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特開2023-135620液晶性樹脂及び液晶性樹脂組成物並びにこれらの成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135620
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】液晶性樹脂及び液晶性樹脂組成物並びにこれらの成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20230921BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230921BHJP
   C08G 69/44 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C08G63/06
C08L67/04
C08G69/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030783
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022040028
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】西山 寛樹
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J001DA03
4J001DC01
4J001DC03
4J001DC14
4J001EE36A
4J001EE44A
4J001FC01
4J001JA07
4J001JB11
4J001JB18
4J002CF181
4J002FD010
4J029AA02
4J029AA07
4J029AB01
4J029AB07
4J029AD09
4J029AD10
4J029AE01
4J029BB10A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EB05B
4J029EB06B
4J029EC06A
4J029GA51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れ、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温加工が可能な液晶性樹脂、及びそれを含む液晶性樹脂組成物、並びにこれらの成形品を提供する。
【解決手段】溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂であって、必須成分として、下記構成単位(I)及び(II)のうちの少なくとも1つを、5~50モル%含む、液晶性樹脂。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂であって、
前記液晶性樹脂は、必須の構成成分として、下記構成単位(I)及び下記構成単位(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位と、下記構成単位(III)及び下記構成単位(IV)とを含み、
前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、下記構成単位(I)及び(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位の割合が、5~50モル%である、液晶性樹脂。
【化1】
(構成単位(I)及び(II)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、又はメトキシ基を表す。)
【請求項2】
前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、前記構成単位(III)の割合が2~80モル%である、請求項1に記載の液晶性樹脂。
【請求項3】
前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、前記構成単位(IV)の割合が2~80モル%である、請求項1または2に記載の液晶性樹脂。
【請求項4】
前記液晶性樹脂の5%質量減少温度が420℃以上である、請求項1または2に記載の液晶性樹脂。
【請求項5】
前記液晶性樹脂の流動開始温度が210℃以下である、請求項1または2に記載の液晶性樹脂。
【請求項6】
全芳香族ポリエステルである、請求項1または2に記載の液晶性樹脂。
【請求項7】
全芳香族ポリエステルアミドである、請求項1または2に記載の液晶性樹脂。
【請求項8】
請求項1または2に記載の液晶性樹脂を含む、液晶性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の液晶性樹脂の成形品。
【請求項10】
請求項8に記載の液晶性樹脂組成物の成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂及び液晶性樹脂組成物並びにこれらの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの観点から、バイオマス由来のモノマーを原料として用いたプラスチックへのニーズが高まっている。例えば、特許文献1には、バイオマス由来のモノマー化合物として、p-クマル酸を用いたポリエステル樹脂が提案されている。また、特許文献2には、バイオマス由来のモノマーであるバニリン酸等のヒドロキシ安息香酸のフェノール性ヒドロキシル基をヒドロキシエーテル化したモノマー化合物を重縮合させたポリエステルの製造方法が提案されている。
【0003】
ところで、剛直な分子鎖からなる、溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂は、耐熱性、加工性が良好であることから電気電子材料等に応用されている。このような液晶性樹脂においてもバイオマス由来の原料を用いたポリマーが求められており、例えば、特許文献3には、バニリン酸等のヒドロキシ安息香酸またはその誘導体を原料として用いた液晶ポリエステル及びその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-043919号公報
【特許文献2】特開2011-088994号公報
【特許文献3】特開2012-116913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶性樹脂等のエンジニアリングプラスチックには、高強度かつ高耐熱性が求められるが、特許文献3等に記載の、バイオマス由来成分を含む従来の液晶性樹脂は耐熱性が十分ではない。
液晶性樹脂の耐熱性は、加熱質量減少温度(5%質量減少温度)で評価することができる。5%質量減少温度が高いほど耐熱性に優れる一方で、成形性や加工性の観点からは、流動開始温度はある程度低い方がよい。流動開始温度が高すぎると溶融温度や溶融粘度も高くなりやすく、加工時の温度も高くなりやすいという問題がある。
そこで本発明は、バイオマス由来のモノマーを原料として含む液晶性樹脂であって、耐熱性に優れ、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温加工が可能な液晶性樹脂、及びそれを含む液晶性樹脂組成物、並びにこれらの成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定のバイオマス由来のモノマーを、4-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と組み合わせること、さらに前記バイオマス由来のモノマーの配合量を一定の範囲に制御することにより、液晶性を維持しながら優れた耐熱性を有し、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温での加工が可能な新規の液晶性樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂であって、前記液晶性樹脂は、必須の構成成分として、下記構成単位(I)及び下記構成単位(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位と、下記構成単位(III)及び下記構成単位(IV)とを含み、前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、下記構成単位(I)及び(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位の割合が、5~50モル%である、液晶性樹脂。
【化1】
(構成単位(I)及び(II)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、又はメトキシ基を表す。)
[2]前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、前記構成単位(III)の割合が2~80モル%である、[1]に記載の液晶性樹脂。
[3]前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、前記構成単位(IV)の割合が2~80モル%である、[1]または[2]に記載の液晶性樹脂。
[4]前記液晶性樹脂の5%質量減少温度が420℃以上である、[1]から[3]のいずれかに記載の液晶性樹脂。
[5]前記液晶性樹脂の流動開始温度が210℃以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の液晶性樹脂。
[6]全芳香族ポリエステルである、[1]から[5]のいずれかに記載の液晶性樹脂。
[7]全芳香族ポリエステルアミドである、[1]から[5]のいずれかに記載の液晶性樹脂。
[8][1]から[7]のいずれかに記載の液晶性樹脂を含む、液晶性樹脂組成物。
[9][1]から[7]のいずれに記載の液晶性樹脂の成形品。
[10][8]に記載の液晶性樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バイオマス由来のモノマーを原料として含む液晶性樹脂であって、耐熱性に優れ、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温加工が可能な液晶性樹脂、及びそれを含む液晶性樹脂組成物、並びにこれらの成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において「~」の記載は、「以上以下」を意味する。
【0009】
[液晶性樹脂]
本実施形態に係る液晶性樹脂は、溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂であって、前記液晶性樹脂は、必須の構成成分として、下記構成単位(I)及び下記構成単位(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位と、下記構成単位(III)及び下記構成単位(IV)を含み、前記液晶性樹脂の全構成単位に占める、下記構成単位(I)及び(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位の割合が、5~50モル%であることを特徴とする。
【化1】
(構成単位(I)及び(II)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、又はメトキシ基を表す。)
本実施形態に係る液晶性樹脂は、バイオマス由来のモノマーを原料として含み、耐熱性に優れ、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温加工が可能である。
【0010】
<構成単位(I)及び(II)>
本実施形態に係る液晶性樹脂は、前記構成単位(I)及び(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を、液晶性樹脂の全構成単位(100モル%)に対して、5~50モル%含む。
【0011】
構成単位(I)は、4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸(バニリン酸)、4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシ安息香酸(シリンガ酸)から選択される少なくとも1つのモノマーから誘導されるモノマー単位である。また構成単位(II)は、4-ヒドロキシ-3-メトキシケイ皮酸(フェルラ酸)、4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシケイ皮酸(シナピン酸)から選択される少なくとも1つのモノマーから誘導されるモノマー単位である。すなわち、これら構成単位(I)及び(II)は、バイオマス由来のモノマー原料から誘導されるモノマー単位である。本実施形態に係る液晶性樹脂は、バニリン酸やフェルラ酸等のバイオマス由来のモノマーを、後述する4-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と組み合わせることにより、液晶性を維持しつつ、高い耐熱性を発現できる。さらに高い耐熱性を有しながら、低温での加工も可能となる。
一実施形態において、耐熱性と低温加工性とをより両立しやすい観点からは、構成単位(I)はバニリン酸から誘導されたモノマー単位を含むことが好ましい。また、構成単位(II)はフェルラ酸から誘導されたモノマー単位を含むことが好ましい。
【0012】
一実施形態において、構成単位(I)及び構成単位(II)を形成する前述のモノマーは、木質由来物質であるリグニンから得られる、バイオマス由来のモノマーであることが好ましい。
【0013】
一実施形態において、液晶性樹脂の全構成単位に対する、構成単位(I)及び(II)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位の割合は、5モル%超50モル%以下であってもよく、6.0~50モル%であってもよく、6.5~50モル%であってもよく、6.5~47.5モル%であってもよく、7.5~45モル%であってもよく、10~40モル%であってもよい。また一実施形態においては、構成単位(I)又は構成単位(II)を、液晶性樹脂の全構成単位に対して、5~50モル%含むことが好ましく、構成単位(I)を5~50モル%含むことがより好ましい。
【0014】
<構成単位(III)及び(IV)>
本実施形態に係る液晶性樹脂は、必須の構成単位として、構成単位(III)及び(IV)を含む。構成単位(III)及び(IV)を必須構成単位として含むことにより、本実施形態に係る樹脂が液晶性樹脂となる。また、構成単位(III)及び(IV)を前述の構成単位(I)及び/又は構成単位(II)と組み合わせることで、耐熱性に優れ、かつ低温加工も可能な液晶性樹脂が得られる。
【0015】
構成単位(III)は、4-ヒドロキシ安息香酸(以下、「HBA」と記載することもある)から誘導されるモノマー単位である。一実施形態において、液晶性樹脂の全構成単位(100モル%)に占める構成単位(III)の割合は、2~80モル%が好ましく、3~75モル%がより好ましく、5~70モル%がさらに好ましい。構成単位(III)の割合が前記範囲内であれば、低温加工性がより良好となりやすい。
【0016】
構成単位(IV)は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(以下、「HNA」と記載することもある)から誘導されるモノマー単位である。一実施形態において、液晶性樹脂の全構成単位(100モル%)に占める構成単位(IV)の割合は、2~80モル%が好ましく、3~75モル%がより好ましく、5~70モル%がさらに好ましい。構成単位(IV)の割合が前記範囲内であれば、低温加工性がより良好となりやすい。
【0017】
一実施形態において、液晶性樹脂の全構成単位に占める構成単位(III)及び(IV)の合計量は、20~95モル%であってもよく、22.5~90モル%であってもよく、25~85モル%であってもよい。構成単位(III)及び(IV)の合計量が前記範囲内であれば、液晶性を維持しつつ、耐熱性及び低温加工性に優れる液晶性樹脂が得られやすくなる。
【0018】
<その他の構成単位>
本実施形態に係る液晶性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記構成単位(I)~(IV)以外の構成単位(その他の構成単位)を含んでいてもよい。一実施形態においては、下記構成単位(V)~(VII)より選択される少なくとも1つの構成単位を含んでいてもよい。
【0019】
【化2】
【0020】
構成単位(V)において、Arは2価の芳香族基を表す。すなわち、構成単位(V)は芳香族ジカルボン酸から誘導されるモノマー単位である。2価の芳香族基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。一実施形態において、構成単位(V)のArはp-フェニレン基、又はm-フェニレン基が好ましい。
構成単位(V)を誘導するモノマーとしては、1,4-フェニレンジカルボン酸(以下、「TA」と記載することもある)、1,3-フェニレンジカルボン酸(以下、「IA」と記載することもある)が好ましい。
【0021】
本実施形態に係る液晶性樹脂が構成単位(V)を含む場合、全構成単位に対して、0.5~30モル%が好ましく、0.5~25モル%がより好ましい。
【0022】
構成単位(VI)において、Arは2価の芳香族基を表す。すなわち、構成単位(VI)は芳香族ジオールから誘導されるモノマー単位である。2価の芳香族基としては、Arと同じものが例示できる。一実施形態において、構成単位(VI)のArはビフェニレン基が好ましい。
構成単位(VI)を誘導するモノマーとしては、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」と記載することもある)が好ましい。
【0023】
本実施形態に係る液晶性樹脂が構成単位(VI)を含む場合、全構成単位に対して、8~25モル%が好ましく、10~25モル%がより好ましい。
【0024】
構成単位(VII)において、Arは2価の芳香族基を表す。すなわち、構成単位(VII)はアミノフェノール類から誘導されるモノマー単位である。2価の芳香族基としては、Arと同じものが例示できる。一実施形態において、構成単位(VII)のArはp-フェニレン基、又はm-フェニレン基が好ましい。
構成単位(VII)を誘導するモノマーとしては、N-アセチル-p-アミノフェノール(以下、「APAP」と記載することもある)が好ましい。
【0025】
本実施形態に係る液晶性樹脂が構成単位(VII)を含む場合、全構成単位に対して、0.5~25モル%が好ましく、1~20モル%がより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る樹脂は、溶融時に光学異方性を示す液晶性樹脂である。「液晶性」とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有することをいう。光学異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、光学異方性溶融相の確認は、偏光顕微鏡(例えば、オリンパス(株)製)を使用し、ホットステージ(例えば、リンカム社製)に載せて溶融させた試料を窒素雰囲気下で150倍の倍率で、クロスニコル下で観察することにより実施できる。液晶性を有する樹脂は、直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0027】
一実施形態において、液晶性樹脂の5%質量減少温度は、420℃以上であってもよく、430~455℃であってもよく、465~520℃であってもよい。5%質量減少温度が420℃以上であれば、より高い耐熱性が要求される分野へ応用しやすくなる。なお、液晶性樹脂の5%質量減少温度は、液晶性樹脂をTG/DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)を用いて、窒素雰囲気下で昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、初期の質量から5%質量が減少した時の温度を指す。
【0028】
一実施形態において、液晶性樹脂の流動開始温度は210℃以下であってもよく、200℃以下であってもよく、190℃以下であってもよい。流動開始温度が210℃以下であれば、低温での加工性が良好となりやすい。より好ましい実施形態は、5%質量減少温度が420℃以上であり、かつ流動開始温度が210℃以下である液晶性樹脂である。このような液晶性樹脂は、バイオマス成分を含む従来の液晶性樹脂よりも優れた耐熱性を有し、かつ低温加工性も良好となりやすい。
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーター(例えば、(株)島津製作所製、製品名「フローテスターCFT-500型」)を用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら液晶性樹脂を溶融させて、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を指す。
【0029】
本実施形態に係る液晶性樹脂は、1種類の液晶性樹脂のみから構成されていてもよく、2種類以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。液晶性樹脂の種類としては、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等が挙げられる。液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドとしては、全芳香族ポリエステル及び全芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。一実施形態において、液晶性樹脂は、全芳香族ポリエステル及び/又は全芳香族ポリエステルアミドであってもよく、全芳香族ポリエステル及び/又は全芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含む液晶性樹脂でもよい。耐熱性等の観点からは、全芳香族ポリエステル及び/又は全芳香族ポリエステルアミドが好ましい。
【0030】
一実施形態において、液晶性樹脂が全芳香族ポリエステルである場合、全芳香族ポリエステルの全構成単位に占める構成単位(III)及び(IV)の合計量は、40~93.5モル%であってもよく、50~92モル%であってもよい。構成単位(III)及び(IV)の合計量が前記範囲内であれば、全芳香族ポリエステルの耐熱性がより良好となりやすい。
また一実施形態において、全芳香族ポリエステルの全構成単位に占める構成単位(I)及び(III)の合計量は、20~80モル%であってもよく、40~80モル%であってもよい。構成単位(I)及び(III)の合計量が前記範囲内であれば、全芳香族ポリエステルの液晶性を維持しつつ、耐熱性と低温加工性とを両立しやすくなる。
【0031】
一実施形態において、液晶性樹脂が全芳香族ポリエステルアミドである場合、前述の構成単位(I)~(IV)以外に、前記構成単位(VII)を含むことが好ましい。一実施形態において、全芳香族ポリエステルアミドの全構成単位に占める構成単位(III)、(IV)及び(VII)の合計量は、50~80モル%であってもよく、55~80モル%であってもよい。
【0032】
<液晶性樹脂の製造方法>
本実施形態に係る液晶性樹脂の製造方法としては特に限定されず、必須成分として、構成単位(I)及び/又は構成単位(II)、構成単位(III)及び構成単位(IV)が含まれるように、前述のモノマー(又はモノマー混合物)を、直接重合法やエステル交換法等の公知の方法で重合して製造できる。一実施形態においては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせにより製造されてもよく、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせにより製造されてもよい。
本実施形態に係る液晶性樹脂の製造に用いられるモノマーがエステル形成能を有する場合は、そのままの形で重合に用いてもよい。また、重合の前段階でアシル化剤等によって前駆体とし、前記前駆体を重合に用いてもよい。アシル化剤としては、例えば、無水酢酸等の無水カルボン酸等を用いることができる。
【0033】
重合に際しては、種々の触媒の使用が可能である。使用可能な触媒の代表的なものとしては、例えば、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒;N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、一般にはモノマーの全質量に対して、約0.001~1質量%であり、特に、約0.01~0.2質量%が好ましい。
【0034】
一実施形態において、液晶性樹脂には、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、結晶核剤等の添加剤が配合されていてもよい。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
一実施形態において、液晶性樹脂の融点は、150~210℃であってもよく、170~200℃であってもよく、180~190℃であってもよい。なお、別の実施形態において、液晶性樹脂は融点を持たないものであってもよい。
液晶性樹脂の「融点」は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2を意味する。融点Tm2は、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、室温から20℃/分の昇温速度で加熱(1stRUN)した際に観測される吸熱ピークにおけるピークトップの温度(融点Tm1)の測定後、(融点Tm1+40)℃で2分間保持し、次いで20℃/分の降温速度で室温まで冷却し、再度室温から20℃/分の昇温速度で加熱(2ndRUN)した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークにおけるピークトップの温度とする。
【0036】
一実施形態において、液晶性樹脂の溶融粘度は5~1000Pa・sであってよく、10~300Pa・sであってもよい。液晶性樹脂が融点を持つ場合の溶融粘度は、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec-1で測定することができる。また液晶性樹脂が融点を持たない場合は、シリンダー温度280℃及びせん断速度1000sec-1で溶融粘度を測定することができる。なお液晶性樹脂の溶融粘度は、液晶性樹脂の溶融重合時の最終重合温度を調整することにより調整できる。
【0037】
[液晶性樹脂組成物]
本実施形態に係る液晶性樹脂組成物は、前述の液晶性樹脂を含む。液晶性樹脂組成物中の液晶性樹脂の割合は特に限定されず、必要に応じて配合量を変更できる。電子部品の分野に応用する場合は、液晶性樹脂組成物中の液晶性樹脂の割合は、通常、50~99質量%の範囲である。また、本実施形態に係る液晶性樹脂組成物には、必要に応じて、各種の繊維状、粉粒状、又は板状の、無機充填剤及び/又は有機充填剤を含むことができる。
【0038】
<充填剤>
繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ウォラストナイト等の珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。なお、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することができる。
【0039】
粉粒状充填剤としては、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0040】
板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、タルク、各種の金属箔等が挙げられる。
これらの無機充填剤及び/又は有機充填剤は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
充填剤は、液晶性樹脂100質量部に対して、0~100質量部配合することができる。
【0041】
<その他の成分>
本実施形態に係る液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等のその他の成分も要求性能に応じ適宜添加することができる。その他の成分は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
[液晶性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る液晶性樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、前述の液晶性樹脂に、必要に応じて充填剤、その他の成分を配合したのち、1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理して、液晶性樹脂組成物を調製してもよい。
【0043】
[成形品]
本実施形態に係る成形品は、前述の液晶性樹脂、及び/又は液晶性樹脂組成物を用いて成形される。本実施形態に係る液晶性樹脂及び液晶性樹脂組成物は、低温加工性に優れる。そのため、本実施形態に係る成形品は、例えば、前述の液晶性樹脂及び/又は液晶性樹脂組成物を200~300℃のシリンダー温度で射出成形したものであってもよい。前記シリンダー温度は210~295℃であってもよく、220~290℃であってもよい。本実施形態に係る成形品は、耐熱性にも優れている。また、本実施形態に係る液晶性樹脂は、低温加工性に優れるため、他の熱可塑性樹脂と混合する場合に高温で加工する必要がなく、従来の液晶性樹脂では溶融混錬時に熱分解を生じて混合することができなかった熱可塑性樹脂とも混合することができる。
【0044】
[用途]
本実施形態に係る成形品は、前述の液晶性樹脂及び/又は液晶性樹脂組成物を用いて成形されるため、耐熱性に優れている。そのため、本実施形態に係る成形品は高耐熱性が要求される分野、例えば、電子部品、OA機器等に好適に用いられる。
【実施例0045】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に300℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分間かけて1000Paまで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸点成分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットを、窒素気流下、140℃で3時間の熱処理を行って目的の樹脂を得た。得られた樹脂の液晶性、耐熱性、及び低温加工性を以下の条件で評価した。結果を表1に示す。
<原料>
(モノマー)
構成単位(I):バニリン酸;10g(8モル%)
構成単位(III):4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);66g(65モル%)
構成単位(IV):6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA);37g(27モル%)
(その他添加剤)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);7mg
アシル化剤(無水酢酸);77g
【0047】
<液晶性評価>
得られた樹脂を、偏光顕微鏡(オリンパス株式会社製)を使用し、ホットステージ(リンカム社製)に載せて溶融させ、窒素雰囲気下で150倍の倍率で、クロスニコル下で観察して、液晶性を評価した。光学異方性溶融相が形成されていたものを合格とした。
【0048】
<耐熱性評価>
得られた樹脂の5%質量減少温度をTG/DTAを用いて評価した。具体的には、窒素雰囲気下で昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、初期の質量から5%質量が減少した時の温度を求めた。また、以下の評価基準に沿って評価し、B評価以上を合格とした。
(評価基準)
A:5%質量減少温度が450℃以上。
B:5%質量減少温度が420℃以上450℃未満。
C:5%質量減少温度が420℃未満。
【0049】
<低温加工性>
得られた樹脂の流動開始温度を、毛細管レオメーター(株式会社島津製作所製、製品名「フローテスターCFT-500型」)を用いて評価した。具体的には9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら液晶性樹脂を溶融させて、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を求めた。また、以下の評価基準に沿って評価し、B評価以上を合格とした。
(評価基準)
A:流動開始温度が190℃未満。
B:流動開始温度が190℃以上210℃以下。
C:流動開始温度が210℃超。
【0050】
[実施例2~7、及び比較例1~11]
以下に示す原料を表1に示す組成で配合した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂を得た。得られた樹脂の液晶性、耐熱性及び低温加工性を、実施例1と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。なお、金属触媒及びアシル化剤は、各例で適宜配合量を調整した。
<原料>
(モノマー)
構成単位(I):バニリン酸
構成単位(II):フェルラ酸
構成単位(I’):4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メトキシ安息香酸
構成単位(II’):p-クマル酸
構成単位(III):4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)
構成単位(IV):6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)
構成単位(V):1,4-フェニレンジカルボン酸(TA)
構成単位(VI):4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)
構成単位(VII):N-アセチル-p-アミノフェノール(APAP)
(その他添加剤)
金属触媒(酢酸カリウム触媒)
アシル化剤(無水酢酸)
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す通り、本実施形態に係る液晶性樹脂は、耐熱性に優れ、かつ低温加工性も良好であった。一方、バイオマス由来のモノマーを含まない、従来の液晶性樹脂である比較例1は、耐熱性は高かったものの、流動開始温度も高く低温加工性に劣っていた。同じく、バイオマス由来のモノマーを含まない比較例5、6の液晶性樹脂は、耐熱性及び低温加工性の両方が劣っていた。構成単位(III)又は(IV)のいずれかを含まない比較例2、3及び8の樹脂は液晶性を示さなかった。また、400℃以上でも溶融せず、流動開始温度を測定することができなかった。また、バニリン酸のみを重合して得られた比較例7の樹脂も液晶性を示さず、かつ流動開始温度を測定できなかった。構成単位(I)の割合が5モル%未満の比較例4の液晶性樹脂は、耐熱性は良好であったものの、流動開始温度が高く、低温加工性に劣っていた。一方、構成単位(I)の割合が50モル%超の比較例11の液晶性樹脂は耐熱性及び低温加工性の両方に劣る結果となった。また、フェルラ酸の代わりに、p-クマル酸を配合した比較例9の液晶性樹脂は、本実施形態に係る液晶性樹脂よりも耐熱性及び低温加工性に劣っていた。同様に、バニリン酸誘導体である、4-(2-ヒドロシエトキシ)-3-メトキシ安息香酸を配合した比較例10の液晶性樹脂も低温加工性に劣っていた。以上の結果より、本実施形態に係る液晶性樹脂は、耐熱性に優れ、かつ従来の液晶性樹脂よりも低温加工が可能であることが確認された。