(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013650
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】情報処理方法、情報処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20230119BHJP
A61M 21/00 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
G06F3/01 510
G06F3/01 560
A61M21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117987
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 拓志
(72)【発明者】
【氏名】青山 一真
(72)【発明者】
【氏名】松本 啓吾
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA11
5E555AA15
5E555BA02
5E555BB02
5E555BB38
5E555BC30
5E555BE01
5E555BE17
5E555DA08
5E555DA24
5E555DB53
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】広大な仮想空間での移動を、より狭小な実空間で可能にする空間知覚操作方法を実現する。
【解決手段】メモリと、1又は複数のプロセッサとを含む情報処理装置が実行する情報処理方法であって、1又は複数のプロセッサが、実空間内を歩行するユーザに、表示装置を介して、実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示し、実空間内を歩行するユーザに、ユーザが装着した電極を介して、前庭電気刺激を与える、処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリと、1又は複数のプロセッサとを含む情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
前記1又は複数のプロセッサが、
実空間内を歩行するユーザに、表示装置を介して、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示し、
前記実空間内を歩行するユーザに、前記ユーザが装着した電極を介して、前庭電気刺激を与える、処理を実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記前庭電気刺激は、ノイズ電流を含む、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記前庭電気刺激は、4mA以下の電流を含む、請求項1または2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記前庭電気刺激は、ホワイトノイズ電流を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記前庭電気刺激は、前記実空間の歩行経路の曲率と、前記仮想空間の歩行経路の曲率が異なる期間に与えられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
実空間内を歩行するユーザの空間知覚を操作する情報処理装置であって、
メモリと、1又は複数のプロセッサとを含むコンピュータと、
前記ユーザに、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示する表示装置と、
前記ユーザに装着され、前記ユーザに前庭電気刺激を与えるための前庭電気刺激電極と、
前記実空間内を歩行するユーザに、前記電極から前記前庭電気刺激を与える前庭電気刺激装置と、を備えた情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータに、
実空間内を歩行するユーザに、表示装置を介して、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示する機能と、
前記実空間内を歩行するユーザに、前記ユーザが装着した電極を介して、前庭電気刺激を与える機能と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、情報処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
広大な仮想空間での歩行を限られた広さの実空間で可能にするRedirected Walkingという空間知覚操作方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。Redirected Walkingでは、例えば視覚的操作が用いられている。
【0003】
視覚的操作を用いる手法では、実空間と仮想空間との対応関係をわずかにずらした映像を、ヘッドマウントディスプレイを通してユーザに提示することで、進行方向や歩行距離に関するユーザの知覚を操作している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松本啓吾、他4名、"視触覚間相互作用を用いた曲率操作型リダイレクテッドウォーキング"、[online]、日本バーチャルリアリティ学会論文誌23巻3号(2018年)、[2021年6月22日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/23/3/23_129/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
視覚的操作をRedirected Walkingに適用した場合でも、広大な仮想空間を自由に歩行するためには、20メートル四方程度の比較的大きな実空間が必要であった。
【0006】
本発明は、以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、広大な仮想空間での移動を、より狭小な実空間で可能にする空間知覚操作方法を実現することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る情報処理方法は、メモリと、1又は複数のプロセッサとを含む情報処理装置が実行する情報処理方法であって、前記1又は複数のプロセッサが、実空間内を歩行するユーザに、表示装置を介して、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示し、前記実空間内を歩行するユーザに、前記ユーザが装着した電極を介して、前庭電気刺激を与える、処理を実行するものである。
【0008】
本発明の一実施形態に係る情報処理装置は、実空間内を歩行するユーザの空間知覚を操作する情報処理装置であって、メモリと、1又は複数のプロセッサとを含むコンピュータと、前記ユーザに、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示する表示装置と、前記ユーザに装着され、前記ユーザに前庭電気刺激を与えるための前庭電気刺激電極と、前記実空間内を歩行するユーザに、前記電極から前記前庭電気刺激を与える前庭電気刺激装置と、を備えたものである。
【0009】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、実空間内を歩行するユーザに、表示装置を介して、前記実空間の歩行経路とは異なる仮想空間の歩行経路の画像を提示する機能と、前記実空間内を歩行するユーザに、前記ユーザが装着した電極を介して、前庭電気刺激を与える機能と、を実行させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、広大な仮想空間での移動を、より狭小な実空間で可能にする空間知覚操作方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る空間知覚操作装置10の概略構成を示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係る空間知覚操作装置10によるRedirected Walkingの概要を説明する図。
【
図3】本発明の実施形態に係る空間知覚操作装置10によるRedirected Walkingの概要を説明する図。
【
図4】本発明の実施形態に係る空間知覚操作装置10による、ユーザに前庭電気刺激を与える仕組みを説明する図。
【
図5】本発明の実施形態に係る空間知覚操作装置10による、前庭電気刺激を与えた際の効果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
実施の形態
図1は、本実施形態に係る空間知覚操作装置(情報処理装置)10の概略構成を示す図である。
図1に示すように、空間知覚操作装置10は、コンピュータ100、ヘッドマウントディスプレイ(表示装置)101、前庭電気刺激装置102、前庭電気刺激電極103を備えている。コンピュータ100は、プロセッサ1001、ROMやRAM等のメモリ1002、入力インタフェース1003、出力インタフェース1004、通信インタフェース1005を備えており、プロセッサ1001がメモリ1002に格納されたプログラムを実行することにより各種機能を実現する。ヘッドマウントディスプレイ101と前庭電気刺激装置102は、通信回線を介してコンピュータ100と接続されており、コンピュータ100は、ヘッドマウントディスプレイ101と前庭電気刺激装置102の動作を制御する。
【0014】
空間知覚操作装置10は、狭い実空間で、広い仮想空間を歩きまわることを可能にするRedirected Walkingのアルゴリズムを実現する装置である。
図2、3は、空間知覚操作装置10によるRedirected Walkingの概要を説明する図である。
図2に示すように、ユーザUはヘッドマウントディスプレイ101を装着して、狭い実空間RS内の曲がった道RW上を歩行する。
【0015】
ユーザUが、狭い実空間RSを歩行している間、ヘッドマウントディスプレイ101には、例えば
図3に示すような仮想現実の画像が表示されている。
図3に示すように、ヘッドマウントディスプレイ101には、広い仮想空間VS内に伸びた真っ直ぐな道VWが表示されている。ユーザUは、実際には実空間RS内を曲がりながら歩行していても、仮想現実の真っ直ぐな道VWが視覚情報として入ってくるため、自分はどこまでも伸びる道を直進していると錯覚する。このように、Redirected Walkingでは、狭い実空間内で、広い仮想空間を歩行する体験を実現することができる。
【0016】
一方、人間の空間知覚は、このような視覚によるものだけでなく、前庭感覚にも影響を受ける。前庭感覚は、一般に平衡感覚と呼ばれる頭部の加速度や角加速度を受容する感覚であり、内耳にある三半規管と卵形嚢、球形嚢の前庭器官により受容される。前庭感覚により、人間は自分がどちら向きに移動したかを判断することができる。Redirected Walkingにおいて、ユーザの実際の歩行の向き(曲線状の歩行)と視覚情報から知覚される向き(直進)が異なると、ユーザは前庭感覚の影響により現実と仮想現実との矛盾に気付き、Redirected Walkingの効果が低下する。なお、Redirected Walkingは、
図2、3に示したように、実空間と仮想空間との曲率が異なる場合の他、移動量が異なるもの(例えば、実空間では1mの移動に対し、仮想空間では2mの移動)、回転量が異なるもの(例えば、実空間では90度の回転に対し、仮想空間では180度の回転)なども含まれる。
【0017】
本実施形態による空間知覚操作装置10は、ユーザに一定の前庭電気刺激(GVS:Galvanic vestibular Stimulation)を与えて前庭感覚の信頼性を低下させ、相対的に視覚の信頼性を上げることで、Redirected Walkingの効果を向上させる。
【0018】
図4は、空間知覚操作装置10による、ユーザに前庭電気刺激を与える仕組みを説明する図である。
図4に示すように、ユーザの両耳の裏にある乳様突起に、一対の前庭電気刺激電極103を装着する。前庭電気刺激電極103は、例えば、皮膚に接触しやすいゲル電極とすることができる。また、乳様突起が確実に収まるように数センチ四方程度の面積を有することが望ましい。前庭電気刺激装置102は、前庭電気刺激電極103から流れる電流を制御する。
【0019】
本実施形態では、前庭電気刺激装置102は、前庭電気刺激電極103から0よりも大きく4mA以下程度のホワイトノイズ様の交流電流が流れるように制御する。
【0020】
図5(A)、(B)は、空間知覚操作装置10による、前庭電気刺激を与えた際の効果を説明する図である。グラフの横軸は、歩行中のユーザに与えられる曲げ操作の程度を表す値(曲率ゲイン)を表している。曲率ゲインは実空間における実際の歩行経路の半径をrとすると1/rで定義される値である。グラフの縦軸は、歩行したユーザに、仮想空間の経路が左右どちらに曲がっているかを回答させた場合の正答率を示している。
図5(A)は0.3mAのホワイトノイズ様交流電流の前庭電気刺激を与えた場合、
図5(B)は0.5mAのホワイトノイズ様交流電流の前庭電気刺激を与えた場合の結果を示している。
【0021】
図5(A)、(B)において、前庭電気刺激を与えない場合(グラフ中のcontrol)と比較すると、0.3mAの前庭電気刺激を与えた場合(
図5(A))では、曲率ゲインの弁別閾(標準刺激と弁別できる値)が16%増加した。また、0.5mAの前庭電気刺激を与えた場合(
図5(B))では、曲率ゲインの弁別閾が12%増加した。すなわち、いずれの場合も曲率操作に気付き難くなっているということである。
【0022】
図5(A)、(B)に示すように、前庭電気刺激を用いることで前庭感覚の信頼性が低下した。これにより、ユーザは、空間知覚操作装置10による曲げ操作に気付き難くなり、Redirected Walkingの効果が向上すると考えられる。具体的には、0.3~0.5mAの電流刺激によって得られた効果により、必要な実空間の広さを3分の2程度に抑えることができる。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、Redirected Walkingにおいて、歩行中のユーザに、ノイズ電流による前庭電気刺激を与え、前庭感覚の信頼性を下げるようにしたので、空間知覚における視覚の信頼性が相対的に上がり、Redirected Walkingの効果を向上させることができる。これにより、広大な仮想空間での移動を、より狭小な実空間で可能にするRedirected Walkingを実現することができる。例えば、自分の部屋の中で、任意の仮想空間を歩いて探索することが可能になる。
【0024】
前庭電気刺激は、少なくとも0.3~0.5mAのホワイトノイズ電流とすることにより、前庭感覚の信頼性を下げる効果が得られる。なお、前庭電気刺激はホワイトノイズ電流に限られない。例えば、交流波形や方形波、直流電流等を用いるようにしてもよい。
【0025】
また、前庭電気刺激を与えるタイミングは、実空間の歩行経路の曲率と、仮想空間の歩行経路の曲率が異なる期間とすることが望ましい。これにより、効率的に前庭感覚の信頼性を下げることができる。
【0026】
Redirected Walkingは、ユーザにとって自然な移動方法であり、使用するための練習も不要なこと、また、ヘッドマウントディスプレイのような表示装置があればよく、複雑な装置が必要ないことなどから、エンターテインメントや教育の分野など、様々な領域での活用が期待される。本発明によれば、Redirected Walkingにおける前庭感覚の寄与率を効果的に下げ、より限られた空間(自宅の部屋程度の空間)で、任意の広さの仮想空間を違和感なく移動することを可能にすることができる。
【0027】
また、前庭電気刺激は、軽量で小さな電極で付与することが可能である。また、今回用いた0.3mAの電流刺激は、適切な電極(直径15~18mm程度)を用いることにより皮膚電気知覚閾値未満の電流密度(頭皮の場合は、例えば0.8A/m2未満)とすることができる。このように、本実施形態はユーザにとって大きなストレスにならないため、実用化に向けての障害も少ないと考えられる。
【0028】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。
【符号の説明】
【0029】
10…空間知覚操作装置
100…コンピュータ
101…ヘッドマウントディスプレイ
102…前庭電気刺激装置
103…前庭電気刺激電極
1001…プロセッサ
1002…メモリ
1003…入力インタフェース
1004…出力インタフェース
1005…通信インタフェース