(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136004
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】不織布用バインダー組成物、及び、加工不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 1/587 20120101AFI20230922BHJP
D06M 15/273 20060101ALI20230922BHJP
D06M 15/31 20060101ALI20230922BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20230922BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20230922BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
D04H1/587
D06M15/273
D06M15/31
D06M15/263
D04H1/435
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041397
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 吉延
【テーマコード(参考)】
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB07
4L033AC11
4L033CA18
4L033CA21
4L033CA26
4L047AA21
4L047AB02
4L047BC08
4L047CB01
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、高度な耐水性、不織布強度、及び、柔軟性を発揮できる加工不織布を得ることができる不織布用バインダー組成物、及び、加工不織布を提供する。
【解決手段】本発明は、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする不織布用バインダー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、
(メタ)アクリロニトリル、
グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び、
カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする不織布用バインダー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の不織布用バインダー組成物を不織布に含浸及び/又は塗布してなることを特徴とする加工不織布。
【請求項3】
前記不織布の原料繊維が、ポリエステルであることを特徴とする請求項2に記載の加工不織布。
【請求項4】
衛生材料に用いられることを特徴とする請求項2又は3に記載の加工不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布用バインダー組成物、及び、加工不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維、不織布、紙等に塗布したり含浸加工したりして使用するバインダーとして、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂、SBR(スチレン・ブタジエン系)ラテックスやアクリル系合成樹脂エマルジョン等が多く使用され、繊維、不織布、紙等の物理的強度(破断時強度、破断時伸度、耐水強度、耐熱強度等)を向上させている。
【0003】
特に、合成樹脂エマルジョンは、取り扱いが容易であり、溶媒が水の場合、揮発成分が水であることから環境への負荷が少ない点で好適に使用されている。中でも、物理的強度を向上させる手段として、使用樹脂の架橋による改質が図られ、特にN-メチロール基を含有するアクリルアミドを共重合させて、架橋による使用樹脂の改質を行い、耐水性や不織布強度を向上させることが行われてきた。
【0004】
しかし、前記N-メチロール基を含有するアクリルアミドの自己架橋は、メチロール基に起因して、ホルムアルデヒドが放出され、昨今問題となっているシックハウス症候群や人体への悪影響の原因となっている。
【0005】
また、近年、環境規制の基準が厳しくなり、極微量であっても、原因物質の存在が許されない状況になりつつあり、メチロール基を含有する樹脂の使用は好ましくない。
【0006】
一方、N-メチロール基を含有しない加工不織布用バインダーとして、例えば、特許文献1では、ポリアルキレンイミンを用いて、耐熱強度の向上等が検討されているが、ポリアルキレンイミンの使用は、安全上および衛生上の点で好ましくない。
【0007】
また、特許文献2では、アミド系モノマーやビニルシランなどを必須成分として使用する合成樹脂エマルジョンにヒドラジド化合物を添加することで効果を発揮している。しかし、ヒドラジドの分解による毒性が懸念され、また、長期保存時の変質(ポットライフ)の点でも問題がある。これに対しては、特許文献3では、N-アルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド、シリル基を有する不飽和単量体、および、20℃における水への溶解度が0.1g/水100g以下の不飽和単量体を乳化重合させて得られる合成樹脂エマルジョンを用いることで、ホルムアルデヒドの発生が少ないことに加えて、物理的強度に優れ、長期保存による変質の問題のない加工不織布を開示している。
【0008】
ただ、上述した加工不織布は、紙おむつなどの衛生材料に使用する際に、高度な耐水性、不織布強度に加え、衛生材料に特有の親水性を要する用途(セカンドシート等)においては、好適な材料が存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-258555号公報
【特許文献2】特開2005-220146号公報
【特許文献3】特開2007-291160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高度な耐水性、不織布強度、及び、柔軟性を発揮できる加工不織布を得ることができる不織布用バインダー組成物、及び、加工不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のモノマーを組み合わせて重合し得られた合成樹脂エマルジョンを含有する不織布用バインダー組成物を不織布に用いることにより、得られた加工不織布が、高度な耐水性、不織布強度、及び、柔軟性を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする不織布用バインダー組成物に関する。
【0013】
本発明は、前記不織布用バインダー組成物を不織布に含浸及び/又は塗布してなることを特徴とする加工不織布に関する。
【0014】
本発明の加工不織布は、前記不織布の原料繊維が、ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
本発明の加工不織布は、衛生材料に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の不織布用バインダー組成物を用いて得られる加工不織布は、耐水性、不織布強度、柔軟性に優れ、前記加工不織布を、紙おむつなどの衛生材料のセカンドシートなどにも使用することができ、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[合成樹脂エマルジョン]
本発明で用いられる合成樹脂エマルジョンは、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られることを特徴とする。前記合成樹脂エマルジョンは、特定のモノマーを組み合わせて使用することにより、前記合成樹脂エマルジョンに含まれることになる疎水基や反応性官能基などに起因して、前記合成樹脂エマルジョンを用いて得られる加工不織布などは、耐水性、柔軟性、不織布強度や耐熱性などに優れ、有用である。
【0018】
前記炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーは、得られる加工不織布の柔軟性や、耐水強度付与等の観点から用いられ、例えば、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル(ステアリル(メタ)アクリレート)、イソステアリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシルなどの炭素数が4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、中でも、炭素数が4~12の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが好ましく、得られる加工不織布の柔軟性の観点から、炭素数が4~8の直鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記(メタ)アクリロニトリルは、得られる加工不織布の凝集力や耐水性向上、耐水強度向上等の観点から用いられ、アクリロニトリル、及び、メタクリロニトリルが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマーは、得られる加工不織布の架橋による耐熱性、耐水強度向上等の観点から用いられ、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル(グリシジル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル、アクリル酸2,3-エポキシプロピル、アクリル酸2,3-エポキシブチル、アクリル酸2,3-エポキシシクロヘキシル、メタクリル酸2,3-エポキシプロピル、メタクリル酸2,3-エポキシブチル、メタクリル酸2,3-エポキシシクロヘキシルなどが挙げられ、中でも、メタクリル酸グリシジルが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーは、得られる加工不織布の親水性付与等の観点から用いられ、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、中でも、アクリル酸が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量%に対して、前記炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーの含有割合は、40~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。
【0023】
前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量%に対して、前記(メタ)アクリロニトリルの含有割合は、5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。
【0024】
前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量%に対して、前記グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有割合は、0.5~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
【0025】
前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量%に対して、前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有割合は、2~10質量%が好ましく、4~8質量%がより好ましい。
【0026】
前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量%に対して、前記その他改質モノマーの含有割合は、0~10質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
【0027】
前記合成樹脂エマルジョンは、上記(メタ)アクリル系モノマーなどを、所望の特性に応じて適宜、組み合わせて重合することにより、得ることができる。また、前記合成樹脂エマルジョンとしては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体など、いずれを含んでいてもよい。
【0028】
[重合方法]
前記合成樹脂エマルジョンの重合方法としては、任意の適切な方法を採用することができ、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、各種ラジカル重合が挙げられ、中でも、環境への負荷や、品質安定性の観点から、乳化重合が好ましい。
【0029】
[乳化重合]
前記合成樹脂エマルジョンを得る方法としては、例えば、乳化剤の存在下で、前記モノマーを水系溶媒に分散させて重合反応を行う乳化重合を行うことができ、公知または慣用の乳化重合方法を採用することができる。
【0030】
[乳化剤]
前記乳化重合の際に用いる乳化剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤が挙げられる。さらに、プロペニル基、アリルエーテル基等のラジカル重合性官能基が導入された反応性乳化剤を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記乳化剤の使用量としては、通常の使用量であればよく、例えば、前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量部に対して、0.05~5質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがより好ましい。前記範囲内であれば、前記合成樹脂エマルジョンを用いて得られる加工不織布の耐水強度が良好となり、好ましい。
【0032】
[重合開始剤]
前記モノマーの重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、乳化重合において、アゾ系重合開始剤を好ましく使用することができる。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
重合温度は、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20~100℃程度とすることができ、好ましくは50~80℃程度である。
【0034】
前記重合開始剤の使用量としては、通常の使用量であればよく、例えば、前合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量部に対して、0.005~1質量部程度の範囲から選択することができ、好ましくは0.01~1質量部である。
【0035】
[連鎖移動剤]
また、重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤)を使用することができる。前記連鎖移動剤としては、例えば、n-ラウリルメルカプタン、t-ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択され、中でもt-ラウリルメルカプタンの使用が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記連鎖移動剤の使用量としては、通常の使用量であればよく、例えば、前記合成樹脂エマルジョンを構成するモノマー全量の合計100質量部に対して、0.001~0.5質量部程度とすることができ、好ましくは0.02~0.15質量部程度である。
【0037】
[水系溶媒]
乳化重合時に使用する水系溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水単独、または水と混和する有機溶媒の混合溶媒が挙げられるが、安全性や環境に対する負荷の観点から、水単独であることが好ましい。
水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。
水と混和する有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類等が挙げられる。
【0038】
[不織布用バインダー組成物]
本発明は、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、グリシジル基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする不織布用バインダー組成物に関する。前記不織布用バインダー組成物を用いて得られる加工不織布は、耐水性、不織布強度、柔軟性に優れ、前記加工不織布を、紙おむつなどの衛生材料のセカンドシートなどにも使用することができ、有用である。
【0039】
[架橋剤]
前記不織布用バインダー組成物には、架橋剤をさらに含んでもよい。前記架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。前記架橋剤としては、使用する合成樹脂エマルジョンに含まれる官能基の種類等に応じて、適宜使用することができる。これらは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
[その他添加剤]
前記不織布用バインダー組成物には、必要に応じて、アンモニウム水等のpH調整剤、可塑剤、造膜助剤、老化防止剤、防腐剤、防黴剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等、通常添加される添加剤を更に添加してもよい。これら添加剤の配合量は、特に制限されず、適宜、選択し得る。
【0041】
[加工不織布]
本発明は、前記不織布用バインダー組成物を不織布に含浸及び/又は塗布してなることを特徴とする加工不織布に関する。前記不織布用バインダーを、前記不織布に含浸(浸漬)したり、塗布することで、加工不織布を得ることができる。前記加工不織布は、耐水性、不織布強度、及び、柔軟性に優れるため、衣料内綿などに使用することができ、また、おむつなどの衛材の使用想定に基づく人体への低刺激性設計により、衛生材料などにも使用でき、有用である。
【0042】
前記不織布用バインダー組成物を用いて、加工不織布を製造する方法としては、特に制限されず、公知または慣用の方法を用いることができるが、例えば、(i)前記不織布用バインダー組成物を含む水溶液(水性分散液)に原料繊維を含浸・塗布し、シート状物を作り、次いで加熱乾燥を行い、水分を除去し、前記不織布用バインダー組成物による繊維間の接着を行って、加工不織布を製造する方法や、(ii)原料繊維をカード機などでシート状に重ねてウェブを作り、場合によって、前記ウェブを複数枚重ねた後、浸漬法、ロール法、スプレー法などの方法により、前記不織布用バインダー組成物を前記ウェブまたはその積層物に含浸・塗布し、次いで加熱乾燥を行い、水分を除去し、前記不織布用バインダー組成物による繊維間の接着を行って、加工不織布を製造する方法、さらに、(iii)既に製造されている不織布に浸漬法、ロール法、スプレー法などの方法で、前記不織布用バインダー組成物を含浸・塗布させ、次いで加熱乾燥を行い、水分を除去し、前記不織布用バインダー組成物による繊維間の接着を行って、加工不織布を製造する方法などを適用することもできる。
【0043】
前記加工不織布を構成する原料繊維としては、例えば、綿、パルプ、麻、ジュート、レーヨンなどのセルロース系繊維、羊毛、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、カーボンファイバーなどの合成繊維、ガラスなどを挙げることができ、これらの中でも、生産性や加工性の観点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンが好ましく、より好ましくは、ポリエステルである。これらは単独、あるいは2種以上の混抄物を用いることができる。
【0044】
前記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及びポリエーテルポリエステルなどが挙げられる。
【0045】
前記ポリアミドとしては、6,6-ナイロン、及び6-ナイロンなどが挙げられる。
【0046】
前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、及びエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体などが挙げられる。
【0047】
前記加工不織布の調製する際に、前記不織布と前記不織布用バインダー組成物の比率(質量比)としては、好ましくは85:15~60:40であり、より好ましくは80:20~65:35である。前記範囲内であれば、不織布自体の柔軟性が良好となり、好ましい。
【0048】
[用途]
本発明の加工不織布の用途としては、例えば、ウェットティッシュ、乳幼児のお尻拭き、ワイピングクロス、紙おむつの基材等の衛生材料、使い捨て手術用敷布、覆布、生理衛生用品衣類などの医療衛生材料、衣料用芯地、鞄・靴材、カーペット、ポリ塩化ビニル製フロアクッション材の基材用ガラスペーパー等の敷物、建築材料、土木材料、農業用シート等に使用できる。これらの中でも、本発明の加工不織布は、高耐水性の観点から、衛生材料や、衣料用芯地等に用いることが特に有効である。
【実施例0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例中「部」、「%」とある場合は、断りのない限り質量基準を意味する。
【0050】
〔合成例1〕
[合成樹脂エマルジョンの合成]
撹拌機、温度計、冷却器、及び、窒素ブローを取り付けた2.0Lの反応容器中に、イオン交換水560.0部を仕込み、70℃まで加熱した。
これとは別に、アクリル酸ブチル400.0部、アクリロニトリル102.0部、グリシジルメタクリレート7.0部、及び、アクリル酸30.0部の混合物、並びに、アニオン系乳化剤(第一工業製薬製、「ハイテノールN-08」)3.0部をイオン交換水200.0部に混合した後、乳化して、モノマープレミックスを調製した。
次いで、得られたモノマープレミックスを、過硫酸アンモニウム0.15部をイオン交換水30.0部に溶解した水溶液を、70℃の条件下で、2.0Lの反応容器中に3時間かけて滴下し、乳化重合反応を行った。
前記乳化重合反応の終了後、同温度(70℃)にて2時間保持した後、冷却し、12.5%アンモニア水溶液を加えて、pH7.8に調整し、不揮発分30.2%になるように、イオン交換水を加えて均一混合し、合成樹脂エマルジョンを得た。
【0051】
[実施例1]
合成例1で得られた合成樹脂エマルジョンを表1の配合内容に従い、前記合成樹脂エマルジョンを含む不織布用バインダー組成物(樹脂水溶液)を調製し、ポリエステル製51mm長の原糸2gを140mm×160mmの範囲に均一に敷き詰め、ポリエステル製の原糸(不織布)と不織布用バインダー組成物の比率(質量比)を70:30に調製して、ポリエステル製の原糸を不織布用バインダー組成物に浸漬した。
なお、試験では不織布用バインダー組成物にポリエステル製の原糸(不織布)を浸漬しやすくするため、水で希釈した2gの繊維に対して、不織布用バインダー組成物(樹脂水溶液)20gを添加して、ポリエステル製の原糸(不織布)全体を浸漬・塗布した。
続いて、100℃に設定した乾燥機に入れ、30分乾燥させ、加工不織布を得た。前記加工不織布を25mm×150mmに切り出し、乾燥後の引張試験用のサンプルとした。
また、一部の引張試験用サンプルについては、熱処理効果の確認のため、更に130℃の乾燥機で10分処理し、加熱・熱処理後の引張試験用のサンプルとした。
【0052】
〔比較合成例1〕
[合成樹脂エマルジョンの合成]
撹拌機、温度計、冷却器、及び、窒素ブローを取り付けた2.0Lの反応容器中に、イオン交換水287.0部を仕込み、70℃まで加熱した。
これとは別に、アクリル酸エチル201.6部、メタクリル酸メチル292.5部、アクリロニトリル37.9部、メタクリル酸8.0部、アクリル酸5.6部、及び、グリシジルメタクリレート11.1部の混合物、並びに、アニオン系乳化剤(第一工業製薬製、「ハイテノールN-08」)3.0部をイオン交換水200.0部に溶解した後、乳化して、モノマープレミックスを調製した。
次いで、得られたモノマープレミックスを、過硫酸アンモニウム3.5部をイオン交換水35.0部に溶解した水溶液を、70℃の条件下で、2.0Lの反応容器中に3時間かけて滴下し、乳化重合反応を行った。
前記乳化重合反応の終了後、同温度(70℃)にて2時間保持した後、冷却し、12.5%アンモニア水溶液を加えて、pH6.5に調整し、不揮発分45.3%になるように、イオン交換水を加えて均一混合し、合成樹脂エマルジョンを得た。
【0053】
〔比較合成例2〕
[合成樹脂エマルジョンの合成]
撹拌機、温度計、冷却器、及び、窒素ブローを取り付けた2.0Lの反応容器中に、水600部、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム(旭電化工業(株)製、「アデカリアソープSR10」)7部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Clariant Japan(株)製、「EmulsogenEPN407」)20部、クエン酸ナトリウム1部を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温させた。一方、水350部で前記ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム13部を溶解し、そこに、N-メトキシメチルアクリルアミド28部、ビニルトリエトキシシラン15部、メタクリル酸10部、アクリル酸17部、スチレン470部、ブチルアクリレート240部を添加して撹拌し、乳化モノマーを作製した。
得られた乳化モノマーの10%を重合缶に添加し、続いて5%過硫酸アンモニウム水溶液10部を添加して、初期重合を開始した。初期重合は室温で30分間行い、その後、80℃で残りのモノマー90%および5%過硫酸アンモニウム水溶液30部を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で1時間後期重合を行い、不揮発分約45.0%の合成樹脂エマルジョンを得た。
【0054】
[比較例1]
実施例1における配合内容を、表1の比較例1とした以外は、実施例1と同様の方法にて、引張試験用のサンプルを作製した。
【0055】
[比較例2]
実施例1における配合内容を、表1の比較例2とした以外は、実施例1と同様の方法にて、引張試験用のサンプルを作製した。
【0056】
[引張強度の評価]
引張試験(乾燥条件下)では、実施例及び比較例で得られた、乾燥後の引張試験用のサンプル、及び、加熱・熱処理後の引張試験用のサンプルを用いて、チャック間100mm、引張速度100mm/分で、乾燥条件下での引張強度(N/25mm)を測定した(n=3の平均値)。
また、引張試験(湿潤条件下)では、乾燥条件下と同様に作製したサンプルを用いて、10mlの水を前記サンプルに塗布し、30秒後に10秒間ティッシュペーパーの上に置いて余分な水を除去した後、チャック間100mm、引張速度100mm/分で、湿潤条件下での引張強度(N/25mm)を測定した(n=3の平均値)。
これらの評価結果を表2に示した。
【0057】
前記乾燥条件下の引張強度としては、不織布強度や、触感等の観点から、好ましくは、1.0N/25mm以上であり、より好ましくは、1.5~10.0N/25mmであり、更に好ましくは、2.0~6.0N/25mmである。
また、前記湿熱条件下の引張強度としては、不織布強度や耐水性、触感等の観点から、好ましくは、0.3N/25mm以上であり、より好ましくは、0.5~5.0N/25mmであり、更に好ましくは、0.7~3.0N/25mmである。
【0058】
【0059】
【0060】
上記評価結果より、実施例1においては、引張強度が好ましい範囲に含まれ、不織布強度に優れ、更に、湿潤条件下でも良好な結果であることから、耐水性にも優れることが確認できた。
一方、比較例1及び比較例2では、所望のモノマー成分を使用しなかったため、乾燥条件下、引張強度が好ましい範囲に含まれないものも含まれ、湿熱条件下でも良好な結果が得られなかったことから、耐水性に劣ることが確認された。