IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星電子株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特開2023-13561イオン性塩および感放射線レジスト組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013561
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】イオン性塩および感放射線レジスト組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 57/42 20060101AFI20230119BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20230119BHJP
   C07C 309/38 20060101ALI20230119BHJP
   C07C 309/44 20060101ALI20230119BHJP
   C07C 247/18 20060101ALI20230119BHJP
   C07C 63/08 20060101ALI20230119BHJP
   C07D 207/452 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C07C57/42 CSP
G03F7/004
G03F7/004 531
C07C309/38
C07C309/44
C07C247/18
C07C63/08
C07D207/452
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117851
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂井 信支
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼野 光正
(72)【発明者】
【氏名】八木 弾生
(72)【発明者】
【氏名】内田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直希
【テーマコード(参考)】
2H225
4C069
4H006
【Fターム(参考)】
2H225AB03
2H225AC19
2H225AC31
2H225AN10P
2H225AN73P
2H225AN80P
2H225AN84P
2H225AP08P
2H225CA12
2H225CB14
2H225CB18
2H225CC01
2H225CC03
2H225CD05
4C069AD08
4C069BB02
4C069BB48
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB80
4H006BS70
(57)【要約】
【課題】放射線(特にはEUV)の吸収特性に優れ、感度、現像性、解像性等の特性を向上させることができる手段を提供する。
【解決手段】金属クラスター構造または金属酸化物クラスター構造を有する多価イオン(a)と、有機イオン(b)と、からなるイオン性塩であって、前記多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含み、前記有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4以上のアンモニウムカチオン;および、炭素数5以上のピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である、イオン性塩。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属クラスター構造または金属酸化物クラスター構造を有する多価イオン(a)と、
有機イオン(b)と、
からなるイオン性塩であって、
前記多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含み、
前記有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4以上のアンモニウムカチオン;ならびに、炭素数5以上のピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である、イオン性塩。
【請求項2】
前記有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4以上であり、かつ炭素-炭素多重結合含有基、カルボニル基含有基、オキシム基、オキシムエステル基、ハロゲン化アルキル基、リン含有基、ジアゾ基、およびアジド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するアンモニウムカチオン;ならびに、炭素数5以上であり、かつ炭素-炭素多重結合含有基、カルボニル基含有基、オキシム基、オキシムエステル基、ハロゲン化アルキル基、リン含有基、ジアゾ基、およびアジド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のイオン性塩。
【請求項3】
前記多価イオン(a)中の金属原子の総数が4個以上30個以下である、請求項1または2に記載のイオン性塩。
【請求項4】
前記多価イオン(a)中の金属原子の総数100at%に対して、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子の含有量が50at%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項5】
前記多価イオン(a)の分子量が600以上9000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項6】
前記多価イオン(a)の平均直径が0.5nm以上10nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項7】
前記多価イオン(a)の価数は3価以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項8】
前記多価イオン(a)は、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項9】
前記有機イオン(b)は、ビニル基、スチルベン基、アジド基、ジアゾアルカン基、ジアジリジン基、ケイ皮酸基、アントラセン基、アントラキノン基、マレイミド基、スチリルピリジン基、アリールスルホニウム基、アリールヨードニウム基、およびフェニルエステル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項10】
前記有機イオン(b)の分子量は50以上5000以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項11】
総分子量が650以上30000以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項12】
前記多価イオン(a)の分子量と前記有機イオン(b)の合計分子量との比[(a)の分子量/(b)の合計分子量]が0.3以上30以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載のイオン性塩。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のイオン性塩と、有機溶媒と、を含む、感放射線レジスト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性塩および感放射線レジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの高速化、低消費電力化をもたらす半導体加工の微細化が絶えず求められており、その中心となるリソグラフィー技術の研究開発が進められている。近年では、リソグラフィーの光源が極端紫外線(EUV)に置き換わり、20nm以下の線幅のレジストパターンが得られてきている。このレジストパターンを得るために使用されている化学増幅系レジストは、これまで使用されてきた材料と比較して、感度と解像性とに優れるため、前世代の光源であるエキシマレーザーの時代から広く採用されている。
【0003】
しかしながら、将来必要な10nm以下の線幅のレジストパターンを得るためには、化学増幅系レジストの感度および解像性が、共に不足しているという問題がある。その原因として、化学増幅系レジストに含まれる有機材料のEUVの吸収率が低いため、EUVによって放出される光子のエネルギーを効率よく化学反応に転換できないことが挙げられる。これに対し、新規な材料として、金属系のレジスト材料が提案されている(特許文献1参照)。金属原子は、有機材料の主成分である炭素原子や酸素原子に比べて、EUVの吸収係数が大幅に高く、光子のエネルギーを補足できるという利点がある。そのため、化学増幅系レジストと比較して、感度および解像性に優れるという長所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-17780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によっても、感度や解像性が不十分であり、これらの特性の更なる向上が求められていた。
【0006】
そこで本発明は、放射線(特にはEUV)の吸収特性に優れ、感度、現像性、解像性等の特性を向上させることができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決されうる。すなわち本発明の一実施形態は、金属クラスター構造または金属酸化物クラスター構造を有する多価イオン(a)と、有機イオン(b)と、からなるイオン性塩であって、
前記多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含み、
前記有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4以上のアンモニウムカチオン;および、炭素数5以上のピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である、イオン性塩である。
【0008】
本発明の他の実施形態は、上記イオン性塩と、有機溶媒と、を含む感放射線レジスト組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射線(特にはEUV)の吸収特性に優れ、感度や解像性を向上させることができる手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1-1】合成例1で得られた化合物1の粉末X線回折パターンを示す図である。
図1-2】合成例1で得られた化合物1のFT-IRスペクトルを示す図である。
図2-1】合成例2で得られた化合物2の粉末X線回折パターンを示す図である。
図2-2】合成例2で得られた化合物2のFT-IRスペクトルを示す図である。
図3】合成例3で得られた化合物3のFT-IRスペクトルを示す図である。
図4】合成例4で得られた化合物4のFT-IRスペクトルを示す図である。
図5】合成例5で得られた化合物5のFT-IRスペクトルを示す図である。
図6】合成例6で得られた化合物6のFT-IRスペクトルを示す図である。
図7】合成例7で得られた化合物7のFT-IRスペクトルを示す図である。
図8】合成例8で得られた化合物8のFT-IRスペクトルを示す図である。
図9】合成例9で得られた化合物9のFT-IRスペクトルを示す図である。
図10】合成例10で得られた化合物10のFT-IRスペクトルを示す図である。
図11】合成例11で得られた化合物11のFT-IRスペクトルを示す図である。
図12】合成例12で得られた化合物12のFT-IRスペクトルを示す図である。
図13】合成例13で得られた化合物13のFT-IRスペクトルを示す図である。
図14】合成例14で得られた化合物14のFT-IRスペクトルを示す図である。
図15】合成例15で得られた化合物15のFT-IRスペクトルを示す図である。
図16】合成例16で得られた化合物16のFT-IRスペクトルを示す図である。
図17】合成例17で得られた化合物17のFT-IRスペクトルを示す図である。
図18】合成例18で得られた化合物18のFT-IRスペクトルを示す図である。
図19】合成例19で得られた化合物19のFT-IRスペクトルを示す図である。
図20】合成例20で得られた化合物20のFT-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0012】
<イオン性塩>
本発明の一形態は、金属クラスター構造または金属酸化物クラスター構造を有する多価イオン(a)と、有機イオン(b)と、からなるイオン性塩である。多価イオン(a)と有機イオン(b)とは、イオン結合により結合し塩を形成している。
【0013】
上記多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含む。また、上記有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4以上のアンモニウムカチオン;および、炭素数5以上のピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0014】
上記のような構成を有する本発明に係るイオン性塩は、放射線(特にはEUV)の吸収特性に優れ、感度、現像性、解像性等の特性を向上させることができる。
【0015】
本発明者らは、上記構成のイオン性塩によって課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0016】
本発明に係る多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含む。これらの金属原子は、放射線(特にはEUV)に対する高い吸収係数を有しており、2次電子が効率よく発生し、本発明のイオン性塩の感度を向上させることができる。
【0017】
また、当該多価イオン(a)の多価イオン性により、対イオンとなる有機イオン(b)の幅広い構造設計が可能となり、感度、現像性、解像性などを向上させやすくなる。また、多価イオン性であることにより、多価イオン(a)同士の反発力が高くなり、液中での分散性が向上する。よって、本発明のイオン性塩を含むレジスト組成物を塗布しレジスト膜を形成した場合、レジスト膜の均一性が向上し、現像性や解像性が向上しやすい。
【0018】
さらに、本発明に係る有機イオン(b)は、放射線照射を受けた多価イオン(a)から発生する2次電子によって、極性変化反応、架橋反応などの化学反応が効率よく起こる構造を有している。このような有機イオン(b)を有する本発明のイオン性塩は、感度、現像性、解像性等が向上したものとなる。
【0019】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。また、本明細書における他の推測事項についても同様に、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0020】
以下、本発明のイオン性塩について説明する。
【0021】
[イオン性塩]
<多価イオン(a)>
本発明のイオン性塩は、金属クラスターまたは金属酸化物クラスターを含む多価イオン(a)を有する。ここで、「金属クラスター」とは、金属原子同士の結合によって一定の構造単位を有する金属原子を含む化合物の集合体を意味する。また、「金属酸化物クラスター」とは、金属酸化物を構成する複数種の原子または分子が結合してなる原子集団もしくは分子集団、または集合体のことである。このようクラスター構造を有することにより、該多価イオン(a)はサイズが小さくなり、レジストに使用した場合、解像性が向上する。
【0022】
本発明に係る多価イオン(a)は、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含む。放射線(特にはEUV)の吸収特性のさらなる向上という観点から、多価イオン(a)は、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子を含むことが好ましい。
【0023】
多価イオン(a)中の金属原子の総数は、4個以上30個以下であることが好ましく、4個以上20個以下であることがより好ましい。この範囲であれば、多価イオン(a)のサイズがより小さくなり、解像性がより向上する。
【0024】
多価イオン(a)中の金属原子の総数100at%に対して、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子の含有量は50at%以上であることが好ましい。このような含有量であれば、放射線(特には極端紫外線(EUV))に対する高い吸収係数を有する金属原子が多く存在することになり、感度がより向上する。多価イオン(a)中の金属原子の総数100at%に対して、スズ、インジウム、アンチモン、テルル、およびビスマスからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子の含有量は、70at%以上であることがより好ましい。なお、当該含有量の上限は100at%である。
【0025】
多価イオン(a)の分子量は、600以上9000以下であることが好ましく、1000以上6000以下であることがより好ましい。かような範囲の分子量であれば、多価イオン(a)のサイズはより小さくなり、解像性がより向上する。なお、本明細書において、分子量は、イオンまたは化合物を構成する原子の原子量の和である。
【0026】
多価イオン(a)の価数は3価以上であることが好ましく、3価以上10価以下であることがより好ましい。このような価数であれば、レジスト膜の膜均一性がさらに向上し、感度、現像性、解像性などがさらに向上しうる。
【0027】
多価イオン(a)の平均直径は、解像性をより向上させるという観点から、10nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。なお、当該平均直径の下限は、通常0.5nm以上である。この平均直径は、単結晶X線構造解析、溶液の動的光散乱分析等の方法により測定することができる。
【0028】
本発明に係る多価イオン(a)は、アニオン性であってもよいし、カチオン性であってもよい。さらに、本発明に係る多価イオン(a)は、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0029】
本発明に係る多価イオン(a)の具体例を、下記に示す。
【0030】
【化1】
【0031】
これら多価イオン(a)の中でも、下記に挙げるイオンの1種または2種以上が好ましい。
【0032】
【化2】
【0033】
(多価イオン(a)の調製方法)
多価イオン(a)に含まれる金属クラスターまたは金属酸化物クラスターの金属含有成分として、市販の金属含有化合物を用いることができる。例えば、この金属含有化合物を用いて加水分解縮合反応を行い、金属クラスターまたは金属酸化物クラスターを合成することができる。ここで「加水分解縮合反応」とは、金属化合物が有する加水分解性基が加水分解して-OHに変換され、得られた2個の-OHが脱水縮合して-O-が形成される反応をいう。
【0034】
金属含有化合物の例としては、加水分解性基を有する金属化合物、加水分解性基を有する金属化合物(I)の加水分解物、加水分解性基を有する金属化合物の加水分解縮合物、またはこれらの組み合わせが挙げられる。金属含有化合物は、1種単独でもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
加水分解縮合反応のより具体的な方法としては、例えば、ゾル-ゲル法、水熱合成、グリコサーマル法等の他、通常の焼結、あるいはガス流中での合成等が挙げられる。また、当該加水分解縮合反応に引き続き、水熱処理により所望の物性の範囲を得る物性調整工程を包含する方法であってもよい。
【0036】
なお、金属酸化物クラスターの代表的な構造として、ケギン(Keggin)構造、ウエルズ-ダウソン(Wells-Dawson)構造,アンダーソン-エヴァンズ-ペルロフ(Anderson-Evans-Perloff)構造等が挙げられる。ただし、本発明に係る金属酸化物クラスターの構造が、必ずしもこれらに限られるものではない。
【0037】
<有機イオン(b)>
本発明に係る有機イオン(b)は、放射線照射を受けた多価イオン(a)から発生する2次電子によって、極性変化反応、架橋反応などの化学反応が効率よく起こる構造を有している。このような有機イオン(b)を有する本発明のイオン性塩は、現像性、解像性等が向上したものとなる。
【0038】
有機イオン(b)は、炭素数4以上のカルボン酸アニオン;炭素数4以上のスルホン酸アニオン;炭素数4以上のホスホン酸アニオン;炭素数6以上のフェノキシドアニオン;炭素数4以上のヨードニウムカチオン;炭素数4以上のスルホニウムカチオン;炭素数4のアンモニウムカチオン;および、炭素数5以上のピリジニウムカチオン;からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0039】
カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオン、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、およびアンモニウムカチオンの炭素数は4以上である。これらのイオンの炭素数が4未満の場合、溶媒溶解性、および感光性が低下し、レジストとしての解像性、感度が悪化する。当該炭素数は、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。
【0040】
フェノキシドアニオンの炭素数は6以上であるが、当該炭素数は8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0041】
ピリジニウムカチオンの炭素数は5以上であるが、当該炭素数は7以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましい。
【0042】
また、これらのイオンの炭素数の上限は特に制限されないが、通常100以下であり、30以下であることが好ましい。
【0043】
有機イオン(b)がアンモニウムカチオンまたはピリジニウムカチオンである場合、これらイオンは、炭素-炭素多重結合含有基、カルボニル基含有基、オキシム基、オキシムエステル基、ハロゲン化アルキル基、リン含有基、ジアゾ基、およびアジド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0044】
「炭素-炭素多重結合含有基」とは、2つの炭素原子間の二重結合または三重結合を含む基をいう。二重結合には、芳香族炭素水素環、芳香族複素環における共役二重結合が含まれる。
【0045】
炭素-炭素二重結合含有基としては、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アリル基、アリルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、マレイミド基のエチレン性二重結合含有基;フェニル基、ナフチル基、アントラセン基、安息香酸基、ケイ皮酸基、アントラキノン基、スチリル基、スチルベン基、スチリルピリジン基、ケトプロフェン基等の芳香族炭素環含有基;ニコチン酸基、チオキサントン基等の芳香族複素環含有基、これらの基の水素原子の一部または全部がヒドロキシ基、ハロゲン原子、1価の有機基等(以下、これらを「置換基(a)」ともいう)で置換された基等が挙げられる。
【0046】
炭素-炭素三重結合含有基としては、例えばプロパルギル基、プロパルギルオキシ基、これらの基の水素原子の一部または全部が置換基(a)で置換された基、エチニル基、エチニルオキシ基、エチニルカルボニル基含有基、フェニルエチニルカルボニル基含有基等が挙げられる。
【0047】
カルボニル基含有基とは、カルボニル基(>C=O)を含む基であり、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)、カーボネート基(-OC(O)O-)等が挙げられる。より具体的な例としては、例えば、アセトフェノン基、ベンゾフェノン基、ケトプロフェン基等が挙げられる。
【0048】
オキシムエステル基の例としては、オキシムメチルエステル、オキシムエチルエステル等が挙げられる。
【0049】
ハロゲン化アルキル基の例としては、炭素数1以上10以下の直鎖状、分枝状、または環状のアルキル基が有する水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換された基が挙げられる。当該ハロゲン化アルキル基が有するハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0050】
リン含有基は、少なくとも1つのリン原子を含む基であり、例えば、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスフィンオキサイド基、亜ホスホン酸基、亜ホスフィン酸基、およびホスフィン基等が挙げられる。
【0051】
ジアゾ基の例には、ジアゾアルカン基、ジアゾナフトキノン基、ジアジリジン基が含まれる。
【0052】
アジド基の例には、アジドメチル基、アジドエチル基、アジドアリール基等が含まれる。
【0053】
本発明に係るアンモニウムカチオンおよびピリジニウムカチオンは、上記の官能基を有することが好ましいが、他の有機イオン(b)においても上記の官能基を有することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、上記有機イオン(b)は、炭素-炭素多重結合含有基、カルボニル基含有基、オキシム基、オキシムエステル基、ハロゲン化アルキル基、リン含有基、ジアゾ基、およびアジド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する。
【0054】
より好ましい一実施形態によれば、有機イオン(b)は、ビニル基、スチルベン基、アジド基、ジアゾアルカン基、ジアジリジン基、ケイ皮酸基、アントラセン基、アントラキノン基、マレイミド基、スチリルピリジン基、アリールスルホニウム基、アリールヨードニウム基、およびフェニルエステル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する。
【0055】
本発明に係る有機イオン(b)は、1価のイオンでもよいし、2価以上の多価イオンであってもよいが解像度の観点で1価であることが好ましい。また、本発明に係る有機イオン(b)は、アニオン性であってもよいし、カチオン性であってもよい。さらに、本発明のイオン性塩を構成する有機イオン(b)は、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0056】
本発明に係る有機イオン(b)の具体例を、以下に記す。
【0057】
【化3】
【0058】
イオン性塩のサイズをより小さくし、解像性をより向上させるという観点から、有機イオン(b)の分子量は、50以上5000以下であることが好ましく、100以上1000以下であることがより好ましい。
【0059】
<イオン性塩の具体例>
本発明のイオン性塩の具体例としては、以下のような化合物が挙げられる。
【0060】
【化4-1】
【0061】
【化4-2】
【0062】
【化4-3】
【0063】
【化4-4】
【0064】
【化4-5】
【0065】
【化4-6】
【0066】
【化4-7】
【0067】
【化4-8】
【0068】
【化4-9】
【0069】
【化4-10】
【0070】
[イオン性塩の製造方法]
本発明のイオン性塩の製造方法は、特に制限されず、例えば、金属クラスターまたは金属酸化物クラスターを含む多価イオン(a)を有する化合物と有機イオン(b)を有する化合物とを混合し、塩交換反応を行う方法が挙げられる。当該塩交換反応は、公知の方法で容易に行うことができ、必要があれば、濾過、蒸留、抽出、水または有機溶媒による洗浄、晶析、酸による処理、アルカリによる処理、カラムクロマトグラフィー等の常法に従って精製することができる。これらの精製する手段は、組成物の不純物濃度を所望の範囲に調整するために、繰り返し行われることが好ましい。
【0071】
上記の多価イオン(a)を有する化合物および有機イオン(b)を有する化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら化合物の合成方法については、従来公知の方法を適宜参照して採用することができる。
【0072】
多価イオン(a)を有する化合物および有機イオン(b)を有する化合物は必要があれば、以下の手段で精製することができる。精製する手段としては、濾過、蒸留、抽出、水または有機溶媒による洗浄、再結晶、晶析、酸による処理、アルカリによる処理、カラムクロマトグラフィーによる精製などが挙げられ、除去する不純物の性質に応じて、これらから適宜選択することができる。これらの中でも、濾過、カラムクロマトグラフィー、再結晶、または晶析による精製が好ましく、再結晶による精製がより好ましい。これらの精製する手段は、組成物の不純物濃度を所望の範囲に調整するために、繰り返し行われることが好ましい。
【0073】
本発明のイオン性塩の構造(組成)は、FT-IR分析、NMR分析、蛍光X線(XRF)分析、質量分析、UV分析、単結晶X線構造解析、粉末X線回折(PXRD)分析、液体クロマトグラフィー(LC)分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析、熱分析等を行うことにより確認することができる。詳細な確認方法は、実施例に記載のとおりである。
【0074】
本発明のイオン性塩は、解像性向上の観点から、総分子量が650以上30000以下であることが好ましく、900以上15000以下であることがより好ましい。
【0075】
また、放射線吸収および感光性の観点から、本発明のイオン性塩は、多価イオン(a)の分子量と有機イオン(b)の合計分子量との比[(a)の分子量/(b)の合計分子量]が0.3以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることが好ましい。
【0076】
なお、有機イオン(b)の合計分子量とは、イオン性塩に含まれるすべての有機イオン(b)の合計の分子量を指す。例えば、5価の無機イオン(a)に対して、1価の有機イオン(b)は5個結合するが、その5個の合計の分子量が、有機イオン(b)の合計分子量となる。
【0077】
本発明の好ましい一実施形態によれば、イオン性塩は、多価イオン(a)はカチオン性であり、有機イオン(b)はアニオン性であることが好ましい。
【0078】
[感放射線レジスト組成物]
本発明の他の実施形態によれば、本発明のイオン性塩と、有機溶媒と、を含む、感放射線レジスト組成物を提供する。本発明のイオン性塩を含む感放射線レジスト組成物は、放射線(特にはEUV)の吸収特性に優れ、感度、現像性、解像性等の特性にも優れる。
【0079】
本実施形態の感放射線レジスト組成物は、放射線の露光により現像液に対する溶解性が変化するものである。本実施形態の感放射線レジスト組成物は、レジスト膜露光部が溶解除去されてポジ型レジストパターンを形成するポジ型レジスト組成物であってもよく、レジスト膜未露光部が溶解除去されてネガ型レジストパターンを形成するネガ型レジスト組成物であってもよい。また、本実施形態の感放射線レジスト組成物は、レジストパターン形成時の現像処理にアルカリ現像液を用いるアルカリ現像プロセス用であってもよく、該現像処理に有機溶媒を含む現像液(以下、有機現像液とも称する)を用いる溶剤現像プロセス用であってもよい。
【0080】
本発明のイオン性塩は、上記で説明したとおりであるため、以下では有機溶媒、および必要に応じて含有される任意成分について説明する。なお、感放射線レジスト組成物に含まれる本発明のイオン性塩は、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
<有機溶媒>
本発明の感放射線レジスト組成物に含まれる有機溶媒は、少なくとも本発明のイオン性塩および所望により含有される任意成分等を、溶解または分散可能な溶媒であれば特に制限されない。有機溶媒として、上記イオン性塩を合成する際に用いた有機溶媒を用いてもよい。当該有機溶媒は、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、水と有機溶媒との混合溶媒を使用してもよい。
【0082】
有機溶媒の例としては、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、スルホキシド系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0083】
より具体的には、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ペンタノール、tert-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、sec-ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-ヘプタデシルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール系溶媒;エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0084】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のジアルキルエーテル系溶媒;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル系溶媒;ジフェニルエーテル、アニソール等の芳香環含有エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0085】
ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、トリメチルノナノン等の鎖状ケトン系溶媒:シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルシクロヘキサノン等の環状ケトン系溶媒:2,4-ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0086】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン等の環状アミド系溶媒;N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド等の鎖状アミド系溶媒等が挙げられる。
【0087】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec-ペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n-ノニル等の酢酸エステル系溶媒;酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒;γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル、乳酸n-アミル等の乳酸エステル系溶媒;ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ-n-ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等が挙げられる。
【0088】
スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。
【0089】
炭化水素系溶媒としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジイソプロピルベンセン、n-アミルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0090】
これら有機溶媒の中でも、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、およびスルホキシド系溶媒が好ましい。より好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、乳酸エチル、ジメチルスルホキシドがさらに好ましい。
【0091】
<任意成分>
本発明に係る感放射線レジスト組成物は、上記イオン性塩および有機溶媒以外に、任意成分として、例えば感放射線性酸発生体、フッ素原子含有重合体、界面活性剤、架橋剤、レベリング剤、着色剤、またはこれらの組み合わせ等を含むことができる。
【0092】
界面活性剤は、塗工性、ストリエーション、現像性等を改良する効果を奏する。界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンn-オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンn-ノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。界面活性剤の市販品の例としては、例えば、KP341(信越化学工業株式会社製)、ポリフローNo.75、同No.95(以上、共栄社化学株式会社製)、エフトップEF301、同EF303、同EF352(以上、三菱マテリアル電子化成株式会社製)、メガファック(登録商標)F171、同F173、R40、R41、R43(以上、DIC株式会社製)、フルオラッド(登録商標)FC430、同FC431(以上、3M社製)、アサヒガードAG710(AGC株式会社製)、サーフロン(登録商標)S-382、同SC-101、同SC-102、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC-106(以上、AGCセイミケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0093】
架橋剤の例としては、例えば、メラミン系の架橋剤、置換尿素系の架橋剤、またはポリマー系の架橋剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。少なくとも2つの架橋形成置換基を有する架橋剤として、例えば、メトキシメチル化グリコールウリル、ブトキシメチル化グリコールウリル、メトキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン、メトキシメチル化ベンゾグアナミン、ブトキシメチル化ベンゾグアナミン、メトキシメチル化尿素、ブトキシメチル化尿素、またはメトキシメチル化チオ尿素等の化合物を使用することができる。
【0094】
レベリング剤は、印刷(塗布)時にコーティング膜の平坦性を向上させるためのものであって、商業的な方法で入手可能な公知のレベリング剤を使用することができる。
【0095】
また、本発明の感放射線レジスト組成物は、基板との密着力などを向上させるために、シランカップリング剤を任意成分として使用することができる。シランカップリング剤の例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン;3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどの炭素-炭素不飽和結合含有シラン化合物;トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン等が挙げられる。
【0096】
これら任意成分の使用量は、所望の物性によって容易に調節することができ、適宜設定することができる。また、これら任意成分は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0097】
本発明の感放射線レジスト組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、イオン性塩、および必要に応じて添加される任意成分を、有機溶媒中で混合する方法が挙げられる。混合時の温度や時間は特に制限されない。必要に応じて、混合後にろ過を行ってもよい。
【0098】
本発明の感放射線レジスト組成物中のイオン性塩の含有量(2種以上の場合はその合計量)は、組成物の全質量を100質量%として、0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、該含有量は、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0099】
<パターン形成方法>
本発明に係る感放射線レジスト組成物を用いたパターン形成方法は、特に制限されない。しかしながら、好ましい一実施形態によれば、本発明の感放射線レジスト組成物を基板に塗工しレジスト膜を形成する工程(以下、「塗工工程」とも称する)と、上記塗工工程により形成されたレジスト膜を露光する工程(以下、「露光工程」ともいう)と、上記露光されたレジスト膜を現像する工程(以下、「現像工程」ともいう)と、を備える。当該パターン形成方法は、本発明の感放射線レジスト組成物を用いているため、高感度であって、現像性が高く、解像性が高いパターンを形成することができる。以下、各工程について説明する。
【0100】
[塗工工程]
本工程では、基板の一方の面側に、感放射線レジスト組成物を塗工する。これにより、レジスト膜を形成する。塗工方法としては特に限定されず、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ナイフエッジコーティング、インクジェット印刷、スクリーン印刷等の塗工方法が挙げられる。基板としては、例えばシリコンウェーハ、アルミニウムで被覆されたウェーハ等が挙げられる。具体的には、得られる膜が所定の厚さになるように感放射線レジスト組成物を塗工した後、必要に応じてプレベーク(PB)することで塗膜中の溶媒を揮発させる。
【0101】
プレベーク後のレジスト膜の膜厚の下限は、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、プレベーク後のレジスト膜の膜厚の上限は、1,000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0102】
プレベークの温度の下限は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。また、プレベークの温度の上限は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。プレベークの時間の下限は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。プレベークの時間の上限は、600秒以下が好ましく、300秒以下がより好ましい。
【0103】
[露光工程]
本工程では、上記塗工工程により形成された膜を露光する。この露光は、場合によっては、水等の液浸媒体を介し、所望のパターンを有するマスクを介して放射線を照射することにより行う。上記放射線としては、例えば可視光線、紫外線、遠紫外線、極端紫外線(EUV、波長13.5nm)、X線、γ線等の電磁波;電子線(EB)、α線等の荷電粒子線などが挙げられる。なお、本明細書において、これらの放射線を照射することを総称して「露光」という場合がある。
【0104】
これら放射線の中でも、露光により多価イオン(a)が含む金属原子から二次電子がより多く放出される放射線が好ましく、極端紫外線(EUV)または電子線がより好ましい。
【0105】
露光光源としては、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)、Fエキシマレーザー(波長157nm)のような紫外域のレーザー光を放射するもの、固体レーザー光源(YAGまたは半導体レーザー等)からのレーザー光を波長変換して遠紫外域または真空紫外域の高調波レーザー光を放射するもの、電子線や極端紫外光(EUV)を照射するもの等、種々のものを用いることができる。露光の際、通常、所望のパターンに相当するマスクを介して露光が行われるが、露光光源が電子線の場合は、マスクを用いずに直接描画により露光してもよい。
【0106】
本工程における放射線の積算光量は、例えば放射線として極端紫外線を使用する場合、2000mJ/cm以下であることが好ましく、500mJ/cm以下であることがより好ましい。また、電子線を使用する場合の積算照射量は、5000μC/cm以下であることが好ましく、1000μC/cm以下であることがより好ましい。
【0107】
また、露光後にポストエクスポージャーベーク(PEB)を行ってもよい。PEBの温度の下限は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。PEBの温度の上限は、180℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。PEBの時間の下限は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。PEBの時間の上限は、600秒以下が好ましく、300秒以下がより好ましい。
【0108】
本発明においては、感放射線性レジスト組成物の能力を最大限に引き出すため、例えば使用される基板上に有機系または無機系の反射防止膜を形成しておくこともできる。また、環境雰囲気中に含まれる塩基性不純物等の影響を防止するため、例えば塗膜上に保護膜を設けることもできる。また、液浸露光を行う場合は、液浸媒体とレジスト膜との直接的な接触を避けるため、例えばレジスト膜上に液浸用保護膜を設けてもよい。
【0109】
[現像工程]
本工程では、上記露光工程で露光されたレジスト膜を現像する。この現像に用いる現像液としては、アルカリ現像液、有機溶媒を含む現像液(以下、「有機現像液」とも称する)等が挙げられる。現像方法としては、ディップ法、パドル法、スプレー法、ダイナミックディスペンス法等が挙げられる。現像温度は、例えば、5℃以上60℃以下であることが好ましく、現像時間は、例えば、5秒以上300秒以下であることが好ましい。
【0110】
アルカリ現像液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水、エチルアミン、n-プロピルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、エチルジメチルアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ピロール、ピペリジン、コリン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-5-ノネン(DBN)等のアルカリ性化合物の少なくとも1種を溶解したアルカリ性水溶液等が挙げられる。アルカリ現像液には、界面活性剤が含まれていてもよい。
【0111】
アルカリ現像液中のアルカリ性化合物の含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、該アルカリ性化合物の含有量の上限は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0112】
現像後レジストパターンを超純水で洗浄し、次いで、基板およびパターン上に残った水を除去することが好ましい。
【0113】
有機現像液に含まれる有機溶媒としては、例えば、上記[感放射線レジスト組成物]の<有機溶媒>の項で例示した有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0114】
有機現像液における有機溶媒の含有量の下限としては、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。有機現像液には、界面活性剤が含まれていてもよい。また、有機現像液には、微量の水分が含まれていてもよい。また、現像の際、有機現像液とは異なる種類の溶剤に置換することにより、現像を停止してもよい。
【0115】
現像後のレジストパターンは、洗浄することが好ましい。洗浄液としては超純水、リンス液等を使用することができる。リンス液としては、レジストパターンを溶解しないものであれば特に制限はなく、一般的な有機溶媒を含む溶液を使用することができる。好ましいリンス液は、アルコール系溶媒またはエステル系溶媒である。洗浄後は、基板およびパターン上に残ったリンス液を除去することが好ましい。また、超純水を使用した際は、基板およびパターン上に残った水を除去することが好ましい。
【0116】
なお、これらの現像液は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0117】
上記のようにしてレジストパターンを形成した後、エッチングすることによりパターン配線基板が得られる。エッチングの方法はプラズマガスを使用するドライエッチング、およびアルカリ溶液、塩化第二銅溶液、塩化第二鉄溶液等によるウェットエッチングなど公知の方法で行うことができる。
【0118】
レジストパターンを形成した後、めっきを行うこともできる。めっき法としては、特に限定されないが、例えば、銅めっき、はんだめっき、ニッケルめっき、金めっきなどがある。
【0119】
エッチング後の残存レジストパターンは、有機溶媒で剥離することができる。このような有機溶媒の例としては、特に限定されないが、例えば、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、EL(乳酸エチル)等が挙げられる。剥離方法としては、特に限定されないが、例えば、浸漬方法、スプレイ方式等が挙げられる。また、レジストパターンが形成された配線基板は、多層配線基板でもよく、小径スルーホールを有していてもよい。
【0120】
本実施形態において、配線基板は、レジストパターン形成後、金属を真空中で蒸着し、その後レジストパターンを溶液で溶かす方法、すなわちリフトオフ法により形成することもできる。
【0121】
<用途>
本発明の感放射線レジスト組成物は、KrFエキシマレーザー露光用のレジスト組成物、ArFエキシマレーザー露光用のレジスト組成物、電子線露光用のレジスト組成物、またはEUV露光用のレジスト組成物として好適である。より好適には、電子線露光用のレジスト組成物またはEUV露光用のレジスト組成物であり、半導体の微細加工に好適に使用できる。
【実施例0122】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、各種の分析は、下記の方法に従い行った。
【0123】
[分析方法]
(粉末X線回折測定)
X線回折装置(Bruker社製、D8 advance、X線源:CuKα、出力40kV-40mA)を用いて行った。
【0124】
(フーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定)
フーリエ変換赤外分光光度計(Thermo scientific製、Nicolet iS10)を用いて、ATR法により、フーリエ変換赤外分光スペクトルを測定した。
【0125】
(Bi元素の含有量測定(元素分析))
エネルギー分散型X線分析装置(株式会社堀場製作所製、EMAXEvolution)を用いて、化合物中のBi、C、N、S、F、Oの6元素を測定し、6元素の合計を100質量%として、Bi元素の含有量(質量%)を求めた。
【0126】
(合成例1)
<化合物1 {[Bi(OH)(NO4+・4NO の合成>
Acta Cryst.(1978). B34, 3169-3173に記載された合成方法に従い、化合物1を合成した。具体的には、2Lのガラスビーカーに、硝酸ビスマス五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)10.000g(20.51mmol)、および60%硝酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)14.950gを入れ、攪拌した後、純水 990mlで希釈した。15分間攪拌した後、4%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応液のpHを1.5に調整した。水酸化ナトリウム水溶液の滴下中に、白色の沈殿物が生成した。その後1時間攪拌し、沈殿物を、ペーパーフィルターを用いた減圧濾過により分離した。固形分を純水により洗浄した後、真空下60℃で10時間乾燥を行い、白色粉末の化合物1を5.785g得た。
【0127】
化合物1の同定は、粉末X線回折により行った。化合物1の結晶構造は、ケンブリッジ結晶構造データベース(Cambridge Structural Database:CSD, HP: https://www.ccdc.cam.ac.uk/)において、CCDC 1592300として登録されている。今回合成して得られた化合物2の粉末X線回折パターンを図1-1の下部に示し、上記の報告されている結晶構造データを用いてシミュレーションした粉末X線回折パターンを図1-1の上部に示す。この2つのパターンがほぼ一致したことから、得られた化合物1が、CCDC 1592300として登録されている化合物であることが確認できた。
【0128】
また、得られた化合物1のFT-IRスペクトルを、図1-2に示す。
【0129】
なお、Acta Cryst.(1978). B34, 3169-3173内では、化合物1が[Bi(OH)・5NO と表記されているが、Inorg. Chem. 2012, 51, 9376-9384においては、2量体構造{[Bi(OH)(NO4+・4NO であると指摘されている。
【0130】
(合成例2)
<化合物2 [Bi(OH)5+・5CFSO の合成>
Inorg. Chem. 2010, 49, 5619-5624に記載された合成法に従い、化合物1を合成した。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン製のPTFEビーカーに、酸化ビスマス(III)(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.053g(0.208mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.680g(0.417mmol)、および純水 16.3mlを入れ、マグネティックスターラーを用いて、10分間攪拌した。液のpHは、0.9であった。その後、28~30%アンモニア水(富士フイルム和光純薬株式会社製)を滴下して、液のpHが3.1となるように調整した。得られた液を、三愛科学株式会社製の25ml容量の高圧用反応容器に入れ、密封した。密封した反応容器を恒温槽に入れ、175℃で48時間加熱した後、室温(25℃)に冷却した。反応液の沈殿物を濾過により分離し、結晶状の化合物2を1.010g得た。
【0131】
化合物2の同定は、化合物1と同様に粉末X線回折により行った。化合物2の結晶構造は、CCDC 788955として登録されている。今回合成して得られた化合物2の粉末X線回折パターンを図2-1の下部に示し、上記の報告されている結晶構造データを用いてシミュレーションした粉末X線回折パターンを図2-1の上部に示す。この2つのパターンがほぼ一致したことから、得られた化合物2が、CCDC 788955として登録されている化合物であることが確認できた。
【0132】
また、得られた化合物2のFT-IRスペクトルを、図2-2に示す。
【0133】
[合成例3]
<化合物3 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-プロポキシケイ皮酸アニオン)の合成>
≪4-プロポキシケイ皮酸ナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、4-プロポキシケイ皮酸(東京化成工業株式会社製)1.650g(8mmol)を入れ、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水20mlで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、無色透明な4-プロポキシケイ皮酸ナトリウム水溶液を得た。エバポレーターと真空乾燥機とを用いて、水を除去し、4-プロポキシケイ皮酸ナトリウムを1.825g得た。
【0134】
≪化合物3 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-プロポキシケイ皮酸アニオン)の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、70℃に温めた4-プロポキシケイ皮酸ナトリウム 0.456g(2mmol)、DMSO 40.000g、および純水40.000gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させ、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離機により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散させ、遠心分離にすることで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物3 0.750gを得た。FT-IRの分析結果(図3参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、4-プロポキシケイ皮酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物3が得られていることを確認した。
【0135】
(合成例4)
<化合物4 [Bi(OH)5+・5(4-プロポキシケイ皮酸アニオン)の合成>
上記合成例2で得られた化合物2 0.559g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)13.981gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物2の溶液を作製した。ここに、70℃に温めた4-プロポキシケイ皮酸ナトリウム 0.456g(2mmol)、DMSO 40.000g、および純水40.000gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させ、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離機により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散させ、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物4 0.452gを得た。FT-IRの分析結果(図4参照)から、化合物2のアニオン部であるトリフルオロメタンスルホン酸イオンが、4-プロポキシケイ皮酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物4が得られていることを確認した。
【0136】
(合成例5)
<化合物5 {[Bi(OH)(NO4+・4(9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸(東京化成工業株式会社製) 0.681g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水17.490gを滴下し、橙色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離機により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離にすることで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、橙色粉末状の化合物5 0.710gを得た。FT-IRの分析結果(図5参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物5が得られていることを確認した。
【0137】
(合成例6)
<化合物6 [Bi(OH)5+・5(9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例2で得られた化合物2 0.559g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)13.981gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物2の溶液を作製した。ここに、9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸(東京化成工業株式会社製) 0.681g(2mmol)、DMSO 13.981g、および純水1.398gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水13.981gを滴下し、橙色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離機により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離にすることで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、橙色粉末状の化合物6 0.663gを得た。FT-IRの分析結果(図6参照)から、化合物2のアニオン部であるトリフルオロメタンスルホン酸イオンが、9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物6が得られていることを確認した。
【0138】
(合成例7)
<化合物7 {[Bi(OH)(NO4+・4(アントラキノン-2-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウム一水和物(東京化成工業株式会社製) 0.657g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、黄色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散させ、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、黄色粉末状の化合物7 0.651gを得た。FT-IRの分析結果(図7参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、アントラキノン-2-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物7が得られていることを確認した。
【0139】
(合成例8)
<化合物8 [Bi(OH)5+・5(アントラキノン-2-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例2で得られた化合物2 0.559g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)13.981gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物2の溶液を作製した。ここに、アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウム一水和物(東京化成工業株式会社製) 0.657g(2mmol)、DMSO 13.981g、および純水1.398gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水6.991gを滴下し、黄色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、黄色粉末状の化合物8 0.571gを得た。FT-IRの分析結果(図8参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、アントラキノン-2-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物8が得られていることを確認した。
【0140】
(合成例9)
<化合物9 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-アジド安息香酸アニオン)の合成>
≪4-アジド安息香酸ナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、4-アジド安息香酸(東京化成工業株式会社製)1.305g(8mmol)を入れ、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水20mlで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、褐色の透明な4-アジド安息香酸ナトリウム水溶液を得た。エバポレーターと真空乾燥機とを用いて、水を除去し、4-アジド安息香酸ナトリウムを1.620g得た。
【0141】
≪化合物9 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-アジド安息香酸アニオン)の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、4-アジド安息香酸ナトリウム 0.370g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させ、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物13 0.403gを得た。FT-IRの分析結果(図9参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、4-アジド安息香酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物9が得られていることを確認した。
【0142】
(合成例10)
<化合物10 [Bi(OH)5+・5(4-アジド安息香酸アニオン)の合成>
上記合成例2で得られた化合物2 0.559g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)13.981gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物2の溶液を作製した。ここに、4-アジド安息香酸ナトリウム 0.370g(2mmol)、DMSO 13.981g、および純水1.398gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させ、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物10 0.376gを得た。FT-IRの分析結果(図10参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが4-アジド安息香酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物10が得られていることを確認した。
【0143】
(合成例11)
<化合物11 [Bi(OH)5+・5(6-マレイミドヘキサン酸アニオン)の合成>
≪6-マレイミドヘキサン酸ナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、6-マレイミドヘキサン酸(東京化成工業株式会社製)1.690g(8mmol)を入れ、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水32mlおよび2-プロパノール20.8gで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、無色透明な6-マレイミドヘキサン酸ナトリウム溶液を得た。エバポレーターと真空乾燥機とを用いて、水と2-プロパノールを除去し、6-マレイミドヘキサン酸ナトリウムを1.820g得た。
【0144】
≪化合物11 {[Bi(OH)(NO]2}4+・4(6-マレイミドヘキサン酸アニオン)の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、6-マレイミドヘキサン酸ナトリウム 0.456g、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物13 0.383gを得た。FT-IRの分析結果(図11参照)から、化合物1のアニオン部が硝酸イオンから6-マレイミドヘキサン酸イオンに置き換わっていること、元素分析の測定結果からBi元素の含有量(質量%)が計算値と一致することから、化合物11が得られていることを確認した。
【0145】
(合成例12)
<化合物12 [Bi(OH)5+・5(6-マレイミドヘキサン酸アニオン)の合成>
上記合成例2で得られた化合物2 0.559g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)13.981gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物2の溶液を作製した。ここに、6-マレイミドヘキサン酸ナトリウム 0.456g(2mmol)、DMSO 13.981g、および純水1.398gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水6.991gを滴下し、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物12 0.390gを得た。FT-IRの分析結果(図12参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、6-マレイミドヘキサン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物12が得られていることを確認した。
【0146】
[合成例13]
<化合物13 {[Bi(OH)(NO4+・4(アントラキノン-1-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、アントラキノン-1-スルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 0.621g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、黄色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、黄色粉末状の化合物13 0.625gを得た。FT-IRの分析結果(図13参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、アントラキノン-1-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物13が得られていることを確認した。
【0147】
(合成例14)
<化合物14 {[Bi(OH)(NO4+・4(2-〔〔9、10-ジヒドロ-4-(メチルアミノ)-9-10-ジオキソ-1-アントラセニル〕アミノ〕-5-メチルベンゼンスルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、アリザリンアストロール(2-〔〔9、10-ジヒドロ-4-(メチルアミノ)-9-10-ジオキソ-1-アントラセニル〕アミノ〕-5-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業株式会社製) 0.889g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、濃青色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、濃青色粉末状の化合物14 0.340gを得た。FT-IRの分析結果(図14参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、2-〔〔9、10-ジヒドロ-4-(メチルアミノ)-9-10-ジオキソ-1-アントラセニル〕アミノ〕-5-メチルベンゼンスルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物14が得られていることを確認した。
【0148】
(合成例15)
<化合物15 {[Bi(OH)(NO4+・4(ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 0.544g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水34.980gを滴下し、黄色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、黄色粉末状の化合物15 0.211gを得た。FT-IRの分析結果(図15参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が理論値とほぼ一致することから、化合物15が得られていることを確認した。
【0149】
(合成例16)
<化合物16 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-n-オクチルベンゼンスルホン酸アニオン)の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、4-n-オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 0.585g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、黄白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物16 0.402gを得た。FT-IRの分析結果(図16参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、4-n-オクチルベンゼンスルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果からBi元素の含有量(質量%)が、理論値とほぼ一致することから、化合物16が得られていることを確認した。
【0150】
(合成例17)
<化合物17 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-n-オクチルオキシ安息香酸アニオン)の合成>
≪4-n-オクチルオキシ安息香酸ナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、4-n-オクチルオキシ安息香酸(東京化成工業株式会社製)2.003g(8mmol)を入れ、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水32mlおよび2-プロパノール20.8gで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、無色透明な4-n-オクチルオキシ安息香酸ナトリウム溶液を得た。エバポレーターと真空乾燥機とを用いて、水と2-プロパノールとを除去し、4-n-オクチルオキシ安息香酸ナトリウムを2.175g得た。
【0151】
≪化合物17 {[Bi(OH)(NO4+・4(4-n-オクチルオキシ安息香酸アニオン)の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、4-n-オクチルオキシ安息香酸ナトリウム 0.545g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させ、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、黄色粉末状の化合物17 0.652gを得た。FT-IRの分析結果(図17参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、4-n-オクチルオキシ安息香酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が、理論値とほぼ一致することから、化合物17が得られていることを確認した。
【0152】
(合成例18)
<化合物18 {[Bi(OH)(NO4+・4(ケトプロフェンアニオン)の合成>
≪ケトプロフェンナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、ケトプロフェン(東京化成工業株式会社製)2.034g(8mmol)を入れた。その後、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水32mlで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、無色透明なケトプロフェンナトリウム水溶液を得た。真空乾燥機を用いて、水を除去し、ケトプロフェンナトリウムを2.203g得た。
【0153】
≪化合物18 {[Bi(OH)(NO4+・4(ケトプロフェンアニオン)の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、上記で得られたケトプロフェンナトリウム 0.553g(2mmol)、DMSO 17.490g、および純水1.749gからなる溶液を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水8.745gを滴下し、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物18 0.760gを得た。FT-IRの分析結果(図18参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、ケトプロフェンイオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が、理論値とほぼ一致することから、化合物18が得られていることを確認した。
【0154】
(合成例19)
<化合物19 {[Bi(OH)(NO4+・4[こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アニオン]の合成>
≪こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)ナトリウムの合成≫
50mlのナス型フラスコに、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)(東京化成工業株式会社製)1.730g(8mmol)を入れた。その後、0.320g(8mmol)の水酸化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を純水17.148gで溶解した水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、攪拌して、無色透明なこはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)ナトリウム水溶液(10質量%水溶液)を得た。
【0155】
≪化合物19 {[Bi(OH)(NO4+・4[こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アニオン]の合成≫
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、ジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)ナトリウム10質量%水溶液 4.763g(2mmol)を攪拌しながら滴下し、25℃で1時間反応させた。その後、純水17.490gを滴下し、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄し、これを3回繰り返した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物19 0.245gを得た。FT-IRの分析結果(図19参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果から、Bi元素の含有量(質量%)が、理論値とほぼ一致することから、化合物19が得られていることを確認した。
【0156】
(合成例20)
<化合物20 {[Bi(OH)(NO4+・4[3-(アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸アニオン]の合成>
上記合成例1で得られた化合物1 0.700g(0.2mmol)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)17.490gをガラスビーカーに入れて攪拌し、化合物1の溶液を作製した。ここに、3-(アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム(東京化成工業株式会社製) 0.465g(2mmol)を攪拌しながら混合し、25℃で1時間反応させた。その後、純水42.470mlを滴下し、白色の沈殿物が生じた溶液を得た。遠心分離により、液体と沈殿物とを分離した。沈殿物を40mlの純水に分散し、遠心分離することで洗浄した。その後、真空乾燥により、水分を除去し、白色粉末状の化合物20 0.247gを得た。FT-IRの分析結果(図20参照)から、化合物1のアニオン部である硝酸イオンが、3-(アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸イオンに置き換わっていることを確認した。また、元素分析の測定結果からBi元素の含有量(質量%)が、理論値とほぼ一致することから、化合物20が得られていることを確認した。
【0157】
化合物1~20の元素分析の結果を、下記表1に示す。
【0158】
【表1-1】
【0159】
【表1-2】
【0160】
(感放射線レジスト組成物の製造)
0.2gの化合物1~20を、表2に示す有機溶媒4.8gにそれぞれ溶解させ、感放射線レジスト組成物1~20を製造した。
【0161】
(レジスト膜の作製)
上記で得られた感放射線レジスト組成物1~20を、4インチシリコンウェーハにスピンコーターで塗布した。その後、ホットプレートを用いて、130℃で120秒間プレベークを行い、乾燥膜厚40nmのレジスト膜を得た。
【0162】
(レジスト膜の放射線照射と感度評価)
極端紫外線(EUV)と感度の相関性が高い電子線(E-beam)を照射することにより、感放射線レジスト組成物の感度を評価した。電子ビーム露光装置(株式会社エリオニクス製、ELS-7500、加速電圧50kV)を用いて、レジスト膜の250μm四方の2か所に、照射量を変えて電子線を照射した。照射量は、500μC/cm、および5000μC/cmとした。照射後、レジスト膜を25℃で1分間現像し、メタノールでリンスをした。リンス後、2か所の照射部の膜厚測定を行い、感度評価を行った。ネガ型の場合は、500μC/cmおよび5000μC/cmの2か所の照射部で、ともに膜厚20nm以上の膜が得られている場合を◎、5000μC/cmの照射部でのみ膜厚20nm以上の膜が得られている場合を〇、2か所の照射部でともに膜厚20nm以上の膜が得られていない場合を×とした。ポジ型の場合は、500μC/cmおよび5000μC/cmの2か所の照射部で、ともに膜が残っていない場合を◎、5000μC/cmの照射部でのみ膜が残っていない場合を〇、2か所の照射部でともに膜が残っている場合を×とした。
【0163】
なお、下記表2に示す溶媒および現像液の詳細は、以下の通りである:
NMP:N-メチルピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
混合溶媒1:N-メチルピロリドンとプロピレングリコールモノメチルエーテルとの質量比1:3の混合溶媒
混合溶媒2:N-メチルピロリドンとプロピレングリコールモノメチルエーテルとの質量比1:9の混合溶媒
混合溶媒3:TMAH 2.38質量%の水溶液(アルカリ現像液)。
【0164】
【表2】
【0165】
上記表2から明らかなように、化合物3~20を含む実施例1~18の感放射線レジスト組成物は、電子線に対して良好な感度を示した。一方、化合物1~2を含む比較例1~2の感放射線レジスト組成物は、照射量5000μC/cmでも十分な感度が得られなかった。
【0166】
(EUVの吸光係数の比較)
Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 38 (1999) pp. 7109-7113に、レジスト用ポリマーのEUVの吸光係数(Linear absorption coefficient)の算出方法と計算結果とが記載されている。本論文中のTable 1とTable 2に記載されているレジスト用ポリマー(ポリ(4-ヒドロキシスチレン)、ポリメチルメタクリレート、Polymer1、Polymer7)の吸光係数(比較例3~6)、ならびに上記で得られた化合物3および化合物10のEUVの吸光係数(実施例19~20)を、下記表3に示す。
【0167】
化合物3および化合物10の吸光係数は、次の方法により算出した。感放射線レジスト組成物3および10のレジスト膜の密度を、X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab(登録商標))を用いたX線反射率測定により測定したところ、化合物3の密度が3.9であり、化合物10の密度が4.0であった。以下、Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 38 (1999) pp. 7109-7113に記載の方法と同様に、得られた膜の密度と、B.L. Henke, E.M. Gullikson, and J.C. Davis. X-ray interactions: photoabsorption, scattering, transmission, and reflection at E=50-30000 eV, Z=1-92, Atomic Data and Nuclear Data Tables Vol. 54 (no.2), 181-342 (July 1993)に記載の各原子の吸収係数から、計算によりレジスト膜の膜厚1μm当たりのEUV光の吸収係数を求めた。
【0168】
【表3】
【0169】
各物質のEUVの吸光係数を比較すると、比較例3~6に示す代表的なレジスト用ポリマー材料の吸光係数に対して、実施例19および20に示す化合物3および10のEUVの吸光係数が4倍以上であることが分かった。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20