(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135448
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】食感改良剤、並びにこれを用いた畜肉または魚介類加工食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230921BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20230921BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040670
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】笠原 僚
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴士
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK09
4B042AK13
4B042AP02
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】畜肉または魚介類加工食品の食感を改良できる食感改良剤等を提供する。
【解決手段】畜肉または魚介類加工食品に用いられる食感改良剤であって、未糊化澱粉の少なくとも1種を含み、前記未糊化澱粉のアミロース含有量が、前記未糊化澱粉の総質量に対して、1質量%超であり、前記未糊化澱粉の平均粒径が、14.5μm以上60μm以下である、食感改良剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉または魚介類加工食品に用いられる食感改良剤であって、
未糊化澱粉の少なくとも1種を含み、
前記未糊化澱粉のアミロース含有量が、前記未糊化澱粉の総質量に対して、1質量%超であり、
前記未糊化澱粉の平均粒径が、14.5μm以上60μm以下である、食感改良剤。
【請求項2】
前記未糊化澱粉が、レギュラーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の食感改良剤。
【請求項3】
畜肉または魚介類加工食品の製造方法であって、
請求項1または2に記載の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、
前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、
を含む、畜肉または魚介類加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)前に畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程をさらに含む、請求項3に記載の畜肉または魚介類加工食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、
前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、
を含む、畜肉または魚介類加工食品の食感改良方法。
【請求項6】
前記工程(1)前に、畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程をさらに含む、請求項5に記載の畜肉または魚介類加工食品の食感改良方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の食感改良剤を含む、畜肉または魚介類加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感改良剤、並びにこれを用いた畜肉または魚介類加工食品およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱調理された畜肉または魚介類加工食品において、風味、食感、味付け等を向上させるために、加熱調理前の畜肉または魚介類を調味料等で処理することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、肉柔化剤または調味料に係る発明が記載されている。この際、前記肉柔化剤または調味料は、クエン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種と、を有効成分として含有する。特許文献1には、前記肉柔化剤または調味料によれば、加熱調理した肉のジューシーさを損なうことなく、柔らかさを向上させることができる旨が記載されている。
【0004】
なお、特許文献1には、前記肉柔化剤または調味料と肉とを接触させる接触工程と、接触工程を経た肉を加熱調理する工程(調理工程)と、を備える、加熱調理した肉の柔らかさを向上させる方法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような中、加熱調理された畜肉または魚介類加工食品の食感を改良するための新たな方法が求められている。そこで、本発明は、畜肉または魚介類加工食品の食感を改良できる食感改良剤等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば以下の態様を有する。
【0008】
[1]畜肉または魚介類加工食品に用いられる食感改良剤であって、
未糊化澱粉の少なくとも1種を含み、
前記未糊化澱粉のアミロース含有量が、前記未糊化澱粉の総質量に対して、1質量%超であり、
前記未糊化澱粉の平均粒径が、14.5μm以上60μm以下である、食感改良剤。
[2]前記未糊化澱粉が、レギュラーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上である、上記[1]に記載の食感改良剤。
[3]畜肉または魚介類加工食品の製造方法であって、
上記[1]または[2]に記載の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、
前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、
を含む、畜肉または魚介類加工食品の製造方法。
[4]前記工程(1)前に畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程をさらに含む、上記[3]に記載の畜肉または魚介類加工食品の製造方法。
[5]上記[1]または[2]に記載の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、
前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、
を含む、畜肉または魚介類加工食品の食感改良方法。
[6]前記工程(1)前に、畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程をさらに含む、上記[5]に記載の畜肉または魚介類加工食品の食感改良方法。
[7]上記[1]または[2]に記載の食感改良剤を含む、畜肉または魚介類加工食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、畜肉または魚介類加工食品の食感を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0011】
<食感改良剤>
本発明に係る食感改良剤は、畜肉または魚介類加工食品に用いられる。前記食感改良剤は、未糊化澱粉の少なくとも1種を含む。この際、前記未糊化澱粉のアミロース含有量は、前記未糊化澱粉の総質量に対して、1質量%超である。また、前記未糊化澱粉の平均粒径が、14.5μm以上60μm以下である。
【0012】
畜肉または魚介類の食感改良に澱粉を使用すると、食感が不十分となる場合、例えば、ヌルつきが生じる場合があった。しかしながら、前記食感改良剤によれば、畜肉または魚介類加工食品の食感を改良することができる。なお、本明細書において、「食感」とは、畜肉または魚介類加工食品を手や箸などのカトラリーで把持したとき、または食したときに感じる食品表面のヌルつき感、畜肉または魚介類加工食品を食したときに感じるしっとり感を意味する。なお、ヌルつき感がないと食品を容器に詰める際に把持不良を生じさせることがなく、さらに食感がよい。また、しっとり感があると食感がよく美味しく感じられる。
【0013】
[未糊化澱粉]
未糊化澱粉は、アミロース含有量および平均粒径が所定の範囲にある場合、食感を改良する機能があることが本研究により明らかとなった。なお、未糊化澱粉とは、糊化されていない澱粉を意味する。未糊化澱粉であるか、糊化澱粉であるかは、例えば、グルコアミラーゼ第二法による糊化度、示差走査熱量計(DSC)による吸熱ピークの測定、偏光顕微鏡による偏光十字の観察によって判断することができる。
【0014】
未糊化澱粉は、アミロースおよびアミロペクチンから構成される。なお、未糊化澱粉のアミロースおよびアミロペクチンの比率は、起源原料種によって異なる。
【0015】
未糊化澱粉のアミロース含有量は、未糊化澱粉の総質量に対して、1質量%超であり、好ましくは5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上である。また、未糊化澱粉のアミロース含有量は、未糊化澱粉の総質量に対して、好ましくは80質量%以下、75質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下である。例えば、未糊化澱粉のアミロース含有量は、未糊化澱粉の総質量に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、より高いしっとり感が得られる観点から、30質量%以上60質量以下であることがさらに好ましく、さらにヌルつきを防止でき、高いしっとり感が得られる観点から、40質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。未糊化澱粉のアミロース含有量が1質量%超であると、畜肉または魚介類加工食品の表面のヌルつきを防止できる、畜肉または魚介類加工食品にしっとり感を付与できる等の効果が得られうる。なお、本明細書において、未糊化澱粉のアミロース含有量は、実施例に記載の方法で測定される。
【0016】
未糊化澱粉のアミロペクチンの含有量は通常、「100(質量%)-未糊化澱粉のアミロース含有量(質量%)」により算出することができる。
【0017】
未糊化澱粉としては、特に制限されないが、レギュラーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉が挙げられる。本明細書において、前記加工澱粉とは、前記未糊化澱粉に、アセチル化処理;リン酸モノエステル化等のエステル化処理;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋処理;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化処理;酸化処理;酸処理;アルカリ処理;酵素処理などの化学加工、油脂加工処理;加熱処理;湿熱処理;ボールミル処理;微粉砕処理などの物理加工等の加工処理を1種または2種以上施してなる澱粉が挙げられる。
【0018】
これらのうち、未糊化澱粉は、レギュラーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エンドウ澱粉、およびその加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、エンドウ澱粉であることがさらに好ましい。一実施形態において、未糊化澱粉は、ヌルつきをより防止できる観点から、レギュラーコーンスターチ、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、レギュラーコーンスターチおよびエンドウ澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。また、別の一実施形態において、未糊化澱粉は、しっとり感をより向上できる観点から、馬鈴薯澱粉、エンドウ澱粉、およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エンドウ澱粉、およびその加工澱粉からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0019】
なお、上述の未糊化澱粉は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
未糊化澱粉の平均粒径は、14.5μm以上60μm以下であり、好ましくは15μm以上60μm以下であり、より高いしっとり感が得られる観点から、さらに好ましくは20μm以上50μm以下であり、さらにヌルつきを防止でき、高いしっとり感が得られる観点から、特に好ましくは30μm以上50μm以下である。なお、本明細書において、平均粒径の値は、実施例に記載の方法で測定される。
【0021】
なお、平均粒径は、起源原料種により所定の値を有する傾向がある。ただし、平均粒径は、ボールミル処理、微粉砕処理等の処理を施すことで調整することができる。
【0022】
前記未糊化澱粉の含有量は、食感改良剤の全質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。また、未糊化澱粉の含有量は、食感改良剤の全質量に対して、100質量%であってもよい。未糊化澱粉の含有量が70質量%以上であると、未糊化澱粉が高濃度で畜肉または魚介類に付着することにより、未糊化澱粉の膜を形成して当該膜の一部または全部が剥落しにくくなり、より好適に本発明の効果が得られうる観点から好ましい。なお、未糊化澱粉を2種以上含む場合には、その合計値が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
[糊化澱粉]
食感改良剤は、未糊化澱粉の他に発明の効果を損ねない範囲において糊化(α化)澱粉を含んでいてもよい。未糊化澱粉と同様に、糊化澱粉においても、アミロースおよびアミロペクチンから構成される。また、糊化澱粉のアミロースおよびアミロペクチンの比率は、起源原料種によって異なる。
【0024】
糊化澱粉としては、特に制限されないが、糊化レギュラーコーンスターチ、糊化馬鈴薯澱粉、糊化エンドウ澱粉等が挙げられる。これらの糊化澱粉は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
[調味料]
食感改良剤は、調味料をさらに含んでいてもよい。調味料としては、特に制限されないが、砂糖、食塩、酢、醤油、味噌、胡椒、みりん、ソース、ケチャップ、オイスターソース、マヨネーズ、マスタード、グルタミン酸およびその塩、イノシン酸およびその塩等が挙げられる。これらの調味料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
[添加剤]
食感改良剤は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、特に制限されないが、乳化剤、pH調整剤、酸化防止剤、保存剤、着色料、香料、食物繊維、増粘剤、膨張剤等が挙げられる。これらの添加剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
[食感改良剤の性状]
食感改良剤の形状は、特に制限されないが、粉末であることが好ましい。
【0028】
また食感改良剤中の水分量は、食感改良剤の全質量に対して、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、また、例えば、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下であってもよい。
【0029】
[食感改良剤の用途]
食感改良剤は、後述するように、畜肉または魚介類加工食品に用いられることで、畜肉または魚介類加工食品の食感を改良することができる。
【0030】
なお、食感改良剤は公知の方法で製造することができる。食感改良剤は、例えば、未糊化澱粉をそのまま食感改良剤として使用してもよいし、未糊化澱粉を、糊化澱粉、調味料、添加剤等とともに混合して製造してもよい。この際、混合順序、混合条件(温度、圧力、撹拌条件)等も特に制限されず、適宜設定されうる。
【0031】
<畜肉または魚介類加工食品の製造方法>
本発明の一形態によれば、畜肉または魚介類加工食品の製造方法が提供される。前記製造方法は、上述の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、を含む。なお、前記製造方法は、工程(1)前に畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程(塩漬工程)、工程(2)で得られる畜肉または魚介類加工食品を冷凍する工程(3)、工程(3)で得られる冷凍食品を再加熱調理する工程(4)等をさらに含んでいてもよい。
【0032】
[漬け込み工程(塩漬工程)]
漬け込み工程(塩漬工程)は、工程(1)前に、畜肉または魚介類を調味液(ピックル液)に漬け込む工程である。調味液(ピックル液)に漬け込むことで、畜肉または魚介類加工食品の味、風味、ジューシー感等を調整することができる。この際、前記「漬け込み」には、「浸漬」、「塗布」、「タンブリング」、ピックルインジェクター等により畜肉または魚介類に針を穿刺し、当該針の先からピックル液の注入を行う、いわゆる「インジェクション」が含まれる。漬け込み工程(塩漬工程)により、調味液(ピックル液)の少なくとも一部は、畜肉または魚介類の内部に浸透もしくは混ぜ込まれる。
【0033】
(畜肉または魚介類)
畜肉または魚介類としては、特に制限されない。
【0034】
前記畜肉としては、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉等が挙げられる。
【0035】
前記魚介類としては、マグロ、タラ、カツオ、サーモン、エビ、カニ、イカ、タコ、ホタテ等が挙げられる。
【0036】
これらの畜肉または魚介類は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。畜肉または魚介類は、畜肉を含むことが好ましく、鶏肉、豚肉、および牛肉からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、鶏肉を含むことがさらに好ましい。
【0037】
なお、畜肉または魚介類の形状は、特に制限はなく、切り身、ミンチ、ペースト等のいずれであってもよいが、切り身であることが好ましい。
【0038】
(調味液(ピックル液))
調味液(ピックル液)は、特に制限されず、所望とする味、風味、ジューシー感等によって組成が異なる。一実施形態において、ピックル液は、食用油脂、調味料、および溶媒などを含む。
【0039】
前記食用油脂としては、特に制限されないが、菜種油、コーン油、大豆油、パームオレイン、ゴマ油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ゴマ油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、あまに油、えごま油、しそ油等の植物性油脂;牛脂、豚脂、鶏油、乳脂等の食肉油脂;魚油等が挙げられる。これらの食用油脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
調味料としては、特に制限されないが、砂糖、食塩、酢、醤油、味噌、胡椒、みりん、ソース、ケチャップ、オイスターソース、マヨネーズ、マスタード、グルタミン酸およびその塩、イノシン酸およびその塩等が挙げられる。これらの調味料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記溶媒としては、特に制限されないが、水、エタノールが挙げられる。このうち、溶媒は水であることが好ましい。
【0042】
ピックル液の使用量は、畜肉または魚介類の全質量に対して、好ましくは10質量%以上300質量%以下であり、より好ましくは12質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上50質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。
【0043】
(漬け込み)
漬け込みの方法は、特に制限されず、ピックル液中に畜肉または魚介類を浸漬してもよいし、ピックル液を畜肉または魚介類に塗布してもよいし、ピックル液を畜肉または魚介類に練り込んでもよいし、ピックルインジェクター等によりピックル液を針から畜肉または魚介類に注入してもよい。
【0044】
漬け込みの際には、静置してもよいし、タンブラー等の装置を用いて物理的衝撃を付与してもよい。漬け込みの条件についても特に制限されず、加圧してもよいし、減圧してもよいし、加圧および減圧を組み合わせてもよい。また、温度を適宜変更してもよい。
【0045】
[工程(1)]
工程(1)は、食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程である。ここで、「混合」とは、食感改良剤を、畜肉または魚介類の表面に刷り込ませて、畜肉または魚介類表面の少なくとも一部に食感改良剤を付着させることを意味する。ここで、前記「付着」とは、畜肉または魚介類表面の食感改良剤が、振動等によって容易に剥落しない程度に畜肉または魚介類表面の水分を取り込んで結着している状態を意味する。例えば、食感改良剤が畜肉または魚介類表面の少なくとも一領域においてコーティングされた状態は、「付着」に該当する。他方、例えば、食感改良剤が粉末である場合、工程(1)後の畜肉または魚介類表面に振動等によって容易に剥落しうるドライな粉末が残った状態は、ここでいう「付着」には該当しない。このため、例えば、打ち粉のように、粉末を畜肉または魚介類に単にまぶした状態とすることは、工程(1)の「混合」には含まれない。
【0046】
(食感改良剤)
食感改良剤は、上述したものが用いられる。
【0047】
食感改良剤の使用量は、畜肉または魚介類の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。食感改良剤の使用量が0.1質量%以上であると、表面にヌルつきがなくしっとり感に優れた食品を得られる観点から好ましい。一方、食感改良剤の使用量が30質量%以下であると、畜肉または魚介類へ食感改良剤を付着させる際の作業性がよい観点から好ましい。なお、畜肉または魚介類が、調味液に漬け込みされた畜肉または魚介類である場合には、「畜肉または魚介類の全質量」には、調味液の質量は含まれない。
【0048】
(畜肉または魚介類)
畜肉または魚介類は、上述した畜肉または魚介類、または調味液に漬け込みされた畜肉または魚介類が用いられる。
【0049】
(混合)
食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する方法としては、特に制限されないが、畜肉または魚介類に食感改良剤を接触させて、物理的衝撃を付与する方法が挙げられる。なお、本明細書において、「物理的衝撃」とは、混合のために人為的に付与される物理的な作用を意味する。このため、打ち粉のように、畜肉または魚介類に接触させるために粉末をまぶす行為、まぶした粉末のうちの過剰分を払い落とす行為等によって生じる物理的な作用は前記「物理的衝撃」には該当しない。
【0050】
物理的衝撃を付与する方法としては、畜肉または魚介類表面の少なくとも一部に食感改良剤を付着させることができれば特に制限されない。物理的衝撃を付与する方法は、例えば、手混ぜであってもよいし、ミキサーを使用する方法であってもよい。この際、使用するミキサーは特に制限されず、公知のものを使用することができる。なお、漬け込み工程に続いて工程(1)の混合を行う場合、漬け込み工程において物理的衝撃の付与に使用する装置(例えば、タンブラー)をそのままミキサーとして使用してもよい。混合条件は、特に制限されず、加圧してもよいし、減圧してもよいし、加圧および減圧を組み合わせてもよい。また、温度を適宜変更してもよい。
【0051】
[工程(2)]
工程(2)は、食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程である。
【0052】
(食感改良剤が混合された畜肉または魚介類)
食感改良剤が混合された畜肉または魚介類は、その表面の少なくとも一部に食感改良剤が付着した状態となっている。また、工程(1)前に漬け込み工程を行った場合、調味液(ピックル液)の少なくとも一部が畜肉または魚介類の内部に浸透もしくは混ぜ込まれた状態となっている。
【0053】
(加熱調理)
加熱調理方法としては、適宜選択すればよく、特に制限されないが、フライ、炒め、蒸し、茹で、煮込みが好ましく、炒め、蒸し、茹で、煮込みがより好ましく、炒めがさらに好ましい。これらの加熱調理方法は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
加熱調理機器としては、適宜選択すればよく、特に制限されないが、フライパン、鍋、蒸し器、電子レンジ、オーブントースター、スチームコンベクションオーブン等が挙げられる。これらの加熱調理機器は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
加熱調理の温度は、適宜選択すればよく、特に制限されないが、65℃以上300℃以下であることが好ましく、80℃以上280℃以下であることがより好ましい。
【0056】
[工程(3)]
工程(3)は、工程(2)で得られる畜肉または魚介類加工食品を冷凍する工程である。工程(3)により、畜肉または魚介類加工食品を冷凍食品とすることができる。
【0057】
(冷凍)
冷凍は、特に制限されず、公知の方法で行うことができる。冷凍の方法としては、例えばエアブラスト法、ブライン法、コンタクト法、液化ガス凍結法、これらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
[工程(4)]
工程(4)は、工程(3)で得られる冷凍食品を再加熱調理する工程である。
【0059】
再加熱調理の方法としては、特に制限されないが、工程(2)に記載の加熱調理に記載の方法および機器が使用される。これらの再加熱調理方法は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
<食感改良方法>
本発明の一形態によれば、食感改良方法が提供される。前記食感改良方法は、上述の食感改良剤を畜肉または魚介類と混合する工程(1)と、前記食感改良剤が混合された畜肉または魚介類を加熱調理する工程(2)と、を含む。この際、食感改良方法は、工程(1)前に畜肉または魚介類を調味液に漬け込む、漬け込み工程(塩漬工程)、工程(2)で得られる畜肉または魚介類加工食品を冷凍する工程(3)、工程(3)で得られる冷凍食品を再加熱調理する工程(4)をさらに含んでいてもよい。これらの工程は、上述の方法により行うことができる。
【0061】
上記食感改良方法により、畜肉または魚介類加工食品の食感を改良することができる。
【0062】
<畜肉または魚介類加工食品>
本発明の一形態によれば、畜肉または魚介類加工食品が提供される。前記畜肉または魚介類加工食品は、上述の食感改良剤を含む。前記畜肉または魚介類加工食品は、食感が改良されている。具体的には、表面のヌルつきが低減され、しっとり感に優れる。また、好ましい一実施形態によれば、前記畜肉または魚介類加工食品は、味の向上、風味の向上、およびジューシー感の向上の少なくとも1つの効果をさらに有しうる。
【0063】
なお、食感改良剤の少なくとも一部は、畜肉または魚介類加工食品の表面に付着している。また、食感改良剤の少なくとも一部は、畜肉または魚介類加工食品の内部に存在していてもよい。なお、前記食感改良剤に含まれる未糊化澱粉の少なくとも一部は、加熱調理に伴って糊化していてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
[測定方法]
(未糊化澱粉のアミロース含有量)
未糊化澱粉のアミロース含有量は、以下の方法で測定した。
【0066】
すなわち、ヨウ化カリウム1gとヨウ素0.1gをイオン交換水50mlで溶かした(以後、ヨウ素溶液と呼ぶ)。未糊化澱粉を無水物(ドライ)換算で0.1g、100mlメスフラスコに採取し、95%エタノールを1ml入れ、分散させた後、10%NaOH溶液を2ml加え、メスフラスコを70℃ウォーターバスに入れ、途中ふり混ぜながら、透明分散溶液になるまで1時間温浴した。放冷後、イオン交換水を添加し、よく振り混ぜて溶解させながら、メスアップした。この試験溶液を100mlメスフラスコに1ml入れ、そこにイオン交換水を約50ml、1N-HClを0.15ml加え、撹拌した。ヨウ素溶液を1ml加え、イオン交換水でメスアップした。暗所に3時間放置後、分光光度計で波長660nmの吸光度を測定し、標準サンプルの検量線からアミロース含量を求めた。
【0067】
(未糊化澱粉の平均粒径)
未糊化澱粉の平均粒径は、以下の条件で湿式測定により測定した。この際、平均粒径は、体積基準の平均粒径である。
【0068】
(湿式測定)
・装置:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、型式:LA-960V2)
・測定条件
屈折率:1.60-0.5i
分散媒:水
ポンプスピード:5
【0069】
[実施例1]
(タンブリング工程)
畜肉として皮を除いた鶏ムネ肉(70~90g)を準備した。また、下記表1の組成を有するピックル液を調製した。
【0070】
【0071】
鶏ムネ肉に、鶏ムネ肉の質量に対して20質量%のピックル液を添加し、タンブラー(VAKONA社製、型式:ESK-60)を用いて、正転逆転操作により5℃で60分間混合することで、鶏ムネ肉にピックル液をタンブリングした。
【0072】
(混合工程)
タンブリングした鶏ムネ肉に、鶏ムネ肉の質量に対して1質量%のレギュラーコーンスターチ(アミロース含有量:28質量%、平均粒径:15.3μm)を添加し、手混ぜにより鶏ムネ肉にレギュラーコーンスターチ(食感改良剤)を混合した。
【0073】
(加熱調理工程)
レギュラーコーンスターチが混合された鶏ムネ肉を、250℃に加熱したホットプレートで表面1分間、次いで裏面1分間加熱調理した。
【0074】
次いで、加熱調理された鶏ムネ肉を、スチームコンベクションオーブンを用いて、85℃で25分間さらに加熱調理することで、グリルチキンを得た。
【0075】
(冷凍工程)
グリルチキンを-18℃で冷凍することで冷凍グリルチキンを得た。
【0076】
(解凍工程)
冷凍から6日後、冷凍グリルチキンを4℃で解凍することで解凍後グリルチキンを得た。
【0077】
[実施例2~4、比較例1~9]
混合工程において、レギュラーコーンスターチに代えて、表2に記載のものを用いたことを除いては実施例1と同様の方法で解凍後グリルチキンを得た。
【0078】
【0079】
(未糊化澱粉)
レギュラーコーンスターチ:J-オイルミルズコーンスターチY、株式会社J-オイルミルズ製
馬鈴薯澱粉:ジェルコールBP-200、株式会社J-オイルミルズ製
エンドウ澱粉:PURIS(商標)Pea Starch(PS85)、PURIS Proteins,LLC製
ワキシーコーンスターチ:J-オイルミルズワキシーコーンスターチY、株式会社J-オイルミルズ製
タピオカ澱粉:Tapioca Native Starch、SIAM STARCH(1966)CO.,LTD.製
米澱粉:ファインスノウ、上越スターチ株式会社製
小麦澱粉:WS-525、千葉製粉株式会社
【0080】
(糊化澱粉)
レギュラーコーンスターチ:10Lの水にレギュラーコーンスターチ4kgを混ぜてスラリーを調製し、オンレーター(株式会社櫻製作所製、型式:HAS0503-1/CJK202-1)を用い、出口温度100℃前後で糊化させ、この糊液をドラムドライヤー(シンコ工業製、型式:TW-750)に薄く広げ、150℃で加熱、乾燥した後、粉砕してサンプルを得た。
エンドウ澱粉:せん断加熱式穀物アルファ化粉砕機(株式会社セイシン企業製、HSM-090)を用い、以下の調製条件で、投入口よりエンドウ澱粉を少量ずつ投入して排出口よりサンプルを得た。
・調製条件
臼間:10μm
臼温度:120℃
臼回転速度:150rpm
ワキシーコーンスターチ:アルファワキシースターチ、株式会社J-オイルミルズ製
タピオカ澱粉:せん断加熱式穀物アルファ化粉砕機(株式会社セイシン企業製、HSM-090)を用い、以下の調製条件で、投入口よりワキシーコーンスターチを少量ずつ投入して排出口よりサンプルを得た。
・調製条件
臼間:10μm
臼温度:120℃
臼回転速度:150rpm
【0081】
[評価]
実施例1~3および比較例1~8について、各種評価を行った。
【0082】
(ヌルつき感)
冷凍グリルチキンを4℃の冷蔵庫で24時間静置して解凍した後、3名の評価者がグリルチキンの表面を手で触り、以下の基準に従って評価した。3名の評価者の評価結果の平均値を算出した。得られた結果を下記表3に示す。ヌルつき感は、前記平均値が3超のときに合格とした。
【0083】
5:まったくヌルつかない
4:ほぼヌルつかない
3:ややヌルつく
2:ヌルつく
1:非常にヌルつく
【0084】
(しっとり感)
冷凍グリルチキンを4℃の冷蔵庫で24時間静置して解凍した後、3名の評価者が試食し、以下の基準に従って評価した。3名の評価者の評価結果の平均値を算出した。得られた結果を下記表3に示す。しっとり感は、前記平均値が3超のときに合格とした。
【0085】
5:とてもしっとり感がある
4:しっとり感がある
3:ややパサつき感がある
2:パサつき感がある
1:非常にパサつき感がある
【0086】
【0087】
表3の結果から、実施例1~3は、ヌルつきがなく、また、食感が良好であることが分かる。