(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135558
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ユニット及び液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230921BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/16 503
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040832
(22)【出願日】2022-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 優
(72)【発明者】
【氏名】平林 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】三輪 圭史
(72)【発明者】
【氏名】長橋 和人
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AG14
2C057AG29
2C057AG31
2C057AG55
2C057AG68
2C057AG75
2C057AP25
2C057AQ02
(57)【要約】
【課題】接着剤中のフィラによるダンパへの局所的な応力集中の発生を抑制し、ダンパの破損を抑制可能な液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】振動エネルギーを消散させて衝撃または振動の振幅を軽減するダンパ66と、ダンパ66が接合されダンパ66が振動可能な空間を有するダンパ保持基板65と、ダンパ66のダンパ保持基板65とは反対側に設けられ、フィラ91を含む接着剤90によりダンパ66に接合され、圧電素子40を収容する凹部及びダンパ66が振動可能な空間を有する圧電素子保持基板70と、を有し、圧電素子保持基板70は空間を形成する第一の隔壁59を、ダンパ保持基板65は空間を形成する第二の隔壁69をそれぞれ備え、ダンパ66は、第一の隔壁59において圧電素子保持基板70に接合されると共に、第二の隔壁69においてダンパ保持基板65に接合され、第一の隔壁59の幅に比して第二の隔壁69の幅が大きく形成されている液滴吐出ヘッド2。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動エネルギーを軽減するダンパと、
前記ダンパが接合され前記ダンパが振動可能な空間を有するダンパ保持基板と、
前記ダンパの前記ダンパ保持基板とは反対側に設けられ、フィラを含む接着剤により前記ダンパに接合され、圧電素子を収容する凹部及び前記ダンパが振動可能な空間を有する圧電素子保持基板と、を有し、
前記圧電素子保持基板は前記空間を形成する第一の隔壁を、前記ダンパ保持基板は前記空間を形成する第二の隔壁をそれぞれ備え、
前記ダンパは、前記第一の隔壁において前記圧電素子保持基板に接合されると共に、前記第二の隔壁において前記ダンパ保持基板に接合され、
前記第一の隔壁の幅に比して前記第二の隔壁の幅が大きく形成されている液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパと前記ダンパ保持基板とはフィラを含む接着剤により互いに接合され、
含まれる前記フィラのサイズが相対的に大きい前記接着剤により前記ダンパが接合される前記各隔壁のうちの一方の隔壁の幅は、前記各隔壁のうちの他方の隔壁の幅よりも小さく形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパは、コンプライアンスが7E-17以上、ヤング率が3~200GPa、厚みが2~10μmであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一つに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパは複数層からなる積層構造を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一つに記載の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出ユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一つに記載の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項7】
請求項5記載の液滴吐出ユニットを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ユニット及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式の画像形成装置に採用される液滴吐出ヘッドが知られている。この液滴吐出ヘッドは、ノズルに連通する個別液室を構成する液室基板と、ノズルが設けられたノズル板とは反対側で液室基板と接合して圧電素子が収容される凹部が形成された圧電素子保持基板と、振動エネルギーを消散させて衝撃または振動の振幅を軽減するダンパと、ダンパが振動可能な空間を有するダンパ保持基板とを備えている。圧電素子保持基板とダンパとを接合する場合には、接合強度を向上させるためにフィラを含む接着剤によって接合することが好ましい。また、ダンパとダンパ保持基板との接合方法として、ダンパ材料を成膜した基板の成膜面とダンパ保持基板とを接着剤で接合し、その後、成膜する際に基板を研磨する方法が挙げられる。
【0003】
上述の液滴吐出ヘッドとして、複数のノズルと、各ノズルに連通した複数の個別液室と、各個別液室内を昇圧するエネルギーを発生させるアクチュエータと、各個別液室に連通する共通液室とを備えた構成が知られている。この液滴吐出ヘッドでは、インクを共通液室から各ノズルに連通する各個別液室に供給し、各個別液室に対応するアクチュエータを駆動することで各個別液室内を昇圧してノズルからインクを吐出させている。この際に、個別液室内で生じた圧力変動が各個別液室に連通する共通液室にも伝播し、伝播した圧力変動によって隣接する個別液室内のインクに影響が及ぶ相互干渉が発生すると、意図しないノズルからの液滴の漏出や吐出、不安定な吐出状態を誘発して高品質の画像を得ることが困難となる。
そこで、共通液室に伝播した圧力変動が良好なダンパ効果を得ると共に、共通液室からの水分の揮発を抑制する技術として、共通液室の少なくとも一部を形成する可撓性部材を介して共通液室に対向配置された空気貯留室と、この空気貯留室と外部とを連通可能な弁とを備えた液滴吐出ヘッドが提案されている(例えば「特許文献1」参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の液滴吐出ヘッドでは、ダンパ保持基板の隔壁幅が圧電素子保持基板の隔壁幅よりも狭く形成されているため、ダンパ保持基板と圧電素子保持基板とを接合する際に、接着剤に含まれるフィラによってダンパに対して局所的な応力が作用し、ダンパが破損してしまうという問題点があった。
本発明は、上述した問題点を解決し、接着剤中のフィラによるダンパへの局所的な応力集中の発生を抑制し、ダンパの破損を抑制可能な液滴吐出ヘッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、振動エネルギーを軽減するダンパと、前記ダンパが接合され前記ダンパが振動可能な空間を有するダンパ保持基板と、前記ダンパの前記ダンパ保持基板とは反対側に設けられ、フィラを含む接着剤により前記ダンパに接合され、圧電素子を収容する凹部及び前記ダンパが振動可能な空間を有する圧電素子保持基板と、を有し、前記圧電素子保持基板は前記空間を形成する第一の隔壁を、前記ダンパ保持基板は前記空間を形成する第二の隔壁をそれぞれ備え、前記ダンパは、前記第一の隔壁において前記圧電素子保持基板に接合されると共に、前記第二の隔壁において前記ダンパ保持基板に接合され、前記第一の隔壁の幅に比して前記第二の隔壁の幅が大きく形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第二の隔壁69によりダンパとの接合面と対向する背面を補強されることでダンパの強度が増加し、フィラによってダンパに対して局所的な応力が作用した場合でも第二の隔壁によって応力が吸収されるため、ダンパへの局所的な応力集中の発生を抑制してダンパの破損を抑制可能な液滴吐出ヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの概略分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの概略断面斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドのフレーム部材を除いた概略分解斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの流路部分における概略断面斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの流路部分における拡大断面斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの流路部分における概略平面図である。
【
図8】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドのダンパ部材を示す概略斜視図である。
【
図9】本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドにおけるノズル板と流路板と振動板部材と共通流路部材とダンパ部材とフレーム部材との積層状態を示す概略図である。
【
図10】
図9における圧電素子保持基板を構成する共通流路部材とダンパ板とダンパフレーム基板との接合部を示す拡大図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの特徴部を示す拡大図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの特徴部を示す拡大図である。
【
図13】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドにおけるひび割れ発生率比較試験を行う際に用いられる液滴吐出ヘッドの特徴部を示す拡大図である。
【
図14】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドと
図14に示す液滴吐出ヘッドとにおけるひび割れ発生率の比較試験結果を示す表である。
【
図15】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出ユニットの概略分解斜視図である。
【
図16】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出ユニットのノズル面側から見た概略分解斜視図である。
【
図17】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置の概略正面図である。
【
図18】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置の液滴吐出ユニットを説明する概略平面図である。
【
図19】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた他の液滴吐出装置の概略平面図である。
【
図20】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた他の液滴吐出装置の概略側面図である。
【
図21】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた他の液滴吐出装置の液滴吐出ユニットを説明する概略平面図である。
【
図22】本発明の各実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた他の液滴吐出装置の他の液滴吐出ユニットを説明する概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態を適用可能な液滴吐出ヘッドの概略斜視図を示している。同図において液滴吐出ヘッド1は、ノズル板10、個別流路部材である流路板20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80、駆動回路102を実装したフレキシブル配線基板101を備えている。
ノズル板10を構成するノズル基板、流路板20及び振動板部材30を構成するアクチュエータ基板、共通流路部材50を構成するサブフレーム基板、及びダンパ部材60を構成するダンパ基板は、いずれも単結晶Siウエハを基板材料としている。そしてこれ等の基板は、MEMSや半導体デバイスの微細加工技術によってSiウエハ上に複数のチップ(液体吐出ヘッド)を同時に作製し、チップ化後の各基板を接合して液滴吐出ヘッド1となる。
【0009】
図4及び
図5に示すように、ノズル板10には液滴を吐出する複数のノズル11が設けられている。複数のノズル11は二次元状にマトリクス配置され、
図7に示すように、第1方向F、第2方向S及び第3方向Tの三方向に並んで配置されている。
図5及び
図6に示すように、流路板20は、複数のノズル11にそれぞれ連通する複数の個別液室である圧力室21と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別回収流路23とを有している。
図7に示すように、一つの圧力室21とこれに通じる個別供給流路22及び個別回収流路23とを併せて個別流路25という。
【0010】
振動板部材30は、圧力室21の変形可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、電気機械変換素子であり、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
なお、流路板20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定さるものではない。例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を使用して流路板20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を流路板20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は流路板20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0011】
共通流路部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル11の第2方向Sに交互に隣接して形成している。共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔とが形成されている。
また共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1または複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1または複数の共通回収流路本流57とを形成している。
【0012】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63とを有している。
ここで、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を薄板からなるダンパとしてのダンパ板66で封止することにより構成している。そして、共通供給流路支流52と対応するダンパ板66によって供給側ダンパ62が、共通回収流路支流53と対応するダンパ板66によって回収側ダンパ63がそれぞれ構成される。なお、ダンパ板66としては有機溶剤に強い金属薄膜または無機薄膜を用いることが好ましく、その厚みは10μm以下が好ましい。また、ダンパ板66は複数層からなる積層構造を呈している。
【0013】
本実施形態で示した液滴吐出ヘッド1には、ノズル11からの液滴吐出時に生じる液体流路(例えば個別供給流路22)の圧力変動が、他のノズル11からの液滴吐出に与える影響(例えばクロストーク)を抑制するダンパ部材60が設けられている。ダンパ部材60が適切にダンパ機能を発揮することで、液滴吐出時の振動(圧力変動)が液体を介して伝播して、隣接するノズルの液滴吐出に影響するというクロストークの発生を抑制でき、各ノズル11からの液滴吐出精度を安定させることができる。
図8に示すように、ダンパ部材60は矩形板状の部材からなるダンパ保持基板としてのダンパフレーム基板65から主に構成され、ダンパフレーム基板65には、その長辺に沿って、共通流路部材50の共通供給流路本流56と共通回収流路本流57とに連通する貫通孔61A,61Bが形成されている。ダンパフレーム基板65の貫通孔61A,61Bに挟まれた領域に供給側ダンパ62及び回収側ダンパ63が形成され、これによりダンパ部材60が構成されている。
【0014】
ここで、上述した構成の液滴吐出ヘッド1における問題点を説明する。
図9は、液滴吐出ヘッド1におけるノズル板10、流路板20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80の積層状態を示す概略図である。同図において、流路板20、振動板部材30、共通流路部材50によって圧電素子保持基板70が構成されている。
図9に示すような一般的なダンパ部材60は、ダンパ板66の変位を可能とするための変位空間(空隙)が形成されたダンパフレーム基板65にダンパ板66を重ね合わせ、両者を接着剤により接合して構成される。
図9において、共通流路部材50はダンパ板66が振動可能な複数の空間58有しており、各空間58は共通流路部材50が有する複数の第一の隔壁である隔壁59間に形成されている。また、ダンパ保持基板65もダンパ板66が振動可能な複数の空間68を有しており、各空間68はダンパ保持基板65が有する複数の第二の隔壁である隔壁69間に形成されている。各空間58,68は、ダンパ板66を介して互いに対向する位置に配置されている。
【0015】
図10は、
図9における部分A、すなわち圧電素子保持基板70を構成する共通流路部材50の隔壁59と、ダンパ板66と、ダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部における拡大図を示している。
図10に示すように、隔壁59とダンパ板66とは接着剤90によって互いに接着されている。ここで用いられる接着剤90としては、接着性を向上させるためあるいは接着強度を向上させるため等の目的により、充填剤であるフィラ91を含んだものを用いることが好ましい。本実施形態で示した接着剤90には、それぞれ球形状を呈した複数個のフィラ91が含まれており、その最大粒径は10μmである。
図10に示すように、フィラ91の直径が大きく、隔壁59とダンパ板66との間にフィラ91が直接挟まれてしまう場合には、フィラ91によってダンパ板66に対して局所的な応力が作用し、
図10に符号Bで示すように亀裂が生じてダンパ板66が破損してしまうという問題点があった。この不具合は、
図10に示すように、隔壁59の幅に比して隔壁69の幅が狭い場合に、より顕著に発生していた。以下に、この問題点の発生を防止する構成を説明する。
【0016】
図11は、本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッド2の、共通流路部材50の隔壁59とダンパ板66とダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部における拡大図である。液滴吐出ヘッド2は、上述した液滴吐出ヘッド1と比較すると、隔壁69の幅が隔壁59の幅よりも大きく形成されている点においてのみ相違しており、他の構成は同一である。
ダンパフレーム基板65及びダンパ板66は、半導体プロセスを用いて作製されている。本実施形態では、基材となるウエハにダンパ板66となる材料を成膜し、成膜面とダンパ板66が振動可能な空間がパターニングされたダンパフレーム基板65とを接合する。
【0017】
上述のように、本発明の液滴吐出ヘッド2は、それぞれダンパ板が接合される各隔壁59,69において、隔壁59の幅に比して隔壁69の幅を大きく形成している。この構成により、隔壁69により接合面と対向する背面を補強されることでダンパ板66の強度が増加する。これにより、フィラ91によってダンパ板66に対して局所的な応力が作用した場合でも、隔壁59よりも幅の広い隔壁69によって応力が分散されるため、ダンパ板66への局所的な応力集中の発生を抑制してダンパ板66の破損を抑制できる。
上述した構成において、ダンパ板66はコンプライアンスすなわち基準圧力当たりの容積変化率が7E-17以上、ヤング率が3~200GPa、厚みが2~10μmとなるように形成されている。この構成により、ダンパ板66はダンパとして必要な機能、すなわち振動エネルギーを消散させて衝撃または振動の振幅を軽減するという機能を確実に満たすことができる。
また、ダンパ板66は複数の層からなる積層構造となるように構成されているため、成膜により形成されるダンパ板66の物性を任意に変更することができる。
【0018】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る液滴吐出ヘッド4の、隔壁59とダンパ板66と隔壁69との接合部における拡大図である。液滴吐出ヘッド4は、上述した液滴吐出ヘッド2と比較すると、隔壁69とダンパ板66とを接着剤92によって接着されている点においてのみ相違しており、他の構成は同一である。
接着剤92は、接着剤90と同様にフィラ91を有しているが、フィラ91の大きさは接着剤92に比して接着剤90の方が大きいものが含まれている。すなわち、各接着剤90,92において、接着剤90は含まれるフィラ91のサイズが相対的に大きい接着剤となる。これにより、ダンパ板66が接合される各隔壁59,60のうち、含まれるフィラ91のサイズが相対的に大きい接着剤90によりダンパ板66が接合される一方の隔壁が隔壁59となり、他方の隔壁が隔壁69となる。隔壁59の幅は、第1の実施形態と同様に、隔壁69の幅よりも小さく形成されている。
【0019】
この構成によれば、接合面とは逆側からフィラ91による応力が作用するため、接着剤92により接合される隔壁69側に作用する応力が、接着剤90により接合される隔壁59側に作用する応力よりも大きくなる。このため、隔壁59よりも幅の広い隔壁69によって応力が分散され、ダンパ板66への局所的な応力集中の発生を抑制してダンパ板66の破損を抑制できる。
本実施形態では、ダンパ板66が接合される各隔壁59,60のうち、含まれるフィラ91のサイズが相対的に大きい接着剤90によりダンパ板66が接合される一方の隔壁を隔壁59、他方の隔壁を隔壁69とした構成を示したが、一方の隔壁を隔壁69、他方の隔壁を隔壁59とした構成でもよい。この場合には、隔壁69の幅に比して隔壁59の幅を大きく形成することにより、第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
次に、従来の液滴吐出ヘッド1と同様に構成された
図13に示す液滴吐出ヘッド6と、上述した各液滴吐出ヘッド2,4とのダンパ板66におけるひび割れ発生率の比較試験を行った。ダンパ板66のひび割れは、接合後にIR顕微鏡でダンパ板66の状態を観察することにより評価を行った。試験結果を
図14に示す。
図14に示すように、試験結果は比較例1に比して各実施形態1,2のひび割れ発生率が低かった。これは、比較例1の構成ではダンパ板66にフィラ91が直接接触して局所的な応力集中が発生するのに対し、各実施形態1,2の構成では隔壁69の幅を大きくしたことでダンパ板66に作用する応力が分散されたためである。この構成により、隔壁69によって接合面と対向する背面を補強されることで接合面の強度が増加し、ダンパ板66単体部分にフィラ91が直接接触することが防止され、ダンパ板66のひび割れが発生しなかったものであると考えられる。
【0021】
次に、上述した各液滴吐出ヘッド2,4を備えた液滴吐出ユニットについて説明する。
図15、
図16に示すように液滴吐出ユニット100は、液滴吐出ヘッド2、複数の液滴吐出ヘッド2を保持するベース部材103、液滴吐出ヘッド2のノズルカバーとなるカバー部材113を備えている。さらに液滴吐出ユニット100は、放熱部材104、複数の液滴吐出ヘッド2に対して液体を供給する流路を形成しているマニホールド105、フレキシブル配線基板101に接続されるプリント基板(PCB)106、モジュールケース107を備えている。
【0022】
次に、上述した各液滴吐出ヘッド2,4を備えた液滴吐出装置について説明する。
図17、
図18に示すように、液滴吐出装置である印刷装置500は、被記録媒体である連続体510を搬入する搬入手段501、搬入手段501によって搬入された連続体510を印刷手段505に向けて案内搬送する案内搬送手段503を備えている。また印刷装置500は、連続体510に対して液滴を吐出して画像を形成する印刷動作を行う印刷手段505、液滴が付着した連続体510を乾燥させる乾燥手段507、連続体510を搬出する搬出手段509等を備えている。
連続体510は、搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509がそれぞれ有するローラによって案内及び搬送され、搬出手段509の巻き取りローラ591に巻き取られる。連続体510は、印刷手段505において搬送ガイド部材559上を液滴吐出ユニットであるヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液滴によって画像が印刷される。
【0023】
印刷装置500は、ヘッドユニット550に上述した液滴吐出ユニット100A,100Bを備えており、各液滴吐出ユニット100A,100Bはそれぞれ共通ベース部材552上に設けられている。
各液滴吐出ユニット100A,100Bは、連続体搬送方向と直交する方向における液滴吐出ヘッド2の並び方向をヘッド配列方向とするとき、液滴吐出ユニット100Aのヘッド列1A1,1A2の組で同じ色の液滴を吐出する。同様に、液滴吐出ユニット100Aのヘッド列1B1,1B2の組、液滴吐出ユニット100Bのヘッド列1C1,1C2の組、液滴吐出ユニット100Bのヘッド列1D1,1D2の組で、それぞれ所望の色の液滴を吐出する。
【0024】
次に、本発明に係る液滴吐出装置である印刷装置の他の例を
図19及び
図20に基づいて説明する。
液滴吐出装置としての印刷装置400はシリアル型印刷装置であり、主走査移動機構493によってキャリッジ403が主走査方向に向けて往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を有している。ガイド部材401は左右の側板491A,491Bに掛け渡されており、キャリッジ403を移動可能に保持している。キャリッジ403は、駆動プーリ406と従動プーリ407との間に掛け渡されたタイミングベルト408を介して、主走査モータ405の駆動力を伝達されて主走査方向に往復移動される。
【0025】
キャリッジ403には、液滴吐出ヘッド2及びヘッドタンク441を一体的に有する液滴吐出ユニット440が搭載されている。ここで液滴吐出ヘッド2は、例えばイエロ(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する。また液滴吐出ヘッド2は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、液滴吐出方向を下方とした状態で装着されている。液滴吐出ヘッド2は、図示しない液体循環装置と接続されており、液滴吐出ヘッド2には所望の色の液体が循環供給される。
【0026】
印刷装置400は、被記録媒体である用紙410を搬送する搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動する副走査モータ416を有している。無端状ベルトである搬送ベルト412は搬送ローラ413とテンションローラ414との間に掛け渡されており、用紙410を吸着して液滴吐出ヘッド2に対向する位置で搬送する。吸着は、静電吸着あるいはエア吸引等によって実施される。搬送ベルト412は、副走査モータ416の駆動力をタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して伝達されることにより、副走査方向に周回移動される。
【0027】
キャリッジ403の主走査方向の一方側であって搬送ベルト412の側方には、液滴吐出ヘッド2の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液滴吐出ヘッド2ノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422等で構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
上述した構成の印刷装置400では、用紙410が搬送ベルト412によって吸着され、搬送ベルト412の周回移動により用紙410が副走査方向に搬送される。このとき、キャリッジ403を主走査方向に移動させつつ画像信号に応じて液滴吐出ヘッド2を駆動することにより、停止している用紙410に液滴を吐出して画像を形成する。
【0028】
次に、上述した液滴吐出ユニット440を
図22に基づいて説明する。
液滴吐出ユニット440は、液滴吐出装置である印刷装置400を構成している各部材のうち、各側板491A,491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493、キャリッジ403、液滴吐出ヘッド2等によって構成されている。
なお、この液滴吐出ユニット440の例えば側板491Bに、上述した維持回復機構420をさらに取り付けた液滴吐出ユニットを構成することも可能である。
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係る液滴吐出ユニットの他の例を、
図22に基づいて説明する。
図22に示す液滴吐出ユニット450は、流路部品444が取り付けられた液滴吐出ヘッド2と、流路部品444に接続されたチューブ456を有している。流路部品444はカバー442の内部に配置されており、流路部品444の上部には液滴吐出ヘッド2と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。なお、流路部品444に代えてヘッドタンク441を含む構成も可能である。
【0030】
上述した液滴吐出ヘッド2を含む、液滴吐出ユニット100,100A,100B,440,450,550、及び液滴吐出装置である印刷装置400,500では、上述した液滴吐出ヘッド2における作用効果と同様の作用効果を得ることができる。また、上記各構成では液滴吐出ヘッドとして液滴吐出ヘッド2を用いる構成を示したが、液滴吐出ヘッド2に代えて液滴吐出ヘッド4を用いることも可能である。この場合には、液滴吐出ヘッド4と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
本発明において、使用される液体はヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく特に限定されないが、常温・常圧下において、または加熱・冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やタンパク質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、これ等を含む溶液や懸濁液やエマルション等である。これ等は、例えばインクジェット用インク、表面処理液、三次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
液滴を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極とからなる静電アクチュエータ等を使用するものが含まれる。
【0032】
「液滴吐出ユニット」は、液滴吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液滴の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば「液滴吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液滴吐出ヘッドと組み合わせたもの等が含まれる。
ここで一体化とは、例えば液滴吐出ヘッドと機能部品や機構が、締結、接着、係合等によって互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液滴吐出ヘッドと機能部品や機構が互いに着脱可能であってもよい。
【0033】
液滴吐出ユニットとして、液滴吐出ヘッドとヘッドタンクとが一体化されているもの、両者がチューブ等で互いに接続されて一体化されているものがある。ここで、これ等の液滴吐出ユニットの液滴吐出ヘッドとヘッドタンクとの間に、フィルタを含むユニットを追加することも可能である。
また液滴吐出ユニットとして、液滴吐出ヘッドとキャリッジとが一体化されているもの、液滴吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構とが一体化されているものがある。また液滴吐出ユニットとして、液滴吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させ、液滴吐出ヘッドと走査移動機構とが一体化されているものがある。
【0034】
液滴吐出ユニットとして、液滴吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液滴吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構とが一体化されているものがある。また液滴吐出ユニットとして、ヘッドタンクまたは流路部品が取り付けられた液滴吐出ヘッドにチューブが接続され、液滴吐出ヘッドと供給機構とが一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液滴吐出ヘッドに供給される。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。供給機構は、チューブ単体及び装填部単体も含むものとする。
【0035】
本発明では、液滴吐出ユニットについて液滴吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、液滴吐出ユニットには上述した液滴吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品や機構が一体化されたものも含まれる。
液滴吐出装置には、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニット等を備え、液滴吐出ヘッドを駆動させて液滴を吐出させる装置が含まれる。液滴吐出装置には、液滴が付着可能なものに対して液滴を吐出することが可能な装置だけではなく、液滴を気体中や液体中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0036】
液滴吐出装置は、液滴が付着可能なものの給送、搬送、排紙に関わる手段、その他の前処理装置や後処理装置等にも含むことができる。
例えば液滴吐出装置としては、インクを吐出させて被記録媒体に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出する立体造形装置(三次元造形装置)が挙げられる。
また液滴吐出装置は、吐出された液滴によって文字や図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体では意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0037】
上述した液滴が付着可能なものとは、液滴が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するものや付着して浸透するもの等を意味する。具体例としては、用紙、フィルム、布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セル等の媒体が挙げられ、特に限定しない限り液滴が付着する全てのものが含まれる。
液滴が付着可能なものの材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等、液滴が一時的でも付着可能であれば、どのような材質のものであってもよい。
【0038】
液滴吐出装置には、液滴吐出ヘッドと液滴が付着可能なものとが相対的に移動する構成を含むが、異動する対象は何れか一方には限定されない。具体例としては、液滴吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液滴吐出ヘッドを移動させないライン型装置が共に含まれる。
また、液滴吐出装置としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で用紙の表面に処理液を塗布するために用紙表面に対して処理液を吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等が挙げられる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
2,4 液滴吐出ヘッド
40 圧電素子
58,68 空間
59 第一の隔壁(隔壁)
65 ダンパ保持基板(ダンパフレーム基板)
66 ダンパ(ダンパ板)
69 第二の隔壁(隔壁)
70 圧電素子基板
90,92 接着剤
91 フィラ
100,100A,100B,440,450,550 液滴吐出ユニット
400,500 液滴吐出装置(印刷装置)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】