(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136535
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】多剤耐性細菌検出方法及びプライマーキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230922BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20230922BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230922BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20230922BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6844 C
C12Q1/689 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042264
(22)【出願日】2022-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、農林水産省、安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 正博
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】試料中の多剤耐性細菌を簡便かつ迅速に検出可能な多剤耐性細菌検出方法を提供すること。
【解決手段】試料中の多剤耐性細菌を検出する方法であり、下記(i)~(ii)の遺伝子:(i)特定のヌクレオチド配列を含む第1の遺伝子、(ii)別の特定のヌクレオチド配列を含む第2の遺伝子からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子を、例えば試料由来の核酸を鋳型として少なくとも1種のプライマーセットを用いて核酸増幅を行うことにより、検出する検出工程を含むことを特徴とする、多剤耐性細菌検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の多剤耐性細菌を検出する方法であり、下記(i)~(ii)の遺伝子:
(i)配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第1の遺伝子
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第2の遺伝子
からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子を検出する検出工程を含むことを特徴とする、多剤耐性細菌検出方法。
【請求項2】
前記検出工程が、前記試料由来の核酸を鋳型として、
第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI、及び
第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを用いて核酸増幅を行なう工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項3】
プライマーセットIが、配列番号4のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIと、配列番号5のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項2に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項4】
プライマーセットIが、配列番号8のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIと、配列番号9のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項5】
プライマーセットIIが、配列番号6のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIIと、配列番号7のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項2~4のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項6】
プライマーセットIIが、配列番号10のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIIと、配列番号11のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項2~5のうちのいずれか一項記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項7】
前記検出工程が、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型 Shigella boydii 9(OSB9)特異的領域、wzx遺伝子の大腸菌O群血清型116(O116)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型139(O139)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型147(O147)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型149(O149)特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる第2群から選択される少なくとも1種の領域及び/又は遺伝子もさらに検出する工程であることを特徴とする、請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項8】
前記検出工程が、前記試料由来の核酸を鋳型として、プライマーセットI及びプライマーセットIIからなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットと、第2群に含まれる領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットのうちの少なくとも1種とを用いて、マルチプレックスPCRを行なう工程を含むことを特徴とする、請求項7に記載の多剤耐性細菌検出方法。
【請求項9】
下記(i)-1~(ii)-1のプライマーセット:
(i)-1 配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI
(ii)-1 配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを含むことを特徴とする、プライマーキット。
【請求項10】
プライマーセットIが、配列番号4のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIと、配列番号5のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項9に記載のプライマーキット。
【請求項11】
プライマーセットIが、配列番号8のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIと、配列番号9のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項9又は10に記載のプライマーキット。
【請求項12】
プライマーセットIIが、配列番号6のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIIと、配列番号7のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項9~11のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
【請求項13】
プライマーセットIIが、配列番号10のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIIと、配列番号11のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIIと、の組み合わせであることを特徴とする、請求項9~12のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
【請求項14】
wzy遺伝子の大腸菌O群血清型 Shigella boydii 9(OSB9)特異的領域、wzx遺伝子の大腸菌O群血清型116(O116)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型139(O139)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型147(O147)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型149(O149)特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる第2群から選択されるいずれかの領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットのうちの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする、請求項9~13のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
【請求項15】
請求項1~8のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法に用いるためのプライマーキットであることを特徴とする、請求項9~14のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤耐性細菌検出方法及びプライマーキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物の疾患の多くは様々な細菌の感染によって惹き起こされることが知られており、例えば、ヒトや動物に感染すると下痢や敗血症等を発症させる病原性大腸菌は、豚や牛等の家畜に感染するとその死亡や発育不良をもたらすこともある。そのため、感染拡大の予測をしたり、ワクチン接種や投薬をするための情報として、細菌の分離年や分離地域等に加えて、その細菌の性状(血清型、遺伝子型、病原性関連遺伝子の保有状況、薬剤耐性等)を早期に把握することが求められている。さらに近年では、ワンヘルスアプローチの観点からも、ヒトとそれ以外の動物(好ましくは脊椎動物)との両方に感染する細菌による人獣共通感染症の監視体制の構築が求められている。
【0003】
例えば、又吉ら,日獣会誌,54,p.913-919(2001)(非特許文献1)には、腸管毒素原性大腸菌の農場特有の識別を目的として、薬剤耐性、βラクタマーゼ産生性、耐性遺伝子、接合性Rプラスミド及びプラスミドプロファイルによる解析を行ったことが記載されている。しかしながら、このような腸管毒素原性大腸菌を含む病原性大腸菌の分布や性状は十分に解明されておらず、上記情報として重視すべき指標は未だ絞り込まれていない。
【0004】
また、大腸菌の性状と関連が高い指標としては、血清型や遺伝子型が優先して用いられており、これらの識別方法についてはこれまでに多くの検討がなされている。例えば、特開2016-49109号公報(特許文献1)には、大腸菌の染色体上の特定の遺伝子を検出してその遺伝子型別分類を行なう方法が記載されている。しかしながら、多数の種類が存在する大腸菌に対して、複数の血清型や遺伝子型を網羅して簡便かつ迅速に識別する技術は未だ十分に確立されておらず、多くのコストや手間を要するといった問題があった。
【0005】
さらに、このような大腸菌を含む細菌の性状に関しては、抗菌剤等の薬剤に対する耐性、さらには複数の薬剤に対する多剤耐性が近年では特に大きな問題となっており、薬剤耐性に関与する遺伝子の研究が盛んになされている。例えば、西野ら,日本細菌学雑誌,57(2),p.453-464(2002)(非特許文献2)には、推定薬剤排出タンパク質遺伝子と二成分情報伝達系遺伝子とを網羅的にクローニング・解析することで薬剤耐性因子を同定したことが記載されている。また、例えば、Zwama et al.,COMMUNICATIONS BIOLOGY,(2019)2:340,https://doi.org/10.1038/s42003-019-0564-6(非特許文献3)では、インフルエンザ菌(H.influenzae)の多剤排出トランスポーターAcrBの構造を含めた解析がなされている。さらに、例えば、特開2004-215542号公報(特許文献2)には、結核菌に含まれる薬剤耐性遺伝子を特定のプライマーを用いて検出する方法が記載されており、特開2010-536343号公報(特許文献3)には、バンコマイシン耐性腸球菌種などの薬剤耐性菌を検出するためのオリゴヌクレオチドが記載されている。
【0006】
しかしながら、数多くの薬剤が存在する中で、多数の種類の細菌に対して個々の薬剤耐性を網羅して簡便かつ迅速に検出する技術も未だ確立されておらず、やはり多くのコストや手間を要するといった問題があった。とりわけ大腸菌には、性状(血清型、遺伝子型、病原性関連遺伝子の保有状況、薬剤耐性等)が異なる非常に多くの種類が存在するが、多剤耐性大腸菌を簡便に検出する方法やそのための指標は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-49109号公報
【特許文献2】特開2004-215542号公報
【特許文献3】特開2010-536343号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】又吉ら,日獣会誌,54,p.913-919(2001)
【非特許文献2】西野ら,日本細菌学雑誌,57(2),p.453-464(2002)
【非特許文献3】Zwama et al.,COMMUNICATIONS BIOLOGY,(2019)2:340,https://doi.org/10.1038/s42003-019-0564-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、多剤耐性細菌を簡便かつ迅速に検出可能な多剤耐性細菌検出方法、及びこれに好適に用いることができるプライマーキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、先ず、1999年~2019年に日本国内の31都道府県で大腸菌症や浮腫病の豚から分離された大腸菌1,708株について、各都道府県の家畜保健衛生所から提供された分離状況を整理した。また、様々な系統から選抜した24種類の抗菌剤に対する薬剤耐性を調査したところ、病原性大腸菌では多剤耐性傾向にあることを見出した。さらにそのうち、296株の大腸菌の全ゲノム解析を行ない、各大腸菌における既知の薬剤耐性遺伝子を解析したところ、79種類、のべ3,130個の薬剤耐性遺伝子が同定された。しかしながら、このように多い薬剤耐性遺伝子の数は、核酸増幅等によって迅速に検出する方法には現実的な数でない。
【0011】
そこで、本発明者は、全ゲノム解析サンプルを935株に増やして、既知の薬剤耐性遺伝子に該当する遺伝子であるか否かを問わず、ゲノムワイド関連解析を行った。その結果、多剤耐性の株が有意に保有する遺伝子として、薬剤耐性試験を行った24種類の抗菌剤からCL、APM、BCMを除く21種類のうち、9剤以上に対して耐性であった株の75%、12剤以上に対して耐性であった株の97.4%が、一方又は両方を保有する2つの遺伝子(g27723及びg33026)を同定した。つまり、g27723及び/又はg33026を有する大腸菌では、これらをいずれも有さない大腸菌よりも、多剤耐性である確率が有意に高い、すなわち多剤耐性である可能性が高いことを見出した。
【0012】
g27723及びg33026はいずれも、機能が未知の遺伝子であるが、上記のようにこれらの一方又は両方を有する大腸菌は共通して多剤耐性の傾向にあり、かつ、かかる遺伝子の配列は他の細菌においても高い同一性(95%以上、好ましくは96%以上、99%以上、又は100%)で保存されていることから、本発明者は、これら遺伝子を指標として検出することにより、多剤耐性である細菌又は多剤耐性である可能性が高い細菌を容易かつ迅速に検出することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、多剤耐性細菌検出方法及びプライマーキットに関し、より詳しくは、以下を提供するものである。
[1]
試料中の多剤耐性細菌を検出する方法であり、下記(i)~(ii)の遺伝子:
(i)配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第1の遺伝子
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第2の遺伝子
からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子を検出する検出工程を含む、多剤耐性細菌検出方法。
[2]
前記検出工程が、前記試料由来の核酸を鋳型として、
第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI、及び
第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを用いて核酸増幅を行なう工程を含む、[1]に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[3]
プライマーセットIが、配列番号4のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIと、配列番号5のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIと、の組み合わせである、[2]に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[4]
プライマーセットIが、配列番号8のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIと、配列番号9のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIと、の組み合わせである、[2]又は[3]に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[5]
プライマーセットIIが、配列番号6のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIIと、配列番号7のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIIと、の組み合わせである、[2]~[4]のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[6]
プライマーセットIIが、配列番号10のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIIと、配列番号11のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIIと、の組み合わせである、[2]~[5]のうちのいずれか一項記載の多剤耐性細菌検出方法。
[7]
前記検出工程が、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型 Shigella boydii 9(OSB9)特異的領域、wzx遺伝子の大腸菌O群血清型116(O116)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型139(O139)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型147(O147)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型149(O149)特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる第2群から選択される少なくとも1種の領域及び/又は遺伝子もさらに検出する工程である、[1]~[6]のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[8]
前記検出工程が、前記試料由来の核酸を鋳型として、プライマーセットI及びプライマーセットIIからなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットと、第2群に含まれる領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットのうちの少なくとも1種とを用いて、マルチプレックスPCRを行なう工程を含む、[7]に記載の多剤耐性細菌検出方法。
[9]
下記(i)-1~(ii)-1のプライマーセット:
(i)-1 配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI、及び
(ii)-1 配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを含む、プライマーキット。
[10]
プライマーセットIが、配列番号4のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIと、配列番号5のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIと、の組み合わせである、[9]に記載のプライマーキット。
[11]
プライマーセットIが、配列番号8のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIと、配列番号9のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIと、の組み合わせである、[9]又は[10]に記載のプライマーキット。
[12]
プライマーセットIIが、配列番号6のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするフォーワードプライマーIIと、配列番号7のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上にハイブリダイズするリバースプライマーIIと、の組み合わせである、[9]~[11]のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
[13]
プライマーセットIIが、配列番号10のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むフォーワードプライマーIIと、配列番号11のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上を含むリバースプライマーIIと、の組み合わせである、[9]~[12]のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
[14]
wzy遺伝子の大腸菌O群血清型 Shigella boydii 9(OSB9)特異的領域、wzx遺伝子の大腸菌O群血清型116(O116)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型139(O139)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型147(O147)特異的領域、wzy遺伝子の大腸菌O群血清型149(O149)特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる第2群から選択されるいずれかの領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットのうちの少なくとも1種をさらに含む、[9]~[13]のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
[15]
[1]~[8]のうちのいずれか一項に記載の多剤耐性細菌検出方法に用いるためのプライマーキットである、[9]~[14]のうちのいずれか一項に記載のプライマーキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多剤耐性細菌を簡便かつ迅速に検出可能な多剤耐性細菌検出方法、及びこれに好適に用いることができるプライマーキットを提供することが可能となる。さらに、本発明によれば多剤耐性細菌を簡便かつ迅速に検出可能であるため、他の指標(血清型、病原性関連遺伝子の有無等)の検出と組み合わせて検出を行なうことも容易となる。したがってこの場合、本発明によれば、試料中の細菌の性状として、多剤耐性に加えて、上記他の指標に関連する性状を複数網羅して検出し、簡便に把握することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法の応用例の一態様を示す概念図である。
【
図2】参考試験1で、各大腸菌群において、各抗菌剤に対して耐性であった菌の割合(耐性菌率[%])を示すグラフである。
【
図3】参考試験1で、各大腸菌群について、24種類のうちの耐性があった抗菌剤数に対して分布する株の割合(分布率[%])を示すグラフである。
【
図4】試験1で、全935株について、21種類のうちの耐性があった抗菌剤数に対して分布する株数(分布数[株]、上段)と、そのうち、g27723及びg33026のうちの少なくともいずれかを保有する株の割合(100分率[%]、下段)とを示すグラフである。
【
図5A】試験2で、PCR-1のプライマーの組み合わせで得られたPCR産物の2%アガロースゲル電気泳動写真である。
【
図5B】試験2で、PCR-2のプライマーの組み合わせで得られたPCR産物の2%アガロースゲル電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
<多剤耐性細菌検出方法・判別方法>
本発明の多剤耐性細菌検出方法は、試料中の多剤耐性細菌を検出する方法であり、下記(i)~(ii)の遺伝子:
(i)配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第1の遺伝子
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域を含む遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の第2の遺伝子
からなる群(本明細書中、場合により「第1群」という)から選択される少なくとも1種の遺伝子(以下、場合により「第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子)という)を検出する検出工程を含む方法(本明細書中、場合により単に「本発明の検出方法」という)である。
【0018】
また、本発明は、細菌から第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を検出する検出工程を含む、細菌の多剤耐性判別方法(本明細書中、場合により単に「本発明の判別方法」といい、「本発明の検出方法」と総称して、場合により単に「本発明の方法」という)も提供する。
【0019】
[多剤耐性細菌]
本発明の検出方法で検出される「多剤耐性細菌」とは、少なくとも2以上の複数の抗菌剤(多剤)に対して耐性がある、すなわち感受性の低い細菌を示し、少なくとも2以上の複数の抗菌剤に対して耐性がある可能性が高い細菌も含む。
【0020】
(細菌)
本発明に係る「細菌」とは、原核生物を示すが、他は特に制限されず、例えば、Escherichia属(Escherichia fergusonii、Escherichia coli(大腸菌)、Escherichia albertii、Escherichia hermannii、Escherichia marmotae)、Citrobacter属、Cronobacter属、Enterobacter属、Klebsiella属、Kluyvera属、Leclercia属、Phytobacter属、Raoultella属、Salmonella属、Serratia属、Shigella属、Yersinia属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Glaesserella属、Morganella属、Proteus属、Providencia属、Pseudomonas属、Shewanella属、Vibrio属、Edwardsiella属、Pasteurella属、Mannheimia属、Bibersteini属、Haemophillus属、Avibacterium属、Histophillus属、Actinobacillus属、Moraxella属、Legionella属、Coxiella属、Francisella属、Dichelobacter属、Burkholderia属、Bordetella属、Taylorella属、Neisseria属、Lawdonia属、Brucella属、Bartonella属、Campylobacter属、Helicobacter属、Bacteroides属、Porphylomonas属、Prevotella属、Flavobacterium属、Fusobacterium属、Streptobacillus属、Leptospira属、Brachyspira属、Treponema属、Borrelia属、Streptococcus属、Enterococcus属、Melissococcus属、Staphylococcus属、Lactococcus属、Bacillus属、Clostridium属、Listeria属、Erysipelothrix属、Lactobacillus属、Corynebacterium属、Mycobacterium属、Actinomyces属、Trueperella属、Nocardia属、Rhodococcus属、Bifidobacterium属、Streptomyces属、Mycoplasma属、Chlamydia属が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、本発明の検出方法で検出される細菌及び本発明の判別方法で判別される細菌としては、下記の配列番号3で示される第1の遺伝子(g27723)が特に高い同一性(95%以上、好ましくは96%以上、99%以上、又は100%)で保存されている観点から、第1の遺伝子を検出する場合には、Escherichia属、Citrobacter属、Cronobacter属、Enterobacter属、Klebsiella属、Kluyvera属、Leclercia属、Phytobacter属、Raoultella属、Salmonella属、Serratia属、Shigella属、Yersinia属に属する細菌からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
また、下記の配列番号2で示される第2の遺伝子(g33026)が特に高い同一性(95%以上、好ましくは96%以上、99%以上、又は100%)で保存されている観点から、第2の遺伝子を検出する場合には、Escherichia属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Citrobacter属、Enterobacter属、Glaesserella属、Klebsiella属、Leclercia属、Morganella属、Proteus属、Providencia属、Pseudomonas属、Raoultella属、Salmonella属、Serratia属、Shewanella属、Shigella属、Vibrio属に属する細菌からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
これらの中でも、本発明の検出方法で検出される細菌及び本発明の判別方法で判別される細菌としては、下痢症や尿路感染症等の多様の感染症の原因として重要であるという観点から、Escherichia属に属する細菌からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、大腸菌であることがさらに好ましい。
【0024】
(抗菌剤)
前記抗菌剤としては、上記に挙げた細菌に対する抗菌剤として従来公知の剤が挙げられ、特に限定されないが、例えば、アンピシリン(ABPC)、ピペラシリン(PIPC)等のペニシリン系抗菌剤;セファゾリン(CFZ)等の第1世代セファロスポリン、セフロキシム(CXM)等の第2世代セファロスポリン、セフォタキシム(CTX)等の第3世代セファロスポリン、セフェピム(CFPM)等の第4世代セファロスポリンなどのセファロスポリン系抗菌剤;セフォキシチン(CFX)等のセファマイシン系抗菌剤、モキサラクタム(LMOX)等のオキサセフェム系抗菌剤などのセフェム系抗菌剤;アズトレオナム(AZT)等のモノバクタム系抗菌剤などのβ-ラクタム系抗菌剤;イミペネム(IPM)、メロペネム(MEPM)等のカルバペネム系抗菌剤;ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、アプラマイシン(APM)等のアミノグリコシド系抗菌剤;テトラサイクリン(TC)等のテトラサイクリン系抗菌剤;クロラムフェニコール(CP)等のフェニコール系抗菌剤;ナリジクス酸(NA)等のキノロン系抗菌剤;シプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、ガチフロキサシン(GFLX)等のフルオロキノロン系抗菌剤;ST合剤(スルフォメトキサゾール/トリメトプリム配合剤、ST)等の葉酸合成阻害剤;コリスチン(CL)等のポリペプチド系抗菌剤;ビコザマイシン(BCM);アジスロマイシン、エリスロマイシン等のマクロライド系抗菌剤;ホスホマイシン等のホスホマイシン系抗菌剤が挙げられる。これらの中でも、例えば、アンピシリン、ピペラシリン、セファゾリン、セフロキシム、セフォタキシム、セフェピム、セフォキシチン、モキサラクタム、アズトレオナム、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、アプラマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ナリジクス酸、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、ST合剤、コリスチン、ビコザマイシンが好ましい。
【0025】
本発明において「多剤耐性」という場合には、上記に挙げた抗菌剤のうちの少なくとも2以上の剤に対して耐性がある、又は同耐性がある可能性があればよいが、かかる耐性としては、より好ましくは4以上、7以上、9以上、11以上、又は12以上の剤に対する耐性であることが好ましい。
【0026】
また、前記細菌が前記抗菌剤に対して実際に「耐性」があるか否かは、従来公知の方法又はそれに準じた方法で適宜確認することができ、例えば、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)ガイドラインやEUCAST(European Committee on Antimicrobial Suceptibility Testing)ガイドラインに記載された寒天平板希釈法やKilby-Bauerディスク拡散法等に従って薬剤耐性試験を行ない、寒天平板希釈法ではCLSIガイドラインやEUCASTガイドラインに記載された抗菌剤濃度で生残した細菌を、Kilby-Bauerディスク拡散法ではCLSIガイドラインやEUCASTガイドラインに記載された直径以下の阻止円を示す又は阻止円を形成しない細菌を、それぞれ当該抗菌剤に対して耐性であると判定することができる。
【0027】
[試料]
本発明の検出方法の対象となる「試料」としては、前記細菌が存在し得る試料である限り特に制限はなく、例えば、各種生物(細胞、組織、器官、個体を含む)及びその抽出液;ヒト及び動物の体液(唾液、鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、うがい液、鼻汁、涙、汗、尿、喀痰、気管支肺胞洗浄液、血液、血清、血漿、髄液、リンパ液、精液、羊水等)や糞便;植物生体液;生物培養液;環境中の水(河川、湖沼、港湾、水路、地下水、浄水、下水、排水等);固形物(土壌等)の懸濁液等を目的に応じて適宜用いることができる。例えば、前記細菌として大腸菌を検出する場合には、ヒト及び動物(例えば、チンパンジーやサル等の霊長類;牛、豚、馬、ニワトリ、ネコ、イヌ等の家畜、家禽や愛玩動物;シカ、イノシシ、アライグマ、イタチ、ネズミ、ハト等の野生動物や野鳥)の糞便を前記試料として用いることができる。
【0028】
また、前記試料としては、粉砕や凍結等の処理がなされたものであっても、希釈液で適宜希釈又は懸濁したものであっても、適宜pH調整したものであってもよい。前記希釈液としては、例えば、水;生理食塩水;ナトリウムリン酸バッファー、TriS緩衝液、リン酸緩衝液、グッド緩衝液等の緩衝液が挙げられる。さらに、前記試料としては、前記試料から必要に応じて単離して培養した細菌を含む培養細菌試料であってもよい。前記試料から目的の細菌を単離する方法や目的の細菌を培養する方法としては、適宜公知の方法を採用することができる。
【0029】
本発明の判別方法の対象となる細菌としては、前記培養細菌試料の他、前記試料として挙げたものに含まれる細菌が挙げられ、本発明の判別方法には前記試料をそのまま供してもよい。
【0030】
[第1の遺伝子、第2の遺伝子]
本発明の方法では、第1の遺伝子及び第2の遺伝子からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子を検出する。第1の遺伝子及び第2の遺伝子は、いずれも細菌のゲノムDNA上に存在する機能が未知の遺伝子であるが、本発明者は、この一方又は両方を有する大腸菌は有さない大腸菌よりも多剤耐性である確率が有意に高く、かつ、かかる遺伝子のヌクレオチド配列は他の細菌においても高い同一性(例えば、95%以上、好ましくは96%以上、99%以上、又は100%)で保存されていることを見出した。したがって、これら遺伝子を指標として検出することにより、多剤耐性である細菌又は多剤耐性の可能性が高い細菌を検出することや、細菌が多剤耐性である又は多剤耐性である可能性が高いか否かの判別をすることが可能となることを見出した。
【0031】
(i)第1の遺伝子
第1の遺伝子は、典型的には、配列番号3のヌクレオチド配列で示される遺伝子(本明細書中、場合により「g27723」ともいう)である。g27723のヌクレオチド配列は細菌間で広く保存されているが、特に、配列番号1のヌクレオチド配列からなる領域(コンセンサス領域)の同一性が細菌間で高く、例えば、Escherichia属と、Citrobacter属、Cronobacter属、Enterobacter属、Klebsiella属、Kluyvera属、Leclercia属、Phytobacter属、Raoultella属、Salmonella属、Serratia属、及びShigella属、Yersinia属のそれぞれとの間で、同一性は99~100%である。したがって、本発明の方法で検出する第1の遺伝子は、典型的には、「(ia)配列番号1のヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」である。
【0032】
また、遺伝子のヌクレオチド配列は、その変異などにより、自然界において(好ましくは非人工的に)変異し得ることから、本発明においては、このような変異体も第1の遺伝子とすることができる。さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、例えば、配列番号1のヌクレオチド配列情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列を改変することもできるため、このような改変体も第1の遺伝子としてよい。
【0033】
したがって、本発明に係る第1の遺伝子の態様には、「(ib)配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」も含まれる。ヌクレオチド配列の同一性は、例えば、BLASTのプログラム(Altschulら,J.Mol.Biol.,215,1990年、p.403-410)を用いて、パラメーター:例えばscore=100、wordlength=12等で決定することができる。また、このときの配列番号1のヌクレオチド配列との同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上である。
【0034】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、例えば、配列番号1のヌクレオチド配列情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列に基づいて、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.,J.Mol.Biol.,98:503-517,1975)や、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.,et al.Science,230:1350-1354,1985、Saiki,R.K.et al.Science,239:487-491,1988)等により、他の細菌から相同遺伝子を取得することが可能である。
【0035】
したがって、本発明に係る第1の遺伝子の態様には、「(ic)配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」も含まれる。相同遺伝子を単離するためには、通常、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後のメンブレンの洗浄操作を、高温下、低塩濃度溶液中で行なうことを示し、かかる条件としては、例えば、2×SSC濃度(1×SSC:15mMクエン酸3ナトリウム、150mM塩化ナトリウム)、0.5% SDS溶液中で60℃、20分間の洗浄条件が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションは、例えば、公知であるECLダイレクトDNA/RNAラベリング・検出システム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほど、高い同一性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記の条件は例示であり、DNAの濃度、DNAの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間等を適宜組み合わせることにより、必要な厳密性(ストリンジェンシー)を実現することが可能である。
【0036】
本明細書中、(ia)配列番号1のヌクレオチド配列からなる領域、(ib)配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる領域、及び(ic)配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる領域をそれぞれ、「第1のコンセンサス領域」という。
【0037】
(ii)第2の遺伝子
第2の遺伝子は、典型的には、配列番号2のヌクレオチド配列で示される遺伝子(本明細書中、場合により「g33026」ともいう)である。g33026のヌクレオチド配列は細菌間で広く保存されており、例えば、Escherichia属と、Acinetobacter属、Aeromonas属、Citrobacter属、Enterobacter属、Glaesserella属、Klebsiella属、Leclercia属、Morganella属、Proteus属、Providencia属、Pseudomonas属、Raoultella属、Salmonella属、Serratia属、Shewanella属、Shigella属、Vibrio属のそれぞれとの間で、同一性は96~100%である。したがって、本発明の方法で検出する第2の遺伝子は、典型的には、「(iia)配列番号2のヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」である。
【0038】
また、第1の遺伝子と同様の観点で、本発明に係る第2の遺伝子の態様には、「(iib)配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」も含まれる。このときの配列番号2のヌクレオチド配列との同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上である。
【0039】
さらに、第1の遺伝子と同様の観点で、本発明に係る第2の遺伝子の態様には、「(iic)配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる領域を含む遺伝子」も含まれる。「ストリンジェントな条件」としては、第1の遺伝子に記載のとおりである。
【0040】
本明細書中、(iia)配列番号2のヌクレオチド配列からなる領域、(iib)配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる領域、及び(iic)配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる領域をそれぞれ、「第2のコンセンサス領域」という。
【0041】
[第1の遺伝子、第2の遺伝子の検出]
本発明において、第1の遺伝子及び第2の遺伝子を検出する方法としては、それぞれ独立に、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜適用することができ、特に制限はないが、例えば、下記の方法が挙げられる。なお、本発明において遺伝子の検出とは、原則として、ゲノムDNA上の遺伝子を検出することを意味するが、転写レベルや翻訳レベルでの間接的な検出であってもよい。
【0042】
第1の遺伝子及び第2の遺伝子の検出方法の態様としては、例えば、前記試料中の細菌(本発明の検出方法の場合)や前記細菌(本発明の判別方法の場合)の全ゲノムDNAのヌクレオチド配列を決定する方法が挙げられる。この態様においては、先ず、対象の試料や細菌からDNA試料を調製する。DNA試料としては、ゲノムDNA試料、及びmRNAからの逆転写によって調製されるcDNA試料が挙げられる。前記試料や細菌からゲノムDNA又はmRNAを抽出する方法、及びcDNAを調製する方法としては特に制限はなく、それぞれ公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができ、例えば、ボイル法、アルカリボイル法、SDSフェノール法、市販の核酸抽出・精製キットを用いる方法を採用できる。次いで、調製したゲノムDNAやcDNAからDNAライブラリを作成し、次世代シーケンサー等を用いて全ゲノムDNAのヌクレオチド配列を決定する。得られたシーケンスデータから、例えば、配列番号1のヌクレオチド配列又は配列番号2のヌクレオチド配列をクエリーとして、第1の遺伝子又は第2の遺伝子の有無を検出することができる。
【0043】
前記検出方法の他の態様としては、例えば、第1の遺伝子及び第2の遺伝子、又はその発現産物(すなわち、当該遺伝子から転写されたmRNA若しくは前記mRNAを鋳型とするcDNA)に特異的に結合可能なプローブ分子を用いて前記遺伝子又はその発現産物(以下、場合により「標的ヌクレオチド」という)を検出する方法が挙げられる。
【0044】
この態様においては、例えば、前記プローブ分子として、前記標的ヌクレオチドの塩基配列中の適切な位置にハイブリダイズするように設計したオリゴヌクレオチドプローブを用い、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ、DNAマイクロアレイ解析法、in situハイブリダイゼーション法等によって、前記標的ヌクレオチドを検出する方法が挙げられる。
【0045】
この場合には、例えば、前記オリゴヌクレオチドプローブとして、標識物質によって標識されたものを用い、当該標識物質に応じたシグナルを検出することにより、前記標的ヌクレオチドを検出(すなわち、第1の遺伝子又は第2の遺伝子を検出)することができる。このときの標識物質としては、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、FAM(フルオレセインアミダイト)、DEAC(7-(ジエチルアミノ)クマリン)、R6G(ローダミン6G)、Texas Red、Cy5、BODIPY FL(商品名)等の蛍光物質;β-D-グルコシダ―ゼ、ルシフェラーゼ、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)等の酵素;3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体;ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質;ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質が挙げられる。
【0046】
なお、本発明において、「シグナル」には、呈色(発色)、反射光、発光、消光、蛍光、放射性同位体による放射線等が含まれ、肉眼で確認できるものの他、シグナルの種類に応じた測定方法・装置によって確認できるものも含まれる。
【0047】
また、例えば、前記プローブ分子として、前記標的ヌクレオチド中の適切な位置を挟み込むように設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用い、前記試料や細菌由来の核酸を鋳型として、PCR、RT-PCR、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)、TMA(Transcription-Mediated Amplification)等の核酸増幅によって、前記標的ヌクレオチドを増幅して検出する方法も挙げられる。
【0048】
この場合には、例えば、得られた増幅産物を、蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド、SYBR Green(商品名)、SYTO63(商品名)等)、他の蛍光物質(FITC、FAM、DEAC、R6G、TexRed、Cy5、BODIPY FL等)、放射性同位体(3H、14C、32P、35S、123I等)、発光物質(ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等)等の標識物質で標識し、前記標識物質に応じたシグナルを検出することにより、前記標的ヌクレオチドを検出(すなわち、第1の遺伝子又は第2の遺伝子を検出)することができる。また、前記オリゴヌクレオチドプローブと組み合わせて検出してもよい(ダブルダイプローブ法等)。さらに、前記増幅産物を含む反応後液を直接シーケンサーに供して解析することにより、前記標的ヌクレオチドを検出してもよい。
【0049】
このようなオリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーは、当業者であれば、前記標的ヌクレオチドの配列(好ましくは、配列番号1のヌクレオチド配列又は配列番号2のヌクレオチド配列)に基づいて、公知の方法又はそれに準じた方法で設計することができる。前記オリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーの長さとしては、それぞれ独立に、10塩基以上であることが好ましく、通常は、15~100塩基であり、好ましくは17~30塩基であり、より好ましくは20~27塩基である。
【0050】
前記オリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により合成することができる。また、天然のヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチド)のみから構成されていなくともよく、例えば、PNA(polyamide nucleic acid)、LNA(登録商標、locked nucleic acid)、ENA(登録商標、2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)等の非天然型のヌクレオチドにてその一部又は全部が構成されていてもよい。
【0051】
(核酸増幅)
本発明に係る第1の遺伝子及び第2の遺伝子の検出方法としては、上記の中でも、前記オリゴヌクレオチドプライマー(本明細書中、場合により単に「プライマー」という)を用いて前記標的ヌクレオチドを増幅(核酸増幅)して検出する方法であることが好ましく、PCRにより検出する方法であることがより好ましい。
【0052】
このような核酸増幅の方法として、本発明の方法においてより具体的には、前記試料や細菌由来の核酸を鋳型として、
(i)-1 第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI、及び
(ii)-1 第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを用いる方法が好ましく、プライマーセットI及びプライマーセットIIを用いてマルチプレックスPCRを行なう方法がさらに好ましい。
【0053】
〔プライマーセット〕
第1のコンセンサス領域及び第2のコンセンサス領域において、プライマーセットI及びプライマーセットIIによって増幅する範囲は、それぞれ独立に、各領域内の一部分であっても、全範囲であってもよい。また、1つのプライマーセットにおいては、それぞれ各領域上の互いに異なる2つの部位(以下、場合により「プライマー設計部位」という)にそれぞれハイブリダイズするように2つのプライマーを設計するが、1つのプライマーセットに係る前記プライマー設計部位としては、互いに一部重複していてもよい。このようなプライマー設計部位は、増幅産物サイズ、これにハイブリダイズするプライマーの特異性や増幅効率等を考慮して、当業者であれば適宜設定することができる。
【0054】
第1のコンセンサス領域において、増幅する範囲の塩基数、すなわち、増幅産物サイズに対応する塩基数(bp)としては、50~844塩基であることが好ましく、100~800塩基であることがより好ましく、200~700塩基であることがさらに好ましい。また、第2のコンセンサス領域において、増幅する範囲の塩基数、すなわち、増幅産物サイズに対応する塩基数(bp)としては、50~543塩基であることが好ましく、100~500塩基であることがより好ましく、200~480塩基であることがさらに好ましい。ただし、第1の遺伝子及び第2の遺伝子を同時に検出する場合、プライマーセットI及びプライマーセットIIによって増幅する範囲としては、互いに異なる塩基数の範囲、すなわち、核酸増幅で得られる増幅産物サイズ(bp)が互いに異なるようにすることが好ましい。
【0055】
これらの中でも、第1のコンセンサス領域及び第2のコンセンサス領域において、プライマーセットI及びプライマーセットIIで増幅するように選択する範囲として好ましくは、特に非特異反応が低減され、各領域の核酸増幅による増幅効率が高い傾向にある観点から、それぞれ、以下の範囲:
(i)-2 第1のコンセンサス領域では、配列番号1のヌクレオチド配列上の、配列番号4のヌクレオチド配列の5’端の塩基~配列番号5のヌクレオチド配列の3’端までに含まれる範囲、又はこの範囲に対応する範囲
(ii)-2 第2のコンセンサス領域では、配列番号2のヌクレオチド配列上の、配列番号6のヌクレオチド配列の5’端の塩基~配列番号7のヌクレオチド配列の3’端までに含まれる範囲、又はこの範囲に対応する範囲
が挙げられる。
【0056】
このとき、第1のコンセンサス領域及び第2のコンセンサス領域のプライマー設計部位にそれぞれハイブリダイズするように設計するプライマーセットとして好ましくは、それぞれ、以下のプライマーセット:
(i)-3 第1のコンセンサス領域では、配列番号4のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)にハイブリダイズするフォーワードプライマーIと、配列番号5のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)にハイブリダイズするリバースプライマーIと、の組み合わせであるプライマーセットI、
(ii)-3 第2のコンセンサス領域では、配列番号6のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)にハイブリダイズするフォーワードプライマーIIと、配列番号7のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)にハイブリダイズするリバースプライマーIIと、の組み合わせであるプライマーセットII
が挙げられる。
【0057】
なお、本発明において、プライマーが前記プライマー設計部位に対して「ハイブリダイズする」には、プライマーが前記プライマー設計部位のセンス鎖(例えば、配列番号1のヌクレオチド配列又は配列番号2のヌクレオチド配列上)にハイブリダイズすることに加えて、その相補鎖にハイブリダイズすることも含む。
【0058】
また、本発明において、プライマーが前記プライマー設計部位に対して「ハイブリダイズする」とは、当該プライマーの少なくとも一部と前記プライマー設計部位とが二本鎖を形成可能なヌクレオチド配列であればよく、完全に相補的でなくともよい。本発明において、かかるハイブリダイズの条件としては、当該プライマーと前記プライマー設計部位とのヌクレオチド配列の配列相補性が、80%以上、90%以上、95%以上、(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)であることが好ましい。なお、前記配列相補性は、公知の手法(例えば、BLASTのプログラム)を用いて適宜計算することができる。また、本発明において、前記ハイブリダイズの条件としては、前記プライマーのヌクレオチド配列が、前記プライマー設計部位のヌクレオチド配列の全長に対して完全に相補的なヌクレオチド配列の1~複数個所において、連続して1~5塩基(好ましくは1~3塩基、例えば、3塩基、2塩基、1塩基)の塩基が挿入、欠失、又は置換されたものであってもよい。
【0059】
このようなプライマーを構成するヌクレオチド配列は、上記ハイブリダイズの条件を満たすように、前記プライマー設計部位のヌクレオチド配列に合わせて、より好ましくは他の部位や他のプライマーにハイブリダイズすることがないように、また、GC含量が互いに近くかつ好ましい範囲内になるように、当業者であれば適宜設計することができる。
【0060】
前記各プライマーの塩基数としては、それぞれ独立に、10塩基以上であることが好ましく、15~30塩基であることがより好ましく、17~30塩基であることがより好ましく、20~27塩基であることがさらに好ましい。
【0061】
このようなプライマーセットとして、より具体的には、以下のプライマーセット:
(i)-4 プライマーセットIとしては、配列番号8のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)を含むフォーワードプライマーIと、配列番号9のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)を含むリバースプライマーIと、の組み合わせ
(ii)-4 プライマーセットIIとしては、配列番号10のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)を含むフォーワードプライマーIIと、配列番号11のヌクレオチド配列のうちの10塩基以上(好ましくは15塩基以上、17塩基以上、又は20塩基以上)を含むリバースプライマーIIと、の組み合わせ
が挙げられる。
【0062】
これらの中でも、第1の遺伝子及び第2の遺伝子を同時に検出する場合には、プライマーが他の部位や他のプライマーにハイブリダイズすることがない、電気泳動等による各増幅産物の区別がより明確となる、各核酸増幅による増幅効率が互いに同等になるといった観点から、前記プライマーセットとしては、上記の(i)-3~4のいずれかと(ii)-3~4のいずれかとの組み合わせであることが好ましく、(i)-4と(ii)-4との組み合わせであることより好ましい。
【0063】
各プライマーセットによれば、上記のように菌株間で数塩基の欠失、挿入等による個体差は生じ得るため、それぞれ次の増幅産物:
(i)-5 例えば、配列番号8のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマーI(g27723-F-プライマー)と、配列番号9のヌクレオチド配列からなるリバースプライマーI(g27723-R-プライマー)と、の組み合わせであるプライマーセットIによれば、配列番号1のヌクレオチド配列上の、配列番号4のヌクレオチド配列の5’端の塩基~配列番号5のヌクレオチド配列の3’端までの範囲(583塩基)、又はこの範囲に対応する範囲(好ましくは、533~603塩基)が増幅された増幅産物;
(ii)-5 例えば、配列番号10のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマーII(g33026-F-プライマー)と、配列番号11のヌクレオチド配列からなるリバースプライマーII(g33026-R-プライマー)と、の組み合わせであるプライマーセットIIによれば、配列番号2のヌクレオチド配列上の、配列番号6のヌクレオチド配列の5’端の塩基~配列番号7のヌクレオチド配列の3’端までの範囲(473塩基)、又はこの範囲に対応する範囲(好ましくは、423~493塩基)が増幅された増幅産物;
が得られる。
【0064】
上記において、ヌクレオチド配列の各範囲に「対応する」範囲とは、BLASTのプログラム等を用いて(例えば、パラメータ:デフォルト値(すなわち初期設定値))、ヌクレオチド配列を整列させた際に、対照の範囲と同列になるヌクレオチド配列の範囲のことである。
【0065】
〔増幅反応〕
本発明に係る核酸増幅において、増幅反応としては、特に制限されず、従来公知の方法又はそれに準じた方法で適宜実施することができ、例えば、先ず、対象の試料や細菌から核酸試料を調製する。核酸試料としては、試料や細菌から抽出したDNAを含むDNA試料、mRNAを含むmRNA試料、mRNAからの逆転写によって調製されるcDNA試料が挙げられる。前記試料や細菌からDNA又はmRNAを抽出する方法、及びcDNAを調製する方法としては特に制限はなく、上述のとおりである。次いで、例えばPCRの場合には、調製した核酸試料に、プライマーセットI及び/又はプライマーセットII、並びに、相補鎖合成酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)を添加して、熱変性、アニール、及び伸長反応を複数サイクル繰り返すことにより、対象の試料や細菌中に目的の第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子が存在する場合には、第1のコンセンサス領域及び/又は第1のコンセンサス領域に前記プライマーがハイブリダイズし、前記プライマーセットに挟まれる領域を鋳型としてヌクレオチド断片が合成され、かかるヌクレオチド断片が増幅された増幅産物を得ることができる。
【0066】
本発明に係る核酸増幅における相補鎖合成酵素の種類、反応液の組成、反応温度、時間、及びサイクル数等の反応条件としては、特に制限なく適宜選択することができ、市販のPCRキット等を用いてもよい。
【0067】
〔増幅産物の検出〕
前記増幅反応で得られた増幅産物は、適宜公知の方法又はそれに準じた方法で検出することができる。これにより、目的の第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を検出することが可能となり、間接的にこれら遺伝子を有する細菌を検出することが可能となる。
【0068】
前記増幅産物の検出方法としては、例えば、アガロースゲル等の電気泳動によって前記増幅産物を分離して検出する方法;前記増幅産物にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが固定された基板を用いて測定するDNAアレイ法;高速液体クロマトグラフィー同位体希釈質量分析法(LC-IDMS);誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES);誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS);原子吸光分光法(Atomic Absorption Spectrometry、AAS)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。得られた増幅産物は、それぞれ、例えば、上記の標識物質で標識し、当該標識物質に応じたシグナルを検出する方法で確認することができる。
【0069】
前記増幅産物の検出方法としては、上記の方法に限定されず、また、上記の方法のうちの2以上の方法や従来公知の方法を適宜組み合わせてもよい。中でも、本発明に係るプライマーセット(プライマーセットI及び/又はプライマーセットII)を用いる場合には、特に容易に増幅産物の分離が可能であることから、前記検出方法としては、前記電気泳動により前記増幅産物を分離する工程を含むことが好ましい。この場合には、例えば、アガロースゲル(例えば2%)のゲルに、得られた増幅産物を電気泳動し、前記蛍光色素で染色して、分離された増幅産物のバンドの有無を蛍光によって確認することで、目的の増幅産物の有無、すなわち、目的の第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の有無、つまり、これら遺伝子を有する細菌の有無を検出することができる。
【0070】
第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を保有する細菌は高い確率で多剤耐性細菌である傾向にあることから、本発明の検出方法において、目的の増幅産物が検出された場合には、対象の試料中に多剤耐性細菌が存在する、又は多剤耐性である可能性が高い細菌が存在すると判定することができる。すなわち、本発明の検出方法には、試料中から実際に多剤耐性細菌である細菌を検出する方法に加えて、試料中から多剤耐性細菌である可能性が高い細菌を検出する方法(スクリーニング方法)も含む。
【0071】
また、本発明の判別方法において、目的の増幅産物が検出された場合、すなわち、対象の細菌から第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子が検出された場合には、その細菌が多剤耐性である、又は多剤耐性である可能性が高いと判別することができる。
【0072】
ここで、「多剤耐性である可能性が高い」とは、好ましくは、任意の細菌群(例えば、n≧50)を第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を有する細菌群と第1の遺伝子及び第2の遺伝子のいずれも有さない細菌群とに分け、さらに、21種類の抗菌剤(例えば、アンピシリン、ピペラシリン、セファゾリン、セフロキシム、セフォタキシム、セフェピム、セフォキシチン、モキサラクタム、アズトレオナム、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ナリジクス酸、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、ST合剤)のうち、2以上の剤(好ましくは、4以上、7以上、9以上、11以上、又は12以上の剤)に対して実際に耐性がある細菌群と実際に耐性がない細菌群とに分けた場合に、フィッシャーの正確確率検定で、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を有する細菌群と上記の2以上の剤に対して実際に耐性がある細菌群との間に関連がある、すなわち、pが0.05未満、好ましくは0.01未満、より好ましくは0.001未満となる有意差があることをいう。
【0073】
さらに、本発明の検出方法及び判別方法としては、検出した又は判別した細菌が実際に多剤耐性であることを確認する確認工程をさらに含んでいてもよく、このような確認工程としては、例えば、上記の寒天平板希釈法やKilby-Bauerディスク拡散法等の薬剤耐性試験を行なう工程が挙げられる。
【0074】
[その他の指標]
本発明の方法においては、上記の第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の検出に加えて、細菌の性状把握においてより多観点での情報を網羅する観点から、他の病原因子に関連する遺伝子領域及び/又は遺伝子等も、細菌の各性状の指標として検出することができる。このような領域や遺伝子としては特に制限されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0075】
(大腸菌O群血清型特異的領域)
細菌の血清型は、従来からその性状と関連が高い指標として用いられており、その細胞表面に存在する抗原の型(分子構造)によって決定される。大腸菌では、鞭毛の構造に基づくH抗原やリポポリサッカライドの構造に基づくO(オー)抗原がその性状を示す指標として知られている。本明細書では、かかる大腸菌のO抗原性の違いによる分類を「O群血清型」という。リポポリサッカライドは脂質及び糖鎖から構成され、さらにその糖鎖部分はコア多糖とO側鎖多糖と呼ばれる部分から構成されている。このO側鎖多糖がO抗原性を担っており、3~5個の単糖が組み合わさった基本構造が4~40程度回繰り返された構造を有する。かかるリポポリサッカライドの糖鎖構造は遺伝子によって直接的にはコードされていないが、糖鎖合成経路に依存していることから、かかる糖鎖合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の各O群血清型に特異的な領域を検出対象とすることにより、当該血清型の細菌を検出することができる。
【0076】
前記糖鎖合成に関与するタンパク質としては、糖鎖ユニットの輸送及び鎖状に関与するWzx、Wzy、Wzm、Wzt等が挙げられ、これらのタンパク質をコードする遺伝子(wzx遺伝子、wzy遺伝子、wzm遺伝子、wzt遺伝子等)において、各O群血清型に特異的な領域(大腸菌O群血清型特異的領域)としては、例えば、Iguchi et al.,J.Clin.Microbiol.,53,Number 8,p.2427-2432(2015)、及びIguchi et al.,J.Clin.Microbiol.,58,Issue 11,e01493-20(2020)に記載の各プライマーセットで増幅される領域が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、本発明の方法で検出する領域としては、病原性大腸菌が示すO群血清型(例えば、OSB9、O116、O139、O147、O149、O8、O141、O2、O9、O86、O45、O121、O142、O180、O35、O103、O157、O98、O138、O115)に特異的な領域であることが好ましく、これらのうちの1種であっても2種以上であってもよいが、より具体的には、例えば、wzy遺伝子のOSB9特異的領域、wzx遺伝子のO116特異的領域、wzy遺伝子のO139特異的領域、wzy遺伝子のO147特異的領域、及びwzy遺伝子のO149特異的領域からなる群から選択される少なくとも1種の領域が好ましい。
【0078】
(毒素産生関連遺伝子)
病原性細菌は、主に毒素や毒性因子(アフェシン)を産生することで感染したヒトや動物に疾患を引き起こす。したがって、細菌の性状を示す好ましい指標としては、かかる毒素産生に関与する遺伝子(毒素産生関連遺伝子)の有無も挙げられる。
【0079】
このような毒素産生関連遺伝子としては、従来公知のものが挙げられ、特に制限されないが、例えば、易熱性エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、LT2をコードする遺伝子;耐熱性エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、STbをコードする遺伝子、EAST1をコードする遺伝子;志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、Stx1をコードする遺伝子が挙げられ、これらのうちの1種であっても2種以上であってもよい。これらの遺伝子のヌクレオチド配列は、例えば、Gen Bank(NCBI)等の公共のデータベースより取得可能である。
【0080】
これらの中でも、本発明の方法で検出する遺伝子としては、例えば、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、及び志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が好ましい。
【0081】
(表面タンパク質関連遺伝子)
また、病原性細菌の性状としては、宿主(ヒトや動物)への感染力の強さも重要であり、前記宿主への感染は、腸上皮細胞等への接着によって起こる。したがって、細菌の性状を示す好ましい指標としては、かかる表面タンパク質に関与する遺伝子(表面タンパク質関連遺伝子)の有無も挙げられる。
【0082】
このような表面タンパク質関連遺伝子としては、従来公知のものが挙げられ、特に制限されないが、例えば、Intiminをコードする遺伝子(eae遺伝子);F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、F5線毛をコードする遺伝子、F6線毛をコードする遺伝子、F41線毛をコードする遺伝子等の線毛をコードする遺伝子が挙げられ、これらのうちの1種であっても2種以上であってもよい。これらの遺伝子のヌクレオチド配列も、例えば、Gen Bank(NCBI)等の公共のデータベースより取得可能である。
【0083】
これらの中でも、本発明の方法で検出する遺伝子としては、例えば、Intiminをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、及びF18線毛をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が好ましい。
【0084】
(ハウスキーピング遺伝子)
病原性細菌の検出に際しては、検出の精度の確認(細菌自体の存在の有無の確認、反応完了確認、検出試薬の調製ミスの有無の確認、検出装置の故障の有無の確認等)を目的として、全ての細菌が共通して有する遺伝子も合わせて検出することが好ましい。このような遺伝子としては、例えば、ハウスキーピング遺伝子(GAPDHをコードする遺伝子、fusA遺伝子、gyrB遺伝子、hsp60遺伝子、ileS遺伝子、pyrG遺伝子、recA遺伝子、recG遺伝子等)、リボゾーム遺伝子(16Sリボゾーム遺伝子、23Sリボゾーム遺伝子)が挙げられ、これらのうちの1種であっても2種以上であってもよい。これらの遺伝子のヌクレオチド配列も、例えば、Gen Bank(NCBI)等の公共のデータベースより取得可能である。
【0085】
これらの中でも、本発明の方法で検出する遺伝子としては、ハウスキーピング遺伝子(例えば、gyrB遺伝子)が好ましい。
【0086】
上記のその他の指標、好ましくは、wzy遺伝子のOSB9特異的領域、wzx遺伝子のO116特異的領域、wzy遺伝子のO139特異的領域、wzy遺伝子のO147特異的領域、wzy遺伝子のO149特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる群(本明細書中、場合により「第2群」という)から選択される少なくとも1種の領域及び/又は遺伝子(より好ましくは、第2群から選択される5種以上、さらに好ましくは7種以上の領域及び/又は遺伝子)の検出方法としては、特に制限されず、それぞれ独立に、上記の第1の遺伝子、第2の遺伝子の検出で挙げた方法を適宜採用することができる。
【0087】
(マルチプレックスPCR)
本発明の方法において、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子(第1群の遺伝子)の検出と共に、上記のその他の指標(好ましくは、第2群の領域及び/又は遺伝子)の検出を行なう場合には、特に簡便に検出可能であるという観点から、上述の核酸増幅を行なうことことが好ましく、前記試料由来の核酸を鋳型として、プライマーセットI及びプライマーセットIIからなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットと、第2群に含まれる領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーセットのうちの少なくとも1種とを用いてマルチプレックスPCRを行なうことがさらに好ましい。
【0088】
以下、第1群及び第2群の遺伝子及び/又は領域についてマルチプレックスPCRを行なう場合の一態様を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0089】
〔プライマーセット〕
第2群の領域及び遺伝子において、1つのプライマーセット(すなわち、互いに異なる2つの部位(プライマー設計部位)にそれぞれハイブリダイズするプライマーの組み合わせ)によって増幅する範囲は、それぞれ独立に、各領域又は遺伝子内の一部分であっても、全範囲であってもよい。
【0090】
また、第2群の領域及び遺伝子において、増幅する範囲の塩基数、すなわち、マルチプレックスPCRで得られる増幅産物サイズ(PCR産物サイズ(bp))としては、第1群の遺伝子に対するプライマーセットで増幅する範囲の塩基数と合わせて、互いに異なる塩基数であればよく、互いに異なる数で、50~1500塩基であることが好ましく、100~1000塩基であることがより好ましく、110~990塩基であることがさらに好ましい。
【0091】
このようなプライマーセットを設計するプライマー設計部位、及びそれに対応するプライマーのヌクレオチド配列は、それぞれ、特に制限はなく、上記の増幅する範囲(塩基数)の条件を満たすように、上記ハイブリダイズの条件を満たすように、好ましくは各プライマーが他の部位や他のプライマーにハイブリダイズすることがないように(非特異反応が低減されるように)、また、GC含量が互いに近くかつ好ましい範囲内になるように、当業者であれば適宜選択、設計することができる。
【0092】
前記各プライマーの塩基数としては、それぞれ独立に、10塩基以上であることが好ましく、15~30塩基であることがより好ましく、17~30塩基であることがより好ましく、20~27塩基であることがさらに好ましい。
【0093】
このようなプライマーセットとして、より具体的には、第1群及び第2群の領域又は遺伝子において、プライマーが他の部位や他のプライマーにハイブリダイズすることがない、電気泳動等による各増幅産物の区別がより明確となる、各核酸増幅による増幅効率が互いに同等になるといった観点から、例えば、以下のプライマーセット:
wzy遺伝子のOSB9特異的領域に対しては、配列番号12のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Og9-F-プライマー)と、配列番号13のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Og9-R-プライマー)と、の組み合わせ、
wzx遺伝子のO149特異的領域に対しては、配列番号14のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Og149-F-プライマー)と、配列番号15のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Og149-R-プライマー)と、の組み合わせ、
wzy遺伝子のO139特異的領域に対しては、配列番号32のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Og139-F-プライマー)と、配列番号33のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Og139-R-プライマー)と、の組み合わせ、
wzy遺伝子のO147特異的領域に対しては、配列番号30のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Og147-F-プライマー)と、配列番号31のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Og147-R-プライマー)と、の組み合わせ、
wzy遺伝子のO116特異的領域に対しては、配列番号22のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Og116-F-プライマー)と、配列番号23のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Og116-R-プライマー)と、の組み合わせ、
Intiminをコードする遺伝子(eae遺伝子)に対しては、配列番号16のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(eae-F-プライマー)と、配列番号17のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(eae-R-プライマー)と、の組み合わせ、
エンテロトキシンLTをコードする遺伝子に対しては、配列番号18のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(LT-F-プライマー)と、配列番号19のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(LT-R-プライマー)と、の組み合わせ、
F4線毛をコードする遺伝子に対しては、配列番号24のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(F4-F-プライマー)と、配列番号25のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(F4-R-プライマー)と、の組み合わせ、
F18線毛をコードする遺伝子に対しては、配列番号28のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(F18-F-プライマー)と、配列番号29のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(F18-R-プライマー)と、の組み合わせ、
エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子に対しては、配列番号20のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(STa-F-プライマー)と、配列番号21のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(STa-R-プライマー)と、の組み合わせ、
エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子に対しては、配列番号34のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(STb-F-プライマー)と、配列番号35のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(STb-R-プライマー)と、の組み合わせ、
志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子に対しては、配列番号36のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(Stx2e-F-プライマー)と、配列番号37のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(Stx2e-R-プライマー)と、の組み合わせ、
gyrB遺伝子に対しては、配列番号26のヌクレオチド配列からなるフォーワードプライマー(GyrB-F-プライマー)と、配列番号27のヌクレオチド配列からなるリバースプライマー(GyrB-R-プライマー)と、の組み合わせ、
が挙げられる。
【0094】
上記の各プライマーセットによれば、上記のように菌株間で数塩基の欠失、挿入等による個体差は生じ得るため、それぞれ次の増幅産物:
wzy遺伝子のOSB9特異的領域では、好ましくは100~1000塩基(例えば923塩基)が増幅された増幅産物、
wzx遺伝子のO149特異的領域では、好ましくは100~1000塩基(例えば717塩基)が増幅された増幅産物、
wzy遺伝子のO139特異的領域では、好ましくは100~1000塩基(例えば289塩基)が増幅された増幅産物、
wzy遺伝子のO147特異的領域では、好ましくは100~1000塩基(例えば394塩基)が増幅された増幅産物、
wzy遺伝子のO116特異的領域では、好ましくは100~1000塩基(例えば159塩基)が増幅された増幅産物、
Intiminをコードする遺伝子(eae遺伝子)では、好ましくは100~1000塩基(例えば345塩基)が増幅された増幅産物、
エンテロトキシンLTをコードする遺伝子では、好ましくは100~1000塩基(例えば286塩基)が増幅された増幅産物、
F4線毛をコードする遺伝子では、好ましくは100~852塩基(例えば786塩基)が増幅された増幅産物、
F18線毛をコードする遺伝子では、好ましくは100~513塩基(例えば510塩基)が増幅された増幅産物、
エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子では、好ましくは100~219塩基(例えば212塩基)が増幅された増幅産物、
エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子では、好ましくは100~216塩基(例えば211塩基)が増幅された増幅産物、
志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子では、好ましくは100~1000塩基(例えば143塩基)が増幅された増幅産物、
gyrB遺伝子では、好ましくは100~1000塩基(例えば625塩基)が増幅された増幅産物、
が得られる。
【0095】
前記プライマーセットの組み合わせとしては、特に制限されず、第2群に含まれる領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーセットのうちの1種以上(好ましくは5種以上、さらに好ましくは7種以上)と、プライマーセットI及び/又はプライマーセットIIと、を目的に応じて適宜組み合わせることができる。マルチプレックスPCRの方法や反応条件、及び増幅産物の検出方法としては、これら複数のプライマーセットを用いること以外は、上記の増幅反応及び増幅産物の検出において述べた方法と同様である。
【0096】
これにより、対象の試料又は細菌中に目的の領域又は遺伝子、すなわち目的の指標が存在する場合には、これに前記プライマーがハイブリダイズし、前記プライマーセットに挟まれる領域を鋳型としてヌクレオチド断片が合成され、かかるヌクレオチド断片が増幅された増幅産物(PCR産物)を得ることができる。前記プライマーセットとして、例えば第1群又は第2群の領域若しくは遺伝子の検出のための全15種(例えば8種と7種とに分けてもよい)のプライマーセットを用いたマルチプレックスPCRによれば、前記試料又は細菌中に全15種の領域又は遺伝子が存在する場合には、互いに異なるサイズの15種の増幅産物を得ることができる。
【0097】
[本発明の方法の応用]
本発明の方法によって第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子を検出することで、検出された又は判別された細菌について多剤耐性の傾向にあるか否かという情報を得ることができ、様々な用途に用いることができる。
【0098】
さらに、本発明の方法によって、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子と他の指標とを組み合わせて検出した場合には、検出された又は判別された細菌について、第1の遺伝子及び/又は第2の遺伝子の検出の有無による多剤耐性の傾向にあるか否かという情報に加えて、他の指標に基づく情報、例えば、O群血清型、毒素産生関連遺伝子の有無、表面タンパク質関連遺伝子等の情報を同時に得ることができる。
【0099】
このような本発明の方法の応用の一態様としては、例えば、上記のマルチプレックスPCRを行ない、その増幅産物の検出方法として、電気泳動等によって増幅産物を分離して検出する方法を採用することにより、増幅産物のバンドパターンと、得られた細菌の情報(例えば、前記指標で示される多剤耐性、O群血清型、毒素産生関連遺伝子の有無、表面タンパク質関連遺伝子等の他、その細菌の分離年や分離地域等)とを紐づけすることが可能となる。さらに、このように紐づけされたデータをデータ集として蓄積しておき、ある時、ある地点で新たな細菌が分離された場合には、かかる細菌についても上記のマルチプレックスPCRを行ない、得られたバンドパターンを、蓄積されたデータ集に照会して比較することで、容易に、その新たに分離された細菌又はそれに近い細菌の過去の発生年や分布状況等を含めた性状を把握することが可能となる(
図1)。これにより例えば、より迅速に多剤耐性細菌に対する対策を立てることができ、感染の拡大を抑制することも可能となる。
【0100】
<プライマーキット>
本発明は、下記(i)-1~(ii)-1のプライマーセット:
(i)-1 配列番号1のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第1のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットI
(ii)-1 配列番号2のヌクレオチド配列、配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列、又は配列番号2のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる第2のコンセンサス領域の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットII
からなる群から選択される少なくとも1種のプライマーセットを含む、プライマーキットも提供する。本発明のプライマーキットに含まれるプライマーセットI及びプライマーセットIIとしては、それぞれ、その好ましい態様も含めて、上述したとおりである。
【0101】
また、本発明のプライマーキットとしては、wzy遺伝子のOSB9特異的領域、wzx遺伝子のO116特異的領域、wzy遺伝子のO139特異的領域、wzy遺伝子のO147特異的領域、wzy遺伝子のO149特異的領域、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、F18線毛をコードする遺伝子、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子、及びgyrB遺伝子からなる第2群から選択されるいずれかの領域又は遺伝子の少なくとも一部を増幅可能なプライマーの組み合わせであるプライマーセットのうちの少なくとも1種をさらに含むことも好ましい。これらのプライマーセットとしても、それぞれ、その好ましい態様も含めて、上述したとおりである。
【0102】
本発明のプライマーキットは、上記の本発明の検出方法及び判別方法に好適に用いることができる。本発明のプライマーキットに含まれる各プライマーとしては、それぞれ、緩衝液、安定剤、保存剤、防腐剤等の他の成分が添加してあってもよい。また、本発明のプライマーキットとしては、前記試料の希釈液;核酸を抽出、精製するための試薬;核酸増幅(PCR、マルチプレックスPCR等)に必要な酵素、緩衝液、pH調整剤等の試薬;検出工程に必要な試薬;標準核酸;使用説明書等をさらに備えていてもよい。
【実施例0103】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
<参考試験1> 薬剤耐性の解析
1999年~2019年に日本国内の31都道府県で大腸菌症や浮腫病の豚から分離された大腸菌1,708株について、下記の表1に記載の24種類の抗菌剤に対する薬剤耐性を試験した。表1に記載の抗菌剤のうち、CL、APM、及びBCMについては、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)ガイドラインやEUCAST(European Committee on Antimicrobial Suceptibility Testing)ガイドラインに記載された寒天平板希釈法に従って試験を行ない、それぞれ、各ガイドラインに記載された抗菌剤濃度で生残した大腸菌を当該抗菌剤に対して耐性であると判定した。それ以外の21種類の抗菌剤については、Kilby-Bauerディスク拡散法(CLSIガイドライン、EUCASTガイドライン)に従って試験を行ない、それぞれ、各ガイドラインに記載された直径以下の阻止円を示した又は阻止円を形成しなかった大腸菌を当該抗菌剤に対して耐性であると判定した。下記の表1に、薬剤耐性の試験に用いた24種類の抗菌剤の略号、名称、及び系統分類を示す。
【0105】
【0106】
試験した大腸菌のうち、O群血清型が病原性大腸菌の主要なO群血清型であるO139(n=441)、O149(n=348)、O116(n=233)、及びOSB9(n=133)の各大腸菌群、O群血清型が判別不能な大腸菌群(OUT、n=137)、及び前記以外の大腸菌群(Others、n=416)において、各抗菌剤に対して耐性であった菌の割合(耐性菌率[%])を示すグラフを
図2に示す。また、これら各大腸菌群について、24種類のうちの耐性があった抗菌剤数に対して分布する株の割合(分布率[%])を示すグラフを
図3に示す。
図2に示したように、病原性大腸菌O139、O149、O116、及びOSB9、特にO116及びOSB9で、各抗菌剤(例えば、GM、CPFX、LVFX、GFLX)に対する耐性菌率が高くなった。なお、これらの病原性大腸菌における耐性菌率は、健康豚由来(非病原性)大腸菌と比較してかなり高値であった。さらに、
図3に示したように、これらの病原性大腸菌(特に、O116及びOSB9等)は複数の剤に対して耐性を示す分布となり、多剤耐性傾向が強かった。
【0107】
<参考試験2> 全ゲノム解析
上記の参考試験1の大腸菌1,708株より、分離された都道府県、分離年、遺伝子型が異なる296株を選抜した。これら各株を培養して菌体を回収し、DNeasy Blood and Tissue Kit(Qiagen社製)を用いてゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAからIllumina社のTruSeq DNA NanoによりDNAライブラリを調製し、Illumina社のHiSeq X Ten システムを用いて、ペアエンド法により、全ゲノムシーケンスを行った。得られたシーケンスデータについて、プログラムPlatanus-Bを用いてドラフトゲノム配列を取得し、得られたドラフトゲノム配列をDFAST(https://dfast.ddbj.nig.ac.jp/)及びプログラムRoaryで解析したころ、同定された既知薬剤耐性遺伝子は、79種類、のべ3,130個であった。
【0108】
<試験1> 多剤耐性細菌特異的遺伝子の選抜
先ず、上記の参考試験1の大腸菌1,708株より選抜する株を935株に増やし、参考試験2と同様にして、全ゲノムシーケンスを行った。得られたシーケンスデータについて、プログラムPlatanus-Bを用いてドラフトゲノム配列を取得し、得られたドラフトゲノム配列をDFAST(https://dfast.ddbj.nig.ac.jp/)及びプログラムRoaryで解析し、薬剤耐性遺伝子であるか否かを問わず、全935株に存在する50,318個の遺伝子を同定した。
【0109】
次いで、935株のうち、上記の参考試験1で耐性であった抗菌剤数が9以上の株(以下、「多剤耐性菌株(9)」という)が有意に保有する遺伝子を探索した。なお、参考試験1の結果としては、表1に記載の抗菌剤のうち、21種類の抗菌剤(ABPC、PIPC、CFZ、CXM、CTX、CFPM、CFX、LMOX、AZT、IPM、MEPM、GM、KM、SM、TC、CP、NA、CPFX、LVFX、GFLX、ST)に対する試験結果を用いた。具体的には、先ず、上記で同定した50,318遺伝子より、プログラムScoaryを用いて、その遺伝子を保有している多剤耐性菌株(9)の数が多い20個の遺伝子を選抜した。次いで、選抜した20個の遺伝子のうち、1~3個の遺伝子を選抜した場合に、そのうち1個以上の遺伝子を保有する株の分布が、多剤耐性菌株(9)の集団において最大化する遺伝子の組み合わせを検討した。その結果、多剤耐性菌株(9)の75%(さらには、上記の参考試験1で耐性であった抗菌剤数が12以上の株の97.4%)が一方又は両方を保有する2つの遺伝子として、配列番号3のヌクレオチド配列で示される遺伝子(g27723)及び配列番号2のヌクレオチド配列で示される遺伝子(g33026)を見出した。下記の表2に、全935株において、耐性があった抗菌剤数とg27723及び/又はg33026を保有する株の割合、並びに、g27723及びg33026をいずれも保有しない株(非保有)の割合との関係を示す。また、
図4に、全935株について、21種類のうちの耐性があった抗菌剤数に対して分布する株数(分布数[株]、上段)と、そのうち、g27723及びg33026のうちの少なくともいずれかを保有する株の割合(100分率[%]、下段)とを示す。
【0110】
【0111】
表2に示したように、9~17剤の抗菌剤に耐性を示した株の75.0%が、g27723及び/又はg33026を保有しており(感度75.0%)、0~8剤の抗菌剤にしか耐性を示さなかった株の77.2%は、g27723及びg33026のいずれも保有していなかった(特異度77.2%)。また、12~17剤の抗菌剤に耐性を示した株の97.4%が、g27723及び/又はg33026を保有しており(感度97.4%)、0~11剤の抗菌剤にしか耐性を示さなかった株の70.0%は、g27723及びg33026のいずれも保有していなかった(特異度70.0%)。9~17剤の抗菌剤に耐性を示した株とg27723及び/又はg33026の保有率との間、並びに、12~17剤の抗菌剤に耐性を示した株とg27723及び/又はg33026の保有率との間には、どちらも、それぞれ高い相関が認められた(フィッシャーの正確確率検定においてp<0.001)。また、
図4に示したように、これら2種の遺伝子の一方又は両方を保有する株は、複数の剤に対して耐性を示す分布となった。これらより、g27723及びg33026は、多剤耐性菌株に特異的な遺伝子であることが確認された。
【0112】
<試験2> 多剤耐性菌の検出(実施例)
(プライマーの設計)
上記で見出した2遺伝子(g27723、g33026)を増幅するためのプライマーセットをそれぞれ作成した。作成したプライマーセットのプライマー及びそのヌクレオチド配列を示す配列番号を下記の表3に示す。また、表3には、大腸菌において各プライマーセットで増幅され得るヌクレオチド断片の期待されるサイズ(PCR産物サイズ(bp))も合わせて示す。
【0113】
【0114】
また、wzy遺伝子又はwzx遺伝子の、病原性大腸菌の主要なO群血清型であるOSB9、O116、O139、O147、及びO149に特異的領域;最近の病原性鑑定で検査されている主要な指標である、Intiminをコードする遺伝子(eae遺伝子)、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子(下記の表中、LT)、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子(下記の表中、Sta)、F4線毛をコードする遺伝子(下記の表中、F4)、F18線毛をコードする遺伝子(下記の表中、F18)、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子(下記の表中、STb)、及び志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子(下記の表中、Stx2e);ハウスキーピング遺伝子であるgyrB遺伝子についても、これらを特異的に増幅するためのプライマーを作成した。作成したプライマーセットのプライマー及びそのヌクレオチド配列を示す配列番号を下記の表4及び表5に示す。表4~5には、大腸菌において各プライマーセットで増幅され得るヌクレオチド断片の期待されるサイズ(PCR産物サイズ(bp))も合わせて示す。
【0115】
【0116】
【0117】
表4~5に記載のプライマーのうち、wzy遺伝子のOSB9特異的領域、wzy遺伝子のO149特異的領域、wzx遺伝子のO116特異的領域、wzy遺伝子のO147特異的領域、wzy遺伝子のO139特異的領域、及びgyrB遺伝子に対するプライマーは、それぞれ、Iguchi et al.,J.Clin.Microbiol.,53,Number 8,p.2427-2432(2015)若しくはIguchi et al.,J.Clin.Microbiol.,58,Issue 11,e01493-20(2020)に記載のプライマー又はその鎖長を変更したものであり、Intiminをコードする遺伝子、エンテロトキシンLTをコードする遺伝子、F4線毛をコードする遺伝子、及びF18線毛をコードする遺伝子に対するプライマーは、それぞれ、Vu-Khac et al.,Vet.J.,174,p176-187(2007)に記載のプライマー又はその鎖長を変更したものであり、エンテロトキシンSTaをコードする遺伝子、エンテロトキシンSTbをコードする遺伝子、及び志賀毒素Stx2eをコードする遺伝子に対するプライマーは、それぞれ、本発明者が新規に作成したものである。
【0118】
(マルチプレックスPCR)
豚より分離した、実際に耐性のある抗菌剤が既知の多剤耐性大腸菌8株(21種類の抗菌剤(ABPC、PIPC、CFZ、CXM、CTX、CFPM、CFX、LMOX、AZT、IPM、MEPM、GM、KM、SM、TC、CP、NA、CPFX、LVFX、GFLX、ST)のうち、株番号1は11剤に対して耐性;株番号2は9剤に対して耐性;株番号3は11剤に対して耐性;株番号4は13剤に対して耐性;株番号5は7剤に対して耐性;株番号6は7剤に対して耐性;株番号7は15剤に対して耐性;株番号8は9剤に対して耐性)を培養して菌体を回収し、アルカリボイル法を用いてDNAを抽出し、鋳型DNAとした。DNAポリメラーゼ(KOD FX、東洋紡株式会社製)1U、dNTPs各0.4mM、プライマー各0.3μM、鋳型DNA 100ngを含む50μLの反応液を調製し、94℃で120秒熱変性させた後、熱変性:98℃で10秒、アニール:55℃で30秒、伸長反応:68℃で60秒を30サイクルの条件で、核酸増幅反応(PCR)を行なった。プライマーは、表3及び表4に記載のプライマーの組み合わせ(プライマーセット8セット:PCR-1)と、表5に記載のプライマーの組み合わせ(プライマーセット7セット:PCR-2)とに分けてそれぞれ行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲル中で電気泳動することにより、そのサイズを確認した。
【0119】
PCR-1のプライマーの組み合わせ及びPCR-2のプライマーの組み合わせで得られたPCR産物の2%アガロースゲル電気泳動写真を、
図5A及び
図5Bにそれぞれ示す。
図5A及び
図5B中、レーンMは100bpラダーマーカーを示し、レーン1~8は大腸菌の株番号(
図5A及び
図5Bで共通)を示す。このように、g27723及び/又はg33026を指標とすることで、多剤耐性である大腸菌(特に株番号1(11剤耐性)、3(11剤耐性)、4(13剤耐性)、7(15剤耐性)、8(9剤耐性))を迅速に検出可能であり、また、他の指標(血清型、毒素産生関連遺伝子、表面タンパク質関連遺伝子等)と組み合わせて、より多面的観点から多剤耐性細菌を検出したり細菌の情報を得ることも簡便に可能である。
以上説明したように、本発明によれば、多剤耐性細菌を簡便かつ迅速に検出可能な多剤耐性細菌検出方法、及びこれに好適に用いることができるプライマーキットを提供することが可能となる。