(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136312
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ被覆線材
(51)【国際特許分類】
D07B 1/16 20060101AFI20230922BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20230922BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20230922BHJP
【FI】
D07B1/16
D07B1/02
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041852
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悟志
(72)【発明者】
【氏名】杉原 和樹
【テーマコード(参考)】
3B153
4G146
【Fターム(参考)】
3B153AA10
3B153AA22
3B153AA32
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4G146AA11
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4G146AD11
4G146AD22
4G146BA04
4G146CB02
4G146CB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高湿度環境で使用されても、ショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止するカーボンナノチューブ被覆線材を提供する。
【解決手段】複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数または複数で構成されるカーボンナノチューブ素線を含むカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する樹脂被覆層と、を備えたカーボンナノチューブ被覆線材であって、前記カーボンナノチューブ被覆線材の、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、a)100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置した後の質量の比率である水蒸気吸着度が130%以上160%以下であり、b)前記水蒸気吸着の後にさらに100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量の比率である乾燥度が、95%以上105%以下である、カーボンナノチューブ被覆線材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数または複数で構成されるカーボンナノチューブ素線を含むカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する樹脂被覆層と、を備えたカーボンナノチューブ被覆線材であって、
前記カーボンナノチューブ被覆線材の、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置した後の質量の比率である水蒸気吸着度が、130%以上160%以下であり、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置後、100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量の比率である乾燥度が、95%以上105%以下である、カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ素線の密度が、0.30g/cm3以上1.0g/cm3以下である請求項1に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径に対する前記樹脂被覆層の平均厚さの比率が、0.01以上0.10以下である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が、15μm以上75μm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ素線の複数が撚り合わされて構成されており、前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、20T/m以上400T/m以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ素線の複数が撚り合わされて構成されており、前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、20T/m以上200T/m以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ線材が、長手方向に対して直交方向の幅が0.1mm以上5.0mm以下、平均厚さ10μm以上200μm、長手方向に対して直交方向の幅と平均厚さの比が3:1~100:1のリボン形状である請求項1に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ線材と金属線との撚り線が、前記樹脂被覆層で被覆されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ線材が、表面上に、被覆率80%以下のめっき被膜を有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ素線が、前記カーボンナノチューブ集合体と金属との複合体である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ線材を被覆材料で被覆したカーボンナノチューブ被覆線材であり、水分の吸着性に優れたカーボンナノチューブ被覆線材に関する。
【背景技術】
【0002】
水を使用する機器や水に曝される可能性のある部材等に使用される金属線等の導体線は、水の浸入によって、導体線の接続部でのショートや導体線の腐食が生じることがある。そこで、導体線の防水性を向上させるために、導体線に止水剤やシーリング材による防水・止水処理が施される。
【0003】
車両に搭載される電線を止水処理するための方法として、電線の一方の端末から止水剤を供給し、他方の端末からエアを吸引することで止水剤を絶縁被覆の内側に浸透させる方法が提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1では、電線を一本ずつ電線接続装置に接続して吸引ポンプで減圧させる工程となるため、防水・止水処理の作業が煩雑であるという問題がある。
【0004】
また、導体線への防水・止水処理の作業が煩雑である場合や防水・止水処理自体にムラが生じる場合があると、導体線の防水性や止水性が十分には得られず、依然として、導体線の接続部でのショートや導体線の腐食が生じる場合がある。
【0005】
さらに、高湿度環境等で金属線等の導体線が使用されると、上記した止水剤やシーリング材による防水・止水処理では、導体線への湿気の侵入を十分に防止することができない場合がある。導体線に湿気が侵入すると、やはり、湿気の結露により導体線の接続部でのショートや導体線の腐食が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記から、導体線には、水を使用する機器や水に曝される可能性のある部材等に使用される場合だけではなく、高湿度環境下で使用されても、導体線の接続部でのショートや導体線の腐食が生じることを防止できることが要求されている。
【0008】
一方で、カーボンナノチューブは、様々な特性を有する素材であり、多くの分野への応用が期待されている。例えば、カーボンナノチューブは、六角形格子の網目構造を有する筒状体の単層または略同軸で配された多層で構成される3次元網目構造体であり、軽量であるとともに、導電性、熱伝導性、機械的強度等の諸特性に優れる。そこで、金属線の代替として、カーボンナノチューブ線材を使用することが検討されている。
【0009】
上記事情から、本発明は、高湿度環境で使用されても、ショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止することができるカーボンナノチューブ被覆線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数または複数で構成されるカーボンナノチューブ素線を含むカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する樹脂被覆層と、を備えたカーボンナノチューブ被覆線材であって、
前記カーボンナノチューブ被覆線材の、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置した後の質量の比率である水蒸気吸着度が、130%以上160%以下であり、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置後、100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量の比率である乾燥度が、95%以上105%以下である、カーボンナノチューブ被覆線材。
[2]前記カーボンナノチューブ素線の密度が、0.30g/cm3以上1.0g/cm3以下である[1]に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[3]前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径に対する前記樹脂被覆層の平均厚さの比率が、0.01以上0.10以下である[1]または[2]に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[4]前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が、15μm以上75μm以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[5]前記カーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ素線の複数が撚り合わされて構成されており、前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、20T/m以上400T/m以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[6]前記カーボンナノチューブ線材が、前記カーボンナノチューブ素線の複数が撚り合わされて構成されており、前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、20T/m以上200T/m以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[7]前記カーボンナノチューブ線材が、長手方向に対して直交方向の幅が0.1mm以上5.0mm以下、平均厚さ10μm以上200μm、長手方向に対して直交方向の幅と平均厚さの比が3:1~100:1のリボン形状である[1]に記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[8]前記カーボンナノチューブ線材と金属線との撚り線が、前記樹脂被覆層で被覆されている[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[9]前記カーボンナノチューブ線材が、表面上に、被覆率80%以下のめっき被膜を有する[1]乃至[8]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
[10]前記カーボンナノチューブ素線が、前記カーボンナノチューブ集合体と金属との複合体である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する湿度93%の環境下で100時間放置後の質量の比率である水蒸気吸着度が130%以上160%以下であることにより、吸湿性に優れている。また、本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置して100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量の比率である乾燥度が、95%以上105%以下であることにより、カーボンナノチューブ被覆線材に吸着された水蒸気は、乾燥雰囲気では、カーボンナノチューブ被覆線材から放出されやすく、カーボンナノチューブ被覆線材の乾燥性に優れている。従って、本発明のカーボンナノチューブ被覆線材では、高湿度環境で使用されて湿気がカーボンナノチューブ被覆線材に侵入しても、カーボンナノチューブ被覆線材における湿気の結露が防止される。上記から、本発明のカーボンナノチューブ被覆線材では、カーボンナノチューブ被覆線材のショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止することができる。また、カーボンナノチューブ被覆線材に接続される金属部材が存在していても、水蒸気はカーボンナノチューブ被覆線材に優先的に吸湿されるため、金属部材の腐食を防止することが出来る。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、前記カーボンナノチューブ素線の密度が0.30g/cm3以上1.0g/cm3以下であることにより、優れた吸湿性が確実に得られ、また、カーボンナノチューブ被覆線材に吸着された水蒸気が、乾燥雰囲気ではカーボンナノチューブ被覆線材から確実に放出される。
【0013】
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径に対する前記樹脂被覆層の平均厚さの比率が0.01以上0.10以下であることにより、樹脂被覆層の湿気透過性(水蒸気透過性)が確実に向上するので、カーボンナノチューブ線材が確実に湿気を吸着できることから、カーボンナノチューブ被覆線材における湿気の結露を確実に防止できる。
【0014】
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が15μm以上75μm以下であることにより、カーボンナノチューブ線材の吸湿性と乾燥性がより向上することから、カーボンナノチューブ被覆線材における湿気の結露を確実に防止できる。
【0015】
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材によれば、前記カーボンナノチューブ線材が前記カーボンナノチューブ素線の複数が撚り合わされて構成されており、前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が20T/m以上400T/m以下であることにより、カーボンナノチューブ線材の吸湿性と乾燥性がより向上することから、カーボンナノチューブ被覆線材における湿気の結露を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材に用いるカーボンナノチューブ素線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材について、図面を用いながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材の説明図である。
図2は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材に用いるカーボンナノチューブ素線の説明図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ被覆線材(以下、「CNT被覆線材」ということがある。)1は、カーボンナノチューブ線材(以下、「CNT線材」ということがある。)10と、CNT線材10を被覆する樹脂被覆層21と、を備えている。CNT被覆線材1は、CNT線材10の外周面に樹脂被覆層21が被覆された構成となっている。すなわち、CNT線材10の長手方向に沿って樹脂被覆層21が被覆されている。CNT被覆線材1では、CNT線材10の外周面全体が、樹脂被覆層21によって被覆されている。また、CNT被覆線材1では、樹脂被覆層21はCNT線材10の外周面と直接接した態様となっている。CNT被覆線材1では、CNT線材10は、複数本のカーボンナノチューブ素線(以下、「CNT素線」ということがある。)12、12、12・・・が撚り合わされた撚り線となっている。CNT被覆線材1は、径方向の断面形状は略円形となっている。
【0019】
図2に示すように、CNT素線12は、1層または2層以上の多層構造を有する複数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)11a、11a、11a・・・で構成されるカーボンナノチューブ集合体(以下、「CNT集合体」ということがある。)11の単数から、または複数のCNT集合体11、11、11・・・が束ねられて形成されている。CNT素線12とは、CNT11aの割合が90質量%以上の線材を意味する。なお、CNT素線12におけるCNT11aの割合の算定においては、めっきとドーパントは除く。CNT集合体11は線状となっており、CNT集合体11の長手方向が、CNT線材10及びCNT素線12の長手方向を形成している。CNT線材10における複数のCNT素線12、12、12・・・は、CNT線材10の長手方向の中心軸に沿って所定の撚り数にて撚り合わされている。従って、CNT線材10における複数のCNT素線12、12、12・・・は、配向している。
【0020】
また、CNT素線12は、1層または2層以上の多層構造を有する長尺なCNT11aの束である。CNT11aの長手方向が、CNT線材10及びCNT素線12の長手方向を形成している。CNT素線12における複数のCNT11a、11a、11a・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT素線12における複数のCNT11a、11a、11a・・・は、配向している。
【0021】
CNT被覆線材1において、CNT素線12を構成するCNT11aは、単層構造または複層構造を有する筒状体であり、それぞれ、SWNT(Single-walled nanotube)、MWNT(Multi-walled nanotube)と呼ばれる。
図2では、2層構造を有するCNT11aのみを記載しているが、CNT素線12には、3層構造以上の層構造を有するCNT11aや単層構造の層構造を有するCNT11aも含まれていてもよい。また、CNT素線12は、3層構造以上の層構造を有するCNT11aまたは単層構造の層構造を有するCNT11aから形成されていてもよい。
【0022】
CNT素線12を構成するCNT11aにおいて、2層構造を有するCNT11aでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1、T2が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0023】
CNT素線12を構成するCNT11aの性質は、上記筒状体のカイラリティに依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型及びカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、ジグザグ型は半導体性および半金属性、カイラル型は半導体性および半金属性の挙動を示す。従って、CNT11aの導電性は、筒状体がいずれのカイラリティを有するかによっても大きく異なる。CNT被覆線材1を構成するCNT素線12では、導電性をさらに向上させる点から、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNT11aの割合を増大させることが好ましい。
【0024】
次に、CNT線材10におけるCNT11a及びCNT素線12の配向性について説明する。小角X線散乱(SAXS)を用いて、CNT線材10についてX線散乱像の情報を分析すると、CNT線材10において、複数のCNT11a、11a、11a・・・及び複数のCNT素線12、12、12・・・が良好な配向性を有していることが分かる。例えば、複数のCNT11a、11a、11a・・・及び複数のCNT素線12、12、12・・・の配向性を示す小角X線散乱によるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値幅Δθは、60°以下が好ましく、50°以下が特に好ましい。このように、複数のCNT11a、11a、11a・・・及び複数のCNT素線12、12、12・・・が良好な配向性を有しているので、CNT線材10は、CNT11a及びCNT素線12の長手方向に沿って優れた導電性を有している。すなわち、CNT素線12が長手方向に配向性を有することで、CNT素線12は径方向の導電性と比較して長手方向の導電性に優れている特性を有する。従って、複数のCNT素線12、12、12・・・が撚り合わされたCNT線材10は、特に、CNT線材10の長手方向の導電性に優れている。
【0025】
CNT線材10は径方向よりも長手方向に優れた導電性を発揮するので、CNT線材10では、それぞれのCNT素線12に絶縁被覆層を被覆する必要がない。よって、CNT線材10では、CNT素線12は、隣接する他のCNT素線12と直接接触した態様で撚り合わせることができる。また、CNT線材10では、各CNT素線12に絶縁被覆層を形成する必要がないので、製造コストを低減できる。なお、CNT線材10は、50質量%以上がCNT11aから構成されることが好ましく、70質量%以上がCNT11aから構成されることがより好ましく、80質量%以上がCNT11aから構成されることがさらに好ましく、90質量%以上がCNT11aから構成されることが特に好ましく、99質量%以上がCNT11aから構成されることが最も好ましい。
【0026】
CNT被覆線材1では、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量(D1)に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置した後の質量(W)の比率((W/D1)×100)で表される水蒸気吸着度(以下、単に「水蒸気吸着度」ということがある。)が、130%以上160%以下の範囲となっている。また、CNT被覆線材1では、100℃の乾燥空気下で100時間放置後の質量(D1)に対する、100℃の乾燥空気下で100時間放置後に湿度93%の環境下で100時間放置後、100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量(D2)の比率((D2/D1)×100)で表される乾燥度(以下、単に「乾燥度」ということがある。)が、95%以上105%以下の範囲となっている。なお、本明細書で、「湿度」とは、ある温度における飽和水蒸気圧に対する実際の空気の水蒸気分圧の比の、相対湿度である。
【0027】
CNT被覆線材1では、水蒸気吸着度が130%以上160%以下であることにより、吸湿性に優れている。水蒸気吸着度は、主にCNT線材10の有する吸湿性及び樹脂被覆層21の水蒸気透過性が寄与している。また、CNT被覆線材1では、乾燥度が95%以上105%以下であることにより、CNT被覆線材1に吸着された水蒸気は、乾燥雰囲気では、CNT被覆線材1から放出されやすく、CNT被覆線材1の乾燥性に優れている。乾燥度は、主にCNT線材10の有する乾燥性及び樹脂被覆層21の水蒸気透過性が寄与している。
【0028】
従って、CNT被覆線材1では、高湿度環境で使用されて湿気がCNT被覆線材1に侵入しても、CNT被覆線材1が吸湿するため、CNT被覆線材1における湿気の結露が防止される。上記から、CNT被覆線材1では、CNT被覆線材1のショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止することができる。CNT被覆線材1は、電線として使用でき、特に、配線と端子の接続部、インホイールモータ等の車両に搭載される機器の配線等、結露が生じやすい部分、また、エアコン等の家電、水を使用する医療機器、水中ケーブル等の水分に暴露されやすい部位の配線として使用しても、電線のショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止することができる。
【0029】
CNT被覆線材1の水蒸気吸着度は130%以上160%以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、吸湿性をより向上させることでCNT被覆線材1への結露を確実に防止する点から、135%が好ましく、138%が特に好ましい。一方で、水蒸気吸着度の上限値は、重量が重くなることによって生じるCNT被覆線材1のたわみや吸湿によって生じるCNT線材10の変形を防止する点から、158%が好ましく、156%が特に好ましい。CNT被覆線材1の水蒸気吸着度は、例えば、CNT素線12の円相当直径、CNT素線12の密度、CNT線材10の撚り数、CNT線材10の円相当直径に対する樹脂被覆層21の平均厚さの比率等、CNT線材10と樹脂被覆層21の構成や特性があいまって所定の範囲に設定される。
【0030】
CNT被覆線材1の乾燥度は95%以上105%以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、水分以外の成分が失われることによる変性を防止する点から98%が好ましく、100%が特に好ましい。一方で、乾燥度の上限値は、乾燥雰囲気では水分がCNT被覆線材1から円滑に放出されることでCNT被覆線材1への結露の発生を確実に防止する点から、104%が特に好ましい。CNT被覆線材1の乾燥度は、例えば、CNT素線12の円相当直径、CNT素線12の密度、CNT線材10の撚り数、CNT線材10の円相当直径に対する樹脂被覆層21の平均厚さの比率等、CNT線材10と樹脂被覆層21の構成や特性があいまって所定の範囲に設定される。
【0031】
次に、水蒸気吸着度が130%以上160%以下であり、乾燥度が95%以上105%以下であるCNT被覆線材1を構成する各部材について説明する。
【0032】
CNT線材10は、複数本のCNT素線12、12、12・・・が撚り合わされた撚り線となっている。CNT線材10は、径方向の断面形状は略円形となっている。CNT線材10の撚り数(T/m)は、特に限定されないが、その下限値は、CNT素線12とCNT素線12の間の接触性が向上することでCNT線材10の導電性の向上に確実に寄与する点から、20T/mが好ましく、30T/mがより好ましく、40T/mが特に好ましい。一方で、CNT線材10の撚り数の上限値は、CNT素線12とCNT素線12の間隔を適度に設けることでCNT線材10の吸湿性と乾燥性がより向上してCNT被覆線材1への湿気の結露を確実に防止できる点から、400T/mが好ましく、300T/mがより好ましく、200T/mがさらに好ましく、150T/mが特に好ましい。
【0033】
CNT線材10を構成するCNT素線12の本数は、特に限定されず、CNT線材10に要求される線径等に応じて適宜選択可能である。CNT素線12の本数は、例えば、CNT被覆線材1の電気抵抗を低減しつつ、撚り線であるCNT線材10の形成容易性を得る点から、5本以上1000本以下が好ましく、10本以上800本以下がより好ましく、100本以上600本以下が特に好ましい。
【0034】
CNT線材10の円相当直径は、特に限定されず、CNT線材10の使用条件等に応じて適宜選択可能である。CNT線材10の円相当直径は、例えば、0.01mm以上5.0mm以下が好ましく、0.05mm以上3.5mm以下がより好ましく、0.20mm以上2.0mm以下が特に好ましい。
【0035】
CNT線材10を構成するCNT素線12の密度は、特に限定されないが、その下限値は、CNT線材10の長手方向の導電性を向上させる点から、0.30g/cm3が好ましく、0.40g/cm3が特に好ましい。一方で、CNT素線12の密度の上限値は、CNT線材10に優れた吸湿性が確実に得られつつ、CNT線材10に吸着された水蒸気が乾燥雰囲気においてCNT線材10から確実に放出される点から、1.0g/cm3が好ましく、0.80g/cm3がより好ましく、0.70g/cm3が特に好ましい。
【0036】
CNT素線12の円相当直径は、特に限定されないが、その下限値は、CNT線材10の長手方向の導電性を向上させる点から、15μmが好ましく、20μmがより好ましく、25μmが特に好ましい。一方で、CNT素線12の円相当直径の上限値は、高湿度では水蒸気が速やかに吸収され、かつ乾燥時には水蒸気が速やかに放出され、CNT線材10の吸湿性と乾燥性がより向上することでCNT被覆線材1への湿気の結露を確実に防止できる点から、75μmが好ましく、70μmがより好ましく、65μmが特に好ましい。
【0037】
CNT線材10の外周面に設けられた樹脂被覆層21は、絶縁被覆としての機能を有する。樹脂被覆層21の材料としては、芯線として金属を用いた被覆電線の絶縁被覆層に用いる材料を使用することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0038】
樹脂被覆層21は、1層としてもよく、これに代えて、2層以上の多層構造としてもよい。
【0039】
樹脂被覆層21を形成する樹脂の重量平均重合度は、特に限定されないが、その下限値は、樹脂被覆層21に強度を確実に付与する点から、400が好ましく、600がより好ましく、800が特に好ましい。一方で、樹脂被覆層21を形成する樹脂の重量平均重合度の上限値は、樹脂被覆層21の湿気透過性(水蒸気透過性)が確実に向上する点から、3000が好ましく、1500がより好ましく、1200が特に好ましい。
【0040】
樹脂被覆層21の平均厚さは、特に限定されないが、その下限値は、樹脂被覆層21に強度を確実に付与する点から、0.01mmが好ましく、0.02mmがより好ましく、0.1mmが特に好ましい。一方で、樹脂被覆層21の平均厚さの上限値は、樹脂被覆層21の湿気透過性(水蒸気透過性)が確実に向上する点から、2mmが好ましく、1mmがより好ましく、0.5mmが特に好ましい。
【0041】
CNT線材10の円相当直径に対する樹脂被覆層21の平均厚さの比率は、特に限定されないが、その下限値は、樹脂被覆層21に絶縁性と強度を確実に付与する点から、0.01が好ましく、0.02が特に好ましい。一方で、CNT線材10の円相当直径に対する樹脂被覆層21の平均厚さの比率の上限値は、樹脂被覆層21の湿気透過性(水蒸気透過性)が確実に向上することで、CNT線材10が確実に湿気を吸着でき、CNT被覆線材1への湿気の結露を確実に防止できる点から、0.10が好ましく、0.08がより好ましく、0.06が特に好ましい。
【0042】
次に、本発明の実施形態に係るCNT被覆線材1の製造方法例について説明する。CNT被覆線材1は、まず、CNT11aを製造し、得られた複数のCNT11a、11a、11a・・・からCNT集合体11を製造し、CNT集合体11からCNT素線12を製造する。次に、複数本のCNT素線12、12、12・・・を撚り合わせてCNT線材10を製造する。次に、CNT線材10の外周面に樹脂被覆層21を被覆することで、CNT被覆線材1を製造することができる。
【0043】
CNT11aは、例えば、浮遊触媒法(特許第5819888号)、基板法(特許第5590603号)などの方法で作製することができる。CNT素線12は、例えば、乾式紡糸(特許第5819888号、特許第5990202号、特許第5350635号)、湿式紡糸(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)、液晶紡糸(特表2014-530964号)等で作製することができる。
【0044】
上記の通り、必要に応じて、CNT線材10を撚り線にしてもよい。複数本のCNT素線12、12、12・・・を束ね、束ねたCNT素線12の一端を固定した状態で、他端を所定の回数ひねることで、CNT線材10を撚り線とすることができる。撚り数は、ひねった回数(T)をCNT線材10の長さ(m)で割った値(単位:T/m)で表すことができる。
【0045】
上記のようにして得られたCNT線材10の外周面に樹脂被覆層21を被覆する方法は、アルミニウムや銅等の芯線に絶縁被覆層を被覆する方法を使用できる。例えば、樹脂被覆層21の原料である樹脂を溶融させ、CNT線材10の周りに押し出してCNT線材10を被覆することで、CNT線材10の外周面に樹脂被覆層21を形成する方法を挙げることができる。
【0046】
重量平均重合度が小さい樹脂をCNT線材10の外周面に被覆する場合、被覆の厚さにムラがあると被覆が破損しやすくなるため、被覆の際の線速などを調整して、被覆厚さの均一性を高めることが望ましい。
【0047】
次に、本発明のCNT被覆線材1の他の実施形態例について説明する。
【0048】
上記した本発明の実施形態に係るCNT被覆線材1では、CNT線材10の径方向の断面形状は略円形となっていたが、これに代えて、CNT線材は、扁平形状、シート形状でもよく、例えば、長手方向に対して直交方向の幅が0.1mm以上5.0mm以下、平均厚さ10μm以上200μm、長手方向に対して直交方向の幅と平均厚さの比が3:1~100:1のシート状のリボン形状でもよい。
【0049】
上記した本発明の実施形態に係るCNT被覆線材1では、CNT線材10の外周面に樹脂被覆層21が被覆されていたが、これに代えてCNT線材と銅線等の金属線との撚り線が樹脂被覆層で被覆されていてもよい。また、上記した本発明の実施形態に係るCNT被覆線材1では、CNT線材10は、複数本のCNT素線12、12、12・・・からなる撚り線であったが、これに代えて、CNT素線と銅線等の金属線との撚り線でもよい。CNT素線と金属線との撚り線にしても、水蒸気は優先的にCNT素線に吸湿されるため、金属線の腐食やショートを防止する効果を奏する。
【0050】
また、CNT線材10は、その表面上に、被覆率80%以下のめっき被膜を有していてもよい。なお、被覆率とは、CNT線材10の表面全体の面積100%に対するめっき被膜により被覆されているCNT線材10の表面の面積割合を意味する。
【0051】
上記した本発明の実施形態に係るCNT被覆線材1では、CNT素線12はCNT集合体11の単数から、または複数のCNT集合体11、11、11・・・が束ねられて形成されていたが、これに代えて、CNT集合体とアルミニウム等の金属との複合体でもよい。CNT集合体と金属との複合体は、例えば、金属微粒子にCNT集合体を混合した混合物を、溶融させて線状に形成することで得ることができる。CNT集合体と金属との複合体であるCNT素線は、金属の母材中にCNTが点在した態様となっている。
【実施例0052】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1~6、比較例1~4について
CNT線材の製造方法について
先ず、浮遊触媒法で作製したCNTを直接紡糸する乾式紡糸方法(特許第5819888号)または湿式紡糸する方法(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)で、所定の円相当直径と素線密度を有するCNT素線を得た。次に、複数本のCNT素線を所定の撚り数にて撚り合わせて、実施例1~5と比較例1~4のCNT線材(撚り線)を得た。また、実施例6のCNT線材は、リボン形状のCNT線材であり、長方形の形状の口金を用いて湿式紡糸する方法で製造した。実施例6のCNT線材は、長手方向に対して直交方向の幅が3mm、平均厚さ100μm~200μmとした。CNT素線の円相当直径、CNT素線の密度、CNT線材の撚り数を下記表1に示す。
【0054】
CNT線材の外周面に樹脂被覆層(絶縁被覆層)を被覆する方法について
重量平均重合度900のポリプロピレン樹脂を用いて、通常の電線製造用押出成形機にて、上記のようにして得られたCNT線材の周囲にポリプロピレン樹脂を押出被覆することにより、下記表1に示すCNT線材の円相当直径に対する樹脂被覆層の平均厚さの比率を有する樹脂被覆層を形成し、CNT被覆線材を作製した。なお、実施例6のリボン線における「樹脂被覆層の平均厚さ/CNT線材の円相当直径」は、「CNT線材の円相当直径」を「リボン線の平均厚さ」に読み替えるものとする。
【0055】
水蒸気吸着度(%)
上記のようにして得られたCNT被覆線材について、100℃の乾燥空気下で100時間放置した後に質量(D1)を測定し、質量(D1)を測定後、湿度93%、温度40℃の環境下で100時間放置した後の質量(W)を測定した。質量(D1)に対する質量(W)の比率((W/D1)×100)を算出することで水蒸気吸着度(%)を求めた。
【0056】
乾燥度(%)
上記のようにして得られたCNT被覆線材について、100℃の乾燥空気下で100時間放置した後に質量(D1)を測定し、質量(D1)を測定後、湿度93%、温度40℃の環境下で100時間放置し、その後、さらに100℃の乾燥空気下で1.0時間放置した後の質量(D2)を測定した。質量(D1)に対する質量(D2)の比率((D2/D1)×100)を算出することで乾燥度を求めた。
【0057】
水蒸気吸着度と乾燥度を下記表1に示す。
【0058】
【0059】
上記表1に示すように、実施例1~6のCNT被覆線材では、水蒸気吸着度が130%以上160%以下であることから、吸湿性に優れていた。また、実施例1~6のCNT被覆線材では、乾燥度が95%以上105%以下であることから、CNT被覆線材に吸着された水蒸気は、乾燥雰囲気では、CNT被覆線材から放出されやすい特性を有していた。従って、実施例1~6のCNT被覆線材では、高湿度環境で使用されて湿気がCNT被覆線材に侵入しても、CNT被覆線材における湿気の結露が防止され、CNT被覆線材のショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止できることが判明した。
【0060】
なお、実施例1~6のCNT被覆線材では、CNT素線の円相当直径が30μm~60μm、CNT素線の密度が0.40g/cm3~0.60g/cm3、CNT線材の撚り数が50T/m~200T/m、CNT線材の円相当直径に対する樹脂被覆層の平均厚さの比率が0.03~0.05であった。特に、実施例1、2から、CNT素線の密度が0.40g/cm3である実施例1は0.60g/cm3である実施例2と比較して、より優れた水蒸気吸着度と乾燥度が得られた。また、実施例1、3から、CNT線材の円相当直径に対する樹脂被覆層の平均厚さの比率が0.03である実施例1は0.05である実施例3と比較して、より優れた水蒸気吸着度と乾燥度が得られた。
【0061】
一方で、比較例1~4のCNT被覆線材では、水蒸気吸着度が126%以下であり、優れた吸湿性が得られず、また、乾燥度が107%以上であり、CNT被覆線材に吸着された水蒸気は、乾燥雰囲気でもCNT被覆線材から放出されにくい特性となっていた。従って、比較例1~4のCNT被覆線材では、高湿度環境で使用されて湿気がCNT被覆線材に侵入してしまうと、結露が発生し、CNT被覆線材及びCNT被覆線材に接続された金属部材のショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じる可能性があることが判明した。
【0062】
なお、比較例1では、CNT素線の密度が1.1g/cm3、比較例2では、CNT線材の円相当直径に対する樹脂被覆層の平均厚さの比率が0.2、比較例3では、CNT素線の円相当直径が100μm、比較例4では、CNT線材の撚り数が800T/mであった。
本発明のカーボンナノチューブ被覆線材は、高湿度環境で使用されても、ショートや腐食等、水分に起因した不具合が生じることを防止することができるので、特に、配線と端子の接続部、インホイールモータ等の車両に搭載される機器の配線等、結露が生じやすい部分、また、エアコン等の家電、水を使用する医療機器、水中ケーブル等の水分に暴露されやすい部位の配線として利用価値が高い。