(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013656
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20230119BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230119BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230119BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B7/00 C
C22B1/02
F27D1/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117996
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 貴之
【テーマコード(参考)】
4K001
4K051
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA15
4K001DA05
4K001GA07
4K001GB12
4K001HA01
4K001HA09
4K001JA01
4K001KA06
4K051HA00
(57)【要約】
【課題】廃リチウムイオン電池等を含む原料から、有価金属を安全にかつ効率的に回収することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、有価金属を含む原料から該有価金属を製造する方法であって、少なくともLi、Al、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、原料に対して還元熔融処理を施して有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において原料にCaを含有するフラックスを添加し、還元熔融工程では、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が0.5以上0.65以下となるようにし、かつ、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下として還元熔融処理を施す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含む原料から該有価金属を製造する方法であって、
少なくともリチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、
前記原料に対して還元熔融処理を施して、有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、
前記還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、
前記準備工程及び前記還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、前記原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加し、
前記還元熔融工程では、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が0.5以上0.65以下となるようにし、かつ、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下として還元熔融処理を施す、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記還元熔融工程での処理において使用する熔融炉には、炉壁を外側から冷却する手段が設けられている、
請求項1又は2に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記還元熔融処理に先立ち、前記原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とする酸化焙焼工程をさらに有し、得られた酸化焙焼物を該還元熔融処理に供する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池等の原料から有価金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。
【0003】
例えば、外装缶は、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む。
【0004】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)を資源として再利用することが求められている。
【0005】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属については極力酸化してスラグとする一方で、有価金属についてはその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0006】
特許文献1には、ニッケルとコバルトを含有するリチウムイオン電池の廃電池からニッケルとコバルトを含む有価金属を回収する方法が開示されている。具体的には、廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、熔融物に対して又は熔融工程前の廃電池に対して行われて廃電池を酸化処理する酸化工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程とを有し、熔融工程では酸化カルシウムを添加してスラグの液相線温度を下げることで有価金属を回収するプロセスを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の技術でも課題が残されている。例えば、特許文献1に開示の方法では、フラックスを添加してスラグ液相線温度を下げ過ぎると、処理炉の炉壁の耐火物が浸食されてしまうという問題がある。このような浸食が起きると、炉の外側に処理物が漏洩するリスクがあり安全上問題であるともに、炉壁の耐火物の保全に要する費用が莫大になり、有価金属を安価に回収することができない。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池等を含む原料から、有価金属を安全にかつ効率的に回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた。その結果、原料を還元熔融処理して生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が特定の範囲となるようにし、それに基づき、スラグ加熱温度を特定の範囲に制御して還元熔融処理を施すことで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、有価金属を含む原料から該有価金属を製造する方法であって、少なくともリチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、前記原料に対して還元熔融処理を施して、有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物を得る還元熔融工程と、前記還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、前記準備工程及び前記還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、前記原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加し、前記還元熔融工程では、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が0.5以上0.65以下となるようにし、かつ、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下として還元熔融処理を施す、有価金属の製造方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、有価金属の製造方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記還元熔融工程での処理において使用する熔融炉には、炉壁を外側から冷却する手段が設けられている、有価金属の製造方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記還元熔融処理に先立ち、前記原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とする酸化焙焼工程をさらに有し、得られた酸化焙焼物を該還元熔融処理に供する、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等を含む原料から、有価金属を安全にかつ効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図2】熱力学計算ソフト(FactSage)によるAl
2O
3-CaO-Li
2O系の状態図を示す図であり、実施例における熔融試験結果をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0018】
≪1.有価金属の回収方法≫
本実施の形態に係る有価金属を製造する方法は、少なくとも、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料から有価金属を分離回収する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0019】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、以下の工程;リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含む原料を準備する工程(準備工程)と、準備した原料に対して還元熔融処理を施して、有価金属を含有する合金とスラグとを含む還元物(熔融物)を得る工程(還元熔融工程)と、得られた還元物からスラグを分離して合金を回収する工程(スラグ分離工程)と、を有する。
【0020】
この方法では、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加する。そして、還元熔融工程では、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が0.5以上0.65以下となるようにし、かつ、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下として還元熔融処理を施す、ことを特徴としている。
【0021】
ここで、有価金属は回収対象となるものであり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなり、銅、ニッケル、コバルト及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。なお、以下では、有価金属として、銅、ニッケル、及びコバルトを例に挙げて説明する。
【0022】
[準備工程]
準備工程では、処理対象である原料を準備する。原料は、有価金属を回収する処理対象となるものであり、上述したように、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含むと共に、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及びコバルト(Co)からなる群から構成される少なくとも1種の有価金属を含む。原料は、これらの成分(Li、Al、Cu、Ni、Co)を金属の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでいてもよい。また、原料は、これらの成分以外の無機成分や有機成分を含んでいてもよい。
【0023】
原料として、その対象は特に限定されず、廃リチウムイオン電池、誘電材料(コンデンサ)、磁性材料等が例示される。また、後述する還元熔融工程での処理に適したものであれば、その形態は限定されない。また、準備工程において、原料に対して粉砕処理等の処理を施して、適した形態にしてもよい。さらに、準備工程において、原料に対して熱処理や分別処理等の処理を施して、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0024】
また、準備工程では、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加することができる。添加するフラックスについては、詳しくは後述する。なお、本実施の形態に係る方法では、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、フラックスを添加する。
【0025】
[還元熔融工程]
還元熔融工程では、準備した原料を熔融炉内に装入し、その原料を加熱して還元熔融処理を施すことによって還元物を得る。この還元物は、合金とスラグとを分離して含む。
【0026】
還元熔融処理は、熔融炉内において、原料を加熱して還元熔融することにより還元物とする処理である。この処理の目的は、原料中に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化物とする一方で、有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融して一体化した合金として回収することである。還元熔融処理後には、熔融した状態の合金が得られる。なお、還元熔融処理に先立ち、後述する酸化焙焼の処理を行う場合には、得られる酸化焙焼物を熔融炉に装入し、加熱して還元熔融する。これにより、酸化焙焼処理により酸化した付加価値の低い金属(Al等)を酸化物のままに維持する一方で、有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融して一体化した合金として回収する。
【0027】
還元熔融処理においては、還元剤を導入することが好ましい。また、還元剤としては、炭素及び/又は一酸化炭素を用いることが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属(Cu、Ni、Co)を容易に還元する能力がある。例えば1モルの炭素で、2モルの有価金属酸化物(銅酸化物、ニッケル酸化物等)を還元することができる。また、炭素又は一酸化炭素を用いる還元手法は、金属還元剤を用いる手法(例えばアルミニウムを用いたテルミット反応法)に比べて安全性が極めて高い。
【0028】
炭素としては、人工黒鉛及び/又は天然黒鉛を使用することができる。また、不純物コンタミネーションのおそれが無ければ、石炭やコークスを使用することができる。
【0029】
還元熔融により生成する合金は、上述したように、有価金属を含有する。そのため、有価金属を含む成分(合金)とその他の成分とを、還元物中において分離させることが可能となる。これは、付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いためである。例えば、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまり、アルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため、付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグとなり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて金属(合金)となる。このようにして、付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと合金とに効率的に分離できる。
【0030】
ここで、還元熔融処理に際しては、原料にカルシウム(Ca)を含有するフラックスを添加することができる。本実施の形態に係る方法では、準備工程及び還元熔融工程のいずれか一方又は両方の工程において、フラックスを添加する。フラックスは、カルシウム(Ca)を主成分とするものであり、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。ただし、処理対象の原料中にカルシウム成分が必要量含まれている場合には、フラックスは添加しなくてもよい。
【0031】
そして、本実施の形態に係る方法では、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が0.5以上0.65以下となるように還元熔融処理を施すことを特徴とする。
【0032】
リチウム(Li)及びカルシウム(Ca)は、スラグの熔融温度の低下に寄与する。そのため、スラグの成分を上述した範囲内に制御することで、スラグの熔融温度を、例えば1600℃以下にすることができる。また、スラグ中のカルシウム(Ca)が多いと、原料にリンが含まれる場合に、そのリンを除去し易くなる。これは、リンが酸化されると酸性酸化物になるのに対して、カルシウム(Ca)は酸化されると塩基性酸化物になるためである。したがって、生成するスラグ中のカルシウム(Ca)量が多いほど、スラグ組成が塩基性となり、その結果としてリンをスラグに含有させて除去することが容易となる。
【0033】
生成するスラグの成分組成に関して、酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が過度に低いと、具体的にはその質量比が0.5未満となると、スラグの液相線温度が下がり過ぎて融点が例えば1400℃未満となり、熔融炉の炉壁を冷却してもスラグのコーティング層が形成され難くなる。ここで、得られる銅、ニッケル、及びコバルトから構成される合金の融点はおよそ1300℃~1400℃であることから、例えば、メタル温度が1400℃~1500℃となるように操業を行うには、すなわち、スラグからメタルに熱を与えるには、スラグ温度を1500℃~1600℃とする必要がある。ところが、スラグの融点が1400℃未満では、コーティングを効果的に形成させることができず、炉壁の耐火物が浸食されることがある。
【0034】
また、酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が過度に高いと、具体的にはその質量比が0.65を超えると、スラグの液相線温度が高くなり、熔融処理物である原料を十分に熔融できずに効率的に有価金属を回収できないことがある。
【0035】
このことから、還元熔融処理に際しては、スラグの酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が0.5以上0.65以下となるように処理する。これにより、還元熔融処理において熔融炉の炉壁を構成する耐火物の浸食を抑制しながら安全性高く処理することができるとともに、有価金属を高い回収率で回収することができる。
【0036】
スラグ成分(例えばAl、Li、Ca)の量は、原料の組成や、原料に添加するフラックスの添加量を調整することで容易に制御することができる。具体的には、例えば、スラグ中のカルシウム(Ca)量を調整するために、カルシウム(Ca)を含有するフラックスを処理物に添加し、その添加量を制御することで調整できる。なお、上述したように、カルシウムを含有するフラックスとしては、例えば、酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。また、スラグ中のリチウム(Li)やアルミニウム(Al)量を調整するために、準備工程において原料の組成を制御することで行うことができる。
【0037】
また、還元熔融処理においては、加熱温度(スラグ加熱温度)を1400℃以上1600℃以下とする。また好ましくは、スラグ加熱温度を1500℃以上1600℃以下とする。スラグ加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、熔融炉を構成する坩堝等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下するおそれがある。一方で、スラグ加熱温度が1400℃未満になると、生成するスラグと合金との分離性が悪化し、有価金属の回収率が低下する可能性がある。
【0038】
熔融炉としては、炉壁を外側から水冷等により冷却する機構を備えるものであることが望ましい。炉壁を外側から冷却することで、内側の耐火物表面と接触しているスラグの温度をスラグの液相線温度未満に下げることができ、耐火物表面にスラグの固化層(スラグコーティング層)が効果的に形成されるようになる。このようにスラグコーティング層が形成されると、耐火物が保護され、耐火物の浸食をより効果的に防ぐことが可能となる。
【0039】
なお、還元熔融処理に先立って酸化焙焼処理(酸化焙焼工程)を行うようにした場合には、還元熔融処理において酸化処理を行う必要はない。ただし、酸化焙焼処理での酸化が不足している場合や、酸化度のさらなる調整を目的とする場合には、還元熔融処理において、あるいは還元熔融処理の後に、追加の酸化処理を行ってもよい。追加の酸化処理を行うことで、より厳密な酸化度の調整が可能となる。
【0040】
追加で酸化処理を行うときの手法としては、例えば、還元熔融処理で生成する熔融物に酸化剤を吹き込む手法が挙げられる。具体的には、還元熔融処理で生成する熔融物に金属製チューブ(ランス)を挿入し、バブリングにより酸化剤を吹き込むことによって酸化処理を行う。この場合、空気、純酸素、酸素冨化気体等の酸素を含む気体を酸化剤に用いることができる。
【0041】
また、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等の有害物質が発生することがあるが、公知の排ガス処理等の処理を施すことで、有害物質を無害化することができる。
【0042】
[酸化焙焼工程]
本実施の形態に係る方法では、必要に応じて、還元熔融処理に先立って、原料を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る工程(酸化焙焼工程)をさらに設けることができる。
【0043】
酸化焙焼処理(酸化処理)は、原料を酸化焙焼して酸化焙焼物とする処理であり、原料中に炭素が含まれる場合であってもその炭素を酸化除去し、還元熔融処理での有価金属の合金一体化を促進させることを可能にする。具体的に、還元熔融処理においては、有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子となるが、このとき、装入物に含まれる炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際の物理的な障害となり、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによるメタル(合金)とスラグとの分離性を妨げ、有価金属の回収率を低下させることがある。この点、還元熔融処理に先立ち、原料に対して酸化焙焼処理を施しておくことで、原料中の炭素を有効に除去でき、それにより、還元熔融処理にて生成する熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行して、有価金属の回収率をより一層高めることができる。
【0044】
酸化焙焼処理において、酸化度の調整は次のようにして行うことができる。すなわち、上述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼処理で、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで処理を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで処理を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグとして回収されることがない程度に酸化度を留めることが好ましい。
【0045】
酸化焙焼処理において酸化度を調整するにあたっては、適量の酸化剤を導入することが好ましい。特に、廃リチウムイオン電池を含む原料を用いる場合には、酸化剤を導入して処理することが好ましい。リチウムイオン電池は、外装材としてアルミニウムや鉄等の金属を含んでいる。また、正極材や負極材としてアルミニウム箔や炭素材を含んでいる。さらに、集合電池の場合には、外部パッケージとしてプラスチックが用いられている。これらはいずれも還元剤として作用する材料であることから、酸化剤を導入することで、酸化度を適切な範囲内に調整することができる。
【0046】
酸化剤としては、炭素や付加価値の低い金属(Al等)を酸化できるものであれば、特に限定されないが、取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、酸化焙焼処理の対象となる各物質の酸化に必要な量(化学当量)の1.2倍程度(例えば1.15倍~1.25倍程度)が目安となる。
【0047】
酸化焙焼処理の加熱温度としては、700℃以上1100℃以下とすることが好ましく、800℃以上1000℃以下とするがより好ましい。加熱温度を700℃以上とすることで、炭素の酸化効率をより一層に高めて、酸化時間を短縮することができる。また、加熱温度を1100℃以下とすることで、熱エネルギーコストを抑制でき、酸化焙焼の効率を高めることができる。
【0048】
酸化焙焼処理は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また、還元熔融処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉としては、粉砕物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で処理を行うことが可能である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例として、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0049】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程では、還元熔融処理により得られた還元物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収する。スラグと合金とはその比重が異なり、合金に比べ比重の小さいスラグは合金の上部に集まることから、比重分離により効率的に分離回収することができる。
【0050】
なお、スラグ分離工程にて還元物からスラグを分離して合金を回収した後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、硫化工程で得られた硫化物と合金の混在物を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属合金に対して、湿式製錬プロセスを行ってもよい。湿式製錬プロセスにより、不純物成分を除去し、有価金属(Cu、Ni、Co)を分離精製してそれぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0051】
以上のように、本実施の形態に係る方法では、還元熔融処理において、得られるスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が0.5以上0.65以下となるようにする。このことにより、スラグの熔融温度が、少なくとも1600℃以下、例えば1500℃以下となり、スラグを低粘性化することができる。そして、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下、好ましくは1500℃以上1600℃以下として還元熔融処理を施す。
【0052】
このようにすることで、例えば、スラグの熔融温度(融点)が1500℃であるときには、例えばスラグ加熱温度を1600℃とすることで、十分に低粘性化したスラグを得ることができ、効率良くスラグとメタルを分離することができる。
【0053】
また、スラグの融点を下げ過ぎないことで、スラグと炉壁耐火物の間にコーティングを付けることができ、これが熔融炉側壁の耐火物を保護して、高い安全性でもって安定した操業を行うことが可能となる。
【0054】
このとき、スラグ加熱温度は好ましくは1500℃以上となるため、メタル温度がおよそ1400℃以上となり、メタルの操業温度がメタル融点以上となることを確保でき、メタルの流動性も維持できる。なお、得られる合金として、その融点が1400℃以下の合金をその対象とすることが好ましい。
【0055】
≪2.廃リチウムイオン電池から有価金属を製造する方法≫
本実施の形態に係る方法において、処理対象である原料としては、少なくともリチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属を含有する限り、限定されない。その中でも、原料としては、廃リチウムイオン電池を含むものであることが好ましい。
【0056】
廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を原料として用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。なお、廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0057】
図1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を製造する方法の流れの一例を示す工程図である。
図1に示すように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除外する廃電池前処理工程(S1)と、廃電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程(S2)と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程(S3)と、酸化焙焼物を還元熔融して合金化する還元熔融工程(S4)と、還元熔融処理で得られた還元物からスラグを分離して合金を回収するスラグ分離工程(S5)と、を有する。
【0058】
また、図示しないが、スラグ分離工程(S5)の後に、得られた合金を硫化する硫化工程やその硫化工程で得られた硫化物と合金との混在物を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。各工程の詳細を以下に説明する。
【0059】
(廃電池前処理工程)
廃電池前処理工程S1は、原料の廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化、並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液等を有している。そのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発のおそれがあり危険であるため、何らかの方法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また、外装缶は、金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されていることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的に容易である。このように、廃電池前処理工程(S1)において、電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0060】
廃電池前処理工程(S1)における処理の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また、廃電池を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0061】
(粉砕工程)
粉砕工程S2では、廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2での粉砕処理は、乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的としている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0062】
具体的な粉砕方法は、特に限定されるものではない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0063】
なお、外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は、軽度の粉砕で容易に粉状となるため、これを効率的に回収することができる。また、磁力選別によって外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
【0064】
廃電池前処理工程S1と粉砕工程S2とは、これらを併せて上述した「準備工程」に相当する。
【0065】
(酸化焙焼工程)
酸化焙焼工程S3では、粉砕工程S2で得られた粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。この工程は、上述した「酸化焙焼工程」に相当する工程であり、詳細はそこで説明したとおりである。
【0066】
(還元熔融工程)
還元熔融工程S4では、酸化焙焼工程S3で得られた酸化焙焼物に対して還元熔融処理を施して還元物を得る。この工程は、上述した「還元熔融工程」に相当する工程であり、詳細はそこで説明したとおりである。
【0067】
特に、本実施の形態に係る方法では、還元熔融処理において、生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)で表される質量比が0.5以上0.65以下となるようにし、かつ、スラグ加熱温度を1400℃以上1600℃以下として処理することを特徴としている。これにより、熔融炉側壁を構成する耐火物の浸食を抑制しながら安全性高く処理することができるとともに、有価金属を高い回収率で回収することができる。
【0068】
(スラグ分離工程)
スラグ分離工程S5では、還元熔融工程S4で得られた還元物からスラグを分離して合金を回収する。この工程は、上述した「スラグ分離工程」に相当し、詳細はそこで説明したとおりである。
【0069】
なお、スラグ分離工程後に、硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。さらに、得られた有価金属合金に対して湿式製錬プロセスを行ってもよい。硫化工程、粉砕工程、及び湿式製錬プロセスの詳細は上述したとおりである。
【実施例0070】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
[有価金属の回収処理の流れ(各工程の操作)について]
リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及び有価金属(Cu,Ni,Co)を含む廃リチウムイオン電池を原料として用いて、有価金属を回収する処理を行った。
【0072】
(廃電池前処理工程及び粉砕工程)
先ず、廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の角形電池の使用済み電池、及び電池製造工程で回収した不良品を用意した。そして、この廃リチウムイオン電池を塩水中に浸漬して放電させた後、水分を除去し、260℃の温度で大気中にて焙焼することによって電解液を分解除去し、電池内容物を得た。
【0073】
次に、電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター:氏家製作所社製)により粉砕して粉砕物を得た。
【0074】
(酸化焙焼工程)
次に、得られた粉砕物を、ロータリーキルンにおいて、大気中、900℃の加熱温度で180分間の酸化焙焼を行った。
【0075】
(還元熔融工程)
次に、得られた酸化焙焼物に、還元剤として黒鉛粉を有価金属(Cu、Ni、Co)の合計モル数の0.6倍のモル数(すなわち、有価金属を還元するのに必要なモル数の1.2倍の黒鉛粉)だけ添加し、さらにフラックスとして酸化カルシウム(CaO)を添加した。フラックスについては、還元熔融処理により生成するスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比が、下記表1に示す値となるような量を添加し、混合した。
【0076】
また、還元熔融処理を行う熔融炉として、炉壁を水冷ジャケットにより外側から冷却できるサブマージドアーク炉を使用した。各試験試料について、下記表1に示す所定の還元熔融温度(スラグ加熱温度)に加熱して還元熔融処理を行い、有価金属を合金化して、合金とスラグとを得た。
【0077】
(スラグ分離工程)
得られた還元物からスラグを分離して、合金を回収し、回収合金とした。
【0078】
[スラグの成分分析について]
還元物から分離したスラグの成分分析を次のようにして行った。すなわち、得られたスラグを冷却した後に粉砕し、蛍光X線により分析を行った。
【0079】
(有価金属回収率)
有価金属(Co)の回収率を、下記式1に基づいて算出した。なお、回収合金中の成分分析は、蛍光X線により行った。
有価金属の回収率(%)=
(回収合金中のCo重量)÷(回収合金中のCo重量+スラグ中のCo重量)×100
・・・(式1)
【0080】
[評価結果について]
下記表1に、得られるスラグ中の酸化アルミニウム/(酸化アルミニウム+酸化カルシウム+酸化リチウム)の質量比を変え、スラグ加熱温度1400℃及び1600℃にて加熱して処理したときのコバルト回収率の結果と、炉壁へのスラグコーティング層形成の有無の結果を示す。なお、スラグコーティング層の形成有無の確認は、これらの試験終了後にサブマージドアーク炉の通電を停止して、目視により行った。
【0081】
また、
図2は、Al
2O
3-CaO-Li
2O系スラグの状態図であり、そこに本試験で得られたスラグコーティング層の形成有無の結果をプロットした。なお、
図2中の破線は、熱力学計算ソフト(FactSage)により計算された液相線を示す。
【0082】
【0083】
表1の結果からわかるように、実施例1~6では、熔融炉の炉壁にスラグコーティング層が形成されて耐火物が保護されており、かつスラグとメタルの分離性も良好であり、全ての試料においてコバルト回収率が95%以上となる良好な結果が得られた。
【0084】
一方で、比較例1及び2では、いずれもスラグコーティング層が形成されておらず、耐火物が保護されていない状態であった。このことは、当該組成におけるスラグの液相線温度が低すぎ、推定されるスラグ融点(推定スラグ融点)が比較例1では1250℃、比較例2では1300℃であったため、炉壁を冷却してもスラグが固化しなかったと推察され、そのためにスラグコーティング層が形成されなかったと考えられる。
【0085】
また、比較例3では、実施例よりもコバルト回収率が低い結果となった。このことは、当該組成における推定スラグ融点が1700℃であったことから、スラグが完全に熔融しきれておらず、スラグの粘性が高いために、スラグとメタルの分離性が悪くなったと推察され、スラグ中に小さなメタルの粒が多く存在したためにコバルト回収率が低くなったと考えられる。
【0086】
また、比較例4では、スラグ加熱温度を1300℃としたため、熔融不十分となり、有価金属を有効に回収することができなかった。また、比較例5では、スラグ加熱温度を1650℃としたため、いずれもスラグコーティング層が形成されておらず、耐火物が保護されていない状態であった。