IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特開-切削ブレード 図1
  • 特開-切削ブレード 図2
  • 特開-切削ブレード 図3
  • 特開-切削ブレード 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135825
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】切削ブレード
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/12 20060101AFI20230922BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20230922BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D5/00 P
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041112
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 剛
【テーマコード(参考)】
3C063
5F063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BA24
3C063BB02
3C063BC02
3C063BC03
3C063BH28
3C063EE10
3C063FF06
3C063FF08
3C063FF20
5F063AA22
5F063DD02
(57)【要約】
【課題】側面外周部に溝が形成された高強度でかつ長寿命な切削ブレードを提供する。
【解決手段】結合材と、該結合材中に分散固定された砥粒と、を含む円環状の切刃部を有する切削ブレードであって、該切刃部には、第1の側面及び第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第1の溝と、該第1の側面及び該第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第2の溝と、が形成されており、複数の該第1の溝は、該切刃部の周方向に沿って第1の間隔をもって配置され、それぞれ、一端が該切刃部の外周に達するとともに該切刃部の該外周から径方向の内側に向かって伸長した形状を有し、複数の該第2の溝は、該切刃部の該周方向に沿って第2の間隔をもって配置され、それぞれ、該切刃部の該外周及び内周に達しておらず、該切刃部の該径方向に沿って伸長した形状を有し、複数の該第1の溝のすべては、複数の該第2の溝のいずれにも接続していない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材と、該結合材中に分散固定された砥粒と、を含む円環状の切刃部を有する切削ブレードであって、
該切刃部には、第1の側面及び第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第1の溝と、該第1の側面及び該第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第2の溝と、が形成されており、
複数の該第1の溝は、該切刃部の周方向に沿って第1の間隔をもって配置され、それぞれ、一端が該切刃部の外周に達するとともに該切刃部の該外周から径方向の内側に向かって伸長した形状を有し、
複数の該第2の溝は、該切刃部の該周方向に沿って第2の間隔をもって配置され、それぞれ、該切刃部の該外周及び内周に達しておらず、該切刃部の該径方向に沿って伸長した形状を有し、
複数の該第1の溝のすべては、複数の該第2の溝のいずれにも接続していないことを特徴とする切削ブレード。
【請求項2】
複数の該第1の溝の該一端と、複数の該第2の溝の該径方向の外側の端部と、は該切刃部の該周方向に沿って並ぶことを特徴とする請求項1に記載の切削ブレード。
【請求項3】
複数の該第1の溝の幅の総和は、複数の該第2の溝の幅の総和よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の切削ブレード。
【請求項4】
複数の該第1の溝の数は、複数の該第2の溝の数と同じであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の切削ブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CSP(Chip Size Package)やQFN(Quad Flat Non-Leaded Package)等のパッケージ基板を個々のパッケージデバイスに分割する際に使用される切削ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に互いに交差する複数の分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integration)等のデバイスを形成する。その後、ウェーハを裏面側から研削して薄化し分割予定ラインに沿って分割すると、個々のデバイスチップが形成される。
【0003】
さらに、複数のデバイスチップを電極基板上に所定の間隔で配列し、各デバイスチップの裏面側をモールド樹脂で封止してCSPやQFN等のパッケージ基板を作製し、これを分割してパッケージデバイスを形成する技術が知られている(特許文献1参照)。また、複数枚の生セラミックスの板状積層物を個々のチップコンデンサーに分割する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
ウェーハ、パッケージ基板、及び生セラミックスの板状積層物等の被加工物を円環状の切削ブレードで切削して分割する切削装置が知られている。切削装置で使用される切削ブレードは、金属や樹脂等で形成された結合材と、結合材中に分散固定されたダイヤモンド等で形成された砥粒と、を含む切刃部を有する。切削装置には、被加工物の種別や加工目的に適した種別の切削ブレードが装着される。そして、切削装置は、所定の加工条件で切削ブレードを被加工物に切り込ませることにより被加工物の切削を遂行する。
【0005】
被加工物を切削ブレードで切削すると、被加工物及び切刃部が消耗して研削屑が生じるとともに、摩擦等により加工箇所から加工熱が生じる。そこで、切削装置では、被加工物の切削を実施する際に純水等の切削水を被加工物及び切削ブレードに供給し、研削屑及び加工熱を除去する。
【0006】
そして、切削工程で生じる切削屑を効率的に排出するため、また、加工箇所へ切削水を効率的に供給するために、切削ブレード(切刃部)の側面の外周近傍には切削ブレードの径方向に沿った複数の溝が形成される場合がある。この溝は、切削ブレードの切刃部の一方の側面と他方の側面の一方または両方に露出する。そして、この溝は、切削ブレードの外周に達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-114145号公報
【特許文献2】特開平4-179505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
切削ブレード(切刃部)の側面に溝が形成されていると、この切削ブレードの強度が低下する。そして、形成された溝が長く、一端が切削ブレードの中心に近いほど切削ブレードの強度が低くなり、破損が生じやすくなるとともに切削の品質が低下する。その一方で、形成された溝が短く、一端が切削ブレードの中心から遠いほど切削ブレードの消耗に伴い早期に溝が消失するため、切削ブレードの寿命が短くなる。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、側面外周部に溝が形成されていても高強度でかつ長寿命である切削ブレードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、結合材と、該結合材中に分散固定された砥粒と、を含む円環状の切刃部を有する切削ブレードであって、該切刃部には、第1の側面及び第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第1の溝と、該第1の側面及び該第2の側面の一方又は両方に露出した複数の第2の溝と、が形成されており、複数の該第1の溝は、該切刃部の周方向に沿って第1の間隔をもって配置され、それぞれ、一端が該切刃部の外周に達するとともに該切刃部の該外周から径方向の内側に向かって伸長した形状を有し、複数の該第2の溝は、該切刃部の該周方向に沿って第2の間隔をもって配置され、それぞれ、該切刃部の該外周及び内周に達しておらず、該切刃部の該径方向に沿って伸長した形状を有し、複数の該第1の溝のすべては、複数の該第2の溝のいずれにも接続していないことを特徴とする切削ブレードが提供される。
【0011】
好ましくは、複数の該第1の溝の該一端と、複数の該第2の溝の該径方向の外側の端部と、は該切刃部の該周方向に沿って並ぶ。
【0012】
また、好ましくは、複数の該第1の溝の幅の総和は、複数の該第2の溝の幅の総和よりも大きい。
【0013】
さらに好ましくは、複数の該第1の溝の数は、複数の該第2の溝の数と同じである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る切削ブレードには、切刃部の一方または両方の側面に露出した複数の第1の溝と、複数の第2の溝と、が形成されている。そして、複数の第1の溝は一端が切刃部の外周に達する一方で、複数の第2の溝は切刃部の外周に達していない。この場合、切削ブレードの使用を開始したときに第1の溝が切削屑の排出と、切削水の供給と、に寄与する。そして、切削ブレードの切刃部が消耗して第1の溝が消失するときに第2の溝が切刃部の外周に露出し、第2の溝が第1の溝の役割を引き継ぐ。
【0015】
例えば、第1の溝と第2の溝に代えて、第2の溝の径方向内側の端部の位置まで伸びた長溝が外周に達するように切刃部に形成されていた場合、切削ブレードの強度が低くなる。これに対して、本発明の一態様に係る切刃部は、切刃部の外周に達する第1の溝はこの長溝よりも短くなるため、強度が比較的高くなる。その上、切刃部の消耗により第1の溝が失われても、第2の溝が切刃部の外周に露出するため切削ブレードの使用を継続できる。すなわち、切削ブレードの寿命が長くなる。
【0016】
したがって、本発明の一態様により、側面外周部に溝が形成されていても高強度でかつ長寿命である切削ブレードが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】切削装置を模式的に示す斜視図である。
図2】分解された切削ユニットを模式的に説明する斜視図である。
図3図3(A)は、未使用の切削ブレードの側面を模式的に示す平面図であり、図3(B)は、消耗した切削ブレードの側面を模式的に示す平面図である。
図4図4(A)は、切削ブレードの切刃部の一例を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、切削ブレードの他の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る切削ブレードが装着されて使用される切削装置2の一部を模式的に示す斜視図である。図1には、切削装置2で加工される被加工物1の斜視図が含まれている。まず、被加工物1について説明する。
【0019】
被加工物1は、例えば、シリコン等の半導体材料でなる円形のウェーハであり、その表面1a側には互いに交差するストリートと呼ばれる複数の分割予定ライン3が設定される。分割予定ライン3によって区画された各領域には、IC、LSI等のデバイス5が形成されている。被加工物1を分割予定ライン3に沿って分割すると、個々のデバイスチップを製造できる。
【0020】
または、被加工物1は、CSPやQFN等のパッケージ基板であり、これを分割するとパッケージデバイスを形成できる。または、被加工物1は、複数枚の生セラミックスの板状積層物であり、これを分割すると個々のチップコンデンサーを形成できる。被加工物1の材質、形状、構造等に制限はなく、樹脂、金属等の材料により構成されてもよく、矩形の基板でもよい。被加工物1は、切削装置2において切削ブレードで切削されることにより分割される。
【0021】
被加工物1が切削装置2に搬入される際には、被加工物1が粘着テープ7と、環状フレーム9と、と一体化されてフレームユニット11が形成される。そして、被加工物1は、フレームユニット11の状態で切削装置2に搬入され切削される。
【0022】
フレームユニット11は、環状フレーム9と、環状フレーム9の開口を塞ぐように貼られた粘着テープ7と、を含む。被加工物1の裏面1b側には、環状フレーム9の該開口に露出した粘着テープ7が貼着されている。すなわち、被加工物1は、粘着テープ7を介して環状フレーム9に支持されている。この状態で、被加工物1を分割すると、形成される個々のチップが引き続き粘着テープ7を介して環状フレーム9に支持され続ける。すなわち、フレームユニット11を形成すると、被加工物1及びチップを容易に扱える。
【0023】
次に、切削装置2について説明する。切削装置2は、粘着テープ7を介して被加工物1を吸引保持するチャックテーブル4と、チャックテーブル4で吸引保持された被加工物1を切削ブレード8で切削する切削ユニット6と、を備える。切削ブレード8は、樹脂または金属材料等で形成される結合材と、結合材中に分散固定されたダイヤモンド等の無数の砥粒と、を含む円環状の切刃部10を外周に備える。
【0024】
切削装置2は、チャックテーブル4と、切削ユニット6と、を相対的に加工送り方向(X軸方向)に沿って移動できる図示しない移動機構(加工送り機構)を備える。切削ブレード8を回転させながら、分割予定ライン3に沿って切刃部10を被加工物1に切り込ませると、被加工物1が切削されて分割される。
【0025】
ここで、図2を用いて切削ユニット6のより詳細な構造を説明する。図2は、切削ユニット6の内部の構造を模式的に説明する分解斜視図である。図2に示すように、切削ユニット6は、切削装置2の移動機構(不図示)等に固定されるスピンドルハウジング12を備えている。スピンドルハウジング12には、スピンドル14の基端側が回転可能に収容されており、さらに、スピンドル14を回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が収容されている。
【0026】
スピンドル14は、先端側がスピンドルハウジング12から前方に突出しており、スピンドル14の先端部には、開口16が形成されており、開口16の内壁面には、ねじ溝が設けられている。このスピンドル14の先端部には、フランジ状のマウント18が取り付けられる。マウント18は、径方向外向きに延出するフランジ部20と、フランジ部20の表面(前面)の中央から前方に突出するボス部22とを含む。
【0027】
マウント18の中央には、マウント18を前後に貫通する貫通孔24が形成されている。また、貫通孔24の内部のフランジ部20の後面側には、スピンドル14の先端部を嵌め込むことのできる嵌合部(不図示)が形成されている。嵌合部にスピンドル14の先端部を嵌め込んだ状態で、ワッシャー28及び貫通孔24を通して開口16に固定ボルト26を締め込めば、マウント18はスピンドル14に固定される。なお、固定ボルト26の外周面には、開口16のねじ溝に対応するねじ山が設けられている。
【0028】
フランジ部20の外周側の表面は、切削ブレード8の裏側に当接する当接面30となっている。この当接面30は、スピンドル14の軸心方向から見て円環状に形成されている。ボス部22は円筒状に形成されており、その外周面には、ねじ山32が設けられている。切削ブレード8の中央には、ボス部22が挿通される円形の開口8aが形成されており、この開口8aにボス部22を挿通することで、切削ブレード8は、フランジ部20の当接面30に当接する。
【0029】
当接面30に切削ブレード8を当接させた状態において、切削ブレード8の表側には円環状の前フランジ34が装着される。前フランジ34の中央には、開口34aが形成されており、この開口34aにマウント18のボス部22が嵌め込まれる。なお、前フランジ34の外周側の裏面は、切削ブレード8の側面と当接する当接面(不図示)となっている。この当接面は、マウント18の当接面30と対応する位置に設けられている。
【0030】
ボス部22に前フランジ34を装着した後には、ボス部22の先端に円環状の固定ナット36を締め込む。これにより、前フランジ34はマウント18側に押し付けられ、切削ブレード8は、マウント18と前フランジ34とで挟持される。なお、固定ナット36には、開口36aが形成されており、この開口36aの内壁面には、ボス部22の先端に形成されたねじ山32に締め込まれるねじ溝(不図示)が設けられている。
【0031】
スピンドルハウジング12の前面には、スピンドル14に装着された切削ブレード8等を収容するブレードカバー38(図1参照)が設けられている。図1に示す通り、ブレードカバー38には、切削ブレード8の下部を前後に挟む略L字状の一対のノズル40が固定されている。ノズル40には、ブレードカバー38に設けられた吸水口42を通じて外部から切削水が供給される。
【0032】
ノズル40の先端側には、切削ブレード8と対向するように複数の噴射口(不図示)が形成されている。切削ブレード8で被加工物1を切削する間に切削水を噴射口から噴射させると、切削ブレード8及び被加工物1を冷却、洗浄できる。
【0033】
被加工物1を加工する際には、まず、分割予定ライン3の伸長方向と、加工送り方向(X軸方向)と、が合致するようにチャックテーブル4を上面に垂直な軸の周りに回転させる。その後、分割予定ライン3の端部上方に切削ブレード8を位置付け、スピンドル14の回転を開始して切削ブレード8を回転させる。
【0034】
その後、切削ブレード8の下端が被加工物1の裏面1bよりも下側の粘着テープ7に達するように切削ユニット6を下降させる。そして、被加工物1をX軸方向に沿って加工送りすると、被加工物1が切削されて分割予定ライン3に沿って切削溝3aが形成される。一つの分割予定ライン3に沿って被加工物1を切削した後、切削ユニット6をX軸方向に直交するY軸方向に割り出し送りし、他の分割予定ライン3に沿って同様に被加工物1を加工する。
【0035】
こうして次々に被加工物1を加工し、一つの方向に沿った全ての分割予定ライン3に沿って被加工物1を加工した後、チャックテーブル4を回転させ、他の方向に沿った分割予定ライン3を加工送り方向に合わせる。その後、他の方向に沿った分割予定ライン3に沿って被加工物1を次々に切削する。すべての分割予定ライン3に沿って被加工物1が切削され切削溝3aが形成されると、被加工物1が個々のチップに分割される。
【0036】
なお、切削ブレード8の切刃部10の外周近傍には、切削ブレード8の径方向に沿った複数の溝が形成される場合がある。この溝は、切刃部10の側面に露出するとともに切削ブレード8の切刃部10の外周に達する。溝が形成されていると、切削屑の除去や切削液の供給に有用である。
【0037】
ただし、形成された溝が長くなるほど、すなわち、一端が切削ブレード8の中心に近くなるほど切削ブレード8の強度が低くなるとともに切削加工の品質が低下する。その一方で、形成された溝が短く、一端が切削ブレード8の中心から遠いほど切削ブレード8の消耗とともに早期に溝が消失するため、切削ブレード8の寿命が短くなる。
【0038】
そこで、本実施形態に係る切削ブレード8は、側面外周部に溝が形成されていても高強度でかつ長寿命となるように構成される。以下、本実施形態に係る切削ブレード8について詳述する。図3(A)は、未使用の切削ブレード8の側面を模式的に示す平面図である。
【0039】
本実施形態に係る切削ブレード8は、結合材と、該結合材中に分散固定された砥粒と、を含む円環状の切刃部10を有する。なお、切削ブレード8は、外周に切刃部10を固定する金属で形成されたハブ基台(不図示)を備えてもよい。ハブ基台を備える切削ブレード8は、ハブブレードと呼ばれる。これに対して、図3(A)等に示す通り、ハブ基台を備えず切刃部10により構成される切削ブレード8は、ワッシャーブレードと呼ばれる。以下、ワッシャーブレードを例に本実施形態に係る切削ブレード8について説明する。
【0040】
切刃部10には、第1の側面10c及び第2の側面10dの一方又は両方に露出した複数の第1の溝46と、第1の側面10c及び第2の側面10dの一方又は両方に露出した複数の第2の溝48と、が形成されている。なお、第1の溝46及び第2の溝48が形成された本実施形態に係る切削ブレード8は、例えば、溝が形成されていない切削ブレードに対する型彫放電加工により製造される。ただし、切削ブレード8の製造方法はこれに限定されない。
【0041】
第1の溝46及び第2の溝48が切刃部10の両側面10c,10dに露出する場合、第1の溝46及び第2の溝48は切刃部10を貫通する。図4(A)は、切刃部10を貫通する第1の溝46が形成された切刃部10を模式的に示す断面図である。
【0042】
また、第1の溝46及び第2の溝48が切刃部10の一方の側面10c,10dに露出する場合、第1の溝46及び第2の溝48は切刃部10を貫通しない。図4(B)は、切刃部10を貫通しない第1の溝46が形成された切刃部10を模式的に示す断面図である。この場合、第1の溝46は、一方の側面10c,10dにのみ露出してもよく、互いに隣接する第1の溝46で2つの側面10c,10dに交互に露出してもよい。第2の溝48についても同様である。
【0043】
以下、第1の溝46及び第2の溝48が第1の側面10cにのみ露出する場合を例に本実施形態に係る切削ブレード8の説明を続ける。言うまでもなく、第1の溝46及び第2の溝48はこれに限定されない。
【0044】
切刃部10に形成された複数の第1の溝46は、それぞれ、一端が切刃部10の外周10b(切削ブレードの外周8b)に達するとともに切刃部10の外周10b(切削ブレードの外周8b)から径方向の内側に向かって伸長した形状を有する。
【0045】
複数の第1の溝46は、切刃部10の周方向に沿って第1の間隔をもって配置される。すなわち、各第1の溝46のそれぞれ隣接する他の第1の溝46との距離は、一定とされる。さらに換言すると、各第1の溝46の配置は、切削ブレード8の中心8cを中心とした回転対称形となる。この場合、回転する切削ブレード8で被加工物1を切削する際、複数の第1の溝46が周期的に次々に加工点に到達する。そのため、第1の溝46の配置に起因する切削ブレード8の偏心や、加工品質のゆらぎ等の影響は極めて小さくなる。
【0046】
また、切刃部10に形成された複数の第2の溝48は、切刃部10の周方向に沿って第2の間隔をもって配置される。すなわち、各第2の溝48のそれぞれ隣接する他の第2の溝48との距離は、一定とされる。さらに換言すると、各第2の溝48の配置は、切削ブレード8の中心8cを中心とした回転対称形となる。
【0047】
複数の第2の溝48は、いずれも、切刃部10の外周10b及び内周10aに達しておらず、切刃部10の径方向に沿って伸長した形状を有する。第2の溝48が切刃部10の内周10aに達する場合、後述のように切刃部10の消耗に伴い第2の溝48が切刃部10の外周10bに接続されたときに切刃部10が第2の溝48により分断され、切削ブレード8がその形状を保てなくなる。
【0048】
このような本実施形態に係る切削ブレード8を使用して切削装置2で被加工物1を切削すると、第1の溝46が切削屑の排出及び切削水の供給に寄与し、被加工物1が適切に切削される。
【0049】
ここで、複数の第1の溝46のすべては、複数の第2の溝48のいずれにも接続していない。逆に言えば、切刃部10は、第1の溝46及び第2の溝48の間で連続している。そのため、第1の溝46の長さと第2の溝48の長さの和に相当する長さの複数の長溝が切刃部10に形成されている場合と比較すると、本実施形態に係る切削ブレード8では、外周10bに接続した溝(第1の溝46)の長さが短くなる。
【0050】
そして、外周10bに接続した溝の長さが短くなるほど、切削ブレード8の切刃部10の強度は高くなる。そのため、本実施形態に係る切削ブレード8の強度は、長溝が切刃部10に形成された切削ブレードと比較して高くなる。
【0051】
切削ブレード8で被加工物1を切削すると、切刃部10が徐々に消耗する。そして、切刃部10が第1の溝46の長さに相当する消耗量で外周10bから消耗したとき、切刃部10から第1の溝46が消失する。図3(B)は、消耗して第1の溝46が消失した切削ブレード8を模式的に示す平面図である。図3(B)には、消耗する前の切刃部10の外周の位置10eと、消失した第1の溝46と、が破線により示されている。
【0052】
図3(B)に示す通り、本実施形態に係る切削ブレード8では、切刃部10が一定程度を超えて消耗すると、第2の溝48が切刃部10の外周10bに接続されるようになる。そして、回転する切削ブレード8が被加工物1を切削しているとき、第2の溝48が被加工物1の加工点に到達するようになる。すると、それまでに第1の溝46が発揮していた切削屑の排出及び切削水の供給との効果を第2の溝48が奏するようになる。そのため、第1の溝46が消失しても切削ブレード8の切削能力は維持される。
【0053】
そして、切削ブレード8の切刃部10の消耗がさらに進行して、第2の溝48が消失したとき、切削ブレード8が寿命を迎える。切削ブレード8に第1の溝46のみが形成され第2の溝48が形成されていない場合と比較すると、本実施形態に係る切削ブレード8は第2の溝48が形成されている分だけ長寿命となる。
【0054】
なお、本実施形態に係る切削ブレード8では、図3(B)に示すように、複数の第1の溝46の径方向の内側の端部と、複数の第2の溝48の径方向の外側の端部と、は切刃部10の周方向に沿って並ぶことが好ましい。この場合、切削ブレード8の切刃部10の消耗により第1の溝46が消失するタイミングと、第2の溝48が外周10bに接続されるタイミングと、が概略一致するようになる。
【0055】
例えば、第1の溝46及び第2の溝48が同時に切刃部10の外周10bに接続されていると、それぞれの効果が足し合わされて発現するため、発現する効果が想定よりも大きくなる。そのため、切削ブレード8で実施される切削加工の加工品質が想定されていたものとは異なるものとなることがある。
【0056】
また、切刃部10の消耗により第1の溝46が消失したときに第2の溝48が外周10bに接続されていない場合、切削屑が十分に排出されず、かつ、切削水が加工点に十分に供給されなくなる。そのため、第2の溝48が外周10bに接続されるまでの間、切削ブレード8の切削能力が低下してしまう。
【0057】
これに対して、複数の第1の溝46の径方向の内側の端部と、複数の第2の溝48の径方向の外側の端部と、が切刃部10の周方向に沿って並んでいると、第1の溝46及び第2の溝48が連続的に機能するようになる。そのため、切削ブレード8の切削能力は大きく変動せず、被加工物1が安定的に切削される。
【0058】
また、複数の第1の溝46の数は、複数の第2の溝48の数と同じでもよい。この場合、各第2の溝48は、切刃部10の周方向において隣接する2つの第1の溝46の中間点に形成されるとよい。また、各第1の溝46は、切刃部10の周方向において隣接する2つの第2の溝48の中間点に形成されるとよい。この場合、切削ブレード8の偏心が小さくなり切削ブレード8が安定的に回転できる上、切刃部10の各所の強度の偏りが小さくなる。
【0059】
ここで、切削ブレード8の切削能力は、切刃部10の外周10bの全長に対する第1の溝46(第2の溝48)の幅の総和の割合により変化する。そのため、第1の溝46の幅が全長に渡って一定である場合、切刃部10の消耗により外周10bの全長が減少したときに、この割合が増大してしまう。
【0060】
そのため、この増大を打ち消すように、第1の溝46の幅が切刃部10の径方向内側ほど狭いことが好ましい。また、複数の第1の溝の幅46の総和は、複数の第2の溝48の幅の総和よりも大きいことが好ましい。これは、第2の溝48よりも第1の溝46の方が切刃部10の径方向外側に形成されるためである。ただし、第1の溝46及び第2の溝48の数及び形状はこれに限定されない。
【0061】
以上に説明する通り、本実施形態に係る切削ブレード8では、側面10c,10dの一方または両方に複数の第1の溝46及び複数の第2の溝48が形成されている。また、第1の溝46及び第2の溝48は、切削ブレード8の消耗の進行により順次その機能を奏する。このとき、切刃部10の外周に接続された溝は常に比較的短くなる。そのため、切削ブレード8は、高強度でかつ長寿命となる。
【0062】
なお、上記実施形態では、切刃部10に複数の第1の溝46及び複数の第2の溝48が形成されている切削ブレード8について説明したが、本発明の一態様に係る切削ブレード8はこれに限定されない。すなわち、切削ブレード8の切刃部10には、第2の溝48よりもさらに径方向内側に複数の第3の溝が形成されてもよい。この場合、第3の溝の径方向内側の端部と、第2の溝48の径方向外側の端部と、が切刃部10の周方向に沿って並ぶことが好ましい。
【0063】
切削ブレード8に第3の溝が形成されていると、第2の溝48が切刃部10から失われてもさらに切削ブレード8の使用を継続できる。その一方で、第1の溝46、第2の溝48、及び第3の溝が形成される場合にそれぞれの長さを十分に短くできるため、切刃部10の強度はさらに高くなる。なお、複数の第3の溝のそれぞれは、第1の溝46と径方向に沿って並んでいてもよい。
【0064】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0065】
1 被加工物
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
3a 切削溝
5 デバイス
7 粘着テープ
9 環状フレーム
11 フレームユニット
2 切削装置
4 チャックテーブル
6 切削ユニット
8 切削ブレード
8a 開口
8b 外周
8c 中心
10 切刃部
10a 内周
10b 外周
10c,10d 側面
12 スピンドルハウジング
14 スピンドル
16 開口
18 マウント
20 フランジ部
22 ボス部
24 貫通孔
26 固定ボルト
28 ワッシャー
30 当接面
32 ねじ山
34 前フランジ
34a 開口
36 固定ナット
36a 開口
38 ブレードカバー
40 ノズル
42 吸水口
46 第1の溝
48 第2の溝
図1
図2
図3
図4