(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135634
(43)【公開日】2023-09-28
(54)【発明の名称】センサ及び発光素子
(51)【国際特許分類】
G01R 33/20 20060101AFI20230921BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20230921BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20230921BHJP
H01L 33/34 20100101ALI20230921BHJP
【FI】
G01R33/20
C30B29/36 A
G01N24/00 P
H01L33/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036789
(22)【出願日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2022040303
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先導研究プログラム未踏チャレンジ2050」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】村田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】増山 雄太
【テーマコード(参考)】
4G077
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AB01
4G077AB06
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EA02
4G077ED05
4G077ED06
4G077HA02
4G077HA20
5F241AA03
5F241CA02
5F241CA22
5F241CA33
5F241CA49
5F241CA50
5F241CA57
(57)【要約】
【課題】室温を超える温度でも使用することができるセンサ及び発光素子を提供する。
【解決手段】SiC単結晶を備え、前記SiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×10
10cm
-3以上、1×10
17cm
-3以下であり、前記SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×10
13cm
-3以下である、ことを特徴とするセンサ及び発光素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶を備え、物理量を検出する検出素子を有し、
前記SiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であり、
前記SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×1013cm-3以下である、
ことを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記スピン欠陥は遷移金属元素であり、かつ前記遷移金属元素の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上である
ことを特徴とする請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記SiC単結晶の電気伝導度は、1Scm-1以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記SiC単結晶を形成する、炭素の同位体核種12Cまたは珪素の同位体核種28Siもしくはその両方の同位体存在比が、天然存在比よりに高いことを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
さらに、前記検出素子から出力される信号を処理する回路を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
さらに、基板を有し、
前記検出素子及び前記回路が、前記基板上に設けられている
ことを特徴とする請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記回路は、
前記SiC単結晶と接するように配置される第一の半導体と、
前記SiC単結晶と接するように配置され、前記第一の半導体と導電型が異なる第二の半導体と、を備える
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のセンサ。
【請求項9】
さらに、前記SiC単結晶にマイクロ波を照射する照射部を備える
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
SiC単結晶を備える発光素子であって、
前記SiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であり、
前記SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×1013cm-3以下である、
ことを特徴とする発光素子。
【請求項11】
前記スピン欠陥は遷移金属元素であり、かつ前記遷移金属元素の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の発光素子。
【請求項12】
前記遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上である
ことを特徴とする請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
前記SiC単結晶の電気伝導度は、1Scm-1以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の発光素子。
【請求項14】
n型の前記SiC単結晶である第1単結晶と、
p型の前記SiC単結晶である第2単結晶と、
を備えることを特徴とする請求項10~13のいずれか一項に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ及び発光素子に関し、特に炭化珪素センサ及び炭化珪素発光素子並びにモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウエハが用いられるようになっている。
【0003】
特許文献1には、炭化珪素からなる半導体基板と、前記半導体基板のおもて面に設けられた、窒素およびバナジウムを含むn型エピタキシャル層と、前記n型エピタキシャル層の、前記半導体基板側の表面層に設けられたp型領域と、前記p型領域からなる所定の素子構造と、前記p型領域に電気的に接続された第1電極と、前記半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、を備え、前記n型エピタキシャル層の窒素濃度は、1×1015/cm3以下であり、前記n型エピタキシャル層のバナジウム濃度は、前記n型エピタキシャル層の窒素濃度よりも低いことを特徴とする炭化珪素半導体装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、α-SiC単結晶基材の表面に物理的蒸着法もしくは熱化学的蒸着法で10μm以上の厚さのβ-SiC層を形成してなる複合体を熱処理することによって、上記β-SiC層の多結晶体をα-SiCに転化させて該β-SiC層に上記α-SiC単結晶基材の結晶軸と同方位に配向された単結晶を成長させていることを特徴とする単結晶SiCが開示されている。
【0005】
特許文献3には、SiC種結晶をSi-C溶液に接触させて前記SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる溶液成長法に用いるSiC種結晶であって、ファセット領域及び非ファセット領域のいずれか一方のみからなる結晶成長面を有し、半径Rを有する前記SiC種結晶の前記結晶成長面の中心位置と、前記中心位置を中心とした半径1/3Rの仮想円上であって、中心角45°おきに配置される複数の第1測定位置と、前記中心位置を中心とした半径2/3Rの仮想円上であって、中心角45°おきに配置される複数の第2測定位置とにおける窒素濃度のうち、最小値に対する最大値と最小値との差分値の割合が15%以下である、SiC種結晶が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-67928号公報
【特許文献2】特開平11-12097号公報
【特許文献3】再公表WO2018/062224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載のSiC半導体は、パワー半導体デバイスへ適用されるものである。センサへ適用した場合では、検出感度や測定精度が低く、室温を超える温度では使用することが難しいという問題があった。発光素子に適用した場合では、室温を超える温度(例えば、数百度以上)で所望の波長の発光を得るのが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、室温を超える温度でも使用することができるセンサ及び発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の一態様に係るセンサは、SiC単結晶を備え、物理量を検出する検出素子を有し、前記SiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であり、前記SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×1013cm-3以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係るセンサは、前記スピン欠陥は遷移金属元素であり、かつ前記遷移金属元素の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係るセンサは、前記遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係るセンサは、前記SiC単結晶の電気伝導度は、1Scm-1以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係るセンサは、前記SiC単結晶を形成する、炭素の同位体核種12Cまたは珪素の同位体核種28Siもしくはその両方の同位体存在比が、天然存在比より高いことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係るセンサは、さらに、前記検出素子から出力される信号を処理する回路を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係るセンサは、さらに、基板を有し、前記検出素子及び前記回路が、前記基板上に設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係るセンサは、前記回路は、前記SiC単結晶と接するように配置される第一の半導体と前記SiC単結晶と接するように配置され、前記第一の半導体と導電型が異なる第二の半導体と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一態様に係るセンサは、さらに、前記SiC単結晶にマイクロ波を照射する照射部を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る発光素子は、SiC単結晶を備える発光素子であって、前記SiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であり、前記SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×1013cm-3以下である、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一態様に係る発光素子は、前記スピン欠陥は遷移金属元素であり、かつ前記遷移金属元素の密度が1×1010cm-3以上、1×1017cm-3以下であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一態様に係る発光素子は、前記遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係る発光素子は、前記SiC単結晶の電気伝導度は、1Scm-1以下であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一態様に係る発光素子は、n型の前記SiC単結晶である第1単結晶と、p型の前記SiC単結晶である第2単結晶と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、室温を超える温度でも使用することができるセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図4】本発明の第4実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図5】本発明の第5実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図6】本発明の第6実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図7】本発明の第7実施形態に係るセンサの模式図を示す図である。
【
図8】本発明の第8実施形態に係る発光素子を示す模式図である。
【
図9】SiC単結晶における遷移金属元素の密度と発光強度との関係を示す図である。
【
図10】SiC単結晶における炭素空孔密度と発光強度との関係を示す図である。
【
図11】SiC単結晶における格子欠陥の測定結果を示す図である。
【
図12】SiC単結晶における導電率と発光強度との関係を示す図である。
【
図13】本発明の実施例に係るセンサの検出結果を示す図である。
【
図14】本発明の実施例に係る発光素子の発光特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明の一形態は、以下の説明に限定されず、本発明の趣旨その範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明の一形態は、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
以下に示される複数の実施の形態は適宜組み合わせることが可能である。また1の実施の形態中に、複数の構成例(作製方法例、動作方法例等も含む。)が示される場合は、互い構成例を適宜組み合わせること、及び他の実施の形態に記載された1又は複数の構成例と適宜組み合わせることも可能である。
【0028】
図面において、同一の要素又は同様な機能を有する要素、同一の材質の要素、あるいは同時に形成される要素等には同一の符号を付す場合があり、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0029】
なお、本明細書中において、数値の下限値から数値の上限値までの数値範囲を表す記載表現として「~」を用いた説明箇所あるが、この説明箇所における数値範囲は、下限値自体及び上限値自体を含む下限値以上、上限値以下として特定される数値範囲である。
【0030】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係るセンサ100を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係るセンサ100の模式図を示す図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るセンサ100は、検出素子110を有する。検出素子110はSiC単結晶を備える。検出素子110は、物理量を検出する。物理量は特に限定されないが、例えば、温度や磁場、電場が挙げられる。
【0032】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶は、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010~1×1017cm-3であることを特徴とする。すなわち、検出素子110が有するSiC単結晶は半導体である。スピン欠陥は、SiC単結晶に不純物イオンが含まれることにより生じるものである。スピン欠陥の密度は、不純物イオンの密度により変化する。スピン欠陥は、遷移金属元素であることが好ましい。遷移金属元素の密度が1×1010~1×1017cm-3であることが好ましい。信号強度を増強させる場合においてスピン欠陥の密度は1×1014cm-3以上であることがより好ましく、1×1015cm-3以上であることがより好ましい。これにより、センサ100の室温を超える温度での測定精度が更に向上する。空間分解能を向上させる場合には、スピン欠陥の密度は1×1014cm-3以下であることがより好ましく、1×1012cm-3以下であることがより好ましい。
【0033】
遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上であることがさらに好ましい。これにより、センサ100の室温を超える温度での検出感度や測定精度が更に向上する。
【0034】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、1×1013cm-3以下である。ここで、炭素空孔は、SiC単結晶を構成する炭素原子の欠損である。SiC単結晶中の炭素空孔は、バンドギャップ中に欠陥準位を形成し、キャリアトラップや再結合中心として作用する。炭素空孔密度の増加に伴い、炭化珪素のキャリア寿命が低下することが知られている。例えば、非特許文献 Katsunori Danno, Daisuke Nakamura and Tsunenobu Kimoto, Applied Physics Letters 90, 202109 (2007)にキャリア寿命と炭素空孔密度の関係が示されている。
【0035】
すなわち、炭素空孔はスピン欠陥起因の発光強度や電気信号強度の低下を引き起こし、センサ100の検出感度や測定精度を低下させる要因となる。したがって、炭素空孔密度を低減させることで、センサ100の室温を超える温度での測定精度が向上する。検出素子110が有するSiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、スピン欠陥密度よりも低いことが好ましく、例えば、1×1011cm-3以下であることがより好ましい。また格子間炭素起因の点欠陥は、例えば、SiC単結晶中に含まれなくてもよい。
【0036】
格子間炭素起因の点欠陥とは、格子の隙間に存在する炭素に起因した欠陥である。格子間炭素起因の点欠陥は、例えば、EH1センター、EH3センター、RD3センター、ON1センター、ON2センターである。EH1センター、EH3センター、RD3センターのそれぞれの密度が1×1011cm-3以下であることが好ましく、ON1センター、ON2センターのそれぞれの密度は1×1011cm-3以下であることが好ましい。これにより、センサ100の室温を超える温度での検出感度や測定精度がさらに向上する。
【0037】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶中のシリコン空孔の格子欠陥密度は、炭素空孔の格子欠陥密度より小さい。ここで、シリコン空孔は、SiC単結晶を構成する珪素原子の欠損である。シリコン空孔もバンドギャップ中に欠陥準位を形成し、キャリアトラップや再結合中心として作用することから、センサ100の検出感度や測定精度を低下させる要因となる。したがって、シリコン空孔密度を低減させることにより、センサ100の室温を超える温度での検出感度や測定精度が向上する。
【0038】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶は、半絶縁型半導体であってもよい。検出素子110が有するSiC単結晶の電気伝導度は1×10-3Scm-1以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶は、炭素の同位体核種12Cまたは珪素の同位体核種28Siもしくはその両方の同位体存在比を天然存在比以上に高めてもよい。同位体存在比とは、全同位体核種の量を1としたときの、それぞれの同位体核種の値を言う。例えば、炭素の同位体核種12Cおよび13Cの天然存在比は、0.989および0.011である。SiC単結晶を構成する炭素または珪素の核スピンはスピン欠陥が有する不対電子に作用することから、センサ100の検出感度を低下させる要因となる。すなわち、炭素の同位体核種12Cまたは珪素の同位体核種28Siもしくはその両方の同位体存在比を天然存在比以上に高めることが好ましい。これにより、センサ100の検出感度や測定精度が向上する。
【0040】
SiC単結晶中のドーピング濃度は、例えば、1×1013cm-3以上1×1017以下cm-3であってもよい。ドーピング濃度は、n型の場合はドナー濃度からアクセプタ濃度を引いた実効的なドーピング濃度であり、p型の場合はアクセプタ濃度からドナー濃度を引いた実効的なドーピング濃度である。n型の場合は、アクセプタ濃度は低いほど好ましく、p型の場合はドナー濃度が低いほど好ましい。n型の場合のアクセプタ濃度は、例えば、1×1013cm-3以下であり、好ましくは1×1012cm-3以下である。p型の場合のドナー濃度は、例えば、1×1013cm-3以下であり、好ましくは1×1012cm-3以下である。ここで、ドーピング濃度とは、スピン欠陥を生成する元素を除くドーピング元素の濃度をいう。
【0041】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶は、n型半導体であってもよい。
【0042】
ドナーである元素として、例えば、窒素(N)やリン(P)が挙げられる。
【0043】
本発明の第1実施形態で、検出素子110が有するSiC単結晶は、p型半導体であってもよい。
【0044】
アクセプタである元素として、例えば、アルミニウム(Al)や硼素(B)が挙げられる。
【0045】
図1に示すように、本発明の第1実施形態で、検出素子110は基板190の上に設けられてもよい。これにより、検出素子110の変形を防ぐことができる。その結果、センサ100の検出精度をより向上させることができる。基板190の種類は特に限定されず、例えば、絶縁体基板、半導体基板又は導電体基板が挙げられる。基板190は、SiCであることが好ましい。基板190は、検出素子110の一部であってもよい。
【0046】
絶縁体基板としては、例えば、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、安定化ジルコニア基板、樹脂基板などが挙げられる。
【0047】
半導体基板としては、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体基板、又は炭化シリコン、シリコンゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなる化合物半導体基板などが挙げられる。さらに、前述の半導体基板内部に絶縁体領域を有する半導体基板、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板などが挙げられる。
【0048】
導電体基板としては、黒鉛基板、金属基板、合金基板、導電性樹脂基板などが挙げられる。又は、金属の窒化物を有する基板、金属の酸化物を有する基板などが挙げられる。さらに、絶縁体基板に導電体又は半導体が設けられた基板、半導体基板に導電体又は絶縁体が設けられた基板、導電体基板に半導体又は絶縁体が設けられた基板などが挙げられる。
【0049】
基板190として、可撓性基板を用いてもよい。なお、可撓性基板上に検出素子110を設ける方法としては、非可撓性の基板上に検出素子110を作製した後、検出素子110を剥離し、可撓性基板である基板190に転置すればよい。その場合には、非可撓性基板と検出素子110との間に剥離層を設けてもよい。基板190として、繊維を編みこんだシート、フィルム又は箔などを用いてもよい。基板190は伸縮性を有してもよい。基板190は、折り曲げや引っ張りをやめた際に、元の形状に戻る性質を有してもよい、また、元の形状に戻らない性質を有してもよい。
【0050】
基板190の厚さは、例えば、5μm以上以下であってもよい。好ましくは15μm以上以下である。基板190を薄くすると、センサ100を軽量化することができる。また、基板190を薄くすることで、ガラスなどを用いた場合にも伸縮性を有することができ、また、折り曲げや引っ張りをやめた際に、元の形状に戻る性質を有することができる。そのため、落下などによって基板190の上の検出素子110に加わる衝撃などを緩和することができる。すなわち、丈夫なセンサ100を提供することができる。
【0051】
基板190に適用できる可撓性基板は、例えば、金属、合金、樹脂もしくはガラス、又はそれらの繊維などでなる基板190である。可撓性基板は、線膨張率が低いほど環境による変形が抑制されて好ましい。可撓性基板には、例えば、線膨張率が1×10-3/K以下、である材質を用いてもよい。樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド(ナイロン、アラミドなど)、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。特に、アラミドは、線膨張率が低いので、可撓性基板である基板190として、アラミドが好ましい。
【0052】
本発明の実施形態に係るセンサ100で、検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥(不純物イオン)が有する不対電子がプローブとして作用する。外部環境とスピン欠陥が有する不対電子との相互作用による、スピン欠陥の電子状態の変化を検出することで、外部環境の情報を得ることができる。これにより、スピン欠陥が有する不対電子との相互作用する外部環境の応じた物理量を検出することができる。また、スピン欠陥のプローブとしての作用は、室温を超える温度でも維持される。そのため、本発明の実施形態に係るセンサ100によれば、室温を超える温度でも高い測定精度を有する。
【0053】
加えて、本発明の実施形態に係るセンサ100は、SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は1×1013cm-3以下である。これにより、センサ100の検出精度が向上する。さらに、炭素空孔及びシリコン空孔は、高温において消滅する可能性がある。そのため、炭素空孔及びシリコン空孔を利用して物理量を検出するセンサ100は、室温を超える温度の高温での検出精度が低下する可能性がある。一方、本発明の実施形態に係るセンサ100は、炭素空孔及びシリコン空孔を利用して物理量を検出しない。そのため、本発明の実施形態に係るセンサ100は、室温を超える温度でも優れた検出精度を有する。さらに、本発明の実施形態に係るセンサ100は、高温でも安定してセンサとして作動するので、室温では、高い動作信頼性をより長期間にわたり維持することができる。
【0054】
本発明の第1実施形態で、センサ100はさらに照射部160(図示しない)を有してもよい。照射部160は検出素子110にマイクロ波を照射してもよい。これにより、センサ100の検出精度がさらに向上する。照射部160は、例えば共振器であってもよい。本発明の第1実施形態では、センサ100からの発光強度のマイクロ波周波数依存性を評価し、共鳴ピーク周波数の値もしくはシフト量から環境の磁場を定量的に評価することができる。
【0055】
<第2実施形態>
続いて本発明の第2実施形態に係るセンサ100Aを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0056】
図2は、本発明の第2実施形態に係るセンサ100Aの模式図を示す図である。
図2に示すように、本発明の第2実施形態に係るセンサ100Aは、検出素子110と電極120とを有する。
【0057】
(電極)
本発明の第2実施形態に係るセンサ100Aで、電極120は、検出素子110のSiC単結晶の少なくとも片側に設けられている。
図2に示すように、電極120は片側に複数配置してもよい。電極120として、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、金(Au)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)の低抵抗材料からなる単体、もしくは合金、又はこれらを主成分とする化合物を含む導電膜の単層又は積層であってもよい。電極120として、耐熱性と導電性を両立するタングステンやモリブデンなどの高融点材料を用いることが好ましい。また、アルミニウムや銅などの低抵抗導電性材料で形成することが好ましい。さらに、Cu-Mn合金を用いることがより好ましい。電極120として、Cu-Mn合金を用いた場合、酸素を含む絶縁体との界面に酸化マンガンを形成し、酸化マンガンがCuの拡散を抑制する機能を持つので好ましい。
【0058】
図2に示すように、電極120と検出素子110のSiC単結晶との間に絶縁膜200を設けてもよい。絶縁膜200は、SiC単結晶と検出素子110のSiC単結晶とを電気的に分離させる機能を有する。また、電極120と検出素子110のSiC単結晶との間に絶縁膜200を設けることで電極120と検出素子110のSiC単結晶との間に電荷を蓄えることができる。絶縁膜200は、単層構造又は積層構造であってもよい。絶縁膜200を構成する材料として、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化ハフニウム、酸化タンタルなどが挙げられる。また、絶縁膜200として、TEOS(Tetra-Ethyl-Ortho-Silicate)、若しくはシラン等と、酸素若しくは亜酸化窒素等とを反応させて形成した段差被覆性の良い酸化シリコンを用いてもよい。また、絶縁膜200の上面の平坦性を高めるために、絶縁膜200の成膜後にCMP法等を用いた平坦化処理を行ってもよい。絶縁膜200は、酸化物を含むことが好ましい。
【0059】
図2における電極120とSiC単結晶の間に、導電型の異なるSiC単結晶層を形成しても良い。例えば、n型SiC単結晶上に、p型SiC単結晶層を形成する。このとき、電極120とSiC単結晶間に形成するSiC単結晶層のドーピング濃度は、SiC単結晶よりも高いことが好ましい。
【0060】
上述以外の構成は、第1実施形態に係るセンサ100と同じ構成とすることができる。
【0061】
<第3実施形態>
続いて本発明の第3実施形態に係るセンサ100Bを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0062】
図3は、本発明の第3実施形態に係るセンサ100Bの模式図を示す図である。
図3に示すように、本発明の第3実施形態に係るセンサ100Bは、検出素子110と光源部130と検出部140とを有する。
【0063】
(光源部)
本発明の第3実施形態において、光源部130は電磁波を検出素子110に照射する。電磁波の波長は、1500nm以下であってもよく、1300nm以下であってもよい。
【0064】
(検出部)
本発明の第3実施形態において、検出部140は検出素子110が発する電磁波を検出する。検出部140は、光源部130によって出力される電磁波と検出素子110との相互作用により、生じる電磁波を検出する。
図3において、検出部140は、光源部130によって出力される電磁波と検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥との相互作用によって変化する電磁波を検出する。
【0065】
本発明の実施形態に係るセンサ100Bで、検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥(不純物イオン)が有する不対電子の状態は、電磁波を照射されることにより変化する。つまり、検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥(不純物イオン)が有する不対電子がプローブとして作用する。ここで、外部環境とスピン欠陥が有する不対電子との相互作用によって、スピン欠陥の電子状態が変化する。そのため、光源部130によって検出素子110に照射される電磁波と、光源部130によって出力される電磁波と検出素子110との相互作用によって生じる電磁波と、の関係は外部環境によって変化する。したがって、光源部130によって出力される電磁波と検出素子110との相互作用によって生じる電磁波を検出することで、外部環境の情報を得ることができる。これにより、スピン欠陥が有する不対電子との相互作用する外部環境の応じた物理量を検出することができる。
【0066】
本発明の実施形態に係るセンサ100Bによれば、検出素子110と、光源部130及び検出部140とを電気的に接続しなくてもよい。これにより、検出素子110と、光源部130及び検出部140とを離して設けることができる。
【0067】
<第4実施形態>
続いて本発明の第4実施形態に係るセンサ100Cを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0068】
図4は、本発明の第4実施形態に係るセンサ100Cの模式図を示す図である。
図4に示すように、本発明の第4実施形態に係るセンサ100Cは、検出素子110と光源部130と検出部140とケーブル150とを有する。本発明の第4実施形態では、光源部130と検出部140とが一体として設けられている。
【0069】
(ケーブル150)
本発明の第4実施形態で、ケーブル150は、検出素子110に接続している。ケーブル150は、検出素子110で発生する電磁波を媒介する。また、ケーブル150は、光源部130及び検出部140に接続している。ケーブル150は、光源部130から発せられる電磁波を媒介する。つまり、ケーブル150は、光源部130から発せられる電磁波を検出素子110へ送信し、また検出素子110から発せられる電磁波を検出部140へ送信する。これにより、送信又は受信される電磁波が外部環境に影響を受けるのを防ぐことができる。その結果、センサ100Cの検出精度が更に向上させることができる。ケーブル150は、例えば光ファイバーであってもよい。
【0070】
<第5実施形態>
続いて本発明の第5実施形態に係るセンサ100Dを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0071】
図5は、本発明の第5実施形態に係るセンサ100Dの模式図を示す図である。
図5に示すように、本発明の第5実施形態に係るセンサ100Dは、検出素子110と光源部130と検出部140とケーブル150と照射部160と信号線170とを有する。本発明の第5実施形態では、光源部130と検出部140とが一体として設けられている。
【0072】
信号線170の第一の端部は検出素子110に接続している。信号線170の第二の端部は照射部160に接続している。信号線170は、照射部160から発せられるマイクロ波を媒介する。検出素子110には、信号線170の第一の端部から出力されるマイクロ波が照射される。信号線170は特に限定されないが、例えば電線であってもよい。
【0073】
本発明の第5実施形態に係るセンサ100Dによれば、検出素子110が、光源部130、検出部140及び照射部160と離れている。これにより、センサ100Dの検出素子110のみを測定したい環境に近づけて測定することができる。その結果、本発明の第5実施形態に係るセンサ100Dは、光源部130、検出部140及び照射部160の動作に影響を及ぼす高温環境でも高い検出精度を有することができる。
【0074】
<第6実施形態>
続いて本発明の第6実施形態に係るセンサ100Eを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0075】
図6は、本発明の第6実施形態に係るセンサ100Eの模式図を示す図である。
図6に示すように、本発明の第6実施形態に係るセンサ100Eは、検出素子110と、光源部130と、検出部140と、ケーブル150と、照射部160と、信号線170と、回路180とを有する。本発明の第6実施形態では、光源部130と検出部140とが一体として設けられている。
【0076】
(回路)
回路180は、ケーブル150と接続している。回路180は、検出素子110から入力される信号を処理する。回路180は、検出素子110から入力される信号に応じた信号をケーブル150に出力する。回路180はケーブル150から入力される信号を処理する。回路180は、ケーブル150から入力される信号に応じた信号を検出素子110に出力する。回路180は、容量素子、抵抗素子、整流素子、スイッチ素子、発光素子及び記憶素子を有してもよい。回路180は、検出素子110から出力される信号を増幅する増幅器を有してもよい。
図6に示すように、検出素子110及び回路180は同じ基板190の上に設けられてもよい。これにより、検出素子110及び回路180を集積することができる。回路180が検出素子110に入力する信号及び出力する信号は電気的信号である。
【0077】
回路180を構成する回路素子は、第一の半導体と、第一の半導体と導電型が異なる第二の半導体を有してもよい。回路180は、第一の半導体と、第一の半導体とを有するトランジスタを備えてもよい。例えば、回路180を構成する回路素子は、炭化珪素や窒化ガリウムなどの半導体から構成される。
【0078】
(ケーブル)
本実施形態で、ケーブル150は電気的信号を媒介する。ケーブルは、例えば電線であってもよい。
【0079】
本実施形態で、光源部130は電気的信号をケーブル150に入力する。ケーブル150は、入力された信号を介して回路180に入力する。回路180は、ケーブル150から入力される信号を処理する。回路180は、ケーブル150から入力される信号に応じた電気信号を検出素子110に入力する。検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥(不純物イオン)が有する不対電子は、電気信号が入力されることにより電気的信号を発生させる。つまり、検出素子110のSiC単結晶中のスピン欠陥(不純物イオン)が有する不対電子が信号発生部として作用する。ここで、外部環境とスピン欠陥が有する不対電子との相互作用によって、スピン欠陥の電子状態が変化する。そのため、回路180によって検出素子110に入力される電気信号と、回路180によって出力される電気信号と検出素子110との相互作用によって生じる電気信号と、の関係は外部環境によって変化する。したがって、回路180によって出力される電気信号と検出素子110との相互作用によって生じる電気信号を検出することで、外部環境の情報を得ることができる。
【0080】
<第7実施形態>
続いて本発明の第7実施形態に係るセンサ100Fを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0081】
図7は、本発明の第7実施形態に係るセンサ100Fの模式図を示す図である。
図7に示すように、本発明の第7実施形態に係るセンサ100Fは、検出素子110と、光源部130と、検出部140と、ケーブル150と、回路180とを有する。本発明の第7実施形態では、光源部130と検出部140とが一体として設けられている。本発明の第7実施形態は、第6実施形態の変形例である。本実施形態では、外部環境とスピン欠陥が有する不対電子との相互作用によって生じるスピン欠陥の電子状態の変化を電気的に検出する。そのため、検出素子110にマイクロ波を照射しなくても、センシングすることができる。
【0082】
スピン欠陥の密度は、電子スピン共鳴(Electron Paramagnetic Resonance;EPR、Electron Spin Resonance、;ESR)や光検出磁気共鳴法(Optically Detected Magnetic Resonance、;ODMR)、もしくは半導体中深い準位評価法(Deep Level Transient Spectroscopy;DLTS) を利用して測定することができる。
【0083】
シリコン空孔及び炭素空孔の密度は、半導体中深い準位評価法(Deep Level Transient Spectroscopy;DLTS) を利用して測定することができる。
【0084】
SiC単結晶の組成は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)で測定することができる。
【0085】
「製造方法」
本発明者は、下記の方法で本発明に係るセンサ100を製造できることを確認しているが、本発明に係るセンサ100を製造する方法は下記の方法に限定されない。
【0086】
まず、センサ100の検出素子110のSiC単結晶の製造方法について、説明する。炭化珪素からなる支持基板(半導体ウエハ)を用意し、公知の半導体基板の洗浄法により炭化珪素基板を洗浄する。公知の半導体基板の洗浄法として有機洗浄法及びRCA洗浄法が挙げられる。炭化珪素基板の結晶構造は、例えば、四層周期六方晶構造(4H-SiC)であってもよいし、六層周期六方晶構造(6H-SiC)であってもよい。炭化珪素基板のおもて面(後述するエピタキシャル層を成長させる主面)は、(0001)面、いわゆるSi面であってもよいし、(000-1)面、いわゆるC面であってもよい。炭化珪素基板は、例えばSi面(またはC面)を結晶軸に対して例えば4°程度傾けた(オフ角を付けた)面をおもて面とする炭化珪素バルク基板であってもよい。
【0087】
次に、エピタキシャル成長炉のチャンバー内に、炭化珪素基板を挿入する。エピタキシャル成長炉は、例えば熱(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)炉であってもよい。次に、炭化珪素基板の温度(基板温度)がエピタキシャル成長に適した所定温度となるように、エピタキシャル成長炉内の温度を調整する。エピタキシャル成長炉内の温度を調整する前に、エピタキシャル成長炉内において、炭化珪素基板のおもて面を例えば後述するキャリアガスでドライエッチングして清浄化してもよい。
【0088】
次に、エピタキシャル成長炉内に、原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよび添加ガスと、遷移金属元素を含むガスと、を同時に導入する。原料ガスとして、珪素(Si)を含むガスおよび炭素(C)を含むガスを導入する。珪素を含むガスは、例えばモノシラン(SiH4)ガスであってもよい。炭素を含むガスは、例えばプロパン(C3H8)ガスであってもよい。キャリアガスとして、例えば水素(H2)ガスを用いてもよい。添加ガスとして、塩素(Cl)を含むガスを適宜添加してもよい。塩素を含むガスは、例えば塩化水素(HCl)ガスであってもよい。
【0089】
遷移金属元素を含むガス中の遷移金属元素は、ドーピング元素を含むガスと同様に、後述するエピタキシャル層にドーピングされる。すなわち、遷移金属元素を含むガスは、ドーパントガスとなる。遷移金属元素を含むガスには、例えば四塩化バナジウム(VCl4)ガスを用いてもよい。具体的には、例えば、遷移金属元素を含むガスには、例えば、四塩化バナジウムの濃度が100ppmとなるように水素ガスで予め希釈(VCl4/H2)したガスを用いてもよい。遷移金属元素を含むガスは、原料ガス等(原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよび添加ガス)と同時に、ガスボンベから例えば原料ガス等とは別の配管を通ってエピタキシャル成長炉に供給される。
【0090】
次に、導入した原料ガス、キャリアガス、ドーピングガス、添加ガス、およびバナジウムを含むガスからなる混合ガス雰囲気中で、CVD法により炭化珪素基板のおもて面上にエピタキシャル層を成長させる。ドーパントとしてドーピングされたエピタキシャル層が成長する。エピタキシャル成長炉内に原料ガス等とともにバナジウムを含むガスを導入することで、エピタキシャル層の不純物濃度を低下させることができる。エピタキシャル層中の遷移金属元素は、ドナーおよびアクセプタのいずれでもない。このため、エピタキシャル層の不純物濃度は、エピタキシャル層のドーピング濃度から遷移金属元素濃度を減算した値となる。
【0091】
エピタキシャル成長条件は、例えば次の条件であってもよい。炭化珪素基板の温度は1600℃である。エピタキシャル成長炉内の混合ガス雰囲気の圧力は80Torrである。エピタキシャル成長炉に導入ガスとしてモノシランガス、プロパンガス、塩化水素ガス、窒素ガスおよび四塩化バナジウムガスを用いる場合、これらのガスの各流量はそれぞれ100sccm、33sccm、1sccm、0.14sccmおよび1sccmである。遷移金属元素を除くドーピング元素を含むガスの流量に対する遷移金属元素を含むガスの流量比は、n型エピタキシャル層の所定の窒素濃度を得るために事前に検証して決定することが好ましい。また、p型エピタキシャル層を形成する場合には、トリメチルアルミニウム(C6H18Al2)やトリエチルボロン((CH3CH2)3B)を添加してもよい。
【0092】
エピタキシャル層中の炭素の同位体核種12Cまたは珪素の同位体核種28Siもしくはその両方の同位体存在比を天然存在比以上に高めるためには、同位体制御された原料ガス、ドーピングガス、添加ガスを利用する。例えば、同位体核種12Cから構成されるプロパンガスを用いることで、エピタキシャル層中の炭素の同位体核種12Cの存在比を向上させる。
【0093】
エピタキシャル層中の炭素および珪素の同位体存在比は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)で測定することができる。
【0094】
ここまでの工程により、炭化珪素基板のおもて面上にエピタキシャル層を積層してなる炭化珪素エピタキシャル基板(エピタキシャルウエハ)が作製される。そして、エピタキシャルウエハを切断(ダイシング)して個々のチップ状に個片化することで、炭化珪素半導体装置が完成する。
【0095】
本発明の実施形態に係るセンサ100のSiC単結晶の製造方法は、エピタキシャル成長法を使用する。また、SiC単結晶のスピン欠陥の生成に、イオン注入、電子線照射及びプロトン照射を行わない。これにより、炭素空孔密度は1×1013cm-3以下にすることができる。例えば、イオン注入法を用いて、遷移金属の密度1×1010~1×1017cm-3を実現しようとすると、同程度以上の炭素空孔およびその他の欠陥が形成される。さらには、遷移金属の密度が高くなると、SiC単結晶の結晶性が低下し、アモルファス化する。そのため、エピタキシャル成長法を用いることで、スピン欠陥を有する高品質なSiC単結晶を製造することができる。その結果、室温を超える温度の高温でも高い検出精度を有するセンサ100を製造することができる。
【0096】
上述したセンサ100の製造方法は、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)や、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、pin(p-intrinsic-n)ダイオード、SBD(Schottky Barrier Diode:ショットキーバリアダイオード)等に適用可能である。なお、センサ100のSiC単結晶以外の部分は、一般的な素子構造を一般的な方法により形成すればよい。
【0097】
<第8実施形態>
続いて本発明の第8実施形態に係る発光素子300を図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0098】
図8は、本発明の第8実施形態に係る発光素子300を示す模式図である。
図8に示すように、本発明の第8実施形態に係る発光素子300は、第1単結晶310と第2単結晶320とを備える。第1単結晶310は、n型SiC単結晶であり、第2単結晶320は、p型SiC単結晶である。つまり、発光素子300は、n型SiC単結晶である第1単結晶310上に、p型SiC単結晶である第2単結晶320が設けられた構成の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)である。
【0099】
本発明の第8実施形態で、発光素子300を構成するSiC単結晶は、第1~第7実施形態における検出素子110が有するSiC単結晶と同様に、スピン欠陥を含み、かつスピン欠陥の密度が1×1010~1×1017cm-3であることを特徴とする。スピン欠陥は、遷移金属元素であることが好ましい。遷移金属元素の密度が1×1010~1×1017cm-3であることが好ましい。
【0100】
遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上であることがさらに好ましい。これにより、室温を超える温度(例えば、数百度以上)で、発光素子300から所望の波長の発光を得やすくなる。
【0101】
また、発光素子300を構成するSiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、1×1013cm-3以下である。また、発光素子300を構成するSiC単結晶の電気伝導度は1×10-3Scm-1以下であることが好ましい。
【実施例0102】
上述したセンサ及び発光素子で用いられるSiC単結晶の特性を測定した。
図9は、SiC単結晶における遷移金属元素の密度と発光強度との関係を示す図である。
図9に示す通り、遷移金属元素であるバナジウムの密度の増加に伴って、発光強度が上昇していることが確認できる。
図9に示す結果から、遷移金属元素の密度が1×10
10~1×10
17cm
-3であることが好ましく、信号強度を増強させる場合においてスピン欠陥の密度は1×10
14cm
-3以上であることがより好ましく、1×10
15cm
-3以上であることが、さらに、より好ましいということができる。
【0103】
図10は、SiC単結晶における炭素空孔密度と発光強度との関係を示す図である。
図10に示す通り、炭素空孔密度の増加に伴って、発光強度が低下していることが確認できる。
図10に示す結果から、SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、1×10
13cm
-3以下が好ましいことが分かる。また、SiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、スピン欠陥密度よりも低いことが好ましく、例えば、1×10
11cm
-3以下であることがより好ましいということができる。
【0104】
図11は、SiC単結晶における格子欠陥の測定結果を示す図である。SiC単結晶における格子欠陥は、半導体中の深い準位評価法(Deep Level Transient Spectroscopy:DLTS)を用いて測定した。
図11を参照すると、バナジウム起因のものと、炭素空孔起因のものが測定されている。ここで、検出感度以上の密度のシリコン空孔が存在する場合には、図中の点線部にピークが現れる筈である。しかしながら、得られた測定結果は、図中の点線部にピークが現れていないため、SiC単結晶中のシリコン空孔の格子欠陥密度は、炭素空孔の格子欠陥密度より小さいということができる。
【0105】
図12は、SiC単結晶における導電率と発光強度との関係を示す図である。尚、SiC単結晶の導電率は、ドーピング濃度から推定している。
図12に示す通り、同程度のバナジウム密度を含むサンプルを比較した場合には、導電率が高くなるほど発光強度が低下することが分かる。
図12に示す結果から、SiC単結晶の電気伝導度(導電率)は、1Scm
-1以下であることが好ましいということができる。
【0106】
前述の方法で、センサを製造した。1300nm以下の波長を有する光を励起光として製造したセンサに照射した。励起光を照射されたセンサの発光強度を測定した。発光強度や発光波長の変化によりスピン欠陥の電子状態を検出でき、電子状態の変化から環境の情報を検出できる。
図13は、本発明の実施例に係るセンサの検出結果を示す図である。
図13に示すように、本発明の実施例に係るセンサは、20℃を超える高温でも高い発光強度を有した。本発明の実施例に係るセンサは、高温でもセンシングすることができることを確認した。
【0107】
また、発光素子を製造した。n型SiC単結晶である第1単結晶310において、バナジウムの密度は2×1014cm-3であり、ドナーとしての窒素の密度は1×1015cm-3であった。発光素子(LED)の場合には、バナジウムの密度がドナーとしての窒素の密度以下である必要がある。尚、バナジウムの密度は1×1016cm-3以下が望ましく、ドナーとしての窒素の密度は1×1017cm-3以下が望ましい。
【0108】
図14は、本発明の実施例に係る発光素子の発光特性を示す図である。
図14に示すように、本発明の実施例に係る発光素子では、波長1300nm程度の発光が得られている。ここで、本実施例では、室温を超える150℃で発光が得られており、更に高温の250℃度でも波長1300nm程度の発光が得られているのが分かる。
【0109】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0110】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0111】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、上記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。