上、更により好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.3以上である。
【0014】
本発明の揚げ物用米粉の製造方法は、体積基準のメジアン径(D50)が65~600μmであり、かつ体積基準のモード径(M)をD50で除した値(M/D50)が1.5以下となるように米穀粒を粉砕する工程を含む。
米穀粒から米粉を得るための粉砕方式は特に限定されず、臼式、ロール式、超遠心式、ピン式(衝撃式)、ハンマー式、サイクロン式、挽き臼式、胴搗式、気流式、ターボミル式等の公知の製粉方法を使用することができる。中でも、ロール式粉砕機の場合はロール間の間隙を調節することによって、気流式粉砕機の場合は気流の流速や流量を調節することによって、米粉のD50及びM/D50を上記範囲内に調節しやすくなるため、これらの粉砕方式を採用することが好ましい。
【0015】
上記D50及びM/D50を調節する手段として、粉砕方式及びその条件の他に、篩い分けや空気分級等の公知の整粒方法を採用することもできる。なお本発明において「整粒」とは、米粉の微粒画分及び/又は粗粒画分を分離除去し、米粉の粒度分布を整えることを意味する。例えば、篩い分けを行う場合には篩により微粒米粉を除去することができる。空気分級を行う場合にはローターを用いて強制的に生じる渦流による遠心力と空気抵抗とのバランスにより米粉を粒子サイズで分けることができ、更にメッシュフィルターを使用することでより効果的に微粒米粉を除去することができる。微粒米粉を除去すると、MとD50の差が小さくなり、M/D50を小さくすることができる(1へ近づく)。また目の粗い篩と目の細かい篩とを併用することにより、粗粒米粉及び微粒米粉が除去されるので、M/D50をより小さくすることができる。別の見方をすると、整粒によりDXXとD50との差が小さくなる。
【0016】
本発明の揚げ物用米粉の製造方法は、更に、整粒前の米粉のM/D50をYとし、整粒後の米粉のM/D50をZとしたときに、|Y-Z|≧0.1、好ましくは|Y-Z|≧0.2、より好ましくは|Y-Z|≧0.25、更に好ましくは|Y-Z|≧0.3、更により好ましくは|Y-Z|≧0.35となるように米粉を整粒する工程を含むことが好ましい。これにより、油ちょう後の揚げ物を冷蔵保存してもサクサク感がありかつヒキの無い食感を維持しやすくなり、更に冷凍保存後においても該食感を維持しやすくなる。なお、本発明において|Y-Z|はY-Zの絶対値を表す。
米穀粒の粉砕の前に、米穀粒を水中に浸漬する、酵素処理をする等の前処理を行ってもよい。
【0017】
本発明の揚げ物用ブレッダーミックスは、上記揚げ物用米粉を含むことが好ましい。
本発明の揚げ物用バッターミックスは、上記揚げ物用米粉を含むことが好ましい。また、本発明の揚げ物用バッターは、上記揚げ物用バッターミックスを含むことが好ましい。
本発明の揚げ物用打ち粉ミックスは、上記揚げ物用米粉を含むことが好ましい。
【0018】
上記揚げ物用ブレッダーミックス、揚げ物用バッターミックス及び揚げ物用打ち粉ミックスは、上記揚げ物用米粉に加えて、普通小麦、デュラム小麦、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の米以外の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、里芋、キャッサバ、甘藷、山芋等の塊茎粉又は塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹及びこれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉並びにこれらのワキシー澱粉及びハイアミロース澱粉);上記澱粉をα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理及びこれらの組み合わせを行った変性澱粉;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトース等の糖類;卵黄、卵白、全卵及びこれらの粉末並びにその他の卵に由来する成分等の卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、パーム油、大豆油、コーン油、菜種油、オリーブ油、亜麻仁油等の油脂類;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン等の乳化剤;ベーキングパウダー、重曹等の膨張剤;キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギーナン、グアガム、タマリンドガム、アラビアガム等の増粘多糖類;メチルセルロース等のセルロース誘導体;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の副材料を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の揚げ物用バッターは、上記揚げ物用バッターミックスに対し加水することで得ることができる。加水するための液体原料は特に限定されず、通常水が使用されるが、使用用途に応じて牛乳等の畜乳;豆乳、かつお出汁等の煮汁;レモン汁等の果汁;食塩、アミノ酸、核酸、有機酸、無機酸等が溶解した電解水;鶏卵液等の卵液等を使用してもよい。
【0020】
上記揚げ物用ブレッダーミックス中の揚げ物用米粉の含有量は特に限定されず、揚げ物用ブレッダーミックスに含まれる澱粉質原料と揚げ物用米粉との合計に対して10質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
上記揚げ物用バッターミックス中の揚げ物用米粉の含有量は特に限定されず、揚げ物用バッターミックスに含まれる澱粉質原料と揚げ物用米粉との合計に対して10質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが更により好ましい。
上記揚げ物用打ち粉ミックス中の揚げ物用米粉の含有量は特に限定されず、揚げ物用打ち粉ミックスに含まれる澱粉質原料と揚げ物用米粉との合計に対して10質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが更により好ましい。
【0021】
本発明の揚げ物の製造方法は、上記揚げ物用ブレッダーミックス、上記揚げ物用バッター、及び上記揚げ物用打ち粉ミックスからなる群から選択される1種以上を揚げ種に付着させる工程を含む。
具体的には、揚げ種の表面の全部又は一部に、任意に揚げ物用打ち粉ミックス又は標準的な打ち粉ミックスを付着させ、揚げ物用ブレッダーミックス及び/又は揚げ物用バッターを付着させた後、好ましくは160~220℃に予熱した油浴に投入し、揚げ種の種別に応じて適当な時間油ちょうすることで揚げ物を得ることができる。ブレッダーミックスとバッターとを組み合わせて使用する場合には、少なくともいずれか一方が本発明の揚げ物用ブレッダーミックス又は本発明の揚げ物用バッターであればよい。また、ブレッダーミックス及びバッターのいずれが揚げ種の最表面となるように配置されていてもよい。なお本発明において「標準的」とは、本発明の揚げ物用米粉を含まないことを意味する。
揚げ物用ブレッダーミックス、揚げ物用バッター、及び揚げ物用打ち粉ミックスからなる群から選択される1種以上を揚げ種に付着させる手法は特に限定されない。揚げ物用ブレッダーミックス及び揚げ物用打ち粉ミックスを使用する場合は、揚げ種の表面の全部又は一部に揚げ物用ブレッダーミックス又は揚げ物用打ち粉ミックスをまぶす方法等が挙げられる。揚げ物用バッターを使用する場合は、揚げ種をバッターに浸漬させる方法、揚げ種の表面の全部または一部にバッターを塗布又は吹き付ける方法等が挙げられる。揚げ物用バッターを揚げ種に付着させた後、パン粉、揚げ玉、あられ、春雨、乾素麺等の公知の被覆材を更に付着させてもよい。
【0022】
上記揚げ種の種類は特に限定されず、例えば牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉類;魚、イカ、エビ、ホタテ貝柱等の魚介類;ピーマン、シシトウ、カボチャ等の果菜類;シソ葉、大葉等の葉野菜類;里芋、甘藷、山芋、馬鈴薯等の塊茎類又は塊根類;ショウガ、ニンニク、ミョウガ等の香味野菜類等が挙げられる。
揚げ種は任意に粉末調味料あるいは粉末調味料及び/又は液体調味料を含有する調味液で下味をつけたものであってもよい。
揚げ種に揚げ物用ブレッダーミックス、揚げ物用バッター、及び揚げ物用打ち粉ミックスからなる群から選択される1種以上を付着させた未油ちょう衣材付き揚げ種は、油ちょう前に冷蔵保存又は冷凍保存してもよい。
【0023】
このようにして得られた揚げ物は、冷蔵又は冷凍し保管、流通することができる。
また保存料を加えて、常温で保管、流通することができる。
冷蔵又は冷凍した揚げ物は、自然解凍又は電子レンジ又はオーブン等で再加熱して喫食することができる。
【実施例0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
〔製造例1:米粉の製造〕
うるち米の精白米を気流式粉砕装置(株式会社躍進機械製作所、KV-15-5S)又はロール式粉砕装置(明治機械株式会社、MQ型)に供し、運転条件を調節して粉砕して米粉A~Fを得た。得られた米粉の粒度分布について、マイクロトラック法(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3000)により体積基準で測定した。結果を表1に示す。なお、米粉A~Cでは、粒子径頻度分布曲線は1つの極大値(モード径)を有する正規分布様の曲線であった。米粉D及びEでは、微粒側(200μm付近)にショルダーが観測された。米粉Fは、微粒側(200μm付近)に極大ともショルダーともとれる分布曲線を有していた。
なお表中、Mはモード径を、DXXは粒子径累積分布曲線における累積XX%の粒子径を表す。
【0026】
【表1】
【0027】
〔製造例2:整粒米粉の製造〕
うるち米の精白米を気流式粉砕装置(株式会社西村機械製作所、SPM-R200)に供して粉砕し、米粉Gを得た。得られた米粉Gの一部を53メッシュの篩を取り付けた株式会社東京製粉機製作所の小型テストシフターTS-245を用い、30、60又は90秒間篩い分けすることで、それぞれ米粉H、J及びKを得た。製造例1と同様にして粒度分布を測定した。結果を表2に示す。いずれの米粉でも、粒子径頻度分布曲線は1つの極大値(モード径)を有した正規分布様の曲線であった。
【0028】
【表2】
【0029】
〔製造例3:鶏唐揚げの製造〕
300gの鶏モモ肉塊を約30gの鶏モモ肉片10個に切り分け、醤油4質量部、みりん2質量部、生姜汁0.2質量部、水4質量部を合わせて調製したマリネート液に鶏モモ肉片を漬け込み30分間タンブリングして下味をつけた。
製造例1~2の米粉100質量部と水160質量部とを混合して揚げ物用バッターを調製し、下味をつけた鶏モモ肉片を揚げ物用バッターに投入して被覆させた。
樹脂製袋に粉体状の揚げ物用ブレッダーとしての米粉36質量部とバッターで被覆された鶏モモ肉片とを投入し、満遍なく米粉が付着するように混合した。なお、揚げ物用バッターと揚げ物用ブレッダーに使用した米粉は同一品である。
米粉が付着した揚げ種を170℃に予熱した油浴に投入して4分間油ちょうし、金属製の油切りバットに重ならないように並べ、油切りして鶏唐揚げを得た。
【0030】
〔評価例:鶏唐揚げの官能評価〕
得られた鶏唐揚げの半量について、10名の熟練パネラーにより下記評価基準表に従って製造直後の鶏唐揚げの評価を行い、平均値と標準偏差(SD)を求めた。残りの半量を樹脂製袋に入れて密封して冷蔵庫で一晩保管し、室温で1時間静置した後、同様に評価を行った。
【0031】
評価基準表
【0032】
〔試験例1:米粉の粒子径の検討〕
製造例3において下記表3に記載の米粉を使用して鶏唐揚げを得て、上記評価例に従って評価した。なお、バッターの調製に際してバッター粘度が同じになるように加水量を調整した。
また、従来の米粉として米粉A(株式会社ニップン、高砂A-82)を使用して製造した鶏唐揚げの製造直後の衣の食感の評価を3点とした。
結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
比較例1で使用した米粉Bは、M/D50の値が1.5を超えており、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感のいずれも、従来の米粉Aを使用した場合(参考例1)よりも劣っていた。米粉C~Eを使用した場合(実施例1~3)は、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感が共に参考例1よりも良好であった。米粉Fを使用した場合(実施例4)は、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感が共に参考例Aよりも幾分か良好であった。
米粉Bと米粉Cとは、モード径(M)は同一であるがメジアン径(D50)が異なり、かつM/D50も異なっている。この結果から、上記で示された衣の食感の差異は、これらの値の差異により生じていることが示唆され、米粉の粒度分布が鶏唐揚げの衣の食感に大きく影響することが示された。
【0035】
〔試験例2:整粒米粉の検討〕
製造例3において下記表4に記載の米粉を使用して鶏唐揚げを得て、上記評価例に従って評価した。なお、試験例1と同様に加水量を調整し、従来の米粉として米粉Aを使用して製造した鶏唐揚げの製造直後の衣の食感を3点とした。
結果を表4に示す。表中、Yは整粒前の米粉(米粉G)のM/D50を表し、Zは整粒後(米粉H、J及びK)のM/D50を表す。
【0036】
【表4】
【0037】
篩い分けしていない米粉Gに比べ、米粉H、J及びKのメジアン径(D50)は篩い分け時間が増えるに従って大きくなった。米粉G及びHのモード径(M)は114.1μmと同じであったが、篩い分け時間を60秒以上行うことにより124.5μmとなった(米粉J及びK)。篩い分け時間が長くなるに従い、M/D50の値は1.428から1.075と小さくなり、1へ近づいた(実施例5から8)。この結果から、篩い分けにより米粉Gに含まれる微粉が除去されたことが示唆された。
M/D50の値が小さくなるにつれ、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感が良好となった。
【0038】
〔試験例3:配合割合の検討〕
製造例3において下記表5に記載の米粉と小麦粉とを使用して鶏唐揚げを得て、上記評価例に従って評価した。なお、試験例1と同様に加水量を調整し、穀粉として小麦粉のみを使用して製造した鶏唐揚げの製造直後の衣の食感を3点とした。
結果を表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
米粉を使用した実施例9~13はいずれも、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感が、小麦粉のみを使用して製造した場合よりも良好であった。また混合物中の米粉の割合が高くなるほど、製造直後及び冷蔵保存後の衣の食感が良好になった(実施例10~12)。
【0041】
〔試験例4:冷凍唐揚げの検討〕
試験例2において、油ちょうして得られた唐揚げの粗熱を取った後、樹脂製容器に密封包装して急速冷凍し、家庭用冷凍冷蔵庫の冷凍室で1週間保存した。その後、解凍することなく電子レンジを用いて600Wで4分間加熱し、評価例に従って官能評価した。
その結果、米粉Gを使用した場合は衣のサクサク感があまりなく、ヒキもややあったが、米粉H、J及びKを使用した場合は衣のサクサク感があり、ヒキもなく良好な食感であった。その評価は、表4に記載の冷蔵保存後の食感評価の点数と同等であった。すなわち、整粒前の米粉のM/D50をXとし、整粒後の米粉のM/D50をYとしたときの|Y-Z|の値が大きくなるほど、より良好な結果となった。
【0042】
〔試験例5:エビ天ぷらの検討〕
揚げ種としてバナメイエビを用い、揚げ物用バッターの製造において米粉D又はKを使用し、揚げ物用ブレッダーとしての米粉を付着させなかった以外は製造例3に従ってエビ天ぷらを製造し、評価例に従って官能評価した。
その結果、いずれの米粉を使用した場合でもサクサク感があり、ヒキのない良好な食感のエビ天ぷらが得られ、冷蔵保存しても食感の劣化が起こりにくかった。その評価は、実施例2又は8と同等であった。
【0043】
〔試験例6:竜田揚げの検討〕
ブレッダーとして米粉D又はKを使用し、揚げ物用バッターを使用しなかった以外は製造例3に従って竜田揚げを製造し、評価例に従って官能評価した。
その結果、いずれの米粉を使用した場合でもサクサク感があり、ヒキのない良好な食感の竜田揚げが得られ、冷蔵保存しても食感の劣化が起こりにくかった。その評価は、実施例2又は8と同等であった。