(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135998
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041385
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和俊
(72)【発明者】
【氏名】栗原 徹
(57)【要約】
【課題】果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を決めるための情報を提供する。
【解決手段】画像取得部30は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する。果実数推定部31は、入力画像を解析して植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する。葉数情報取得部32は、入力画像を解析して植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する。葉果比推定部33は、果実数と葉数情報とを用いて植物の葉果比を推定する。出力部34は、葉果比を出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する画像取得部と、
前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する果実数推定部と、
前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する葉数情報取得部と、
前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定する葉果比推定部と、
前記葉果比を出力する出力部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記画像取得部は、日の入りから日の出までの間の時間帯に撮像された赤外画像を前記入力画像として取得し、
前記果実数推定部は、植物を被写体に含む赤外画像を入力したとき当該被写体が実らせている果実の個数を出力するように学習された機械学習モデルに前記画像取得部が取得した赤外画像を入力することにより、前記果実数を取得する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記画像取得部は、2以上の異なる方向から前記植物をそれぞれ撮像した2以上の入力画像を取得し、
前記果実数推定部は、前記2以上の入力画像それぞれに撮像されている果実の数である画像内果実数をそれぞれ特定し、前記果実数と2以上の画像内果実数とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、前記果実数を特定する、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記葉数情報取得部は、
前記入力画像中の前記植物を含む所定の領域を設定する領域設定部と、
前記領域に対する前記植物以外の領域が占める割合である空隙率を前記葉数情報として算出する空隙率算出部と、を備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記葉果比推定部は、前記葉果比と、前記空隙率と前記果実数との比に関する情報とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、前記葉果比を特定する、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記葉数情報取得部は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力したとき当該被写体の葉数を出力するように学習された機械学習モデルに前記入力画像を入力することにより得られた前記葉数を前記葉数情報として取得し、
前記葉果比推定部は、前記葉数と前記果実数とに基づいて前記葉果比を特定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記入力画像に含まれる植物を特定するための植物識別子を取得する識別子取得部と、
植物識別子と、当該植物識別子で特定される植物にあらかじめ設定された基準葉果比とを関連付けて記憶する葉果比データベースを参照して、前記識別子取得部が取得した植物識別子に関連付けられた基準葉果比を取得するデータベース管理部と、
前記葉果比推定部が推定した葉果比と前記基準葉果比とに基づいて、前記入力画像に含まれる植物の葉果比が基準葉果比となるために摘果すべき果実の個数である摘果数を算出する摘果数算出部と、をさらに備え、
前記出力部は、前記摘果数をさらに出力する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記果実数推定部が推定した果実数から前記摘果数を減じることにより、摘果後に前記植物が付ける実の数である着果数を算出する着果数算出部をさらに備え、
前記出力部は、前記着果数をさらに出力する、
請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
プロセッサが、
果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得するステップと、
前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得するステップと、
前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得するステップと、
前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定するステップと、
前記葉果比を出力するステップと、
を実行する情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、
果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する機能と、
前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する機能と、
前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する機能と、
前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定する機能と、
前記葉果比を出力する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業の分野にもコンピュータビジョンを利用した技術の導入が進んできている。例えば、非特許文献1には、キュウリの自動収穫ロボット技術が提案されており、画像を解析して温室内のキュウリを検出する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E.J. VAN HENTEN, J. HEMMING, B.A.J. VAN TUIJL, J.G. KORNET, J. MEULEMAN, J. BONTSEMA AND E.A. VAN OS, “An Autonomous Robot for Harvesting Cucumbers in Greenhouses,” in Autonomous Robots 13, 2002, pp. 241--258.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、果樹は果実をよく実らせる年(「表年」とも言われる。)と、果実をあまり実らせない年(「裏年」とも言われる。)とが繰り返される傾向にあることが知られている。果樹が果実を付けすぎた年の翌年は裏年となりやすいからである。果実栽培を事業として実施する場合には、果樹における表年と裏年との繰り返しを抑制し、収穫量を安定させたいという要望がある。
【0005】
果樹における表年と裏年との繰り返しを抑制するために、表年に果実を摘果し実りすぎを防ぐことが一案として考えられるが、果樹毎に果実の数等の情報を把握するのは煩雑である。
【0006】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を決めるための情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、情報処理装置である。この装置は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する画像取得部と、前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する果実数推定部と、前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する葉数情報取得部と、前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定する葉果比推定部と、前記葉果比を出力する出力部と、を備える。
【0008】
前記画像取得部は、日の入りから日の出までの間の時間帯に撮像された赤外画像を前記入力画像として取得してもよく、前記果実数推定部は、植物を被写体に含む赤外画像を入力したとき当該被写体が実らせている果実の個数を出力するように学習された機械学習モデルに前記画像取得部が取得した赤外画像を入力することにより、前記果実数を取得してもよい。
【0009】
前記画像取得部は、2以上の異なる方向から前記植物をそれぞれ撮像した2以上の入力画像を取得してもよく、前記果実数推定部は、前記2以上の入力画像それぞれに撮像されている果実の数である画像内果実数をそれぞれ特定し、前記果実数と2以上の画像内果実数とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、前記果実数を特定してもよい。
【0010】
前記葉数情報取得部は、前記入力画像中の前記植物を含む所定の領域を設定する領域設定部と、前記領域に対する前記植物以外の領域が占める割合である空隙率を前記葉数情報として算出する空隙率算出部と、を備えてもよい。
【0011】
前記葉果比推定部は、前記葉果比と、前記空隙率と前記果実数との比に関する情報とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、前記葉果比を特定してもよい。
【0012】
前記葉数情報取得部は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力したとき当該被写体の葉数を出力するように学習された機械学習モデルに前記入力画像を入力することにより得られた前記葉数を前記葉数情報として取得してもよく、前記葉果比推定部は、前記葉数と前記果実数とに基づいて前記葉果比を特定してもよい。
【0013】
前記情報処理装置は、前記入力画像に含まれる植物を特定するための植物識別子を取得する識別子取得部と、植物識別子と、当該植物識別子で特定される植物にあらかじめ設定された基準葉果比とを関連付けて記憶する葉果比データベースを参照して、前記識別子取得部が取得した植物識別子に関連付けられた基準葉果比を取得するデータベース管理部と、前記葉果比推定部が推定した葉果比と前記基準葉果比とに基づいて、前記入力画像に含まれる植物の葉果比が基準葉果比となるために摘果すべき果実の個数である摘果数を算出する摘果数算出部と、をさらに備えてもよく、前記出力部は、前記摘果数をさらに出力してもよい。
【0014】
前記情報処理装置は、前記果実数推定部が推定した果実数から前記摘果数を減じることにより、摘果後に前記植物が付ける実の数である着果数を算出する着果数算出部をさらに備えてもよく、前記出力部は、前記着果数をさらに出力してもよい。
【0015】
本発明の第2の態様は、情報処理方法である。この方法において、プロセッサが、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得するステップと、前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得するステップと、前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得するステップと、前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定するステップと、前記葉果比を出力するステップと、を実行する。
【0016】
本発明の第3の態様は、プログラムである。このプログラムは、コンピュータに、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する機能と、前記入力画像を解析して前記植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する機能と、前記入力画像を解析して前記植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する機能と、前記果実数と前記葉数情報とを用いて前記植物の葉果比を推定する機能と、前記葉果比を出力する機能と、を実現させる。
【0017】
このプログラムを提供するため、あるいはプログラムの一部をアップデートするために、このプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供されてもよく、また、このプログラムが通信回線で伝送されてもよい。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を決めるための情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態に係る情報処理装置の処理の概要を説明するための図である。
【
図2】実施の形態に係る情報処理装置の機能構成を模式的に示す図である。
【
図3】果実数と2以上の画像内果実数との関係を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る葉数情報取得部の内部構造を模式的に示す図である。
【
図5】空隙率と1樹全体の葉数との関係を模式的に示す図である。
【
図6】葉果比と、空隙率と果実数との比との関係を模式的に示す図である。
【
図7】実施の形態に係る葉果比データベースのデータ構造を模式的に示す図である。
【
図8】実施の形態に係る出力部が出力する情報の一例を模式的に示す図である。
【
図9】実施の形態に係る情報処理装置が実行する情報処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施の形態の概要>
本発明の実施の形態の概要を述べる。本発明の実施の形態に係る情報処理装置は、植物を被写体に含む画像を解析することにより、その植物の葉果比を推定する。ここで「葉果比」は、果実を実らせた果樹において一つの果実あたりの葉の数である。種々の種類の果樹に関し、葉果比がどれくらいであることが適切かは経験的に知られており、例えばリンゴであれば40から70枚程度であることが知られている。果樹の葉果比を適切にすることにより、果樹栽培において収穫量を安定化させることが期待できる。
【0022】
しかしながら、果樹が実らせている果実の数や、果樹の葉数を数えることは生産者にとって非常に手間であるため、果実育成の現場において葉果比に基づいて着果数を定めることは現実的には難しい問題である。本発明の実施の形態に係る情報処理装置は果実を実らせた果樹の画像から葉果比を算出するので、ユーザは果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を容易に決めることができる。
【0023】
図1は、実施の形態に係る情報処理装置1の処理の概要を説明するための図である。以下、情報処理装置1の処理の概要を(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の順に説明するが、その説明は
図1中の(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)と対応する。
【0024】
(1)情報処理装置1は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する。
図1は、柚子の樹木を被写体とする入力画像の例を示している。
(2)情報処理装置1は、入力画像を解析することにより、植物が実らせている果実の個数を推定する。具体的には、情報処理装置1は、植物を被写体に含む画像を入力したときに、その被写体が実らせている果実の個数を出力するように学習された機械学習モデルを用いて果実の個数を推定する。以下、情報処理装置1が推定した果実の個数を「果実数」と記載することがある。
【0025】
(3)情報処理装置1は、入力画像を解析することにより、植物が茂らせている葉の数である葉数に関する葉数情報を取得する。
図1は、情報処理装置1が葉数情報として「空隙率」を算出する場合の例を示している。ここで、「空隙率」は、植物を含む所定の領域における植物以外の領域の割合である。
図1に示す例では、空隙率は樹冠高を直径とする円(
図1における破線の円)内の背景の割合として定められている。空隙率は、植物の葉数が多いほど小さくなる。なお、空隙率を算出するための所定の領域は上記に限られず、植物に外接する円や、植物に外接する矩形の領域等、他の形状であってもよい。
【0026】
(4)情報処理装置1は、推定した果実数と葉数情報とに基づいて、植物の葉果比を推定する。具体的には、情報処理装置1は、葉果比と、葉数情報と果実数との比に関する情報とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて葉果比を推定する。
(5)情報処理装置1は、推定した葉果比を出力する。これにより、情報処理装置1のユーザは植物を撮像した画像を準備するだけでその植物の葉果比の推定値を取得することができる。結果として、ユーザは、その植物の葉果比を適切にするために着果すべき実の数を算出することができる。
【0027】
<実施の形態に係る情報処理装置1の機能構成>
図2は、実施の形態に係る情報処理装置1の機能構成を模式的に示す図である。情報処理装置1は、記憶部2と制御部3とを備える。
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示していないデータの流れがあってもよい。
図2において、各機能ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図2に示す機能ブロックは単一の装置内に実装されてもよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてもよい。機能ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてもよい。
【0028】
記憶部2は、情報処理装置1を実現するコンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)や情報処理装置1の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、植物毎の適切な葉果比を格納する葉果比データベース20等の当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0029】
制御部3は、情報処理装置1のCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部2に記憶されたプログラムを実行することによって画像取得部30、果実数推定部31、葉数情報取得部32、葉果比推定部33、出力部34、識別子取得部35、データベース管理部36、摘果数算出部37、及び着果数算出部38として機能する。
【0030】
なお、
図2は、情報処理装置1が単一の装置で構成されている場合の例を示している。しかしながら、情報処理装置1は、例えばクラウドコンピューティングシステムのように複数のプロセッサやメモリ等の計算リソースによって実現されてもよい。この場合、制御部3を構成する各部は、複数の異なるプロセッサの中の少なくともいずれかのプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0031】
画像取得部30は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する。具体的には、画像取得部30は外部の撮像装置が撮像した画像を有線又は無線で取得してもよいし、情報処理装置1がCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の既知の固体撮像素子を備えている場合には被写体を直接撮像して画像を取得してもよい。
【0032】
果実数推定部31は、画像取得部30が取得した入力画像を解析して植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する。また、葉数情報取得部32は、画像取得部30が取得した入力画像を解析して植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する。果実数推定部31による果実数の取得、及び葉数情報取得部32による葉数情報の取得についての詳細は後述するが、果実数推定部31及び葉数情報取得部32は、いずれも入力画像を解析することでそれぞれ果実数と葉数情報とを取得する。
【0033】
葉果比推定部33は、果実数推定部31が取得した果実数と葉数情報取得部32が取得した葉数情報とを用いて、入力画像中の植物の葉果比を推定する。出力部34は、葉果比推定部33が推定した葉果比を情報処理装置1が備える図示しない表示部に表示させたり、あらかじめ定められた所定の宛先に送信したりすることによって出力する。これにより、情報処理装置1は、果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を決めるための有用な情報である葉果比を提供することができる。
【0034】
(果実数の推定)
果実数推定部31による果実数の推定処理についてより詳細に説明する。
【0035】
果樹の栽培においては、ビニールハウスでの栽培に適している種類の植物がある一方で、野外で育てることが適している植物もある。例えば、ミカンや柚子等の柑橘系の植物は、一般に野外で育てることが多い。野外で育てられている植物を撮像した場合、当然のことながら野外の環境の影響を受けた画像が生成されることになる。例えば、晴天時の昼間に野外で植物を撮像すると、強いコントラストを持った画像が生成される。このような画像においてはコントラストの影響で画像中の果実の検出が難しくなることも起こりかねない。
【0036】
そのため、画像取得部30は、可視光を光源とする入力画像を取得する場合、曇天時に撮像された画像を取得することが好ましい。また、画像取得部30は、夜間の時間帯に撮像された赤外画像を入力画像として取得することがさらに好ましい。夜間の時間帯とは太陽光が少ないか又は存在しない時間帯であり、例えば日の入りから日の出までの間の時間帯である。
【0037】
夜間の時間帯に赤外画像を撮像するためには、被写体に赤外光を照射してその反射光を赤外カメラで撮像する必要がある。このため、赤外光の光量や赤外光の発光源から被写体までの距離を調整することにより、葉果比の推定の対象となる植物以外の被写体に照射される赤外光を低減することができ、例えば、植物の背景に存在する他の植物や遠景が画像に写り込むことを抑制できる。これにより、果実数推定部31及び葉数情報取得部32は、それぞれ果実数と葉数情報との推定の精度を向上させることができる。
【0038】
本願の発明者は、植物を被写体に含む赤外画像と、その赤外画像に写っている果実の数とを教師データとして、CNN(Convolutional Neural Network)等の既知の機械学習手法を用いて学習することにより、赤外画像を入力するとその画像に含まれる果実の数を出力する機械学習モデルを構築した。果実数推定部31は、植物を被写体に含む赤外画像を入力したときその被写体が実らせている果実の個数を出力するように学習された機械学習モデルに画像取得部30が取得した赤外画像を入力することにより、果実数を取得する。これにより、果実数推定部31は、赤外画像に写っている果実数を簡便かつ精度よく取得することができる。
【0039】
ここで、植物を一つの方向から撮像した場合、植物自体に遮蔽されて撮像されない果実が存在しかねない。そこで、画像取得部30は、2以上の異なる方向から植物をそれぞれ撮像した2以上の入力画像を取得してもよい。この場合、果実数推定部31は、まず画像取得部30が取得した2以上の入力画像それぞれに撮像されている果実の数である画像内果実数をそれぞれ特定する。続いて、画像取得部30は、果実数と2以上の画像内果実数とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、果実数を特定する。
【0040】
図3は、果実数と2以上の画像内果実数との関係を模式的に示す図である。具体的には、
図3に示すグラフの横軸は植物を8つの異なる方向から撮像して得られた8枚の画像における画像1枚あたりの平均果実数を示し、縦軸は被写体となった1樹全体の果実の実測値を示している。また、
図3におけるX印は本願の発明者が実験によって得たデータであり、直線は実験データを説明する回帰直線である。
図3における横軸をx、縦軸をyとおくと、α、βを実数値として回帰直線はy=αx+βの形の関係式で表すことができる。このように、果実数推定部31は、2以上の異なる方向から植物を撮像して得られる複数の入力画像を用いることにより、果実数の推定精度を向上させることができる。
【0041】
(葉数情報)
続いて、葉数情報取得部32による葉数情報の取得処理についてより詳細に説明する。
【0042】
上述したように、葉果比は果実を実らせた果樹について、一つの果実あたりの葉の数として定義される。このため、葉果比を直接求めるためには果樹に付いている葉の数を取得する必要がある。しかしながら、果樹の葉は数が多く、また幹や他の葉に遮蔽されて撮像されない葉も存在する。このため、植物を被写体として含む画像から葉数を直接カウントする処理は煩雑な処理となる。そこで、実施の形態に係る葉数情報取得部32は、入力画像から葉数を直接カウントすることに替えて、上述した空隙率を算出する。
【0043】
図4は、実施の形態に係る葉数情報取得部32の内部構造を模式的に示す図である。
図4に示すように、葉数情報取得部32は、領域設定部320と空隙率算出部321とを含む。
【0044】
領域設定部320は、画像取得部30が取得した入力画像中の植物を含む所定の領域を設定する。具体的には、領域設定部320は、樹冠高を直径とする円形の領域であってその領域内に樹冠を含む領域を入力画像中に設定する。空隙率算出部321は、領域設定部320が設定した領域に対する植物以外の領域が占める割合である空隙率を算出し葉数情報とする。一般に、領域設定部320が設定した領域中に存在する植物の葉数が多いほどその領域中に示す葉数の割合が大きくなると考えられる。
【0045】
図5は、空隙率と1樹全体の葉数との関係を模式的に示す図である。具体的には、
図5に示すグラフの横軸は空隙率を示し、縦軸は1樹全体の葉数を示している。また、
図5における黒丸は本願の発明者が実験によって得たデータであり、直線は実験データを説明する回帰直線である。
図5は、空隙率が小さいほど1樹全体の葉数が多くなる傾向があることを示している。すなわち、
図5は空隙率が植物の葉数を反映する情報といえることを示している。領域設定部320は植物の葉数に替えて空隙率を葉数情報として算出することにより、算出する情報の精度を高めることができる。
【0046】
図6は、葉果比と、空隙率と果実数との比との関係を模式的に示す図である。具体的には、
図6に示すグラフの横軸は空隙率を画像内の果実数で除算した値を示し、縦軸は葉果比の実測値を示している。また、
図6における白抜きの五角形は本願の発明者が実験によって得たデータであり、直線は実験データを説明する回帰直線である。
図3示す回帰直線と同様に、
図6における回帰直線もy=γx+δ(γ及びδは実数)の形の関係式で表すことができる。
【0047】
図6に示す葉果比と、空隙率と果実数との比に関する情報とについて定められた関係式は、あらかじめ実験により定められて記憶部2に格納されている。葉果比推定部33は、葉果比と空隙率と果実数との比に関する情報とについて定められた関係式に基づいて、葉果比を特定する。これにより、情報処理装置1は、植物を被写体に含む入力画像からその植物の葉果比を取得することができる。
【0048】
(出力部34が出力する情報)
上述したように、果樹の葉果比を適切にすることにより、果樹栽培において収穫量を安定化させることが期待できる。そのため、各果樹についてどの程度実を摘めば適切な葉果比となるかを一見して把握できれば、果樹栽培の現場で作業する者にとって便利である。
【0049】
そこで、実施の形態に係る情報処理装置1は、画像取得部30が取得した入力画像に含まれる植物を特定するための植物識別子を取得する識別子取得部35を備えている。ここで「植物識別子」は、入力画像に含まれる植物それぞれを特定するために各植物に一意に割り当てられた識別子である。
【0050】
識別子取得部35は、情報処理装置1の図示しないユーザインタフェースを介して情報処理装置1のユーザが入力した植物識別子を取得してもよいし、入力画像中に植物識別子を示す情報(例えば、植物識別子を符号化した情報)が含まれている場合には、その情報に基づいて植物識別子を取得してもよい。
【0051】
図7は、実施の形態に係る葉果比データベース20のデータ構造を模式的に示す図である。
図7に示すように、葉果比データベース20は、植物識別子と、その植物識別子で特定される植物にあらかじめ設定された基準葉果比とを関連付けて記憶している。ここで「基準葉果比」は、植物毎に適切とされる葉果比であり、あらかじめ試験によって定められている。この実験は、例えば数年かけて葉果比を変更することで見出される。果実の栽培を事業とする者に取っては果実の収穫量を多くする(すなわち、葉果比が小さくする)ことが望まれるが、一方で葉果比が小さすぎると表年と裏年との繰り返し生じるおそれがある。そこで、年ごとに葉果比を下げていくことで、収穫量を多くしつつ安定した状態となる葉果比を見極め、適切な葉果比として定める。
【0052】
図7において、植物識別子がPID0001で特定される植物の種類は柚子であり、基準葉果比は80から120である。また、植物識別子がPID0002で特定される植物の種類は温州ミカンであり、基準葉果比は25から30である。以下同様である。
図7に図示はしていないが、葉果比データベース20は、植物の種別及び基準葉果比の他に、植物を栽培する管理者を特定するための識別子や、植物の存在位置を示す情報、植物が存在する土地の土壌に関する情報等の他の情報を植物識別子に紐づけて記憶してもよい。
【0053】
データベース管理部36は、葉果比データベースを参照して、識別子取得部35が取得した植物識別子に関連付けられた基準葉果比を取得する。摘果数算出部37は、葉果比推定部33が推定した葉果比とデータベース管理部36が取得した基準葉果比とに基づいて、画像取得部30が取得した入力画像に含まれる植物の葉果比が基準葉果比となるために摘果すべき果実の個数である摘果数を算出する。出力部34は、摘果数算出部37が算出した摘果数をさらに出力する。これにより、果樹栽培の現場で作業するユーザは、樹木毎に摘果すべき果実の数を一見して把握することができる。
【0054】
葉果比を適切にすることによって表年と裏年との繰り返しを抑制し、果実の収穫量を安定化させることが期待できる。そうすると、収穫量を安定化した場合にどの程度の収穫が見込めるかを知ることができれば、果実の栽培を事業とする者は事業計画を立てやすくなる。
【0055】
そこで、情報処理装置1は、果実数推定部31が推定した果実数から摘果数算出部37が算出した摘果数を減じることにより、摘果後に植物が付ける実の数である着果数を算出する着果数算出部38も備えている。出力部34は、着果数算出部38が算出した着果数をさらに出力する。
【0056】
図8は、実施の形態に係る出力部34が出力する情報の一例を模式的に示す図であり、出力部34が情報処理装置1の表示部に表示させる画面例を示す図である。
図8に示すように、出力部34は、植物が栽培されている農地の地図、入力画像のサムネイル、及び入力画像に含まれる植物の植物識別子を含む画面を作成する。出力部34が作成する画面には、植物識別子で特定される植物の種類(
図8の例では柚子)と、植物の管理者を特定するための管理者ID(Identifier)、管理者の氏名、植物が栽培されている果樹園の名称も含まれている。
【0057】
図8に示すように、出力部34は、果実数推定部31が推定した果実数と、葉数情報取得部32が取得した空隙率と、葉果比推定部33が推定した葉果比とを出力している。出力部34はさらに、データベース管理部36が葉果比データベース20から読み出した基準葉果比と、摘果数算出部37が算出した摘果数と、着果数算出部38算出した摘果後の着果数とも出力している。出力部34はさらに、植物識別子で特定される植物の葉果比の推移を示すグラフも出力している。このように、出力部34が各種情報を一覧で表示する画面を作成することにより、果樹栽培の現場で作業するユーザは各果樹についてどの程度実を摘めば適切な葉果比となるかを一見して把握することができる。
【0058】
<情報処理装置1が実行する情報方法の処理フロー>
図9は、実施の形態に係る情報処理装置1が実行する情報処理の流れを説明するためのフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば情報処理装置1が起動したときに開始する。
【0059】
画像取得部30は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力画像として取得する(S2)。果実数推定部31は、画像取得部30が取得した入力画像を解析して植物が実らせている果実の個数の推定値である果実数を取得する(S4)。具体的には、果実数推定部31は、植物を被写体に含む赤外画像を入力したときその被写体が実らせている果実の個数を出力するように学習された機械学習モデルに画像取得部30が取得した赤外画像を入力することにより、果実数を取得する。
【0060】
葉数情報取得部32は、入力画像を解析して植物の葉数に関する情報である葉数情報を取得する(S6)。葉数情報を取得するステップ6は、所定の領域を設定するステップS60と空隙率を算出するステップS62とを含んでいる。具体的には、まず領域設定部320が、入力画像中の植物を含む所定の領域を設定する(S60)。続いて、空隙率算出部321が、領域設定部320が設定した領域に対する植物以外の領域が占める割合である空隙率を葉数情報として算出する(S62)。
【0061】
葉果比推定部33は、果実数と葉数情報とを用いて植物の葉果比を推定する(S8)。具体的には、葉果比推定部33は、葉果比と、空隙率と果実数との比に関する情報とについてあらかじめ定められた関係式に基づいて、葉果比を特定する。
【0062】
出力部34は、葉果比推定部33が推定した葉果比を出力する(S10)。出力部34が葉果比を出力すると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0063】
<実施の形態に係る情報処理装置1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る情報処理装置1によれば、果樹栽培において収穫量を安定化させるために取るべき施策を決めるための情報を提供することができる。
【0064】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果をあわせ持つ。
【0065】
<第1の変形例>
上記では、葉数情報取得部32が空隙率を葉数情報として取得する場合について説明した。これに替えて、葉数情報取得部32は、入力画像を解析して葉数を直接取得して葉数情報としてもよい。
【0066】
この場合、記憶部2は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力したときその写体の葉数を出力するように学習された機械学習モデルを記憶している。この機械学習モデルは、植物を被写体に含む画像と、実測によって求めたその植物の葉数とを教師データとして、CNN等の既知の機械学習手法を用いて生成することができる。葉数情報取得部32は、記憶部2から読み出した機械学習モデルに入力画像を入力することにより得られた葉数を葉数情報として取得する。
【0067】
葉果比推定部33は、第1の変形例に係る葉数情報取得部32が取得した葉数と果実数推定部31が取得した果実数とに基づいて、葉果比の定義にしたがって葉果比を特定する。空隙率は、風等の影響で植物の葉が動くことによっても変動する可能性があるが、葉数情報取得部32が入力画像から葉数を直接推定することにより、葉果比推定の再現性の高さを向上させることが期待できる。
【0068】
<第2の変形例>
上記では、果実数推定部31が取得した果実数と、葉数情報取得部32が取得した葉数情報とに基づいて、葉果比推定部33が葉果比を推定する場合について説明した。これに替えて、葉果比推定部33は、入力画像を解析して葉果比を直接推定してもよい。
【0069】
この場合、記憶部2は、果実を実らせている植物を被写体に含む画像を入力したときに、その植物の葉果比を出力するように学習された機械学習モデルをあらかじめ記憶している。この機械学習モデルは、植物を被写体に含む画像と、実測によって求めたその植物の葉果比とを教師データとして、CNN等の既知の機械学習手法を用いて生成することができる。果実数と葉数情報との推定処理を省略することができるので、第2の変形例に係る葉果比推定部33は、葉果比の推定処理を簡略化することができる。
【0070】
<第3の変形例>
上記では、画像取得部30が取得した入力画像中に植物が一つだけ被写体として含まれる場合について主に説明した。しかしながら、入力画像によっては、解析対象の植物の近傍に存在する他の植物が映り込んでいる場合もある。このような場合、前処理として入力画像から解析対象とする一つの植物を切り出してもよい。
【0071】
このため、第3の変形例に係る情報処理装置1は、図示しない切出し部を備えている。上述したように植物に赤外光を照射しながら赤外カメラが撮像して得られた入力画像は、解析対象となる植物の輝度値はその他の被写体と比較して顕著に異なる傾向がある。例えば、赤外光の光量が多いほど大きな輝度値となるように赤外カメラが撮像画像を形成する場合、入力画像において解析対象となる植物を構成する画素の画素値が大きくなる。
【0072】
そこで、切出し部は、入力画像を所定の閾値で2値化するとともに、入力画像を構成する各画素の画素値を行方向及び列方向それぞれに積算する。入力画像を構成する画素値を行方向に積算して得られるデータから、入力画像の垂直方向において値の大きな画素が分布している領域が分かる。同様に、入力画像を構成する画素値を列方向に積算して得られるデータから、入力画像の水平方向において値の大きな画素が分布している領域が分かる。これにより、切出し部は、入力画像において値の大きな画素が分布している領域(すなわち、多くの赤外光が反射されている解析対象植物が存在する領域)を特定し、切り出すことができる。
【符号の説明】
【0073】
1 情報処理装置
2 記憶部
20 葉果比データベース
3 制御部
30 画像取得部
31 果実数推定部
32 葉数情報取得部
320 領域設定部
321 空隙率算出部
33 葉果比推定部
34 出力部
35 識別子取得部
36 データベース管理部
37 摘果数算出部
38 着果数算出部