(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135971
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】厚膜抵抗ペースト、厚膜抵抗体、及び電子部品
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H01C7/00 320
H01C7/00 324
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041338
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】林 勲
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【テーマコード(参考)】
5E033
【Fターム(参考)】
5E033AA17
5E033AA18
5E033AA27
(57)【要約】
【課題】より小型化の進む電子部品に対し、抵抗変化率のより小さい耐サージ性の優れた抵抗体用の厚膜抵抗ペースト、その厚膜抵抗ペーストを用いた厚膜抵抗体、及びその厚膜抵抗体を備えた電子部品の提供。
【解決手段】導電物粒子、ガラス粉末、有機ビヒクル、添加剤を含有する厚膜抵抗ペーストであって、前記添加剤が酸化亜鉛もしくは酸化ケイ素のいずれか一種類以上を含有し、前記添加剤として添加される前記酸化亜鉛の含有量及び前記酸化ケイ素の含有量が、ガラス粉末100質量%に対して、それぞれ1質量%以上19質量%以下の割合である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子、ガラス粉末、有機ビヒクル、添加剤を含有する厚膜抵抗ペーストであって、
前記添加剤が酸化亜鉛もしくは酸化ケイ素のいずれか一種類以上を含有し、
前記添加剤として添加される前記酸化亜鉛の含有量及び前記酸化ケイ素の含有量が、ガラス粉末100質量%に対して、それぞれ1質量%以上19質量%以下の割合である、
ことを特徴とする厚膜抵抗ペースト。
【請求項2】
前記酸化亜鉛及び前記酸化ケイ素の平均粒子径がそれぞれ100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項3】
前記導電性粒子が、酸化ルテニウムとルテニウム酸鉛のいずれか一種類以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の厚膜抵抗ペーストの焼成体からなる厚膜抵抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の厚膜抵抗体を備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗ペーストに関し、特に耐サージ性に優れた厚膜抵抗体を形成することのできる厚膜抵抗ペースト、その厚膜抵抗ペーストを用いた厚膜抵抗体、及びその厚膜抵抗体を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜抵抗ペーストは、一般に、導電粉末と、ガラス粉末と、それらを印刷に適したペースト状にするための有機ビヒクルとで構成される。この厚膜抵抗ペーストを任意のパターンで印刷し、通常800~1000℃の高温でガラスを焼結させることで、例えば、厚膜チップ抵抗器等の電子部品を構成する厚膜抵抗体として使用されている。導電粉末としては、ガラス粉末との混合比率を調整することで緩やかに抵抗値を変化させることができるため、酸化ルテニウム粉末やルテニウム酸鉛粉末が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、無機材粒子にムライトを、ガラス粒子にホウケイ酸鉛ガラスを、導電粒子に二酸化ルテニウムを用いた混合物に、バインダとしてエチルセルロース、溶剤としてトルエンおよびアルコールを用いたビヒクルを添加して得た抵抗体ペーストを用いて形成した厚膜抵抗体の技術が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、無機粒子にジルコンを、ガラス粒子にホウケイ酸鉛ガラスを、導電粒子に二酸化ルテニウムを用いた混合物に、バインダとしてエチルセルロースを、溶剤としてテルピネオールとブチルカルビトールアセテートを用いたビヒクルを添加して得た抵抗体用ペースト、及びその抵抗ペースト用いて形成した厚膜抵抗体の技術が記載されている。
【0005】
近年、厚膜チップ抵抗器等の電子部品の小型化が進み、厚膜抵抗体には電気的特性の向上が求められており、とりわけ、耐サージ性等の耐電圧性に優れた厚膜抵抗体が求められている。厚膜抵抗体に瞬間的な高電圧(サージ電圧)が印加された場合、通常、負の抵抗値変化を示すが、この抵抗値変化量は小さいほうが望ましい。このような負の抵抗値変化は、電圧印加時の発熱の影響と考えられている。従来の厚膜抵抗ペーストでは、焼結時にガラス粉末同士が結合するが、ガラス粉末の軟化は表層のみに留まる。このため、厚膜抵抗ペーストを焼結後の厚膜抵抗体において、ガラス粒子径に相当する誘電体層が存在する。導電粉末は、この誘電体層の周囲に分布し、厚膜抵抗体に導電性を持たせている。このような構造に、サージ電圧を印加すると、導電部に電流が流れ、その周辺が局所的に加熱され、抵抗値変化が生じると考えられる。
【0006】
厚膜抵抗体の耐サージ性を向上させる方法としては、厚膜抵抗ペーストに含有するルテニウム酸鉛を増量することが挙げられる。厚膜抵抗ペーストに含有するルテニウム酸鉛を増量することで、厚膜抵抗ペーストを焼結後の厚膜抵抗体において、導電経路の太い、強固な導電部が形成され、サージ電圧印加時の発熱が抑えられ、抵抗値変化を緩和できると考えられる。
しかしながら、導電粉末としてのルテニウム酸鉛の増量は抵抗値変化を生じてしまう。
このため、例えば特許文献3に開示されているチタン化合物等の添加剤を含有させることで耐電圧特性を含めた電気的特性などを改善する技術が知られている。
【0007】
厚膜抵抗体の耐サージ性を向上させるための他の方法として、例えば特許文献4には、板状酸化ルテニウム粉末を用いることによりサージ電流が負荷されても抵抗値変化が小さい厚膜抵抗組成物の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-320003号公報
【特許文献2】特開平6-163202号公報
【特許文献3】特開1986-206201号公報
【特許文献4】特開2013-053030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年のより小型化の進む電子部品用の厚膜抵抗体には、従来用いられている添加剤では特性改善が不十分であり、より高い耐サージ性が求められている。また、小型化が進み、厚膜抵抗体にも薄膜化が求められているが、板状の材料では塗布時の流動性に劣ってしまう。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、より小型化の進む電子部品に対し、抵抗変化率がより小さい耐サージ性の優れた抵抗体用の厚膜抵抗ペースト、その厚膜抵抗ペーストを用いた厚膜抵抗体、及びその厚膜抵抗体を備えた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の研究を行った結果、酸化亜鉛、もしくは酸化ケイ素を、ガラス粉末の構成元素とは別に、単独で添加した厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体が、従来の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体に比べて耐サージ性に優れていることを見出し、本発明を導出するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による厚膜抵抗ペーストは、導電性粒子、ガラス粉末、有機ビヒクル、添加物を含有する厚膜抵抗ペーストであって、前記添加剤が酸化亜鉛もしくは酸化ケイ素のいずれか一種類以上を含有し、前記添加剤として添加される前記酸化亜鉛の含有量及び酸化ケイ素の含有量が、ガラス粉末100質量%に対して、それぞれ1質量%以上19質量%以下の割合であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の厚膜抵抗ペーストにおいては、前記酸化亜鉛及び酸化ケイ素の平均粒子径がそれぞれ100nm以下であることが好ましい。また、前記導電性粒子が、酸化ルテニウムとルテニウム酸鉛のいずれか一種類以上からなることが好ましい。
【0013】
また、本発明による厚膜抵抗体は、上記本発明のいずれかの厚膜抵抗ペーストの焼成体からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による電子部品は、上記本発明の厚膜抵抗体を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも耐サージ性に優れた厚膜抵抗ペースト、その厚膜抵抗ペーストを用いた厚膜抵抗体、及びその厚膜抵抗体を備えた電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の範囲内で、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
本実施形態の厚膜抵抗ペーストは、導電性粒子、ガラス粉末、有機ビヒクル、添加剤を含有してなる。以下、各成分について詳細に説明する。
【0017】
(導電性粒子)
本発明の厚膜抵抗ペーストにおける導電性粒子は、特に限定は無く、一般的に厚膜抵抗ペーストに用いられる導電性粒子を用いることが出来る。その中でも、酸化ルテニウムもしくはルテニウム酸鉛の一種以上を用いるのが好ましい。
ルテニウム酸鉛を用いる場合、その粒子径は、特に限定されないが、比表面積が5m2/g以上となる粒子径にするのが望ましい。比表面積が5m2/g未満となる粒子径では、ルテニウム酸鉛の粒子径が大きすぎて、厚膜抵抗体内の導電域の均一性を低下させ、耐サージ性を悪化させる虞がある。
酸化ルテニウムを用いる場合、その粒子径は、特に限定されないが、比表面積20m2/g以上となる粒子径にするのが望ましい。比表面積20m2/g未満では、酸化ルテニウムの粒子径が大きすぎて、厚膜抵抗体内の均一性を低下させ、耐サージ性を悪化させる虞がある。
【0018】
(ガラス成分)
本発明の厚膜抵抗ペースト中のガラス成分は、特に限定されず、従来から厚膜抵抗ペーストに用いられているガラス成分を用いることが出来る。例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化鉛(PbO)および酸化ホウ素(B2O3)を含有する、一般的にホウケイ酸鉛ガラスと呼ばれているガラスを用いることが出来る。ガラスを構成する成分として、その他、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi2O3)等を含有させてもよい。また、酸化アルミニウム(Al2O3)を含有させてもよい。
【0019】
(酸化ケイ素:SiO2)
SiO2は、ガラス成分の骨格として多く用いられている成分である。SiO2は、ガラス成分100質量%中に、3質量%以上60質量%以下含有するのが好ましい。60質量%よりも多いと、形成するガラスの軟化点が高くなりすぎてしまう。また、3質量%よりも少ないと、化学的に安定したガラスが得られない。
【0020】
(酸化鉛:PbO)
PbOは、軟化点を低下させる働きと、酸化ルテニウムとの濡れを促進し、分散性を高める働きの他、ルテニウム酸鉛を化学的に安定とし、分解を抑制する働きを持つ成分である。PbOは、ガラス成分100質量%中に、30質量%以上90質量%以下含有するのが好ましい。30質量%未満だと、形成するガラスの軟化点が高くなりすぎてしまう。また、90質量%よりも多いと、化学的に安定したガラス状態を得ることが難しくなる。
【0021】
(酸化ホウ素:B2O3)
B2O3は、SiO2とともにガラス成分の骨格として多く用いられている成分であり、形成するガラスの軟化点を低下させる効果がある。B2O3は、ガラス成分100質量%中に、5質量%以上50質量%以下含有するのが好ましい。5質量%未満では、形成するガラスの靱性が低下し、クラックが入りやすくなり、レーザートリミング性が悪化する。また、50質量%よりも多いと、ガラス成分の分相を起こしやすく、耐水性も低下する。
【0022】
(主要ガラス成分の合計含有量)
SiO2、PbO、およびB2O3は、ガラス成分100質量%中に、合計で50質量%以上含有するのが好ましい。50質量%未満では、ガラスを安定して形成することが困難であり、厚膜抵抗体の電気特性において、耐サージ性を満足させることが困難になる。
【0023】
(その他のガラス成分)
上記主要ガラス成分の他、各種特性を向上させるために、他の酸化物をガラス成分として更に含有させることができる。具体的には、Al2O3、MgO、CaO、BaO、SrO、CdO、SnO、ZnO、Bi2O3等を含有させることができる。これらのガラス成分は、ガラス成分100質量%中に、それぞれ20質量%以下含有するのが好ましい。
【0024】
(有機ビヒクル)
本発明の厚膜抵抗ペーストに使用する有機ビヒクルは特に制限がなく、一般的な抵抗ペーストに用いられている、ターピネオール等の溶剤にエチルセルロース、ロジン等の樹脂を溶解したもの等を使用することができる。有機ビヒクルは、印刷方法等に応じて配合量を適宜調整すればよいが、一般的には抵抗ペーストの総量100質量%中に、20質量%以上50質量%以下含有するのが好ましい。
【0025】
(添加剤)
本発明の厚膜抵抗ペーストにおける添加剤は、酸化亜鉛もしくは酸化ケイ素のいずれか一種類以上を必須成分として含有する。酸化亜鉛、及び酸化ケイ素はガラス成分を構成する材料の一部でもあるが、本発明者は、ガラスを形成する成分とは別に、酸化亜鉛もしくは酸化ケイ素のいずれか一種類以上を単独の酸化物の添加剤として厚膜抵抗ペーストに所定量含有させることにより、その厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体の抵抗低下率をより効率的に抑制し、耐サージ性が向上するのを見出した。
添加剤として添加される酸化亜鉛の含有量及び酸化ケイ素の含有量は、ガラス粉末100質量%に対して、それぞれ1質量%以上19質量%以下の割合である。ガラス粉末100質量%に対する割合が1質量%未満であると抵抗低下率の抑制が十分得られず、また、19質量%を超えると抵抗低下率を抑制できないばかりか、抵抗の上昇がより顕著になってしまう。
酸化亜鉛及び酸化ケイ素の粒子径は特に限定されず、使用する電子部品の形状サイズに合わせて選定すれば良い。しかし、同じ含有量の場合、粒子径が小さくなるほど抵抗低下率の抑制効果が増加することと、電子部品の小型化に伴い、形成する抵抗体の膜厚も薄膜化が要求されていることなどから、平均粒径を100nm以下とするのが好ましい。なお、酸化亜鉛及び酸化ケイ素の平均粒子径はBET法に依って得た値である。
【0026】
(その他の添加剤)
本発明の厚膜抵抗ペーストには、厚膜抵抗体の抵抗値、TCR、耐電圧性の向上やその他特性を調整、改善する目的で従来から用いられている、導電物を含まないホウケイ酸鉛ガラス、および、一般的に使用される添加剤をさらに含有させてもよい。また、分散性を向上させるために添加剤として分散剤を含有させてもよい。主な添加剤としては酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化銅(CuO)、酸化マンガン(MnO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等が挙げられる。これらその他の添加剤は、目的とする改善特性に応じて含有量を調整できるが、無機物の総量100質量%中に10質量%以下含有するのが好ましい。
【0027】
(厚膜抵抗ペーストの製造方法)
導電性粒子、ガラス粉末、有機ビヒクル、添加剤を様々な配合割合で混合して複数の抵抗ペースト試料を調製し、それらを各々焼成することで厚膜抵抗体を形成し、その電気的特性について評価した。
【0028】
(厚膜抵抗体の製造方法)
得られた厚膜抵抗ペーストをセラミック基板上に印刷し、有機溶剤を乾燥処理により除去した後、例えば800℃から900℃の温度で焼成することにより、厚膜抵抗体を得ることができる。
【実施例0029】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0030】
[試験1]
(比較例1)
比較対象の試料として、従来の抵抗ペーストに相当する比較例1の抵抗ペーストを作製した。導電性粒子として、酸化ルテニウムとルテニウム酸鉛を使用した。ガラス粉末は、ホウケイ酸鉛ガラスを使用した。また、その他の添加剤として、酸化ニオブ、酸化銅を使用し、有機ビヒクルとして、エチルセルロースとターピネオールを主成分とするものを使用した。
導電性粒子、ガラス粉末、その他の添加剤、及び有機ビヒクルを、表1に示す配合割合で秤量し、三本ロールミルで混練し、比較例1の抵抗ペーストを作製した。
【0031】
(実施例1~5、比較例2)
比較例1の抵抗ペーストの作製に用いた材料の他に、更に添加剤として粒子径20nmの酸化亜鉛を、また、その他の添加剤として、酸化ニオブの他に酸化銅を準備した。
これらの材料を、表1に示す配合割合で比較例1と同様に混練して、実施例1~5および比較例2の抵抗ペーストを作製した。
【0032】
(実施例6~10、比較例3)
比較例1の抵抗ペーストの作製に用いた材料の他に、更に添加剤として粒子径28nmの酸化ケイ素を、また、その他の添加剤として、酸化ニオブの他に酸化銅を準備した。
これらの材料を、表1に示す配合割合で比較例1と同様に混練して、実施例6~10および比較例3の抵抗ペーストを作製した。
【0033】
(実施例11~13)
比較例1の抵抗ペーストの作製に用いた材料の他に、更に添加剤として粒子径20nmの酸化亜鉛と粒子径28nmの酸化ケイ素の両方を、また、その他の添加剤として、酸化ニオブの他に酸化銅を準備した。
これらの材料を、表1に示す配合割合で比較例1と同様に混練して、実施例11~13の抵抗ペーストを作製した。
【0034】
(比較例4)
実施例3および実施例8の比較用試料として、本発明に必須の添加剤である酸化亜鉛の代わりに、その他の添加剤として使用可能な粒子径15nmの酸化アルミニウムを準備した。
これらの材料を、表1に示す配合割合で実施例3と同様に混練して、比較例4の抵抗ペーストを作製した。
【0035】
<評価試験>
(評価用試料の作製)
実施例1~13、比較例1~4の抵抗ペーストをそれぞれ用いて、あらかじめAg/Pdペーストを用いて電極(1.0mm間隔の5対の電極間)を形成しておいたアルミナ基板上に、厚膜抵抗ペーストを幅1.0mmで印刷し、ピーク温度150℃×5分のベルト炉で乾燥処理した。その後、ピーク温度850℃×9分のベルト炉で焼成し評価用試料の厚膜抵抗体(5個)を作製した。同様の評価用試料をアルミナ基板単位で5枚作製し、評価用試料としての厚膜抵抗体(25個)を得た。
【0036】
(膜厚測定)
膜厚は、触針式の表面粗さ計を用いて、評価用試料の中からアルミナ基板単位で任意の1枚を選択し、5個の厚膜抵抗体の膜厚をそれぞれ測定して、その5点の平均値を実測膜厚とした。
【0037】
(換算面積抵抗値)
5枚のアルミナ基板上に形成された、それぞれ5個の評価用試料(合計25個)の25℃の抵抗値を回路計(2001MULTIMETER、KEITHLEY社製)を用いて計測し、その平均値を実測抵抗値とした。次式(1)を用いて、膜厚を7μmとしたときの換算面積抵抗値を算出した。算出した換算面積抵抗値を表1に示す。
換算面積抵抗値(kΩ)=実測抵抗値(kΩ)×(実測膜厚(μm)/7(μm)・・・(1)
【0038】
(耐サージ性の評価:抵抗値変化率)
評価用試料としての厚膜抵抗体に対し、半導体デバイス静電気試験器(ESS-6008、ノイズ研究所製)を用いて、200pFの電気容量、内部抵抗0Ωの条件にて電圧を印加する静電気放電試験を実施した。5kVの印加電圧を1秒間隔で5回、評価試料の厚膜抵抗体に印加し、電圧印加前の抵抗値Rsと電圧印加後の抵抗値Reを測定し、その抵抗値変化率を、次式(2)を用いて算出した。算出した5点の抵抗変化率の平均値を表1に示す。
抵抗値変化率(%)=(Re-Rs)/Rs×100・・・(2)
【0039】
【表1】
(*1):添加剤として添加される酸化亜鉛の含有量、酸化ケイ素の含有量及び酸化アルミニウムの含有量(ガラス粉末100質量%に対する割合(質量%))。但し、実施例11~13においては、添加剤として添加される酸化亜鉛の含有量、酸化ケイ素の含有量(ガラス粉末100質量%に対する割合(質量%) は夫々同じ値であるため一方のデータのみ掲載)。
【0040】
表1に示す通り、ガラスを形成する成分とは別に、添加剤として酸化亜鉛を用いて作製した実施例1~5の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体は、添加剤として酸化亜鉛を用いずに作製した従来の厚膜抵抗ペーストに相当する比較例1の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体より、静電気放電試験前後の抵抗値変化率が低く、耐サージ性に優れていることが認められた。また、酸化亜鉛の添加量が本発明の範囲より多い比較例2の厚膜ペーストにより形成された厚膜抵抗体は、従来の厚膜抵抗体と同程度の抵抗変化率となってしまい、耐サージ性の向上効果が得られないことが認められた。
また、ガラスを形成する成分とは別に、添加剤として酸化ケイ素を用いて作製した実施例6~10の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体の抵抗変化率においても、実施例1~5の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体と同様に耐サージ性に優れた効果があることが認められた。また、酸化ケイ素の添加量が本発明の範囲より多い比較例3の厚膜ペーストにより形成された厚膜抵抗体は、従来の厚膜抵抗体と同程度の抵抗変化率となってしまい、耐サージ性の向上効果が得られないことが認められた。
更に、ガラスを形成する成分とは別に、添加剤として酸化亜鉛と酸化ケイ素を同時に用いて作製した実施例11~13の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体の抵抗変化率の結果が示すように、それぞれの添加剤をガラス粉末100質量%に対して18.8質量%の割合で添加した、合計37.6質量%の割合で含有している実施例13の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体の抵抗変化率が良好な効果を発揮していることから、本発明の添加剤として添加される酸化亜鉛の含有量及び酸化ケイ素の含有量は、ガラス粉末100質量%に対して、それぞれ1質量%以上19質量%以下の割合を満たすことで、個別に耐サージ性の向上効果を発揮していることが認められた。
また、従来から用いられているその他添加剤の一種である酸化アルミニウムを本発明の添加剤と同様にして添加した比較例4の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体は、比較例1よりは若干抵抗変化率が低くなったものの、本発明の酸化亜鉛や酸化ケイ素を添加した実施例3および実施例8の厚膜抵抗ペーストにより形成された厚膜抵抗体に比べて、耐サージ性の向上効果が十分には得られていないことが認められた。
【0041】
[試験2]
(実施例14)
添加剤の粒子径の影響を確認するため、実施例3と略同様の組成で、ガラスを形成する成分とは別の添加剤である酸化亜鉛の平均粒子径のみ20nmから35nmへと変更して作製した実施例14の厚膜抵抗ペーストを用いて厚膜抵抗体を形成した。形成した厚膜抵抗体に対して、試験1と同様に換算面積抵抗値、及び抵抗変化率を求め耐サージ性の確認を行った。得られた評価結果を比較例1及び実施例3の結果と共に表2に示す。
【0042】
【表2】
(*2):添加剤として添加される酸化亜鉛の含有量(ガラス粉末100質量%に対する割合(質量%))。
【0043】
表2に示す通り、実施例3と粒子径の異なる実施例14は、比較例1よりも抵抗変化率が低く、実施例3と同程度に耐サージ性に優れることが認められた。
添加剤の粒子径は、粘度特性に影響を及ぼすため、使用条件に応じて、適宜選定することが可能ではあるが、電子部品の小型化が進み、抵抗体もより薄くする要求があることも含め、添加剤の粒子径は100nm以下にするのが好ましい。
【0044】
以上の試験結果から、本発明の厚膜抵抗ペーストを用いて形成された厚膜抵抗体は、耐サージ性に優れ、近年の小型化の進む電子部品に好適に用いることができることが認められる。