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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136467
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230922BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20230922BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20230922BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20230922BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01L21/78 P
H01L21/78 Q
B23K26/364
B23K26/53
B24B7/04 A
B24B27/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042151
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【テーマコード(参考)】
3C043
3C158
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA09
3C043BA12
3C043CC04
3C043DD06
3C158AA03
3C158AA12
3C158AA13
3C158AB03
3C158AC02
3C158BA02
3C158BA07
3C158BC01
3C158BC02
3C158CB01
4E168AD02
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA07
4E168CB07
4E168CB23
4E168DA02
4E168DA04
4E168DA43
4E168HA01
4E168JA12
5F063AA15
5F063CB02
5F063CB03
5F063CB05
5F063CB06
5F063CB07
5F063CB14
5F063CB23
5F063CB29
5F063DF12
5F063DF20
5F063DG04
5F063FF38
(57)【要約】
【課題】デバイスチップの側面に付着した加工屑に起因する問題を解決することができるウエーハの加工方法を提供する。
【解決手段】ウエーハの加工方法は、分割予定ラインに分割の起点を形成する分割起点形成工程と、ウエーハ2の表面2aを保護する保護部材を配設する保護部材配設工程と、ウエーハ2の裏面2bを研削して所望の厚みに仕上げるとともに分割予定ラインに分割溝48を形成してウエーハ2をデバイスチップ50に分割する裏面研削工程と、ウエーハ2の裏面2bに伸縮可能なシート54を配設するとともにウエーハ2の表面2aから保護部材を除去するシート配設工程と、流動性を有する粘着液56をウエーハ2の表面2aに被覆する粘着液被覆工程と、粘着液56を分割溝48に浸入させるとともに分割溝48から粘着液56を排出するようにシート54を伸縮させるシート伸縮工程と、ウエーハ2の表面2aから粘着液56を除去して分割溝48の側面を洗浄する洗浄工程とを含む。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、
分割予定ラインに分割の起点を形成する分割起点形成工程と、
該分割起点形成工程の前または後にウエーハの表面を保護する保護部材を配設する保護部材配設工程と、
保護部材側をチャックテーブルに保持しウエーハの裏面を研削して所望の厚みに仕上げるとともに分割予定ラインに分割溝を形成してウエーハを個々のデバイスチップに分割する裏面研削工程と、
ウエーハの裏面に伸縮可能なシートを配設するとともにウエーハの表面から保護部材を除去するシート配設工程と、
流動性を有する粘着液をウエーハの表面に被覆する粘着液被覆工程と、
分割溝の幅を拡張し粘着液を分割溝に浸入させるとともに分割溝の幅を縮小させて分割溝から粘着液を排出するように、該シート配設工程で配設したシートを伸縮させるシート伸縮工程と、
ウエーハの表面から粘着液を除去して少なくとも分割溝の側面を洗浄する洗浄工程と、を含むウエーハの加工方法。
【請求項2】
該分割起点形成工程において、
ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を分割予定ラインの内部に位置づけてウエーハにレーザー光線を照射して分割の起点となる改質層を形成する請求項1記載のウエーハの加工方法。
【請求項3】
該分割起点形成工程において、
デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝を分割予定ラインに形成して分割の起点とする請求項1記載のウエーハの加工方法。
【請求項4】
該保護部材配設工程は、該分割起点形成工程の後に実施する請求項3記載のウエーハの加工方法。
【請求項5】
該粘着液被覆工程において用いる粘着液は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、レゾール型フェノール樹脂、メチロール化ユリア樹脂またはメチロール化メラミン樹脂のいずれかを含み、
該洗浄工程において、洗浄水を供給して粘着液を除去する請求項1記載のウエーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、裏面が研削されて所望の厚みに形成された後、ダイシング装置、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、分割された各デバイスチップは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を分割予定ラインの内部に位置づけてレーザー光線をウエーハに照射し、分割の起点となる改質層を形成し、その後、ウエーハの裏面を研削して所望の厚みに仕上げるとともにウエーハを個々のデバイスチップに分割する技術を本出願人が提案した(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載されている技術においては、研削前のウエーハ(すなわち、比較的厚みのあるウエーハ)の内部にレーザー光線の集光点を位置づけることから、分割予定ラインの内部に適正に改質層を形成できるというメリットがある。なお、ウエーハの厚みが薄すぎると、分割予定ラインの内部にレーザー光線の集光点を位置づけることが困難になり、分割予定ラインの内部に改質層が形成されない領域ができてしまうことがある。
【0005】
また、特許文献1に記載の技術では、ウエーハを所望の厚みに形成できることに加え、研削中に改質層から表面に至るクラックが伸長し、劈開によってウエーハを個々のデバイスチップに分割するので、ウエーハを薄く仕上げてもデバイスチップの抗折強度を高めることができるというメリットもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-78569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、研削の際に発生する加工屑が、分割予定ラインに形成された分割溝に入り込み、デバイスチップの側面に付着するときがある。このようなときには、後工程で実施されるワイヤーボンディング、ダイボンディング、デバイスチップの積層などにおいて、デバイスチップの側面から落下、飛散した加工屑がボンディングを妨げるとともに、デバイスチップの表面に付着して、積層されたデバイスチップを損傷させるという問題がある。
【0008】
このような問題は、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝を分割の起点として分割予定ラインに形成し、デバイスチップの仕上がり厚みに達するまでウエーハの裏面を研削してウエーハを個々のデバイスチップに分割する先ダイシングと称される技術(たとえば、特開平11-40520号公報参照)においても起こり得る。
【0009】
本発明の課題は、デバイスチップの側面に付着した加工屑に起因する問題を解決することができるウエーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記課題を解決する以下のウエーハの加工方法が提供される。すなわち、
「複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するウエーハの加工方法であって、
分割予定ラインに分割の起点を形成する分割起点形成工程と、
該分割起点形成工程の前または後にウエーハの表面を保護する保護部材を配設する保護部材配設工程と、
保護部材側をチャックテーブルに保持しウエーハの裏面を研削して所望の厚みに仕上げるとともに分割予定ラインに分割溝を形成してウエーハを個々のデバイスチップに分割する裏面研削工程と、
ウエーハの裏面に伸縮可能なシートを配設するとともにウエーハの表面から保護部材を除去するシート配設工程と、
流動性を有する粘着液をウエーハの表面に被覆する粘着液被覆工程と、
分割溝の幅を拡張し粘着液を分割溝に浸入させるとともに分割溝の幅を縮小させて分割溝から粘着液を排出するように、該シート配設工程で配設したシートを伸縮させるシート伸縮工程と、
ウエーハの表面から粘着液を除去して少なくとも分割溝の側面を洗浄する洗浄工程と、を含むウエーハの加工方法」が提供される。
【0011】
好ましくは、該分割起点形成工程において、ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を分割予定ラインの内部に位置づけてウエーハにレーザー光線を照射して分割の起点となる改質層を形成する。
【0012】
該分割起点形成工程において、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝を分割予定ラインに形成して分割の起点とするのが望ましい。
【0013】
該保護部材配設工程は、該分割起点形成工程の後に実施してもよい。
【0014】
該粘着液被覆工程において用いる粘着液は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、レゾール型フェノール樹脂、メチロール化ユリア樹脂またはメチロール化メラミン樹脂のいずれかを含み、該洗浄工程において、洗浄水を供給して粘着液を除去するのが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウエーハの加工方法は、
分割予定ラインに分割の起点を形成する分割起点形成工程と、
該分割起点形成工程の前または後にウエーハの表面を保護する保護部材を配設する保護部材配設工程と、
保護部材側をチャックテーブルに保持しウエーハの裏面を研削して所望の厚みに仕上げるとともに分割予定ラインに分割溝を形成してウエーハを個々のデバイスチップに分割する裏面研削工程と、
ウエーハの裏面に伸縮可能なシートを配設するとともにウエーハの表面から保護部材を除去するシート配設工程と、
流動性を有する粘着液をウエーハの表面に被覆する粘着液被覆工程と、
分割溝の幅を拡張し粘着液を分割溝に浸入させるとともに分割溝の幅を縮小させて分割溝から粘着液を排出するように、該シート配設工程で配設したシートを伸縮させるシート伸縮工程と、
ウエーハの表面から粘着液を除去して少なくとも分割溝の側面を洗浄する洗浄工程と、を含むので、
流動性を有する粘着液によってデバイスチップの側面に付着した加工屑を捕らえた上で、分割溝の側面を洗浄することにより、粘着液とともに加工屑をデバイスチップの側面から除去することができる。したがって、デバイスチップの側面に付着した加工屑に起因する問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】保護部材配設工程を示す模式図。
図2】(a)分割起点形成工程において改質層を形成する場合の模式図、(b)分割予定ラインに沿って改質層が形成されたウエーハの断面図、(c)分割予定ラインに沿って改質層が形成されたウエーハの斜視図。
図3】分割起点形成工程において、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝をアブレーション加工によって形成する場合の模式図。
図4】分割起点形成工程において、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝を切削加工によって形成する場合の模式図。
図5】(a)デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝が分割予定ラインに沿って形成されたウエーハの表面に、保護部材を配設する状態を示す模式図、(b)(a)に示すウエーハの表面に保護部材が配設された状態を示す断面図。
図6】(a)裏面研削工程を示す模式図、(b)分割溝が形成されたウエーハの斜視図。
図7】(a)シート配設工程において、ウエーハの裏面に伸縮可能なシートを配設する状態を示す模式図、(b)シート配設工程において、ウエーハの表面から保護部材を除去する状態を示す模式図。
図8】(a)粘着液被覆工程を示す模式図、(b)粘着液が被覆されたウエーハの断面図。
図9】シート伸縮工程を示す模式図。
図10】洗浄工程を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のウエーハの加工方法の好適実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(ウエーハ2)
図1には、本発明のウエーハの加工方法によって加工が施される円板状のウエーハ2が示されている。ウエーハ2は、たとえば、シリコン等の適宜の半導体材料から形成され得る。ウエーハ2の表面2aは、格子状の分割予定ライン4によって複数の矩形領域に区画されており、複数の矩形領域のそれぞれには、IC、LSI等のデバイス6が形成されている。
【0019】
(保護部材配設工程)
図示の実施形態では、まず、図1に示すとおり、ウエーハ2の表面2aを保護する保護部材8を配設する保護部材配設工程を実施する。保護部材8としては、ウエーハ2の直径とほぼ同一の直径を有する円形状の粘着テープを用いることができる。そして、ウエーハ2の表面2aに保護部材8を貼り付けて配設する。
【0020】
(分割起点形成工程)
図示の実施形態では、保護部材配設工程を実施した後、分割予定ライン4に分割の起点を形成する分割起点形成工程を実施する。
【0021】
分割起点形成工程は、たとえば図2(a)に示すレーザー加工装置10を用いて実施することができる。レーザー加工装置10は、ウエーハ2を吸引保持するチャックテーブル12と、ウエーハ2に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを発振する発振器(図示していない。)と、発振器が発振したパルスレーザー光線LBを集光し、チャックテーブル12に吸引保持されたウエーハ2に照射する集光器14と、チャックテーブル12に吸引保持されたウエーハ2を撮像する撮像手段(図示していない。)とを備える。
【0022】
チャックテーブル12は、上下方向に延びる軸線を中心として回転自在に構成されているとともに、図2(a)に矢印Xで示すX軸方向と、X軸方向に直交するY軸方向(図2(a)に矢印Yで示す方向)とに移動自在に構成されている。なお、X軸方向およびY軸方向が規定するXY平面は実質上水平である。
【0023】
撮像手段は、可視光線によりウエーハ2を撮像する通常の撮像素子(CCD)と、ウエーハ2を透過する赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段により照射された赤外線を捕らえる光学系と、光学系が捕らえた赤外線に対応する電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)とを含む。
【0024】
図2(a)を参照して説明を続けると、分割起点形成工程では、まず、ウエーハ2の裏面2bを上に向けて、チャックテーブル12の上面でウエーハ2を吸引保持する。次いで、撮像手段から赤外線を照射し、ウエーハ2の裏面2bから透過した赤外線によってウエーハ2の表面2a側を撮像し、撮像手段で撮像したウエーハ2の画像に基づいて、分割予定ライン4をX軸方向に整合させる。また、X軸方向に整合させた分割予定ライン4にレーザー光線LBの照準を合わせるとともに、レーザー光線LBの集光点を分割予定ライン4の内部に位置づける。
【0025】
次いで、チャックテーブル12をX軸方向に加工送りしながら、ウエーハ2に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBを集光器14からウエーハ2に照射して、図2(a)および図2(b)に示すとおり、分割予定ライン4に沿ってウエーハ2の内部に、分割の起点となる改質層16を形成する。なお、デバイスチップの抗折強度の低下防止の観点から、後述する裏面研削工程においてウエーハ2の裏面2bを研削する際に除去可能な深さに改質層16を形成するのが好ましい。
【0026】
次いで、分割予定ライン4のY軸方向の間隔の分だけ、集光器14に対してチャックテーブル12をY軸方向に割り出し送りする。そして、レーザー光線LBの照射と割り出し送りとを交互に繰り返すことにより、X軸方向に整合させた分割予定ライン4のすべてに沿ってウエーハ2の内部に改質層16を形成する。
【0027】
そして、チャックテーブル12を90度回転させた上で、レーザー光線LBの照射と割り出し送りとを交互に繰り返すことにより、先に改質層16を形成した分割予定ライン4と直交する分割予定ライン4のすべてに沿ってウエーハ2の内部に改質層16を形成する。このようにして分割起点形成工程を実施し、図2(c)に示すように、格子状の分割予定ライン4に沿ってウエーハ2の内部に格子状の改質層16を形成する。
【0028】
このような分割起点形成工程は、たとえば、以下の加工条件で実施することができる。
パルスレーザー光線の波長 :1342nm
平均出力 :1.0W
繰り返し周波数 :90kHz
送り速度 :700mm/s
【0029】
なお、上述の説明においては、ウエーハ2の裏面2b側からレーザー光線LBを照射して改質層16を形成しているが、ウエーハ2の表面2a側からレーザー光線LBを照射して改質層16を形成してもよく、この場合には、分割起点形成工程の後に保護部材配設工程を実施する。
【0030】
図示の実施形態では、分割の起点として改質層16を形成する例を説明したが、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの溝を、分割予定ライン4に沿ってウエーハ2の表面2a側に形成して分割の起点とすることもできる。このような溝は、レーザー光線の照射によるアブレーション加工、またはダイシング装置を用いた切削加工によって形成することができる。
【0031】
(アブレーション加工)
図3を参照して説明すると、アブレーション加工の場合には、ウエーハ2の表面2aに保護部材8を配設する前に、表面2aを上に向けてチャックテーブル12でウエーハ2を吸引保持する。次いで、分割予定ライン4をX軸方向に整合させ、ウエーハ2に対して吸収性を有する波長のレーザー光線LB’の照準を分割予定ライン4に合わせる。また、レーザー光線LB’の集光点を表面2aに位置づける。
【0032】
そして、チャックテーブル12をX軸方向に加工送りしながら、レーザー光線LB’をウエーハ2に照射することにより、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さのレーザー加工溝18を、分割予定ライン4に沿って表面2aに形成することができる。なお、改質層16を形成する場合と同様に、レーザー光線LB’の照射と割り出し送りとを交互に繰り返し、格子状の分割予定ライン4に沿って格子状のレーザー加工溝18を表面2aに形成する。
【0033】
分割の起点をレーザー加工溝18とする場合は、たとえば以下の加工条件で分割起点形成工程を実施することができる。
レーザー光線の波長 :355nm
平均出力 :2.0W
繰り返し周波数 :80kHz
送り速度 :300mm/s
【0034】
(切削加工)
切削加工により溝を形成する場合には、たとえば図4に示すダイシング装置20を用いることができる。ダイシング装置20は、ウエーハ2を吸引保持するチャックテーブル22と、チャックテーブル22に吸引保持されたウエーハ2を切削する切削手段24とを備える。切削手段24は、Y軸方向を軸心として回転自在に構成されたスピンドル26と、スピンドル26の先端に固定された環状の切削ブレード28とを含む。
【0035】
切削加工の場合にも、ウエーハ2の表面2aに保護部材8を配設する前に、表面2aを上に向けてチャックテーブル22の上面でウエーハ2を吸引保持する。次いで、X軸方向に整合させた分割予定ライン4に、高速回転させた切削ブレード28の刃先を、表面2aからデバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さまで切り込ませるとともに、切削ブレード28の刃先を切り込ませる部分に切削水を供給しながら、チャックテーブル22をX軸方向に加工送りする。
【0036】
これによって、デバイスチップの仕上がり厚みに相当する深さの切削溝30を分割予定ライン4に沿って形成することができる。切削加工を行う場合も、切削溝30の形成と割り出し送りとを交互に繰り返し、格子状の分割予定ライン4に沿って格子状の切削溝30を表面2aに形成する。
【0037】
分割の起点を切削溝30とする場合には、たとえば以下の加工条件で分割起点形成工程を実施することができる。
切削ブレードの直径 :φ50mm
切削ブレードの回転速度 :30,000rpm
切削水の供給量 :2リットル/分
送り速度 :50mm/s
【0038】
分割の起点としての溝18、30は、ウエーハ2の表面2a側に形成することから、分割の起点として溝18、30を形成する場合は、図5(a)および図5(b)に示すとおり、分割起点形成工程を実施した後に保護部材配設工程を実施する。
【0039】
(裏面研削工程)
保護部材配設工程および分割起点形成工程を実施したら、保護部材8側をチャックテーブルに保持しウエーハ2の裏面2bを研削して所望の厚みに仕上げるとともに分割予定ライン4に分割溝を形成してウエーハ2を個々のデバイスチップに分割する裏面研削工程を実施する。
【0040】
裏面研削工程は、たとえば、図6(a)に示す研削装置32を用いて実施することができる。研削装置32は、ウエーハ2を吸引保持するチャックテーブル34と、チャックテーブル34に吸引保持されたウエーハ2を研削する研削手段36とを備える。
【0041】
研削手段36は、上下方向に延びるスピンドル38と、スピンドル38の下端に固定された円板状のホイールマウント40とを含む。ホイールマウント40の下面にはボルト42によって環状の研削ホイール44が締結されている。研削ホイール44の下面の外周縁部には、周方向に間隔をおいて環状に配置された複数の研削砥石46が固定されている。
【0042】
裏面研削工程では、まず、ウエーハ2の裏面2bを上に向けて、チャックテーブル34の上面でウエーハ2を吸引保持する。次いで、図6(a)に矢印R1で示す方向に所定の回転速度(たとえば6000rpm)でスピンドル38を回転させる。また、矢印R2で示す方向に所定の回転速度(たとえば300rpm)でチャックテーブル34を回転させる。
【0043】
次いで、スピンドル38を下降させてウエーハ2の裏面2bに研削砥石46を接触させるとともに、裏面2bに研削砥石46を接触させる部分に研削水を供給する。その後、所定の研削送り速度(たとえば1.0μm/s)でスピンドル38を下降させることにより、ウエーハ2の裏面2bを研削して、デバイスチップの仕上がり厚みまでウエーハ2を薄化する。
【0044】
分割の起点として改質層16を形成した場合には、ウエーハ2を研削している時に作用する押し付け力によって、改質層16からクラックがウエーハ2の厚み方向に伸長し、図6(b)に示すように、ウエーハ2が個々のデバイスチップ50に分割される。また、改質層16から伸長するクラックによって分割溝48(表面2aから裏面2bに至る溝)が形成されるため、デバイスチップ50の側面は劈開面となる。
【0045】
他方、分割の起点としてレーザー加工溝18または切削溝30を形成した場合については、これらの溝18、30の深さが、デバイスチップ50の仕上がり厚みに相当する深さであることから、上記厚みに達するまでウエーハ2の裏面2bを研削することにより、溝18、30がウエーハ2の裏面2bに表れて分割溝48を構成する。これによって、ウエーハ2が個々のデバイスチップ50に分割される。
【0046】
(シート配設工程)
裏面研削工程を実施した後、ウエーハ2の裏面2bに伸縮可能なシートを配設するとともにウエーハ2の表面2aから保護部材8を除去するシート配設工程を実施する。
【0047】
シート配設工程においては、図7(a)に示すように、周縁が環状のフレーム52に固定された円形のシート54にウエーハ2を配設する。シート54としては、伸縮可能な粘着テープ(たとえば、塩化ビニル製の粘着テープ)を用いることができる。この場合にはウエーハ2の裏面2bをシート54の粘着面に貼り付ければよい。また、裏面2bにシート54を配設したら、図7(b)に示すとおり、表面2aから保護部材8を除去する。
【0048】
(粘着液被覆工程)
シート配設工程を実施した後、流動性を有する粘着液をウエーハ2の表面2aに被覆する粘着液被覆工程を実施する。
【0049】
図8(a)を参照して説明すると、粘着液被覆工程では、ウエーハ2の表面2aを上に向け、流動性を有する粘着液56を表面2aの中心部に滴下する。後述する洗浄工程において、ウエーハ2から粘着液56を容易に除去できるようにするため、粘着液56として水溶性樹脂を用いるのが好ましい。粘着液56として利用可能な水溶性樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、レゾール型フェノール樹脂、メチロール化ユリア樹脂またはメチロール化メラミン樹脂が挙げられる。
【0050】
ウエーハ2の表面2aの中心部に粘着液56を滴下したら、矢印R3で示す方向にウエーハ2を回転させ、遠心力により粘着液56を流動させる。これによって、図8(b)に示すように、粘着液56をほぼ均一な厚みで表面2aに被覆することができる。
【0051】
(シート伸縮工程)
粘着液被覆工程を実施した後、分割溝48の幅を拡張し粘着液56を分割溝48に浸入させるとともに、分割溝48の幅を縮小させて分割溝48から粘着液56を排出するように、シート配設工程で配設したシート54を伸縮させるシート伸縮工程を実施する。
【0052】
シート伸縮工程は、たとえば図9に示す伸縮装置58を用いて実施することができる。伸縮装置58は、円筒状のドラム60と、ドラム60の外周に配置された環状の保持部材62と、保持部材62を昇降させる複数のエアシリンダ64とを含む。保持部材62の外周縁には、周方向に間隔をおいて複数のクランプ66が配置されている。
【0053】
シート伸縮工程においては、まず、分割溝48が形成されたウエーハ2を上に向けて、保持部材62の上面にフレーム52を載せる。次いで、複数のクランプ66でフレーム52を固定する。次いで、複数のエアシリンダ64により保持部材62を下降させ、シート54に放射状張力を作用させる。そうすると、図9に二点鎖線で示すとおり、分割溝48の幅が拡張するため、粘着液56が分割溝48に浸入する。
【0054】
次いで、複数のエアシリンダ64により保持部材62を上昇させ、シート54に作用させた放射状張力を解除し、分割溝48の幅を縮小させ、分割溝48から粘着液56を排出する。このようにして、分割溝48の幅の拡張・縮小を複数回行い、分割溝48への粘着液56の浸入と、分割溝48からの粘着液56の排出とを繰り返すことにより、デバイスチップ50の側面に付着した加工屑を粘着液56によって捕らえることができる。
【0055】
(洗浄工程)
シート伸縮工程を実施した後、ウエーハ2の表面2aから粘着液56を除去して、少なくとも分割溝48の側面を洗浄する洗浄工程を実施する。
【0056】
洗浄工程においては、図10に示すとおり、伸縮装置58によって分割溝48の幅を拡張した状態で、ウエーハ2(デバイスチップ50)に向かって上方から洗浄水68を供給する。これによって、デバイスチップ50の表面および側面から、粘着液56とともに加工屑を除去することができる。
【0057】
以上のとおりであり、図示の実施形態のウエーハの加工方法においては、流動性を有する粘着液56によってデバイスチップ50の側面に付着した加工屑を捕らえた上で、分割溝48の側面を洗浄することにより、粘着液56とともに加工屑をデバイスチップ50の側面から除去することができる。
【0058】
したがって、後工程で実施されるワイヤーボンディング、ダイボンディング、デバイスチップ50の積層などにおいて、デバイスチップ50の側面から落下、飛散した加工屑がボンディングを妨げるとともに、デバイスチップ50の表面に付着して、積層されたデバイスチップ50を損傷させるという問題を解消することができる。
【符号の説明】
【0059】
2:ウエーハ
2a:ウエーハの表面
2b:ウエーハの裏面
4:分割予定ライン
6:デバイス
8:保護部材
16:改質層(分割の起点)
18:レーザー加工溝(分割の起点)
30:切削溝(分割の起点)
48:分割溝
50:デバイスチップ
54:シート
56:粘着液
68:洗浄水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10