(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135592
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230921BHJP
【FI】
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184305
(22)【出願日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022040319
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022051642
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 智子
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 英利
(72)【発明者】
【氏名】中島 牧人
(72)【発明者】
【氏名】前代 陸
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF68
2C057AG12
2C057AG44
2C057AN10
2C057BA08
2C057BA14
2C057DB01
(57)【要約】
【課題】弾性機能を維持しつつ弾性部材を開閉弁の芯材に接合する。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、吐出口を開閉する開閉弁31を備え、開閉弁31は、吐出口側へ開口する凹部312が設けられる芯材310と、凹部312に嵌合すると共に一部が凹部312から吐出口側へ突出する弾性部材40と、を有し、凹部312は、深さ方向Bの底面側半分の領域d2において、底面312aに向かって幅が大きくなる抜け止め部50を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と、
前記吐出口を開閉する開閉弁と、
を備える液体吐出ヘッドであって、
前記開閉弁は、前記吐出口側へ開口する凹部が設けられる芯材と、前記凹部に嵌合すると共に一部が前記凹部から前記吐出口側へ突出する弾性部材と、を有し、
前記凹部は、深さ方向の底面側半分の領域において、底面に向かって幅が大きくなる抜け止め部を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記抜け止め部内に充填されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記抜け止め部は、前記底面に隣接して設けられている請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記凹部は、前記底面に設けられた突起を有する請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記凹部の少なくとも開口縁と前記弾性部材との間に隙間が設けられている請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記凹部は、前記開口縁に向かって幅が大きくなる請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記弾性部材は、前記吐出口側へ向かって幅が小さくなる請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記凹部は、前記抜け止め部と前記底面との間に前記底面に対して直交する方向に伸びるストレート部を有する請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記吐出口が形成された吐出口形成部材を備え、
前記開閉弁は、前記弾性部材を前記吐出口形成部材に押し当てる位置と前記吐出口形成部材から離間した位置との間で移動することにより前記吐出口を開閉する請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、液体を吐出する吐出口(ノズル)を開閉弁よって開閉する弁型ノズルタイプの液体吐出装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2020-23117号公報)においては、開閉弁を構成する芯材の先端部に弾性部材が設けられている開閉弁が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
開閉弁の先端部に弾性部材を備える構成の場合、芯材と弾性部材とを接合する必要がある。接合手段の一つとして、接着剤による接合が考えられるが、弾性部材の素材によっては接着が困難なものがある。また、接着に代わる接合手段として、加締めなどの機械的接合手段があるが、加締めによる接合の場合、接合箇所において弾性部材が拘束されることにより、弾性機能が損なわれる虞がある。そのため、弾性機能を維持できる接合手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口を開閉する開閉弁と、を備える液体吐出ヘッドであって、前記開閉弁は、前記吐出口側へ開口する凹部が設けられる芯材と、前記凹部に嵌合すると共に一部が前記凹部から前記吐出口側へ突出する弾性部材と、を有し、前記凹部は、深さ方向の底面側半分の領域において、底面に向かって幅が大きくなる抜け止め部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、弾性機能を維持しつつ弾性部材を開閉弁の芯材に接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの外観斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの全体断面図である。
【
図3】液体吐出ヘッドに設けられたヒータの位置を示す図である。
【
図6】芯材とシール部材とが分離された状態を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る開閉弁の変位(押し込み量)と荷重との関係を示す図である。
【
図12】
図11に示されるシール部材が凹部内に挿入された状態を示す断面図である。
【
図14】
図13に示される芯材とシール部材とが分離された状態を示す断面図である。
【
図15】
図13に示される開閉弁がノズル板に押し当てられた状態を示す図である。
【
図17】凹部とシール部材の他の組み合わせ例を示す図である。
【
図18】凹部とシール部材のさらに別の組み合わせ例を示す図である。
【
図21】
図20に示される凹部内にシール部材が挿入された状態を示す図である。
【
図23】他の液体吐出装置の全体概略構成図である。
【
図24】液体吐出装置の自動車に対する配置例を示す斜視図である。
【
図25】液体吐出装置の自動車に対する他の配置例を示す斜視図である。
【
図26】液体吐出装置により球面に液体を吐出した場合の説明図である。
【
図27】比較例に係る開閉弁の先端側の構成を示す断面図である。
【
図28】比較例に係る芯材とシール部材とが分離された状態を示す断面図である。
【
図29】比較例に係る芯材とシール部材とが加締め接合される前の状態を示す断面図である。
【
図30】比較例に係る開閉弁がノズル板に押し当てられた状態を示す断面図である。
【
図32】比較例に係る開閉弁の変位(押し込み量)と荷重との関係を示す図である。
【
図33】開閉弁の位置(変位)とインクの吐出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの外観説明図である。
図1(a)は、液体吐出ヘッドの全体斜視図、
図1(b)は、同ヘッドの全体側面図である。本実施形態に係る液体吐出ヘッドは、液体としてのインクを吐出する。
【0010】
液体吐出ヘッド10は、第1筐体としての第1ハウジング11aと、第2筐体としての第2ハウジング11bとを備える。第2ハウジング11bは、第1ハウジング11aに積層及び接合される。第1ハウジング11aは、金属などの熱伝導性の高い材質から成り、第2ハウジング11bは、第1ハウジング11aと異なる材質でもよいが、同一素材から成ることが好ましい。以下の説明において2つのハウジングを総称する場合は、ハウジング11と記す。
【0011】
また、第1ハウジング11aは、その正面と背面に、加熱手段としてのヒータ12を備える。ヒータ12は温度制御が可能であり、第1ハウジング11aを加熱する。また、第2ハウジング11bは、その上部に電気信号の通信のためのコネクタ13を備える。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド10の全体断面図で、
図1(a)のA-A線矢視断面図である。第1ハウジング11aは、吐出口形成部材としてのノズル板15を保持する。ノズル板15は、液体を吐出する、吐出口としてのノズル14を備える。また、第1ハウジング11aは、液体供給部である流路17を備える。流路17は、供給ポート16側からのインクを、ノズル板15上を経て回収ポート18側へ送る。
【0013】
第2ハウジング11bは、供給ポート16及び回収ポート18を備える。供給ポート16及び回収ポート18は、流路17の一方側及び他方側にそれぞれ接続される。供給ポート16と回収ポート18との間には、複数の液体吐出モジュール30が配置されている。液体吐出モジュール30は、流路17内のインクをノズル14から吐出する。また、液体吐出モジュール30の上部に規制部材20が設けられる。
【0014】
液体吐出モジュール30は、第1ハウジング11aに設けられたノズル14の数に対応しており、本例では1列に並べた8個のノズル14に対応する8個の液体吐出モジュール30を備える構成が示されている。なお、ノズル14及び液体吐出モジュール30の数及び配列は、上記に限るものではない。例えば、ノズル14及び液体吐出モジュール30の数は、複数ではなく1個であってもよい。また、ノズル14及び液体吐出モジュール30の配列は、1列ではなく、複数列であってもよい。
【0015】
なお、
図2において符号19は、第1ハウジング11aと第2ハウジング11bとの接合部に設けたハウジングシール部材である。本例ではハウジングシール部材としてOリングが用いられており、Oリングは、第1ハウジング11aと第2ハウジング11bとの接合部からのインクの漏れを防いでいる。
【0016】
上記の構成により、供給ポート16は、加圧した状態のインクを外部から取り込み、インクを矢印a1方向へ送り、インクを流路17に供給する。流路17は、供給ポート16からのインクを矢印a2方向へ送る。そして、回収ポート18は、流路17に沿って配置したノズル14から吐出しなかったインクを矢印a3方向へ回収する。
【0017】
液体吐出モジュール30は、開閉弁31と、駆動体としての圧電素子32を備える。開閉弁31は、ノズル14を開閉する。圧電素子32は、開閉弁31を駆動する。また、圧電素子32は、電圧の印加により、
図2の上下方向である長手方向に伸縮作動する。
【0018】
上記の構成において、圧電素子32が作動して開閉弁31が上方向へ動かされた場合は、開閉弁31によって閉じていたノズル14が開いた状態になり、ノズル14からインクを吐出することができる。また、圧電素子32が作動して開閉弁31が下方向へ動かされた場合は、開閉弁31の先端部がノズル14を封止してノズル14が閉じた状態になり、ノズル14からインクが吐出しなくなる。
【0019】
図3は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド10の加熱手段との位置関係を示す説明図である。第1ハウジング11aは、ヒータ12を備えている。
図3中の破線で示されるように、ヒータ12は、複数のノズル14を横断するようにしてノズル14の近傍に設けられている。
【0020】
次に、液体吐出モジュール30の詳細を
図4に基づいて説明する。
図4(a)は、単一の液体吐出モジュールの断面図、
図4(b)は、
図4(a)の要部拡大図である。開閉弁31の軸部外周には、高圧インクの漏出防止用にOリング34が上下二段で装着されている。
【0021】
液体吐出モジュール30は、前述の開閉弁31及び圧電素子32と、固定部材33と、保持体35と、プラグ36などを主に備える。
【0022】
保持体35は、その内部に駆動体収容部35aを有し、駆動体収容部35aに圧電素子32を収容して保持する。保持体35は、圧電素子32の長手方向に弾性伸縮可能な金属で構成されている。弾性伸縮可能な金属として、例えばSUS304又はSUS316Lなどのステンレス鋼を使用可能である。保持体35は、長手方向に延びた細長部材が圧電素子32の周囲に複数本配置(例えば90°間隔で4本配置)された枠体であり、圧電素子32は、保持体35を構成する細長部材の相互間を通して保持体35の内側に挿入される。
【0023】
圧電素子32の長手方向は、
図4(a)に示される両矢印方向Aであり、この長手方向Aは、開閉弁31、液体吐出モジュール30及び第2ハウジング11bの長手方向でもある。また、長手方向Aは、開閉弁31の移動方向でもある。
【0024】
保持体35のノズル14側の先端部に開閉弁31が連結されている。また、保持体35のノズル14側に蛇腹部35bが形成されている。蛇腹部35bは、圧電素子32が伸縮作動する際に、保持体35の先端側を圧電素子32と同じように長手方向に伸縮作動させるためのものである。
【0025】
また、保持体35のノズル14側と反対側である基端側に固定部材33が連結されている。別の言い方をすると、固定部材33は、第2ハウジング11bの上端部に収容されている。
【0026】
固定部材33は、径方向に延在する貫通ネジ穴33aを有する。貫通ネジ穴33aに第2ハウジング11b外から位置決めネジ60がねじ込まれている。
【0027】
位置決めネジ60は、第2ハウジング11bの上端部に形成された長手方向の長穴11b1に挿通されている。このため、位置決めネジ60は、第2ハウジング11bの長手方向に所定長さ移動可能である。位置決めネジ60は、固定部材33を長手方向に位置決めした状態にして締め付けられる。
【0028】
図4(a)に示されるように、第2ハウジング11bの上端開口部には、雌ネジ穴11b2が形成されている。この雌ネジ穴11b2に、
図2の規制部材20に当接するプラグ36が螺合されている。プラグ36は、位置決めネジ60によって長手方向に位置決めされた固定部材33の上端部に当接して、固定部材33を最終的に位置固定する。
【0029】
また、第2ハウジング11bの下端部には、圧縮バネ37が配設されている。この圧縮バネ37で、圧電素子32及び圧電素子32を保持した保持体35などが上方に付勢されている。
【0030】
図4(b)に示されるように、開閉弁31は、芯材310と、シール部材40と、を有する。芯材310は、ステンレスなどの金属材料により形成される。芯材310のノズル14側の端部には、ノズル14側へ開口する凹部312が設けられている。シール部材40は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素樹脂又はゴムなどの弾性部材を用いることができる。PTFEは引張弾性率が0.40GPa以上0.60GPa以下、PCTFEは引張弾性率が1.03GPa以上2.10GPa以下のものを用いることが好ましい。引張弾性率の値は、ISO527:Plastics-Determination of tensile properties、あるいは、JISK7161:プラスチック-引張特性試験を行うことによって求めることができる。芯材310の凹部312に嵌合することにより芯材310の先端部(ノズル14側の端部)に取り付けられる。また、シール部材40の一部は、芯材310の凹部312からノズル14側へ突出している。このため、圧電素子32が作動することにより開閉弁31が
図4(a)における下方向へ動かされると、開閉弁31(芯材310)の先端部に設けられるシール部材40がノズル板15に押し当てられ、シール部材40によってノズル14が封止される。反対に、開閉弁31が上方向へ動かされると、シール部材40がノズル板15から離間してノズル14が開放される。このように、開閉弁31が、シール部材40(弾性部材)をノズル板15(吐出口形成部材)に押し当てる位置とノズル板15から離間した位置との間で移動することにより、ノズル14(吐出口)が開閉される。
【0031】
本実施形態に係る液体吐出モジュール30においては、開閉弁31が、芯材310と、芯材310の先端部に取り付けられるシール部材40とにより構成されているため、シール部材40が芯材310から外れないように両部材を接合する必要がある。接合手段として、例えば、接着剤による接着があるが、シール部材40がフッ素樹脂などの接着しにくい材料により形成される場合は、接着による接合は困難である。また、他の接合手段として、芯材310の先端部を加締め、シール部材40を機械的に接合する手段があるが、芯材310の先端部を加締める方法は次のような課題がある。
【0032】
図27は、加締めによる接合構造を採用した開閉弁31の拡大断面図である。
【0033】
図27に示される構成においては、芯材310の先端部が図中の破線の状態から実線の状態へ加締められることにより、シール部材40が拘束され、凹部312からのシール部材40の脱落が防止される。しかしながら、この場合、シール部材40の比較的先端側の部分(加締め箇所)においてシール部材40が拘束されることにより、弾性変形(特に凹部312の深さ方向Bの弾性変形)が制限されるため、シール部材40の良好な弾性機能が得られなくなる。
【0034】
また、シール部材40がシート状の部材をパンチ抜きして形成される場合は、シール部材40が、
図28に示されるような図の上端部及び下端部よりも上下方向中間部側において幅が小さくなる形状に形成される傾向にある。このようなシール部材40の場合、凹部312内にシール部材40が挿入されると、
図29に示されるように、シール部材40と凹部312の側面312bとの間に隙間が発生する。さらに、この状態から芯材310の先端部が加締められると、加締めによりシール部材40が変形し、シール部材40と凹部312の側面312bとの間の隙間が大きくなると共に、シール部材40と凹部312の底面312aとの間にも隙間が発生する。その結果、凹部312内におけるシール部材40の密着性が低下すると共に、シール部材40の姿勢が安定しなくなる。このため、
図30に示されるように、シール部材40がノズル板15に押し当てられると、シール部材40が図中の破線の状態から実線の状態へ後退する。そのせいで、ノズル板15に対するシール部材40の所望の圧接力が得られなくなり、シール性が低下する。
【0035】
ここで、上記のような加締め接合弁において、シール部材40の弾性機能を調べる試験を行った。本試験においては、先端直径が500μmのシール部材40を、加締めにより開閉弁31の芯材310に接合し、その開閉弁31を試験機に取り付け、
図31に示される水晶圧電型の工具動力計80に対して、シール部材40を1μmずつ、合計10μm押し込んで加圧した。その後、シール部材40を1μmずつ後退させて減圧し除荷した。また、加圧時(前進時)と減圧時(後退時)の開閉弁31の変位(押し込み量)及び荷重を測定した。その測定された変位と荷重との関係を
図32に示す。
【0036】
図32において、実線は、加圧時の開閉弁31の変位荷重曲線を示し、破線は、減圧時の開閉弁31の変位荷重曲線を示す。
図32に示されるように、加圧開始の荷重が0[N]のとき、変位は0[μm]であるのに対し、除荷時は変位が約5[μm]となった。これは、シール部材40が工具動力計80に押し当てられた際に、シール部材40が凹部312内に後退して変位したことにより、除荷してもシール部材40の先端が元の位置(加圧前の位置)に戻らずに、約5[μm]後退したものと考えられる。このため、本来であれば、シール部材40の弾性率(一次係数)が1[N/μm]程度であるところ、シール部材40の見かけの弾性率が低下し、1[N/μm]よりも小さい0.4[N/μm]程度になった。
【0037】
このように、加締め接合弁においては、シール部材40の先端側が拘束されることにより、弾性変形が制限されることに加え、加圧時にシール部材40が凹部312内へ後退することによって見かけの弾性率が低下するため、シール部材40が所望の弾性機能を発揮できなくなる。しかも、このような弾性機能の低下は、一定ではなく、加締め加工のばらつきの影響を受ける。このため、シール性を確保するには、シール部材40の弾性機能の低下の度合いに応じて、開閉弁31ごとに次のような位置調整を行う必要がある。
【0038】
図33は、開閉弁31の位置(変位)とノズル14から吐出されるインクの吐出量との関係を示す図である。
図33(e)中の(a)~(d)は、開閉弁31が同図(a)~(d)の各位置に配置される場合のそれぞれの吐出量を示す。
【0039】
図33(a)に示される状態においては、開閉弁31の先端部(シール部材40)がノズル14から最も離れた位置にある。このとき、インクの吐出量は最大となる。そして、
図33(b)に示されるように、開閉弁31の先端部がノズル14に近づくにつれて、インクの吐出量は減少する。さらに、開閉弁31の先端部がノズル14に対して接近し、
図33(c)に示されるように、シール部材40がノズル板15に接触すると、インクの吐出量はほぼ0になる。ただし、この状態においてノズル14は完全には封止されていない。ノズル14の封止を完全に行うには、
図33(d)に示されるように、開閉弁31の先端部(シール部材40)をノズル板15に押し付けてシール部材40を圧縮させる必要がある。
【0040】
しかしながら、開閉弁31の先端部をノズル板15に押し付けた際に、上記のように、シール部材40が凹部312内へ後退すると、シール部材40の圧縮量を十分に確保できないため、ノズル14を封止できなくなる。そのため、シール部材40が後退する距離の分だけ開閉弁31の基準位置(初期位置)を前進方向へずらし、シール部材40の圧縮量が十分に得られるようにする必要がある。
【0041】
しかしながら、開閉弁31の基準位置を前進方向へずらすと、圧電素子の伸縮量が一定(例えば、20μm~30μm程度)であることから、ノズル14が開放された状態での開閉弁31の位置が変化する。ノズル14が開放された状態においては、所定のインク吐出量が得られるようにするため、シール部材40とノズル14とのギャップを十分に(例えば5μm以上に)確保する必要がある。そのため、開閉弁31の位置調整においては、ノズル開放時のシール部材40とノズル14とのギャップを十分に確保しつつ、かつ、ノズル閉鎖時のシール部材40の圧縮量を十分に確保するといった管理が必要となる。このようなノズル開放時とノズル閉鎖時における開閉弁31の位置を両立することは難しく、調整作業に多くの労力と時間を費やすことになる。そこで、本発明においては、開閉弁の位置調整作業を容易にすべく、シール部材の弾性機能の低下に起因する問題を改善することを目的としている。
【0042】
以下、本発明に係るシール部材の接合構造について、
図5に示される実施形態を例に説明する。
【0043】
図5に示されるように、本実施形態においては、芯材310の凹部312に、シール部材40の脱落を防止する抜け止め部50が設けられている。抜け止め部50は、凹部312の幅が広く形成されている部分である。ここでいう「幅」とは、凹部312の深さ方向Bに直交する方向Cの大きさを意味する。なお、以下の説明における「幅」も同じ意味である。
【0044】
抜け止め部50は、凹部312の底面312a側に設けられている。特に、本実施形態においては、抜け止め部50が、底面312aに隣接するように設けられている。また、底面312aには、断面三角形状の突起61が設けられている。突起61は、底面312aの中央に設けられており、底面312aから凹部312開口側(
図5における下方)に向かって突出している。
【0045】
図6に、芯材310とシール部材40とを分離した状態を示す。
【0046】
図6に示されるように、芯材310から分離された状態のシール部材40は、円柱状に形成されており、凹部312の形状とは異なる形状に形成されている。このような形状のシール部材40が凹部312内に挿入されると、シール部材40の挿入方向の先端面が凹部312に設けられている突起61に押し当てられることにより幅方向に押し広げられる。これにより、シール部材40の一部(押し広げられた部分)が抜け止め部50内に充填され、シール部材40が抜け止め部50に対して嵌合する(
図5参照)。
【0047】
このように、本実施形態においては、シール部材40を凹部312内に挿入することにより、シール部材40の一部が抜け止め部50に嵌合するため、シール部材40が凹部312から脱落しないように接合される。従って、本実施形態においては、芯材310の先端部を加締めなくてもシール部材40を接合でき、上記のような加締めに伴う種々の問題を解消できる。
【0048】
すなわち、本実施形態の場合、シール部材40の先端側の部分が加締められないので、先端側におけるシール部材40の拘束がなく、シール部材40の弾性変形が許容される。また、シール部材40が加締められることによる凹部312内の隙間の発生及び隙間の拡大が軽減されるので、シール部材40の姿勢が安定すると共に、加圧時の凹部312内へのシール部材40の後退も軽減される。これにより、シール部材40が凹部312内へ後退することによる見かけの弾性率低下も抑制される。
【0049】
ここで、本実施形態においては、上記抜け止め部50が凹部312の底面312aに隣接するように設けられているが、反対に、抜け止め部50が凹部312の開口側に設けられていると、シール部材40と抜け止め部50との嵌合により、シール部材40の弾性変形(特に凹部312の深さ方向Bの弾性変形)が、その先端側において制限される虞がある。この点に関して、本実施形態においては、
図5に示されるように、抜け止め部50が、凹部312の深さ方向Bの底面側半分の領域d2に設けられているため、シール部材40がその先端側において拘束されない。すなわち、本実施形態においては、シール部材40の弾性変形が先端側において許容されるので、先端側におけるシール部材40の弾性機能を良好に確保でき、シール部材40がノズル板15に押し当てられたときの圧縮量を十分に確保できる。
【0050】
以上のように、本実施形態においては、シール部材40の弾性機能を良好に確保して、十分な圧縮量が得られるので、ノズル14を良好かつ確実に封止できる。また、本実施形態においては、シール部材40がノズル板15に押し当てられた際の凹部312内へのシール部材40の後退も軽減できるため、開閉弁31の位置調整も行いやすくなる。従って、本実施形態の構成によれば、インク吐出量(開閉弁の位置)の調整作業が行いやすく、シール性及び接合性に優れる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供できるようになる。
【0051】
図7は、本発明の実施形態における開閉弁31の変位(押し込み量)と荷重との関係を示す図である。
図7において、実線は、加圧時の開閉弁31の変位荷重曲線を示し、破線は、減圧時の開閉弁31の変位荷重曲線を示す。また、この関係を調べるために行った試験の方法は、上記試験と同じ方法である。
【0052】
図7に示されるように、本実施形態においては、加圧時(前進時)の開閉弁31の変位荷重曲線(実線)と、減圧時(後退時)の開閉弁31の変位荷重曲線(破線)との間に大きな変化は無く、加圧開始時と除荷時におけるシール部材先端の位置変化もほとんど見られなかった。この結果より、本実施形態においては、凹部312内へのシール部材40の後退が軽減され、シール部材40が良好な弾性機能を発揮できることが分かった。以上のことから、本実施形態の構成(接合構造)によれば、シール部材40の良好なシール性の確保と、位置調整の作業性向上とを実現できるといえる。
【0053】
本実施形態においては、抜け止め部50が底面312aに隣接するように設けられているが、底面側半分の領域d2であれば、抜け止め部50は必ずしも底面312aに隣接していなくてもよい。また、抜け止め部50の形状は、
図5に示されるような、断面矩形の形状に限らず、三角形状又は半円状の断面形状であってもよい。要するに、抜け止め部50は、底面312aに向かって幅が大きくなる形状であれば、幅が急激に広がる形状であってもよいし、滑らかに漸増する形状であってもよい。なお、抜け止めの機能をより良好に確保する観点からは、抜け止め部50が、凹部312の深さ方向Bに対して直角又はそれに近い角度をもって幅が広がるような形状(例えば、
図5に示されるような形状)であることが好ましい。また、抜け止め部50は、
図8に示される例のように、底面312aの中央を中心とする円周方向Eの全体に渡って連続して設けられていてもよいし、
図9に示される例のように、円周方向Eの一部に設けられていてもよい。
【0054】
続いて、開閉弁31の変形例について説明する。なお、以下の説明においては、主に上記実施形態とは異なる部分について説明し、それ以外の部分については基本的に同じ構成であるので適宜説明を省略する。
【0055】
図10に示される変形例においては、凹部312に設けられる突起61の形状が上記実施形態とは異なっている。上記実施形態においては、突起61が断面三角形の円錐状又は角錐状に形成されているが(
図5参照)、
図10に示される例においては、突起61が半球状又は球面状に形成されている。このように、突起61が半球状又は球面状である場合も、突起61は、シール部材40を幅方向に押し広げて抜け止め部50内に充填させる充填補助部として機能できる。また、突起61は、その他の形状(円柱状、角柱状など)であってもよい。
【0056】
【0057】
上記実施形態においては、シール部材40が均等な幅の円柱状に形成されているが(
図6参照)、
図11に示されるシール部材40は、図の上端部及び下端部から上下方向中間部側に向かって幅が小さくなるように形成されている。上述のように、パンチ抜きの場合は、シール部材40がこのような形状に形成される傾向にある。
【0058】
斯かる形状のシール部材40が凹部312に挿入されると、
図12に示されるように、凹部312の側面312bとシール部材40との間に隙間が生じる場合がある。この場合、凹部312に対するシール部材40の密着性は低下するが、凹部312の側面312bとシール部材40との間において多少隙間があってもよい。
【0059】
すなわち、この場合も、加締めによる接合構造が用いられないことにより、加締めに伴うシール部材40の弾性変形の制限と、シール部材40と凹部312との間の隙間の拡大を回避できるので、シール部材40の弾性機能を良好に確保できる。また、シール部材40がノズル板15に押し当てられた際の凹部312内へのシール部材40の後退も生じにくくなるため、開閉弁31の位置調整を行いやすくなる。従って、この場合も、シール部材40の良好なシール性の確保と、位置調整の作業性向上とを期待できる。
【0060】
続いて、
図13及び
図14に示される例は、凹部312とシール部材40の両方の形状が上記実施形態とは異なる。具体的に、
図13及び
図14に示される例においては、凹部312の幅がその開口縁312cに向かって次第に大きくなるように形成され、抜け止め部50は断面が三角形状に形成されている。一方、シール部材40はその先端側(ノズル側)に向かって幅が次第に小さくなるように形成されている。
【0061】
このように、抜け止め部50は、断面三角形状に形成されていてもよい。また、凹部312内がその開口縁312cに向かって幅が次第に大きくなるように形成され、反対に、シール部材40がその先端側に向かって幅が次第に小さくなるように形成されていることにより、凹部312の開口縁312c及びその近傍において、シール部材40と凹部312の側面312bとの間に隙間が形成される(
図13参照)。このため、
図13に示される例においては、
図15に示されるように、シール部材40の先端がノズル板15に押し当てられた際、ノズル板15が傾いている場合でも、シール部材40がノズル板15の傾きに追従して変形できる。すなわち、シール部材40の先端側の部分が凹部312の側面312bによって拘束されていないため、ノズル板15の傾きに応じてシール部材40の変形が許容される。
【0062】
これにより、シール部材40がノズル板15に押し当てられた際に、ノズル板15に対して無理な負荷がかかるのを抑制でき、ノズル板15の変形に伴うインク吐出方向の曲がりなどの不具合を回避できる。また、ノズル板15に対するシール部材40の密着性も確保できるので、良好なシール性が得られる。さらに、ノズル開放時のシール部材40とノズル14とのギャップも十分に確保できるため、所定のインク吐出量も確保できるようになる。
【0063】
また、このようなシール部材40の先端側における変形を許容する隙間(シール部材40と凹部312の側面312bとの間の隙間)は、少なくとも開口縁312cを含む凹部312の開口側半分の領域d1において、凹部312の側面312bとシール部材40との間に設けられていればよい(
図13参照)。
【0064】
図13及び
図14に示される例においては、凹部312の幅が開口縁312cに向かって次第に大きくなっているが、
図16に示される例のように、凹部312の幅が段差状に大きくなるようにしてもよい。また、
図17に示される例のように、凹部312の幅が開口縁312cに向かって次第に大きくなるように形成されていれば、シール部材40の幅は均一であってもよい。反対に、
図18に示される例のように、シール部材40の幅が先端側(ノズル側)に向かって小さくなるように形成されていれば、凹部312の開口側半分の領域d1における幅は均一であってもよい。すなわち、少なくとも開口縁312cを含む凹部312の開口側半分の領域d1において、シール部材40と凹部312の側面312bとの間に隙間を形成できれば、幅を大きくする又は小さくするのは凹部312とシール部材40のいずれか一方のみであってもよい。
【0065】
また、
図19に示される例のように、芯材310は、凹部312の底面312aに沿って二分割されてもよい。この場合、抜け止め部50を、凹部312の底面312a側から加工でき、抜け止め部50の加工が行いやすくなる。
【0066】
また、
図20に示される例のように、抜け止め部50は、凹部312の深さ方向Bに渡って連続して設けられる複数の溝62により構成されてもよい。この場合、シール部材40が凹部312内に挿入されると、
図21に示されるように、シール部材40の一部が溝62内に充填されることにより、シール部材40が凹部312から脱落しないように接合される。また、抜け止め部50としての溝62は、凹部312の深さ方向Bの底面側半分の領域d2に設けられているので、上記実施形態と同じように、先端側におけるシール部材40の弾性機能を良好に確保できる。従って、この例の場合も、シール部材40の弾性機能を維持しつつ、シール部材40を開閉弁31の芯材310に接合できる。なお、溝62は、互いに独立して形成される複数の環状溝であってもよいし、連続して形成される1つの螺旋状溝であってもよい。また、溝62の形状は、
図20に示されるような断面三角形状のほか、断面矩形状又は断面半円状であってもよい。
【0067】
さらに、
図20に示される例においては、溝62と底面312aとの間に、溝62が形成されないストレート部63が設けられている。ストレート部63は、底面312aと直交する方向(深さ方向B)に伸びる筒状の面である。このため、ストレート部63においては、凹部312の幅が、深さ方向Bに渡って変化せず同じ大きさに形成されている。このように、溝62と底面312aとの間にストレート部63が設けられていることにより、溝62を底面312aに隣接する位置まで切削加工しなくてもよいため、溝62の形成を容易に行うことができる。
【0068】
次に、以上で説明した液体吐出ヘッド10を備えた液体吐出装置について説明する。
【0069】
図22は、液体吐出装置100の全体概略構成図である。
図22(a)は液体吐出装置の側面図、
図22(b)は同装置の平面図である。液体吐出装置100は、対象物の一例である液体付与対象500に対向して設置されている。液体吐出装置100は、X軸レール101と、このX軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101及びY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。特に、本実施形態においては、各レール101,102,103は互いに直交する方向に延在する。
【0070】
Y軸レール102は、X軸レール101がY軸方向に移動可能なようにX軸レール101を保持する。また、X軸レール101は、Z軸レール103がX軸方向に移動可能なようにZ軸レール103を保持する。そして、Z軸レール103は、キャリッジ1がZ軸方向に移動可能なようにキャリッジ1を保持する。
【0071】
液体吐出装置100は、キャリッジ1をZ軸レール103に沿ってZ軸方向に動かす第1のZ方向駆動部92と、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX軸方向に動かすX方向駆動部72を備える。また、液体吐出装置100は、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY軸方向に動かすY方向駆動部82を備える。さらに、液体吐出装置100は、キャリッジ1に対してヘッド保持体70をZ軸方向に動かす第2のZ方向駆動部93を備える。
【0072】
前述した液体吐出ヘッドは、液体吐出ヘッド10のノズル14(
図2参照)が液体付与対象500に対向するようにヘッド保持体70に取り付けられる。このように構成された液体吐出装置100は、キャリッジ1をX軸、Y軸及びZ軸の方向に動かしながら、ヘッド保持体70に取り付けられた液体吐出ヘッドから液体付与対象500に向けて液体の一例であるインクを吐出し、液体付与対象500に描画を行う。
【0073】
次に、液体吐出装置の別の実施例であるインクジェットプリンタ201の構成について、
図23~
図26を参照して説明する。
図23は、本実施形態に係る液体吐出装置の一例としてのインクジェットプリンタ201の構成を示す構成図である。
図24は、プリント対象である自動車Mに対する
図23に示すインクジェットプリンタ201の配置例を示す説明図である。
図25は、液体付与対象である自動車Mに対する
図23に示すインクジェットプリンタ201の他の配置例を示す説明図である。
図26は、インクジェットプリンタで球面に画像をプリントした場合の説明図である。
図26(a)は、インクジェットプリンタ201で球面に画像をプリントした場合の説明図、
図26(b)は、球面に四角形をプリントした場合の結果を示す説明図、
図26(c)は、球面にインクジェットプリンタ201で四角形を連続してプリントした場合の説明図である。
【0074】
図23に示されるように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ201は、プリントヘッド202と、X-Yテーブル203と、カメラ204と、制御部209と、駆動部211などを備えている。
【0075】
プリントヘッド202は、被塗装物Mの被塗装面に向けてインク(液体)を吐出するインクジェット方式の液体吐出ヘッドである。なお、ここでいう「インク」には「塗料」も含まれるものとする。プリントヘッド202は、複数の弁型ノズルを備え、インクは各弁型ノズルからプリントヘッド202の吐出面とは垂直な方向に吐出される。すなわち、プリントヘッド202のインクの吐出面は、X-Yテーブル203の移動によって形成されるXY平面と平行であり、各弁型ノズルから吐出されるインクドットはX-Y平面に対して垂直な方向に吐出される。また、各弁型ノズルから吐出されるインクの吐出方向はそれぞれ平行に吐出される。各弁型ノズルは、それぞれ所定の色のインクタンクと連結されている。また、インクタンクが加圧装置によって加圧されていることにより、各弁型ノズルと被塗装物Mのプリント対象面との距離が20cm程度であれば、問題なく各弁型ノズルからインクドットをプリント対象面に吐出することができる。
【0076】
X-Yテーブル203は、プリントヘッド202及びカメラ204を互いに直交するX方向及びY方向に移動させる機構を備えている。具体的に、X-Yテーブル203は、プリントヘッド202及び後述のカメラ204を保持するスライダをX方向に移動させるX軸移動機構205と、X軸移動機構205を2つのアームで保持しつつY方向に移動させるY軸移動機構206とを備えている。また、Y軸移動機構206にはシャフト207が設けられており、このシャフト207をロボットアーム208が保持して駆動することにより、プリントヘッド202を被塗装物Mに対してプリントを行うべき所定位置に自由に配置できる。例えば、被塗装物Mが自動車である場合、ロボットアーム208は、プリントヘッド202を
図24に示されるような自動車の上部あるいは
図25に示されるような自動車の横位置などに配置できる。なお、ロボットアーム208の動作は、予め制御部209に格納されたプログラムに基づいて制御される。
【0077】
カメラ204は、被塗装物Mのプリント対象面を撮影するデジタルカメラなどの撮像手段である。カメラ204は、X軸移動機構205及びY軸移動機構206によってX方向及びY方向に移動しながら被塗装物Mのプリント対象面の所定の範囲を一定の微小な間隔で撮影する。カメラ204のレンズ及び解像度などの仕様は、プリント対象面の所定の範囲について複数の細分割画像の撮影が可能なように適宜選択される。カメラ204によるプリント対象面の複数の細分割画像の撮影は、後述の制御部209によって連続的、かつ、自動的に行われる。
【0078】
制御部209は、カメラ204によって撮影された画像を編集する画像編集ソフトウエアSと予め設定された制御プログラムに基づいてX-Yテーブル203を動作させてプリントヘッド202のプリント動作(インク吐出動作)を制御する。制御部209は、いわゆるマイクロコンピュータによって構成され、各種のプログラム及び撮影済みの画像のデータのほかプリントすべき画像のデータなどを記録保存する記憶装置、プログラムに従って各種の処理を実行する中央処理装置、キーボードやマウスなどの入力装置、必要に応じてDVDプレイヤーなどを備えている。さらに、制御部209は、モニタ210を備えている。モニタ210は、制御部209への入力情報や制御部209による処理結果などを表示する。
【0079】
制御部209は、カメラ204によって撮影された複数の細分割画像データを、画像処理ソフトを用いて画像処理を行い、被塗装物Mの平面でないプリント対象面を平面に投影された合成プリント面として生成する。また、制御部209は、既にプリント対象面にプリントされた画像に対して連続するようにプリントされる描画対象画像を、合成プリント面に重ね、描画対象画像がプリント済み画像の縁端部と連続するように編集を行い、描画対象編集画像を生成する。例えば、
図26(c)に示した描画対象画像であるプリント画像252bについて、隣接するプリント画像252aとの間に非プリント領域253が形成されないようにプリント画像252bを合成プリント面に整合するように編集することにより、描画対象編集画像を生成する。そして、生成された描画対象編集画像に基づいてプリントヘッド202からプリント対象面にインクが吐出されることにより、新しい画像がプリント済みの画像との間に隙間を生じることなくプリントされる。なお、カメラ204による複数の細分割画像の撮影及びプリントヘッド202の各ノズルからのインクの吐出によるプリントの動作は、制御部209によって動作制御された駆動部211によって行われる。
【0080】
図26(a)においては、球状物の液体付与対象251の球面状の表面にインクジェットノズルによって二次元の四角形を形成するような場合に、ノズルヘッド250に搭載された各インクジェットノズルから噴射されるインクの吐出方向が図示されている。
図26(b)においては、ノズルヘッド250に搭載された各インクジェットノズルから噴射されるインクはノズルヘッド250に対して垂直方向に吐出されるので、液体付与対象251の表面にプリントされたプリント画像252aが、周辺が歪んだ形状の四角形となることが図示されている。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0082】
本発明において、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0083】
また、「液体吐出装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0084】
例えば、「液体吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0085】
また、「液体吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形などの有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターンなどを形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0086】
上記「液体が付着可能なもの」とは、前述した液体付与対象のことであり、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0087】
また、「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0088】
また、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0089】
また、「液体吐出装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0090】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の構成を備える液体吐出ヘッド及び液体吐出装置が含まれる。
【0091】
[第1の構成]
第1の構成は、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口を開閉する開閉弁と、を備える液体吐出ヘッドであって、前記開閉弁は、前記吐出口側へ開口する凹部が設けられる芯材と、前記凹部に嵌合すると共に一部が前記凹部から前記吐出口側へ突出する弾性部材と、を有し、前記凹部は、深さ方向の底面側半分の領域において、底面に向かって幅が大きくなる抜け止め部を有する液体吐出ヘッドである。
【0092】
[第2の構成]
第2の構成は、前記第1の構成において、前記弾性部材は、前記抜け止め部内に充填されている液体吐出ヘッドである。
【0093】
[第3の構成]
第3の構成は、前記第1又は第2の構成において、前記抜け止め部は、前記底面に隣接して設けられている液体吐出ヘッドである。
【0094】
[第4の構成]
第4の構成は、前記第1から第3のいずれか1つの構成において、前記凹部は、前記底面に設けられた突起を有する液体吐出ヘッドである。
【0095】
[第5の構成]
第5の構成は、前記第1から第4のいずれか1つの構成において、前記凹部の少なくとも開口縁と前記弾性部材との間に隙間が設けられている液体吐出ヘッドである。
【0096】
[第6の構成]
第6の構成は、前記第5の構成において、前記凹部は、前記開口縁に向かって幅が大きくなる液体吐出ヘッドである。
【0097】
[第7の構成]
第7の構成は、前記第5又は第6の構成において、前記弾性部材は、前記吐出口側へ向かって幅が小さくなる液体吐出ヘッドである。
【0098】
[第8の構成]
第8の構成は、前記第1又は第2の構成において、前記凹部は、前記抜け止め部と前記底面との間に前記底面に対して直交する方向に伸びるストレート部を有する液体吐出ヘッドである。
【0099】
[第9の構成]
第9の構成は、前記第1から第8のいずれか1つの構成において、前記吐出口が形成された吐出口形成部材を備え、前記開閉弁は、前記弾性部材を前記吐出口形成部材に押し当てる位置と前記吐出口形成部材から離間した位置との間で移動することにより前記吐出口を開閉する液体吐出ヘッドである。
【0100】
[第10の構成]
第10の構成は、前記第1から第9のいずれか1つの構成の液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置である。
【符号の説明】
【0101】
10 液体吐出ヘッド
14 ノズル(吐出口)
31 開閉弁
40 シール部材(弾性部材)
50 抜け止め部
61 突起
63 ストレート部
310 芯材
312 凹部
312a 底面
312b 側面
312c 開口縁
B 深さ方向
d1 開口側半分の領域
d2 底面側半分の領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】